説明

軸受け装置、軸受け装置の製造システム、並びに軸受け装置の製造方法

【課題】リテーナを備えた軸受け装置をリテーナの外周面に交差する一方向から複数の回転部材を挿入し組立てる時に、リテーナの回転が阻害されることを抑えた軸受け装置の製造システムを提供する。
【解決手段】内側支持部材W1の外側に配置され、周方向に複数の孔部W7を設けた円筒状のリテーナW4を内側支持部材の軸線C1を中心に回転可能に支持するとともに、孔部に向かう挿入方向E1に伸びるシュート部52Cを設けた支持手段52と、リテーナを内側支持部材の軸線を中心に所定方向Bに回転させる回転手段と、シュート部に複数配置された回転部材をリテーナに押付け、複数の孔部に複数の回転部材を組込む組込み部材71と、を備えた軸受け装置の製造システム1において、組込み部材は、挿入方向とは逆方向に所定の抗力を受けた場合に挿入方向とは逆方向に退避する退避手段を介して回転部材を押付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に複数の回転部材を配置した軸受け装置、軸受け装置の製造システム、並びに軸受け装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のニードルベアリングの製造システムでは、一つのニードルベアリング(軸受け装置)を組立てるのに必要な数のニードル(回転部材)を、専用の整列装置を用いてニードルベアリングに組付けられる環状の配置に予め整列させておき、この環状に配置させた複数のニードルをローラー内輪(内側支持部材)とローラー外輪との間にニードルベアリングの軸線方向からまとめて挿入していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−242948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のニードルベアリングの製造システムで、隣り合うニードルが接触しないように支持するリテーナを備えたニードルベアリングを製造するためには、リテーナに設けられたニードル組込み用の孔部をニードルベアリングの軸線方向に伸ばして切欠きを設け、この切欠きを介してニードルを孔部に組込む必要があった。しかしこの製造システムで製造されたニードルベアリングには、組立てた後でリテーナの切欠きからニードルが抜け落ちてしまうという問題があった。
また、上記の問題を解決するために、ニードルベアリングの内輪(内側支持部材)にリテーナを組付けた状態で、リテーナの外周面に交差する一方向からリテーナの外周面にニードルを押付け、リテーナの外周面に設けられた孔部にニードルを挿入していた。そして、このニードルの挿入を効果的に行うために、リテーナをその軸線を中心として回転させながらニードルを挿入していたが、既にリテーナの孔部に組込まれたニードルがリテーナの外周面に押付けられたニードルと当接し、リテーナの回転が阻害されることがあった。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、リテーナを備えた軸受け装置をリテーナの外周面に交差する一方向から複数の回転部材を挿入し組立てる時に、リテーナの回転が阻害されることを抑えた軸受け装置の製造システム、軸受け装置の製造方法、並びに軸受け装置の製造方法により製造される軸受け装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の軸受け装置の製造システムは、内側支持部材の外側に配置され、周方向に複数の孔部を設けた円筒状のリテーナを前記内側支持部材の軸線を中心に回転可能に支持するとともに、前記孔部に向かう挿入方向に伸びるシュート部を設けた支持手段と、前記リテーナを前記内側支持部材の軸線を中心に所定方向に回転させる回転手段と、
前記シュート部に複数配置された回転部材を前記リテーナに押付け、複数の前記孔部に複数の前記回転部材を組込む組込み部材と、を備えた軸受け装置の製造システムにおいて、前記組込み部材は、前記挿入方向とは逆方向に所定の抗力を受けた場合に前記挿入方向とは逆方向に退避する退避手段を介して前記回転部材を押付けることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の軸受け装置の製造方法は、内側支持部材の外側に配置され、周方向に複数の孔部を設けた円筒状のリテーナを前記内側支持部材の軸線を中心に回転可能となるように支持する部材支持工程と、前記リテーナを前記内側支持部材の軸線を中心に所定方向に回転させるとともに、前記孔部に挿入方向から複数の回転部材を前記リテーナの外周面に押付けることにより、複数の前記孔部に複数の前記回転部材を組込む回転部材組込み工程と、を備える軸受け装置の製造方法において、前記挿入方向から前記リテーナの外周面に押付けられる前記回転部材が前記孔部に組込まれた前記回転部材から前記挿入方向とは逆方向に所定の抗力を受けた場合には、前記挿入方向から前記リテーナの外周面に押付けられる前記回転部材を前記挿入方向とは逆方向に退避させることを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、既にリテーナの孔部に組込まれた回転部材がリテーナの回転によりリテーナの外周面に押付けられた回転部材と当接しても、リテーナを回転させる駆動力により既にリテーナの孔部に組込まれた回転部材から受ける抗力の挿入方向とは逆方向の成分によって、リテーナの外周面に押付けられた回転部材を挿入方向とは逆方向に退避させることができる。
