転移腫瘍の処置
本発明は、転移腫瘍を治療、阻害および/または低減、ならびに検出する方法および方法をに関する。幾つかの実施形態では、本方法は、標識されていてもされていなくてもよいクロロトキシン剤の全身(例えば、静脈)投与を含む。幾つかの実施形態では、本方法は、脳内の転移の治療、阻害および/または低減、ならびに検出を可能にする。幾つかの実施形態では、血管新生が阻害され、そして/または新しく形成された血管の退縮が引き起こされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の情報
本出願は、米国仮出願第61/053,651号(2008年5月15日出願)、同第61/153,273号(2009年2月17日出願)および同第61/173,121号(2009年4月27日出願)に対する優先権を主張し、その利益を主張する。これらの各々の内容は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
がん細胞が拡散し、または転移する能力は、がんの最も致死的な局面とみなされている。がん細胞は、原発腫瘍から離れて、血流および/またはリンパ系を介して身体の他の部分に移動して、遠隔転移を形成することができる。かかる転移(metastastic)腫瘍の治療および診断は、1つには、形成し得る転移の数と、転移が原発腫瘍部位から移動し得る距離が原因となり、困難である。転移の最も一般的な部位には、肺、骨、肝臓および脳が含まれる。多くの潜在的に有効な診断および治療用物質の脈管構造および神経組織への送達を妨害する血液/脳関門の神経保護的性質に起因して、脳に局在する転移は、身体の他の器官において形成される転移とは異なる困難がある。
【0003】
クロロトキシンは、131−ヨウ素を用いた神経膠腫の標的候補として前臨床的に検査されているオブトサソリ(Giant Yellow Israeli scorpion)Leiurus Quinqestriatus由来の毒に見られるペプチドである(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。神経外胚葉腫瘍(例えば、神経膠腫および髄膜腫)を診断および治療するための組成物(それぞれその内容全体を参照によって本明細書に組み込む、特許文献1および特許文献2参照)および方法(それぞれその内容全体を参照によって本明細書に組み込む、特許文献3および特許文献4参照)は、神経外胚葉起源の腫瘍細胞に対するクロロトキシンの結合能を基にして開発された(非特許文献2;非特許文献4;非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,905,027号明細書
【特許文献2】米国特許第6,429,187号明細書
【特許文献3】米国特許第6,028,174号明細書
【特許文献4】米国特許第6,319,891号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.A. DeBinら、Am. J. Physiol.(Cell Physiol)、1993年、264、33巻:C361〜C369頁
【非特許文献2】L. Soroceanuら、Cancer Res.、1998年、58巻:4871〜4879頁
【非特許文献3】S. Shenら、Neuro−Oncol.、2005年、71巻:113〜119頁
【非特許文献4】Ullrichら、Neuroreport、1996年、7巻:1020〜1024頁
【非特許文献5】Ullrichら、Am. J. Physiol、1996年、270巻:C1511〜C1521頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本発明は、脳内に見られる転移をはじめとした遠隔転移を標的とすることができるクロロトキシンの発見を包含する。本発明はまた、血管新生を阻害し、かつ/または既存の新しく形成された血管の退縮を生じることができるクロロトキシンの発見を包含する。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、本発明者らは、転移がんの治療におけるクロロトキシンの有用性が、少なくとも1つには、転移が依存すると考えられている新しい血管の形成を阻害し、かつ/または新しく形成された血管の退縮を生じるその能力に起因し得ることを提案する。
【0007】
一態様では、本発明は、少なくとも1つの原発腫瘍から生じた少なくとも1つの転移を有するかまたはそれにかかりやすい個体に、クロロトキシン剤がその少なくとも1つの転移に結合するような有効用量のクロロトキシン剤を投与することを含む、転移がんの治療方法を提供する。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は全身に送達され、幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は静脈を介して送達される。幾つかの実施形態では、原発腫瘍は、皮膚および/または眼内黒色腫などの黒色腫である。幾つかの実施形態では、原発腫瘍は神経膠腫である。
【0008】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの原発腫瘍を有するまたは有していた個体における1つまたはそれより多くの転移の存在を検出する方法を提供し、該方法は、個体に有効量の標識クロロトキシン剤を投与し、個体の身体における標識クロロトキシン剤の結合を測定することを含む。かかる態様では、正常(非腫瘍)組織と比較して、原発腫瘍(複数)の部位(複数)以外の身体の1つまたはそれより多くの領域における高いレベルの結合は、1つまたはそれより多くの転移の存在を示す。幾つかの実施形態では、2回目に第2の有効量の標識クロロトキシン剤を投与し、個体の身体における標識クロロトキシン剤の結合を測定することによって、1つまたはそれより多くの転移の進行、安定性または退縮を示し得る結合の任意の変化(例えば、結合の程度および/または位置)を評価することができる。
【0009】
転移の治療および/または検出方法の幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は全身送達される。全身投与は、静脈投与を含み得る。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は、脳内の少なくとも1つの腫瘍転移に結合する。幾つかの実施形態では、血管新生を阻害し、かつ/または新しく形成された血管(転移をもたらし得る)の退縮を生じる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ビオチン化クロロトキシンが、脳に転移した黒色腫細胞に結合していることを示す顕微鏡写真を示す。顕微鏡写真は、以下の通り、隣接する切片の染色を示す。DABとビオチンとの褐変反応生成物によって検出されたビオチン化クロロトキシンで染色され、さらにメチルグリーンで対比染色された「TM−601」切片;メチルグリーンのみで染色された「対照」切片;ならびにヘマトキシリンおよびエオシンで染色された「H&E」切片。
【図2】図2は、ビオチン化クロロトキシンが、肺に転移した黒色腫腫瘍細胞に結合していることを示す顕微鏡写真を示す。顕微鏡写真は、以下の通り、隣接する切片の染色を示す。DABとビオチンとの褐変反応生成物によって検出されたビオチン化クロロトキシンで染色され、さらにメチルグリーンで対比染色された「TM−601」切片;メチルグリーンのみで染色された「対照」切片;ならびにヘマトキシリンおよびエオシンで染色された「H&E」切片。
【図3】図3は、以下の通り染色された正常な皮膚の隣接する切片を示す顕微鏡写真を示す。DABとビオチンとの褐変反応生成物によって検出されたビオチン化クロロトキシンで染色され、さらにメチルグリーンで対比染色された「TM−601」切片;メチルグリーンのみで染色された「対照」切片;ならびにヘマトキシリンおよびエオシンで染色された「H&E」切片。
【図4】図4は、再発性または難治性転移固形腫瘍を有する患者における、静脈131I−TM−601の相I画像化および安全性試験に使用した投与スキームである。
【図5】図5は、様々な種類の固形腫瘍を有する患者における静脈投与後の、131I−TM−601の腫瘍特異的取込みの概要を示す表である。
【図6】図6は、公知のびまん性骨転移を伴う転移前立腺がんを有する患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.6mg)の3時間後、24時間後および7日後に記録したガンマカメラ画像を示す。
【図7】図7は、転移非小細胞肺がんを有する患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.6mg)の3時間後、24時間後および48時間後に記録したガンマカメラ画像を示す。
【図8】図8(A)は、転移黒色腫を有する患者の左前頭病変を示す治療前MRI(左)および患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.2mg)後に記録したSPECT画像(右)を示す。図8(B)は、転移黒色腫を有する患者の右後頭病変を示す治療前磁気共鳴画像(MRI)(左)および患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.2mg)後に記録したSPECT画像(右)を示す。
【図9】図9は、悪性神経膠腫を有する患者の左前頭腫瘍を示す治療前MRI(左)および患者への131I−TM−601の静脈注射の48時間後に撮ったSPECTスキャン(右)を示す。
【図10】図10は、治療前(左パネル)および用量30mCiの131I−TM−601を全身送達した3週間後(右パネル)に撮った神経膠腫患者のMRI画像を示す。患者は、腫瘍体積および浮腫の促進に有意な低減を示した。
【図11】図11は、治療前(上パネル)および用量30mCiの131I−TM−601を全身送達した3週間後(下パネル)に撮った別の神経膠腫患者のMRI画像を示す。患者は、腫瘍体積および浮腫の促進に有意な低減を示した。
【図12】図12は、転移黒色腫を有する患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.6mg)の24時間後および48時間後に記録したガンマカメラ画像を示す(前面像および後面像)。131I−TM−601の取込みは、脳、肺、肝臓および皮下小結節への公知の遠隔転移において観測された。
【図13】図13は、脈絡膜血管新生(CNV)のマウスモデルにおける血管形成を阻害するTM−601の能力を試験する実験から得た結果を示す。血管新生(NV)の総面積(mm2×10−3)を、TM−601または生理食塩水ビヒクルのいずれかを投与した動物について示す。脈絡膜血管新生の統計的に有意な減少が、ブルッフ膜破壊の当日および7日目に50μgのTM−601を眼内注射した動物において観測された(*p<0.05)。脈絡膜病変を、14日目に分析した。
【図14】図14は、CNVのマウスモデルにおける既存の新血管の退縮を生じるTM−601の能力を試験する実験から得た結果を示す。血管新生(NV)の総面積(mm2×10−3)を、TM−601または生理食塩水ビヒクルのいずれかを投与した動物について示す。「ベースライン」は、ブルッフ膜の破壊後7日目に得た測定値を指す(即ちTM−601での処理の前)。脈絡膜血管新生の統計的に有意な退縮が、7日目に50μgのTM−601を眼内注射した動物において観測された(*p<0.05)。「対照」および「TM−601」値について、脈絡膜病変を、14日目に分析した。
【図15】図15は、TM−601の硝子体内注射によって、脈絡膜血管新生のマウスモデルのレーザー誘発性血管部位において血管が減少したことを示す代表的な顕微鏡画像を示す。血管新生は、TM−601をレーザー誘発と同じ日に投与した場合に阻害された(上パネル)。既存の新生血管系は、TM−601をレーザー誘発の7日後に投与した場合に退縮した(下パネル)。14日目、全てのマウスにフルオレセイン標識デキストランをかん流し、脈絡膜フラットマウントを調製し、蛍光顕微鏡検査によって調査した。
【図16】図16は、ブルッフ膜破壊の当日および7日目に250μgのTM−601を眼周囲に注射した動物の脈絡膜血管新生における統計的に有意な減少を示す実験結果を示す(*p<0.05)。脈絡膜病変を、14日目に分析した。
【図17】図17は、試験の1日目および7日目におけるTM−601の眼周囲注射による、脈絡膜血管新生の用量依存性阻害を示す実験結果を示す。脈絡膜病変を、14日目に分析した。(*p<0.05)。
【図18】図18は、TM−601を静脈注射した動物(用量20mg/kgで1週間当たり3回)における脈絡膜血管新生の統計的に有意な退縮を示す実験結果を示す。脈絡膜病変を、14日目に分析した。(*p<0.05)。
【図19】図19は、TM−601を静脈局所適用した動物(1日当たり点眼3回)における脈絡膜血管新生の減少を示す実験結果を示す。脈絡膜病変を、14日目に分析した。用量0.75mg/日のTM−601を投与した目および生理食塩水対照を投与した目に関して、NVの面積間の差異は、p値0.059に達した。
【図20】図20は、TM−601の眼内注射後のCNV領域におけるTM−601の局在化を示す凍結切片からの顕微鏡画像を示す。TM−601は、ブルッフ膜のレーザー誘発性破壊後7日目に注射した。マウスを9日目に安楽死させた。凍結切片を、ウサギ抗TM−601(A、BおよびCの赤色)およびGSAレクチン(D、EおよびFの緑色)で染色して、内皮細胞を可視化した。ビヒクルを注射した目(B、EおよびH)および注射しなかった目(C、FおよびI)は、CNV領域内にポジティブ染色された細胞を示さなかった。それに対して、TM−601で処理した目の切片(A、DおよびG)は、CNV領域にわたってTM−601について顕著な染色を示した(AおよびD)。赤色および緑色の染色の重ね合わせを、最下列に示す(G、HおよびI)。矢印はCNV領域を示す。
【図21】図21は、TM−601を眼周囲に注射した後のCNV領域におけるTM−601の局在化を示す凍結切片の顕微鏡画像を示す。TM−601を注射し、マウスを安楽死させ、凍結切片を図16に記載の通り染色した(実施例6の材料および方法も参照のこと)。ウサギ抗TM−601での染色は、A、BおよびCの赤色として可視化され、GSAレクチンでの染色(内皮細胞を可視化するため)は、D、EおよびFの緑色として可視化される。ビヒクルを注射した目(B、EおよびH)および注射しなかった目(C、FおよびI)は、CNV領域内にポジティブ染色された細胞を示さなかった。それに対して、TM−601で処理した目の切片(A、DおよびG)は、CNV領域にわたってTM−601について顕著な染色を示した(AおよびD)。赤色および緑色の染色の重ね合わせを、最下列に示す(G、HおよびI)。矢印はCNV領域を示す。
【図22】図22は、眼内注射によるCNV病変内のアポトーシスに対するTM−601の作用を示す凍結切片の顕微鏡画像を示す。図16に記載の通り、TM−601を注射し、マウスを安楽死させた(実施例6の材料および方法も参照のこと)。切片を核染色(A、B)、GSA(C、D)およびTUNEL(E、F)で染色した。3つの染色の重ね合わせを、最下列に示す(G、H)。CNV病変内のTUNELポジティブ細胞(E)が、TM−601を眼内注射した目において見出された(A、C、EおよびG)。ビヒクルを注射した目には、TUNELポジティブ細胞は観測されなかった(B、D、FおよびH)。矢印はCNV領域を示す。
【図23】図23は、目周囲の注射によるCNV病変内のアポトーシスに対するTM−601の作用を示す凍結切片の顕微鏡画像を示す。図16に記載の通り、TM−601を注射し、マウスを安楽死させた(実施例6の材料および方法も参照のこと)。切片を核染色(A、B)、GSA(C、D)およびTUNEL(E、F)で染色した。3つの染色の重ね合わせを、最下列に示す(G、H)。CNV病変内のTUNELポジティブ細胞(E)が、TM−601を眼周囲に注射した目において見出された(A、C、EおよびG)。ビヒクルを注射した目には、TUNELポジティブ細胞は観測されなかった(B、D、FおよびH)。矢印はCNV領域を示す。
【図24】図24は、72時間または120時間いずれかについての、ある範囲のTM−601濃度の存在下でのHUVEC細胞増殖を測定する実験から得られた結果を示す。高いTM−601濃度での細胞増殖は、低いTM−601濃度におけるよりも少ないが、増殖速度は、未処理の対照細胞の増殖速度よりも早い。
【図25】図25は、脈絡膜の新生血管系(レーザーによるブルッフ膜の破壊によって誘発した)および網膜の新生血管系(酸素誘発性虚血によって誘発した)におけるTM−601およびアネキシンA2の共局在化を示す実験から得られた結果を示す画像である。TM−601を眼内注射し、その後、抗TM−601抗体および抗アネキシンA2抗体を使用して、組織切片で免疫組織化学を実施した。
【図26】図26は、TM−601がHUVEC細胞の遊走を阻害し、MMP−2活性を低減することを示す実験からの結果を示す。(A)HUVEC細胞の遊走は、50ng/mlのVEGFによって刺激を受けた。TM−601の添加は、用量依存的に遊走を阻害した(トランスウェルアッセイにおいて浸潤性によって評価される通り)。浸潤細胞を、Giemsa染色を使用して、トランスウェルの下面上で可視化した。(B)VEGFまたはbFGF(50ng/ml)のいずれかによって刺激を受けた細胞遊走を、視覚的に細胞を計数することによって算出し、10μMのTM−601は、トランスウェルを介するHUVECの浸潤を約50%阻害することが示された。(C)培地のMMP−2活性を、処理なしの、bFGFで処理した、またはbFGFと一緒に10μMのTM−601で処理した培養HUVEC細胞から得た。エラーバーは、標準誤差を示す。
【図27】図27は、TM−601が、U87ヒト神経膠腫細胞から分泌されるMMP−2活性を低減することを示す実験結果を示す。MMP−2活性は、処理なしの、または10μMのTM−601を添加した培養U87細胞から得た培地で測定した。
【図28】図28は、静脈注射した非がん性マウスにおいて、非修飾TM−601と比較したPEG化クロロトキシン(TM−601−PEG)の半減期を示す。PEG化は、TM601の半減期を約32倍増大した。
【図29】図29は、PEG化TM−601が、マウスのCNVモデルにおいて、非修飾TM−601よりも少ない頻度の投与で抗血管新生作用を達成できることを示す。CNVモデルの微小血管密度を、非修飾TM−601またはPEG化TM−601の様々な投与レジメンについてプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書を通して、以下の段落で定義する幾つかの用語を使用する。
【0012】
本明細書で使用される場合、数を参照する「約」および「およそ」という用語は、本明細書では、その数が別段指定されない、または文脈から別段明らかでない限り、いずれかの方向の(それを超えるまたはそれ未満)20%、10%、5%または1%の範囲内にある数を含むために使用される(かかる数が、可能な値の100%を超え得る場合を除く)。
【0013】
本明細書で使用される場合、「アネキシンA2」という用語は、正式記号がANXA2であり(ホモサピエンスにおいて)、正式名称がhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov.のEntrez Gene一覧の「アネキシンA2」である遺伝子のタンパク質産物を指す(ANXA2転写産物の様々な配列を、例えばGenBank受入れ番号M62899、NM_001002857、NM_001002858、NM_004039で見ることができる)。アネキシンA2はまた、中でも「アネキシンII」およびリポコルチン2として公知である。
【0014】
「生物学的に活性な」という用語は、ポリペプチドを特徴付けるために本明細書で使用される場合、十分なアミノ酸配列相同性を親ポリペプチドと共有して、ポリペプチドよりも類似のまたは同一の特性(例えば、がん細胞に特異的に結合し、かつ/またはがん細胞に内在し、かつ/またはがん細胞を死滅させる能力)を示す分子を指す。
【0015】
本明細書で使用される場合、「がん」という用語は、一般に、制御されない細胞増殖を特徴とする、哺乳動物の生理状態を指すまたは説明する。がんの例には、それに限定されるものではないが、癌、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫および白血病が含まれる。より具体的には、かかるがんの例には、肺がん、骨がん、肝臓がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部または頸部のがん、皮膚または眼内の黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、結腸がん、乳がん、子宮がん、性器および生殖器の癌、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟組織の肉腫、膀胱がん、腎臓がん、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉がん、脊髄軸の腫瘍、神経膠腫、髄膜腫および下垂体腺腫が含まれる。
【0016】
本明細書で使用される場合、「がん細胞」という用語は、インビボで組織の望ましくない制御されない細胞増殖または異常な持続または異常な浸潤を受ける、哺乳動物(例えばヒト)の細胞を指す。インビトロでは、この用語は、所与の適切な新鮮な培地および空間で、無期限に制御されずに増殖することになる永久不死化した確立された細胞培養物である細胞系も指す。
【0017】
本明細書で使用される場合、「がん患者」という用語は、がんに罹患しているまたは罹患しやすい個体を指すことができる。がん患者は、がんと診断されていてもされていなくてもよい。この用語はまた、過去にがん治療を受けている個体を含む。
【0018】
「化学療法」および「抗がん剤または抗がん薬」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。これらは、がんまたはがん性状態を治療するために使用される薬物を指す。抗がん薬は、従来、以下の群:アルキル化剤、プリン拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、植物性アルカロイド、インターカレーティング抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗物質、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン剤および抗アンドロゲン剤の1つに分類されている。かかる抗がん剤の例には、それに限定されるものではないが、BCNU、シスプラチン、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、パクリタキセル、テモゾロミド、トポテカン、フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、プロカルバジン、デカルバジン、アルトレタミン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、リン酸フルダラビン、クラドリビン、ペントスタチン、シタラビン、アザシチジン、エトポシド、テニポシド、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、イダルビシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、タモキシフェン、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、アミノグルチミド、アナストロゾール、アムサクリン、アスパラギナーゼ、ミトキサントロン、ミトタンおよびアミフォスチンが含まれる。
【0019】
「併用療法」という用語は、本明細書で使用される場合、2つ以上の異なる医薬品を、被験体が両方の薬剤に同時に曝露される重複レジメンで投与するような状況を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「CTCAE」という略語は、臨床試験において一般に使用されている、有害事象(AE)の説明および等級について国立がん研究所が作成した基準である有害事象共通用語基準を指す。
【0021】
「細胞毒性」という用語は、部分、化合物、薬物または薬剤を特徴付けるために本明細書で使用される場合、細胞の機能を阻害もしくは防止し、かつ/または細胞の破壊を生じる部分、化合物、薬物または薬剤を指す。
【0022】
「投与レジメン」は、この用語が本明細書で使用される場合、期間を隔てて個々に投与される1組の単位用量(一般に2回以上)を指す。特定の医薬品に関して推奨される用量の組(即ち量、タイミング、投与経路等)が、その投与レジメンを構成する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「有効量」および「有効用量」という用語は、その所期の目的(複数)、即ち許容される損益比で組織または被験体における所望の生物反応または医薬反応を満たすのに十分な、化合物または組成物の任意の量または用量を指す。例えば、本発明の特定の実施形態では、その目的(複数)は、標的組織と特異的に結合すること、がんの症候の進行、激化または悪化を緩慢にし、または停止すること、がんの症候の緩和をもたらすこと、ならびに/あるいはがんを治癒することであり得る。関連の所期の目的は、他覚的(即ち、幾らかの試験またはマーカーによって測定できる)であってよく、自覚的(即ち、被験体が作用の徴候を示し、または感じる)であってもよい。治療有効量は、一般に、多数の単位用量を含み得る投与レジメンで投与される。任意の特定の医薬品に関して、治療有効量(および/または有効な投与レジメンに含まれる適切な単位用量)は、例えば投与経路、他の医薬品との組合せに応じて変わり得る。幾つかの実施形態では、任意の特定の患者に対する特定の治療有効量(および/または単位用量)は、治療を受ける障害および障害の重症度、使用される特定の医薬品の活性、使用される特定の組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食事、投与のタイミング、投与経路、ならびに/あるいは使用される特定の医薬品の排出率または代謝率、治療期間、ならびに医療従事者に周知の類似の因子を含む様々な因子に応じて変わり得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、「フルオロフォア」、「蛍光性部分」、「蛍光標識」、「蛍光染料」および「蛍光標識部分」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。それらは、溶液中で適切な波長の光で励起されると発光する分子を指す。多種多様な構造および特徴の数々の蛍光染料が、本発明の実施における使用に適している。同様に、核酸を蛍光標識する方法および材料が公知である(例えば、R.P. Haugland、「Molecular Probes:Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 1992−1994」、第5編、1994年、Molecular Probes, Inc.参照)。フルオロフォアの選択では、蛍光分子が高い効率で蛍光を吸光し、発光し(即ち、それぞれ高いモル吸光係数および蛍光量子収率)、光安定性がある(即ち、分析を実施するのに必要な時間内で、光励起の際に著しく劣化しない)ことがしばしば望ましい。
【0025】
本明細書で使用される場合、「融合タンパク質」という用語は、それらの個々のペプチド主鎖を介して共有結合によって結合している、最も好ましくは、それらのタンパク質をコードするポリヌクレオチド分子の遺伝的発現によって生成された、2つ以上のタンパク質またはその断片を含む分子を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「相同な」(または「相同」)という用語は、2個のポリペプチド分子間または2個の核酸分子間での同一性の度合いを指す。比較される両方の配列における位置を、同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットが占める場合、それぞれの分子は、その位置で相同である。2つの配列間の相同のパーセンテージは、2つの配列が共有する一致するまたは相同な位置の数を、比較する位置の数で割って100を掛けたものに相当する。一般に、2つの配列が最大限に相同になるように整列する場合に比較を行う。相同なアミノ酸配列は、同一または類似のアミノ酸残基を共有する。類似の残基は、参照配列において相当するアミノ酸残基の保存的置換、またはその「許容される点突然変異」である。参照配列における残基の「保存的置換」は、相当する参照残基と物理的または機能的に類似している、例えば類似の大きさ、形、電荷、共有結合または水素結合等の形成能を含む化学特性を有する置換である。幾つかの実施形態では、本発明に従って利用される保存的置換は、「許容される点突然変異」に関してDayhoffらによって定義された基準を満たすものである(「Atlas of Protein Sequence and Structure」、1978年、Nat. Biomed. Res. Foundation、Washington、DC、Suppl. 3、22巻:354〜352頁)。
【0027】
「個体」および「被験体」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。それらは、疾患または障害(例えばがん)に罹患し得るまたはそれに罹患しやすいが、その疾患または障害を有していてもいなくてもよいヒトまたは別の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長類)を指す。多くの実施形態では、被験体はヒトである。多くの実施形態では、被験体は患者である。別段指定されない限り、「個体」および「被験体」という用語は、特定の年齢を示さず、したがって成体、子どもおよび新生児を包含する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「阻害する」という用語は、あるものの発生を防止し、あるものの発生を遅延し、かつ/またはあるものの発生の程度または可能性を低減することを意味する。したがって、「転移の阻害」および「転移形成の阻害」は、転移の発生を防止し、遅延し、かつ/またはその可能性を低減し、さらに転移の数、増殖率、大きさ等を低減することを包含するものとする。
【0029】
本明細書で使用される場合、「開始」という用語は、投与レジメンに対して適用される場合、過去に医薬品を投与されていない被験体に、その医薬品を最初に投与することを指すために使用することができる。あるいはまたはさらには、「開始」という用語は、患者の治療中の、特定の単位用量の医薬品の投与を指すために使用することができる。
【0030】
「標識化」および「検出可能な薬剤または部分で標識されている」という用語は、ある実体(例えばクロロトキシンまたはクロロトキシンコンジュゲート)が、例えば別の実体(例えば新生物腫瘍組織)に結合した後に可視化され得ることを特定するために、本明細書では交換可能に使用される。好ましくは、検出可能な薬剤または部分は、それがシグナルを発生するように選択され、そのシグナルは測定することができ、その強度は、結合した実体の量に関係する(例えば比例)。タンパク質およびペプチドを標識および/または検出するための多種多様な系が、当技術分野で公知である。標識タンパク質およびペプチドは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的、化学的または他の手段によって検出可能な標識を組み込み、またはそれと結合することによって調製することができる。標識または標識部分は、直接的に検出可能であり(即ち、任意のさらなる反応または操作が検出可能であることを必要としない、例えば、フルオロフォアは直接的に検出可能である)、または間接的に検出可能である(即ち、検出可能な別の実体との反応または結合を介して検出可能となる、例えばハプテンは、フルオロフォアなどの受容体を含む適切な抗体との反応後に、免疫染色によって検出可能となる)。適切な検出可能な薬剤には、それに限定されるものではないが、放射性核種、フルオロフォア、化学発光剤、微粒子、酵素、比色標識、磁気標識、ハプテン、分子指標、アプタマー指標等が含まれる。
【0031】
本明細書で使用される場合、「転移(metastasis)」(「mets」と略すこともあり、複数は「転移(metastases)」)という用語は、ある器官または組織から別の位置への腫瘍細胞の拡散を指す。この用語は、転移の結果として新しい位置に形成する腫瘍組織も指す。「転移がん」は、その元々または原発の位置から拡散するがんであり、「二次性がん」または「二次性腫瘍」と呼ぶこともできる。一般に、転移腫瘍は、それらの起源である原発腫瘍の組織にちなんで命名される。したがって肺に転移した乳がんは、幾つかのがん細胞が肺に位置するとしても、「転移乳がん」と呼ぶことができる。
【0032】
本明細書で使用される場合、「新生血管系」という用語は、まだ完全には成熟していない、即ち密着した細胞間結合で完全に形成された内膜または周囲の平滑筋細胞の完全な層を有していない、新しく形成された血管を指す。本明細書で使用される場合、「新血管」という用語は、新生血管系の血管を指すために使用される。
【0033】
「正常な」および「健康な」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。これらは、腫瘍を有していない個体または個体群を指す。「正常な」という用語は、本明細書では、健康な個体から単離した組織サンプルを認定するためにも使用される。
【0034】
「医薬品」、「治療剤」および「薬物」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。これらは、疾患、障害または臨床状態の治療、阻害および/または検出に有効な物質、分子、化合物、薬物、因子または組成物を指す。
【0035】
「医薬組成物」は、本明細書では、有効量の少なくとも1つの活性成分(例えば、標識されていてもされていなくてもよいクロロトキシンまたはクロロトキシンコンジュゲート)および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む組成物と定義される。
【0036】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、活性成分(複数)の生物活性の有効性を妨害せず、それが投与される濃度において、宿主に過度に毒性でない担体媒体を指す。この用語は、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤等を含む。薬学的に活性な物質に合ったかかる媒体および薬剤の使用は、当技術分野で周知である(例えば、その全体を参照によって本明細書に組み込む「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、第18編、1990年、Mack Publishing Co.:Easton、PA参照)。
【0037】
本明細書で使用される場合、「原発腫瘍」という用語は、即ちそこで拡散したのとは対照的に、腫瘍が最初に生じた元々の部位にある腫瘍を指す。
【0038】
「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、修飾されていない、またはグリコシル化、側鎖酸化もしくはリン酸化によって修飾されている、それらの天然(未変化)形態または塩のいずれかとしての様々な長さのアミノ酸配列を指す。特定の実施形態では、アミノ酸配列は、全長の天然タンパク質である。他の実施形態では、アミノ酸配列は、全長のタンパク質のより小さい断片である。さらに他の実施形態では、アミノ酸配列は、グリコシル単位、脂質またはリン酸塩などの無機イオンなどのアミノ酸側鎖に結合している追加の置換基、ならびにスルフヒドリル基の酸化などの鎖の化学変換に関係する修飾によって修飾されている。したがって、「タンパク質」(またはそれに相当する用語)という用語は、その特異的な特性を変化しない修飾を条件として、全長の天然タンパク質のアミノ酸配列を含むものとする。特に「タンパク質」という用語は、タンパク質のイソ型、即ち同じ遺伝子によってコードされているが、それらのπもしくはMW、またはその両方が異なっている変異型を包含する。かかるイソ型は、それらのアミノ酸配列が異なっていることがあり(例えば、代替のスライシングまたは制限されたタンパク質分解の結果として)、または特異的な翻訳後修飾(例えば、グリコシル化、アシル化またはリン酸化)から生じ得る。
【0039】
「タンパク質類似体」という用語は、本明細書で使用される場合、親ポリペプチドと類似または同一の機能を有するが、親ポリペプチドのアミノ酸配列と類似または同一のアミノ酸配列を必ずしも含む必要はない、あるいは親ポリペプチドの構造と類似または同一の構造を有するポリペプチドを指す。好ましくは、本発明の文脈では、タンパク質類似体は、親ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも30%(より好ましくは、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%)同一のアミノ酸配列を有する。さらに、当業者は、タンパク質配列は、一般に活性を損なうことなく幾らかの置換に耐えることを理解されよう。したがって、活性を保持し、親ポリペプチドと少なくとも約30〜40%、しばしば約50%、60%、70%または80%を超える全配列の同一性を共有し、さらに通常は相当高い、しばしば90%、96%、97%、98%または99%を超える同一性の少なくとも1つの領域を、通常は少なくとも3〜4個の、しばしば最大20個以上のアミノ酸を包含する1つまたはそれより多くの高度に保存された領域に含む任意のポリペプチドが、「タンパク質類似体」という用語に包含される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「タンパク質断片」という用語は、第2のポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。タンパク質の断片は、親ポリペプチドの機能活性を有していてもいなくてもよい。
【0041】
「退縮する」という用語は、血管および/または脈管構造(新生血管系および/または新血管を含む)を指すために使用される場合、本明細書では、縮退、縮小等を意味するために使用される。
【0042】
本明細書で使用される場合、「小分子」という用語は、生物学的過程に影響を及ぼすように作用し得る任意の化学部分または他の部分を含む。小分子は、現在公知であり使用されている任意の数の治療剤を含むことができ、または生物学的機能(複数)をスクリーニングする目的で、かかる分子のライブラリーにおいて合成された小分子であってよい。小分子は、巨大分子から大きさを縮小されている。本発明における使用に適した小分子は、通常、約5,000ダルトン(Da)未満、好ましくは約2,500Da未満、より好ましくは1,000Da未満、最も好ましくは約500Da未満の分子量を有する。
【0043】
本明細書で使用される場合、「かかりやすい」という用語は、一般集団において観測されるよりも、転移がんなどのあるもの、即ち疾患、障害または状態の危険性が高いおよび/またはその傾向がある(一般に、遺伝的素因、環境因子、個人の既往歴またはそれらの組合せが基になっている)ことを意味する。この用語は、ある状態に「かかりやすい」個体が、その状態であると決して診断され得ないことを考慮に入れる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「全身投与」という用語は、薬剤が、有意な量で体内に広く分布し、血中で生物学的作用、例えばその所望の作用を有するように、および/または血管系を介してその所望の作用部位に到達するように薬剤を投与することを指す。投与の一般的な全身経路には、(1)薬剤を血管系に直接的に導入すること、あるいは(2)薬剤が吸収され、血管系に入り、血液を介して1つまたはそれより多くの所望の作用部位(複数)に運ばれる、経口、経肺または筋肉内投与による投与が含まれる。
【0045】
「組織」という用語は、本明細書ではその最も広範な意味で使用される。組織は、腫瘍細胞を含み得る(必ずしも必要ではない)任意の生物学的実体であってよい。本発明の文脈では、インビトロ、インビボおよびエクスビボ組織が考えられる。したがって、組織は個体の一部であってよく、または個体から(例えば生検によって)得られるものであってよい。組織はまた、公知の診断、治療および/または転帰歴に伴い、組織学的目的または記録保存サンプルのために採取した凍結切片などの組織切片を含むことができる。この用語は、組織サンプルを処理することによって生じる任意の材料をも包含する。生じた材料には、それに限定されるものではないが、組織から単離された細胞(またはそれらの後代)が含まれる。組織サンプルの処理には、濾過、蒸留、抽出、濃縮、干渉成分の不活化、試薬の添加等の1つまたは複数が含まれ得る。
【0046】
「治療」という用語は、本明細書で使用される場合、(1)疾患、障害または状態の発症の遅延または防止、(2)疾患、障害または状態の症候の1つまたはそれより多くの進行、激化または悪化の減速または停止、(3)疾患、障害または状態の症候の緩和をもたらすこと、(4)疾患、障害または状態の重症度または発生の低減、あるいは(5)疾患、障害または状態の治癒を目的とする方法または過程を特徴付けるために使用される。治療は、予防または防止作用のために、疾患、障害または状態の発症前に施用することができる。あるいはまたはさらには、治療は、治療作用のために、疾患、障害または状態の発症後に施用することもできる。
【0047】
特定の実施形態の詳細な説明
先に既に述べた通り、本発明は、腫瘍転移の治療および/または検出方法に関する。本明細書で提供する方法は、一般に、検出可能な部分を有する、標識されていてもされていなくてもよいクロロトキシン剤の投与を含む。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、腫瘍転移に結合する。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、新しい転移の形成の可能性を阻害かつ/または低減する。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、全身投与され(例えば、静脈を介して)、および/またはクロロトキシン剤は、血液/脳関門を横断する。したがって、幾つかの実施形態では、本発明は、脳内に位置する転移の治療、阻害および/または検出方法を提供する。特定の実施形態では、新血管の形成が阻害され、かつ/または既存の新生血管系が退縮する。
【0048】
本発明によれば、当業者に公知の従来の分子生物学、微生物学および組換えDNA技術を使用することができる。かかる技術は、文献において完全に説明されている。例えば、Maniatis、Fritsch & Sambrook、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、1982年;「DNA Cloning:A Practical Approach」、Volumes I and II、D.N. Glover(Ed.)、1985年;「Oligonucleotide Synthesis」、M.J. Gait(Ed.)、1984年;「Nucleic Acid Hybridization」、B.D. Hames & S.J. Higgins(Eds.)、1985年;「Transcription and Translation」B. D. Hames & S. J. Higgins(Eds.)、1984年;「Animal Cell Culture」、R.I. Freshney(Ed.)、1986年;「Immobilized Cells And Enzymess」、IRL Press、1986年;B. Perbal、「A Practical Guide To Molecular Cloning」、1984年参照。
【0049】
I.クロロトキシン剤
本発明の治療および/または検出方法は、それを必要としている個体(例えば、少なくとも1つの転移を有する、有していた、その発症の危険性がある、かつ/またはそれにかかりやすい個体など)に、クロロトキシン剤が少なくとも1つの転移に結合するような有効用量の少なくとも1つのクロロトキシン剤を投与するステップを含む。本明細書で使用される場合、「クロロトキシン剤」という用語は、少なくとも1つのクロロトキシン部分を含む化合物を指す。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、少なくとも1つの治療部分(例えば抗がん剤)に結合している少なくとも1つのクロロトキシン部分を含む。クロロトキシン部分(および/または治療部分)は、少なくとも1つの標識部分に結合することができる。
【0050】
A.クロロトキシン部分
本明細書で使用される場合、「クロロトキシン部分」という用語は、クロロトキシン、生物学的に活性なクロロトキシンサブユニットまたはクロロトキシン誘導体を指す。
【0051】
特定の実施形態では、「クロロトキシン」という用語は、Leiurus quinquestriatusのサソリの毒に天然に由来する全長36のアミノ酸ポリペプチドを指し(DeBinら、Am. J. Physiol、1993年、264巻:C361〜369頁)、これは、その内容を参照によって本明細書に組み込む国際公開第2003/101474号の配列番号1に記載の天然クロロトキシンのアミノ酸配列を含む。「クロロトキシン」という用語は、米国特許第6,319,891号(その全体を参照によって本明細書に組み込む)に開示のものなどの、合成または組換えにより生成された配列番号1を含むポリペプチドを含む。
【0052】
「生物学的に活性なクロロトキシンサブユニット」は、クロロトキシンの36個未満のアミノ酸を含み、クロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能を保持するペプチドである。本明細書で使用される場合、クロロトキシンの「特性または機能」には、それに限定されるものではないが、異常細胞増殖の停止能;正常細胞に対する、腫瘍/がん細胞との特異的結合能;正常細胞に対する、転移腫瘍/がん細胞または転移における腫瘍/がん細胞との特異的結合能;腫瘍/がん細胞への内在化能;腫瘍/がん細胞を死滅させる能力;ならびに/あるいは新血管の形成を抑制し、かつ/または退縮を生じる能力が含まれる。腫瘍/がん細胞は、インビトロ、エクスビボ、インビトロ、転移の一部、被験体からの一次単離物、培養細胞または細胞系であってよい。
【0053】
本明細書で使用される場合、「生物学的に活性なクロロトキシン誘導体」という用語は、クロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能(前述の通り)を保持する、クロロトキシンの多種多様な誘導体、類似体、変異型、ポリペプチド断片および模倣薬ならびに関連のペプチドのいずれかを指す。クロロトキシン誘導体の例には、それに限定されるものではないが、クロロトキシンのペプチド変異型、クロロトキシンのペプチド断片、例えば、国際公開第2003/101474号に記載の配列番号1、2、3、4、5、6または7の連続10−merペプチドを含むまたはそれからなる、あるいは国際公開第2003/101474号に記載の配列番号1の残基10〜18または21〜30を含む断片、コア結合配列およびペプチド模倣薬が含まれる。
【0054】
クロロトキシン誘導体の例には、クロロトキシンの活性に関連する少なくとも約7、約8、約9、約10、約15、約20、約25、約30または約35個の連続アミノ酸残基を有する、国際公開第2003/101474号に記載の配列番号1のアミノ酸配列の断片を有するペプチドが含まれる。かかる断片は、公知のペプチドドメインに相当するアミノ酸配列の領域、ならびに顕著な親水性領域と同定されている、クロロトキシンペプチドの機能的領域を含有することができる。かかる断片は、任意の順で互いに結合した2つのコア配列を含むこともでき、介在アミノ酸はリンカーによって除去され、または置き換えられている。
【0055】
クロロトキシンの誘導体は、誘導体配列およびクロロトキシン配列が最大限に整列する場合に、少なくとも1つのアミノ酸残基の保存的または非保存的置換を含むポリペプチドを含む。置換は、クロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能を強化し、クロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能を阻害し、あるいはクロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能に対して中立である置換であってよい。
【0056】
本発明の実施において使用するのに適したクロロトキシンの誘導体の例は、国際公開第2003/101474号に記載されている(その全体を参照によって本明細書に組み込む)。具体的な例には、この特許出願文書に記載の配列番号8または配列番号13を含むまたはそれからなるポリペプチド、ならびにその変異型、類似体および誘導体が含まれる。
【0057】
クロロトキシン誘導体の他の例には、例えば、相同な組換え、部位特異的またはPCR突然変異発生によって予め決定された突然変異、およびペプチドファミリーの対立遺伝子または他の天然に生じる変異型を含有するポリペプチド;ならびにペプチドが、置換、化学的、酵素的または他の適切な手段によって共有結合的に修飾されている、天然に生じるアミノ酸以外の部分(例えば、酵素または放射性同位体などの検出可能な部分)を有する誘導体が含まれる。
【0058】
クロロトキシンおよびそのペプチド誘導体は、当技術分野で公知の標準的な固相(または液相)ペプチド合成法を含む多種多様な方法のいずれかを使用して調製することができる。さらに、これらのペプチドをコードする核酸は、市販のオリゴヌクレオチド合成機器を使用して合成することができ、タンパク質は、標準の組換え生成系を使用して組換えによって生成することができる。
【0059】
