説明

軸方向空隙型同期機

【課題】 2ロータ1ステータ型の同期機に好適なロータ構造を有する軸方向空隙型同期機を提供する。
【解決手段】 ロータ100とステータ200とが出力軸300の軸方向の間隙を介して対向するよう配置された軸方向空隙型同期機において、前記ロータ100が、円盤形状で強磁性のバックヨーク120と、該バックヨーク120の円周方向に等角度ピッチで配置された複数のマグネット110と、該複数のマグネット110を覆って前記バックヨーク120に押し付けるように前記バックヨーク120に固着された常磁性乃至非磁性のフロントカバー130とを具備し、該フロントカバー130が前記ステータ200と対向するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ(電機子)とロータ(界磁)がロータの出力軸の軸線方向に沿って所定の空隙を介して対向配置されている構造の軸方向空隙型同期機に係り、特にそのマグネットを有するロータ構造について改良を図った軸方向空隙型同期機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸方向空隙型同期機は、インナーロータ型等のように、ステータとロータがロータの出力軸に直交するラジアル方向に沿って所定の空隙を介して対向配置されている構造のラジアル方向空隙型同期機と比べて、回転軸方向の厚さを薄くでき、またロータとステータの組み合わせを複数段に構成することで高出力を実現できるという特徴がある。そして、このような軸方向空隙型同期機として、1ロータ2ステータ型のものが提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2001−136721号公報
【特許文献2】特開2005−094955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、このような1ロータ2ステータ型の同期機は、ロータの両側にそれぞれ配置したステータとの間で発生する磁気的な吸引力と反発力を利用する関係から、ロータのマグネット表裏面の磁極面を両側のステータに作用させるようにロータ枠等に組み込み保持する必要があり、その保持構造に特別の工夫が必要となる。また、このロータ構造では、磁束が巡回する磁路(バックヨーク)がないので、2ロータ1ステータ型の同期機を実現する場合、磁束漏れが多発し、出力低下を招く問題がある。
【0004】
本発明の目的は、2ロータ1ステータ型の同期機に好適なロータ構造を有する軸方向空隙型同期機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1にかかる発明は、ステータとロータとが回転軸の軸方向の間隙を介して対向するよう配置された軸方向空隙型同期機において、前記ロータが、円盤形状で強磁性のバックヨークと、該バックヨークの円周方向に等角度ピッチで配置された複数のマグネットと、該複数のマグネットを覆うよう前記バックヨークに固着された常磁性乃至非磁性のフロントカバーとを具備し、該フロントカバーが前記ステータと対向するようにしたことを特徴とする。
【0006】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の軸方向空隙型同期機において、前記バックヨークは、前記マグネット収納用の凹部が円周方向に等角度ピッチで形成され、該凹部内にその内壁面に対してフラックスバリア用の空隙を残すように前記マグネットが収納されていることを特徴とする。
【0007】
請求項3にかかる発明は、請求項1に記載の軸方向空隙型同期機において、前記フロントカバーは、前記空隙に対応する部分にリブが形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4にかかる発明は、請求項1に記載の軸方向空隙型同期機において、前記フロントカバーを強磁性のフロントカバーに置き換え、前記空隙に対応する位置に複数のフラックスバリア用の開口を形成したことを特徴とする。
【0009】
請求項5にかかる発明は、請求項4に記載の軸方向空隙型同期機において、前記フロントカバーの前記開口の縁部に、前記空隙側への曲折部を形成したことを特徴とする。
請求項6にかかる発明は、請求項4又は5に記載の軸方向空隙型同期機において、前記フロントカバーの前記マグネットに対応する部分に、渦電流低減用のスリットを形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項7にかかる発明は、請求項1乃至6のいずれか1つに記載の軸方向空隙型同期機において、前記バックヨークは、前記凹部に段部が形成され、該段部に前記マグネットが嵌め込まれていることを特徴とする。
【0011】
請求項8にかかる発明は、請求項1乃至7のいずれか1つに記載の軸方向空隙型同期機において、前記バックヨークは、前記空隙に常磁性乃至非磁性のスペーサが嵌め込まれていることを特徴とする。
【0012】
請求項9にかかる発明は、請求項1乃至8のいずれか1つに記載の軸方向空隙型同期機において、前記マグネットと前記フロントヨークとの間に強磁性のフロントヨークを挟持させたことを特徴とする。
【0013】
請求項10にかかる発明は、請求項1乃至9のいずれか1つに記載の軸方向空隙型同期機において、前記フロントカバーを、前記バックヨークに対して溶接又はボルトにより一体化したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1にかかる発明によれば、ロータは、マグネットがバックヨークとフロントカバーによって挟持された構造となり、簡単な構造ながらマグネットの取付構造が堅牢となり、また磁気漏洩を少なくでき、2ロータ1ステータ型の同期機に好適なロータ構造となる。請求項2にかかる発明によれば、マグネットの周囲にフラックスバリアが形成されるので磁束のバイパス路が遮断されることにより磁束漏れを少なくできる。請求項3にかかる発明によれば、フロントカバーのリブがマグネットの位置決め用およびフロントカバーの補強用として機能する。