従って、リテーナの孔部に挿入された回転部材とリテーナの外周面に押付けられる回転部材との当接を解消することができ、リテーナの回転が阻害されることを抑えることができる。
【0009】
また、前記挿入方向は前記内側支持部材の軸線に直交する方向であることがより好ましい。
この発明によれば、支持手段を交換して外径寸法の異なる軸受け装置を製造する場合でも、回転部材を内側支持部材の軸線に直交する方向から挿入することとなる。このため、支持手段に設けられるシュート部を内側支持部材の軸線に直交する方向に伸び、傾斜面を有しない単純な形状にすることができ、製造する軸受け装置の外径寸法を変化させても支持手段において使用される部品を共通化することが可能となる。
【0010】
また、前記挿入方向は水平面に平行な方向であることがより好ましい。
この発明によれば、リテーナの外周面に押付けられる回転部材に作用する重力の影響を抑え、回転部材がリテーナの外周面へ押付けられる力を安定させることができる。
【0011】
また、前記回転部材を押付ける駆動力を生じる押付け手段は、前記挿入方向とは逆方向に伸びる方向変換部が設けられた伝達部材を介して前記退避手段を前記挿入方向に押圧することがより好ましい。
この発明によれば、押付け手段と退避手段を挿入方向にコンパクトに配置することができるので、軸受け装置の製造システムを全体として小型にすることが可能となる。
【0012】
また、本発明の軸受け装置は、上記に記載の軸受け装置の製造方法により製造されたことが好ましい。
この発明によれば、軸受け装置を製造する時に、既にリテーナの孔部に挿入された回転部材がリテーナの外周面に押付けられた回転部材と当接しても、孔部に組込まれた回転部材が挿入方向から押付けられる回転部材を挿入方向とは逆方向に退避させることがきる。従って、リテーナの孔部に挿入された回転部材とリテーナの外周面に押付けられる回転部材が強く当接して回転部材に生じる傷を抑えることが可能となり、製造される軸受け装置の回転をより安定させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の軸受け装置の製造システム及び軸受け装置の製造方法によれば、リテーナを備えた軸受け装置を軸受け装置の側方の一方向から複数の回転部材を挿入し組立てる時に、リテーナの回転が阻害されることを抑えることができる。
また、本発明の軸受け装置によれば、製造される時にリテーナの回転が阻害されることを抑えることで回転部材に生じる傷を抑え軸受け装置の回転をより安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のカムフォロアの製造システムのブロック図である。
【図2】本発明の実施形態のカムフォロアの製造システムの制御に関するブロック図である。
【図3】本発明の実施形態のカムフォロアの製造システムの要部説明図である。
【図4】本発明の実施形態のカムフォロアの製造システムで製造されたリテーナを用いないカムフォロアの斜視図である。
【図5】図4における切断線A−Aの断面図である。
【図6】本発明の実施形態の退避手段の作用を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態の退避手段の作用を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態のカムフォロアの製造方法のフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態のカムフォロアの製造方法の工程を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態のカムフォロアの製造方法の工程を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態のカムフォロアの製造方法の工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の軸受け装置の製造システムを図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施形態では軸受け装置がカムフォロアである場合を例にして説明するが、軸受け装置はカムフォロアに限られるものでなく、ニードルベアリングやローラベアリング等でもよい。