他の適切なクロロトキシン誘導体には、クロロトキシンの3次元構造を模倣するペプチド模倣薬が含まれる。かかるペプチド模倣薬は、例えばより経済的な生成、より高い化学安定性、強化された薬理特性(半減期、吸収性、効力、効率等)、特異性の変化(例えば、広範な生物活性、抗原性の低下等)を含む、天然に生じるペプチドよりも著しい利点を有することができる。
【0060】
特定の実施形態では、模倣薬は、クロロトキシンペプチドの二次構造の要素を模倣する分子である。抗体および抗原などのタンパク質のペプチド主鎖は、主に、分子間相互作用を容易にするようにアミノ酸側鎖を方向付けるために存在する。ペプチド模倣薬は、天然分子に類似の分子間相互作用を可能にすると期待される。ペプチド類似体は、製薬業界では一般に、鋳型ペプチドの特性に類似の特性を有する非ペプチド薬として使用される。これらの種類の化合物は、ペプチド模倣薬(peptide mimetic)またはペプチド模倣薬(peptidomimetic)とも呼ばれ(例えば、Fauchere、Adv. Drug Res.、1986年、15巻:29〜69頁;Veber & Freidinger、1985年、Trends Neurosci.、1985年、8巻:392〜396頁;Evansら、J. Med. Chem.、1987年、30巻:1229〜1239頁参照)、通常はコンピュータ化分子モデリングを利用して開発される。
【0061】
一般にペプチド模倣薬は、パラダイムポリペプチド(即ち、生化学的特性または薬理学的活性を有するポリペプチド)に構造的に類似しているが、非ペプチド結合によって場合によって置き換えられている1つまたはそれより多くのペプチド結合を有する。ペプチド模倣薬の使用は、薬物ライブラリーを作成するための化学物質の組合せを使用することによって強化することができる。ペプチド模倣薬の設計は、ペプチドと、例えば腫瘍細胞との結合を増大または低減するアミノ酸突然変異を同定することによって支援される。使用できる手法には、酵母2ハイブリッド法(例えば、Chienら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1991年、88巻:9578〜9582頁参照)およびファージ(phase)ディスプレイ法を使用するものが含まれる。2ハイブリッド法は、酵母のタンパク質−タンパク質相互作用を検出する(Fieldら、Nature、1989年、340巻:245〜246頁)。ファージディスプレイ法は、固定化タンパク質と、ラムダおよびM13などのファージの表面上に発現するタンパク質との間の相互作用を検出する(Ambergら、Strategies、1993年、6巻:2〜4頁;Hogrefeら、Gene、1993年、128巻:119〜126頁)。これらの方法によって、ペプチド−タンパク質相互作用の陽性および陰性選択、ならびこれらの相互作用を決定付ける配列の同定が可能になる。
【0062】
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、前述のクロロトキシンと類似のまたは関連の活性を示す別のサソリ種のポリペプチド毒素を含む。本明細書で使用される場合、「クロロトキシンと類似のまたは関連の活性」という用語は、特に、腫瘍/がん細胞に対する選択的/特異的な結合を指す。適切な関連のサソリの毒素の例には、それに限定されるものではないが、クロロトキシンに対してアミノ酸および/またはヌクレオチド配列の同一性を示すサソリ起源の毒素または関連のペプチドが含まれる。関連のサソリの毒素の例には、それに限定されるものではないが、Mesobuthus martenssi由来のCT神経毒(GenBank受入れ番号AAD473730)、Buthus martensii karsch由来の神経毒BmK41−2(GenBank受入れ番号A59356)、Buthus martensii由来の神経毒Bm12−b(GenBank受入れ番号AAK16444)、Leiurus quinquestriatus hebraeu由来のProbable Toxin LGH8/6(GenBank受入れ番号P55966)およびMesubutus tamulus sindicus由来のSmall毒素(GenBank受入れ番号P15229)が含まれる。
【0063】
本発明における使用に適した関連のサソリの毒素は、国際公開第2003/101474号(その全体を参照によって本明細書に組み込む)に記載の配列番号1のクロロトキシン配列全体と、少なくとも約75%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%の配列同一性のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。特定の実施形態では、関連のサソリの毒素は、国際公開第2003/101474号に記載のクロロトキシンの配列番号8または配列番号13と相同な配列を有するサソリの毒素を含む。
【0064】
特定の実施形態では、クロロトキシン剤のクロロトキシン部分は、標識化される。標識方法および標識部分の例を、以下に記載する。
【0065】
B.治療部分
既に先に述べた通り、特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、少なくとも1つの治療部分に結合している少なくとも1つのクロロトキシン部分を含む。適切な治療部分は、疾患または臨床状態の治療に有効な多種多様な物質、分子、化合物、薬剤または因子のいずれかを含む。特定の実施形態では、治療部分は、化学療法剤である(即ち、抗がん剤)。適切な抗がん剤は、がん細胞にとって直接的または間接的に有毒または有害な多種多様な物質、分子、化合物、薬剤または因子のいずれかを含む。
【0066】
当業者によって理解される通り、治療部分は、合成または天然の化合物、単一分子、様々な分子の混合物、あるいは様々な分子の複合体であってよい。適切な治療部分は、それに限定されるものではないが、小分子、ペプチド、タンパク質、サッカリド、ステロイド、抗体(その断片および変異型を含む)、融合タンパク質、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、短鎖干渉RNA、ペプチド模倣薬、放射性核種等を含む、多様な種類の化合物のいずれかに属することができる。
【0067】
治療部分が、抗がん薬を含む場合、該抗がん薬は、例えば、以下の種類の抗がん薬:アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗有糸分裂抗生物質、アルカロイド抗腫瘍剤、ホルモン剤および抗ホルモン剤、インターフェロン、非ステロイド系抗炎症剤、ならびにキナーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤およびNF−κB阻害剤などの様々な他の抗腫瘍剤の中に見出すことができる。
【0068】
抗がん薬の例には、数例をあげると、それに限定されるものではないが、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、イフォスファミド、テモゾロミド等)、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート等)、プリン拮抗薬およびピリミジン拮抗薬(例えば、6−メルカプトプリン、5−フルオロウラシル、シトラリビン(cytraribine)、ゲムシタビン等)、紡錘体毒(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキセル等)、ポドフィロトキシン(例えば、エトポシド、イリノテカン、トポテカン等)、抗生物質(例えば、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン等)、ニトロソ尿素(nitrosurea)(例えば、カルムスチン、ロムスチン、ノムスチン等)、無機イオン(例えば、シスプラチン、カルボプラチン等)、酵素(例えば、アスパラギナーゼ等)ならびにホルモン剤(例えば、タモキシフェン、ロイプロリド、フルタミド、メゲステロール等)が含まれる。最新のがん療法についてのより包括的な議論は、http://www.cancer.gov/、FDA承認の腫瘍学的薬物の一覧は、http://www.fda.gov/cder/cancer/druglistframe.htmおよびその内容全体を参照によって本明細書に組み込むThe Merck Manual、第17編、1999年を参照のこと。
【0069】
幾つかの抗がん薬は、がん細胞の増殖および/または複製を抑止することによって作用する。かかる薬物は、一般に、「細胞増殖抑制剤」と分類される。特定の実施形態では、治療部分は、細胞増殖抑制剤を含む。細胞増殖抑制剤の例には、アルキル化剤、代謝拮抗物質、植物性アルカロイドおよびテルペノイド(ビンカアルカロイド、ポドフィロトキシン、タキサン等を含む。VP−16は、植物性アルカロイドの一例である)、トポイソメラーゼ阻害剤、抗腫瘍抗体、ホルモン剤等が含まれる。
【0070】
特定の実施形態では、治療部分は、細胞毒性剤を含む。細胞毒性剤の例には、毒素、他の生理活性タンパク質、従来の化学療法剤、酵素および放射性同位体が含まれる。
【0071】
適切な細胞毒性毒素の例には、それに限定されるものではないが、ゲロニン、リシン、サポニン、緑膿菌外毒素、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ジフテリア毒素などの細菌および植物毒素が含まれる。
【0072】
適切な細胞毒性生理活性タンパク質の例には、それに限定されるものではないが、補体系のタンパク質(または補体タンパク質)が含まれる。補体系は、有機体から病原体を排除する一助となり、治癒を促進する複雑な生化学的カスケードである(B.P. Morgan、Crit. Rev. Clin. Lab. Sci.、1995年、32巻:265頁)。補体系は、35個を超える可溶性の細胞結合タンパク質からなり、そのうちの12個は、補体経路に直接関与している。
【0073】
適切な細胞毒性化学療法剤の例には、それに限定されるものではないが、タキサン(例えば、ドセタキセル、パクリタキセル等)、マイタンシン、デュオカルマイシン、CC−1065、オーリスタチン、カリケアマイシン(calichcamincin)および他のエンジイン抗腫瘍抗生物質が含まれる。他の例には、葉酸拮抗剤(例えば、アミノプテリン、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド等)、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、ビンデシン、ビノレルビン等)ならびにアントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、バルルビシン等)が含まれる。
【0074】
適切な細胞毒性酵素の例には、それに限定されるものではないが、核酸分解酵素が含まれる。
【0075】
適切な細胞毒性放射性同位体の例には、任意のα−、β−またはγ−エミッタが含まれ、これは腫瘍部位に局在する場合に細胞破壊をもたらす(S. E. Order、「Analysis, Results, and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody in Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy, R.W. Baldwinら(Eds.)、Academic Press、1985年)。かかる放射性同位体の例には、それに限定されるものではないが、ヨウ素−131(131I)、ヨウ素−125(125I)、ビスマス−212(212Bi)、ビスマス−213(213Bi)、アスタチン−211(211At)、レニウム−186(186Re)、レニウム−186(188Re)、リン−32(32P)、イットリウム−90(90Y)、サマリウム−153(153Sm)およびルテチウム−177(117Lu)が含まれる。
【0076】
あるいはまたはさらには、本発明における使用に適した治療部分は、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む、2007年8月7日出願の表題「Chlorotoxins as Drug Carriers」(USSN 60/954,409)、および2007年10月12日出願の「Systemic Administration of Chlorotoxin Agents for the Diagnosis and Treatment of Tumors」(USSN60/)の共有仮出願に記載の治療部分のいずれかであってよい。かかる治療部分の種類の例には、それに限定されるものではないが、難水溶性の抗がん剤、薬物耐性に関連する抗がん剤、アンチセンス核酸、リボザイム、三重化剤(triplex agent)、短鎖干渉RNA(siRNA)、光増感剤、放射線増感剤、スーパー抗原、プロドラッグ活性化酵素および抗血管新生剤が含まれる。
【0077】
特定の実施形態では、クロロトキシン剤に含まれる治療(例えば、抗がん)剤は、核酸剤である。
【0078】
数々のがんおよび腫瘍が、点突然変異、遺伝子欠失または複製などの様々な度合いの遺伝的障害に関連することが示されている。「アンチセンス」、「抗原」および「RNA干渉」などのがん治療のための多くの新規戦略が、遺伝子発現を調節するために開発されてきた(A. Kalotaら、Cancer Biol. Ther.、2004年、3巻:4〜12頁;Y. Nakataら、Crit. Rev. Eukaryot. Gene Expr.、2005年、15巻:163〜182頁;V. Wacheck and U. Zangmeister−Wittke、Crit. Rev. Oncol. Hematol、2006年、59巻:65〜73頁;A. Kolataら、Handb. Exp. Pharmacol.、2006年、173巻:173〜196頁)。これらの手法は、例えば、アンチセンス核酸、リボザイム、三重化剤または短鎖干渉RNA(siRNA)を使用して、mRNAをアンチセンス核酸でマスクし、またはDNAを三重化剤でマスクすることによって、ヌクレオチド配列をリボザイムで開裂することによって、あるいはRNA干渉に関与する複雑な機構を介してmRNAを破壊することによって、標的遺伝子の特異的mRNAまたはDNAの転写または翻訳を遮断する。これらの戦略の全てにおいて、オリゴヌクレオチドは主に活性剤として使用されるが、小分子および他の構造も適用されている。遺伝子発現を調節するためのオリゴヌクレオチドを基にした戦略は、幾つかのがんの治療に対して大きな潜在的可能性を有するが、オリゴヌクレオチドの薬理学的適用は、主に、これらの化合物のがん細胞内でのそれらの作用部位への送達が無効であることによって妨害されている(P. Herdewijnら、Antisense Nucleic Acids Drug Dev.、2000年、10巻:297〜310頁;Y. Shoji and H. Nakashima、Curr. Charm. Des.、2004年、10巻:785〜796頁;A.W Tongら、Curr. Opin. Mol. Ther.、2005年、7巻:114〜124頁)。
【0079】
本明細書では、毒素部分(例えば、クロロトキシン部分)および治療(例えば抗がん)剤として有用な核酸分子を含むクロロトキシン剤が提供される。多様な化学種および構造的形状の核酸が、かかる戦略に適し得る。これらには、非限定的な例として、一本鎖(ssDNA)および二本鎖(dsDNA)を含むDNA;それに限定されるものではないが、ssRNA、dsRNA、tRNA、mRNA、rRNA、酵素RNAを含むRNA;RNA:DNAハイブリッド、三重鎖化DNA(例えば、短鎖オリゴヌクレオチドと結合するdsDNA)等が含まれる。
【0080】
本発明の幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤に存在する核酸剤は、約5から2000ヌクレオチド長である。幾つかの実施形態では、核酸剤は、少なくとも約6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチド長以上である。幾つかの実施形態では、核酸剤は、約2000、1900、1800、1700、1600、1500、1400、1300、1200、1100、1000、900、800、700、600、500、450、400、350、300、250、200、150、100、50、45、40、35、30、25、または20ヌクレオチド長以下である。
【0081】
幾つかの実施形態では、本発明のクロロトキシン剤に存在する核酸剤は、プロモーターおよび/または転写を制御する他の配列を含む。幾つかの実施形態では、本発明のクロロトキシン剤に存在する核酸剤は、複製起点および/または複製を制御する他の配列を含む。幾つかの実施形態では、本発明のクロロトキシン剤に存在する核酸剤は、プロモーターおよび/または複製起点を含まない。
【0082】
本発明の実施における使用に適した核酸抗がん剤には、腫瘍発生および細胞増殖または細胞形質転換に関連する遺伝子(例えば、細胞分裂を刺激するタンパク質をコードするプロトオンコジーン)、血管新生/抗血管新生遺伝子、腫瘍抑制遺伝子(細胞分裂を抑制するタンパク質をコードする)、腫瘍増殖および/または腫瘍遊走に関連するタンパク質をコードする遺伝子、ならびにアポトーシスまたは細胞死の他の形態を誘発する自殺遺伝子、特に急速に分裂する細胞において最も活性な自殺遺伝子を標的にする薬剤が含まれる。
【0083】
腫瘍発生および/または細胞形質転換に関連する遺伝子配列の例には、MLL融合遺伝子、BCR−ABL、TEL−AML1、EWS−FLI1、TLS−FUS、PAX3−FKHR、Bcl−2、AML1−ETO、AML1−MTG8、Ras、Fos PDGF、RET、APC、NF−1、Rb、p53、MDM2等;多剤耐性遺伝子などの過剰発現配列;サイクリン;β−カテニン;テロメラーゼ遺伝子;c−myc、n−myc、Bcl−2、Erb−B1およびErb−B2;ならびにRas、Mos、RafおよびMetなどの突然変異配列が含まれる。腫瘍抑制遺伝子の例には、それに限定されるものではないが、p53、p21、RB1、WT1、NF1、VHL、APC、DAPキナーゼ、p16、ARF、ニューロフィブロミンおよびPTENが含まれる。抗がん療法において有用な核酸分子によって標的とされ得る遺伝子の例には、インテグリン、セレクチンおよびメタロプロテイナーゼなどの腫瘍遊走に関連するタンパク質をコードする遺伝子;血管内皮増殖因子(VEGF)またはVEGFrなどの新血管形成を促進するタンパク質をコードする抗血管新生遺伝子;エンドスタチン、アンギオスタチンおよびVEGF−R2などの血管新生を阻害するタンパク質をコードする抗血管新生遺伝子;ならびにインターロイキン、インターフェロン、線維芽細胞増殖因子(α−FGFおよびβ−FGF)、インスリン様増殖因子(例えば、IGF−1およびIGF−2)、血小板由来の増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、形質転換増殖因子(例えば、TGF−αおよびTGF−β)、表皮増殖因子(EGF)、ケラチン生成細胞増殖因子(KGF)、幹細胞因子およびその受容体c−Kit(SCF/c−Kit)リガンド、CD40L/CD40、VLA−4、VCAM−1、ICAM−1/LFA−1、ヒアルリン(hyalurin)/CD44などのタンパク質をコードする遺伝子等が含まれる。当業者に認識される通り、先の例は排他的なものではない。
【0084】
例えば抗がん剤または他の治療剤として、プローブ、プライマー等を含む本発明のクロロトキシン剤の核酸は、様々な活性のいずれかを有することができる。本発明のクロロトキシン剤の核酸は、酵素活性(例えば、リボザイム活性)、遺伝子発現阻害活性(例えば、アンチセンスまたはsiRNA剤等として)、および/または他の活性を有することができる。本発明のクロロトキシン剤の核酸は、それら自体活性であってよく、または活性な核酸剤を送達するベクターであってもよい(例えば、送達される核酸の複製および/または転写を介して)。本願の目的では、かかるベクター核酸は、それらが治療活性剤をコードし、またはその他の方法で送達する場合、それら自体が治療活性を有していなくとも「治療剤」とみなされる。
【0085】
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、アンチセンス化合物を含むまたはコードする核酸治療剤を含む。「アンチセンス化合物または薬剤」、「アンチセンスオリゴマー」、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」および「アンチセンスオリゴヌクレオチド類似体」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、ヌクレオチド塩基の配列、ならびにワトソンクリック塩基対によってアンチセンス化合物をRNAの標的配列にハイブリダイズして、該標的配列内にRNAオリゴマーヘテロ2本鎖を形成することができるサブユニット間主鎖を指す。オリゴマーは、標的配列の中に正確な配列相補性または類似の相補性を有することができる。かかるアンチセンスオリゴマーは、標的配列を含有するmRNAの翻訳を妨害または阻害し、あるいは遺伝子転写を阻害することができる。アンチセンスオリゴマーは、二本鎖または一本鎖配列に結合することができる。
【0086】
本発明の実施における使用に適したアンチセンスオリゴヌクレオチドの例には、例えば、以下の概説に言及されているものが含まれる。R. A Stahelら、Lung Cancer、2003年、41巻:S81〜S88頁;K.F. Pirolloら、Pharmacol. Ther.、2003年、99巻:55〜77頁;A.C. Stephens and R.P. Rivers、Curr. Opin. Mol. Ther.、2003年、5巻:118〜122頁;N.M. Dean and C.F. Bennett、Oncogene、2003年、22巻:9087〜9096頁;N. Schiavoneら、Curr. Pharm. Des.、2004年、10巻:769〜784頁;L. Vidalら、Eur. J. Cancer、2005年、41巻:2812〜2818頁;T. Aboul−Fadl、Curr. Med. Chem.、2005年、12巻:2193〜2214頁;M.E. Gleave and B.P. Monia、Nat. Rev. Cancer、2005年、5巻:468〜479頁;Y.S. Cho−Chung、Curr. Pharm. Des.、2005年、11巻:2811〜2823頁;E. Rayburnら、Lett. Drug Design & Discov.、2005年、2巻:1〜18頁;E.R. Rayburnら、Expert Opin. Emerg. Drugs、2006年、11巻:337〜352頁;I. Tamm and M. Wagner、Mol. Biotechnol.、2006年、33巻:221〜238頁(それぞれその全体を参照によって本明細書に組み込む)。
【0087】
適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドの例には、例えばオリメルソン(olimerson)ナトリウム(Genta,Inc.、ニュージャージー州バークレーハイツによって開発されたGenasense(商標)またはG31239としても公知)、アポトーシスの強力な阻害剤であり、濾胞性リンパ腫、乳がん、結腸がんおよび前立腺がんならびに中程度/高悪性度のリンパ腫を含む多くのがんにおいて過剰発現する、bcl−2mRNAの開始コドン領域を標的としたホスホロチオエートオリゴマー(CA. Steinら、Semin. Oncol、2005年、32巻:563〜573頁;S. R. Frankel、Semin. Oncol、2003年、30巻:300〜304頁)が含まれる。他の適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドには、cAMP依存性タンパク質キナーゼA(PKA)に対して方向付けられた混合主鎖オリゴヌクレオチドであるGEM−231(HYB0165、Hybridon,Inc.、マサチューセッツ州ケンブリッジ)(S. Goelら、Clin. Cancer Res.、203、9巻:4069〜4076頁);Affinitak(ISIS3521またはアプリノカルセン(aprinocarsen)、ISIS pharmaceuticals,Inc.、Carlsbad、カリフォルニア州)、PKC−αのアンチセンス阻害剤;OGX−011(Isis112989、Isis Pharmaceuticals,Inc.)、細胞周期、組織再構築、脂質輸送および細胞死の制御に関与し、乳がん、前立腺がんおよび結腸がんにおいて過剰発現する糖タンパク質であるクラステリンに対する2’−メトキシエチル修飾アンチセンスオリゴヌクレオチド;ISIS5132(Isis112989、Isis Pharmaceuticals,Inc.)、c−raf−1mRNAの3’−誤翻訳領域の配列に相補的なホスホロチオエートオリゴヌクレオチド(S. P. Henryら、Anticancer Drug Des.、1997年、12巻:409〜420頁;B.P. Moniaら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1996年、93巻:15481〜15484頁;C.M. Rudinら、Clin. Cancer Res.、2001年、7巻:1214〜1220頁);ISIS2503(Isis Pharmaceuticals,Inc.)、ヒトH−ras mRNA発現のホスホロチオエートオリゴヌクレオチドアンチセンス阻害剤(J. Kurreck、Eur. J. Biochem.、2003年、270巻:1628〜1644頁);GEM640(AEG35156、Aegera Therapeutics Inc.およびHybridon,Inc.)などの、アポトーシス経路の実質的な部分を遮断する、アポトーシスタンパク質のX結合阻害剤(XIAP)を標的にするオリゴヌクレオチド、またはISIS23722(Isis Pharmaceuticals,Inc.)などのアポトーシスタンパク質の阻害剤(IAP)であるサバイビンを標的にするオリゴヌクレオチド、2’−O−メトキシエチルキメラオリゴヌクレオチド;DNAメチルトランスフェラーゼを標的にするMG98;ならびにGTI−2040(Lorus Therapeutics,Inc.、カナダトロント州)、ヒトリボヌクレオチド還元酵素のR2小サブユニット成分のmRNAにおけるコード領域に相補的な20−merのオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0088】
他の適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドには、Her−2/neu、c−Myb、c−Mycおよびc−Rafに対して開発中のアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる(例えば、A. Biroccioら、Oncogene、2003年、22巻:6579〜6588頁;Y. Leeら、Cancer Res.、2003年、63巻:2802〜2811頁;B. Luら、Cancer Res.、2004年、64巻:2840〜2845頁;K.F. Pirolloら、Pharmacol. Ther.、2003年、99:55〜77頁;およびA. Raitら、Ann. N. Y. Acad. Sci.、2003年、1002巻:78〜89参照)。
【0089】
特定の実施形態では、本発明のクロロトキシン剤は、干渉RNA分子を含むまたはコードする核酸抗がん剤を含む。「干渉RNA」および「干渉RNA分子」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、配列特異的に、例えばRNA干渉(RNAi)を媒介することによって、遺伝子発現を阻害または下方制御し、あるいは遺伝子をサイレンシングすることができるRNA分子を指す。RNA干渉(RNAi)は、二本鎖RNA(dsRNA)によって誘発される進化的に保存された配列特異的機構であり、この機構は、相補的標的である一本鎖mRNAの分解および対応する翻訳された配列の「サイレンシング」を誘発する(McManus and Sharp、2002年、Nature Rev. Genet.、2002年、3巻:737頁)。RNAiは、より長いdsRNA鎖を、約21〜23ヌクレオチド長の生物学的に活性な「短鎖干渉RNA」(siRNA)配列に酵素によって分解することによって機能する(Elbashirら、Genes Dev.、2001年、15巻:188頁)。RNA干渉は、がん療法に期待される手法として浮上してきた。
【0090】
本発明の実施における使用に適した干渉RNAは、幾つかの形態のいずれかで提供することができる。例えば、干渉RNAは、単離した短鎖干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)または短鎖ヘアピンRNA(shRNA)の1つまたは複数として提供することができる。
【0091】
本発明における使用に適した干渉RNA分子の例には、例えば、以下の概説:O. Milhavetら、Pharmacol. Rev.、2003年、55巻:629〜648頁;F. Biら、Curr. Gene. Ther.、2003年、3巻:411〜417頁;P.Y. Luら、Curr. Opin. Mol. Ther.、2003年、5巻:225〜234頁;I. Friedrichら、Semin. Cancer Biol、2004年、14巻:223〜230頁;M. Izquierdo、Cancer Gene Ther.、2005年、12巻:217〜227頁;P.Y. Luら、Adv. Genet、2005年、54巻:117〜142頁;G.R. Devi、Cancer Gene Ther.、2006年、13巻:819〜829頁;M.A. Behlke、Mol. Ther.、2006年、13巻:644〜670頁;およびL.N. Putralら、Drug News Perspect.、2006年、19巻:317〜324頁(それぞれその内容を参照によって本明細書に組み込む)に引用のiRNAが含まれる。
【0092】
適切な干渉RNA分子の他の例には、それに限定されるものではないが、p53干渉RNA(例えば、T. R. Brummelkampら、Science、2002年、296巻:550〜553頁;M. T. Hemmanら、Nat. Genet.、2003年、33巻:396〜400頁);慢性骨髄白血病および急性リンパ芽球性白血病の発症に関連するbcr−abl融合を標的にする干渉RNA(例えば、M. Scherrら、Blood、2003年、101巻:1566〜1569頁;M. J. Liら、Oligonucleotides、2003年、13巻:401〜409頁)、未分化大細胞リンパ腫の75%においてみられ、腫瘍形成に関連している構造的に活性なキナーゼを発現させるタンパク質であるNPM−ALKの発現を阻害する干渉RNA(U. Ritterら、Oligonucleotides、2003年、13巻:365〜373頁);Raf−1などの、癌遺伝子を標的にする干渉RNA(T. F. Louら、Oligonucleotides、2003年、13巻:313〜324頁)、K−Ras(T. R. Brummelkampら、Cancer Cell、2002年、2巻:243〜247頁)、erbB−2(G. Yangら、J. Biol. Chem.、2004年、279巻:4339〜4345頁);結腸直腸がんにおける主な形質転換事象であると考えられる、その過剰発現がT細胞因子標的遺伝子のトランス活性化をもたらすb−カテニンタンパク質を標的にする干渉RNA(M. van de Weteringら、EMBO Rep.、2003年、4巻:609〜615頁)が含まれる。
【0093】
C.標識部分
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、少なくとも1つの標識部分で標識されている。例えば、クロロトキシン剤の1つもしくは複数のクロロトキシン部分および/または1つもしくは複数の治療部分は、標識部分で標識することができる。
【0094】
標識部分の役割は、試験される組織に結合した後に、クロロトキシン剤の検出を容易にすることである。好ましくは、標識部分は、測定することができ、かつその強度が、組織に結合した診断剤の量に関係する(例えば比例する)シグナルを発生するように選択される。
【0095】
好ましくは、標識は、クロロトキシン剤の所望の生物学的または薬学的活性を実質的に妨害しない。特定の実施形態では、標識は、1つまたはそれより多くの標識部分を、クロロトキシン部分に、好ましくはクロロトキシン部分のペプチド配列上の非干渉位置に結合させ、または組み込む。かかる非干渉位置は、クロロトキシン部分と腫瘍細胞の特異的結合に関与しない位置である。
【0096】
標識部分は、対象の組織または系との結合後にクロロトキシン剤を検出できる任意の実体であってよい。多種多様な検出可能な薬剤のいずれかを、本発明のクロロトキシン剤における標識部分として使用することができる。標識部分は、直接的に検出可能であってよく、間接的に検出可能であってもよい。標識部分の例には、それに限定されるものではないが、様々なリガンド、放射性核種(例えば、3H、14C、18F、19F、32P、35S、135I、125I、123I、64Cu、187Re、111In、90Y、99mTc、177Lu等)、蛍光染料(具体的な例示的蛍光染料については以下参照)、化学発光剤(例えば、アクリジニウム(acridinum)エステル、安定化ジオキセタンなど)、生物発光剤、スペクトル的に分解可能な無機蛍光半導体ナノ結晶(即ち、量子ドット)、金属ナノ粒子(例えば、金、銀、銅、白金等)ナノクラスター、常磁性金属イオン、酵素(酵素の具体例については以下参照)、比色標識(例えば、染料、コロイド金など)、ビオチン、ジゴキシゲニン(dioxigenin)、ハプテンおよび抗血清またはモノクローナル抗体が利用可能なタンパク質が含まれる。
【0097】
特定の実施形態では、標識部分は、蛍光標識を含む。多種多様な化学構造および物理的特徴の数々の公知の蛍光標識部分が、本発明の診断方法の実施における使用に適している。適切な蛍光染料には、それに限定されるものではないが、フルオレセインおよびフルオレセイン染料(例えば、フルオレセインイソチオシアニンまたはFITC、ナフトフルオレセイン、4’,5’−ジクロロ−2’,7’−ジメトキシフルオレセイン、6−カルボキシフルオレセインまたはFAM等)、カルボシアニン、メロシアニン、スチリル染料、オキソノール染料、フィコエリトリン、エリトロシン、エオシン、ローダミン染料(例えば、カルボキシテトラメチル−ローダミンまたはTAMRA、カルボキシローダミン6G、カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、リサミンローダミンB、ローダミン6G、ローダミングリーン、ローダミンレッド、テトラメチルローダミン(TMR)等)、クマリンおよびクマリン染料(例えば、メトキシクマリン、ジアルキルアミノクマリン、ヒドロキシクマリン、アミノメチルクマリン(AMCA)等)、オレゴングリーン染料(例えば、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514等)、テキサスレッド、テキサスレッド−X、スペクトラムレッド(商標)、スペクトラムグリーン(商標)、シアニン染料(例えば、Cy−3(商標)、Cy−5(商標)、Cy−3.5(商標)、Cy−5.5(商標)等)、アレクサフルオル染料(例えば、アレクサフルオル350、アレクサフルオル488、アレクサフルオル532、アレクサフルオル546、アレクサフルオル568、アレクサフルオル594、アレクサフルオル633、アレクサフルオル660、アレクサフルオル680等)、BODIPY染料(例えば、BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、BODIPY TR、BODIPY530/550、BODIPY558/568、BODIPY564/570、BODIPY576/589、BODIPY581/591、BODIPY630/650、BODIPY650/665等)、IRDyes(例えば、IRD40、IRD700、IRD800等)等が含まれる。蛍光染料を、タンパク質およびペプチドなどの他の化学的実体と結合するための適切な蛍光染料および方法のさらなる例については、例えば、「The Handbook of Fluorescent Probes and Research Products」、第9編、Molecular Probes,Inc.、オレゴン州ユージーン参照のこと。蛍光標識剤の好ましい特性には、高いモル吸収係数、高い蛍光量子収率および光安定性が含まれる。特定の実施形態では、標識フルオロフォアは、望ましくは、紫外スペクトル範囲(即ち、400nm未満)ではなく、可視(即ち、400および750nmの間)の波長の吸光および発光を示す。
【0098】
特定の実施形態では、標識部分は酵素を含む。適切な酵素の例には、それに限定されるものではないが、ELISAに使用されるもの、例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ等が含まれる。他の例には、β−グルクロニダーゼ、β−D−グルコシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等が含まれる。酵素は、カルボジイミド、ジイソシアネート、グルタルアルデヒドなどの結合基を使用して、クロロトキシン部分にコンジュゲートすることができる。
【0099】
特定の実施形態では、標識部分は、単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)またはポジション(Position)断層法(PET)によって検出可能な放射性同位体を含む。かかる放射性核種の例には、それに限定されるものではないが、ヨウ素−131(131I)、ヨウ素−125(125I)、ビスマス−212(212Bi)、ビスマス−213(213Bi)、アスタチン−221(211At)、銅−67(67Cu)、銅−64(64Cu)、レニウム−186(186Re)、レニウム−186(188Re)、リン−32(32P)、サマリウム−153(153Sm)、ルテチウム−177(117Lu)、テクネチウム−99m(99mTc)、ガリウム−67(67Ga)、インジウム−111(111In)およびタリウム−201(201Tl)が含まれる。
【0100】
特定の実施形態では、標識部分は、ガンマカメラによって検出可能な放射性同位体を含む。かかる放射性同位体の例には、それに限定されるものではないが、ヨウ素−131(131I)およびテクネチウム−99m(99mTc)が含まれる。
【0101】
特定の実施形態では、標識部分は、磁気共鳴画像法(MRI)における良好な造影強化剤である常磁性金属イオンを含む。かかる常磁性金属イオンの例には、それに限定されるものではないが、ガドリニウムIII(Gd3+)、クロムIII(Cr3+)、ジスプロシウムIII(Dy3+)、鉄III(Fe3+)、マンガンII(Mn2+)およびイッテルビウムIII(Yb3+)が含まれる。特定の実施形態では、標識部分は、ガドリニウムIII(Gd3+)を含む。ガドリニウムは、FDA承認のMRI用造影剤であり、これは異常組織に蓄積して、これらの異常領域を磁気共鳴画像上で非常に明るくする(強調する)。ガドリニウムは、身体の様々な領域、特に脳の正常組織と異常組織の間を明瞭に造影することが公知である。
【0102】
特定の実施形態では、標識部分は、核磁気共鳴分光法(MRS)によって検出可能な安定な常磁性同位体を含む。適切な安定な常磁性同位体の例には、それに限定されるものではないが、炭素−13(13C)およびフッ素−19(19F)が含まれる。
【0103】
D.クロロトキシン剤の形成
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、少なくとも1つの治療部分に結合している少なくとも1つのクロロトキシン部分を含む。したがって、クロロトキシン剤は、少なくとも2つの他の分子の結合(association)(例えば、結合(binding)、相互作用、融合またはカップリング)から得られる。
【0104】
クロロトキシン剤のクロロトキシン部分と治療部分の結合は、共有結合性であっても、共有結合性でなくてもよい。結合、相互作用またはカップリングの性質に関係なく、クロロトキシン部分と治療部分の結合は、好ましくは、クロロトキシン剤が、腫瘍への、およびその中への輸送/送達の前または最中に解離しないように、選択的、特異的であり、十分に強力である。クロロトキシン剤のクロロトキシン部分と治療部分の結合は、当業者に公知の任意の化学的、生化学的、酵素的または遺伝学的カップリングを使用して達成することができる。
【0105】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分と治療部分の結合は、非共有結合性である。非共有結合性相互作用の例には、それに限定されるものではないが、疎水性相互作用、静電気性相互作用、双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用および水素結合が含まれる。
【0106】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分と治療部分の結合は、共有結合性である。当業者によって理解される通り、それらの部分は、直接的または間接的に互いに結合することができる(例えば、以下に記載のリンカーを介して)。
【0107】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分および治療部分は、互いに直接的に共有結合している。直接的な共有結合は、アミド、エステル、炭素−炭素、ジスルフィド、カルバメート、エーテル、チオエーテル、尿素、アミンまたはカーボネート結合などの結合を介することができる。共有結合は、クロロトキシン部分および/または治療部分上に存在する官能基を利用して達成することができる。あるいは重要性の低いアミノ酸を、カップリング目的で有用な基(アミノ、カルボキシまたはスルフヒドリル)を導入する別のアミノ酸で置き換えることができる。あるいは、追加のアミノ酸を、カップリング目的でクロロトキシン部分に付加して、有用な基(アミノ、カルボキシまたはスルフヒドリル)を導入することができる。部分を一緒に結合するために使用できる適切な官能基には、それに限定されるものではないが、アミン、無水物、ヒドロキシル基、カルボキシ基、チオール等が含まれる。カルボジイミドなどの活性化剤を使用して、直接結合を形成することができる。多種多様な活性化剤が当技術分野で公知であり、治療剤とクロロトキシン部分を結合するのに適している。
【0108】
他の実施形態では、クロロトキシン剤のクロロトキシン部分および治療部分は、リンカー基を介して互いに間接的に共有結合している。これは、単官能性およびヘテロ官能性薬剤(かかる薬剤の例は、例えばPierce Catalog and Handbook参照)を含む、当技術分野で周知の任意の数の安定な二官能性薬剤を使用することによって達成することができる。二官能性リンカーの使用は、それが、得られるクロロトキシン剤に存在する結合部分をもたらす一方、活性化剤は、反応に関与する2つの部分間に直接結合をもたらすという点で、活性化剤の使用とは異なる。二官能性リンカーの役割は、そうでなければ不活性な2つの部分間の反応を可能にし得ることである。あるいはまたはさらには、反応生成物の一部になる二官能性リンカーは、クロロトキシン剤に、ある度合いの立体配座柔軟性を付与するように選択することができる(例えば、二官能性リンカーは、幾つかの原子を含有する直鎖アルキル鎖、例えば2個および10個の間の炭素原子を含有する直鎖アルキル鎖を含む)。あるいはまたはさらには、二官能性リンカーは、クロロトキシン部分と治療部分の間で形成される結合が開裂可能なように、例えば加水分解可能なように選択することができる(かかるリンカーの例は、例えば、それぞれの全体を参照によって本明細書に組み込む米国特許第5,773,001号、第5,739,116号および第5,877,296号参照)。かかるリンカーは、好ましくは、例えばコンジュゲートの加水分解後にクロロトキシン部分および/または治療部分のより高い活性が観測される場合に使用される。治療部分がクロロトキシン部分から開裂され得る例示的な機構には、リソソーム(ヒドラゾン、アセタールおよびcis−アコニット酸に類似のアミド)の酸性pHにおける加水分解、リソソーム酵素(カテプシン(capthepsin)および他のリソソーム酵素)によるペプチド開裂、およびジスルフィドの還元)が含まれる。治療部分がクロロトキシン部分から開裂される別の機構には、生理的pHの細胞外または細胞内における加水分解が含まれる。この機構は、治療部分とクロロトキシン部分をカップリングするために使用される架橋が、ポリデキストランなどの生分解性/生体内浸食性(bioerodible)実体である場合に適用される。
【0109】
例えば、ヒドラゾン含有クロロトキシン剤は、所望の放出特性を付与する導入カルボニル基を用いて生成することができる。クロロトキシン剤は、一端にジスルフィド基を有し、多端にヒドラジン誘導体を有するアルキル鎖を含むリンカーを用いて生成することもできる。ヒドラゾン以外の官能基を含有するリンカーは、リソソームの酸性環境において開裂する潜在的な可能性も有する。例えば、クロロトキシン剤は、エステル、アミドおよびアセタール/ケタールなどの、細胞内で開裂可能なヒドラゾン以外の基を含有するチオール反応性リンカーから生成することができる。
【0110】
pH感受性の高いリンカーの種類の別の例は、cis−アコニット酸であり、これはアミド基に並列するカルボン酸基を有する。カルボン酸は、酸性リソソームにおけるアミド加水分解を促進する。幾つか他の種類の構造を有し、類似の種類の加水分解加速度を達成するリンカーを使用することもできる。
【0111】
クロロトキシン剤の別の潜在的に可能な放出方法は、リソソーム酵素によるペプチドの酵素的加水分解である。一例として、ペプチド毒素を、アミド結合を介してパラ−アミノベンジルアルコールに結合させ、次いでカルバメートまたはカーボネートを、ベンジルアルコールと治療部分の間に生成する。ペプチドの開裂は、アミノベンジルカルバメートまたはカーボネートを崩壊し、治療部分を放出する。別の例では、カルバメートの代わりにリンカーを崩壊することによって、フェノールを開裂することができる。別の変形では、ジスルフィドの低減を使用して、パラ−メルカプトベンジルカルバメートまたはカーボネートの崩壊を開始する。
【0112】
クロロトキシン剤の治療部分がタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドである実施形態では、クロロトキシン剤は、融合タンパク質であってよい。既に先に定義した通り、融合タンパク質は、それらの個々のペプチド主鎖を介する共有結合によって結合した2つ以上のタンパク質またはペプチドを含む分子である。本発明の方法において使用される融合タンパク質は、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって生成することができる。例えばそれらは、ポリペプチド合成機を使用する、直接的なタンパク質合成法によって生成することができる。あるいは、後にアニールし、再増幅してキメラ遺伝子配列を生成することができる、2つの連続した遺伝子断片間に相補的なオーバーハングを生じるアンカープライマーを使用して、遺伝子断片のPCR増幅を実施することができる。融合タンパク質は、標準の組換え法によって得ることができる(例えば、Maniatisら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2編、1989年、Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク州コールドスプリング参照)。これらの方法は一般に、(1)所望の融合タンパク質をコードする核酸分子を構築し、(2)その核酸分子を組換え発現ベクターに挿入し、(3)その発現ベクターで適切な宿主細胞を形質転換し、(4)その宿主細胞において融合タンパク質を発現させることを含む。かかる方法によって生成した融合タンパク質は、当技術分野で公知の通り、培地から直接、または細胞溶解によって回収し、単離することができる。形質転換した宿主細胞によって生成したタンパク質の精製方法は、当技術分野で周知である。これらには、それに限定されるものではないが、沈殿、遠心分離、ゲル濾過および(イオン交換、逆相およびアフィニティー)カラムクロマトグラフィーが含まれる。他の精製方法が記載されている(例えば、Deutscherら、「Guide to Protein Purification」in Methods in Enzymology、1990年、第182巻、Academic Press参照)。
【0113】
当業者には容易に理解され得る通り、本発明の方法において使用されるクロロトキシン剤は、任意の数の様々な方法によって互いに結合している、任意の数のクロロトキシン部分および任意の数の治療部分を含むことができる。コンジュゲートの設計は、その所期の目的(複数)およびその使用の特定の状況において望ましい特性に影響を受けることになる。クロロトキシン部分を治療部分と結び付け、または結合させてクロロトキシン剤を形成する方法の選択は、当業者に公知であり、一般に、部分間に望まれる相互作用の性質(即ち、共有結合性と非共有結合性および/または開裂可能と開裂不可能)、治療部分の性質、関与する部分上の化学的官能基の存在および性質等によって決まることになる。
【0114】
標識クロロトキシン剤において、クロロトキシン部分(または治療部分)と標識部分の結合は、共有結合性であっても共有結合性でなくてもよい。共有結合の場合、クロロトキシン(または治療)部分および標識部分は、前述の通り直接的または間接的に互いに結合することができる。
【0115】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分(または治療部分)と標識部分の結合は、非共有結合である。非共有結合の例には、それに限定されるものではないが、疎水性相互作用、静電気性相互作用、双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用および水素結合が含まれる。例えば標識部分は、キレート化によってクロロトキシン部分(または治療部分)に非共有性結合することができる(例えば、金属同位体は、例えばクロロトキシン部分に結合した、例えば融合したポリHis領域にキレート化することができる)。
