説明

軸受装置および軸受装置の組立方法

【課題】組立作業の効率を高めて生産性の向上を図ることができる軸受装置を提供する。
【解決手段】軸受装置10は、転がり軸受11と、該転がり軸受11をハウジングに固定すべく、転がり軸受11の外輪13の小径段部18に嵌合される固定プレート12とを備える。小径段部18の外周部には、小径段部18の端面18aに連続する係止溝19が設けられ、固定プレート12の内周部の円周方向の複数箇所には、係止溝19に係止される係止爪21が径方向内側に突設される。この係止爪21は、まず、固定プレート12の内周部周縁の円周方向の複数箇所に固定プレート12の端面から軸方向に突出する突出部12aを形成しておき、突出部12aを端面18a側に向けて固定プレート12を小径段部18に嵌合した状態で、固定プレート12の突出部12aの反対側の端面を軸方向に押圧して、突出部12aを径方向内側に塑性変形させることにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、トランスミッションにおけるギヤ等の回転支持部に用いられる軸受装置および該軸受装置の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の軸受装置としては、例えば、図6に示すように、内輪1と外輪2との間に複数の転動体3が配設された転がり軸受4と、該転がり軸受4の外輪2の軸方向端面に当接して転がり軸受4をハウジングHに固定する固定プレート5と、を備えるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、自動車の小型化と共にトランスミッションの小型化が要請されており、このような要請に応える軸受装置として、図7に示すように、転がり軸受4の外輪2の外周面の軸方向端部に小径段部6を設け、該小径段部6に固定プレート7を嵌合固定したものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
この軸受装置は、固定プレート7の軸方向の端部内周部にプレス装置等により大径孔部7aが形成されている。そして、外輪2の小径段部6に固定プレート7を外挿した後、大径孔部7aの端面の円周方向の複数箇所をプレス装置等により軸方向に押圧することにより、小径段部6に外挿された固定プレート7の内周部に、径方向内側に突出する係止爪8を円周方向の複数箇所に形成して、該係止爪8を小径段部6の外周面に形成した係止溝9に係止させる。
【0005】
この軸受装置によれば、外輪2の軸方向端面に固定プレート5を当接させる場合(図7)に比べて軸方向の寸法を短くすることができ、トランスミッションの小型化を図ることができる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−028123号公報
【特許文献2】独国特許出願公開102004031830号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献2では、固定プレート7に形成された大径孔部7aの端面の円周方向の複数箇所を個別にプレス装置等により軸方向に押圧する必要があるため、軸受装置の組立作業の効率が低下して生産性に劣るという問題がある。なお、専用のプレス装置等を用いて前記複数箇所を一度に押圧して係止爪8を形成することも考えられるが、この場合、専用のプレス装置を新たに用意しなければならないばかりか、軸受サイズが変更された場合には対応することができなくなる。
【0008】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、組立作業の効率を高めて生産性の向上を図ることができる軸受装置および該軸受装置の組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内輪と外輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受と、該転がり軸受をハウジングに固定すべく、前記外輪の軸方向の端部外周部に設けられた小径段部に嵌合される固定プレートと、を備える軸受装置であって、
前記小径段部の外周部に該小径段部の端面に連続して設けられた係止溝と、前記固定プレートの内周部の円周方向の複数箇所に径方向内側に突出して設けられ、前記係止溝に係止される係止爪と、を備え、
前記固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所を軸方向に押圧することにより該複数箇所に前記固定プレートの軸方向端面から軸方向に突出して形成された突出部を、前記小径段部の端面に押し当てることにより径方向内側に塑性変形させて、前記係止爪が形成されており、前記転がり軸受が深溝玉軸受であることを特徴とする軸受装置。
(2)内輪と外輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受と、該転がり軸受をハウジングに固定すべく、前記外輪の軸方向の端部外周部に設けられた小径段部に嵌合される固定プレートと、を備える軸受装置であって、