図1はカムフォロアの製造システムのブロック図、図2はカムフォロアの製造システムの制御に関するブロック図、図3は要部説明図である。
図1に示すように、このカムフォロアの製造システム1は、ニードル供給装置31に多数蓄えられたニードルから分離装置4及び計数装置6により一つのカムフォロアを組立てるのに必要な所定本数のニードルを組立装置5に供給するとともに、カムフォロアの製造システム1を操作する作業者がスタッドと外輪を1つずつ組立装置5に供給することにより、組立装置5で連続的にカムフォロアを製造するシステムである。
また図2に示すように、カムフォロアの製造システム1は、駆動力を発生させる圧縮空気の圧力を切替える弁切替え部21と、後述する第一端部回転モータ51cを制御するとともに後述する各種シリンダを弁切替え部21により制御する制御部22とを備えている。
【0016】
なお、本実施形態のカムフォロアの製造システム1で製造されるカムフォロアWは、図4に示すように、所定の軸線C1を有するスタッドW1と、スタッドW1の外側に配置され、周方向に複数の孔部W7を設けた円筒状のリテーナW4と、リテーナW4の複数の孔部W7に組込まれた複数のニードルW2と、複数のニードルW2及びリテーナW4を外側から支持する円筒状の外輪W3とを備える。
なお、スタッドW1は特許請求の範囲の内側支持部材に、ニードルW2は回転部材にそれぞれ相当する。
【0017】
図1及び図3に示すように、ニードル供給装置31は、多数蓄えたニードルW2をその軸線に沿った第一の搬送方向D1に連続して複数搬送し、分離装置4の待機位置P1にニードルW2を一本ずつ供給する。
【0018】
図3に示すように、分離装置4は、待機位置P1に供給されたニードルW2を下方から支持する上方支持面42aが設けられた上方支持台42と、待機位置P1に供給されたニードルW2を供給位置P2まで搬送する分離ロッド41と、分離ロッド41を、上方支持面42aに沿った第二の搬送方向E1、及び第二の搬送方向E1とは逆方向である第二の上流方向E2に往復移動させる搬送シリンダ43とを有する。
第二の搬送方向E1及び第二の上流方向E2は、第一の搬送方向D1に直交する方向に設定されている。また、通常の使用時においては、上方支持面42a及び後述する下方支持面61aは水平面に平行に配置され、第一の搬送方向D1、第二の搬送方向E1、第二の上流方向E2及び後述する第一の上流方向D2は、水平面に沿った方向となる。
また、上方支持台42の供給位置P2には、下方支持面61aまで下がる段部42bが設けられている。
分離ロッド41には、ニードルW2を第二の搬送方向E1に押圧する押圧面41aと、ニードルW2が押圧面41aから離れるのを防止する鉤部41bが設けられている。そして、待機位置P1に供給されたニードルW2は、搬送シリンダ43により第二の搬送方向E1に移動する分離ロッド41に設けられた押圧面41aと鉤部41bに囲まれて供給位置P2まで確実に搬送され、供給位置P2に設けられた段部42bで下方支持面61aに落ちる。この時にニードルW2は、分離ロッド41から外れて計数装置6に供給される。
【0019】
計数装置6は、供給位置P2に供給されたニードルW2を下方から支持する下方支持面61aが設けられた下方支持台61と、供給位置P2に供給されたニードルW2がひとりでに第二の搬送方向E1に移動することを防止する重り62と、下方支持面61aに多数供給されたニードルW2を第二の搬送方向E1に付勢する付勢プレート63と、一つのカムフォロアWを組立てるのに必要な本数のニードルW2を計数して搬送するエレベータ64とを備えている。
下方支持台61には、第二の搬送方向E1に延在するとともに第一の搬送方向D1に所定の間隔をおいて平行に配置された一対の側壁61bが設けられ、供給位置P2に供給されたニードルW2を第二の搬送方向E1に案内する。
また本実施形態では、上方支持台42と下方支持台61を別の構成とし隣り合うように配置したが、上方支持台42と下方支持台61を一体の構成としてもよい。
分離ロッド41でニードルW2を供給位置P2に搬送する時には、先に供給位置P2に搬送されたニードルW2を第二の搬送方向E1に押しながら搬送している。重り62は、分離ロッド41で第二の搬送方向E1に押される下方支持面61a上のニードルW2を第二の上流方向E2に寄せるために、下方支持面61a上のニードルW2の第二の搬送方向E1側に配置される。そして、分離ロッド41が先に供給位置P2に搬送されたニードルW2を第二の搬送方向E1に押すたびに、重り62もニードルW2と一体となって第二の搬送方向E1に移動する。
【0020】
