説明

軸受装置

【課題】 比較的多量に潤滑油が供給される環境下においても、軸受内部への潤滑油の供給量を効果的に減らして、適切な供給量に調整することができる軸受装置を提供する。
【解決手段】 本発明の軸受装置は、ハウジング1と、ハウジング1に対してクランクシャフト5を回転自在に支持する分割型転がり軸受10とを備えている。ハウジング1には、支持孔3の内周面に開口する給油孔7が形成されている。外輪11には、当該外輪11を径方向に貫通した給油口20が設けられている。外輪11の外周面11bには、給油口20と、給油孔7とを繋ぐ溝部21が形成されている。溝部21の断面積は、給油孔7から給油口20供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、エンジンのクランクシャフト等を回転自在に支持するために用いられる軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンのクランクシャフトは、クランクを構成するクランクアームやクランクピンが一体成形されている。このため、クランクアーム間に設けられたクランクジャーナルに配置されてエンジンブロックに対してクランクシャフトを支持する軸受は、周方向に分割された分割型軸受が使用されている。
【0003】
上記分割型軸受としては、従来から滑り軸受が使用されている。滑り軸受は、潤滑油により形成される油膜によって回転軸を回転自在に支持するので、比較的多い量の潤滑油の供給を必要とする。このため、通常、滑り軸受が固定されるハウジングには、滑り軸受の滑り面と回転軸との間に潤滑油を供給するための給油孔が設けられており、油圧ポンプ等によって圧送された潤滑油が前記滑り面と回転軸との間に供給される。
【0004】
その一方、近年の経済性、環境性に関する高い要求を満足するために、滑り軸受に代えて、より回転トルクを低減できる転がり軸受が使用されることがある。
上記滑り軸受に代えて用いられる転がり軸受としては、複数の円筒ころ介して回転軸を支持するとともに外輪が二分割にされた分割型の転がり軸受を用いることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−234074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、上記滑り軸受を採用していたエンジンに対して、滑り軸受から転がり軸受を置換して用いる場合、滑り軸受の給油に用いていた給油孔をそのまま転がり軸受の潤滑に利用することが考えられる。
【0007】
しかし、上記分割型の転がり軸受は、円筒ころといった転動体を有しているので、例えば、軸受内部への給油量が極端に多いと、潤滑油による粘性抵抗によって逆に回転トルクの増加を招くことがある。このため、比較的多量の潤滑油の供給を必要とする滑り軸受と同程度の油量の潤滑油が、軸受内部に供給されると、回転トルクを増加させてしまうおそれがある。このため、転がり軸受に対応した潤滑油供給量に調整する必要がある。
なお、エンジン側のハウジングに設けられた給油孔からの給油量を調整するという方策も考えられるが、この方策では、エンジン側の油圧系統の変更を強いることになるのでコスト面等から好ましくない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、比較的多量に潤滑油が供給される環境下においても、軸受内部への潤滑油の供給量を効果的に減らして、適切な供給量に調整することができる軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、支持孔を有するハウジングと、前記支持孔に外嵌固定される外輪、及び前記外輪の内周面に形成された外輪軌道を転走する複数の転動体を備え、回転軸を前記ハウジングに対して回転自在に支持する転がり軸受と、を備え、前記ハウジングには、前記支持孔の内周面に開口する給油孔が形成され、この給油孔を経て潤滑油が前記転がり軸受の内部に供給される軸受装置において、前記外輪には、当該外輪を径方向に貫通し、前記潤滑油を軸受内部に供給するための給油口が設けられているとともに、前記外輪の外周面には、前記給油口と、前記給油孔とを繋ぐ溝部が形成され、前記溝部の断面積は、前記給油孔から給油口に供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されていることを特徴としている。
【0010】
上記構成の軸受装置によれば、外輪の外周面には、給油口と、給油孔とを繋ぐ溝部が形成され、溝部の断面積は、給油孔から給油口に供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されているので、給油孔から溝部に向けて潤滑油が通過するときの流動抵抗を高めることができる。この結果、給油孔から供給される潤滑油量が多量であったとしても、高まる潤滑油の圧力に抗して溝部内の流量を制限することができ、これによって、比較的多量に潤滑油が供給される環境下においても、軸受内部への潤滑油の供給量を効果的に減らして、適切な供給量に調整することができる。
【0011】
上記軸受装置において、前記給油口の断面積が、前記溝部から軸受内部に供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されていることが好ましく、この場合、溝部から給油口に向けて潤滑油が通過するときの流動抵抗を高めることができる。これにより、給油孔から供給される潤滑油の流量をさらに制限することができる。
【0012】
また、上記軸受装置において、前記溝部が潤滑油の流動方向を転換させる屈曲部を有するものであってもよい。
