説明

軸受複合一方向クラッチ

【課題】軸受および一方向クラッチの潤滑用グリースの外部への漏洩を防止した部品点数の少ない軸受複合一方向クラッチを提供することである。
【解決手段】外輪11の円筒形内面12と内輪13の円筒形外面間14にスプラグ17、および、そのスプラグ17を保持する保持器15を組込んだ一方向クラッチ10の軸方向一側に片シール付きの円筒ころ軸受20を設け、上記一方向クラッチ10の軸方向他側に片シール付きの玉軸受30を設ける。一方向クラッチ10の外輪11と円筒ころ軸受20および玉軸受30の軸受外輪を共用し、一方向クラッチ10の内輪13と円筒ころ軸受20および玉軸受30の軸受内輪を共用して部品点数を低減する。また、円筒ころ軸受20の外側軌道面23の内径を円筒形内面12の内径と同一径とし、内側軌道面24の外径を円筒形外面14の外径と同一径として、同時に加工できるようにして、加工コストの低減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力側部材の一方向の回転を出力側部材に伝達すると共に、出力側部材の回転速度が入力側部材の回転速度を上回った場合に、入力側部材から出力側部材への回転伝達を遮断する軸受複合一方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンのクランク軸の回転をベルト伝動装置によってエンジン補機の回転軸に伝えるようにした補機駆動装置においては、エンジンを急減速した場合、エンジン補機の回転軸に取付けられたプーリも急減速しようとする。
【0003】
このとき、エンジン補機がオルタネータの場合、そのオルタネータの回転軸は慣性力が大きいため、その回転軸に取付けられたプーリは一定の速度で回り続けようとし、クランク軸上のプーリとオルタネータの回転軸上のプーリとの間で大きな回転速度差が生じ、ベルトの張力が増大して破損し易くなる。
【0004】
また、クランク軸は、1回転中に角速度が変動しており、その角速度の変動に起因してクランク軸上のプーリとベルトとの間で滑りが生じ、その滑りによってベルトが摩耗し、耐久性が低下することになる。
【0005】
そのような不都合を解消するには、エンジン補機の回転軸上に設けられるプーリ内に一方向クラッチを組込むことが有効である。ここで、プーリ内に一方向クラッチが組込まれたクラッチ内蔵プーリにおいては、プーリの回転速度がエンジン補機の回転軸の回転速度より低下した場合に、一方向クラッチのロック解除によってプーリがフリー回転するため、ベルトの張力増加を防止し、プーリとベルトの相互間における滑りを防止することができる。
【0006】
上記のようなクラッチ内蔵プーリにおいて、プーリ内に組込まれる一方向クラッチとして、スプラグタイプの一方向クラッチの軸方向一側に円筒ころ軸受を設け、かつ、一方向クラッチの軸方向他側に玉軸受を設けた軸受複合一方向クラッチが従来から知られている(特許文献1参照)。
【0007】
上記軸受複合一方向クラッチにおいては、一方向クラッチのクラッチ外輪と円筒ころ軸受の軸受外輪を共用する構成であるため、部品点数を低減することができ、コストの低減と組立ての容易化を図ることができるという特徴を有している。
【0008】
【特許文献1】特開2006−322596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記軸受複合一方向クラッチにおいては、円筒ころ軸受および玉軸受として片シール付きの軸受を採用し、各軸受をシール部材がアウタ側に位置する組付けとして、内部に封入されたグリースの外部への漏洩を防止するようにしているが、玉軸受をクラッチ内輪の端部外径面およびプーリの内径面に圧入する組付けであるため、圧入面に傷があると、その傷から外部に軸受および一方向クラッチの潤滑用のグリースが漏洩する可能性がある。
【0010】