前記小径段部の外周部に該小径段部の端面に連続して設けられた係止溝と、前記固定プレートの内周部の円周方向の複数箇所に径方向内側に突出して設けられ、前記係止溝に係止される係止爪と、を備え、
前記固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所を軸方向に押圧することにより該複数箇所に前記固定プレートの軸方向端面から軸方向に突出して形成された突出部を、前記小径段部の端面に押し当てることにより径方向内側に塑性変形させて、前記係止爪が形成されており、前記固定プレートにボルト用の孔が設けられていることを特徴とする軸受装置。
(3)内輪と外輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受である深溝玉軸受と、該転がり軸受をハウジングに固定すべく、前記外輪の軸方向の端部外周部に設けられた小径段部に嵌合される固定プレートと、を備える軸受装置の組立方法であって、
前記固定プレートの内周部の円周方向の複数箇所に径方向内側に突出して設けられた係止爪を、前記小径段部の外周部に該小径段部の端面に連続して設けられた係止溝に係止させて、前記転がり軸受と前記固定プレートとを結合するに際して、
前記固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所を軸方向に押圧することにより、該複数箇所に前記固定プレートの軸方向端面から軸方向に突出する突出部を形成しておき、
該突出部を前記小径段部の端面側に向けて前記固定プレートを該小径段部に嵌合した後、該固定プレートの前記突出部の反対側の軸方向端面を軸方向に面押しして、該突出部を前記小径段部の端面に押し当てることにより、前記突出部を径方向内側に塑性変形させ、これにより、前記係止爪を形成して、該係止爪を前記係止溝に係止させることを特徴とする軸受装置の組立方法。
(4)内輪と外輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受と、該転がり軸受をハウジングに固定すべく、前記外輪の軸方向の端部外周部に設けられた小径段部に嵌合される固定プレートであってボルト用の孔が設けられているものと、を備える軸受装置の組立方法であって、
前記固定プレートの内周部の円周方向の複数箇所に径方向内側に突出して設けられた係止爪を、前記小径段部の外周部に該小径段部の端面に連続して設けられた係止溝に係止させて、前記転がり軸受と前記固定プレートとを結合するに際して、
前記固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所を軸方向に押圧することにより、該複数箇所に前記固定プレートの軸方向端面から軸方向に突出する突出部を形成しておき、
該突出部を前記小径段部の端面側に向けて前記固定プレートを該小径段部に嵌合した後、該固定プレートの前記突出部の反対側の軸方向端面を軸方向に面押しして、該突出部を前記小径段部の端面に押し当てることにより、前記突出部を径方向内側に塑性変形させ、これにより、前記係止爪を形成して、該係止爪を前記係止溝に係止させることを特徴とする軸受装置の組立方法。
(5)前記固定プレートにボルト用の孔が設けられていることを特徴とする(1)に記載の軸受装置。
(6)前記固定プレートにボルト用の孔が設けられていることを特徴とする(3)に記載の軸受装置の組立方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、予め固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所に軸方向に突出する突出部を形成しておき、該突出部を外輪の小径段部の端面側に向けた状態で固定プレートを該小径段部に嵌合した後、固定プレートの突出部の反対側の軸方向端面を軸方向に面押しすることにより、固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所に同時に係止爪を形成して、該係止爪を小径段部側の係止溝に係止させることができる。これにより、軸受装置の組立作業の効率を高めることができ、生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る軸受装置の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る軸受装置の一実施形態を説明するための要部断面図、図2は外輪の小径段部に固定プレートが嵌合固定された状態を示す斜視図、図3は図2の背面側から見た斜視図、図4は固定プレートに突出部を形成する工程を説明するための図、図5は転がり軸受の外輪と固定プレートとを結合する工程を説明するための図である。
【0012】
本実施形態の軸受装置10は、図1に示すように、転がり軸受11と、該転がり軸受11をハウジング(不図示)に固定すべく、転がり軸受11の外周部に嵌合される固定プレート12と、を備える。
【0013】