【0116】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分(または治療部分)は、同位体標識される(即ち、クロロトキシン部分は、通常天然に見られる原子質量または質量数とは異なる原子質量または質量数を有する原子によって置き換えられている1つまたはそれより多くの原子を含有する)。あるいはまたはさらには、同位体は、クロロトキシン部分および/または治療部分に結合することができる。
【0117】
当業者には容易に理解され得る通り、本発明の特定の方法において使用される標識クロロトキシン剤は、任意の数の様々な方法によって互いに結合している、任意の数のクロロトキシン部分、任意の数の治療部分および任意の数の標識部分を含むことができる。標識クロロトキシン剤の設計は、その所期の目的(複数)、その使用の状況において望ましい特性および検出物から選択される方法に影響を受けることになる。
【0118】
E.修飾
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、ポリマーなどの巨大分子との共有結合によって修飾される。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、例えばポリマーの共有結合は、クロロトキシン剤を抗原的にマスクすることができ、その結果、動物身体における薬剤のバイオアベイラビリティおよび/または耐性が改善される。かかるポリマーの例は、ポリエチレングリコール(PEG)であり、これは、しばしばペプチドおよび/またはポリペプチドのNおよび/またはC末端、ならびに/あるいはシステインと共有結合することができる。「PEG化」は、PEGを分子に共有結合付加することを指す。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は、いかなる部位でも修飾されない。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は、分子1個当たり1つの部位において修飾されている(例えば、PEG化によって)。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は、分子1個当たり2つ以上の部位において修飾されている(例えば、PEG化によって)。
【0119】
幾つかの実施形態では、かかる修飾は、インビボでのクロロトキシン剤の半減期を延長する。例えば半減期は、少なくとも約10時間、少なくとも16時間等であってよい(例えば、実施例9参照)。かかる改善されたバイオアベイラビリティは、幾つかの実施形態では、低頻度の投与を伴う投与レジメンを容易にすることができる(投与レジメンは、本明細書で論じる)。
【0120】
II.治療および/または検出方法
本発明の治療方法は、有効用量のクロロトキシン剤またはその医薬組成物を、それを必要としている個体(例えば、少なくとも1つの腫瘍転移を有している、有していた、その発症の危険性がある、かつ/またはそれにかかりやすい個体)に投与するステップを含む。したがって、本発明の治療方法は、腫瘍転移の大きさおよび/または数の低減、転移の増殖および/または形成の阻害、ならびに/あるいは転移がんおよび転移がん状態に罹患している哺乳動物(ヒトを含む)の生存期間の延長のために使用することができる。
【0121】
いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、本発明者らは、新血管の形成(血管新生)が、転移の発症および/または維持にとって重要となり得ることに注目する。実施例4に示した通り、クロロトキシンは、新血管形成を阻害することができる。クロロトキシンは、新しく生じた血管(新脈管構造)の退縮を生じることもできる。本発明の幾つかの実施形態では、少なくとも1つの転移の新脈管構造が退縮する。本発明の幾つかの実施形態では、血管新生が阻害される。
【0122】
A.徴候
本明細書を通して、転移腫瘍の原発起源部位にちなんだ転移腫瘍の命名法を使用する。したがって、例えば「転移前立腺がん」は、転移の位置にかかわらず、他の器官に拡散した、前立腺由来のがんを指す。転移は、例えば、脳、肺、骨、肝臓、リンパ節、卵巣等を含む様々な器官において形成し得る。特定の種類の腫瘍は、一般に、特定の器官に転移することがある。例えば、黒色腫はしばしば脳に転移し、前立腺がんはしばしば骨に転移し、女性の胃がんは、しばしば卵巣に転移し、乳がんはしばしば骨に転移し、結腸がんはしばしば肝臓に転移する。本方法は、原発腫瘍部位から遠隔の転移を含む前述の様々な器官における転移を治療するために使用することができる。さらに、クロロトキシン剤は、血液/脳関門を横断し得るので(例えば、実施例2および3参照)、本方法は、脳の転移の治療に使用することができる。
【0123】
原発腫瘍は、しばしば近くのリンパ節に拡散することがある。本方法は、リンパ節への拡散を制御または排除するために、同様に使用することができる。がん/腫瘍細胞は、原発腫瘍から離脱し、血流またはリンパ管を介して移動することによって転移し得る。本発明の特定の実施形態、例えばクロロトキシン剤が全身送達される実施形態の幾つかでは、かかる転移細胞にクロロトキシン剤が結合し、破壊の標的となる。
【0124】
幾つかの実施形態では、本発明の治療方法はさらに、クロロトキシン剤の投与前に、少なくとも1つの転移を検出するステップを含む。かかる幾つかの実施形態では、少なくとも1つの転移の検出は、有効用量の標識クロロトキシン剤を投与するステップを含む。
【0125】
それにもかかわらず、本方法は、1つまたはそれより多くの転移の位置または存在が知られていないとしても、該1つまたはそれより多くの転移を有する、有していたまたはその危険性がある個体を治療するために使用できることを理解されよう。患者は、任意の転移を有すると全く診断されていなくてもよく、または患者の転移のサブセットのみが同定され、かつ/または位置していてもよい。本発明の幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は全身送達され、その結果クロロトキシン剤が体中に送達される。したがって、クロロトキシン剤を転移に送達するために、特定の組織または組織の一組をクロロトキシン剤の送達標的にする必要はない。
【0126】
本発明に従って治療することができる、転移がんに発生し得る原発がんおよびがん状態の例には、それに限定されるものではないが、脳および中枢神経系の腫瘍(例えば、神経膠芽腫または髄芽細胞腫などの、髄膜、脳、脊髄、脳神経およびCNSの他の部分の腫瘍);頭部および/または頸部がん、乳房腫瘍、循環系の腫瘍(例えば、心臓、縦隔および胸膜、ならびに他の胸腔内器官、血管腫瘍、ならびに血管組織に関連する腫瘍);血液およびリンパ系の腫瘍(例えば、ホジキン病、非ホジキン病リンパ腫、バーキットリンパ腫、AIDS関連リンパ腫、悪性免疫増殖性疾患、多発性骨髄腫、および悪性形質細胞新生物、リンパ性白血病、骨髄白血病、急性または慢性リンパ球性白血病、単球性白血病、特定の細胞種の他の白血病、不特定の細胞種の白血病、びまん性大細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫または皮膚T細胞リンパ腫などの、リンパ、造血組織および関連組織の不特定悪性新生物);排泄系(例えば、腎臓、腎盂、尿管、膀胱および他の膀胱器官)の腫瘍;胃腸管(例えば、食道、胃、小腸、結腸、結腸直腸、直腸S状結腸移行部、直腸、肛門および肛門管)の腫瘍;肝臓および肝内胆管、胆嚢、ならびに胆道の他の部分、膵臓、ならびに他の消化器官を侵す腫瘍;口腔(例えば、唇、舌、歯肉、口腔底、口蓋、耳下腺、唾液腺、扁桃腺、中咽頭、鼻咽頭、梨状陥凹(puriform sinus)、下咽頭および口腔の他の部位)の腫瘍;生殖系(例えば、外陰部、膣、子宮頸、子宮、卵巣および女性の生殖器に関連する他の部位、胎盤、陰茎、前立腺、精巣および男性の生殖器に関連する他の部位)の腫瘍;呼吸器(小細胞肺がんおよび非小細胞肺がんなどの、例えば、鼻腔、中耳、副鼻腔、喉頭、気管、気管支および肺)の腫瘍;骨格系(例えば、四肢の骨および関節軟骨、骨関節軟骨および他の部位)の腫瘍;皮膚の腫瘍(例えば、皮膚の悪性黒色腫、非黒色腫皮膚がん、皮膚の基底細胞癌、皮膚の扁平上皮細胞癌、中皮腫、カポジ肉腫);ならびに末梢神経および自律神経系、結合組織および軟組織、後腹膜(retroperitoneoum)および腹膜、目および付属器、甲状腺、副腎、ならびに他の内分泌腺および関連の構造を含む他の組織を侵す腫瘍、リンパ節の二次性および不特定悪性新生物、呼吸器系および消化器系の二次性悪性新生物、ならびに他の部位の二次性悪性新生物が含まれる。
【0127】
本発明の特定の実施形態では、本発明の組成物および方法は、転移肉腫の治療に使用することができる。幾つかの実施形態では、本発明の組成物および方法は、膀胱がん、乳がん、慢性リンパ腫白血病、頭部および頸部がん、子宮内膜がん、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん、卵巣がん、膵臓がんおよび前立腺がんに由来する転移がんの治療に使用される。
【0128】
本発明の特定の実施形態では、組成物および方法は、神経外胚葉起源の転移腫瘍の治療に使用される。ヒトの患者に存在する神経外胚葉起源の任意の転移腫瘍は、一般に、本発明の組成物/方法を使用して治療することができる。特定の実施形態では、患者に影響を及ぼす神経外胚葉起源の転移腫瘍は、神経膠腫、髄膜腫、上衣腫、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、神経節腫、褐色細胞腫、黒色腫、末梢性原始神経外胚葉腫瘍、肺の小細胞癌、ユーイング肉腫および脳内の神経外胚葉起源の転移腫瘍からなる群のメンバーである。幾つかの実施形態では、神経外胚葉起源の転移腫瘍は、黒色腫である。かかる幾つかの実施形態では、黒色腫は、皮膚または眼内の黒色腫である。
【0129】
特定の実施形態では、神経外胚葉起源の転移腫瘍は、患者の脳に影響を及ぼす。特定の実施形態では、脳腫瘍は神経膠腫である。全ての原発性脳腫瘍の約半分が神経膠腫である。4つの主な種類の神経膠腫:星状細胞腫(成人および子どもの両方における最も一般的な神経膠腫である)、上衣腫、乏突起神経膠腫および混合神経膠腫がある。神経膠腫は、それらの位置に従って、テント下(即ち、子どもの患者に最もよく見られる脳の下方部分に位置する)またはテント上(即ち、成人の患者に最もよく見られる脳の上方部分に位置する)と分類することができる。
【0130】
神経膠腫はさらに、腫瘍の病理学的評価によって決定されるそれらのグレードに従って分類される。世界保健機構(WHO)は、最も侵襲性が低い傾向があるグレードIの神経膠腫から、最も侵襲性が高く悪性の傾向があるグレードIVの神経膠腫の格付け方式を作成している。低グレード(即ち、グレードIまたはグレードII)の神経膠腫の例には、それに限定されるものではないが、毛様細胞星状細胞腫(若年性毛様細胞星状細胞腫とも呼ばれる)、線維性星状細胞腫、多形性黄色星状膠細胞腫(xantroastrocytomoa)および胚芽異形成性(desembryoplastic)神経上皮腫瘍が含まれる。高グレード神経膠腫は、グレードIIIの神経膠腫(例えば、未分化星状細胞腫、AA)およびグレードIVの神経膠腫(神経膠芽腫多形、GBM)を包含する。未分化星状細胞腫は、30〜50代の男性および女性に最も頻繁に見られ、全ての脳腫瘍の4%を占める。最も浸潤性の高い種類の神経膠腫瘍である神経膠芽腫多形は、50〜70代の男性および女性に最も一般的であり、全ての原発性脳腫瘍の23%を占める。予後はグレードIVの神経膠腫で最も悪く、平均生存期間は12カ月である。特定の実施形態では、本発明の方法は、高グレードの神経膠腫の治療に使用される。
【0131】
積極的な治療にもかかわらず、神経膠腫は、通常、しばしばより高いグレードで、時に様々な形態で再発する。再発は様々であるが、グレードIVの神経膠腫は、常に再発する。したがって、特定の実施形態では、本発明の方法は、転移再発性神経膠腫、特に再発性の高グレード神経膠腫の治療に使用される。
【0132】
本発明の組成物および方法を使用して治療できる転移腫瘍には、他の化学療法を用いる治療に対して難治性である転移腫瘍が含まれる。「難治性」という用語は、腫瘍に関して本明細書で使用される場合、腫瘍(および/またはその転移)が、本発明の組成物以外の少なくとも1つの化学療法を用いて治療される際に、かかる化学療法剤を用いた治療後に抗増殖反応を全く示さず、またはわずかしか示さず(即ち、腫瘍増殖を全く阻害しない、わずかしか阻害しない)、即ち、他の(好ましくは標準の)化学療法では全く治療できない、または不満足な結果しか得られない腫瘍であることを意味する。難治性腫瘍等の治療に言及する場合、本発明は、(i)1つまたはそれより多くの化学療法が、患者の治療中に既に失敗に終わった腫瘍のみならず、(ii)他の手段、例えば化学療法の存在下での生検および培養によって難治性であると示され得る腫瘍を包含すると理解されるべきである。
【0133】
本発明による治療を受けることができる患者には、一般に、腫瘍を有すると診断されている、または診断されたことがある任意の患者が含まれる。幾つかの実施形態では、患者は、1つまたはそれより多くの転移を有すると診断されている。幾つかの実施形態では、患者は、転移することが公知である腫瘍を有すると診断されている。幾つかの実施形態では、患者は、転移の可能性が高いまたは起こり得る段階において決定される腫瘍を有すると診断されている。幾つかの実施形態では、患者は、腫瘍を有していたが、もはや原発腫瘍を有する徴候を示しておらず、幾つかのかかる実施形態では、患者は、それにもかかわらず本方法で治療できる腫瘍を有している。当業者には認識される通り、腫瘍および/または転移の位置および性質により、画像、生検等を含む様々な診断方法を実施することができる。
【0134】
B.用量および投与
本発明の治療方法では、クロロトキシン剤またはその医薬組成物は、一般に、少なくとも1つの所望の結果を達成するのに必要なまたは十分な量およびタイミングで投与されることになる。例えば、クロロトキシン剤は、がん細胞を死滅させ、腫瘍の大きさを縮小し、1つまたはそれより多くの転移の大きさを縮小し、腫瘍の増殖または転移を阻害または遅延させ、患者の生存期間を延長し、あるいはその他の方法で臨床上の利益をもたらすような量およびタイミングで投与することができる。
【0135】
本発明による治療は、一定期間にわたる単回投与または多回投与からなることができる。投与は、1日に、1週間に(または他のある数日間隔で)1回または複数回、または間欠的スケジュールで行うことができる。投与されるクロロトキシン剤またはその医薬組成物の正確な量は、被験体ごとに変わり、幾つかの因子に応じて変わることになる(以下参照)。
【0136】
クロロトキシン剤またはその医薬組成物は、所望の治療効果を達成するのに有効な任意の投与経路を使用して投与することができる。本発明の特定の実施形態では、クロロトキシン剤(またはその医薬組成物)は、全身投与される。投与の一般的な全身経路には、それに限定されるものではないが、筋肉内、静脈、経肺および経口経路が含まれる。全身投与は、例えば注入またはボーラス注射によって、あるいは上皮または皮膚粘膜内膜(例えば、経口、粘膜、直腸および腸粘膜等)を介する吸収によって、実施することもできる。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、静脈投与される。ヒトの患者におけるクロロトキシン剤の静脈投与の例示的手順を、実施例2に記載している。
【0137】
投与経路に応じて、有効用量は、治療を受ける被験体の体重、体表面積、原発器官/腫瘍の大きさ、ならびに/あるいは転移の数、大きさおよび/または種類に従って算出することができる。適切な用量の最適化は、ヒトの臨床試験で観測される薬物動態データに照らして、当業者によって容易に行われ得る。最終投与レジメンは、薬物作用を改変する様々な因子、例えば薬物の特異的活性、損傷の重症度および患者の反応性、患者の年齢、状態、体重、性別および食事、存在する任意感染の重症度、投与のタイミング、他の治療剤の使用(または使用なし)ならびに他の臨床因子を考慮に入れて、担当医によって決定されることになる。クロロトキシン剤を使用する試験が実施される場合、適切な投与レベルおよび治療期間に関してさらなる情報が現れることになる。
【0138】
一般的な用量は、1.0pg/kg体重〜100mg/kg体重を構成する。例えば、全身投与については、用量は100.0ng/kg体重〜10.0mg/kg体重であってよい。
【0139】
より具体的には、クロロトキシン剤が静脈投与される特定の実施形態では、薬剤投与は、約0.005mg/kg〜約5mg/kg、例えば、約0.005mg/kg〜約5mg/kg、約0.01mg/kg〜約4mg/kg、約0.02mg/kg〜約3mg/kg、約0.03mg/kg〜約2mg/kgまたは約0.03mg/kg〜約1.5mg/kgのクロロトキシンを含む1つまたはそれより多くの用量の投与を含むことができる。例えば、特定の実施形態では、それぞれ約0.03mg/kg、約0.04mg/kg、約0.05mg/kg、約0.06mg/kg、約0.07mg/kg、約0.09mg/kg、約1.0mg/kgまたは1.0mg/kgを超えるクロロトキシンを含有するクロロトキシン剤の1つまたはそれより多くの用量を投与することができる。他の実施形態では、それぞれ約0.05mg/kg、約0.10mg/kg、約0.15mg/kg、約0.20mg/kg、約0.25mg/kg、約0.30mg/kg、約0.35mg/kg、約0.40mg/kg、約0.45mg/kg、約0.50mg/kg、約0.55mg/kg、約0.60mg/kg、約0.65mg/kg、約0.70mg/kg、約0.75mg/kg、約0.80mg/kg、約0.85mg/kg、約0.90mg/kg、約0.95mg/kg、約1.0mg/kgまたは約1mg/kgを超えるクロロトキシンを含有するクロロトキシン剤の1つまたはそれより多くの用量を投与することができる。さらに他の実施形態では、約1.0mg/kg、約1.05mg/kg、約1.10mg/kg、約1.15mg/kg、約1.20mg/kg、約1.25mg/kg、約1.3mg/kg、約1.35mg/kg、約1.40mg/kg、約1.45mg/kg、約1.50mg/kgまたは約1.50mg/kgを超えるクロロトキシンを含有するクロロトキシン剤の1つまたはそれより多くの用量を投与することができる。かかる実施形態では、治療は、クロロトキシン剤の単回用量、あるいは2回、3回、4回、5回、6回または6回以上の用量の投与を含むことができる。2回の連続用量は、1日間隔、2日間隔、3日間隔、4日間隔、5日間隔、6日間隔、7日間隔または7日を超える間隔(例えば10日、2週間、または2週間を超える)で投与することができる。
【0140】
C.併用療法
本発明の治療方法は、追加の療法と併用できる(即ち、本発明による治療は、1つまたはそれより多くの所望の療法または医療手順と同時に、その前に、またはその後に投与することができる)ことを理解されよう。かかる組合せレジメンで使用される療法(治療剤または手順)の特定の組合せは、所望の治療剤および/または手順の適合性ならびに達成される所望の治療効果を考慮に入れることになる。
【0141】
例えば、本発明の治療方法は、治療を受ける腫瘍に応じて、外科手術、放射線療法(例えば、γ放射線、ニューロンビーム放射線療法、電子ビーム放射線療法、陽子線治療、小線源療法、全身性放射性同位体)、内分泌療法、温熱療法および寒冷療法を含む他の手順と一緒に使用することができる。
【0142】
転移脳腫瘍の多くの場合、本発明の治療は、しばしば、原発腫瘍を除去するための外科手術の後に投与されることになる。脳腫瘍の治療では、外科手術の主な目標は、肉眼的な全ての切除、即ち目に見える全ての原発腫瘍の除去を達成することである。かかる目標を達成する困難の1つは、これらの腫瘍が浸潤性であること、即ちこれらの腫瘍が正常な脳構造に出入りする傾向があることである。さらに、患者の脳から安全に除去できる腫瘍の量には、かなり大きなばらつきがある。除去は一般に、腫瘍の全てまたは一部が、非常に重要な機能を制御する脳の領域に位置している場合には不可能である。さらに、外科手術のみで遠隔部位の転移を除去かつ/または破壊することは不可能であり、実際的でもない。
【0143】
転移脳腫瘍の多くの場合、本発明の治療は、しばしば放射線療法と組み合わせて(即ち、それと同時に、その前に、またはその後に)投与されることになる。従来の治療では、一般に、放射線療法は外科手術後に行われる。放射線は、一般に、日々の一連の治療として(分割と呼ばれる)数週にわたって与えられる。放射線を適用するこの「分割」手法は、腫瘍細胞の破壊を最大限にし、隣接する正常な脳に対する副作用を最小限にするために重要である。放射線が適用される領域(照射野と呼ばれる)は、実行可能な限り多くの正常な脳を含まないよう、注意深く算出される。
【0144】
あるいはまたはさらには、本発明の治療方法は、任意の副作用を軽減する薬剤(例えば制吐剤等)などの他の治療剤および/または他の承認された化学療法薬と併用投与することができる。化学療法剤の例には、数例をあげると、それに限定されるものではないが、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、イフォスファミド等)、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート等)、プリン拮抗薬およびピリミジン拮抗薬(例えば、6−メルカプトプリン、5−フルオロウラシル、シタラビン、ゲムシタビン等)、紡錘体毒(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキセル等)、ポドフィロトキシン(例えば、エトポシド、イリノテカン、トポテカン等)、抗生物質(例えば、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン等)、ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、ロムスチン、ノムスチン等)、無機イオン(例えば、シスプラチン、カルボプラチン等)、酵素(例えば、アスパラギナーゼ等)ならびにホルモン剤(例えば、タモキシフェン、ロイプロリド、フルタミド、メゲステロール等)が含まれる。最新のがん療法についてのより包括的な議論は、http://www.cancer.gov/、FDA承認の腫瘍学的薬物の一覧は、http://www.fda.gov/cder/cancer/druglistframe.htmおよびその内容全体を参照によって本明細書に組み込むThe Merck Manual、第17編、1999年を参照のこと。
【0145】
本発明の方法は、細胞毒性剤の1つまたはそれより多くのさらなる組合せと一緒に、治療レジメンの一部として使用することもでき、細胞毒性剤のさらなる組合せは、以下から選択される:CHOPP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);COP(シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);CAP−BOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、プロカルバジン、ブレオマイシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);m−BACOD(メトトレキサート、ブレオマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、デキサメタゾンおよびロイコボリン);ProMACE−MOPP(プレドニゾン、メトトレキサート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド、ロイコボリン、メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);ProMACE−CytaBOM(プレドニゾン、メトトレキサート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド、ロイコボリン、シタラビン、ブレオマイシンおよびビンクリスチン);MACOP−B(メトトレキサート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾン、ブレオマイシンおよびロイコボリン);MOPP(メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);ABVD(アドリアマイシン/ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチンおよびデカルバジン);MOPP(メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン)とABV(アドリアマイシン/ドキソルビシン、ブレオマイシンおよびビンブラスチン)交互;MOPP(メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾン、およびプロカルバジン)とABVD(アドリアマイシン/ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチンおよびデカルバジン)交互;ChlVPP(クロラムブシル、ビンブラスチン、プロカルバジンおよびプレドニゾン);IMVP−16(イフォスファミド、メトトレキサートおよびエトポシド);MIME(メチル−gag、イフォスファミド、メトトレキサートおよびエトポシド);DHAP(デキサメタゾン、高用量シタリビンおよびシスプラチン);ESHAP(エトポシド、メチルプレドニゾロン(methylpredisolone)、高用量シタラビンおよびシスプラチン);CEPP(B)(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジン、プレドニゾンおよびブレオマイシン);CAMP(ロムスチン、ミトキサントロン、シタラビンおよびプレドニゾン);CVP−1(シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびプレドニゾン)、ESHOP(エトポシド、メチルプレドニゾロン、高用量シタラビン、ビンクリスチンおよびシスプラチン);EPOCH(96時間用エトポシド、ビンクリスチンおよびドキソルビシンと共にシクロホスファミドおよび経口プレドニゾンのボーラス投与)、ICE(イフォスファミド、シクロホスファミドおよびエトポシド)、CEPP(B)(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジン、プレドニゾンおよびブレオマイシン)、CHOP−B(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびブレオマイシン)、CEPP−B(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジンおよびブレオマイシン)、ならびにP/DOCE(エピルビシンまたはドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロホスファミドおよびプレドニゾン)。
【0146】
当業者によって理解される通り、本発明の治療方法と併用投与される1つまたはそれより多くの治療剤の選択は、治療を受ける転移腫瘍に応じて変わることになる。
【0147】
例えば、脳腫瘍のために処方される化学療法剤には、それに限定されるものではないが、経口投与されるテモゾロミド(Temodar(登録商標))、プロカルバジン(Matulane(登録商標))およびロムスチン(CCNU);静脈投与されるビンクリスチン(Oncovin(登録商標)またはVincasar PFS(登録商標))、シスプラチン(Platinol(登録商標))、カルムスチン(BCNU、BiCNU)およびカルボプラチン(Paraplatin(登録商標));ならびに経口、静脈または髄腔内(即ち、髄液に直接注射される)投与することができるメトトレキサート(Rheumatrex(登録商標)またはTrexall(登録商標))が含まれる。BCNUは、外科手術中のポリマーウエハ埋込体の形態で与えられる(Giadel(登録商標)ウエハ)。脳腫瘍に最も一般的に処方される併用療法の1つは、通常6週毎に与えられるPCV(プロカルバジン、CCNUおよびビンクリスチン)である。
【0148】
治療を受ける腫瘍が、神経外胚葉起源の脳腫瘍である実施形態では、本発明の方法は、発作および脳浮腫などの症候の管理のための薬剤と併用することができる。脳腫瘍に関連する発作を制御するために首尾よく投与される抗痙攣剤の例には、それに限定されるものではないが、フェニトイン(Dilantin(登録商標))、カルバマゼピン(Tegretol(登録商標))およびジバルプロエクスナトリウム(Depakote(登録商標))が含まれる。脳の膨潤は、ステロイド(例えば、デキサメタゾン(Decadron(登録商標))で治療することができる。
【0149】
D.医薬組成物
前述の通り、本発明の治療、阻害および/または低減、ならびに/あるいは検出方法は、クロロトキシン剤それ自体または医薬組成物の形態で投与するステップを含む。医薬組成物は、一般に、有効量の少なくとも1つのクロロトキシン剤および少なくとも1つの薬学的に許容される担体または添加剤を含むことになる。
【0150】
医薬組成物は、当技術分野で周知の従来の方法を使用して製剤化することができる。最適な医薬製剤は、投与経路および所望の用量に応じて変わり得る。かかる製剤は、投与される化合物の物理的状態、安定性、インビボ放出速度およびインビボクリアランス速度に影響を及ぼし得る。製剤は、固体、液体または反液体医薬組成物を生成することができる。
【0151】
医薬組成物は、投与を容易にし、用量を均一にするために、単位剤形として製剤化することができる。「単位剤形」という表現は、本明細書で使用される場合、治療を受ける患者に合わせたクロロトキシン剤の物理的に個々の単位を指す。各単位は、所望の治療効果をもたらすために算出された所定の量の活性材料を含有する。しかし、組成物の総用量は、正確な医療判断の範囲内で担当医によって決定されることを理解されよう。
【0152】
前述の通り、特定の実施形態では、注射または注入によってクロロトキシン剤を静脈投与する。注射または注入による投与に適した医薬組成物は、適切な分散剤または湿潤剤、ならびに懸濁化剤を使用して、当技術分野に従って製剤化することができる。医薬組成物は、例えば2,3−ブタンジオール溶液などの非毒性の希釈剤または溶媒中の注射可能な滅菌溶液、懸濁液または乳液であってもよい。使用できる許容されるビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンガー溶液、U.S.P.および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに通常、滅菌固定油が、溶液または懸濁液培地として使用される。この目的では、合成モノまたはジグリセリドを含む任意のブランドの(bland)固定油を使用することができる。オレイン酸などの脂肪酸を、注射可能な製剤の調製物に使用することもできる。
【0153】
注射可能な製剤は、例えば細菌保持フィルターを介する濾過によって、あるいは滅菌水または他の注射可能な滅菌培地に溶解または分散することができる滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を使用前に組み込むことによって、滅菌することができる。
【0154】
薬物の効果を延長するために、注射による薬物の吸収を遅延させることがしばしば望ましい。これは、活性成分を油性ビヒクルに溶解または懸濁することによって達成できる。注射可能なデポー形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中の薬物のマイクロ封入マトリックスを形成することによって生成される。薬物対ポリマー比および使用する特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出速度を制御することができる。デポー注射製剤は、薬物を、身体組織と適合性のあるリポソームまたはマイクロエマルジョンに封入することによって調製することもできる。
【0155】
III.検出方法
A.投与
別の態様では、本発明は、腫瘍転移のインビボ検出方法を提供する。例えば、少なくとも1つの原発腫瘍を有しているまたは有していた個体の腫瘍転移を検出するために、本発明の方法を使用することが望ましい。かかる方法は、本明細書に記載の有効量の標識クロロトキシン剤またはその医薬組成物を患者に投与して、原発腫瘍組織および/または転移腫瘍組織において標識クロロトキシン剤と細胞の特異的結合が生じ得るようにするステップを含む。
【0156】
一般に、標識クロロトキシン剤の用量は、患者の年齢、性別および体重、調査する身体領域(複数)、ならびに投与経路などの考慮すべき事項に応じて変わることになる。禁忌、同時療法および他の変数などの因子も、投与される標識クロロトキシン剤の用量の調節に考慮されるべきである。しかしこれは、経験のある医師によって容易に達成され得る。一般に、標識クロロトキシン剤の適切な用量は、患者の新生物腫瘍組織の検出を可能にするのに十分な、薬物の最少量に相当する。
【0157】
例えば、クロロトキシン剤が131Iで標識され、静脈投与される実施形態では、標識クロロトキシン剤の投与は、それぞれ約5mCi〜約50mCi、例えば、約5mCi〜約40mCiまたは約10mCi〜約30mCiの131Iを含む1つまたはそれより多くの用量の投与を含むことができる。例えば、それぞれ約10mCi、約20mCiまたは約30mCiの131Iを含有する131I−放射標識クロロトキシン剤の1つまたはそれより多くの用量を投与することができる。かかる実施形態では、診断手順は、131I−放射標識クロロトキシン剤の単回用量の投与、あるいは多回用量、例えば2回、3回または4回用量の投与を含むことができる。2回の連続用量は、1日間隔、2日間隔、3日間隔、4日間隔、5日間隔、6日間隔、7日間隔または7日を超える間隔で投与することができる。
【0158】
131I−放射標識クロロトキシン剤が使用される実施形態では、患者に、131I−放射標識クロロトキシンの投与前(例えば本発明による治療の1日、2日または3日前)に、過飽和ヨウ化カリウムを投与することができる。過飽和ヨウ化カリウムの投与は、甲状腺による131Iの取込みを遮断し、したがって甲状腺機能低下などの状態を防止する。
【0159】
標識クロロトキシン剤の投与後、特異的結合が生じるのに十分な時間が経過した後、結合した標識クロロトキシン剤の検出を実施する。
【0160】
幾つかの実施形態では、第2の有効量の標識クロロトキシン剤を、第2期間に投与し、個体身体の標識クロロトキシン剤の結合を測定する。標識クロロトキシン剤の第2の投与後の結合測定によって、1つまたはそれより多くの転移の進行、安定性および/または退縮を示し得る結合の任意の変化(例えば、結合の程度および/または位置)を評価することができる。その後の期間に、さらなる測定値を得るために有効量の標識クロロトキシン剤の後続投与(即ち第3、第4等)を実施することもできる。これは、例えば長期にわたる1つまたはそれより多くの転移の進行、安定性および/または退縮を評価するのに望ましいものとなり得る。
【0161】
幾つかの実施形態では、有効量の標識クロロトキシン剤の連続投与間の時間の長さが変わる。幾つかの実施形態では、標識クロロトキシン剤の投与は、およそ一定間隔で実施される。幾つかの実施形態では、投与のタイミングは、患者が治療を受ける投与レジメンのタイミングに一致または平行する。
【0162】
B.転移の検出および局在化
当業者によって認識される通り、標識クロロトキシン剤と対象組織の結合の検出は、それに限定されるものではないが、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段を含む多種多様な方法のいずれかによって実施することができる。検出方法の選択は、一般に薬剤の標識部分(即ち、蛍光部分、放射性核種、常磁性金属イオン等)の性質を基にして行われよう。特定の実施形態では、患者の1つまたはそれより多くの転移の検出および局在化は、画像技術を使用して実施される。
【0163】
標識部分の性質に応じて、様々な画像技術を使用することができる。例えば、標識部分が常磁性金属イオン(例えばGd3+)を含む場合、結合は、磁気共鳴画像法(MRI)を使用して検出することができる。単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)および/または陽電子断層撮影法(PET)は、標識部分が放射性同位体(例えば131I等)を含む場合に結合を検出するために使用できる。他の画像技術には、ガンマカメラ画像が含まれる。
【0164】
本発明の検出方法によれば、標識クロロトキシン剤と対象組織の結合レベルが標識クロロトキシン剤と正常組織の結合レベルと比較して高い場合、原発腫瘍の組織以外の組織は転移と同定される。先に既に言及した通り、正常組織は、本明細書では非新生物組織と定義される。例えば、本方法がインビボで実施される場合、対象器官(例えば脳)の領域で測定された標識クロロトキシン剤の結合レベルを、同じ器官の正常領域で測定された標識クロロトキシン剤の結合レベルと比較することができる。
【0165】
特定の実施形態では、対象組織は、測定された結合レベルが正常組織との結合レベルよりも高い場合、新生物組織と同定される。例えば、結合レベルは、正常組織の結合レベルよりも少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約25倍、少なくとも約50倍、少なくとも約75倍、少なくとも約100倍、少なくとも約150倍、少なくとも約200倍、または200倍より高くてもよい。
【実施例】
【0166】
以下の実施例は、本発明の生成および実施方法の幾つかを説明するものである。しかし、これらの実施例は単に例示目的であり、本発明の範囲への制限を企図しないことを理解されたい。さらに、実施例の説明が過去形で示されない限り、本文は、本明細書の残りと同様、実験が実際に実施され、またはデータが実際に得られたことを示唆するものではない。
【0167】
(実施例1:脳および肺に転移した黒色腫に結合するクロロトキシン)
この実施例に記載の実験は、クロロトキシンが、生検切片の脳および/または肺に転移した黒色腫に結合することを示すものである。
【0168】
材料および方法
ヒトの生検組織の凍結またはパラフィン切片を、N末端に化学的に結合した検出可能なビオチン基を含有するクロロトキシンの化学合成形態(TM−601)で、組織化学的に染色した。ヒトの組織サンプルを、両方の性別ならびに様々な年齢および人種から得た。大部分のサンプルは、UAB(バーミングハムのアラバマ大学)のCooperative Human Tissue Network、Tissue Procurement、UAB病院およびHuman Brain Tissue Bank、カナダ、ロンドンによって入手した。凍結ゲルに埋め込んだ急速凍結組織および新鮮な組織を8ミクロンにスライスし、正電荷ガラススライド上に置いた。次いで、切片を、染色プロトコルに従って、4%パラホルムアルデヒドまたはMilloniqs溶液(リン酸ナトリウム緩衝溶液中4%ホルムアルデヒド、0.4%NaOHおよび7%メタノールから構成される)で固定した。パラフィンブロックを薄片に切り、標準手順に従って調製した。
【0169】
生検切片を、PBS中10%正常ヤギ血清で1時間ブロッキングし、終夜4℃においてビオチン化クロロトキシン希釈液で処理した。完全にすすいだ後、アビジン−ビオチン複合体(ABC)系(Vector Laboratories製Vectastain Elite ABCキット、カリフォルニア州バーリントン(Burlignton))によって染色部を生じ、DAB(3,3’−ジアミノベンジジン、Vector Laboratories)とABC複合体の比色反応によって可視化した。
【0170】
生検切片を、核染料であるメチルグリーンで対比染色して、非染色細胞を可視化した。標識の有効濃度、組織の状態または反応期間の変化により、実験ごとに非特異的バックグラウンド標識は変わり得る。したがって、対照切片は、ビオチン化クロロトキシンではなくメチルグリーンで同様に染色される。ポジティブ細胞染色は、隣接する対照切片と比較した場合のバックグラウンド上のクロロトキシン標識によって定義した。多量の内因性ペルオキシダーゼを含有する細胞は、DABとペルオキシダーゼの反応により、対照において暗いバックグラウンド染色を示す。
【0171】
第3の隣接切片を、ヘマトキシリン(細胞核を染色する)およびエオシン(細胞質を染色する)の両方で染色した。したがって、分析する各組織について3つの隣接する切片を染色した。
【0172】
結果
図1は、ビオチン化クロロトキシンが脳に転移した黒色腫を染色することを示す顕微鏡写真である。11カ所の黒色腫の脳転移のうち11カ所が、TM−601にポジティブであり、5カ所の原発性黒色腫腫瘍のうち5カ所がポジティブであった。さらにクロロトキシンは、肺に転移した黒色腫にも結合する(図2)。一方、正常な皮膚は、TM−601に対して無反応であるが(6/6ネガティブ)(図3)、対照のメラニン細胞にも幾らかのバックグラウンド染色がある。
【0173】
(実施例2:再発性または難治性体細胞および/または脳の転移固形腫瘍を有する患者における静脈131I−TM−601の相I画像および安全性試験)
本発明の実施例は、5つの臨床部位において実施した相I試験から得た予備試験の結果を記載する。この臨床試験では、TM−601を48人の患者に静脈投与した。この多施設非盲検非無作為化の逐次的「被験体内」漸増試験には、標準療法に適していない検出可能な転移性の関与の明白な証拠を示した、組織学的に確認された再発性または難治性いずれかの原発固形悪性腫瘍を有する患者が含まれていた。
【0174】
この相I試験の目的は、a)静脈131I−TM−601が、再発性または難治性転移(脳転移を含む)固形腫瘍を有する患者において腫瘍特異的な局在化を示すかどうかを評価すること、b)静脈投与した131I−TM−601の分布および線量測定を決定すること、ならびにc)静脈投与した131I−TM−601の安全性および耐性を決定することであった。
【0175】
患者および治療プロトコル
48人の被験体が、この試験に登録した。以下に記載のプロトコルを、これらの被験体に使用した。被験体は、131I−TM−601の1〜2回の漸増静脈投与の後、131I−TM−601が標的腫瘍細胞に局在するかどうかを決定する一連の全身スキャンを受け、131I−TM−601の腫瘍特異的取込みが示されると、1回の静脈治療用量の131I−TM−601を受けた。図4のグラフは、投与スキームを示す。
【0176】
試験患者には、最大3回用量の131I−TM−601(10mCi/0.2mg〜30mCi/0.6mgの範囲)を、静脈(IV)注入によって投与した。用量10または20mCiの投与の24時間後に実施した画像によって、131I−TM−601の腫瘍特異的取込みを示した患者のみに、用量30mCiの131I−TM−601を投与した。
【0177】
131I−TM−601の調製
最終的なTM−601薬物生成物は、栓付きのガラスバイアルに入れた滅菌凍結乾燥された白色からオフホワイト色の粉末である。この試験で使用した画像および治療用量は、放射標識TM−601の用量であった。
【0178】
TM−601最終薬物生成物を、放射標識バッファー0.56mLで再構成して、131Iで放射標識した1mg/mLを得、それを臨床部位に送達した。シリンジに注入用の溶液約4mLを入れ、放射活性の内容および量に関する大まかな表示を貼付した。現場で受け取ったら、放射安全管理者または他の適切な現場担当者が、131I−TM−601の放射線計数が、処方の仕様書の範囲内であるかを確認した。最終放射標識薬物生成物を入れたシリンジを遮蔽し、次いで患者への投与に適した病院領域に移動した。131I−TM−601溶液を、2〜8℃で光から保護して保存し、使用まで遮蔽した。131Iで放射標識した後、生成物を24時間以内に使用するよう推奨した。
【0179】
131I−TM−601の投与および画像化試験
放射標識試験用量131I−TM−601を投与した全ての患者には、甲状腺および他の器官への131Iの取込みを遮断するために、用量300mg/日の過飽和ヨウ化カリウム(SSKI)の経口投与を、放射標識131I−TM−601注入の当日および直前に開始し、最少3日間投与した。SSKIを、試験薬物投与の前に、診療所/病院にいない間の薬物の適切な使用について患者に示す指示と共に患者に分配した。
【0180】
131I−TM−601を入れたシリンジを、6インチの静脈針/カテーテルの範囲内の注入ポートに「ピギーバッグ」方式で挿入した。0.9%塩化ナトリウムを100mL/時間で注入すると同時に、生成物を約5〜10分かけて「緩慢なIVプッシュ」によって投与した。131I−TM−601吸入は、以下の、(1)収縮期血圧>25mmHgの下落、(2)研究者によって記録された著しい呼吸困難、(3)体温>102°F、(4)発作、(5)新しい神経学的欠損の意識または発症レベルの変化、あるいは臨床医の判断または患者の要求などの他の理由のいずれかが観測された場合に終了した。
【0181】
用量30mCiの131I−TM−601の投与に関する局在化および適格性を決定するために、ガンマカメラおよびある場合にはSPECTによる画像化を、131I−TM−601投与の24時間後に実施した。
【0182】
安全性の結果
2008年5月現在、合計22件の有害事象が、17人の患者について報告された。全てのSAEが、試験薬物の「可能性が高い」またはそれとは「関係なし」であると研究者によって判断され、これらの事象のうち4つが、承諾後に131I−TM−601試験薬物の投与を継続しなかった2人の患者に生じた。試験薬物の投与前に1人の患者で第5の事象が生じたが、後に投与に成功した。
【0183】
有効性の結果
腫瘍特異的取込みを、静脈投与後に、悪性神経膠腫を有する8人の患者のうち7人;びまん性骨転移1人を含む、転移前立腺がんを有する2人の患者のうち2人;転移非小細胞肺がんを有する5人の患者のうち3人;転移黒色腫を有する8人の患者のうち7人;転移結腸がんを有する8人の患者のうち6人;転移膵臓がんを有する3人の患者のうち2人;転移乳がんを有する4人の患者のうち1人;転移移行上皮癌を有する1人の患者;転移傍神経節腫を有する1人の患者、ならびに多形性黄色星状膠細胞腫を有する1人の患者を含む、様々な腫瘍の種類において観測した(図5にまとめた通り;図6〜9も参照のこと)。
【0184】
全ての患者に、試験用量10mCi(ペプチド0.2mg)の131I−TM−601を静脈投与した。腫瘍の局在化および線量測定分析のために、131I−TM−601の注射直後≦60分)、3時間後、24時間後、48〜72時間後および168時間後の5回の連続する全身ガンマカメラ画像を必要とした。ガンマカメラまたはSPECT画像によって腫瘍の局在化を示した患者には、1週間後に第2の治療用量30mCi(ペプチド0.6mg)の131I−TM−601を投与した。取込みを示さなかった患者は、1週間後に20mCi(ペプチド0.4mg)の131I−TM−601で再治療して、起こり得る局在化を高用量で決定した。
【0185】
腫瘍反応(ガドリニウムで強調される疾患の体積の低減によって定義される)が、28日目の評価において、8人の神経膠腫患者のうち2人の磁気共鳴画像(MRI)に見られたが、これは、ベースラインからの腫瘍体積の測定可能な低減を示していた(図10および11参照)。
【0186】
これらの結果は、インビボで全身送達された131I−TM−601などのクロロトキシン剤の治療効果を示している。これらの結果は、静脈投与された131I−TM−601が、血液脳関門を横断し、手術不能の神経膠腫を有する患者のMRI画像を改善し得ることも示している。さらに、転移がんを有する患者において、静脈を介して送達された131I−TM−601は、遠隔転移を標的にできる(例えば図12参照)。
【0187】
(実施例3:転移黒色腫を有する患者における静脈131I−クロロトキシン(131I−TM−601)の腫瘍特異的標的)
先の臨床試験において、再発性神経膠芽腫多形を有する患者には、腫瘍切除の空洞に131I−クロロトキシンを局所投与した。本発明の実施例では、静脈(IV)投与した131I−クロロトキシンの分布を調査して、静脈投与経路が実行可能であるか、CNSへの転移を含む転移黒色腫を有する患者における腫瘍内取込みをもたらし得るかを決定する。この実施例に記載の実験は、静脈を介して送達された131I−クロロトキシンが、体中の腫瘍部位ならびに脳の転移に局在化することを示している。したがって、静脈投与された131I−クロロトキシンは、血液脳関門を横断し、遠隔転移を標的にするために使用できる。
【0188】
材料および方法
転移黒色腫を有する7人の患者が、実施例2に論じた全身投与の131I−クロロトキシンの前向き臨床試験に登録した。本発明の実施例は、これらの7人の患者に伴う結果をより詳細に論じる。全ての患者に、試験用量10mCi(ペプチド0.2mg)の131I−クロロトキシンを静脈投与した。腫瘍の局在化および線量測定分析のために、131I−クロロトキシンの注射直後(≦60分)、3時間後、24時間後、48〜72時間後および168時間後の5回の連続する全身ガンマカメラ画像を必要とした。ガンマカメラまたはSPECT画像によって腫瘍の局在化を示した患者には、1週間後に第2の治療用量30mCi(ペプチド0.6mg)の131I−クロロトキシンを投与した。取込みを示さなかった患者は、1週間後に20mCi(ペプチド0.4mg)の131I−クロロトキシンで再治療して、起こり得る局在化を高用量で決定した。
【0189】
結果
黒色腫を有する7人の登録患者のうち6人は、131I−クロロトキシンの静脈投与後に、フォローアップのガンマカメラまたはSPECT画像で腫瘍特異的局在化を示した。腫瘍の局在化は、中枢神経系および頭蓋外部位において観測された(一例として図13参照)。残りの患者は、最初の試験用量(10mCi/0.20mgペプチド)の後に試験から離脱し、評価可能とみなされなかった。用量制限毒性は観測されなかった。完全な線量測定分析が、バーミングハムのアラバマ大学で治療を受けた3人の患者に対して利用可能であった。平均放射用量は、全身に対して約0.24cGy/mCi(約0.21〜約0.27cGy/mCiの範囲)、腫瘍に対して約2.56cGy/mCi(約1.36〜約4.43cGy/mCiの範囲)であり、算出治療比は約10(腫瘍用量/身体用量)であった。
