説明

軸受装置

【課題】総ころ形式のラジアルころ軸受を採用して軸受剛性や耐久性等を高めると共に、軸受回転時のラジアルころ軸受のころのスキュー力が原因となる軌道輪部材の変形を抑制することができる軸受装置を提供する。
【解決手段】支持部6に支持された中心軸8と回転体10の中心孔11との間の環状空間に配設されるラジアルころ軸受15と、支持部6と回転体10との間に配設されるスラストころ軸受20とを備える。ラジアルころ軸受15は、中心軸8の外周面を内輪軌道面とし、回転体10の中心孔の内周面を外輪軌道面として転動可能に配設される複数のころ16を備えた総ころ形式に構成される。スラストころ軸受20は、支持部6と回転体10との間に配設された軌道輪部材40と、複数のころ21と、保持器30とを備える。軌道輪部材40には、ラジアルころ軸受15の複数のころ16の端面の中心部近傍に接触可能な環状突部43が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、遊星歯車機構において、図5に示すように、キャリアに所定間隔を保って形成された支持部306の間に中心軸308が支持され、この中心軸308を中心として、回転体としての遊星歯車310を回転可能に支持するために、中心軸308の外周面と遊星歯車310との中心孔との間の環状空間に複数のころ316と保持器317とを備えたラジアルころ軸受315が配設された構造のものが知られている。
また、トルク損失を軽減して動力の伝達効率を向上させるために、遊星歯車310の端面側の軌道輪部材340と支持部306側の軌道輪部材345との間に、複数のころ321と保持器330とを備えたスラストころ軸受320が配設された構造の軸受装置が知られている。
なお、ラジアルころ軸受と、スラストころ軸受とを備えた軸受装置において、スラストころ軸受のころに対応する軌道面を有する軌道輪部材の内径部に曲げ部が形成されたものには、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−190621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ラジアルころ軸受315の軸受剛性を高めるためには、保持器317の使用を廃止し、保持器317を使用する場合と比較してより多くのころを用いた総ころ形式のラジアルころ軸受が用いられる。
しかしながら、総ころ形式のラジアルころ軸受を採用すると、軸受回転時のラジアルころ軸受のころのスキュー力が増大する。増大したころのスキュー力が遊星歯車側の軌道輪部材340に作用すると、その軌道輪部材340の変形量も大きくなる。
そして、軌道輪部材340の変形によって、軌道輪部材340の一部がスラストころ軸受320の保持器330に当たり、保持器330の姿勢が変化して不安定となったり、あるいは保持器330が変形してスラストころ軸受320の軸受性能を悪化させることが想定される。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、総ころ形式のラジアルころ軸受を採用して軸受剛性や耐久性等を高めると共に、軸受回転時のラジアルころ軸受のころのスキュー力が原因となる軌道輪部材の変形を抑制することができる軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係る軸受装置は、支持部(6)に支持された中心軸(8)とその外周に組み付けられる回転体(10)の中心孔(11)との間の環状空間に配設されるラジアルころ軸受(15)と、前記支持部(6)と前記回転体(10)との間に配設されるスラストころ軸受(20)とを備えた軸受装置であって、
前記ラジアルころ軸受(15)は、前記中心軸(8)の外周面を内輪軌道面とし、前記回転体(10)の中心孔の内周面を外輪軌道面として転動可能に配設される複数のころ(16)を備えた総ころ形式に構成され、
前記スラストころ軸受(20)は、前記支持部(6)と前記回転体(10)との間に配設された軌道輪部材(40)と、その軌道輪部材(40)に沿って転動可能に配設された複数のころ(21)と、これら複数のころ(21)を保持する保持器(30)とを備え、
前記軌道輪部材(40)には、前記ラジアルころ軸受(15)の複数のころ(16)の端面の中心部近傍に接触可能な環状突部(43)が形成されていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、ラジアルころ軸受を保持器の使用を廃止した総ころ形式のラジアルころ軸受を用いることで軸受剛性を高めることができる。
また、軌道輪部材の環状突部によって軌道輪部材自体の剛性を高めることができる。
このため、軸受回転時において、軌道輪部材の環状突部に総ころ形式のラジアルころ軸受の各ころの端面の中心部近傍が接触して軌道輪部材に対しスキュー力が発生しても、環状突部がない軌道輪部材と比べ、軌道輪部材の変形を小さく抑制することができる。
この結果、スラストころ軸受の保持器に対する軌道輪部材の変形による悪影響(保持器の姿勢が不安定となったり、あるいは保持器が変形する等の悪影響)を回避することができる。
さらに、軌道輪部材の環状突部が、総ころ形式のラジアルころ軸受の各ころの端面の中心部近傍に接触することによって、軌道輪部材ところの端面との間に発生する摩擦力も軽減することができ、低トルク化においても効果が大きい。
【0008】
請求項2に係る軸受装置は、請求項1に記載の軸受装置であって、