転がり軸受11は、内周面に外輪軌道面13aを有する外輪13と、外周面に内輪軌道面14aを有する内輪14と、内輪軌道面14aと外輪軌道面13aとの間に円周方向に転動可能に配設された複数の転動体15と、複数の転動体15を円周方向に略等間隔に保持する保持器16と、外輪13の軸方向の両端部内周部にそれぞれ装着されて、軸受空間と外部との間をシールするシール部材17と、を有する。
【0014】
また、外輪13の軸方向の端部外周部には、固定プレート12が嵌合される小径段部18が形成されており、該小径段部18の外周面の軸方向内側寄りには、小径段部18の端面18aに連続する係止溝19が周方向全周に沿って形成されている。
【0015】
一方、固定プレート12は、図2および図3に示すように、外形が略三角形のフランジ状をなしており、三角形状の3つの頂点側にはボルト(不図示)の挿通穴20が形成されている。なお、図2および図3では、便宜上、転がり軸受10の外輪13のみを図示している。
【0016】
また、図1および図3に示すように、固定プレート12の内周部には、外輪13の小径段部18に形成された係止溝19に係止される係止爪21が径方向内側に突出して形成されている。この係止爪21は、本実施形態では、円周方向に略等間隔で3箇所形成されており、また、3箇所の係止爪21は、固定プレート12の三角形状の3つの頂点側にそれぞれ配置されている。
【0017】
次に、図4および図5を参照して、軸受装置10の組立方法について説明する。
本実施形態では、固定プレート12を外輪13の小径段部18に嵌合する前に、予め固定プレート12の内周部に軸方向に突出する突出部12aを形成する。
【0018】
すなわち、図4(A)に示すように、固定プレート12の内周部周縁の円周方向に等間隔の3箇所をプレス装置等により軸方向に押圧して、図4(B)に示すように、前記周縁部分の肉を固定プレート12の軸方向端面から軸方向に膨出させ、これにより、固定プレート12の内周部に突出部12aを形成する。
【0019】
そして、図5(A)に示すように、突出部12aを小径段部18の端面18a側に向けた状態で固定プレート12を小径段部18に嵌合した後、図5(B)に示すように、固定プレート12の突出部12aの反対側の軸方向端面をプレス装置等により軸方向に面押しして、突出部12aを小径段部18の端面18aに押し当て、突出部12aを径方向内側に塑性変形させる。かかる塑性変形により、固定プレート12の内周部に径方向内側に突出する係止爪21が形成されて、該係止爪21が小径段部18側の係止溝19に係止される。これにより、転がり軸受11の外輪13と固定プレート12とが結合されて、軸受装置10が組み立てられる。
【0020】
以上説明したように、本実施形態の軸受装置10によれば、予め固定プレート12の内周部周縁の円周方向に等間隔の3箇所に軸方向に突出する突出部12aを形成しておく。そして、該突出部12aを外輪13の小径段部18の端面18a側に向けた状態で固定プレート12を該小径段部18に嵌合した後、固定プレート12の突出部12aの反対側の軸方向端面を軸方向に面押しすることにより、固定プレート12の内周部周縁の円周方向に等間隔の3箇所に同時に係止爪21を形成して、該係止爪21を小径段部18側の係止溝19に係止させることができる。これにより、軸受装置10の組立作業の効率を高めることができ、生産性の向上を図ることができる。
【0021】
なお、本発明の内輪、外輪、転動体、転がり軸受、固定プレート、突出部、係止溝、係止爪、小径段部等の構成は、上記一実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0022】
例えば、上記実施形態では、固定プレート12の内周部に3箇所の係止爪21を形成した場合を例示したが、これに限定されず、固定プレート12の内周部に4箇所以上の係止爪21を形成してもよい。
また、上記実施形態では、小径段部18の外周面の周方向全周に係止溝19を形成した場合を例示したが、これに限定されず、例えば、小径段部18の外周面の複数箇所に周方向に延びる係止溝を形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る軸受装置の一実施形態を説明するための要部断面図である。
【図2】外輪の小径段部の外周部に固定プレートが嵌合固定された状態を示す斜視図である。
【図3】図2の背面側から見た斜視図である。
【図4】固定プレートに突出部を形成する工程を説明するための図であり、(A)は突出部の形成前の状態を示す要部断面図、(B)は突出部の形成後の状態を示す要部断面図である。
【図5】転がり軸受の外輪と固定プレートとを結合する工程を説明するための図であり、(A)は結合前の状態を示す要部断面図、(B)は結合後の状態を示す要部断面図である。
【図6】従来の軸受装置を説明するための要部断面図である。
【図7】従来の他の軸受装置を説明するための要部断面図である。
【符号の説明】
【0024】
10 軸受装置
11 転がり軸受
12 固定プレート
12a 突出部
13 外輪
14 内輪
15 転動体
18 小径段部