【0190】
結果は、静脈投与した131I−クロロトキシンが血液脳関門を横断し、高い率の腫瘍特異的標的をもたらすことを示している。したがって、131I−クロロトキシンは、脳内の遠隔転移を含む遠隔転移を標的にするために使用できる。今後の臨床試験によって、様々な腫瘍の種類における、静脈投与の高用量の131I−クロロトキシンの安全性および有効性が評価されよう。
【0191】
(実施例4:TM−601による脈絡膜血管新生の阻害および退縮)
新血管の形成(血管新生)およびかかる血管の維持は、転移の重要な要素であると考えられる。本発明の実施例では、血管新生を阻害し、かつ/または既存の新しく形成された血管の退縮を生じるクロロトキシンの能力を、脈絡膜血管新生アッセイを使用して評価した。TM−601が、血管形成誘発時の初めに投与される場合、TM−601は、新血管形成の有意な低減を生じた。TM−601が、血管形成が誘発された数日後に投与される実験パラダイムでは、TM−601は、脈絡膜血管新生の有意な退縮を生じた。
【0192】
材料および方法
530nmのレーザーを用いる光凝固によって、脈絡膜血管新生(CNV)をマウスにおいて誘発した。3カ所の熱傷が、網膜の後極の9、12および3時の位置の各網膜に生じた。ブルッフ膜の破壊は、レーザー誘発時に気泡が生成した場合に成功したと判断された。気泡が観測された熱傷のみを、この試験に含めた。
【0193】
最初の実験では、生理食塩水に溶解した50mg/mLのTM−601溶液の硝子体内注射1μLを、片目に注射し(n=17匹の動物、49カ所の定量化できる熱傷)、レーザー光凝固の後に、生理食塩水1μLを反対側の眼(fellow eye)に注射した(n=17匹の動物、44カ所定量化できる熱傷)。数日後、注射を繰り返した。試験の14日目に、マウスにフルオレセイン標識デキストラン(2×106の平均分子量、Sigma)をかん流し、脈絡膜フラットマウントを調製し、蛍光顕微鏡検査によって調査した。
【0194】
第2の実験では、レーザー光凝固を1日目に実施した。10匹のマウスの1群(30カ所の定量化できる熱傷)に、CNVベースライン測定のために、7日目にフルオレセイン標識デキストランをかん流した後、治療を開始した。マウスの残りに、50mg/mLのTM−601溶液の眼内注射1μLを、片目に投与し(n=12匹の動物、34カ所の定量化できる熱傷)、生理食塩水を反対側の眼に注射した(n=13匹の動物、32カ所の定量化できる熱傷)。14日目に、残り全てのマウスにフルオレセイン標識デキストランをかん流し、脈絡膜フラットマウントを調製し、蛍光顕微鏡検査によって調査した。
【0195】
脈絡膜フラットマウントの脈絡膜血管新生病変の大きさを測定した。フルオレセイン標識デキストランを用いたかん流後、両目を取り出し、10%緩衝ホルマリンで1時間固定した。角膜および水晶体を取り出し、全ての網膜を眼杯から切除した。端部から赤道まで、脈絡膜を径方向に切断し、眼杯をフラットマウントした。フラットマウントを、蛍光顕微鏡検査によって調査し、画像をデジタル化した。Image−Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics)を使用して、それぞれの熱傷に関連する脈絡膜血管新生の総面積を測定した。
【0196】
結果
マウスにおけるレーザー光凝固によるブルッフ膜の破壊は、脈絡膜血管新生(CNV)を生じるが、これは、新生血管である加齢性黄斑変性症を有する患者に生じるCNVの多くの局面に類似している。TM−601がこのモデルの新血管形成に影響を与えるかどうかを決定するために、50μgのTM−601の硝子体内注射を、レーザー光凝固の当日(1日目)および7日目に実施した。対照の目には、同じ時点で生理食塩水を注射した。ブルッフ膜の破壊の14日後に、それぞれの目からの脈絡膜フラットマウントを分析した。TM−601治療は、用量50μgの眼内TM−601によって、新血管の形成を有意に低減したことが見出された(図13および15)。
【0197】
このモデルにおける既存の新生血管系に対するTM−601の作用を評価するために、50μgのTM−601の眼内注射による治療を、ブルッフ膜の破壊の7日後まで遅延した。この時点で、血管新生の大きな部位が既に存在していた(図14のベースライン参照)。7日目の生理食塩水の単回注射は、14日目に測定された新血管形成には影響を及ぼさなかったが(図14の対照)、TM−601の単回注射は、CNVの退縮を有意に生じた(図14および15)。
【0198】
議論/結論
本発明の実施例は、局所投与のTM−601が、CNVを有意に抑制し、CNVの退縮を生じ得ることを示している。CNVのマウスモデルは、黄斑変性症の湿潤型の病状に類似している。この試験で使用した硝子体内の投与経路は、それが、黄斑変性症に臨床的に承認されている療法であるLucentis(登録商標)の投与に使用される経路であることから、臨床的に関連があり得る。
【0199】
(実施例5:様々な送達経路を介してマウスのCNVモデルの血管新生を阻害するTM−601)
様々な投与経路によって送達されるTM−601の抗血管新生能を評価するために、本発明の実施例に記載の実験を実施した。脈絡膜血管新生アッセイを使用して、レーザー誘発性ブルッフ膜破壊部位周辺の新血管増殖を測定し、TM−601の局所または全身投与が血管新生の低減を生じるかどうかを決定した。投与の3つの新しい経路、眼周囲(結膜下とも呼ばれる)、静脈および局所(点眼)を試験した。
【0200】
材料および方法
マウスの脈絡膜血管新生(CNV)を、530nmのレーザー光凝固によって誘発した。3カ所の熱傷が、網膜の後極の9、12および3時の位置の各網膜に生じた。レーザー誘発時に気泡生成が生じた場合に、ブルッフ膜破壊の成功が明らかとなった。気泡が観測された熱傷のみを、この試験に含めた。
【0201】
投与
TM−601溶液5μLの眼周囲注射を、生理食塩水に溶解したTM−601濃度2、10、50および200mg/mLで実施した。生理食塩水5μLを、レーザー光凝固後に反対側の眼に注射した。7日後、注射を繰り返した。試験の14日目に、マウスにフルオレセイン標識デキストラン(2×106の平均分子量、Sigma)をかん流し、脈絡膜フラットマウントを調製し、蛍光顕微鏡検査によって調査した。
【0202】
1週間に3回、用量20mg/kgのTM−601を尾静脈注射することによって、静脈投与を実施した。
【0203】
TM−601の局所適用は、1日に3回、点眼剤を適用することによって達成し、各点眼剤は、体積10μLのTM−601を含有していた。TM−601を、活性成分として70%デキストランおよび0.3%ヒプロメロースを含有する市販のArtificial Tears(Rite Aide)に溶解した。不活性成分は、0.1%ベンザルコニウム、エデト酸二ナトリウム、塩化カリウム、精製水および塩化ナトリウムを含む。TM−601の最終濃度を1、5および25mg/mLにして、点眼剤10μL当たりそれぞれ単回用量10、50および250μgを得た。
【0204】
組織学的分析およびイメージング
脈絡膜フラットマウントの脈絡膜血管新生病変の大きさを測定した。フルオレセイン標識デキストランを用いたかん流後、両目を取り出し、10%緩衝ホルマリンで1時間固定した。角膜および水晶体を取り出し、全ての網膜を眼杯から切除した。端部から赤道まで、脈絡膜を放射状に切断し、眼杯をフラットマウントした。フラットマウントを、蛍光顕微鏡検査によって調査し、画像をデジタル化した。Image−Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics)を使用して、それぞれの熱傷に関連する脈絡膜血管新生の総面積を測定した。
【0205】
結果
マウスにおけるレーザー光凝固によるブルッフ膜の破壊は、脈絡膜血管新生(CNV)を生じるが、これは、新生血管である加齢性黄斑変性症を有する患者に生じるCNVの多くの局面に類似している。このモデルを使用して、本発明者らは、TM−601の眼内注射が血管新生を有意に低減し、また新血管の退縮を生じることを既に示した(実施例4参照)。
【0206】
現在の試験では、他の投与経路(眼周囲、静脈および局所)を調査した。最初の眼周囲試験では、250μgのTM−601の眼周囲注射を、レーザー光凝固の当日(1日目)および7日目に実施した。対照の目には、同じ時点で生理食塩水を注射した。ブルッフ膜の破壊の14日後に、それぞれの目からの脈絡膜フラットマウントを分析した。TM−601治療は、用量250μgの眼周囲TM−601によって、新血管の形成を有意に低減したことが見出された(図16)。
【0207】
眼周囲注射の用量反応を決定するために、TM−601を10μg、50μg、250μgまたは1000μgの用量で注射した。10μgの用量では、脈絡膜血管新生を有意に低減しなかったが、50μg以上の用量では、CNVが同程度低減した(図17)。興味深いことには、眼周囲注射を投与された動物の反対側の眼も、CNVの低減を示した(図17の緑色の曲線)。
【0208】
全身注射したTM−601が、脈絡膜にも浸透し、血管新生を阻害するかどうかを決定するために、TM−601を、2週間の試験にわたって週3回、20mg/kgの用量で尾静脈に注射した。静脈注射では、TM−601は、CNVを有意に低減したことが見出された(図18)。
【0209】
この実施例で調査した3つの投与経路の中で最小の浸潤性である局所点眼剤の適用も試験した。TM−601を、市販の点眼潤滑剤に再懸濁し、点眼剤10μLによって1日3回適用した。送達された最大用量で(1滴当たり0.25mg、1日3回)、CNVの低減が観測されたが、これは生理食塩水対照とは統計的に異なってはいなかった(図19)。
【0210】
議論/結論
CNVのマウスモデルは、黄斑変性症の湿潤型の病状に類似している。図4に示した通り、硝子体内投与経路は、脈絡膜血管新生を有意に低減することができる。これは、黄斑変性症に臨床的に承認されている療法であるLucentis(登録商標)の投与に使用されるのと同じ経路である。しかし本発明者らは、浸潤性が低い送達方法が有利であると認識し、TM−601の眼周囲、静脈および局所送達を試験した。全ての場合において、TM−601はCNVの低減を示したが、局所点眼剤で見られた低減については、統計的な有意性への到達が観測されなかった。TM−601の眼周囲注射は、眼内送達を必要とする薬物(例えばLucentis(登録商標))よりも有利である可能性がある。
【0211】
図17で観測された「反対側の眼の効果」は、興味深いものであり得る。眼周囲注射したTM−601は、隣接する目(注射を受けなかった)のCNVの有意な低減を生じた。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、この現象についてあり得る説明は、注射した材料が全身循環に入り、その結果、反対側の眼が薬物曝露したということである。類似の反対側の眼の効果は、局所点眼剤では観測されなかった。
【0212】
これらの結果は、様々な投与経路によって送達されたTM−601が、抗血管新生作用を示し、したがって、転移がんの治療剤としてクロロトキシンの有用性をさらに支持することを示している。
【0213】
(実施例6:新血管へのTM−601の局在化および新生血管内皮細胞のTM−601誘発性アポトーシス)
実施例4および5に記載の実験は、クロロトキシンが、脈絡膜血管新生(CNV)のマウスモデルにおいて血管新生を阻害し、新血管の退縮を生じ得ることを示した。本発明の実施例に記載の実験は、実施例4および5に示した通り、クロロトキシンの抗血管新生作用機構の理解を対象とした。本発明の実施例の結果は、TM−601が、マウスのCNVモデルにおいて新血管に局在化し、新血管内皮細胞のアポトーシスを誘発することを示した。さらに、本発明の実施例の結果は、TM−601が、CNVモデルおよび網膜症モデルの両方の血管新生領域において、本発明者らが過去の試験でTM−601と結合することを観測したアネキシンA2と共に局在化することを示した。
【0214】
TM−601は、目の脈絡膜血管新生を阻害し、新しく形成された血管の退縮を生じることが示されたが、過去には、TM−601が目の特定の細胞種に直接的に結合し、または非特異的に薬理学的活性を有するかどうかは公知でなかった。131I−TM−601の静脈注射後の全身の平面像において、脈管構造との全身的な結合は観測されなかった。したがって、いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、TM−601は、新血管形成部位において活性化したまたは増殖している細胞のサブセットのみに選択的に結合すると仮定した。
【0215】
新血管形成は、CNVのマウスモデルにおいて誘発され、かかるモデルにおける硝子体内または結膜下注射後のTM−601の位置が決定された。さらに、TUNELアッセイを使用して、新血管の退縮が、脈絡膜血管新生部位における内皮細胞のアポトーシスによるものかどうかを決定した。
【0216】
TM−601の抗血管新生作用の機構をさらに理解するために、血管新生領域において、TM−601と、クロロトキシンの推定細胞受容体であるアネキシンA2の共局在化を、免疫組織化学によって調査した。アネキシンA2は、本発明者らによって、TM−601に結合することが観測された。アネキシンA2は、内皮細胞の表面に発現し、特定の腫瘍種において過剰発現する。アネキシンA2は、プラスミノーゲンおよびプラスミンなどの血管新生促進および/または抑制タンパク質の変換を制御するドッキングステーションとして特徴付けられている。
【0217】
材料および方法
マウスの脈絡膜血管新生(CNV)を、530nmのレーザー光凝固によって誘発した。3カ所の熱傷が、網膜の後極の9、12および3時の位置の各網膜に生じた。レーザー誘発時に気泡生成が生じた場合に、ブルッフ膜破壊の成功が明らかとなった。気泡が観測された熱傷のみを、この試験に含めた。
【0218】
投与
1μLのTM−601(生理食塩水に溶解した50μg/μL)の眼内注射を、CNV病変の7日後に実施した。5μLの結膜下注射を、生理食塩水に溶解したTM−601濃度10μg/μLを使用して、7および8日目に実施した。反対側の眼には注射しなかった。動物を9日目に屠殺し、両目を取り出し、CNV病変を貫いて切片を切り取った。凍結切片を、以下に記載の通り染色した。
【0219】
免疫組織化学
TM−601局在化試験では、ウサギ抗TM−601(図20A、BおよびCならびに図21A、BおよびCの赤色)原発性抗体を使用した。蛍光検出は、蛍光標識抗ウサギIgG二次抗体を使用して実施した。切片を、やはり蛍光標識GSAレクチンで染色して(図20D、EおよびFならびに図21D、EおよびFの緑色)、内皮細胞を同定した。アポトーシス細胞の検出のために、切片を、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)について染色した。このアッセイは、アポトーシス細胞の死滅の特徴であるDNA断片化を示す細胞核を検出するために使用される。切片を、核染色でも染色した。アネキシンA2での共局在化試験では、切片を抗アネキシンA2でも染色した。
【0220】
内皮細胞増殖アッセイ
内皮細胞増殖アッセイは、Promega製のCellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution細胞増殖キット(カタログ番号#G3582)を使用して実施した。簡潔には、4,000個の細胞(72時間のアッセイ)または1,000個の細胞(120時間のアッセイ)を、96ウェルトレーの各ウェルに蒔き、終夜置いた。翌日、TM−601または希釈物をウェルに添加した。次いで、細胞を72時間または120時間、37℃で培養した。細胞数を、キットプロトコルに従ってMTSテトラゾリウムで染色することによって決定した。490nmにおける吸光度によって測定したホルマザン生成物の量は、培養物の生存細胞の数に正比例する。
【0221】
結果
CNVのマウスモデルのTM−601の抗血管新生作用の機構を調査するために、TM−601を、レーザー誘発性光凝固後の7日目にマウスの目に眼内注射し、または7および8日目に眼周囲注射することによって、TM−601の局在化を試験した。試験の9日目に、目をTM−601に対して免疫染色した。両方の投与経路に関して、TM−601は脈絡膜の内皮細胞に特異的に局在化したことが見出された(図20および21)。網膜層の下の既存の血管に関連する検出可能なTM−601は観測されなかったが、これは、TM−601が脈絡膜の新しく形成された血管に選択的に結合したことを示すものである。
【0222】
実施例4に記載の通り、レーザー光凝固の結果としての新血管形成の1週間後、TM−601の単回眼内注射によって、CNVの有意な退縮が生じた。しかし、この効果の機構は未だ知られていなかった。TM−601が、このモデルにおいて新しく形成する脈管構造に寄与する細胞のアポトーシスを生じ得るかどうかを試験するために、CNV病変を切り取った切片を、TUNELに対して染色した。アポトーシス細胞(ポジティブTUNEL染色によって同定される)は、内皮染色と共に局在化していたが、これは、脈絡膜血管新生の領域における内皮細胞が、眼内または眼周辺TM−601治療のいずれかの後にアポトーシスを受けたことを示している(図22および23)。生理食塩水を注射した目には、アポトーシスは検出されなかった。培養内皮細胞のTM−601でのインビトロ治療は、広範なTM−601濃度にわたって細胞毒性がないことから、インビボで治療を受けた目の内皮細胞のアポトーシスは予想外であった(図24)。
【0223】
TM−601の抗血管新生作用の機構をさらに理解するために、TM−601と、クロロトキシンの推定細胞受容体であるアネキシンA2を用いて、共局在化試験を実施した。血管新生を、2つの異なるモデルの目で誘発し、脈絡膜血管新生を、レーザーによるブルッフ膜の破壊によって誘発し、網膜症血管新生を、酸素誘発性虚血によって誘発した。TM−601を、類似の実験(experient)について本明細書で記載の通り眼内注射した。血管新生の両方のモデルにおいて、TM−601はアネキシンA2と共に局在化した(図25)。
【0224】
議論/結論
この実施例で提示された結果は、クロロトキシンの抗血管新生作用に関係する幾つかの重要な発見を支持するものである。第1に、眼内または眼周囲注射したTM−601は、レーザー誘発性のブルッフ膜破壊後に、脈絡膜層の新しく形成された脈管構造の内皮細胞に選択的に結合する。TM−601は、既存の成熟した血管には結合しなかった。これらの結果は、131I−TM−601が静脈注射後に身体の全ての血管に無差別には結合しないという観測と一致する。その代わり、放射標識は、腫瘍特異的および/または新血管特異的結合により、主に腫瘍領域において検出される。第2に、TM−601と内皮細胞の結合は、既存の血管ではなく、レーザー損傷部位の周囲に形成する新血管の選択的アポトーシスをもたらす。第3に、TM−601は、プラスミノーゲンおよびプラスミンなどの血管新生促進および/または抑制タンパク質の変換の制御に関与するアネキシンA2と共に局在化し、これによってクロロトキシンは、アネキシンA2を介してその抗血管新生作用の少なくとも幾らかを発揮する可能性が高くなる。
【0225】
(実施例7:インビトロでの腫瘍細胞遊走に対するTM−601の作用)
この実施例に記載の実験は、転移の主な役割を担う細胞転移に対するクロロトキシンの役割を解明することを対象とした。TM−601は、トランスウェル浸潤アッセイによって評価される通り、細胞遊走に対して用量依存性阻害作用を示した。
【0226】
材料および方法
トランスウェル(Corning、8μm)を横断するヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の遊走を、約5×104の血清飢餓細胞で三重に実施した。ボトムウェルの化学誘因物質に、0.4%FBSを含有する培地中VEGFまたはbFGF(50ng/ml)を入れた。トランスウェルに細胞を入れる前に、10マイクロモルのTM−601を、室温で30分間、細胞でインキュベートした。37℃において22時間後、上表面の非遊走細胞を、Q−チップを使用して除去した。膜を介して遊走する細胞を、メタノールで固定し、Giemsa染色で可視化した。トランスウェルを血球計に重ね、5つの領域のそれぞれにおける細胞数を計数することによって、浸潤細胞の定量的計数を実施した。
【0227】
結果
図26Aに示した通り、TM−601は、用量依存的に細胞遊走を阻害した。VEGFによって刺激されようとbFGFによって刺激されようと、TM−601の存在下では約50パーセント少ない細胞が遊走していた(図26B)。
【0228】
(実施例8:MMP2活性に対するTM−601の作用)
先に論じた通り、細胞遊走は、転移の主な役割を担っている。細胞外マトリックスの分解は、細胞移動を容易にするものであり、細胞遊走における非常に重要なステップである。本発明の実施例では、細胞外マトリックスを分解する酵素であるマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP2)に対するTM−601の作用を、神経膠腫細胞系である2つの異なる細胞種HUVECおよびU87で試験した。これらの実験結果は、TM−601がMMP2活性を阻害することを示した。
【0229】
MMP−2活性は、処理なしの、bFGFで処理した、bFGFと一緒に10μMのTM−601で処理した培養HUVEC細胞から採取した培地で測定した(HUVEC細胞は、実施例7に記載の通り培養した)。図26Cに図示した通り、TM−601での処理は、bFGFによって誘発されたMMP2活性の増大をほぼ消失させた。
【0230】
MMP−2活性を、10μMのTM−601で処理した、またはTM−601では処理しなかった培養U87細胞から採取した培地でも測定した。図27に図示した通り、TM−601は、U87ヒト神経膠腫細胞から分泌されたMMP−2活性を低減する。
【0231】
これらの結果は、TM−601がMMP−2活性に対して阻害作用を有することを示唆している。
【0232】
実施例6〜8の議論
これらをまとめると、実施例6〜8で提示されたデータは、TM−601の抗血管新生作用のより良好な理解をもたらす。細胞培養において、TM−601は、増殖する内皮細胞と結合し、新血管形成の非常に重要なステップである細胞遊走を遮断することが示された(実施例7参照)。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、新しく形成された血管だけがTM−601と結合し、成熟した脈管構造の無活動細胞は結合しないことから、ある形態の細胞活性化が、TM−601と内皮細胞の結合にとってインビボで必要とされると思われる。さらに、培養物において増殖するHUVEC細胞は、TM−601がHUVEC細胞の増殖を低減しないことから(アポトーシスはインビトロで生じていたと予想され得るので)、新生血管系の活性化内皮細胞とは類似しない。したがってデータは、新しく形成される脈管構造に対するTM−601の1つの作用が、内皮細胞遊走を遮断することによって新血管形成を阻害することであると示唆している。TM−601は、TM−601に結合する新しく形成された血管がアポトーシスを受けるという、CNVモデルにおける第2の作用を発揮することが観測された。
【0233】
まとめると、インビトロの証拠は、TM−601が内皮細胞遊走を遮断し、したがって血管新生の非常に重要な初期のステップを防止することを示唆している。さらにTM−601は、CNVモデルにおいて新しく形成された血管の退縮を、アポトーシスを介して生じることが示されている。
【0234】
これらの実施例に記載の結果は、クロロトキシンの抗血管新生特性の機構を明らかにしたが、これらの特性は、転移腫瘍に対する治療剤としてのクロロトキシンの有用性に関して特に魅力的な性質である。
【0235】
(実施例9:ヒトの患者の腫瘍に対する静脈を介して送達された非標識TM−601の作用)
この実施例で提示されたヒトの臨床データによって、静脈を介して送達された非標識TM−601の、がんを治療する能力を調査する。先に論じた通り、インビトロデータによって、TM−601が血管内皮細胞に結合し、内皮細胞遊走を遮断することが示された。本発明者らはまた、TM−601の静脈注入が血管新生を低減することを示すインビボデータを得た。これらの観測は、公知の血管過剰を伴う浸潤性がんである悪性神経膠腫において、静脈投与された非標識TM−601の使用を評価するための相I試験の開始を促進するものであった。この試験の主な目的は、a)再発性悪性神経膠腫を有する成人患者におけるTM−601の安全性および耐性を決定すること、b)磁気共鳴(MR)かん流画像の変化を基にして静脈投与する場合に、TM−601の推奨される標的相II用量および生物学的に活性な用量を決定すること、ならびにc)各用量レベルにおけるTM−601の薬物動態を決定することである。
【0236】
患者および治療プロトコル
この試験に適した再発性悪性神経膠腫を有する患者に、10mCi/0.2mgの131I−TM−601を静脈(IV)注入によって投与して、腫瘍特異的な局在化を示す(画像用量)。脳のSPECTスキャンに対して131I−TM−601の腫瘍特異的取込みを示す患者のみが、非標識TM−601を用いる治療を受ける試験に残る。画像用量の1週間後、試験患者に、非標識TM−601を、4週1サイクルのうちの3週間に、1週間に1回、6種類の用量レベル(0.04mg/kg、0.08mg/kg、0.16mg/kg、0.3mg/kg、0.6mg/kgおよび1.2mg/kg)の1つで静脈注入することによって投与する。非標識TM−601の後続のサイクルは、疾患の進行の証拠がなく、患者が用量制限毒性を経験しない限り投与される。患者は、かん流を評価するための従来の動的感受率の対比MRIを用いて、各サイクルの4週目に評価する。
【0237】
2009年1月現在、再発性悪性神経膠腫を有する6人の患者が試験に登録し、分析に利用可能な画像データを有していた。安全性に関して、治療に関係する可能性があるとみなされるある腫瘍内出血事象があった。治療に関係していないとみなされる3つの他の深刻な有害事象には、治療時の疾患の進行、股関節骨折および腎臓結石の既往歴がある患者における腎臓結石が含まれていた。この最初の投与コホートの6人の患者のうち2人が、治療前のベースラインと比較して、相対的脳血流量(rCBF)および/または相対的脳血液量(rCBV)において25%を超える低減を示した。かん流MRIパラメータの改善を伴う両方の患者が、腫瘍の進行の証拠なしに、多数サイクルの治療によって特徴付けられる静脈TM−601に対する広範な反応を有した。
【0238】
これらの結果は、非標識クロロトキシンが、本発明の実施例では悪性神経膠腫である強力な転移の潜在可能性を有する浸潤性がんに対する治療剤としての見込みを示すことを示している。
【0239】
(実施例10:PEG化クロロトキシンのバイオアベイラビリティおよび抗血管新生作用)
本発明の実施例では、PEG化クロロトキシンを試験して、クロロトキシンのインビボ半減期が増大し得るかどうかを決定した。PEG化クロロトキシンの抗血管新生作用も試験した。
【0240】
材料および方法
PEG化
TM−601を、40kDaの多分散直鎖PEG−プロピオンアルデヒド(DowPharma)を使用する還元的アミノ化(animation)を介して、ペプチドのN末端でPEG化した。
【0241】
TM−601の半減期測定
非腫瘍担持C57BL/6マウスに、単回尾静脈注射によってTM−601(用量約2mg/kg)を静脈注射した。血液サンプルを、様々な時点で採取し、TM−601のレベルを、抗TM−601抗体を使用するELISAによって決定した。
【0242】
マウスマトリゲルプラグ
マトリゲルマトリックス高濃縮物(BD Biosciences製)を、4℃で100ng/mlのVEGF、100ng/mlのbFGFおよび3ng/mlのへパリンと混合した。8週齢の雌性C57BL/6マウスを、各群6匹のマウスの各群に無作為に割り当てた。各マウスに、2つの500μLマトリゲルプラグを、皮下組織下の両側に注射した。円形プラグを形成するために、通常の皮下挿入後に、針先を左右に揺り動かすことによって、広範な皮下ポケットを形成した。21〜25Gの針で急速に注射して、全含量をプラグに送達した。マトリゲルプラグを試験の0日目に埋め込み、1日目に治療を開始した。動物に、ビヒクル(生理食塩水)、TM−601またはPEG化TM−601のいずれかを静脈注射によって投与した。3種類の投与レジメン:2週間で週1回(1日目に1回と8日目に1回;「Q7D×2」)、2週間で週2回(1日目、4日目、8日目および11日目;「Q3D×2/2」)および2週間で週5回(1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、8日目、9日目、10日目、11日目および12日目;「Q1D×5/2」)を使用した。プラグは14日後に収集した。マウスを安楽死させ、プラグ上の皮膚を引き剥がした。切開してプラグを取り出し、固定し、組織学的分析のためにパラフィンに埋め込んだ。評価可能な各プラグから、5μmの厚さの3つの切片をCD31抗体で免疫染色し、ヘマトキシリン&エオシンで対比染色した。各マトリゲルプラグの断面積の血管計数を、顕微鏡で分析した。
【0243】
結果/議論
図28に示した通り、PEG化TM−601は、非修飾TM−601と比較して、インビボ半減期の増大を示した。ペグ化は、TM−601の半減期を、約32倍、即ち約25分(TM−601)から約16時間(TM−601−PEG)に増大した。
【0244】
半減期の増大は、結果として、血管新生のモデルにおいて動物への投与頻度を低減する能力につながる。マウスのマトリゲルプラグアッセイでは、動物に、TM−601またはPEG化TM−601(TM−601−PEG)のいずれかを、様々なスケジュールに従って投与した。微小血管密度を測定し、かかる密度の低減は、抗血管新生作用を示すと解釈した。
【0245】
TM−601およびTM−601−PEGの両方は、試験した最も頻度の高い2つの投与スケジュールで(2週間で週2回、「Q3D×2/2」および2週間で週5回、「Q1D×5/2」)、抗血管新生作用を有していた(図29)。TM−601は、試験した最も頻度の少ない投与スケジュールでは(2週間で週1回、「Q7D×2」)、いかなる抗血管新生作用も示さなかったが、かかる用量スケジュールでTM−601−PEGを用いた治療では、微小血管密度の有意な低減がもたらされた(図29)。
【0246】
いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、動物への投与頻度を低減する能力は、TM−601と比較して、TM−601−PEGのより長期的な有効性に起因し得る。かかる高い有効性は、新血管形成部位における長期曝露をもたらすことができ、より持続的な作用が可能になる。これらの特徴(例えば、高い有効性、持続的効果等)は、転移腫瘍の治療に有利になり得る。
【0247】
(実施例11:肺転移に対するTM−601の作用)
本発明の実施例では、肺の転移を阻害するTM−601の能力を、黒色腫細胞をマウスに注射するマウスモデルを使用して調査する。TM−601で治療したまたは治療なしのマウスにおいて生じた肺転移の数を計数する。
【0248】
B16/F10マウスの黒色腫細胞系を、ATCCから入手し、推奨仕様書に従って培養する。各マウスに、腫瘍細胞懸濁液(1×105個の細胞/マウス)を含有する0.9%NaCl溶液0.2mLを静脈接種する。
【0249】
薬物注射は、以下の表1に従って腫瘍細胞と同時投与する。動物には、以下の表1に記載の用量の試験物質を投与する。動物は、2週間で週5回、毎日投与を受ける。滅菌PBSを、ビヒクル対照として使用する。TM−601を、滅菌PBS溶液で再構成する。治療開始後、マウスの体重測定値を週2回記録し、全体的な観測を毎日少なくとも1回行う。全ての群の全てのマウスを、14日目(または瀕死状態が決定した際)に屠殺し、B16/F10肺コロニーの数を計数する。計数したコロニーは、気管を介して点滴したブアン固定液で膨張した肺において、可視の黄色のバックグラウンド上の黒色の肺小結節として目に見える。
【0250】
【表1】
【0251】
他の実施形態
本発明の他の実施形態は、本明細書に開示の本発明の明細書または実施を考慮することによって、当業者には明らかとなろう。本明細書および実施例は、単に例示的なものとしてみなされ、本発明の真の範囲は、以下の特許請求の範囲によって示されるものとする。
【技術分野】
【0001】
関連出願の情報
本出願は、米国仮出願第61/053,651号(2008年5月15日出願)、同第61/153,273号(2009年2月17日出願)および同第61/173,121号(2009年4月27日出願)に対する優先権を主張し、その利益を主張する。これらの各々の内容は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
がん細胞が拡散し、または転移する能力は、がんの最も致死的な局面とみなされている。がん細胞は、原発腫瘍から離れて、血流および/またはリンパ系を介して身体の他の部分に移動して、遠隔転移を形成することができる。かかる転移(metastastic)腫瘍の治療および診断は、1つには、形成し得る転移の数と、転移が原発腫瘍部位から移動し得る距離が原因となり、困難である。転移の最も一般的な部位には、肺、骨、肝臓および脳が含まれる。多くの潜在的に有効な診断および治療用物質の脈管構造および神経組織への送達を妨害する血液/脳関門の神経保護的性質に起因して、脳に局在する転移は、身体の他の器官において形成される転移とは異なる困難がある。
【0003】
クロロトキシンは、131−ヨウ素を用いた神経膠腫の標的候補として前臨床的に検査されているオブトサソリ(Giant Yellow Israeli scorpion)Leiurus Quinqestriatus由来の毒に見られるペプチドである(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。神経外胚葉腫瘍(例えば、神経膠腫および髄膜腫)を診断および治療するための組成物(それぞれその内容全体を参照によって本明細書に組み込む、特許文献1および特許文献2参照)および方法(それぞれその内容全体を参照によって本明細書に組み込む、特許文献3および特許文献4参照)は、神経外胚葉起源の腫瘍細胞に対するクロロトキシンの結合能を基にして開発された(非特許文献2;非特許文献4;非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,905,027号明細書
【特許文献2】米国特許第6,429,187号明細書
【特許文献3】米国特許第6,028,174号明細書
【特許文献4】米国特許第6,319,891号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.A. DeBinら、Am. J. Physiol.(Cell Physiol)、1993年、264、33巻:C361〜C369頁
【非特許文献2】L. Soroceanuら、Cancer Res.、1998年、58巻:4871〜4879頁
【非特許文献3】S. Shenら、Neuro−Oncol.、2005年、71巻:113〜119頁
【非特許文献4】Ullrichら、Neuroreport、1996年、7巻:1020〜1024頁
【非特許文献5】Ullrichら、Am. J. Physiol、1996年、270巻:C1511〜C1521頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本発明は、脳内に見られる転移をはじめとした遠隔転移を標的とすることができるクロロトキシンの発見を包含する。本発明はまた、血管新生を阻害し、かつ/または既存の新しく形成された血管の退縮を生じることができるクロロトキシンの発見を包含する。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、本発明者らは、転移がんの治療におけるクロロトキシンの有用性が、少なくとも1つには、転移が依存すると考えられている新しい血管の形成を阻害し、かつ/または新しく形成された血管の退縮を生じるその能力に起因し得ることを提案する。
【0007】
一態様では、本発明は、少なくとも1つの原発腫瘍から生じた少なくとも1つの転移を有するかまたはそれにかかりやすい個体に、クロロトキシン剤がその少なくとも1つの転移に結合するような有効用量のクロロトキシン剤を投与することを含む、転移がんの治療方法を提供する。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は全身に送達され、幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は静脈を介して送達される。幾つかの実施形態では、原発腫瘍は、皮膚および/または眼内黒色腫などの黒色腫である。幾つかの実施形態では、原発腫瘍は神経膠腫である。
【0008】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの原発腫瘍を有するまたは有していた個体における1つまたはそれより多くの転移の存在を検出する方法を提供し、該方法は、個体に有効量の標識クロロトキシン剤を投与し、個体の身体における標識クロロトキシン剤の結合を測定することを含む。かかる態様では、正常(非腫瘍)組織と比較して、原発腫瘍(複数)の部位(複数)以外の身体の1つまたはそれより多くの領域における高いレベルの結合は、1つまたはそれより多くの転移の存在を示す。幾つかの実施形態では、2回目に第2の有効量の標識クロロトキシン剤を投与し、個体の身体における標識クロロトキシン剤の結合を測定することによって、1つまたはそれより多くの転移の進行、安定性または退縮を示し得る結合の任意の変化(例えば、結合の程度および/または位置)を評価することができる。
【0009】
転移の治療および/または検出方法の幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は全身送達される。全身投与は、静脈投与を含み得る。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は、脳内の少なくとも1つの腫瘍転移に結合する。幾つかの実施形態では、血管新生を阻害し、かつ/または新しく形成された血管(転移をもたらし得る)の退縮を生じる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ビオチン化クロロトキシンが、脳に転移した黒色腫細胞に結合していることを示す顕微鏡写真を示す。顕微鏡写真は、以下の通り、隣接する切片の染色を示す。DABとビオチンとの褐変反応生成物によって検出されたビオチン化クロロトキシンで染色され、さらにメチルグリーンで対比染色された「TM−601」切片;メチルグリーンのみで染色された「対照」切片;ならびにヘマトキシリンおよびエオシンで染色された「H&E」切片。
【図2】図2は、ビオチン化クロロトキシンが、肺に転移した黒色腫腫瘍細胞に結合していることを示す顕微鏡写真を示す。顕微鏡写真は、以下の通り、隣接する切片の染色を示す。DABとビオチンとの褐変反応生成物によって検出されたビオチン化クロロトキシンで染色され、さらにメチルグリーンで対比染色された「TM−601」切片;メチルグリーンのみで染色された「対照」切片;ならびにヘマトキシリンおよびエオシンで染色された「H&E」切片。
【図3】図3は、以下の通り染色された正常な皮膚の隣接する切片を示す顕微鏡写真を示す。DABとビオチンとの褐変反応生成物によって検出されたビオチン化クロロトキシンで染色され、さらにメチルグリーンで対比染色された「TM−601」切片;メチルグリーンのみで染色された「対照」切片;ならびにヘマトキシリンおよびエオシンで染色された「H&E」切片。
【図4】図4は、再発性または難治性転移固形腫瘍を有する患者における、静脈131I−TM−601の相I画像化および安全性試験に使用した投与スキームである。
【図5】図5は、様々な種類の固形腫瘍を有する患者における静脈投与後の、131I−TM−601の腫瘍特異的取込みの概要を示す表である。
【図6】図6は、公知のびまん性骨転移を伴う転移前立腺がんを有する患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.6mg)の3時間後、24時間後および7日後に記録したガンマカメラ画像を示す。
【図7】図7は、転移非小細胞肺がんを有する患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.6mg)の3時間後、24時間後および48時間後に記録したガンマカメラ画像を示す。
【図8】図8(A)は、転移黒色腫を有する患者の左前頭病変を示す治療前MRI(左)および患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.2mg)後に記録したSPECT画像(右)を示す。図8(B)は、転移黒色腫を有する患者の右後頭病変を示す治療前磁気共鳴画像(MRI)(左)および患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.2mg)後に記録したSPECT画像(右)を示す。
【図9】図9は、悪性神経膠腫を有する患者の左前頭腫瘍を示す治療前MRI(左)および患者への131I−TM−601の静脈注射の48時間後に撮ったSPECTスキャン(右)を示す。
【図10】図10は、治療前(左パネル)および用量30mCiの131I−TM−601を全身送達した3週間後(右パネル)に撮った神経膠腫患者のMRI画像を示す。患者は、腫瘍体積および浮腫の促進に有意な低減を示した。
【図11】図11は、治療前(上パネル)および用量30mCiの131I−TM−601を全身送達した3週間後(下パネル)に撮った別の神経膠腫患者のMRI画像を示す。患者は、腫瘍体積および浮腫の促進に有意な低減を示した。
【図12】図12は、転移黒色腫を有する患者への131I−TM−601の静脈注射(30mCi/0.6mg)の24時間後および48時間後に記録したガンマカメラ画像を示す(前面像および後面像)。131I−TM−601の取込みは、脳、肺、肝臓および皮下小結節への公知の遠隔転移において観測された。
【図13】図13は、脈絡膜血管新生(CNV)のマウスモデルにおける血管形成を阻害するTM−601の能力を試験する実験から得た結果を示す。血管新生(NV)の総面積(mm2×10−3)を、TM−601または生理食塩水ビヒクルのいずれかを投与した動物について示す。脈絡膜血管新生の統計的に有意な減少が、ブルッフ膜破壊の当日および7日目に50μgのTM−601を眼内注射した動物において観測された(*p<0.05)。脈絡膜病変を、14日目に分析した。
【図14】図14は、CNVのマウスモデルにおける既存の新血管の退縮を生じるTM−601の能力を試験する実験から得た結果を示す。血管新生(NV)の総面積(mm2×10−3)を、TM−601または生理食塩水ビヒクルのいずれかを投与した動物について示す。「ベースライン」は、ブルッフ膜の破壊後7日目に得た測定値を指す(即ちTM−601での処理の前)。脈絡膜血管新生の統計的に有意な退縮が、7日目に50μgのTM−601を眼内注射した動物において観測された(*p<0.05)。「対照」および「TM−601」値について、脈絡膜病変を、14日目に分析した。
【図15】図15は、TM−601の硝子体内注射によって、脈絡膜血管新生のマウスモデルのレーザー誘発性血管部位において血管が減少したことを示す代表的な顕微鏡画像を示す。血管新生は、TM−601をレーザー誘発と同じ日に投与した場合に阻害された(上パネル)。既存の新生血管系は、TM−601をレーザー誘発の7日後に投与した場合に退縮した(下パネル)。14日目、全てのマウスにフルオレセイン標識デキストランをかん流し、脈絡膜フラットマウントを調製し、蛍光顕微鏡検査によって調査した。
【図16】図16は、ブルッフ膜破壊の当日および7日目に250μgのTM−601を眼周囲に注射した動物の脈絡膜血管新生における統計的に有意な減少を示す実験結果を示す(*p<0.05)。脈絡膜病変を、14日目に分析した。
【図17】図17は、試験の1日目および7日目におけるTM−601の眼周囲注射による、脈絡膜血管新生の用量依存性阻害を示す実験結果を示す。脈絡膜病変を、14日目に分析した。(*p<0.05)。
【図18】図18は、TM−601を静脈注射した動物(用量20mg/kgで1週間当たり3回)における脈絡膜血管新生の統計的に有意な退縮を示す実験結果を示す。脈絡膜病変を、14日目に分析した。(*p<0.05)。
【図19】図19は、TM−601を静脈局所適用した動物(1日当たり点眼3回)における脈絡膜血管新生の減少を示す実験結果を示す。脈絡膜病変を、14日目に分析した。用量0.75mg/日のTM−601を投与した目および生理食塩水対照を投与した目に関して、NVの面積間の差異は、p値0.059に達した。
【図20】図20は、TM−601の眼内注射後のCNV領域におけるTM−601の局在化を示す凍結切片からの顕微鏡画像を示す。TM−601は、ブルッフ膜のレーザー誘発性破壊後7日目に注射した。マウスを9日目に安楽死させた。凍結切片を、ウサギ抗TM−601(A、BおよびCの赤色)およびGSAレクチン(D、EおよびFの緑色)で染色して、内皮細胞を可視化した。ビヒクルを注射した目(B、EおよびH)および注射しなかった目(C、FおよびI)は、CNV領域内にポジティブ染色された細胞を示さなかった。それに対して、TM−601で処理した目の切片(A、DおよびG)は、CNV領域にわたってTM−601について顕著な染色を示した(AおよびD)。赤色および緑色の染色の重ね合わせを、最下列に示す(G、HおよびI)。矢印はCNV領域を示す。
【図21】図21は、TM−601を眼周囲に注射した後のCNV領域におけるTM−601の局在化を示す凍結切片の顕微鏡画像を示す。TM−601を注射し、マウスを安楽死させ、凍結切片を図16に記載の通り染色した(実施例6の材料および方法も参照のこと)。ウサギ抗TM−601での染色は、A、BおよびCの赤色として可視化され、GSAレクチンでの染色(内皮細胞を可視化するため)は、D、EおよびFの緑色として可視化される。ビヒクルを注射した目(B、EおよびH)および注射しなかった目(C、FおよびI)は、CNV領域内にポジティブ染色された細胞を示さなかった。それに対して、TM−601で処理した目の切片(A、DおよびG)は、CNV領域にわたってTM−601について顕著な染色を示した(AおよびD)。赤色および緑色の染色の重ね合わせを、最下列に示す(G、HおよびI)。矢印はCNV領域を示す。
【図22】図22は、眼内注射によるCNV病変内のアポトーシスに対するTM−601の作用を示す凍結切片の顕微鏡画像を示す。図16に記載の通り、TM−601を注射し、マウスを安楽死させた(実施例6の材料および方法も参照のこと)。切片を核染色(A、B)、GSA(C、D)およびTUNEL(E、F)で染色した。3つの染色の重ね合わせを、最下列に示す(G、H)。CNV病変内のTUNELポジティブ細胞(E)が、TM−601を眼内注射した目において見出された(A、C、EおよびG)。ビヒクルを注射した目には、TUNELポジティブ細胞は観測されなかった(B、D、FおよびH)。矢印はCNV領域を示す。
【図23】図23は、目周囲の注射によるCNV病変内のアポトーシスに対するTM−601の作用を示す凍結切片の顕微鏡画像を示す。図16に記載の通り、TM−601を注射し、マウスを安楽死させた(実施例6の材料および方法も参照のこと)。切片を核染色(A、B)、GSA(C、D)およびTUNEL(E、F)で染色した。3つの染色の重ね合わせを、最下列に示す(G、H)。CNV病変内のTUNELポジティブ細胞(E)が、TM−601を眼周囲に注射した目において見出された(A、C、EおよびG)。ビヒクルを注射した目には、TUNELポジティブ細胞は観測されなかった(B、D、FおよびH)。矢印はCNV領域を示す。
【図24】図24は、72時間または120時間いずれかについての、ある範囲のTM−601濃度の存在下でのHUVEC細胞増殖を測定する実験から得られた結果を示す。高いTM−601濃度での細胞増殖は、低いTM−601濃度におけるよりも少ないが、増殖速度は、未処理の対照細胞の増殖速度よりも早い。
【図25】図25は、脈絡膜の新生血管系(レーザーによるブルッフ膜の破壊によって誘発した)および網膜の新生血管系(酸素誘発性虚血によって誘発した)におけるTM−601およびアネキシンA2の共局在化を示す実験から得られた結果を示す画像である。TM−601を眼内注射し、その後、抗TM−601抗体および抗アネキシンA2抗体を使用して、組織切片で免疫組織化学を実施した。
【図26】図26は、TM−601がHUVEC細胞の遊走を阻害し、MMP−2活性を低減することを示す実験からの結果を示す。(A)HUVEC細胞の遊走は、50ng/mlのVEGFによって刺激を受けた。TM−601の添加は、用量依存的に遊走を阻害した(トランスウェルアッセイにおいて浸潤性によって評価される通り)。浸潤細胞を、Giemsa染色を使用して、トランスウェルの下面上で可視化した。(B)VEGFまたはbFGF(50ng/ml)のいずれかによって刺激を受けた細胞遊走を、視覚的に細胞を計数することによって算出し、10μMのTM−601は、トランスウェルを介するHUVECの浸潤を約50%阻害することが示された。(C)培地のMMP−2活性を、処理なしの、bFGFで処理した、またはbFGFと一緒に10μMのTM−601で処理した培養HUVEC細胞から得た。エラーバーは、標準誤差を示す。
【図27】図27は、TM−601が、U87ヒト神経膠腫細胞から分泌されるMMP−2活性を低減することを示す実験結果を示す。MMP−2活性は、処理なしの、または10μMのTM−601を添加した培養U87細胞から得た培地で測定した。
【図28】図28は、静脈注射した非がん性マウスにおいて、非修飾TM−601と比較したPEG化クロロトキシン(TM−601−PEG)の半減期を示す。PEG化は、TM601の半減期を約32倍増大した。
【図29】図29は、PEG化TM−601が、マウスのCNVモデルにおいて、非修飾TM−601よりも少ない頻度の投与で抗血管新生作用を達成できることを示す。CNVモデルの微小血管密度を、非修飾TM−601またはPEG化TM−601の様々な投与レジメンについてプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書を通して、以下の段落で定義する幾つかの用語を使用する。
