説明

軸付きシール

【課題】カバーを保護環と隙間なく接触摺動させシール性の向上を図ると共に、保護環の摩滅、錆の進行度合いを抑制して安定したシール性を確保し、軸付きシールの長寿命化(耐久性の向上)を図る。
【解決手段】軸2に装着され大気側Aで外径方向に延びるフランジ部13を有するスリーブ11を備えた第一シール10と、補強環21と第一シール10に摺動する第二シール本体部25とを備えた第二シールと、フランジ部13と軸方向所定間隔を有し大気側Aに設けられた保護環30と、保護環30の大気側A端面に摺動する端部64にゴム状弾性体若しくは樹脂より成形されている摺動部63が結合しているカバー60とを備えた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気側の泥水等のダスト条件が厳しい環境下で使用される農業機械、建築機械等の軸封部をシールするために用いられる軸付きシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大気側の泥水等のダスト条件が厳しい環境下で使用される農業機械、建築機械等の軸封部をシールするために用いられる軸付きシールとしては、図3に示すものが知られている。この軸付きシール100は、互に相対動する軸101とハウジング102との間をシールするものであって、第一シール110と、第二シール120と、保護環130と、第三シール140と、ダストシール150と、を備えている。
【0003】
第一シール110は、軸方向に延び軸101と嵌合している円筒部112と円筒部112の大気側A端部から外径方向に延びるフランジ部113を有するスリーブ111と、円筒部112の内周側に装着され軸101との間をシールするゴム状弾性体の第一シール本体部115と、を備えている。
【0004】
第二シール120は、ハウジング102に嵌合している円筒部122の大気側A端部から外径方向に延びる外向きフランジ部123と密封流体側Bの端部から内径方向に延びる内向きフランジ部124とを有する補強環121と、補強環121の円筒部122と内向きフランジ部124とに接着しているゴム状弾性体の第二シール本体部125と、を備えている。第二シール本体部125は、密封流体側Bに延び第一シール110の円筒部112の外周面に摺動する第一シールリップ126と、大気側Aに延び第一シール110の円筒部112の外周面に摺動する第二シールリップ127および第三シールリップ128と、同じく大気側Aに延びスリーブ111のフランジ部113の密封流体側B端面に摺動する第四シールリップ129とを有し、第一シールリップ126の外周側には径方向の緊迫力を付与するガータスプリング126aが装着されている。
【0005】
保護環130は、スリーブ111のフランジ部113と軸方向所定間隔を有し大気側Aに設けられていて、径方向に延びるフランジ部131の外周部132が第二シール部120の外向きフランジ部123の大気側A端面に当接し、カシメ部123aにてカシメ固定されていて、フランジ部131の内周側端部は密封流体側Bに延びる円筒部133を有している。
【0006】
第三シール140は、スリーブ111のフランジ部113に接着し保護環130のフランジ部131の密封流体側B端面に摺動するゴム状弾性体の第三シール本体部145を備えている。
【0007】
第三シール本体部145は、第一シール本体部115と一体に成形されていて、保護環130のフランジ部131の密封流体側B端面に摺動する内径方向に傾き径方向所定間隔を有して設けられている第一シールリップ146及び第二シールリップ147とを有している。
【0008】
ダストシール150は、第一シール本体部115の大気側A端部に一体で成形されていて外径方向に傾いて延び、保護環130の円筒部133の内周面に摺動するダストシールリップ155を有している。
【0009】
これにより、ダストシール150で大気側Aより泥水等のダストが浸入するのをシールし、更に、侵入した泥水等のダストは、第三シール140の第一シールリップ146及び第二シールリップ147でシールするので、密封流体側Bに泥水等のダストが侵入する(漏れる)のが防止される。
【0010】
しかしながら、従来の上記構成であると、泥水等の使用条件が特に厳しい環境下で使用されたときに、ダストシール150で充分にシールすることが出来ず、ダストシール150を通過した多量の泥水等のダストをシールすることで第三シール140の第一シールリップ146及び第二シールリップ147が早期に摩耗して締め代が低下し、要求寿命に達しないうちに泥水等のダストが密封流体側Bへ浸入するとの不具合が認められた。