この場合、溝部を通過する潤滑油の流動抵抗を屈曲部により高めることができるとともに、潤滑油が通過する通過経路をより長くすることができ、この結果、潤滑油の流動抵抗をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、比較的多量に潤滑油が供給される環境下においても、軸受内部への潤滑油の供給量を効果的に減らして、適切な供給量に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸受装置の断面図である。
【図2】(a)は、図1中、II−II断面図であり、図2(b)は、外輪の外周面の一部外観図であり、給油孔の位置に対応する部分を示した図である。
【図3】外輪の外周面に形成される溝部の他の例を示す図である。
【図4】周方向に延長した溝部を誇張して示した外輪断面図である。
【図5】一対の給油口を設けた場合の外輪断面図であり、溝部を誇張して示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る軸受装置の断面図である。
図1中、本実施形態の軸受装置は、自動車用エンジンのクランクシャフトを支持するためのものであり、クランクシャフト支持用のハウジング1と、このハウジング1に固定された分割型転がり軸受10とを備えている。
【0016】
ハウジング1は、図示しないシリンダブロック側に設けられたアッパブロック2と、アッパブロック2に固定されたベアリングキャップ4とを備えている。
ベアリングキャップ4は、固定ボルト6によってアッパブロック2に固定されている。アッパブロック2及びベアリングキャップ4によって構成されているハウジング1には、円筒孔状に形成された分割型転がり軸受10を支持するための支持孔3が形成されている。支持孔3の内周面側には、分割型転がり軸受10が圧入されている。
【0017】
アッパブロック2には、分割型転がり軸受10に潤滑油を供給するための給油孔7が形成されている。この給油孔7は、斜め上方(図1において斜め上方)から当該アッパブロック2内を延びて支持孔3に開口するように形成されている。給油孔7における支持孔3の開口は、後述する分割型転がり軸受10の軸受内部に潤滑油を供給するための給油路に繋がっている。
【0018】
分割型転がり軸受10は、支持孔3とクランクシャフト5との間に介在配置されており、シリンダブロックに対してクランクシャフト5を回転自在に支持している。
分割型転がり軸受10は、支持孔3の内周面に密接して外嵌固定されている外輪11と、外輪11の内周面11aに転動自在に配設された複数のころ12と、各ころ12を円周方向ほぼ等間隔に配置するように保持する保持器13とを備えている。複数のころ12は、クランクシャフト5のクランクジャーナル5aに接しており、当該クランクジャーナル5aの外周面を転動する。つまり、この分割型転がり軸受10は、クランクジャーナル5aを内輪側の部材としている。
【0019】
外輪11は、円周方向に二分割された一組の半割外輪部材14を組み合わせることで構成されている。また、保持器13も、同じく円周方向に二分割された一組の半割部材15を組み合わせることで構成されており、分割型転がり軸受10は、クランクジャーナル5aに取り付けるために、円周方向に二分割可能とされている。
【0020】
図2(a)は、図1中、II−II断面図であり、図2(b)は、外輪11の外周面の一部外観図であり、給油孔7の位置に対応する部分を示した図である。
外輪11には、当該外輪11を径方向に貫通している給油口20が設けられている。
また、外輪11の外周面11bには、給油口20と、給油孔7とを繋ぐ溝部21が形成されている。
【0021】
溝部21は、外輪11の外周面11bに対して径方向に凹むように形成されており、給油口20において外周面11b側に開口している上側開口20aと、支持孔3の内周面3aに開口している給油孔7に対応する部分とを繋ぐように軸方向に沿って直線状に延ばされている。この溝部21の溝深さは、共に例えば1mmに設定されている。
【0022】
上記溝部21は、当該溝部21の外周側が支持孔3の内周面3aによって覆われることで、給油口20と、給油孔7とを繋ぐように直線状に延ばされた給油路Rを形成している。
給油路Rは、給油孔7と、給油口20とを繋ぐことで、給油孔7から供給される潤滑油を給油口20に導く。給油口20に導かれた潤滑油は、給油口20を通じて軸受内部に供給される。
【0023】
給油口20は、外輪11を径方向に貫通して設けられることで、外輪11の外周面11b側から供給される潤滑油を軸受内部に供給する。この給油口20は、軸受内部に供給される潤滑油の供給量を絞るオリフィスとしての機能を有している。よって、給油口20の内径寸法を調整することで、軸受内部へ供給される潤滑油量を調整することができる。
この給油口20の内径は、潤滑油の粘度等に応じて設定され、例えば0.5〜1mmに設定される。
【0024】
給油路Rは、溝深さが上述のように1mmに設定された溝部21によって形成されているので、非常に狭小な断面積とされている。給油路Rは、図2(a)、(b)に示すように、その断面積が、給油孔7の断面積よりも小さく設定されている。この給油路R(溝部21)の断面積は、給油孔7から給油口20に供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されている。このため、潤滑油がこの給油路Rを通過する際には、高い流動抵抗が生じる。
さらに、給油口20の断面積についても、給油路R(溝部21)から軸受内部に供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されている。
【0025】
上記のように構成された軸受装置によれば、外輪11の外周面11bには、給油口20と、給油孔7とを繋ぐ溝部21が形成され、溝部21の断面積は、給油孔7から給油口20に供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されているので、給油孔7から溝部21に向けて潤滑油が通過するときの流動抵抗を高めることができる。この結果、給油孔7から供給される潤滑油量が多量であったとしても、高まる潤滑油の圧力に抗して溝部21内の流量を制限することができ、これによって、比較的多量に潤滑油が供給される環境下においても、軸受内部への潤滑油の供給量を効果的に減らして、適切に調整することができる。