付勢プレート63は、下方支持面61a上に複数供給されたニードルW2の一部を、第二の搬送方向E1に図示しない付勢手段により付勢してエレベータ64の壁部64bに押し付ける。
エレベータ64には第二の搬送方向E1に貫通する計数孔64aが設けられていて、この計数孔64aの中に一つのカムフォロアWを組立てるのに必要な所定本数、例えば15本のニードルW2が収容可能なように計数孔64aの寸法が設定されている。
エレベータ64は、エレベータ駆動シリンダ65により、図3に示す下降端位置Q1から上昇端位置Q2までの範囲を鉛直方向Fに往復移動する。エレベータ64が上昇端位置Q2に配置されている時には、付勢プレート63は第二の搬送方向E1に移動しながら計数孔64a内にニードルW2を供給する。
一方、エレベータ駆動シリンダ65によりエレベータ64が上昇端位置Q2から移動した時には、エレベータ64の壁部64bにより付勢プレート63は第二の搬送方向E1に移動することができず、停止している。
【0021】
そして、図示しないセンサにより、付勢プレート63から壁部64bまでに配置されたニードルW2の本数が一つのカムフォロアWを組立てるのに必要な本数より少ないことを検知した時に、制御部22は、図示しないプレート移動装置により付勢プレート63をニードルW2に干渉しないように一度上昇させ、図示しない重り移動装置により重り62を上昇させる。そして、プレート移動装置により上方からプレート戻り位置Rに付勢プレート63を配置させた後、再度付勢プレート63で第二の搬送方向E1側のニードルW2を第二の搬送方向E1に付勢する。また制御部22は、重り移動装置により、プレート戻り位置Rから第二の上流方向E2側に配置されたニードルW2に第二の搬送方向E1側から当接するように重り62を配置させる。
【0022】
図5に、図3における切断線A−Aの断面図を示す。図5において組立装置5には、スタッドW1、リテーナW4及び外輪W3がセットされ、エレベータ64に設けられた計数孔64aには所定本数のニードルW2が収容されている。
図3及び図5に示すように、組立装置5は、リテーナW4をスタッドW1の軸線C1を中心に回転方向Bに回転させる回転手段51と、リテーナW4をスタッドW1の軸線C1を中心に回転可能に支持するセット治具52と、セット治具52を分割及び結合させる治具移動手段53と、ニードルW2を組込む回転部材組込み手段7と、外輪W3を組付ける外輪組付け手段55と、回転手段51、治具移動手段53及び外輪組付け手段55を固定する組立部ベース56を有する。
なお、セット治具52は特許請求の範囲の支持手段に外輪組付け手段は外側部材組付け手段にそれぞれ相当する。
また回転手段51は、スタッドW1を回転させることにより、スタッドW1に組付けられたリテーナW4をスタッドW1の軸線C1を中心に回転方向Bに回転させる。
【0023】
図5に示すように、回転手段51は、スタッドW1の先端側を支持する略有底筒状に構成された第一端部支持具51aと、第一端部支持具51aを回転方向Bに回転させる駆動力を生じる第一端部回転モータ51cと、スタッドW1の基端側を支持する略有底筒状に構成された第二端部支持具51dと、第二端部支持具51dを第一の搬送方向D1とは逆方向である第一の上流方向D2に付勢して支持する支持バネ51eと、第二端部支持具51dを回転可能に支持するベアリング51fと、支持バネ51eが固定されている組立部ベース56を介して第二端部支持具51dを第一の上流方向D2に往復移動させる第二端部駆動シリンダ51bとを有する。
なお、第一端部回転モータ51c及びベアリング51fも組立部ベース56に固定され、第二端部駆動シリンダ51bは図示しない支持手段により支持されている。
【0024】
図3及び図5に示すように、セット治具52は第一治具52aと第二治具52bとで構成される。そして第一治具52a及び第二治具52bは、外輪W3の内周面W6と直径が同一であってスタッドW1の軸線C1方向における複数のニードルW2の略半分の長さを支持する内周面52d、52eをそれぞれ有する。そして、第一治具52aの内周面52dと第二治具52bの内周面52eは、共通の軸線軸線C2を有し、この軸線C2は、第一端部支持具51a、第一端部回転モータ51c、第二端部支持具51d、ベアリング51f及び第二端部駆動シリンダ51bのそれぞれの軸線に一致している。
また、第一治具52a及び第二治具52bにはニードルW2を組込むシュート部52cが設けられている。シュート部52cは、リテーナW4の孔部W7に向かう挿入方向Hに伸びている。そして、挿入方向Hは、スタッドW1の軸線C1に直交するとともに水平面に平行な方向、すなわち第二の搬送方向E1と平行に設定されている。
【0025】
治具移動手段53は、鉛直方向Fに延在する図示しない直動ガイドに沿って第一治具52a及び第二治具52bを鉛直方向Fに往復移動させる第一治具シリンダ53a及び第二治具シリンダ53bを備えている。そして、第一治具シリンダ53a及び第二治具シリンダ53bにより、第一治具52a及び第二治具52は分割及び結合が可能となっている。