【0011】
この問題点を解決するため、下記特許文献1では、図4に示すように、保護環130の大気側Aに剛性の高い金属で成形したカバー160を設けることが開示されている。しかし、カバー160の端部161が保護環130の大気側A端面に摺動するため、保護環130の摩滅、錆の進行が危惧され、また、図5に示すようにカバー160自体の撓み162により、保護環130との摺動接触面に隙間163が発生し、その隙間より泥水等のダストの浸入の虞があり、軸付きシール100の長寿命化に対する期待効果の低下が予想された。
【0012】
【特許文献1】特開2002−98234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上述の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、カバーを保護環と隙間なく接触摺動させシール性の向上を図ると共に、保護環の摩滅、錆の進行度合いを抑制して安定したシール性を確保し、軸付きシールの長寿命化(耐久性の向上)を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る軸付きシールは、互に同心的に相対動する軸とハウジングとの間の環状空間に設けられ、密封流体側の密封流体をシールすると共に、大気側の泥水等のダストをシールするものであって、前記軸に装着され、大気側で外径方向に延びるフランジ部を有するスリーブと、前記軸の外周面をシールする第一シール本体部と、を備えた第一シールと、前記ハウジングに装着され、補強環と、前記第一シールに摺動する第二シール本体部と、を備えた第二シールと、前記補強環に固定され、前記フランジ部と軸方向所定間隔を有し大気側に設けられた保護環と、前記保護環の大気側端面に摺動する端部にゴム状弾性体若しくは樹脂より成形されている摺動部が結合しているカバーと、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0016】
すなわち、上記構成を備えた請求項1に係る軸付きシールにおいては、カバーの端部に結合している摺動部がゴム状弾性体若しくは樹脂で成形されているので、カバーを組付する際の締め代により高い剛性を有した金属製の保護環の大気側端面と接触させてもカバー自体の撓みにより接触面間に隙間が生じることがなく、密接に摺動させることができるので、シール性の向上を図ることができる。
【0017】
また、金属製の保護環に対しゴム状弾性体若しくは樹脂で成形された摺動部が摺動するので、保護環の摩滅、錆進行の度合いを抑制することができるので、安定したシール性を確保することができ、長寿命化(耐久性の向上)を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示して説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る軸付きシールの要部断面を示しており、以下のように構成されている。
【0020】
この軸付きシール1は、互に同心的に相対動する軸2とハウジング3との間の環状空間に設けられるものであって、第一シール10と、第二シール20と、保護環30と、第三シール40と、ダストシール50と、カバー60と、を備えている。
【0021】
第一シール10は、軸方向に延び軸2と嵌合している円筒部12と円筒部12の大気側A端部から外径方向に延びるフランジ部13とを有するスリーブ11と、円筒部12の内径側に接着し軸2との間をシールするゴム状弾性体の第一シール本体部15と、を備えている。
【0022】
第二シール20は、ハウジング3に嵌合している円筒部22の大気側A端部から外径方向に延びる外向きフランジ部23と密封流体側Bの端部から内径方向に延びる内向きフランジ部24とを有する補強環21と、補強環21の円筒部22と内向きフランジ部24とに接着しているゴム状弾性体の第二シール本体部25と、を備えている。第二シール本体部25は、密封流体側Bに延び第一シール10の円筒部12の外周面に摺動する第一シールリップ26と、大気側Aに延び第一シール10の円筒部12の外周面に摺動する軸方向に所定間隔を有して設けられている第二シールリップ27および第三シールリップ28と、同じく大気側Aに延びスリーブ11のフランジ部13の密封流体側B端面に摺動する第四シールリップ29とを有し、第一シールリップ26の外周側には径方向に緊迫力を付与するガータスプリング26aが装着されている。
【0023】