【0012】
本明細書で使用される場合、数を参照する「約」および「およそ」という用語は、本明細書では、その数が別段指定されない、または文脈から別段明らかでない限り、いずれかの方向の(それを超えるまたはそれ未満)20%、10%、5%または1%の範囲内にある数を含むために使用される(かかる数が、可能な値の100%を超え得る場合を除く)。
【0013】
本明細書で使用される場合、「アネキシンA2」という用語は、正式記号がANXA2であり(ホモサピエンスにおいて)、正式名称がhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov.のEntrez Gene一覧の「アネキシンA2」である遺伝子のタンパク質産物を指す(ANXA2転写産物の様々な配列を、例えばGenBank受入れ番号M62899、NM_001002857、NM_001002858、NM_004039で見ることができる)。アネキシンA2はまた、中でも「アネキシンII」およびリポコルチン2として公知である。
【0014】
「生物学的に活性な」という用語は、ポリペプチドを特徴付けるために本明細書で使用される場合、十分なアミノ酸配列相同性を親ポリペプチドと共有して、ポリペプチドよりも類似のまたは同一の特性(例えば、がん細胞に特異的に結合し、かつ/またはがん細胞に内在し、かつ/またはがん細胞を死滅させる能力)を示す分子を指す。
【0015】
本明細書で使用される場合、「がん」という用語は、一般に、制御されない細胞増殖を特徴とする、哺乳動物の生理状態を指すまたは説明する。がんの例には、それに限定されるものではないが、癌、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫および白血病が含まれる。より具体的には、かかるがんの例には、肺がん、骨がん、肝臓がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部または頸部のがん、皮膚または眼内の黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、結腸がん、乳がん、子宮がん、性器および生殖器の癌、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟組織の肉腫、膀胱がん、腎臓がん、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉がん、脊髄軸の腫瘍、神経膠腫、髄膜腫および下垂体腺腫が含まれる。
【0016】
本明細書で使用される場合、「がん細胞」という用語は、インビボで組織の望ましくない制御されない細胞増殖または異常な持続または異常な浸潤を受ける、哺乳動物(例えばヒト)の細胞を指す。インビトロでは、この用語は、所与の適切な新鮮な培地および空間で、無期限に制御されずに増殖することになる永久不死化した確立された細胞培養物である細胞系も指す。
【0017】
本明細書で使用される場合、「がん患者」という用語は、がんに罹患しているまたは罹患しやすい個体を指すことができる。がん患者は、がんと診断されていてもされていなくてもよい。この用語はまた、過去にがん治療を受けている個体を含む。
【0018】
「化学療法」および「抗がん剤または抗がん薬」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。これらは、がんまたはがん性状態を治療するために使用される薬物を指す。抗がん薬は、従来、以下の群:アルキル化剤、プリン拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、植物性アルカロイド、インターカレーティング抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗物質、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン剤および抗アンドロゲン剤の1つに分類されている。かかる抗がん剤の例には、それに限定されるものではないが、BCNU、シスプラチン、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、パクリタキセル、テモゾロミド、トポテカン、フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、プロカルバジン、デカルバジン、アルトレタミン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、リン酸フルダラビン、クラドリビン、ペントスタチン、シタラビン、アザシチジン、エトポシド、テニポシド、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、イダルビシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、タモキシフェン、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、アミノグルチミド、アナストロゾール、アムサクリン、アスパラギナーゼ、ミトキサントロン、ミトタンおよびアミフォスチンが含まれる。
【0019】
「併用療法」という用語は、本明細書で使用される場合、2つ以上の異なる医薬品を、被験体が両方の薬剤に同時に曝露される重複レジメンで投与するような状況を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「CTCAE」という略語は、臨床試験において一般に使用されている、有害事象(AE)の説明および等級について国立がん研究所が作成した基準である有害事象共通用語基準を指す。
【0021】
「細胞毒性」という用語は、部分、化合物、薬物または薬剤を特徴付けるために本明細書で使用される場合、細胞の機能を阻害もしくは防止し、かつ/または細胞の破壊を生じる部分、化合物、薬物または薬剤を指す。
【0022】
「投与レジメン」は、この用語が本明細書で使用される場合、期間を隔てて個々に投与される1組の単位用量(一般に2回以上)を指す。特定の医薬品に関して推奨される用量の組(即ち量、タイミング、投与経路等)が、その投与レジメンを構成する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「有効量」および「有効用量」という用語は、その所期の目的(複数)、即ち許容される損益比で組織または被験体における所望の生物反応または医薬反応を満たすのに十分な、化合物または組成物の任意の量または用量を指す。例えば、本発明の特定の実施形態では、その目的(複数)は、標的組織と特異的に結合すること、がんの症候の進行、激化または悪化を緩慢にし、または停止すること、がんの症候の緩和をもたらすこと、ならびに/あるいはがんを治癒することであり得る。関連の所期の目的は、他覚的(即ち、幾らかの試験またはマーカーによって測定できる)であってよく、自覚的(即ち、被験体が作用の徴候を示し、または感じる)であってもよい。治療有効量は、一般に、多数の単位用量を含み得る投与レジメンで投与される。任意の特定の医薬品に関して、治療有効量(および/または有効な投与レジメンに含まれる適切な単位用量)は、例えば投与経路、他の医薬品との組合せに応じて変わり得る。幾つかの実施形態では、任意の特定の患者に対する特定の治療有効量(および/または単位用量)は、治療を受ける障害および障害の重症度、使用される特定の医薬品の活性、使用される特定の組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食事、投与のタイミング、投与経路、ならびに/あるいは使用される特定の医薬品の排出率または代謝率、治療期間、ならびに医療従事者に周知の類似の因子を含む様々な因子に応じて変わり得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、「フルオロフォア」、「蛍光性部分」、「蛍光標識」、「蛍光染料」および「蛍光標識部分」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。それらは、溶液中で適切な波長の光で励起されると発光する分子を指す。多種多様な構造および特徴の数々の蛍光染料が、本発明の実施における使用に適している。同様に、核酸を蛍光標識する方法および材料が公知である(例えば、R.P. Haugland、「Molecular Probes:Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 1992−1994」、第5編、1994年、Molecular Probes, Inc.参照)。フルオロフォアの選択では、蛍光分子が高い効率で蛍光を吸光し、発光し(即ち、それぞれ高いモル吸光係数および蛍光量子収率)、光安定性がある(即ち、分析を実施するのに必要な時間内で、光励起の際に著しく劣化しない)ことがしばしば望ましい。
【0025】
本明細書で使用される場合、「融合タンパク質」という用語は、それらの個々のペプチド主鎖を介して共有結合によって結合している、最も好ましくは、それらのタンパク質をコードするポリヌクレオチド分子の遺伝的発現によって生成された、2つ以上のタンパク質またはその断片を含む分子を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「相同な」(または「相同」)という用語は、2個のポリペプチド分子間または2個の核酸分子間での同一性の度合いを指す。比較される両方の配列における位置を、同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットが占める場合、それぞれの分子は、その位置で相同である。2つの配列間の相同のパーセンテージは、2つの配列が共有する一致するまたは相同な位置の数を、比較する位置の数で割って100を掛けたものに相当する。一般に、2つの配列が最大限に相同になるように整列する場合に比較を行う。相同なアミノ酸配列は、同一または類似のアミノ酸残基を共有する。類似の残基は、参照配列において相当するアミノ酸残基の保存的置換、またはその「許容される点突然変異」である。参照配列における残基の「保存的置換」は、相当する参照残基と物理的または機能的に類似している、例えば類似の大きさ、形、電荷、共有結合または水素結合等の形成能を含む化学特性を有する置換である。幾つかの実施形態では、本発明に従って利用される保存的置換は、「許容される点突然変異」に関してDayhoffらによって定義された基準を満たすものである(「Atlas of Protein Sequence and Structure」、1978年、Nat. Biomed. Res. Foundation、Washington、DC、Suppl. 3、22巻:354〜352頁)。
【0027】
「個体」および「被験体」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。それらは、疾患または障害(例えばがん)に罹患し得るまたはそれに罹患しやすいが、その疾患または障害を有していてもいなくてもよいヒトまたは別の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長類)を指す。多くの実施形態では、被験体はヒトである。多くの実施形態では、被験体は患者である。別段指定されない限り、「個体」および「被験体」という用語は、特定の年齢を示さず、したがって成体、子どもおよび新生児を包含する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「阻害する」という用語は、あるものの発生を防止し、あるものの発生を遅延し、かつ/またはあるものの発生の程度または可能性を低減することを意味する。したがって、「転移の阻害」および「転移形成の阻害」は、転移の発生を防止し、遅延し、かつ/またはその可能性を低減し、さらに転移の数、増殖率、大きさ等を低減することを包含するものとする。
【0029】
本明細書で使用される場合、「開始」という用語は、投与レジメンに対して適用される場合、過去に医薬品を投与されていない被験体に、その医薬品を最初に投与することを指すために使用することができる。あるいはまたはさらには、「開始」という用語は、患者の治療中の、特定の単位用量の医薬品の投与を指すために使用することができる。
【0030】
「標識化」および「検出可能な薬剤または部分で標識されている」という用語は、ある実体(例えばクロロトキシンまたはクロロトキシンコンジュゲート)が、例えば別の実体(例えば新生物腫瘍組織)に結合した後に可視化され得ることを特定するために、本明細書では交換可能に使用される。好ましくは、検出可能な薬剤または部分は、それがシグナルを発生するように選択され、そのシグナルは測定することができ、その強度は、結合した実体の量に関係する(例えば比例)。タンパク質およびペプチドを標識および/または検出するための多種多様な系が、当技術分野で公知である。標識タンパク質およびペプチドは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的、化学的または他の手段によって検出可能な標識を組み込み、またはそれと結合することによって調製することができる。標識または標識部分は、直接的に検出可能であり(即ち、任意のさらなる反応または操作が検出可能であることを必要としない、例えば、フルオロフォアは直接的に検出可能である)、または間接的に検出可能である(即ち、検出可能な別の実体との反応または結合を介して検出可能となる、例えばハプテンは、フルオロフォアなどの受容体を含む適切な抗体との反応後に、免疫染色によって検出可能となる)。適切な検出可能な薬剤には、それに限定されるものではないが、放射性核種、フルオロフォア、化学発光剤、微粒子、酵素、比色標識、磁気標識、ハプテン、分子指標、アプタマー指標等が含まれる。
【0031】
本明細書で使用される場合、「転移(metastasis)」(「mets」と略すこともあり、複数は「転移(metastases)」)という用語は、ある器官または組織から別の位置への腫瘍細胞の拡散を指す。この用語は、転移の結果として新しい位置に形成する腫瘍組織も指す。「転移がん」は、その元々または原発の位置から拡散するがんであり、「二次性がん」または「二次性腫瘍」と呼ぶこともできる。一般に、転移腫瘍は、それらの起源である原発腫瘍の組織にちなんで命名される。したがって肺に転移した乳がんは、幾つかのがん細胞が肺に位置するとしても、「転移乳がん」と呼ぶことができる。
【0032】
本明細書で使用される場合、「新生血管系」という用語は、まだ完全には成熟していない、即ち密着した細胞間結合で完全に形成された内膜または周囲の平滑筋細胞の完全な層を有していない、新しく形成された血管を指す。本明細書で使用される場合、「新血管」という用語は、新生血管系の血管を指すために使用される。
【0033】
「正常な」および「健康な」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。これらは、腫瘍を有していない個体または個体群を指す。「正常な」という用語は、本明細書では、健康な個体から単離した組織サンプルを認定するためにも使用される。
【0034】
「医薬品」、「治療剤」および「薬物」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。これらは、疾患、障害または臨床状態の治療、阻害および/または検出に有効な物質、分子、化合物、薬物、因子または組成物を指す。
【0035】
「医薬組成物」は、本明細書では、有効量の少なくとも1つの活性成分(例えば、標識されていてもされていなくてもよいクロロトキシンまたはクロロトキシンコンジュゲート)および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む組成物と定義される。
【0036】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、活性成分(複数)の生物活性の有効性を妨害せず、それが投与される濃度において、宿主に過度に毒性でない担体媒体を指す。この用語は、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤等を含む。薬学的に活性な物質に合ったかかる媒体および薬剤の使用は、当技術分野で周知である(例えば、その全体を参照によって本明細書に組み込む「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、第18編、1990年、Mack Publishing Co.:Easton、PA参照)。
【0037】
本明細書で使用される場合、「原発腫瘍」という用語は、即ちそこで拡散したのとは対照的に、腫瘍が最初に生じた元々の部位にある腫瘍を指す。
【0038】
「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、修飾されていない、またはグリコシル化、側鎖酸化もしくはリン酸化によって修飾されている、それらの天然(未変化)形態または塩のいずれかとしての様々な長さのアミノ酸配列を指す。特定の実施形態では、アミノ酸配列は、全長の天然タンパク質である。他の実施形態では、アミノ酸配列は、全長のタンパク質のより小さい断片である。さらに他の実施形態では、アミノ酸配列は、グリコシル単位、脂質またはリン酸塩などの無機イオンなどのアミノ酸側鎖に結合している追加の置換基、ならびにスルフヒドリル基の酸化などの鎖の化学変換に関係する修飾によって修飾されている。したがって、「タンパク質」(またはそれに相当する用語)という用語は、その特異的な特性を変化しない修飾を条件として、全長の天然タンパク質のアミノ酸配列を含むものとする。特に「タンパク質」という用語は、タンパク質のイソ型、即ち同じ遺伝子によってコードされているが、それらのπもしくはMW、またはその両方が異なっている変異型を包含する。かかるイソ型は、それらのアミノ酸配列が異なっていることがあり(例えば、代替のスライシングまたは制限されたタンパク質分解の結果として)、または特異的な翻訳後修飾(例えば、グリコシル化、アシル化またはリン酸化)から生じ得る。
【0039】
「タンパク質類似体」という用語は、本明細書で使用される場合、親ポリペプチドと類似または同一の機能を有するが、親ポリペプチドのアミノ酸配列と類似または同一のアミノ酸配列を必ずしも含む必要はない、あるいは親ポリペプチドの構造と類似または同一の構造を有するポリペプチドを指す。好ましくは、本発明の文脈では、タンパク質類似体は、親ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも30%(より好ましくは、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%)同一のアミノ酸配列を有する。さらに、当業者は、タンパク質配列は、一般に活性を損なうことなく幾らかの置換に耐えることを理解されよう。したがって、活性を保持し、親ポリペプチドと少なくとも約30〜40%、しばしば約50%、60%、70%または80%を超える全配列の同一性を共有し、さらに通常は相当高い、しばしば90%、96%、97%、98%または99%を超える同一性の少なくとも1つの領域を、通常は少なくとも3〜4個の、しばしば最大20個以上のアミノ酸を包含する1つまたはそれより多くの高度に保存された領域に含む任意のポリペプチドが、「タンパク質類似体」という用語に包含される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「タンパク質断片」という用語は、第2のポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも5個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。タンパク質の断片は、親ポリペプチドの機能活性を有していてもいなくてもよい。
【0041】
「退縮する」という用語は、血管および/または脈管構造(新生血管系および/または新血管を含む)を指すために使用される場合、本明細書では、縮退、縮小等を意味するために使用される。
【0042】
本明細書で使用される場合、「小分子」という用語は、生物学的過程に影響を及ぼすように作用し得る任意の化学部分または他の部分を含む。小分子は、現在公知であり使用されている任意の数の治療剤を含むことができ、または生物学的機能(複数)をスクリーニングする目的で、かかる分子のライブラリーにおいて合成された小分子であってよい。小分子は、巨大分子から大きさを縮小されている。本発明における使用に適した小分子は、通常、約5,000ダルトン(Da)未満、好ましくは約2,500Da未満、より好ましくは1,000Da未満、最も好ましくは約500Da未満の分子量を有する。
【0043】
本明細書で使用される場合、「かかりやすい」という用語は、一般集団において観測されるよりも、転移がんなどのあるもの、即ち疾患、障害または状態の危険性が高いおよび/またはその傾向がある(一般に、遺伝的素因、環境因子、個人の既往歴またはそれらの組合せが基になっている)ことを意味する。この用語は、ある状態に「かかりやすい」個体が、その状態であると決して診断され得ないことを考慮に入れる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「全身投与」という用語は、薬剤が、有意な量で体内に広く分布し、血中で生物学的作用、例えばその所望の作用を有するように、および/または血管系を介してその所望の作用部位に到達するように薬剤を投与することを指す。投与の一般的な全身経路には、(1)薬剤を血管系に直接的に導入すること、あるいは(2)薬剤が吸収され、血管系に入り、血液を介して1つまたはそれより多くの所望の作用部位(複数)に運ばれる、経口、経肺または筋肉内投与による投与が含まれる。
【0045】
「組織」という用語は、本明細書ではその最も広範な意味で使用される。組織は、腫瘍細胞を含み得る(必ずしも必要ではない)任意の生物学的実体であってよい。本発明の文脈では、インビトロ、インビボおよびエクスビボ組織が考えられる。したがって、組織は個体の一部であってよく、または個体から(例えば生検によって)得られるものであってよい。組織はまた、公知の診断、治療および/または転帰歴に伴い、組織学的目的または記録保存サンプルのために採取した凍結切片などの組織切片を含むことができる。この用語は、組織サンプルを処理することによって生じる任意の材料をも包含する。生じた材料には、それに限定されるものではないが、組織から単離された細胞(またはそれらの後代)が含まれる。組織サンプルの処理には、濾過、蒸留、抽出、濃縮、干渉成分の不活化、試薬の添加等の1つまたは複数が含まれ得る。
【0046】
「治療」という用語は、本明細書で使用される場合、(1)疾患、障害または状態の発症の遅延または防止、(2)疾患、障害または状態の症候の1つまたはそれより多くの進行、激化または悪化の減速または停止、(3)疾患、障害または状態の症候の緩和をもたらすこと、(4)疾患、障害または状態の重症度または発生の低減、あるいは(5)疾患、障害または状態の治癒を目的とする方法または過程を特徴付けるために使用される。治療は、予防または防止作用のために、疾患、障害または状態の発症前に施用することができる。あるいはまたはさらには、治療は、治療作用のために、疾患、障害または状態の発症後に施用することもできる。
【0047】
特定の実施形態の詳細な説明
先に既に述べた通り、本発明は、腫瘍転移の治療および/または検出方法に関する。本明細書で提供する方法は、一般に、検出可能な部分を有する、標識されていてもされていなくてもよいクロロトキシン剤の投与を含む。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、腫瘍転移に結合する。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、新しい転移の形成の可能性を阻害かつ/または低減する。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、全身投与され(例えば、静脈を介して)、および/またはクロロトキシン剤は、血液/脳関門を横断する。したがって、幾つかの実施形態では、本発明は、脳内に位置する転移の治療、阻害および/または検出方法を提供する。特定の実施形態では、新血管の形成が阻害され、かつ/または既存の新生血管系が退縮する。
【0048】
本発明によれば、当業者に公知の従来の分子生物学、微生物学および組換えDNA技術を使用することができる。かかる技術は、文献において完全に説明されている。例えば、Maniatis、Fritsch & Sambrook、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、1982年;「DNA Cloning:A Practical Approach」、Volumes I and II、D.N. Glover(Ed.)、1985年;「Oligonucleotide Synthesis」、M.J. Gait(Ed.)、1984年;「Nucleic Acid Hybridization」、B.D. Hames & S.J. Higgins(Eds.)、1985年;「Transcription and Translation」B. D. Hames & S. J. Higgins(Eds.)、1984年;「Animal Cell Culture」、R.I. Freshney(Ed.)、1986年;「Immobilized Cells And Enzymess」、IRL Press、1986年;B. Perbal、「A Practical Guide To Molecular Cloning」、1984年参照。
【0049】
I.クロロトキシン剤
本発明の治療および/または検出方法は、それを必要としている個体(例えば、少なくとも1つの転移を有する、有していた、その発症の危険性がある、かつ/またはそれにかかりやすい個体など)に、クロロトキシン剤が少なくとも1つの転移に結合するような有効用量の少なくとも1つのクロロトキシン剤を投与するステップを含む。本明細書で使用される場合、「クロロトキシン剤」という用語は、少なくとも1つのクロロトキシン部分を含む化合物を指す。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、少なくとも1つの治療部分(例えば抗がん剤)に結合している少なくとも1つのクロロトキシン部分を含む。クロロトキシン部分(および/または治療部分)は、少なくとも1つの標識部分に結合することができる。
【0050】
A.クロロトキシン部分
本明細書で使用される場合、「クロロトキシン部分」という用語は、クロロトキシン、生物学的に活性なクロロトキシンサブユニットまたはクロロトキシン誘導体を指す。
【0051】
特定の実施形態では、「クロロトキシン」という用語は、Leiurus quinquestriatusのサソリの毒に天然に由来する全長36のアミノ酸ポリペプチドを指し(DeBinら、Am. J. Physiol、1993年、264巻:C361〜369頁)、これは、その内容を参照によって本明細書に組み込む国際公開第2003/101474号の配列番号1に記載の天然クロロトキシンのアミノ酸配列を含む。「クロロトキシン」という用語は、米国特許第6,319,891号(その全体を参照によって本明細書に組み込む)に開示のものなどの、合成または組換えにより生成された配列番号1を含むポリペプチドを含む。
【0052】
「生物学的に活性なクロロトキシンサブユニット」は、クロロトキシンの36個未満のアミノ酸を含み、クロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能を保持するペプチドである。本明細書で使用される場合、クロロトキシンの「特性または機能」には、それに限定されるものではないが、異常細胞増殖の停止能;正常細胞に対する、腫瘍/がん細胞との特異的結合能;正常細胞に対する、転移腫瘍/がん細胞または転移における腫瘍/がん細胞との特異的結合能;腫瘍/がん細胞への内在化能;腫瘍/がん細胞を死滅させる能力;ならびに/あるいは新血管の形成を抑制し、かつ/または退縮を生じる能力が含まれる。腫瘍/がん細胞は、インビトロ、エクスビボ、インビトロ、転移の一部、被験体からの一次単離物、培養細胞または細胞系であってよい。
【0053】
本明細書で使用される場合、「生物学的に活性なクロロトキシン誘導体」という用語は、クロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能(前述の通り)を保持する、クロロトキシンの多種多様な誘導体、類似体、変異型、ポリペプチド断片および模倣薬ならびに関連のペプチドのいずれかを指す。クロロトキシン誘導体の例には、それに限定されるものではないが、クロロトキシンのペプチド変異型、クロロトキシンのペプチド断片、例えば、国際公開第2003/101474号に記載の配列番号1、2、3、4、5、6または7の連続10−merペプチドを含むまたはそれからなる、あるいは国際公開第2003/101474号に記載の配列番号1の残基10〜18または21〜30を含む断片、コア結合配列およびペプチド模倣薬が含まれる。
【0054】
クロロトキシン誘導体の例には、クロロトキシンの活性に関連する少なくとも約7、約8、約9、約10、約15、約20、約25、約30または約35個の連続アミノ酸残基を有する、国際公開第2003/101474号に記載の配列番号1のアミノ酸配列の断片を有するペプチドが含まれる。かかる断片は、公知のペプチドドメインに相当するアミノ酸配列の領域、ならびに顕著な親水性領域と同定されている、クロロトキシンペプチドの機能的領域を含有することができる。かかる断片は、任意の順で互いに結合した2つのコア配列を含むこともでき、介在アミノ酸はリンカーによって除去され、または置き換えられている。
【0055】
クロロトキシンの誘導体は、誘導体配列およびクロロトキシン配列が最大限に整列する場合に、少なくとも1つのアミノ酸残基の保存的または非保存的置換を含むポリペプチドを含む。置換は、クロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能を強化し、クロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能を阻害し、あるいはクロロトキシンの少なくとも1つの特性または機能に対して中立である置換であってよい。
【0056】
本発明の実施において使用するのに適したクロロトキシンの誘導体の例は、国際公開第2003/101474号に記載されている(その全体を参照によって本明細書に組み込む)。具体的な例には、この特許出願文書に記載の配列番号8または配列番号13を含むまたはそれからなるポリペプチド、ならびにその変異型、類似体および誘導体が含まれる。
【0057】
クロロトキシン誘導体の他の例には、例えば、相同な組換え、部位特異的またはPCR突然変異発生によって予め決定された突然変異、およびペプチドファミリーの対立遺伝子または他の天然に生じる変異型を含有するポリペプチド;ならびにペプチドが、置換、化学的、酵素的または他の適切な手段によって共有結合的に修飾されている、天然に生じるアミノ酸以外の部分(例えば、酵素または放射性同位体などの検出可能な部分)を有する誘導体が含まれる。
【0058】
クロロトキシンおよびそのペプチド誘導体は、当技術分野で公知の標準的な固相(または液相)ペプチド合成法を含む多種多様な方法のいずれかを使用して調製することができる。さらに、これらのペプチドをコードする核酸は、市販のオリゴヌクレオチド合成機器を使用して合成することができ、タンパク質は、標準の組換え生成系を使用して組換えによって生成することができる。
【0059】
他の適切なクロロトキシン誘導体には、クロロトキシンの3次元構造を模倣するペプチド模倣薬が含まれる。かかるペプチド模倣薬は、例えばより経済的な生成、より高い化学安定性、強化された薬理特性(半減期、吸収性、効力、効率等)、特異性の変化(例えば、広範な生物活性、抗原性の低下等)を含む、天然に生じるペプチドよりも著しい利点を有することができる。
【0060】
特定の実施形態では、模倣薬は、クロロトキシンペプチドの二次構造の要素を模倣する分子である。抗体および抗原などのタンパク質のペプチド主鎖は、主に、分子間相互作用を容易にするようにアミノ酸側鎖を方向付けるために存在する。ペプチド模倣薬は、天然分子に類似の分子間相互作用を可能にすると期待される。ペプチド類似体は、製薬業界では一般に、鋳型ペプチドの特性に類似の特性を有する非ペプチド薬として使用される。これらの種類の化合物は、ペプチド模倣薬(peptide mimetic)またはペプチド模倣薬(peptidomimetic)とも呼ばれ(例えば、Fauchere、Adv. Drug Res.、1986年、15巻:29〜69頁;Veber & Freidinger、1985年、Trends Neurosci.、1985年、8巻:392〜396頁;Evansら、J. Med. Chem.、1987年、30巻:1229〜1239頁参照)、通常はコンピュータ化分子モデリングを利用して開発される。
【0061】
一般にペプチド模倣薬は、パラダイムポリペプチド(即ち、生化学的特性または薬理学的活性を有するポリペプチド)に構造的に類似しているが、非ペプチド結合によって場合によって置き換えられている1つまたはそれより多くのペプチド結合を有する。ペプチド模倣薬の使用は、薬物ライブラリーを作成するための化学物質の組合せを使用することによって強化することができる。ペプチド模倣薬の設計は、ペプチドと、例えば腫瘍細胞との結合を増大または低減するアミノ酸突然変異を同定することによって支援される。使用できる手法には、酵母2ハイブリッド法(例えば、Chienら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1991年、88巻:9578〜9582頁参照)およびファージ(phase)ディスプレイ法を使用するものが含まれる。2ハイブリッド法は、酵母のタンパク質−タンパク質相互作用を検出する(Fieldら、Nature、1989年、340巻:245〜246頁)。ファージディスプレイ法は、固定化タンパク質と、ラムダおよびM13などのファージの表面上に発現するタンパク質との間の相互作用を検出する(Ambergら、Strategies、1993年、6巻:2〜4頁;Hogrefeら、Gene、1993年、128巻:119〜126頁)。これらの方法によって、ペプチド−タンパク質相互作用の陽性および陰性選択、ならびこれらの相互作用を決定付ける配列の同定が可能になる。
【0062】
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、前述のクロロトキシンと類似のまたは関連の活性を示す別のサソリ種のポリペプチド毒素を含む。本明細書で使用される場合、「クロロトキシンと類似のまたは関連の活性」という用語は、特に、腫瘍/がん細胞に対する選択的/特異的な結合を指す。適切な関連のサソリの毒素の例には、それに限定されるものではないが、クロロトキシンに対してアミノ酸および/またはヌクレオチド配列の同一性を示すサソリ起源の毒素または関連のペプチドが含まれる。関連のサソリの毒素の例には、それに限定されるものではないが、Mesobuthus martenssi由来のCT神経毒(GenBank受入れ番号AAD473730)、Buthus martensii karsch由来の神経毒BmK41−2(GenBank受入れ番号A59356)、Buthus martensii由来の神経毒Bm12−b(GenBank受入れ番号AAK16444)、Leiurus quinquestriatus hebraeu由来のProbable Toxin LGH8/6(GenBank受入れ番号P55966)およびMesubutus tamulus sindicus由来のSmall毒素(GenBank受入れ番号P15229)が含まれる。
【0063】
本発明における使用に適した関連のサソリの毒素は、国際公開第2003/101474号(その全体を参照によって本明細書に組み込む)に記載の配列番号1のクロロトキシン配列全体と、少なくとも約75%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%の配列同一性のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。特定の実施形態では、関連のサソリの毒素は、国際公開第2003/101474号に記載のクロロトキシンの配列番号8または配列番号13と相同な配列を有するサソリの毒素を含む。
【0064】
特定の実施形態では、クロロトキシン剤のクロロトキシン部分は、標識化される。標識方法および標識部分の例を、以下に記載する。
【0065】
B.治療部分
既に先に述べた通り、特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、少なくとも1つの治療部分に結合している少なくとも1つのクロロトキシン部分を含む。適切な治療部分は、疾患または臨床状態の治療に有効な多種多様な物質、分子、化合物、薬剤または因子のいずれかを含む。特定の実施形態では、治療部分は、化学療法剤である(即ち、抗がん剤)。適切な抗がん剤は、がん細胞にとって直接的または間接的に有毒または有害な多種多様な物質、分子、化合物、薬剤または因子のいずれかを含む。
【0066】
当業者によって理解される通り、治療部分は、合成または天然の化合物、単一分子、様々な分子の混合物、あるいは様々な分子の複合体であってよい。適切な治療部分は、それに限定されるものではないが、小分子、ペプチド、タンパク質、サッカリド、ステロイド、抗体(その断片および変異型を含む)、融合タンパク質、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、短鎖干渉RNA、ペプチド模倣薬、放射性核種等を含む、多様な種類の化合物のいずれかに属することができる。
【0067】
治療部分が、抗がん薬を含む場合、該抗がん薬は、例えば、以下の種類の抗がん薬:アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗有糸分裂抗生物質、アルカロイド抗腫瘍剤、ホルモン剤および抗ホルモン剤、インターフェロン、非ステロイド系抗炎症剤、ならびにキナーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤およびNF−κB阻害剤などの様々な他の抗腫瘍剤の中に見出すことができる。
【0068】
抗がん薬の例には、数例をあげると、それに限定されるものではないが、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、イフォスファミド、テモゾロミド等)、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート等)、プリン拮抗薬およびピリミジン拮抗薬(例えば、6−メルカプトプリン、5−フルオロウラシル、シトラリビン(cytraribine)、ゲムシタビン等)、紡錘体毒(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキセル等)、ポドフィロトキシン(例えば、エトポシド、イリノテカン、トポテカン等)、抗生物質(例えば、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン等)、ニトロソ尿素(nitrosurea)(例えば、カルムスチン、ロムスチン、ノムスチン等)、無機イオン(例えば、シスプラチン、カルボプラチン等)、酵素(例えば、アスパラギナーゼ等)ならびにホルモン剤(例えば、タモキシフェン、ロイプロリド、フルタミド、メゲステロール等)が含まれる。最新のがん療法についてのより包括的な議論は、http://www.cancer.gov/、FDA承認の腫瘍学的薬物の一覧は、http://www.fda.gov/cder/cancer/druglistframe.htmおよびその内容全体を参照によって本明細書に組み込むThe Merck Manual、第17編、1999年を参照のこと。
【0069】
幾つかの抗がん薬は、がん細胞の増殖および/または複製を抑止することによって作用する。かかる薬物は、一般に、「細胞増殖抑制剤」と分類される。特定の実施形態では、治療部分は、細胞増殖抑制剤を含む。細胞増殖抑制剤の例には、アルキル化剤、代謝拮抗物質、植物性アルカロイドおよびテルペノイド(ビンカアルカロイド、ポドフィロトキシン、タキサン等を含む。VP−16は、植物性アルカロイドの一例である)、トポイソメラーゼ阻害剤、抗腫瘍抗体、ホルモン剤等が含まれる。
【0070】
特定の実施形態では、治療部分は、細胞毒性剤を含む。細胞毒性剤の例には、毒素、他の生理活性タンパク質、従来の化学療法剤、酵素および放射性同位体が含まれる。
【0071】
適切な細胞毒性毒素の例には、それに限定されるものではないが、ゲロニン、リシン、サポニン、緑膿菌外毒素、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ジフテリア毒素などの細菌および植物毒素が含まれる。
【0072】
適切な細胞毒性生理活性タンパク質の例には、それに限定されるものではないが、補体系のタンパク質(または補体タンパク質)が含まれる。補体系は、有機体から病原体を排除する一助となり、治癒を促進する複雑な生化学的カスケードである(B.P. Morgan、Crit. Rev. Clin. Lab. Sci.、1995年、32巻:265頁)。補体系は、35個を超える可溶性の細胞結合タンパク質からなり、そのうちの12個は、補体経路に直接関与している。
【0073】
適切な細胞毒性化学療法剤の例には、それに限定されるものではないが、タキサン(例えば、ドセタキセル、パクリタキセル等)、マイタンシン、デュオカルマイシン、CC−1065、オーリスタチン、カリケアマイシン(calichcamincin)および他のエンジイン抗腫瘍抗生物質が含まれる。他の例には、葉酸拮抗剤(例えば、アミノプテリン、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド等)、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、ビンデシン、ビノレルビン等)ならびにアントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、バルルビシン等)が含まれる。
【0074】
適切な細胞毒性酵素の例には、それに限定されるものではないが、核酸分解酵素が含まれる。
【0075】
適切な細胞毒性放射性同位体の例には、任意のα−、β−またはγ−エミッタが含まれ、これは腫瘍部位に局在する場合に細胞破壊をもたらす(S. E. Order、「Analysis, Results, and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody in Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy, R.W. Baldwinら(Eds.)、Academic Press、1985年)。かかる放射性同位体の例には、それに限定されるものではないが、ヨウ素−131(131I)、ヨウ素−125(125I)、ビスマス−212(212Bi)、ビスマス−213(213Bi)、アスタチン−211(211At)、レニウム−186(186Re)、レニウム−186(188Re)、リン−32(32P)、イットリウム−90(90Y)、サマリウム−153(153Sm)およびルテチウム−177(117Lu)が含まれる。
【0076】
あるいはまたはさらには、本発明における使用に適した治療部分は、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む、2007年8月7日出願の表題「Chlorotoxins as Drug Carriers」(USSN 60/954,409)、および2007年10月12日出願の「Systemic Administration of Chlorotoxin Agents for the Diagnosis and Treatment of Tumors」(USSN60/)の共有仮出願に記載の治療部分のいずれかであってよい。かかる治療部分の種類の例には、それに限定されるものではないが、難水溶性の抗がん剤、薬物耐性に関連する抗がん剤、アンチセンス核酸、リボザイム、三重化剤(triplex agent)、短鎖干渉RNA(siRNA)、光増感剤、放射線増感剤、スーパー抗原、プロドラッグ活性化酵素および抗血管新生剤が含まれる。
【0077】
特定の実施形態では、クロロトキシン剤に含まれる治療(例えば、抗がん)剤は、核酸剤である。
【0078】
数々のがんおよび腫瘍が、点突然変異、遺伝子欠失または複製などの様々な度合いの遺伝的障害に関連することが示されている。「アンチセンス」、「抗原」および「RNA干渉」などのがん治療のための多くの新規戦略が、遺伝子発現を調節するために開発されてきた(A. Kalotaら、Cancer Biol. Ther.、2004年、3巻:4〜12頁;Y. Nakataら、Crit. Rev. Eukaryot. Gene Expr.、2005年、15巻:163〜182頁;V. Wacheck and U. Zangmeister−Wittke、Crit. Rev. Oncol. Hematol、2006年、59巻:65〜73頁;A. Kolataら、Handb. Exp. Pharmacol.、2006年、173巻:173〜196頁)。これらの手法は、例えば、アンチセンス核酸、リボザイム、三重化剤または短鎖干渉RNA(siRNA)を使用して、mRNAをアンチセンス核酸でマスクし、またはDNAを三重化剤でマスクすることによって、ヌクレオチド配列をリボザイムで開裂することによって、あるいはRNA干渉に関与する複雑な機構を介してmRNAを破壊することによって、標的遺伝子の特異的mRNAまたはDNAの転写または翻訳を遮断する。これらの戦略の全てにおいて、オリゴヌクレオチドは主に活性剤として使用されるが、小分子および他の構造も適用されている。遺伝子発現を調節するためのオリゴヌクレオチドを基にした戦略は、幾つかのがんの治療に対して大きな潜在的可能性を有するが、オリゴヌクレオチドの薬理学的適用は、主に、これらの化合物のがん細胞内でのそれらの作用部位への送達が無効であることによって妨害されている(P. Herdewijnら、Antisense Nucleic Acids Drug Dev.、2000年、10巻:297〜310頁;Y. Shoji and H. Nakashima、Curr. Charm. Des.、2004年、10巻:785〜796頁;A.W Tongら、Curr. Opin. Mol. Ther.、2005年、7巻:114〜124頁)。
【0079】
本明細書では、毒素部分(例えば、クロロトキシン部分)および治療(例えば抗がん)剤として有用な核酸分子を含むクロロトキシン剤が提供される。多様な化学種および構造的形状の核酸が、かかる戦略に適し得る。これらには、非限定的な例として、一本鎖(ssDNA)および二本鎖(dsDNA)を含むDNA;それに限定されるものではないが、ssRNA、dsRNA、tRNA、mRNA、rRNA、酵素RNAを含むRNA;RNA:DNAハイブリッド、三重鎖化DNA(例えば、短鎖オリゴヌクレオチドと結合するdsDNA)等が含まれる。
【0080】
本発明の幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤に存在する核酸剤は、約5から2000ヌクレオチド長である。幾つかの実施形態では、核酸剤は、少なくとも約6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチド長以上である。幾つかの実施形態では、核酸剤は、約2000、1900、1800、1700、1600、1500、1400、1300、1200、1100、1000、900、800、700、600、500、450、400、350、300、250、200、150、100、50、45、40、35、30、25、または20ヌクレオチド長以下である。
【0081】
幾つかの実施形態では、本発明のクロロトキシン剤に存在する核酸剤は、プロモーターおよび/または転写を制御する他の配列を含む。幾つかの実施形態では、本発明のクロロトキシン剤に存在する核酸剤は、複製起点および/または複製を制御する他の配列を含む。幾つかの実施形態では、本発明のクロロトキシン剤に存在する核酸剤は、プロモーターおよび/または複製起点を含まない。
【0082】
本発明の実施における使用に適した核酸抗がん剤には、腫瘍発生および細胞増殖または細胞形質転換に関連する遺伝子(例えば、細胞分裂を刺激するタンパク質をコードするプロトオンコジーン)、血管新生/抗血管新生遺伝子、腫瘍抑制遺伝子(細胞分裂を抑制するタンパク質をコードする)、腫瘍増殖および/または腫瘍遊走に関連するタンパク質をコードする遺伝子、ならびにアポトーシスまたは細胞死の他の形態を誘発する自殺遺伝子、特に急速に分裂する細胞において最も活性な自殺遺伝子を標的にする薬剤が含まれる。
【0083】
腫瘍発生および/または細胞形質転換に関連する遺伝子配列の例には、MLL融合遺伝子、BCR−ABL、TEL−AML1、EWS−FLI1、TLS−FUS、PAX3−FKHR、Bcl−2、AML1−ETO、AML1−MTG8、Ras、Fos PDGF、RET、APC、NF−1、Rb、p53、MDM2等;多剤耐性遺伝子などの過剰発現配列;サイクリン;β−カテニン;テロメラーゼ遺伝子;c−myc、n−myc、Bcl−2、Erb−B1およびErb−B2;ならびにRas、Mos、RafおよびMetなどの突然変異配列が含まれる。腫瘍抑制遺伝子の例には、それに限定されるものではないが、p53、p21、RB1、WT1、NF1、VHL、APC、DAPキナーゼ、p16、ARF、ニューロフィブロミンおよびPTENが含まれる。抗がん療法において有用な核酸分子によって標的とされ得る遺伝子の例には、インテグリン、セレクチンおよびメタロプロテイナーゼなどの腫瘍遊走に関連するタンパク質をコードする遺伝子;血管内皮増殖因子(VEGF)またはVEGFrなどの新血管形成を促進するタンパク質をコードする抗血管新生遺伝子;エンドスタチン、アンギオスタチンおよびVEGF−R2などの血管新生を阻害するタンパク質をコードする抗血管新生遺伝子;ならびにインターロイキン、インターフェロン、線維芽細胞増殖因子(α−FGFおよびβ−FGF)、インスリン様増殖因子(例えば、IGF−1およびIGF−2)、血小板由来の増殖因子(PDGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、形質転換増殖因子(例えば、TGF−αおよびTGF−β)、表皮増殖因子(EGF)、ケラチン生成細胞増殖因子(KGF)、幹細胞因子およびその受容体c−Kit(SCF/c−Kit)リガンド、CD40L/CD40、VLA−4、VCAM−1、ICAM−1/LFA−1、ヒアルリン(hyalurin)/CD44などのタンパク質をコードする遺伝子等が含まれる。当業者に認識される通り、先の例は排他的なものではない。