【0026】
図3に示すように、回転部材組込み手段7は、リテーナW4の複数の孔部W7に複数のニードルW2を組込む組込み棒71と、組込み棒71に結合され組込み棒71を第二の上流方向E2に退避させる退避手段72と、退避手段72を支持す組込みベース73と、組込みベース73を第二の搬送方向E1及び第二の上流方向E2に往復移動させる組込みシリンダ74とを備えている。
なお、組込み棒71は特許請求の範囲の組込み部材に、組込みベース73は伝達部材に、組込みシリンダ74は押付け手段にそれぞれ相当する。
組込み棒71は、挿入方向Hに沿って配置されるとともに、挿入方向Hに往復移動することにより、リテーナW4の複数の孔部W7に複数のニードルW2を組込む。
組込みベース73には、挿入方向Hとは逆方向である第二の上流方向E2に伸びる方向変換部73cが設けられ、図示しない直動ガイドに案内されて、第二の搬送方向E1及び第二の上流方向E2に所定範囲内を往復移動する。
組込みシリンダ74は、ニードルW2を挿入方向Hに押付ける駆動力を生じるために、組込みベース73を介して退避手段72を挿入方向Hに押圧する。すなわち、組込み棒71は、組込みシリンダ74との間に退避手段72を介して、ニードルW2をリテーナW4の外周面W8に押付けている。
退避手段72、組込みベース73及び組込みシリンダ74をこのような構成にすることで、組込みシリンダ74と退避手段72を挿入方向Hにコンパクトに配置することができ、カムフォロアの製造システム1を全体として小型にすることが可能となる。
【0027】
図3に示すように、組込みベース73が最も第二の上流方向E2側に移動した時の位置がベース待機位置K1であり、また図3に示す位置から組込みベース73が所定範囲内の最も第二の搬送方向E1側に移動した時の組込みベース73の位置が後述するベース送り位置K2である。
組込みシリンダ74は、図2及び図3に示すように内部にベース位置検出センサ74bを有しており、組込みシリンダ74が備えるベースロッド74aの第二の搬送方向E1の位置を検出し、検出結果を制御部22に送信する。制御部22は送信されたベース位置検出センサ74bの検出結果により、組込みベース73の位置を求めることが可能となっている。
【0028】
退避手段72は、組込み棒71を固定する退避ベース72aと、退避ベース72aが第二の搬送方向E1及び第二の上流方向E2に移動するように案内する組込みガイド72bと、退避ベース72aの第二の搬送方向E1側の移動を規制するストッパー72cと、退避ベース72aを第二の搬送方向E1に付勢する退避バネ72dと、組込み棒71の第二の搬送方向E1の位置を検出する先端位置検出センサ72f及び位置検出棒72eとを有する。
退避ベース72aは、退避バネ72dにより組込みベース73に対して所定範囲内を移動する。
退避バネ72dはコイル状のバネであり、第二の搬送方向E1に沿って配置されるとともに、一端が退避ベース72aに他端が組込みベース73に固定された退避バネ固定具73aにそれぞれ伸縮自在に固定されている。退避バネ72dは、退避ベース72aが組込みベース73に固定されたストッパー72cに当接するまで伸びることができるが、退避ベース72aがストッパー72cに当接する時も退避バネ72dは圧縮された状態になっている。
【0029】
図6及び図7に、退避手段72の作用を示す説明図を示す。
後述するように、組込み棒71で挿入方向Hに押圧してニードルW2をリテーナW4の外周面W8に押付けながら、複数のニードルW2を複数の孔部W7に組込む。
この時、通常は図6に示すように、既にリテーナW4の孔部W7に組込まれた位置L1に配置されているニードルW2は、隣り合う位置L2に配置されているニードルW2に干渉することなく、リテーナW4と共に回転方向Bに回転する。
ただし図7示すように、リテーナW4の孔部W7とニードルW2の隙間、及びシュート部52cとニードルW2の隙間により、挿入方向Hに対して所定方向Bとは逆方向のリテーナW4の孔部W7の位置L3に、ニードルW2が組込まれてしまうことがある。この場合、位置L3に配置されたニードルW2はリテーナW4の回転によりリテーナW4の外周面W8に押付けられた位置L4に配置されたニードルW2と当接し、位置L4に配置されたニードルW2は位置L3に配置されたニードルW2の方向から所定の抗力Mを受ける。
退避バネ72dのバネ定数は、この抗力Mの第二の上流方向E2の分力を受けた場合に位置L4に配置されたニードルW2を挿入方向Hとは逆方向に退避させ、位置L3に配置されたニードルW2との当接を解消することができるように設定されている。さらに、退避バネ72dのバネ定数は、図3に示すように、組込みベース73がベース待機位置K1からベース送り位置K2まで移動する間に退避バネ72dが縮みきって圧縮することができなくなることがないようにも設定されている。