この発明の課題は、軸受および一方向クラッチの潤滑用グリースの外部への漏洩を防止することができるようにした部品点数の少ない組立ての容易な軸受複合一方向クラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明においては、外輪の円筒形内面と内輪の円筒形外面間にスプラグ、および、そのスプラグを保持する保持器を組込んだ一方向クラッチと、その一方向クラッチの軸方向一側に設けられた円筒ころ軸受と、前記一方向クラッチの軸方向他側に設けられた玉軸受とを有し、前記円筒ころ軸受および玉軸受のそれぞれが軸方向の外側端部にシール部材を備えてなる軸受複合一方向クラッチにおいて、前記一方向クラッチの外輪と円筒ころ軸受および玉軸受の軸受外輪を共用し、一方向クラッチの内輪と円筒ころ軸受および玉軸受の軸受内輪を共用し、円筒ころ軸受の外側軌道面の内径を一方向クラッチにおける外輪の円筒形内面の内径と同一径とし、円筒ころ軸受の内側軌道面の外径を一方向クラッチにおける内輪の円筒形外面の外径と同一径とした構成を採用したのである。
【0012】
この発明に係る軸受複合一方向クラッチにおいて、円筒ころ軸受の保持器を一方向クラッチの保持器に一体化し、または、玉軸受の保持器を一方向クラッチの保持器に一体化することによって、部品点数の低減を図ることができるため、コストの安い軸受複合一方向クラッチを得ることができる。
【0013】
ここで、円筒ころ軸受の保持器を軸受外輪との間、または、軸受内輪との間で軸方向に位置決めすることにより、円筒ころおよび保持器の軸方向への移動を防止することができるため、上記保持器の軸方向への移動による衝突によってアウタ側のシール部材のシール性を損ねる等の不都合の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記のように、この発明に係る軸受複合一方向クラッチにおいては、一方向クラッチの外輪と円筒ころ軸受および玉軸受の軸受外輪を共用し、一方向クラッチの内輪と円筒ころ軸受および玉軸受の軸受内輪を共用したことにより、部品点数の低減を図ることができると共に、一方向クラッチの組付けと同時に円筒ころ軸受および玉軸受の組付けを行うことができ、組付けの容易な軸受複合一方向クラッチを得ることができる。
【0015】
また、円筒ころ軸受と玉軸受のそれぞれに設けられたシール部材によって共用の外輪と共用の内輪間に密閉空間を形成することができるため、外輪および内輪の圧入による組付け時に、圧入面に傷が形成されたとしても、その傷から外部に転がり軸受および一方向クラッチの潤滑用のグリースが漏洩するようなことはなく、潤滑用グリースの外部への漏洩を確実に防止することができる。
【0016】
さらに、円筒ころ軸受の外側軌道面の内径を一方向クラッチにおける外輪の円筒形内面の内径と同一径とし、円筒ころ軸受の内側軌道面の外径を一方向クラッチにおける内輪の円筒形外面の外径と同一径とすることにより、外輪の円筒形内面と円筒ころ軸受の外側軌道面、および、内輪の円筒形外面と円筒ころ軸受の内側軌道面をセンタレス研削等によって一連に加工することができ、加工コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図1および図2は、回転トルクが入力されるプーリ1と、その内側に組込まれた回転軸2との間に、この発明に係る軸受複合一方向クラッチAを組込んだクラッチ内蔵プーリを示している。
【0018】
軸受複合一方向クラッチAは、一方向クラッチ10と、その一方向クラッチ10の軸方向一側に組込まれた円筒ころ軸受20と、上記一方向クラッチ10の軸方向他側に組込まれた玉軸受30とからなる。
【0019】
一方向クラッチ10は、プーリ1の内径面に圧入された外輪11の円筒形内面12と回転軸2の外径面に圧入された内輪13の円筒形外面14間に保持器15を組込み、その保持器15の周方向に等間隔に形成された複数のポケット16のそれぞれ内部にスプラグ17と、そのスプラグ17を外輪11の円筒形内面12および内輪13の円筒形外面14に噛み込む方向に向けて付勢する弾性部材18を組込んだ構成とされている。
【0020】
上記一方向クラッチ10においては、外輪11がプーリ1と共に図2の矢印で示す方向に回転した際に、スプラグ17を外輪11の円筒形内面12と内輪13の円筒形外面14に噛み込ませ、そのスプラグ17を介して外輪11の回転を内輪13から回転軸2に伝達し、上記回転軸2の回転速度がプーリ1の回転速度を上回った際に、スプラグ17の噛み込みを解除させて、プーリ1から回転軸2への回転伝達を遮断するようになっている。