【0084】
例えば抗がん剤または他の治療剤として、プローブ、プライマー等を含む本発明のクロロトキシン剤の核酸は、様々な活性のいずれかを有することができる。本発明のクロロトキシン剤の核酸は、酵素活性(例えば、リボザイム活性)、遺伝子発現阻害活性(例えば、アンチセンスまたはsiRNA剤等として)、および/または他の活性を有することができる。本発明のクロロトキシン剤の核酸は、それら自体活性であってよく、または活性な核酸剤を送達するベクターであってもよい(例えば、送達される核酸の複製および/または転写を介して)。本願の目的では、かかるベクター核酸は、それらが治療活性剤をコードし、またはその他の方法で送達する場合、それら自体が治療活性を有していなくとも「治療剤」とみなされる。
【0085】
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、アンチセンス化合物を含むまたはコードする核酸治療剤を含む。「アンチセンス化合物または薬剤」、「アンチセンスオリゴマー」、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」および「アンチセンスオリゴヌクレオチド類似体」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、ヌクレオチド塩基の配列、ならびにワトソンクリック塩基対によってアンチセンス化合物をRNAの標的配列にハイブリダイズして、該標的配列内にRNAオリゴマーヘテロ2本鎖を形成することができるサブユニット間主鎖を指す。オリゴマーは、標的配列の中に正確な配列相補性または類似の相補性を有することができる。かかるアンチセンスオリゴマーは、標的配列を含有するmRNAの翻訳を妨害または阻害し、あるいは遺伝子転写を阻害することができる。アンチセンスオリゴマーは、二本鎖または一本鎖配列に結合することができる。
【0086】
本発明の実施における使用に適したアンチセンスオリゴヌクレオチドの例には、例えば、以下の概説に言及されているものが含まれる。R. A Stahelら、Lung Cancer、2003年、41巻:S81〜S88頁;K.F. Pirolloら、Pharmacol. Ther.、2003年、99巻:55〜77頁;A.C. Stephens and R.P. Rivers、Curr. Opin. Mol. Ther.、2003年、5巻:118〜122頁;N.M. Dean and C.F. Bennett、Oncogene、2003年、22巻:9087〜9096頁;N. Schiavoneら、Curr. Pharm. Des.、2004年、10巻:769〜784頁;L. Vidalら、Eur. J. Cancer、2005年、41巻:2812〜2818頁;T. Aboul−Fadl、Curr. Med. Chem.、2005年、12巻:2193〜2214頁;M.E. Gleave and B.P. Monia、Nat. Rev. Cancer、2005年、5巻:468〜479頁;Y.S. Cho−Chung、Curr. Pharm. Des.、2005年、11巻:2811〜2823頁;E. Rayburnら、Lett. Drug Design & Discov.、2005年、2巻:1〜18頁;E.R. Rayburnら、Expert Opin. Emerg. Drugs、2006年、11巻:337〜352頁;I. Tamm and M. Wagner、Mol. Biotechnol.、2006年、33巻:221〜238頁(それぞれその全体を参照によって本明細書に組み込む)。
【0087】
適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドの例には、例えばオリメルソン(olimerson)ナトリウム(Genta,Inc.、ニュージャージー州バークレーハイツによって開発されたGenasense(商標)またはG31239としても公知)、アポトーシスの強力な阻害剤であり、濾胞性リンパ腫、乳がん、結腸がんおよび前立腺がんならびに中程度/高悪性度のリンパ腫を含む多くのがんにおいて過剰発現する、bcl−2mRNAの開始コドン領域を標的としたホスホロチオエートオリゴマー(CA. Steinら、Semin. Oncol、2005年、32巻:563〜573頁;S. R. Frankel、Semin. Oncol、2003年、30巻:300〜304頁)が含まれる。他の適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドには、cAMP依存性タンパク質キナーゼA(PKA)に対して方向付けられた混合主鎖オリゴヌクレオチドであるGEM−231(HYB0165、Hybridon,Inc.、マサチューセッツ州ケンブリッジ)(S. Goelら、Clin. Cancer Res.、203、9巻:4069〜4076頁);Affinitak(ISIS3521またはアプリノカルセン(aprinocarsen)、ISIS pharmaceuticals,Inc.、Carlsbad、カリフォルニア州)、PKC−αのアンチセンス阻害剤;OGX−011(Isis112989、Isis Pharmaceuticals,Inc.)、細胞周期、組織再構築、脂質輸送および細胞死の制御に関与し、乳がん、前立腺がんおよび結腸がんにおいて過剰発現する糖タンパク質であるクラステリンに対する2’−メトキシエチル修飾アンチセンスオリゴヌクレオチド;ISIS5132(Isis112989、Isis Pharmaceuticals,Inc.)、c−raf−1mRNAの3’−誤翻訳領域の配列に相補的なホスホロチオエートオリゴヌクレオチド(S. P. Henryら、Anticancer Drug Des.、1997年、12巻:409〜420頁;B.P. Moniaら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1996年、93巻:15481〜15484頁;C.M. Rudinら、Clin. Cancer Res.、2001年、7巻:1214〜1220頁);ISIS2503(Isis Pharmaceuticals,Inc.)、ヒトH−ras mRNA発現のホスホロチオエートオリゴヌクレオチドアンチセンス阻害剤(J. Kurreck、Eur. J. Biochem.、2003年、270巻:1628〜1644頁);GEM640(AEG35156、Aegera Therapeutics Inc.およびHybridon,Inc.)などの、アポトーシス経路の実質的な部分を遮断する、アポトーシスタンパク質のX結合阻害剤(XIAP)を標的にするオリゴヌクレオチド、またはISIS23722(Isis Pharmaceuticals,Inc.)などのアポトーシスタンパク質の阻害剤(IAP)であるサバイビンを標的にするオリゴヌクレオチド、2’−O−メトキシエチルキメラオリゴヌクレオチド;DNAメチルトランスフェラーゼを標的にするMG98;ならびにGTI−2040(Lorus Therapeutics,Inc.、カナダトロント州)、ヒトリボヌクレオチド還元酵素のR2小サブユニット成分のmRNAにおけるコード領域に相補的な20−merのオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0088】
他の適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドには、Her−2/neu、c−Myb、c−Mycおよびc−Rafに対して開発中のアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる(例えば、A. Biroccioら、Oncogene、2003年、22巻:6579〜6588頁;Y. Leeら、Cancer Res.、2003年、63巻:2802〜2811頁;B. Luら、Cancer Res.、2004年、64巻:2840〜2845頁;K.F. Pirolloら、Pharmacol. Ther.、2003年、99:55〜77頁;およびA. Raitら、Ann. N. Y. Acad. Sci.、2003年、1002巻:78〜89参照)。
【0089】
特定の実施形態では、本発明のクロロトキシン剤は、干渉RNA分子を含むまたはコードする核酸抗がん剤を含む。「干渉RNA」および「干渉RNA分子」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、配列特異的に、例えばRNA干渉(RNAi)を媒介することによって、遺伝子発現を阻害または下方制御し、あるいは遺伝子をサイレンシングすることができるRNA分子を指す。RNA干渉(RNAi)は、二本鎖RNA(dsRNA)によって誘発される進化的に保存された配列特異的機構であり、この機構は、相補的標的である一本鎖mRNAの分解および対応する翻訳された配列の「サイレンシング」を誘発する(McManus and Sharp、2002年、Nature Rev. Genet.、2002年、3巻:737頁)。RNAiは、より長いdsRNA鎖を、約21〜23ヌクレオチド長の生物学的に活性な「短鎖干渉RNA」(siRNA)配列に酵素によって分解することによって機能する(Elbashirら、Genes Dev.、2001年、15巻:188頁)。RNA干渉は、がん療法に期待される手法として浮上してきた。
【0090】
本発明の実施における使用に適した干渉RNAは、幾つかの形態のいずれかで提供することができる。例えば、干渉RNAは、単離した短鎖干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)または短鎖ヘアピンRNA(shRNA)の1つまたは複数として提供することができる。
【0091】
本発明における使用に適した干渉RNA分子の例には、例えば、以下の概説:O. Milhavetら、Pharmacol. Rev.、2003年、55巻:629〜648頁;F. Biら、Curr. Gene. Ther.、2003年、3巻:411〜417頁;P.Y. Luら、Curr. Opin. Mol. Ther.、2003年、5巻:225〜234頁;I. Friedrichら、Semin. Cancer Biol、2004年、14巻:223〜230頁;M. Izquierdo、Cancer Gene Ther.、2005年、12巻:217〜227頁;P.Y. Luら、Adv. Genet、2005年、54巻:117〜142頁;G.R. Devi、Cancer Gene Ther.、2006年、13巻:819〜829頁;M.A. Behlke、Mol. Ther.、2006年、13巻:644〜670頁;およびL.N. Putralら、Drug News Perspect.、2006年、19巻:317〜324頁(それぞれその内容を参照によって本明細書に組み込む)に引用のiRNAが含まれる。
【0092】
適切な干渉RNA分子の他の例には、それに限定されるものではないが、p53干渉RNA(例えば、T. R. Brummelkampら、Science、2002年、296巻:550〜553頁;M. T. Hemmanら、Nat. Genet.、2003年、33巻:396〜400頁);慢性骨髄白血病および急性リンパ芽球性白血病の発症に関連するbcr−abl融合を標的にする干渉RNA(例えば、M. Scherrら、Blood、2003年、101巻:1566〜1569頁;M. J. Liら、Oligonucleotides、2003年、13巻:401〜409頁)、未分化大細胞リンパ腫の75%においてみられ、腫瘍形成に関連している構造的に活性なキナーゼを発現させるタンパク質であるNPM−ALKの発現を阻害する干渉RNA(U. Ritterら、Oligonucleotides、2003年、13巻:365〜373頁);Raf−1などの、癌遺伝子を標的にする干渉RNA(T. F. Louら、Oligonucleotides、2003年、13巻:313〜324頁)、K−Ras(T. R. Brummelkampら、Cancer Cell、2002年、2巻:243〜247頁)、erbB−2(G. Yangら、J. Biol. Chem.、2004年、279巻:4339〜4345頁);結腸直腸がんにおける主な形質転換事象であると考えられる、その過剰発現がT細胞因子標的遺伝子のトランス活性化をもたらすb−カテニンタンパク質を標的にする干渉RNA(M. van de Weteringら、EMBO Rep.、2003年、4巻:609〜615頁)が含まれる。
【0093】
C.標識部分
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、少なくとも1つの標識部分で標識されている。例えば、クロロトキシン剤の1つもしくは複数のクロロトキシン部分および/または1つもしくは複数の治療部分は、標識部分で標識することができる。
【0094】
標識部分の役割は、試験される組織に結合した後に、クロロトキシン剤の検出を容易にすることである。好ましくは、標識部分は、測定することができ、かつその強度が、組織に結合した診断剤の量に関係する(例えば比例する)シグナルを発生するように選択される。
【0095】
好ましくは、標識は、クロロトキシン剤の所望の生物学的または薬学的活性を実質的に妨害しない。特定の実施形態では、標識は、1つまたはそれより多くの標識部分を、クロロトキシン部分に、好ましくはクロロトキシン部分のペプチド配列上の非干渉位置に結合させ、または組み込む。かかる非干渉位置は、クロロトキシン部分と腫瘍細胞の特異的結合に関与しない位置である。
【0096】
標識部分は、対象の組織または系との結合後にクロロトキシン剤を検出できる任意の実体であってよい。多種多様な検出可能な薬剤のいずれかを、本発明のクロロトキシン剤における標識部分として使用することができる。標識部分は、直接的に検出可能であってよく、間接的に検出可能であってもよい。標識部分の例には、それに限定されるものではないが、様々なリガンド、放射性核種(例えば、3H、14C、18F、19F、32P、35S、135I、125I、123I、64Cu、187Re、111In、90Y、99mTc、177Lu等)、蛍光染料(具体的な例示的蛍光染料については以下参照)、化学発光剤(例えば、アクリジニウム(acridinum)エステル、安定化ジオキセタンなど)、生物発光剤、スペクトル的に分解可能な無機蛍光半導体ナノ結晶(即ち、量子ドット)、金属ナノ粒子(例えば、金、銀、銅、白金等)ナノクラスター、常磁性金属イオン、酵素(酵素の具体例については以下参照)、比色標識(例えば、染料、コロイド金など)、ビオチン、ジゴキシゲニン(dioxigenin)、ハプテンおよび抗血清またはモノクローナル抗体が利用可能なタンパク質が含まれる。
【0097】
特定の実施形態では、標識部分は、蛍光標識を含む。多種多様な化学構造および物理的特徴の数々の公知の蛍光標識部分が、本発明の診断方法の実施における使用に適している。適切な蛍光染料には、それに限定されるものではないが、フルオレセインおよびフルオレセイン染料(例えば、フルオレセインイソチオシアニンまたはFITC、ナフトフルオレセイン、4’,5’−ジクロロ−2’,7’−ジメトキシフルオレセイン、6−カルボキシフルオレセインまたはFAM等)、カルボシアニン、メロシアニン、スチリル染料、オキソノール染料、フィコエリトリン、エリトロシン、エオシン、ローダミン染料(例えば、カルボキシテトラメチル−ローダミンまたはTAMRA、カルボキシローダミン6G、カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、リサミンローダミンB、ローダミン6G、ローダミングリーン、ローダミンレッド、テトラメチルローダミン(TMR)等)、クマリンおよびクマリン染料(例えば、メトキシクマリン、ジアルキルアミノクマリン、ヒドロキシクマリン、アミノメチルクマリン(AMCA)等)、オレゴングリーン染料(例えば、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514等)、テキサスレッド、テキサスレッド−X、スペクトラムレッド(商標)、スペクトラムグリーン(商標)、シアニン染料(例えば、Cy−3(商標)、Cy−5(商標)、Cy−3.5(商標)、Cy−5.5(商標)等)、アレクサフルオル染料(例えば、アレクサフルオル350、アレクサフルオル488、アレクサフルオル532、アレクサフルオル546、アレクサフルオル568、アレクサフルオル594、アレクサフルオル633、アレクサフルオル660、アレクサフルオル680等)、BODIPY染料(例えば、BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、BODIPY TR、BODIPY530/550、BODIPY558/568、BODIPY564/570、BODIPY576/589、BODIPY581/591、BODIPY630/650、BODIPY650/665等)、IRDyes(例えば、IRD40、IRD700、IRD800等)等が含まれる。蛍光染料を、タンパク質およびペプチドなどの他の化学的実体と結合するための適切な蛍光染料および方法のさらなる例については、例えば、「The Handbook of Fluorescent Probes and Research Products」、第9編、Molecular Probes,Inc.、オレゴン州ユージーン参照のこと。蛍光標識剤の好ましい特性には、高いモル吸収係数、高い蛍光量子収率および光安定性が含まれる。特定の実施形態では、標識フルオロフォアは、望ましくは、紫外スペクトル範囲(即ち、400nm未満)ではなく、可視(即ち、400および750nmの間)の波長の吸光および発光を示す。
【0098】
特定の実施形態では、標識部分は酵素を含む。適切な酵素の例には、それに限定されるものではないが、ELISAに使用されるもの、例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ等が含まれる。他の例には、β−グルクロニダーゼ、β−D−グルコシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等が含まれる。酵素は、カルボジイミド、ジイソシアネート、グルタルアルデヒドなどの結合基を使用して、クロロトキシン部分にコンジュゲートすることができる。
【0099】
特定の実施形態では、標識部分は、単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)またはポジション(Position)断層法(PET)によって検出可能な放射性同位体を含む。かかる放射性核種の例には、それに限定されるものではないが、ヨウ素−131(131I)、ヨウ素−125(125I)、ビスマス−212(212Bi)、ビスマス−213(213Bi)、アスタチン−221(211At)、銅−67(67Cu)、銅−64(64Cu)、レニウム−186(186Re)、レニウム−186(188Re)、リン−32(32P)、サマリウム−153(153Sm)、ルテチウム−177(117Lu)、テクネチウム−99m(99mTc)、ガリウム−67(67Ga)、インジウム−111(111In)およびタリウム−201(201Tl)が含まれる。
【0100】
特定の実施形態では、標識部分は、ガンマカメラによって検出可能な放射性同位体を含む。かかる放射性同位体の例には、それに限定されるものではないが、ヨウ素−131(131I)およびテクネチウム−99m(99mTc)が含まれる。
【0101】
特定の実施形態では、標識部分は、磁気共鳴画像法(MRI)における良好な造影強化剤である常磁性金属イオンを含む。かかる常磁性金属イオンの例には、それに限定されるものではないが、ガドリニウムIII(Gd3+)、クロムIII(Cr3+)、ジスプロシウムIII(Dy3+)、鉄III(Fe3+)、マンガンII(Mn2+)およびイッテルビウムIII(Yb3+)が含まれる。特定の実施形態では、標識部分は、ガドリニウムIII(Gd3+)を含む。ガドリニウムは、FDA承認のMRI用造影剤であり、これは異常組織に蓄積して、これらの異常領域を磁気共鳴画像上で非常に明るくする(強調する)。ガドリニウムは、身体の様々な領域、特に脳の正常組織と異常組織の間を明瞭に造影することが公知である。
【0102】
特定の実施形態では、標識部分は、核磁気共鳴分光法(MRS)によって検出可能な安定な常磁性同位体を含む。適切な安定な常磁性同位体の例には、それに限定されるものではないが、炭素−13(13C)およびフッ素−19(19F)が含まれる。
【0103】
D.クロロトキシン剤の形成
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、少なくとも1つの治療部分に結合している少なくとも1つのクロロトキシン部分を含む。したがって、クロロトキシン剤は、少なくとも2つの他の分子の結合(association)(例えば、結合(binding)、相互作用、融合またはカップリング)から得られる。
【0104】
クロロトキシン剤のクロロトキシン部分と治療部分の結合は、共有結合性であっても、共有結合性でなくてもよい。結合、相互作用またはカップリングの性質に関係なく、クロロトキシン部分と治療部分の結合は、好ましくは、クロロトキシン剤が、腫瘍への、およびその中への輸送/送達の前または最中に解離しないように、選択的、特異的であり、十分に強力である。クロロトキシン剤のクロロトキシン部分と治療部分の結合は、当業者に公知の任意の化学的、生化学的、酵素的または遺伝学的カップリングを使用して達成することができる。
【0105】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分と治療部分の結合は、非共有結合性である。非共有結合性相互作用の例には、それに限定されるものではないが、疎水性相互作用、静電気性相互作用、双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用および水素結合が含まれる。
【0106】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分と治療部分の結合は、共有結合性である。当業者によって理解される通り、それらの部分は、直接的または間接的に互いに結合することができる(例えば、以下に記載のリンカーを介して)。
【0107】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分および治療部分は、互いに直接的に共有結合している。直接的な共有結合は、アミド、エステル、炭素−炭素、ジスルフィド、カルバメート、エーテル、チオエーテル、尿素、アミンまたはカーボネート結合などの結合を介することができる。共有結合は、クロロトキシン部分および/または治療部分上に存在する官能基を利用して達成することができる。あるいは重要性の低いアミノ酸を、カップリング目的で有用な基(アミノ、カルボキシまたはスルフヒドリル)を導入する別のアミノ酸で置き換えることができる。あるいは、追加のアミノ酸を、カップリング目的でクロロトキシン部分に付加して、有用な基(アミノ、カルボキシまたはスルフヒドリル)を導入することができる。部分を一緒に結合するために使用できる適切な官能基には、それに限定されるものではないが、アミン、無水物、ヒドロキシル基、カルボキシ基、チオール等が含まれる。カルボジイミドなどの活性化剤を使用して、直接結合を形成することができる。多種多様な活性化剤が当技術分野で公知であり、治療剤とクロロトキシン部分を結合するのに適している。
【0108】
他の実施形態では、クロロトキシン剤のクロロトキシン部分および治療部分は、リンカー基を介して互いに間接的に共有結合している。これは、単官能性およびヘテロ官能性薬剤(かかる薬剤の例は、例えばPierce Catalog and Handbook参照)を含む、当技術分野で周知の任意の数の安定な二官能性薬剤を使用することによって達成することができる。二官能性リンカーの使用は、それが、得られるクロロトキシン剤に存在する結合部分をもたらす一方、活性化剤は、反応に関与する2つの部分間に直接結合をもたらすという点で、活性化剤の使用とは異なる。二官能性リンカーの役割は、そうでなければ不活性な2つの部分間の反応を可能にし得ることである。あるいはまたはさらには、反応生成物の一部になる二官能性リンカーは、クロロトキシン剤に、ある度合いの立体配座柔軟性を付与するように選択することができる(例えば、二官能性リンカーは、幾つかの原子を含有する直鎖アルキル鎖、例えば2個および10個の間の炭素原子を含有する直鎖アルキル鎖を含む)。あるいはまたはさらには、二官能性リンカーは、クロロトキシン部分と治療部分の間で形成される結合が開裂可能なように、例えば加水分解可能なように選択することができる(かかるリンカーの例は、例えば、それぞれの全体を参照によって本明細書に組み込む米国特許第5,773,001号、第5,739,116号および第5,877,296号参照)。かかるリンカーは、好ましくは、例えばコンジュゲートの加水分解後にクロロトキシン部分および/または治療部分のより高い活性が観測される場合に使用される。治療部分がクロロトキシン部分から開裂され得る例示的な機構には、リソソーム(ヒドラゾン、アセタールおよびcis−アコニット酸に類似のアミド)の酸性pHにおける加水分解、リソソーム酵素(カテプシン(capthepsin)および他のリソソーム酵素)によるペプチド開裂、およびジスルフィドの還元)が含まれる。治療部分がクロロトキシン部分から開裂される別の機構には、生理的pHの細胞外または細胞内における加水分解が含まれる。この機構は、治療部分とクロロトキシン部分をカップリングするために使用される架橋が、ポリデキストランなどの生分解性/生体内浸食性(bioerodible)実体である場合に適用される。
【0109】
例えば、ヒドラゾン含有クロロトキシン剤は、所望の放出特性を付与する導入カルボニル基を用いて生成することができる。クロロトキシン剤は、一端にジスルフィド基を有し、多端にヒドラジン誘導体を有するアルキル鎖を含むリンカーを用いて生成することもできる。ヒドラゾン以外の官能基を含有するリンカーは、リソソームの酸性環境において開裂する潜在的な可能性も有する。例えば、クロロトキシン剤は、エステル、アミドおよびアセタール/ケタールなどの、細胞内で開裂可能なヒドラゾン以外の基を含有するチオール反応性リンカーから生成することができる。
【0110】
pH感受性の高いリンカーの種類の別の例は、cis−アコニット酸であり、これはアミド基に並列するカルボン酸基を有する。カルボン酸は、酸性リソソームにおけるアミド加水分解を促進する。幾つか他の種類の構造を有し、類似の種類の加水分解加速度を達成するリンカーを使用することもできる。
【0111】
クロロトキシン剤の別の潜在的に可能な放出方法は、リソソーム酵素によるペプチドの酵素的加水分解である。一例として、ペプチド毒素を、アミド結合を介してパラ−アミノベンジルアルコールに結合させ、次いでカルバメートまたはカーボネートを、ベンジルアルコールと治療部分の間に生成する。ペプチドの開裂は、アミノベンジルカルバメートまたはカーボネートを崩壊し、治療部分を放出する。別の例では、カルバメートの代わりにリンカーを崩壊することによって、フェノールを開裂することができる。別の変形では、ジスルフィドの低減を使用して、パラ−メルカプトベンジルカルバメートまたはカーボネートの崩壊を開始する。
【0112】
クロロトキシン剤の治療部分がタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドである実施形態では、クロロトキシン剤は、融合タンパク質であってよい。既に先に定義した通り、融合タンパク質は、それらの個々のペプチド主鎖を介する共有結合によって結合した2つ以上のタンパク質またはペプチドを含む分子である。本発明の方法において使用される融合タンパク質は、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって生成することができる。例えばそれらは、ポリペプチド合成機を使用する、直接的なタンパク質合成法によって生成することができる。あるいは、後にアニールし、再増幅してキメラ遺伝子配列を生成することができる、2つの連続した遺伝子断片間に相補的なオーバーハングを生じるアンカープライマーを使用して、遺伝子断片のPCR増幅を実施することができる。融合タンパク質は、標準の組換え法によって得ることができる(例えば、Maniatisら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2編、1989年、Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク州コールドスプリング参照)。これらの方法は一般に、(1)所望の融合タンパク質をコードする核酸分子を構築し、(2)その核酸分子を組換え発現ベクターに挿入し、(3)その発現ベクターで適切な宿主細胞を形質転換し、(4)その宿主細胞において融合タンパク質を発現させることを含む。かかる方法によって生成した融合タンパク質は、当技術分野で公知の通り、培地から直接、または細胞溶解によって回収し、単離することができる。形質転換した宿主細胞によって生成したタンパク質の精製方法は、当技術分野で周知である。これらには、それに限定されるものではないが、沈殿、遠心分離、ゲル濾過および(イオン交換、逆相およびアフィニティー)カラムクロマトグラフィーが含まれる。他の精製方法が記載されている(例えば、Deutscherら、「Guide to Protein Purification」in Methods in Enzymology、1990年、第182巻、Academic Press参照)。
【0113】
当業者には容易に理解され得る通り、本発明の方法において使用されるクロロトキシン剤は、任意の数の様々な方法によって互いに結合している、任意の数のクロロトキシン部分および任意の数の治療部分を含むことができる。コンジュゲートの設計は、その所期の目的(複数)およびその使用の特定の状況において望ましい特性に影響を受けることになる。クロロトキシン部分を治療部分と結び付け、または結合させてクロロトキシン剤を形成する方法の選択は、当業者に公知であり、一般に、部分間に望まれる相互作用の性質(即ち、共有結合性と非共有結合性および/または開裂可能と開裂不可能)、治療部分の性質、関与する部分上の化学的官能基の存在および性質等によって決まることになる。
【0114】
標識クロロトキシン剤において、クロロトキシン部分(または治療部分)と標識部分の結合は、共有結合性であっても共有結合性でなくてもよい。共有結合の場合、クロロトキシン(または治療)部分および標識部分は、前述の通り直接的または間接的に互いに結合することができる。
【0115】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分(または治療部分)と標識部分の結合は、非共有結合である。非共有結合の例には、それに限定されるものではないが、疎水性相互作用、静電気性相互作用、双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用および水素結合が含まれる。例えば標識部分は、キレート化によってクロロトキシン部分(または治療部分)に非共有性結合することができる(例えば、金属同位体は、例えばクロロトキシン部分に結合した、例えば融合したポリHis領域にキレート化することができる)。
【0116】
特定の実施形態では、クロロトキシン部分(または治療部分)は、同位体標識される(即ち、クロロトキシン部分は、通常天然に見られる原子質量または質量数とは異なる原子質量または質量数を有する原子によって置き換えられている1つまたはそれより多くの原子を含有する)。あるいはまたはさらには、同位体は、クロロトキシン部分および/または治療部分に結合することができる。
【0117】
当業者には容易に理解され得る通り、本発明の特定の方法において使用される標識クロロトキシン剤は、任意の数の様々な方法によって互いに結合している、任意の数のクロロトキシン部分、任意の数の治療部分および任意の数の標識部分を含むことができる。標識クロロトキシン剤の設計は、その所期の目的(複数)、その使用の状況において望ましい特性および検出物から選択される方法に影響を受けることになる。
【0118】
E.修飾
特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、ポリマーなどの巨大分子との共有結合によって修飾される。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、例えばポリマーの共有結合は、クロロトキシン剤を抗原的にマスクすることができ、その結果、動物身体における薬剤のバイオアベイラビリティおよび/または耐性が改善される。かかるポリマーの例は、ポリエチレングリコール(PEG)であり、これは、しばしばペプチドおよび/またはポリペプチドのNおよび/またはC末端、ならびに/あるいはシステインと共有結合することができる。「PEG化」は、PEGを分子に共有結合付加することを指す。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は、いかなる部位でも修飾されない。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は、分子1個当たり1つの部位において修飾されている(例えば、PEG化によって)。幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は、分子1個当たり2つ以上の部位において修飾されている(例えば、PEG化によって)。
【0119】
幾つかの実施形態では、かかる修飾は、インビボでのクロロトキシン剤の半減期を延長する。例えば半減期は、少なくとも約10時間、少なくとも16時間等であってよい(例えば、実施例9参照)。かかる改善されたバイオアベイラビリティは、幾つかの実施形態では、低頻度の投与を伴う投与レジメンを容易にすることができる(投与レジメンは、本明細書で論じる)。
【0120】
II.治療および/または検出方法
本発明の治療方法は、有効用量のクロロトキシン剤またはその医薬組成物を、それを必要としている個体(例えば、少なくとも1つの腫瘍転移を有している、有していた、その発症の危険性がある、かつ/またはそれにかかりやすい個体)に投与するステップを含む。したがって、本発明の治療方法は、腫瘍転移の大きさおよび/または数の低減、転移の増殖および/または形成の阻害、ならびに/あるいは転移がんおよび転移がん状態に罹患している哺乳動物(ヒトを含む)の生存期間の延長のために使用することができる。
【0121】
いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、本発明者らは、新血管の形成(血管新生)が、転移の発症および/または維持にとって重要となり得ることに注目する。実施例4に示した通り、クロロトキシンは、新血管形成を阻害することができる。クロロトキシンは、新しく生じた血管(新脈管構造)の退縮を生じることもできる。本発明の幾つかの実施形態では、少なくとも1つの転移の新脈管構造が退縮する。本発明の幾つかの実施形態では、血管新生が阻害される。
【0122】
A.徴候
本明細書を通して、転移腫瘍の原発起源部位にちなんだ転移腫瘍の命名法を使用する。したがって、例えば「転移前立腺がん」は、転移の位置にかかわらず、他の器官に拡散した、前立腺由来のがんを指す。転移は、例えば、脳、肺、骨、肝臓、リンパ節、卵巣等を含む様々な器官において形成し得る。特定の種類の腫瘍は、一般に、特定の器官に転移することがある。例えば、黒色腫はしばしば脳に転移し、前立腺がんはしばしば骨に転移し、女性の胃がんは、しばしば卵巣に転移し、乳がんはしばしば骨に転移し、結腸がんはしばしば肝臓に転移する。本方法は、原発腫瘍部位から遠隔の転移を含む前述の様々な器官における転移を治療するために使用することができる。さらに、クロロトキシン剤は、血液/脳関門を横断し得るので(例えば、実施例2および3参照)、本方法は、脳の転移の治療に使用することができる。
【0123】
原発腫瘍は、しばしば近くのリンパ節に拡散することがある。本方法は、リンパ節への拡散を制御または排除するために、同様に使用することができる。がん/腫瘍細胞は、原発腫瘍から離脱し、血流またはリンパ管を介して移動することによって転移し得る。本発明の特定の実施形態、例えばクロロトキシン剤が全身送達される実施形態の幾つかでは、かかる転移細胞にクロロトキシン剤が結合し、破壊の標的となる。
【0124】
幾つかの実施形態では、本発明の治療方法はさらに、クロロトキシン剤の投与前に、少なくとも1つの転移を検出するステップを含む。かかる幾つかの実施形態では、少なくとも1つの転移の検出は、有効用量の標識クロロトキシン剤を投与するステップを含む。
【0125】
それにもかかわらず、本方法は、1つまたはそれより多くの転移の位置または存在が知られていないとしても、該1つまたはそれより多くの転移を有する、有していたまたはその危険性がある個体を治療するために使用できることを理解されよう。患者は、任意の転移を有すると全く診断されていなくてもよく、または患者の転移のサブセットのみが同定され、かつ/または位置していてもよい。本発明の幾つかの実施形態では、クロロトキシン剤は全身送達され、その結果クロロトキシン剤が体中に送達される。したがって、クロロトキシン剤を転移に送達するために、特定の組織または組織の一組をクロロトキシン剤の送達標的にする必要はない。
【0126】
本発明に従って治療することができる、転移がんに発生し得る原発がんおよびがん状態の例には、それに限定されるものではないが、脳および中枢神経系の腫瘍(例えば、神経膠芽腫または髄芽細胞腫などの、髄膜、脳、脊髄、脳神経およびCNSの他の部分の腫瘍);頭部および/または頸部がん、乳房腫瘍、循環系の腫瘍(例えば、心臓、縦隔および胸膜、ならびに他の胸腔内器官、血管腫瘍、ならびに血管組織に関連する腫瘍);血液およびリンパ系の腫瘍(例えば、ホジキン病、非ホジキン病リンパ腫、バーキットリンパ腫、AIDS関連リンパ腫、悪性免疫増殖性疾患、多発性骨髄腫、および悪性形質細胞新生物、リンパ性白血病、骨髄白血病、急性または慢性リンパ球性白血病、単球性白血病、特定の細胞種の他の白血病、不特定の細胞種の白血病、びまん性大細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫または皮膚T細胞リンパ腫などの、リンパ、造血組織および関連組織の不特定悪性新生物);排泄系(例えば、腎臓、腎盂、尿管、膀胱および他の膀胱器官)の腫瘍;胃腸管(例えば、食道、胃、小腸、結腸、結腸直腸、直腸S状結腸移行部、直腸、肛門および肛門管)の腫瘍;肝臓および肝内胆管、胆嚢、ならびに胆道の他の部分、膵臓、ならびに他の消化器官を侵す腫瘍;口腔(例えば、唇、舌、歯肉、口腔底、口蓋、耳下腺、唾液腺、扁桃腺、中咽頭、鼻咽頭、梨状陥凹(puriform sinus)、下咽頭および口腔の他の部位)の腫瘍;生殖系(例えば、外陰部、膣、子宮頸、子宮、卵巣および女性の生殖器に関連する他の部位、胎盤、陰茎、前立腺、精巣および男性の生殖器に関連する他の部位)の腫瘍;呼吸器(小細胞肺がんおよび非小細胞肺がんなどの、例えば、鼻腔、中耳、副鼻腔、喉頭、気管、気管支および肺)の腫瘍;骨格系(例えば、四肢の骨および関節軟骨、骨関節軟骨および他の部位)の腫瘍;皮膚の腫瘍(例えば、皮膚の悪性黒色腫、非黒色腫皮膚がん、皮膚の基底細胞癌、皮膚の扁平上皮細胞癌、中皮腫、カポジ肉腫);ならびに末梢神経および自律神経系、結合組織および軟組織、後腹膜(retroperitoneoum)および腹膜、目および付属器、甲状腺、副腎、ならびに他の内分泌腺および関連の構造を含む他の組織を侵す腫瘍、リンパ節の二次性および不特定悪性新生物、呼吸器系および消化器系の二次性悪性新生物、ならびに他の部位の二次性悪性新生物が含まれる。
【0127】
本発明の特定の実施形態では、本発明の組成物および方法は、転移肉腫の治療に使用することができる。幾つかの実施形態では、本発明の組成物および方法は、膀胱がん、乳がん、慢性リンパ腫白血病、頭部および頸部がん、子宮内膜がん、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん、卵巣がん、膵臓がんおよび前立腺がんに由来する転移がんの治療に使用される。
【0128】
本発明の特定の実施形態では、組成物および方法は、神経外胚葉起源の転移腫瘍の治療に使用される。ヒトの患者に存在する神経外胚葉起源の任意の転移腫瘍は、一般に、本発明の組成物/方法を使用して治療することができる。特定の実施形態では、患者に影響を及ぼす神経外胚葉起源の転移腫瘍は、神経膠腫、髄膜腫、上衣腫、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、神経節腫、褐色細胞腫、黒色腫、末梢性原始神経外胚葉腫瘍、肺の小細胞癌、ユーイング肉腫および脳内の神経外胚葉起源の転移腫瘍からなる群のメンバーである。幾つかの実施形態では、神経外胚葉起源の転移腫瘍は、黒色腫である。かかる幾つかの実施形態では、黒色腫は、皮膚または眼内の黒色腫である。
【0129】
特定の実施形態では、神経外胚葉起源の転移腫瘍は、患者の脳に影響を及ぼす。特定の実施形態では、脳腫瘍は神経膠腫である。全ての原発性脳腫瘍の約半分が神経膠腫である。4つの主な種類の神経膠腫:星状細胞腫(成人および子どもの両方における最も一般的な神経膠腫である)、上衣腫、乏突起神経膠腫および混合神経膠腫がある。神経膠腫は、それらの位置に従って、テント下(即ち、子どもの患者に最もよく見られる脳の下方部分に位置する)またはテント上(即ち、成人の患者に最もよく見られる脳の上方部分に位置する)と分類することができる。
【0130】
神経膠腫はさらに、腫瘍の病理学的評価によって決定されるそれらのグレードに従って分類される。世界保健機構(WHO)は、最も侵襲性が低い傾向があるグレードIの神経膠腫から、最も侵襲性が高く悪性の傾向があるグレードIVの神経膠腫の格付け方式を作成している。低グレード(即ち、グレードIまたはグレードII)の神経膠腫の例には、それに限定されるものではないが、毛様細胞星状細胞腫(若年性毛様細胞星状細胞腫とも呼ばれる)、線維性星状細胞腫、多形性黄色星状膠細胞腫(xantroastrocytomoa)および胚芽異形成性(desembryoplastic)神経上皮腫瘍が含まれる。高グレード神経膠腫は、グレードIIIの神経膠腫(例えば、未分化星状細胞腫、AA)およびグレードIVの神経膠腫(神経膠芽腫多形、GBM)を包含する。未分化星状細胞腫は、30〜50代の男性および女性に最も頻繁に見られ、全ての脳腫瘍の4%を占める。最も浸潤性の高い種類の神経膠腫瘍である神経膠芽腫多形は、50〜70代の男性および女性に最も一般的であり、全ての原発性脳腫瘍の23%を占める。予後はグレードIVの神経膠腫で最も悪く、平均生存期間は12カ月である。特定の実施形態では、本発明の方法は、高グレードの神経膠腫の治療に使用される。
【0131】
積極的な治療にもかかわらず、神経膠腫は、通常、しばしばより高いグレードで、時に様々な形態で再発する。再発は様々であるが、グレードIVの神経膠腫は、常に再発する。したがって、特定の実施形態では、本発明の方法は、転移再発性神経膠腫、特に再発性の高グレード神経膠腫の治療に使用される。
【0132】
本発明の組成物および方法を使用して治療できる転移腫瘍には、他の化学療法を用いる治療に対して難治性である転移腫瘍が含まれる。「難治性」という用語は、腫瘍に関して本明細書で使用される場合、腫瘍(および/またはその転移)が、本発明の組成物以外の少なくとも1つの化学療法を用いて治療される際に、かかる化学療法剤を用いた治療後に抗増殖反応を全く示さず、またはわずかしか示さず(即ち、腫瘍増殖を全く阻害しない、わずかしか阻害しない)、即ち、他の(好ましくは標準の)化学療法では全く治療できない、または不満足な結果しか得られない腫瘍であることを意味する。難治性腫瘍等の治療に言及する場合、本発明は、(i)1つまたはそれより多くの化学療法が、患者の治療中に既に失敗に終わった腫瘍のみならず、(ii)他の手段、例えば化学療法の存在下での生検および培養によって難治性であると示され得る腫瘍を包含すると理解されるべきである。
【0133】
本発明による治療を受けることができる患者には、一般に、腫瘍を有すると診断されている、または診断されたことがある任意の患者が含まれる。幾つかの実施形態では、患者は、1つまたはそれより多くの転移を有すると診断されている。幾つかの実施形態では、患者は、転移することが公知である腫瘍を有すると診断されている。幾つかの実施形態では、患者は、転移の可能性が高いまたは起こり得る段階において決定される腫瘍を有すると診断されている。幾つかの実施形態では、患者は、腫瘍を有していたが、もはや原発腫瘍を有する徴候を示しておらず、幾つかのかかる実施形態では、患者は、それにもかかわらず本方法で治療できる腫瘍を有している。当業者には認識される通り、腫瘍および/または転移の位置および性質により、画像、生検等を含む様々な診断方法を実施することができる。
【0134】
B.用量および投与
本発明の治療方法では、クロロトキシン剤またはその医薬組成物は、一般に、少なくとも1つの所望の結果を達成するのに必要なまたは十分な量およびタイミングで投与されることになる。例えば、クロロトキシン剤は、がん細胞を死滅させ、腫瘍の大きさを縮小し、1つまたはそれより多くの転移の大きさを縮小し、腫瘍の増殖または転移を阻害または遅延させ、患者の生存期間を延長し、あるいはその他の方法で臨床上の利益をもたらすような量およびタイミングで投与することができる。
【0135】
本発明による治療は、一定期間にわたる単回投与または多回投与からなることができる。投与は、1日に、1週間に(または他のある数日間隔で)1回または複数回、または間欠的スケジュールで行うことができる。投与されるクロロトキシン剤またはその医薬組成物の正確な量は、被験体ごとに変わり、幾つかの因子に応じて変わることになる(以下参照)。
【0136】
クロロトキシン剤またはその医薬組成物は、所望の治療効果を達成するのに有効な任意の投与経路を使用して投与することができる。本発明の特定の実施形態では、クロロトキシン剤(またはその医薬組成物)は、全身投与される。投与の一般的な全身経路には、それに限定されるものではないが、筋肉内、静脈、経肺および経口経路が含まれる。全身投与は、例えば注入またはボーラス注射によって、あるいは上皮または皮膚粘膜内膜(例えば、経口、粘膜、直腸および腸粘膜等)を介する吸収によって、実施することもできる。特定の実施形態では、クロロトキシン剤は、静脈投与される。ヒトの患者におけるクロロトキシン剤の静脈投与の例示的手順を、実施例2に記載している。
【0137】
投与経路に応じて、有効用量は、治療を受ける被験体の体重、体表面積、原発器官/腫瘍の大きさ、ならびに/あるいは転移の数、大きさおよび/または種類に従って算出することができる。適切な用量の最適化は、ヒトの臨床試験で観測される薬物動態データに照らして、当業者によって容易に行われ得る。最終投与レジメンは、薬物作用を改変する様々な因子、例えば薬物の特異的活性、損傷の重症度および患者の反応性、患者の年齢、状態、体重、性別および食事、存在する任意感染の重症度、投与のタイミング、他の治療剤の使用(または使用なし)ならびに他の臨床因子を考慮に入れて、担当医によって決定されることになる。クロロトキシン剤を使用する試験が実施される場合、適切な投与レベルおよび治療期間に関してさらなる情報が現れることになる。
【0138】
一般的な用量は、1.0pg/kg体重〜100mg/kg体重を構成する。例えば、全身投与については、用量は100.0ng/kg体重〜10.0mg/kg体重であってよい。
【0139】
より具体的には、クロロトキシン剤が静脈投与される特定の実施形態では、薬剤投与は、約0.005mg/kg〜約5mg/kg、例えば、約0.005mg/kg〜約5mg/kg、約0.01mg/kg〜約4mg/kg、約0.02mg/kg〜約3mg/kg、約0.03mg/kg〜約2mg/kgまたは約0.03mg/kg〜約1.5mg/kgのクロロトキシンを含む1つまたはそれより多くの用量の投与を含むことができる。例えば、特定の実施形態では、それぞれ約0.03mg/kg、約0.04mg/kg、約0.05mg/kg、約0.06mg/kg、約0.07mg/kg、約0.09mg/kg、約1.0mg/kgまたは1.0mg/kgを超えるクロロトキシンを含有するクロロトキシン剤の1つまたはそれより多くの用量を投与することができる。他の実施形態では、それぞれ約0.05mg/kg、約0.10mg/kg、約0.15mg/kg、約0.20mg/kg、約0.25mg/kg、約0.30mg/kg、約0.35mg/kg、約0.40mg/kg、約0.45mg/kg、約0.50mg/kg、約0.55mg/kg、約0.60mg/kg、約0.65mg/kg、約0.70mg/kg、約0.75mg/kg、約0.80mg/kg、約0.85mg/kg、約0.90mg/kg、約0.95mg/kg、約1.0mg/kgまたは約1mg/kgを超えるクロロトキシンを含有するクロロトキシン剤の1つまたはそれより多くの用量を投与することができる。さらに他の実施形態では、約1.0mg/kg、約1.05mg/kg、約1.10mg/kg、約1.15mg/kg、約1.20mg/kg、約1.25mg/kg、約1.3mg/kg、約1.35mg/kg、約1.40mg/kg、約1.45mg/kg、約1.50mg/kgまたは約1.50mg/kgを超えるクロロトキシンを含有するクロロトキシン剤の1つまたはそれより多くの用量を投与することができる。かかる実施形態では、治療は、クロロトキシン剤の単回用量、あるいは2回、3回、4回、5回、6回または6回以上の用量の投与を含むことができる。2回の連続用量は、1日間隔、2日間隔、3日間隔、4日間隔、5日間隔、6日間隔、7日間隔または7日を超える間隔(例えば10日、2週間、または2週間を超える)で投与することができる。