【0026】
また、本実施形態において、給油口20の断面積が、給油路R(溝部21)から軸受内部に供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されている。このため、溝部21から給油口20に向けて潤滑油が通過するときの流動抵抗を高めることができ、給油孔7から供給される潤滑油の流量をさらに制限することができる。
【0027】
なお、本実施形態では、溝深さが上述のように1mmに設定された溝部21によって給油路Rを形成したが、この溝深さは、潤滑油の粘度等によって適宜調整され、潤滑油に混入する異物がつまらない程度の寸法の範囲でより小さく設定することもできる。具体的には、溝深さ及び溝幅は、最大1mmから最小0.02mmの範囲で、その断面積を調整しつつ設定することが好ましい。
【0028】
上記実施形態では、溝部21を軸方向に沿って直線状に延ばすことで、直線状の給油路Rを形成した場合を示したが、例えば、図3(a)に示すように、潤滑油の流動方向を転換させる屈曲部21aを溝部21に設け、溝部21を外輪11の外周面11b上でコの字状に形成してもよいし、図3(b)に示すようにL字状に形成してもよい。この場合、給油路Rも屈曲されて形成されるので、給油路Rをいわゆるラビリンス構造とすることができる。これによって、溝部21内を通過する潤滑油の流動抵抗を屈曲部21aにより高めることができるとともに、潤滑油が通過する通過経路をより長くすることができ、この結果、潤滑油の流量をさらに高めることができる。
【0029】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、分割型転がり軸受10を用いた場合を例示したが、この軸受装置は、分割型の転がり軸受に限らず、環状に形成された通常の外輪を備えた転がり軸受を用いることもできる。
【0030】
環状に形成された通常の外輪を備えた転がり軸受の場合、例えば、図4(a)に示すように、給油孔7に対して周方向ほぼ180度の位置に給油口20を設け、給油孔7と、給油口20とを繋ぐように、溝部21を外輪11の外周面11bのほぼ半周に亘って形成することもできる。
また、図4(b)に示すように、給油孔7に隣接して給油口20を設けるとともに、外輪11の外周面11bのほぼ全周に亘って溝部21を設け、給油孔7と、給油口20とを繋ぐこともできる。
【0031】
給油路R(溝部21)は、その長さが長ければ長いほど流動抵抗によって、潤滑油の流量を制限できるので、図4に示すように、給油路Rを周方向に沿って延長することでその長さを調整し、軸受内部に供給する潤滑油量を調整することができる。
特に給油孔7からの潤滑油の供給は、油圧ポンプ等によって圧送供給される場合があるので、このような場合には、給油路Rの長さを適宜延長することで、軸受内部への潤滑油の供給量を適切に調整することができる。
【0032】
なお、図4では、溝部21を周方向一方方向に延長した場合を示したが、例えば、所定長さだけ周方向一方方向に延長し、さらに折り返して周方向他方向に戻り、周方向に往復するように溝部21を形成することもできる。
【0033】
さらに図5に示すように、外輪11に、互いに周方向にほぼ180度の位置となるように給油口20を一対設け、一対の給油口20を繋ぐように溝部21を設けてもよい。この場合、給油孔7は、給油路Rにおける一対の給油口20の間の中間部分に繋げられている。
このように、給油口20を一対設けることで、軸受内部に均等に潤滑油を供給できる。なお、給油口20は、より多数設けても良い。但し、給油口20は上述したように、軸受内部へ供給される潤滑油量を調整するためのオリフィスとしての機能を有しているので、給油口20を複数設ければその分だけ、軸受内部への潤滑油の供給量も増加する。
この場合には、各給油口20の内径寸法をより小さくすることで、個々の給油口20による潤滑油の供給量を小さく調整し、全体としての軸受内部への潤滑油の供給量を適切に調整することができる。
【符号の説明】
【0034】
1:ハウジング 3:支持孔 3a:内周面 5:クランクシャフト
7:給油孔 10:分割型転がり軸受(転がり軸受部) 11:外輪
11a:内周面 11b:外周面 12:ころ 20:給油口
21:溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持孔を有するハウジングと、
前記支持孔に外嵌固定される外輪、及び前記外輪の内周面に形成された外輪軌道を転走する複数の転動体を備え、回転軸を前記ハウジングに対して回転自在に支持する転がり軸受と、を備え、
前記ハウジングには、前記支持孔の内周面に開口する給油孔が形成され、この給油孔を経て潤滑油が前記転がり軸受の内部に供給される軸受装置において、
前記外輪には、当該外輪を径方向に貫通し、前記潤滑油を軸受内部に供給するための給油口が設けられているとともに、前記外輪の外周面には、前記給油口と、前記給油孔とを繋ぐ溝部が形成され、
前記溝部の断面積は、前記給油孔から給油口に供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記給油口の断面積が、前記溝部から軸受内部に供給される潤滑油の流量を絞る値に設定されている請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記溝部が潤滑油の流動方向を転換させる屈曲部を有する請求項1又は2に記載の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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