環状突部(43)は、軌道輪部材(40)の一側から他側へ向けてプレス加工されることで形成されていることを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、軌道輪部材の一側から他側へ向けてプレス加工することによって環状突部を容易に形成することができ、コストへの影響も小さい。
【0010】
請求項3に係る軸受装置は、請求項1に記載の軸受装置であって、
環状突部(143)は、軌道輪部材(140)の内径部からラジアルころ軸受(15)の複数のころ(16)の端面に向けて円筒状に突出されることで形成され、
前記環状突部(143)の内周面には、中心軸(8)の外周面に嵌合して軌道輪部材(140)の径方向の移動を規正する規制リング(150)が嵌込まれていることを特徴とする。
【0011】
前記構成によると、軌道輪部材の内径部からラジアルころ軸受の複数のころの端面に向けて円筒状に突出することによって環状突部を容易に形成することができる。
また、環状突部が円筒状をなすことで、軌道輪部材自体の剛性をより一層高めることができ、総ころ形式のラジアルころ軸受のころのスキュー力による軌道輪部材の変形防止に効果が大きい。
さらに、環状突部の内周面に嵌込まれる規制リングによって、軌道輪部材の径方向の移動を規正することができるため、軌道輪部材の環状突部を、ラジアルころ軸受の複数のころの端面の中心部近傍に接触可能な状態に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施例1に係る軸受装置が遊星歯車機構に採用された状態を簡略化して示す説明図である。
【図2】同じくキャリアの両支持部の間の中心軸回りに配設される遊星歯車がラジアルころ軸受とスラストころ軸受によって支持された状態を示す縦断面図である。
【図3】同じくスラストころ軸受の軌道輪部材の環状突部と総ころ形式のラジアルころ軸受のころとの関係を示す縦断面図である。
【図4】この発明の実施例2に係る軸受装置のスラストころ軸受の軌道輪部材の環状突部と総ころ形式のラジアルころ軸受のころとの関係を示す縦断面図である。
【図5】従来の軸受装置のスラストころ軸受の軌道輪部材とラジアルころ軸受の保持器との関係を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0014】
この発明の実施例1に係る軸受装置を図1〜図3にしたがって説明する。
図1と図2に示すように、この実施例1に係る軸受装置は、自動車のオートマチックトランスミッション等に配設される遊星歯車機構1に採用される場合を例示するものであり、周知のように、遊星歯車機構1は、太陽歯車2、リングギヤ3、複数(図1では3つ)の回転体としての遊星歯車10、及びキャリア5を備えて構成される。そして、遊星歯車10は、太陽歯車2とリングギヤ3との相互に噛み合った状態で、中心軸8回りに自転しながら太陽歯車2回りに公転するようになっている。
【0015】
図2に示すように、キャリア5には、軸方向に所定間隔を保って支持部6が形成され、これら両支持部6の間には中心軸8が支持される。
そして、この実施例1に係る軸受装置は、中心軸8とその外周に組み付けられる遊星歯車10の中心孔との間の環状空間に配設されるラジアルころ軸受15と、両支持部6と遊星歯車10の両端面との間に配設されるスラストころ軸受20とを備える。
【0016】
ラジアルころ軸受15は、遊星歯車10の中心孔11の内周面を外輪軌道面とし、中心軸8の外周面を内輪軌道として転動可能に配設される複数のころ(針状ころも含む)16を備えた総ころ形式に構成されている。
【0017】
図2に示すように、スラストころ軸受20は、遊星歯車10側と支持部6側とにそれぞれ配設される軌道輪部材40、45と、これら両軌道輪部材40、45の軌道面41、46の間に転動可能に配設される複数のころ21と、これら複数のころ21を保持する保持器30とを備えている。
【0018】
両軌道輪部材40、45は、それぞれ炭素鋼板のプレス加工によって形成されている。
また、両軌道輪部材40、45のうち、遊星歯車10側に位置する軌道輪部材40は、図3に示すように、遊星歯車10の中心孔11よりも若干小径な部分に段差部をもってラジアルころ軸受15のころ16端面に向けて突出する内径部(この発明の内径側部分に相当する)42を有して段差円環状に形成されている。そして、軌道輪部材40の内径部42には、ラジアルころ軸受15の複数のころ16の端面の中心部近傍に接触可能な環状突部43が形成されている。
この実施例1において、環状突部43は、軌道輪部材40をプレス加工する際、その内径部42の一側から他側へ向けて同時にプレス加工されることで形成されている。
【0019】
この実施例1に係る軸受装置は上述したように構成される。
したがって、中心軸8とその外周に組み付けられる遊星歯車10の中心孔との間の環状空間に配設されるラジアルころ軸受15において、保持器の使用を廃止した総ころ形式のラジアルころ軸受15を用いることで軸受剛性や耐久性等を高めることができる。
【0020】
また、遊星歯車10側の軌道輪部材40の環状突部43によって軌道輪部材40自体の剛性を高めることができる。
このため、軸受回転時において、遊星歯車10側の軌道輪部材40に対しラジアルころ軸受15の各ころ16によるスキュー力が発生しても、環状突部がない軌道輪部材と比べ、遊星歯車10側の軌道輪部材40の変形を小さく抑制することができる。