【0140】
C.併用療法
本発明の治療方法は、追加の療法と併用できる(即ち、本発明による治療は、1つまたはそれより多くの所望の療法または医療手順と同時に、その前に、またはその後に投与することができる)ことを理解されよう。かかる組合せレジメンで使用される療法(治療剤または手順)の特定の組合せは、所望の治療剤および/または手順の適合性ならびに達成される所望の治療効果を考慮に入れることになる。
【0141】
例えば、本発明の治療方法は、治療を受ける腫瘍に応じて、外科手術、放射線療法(例えば、γ放射線、ニューロンビーム放射線療法、電子ビーム放射線療法、陽子線治療、小線源療法、全身性放射性同位体)、内分泌療法、温熱療法および寒冷療法を含む他の手順と一緒に使用することができる。
【0142】
転移脳腫瘍の多くの場合、本発明の治療は、しばしば、原発腫瘍を除去するための外科手術の後に投与されることになる。脳腫瘍の治療では、外科手術の主な目標は、肉眼的な全ての切除、即ち目に見える全ての原発腫瘍の除去を達成することである。かかる目標を達成する困難の1つは、これらの腫瘍が浸潤性であること、即ちこれらの腫瘍が正常な脳構造に出入りする傾向があることである。さらに、患者の脳から安全に除去できる腫瘍の量には、かなり大きなばらつきがある。除去は一般に、腫瘍の全てまたは一部が、非常に重要な機能を制御する脳の領域に位置している場合には不可能である。さらに、外科手術のみで遠隔部位の転移を除去かつ/または破壊することは不可能であり、実際的でもない。
【0143】
転移脳腫瘍の多くの場合、本発明の治療は、しばしば放射線療法と組み合わせて(即ち、それと同時に、その前に、またはその後に)投与されることになる。従来の治療では、一般に、放射線療法は外科手術後に行われる。放射線は、一般に、日々の一連の治療として(分割と呼ばれる)数週にわたって与えられる。放射線を適用するこの「分割」手法は、腫瘍細胞の破壊を最大限にし、隣接する正常な脳に対する副作用を最小限にするために重要である。放射線が適用される領域(照射野と呼ばれる)は、実行可能な限り多くの正常な脳を含まないよう、注意深く算出される。
【0144】
あるいはまたはさらには、本発明の治療方法は、任意の副作用を軽減する薬剤(例えば制吐剤等)などの他の治療剤および/または他の承認された化学療法薬と併用投与することができる。化学療法剤の例には、数例をあげると、それに限定されるものではないが、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、イフォスファミド等)、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート等)、プリン拮抗薬およびピリミジン拮抗薬(例えば、6−メルカプトプリン、5−フルオロウラシル、シタラビン、ゲムシタビン等)、紡錘体毒(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキセル等)、ポドフィロトキシン(例えば、エトポシド、イリノテカン、トポテカン等)、抗生物質(例えば、ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン等)、ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、ロムスチン、ノムスチン等)、無機イオン(例えば、シスプラチン、カルボプラチン等)、酵素(例えば、アスパラギナーゼ等)ならびにホルモン剤(例えば、タモキシフェン、ロイプロリド、フルタミド、メゲステロール等)が含まれる。最新のがん療法についてのより包括的な議論は、http://www.cancer.gov/、FDA承認の腫瘍学的薬物の一覧は、http://www.fda.gov/cder/cancer/druglistframe.htmおよびその内容全体を参照によって本明細書に組み込むThe Merck Manual、第17編、1999年を参照のこと。
【0145】
本発明の方法は、細胞毒性剤の1つまたはそれより多くのさらなる組合せと一緒に、治療レジメンの一部として使用することもでき、細胞毒性剤のさらなる組合せは、以下から選択される:CHOPP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);COP(シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);CAP−BOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、プロカルバジン、ブレオマイシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);m−BACOD(メトトレキサート、ブレオマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、デキサメタゾンおよびロイコボリン);ProMACE−MOPP(プレドニゾン、メトトレキサート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド、ロイコボリン、メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);ProMACE−CytaBOM(プレドニゾン、メトトレキサート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド、ロイコボリン、シタラビン、ブレオマイシンおよびビンクリスチン);MACOP−B(メトトレキサート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾン、ブレオマイシンおよびロイコボリン);MOPP(メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);ABVD(アドリアマイシン/ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチンおよびデカルバジン);MOPP(メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン)とABV(アドリアマイシン/ドキソルビシン、ブレオマイシンおよびビンブラスチン)交互;MOPP(メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾン、およびプロカルバジン)とABVD(アドリアマイシン/ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチンおよびデカルバジン)交互;ChlVPP(クロラムブシル、ビンブラスチン、プロカルバジンおよびプレドニゾン);IMVP−16(イフォスファミド、メトトレキサートおよびエトポシド);MIME(メチル−gag、イフォスファミド、メトトレキサートおよびエトポシド);DHAP(デキサメタゾン、高用量シタリビンおよびシスプラチン);ESHAP(エトポシド、メチルプレドニゾロン(methylpredisolone)、高用量シタラビンおよびシスプラチン);CEPP(B)(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジン、プレドニゾンおよびブレオマイシン);CAMP(ロムスチン、ミトキサントロン、シタラビンおよびプレドニゾン);CVP−1(シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびプレドニゾン)、ESHOP(エトポシド、メチルプレドニゾロン、高用量シタラビン、ビンクリスチンおよびシスプラチン);EPOCH(96時間用エトポシド、ビンクリスチンおよびドキソルビシンと共にシクロホスファミドおよび経口プレドニゾンのボーラス投与)、ICE(イフォスファミド、シクロホスファミドおよびエトポシド)、CEPP(B)(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジン、プレドニゾンおよびブレオマイシン)、CHOP−B(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびブレオマイシン)、CEPP−B(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジンおよびブレオマイシン)、ならびにP/DOCE(エピルビシンまたはドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロホスファミドおよびプレドニゾン)。
【0146】
当業者によって理解される通り、本発明の治療方法と併用投与される1つまたはそれより多くの治療剤の選択は、治療を受ける転移腫瘍に応じて変わることになる。
【0147】
例えば、脳腫瘍のために処方される化学療法剤には、それに限定されるものではないが、経口投与されるテモゾロミド(Temodar(登録商標))、プロカルバジン(Matulane(登録商標))およびロムスチン(CCNU);静脈投与されるビンクリスチン(Oncovin(登録商標)またはVincasar PFS(登録商標))、シスプラチン(Platinol(登録商標))、カルムスチン(BCNU、BiCNU)およびカルボプラチン(Paraplatin(登録商標));ならびに経口、静脈または髄腔内(即ち、髄液に直接注射される)投与することができるメトトレキサート(Rheumatrex(登録商標)またはTrexall(登録商標))が含まれる。BCNUは、外科手術中のポリマーウエハ埋込体の形態で与えられる(Giadel(登録商標)ウエハ)。脳腫瘍に最も一般的に処方される併用療法の1つは、通常6週毎に与えられるPCV(プロカルバジン、CCNUおよびビンクリスチン)である。
【0148】
治療を受ける腫瘍が、神経外胚葉起源の脳腫瘍である実施形態では、本発明の方法は、発作および脳浮腫などの症候の管理のための薬剤と併用することができる。脳腫瘍に関連する発作を制御するために首尾よく投与される抗痙攣剤の例には、それに限定されるものではないが、フェニトイン(Dilantin(登録商標))、カルバマゼピン(Tegretol(登録商標))およびジバルプロエクスナトリウム(Depakote(登録商標))が含まれる。脳の膨潤は、ステロイド(例えば、デキサメタゾン(Decadron(登録商標))で治療することができる。
【0149】
D.医薬組成物
前述の通り、本発明の治療、阻害および/または低減、ならびに/あるいは検出方法は、クロロトキシン剤それ自体または医薬組成物の形態で投与するステップを含む。医薬組成物は、一般に、有効量の少なくとも1つのクロロトキシン剤および少なくとも1つの薬学的に許容される担体または添加剤を含むことになる。
【0150】
医薬組成物は、当技術分野で周知の従来の方法を使用して製剤化することができる。最適な医薬製剤は、投与経路および所望の用量に応じて変わり得る。かかる製剤は、投与される化合物の物理的状態、安定性、インビボ放出速度およびインビボクリアランス速度に影響を及ぼし得る。製剤は、固体、液体または反液体医薬組成物を生成することができる。
【0151】
医薬組成物は、投与を容易にし、用量を均一にするために、単位剤形として製剤化することができる。「単位剤形」という表現は、本明細書で使用される場合、治療を受ける患者に合わせたクロロトキシン剤の物理的に個々の単位を指す。各単位は、所望の治療効果をもたらすために算出された所定の量の活性材料を含有する。しかし、組成物の総用量は、正確な医療判断の範囲内で担当医によって決定されることを理解されよう。
【0152】
前述の通り、特定の実施形態では、注射または注入によってクロロトキシン剤を静脈投与する。注射または注入による投与に適した医薬組成物は、適切な分散剤または湿潤剤、ならびに懸濁化剤を使用して、当技術分野に従って製剤化することができる。医薬組成物は、例えば2,3−ブタンジオール溶液などの非毒性の希釈剤または溶媒中の注射可能な滅菌溶液、懸濁液または乳液であってもよい。使用できる許容されるビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンガー溶液、U.S.P.および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに通常、滅菌固定油が、溶液または懸濁液培地として使用される。この目的では、合成モノまたはジグリセリドを含む任意のブランドの(bland)固定油を使用することができる。オレイン酸などの脂肪酸を、注射可能な製剤の調製物に使用することもできる。
【0153】
注射可能な製剤は、例えば細菌保持フィルターを介する濾過によって、あるいは滅菌水または他の注射可能な滅菌培地に溶解または分散することができる滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を使用前に組み込むことによって、滅菌することができる。
【0154】
薬物の効果を延長するために、注射による薬物の吸収を遅延させることがしばしば望ましい。これは、活性成分を油性ビヒクルに溶解または懸濁することによって達成できる。注射可能なデポー形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中の薬物のマイクロ封入マトリックスを形成することによって生成される。薬物対ポリマー比および使用する特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出速度を制御することができる。デポー注射製剤は、薬物を、身体組織と適合性のあるリポソームまたはマイクロエマルジョンに封入することによって調製することもできる。
【0155】
III.検出方法
A.投与
別の態様では、本発明は、腫瘍転移のインビボ検出方法を提供する。例えば、少なくとも1つの原発腫瘍を有しているまたは有していた個体の腫瘍転移を検出するために、本発明の方法を使用することが望ましい。かかる方法は、本明細書に記載の有効量の標識クロロトキシン剤またはその医薬組成物を患者に投与して、原発腫瘍組織および/または転移腫瘍組織において標識クロロトキシン剤と細胞の特異的結合が生じ得るようにするステップを含む。
【0156】
一般に、標識クロロトキシン剤の用量は、患者の年齢、性別および体重、調査する身体領域(複数)、ならびに投与経路などの考慮すべき事項に応じて変わることになる。禁忌、同時療法および他の変数などの因子も、投与される標識クロロトキシン剤の用量の調節に考慮されるべきである。しかしこれは、経験のある医師によって容易に達成され得る。一般に、標識クロロトキシン剤の適切な用量は、患者の新生物腫瘍組織の検出を可能にするのに十分な、薬物の最少量に相当する。
【0157】
例えば、クロロトキシン剤が131Iで標識され、静脈投与される実施形態では、標識クロロトキシン剤の投与は、それぞれ約5mCi〜約50mCi、例えば、約5mCi〜約40mCiまたは約10mCi〜約30mCiの131Iを含む1つまたはそれより多くの用量の投与を含むことができる。例えば、それぞれ約10mCi、約20mCiまたは約30mCiの131Iを含有する131I−放射標識クロロトキシン剤の1つまたはそれより多くの用量を投与することができる。かかる実施形態では、診断手順は、131I−放射標識クロロトキシン剤の単回用量の投与、あるいは多回用量、例えば2回、3回または4回用量の投与を含むことができる。2回の連続用量は、1日間隔、2日間隔、3日間隔、4日間隔、5日間隔、6日間隔、7日間隔または7日を超える間隔で投与することができる。
【0158】
131I−放射標識クロロトキシン剤が使用される実施形態では、患者に、131I−放射標識クロロトキシンの投与前(例えば本発明による治療の1日、2日または3日前)に、過飽和ヨウ化カリウムを投与することができる。過飽和ヨウ化カリウムの投与は、甲状腺による131Iの取込みを遮断し、したがって甲状腺機能低下などの状態を防止する。
【0159】
標識クロロトキシン剤の投与後、特異的結合が生じるのに十分な時間が経過した後、結合した標識クロロトキシン剤の検出を実施する。
【0160】
幾つかの実施形態では、第2の有効量の標識クロロトキシン剤を、第2期間に投与し、個体身体の標識クロロトキシン剤の結合を測定する。標識クロロトキシン剤の第2の投与後の結合測定によって、1つまたはそれより多くの転移の進行、安定性および/または退縮を示し得る結合の任意の変化(例えば、結合の程度および/または位置)を評価することができる。その後の期間に、さらなる測定値を得るために有効量の標識クロロトキシン剤の後続投与(即ち第3、第4等)を実施することもできる。これは、例えば長期にわたる1つまたはそれより多くの転移の進行、安定性および/または退縮を評価するのに望ましいものとなり得る。
【0161】
幾つかの実施形態では、有効量の標識クロロトキシン剤の連続投与間の時間の長さが変わる。幾つかの実施形態では、標識クロロトキシン剤の投与は、およそ一定間隔で実施される。幾つかの実施形態では、投与のタイミングは、患者が治療を受ける投与レジメンのタイミングに一致または平行する。
【0162】
B.転移の検出および局在化
当業者によって認識される通り、標識クロロトキシン剤と対象組織の結合の検出は、それに限定されるものではないが、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段を含む多種多様な方法のいずれかによって実施することができる。検出方法の選択は、一般に薬剤の標識部分(即ち、蛍光部分、放射性核種、常磁性金属イオン等)の性質を基にして行われよう。特定の実施形態では、患者の1つまたはそれより多くの転移の検出および局在化は、画像技術を使用して実施される。
【0163】
標識部分の性質に応じて、様々な画像技術を使用することができる。例えば、標識部分が常磁性金属イオン(例えばGd3+)を含む場合、結合は、磁気共鳴画像法(MRI)を使用して検出することができる。単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)および/または陽電子断層撮影法(PET)は、標識部分が放射性同位体(例えば131I等)を含む場合に結合を検出するために使用できる。他の画像技術には、ガンマカメラ画像が含まれる。
【0164】
本発明の検出方法によれば、標識クロロトキシン剤と対象組織の結合レベルが標識クロロトキシン剤と正常組織の結合レベルと比較して高い場合、原発腫瘍の組織以外の組織は転移と同定される。先に既に言及した通り、正常組織は、本明細書では非新生物組織と定義される。例えば、本方法がインビボで実施される場合、対象器官(例えば脳)の領域で測定された標識クロロトキシン剤の結合レベルを、同じ器官の正常領域で測定された標識クロロトキシン剤の結合レベルと比較することができる。
【0165】
特定の実施形態では、対象組織は、測定された結合レベルが正常組織との結合レベルよりも高い場合、新生物組織と同定される。例えば、結合レベルは、正常組織の結合レベルよりも少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約25倍、少なくとも約50倍、少なくとも約75倍、少なくとも約100倍、少なくとも約150倍、少なくとも約200倍、または200倍より高くてもよい。
【実施例】
【0166】
以下の実施例は、本発明の生成および実施方法の幾つかを説明するものである。しかし、これらの実施例は単に例示目的であり、本発明の範囲への制限を企図しないことを理解されたい。さらに、実施例の説明が過去形で示されない限り、本文は、本明細書の残りと同様、実験が実際に実施され、またはデータが実際に得られたことを示唆するものではない。
【0167】
(実施例1:脳および肺に転移した黒色腫に結合するクロロトキシン)
この実施例に記載の実験は、クロロトキシンが、生検切片の脳および/または肺に転移した黒色腫に結合することを示すものである。
【0168】
材料および方法
ヒトの生検組織の凍結またはパラフィン切片を、N末端に化学的に結合した検出可能なビオチン基を含有するクロロトキシンの化学合成形態(TM−601)で、組織化学的に染色した。ヒトの組織サンプルを、両方の性別ならびに様々な年齢および人種から得た。大部分のサンプルは、UAB(バーミングハムのアラバマ大学)のCooperative Human Tissue Network、Tissue Procurement、UAB病院およびHuman Brain Tissue Bank、カナダ、ロンドンによって入手した。凍結ゲルに埋め込んだ急速凍結組織および新鮮な組織を8ミクロンにスライスし、正電荷ガラススライド上に置いた。次いで、切片を、染色プロトコルに従って、4%パラホルムアルデヒドまたはMilloniqs溶液(リン酸ナトリウム緩衝溶液中4%ホルムアルデヒド、0.4%NaOHおよび7%メタノールから構成される)で固定した。パラフィンブロックを薄片に切り、標準手順に従って調製した。
【0169】
生検切片を、PBS中10%正常ヤギ血清で1時間ブロッキングし、終夜4℃においてビオチン化クロロトキシン希釈液で処理した。完全にすすいだ後、アビジン−ビオチン複合体(ABC)系(Vector Laboratories製Vectastain Elite ABCキット、カリフォルニア州バーリントン(Burlignton))によって染色部を生じ、DAB(3,3’−ジアミノベンジジン、Vector Laboratories)とABC複合体の比色反応によって可視化した。
【0170】
生検切片を、核染料であるメチルグリーンで対比染色して、非染色細胞を可視化した。標識の有効濃度、組織の状態または反応期間の変化により、実験ごとに非特異的バックグラウンド標識は変わり得る。したがって、対照切片は、ビオチン化クロロトキシンではなくメチルグリーンで同様に染色される。ポジティブ細胞染色は、隣接する対照切片と比較した場合のバックグラウンド上のクロロトキシン標識によって定義した。多量の内因性ペルオキシダーゼを含有する細胞は、DABとペルオキシダーゼの反応により、対照において暗いバックグラウンド染色を示す。
【0171】
第3の隣接切片を、ヘマトキシリン(細胞核を染色する)およびエオシン(細胞質を染色する)の両方で染色した。したがって、分析する各組織について3つの隣接する切片を染色した。
【0172】
結果
図1は、ビオチン化クロロトキシンが脳に転移した黒色腫を染色することを示す顕微鏡写真である。11カ所の黒色腫の脳転移のうち11カ所が、TM−601にポジティブであり、5カ所の原発性黒色腫腫瘍のうち5カ所がポジティブであった。さらにクロロトキシンは、肺に転移した黒色腫にも結合する(図2)。一方、正常な皮膚は、TM−601に対して無反応であるが(6/6ネガティブ)(図3)、対照のメラニン細胞にも幾らかのバックグラウンド染色がある。
【0173】
(実施例2:再発性または難治性体細胞および/または脳の転移固形腫瘍を有する患者における静脈131I−TM−601の相I画像および安全性試験)
本発明の実施例は、5つの臨床部位において実施した相I試験から得た予備試験の結果を記載する。この臨床試験では、TM−601を48人の患者に静脈投与した。この多施設非盲検非無作為化の逐次的「被験体内」漸増試験には、標準療法に適していない検出可能な転移性の関与の明白な証拠を示した、組織学的に確認された再発性または難治性いずれかの原発固形悪性腫瘍を有する患者が含まれていた。
【0174】
この相I試験の目的は、a)静脈131I−TM−601が、再発性または難治性転移(脳転移を含む)固形腫瘍を有する患者において腫瘍特異的な局在化を示すかどうかを評価すること、b)静脈投与した131I−TM−601の分布および線量測定を決定すること、ならびにc)静脈投与した131I−TM−601の安全性および耐性を決定することであった。
【0175】
患者および治療プロトコル
48人の被験体が、この試験に登録した。以下に記載のプロトコルを、これらの被験体に使用した。被験体は、131I−TM−601の1〜2回の漸増静脈投与の後、131I−TM−601が標的腫瘍細胞に局在するかどうかを決定する一連の全身スキャンを受け、131I−TM−601の腫瘍特異的取込みが示されると、1回の静脈治療用量の131I−TM−601を受けた。図4のグラフは、投与スキームを示す。
【0176】
試験患者には、最大3回用量の131I−TM−601(10mCi/0.2mg〜30mCi/0.6mgの範囲)を、静脈(IV)注入によって投与した。用量10または20mCiの投与の24時間後に実施した画像によって、131I−TM−601の腫瘍特異的取込みを示した患者のみに、用量30mCiの131I−TM−601を投与した。
【0177】
131I−TM−601の調製
最終的なTM−601薬物生成物は、栓付きのガラスバイアルに入れた滅菌凍結乾燥された白色からオフホワイト色の粉末である。この試験で使用した画像および治療用量は、放射標識TM−601の用量であった。
【0178】
TM−601最終薬物生成物を、放射標識バッファー0.56mLで再構成して、131Iで放射標識した1mg/mLを得、それを臨床部位に送達した。シリンジに注入用の溶液約4mLを入れ、放射活性の内容および量に関する大まかな表示を貼付した。現場で受け取ったら、放射安全管理者または他の適切な現場担当者が、131I−TM−601の放射線計数が、処方の仕様書の範囲内であるかを確認した。最終放射標識薬物生成物を入れたシリンジを遮蔽し、次いで患者への投与に適した病院領域に移動した。131I−TM−601溶液を、2〜8℃で光から保護して保存し、使用まで遮蔽した。131Iで放射標識した後、生成物を24時間以内に使用するよう推奨した。
【0179】
131I−TM−601の投与および画像化試験
放射標識試験用量131I−TM−601を投与した全ての患者には、甲状腺および他の器官への131Iの取込みを遮断するために、用量300mg/日の過飽和ヨウ化カリウム(SSKI)の経口投与を、放射標識131I−TM−601注入の当日および直前に開始し、最少3日間投与した。SSKIを、試験薬物投与の前に、診療所/病院にいない間の薬物の適切な使用について患者に示す指示と共に患者に分配した。
【0180】
131I−TM−601を入れたシリンジを、6インチの静脈針/カテーテルの範囲内の注入ポートに「ピギーバッグ」方式で挿入した。0.9%塩化ナトリウムを100mL/時間で注入すると同時に、生成物を約5〜10分かけて「緩慢なIVプッシュ」によって投与した。131I−TM−601吸入は、以下の、(1)収縮期血圧>25mmHgの下落、(2)研究者によって記録された著しい呼吸困難、(3)体温>102°F、(4)発作、(5)新しい神経学的欠損の意識または発症レベルの変化、あるいは臨床医の判断または患者の要求などの他の理由のいずれかが観測された場合に終了した。
【0181】
用量30mCiの131I−TM−601の投与に関する局在化および適格性を決定するために、ガンマカメラおよびある場合にはSPECTによる画像化を、131I−TM−601投与の24時間後に実施した。
【0182】
安全性の結果
2008年5月現在、合計22件の有害事象が、17人の患者について報告された。全てのSAEが、試験薬物の「可能性が高い」またはそれとは「関係なし」であると研究者によって判断され、これらの事象のうち4つが、承諾後に131I−TM−601試験薬物の投与を継続しなかった2人の患者に生じた。試験薬物の投与前に1人の患者で第5の事象が生じたが、後に投与に成功した。
【0183】
有効性の結果
腫瘍特異的取込みを、静脈投与後に、悪性神経膠腫を有する8人の患者のうち7人;びまん性骨転移1人を含む、転移前立腺がんを有する2人の患者のうち2人;転移非小細胞肺がんを有する5人の患者のうち3人;転移黒色腫を有する8人の患者のうち7人;転移結腸がんを有する8人の患者のうち6人;転移膵臓がんを有する3人の患者のうち2人;転移乳がんを有する4人の患者のうち1人;転移移行上皮癌を有する1人の患者;転移傍神経節腫を有する1人の患者、ならびに多形性黄色星状膠細胞腫を有する1人の患者を含む、様々な腫瘍の種類において観測した(図5にまとめた通り;図6〜9も参照のこと)。
【0184】
全ての患者に、試験用量10mCi(ペプチド0.2mg)の131I−TM−601を静脈投与した。腫瘍の局在化および線量測定分析のために、131I−TM−601の注射直後≦60分)、3時間後、24時間後、48〜72時間後および168時間後の5回の連続する全身ガンマカメラ画像を必要とした。ガンマカメラまたはSPECT画像によって腫瘍の局在化を示した患者には、1週間後に第2の治療用量30mCi(ペプチド0.6mg)の131I−TM−601を投与した。取込みを示さなかった患者は、1週間後に20mCi(ペプチド0.4mg)の131I−TM−601で再治療して、起こり得る局在化を高用量で決定した。
【0185】
腫瘍反応(ガドリニウムで強調される疾患の体積の低減によって定義される)が、28日目の評価において、8人の神経膠腫患者のうち2人の磁気共鳴画像(MRI)に見られたが、これは、ベースラインからの腫瘍体積の測定可能な低減を示していた(図10および11参照)。
【0186】
これらの結果は、インビボで全身送達された131I−TM−601などのクロロトキシン剤の治療効果を示している。これらの結果は、静脈投与された131I−TM−601が、血液脳関門を横断し、手術不能の神経膠腫を有する患者のMRI画像を改善し得ることも示している。さらに、転移がんを有する患者において、静脈を介して送達された131I−TM−601は、遠隔転移を標的にできる(例えば図12参照)。
【0187】
(実施例3:転移黒色腫を有する患者における静脈131I−クロロトキシン(131I−TM−601)の腫瘍特異的標的)
先の臨床試験において、再発性神経膠芽腫多形を有する患者には、腫瘍切除の空洞に131I−クロロトキシンを局所投与した。本発明の実施例では、静脈(IV)投与した131I−クロロトキシンの分布を調査して、静脈投与経路が実行可能であるか、CNSへの転移を含む転移黒色腫を有する患者における腫瘍内取込みをもたらし得るかを決定する。この実施例に記載の実験は、静脈を介して送達された131I−クロロトキシンが、体中の腫瘍部位ならびに脳の転移に局在化することを示している。したがって、静脈投与された131I−クロロトキシンは、血液脳関門を横断し、遠隔転移を標的にするために使用できる。
【0188】
材料および方法
転移黒色腫を有する7人の患者が、実施例2に論じた全身投与の131I−クロロトキシンの前向き臨床試験に登録した。本発明の実施例は、これらの7人の患者に伴う結果をより詳細に論じる。全ての患者に、試験用量10mCi(ペプチド0.2mg)の131I−クロロトキシンを静脈投与した。腫瘍の局在化および線量測定分析のために、131I−クロロトキシンの注射直後(≦60分)、3時間後、24時間後、48〜72時間後および168時間後の5回の連続する全身ガンマカメラ画像を必要とした。ガンマカメラまたはSPECT画像によって腫瘍の局在化を示した患者には、1週間後に第2の治療用量30mCi(ペプチド0.6mg)の131I−クロロトキシンを投与した。取込みを示さなかった患者は、1週間後に20mCi(ペプチド0.4mg)の131I−クロロトキシンで再治療して、起こり得る局在化を高用量で決定した。
【0189】
結果
黒色腫を有する7人の登録患者のうち6人は、131I−クロロトキシンの静脈投与後に、フォローアップのガンマカメラまたはSPECT画像で腫瘍特異的局在化を示した。腫瘍の局在化は、中枢神経系および頭蓋外部位において観測された(一例として図13参照)。残りの患者は、最初の試験用量(10mCi/0.20mgペプチド)の後に試験から離脱し、評価可能とみなされなかった。用量制限毒性は観測されなかった。完全な線量測定分析が、バーミングハムのアラバマ大学で治療を受けた3人の患者に対して利用可能であった。平均放射用量は、全身に対して約0.24cGy/mCi(約0.21〜約0.27cGy/mCiの範囲)、腫瘍に対して約2.56cGy/mCi(約1.36〜約4.43cGy/mCiの範囲)であり、算出治療比は約10(腫瘍用量/身体用量)であった。
【0190】
結果は、静脈投与した131I−クロロトキシンが血液脳関門を横断し、高い率の腫瘍特異的標的をもたらすことを示している。したがって、131I−クロロトキシンは、脳内の遠隔転移を含む遠隔転移を標的にするために使用できる。今後の臨床試験によって、様々な腫瘍の種類における、静脈投与の高用量の131I−クロロトキシンの安全性および有効性が評価されよう。
【0191】
(実施例4:TM−601による脈絡膜血管新生の阻害および退縮)
新血管の形成(血管新生)およびかかる血管の維持は、転移の重要な要素であると考えられる。本発明の実施例では、血管新生を阻害し、かつ/または既存の新しく形成された血管の退縮を生じるクロロトキシンの能力を、脈絡膜血管新生アッセイを使用して評価した。TM−601が、血管形成誘発時の初めに投与される場合、TM−601は、新血管形成の有意な低減を生じた。TM−601が、血管形成が誘発された数日後に投与される実験パラダイムでは、TM−601は、脈絡膜血管新生の有意な退縮を生じた。
【0192】
材料および方法
530nmのレーザーを用いる光凝固によって、脈絡膜血管新生(CNV)をマウスにおいて誘発した。3カ所の熱傷が、網膜の後極の9、12および3時の位置の各網膜に生じた。ブルッフ膜の破壊は、レーザー誘発時に気泡が生成した場合に成功したと判断された。気泡が観測された熱傷のみを、この試験に含めた。
【0193】
最初の実験では、生理食塩水に溶解した50mg/mLのTM−601溶液の硝子体内注射1μLを、片目に注射し(n=17匹の動物、49カ所の定量化できる熱傷)、レーザー光凝固の後に、生理食塩水1μLを反対側の眼(fellow eye)に注射した(n=17匹の動物、44カ所定量化できる熱傷)。数日後、注射を繰り返した。試験の14日目に、マウスにフルオレセイン標識デキストラン(2×106の平均分子量、Sigma)をかん流し、脈絡膜フラットマウントを調製し、蛍光顕微鏡検査によって調査した。
【0194】
第2の実験では、レーザー光凝固を1日目に実施した。10匹のマウスの1群(30カ所の定量化できる熱傷)に、CNVベースライン測定のために、7日目にフルオレセイン標識デキストランをかん流した後、治療を開始した。マウスの残りに、50mg/mLのTM−601溶液の眼内注射1μLを、片目に投与し(n=12匹の動物、34カ所の定量化できる熱傷)、生理食塩水を反対側の眼に注射した(n=13匹の動物、32カ所の定量化できる熱傷)。14日目に、残り全てのマウスにフルオレセイン標識デキストランをかん流し、脈絡膜フラットマウントを調製し、蛍光顕微鏡検査によって調査した。
【0195】
脈絡膜フラットマウントの脈絡膜血管新生病変の大きさを測定した。フルオレセイン標識デキストランを用いたかん流後、両目を取り出し、10%緩衝ホルマリンで1時間固定した。角膜および水晶体を取り出し、全ての網膜を眼杯から切除した。端部から赤道まで、脈絡膜を径方向に切断し、眼杯をフラットマウントした。フラットマウントを、蛍光顕微鏡検査によって調査し、画像をデジタル化した。Image−Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics)を使用して、それぞれの熱傷に関連する脈絡膜血管新生の総面積を測定した。
【0196】
結果
マウスにおけるレーザー光凝固によるブルッフ膜の破壊は、脈絡膜血管新生(CNV)を生じるが、これは、新生血管である加齢性黄斑変性症を有する患者に生じるCNVの多くの局面に類似している。TM−601がこのモデルの新血管形成に影響を与えるかどうかを決定するために、50μgのTM−601の硝子体内注射を、レーザー光凝固の当日(1日目)および7日目に実施した。対照の目には、同じ時点で生理食塩水を注射した。ブルッフ膜の破壊の14日後に、それぞれの目からの脈絡膜フラットマウントを分析した。TM−601治療は、用量50μgの眼内TM−601によって、新血管の形成を有意に低減したことが見出された(図13および15)。
【0197】
このモデルにおける既存の新生血管系に対するTM−601の作用を評価するために、50μgのTM−601の眼内注射による治療を、ブルッフ膜の破壊の7日後まで遅延した。この時点で、血管新生の大きな部位が既に存在していた(図14のベースライン参照)。7日目の生理食塩水の単回注射は、14日目に測定された新血管形成には影響を及ぼさなかったが(図14の対照)、TM−601の単回注射は、CNVの退縮を有意に生じた(図14および15)。
【0198】
議論/結論
本発明の実施例は、局所投与のTM−601が、CNVを有意に抑制し、CNVの退縮を生じ得ることを示している。CNVのマウスモデルは、黄斑変性症の湿潤型の病状に類似している。この試験で使用した硝子体内の投与経路は、それが、黄斑変性症に臨床的に承認されている療法であるLucentis(登録商標)の投与に使用される経路であることから、臨床的に関連があり得る。
【0199】
(実施例5:様々な送達経路を介してマウスのCNVモデルの血管新生を阻害するTM−601)
様々な投与経路によって送達されるTM−601の抗血管新生能を評価するために、本発明の実施例に記載の実験を実施した。脈絡膜血管新生アッセイを使用して、レーザー誘発性ブルッフ膜破壊部位周辺の新血管増殖を測定し、TM−601の局所または全身投与が血管新生の低減を生じるかどうかを決定した。投与の3つの新しい経路、眼周囲(結膜下とも呼ばれる)、静脈および局所(点眼)を試験した。
【0200】
材料および方法
マウスの脈絡膜血管新生(CNV)を、530nmのレーザー光凝固によって誘発した。3カ所の熱傷が、網膜の後極の9、12および3時の位置の各網膜に生じた。レーザー誘発時に気泡生成が生じた場合に、ブルッフ膜破壊の成功が明らかとなった。気泡が観測された熱傷のみを、この試験に含めた。
【0201】
投与
TM−601溶液5μLの眼周囲注射を、生理食塩水に溶解したTM−601濃度2、10、50および200mg/mLで実施した。生理食塩水5μLを、レーザー光凝固後に反対側の眼に注射した。7日後、注射を繰り返した。試験の14日目に、マウスにフルオレセイン標識デキストラン(2×106の平均分子量、Sigma)をかん流し、脈絡膜フラットマウントを調製し、蛍光顕微鏡検査によって調査した。
【0202】
1週間に3回、用量20mg/kgのTM−601を尾静脈注射することによって、静脈投与を実施した。
【0203】
TM−601の局所適用は、1日に3回、点眼剤を適用することによって達成し、各点眼剤は、体積10μLのTM−601を含有していた。TM−601を、活性成分として70%デキストランおよび0.3%ヒプロメロースを含有する市販のArtificial Tears(Rite Aide)に溶解した。不活性成分は、0.1%ベンザルコニウム、エデト酸二ナトリウム、塩化カリウム、精製水および塩化ナトリウムを含む。TM−601の最終濃度を1、5および25mg/mLにして、点眼剤10μL当たりそれぞれ単回用量10、50および250μgを得た。
【0204】
組織学的分析およびイメージング
脈絡膜フラットマウントの脈絡膜血管新生病変の大きさを測定した。フルオレセイン標識デキストランを用いたかん流後、両目を取り出し、10%緩衝ホルマリンで1時間固定した。角膜および水晶体を取り出し、全ての網膜を眼杯から切除した。端部から赤道まで、脈絡膜を放射状に切断し、眼杯をフラットマウントした。フラットマウントを、蛍光顕微鏡検査によって調査し、画像をデジタル化した。Image−Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics)を使用して、それぞれの熱傷に関連する脈絡膜血管新生の総面積を測定した。
【0205】
結果
マウスにおけるレーザー光凝固によるブルッフ膜の破壊は、脈絡膜血管新生(CNV)を生じるが、これは、新生血管である加齢性黄斑変性症を有する患者に生じるCNVの多くの局面に類似している。このモデルを使用して、本発明者らは、TM−601の眼内注射が血管新生を有意に低減し、また新血管の退縮を生じることを既に示した(実施例4参照)。
【0206】
現在の試験では、他の投与経路(眼周囲、静脈および局所)を調査した。最初の眼周囲試験では、250μgのTM−601の眼周囲注射を、レーザー光凝固の当日(1日目)および7日目に実施した。対照の目には、同じ時点で生理食塩水を注射した。ブルッフ膜の破壊の14日後に、それぞれの目からの脈絡膜フラットマウントを分析した。TM−601治療は、用量250μgの眼周囲TM−601によって、新血管の形成を有意に低減したことが見出された(図16)。
【0207】
眼周囲注射の用量反応を決定するために、TM−601を10μg、50μg、250μgまたは1000μgの用量で注射した。10μgの用量では、脈絡膜血管新生を有意に低減しなかったが、50μg以上の用量では、CNVが同程度低減した(図17)。興味深いことには、眼周囲注射を投与された動物の反対側の眼も、CNVの低減を示した(図17の緑色の曲線)。
【0208】
全身注射したTM−601が、脈絡膜にも浸透し、血管新生を阻害するかどうかを決定するために、TM−601を、2週間の試験にわたって週3回、20mg/kgの用量で尾静脈に注射した。静脈注射では、TM−601は、CNVを有意に低減したことが見出された(図18)。
【0209】
この実施例で調査した3つの投与経路の中で最小の浸潤性である局所点眼剤の適用も試験した。TM−601を、市販の点眼潤滑剤に再懸濁し、点眼剤10μLによって1日3回適用した。送達された最大用量で(1滴当たり0.25mg、1日3回)、CNVの低減が観測されたが、これは生理食塩水対照とは統計的に異なってはいなかった(図19)。
【0210】
議論/結論
CNVのマウスモデルは、黄斑変性症の湿潤型の病状に類似している。図4に示した通り、硝子体内投与経路は、脈絡膜血管新生を有意に低減することができる。これは、黄斑変性症に臨床的に承認されている療法であるLucentis(登録商標)の投与に使用されるのと同じ経路である。しかし本発明者らは、浸潤性が低い送達方法が有利であると認識し、TM−601の眼周囲、静脈および局所送達を試験した。全ての場合において、TM−601はCNVの低減を示したが、局所点眼剤で見られた低減については、統計的な有意性への到達が観測されなかった。TM−601の眼周囲注射は、眼内送達を必要とする薬物(例えばLucentis(登録商標))よりも有利である可能性がある。
【0211】
図17で観測された「反対側の眼の効果」は、興味深いものであり得る。眼周囲注射したTM−601は、隣接する目(注射を受けなかった)のCNVの有意な低減を生じた。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、この現象についてあり得る説明は、注射した材料が全身循環に入り、その結果、反対側の眼が薬物曝露したということである。類似の反対側の眼の効果は、局所点眼剤では観測されなかった。
【0212】
これらの結果は、様々な投与経路によって送達されたTM−601が、抗血管新生作用を示し、したがって、転移がんの治療剤としてクロロトキシンの有用性をさらに支持することを示している。
【0213】
(実施例6:新血管へのTM−601の局在化および新生血管内皮細胞のTM−601誘発性アポトーシス)
実施例4および5に記載の実験は、クロロトキシンが、脈絡膜血管新生(CNV)のマウスモデルにおいて血管新生を阻害し、新血管の退縮を生じ得ることを示した。本発明の実施例に記載の実験は、実施例4および5に示した通り、クロロトキシンの抗血管新生作用機構の理解を対象とした。本発明の実施例の結果は、TM−601が、マウスのCNVモデルにおいて新血管に局在化し、新血管内皮細胞のアポトーシスを誘発することを示した。さらに、本発明の実施例の結果は、TM−601が、CNVモデルおよび網膜症モデルの両方の血管新生領域において、本発明者らが過去の試験でTM−601と結合することを観測したアネキシンA2と共に局在化することを示した。
【0214】
TM−601は、目の脈絡膜血管新生を阻害し、新しく形成された血管の退縮を生じることが示されたが、過去には、TM−601が目の特定の細胞種に直接的に結合し、または非特異的に薬理学的活性を有するかどうかは公知でなかった。131I−TM−601の静脈注射後の全身の平面像において、脈管構造との全身的な結合は観測されなかった。したがって、いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、TM−601は、新血管形成部位において活性化したまたは増殖している細胞のサブセットのみに選択的に結合すると仮定した。
【0215】
新血管形成は、CNVのマウスモデルにおいて誘発され、かかるモデルにおける硝子体内または結膜下注射後のTM−601の位置が決定された。さらに、TUNELアッセイを使用して、新血管の退縮が、脈絡膜血管新生部位における内皮細胞のアポトーシスによるものかどうかを決定した。
【0216】
TM−601の抗血管新生作用の機構をさらに理解するために、血管新生領域において、TM−601と、クロロトキシンの推定細胞受容体であるアネキシンA2の共局在化を、免疫組織化学によって調査した。アネキシンA2は、本発明者らによって、TM−601に結合することが観測された。アネキシンA2は、内皮細胞の表面に発現し、特定の腫瘍種において過剰発現する。アネキシンA2は、プラスミノーゲンおよびプラスミンなどの血管新生促進および/または抑制タンパク質の変換を制御するドッキングステーションとして特徴付けられている。
【0217】
材料および方法
マウスの脈絡膜血管新生(CNV)を、530nmのレーザー光凝固によって誘発した。3カ所の熱傷が、網膜の後極の9、12および3時の位置の各網膜に生じた。レーザー誘発時に気泡生成が生じた場合に、ブルッフ膜破壊の成功が明らかとなった。気泡が観測された熱傷のみを、この試験に含めた。
【0218】
投与
1μLのTM−601(生理食塩水に溶解した50μg/μL)の眼内注射を、CNV病変の7日後に実施した。5μLの結膜下注射を、生理食塩水に溶解したTM−601濃度10μg/μLを使用して、7および8日目に実施した。反対側の眼には注射しなかった。動物を9日目に屠殺し、両目を取り出し、CNV病変を貫いて切片を切り取った。凍結切片を、以下に記載の通り染色した。
【0219】
免疫組織化学
TM−601局在化試験では、ウサギ抗TM−601(図20A、BおよびCならびに図21A、BおよびCの赤色)原発性抗体を使用した。蛍光検出は、蛍光標識抗ウサギIgG二次抗体を使用して実施した。切片を、やはり蛍光標識GSAレクチンで染色して(図20D、EおよびFならびに図21D、EおよびFの緑色)、内皮細胞を同定した。アポトーシス細胞の検出のために、切片を、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)について染色した。このアッセイは、アポトーシス細胞の死滅の特徴であるDNA断片化を示す細胞核を検出するために使用される。切片を、核染色でも染色した。アネキシンA2での共局在化試験では、切片を抗アネキシンA2でも染色した。
【0220】
内皮細胞増殖アッセイ
内皮細胞増殖アッセイは、Promega製のCellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution細胞増殖キット(カタログ番号#G3582)を使用して実施した。簡潔には、4,000個の細胞(72時間のアッセイ)または1,000個の細胞(120時間のアッセイ)を、96ウェルトレーの各ウェルに蒔き、終夜置いた。翌日、TM−601または希釈物をウェルに添加した。次いで、細胞を72時間または120時間、37℃で培養した。細胞数を、キットプロトコルに従ってMTSテトラゾリウムで染色することによって決定した。490nmにおける吸光度によって測定したホルマザン生成物の量は、培養物の生存細胞の数に正比例する。
【0221】
結果
CNVのマウスモデルのTM−601の抗血管新生作用の機構を調査するために、TM−601を、レーザー誘発性光凝固後の7日目にマウスの目に眼内注射し、または7および8日目に眼周囲注射することによって、TM−601の局在化を試験した。試験の9日目に、目をTM−601に対して免疫染色した。両方の投与経路に関して、TM−601は脈絡膜の内皮細胞に特異的に局在化したことが見出された(図20および21)。網膜層の下の既存の血管に関連する検出可能なTM−601は観測されなかったが、これは、TM−601が脈絡膜の新しく形成された血管に選択的に結合したことを示すものである。
【0222】
実施例4に記載の通り、レーザー光凝固の結果としての新血管形成の1週間後、TM−601の単回眼内注射によって、CNVの有意な退縮が生じた。しかし、この効果の機構は未だ知られていなかった。TM−601が、このモデルにおいて新しく形成する脈管構造に寄与する細胞のアポトーシスを生じ得るかどうかを試験するために、CNV病変を切り取った切片を、TUNELに対して染色した。アポトーシス細胞(ポジティブTUNEL染色によって同定される)は、内皮染色と共に局在化していたが、これは、脈絡膜血管新生の領域における内皮細胞が、眼内または眼周辺TM−601治療のいずれかの後にアポトーシスを受けたことを示している(図22および23)。生理食塩水を注射した目には、アポトーシスは検出されなかった。培養内皮細胞のTM−601でのインビトロ治療は、広範なTM−601濃度にわたって細胞毒性がないことから、インビボで治療を受けた目の内皮細胞のアポトーシスは予想外であった(図24)。
【0223】
TM−601の抗血管新生作用の機構をさらに理解するために、TM−601と、クロロトキシンの推定細胞受容体であるアネキシンA2を用いて、共局在化試験を実施した。血管新生を、2つの異なるモデルの目で誘発し、脈絡膜血管新生を、レーザーによるブルッフ膜の破壊によって誘発し、網膜症血管新生を、酸素誘発性虚血によって誘発した。TM−601を、類似の実験(experient)について本明細書で記載の通り眼内注射した。血管新生の両方のモデルにおいて、TM−601はアネキシンA2と共に局在化した(図25)。
【0224】
議論/結論