保護環30は、板状の金属であって、スリーブ11のフランジ部13と軸方向所定間隔を有し大気側Aに設けられていて、径方向に延びる保護フランジ部31の外周部32が第二シール部20の外向きフランジ部23の大気側A端面に当接し、カシメ部23aにてカシメ固定されていて、保護フランジ部31の内周側端部は密封流体側Bに延びる保護円筒部33を有している。
【0024】
第三シール40は、スリーブ11のフランジ部13に接着しているゴム状弾性体の第三シール本体部45を備えている。
【0025】
第三シール本体部45は、第一シール本体部15と一体に成形されていて、保護環30の保護フランジ部31の密封流体側B端面に摺動する内径方向に傾き径方向所定間隔を有して設けられている第一シールリップ46及び第二シールリップ47とを有している。
【0026】
ダストシール50は、第一シール本体部15の大気側A端部に第三シール本体部45と共に一体で成形されていて外径方向に傾いて延び、保護環30の保護円筒部33の内周面に摺動するダストシールリップ55を有している。
【0027】
カバー60は、薄板状の高い剛性を有した金属で、傘形状に成形されていて、内周側から外周側に向かって密封流体側Bに傾いた形状となっている。カバー60の内周側61は、第一シール10のスリーブ11に嵌合し、外周側62は、図2に示すようにゴム状弾性体若しくは樹脂で成形された厚みのある摺動部63が、保護環30と摺動接触する端部64の部位を覆うように焼付で結合しており、この摺動部63が保護環30のフランジ部31の大気側A端面に摺動自在に密封接触するようになっている。
【0028】
上記構成の軸付きシール1においては、カバー60の端部64を覆うように結合しているゴム状弾性体若しくは樹脂で成形されている摺動部63が、カバー60を組付する際の締め代により保護環30と隙間なく接触するため、シール性の向上を図ることが可能となる。
【0029】
また、摺動部63がゴム状弾性体若しくは樹脂で成形されているので、高い剛性を有した金属製の保護環30の大気側A端面と接触させてもカバー60自体の撓みによる接触面間の隙間が発生するのを防止することが可能となる。
【0030】
更に、ダストによる摩耗に対しても、カバー60の当接圧により、摺動部63が長期に亙って保護環30に摺動接触することができるため、密封流体側に泥水等のダストが侵入することを抑制し、長寿命化(耐久性の向上)を図ることが可能となる。
【0031】
また、金属製の保護環30に対しゴム状弾性体若しくは樹脂で成形された摺動部63が摺動するので、保護環30の大気側A端面の摩滅、錆進行の度合いを抑制することができるので、安定したシール性を確保することができ、軸付きシール1の長寿命化(耐久性の向上)を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例に係る軸付きシールの一部断面図
【図2】図1におけるX部の拡大図
【図3】従来例1に係る軸付きシールの一部断面図
【図4】従来例2に係る軸付きシールの一部断面図
【図5】図4のY部の不具合状態を示す説明図
【符号の説明】
【0033】
1 軸付きシール
2 軸
3 ハウジング
10 第一シール
11 スリーブ
12,22,33 円筒部
13,23,24,31 フランジ部
15,25,45 シール本体部
20 第二シール
21 補強環
23a カシメ部
26,27,28,29,45,46,55 シールリップ
26a ガータスプリング
30 保護環
32,62 外周部
40 第三シール
50 ダストシール
60 カバー
61 内周部
63 摺動部
64 端部
A 大気側
B 密封流体側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互に同心的に相対動する軸とハウジングとの間の環状空間に設けられ、密封流体側の密封流体をシールすると共に、大気側の泥水等のダストをシールするものであって、
前記軸に装着され、大気側で外径方向に延びるフランジ部を有するスリーブと、前記軸の外周面をシールする第一シール本体部と、を備えた第一シールと、
前記ハウジングに装着され、補強環と、前記第一シールに摺動する第二シール本体部と、を備えた第二シールと、
前記補強環に固定され、前記フランジ部と軸方向所定間隔を有し大気側に設けられた保護環と、
前記保護環の大気側端面に摺動する端部にゴム状弾性体若しくは樹脂より成形されている摺動部が結合しているカバーと、
を備えたことを特徴とする軸付きシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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