【0030】
図3に示すように、位置検出棒72eは第二の搬送方向E1に沿って配置されるとともに、一端が退避ベース72aに固定されている。そして、位置検出棒72eは退避バネ72dの中を通って、退避バネ固定具73a及び組込みベース73に固定されたセンサケース73bにそれぞれ設けられたガイド孔に案内され、位置検出棒72eの他端がセンサケース73b内に配置されるように設定されている。先端位置検出センサ72fは近接センサ等であり、センサケース73b内の側面に固定されている。
退避ベース72aは組込みベース73に対して第二の搬送方向E1及び第二の上流方向E2に相対的に移動する。そして、図3に示すように、退避ベース72aがストッパー72cに当接し組込みベース73に対して最も第二の搬送方向E1側に移動した時の組込みベース73に対する組込み棒71の位置が組込み棒待機位置Jである。
【0031】
そして、組込み棒71が組込み棒待機位置Jに達し、位置検出棒72eの他端が位置検出センサ72fのセンシング領域から外れることで、組込み棒71の位置が検出され、図2に示すように、位置検出センサ72fは検出結果を制御部22に送信する。制御部22は送信された位置検出センサ72f及び上記ベース位置検出センサ74bの検出結果により、組込み棒71の位置を求めることが可能となっている。
そして、組込みベース73がベース送り位置K2に、組込み棒71が組込み棒待機位置Jにそれぞれ配置された時には、組込み棒71の先端はセット治具52内に取付けられたリテーナW4の近傍に達し、計数孔64aに収容された全てのニードルW2をリテーナW4の複数の孔部W7に組込むように設定されている。
【0032】
また、図5に示すように、外輪組付け手段55は、外輪W3を、スタッドW1の軸線C1方向に沿って組付ける外輪治具55aと、外輪治具55aを駆動する外輪治具駆動シリンダ55bとを有する。
【0033】
次に、このように構成されたカムフォロアの製造システムによるカムフォロアの製造方法の各工程について詳しく説明する。図8はカムフォロアの製造方法のフローチャート、図9から図11は、カムフォロアの製造方法の各工程を示す説明図である。
なお、カムフォロアの製造システムの組立装置で行われる工程以外の工程は、既に説明を行った、又は既存のカムフォロアの製造システムと同様の構成なので説明を省略する。
また、カムフォロアの製造方法の各工程が開始される前には、図3に示すように、エレベータ64に設けられた計数孔64aには所定本数のニードルW2が収容され、エレベータ64は下降端位置Q1に配置されている。そして、組込みベース73はベース待機位置に、組込み棒71は組込み棒待機位置にそれぞれ配置されている。
【0034】
まず、部材支持工程(ステップS1)において、図5に示すように作業者は、スタッドW1の外周面W5にリテーナW4を組付け、第一治具52aの内周面52d及び第二治具52bの内周面52eの共通の軸線軸線C2と、スタッドW1の軸線C1が同一軸線を有するように配置する。また作業者は、外輪W3を第一端部支持具51aの外周面の待機位置G1に外輪W3を組付ける。
そして作業者は、図示しない入力装置により制御部22に命令して、弁切替え部21により第二端部駆動シリンダ51bを駆動させて、第二端部支持具51dを第一の上流方向D2に移動させることにより、スタッドW1を第一端部支持具51aと第二端部支持具51dで挟んで支持させ、ステップS2に移行する。
上記の工程により、リテーナW4はスタッドW1の軸線C1を中心に回転可能となるように支持される。
【0035】
次に、回転部材組込み工程(ステップS2)において、図9に示すように制御部22は、弁切替え部21により組込みシリンダ74を駆動させて、計数孔64aに収容されたニードルW2をリテーナW4の外周面W8に押付ける。そして押付けた後直ちに、第一端部回転モータ51cにより第一端部支持具51aを介してスタッドW1の軸線C1を中心にスタッドW1を回転方向Bに回転させる。
すると、スタッドW1が回転することでリテーナW4も回転方向Bに回転し、セット治具52に設けられたシュート部52cを通ってリテーナW4の複数の孔部W7に複数のニードルW2が組込まれていく。
この時、上記のように退避バネ72dのバネ定数が設定されているので、図7に示すようにリテーナW4の孔部W7に挿入されたニードルW2とリテーナW4の外周面W8に押付けられるニードルW2との当接を解消することができ、リテーナW4の回転が阻害されることを抑えることができる。そしてニードルW2同士が強く当接することを低減することができるので、ニードルW2に生じる傷を抑えることが可能となる。
また、挿入方向Hは水平面に平行な方向に設定されているので、リテーナW4の外周面W8に押付けられるニードルW2に作用する重力の影響を抑え、ニードルW2がリテーナW4の外周面W8へ押付けられる力を安定させることができる。