この実施例で提示された結果は、クロロトキシンの抗血管新生作用に関係する幾つかの重要な発見を支持するものである。第1に、眼内または眼周囲注射したTM−601は、レーザー誘発性のブルッフ膜破壊後に、脈絡膜層の新しく形成された脈管構造の内皮細胞に選択的に結合する。TM−601は、既存の成熟した血管には結合しなかった。これらの結果は、131I−TM−601が静脈注射後に身体の全ての血管に無差別には結合しないという観測と一致する。その代わり、放射標識は、腫瘍特異的および/または新血管特異的結合により、主に腫瘍領域において検出される。第2に、TM−601と内皮細胞の結合は、既存の血管ではなく、レーザー損傷部位の周囲に形成する新血管の選択的アポトーシスをもたらす。第3に、TM−601は、プラスミノーゲンおよびプラスミンなどの血管新生促進および/または抑制タンパク質の変換の制御に関与するアネキシンA2と共に局在化し、これによってクロロトキシンは、アネキシンA2を介してその抗血管新生作用の少なくとも幾らかを発揮する可能性が高くなる。
【0225】
(実施例7:インビトロでの腫瘍細胞遊走に対するTM−601の作用)
この実施例に記載の実験は、転移の主な役割を担う細胞転移に対するクロロトキシンの役割を解明することを対象とした。TM−601は、トランスウェル浸潤アッセイによって評価される通り、細胞遊走に対して用量依存性阻害作用を示した。
【0226】
材料および方法
トランスウェル(Corning、8μm)を横断するヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の遊走を、約5×104の血清飢餓細胞で三重に実施した。ボトムウェルの化学誘因物質に、0.4%FBSを含有する培地中VEGFまたはbFGF(50ng/ml)を入れた。トランスウェルに細胞を入れる前に、10マイクロモルのTM−601を、室温で30分間、細胞でインキュベートした。37℃において22時間後、上表面の非遊走細胞を、Q−チップを使用して除去した。膜を介して遊走する細胞を、メタノールで固定し、Giemsa染色で可視化した。トランスウェルを血球計に重ね、5つの領域のそれぞれにおける細胞数を計数することによって、浸潤細胞の定量的計数を実施した。
【0227】
結果
図26Aに示した通り、TM−601は、用量依存的に細胞遊走を阻害した。VEGFによって刺激されようとbFGFによって刺激されようと、TM−601の存在下では約50パーセント少ない細胞が遊走していた(図26B)。
【0228】
(実施例8:MMP2活性に対するTM−601の作用)
先に論じた通り、細胞遊走は、転移の主な役割を担っている。細胞外マトリックスの分解は、細胞移動を容易にするものであり、細胞遊走における非常に重要なステップである。本発明の実施例では、細胞外マトリックスを分解する酵素であるマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP2)に対するTM−601の作用を、神経膠腫細胞系である2つの異なる細胞種HUVECおよびU87で試験した。これらの実験結果は、TM−601がMMP2活性を阻害することを示した。
【0229】
MMP−2活性は、処理なしの、bFGFで処理した、bFGFと一緒に10μMのTM−601で処理した培養HUVEC細胞から採取した培地で測定した(HUVEC細胞は、実施例7に記載の通り培養した)。図26Cに図示した通り、TM−601での処理は、bFGFによって誘発されたMMP2活性の増大をほぼ消失させた。
【0230】
MMP−2活性を、10μMのTM−601で処理した、またはTM−601では処理しなかった培養U87細胞から採取した培地でも測定した。図27に図示した通り、TM−601は、U87ヒト神経膠腫細胞から分泌されたMMP−2活性を低減する。
【0231】
これらの結果は、TM−601がMMP−2活性に対して阻害作用を有することを示唆している。
【0232】
実施例6〜8の議論
これらをまとめると、実施例6〜8で提示されたデータは、TM−601の抗血管新生作用のより良好な理解をもたらす。細胞培養において、TM−601は、増殖する内皮細胞と結合し、新血管形成の非常に重要なステップである細胞遊走を遮断することが示された(実施例7参照)。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、新しく形成された血管だけがTM−601と結合し、成熟した脈管構造の無活動細胞は結合しないことから、ある形態の細胞活性化が、TM−601と内皮細胞の結合にとってインビボで必要とされると思われる。さらに、培養物において増殖するHUVEC細胞は、TM−601がHUVEC細胞の増殖を低減しないことから(アポトーシスはインビトロで生じていたと予想され得るので)、新生血管系の活性化内皮細胞とは類似しない。したがってデータは、新しく形成される脈管構造に対するTM−601の1つの作用が、内皮細胞遊走を遮断することによって新血管形成を阻害することであると示唆している。TM−601は、TM−601に結合する新しく形成された血管がアポトーシスを受けるという、CNVモデルにおける第2の作用を発揮することが観測された。
【0233】
まとめると、インビトロの証拠は、TM−601が内皮細胞遊走を遮断し、したがって血管新生の非常に重要な初期のステップを防止することを示唆している。さらにTM−601は、CNVモデルにおいて新しく形成された血管の退縮を、アポトーシスを介して生じることが示されている。
【0234】
これらの実施例に記載の結果は、クロロトキシンの抗血管新生特性の機構を明らかにしたが、これらの特性は、転移腫瘍に対する治療剤としてのクロロトキシンの有用性に関して特に魅力的な性質である。
【0235】
(実施例9:ヒトの患者の腫瘍に対する静脈を介して送達された非標識TM−601の作用)
この実施例で提示されたヒトの臨床データによって、静脈を介して送達された非標識TM−601の、がんを治療する能力を調査する。先に論じた通り、インビトロデータによって、TM−601が血管内皮細胞に結合し、内皮細胞遊走を遮断することが示された。本発明者らはまた、TM−601の静脈注入が血管新生を低減することを示すインビボデータを得た。これらの観測は、公知の血管過剰を伴う浸潤性がんである悪性神経膠腫において、静脈投与された非標識TM−601の使用を評価するための相I試験の開始を促進するものであった。この試験の主な目的は、a)再発性悪性神経膠腫を有する成人患者におけるTM−601の安全性および耐性を決定すること、b)磁気共鳴(MR)かん流画像の変化を基にして静脈投与する場合に、TM−601の推奨される標的相II用量および生物学的に活性な用量を決定すること、ならびにc)各用量レベルにおけるTM−601の薬物動態を決定することである。
【0236】
患者および治療プロトコル
この試験に適した再発性悪性神経膠腫を有する患者に、10mCi/0.2mgの131I−TM−601を静脈(IV)注入によって投与して、腫瘍特異的な局在化を示す(画像用量)。脳のSPECTスキャンに対して131I−TM−601の腫瘍特異的取込みを示す患者のみが、非標識TM−601を用いる治療を受ける試験に残る。画像用量の1週間後、試験患者に、非標識TM−601を、4週1サイクルのうちの3週間に、1週間に1回、6種類の用量レベル(0.04mg/kg、0.08mg/kg、0.16mg/kg、0.3mg/kg、0.6mg/kgおよび1.2mg/kg)の1つで静脈注入することによって投与する。非標識TM−601の後続のサイクルは、疾患の進行の証拠がなく、患者が用量制限毒性を経験しない限り投与される。患者は、かん流を評価するための従来の動的感受率の対比MRIを用いて、各サイクルの4週目に評価する。
【0237】
2009年1月現在、再発性悪性神経膠腫を有する6人の患者が試験に登録し、分析に利用可能な画像データを有していた。安全性に関して、治療に関係する可能性があるとみなされるある腫瘍内出血事象があった。治療に関係していないとみなされる3つの他の深刻な有害事象には、治療時の疾患の進行、股関節骨折および腎臓結石の既往歴がある患者における腎臓結石が含まれていた。この最初の投与コホートの6人の患者のうち2人が、治療前のベースラインと比較して、相対的脳血流量(rCBF)および/または相対的脳血液量(rCBV)において25%を超える低減を示した。かん流MRIパラメータの改善を伴う両方の患者が、腫瘍の進行の証拠なしに、多数サイクルの治療によって特徴付けられる静脈TM−601に対する広範な反応を有した。
【0238】
これらの結果は、非標識クロロトキシンが、本発明の実施例では悪性神経膠腫である強力な転移の潜在可能性を有する浸潤性がんに対する治療剤としての見込みを示すことを示している。
【0239】
(実施例10:PEG化クロロトキシンのバイオアベイラビリティおよび抗血管新生作用)
本発明の実施例では、PEG化クロロトキシンを試験して、クロロトキシンのインビボ半減期が増大し得るかどうかを決定した。PEG化クロロトキシンの抗血管新生作用も試験した。
【0240】
材料および方法
PEG化
TM−601を、40kDaの多分散直鎖PEG−プロピオンアルデヒド(DowPharma)を使用する還元的アミノ化(animation)を介して、ペプチドのN末端でPEG化した。
【0241】
TM−601の半減期測定
非腫瘍担持C57BL/6マウスに、単回尾静脈注射によってTM−601(用量約2mg/kg)を静脈注射した。血液サンプルを、様々な時点で採取し、TM−601のレベルを、抗TM−601抗体を使用するELISAによって決定した。
【0242】
マウスマトリゲルプラグ
マトリゲルマトリックス高濃縮物(BD Biosciences製)を、4℃で100ng/mlのVEGF、100ng/mlのbFGFおよび3ng/mlのへパリンと混合した。8週齢の雌性C57BL/6マウスを、各群6匹のマウスの各群に無作為に割り当てた。各マウスに、2つの500μLマトリゲルプラグを、皮下組織下の両側に注射した。円形プラグを形成するために、通常の皮下挿入後に、針先を左右に揺り動かすことによって、広範な皮下ポケットを形成した。21〜25Gの針で急速に注射して、全含量をプラグに送達した。マトリゲルプラグを試験の0日目に埋め込み、1日目に治療を開始した。動物に、ビヒクル(生理食塩水)、TM−601またはPEG化TM−601のいずれかを静脈注射によって投与した。3種類の投与レジメン:2週間で週1回(1日目に1回と8日目に1回;「Q7D×2」)、2週間で週2回(1日目、4日目、8日目および11日目;「Q3D×2/2」)および2週間で週5回(1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、8日目、9日目、10日目、11日目および12日目;「Q1D×5/2」)を使用した。プラグは14日後に収集した。マウスを安楽死させ、プラグ上の皮膚を引き剥がした。切開してプラグを取り出し、固定し、組織学的分析のためにパラフィンに埋め込んだ。評価可能な各プラグから、5μmの厚さの3つの切片をCD31抗体で免疫染色し、ヘマトキシリン&エオシンで対比染色した。各マトリゲルプラグの断面積の血管計数を、顕微鏡で分析した。
【0243】
結果/議論
図28に示した通り、PEG化TM−601は、非修飾TM−601と比較して、インビボ半減期の増大を示した。ペグ化は、TM−601の半減期を、約32倍、即ち約25分(TM−601)から約16時間(TM−601−PEG)に増大した。
【0244】
半減期の増大は、結果として、血管新生のモデルにおいて動物への投与頻度を低減する能力につながる。マウスのマトリゲルプラグアッセイでは、動物に、TM−601またはPEG化TM−601(TM−601−PEG)のいずれかを、様々なスケジュールに従って投与した。微小血管密度を測定し、かかる密度の低減は、抗血管新生作用を示すと解釈した。
【0245】
TM−601およびTM−601−PEGの両方は、試験した最も頻度の高い2つの投与スケジュールで(2週間で週2回、「Q3D×2/2」および2週間で週5回、「Q1D×5/2」)、抗血管新生作用を有していた(図29)。TM−601は、試験した最も頻度の少ない投与スケジュールでは(2週間で週1回、「Q7D×2」)、いかなる抗血管新生作用も示さなかったが、かかる用量スケジュールでTM−601−PEGを用いた治療では、微小血管密度の有意な低減がもたらされた(図29)。
【0246】
いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、動物への投与頻度を低減する能力は、TM−601と比較して、TM−601−PEGのより長期的な有効性に起因し得る。かかる高い有効性は、新血管形成部位における長期曝露をもたらすことができ、より持続的な作用が可能になる。これらの特徴(例えば、高い有効性、持続的効果等)は、転移腫瘍の治療に有利になり得る。
【0247】
(実施例11:肺転移に対するTM−601の作用)
本発明の実施例では、肺の転移を阻害するTM−601の能力を、黒色腫細胞をマウスに注射するマウスモデルを使用して調査する。TM−601で治療したまたは治療なしのマウスにおいて生じた肺転移の数を計数する。
【0248】
B16/F10マウスの黒色腫細胞系を、ATCCから入手し、推奨仕様書に従って培養する。各マウスに、腫瘍細胞懸濁液(1×105個の細胞/マウス)を含有する0.9%NaCl溶液0.2mLを静脈接種する。
【0249】
薬物注射は、以下の表1に従って腫瘍細胞と同時投与する。動物には、以下の表1に記載の用量の試験物質を投与する。動物は、2週間で週5回、毎日投与を受ける。滅菌PBSを、ビヒクル対照として使用する。TM−601を、滅菌PBS溶液で再構成する。治療開始後、マウスの体重測定値を週2回記録し、全体的な観測を毎日少なくとも1回行う。全ての群の全てのマウスを、14日目(または瀕死状態が決定した際)に屠殺し、B16/F10肺コロニーの数を計数する。計数したコロニーは、気管を介して点滴したブアン固定液で膨張した肺において、可視の黄色のバックグラウンド上の黒色の肺小結節として目に見える。
【0250】
【表1】
【0251】
他の実施形態
本発明の他の実施形態は、本明細書に開示の本発明の明細書または実施を考慮することによって、当業者には明らかとなろう。本明細書および実施例は、単に例示的なものとしてみなされ、本発明の真の範囲は、以下の特許請求の範囲によって示されるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの原発腫瘍から生じる少なくとも1つの転移を有するかまたはそれにかかりやすい個体を治療する方法であって、該個体に、クロロトキシン剤が前記少なくとも1つの転移に結合するような有効用量の該クロロトキシン剤を投与するステップを含む方法。
【請求項2】
前記クロロトキシン剤が全身投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロロトキシン剤が静脈投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記クロロトキシン剤が、脳内に位置する少なくとも1つの腫瘍転移に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記クロロトキシン剤が、正常細胞よりもがん細胞を選択的に標的にする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記クロロトキシン剤が、クロロトキシン、生物学的に活性なクロロトキシンサブユニットおよびクロロトキシン誘導体からなる群から選択されるクロロトキシン部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記クロロトキシン剤が、少なくとも1つの治療部分に結合しているクロロトキシン部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記クロロトキシン部分および治療部分が、直接的に共有結合している、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記クロロトキシン部分と治療部分とが融合して、融合タンパク質を形成している、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記クロロトキシン部分と治療部分とが、リンカーを介して共有結合している、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記治療部分が抗がん剤を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記治療部分が細胞増殖抑制剤を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記治療部分が細胞毒性剤を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞毒性剤が、毒素、生物活性タンパク質、化学療法抗生物質、核酸分解酵素および放射性同位体からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞毒性剤が放射性同位体を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記放射性同位体がヨウ素−131(131I)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記抗がん剤が、アルキル化剤、プリン拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、植物性アルカロイド、インターカレーティング抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗物質、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン剤および抗アンドロゲン剤からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記抗がん剤が、約5から2000ヌクレオチド長である核酸剤を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸剤がアンチセンス剤を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記核酸剤がアンチセンス剤をコードする、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記核酸剤が、細胞に導入される場合にアンチセンス剤を送達するベクターとして働く、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記核酸剤が阻害性RNAを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記核酸剤が阻害性RNAをコードする、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記核酸剤が、細胞に導入される場合に阻害性RNAを送達するベクターを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記原発腫瘍が固形腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記原発腫瘍が難治性腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記原発腫瘍が再発性腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記原発腫瘍が、肺がん、骨がん、肝臓がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部または頸部のがん、皮膚または眼内の黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、結腸がん、乳がん、子宮がん、性器または生殖器の癌、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟組織の肉腫、尿道がん、慢性または急性の白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎臓がん、腎細胞癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉がん、脊髄軸の腫瘍、神経膠腫、髄膜腫および下垂体腺腫からなる群のメンバーである、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記原発腫瘍が皮膚または眼内の黒色腫である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記原発腫瘍が神経外胚葉起源の腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記神経外胚葉起源の腫瘍が、神経膠腫、髄膜腫、上衣腫、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、神経節腫、褐色細胞腫、黒色腫、末梢性原始神経外胚葉腫瘍、肺の小細胞癌およびユーイング肉腫からなる群のメンバーである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記神経外胚葉起源の腫瘍が神経膠腫である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記投与ステップが、少なくとも1回の用量のクロロトキシン剤を投与することを含み、前記用量が、約0.01mg/kgから約5mg/kgを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記クロロトキシン剤を前記個体に投与する前に、少なくとも1つの転移を検出するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つの転移を検出するステップが、
前記個体に有効量の標識クロロトキシン剤を投与するステップ、および
前記個体の身体の前記少なくとも1つの原発腫瘍の位置以外の身体の少なくとも1つの位置における前記標識クロロトキシン剤の結合を測定するステップであって、正常組織と比較して高いレベルの結合は、1つまたはそれより多くの転移の存在を示すステップ
を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記標識クロロトキシン剤が全身投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記標識クロロトキシン剤が静脈投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記標識クロロトキシン剤が、フルオロフォア、放射性同位体および常磁性金属イオンからなる群から選択される少なくとも1つの標識部分で標識されている、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記標識部分がヨウ素−131(131I)またはヨウ素−125(125I)を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記標識部分がテクネチウム−99m(99mTc)を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記標識部分が銅−64(64Cu)を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記標識クロロトキシン剤の組織に対する結合を測定する前記ステップが、レーザー誘発性蛍光分光法、ガンマカメラ、単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)および陽電子断層撮影法(PET)からなる群から選択される技術を使用して実施される、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
化学療法剤を前記個体に投与するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項44】
前記化学療法剤が、アルキル化剤、プリン拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、植物性アルカロイド、インターカレーティング抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗物質、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン剤および抗アンドロゲン剤からなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記少なくとも1つの転移の新生血管系が退縮する、請求項1に記載の方法。
【請求項46】
血管新生が阻害される、請求項1に記載の方法。
【請求項47】
前記原発腫瘍における少なくとも1つの細胞の遊走が阻害される、請求項1に記載の方法。
【請求項48】
前記クロロトキシン剤がポリマーと共有結合している、請求項1に記載の方法。
【請求項49】
前記ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
少なくとも1つの原発腫瘍を有するかまたは有していた個体の1つまたはそれより多くの転移の存在を検出する方法であって、
該個体に有効量の標識クロロトキシン剤を投与するステップ、および
該個体の身体の該少なくとも1つの原発腫瘍の位置以外の少なくとも1つの位置における、該標識クロロトキシン剤の結合を測定するステップであって、正常組織と比較して高いレベルの結合は、1つまたはそれより多くの転移の存在を示すステップ
を含む方法。
【請求項51】
前記標識クロロトキシン剤が全身投与される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記標識クロロトキシン剤が静脈投与される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記標識クロロトキシン剤が、脳内に位置する少なくとも1つの腫瘍転移に結合する、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記標識クロロトキシン剤が、正常細胞よりもがん細胞を選択的に標的にする、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
前記標識クロロトキシン剤が、クロロトキシン、生物学的に活性なクロロトキシンサブユニットおよびクロロトキシン誘導体からなる群から選択されるクロロトキシン部分を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項56】
前記標識クロロトキシン剤が、フルオロフォア、放射性同位体および常磁性金属イオンからなる群から選択される少なくとも1つの標識部分で標識されている、請求項50に記載の方法。
【請求項57】
前記標識部分がヨウ素−131(131I)またはヨウ素−125(125I)を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記標識部分がテクネチウム−99m(99mTc)を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記標識部分が銅−64(64Cu)を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
前記標識クロロトキシン剤の組織に対する結合を測定する前記ステップが、レーザー誘発性蛍光分光法、ガンマカメラ、単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)および陽電子断層撮影法(PET)からなる群から選択される技術を使用して実施される、請求項56に記載の方法。
【請求項61】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が固形腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項62】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が難治性腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項63】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が再発性腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項64】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が、肺がん、骨がん、肝臓がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部または頸部のがん、皮膚または眼内の黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、結腸がん、乳がん、子宮がん、性器または生殖器の癌、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟組織の肉腫、尿道がん、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎臓がん、腎細胞癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉がん、脊髄軸の腫瘍、神経膠腫、髄膜腫および下垂体腺腫からなる群から選択される腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項65】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が皮膚または眼内の黒色腫である、請求項50に記載の方法。
【請求項66】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が神経外胚葉起源の腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項67】
前記神経外胚葉起源の腫瘍が、神経膠腫、髄膜腫、上衣腫、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、神経節腫、褐色細胞腫、黒色腫、末梢性原始神経外胚葉腫瘍、肺の小細胞癌、ユーイング肉腫、および脳内の神経外胚葉起源の転移腫瘍からなる群のメンバーである、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記神経外胚葉起源の腫瘍が神経膠腫である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記投与ステップが、少なくとも1回の用量の標識クロロトキシン剤を全身投与するステップを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項70】
前記投与ステップが、第1および第2の用量の標識クロロトキシン剤を全身投与するステップを含み、該第2の用量が該第1の用量よりも多い、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記投与ステップが、第1、第2および第3の用量の標識クロロトキシン剤を全身投与するステップを含み、該第2の用量が該第1の用量よりも多く、該第3の用量が該第2の用量よりも多い、請求項69に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも1つの原発腫瘍から生じる少なくとも1つの転移を有するかまたはそれにかかりやすい個体を治療する方法であって、該個体に、クロロトキシン剤が前記少なくとも1つの転移に結合するような有効用量の該クロロトキシン剤を投与するステップを含む方法。
【請求項2】
前記クロロトキシン剤が全身投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロロトキシン剤が静脈投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記クロロトキシン剤が、脳内に位置する少なくとも1つの腫瘍転移に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記クロロトキシン剤が、正常細胞よりもがん細胞を選択的に標的にする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記クロロトキシン剤が、クロロトキシン、生物学的に活性なクロロトキシンサブユニットおよびクロロトキシン誘導体からなる群から選択されるクロロトキシン部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記クロロトキシン剤が、少なくとも1つの治療部分に結合しているクロロトキシン部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記クロロトキシン部分および治療部分が、直接的に共有結合している、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記クロロトキシン部分と治療部分とが融合して、融合タンパク質を形成している、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記クロロトキシン部分と治療部分とが、リンカーを介して共有結合している、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記治療部分が抗がん剤を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記治療部分が細胞増殖抑制剤を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記治療部分が細胞毒性剤を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞毒性剤が、毒素、生物活性タンパク質、化学療法抗生物質、核酸分解酵素および放射性同位体からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞毒性剤が放射性同位体を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記放射性同位体がヨウ素−131(131I)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記抗がん剤が、アルキル化剤、プリン拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、植物性アルカロイド、インターカレーティング抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗物質、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン剤および抗アンドロゲン剤からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記抗がん剤が、約5から2000ヌクレオチド長である核酸剤を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸剤がアンチセンス剤を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記核酸剤がアンチセンス剤をコードする、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記核酸剤が、細胞に導入される場合にアンチセンス剤を送達するベクターとして働く、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記核酸剤が阻害性RNAを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記核酸剤が阻害性RNAをコードする、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記核酸剤が、細胞に導入される場合に阻害性RNAを送達するベクターを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記原発腫瘍が固形腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記原発腫瘍が難治性腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記原発腫瘍が再発性腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記原発腫瘍が、肺がん、骨がん、肝臓がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部または頸部のがん、皮膚または眼内の黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、結腸がん、乳がん、子宮がん、性器または生殖器の癌、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟組織の肉腫、尿道がん、慢性または急性の白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎臓がん、腎細胞癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉がん、脊髄軸の腫瘍、神経膠腫、髄膜腫および下垂体腺腫からなる群のメンバーである、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記原発腫瘍が皮膚または眼内の黒色腫である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記原発腫瘍が神経外胚葉起源の腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記神経外胚葉起源の腫瘍が、神経膠腫、髄膜腫、上衣腫、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、神経節腫、褐色細胞腫、黒色腫、末梢性原始神経外胚葉腫瘍、肺の小細胞癌およびユーイング肉腫からなる群のメンバーである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記神経外胚葉起源の腫瘍が神経膠腫である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記投与ステップが、少なくとも1回の用量のクロロトキシン剤を投与することを含み、前記用量が、約0.01mg/kgから約5mg/kgを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記クロロトキシン剤を前記個体に投与する前に、少なくとも1つの転移を検出するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つの転移を検出するステップが、
前記個体に有効量の標識クロロトキシン剤を投与するステップ、および
前記個体の身体の前記少なくとも1つの原発腫瘍の位置以外の身体の少なくとも1つの位置における前記標識クロロトキシン剤の結合を測定するステップであって、正常組織と比較して高いレベルの結合は、1つまたはそれより多くの転移の存在を示すステップ
を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記標識クロロトキシン剤が全身投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記標識クロロトキシン剤が静脈投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記標識クロロトキシン剤が、フルオロフォア、放射性同位体および常磁性金属イオンからなる群から選択される少なくとも1つの標識部分で標識されている、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記標識部分がヨウ素−131(131I)またはヨウ素−125(125I)を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記標識部分がテクネチウム−99m(99mTc)を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記標識部分が銅−64(64Cu)を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記標識クロロトキシン剤の組織に対する結合を測定する前記ステップが、レーザー誘発性蛍光分光法、ガンマカメラ、単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)および陽電子断層撮影法(PET)からなる群から選択される技術を使用して実施される、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
化学療法剤を前記個体に投与するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項44】
前記化学療法剤が、アルキル化剤、プリン拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、植物性アルカロイド、インターカレーティング抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗物質、有糸分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン剤および抗アンドロゲン剤からなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記少なくとも1つの転移の新生血管系が退縮する、請求項1に記載の方法。
【請求項46】
血管新生が阻害される、請求項1に記載の方法。
【請求項47】
前記原発腫瘍における少なくとも1つの細胞の遊走が阻害される、請求項1に記載の方法。
【請求項48】
前記クロロトキシン剤がポリマーと共有結合している、請求項1に記載の方法。
【請求項49】
前記ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
少なくとも1つの原発腫瘍を有するかまたは有していた個体の1つまたはそれより多くの転移の存在を検出する方法であって、
該個体に有効量の標識クロロトキシン剤を投与するステップ、および
該個体の身体の該少なくとも1つの原発腫瘍の位置以外の少なくとも1つの位置における、該標識クロロトキシン剤の結合を測定するステップであって、正常組織と比較して高いレベルの結合は、1つまたはそれより多くの転移の存在を示すステップ
を含む方法。
【請求項51】
前記標識クロロトキシン剤が全身投与される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記標識クロロトキシン剤が静脈投与される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記標識クロロトキシン剤が、脳内に位置する少なくとも1つの腫瘍転移に結合する、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記標識クロロトキシン剤が、正常細胞よりもがん細胞を選択的に標的にする、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
前記標識クロロトキシン剤が、クロロトキシン、生物学的に活性なクロロトキシンサブユニットおよびクロロトキシン誘導体からなる群から選択されるクロロトキシン部分を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項56】
前記標識クロロトキシン剤が、フルオロフォア、放射性同位体および常磁性金属イオンからなる群から選択される少なくとも1つの標識部分で標識されている、請求項50に記載の方法。
【請求項57】
前記標識部分がヨウ素−131(131I)またはヨウ素−125(125I)を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記標識部分がテクネチウム−99m(99mTc)を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記標識部分が銅−64(64Cu)を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
前記標識クロロトキシン剤の組織に対する結合を測定する前記ステップが、レーザー誘発性蛍光分光法、ガンマカメラ、単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)および陽電子断層撮影法(PET)からなる群から選択される技術を使用して実施される、請求項56に記載の方法。
【請求項61】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が固形腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項62】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が難治性腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項63】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が再発性腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項64】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が、肺がん、骨がん、肝臓がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部または頸部のがん、皮膚または眼内の黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、結腸がん、乳がん、子宮がん、性器または生殖器の癌、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟組織の肉腫、尿道がん、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎臓がん、腎細胞癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉がん、脊髄軸の腫瘍、神経膠腫、髄膜腫および下垂体腺腫からなる群から選択される腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項65】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が皮膚または眼内の黒色腫である、請求項50に記載の方法。
【請求項66】
前記少なくとも1つの原発腫瘍が神経外胚葉起源の腫瘍である、請求項50に記載の方法。
【請求項67】
前記神経外胚葉起源の腫瘍が、神経膠腫、髄膜腫、上衣腫、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、神経節腫、褐色細胞腫、黒色腫、末梢性原始神経外胚葉腫瘍、肺の小細胞癌、ユーイング肉腫、および脳内の神経外胚葉起源の転移腫瘍からなる群のメンバーである、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記神経外胚葉起源の腫瘍が神経膠腫である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記投与ステップが、少なくとも1回の用量の標識クロロトキシン剤を全身投与するステップを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項70】
前記投与ステップが、第1および第2の用量の標識クロロトキシン剤を全身投与するステップを含み、該第2の用量が該第1の用量よりも多い、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記投与ステップが、第1、第2および第3の用量の標識クロロトキシン剤を全身投与するステップを含み、該第2の用量が該第1の用量よりも多く、該第3の用量が該第2の用量よりも多い、請求項69に記載の方法。
【図5】
【図8(A)】
【図8(B)】
【図9】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図24】
【図27】
【図28】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図29】
【図8(A)】
【図8(B)】
【図9】
【図12】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図24】
【図27】
【図28】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図29】
【公表番号】特表2011−520914(P2011−520914A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509739(P2011−509739)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/044149
【国際公開番号】WO2009/140599
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510034764)トランスモレキュラー, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/044149
【国際公開番号】WO2009/140599
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510034764)トランスモレキュラー, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
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