【0021】
一方向クラッチ10の外輪11は円筒ころ軸受20および玉軸受30の軸受外輪を共用する軸方向長さとされ、また、内輪13も円筒ころ軸受20および玉軸受30の軸受内輪を共用する軸方向長さとされている。
【0022】
さらに、保持器15は円筒ころ軸受20の保持器を共用する軸方向長さとされている。
【0023】
円筒ころ軸受20は、保持器15の一端部に複数のポケット21を周方向に等間隔に形成し、各ポケット21内に円筒ころ22を組込み、その円筒ころ22を外輪11の一端部内周に形成された円筒形の外側軌道面23と内輪13の一端部の外周に形成された円筒形の内側軌道面24に沿って転動自在とした構成とされている。
【0024】
ここで、円筒ころ軸受20における外側軌道面23の内径は一方向クラッチ10における円筒形内面12の内径と同一径とされ、一方、円筒ころ軸受20における内側軌道面24の外径は一方向クラッチ10における円筒形外面14の外径と同一径とされている。
【0025】
上記のように、外側軌道面23の内径を円筒形内面12の内径と同一径とし、内側軌道面24の外径を円筒形外面14の外径と同一径とすることにより、円筒形内面12と外側軌道面23、および円筒形外面14と内側軌道面24をセンタレス研削等によって一連に加工することができ、加工コストの低減を図ることができる。
【0026】
保持器15は、外輪11との間に設けられた位置決め機構40によって軸方向に位置決めされている。位置決め機構40は、保持器15の一端部外周に突起41を形成し、その突起41を外輪11の一端部内周に形成された環状の係合溝42に係合している。
【0027】
ここで、突起41は周方向に不連続のものであってもよく、あるいは、周方向に連続するものであってもよい。なお、実施の形態では、外輪11との間で保持器15を軸方向に位置決めしたが、内輪13との間で保持器15を軸方向に位置決めしてもよい。
【0028】
玉軸受30は、外輪11と内輪13の他端部間に保持器31を組込み、その保持器31の周方向に等間隔に形成された複数のポケット32のそれぞれ内部にボール33を組込み、各ボール33を外輪11の他端部内周に形成された軌道溝34と内輪13の他端部外周に設けられた軌道溝35に沿って転動自在とした構成とされている。
【0029】
外輪11と内輪13の対向部間は、円筒ころ軸受20のアウタ側端部に組込まれたシール部材25および玉軸受30のアウタ側端部に組込まれたシール部材36によって密閉され、その密閉空間内に一方向クラッチ10、円筒ころ軸受20および玉軸受30を潤滑するグリースが充填されている。
【0030】
上記の構成からなる軸受複合一方向クラッチAにおいては、一方向クラッチ10の外輪11と円筒ころ軸受20および玉軸受30の軸受外輪を共用し、かつ、一方向クラッチ10の内輪13と円筒ころ軸受20および玉軸受30の軸受内輪を共用したことにより、一方向クラッチ10の組付けと同時に円筒ころ軸受20および玉軸受30の組付けを行うことができ、軸受複合一方向クラッチAの組付けを簡単に行うことができる。
【0031】
また、外輪11と内輪13の両端部間をシール部材25、36によってシールしたことによって、外輪11と内輪13間に密閉空間を形成することができる。このため、外輪11をプーリ1の内径面に圧入し、内輪13を回転軸2の外径面に圧入する軸受複合一方向クラッチAの組付け時に、圧入面に傷が形成されたとしても、その傷から外部に一方向クラッチ10、円筒ころ軸受20、および玉軸受30の内部に封入された潤滑用のグリースが漏洩するようなことはなくなり、潤滑用グリースの外部への漏洩を確実に防止することができる。
【0032】
さらに、一方向クラッチ10の外輪11および内輪13を転がり軸受20、30の軸受外輪および軸受内輪に共用し、かつ、一方向クラッチ10の保持器15を円筒ころ軸受20の保持器と共用したことにより、部品点数を大幅に低減することができ、コストの安い軸受複合一方向クラッチAを提供することができる。
【0033】
また、一方向クラッチ10の軸方向一側に円筒ころ軸受20を設け、一方向クラッチ10の軸方向他側に玉軸受30を設けることにより、上記円筒ころ軸受20によってラジアル荷重を受けることができ、玉軸受30によってラジアル荷重とアキシャル荷重を受けることができるため、高速条件下での使用に適した軸受複合一方向クラッチを得ることができる。