この結果、スラストころ軸受20の保持器30に対する遊星歯車10側の軌道輪部材40の変形による悪影響(保持器30の姿勢が不安定となったり、あるいは保持器30が変形する等の悪影響)を回避することができる。
さらに、遊星歯車10側の軌道輪部材40の環状突部43が、ラジアルころ軸受15の各ころ16の端面の中心部近傍に接触することによって、遊星歯車10側の軌道輪部材40とラジアルころ軸受15の各ころ16の端面との間に発生する摩擦力も軽減することができ、低トルク化においても効果が大きい。
【0021】
しかも、この実施例1において、遊星歯車10側の軌道輪部材40は、遊星歯車10の中心孔11よりも若干小径な部分に段差部をもってラジアルころ軸受15のころ16端面に向けて突出する内径部(この発明の内径側部分に相当する)42を有して段差円環状に形成されている。これによって、遊星歯車10側の軌道輪部材40自体の剛性をより一層高めることができ、軌道輪部材40の変形防止に効果が大きい。
さらに、この実施例1において、軌道輪部材40をプレス加工する際、その内径部42の一側から他側へ向けて環状突部43を同時にプレス加工することができ、コスト低減に効果が大きい。
【実施例2】
【0022】
次に、この発明の実施例2に係る軸受装置を図4にしたがって説明する。
図4に示すように、この実施例2に係る軸受装置は、遊星歯車10側の軌道輪部材140をプレス加工すると同時に、軌道輪部材140の内径部から総ころ形式のラジアルころ軸受15の複数のころ16の端面に向けて円筒状に突出させることで環状突部143を形成したものである。
また、環状突部143の内周面には、中心軸8の外周面に嵌合して軌道輪部材140の径方向の移動を規正する金属製の規制リング150が嵌込まれる。
これによって、軌道輪部材140の環状突部143がラジアルころ軸受15の複数のころ16の端面の中心部近傍に接触可能となっている。
この実施例2のその他の部分は、実施例1と同様に構成されるため、同一構成部分に対し同一符号を付記してその説明は省略する。
【0023】
この実施例2に係る軸受装置は上述したように構成される。
したがって、遊星歯車10側の軌道輪部材140をプレス加工すると同時に、軌道輪部材140の内径部からラジアルころ軸受15の複数のころ16の端面に向けて円筒状に突出させることで環状突部143を容易に形成することができる。
また、環状突部143が円筒状をなすことで、軌道輪部材140の剛性をより一層高めることができ、ラジアルころ軸受15の各ころ16のスキュー力による遊星歯車10側の軌道輪部材140の変形を良好に防止することができる。
さらに、環状突部143の内周面に嵌込まれる規制リング150によって、軌道輪部材140の径方向の移動を規正することができるため、軌道輪部材140の環状突部143を、ラジアルころ軸受15の複数のころ16の端面の中心部近傍に接触可能な状態に保つことができる。
【0024】
なお、この発明は前記実施例1及び2に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。
例えば、前記実施例1及び2においては、軸受装置が遊星歯車機構1に採用される場合を例示したが、遊星歯車機構1以外の歯車機構や回転機構に対してもこの発明の軸受装置を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 遊星歯車機構
5 キャリア
6 支持部
10 遊星歯車(回転体)
15 ラジアルころ軸受
16 ころ
20 スラストころ軸受
21 ころ
30 保持器
40、140 軌道輪部材
41、141 軌道面
43、143 環状突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部に支持された中心軸とその外周に組み付けられる回転体の中心孔との間の環状空間に配設されるラジアルころ軸受と、前記支持部と前記回転体との間に配設されるスラストころ軸受とを備えた軸受装置であって、
前記ラジアルころ軸受は、前記中心軸の外周面を内輪軌道面とし、前記回転体の中心孔の内周面を外輪軌道面として転動可能に配設される複数のころを備えた総ころ形式に構成され、
前記スラストころ軸受は、前記支持部と前記回転体との間に配設された軌道輪部材と、前記軌道輪部材に沿って転動可能に配設された複数のころと、これら複数のころを保持する保持器とを備え、
前記軌道輪部材には、前記ラジアルころ軸受の複数のころの端面の中心部近傍に接触可能な環状突部が形成されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軸受装置であって、
環状突部は、軌道輪部材の一側から他側へ向けてプレス加工されることで形成されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項3】
請求項1に記載の軸受装置であって、
環状突部は、軌道輪部材の内径部からラジアルころ軸受の複数のころの端面に向けて円筒状に突出されることで形成され、
前記環状突部の内周面には、中心軸の外周面に嵌合して軌道輪部材の径方向の移動を規正する規制リングが嵌込まれていることを特徴とする軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−145134(P2012−145134A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1924(P2011−1924)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】