【0036】
こうして、図10に示すように、組込みベース73がベース送り位置K2に達したことをベース位置検出センサ74bで検出し、組込み棒71が組込み棒待機位置Jにあることを先端位置検出センサ72fで検出すると、制御部22は弁切替え部21により組込みシリンダ74の駆動を停止させ、ステップS3に移行する。
このように、エレベータ64に設けられた計数孔64a内に配置された一つのカムフォロアWを組立てるのに必要な所定本数のニードルW2を、セット治具52内に取付けられたリテーナW4に設けられた孔部W7に過不足無く組付けることができる。
【0037】
次に、外側部材初期組付け工程(ステップS3)において、制御部22は、弁切替え部21により外輪治具駆動シリンダ55bを駆動させて、第一端部支持具51aを第一の搬送方向D1に移動させる。そして外輪W3を、待機位置G1から図5に示す初期位置G2に移動させ、複数のニードルW2の長さの略半分まで組付け、ステップS4に移行する。
【0038】
次に、治具取外し工程(ステップS4)において、制御部22は、弁切替え部21により一治具シリンダ53a及び第二治具シリンダ53bを駆動させる。そして、第一治具52aを鉛直方向Fの上方に第二治具52bを鉛直方向Fの下方に移動させ、スタッドW1及び複数のニードルW2からセット治具52を分割して取外し、ステップS5に移行する。
【0039】
最後に、外側部材終期組付け工程(ステップS5)において、制御部22は、弁切替え部21により外輪治具駆動シリンダ55bを駆動させて、第一端部支持具51aを第一の搬送方向D1に移動させる。そしてスタッドW1の軸線C1方向における複数のニードルW2の全ての長さにわたり外輪W3を複数のニードルW2に組付ける(図11参照)。
以上の工程により、組立装置5におけるカムフォロアWの組立が完成する。
【0040】
こうして、本発明の実施形態のカムフォロアの製造システムによれば、挿入方向HはスタッドW1の軸線C1に直交する方向に設定されているので、セット治具52を交換して外径寸法の異なるカムフォロアWを製造する場合でも、ニードルW2をスタッドW1の軸線C1に直交する方向から挿入することとなる。このため、セット治具52に設けられるシュート部52cを単純な形状にすることができ、製造するカムフォロアWの外径寸法を変化させてもセット治具52において使用される部品を共通化することが可能となる。
また、セット治具52やエレベータ64を交換することで、リテーナW4を用いないカムフォロアWも製造することができる。
【0041】
また、本発明のカムフォロアWは、上記に記載のカムフォロアの製造方法により製造されている。このため、リテーナW4の孔部W7に挿入されたニードルW2とリテーナW4の外周面W8に押付けられるニードルW2が強く当接してニードルW2に生じる傷を抑えることが可能となり、製造される軸受け装置の回転をより安定させることができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更等も含まれる。
例えば、上記実施形態では、カムフォロアの製造システム1を操作する作業者が、第一治具シリンダ53aの内周面52d及び第二治具52bの内周面52eの共通の軸線軸線C2と、リテーナW4を組付けたスタッドW1の軸線C1が同一軸線を有するように配置した。また、作業者は、外輪W3を第一端部支持具51aの外周面に、外輪W3が第一の搬送方向D1に移動しない程度に係止させた。
しかし、上記の作業を制御部22の命令のもとに自動に行うスタッド供給装置及び外輪供給装置を新たに備えてもよい。
【0043】
また、上記実施形態の退避手段72、組込みベース73及び組込みシリンダ74の替わりに、新たに空気圧を弱く設定したエアーシリンダを用いてもよい。回転モータ51cのトルクを強く設定すれば上述したニードルW2の抗力Mが大きくなるので、エアーシリンダの駆動力に抗して組込み棒71を挿入方向Hとは逆方向に退避させることが可能となるからである。
また、上記実施形態では退避バネ72dをコイル状のバネとしたが、板バネや皿バネであってもよい。
【0044】
また、上記実施形態の退避手段72の構成から位置検出棒72eと棒位置検出センサ72fを無くしてもよい。棒位置検出センサ72fが無くても、作業者が組込み棒71の位置を確認することは可能だからである。
また、上記実施形態では、エレベータ64に設けられた計数孔64aに複数のニードルW2を収容した。しかし、複数のニードルW2をセット治具52に設けられたシュート部52cに配置してもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、組込み棒71が配置される方向でありかつ組込み棒71が往復移動する方向である挿入方向Hは、スタッドW1の軸線C1に直交する方向であるとした。しかし、挿入方向HはスタッドW1の軸線C1に交差する方向であってもよい。