19 係止溝
21 係止爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受と、該転がり軸受をハウジングに固定すべく、前記外輪の軸方向の端部外周部に設けられた小径段部に嵌合される固定プレートと、を備える軸受装置であって、
前記小径段部の外周部に該小径段部の端面に連続して設けられた係止溝と、前記固定プレートの内周部の円周方向の複数箇所に径方向内側に突出して設けられ、前記係止溝に係止される係止爪と、を備え、
前記固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所を軸方向に押圧することにより該複数箇所に前記固定プレートの軸方向端面から軸方向に突出して形成された突出部を、前記小径段部の端面に押し当てることにより径方向内側に塑性変形させて、前記係止爪が形成されており、前記転がり軸受が深溝玉軸受であることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
内輪と外輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受と、該転がり軸受をハウジングに固定すべく、前記外輪の軸方向の端部外周部に設けられた小径段部に嵌合される固定プレートと、を備える軸受装置であって、
前記小径段部の外周部に該小径段部の端面に連続して設けられた係止溝と、前記固定プレートの内周部の円周方向の複数箇所に径方向内側に突出して設けられ、前記係止溝に係止される係止爪と、を備え、
前記固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所を軸方向に押圧することにより該複数箇所に前記固定プレートの軸方向端面から軸方向に突出して形成された突出部を、前記小径段部の端面に押し当てることにより径方向内側に塑性変形させて、前記係止爪が形成されており、前記固定プレートにボルト用の孔が設けられていることを特徴とする軸受装置。
【請求項3】
内輪と外輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受である深溝玉軸受と、該転がり軸受をハウジングに固定すべく、前記外輪の軸方向の端部外周部に設けられた小径段部に嵌合される固定プレートと、を備える軸受装置の組立方法であって、
前記固定プレートの内周部の円周方向の複数箇所に径方向内側に突出して設けられた係止爪を、前記小径段部の外周部に該小径段部の端面に連続して設けられた係止溝に係止させて、前記転がり軸受と前記固定プレートとを結合するに際して、
前記固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所を軸方向に押圧することにより、該複数箇所に前記固定プレートの軸方向端面から軸方向に突出する突出部を形成しておき、
該突出部を前記小径段部の端面側に向けて前記固定プレートを該小径段部に嵌合した後、該固定プレートの前記突出部の反対側の軸方向端面を軸方向に面押しして、該突出部を前記小径段部の端面に押し当てることにより、前記突出部を径方向内側に塑性変形させ、これにより、前記係止爪を形成して、該係止爪を前記係止溝に係止させることを特徴とする軸受装置の組立方法。
【請求項4】
内輪と外輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受と、該転がり軸受をハウジングに固定すべく、前記外輪の軸方向の端部外周部に設けられた小径段部に嵌合される固定プレートであってボルト用の孔が設けられているものと、を備える軸受装置の組立方法であって、
前記固定プレートの内周部の円周方向の複数箇所に径方向内側に突出して設けられた係止爪を、前記小径段部の外周部に該小径段部の端面に連続して設けられた係止溝に係止させて、前記転がり軸受と前記固定プレートとを結合するに際して、
前記固定プレートの内周部周縁の円周方向の複数箇所を軸方向に押圧することにより、該複数箇所に前記固定プレートの軸方向端面から軸方向に突出する突出部を形成しておき、
該突出部を前記小径段部の端面側に向けて前記固定プレートを該小径段部に嵌合した後、該固定プレートの前記突出部の反対側の軸方向端面を軸方向に面押しして、該突出部を前記小径段部の端面に押し当てることにより、前記突出部を径方向内側に塑性変形させ、これにより、前記係止爪を形成して、該係止爪を前記係止溝に係止させることを特徴とする軸受装置の組立方法。
【請求項5】
固定プレートにボルト用の孔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項6】
固定プレートにボルト用の孔が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の軸受装置の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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