【0034】
実施の形態で示すように、一方向クラッチ10の保持器15を軸方向に位置決めしたことにより、円筒ころ22および保持器15の軸方向への移動を防止することができる。このため、上記保持器15の軸方向への移動による衝突によってアウタ側のシール部材25が損傷してシール性を損ねる等の不都合の発生を防止することができる。
【0035】
図3は、プーリ1内に組込まれた軸受複合一方向クラッチAの他の例を示す。この例においては、円筒ころ軸受20の保持器26を一方向クラッチ10の保持器15に対して独立したものとし、その独立した保持器26と外輪11との間に位置決め機構40を設けて、保持器26を軸方向に位置決めしている。
【0036】
また、一方向クラッチ10の保持器15を玉軸受30の保持器と共用している。他の構成は図1および図2に示す軸受複合一方向クラッチと同じであるため、同一部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0037】
図3に示す軸受複合一方向クラッチAにおいても、図1に示す軸受複合一方向クラッチAと同様に、プーリ1と回転軸2間に簡単に組込むことができると共に、圧入による組付け時に、圧入面に傷が形成されたとしても、内部に封入された潤滑用グリースの外部への漏洩を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明に係る軸受複合一方向クラッチを用いたクラッチ内蔵プーリの縦断正面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】この発明に係る軸受複合一方向クラッチの他の例を示す縦断正面図
【符号の説明】
【0039】
10 一方向クラッチ
11 外輪
12 円筒形内面
13 内輪
14 円筒形外面
15 保持器
17 スプラグ
20 円筒ころ軸受
22 円筒ころ
23 外側軌道面
24 内側軌道面
25 シール部材
26 保持器
30 玉軸受
31 保持器
33 ボール
36 シール部材
40 位置決め機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪の円筒形内面と内輪の円筒形外面間にスプラグ、および、そのスプラグを保持する保持器を組込んだ一方向クラッチと、その一方向クラッチの軸方向一側に設けられた円筒ころ軸受と、前記一方向クラッチの軸方向他側に設けられた玉軸受とを有し、前記円筒ころ軸受および玉軸受のそれぞれが軸方向の外側端部にシール部材を備えてなる軸受複合一方向クラッチにおいて、
前記一方向クラッチの外輪と円筒ころ軸受および玉軸受の軸受外輪を共用し、一方向クラッチの内輪と円筒ころ軸受および玉軸受の軸受内輪を共用し、円筒ころ軸受の外側軌道面の内径を一方向クラッチにおける外輪の円筒形内面の内径と同一径とし、円筒ころ軸受の内側軌道面の外径を一方向クラッチにおける内輪の円筒形外面の外径と同一径としたことを特徴とする軸受複合一方向クラッチ。
【請求項2】
前記円筒ころ軸受の保持器が一方向クラッチの保持器に一体化された請求項1に記載の軸受複合一方向クラッチ。
【請求項3】
前記円筒ころ軸受の保持器を軸方向に位置決めした請求項1又は2に記載の軸受複合一方向クラッチ。
【請求項4】
前記保持器の軸方向の位置決め手段を軸受外輪との間に設けた請求項3に記載の軸受複合一方向クラッチ。
【請求項5】
前記保持器の軸方向の位置決め手段を軸受内輪との間に設けた請求項3に記載の軸受複合一方向クラッチ。
【請求項6】
前記玉軸受の保持器が一方向クラッチの保持器に一体化された請求項1に記載の軸受複合一方向クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−127743(P2009−127743A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303325(P2007−303325)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】