リテーナW4にニードルW2がスタッドW1の軸線C1方向へ抜け落ちることを防止する形状が設けられている場合でも、スタッドW1の軸線C1に交差する方向からニードルW2を組込むことで、その形状を避けながらリテーナW4の孔部W7にニードルW2を組付けることが可能となるからである。
【0046】
また、上記実施形態では、組込み棒71が配置される方向でありかつ組込み棒71が往復移動する方向である挿入方向Hは水平面に平行な方向でなくてもよい。退避バネ72dのバネ定数や組込みシリンダ74の移動速度を変えることで対応は可能だからである。
また、上記実施形態では、組込みシリンダ74は、第二の上流方向E2に伸びる方向変換部73cが設けられた組込みベース73を介して退避手段72を挿入方向Hに押圧する構成とした。しかし、組込みシリンダ74を退避手段72の第二の上流方向E2に配置して、組込みシリンダ74で挿入方向Hから退避手段72を押圧してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 カムフォロアの製造システム(軸受け装置の製造システム)
51 回転手段
52 セット治具(支持手段)
52c シュート部
71 組込み棒(組込み部材)
72 退避手段
73 組込みベース(伝達部材)
73c 方向変換部
74 組込みシリンダ(押付け手段)
C1 スタッドの軸線(内側支持部材の軸線)
E1 第二の搬送方向
H 挿入方向
W カムフォロア(軸受け装置)
W1 スタッド(内側支持部材)
W2 ニードル(回転部材)
W4 リテーナ
W7 孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側支持部材の外側に配置され、周方向に複数の孔部を設けた円筒状のリテーナを前記内側支持部材の軸線を中心に回転可能に支持するとともに、前記孔部に向かう挿入方向に伸びるシュート部を設けた支持手段と、
前記リテーナを前記内側支持部材の軸線を中心に所定方向に回転させる回転手段と、
前記シュート部に複数配置された回転部材を前記リテーナの外周面に押付け、複数の前記孔部に複数の前記回転部材を組込む組込み部材と、を備えた軸受け装置の製造システムにおいて、
前記組込み部材は、前記挿入方向とは逆方向に所定の抗力を受けた場合に前記挿入方向とは逆方向に退避する退避手段を介して前記回転部材を押付けることを特徴とする軸受け装置の製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受け装置の製造システムにおいて、
前記挿入方向は前記内側支持部材の軸線に直交する方向であることを特徴とする軸受け装置の製造システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の軸受け装置の製造システムにおいて、
前記挿入方向は水平面に平行な方向であることを特徴とする軸受け装置の製造システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の軸受け装置の製造システムにおいて、
前記回転部材を押付ける駆動力を生じる押付け手段は、前記挿入方向とは逆方向に伸びる方向変換部が設けられた伝達部材を介して前記退避手段を前記挿入方向に押圧することを特徴とする軸受け装置の製造システム。
【請求項5】
内側支持部材の外側に配置され、周方向に複数の孔部を設けた円筒状のリテーナを前記内側支持部材の軸線を中心に回転可能となるように支持する部材支持工程と、
前記リテーナを前記内側支持部材の軸線を中心に所定方向に回転させるとともに、前記孔部に挿入方向から複数の回転部材を前記リテーナの外周面に押付けることにより、複数の前記孔部に複数の前記回転部材を組込む回転部材組込み工程と、を備える軸受け装置の製造方法において、
前記挿入方向から前記リテーナの外周面に押付けられる前記回転部材が前記孔部に組込まれた前記回転部材から前記挿入方向とは逆方向に所定の抗力を受けた場合には、前記挿入方向から前記リテーナの外周面に押付けられる前記回転部材を前記挿入方向とは逆方向に退避させることを特徴とする軸受け装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の軸受け装置の製造方法により製造されたことを特徴とする軸受け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−214538(P2010−214538A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64818(P2009−64818)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】