請求項4にかかる発明によれば、ロータとステータとの間の実質的な空隙を短縮することができ、かつ磁束のバイパス路を遮断して磁気漏れを少なくできる。請求項5にかかる発明によれば、フロントカバーの曲折部がマグネットの位置決め用およびフロントカバーの補強用として機能する。請求項6にかかる発明によれば、フロントカバーのスリットによって渦電流損を低減できる。請求項7および8にかかる発明によれば、マグネットの位置決めが容易となる。請求項9にかかる発明によれば、小型のマグネットが使用可能となる。請求項10にかかる発明によれば、ロータの構造が堅牢確固となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明の実施例の2ロータ1ステータ型の軸方向空隙型同期モータの概略構造について図1を参照して説明する。100はロータ、200はステータ、300は出力軸である。ここでは、1個のステータ200を両側から軸方向空隙を介して挟むように2個のロータ100が配設されている。ロータ100には、マグネット110とそのマグネット110を保持するバックヨーク120とフロントカバー130が配設されている。ステータ200にはコイル210やステータコア220が配設されている。出力軸300は2個のロータ100に対しては直接固着され、ステータ200に対しては軸受け230を介して取り付けられている。以下、ロータ100の実施例について詳しく説明する。
【実施例1】
【0016】
図2は実施例1のロータ100のバックヨーク120の構造を示す図である。このバックヨーク120は円盤形状の強磁性体からなり、マグネット110の収納用の凹部121が円周方向に等角度ピッチで磁極数(図2では4個)だけ形成され、その周囲の土手122のうち、隣接する凹部121を区画する土手122Aは突極となり、q軸のインダクタンスを大きくしてd軸のインダクタンスとの差を大きくし、リラクタンストルクを大きくする作用を呈する。なお、d軸とはマグネット110の中心を通る軸、q軸とはd軸に対して90度の電気角だけ離れた位置を通る軸である。また、外径側の土手122Bは、凹部121に納めるマグネット110が遠心力で外に飛び出すのを防止するストッパとして機能する。内径側の土手122Cは、極間の土手122Aと共に軸方向の磁気吸引力に耐える強度を発揮する。そして、中心には出力軸300に圧入固着するための固定軸孔123が形成されている。
【0017】
図3はロータ100の全体構造を示す図である。マグネット110は、バックヨーク120の凹部121内にその周囲に空隙Gが残るように配置されている。この空隙Gは、マグネット100の端部から主磁束がバックヨーク120方向に漏れて磁束のバイパス路が形成されるのを防止するフラックスバリアとして機能する。フロントカバー130は、外径と内径がバックヨーク120の外径と内径に一致するように形成されたオーステナイト系ステンレス鋼板のように常磁性乃至非磁性の円盤形状の金属板からなり、バックヨーク120の土手122に接合されることにより、マグネット110を凹部121内に固定されている。131は出力軸300が圧入する固定軸孔である。このフロントカバー130は強磁性体ではないので、フラックスバリア用の空隙を設ける必要はない。このフロントカバー130のバックヨーク120への固着は、図3(c)に示すようにスポット溶接132、あるいは図3(d)に示すようにネジ133によって行う。
【0018】
図4はフロントカバー130の一部を変形した例を示す図であり、前述したフラックスバリアとして機能する空隙Gを覆う部分の全てにプレスによりリブ134を形成したもので、このリブ134により、マグネット110の位置決めとフロントカバー130自体の補強を実現している。
【0019】
図5はバックヨーク120の凹部121内へのマグネット110の配置構造の変形例を示す図である。図5(a)では、凹部121内に更に段差124を設けてそこにマグネット110をはめ込むようにして、位置決めを容易ならしめている。図5(b)では、空隙G内に常磁性乃至非磁性のスペーサ140を配置すると共にマグネット110の正面に強磁性体150を配置して、スペーサ140によりマグネット110の位置決めを行い、強磁性体150をフロントヨークとして機能させ、マグネット110の小型化を実現している。このフロントヨークとして機能する強磁性体150は、鉄心(コア)と同様な磁路となり、リラクタンストルク増大に寄与し、ステータの大電流によって発生する磁束を緩和して減磁防止に寄与し、マグネット110の保持用としても寄与する。図5(c)は、図5(b)の構造から強磁性体150を外したものである。
【実施例2】
【0020】
以上の実施例1で説明したロータ100では、フロントカバー130として常磁性乃至非磁性の材質を使用したので、このロータ100の正面とステータ200との間の実質的な空隙がフロントカバー130の厚さ分だけ長くなって、その分だけ磁束が減少し出力トルクの低下を招く。
【0021】
そこで、実施例2のロータ100では、強磁性の材質のフロントカバー130’を使用することにより、その空隙の長大化を防止する。ただし、強磁性の材質の場合は、マグネット110に対して磁束のバイパス路ができないように、対策を施す。
【0022】
図6は実施例2のロータ100を示す図である。このロータ100の正面を閉じるフロントカバー130’は、マグネット110とバックヨーク120の土手122との間のフラックスバリヤ用の空隙Gに対応する部分に、開口135が離散的に複数形成され、その開口135同士が隣接する部分はブリッジ136となっている。開口135は、マグネット110の周端部から主磁束がバックヨーク120方向に漏れるのを防止するフラックスバリアとして機能する。また、ブリッジ136は、フロントカバー130’を補強すると共に、その部分を磁気飽和させてフラックスバリアの効果低減を防止している。
【0023】
図7は図6で説明したフロントカバー130’の開口135の縁部に内側への折り曲げ部135Aを設けた構造を示す図である。このように曲折部135Aを設けることにより、マグネット110の位置決めを行うことができると共に、フロントカバー130’を補強することが可能となる。
【0024】
図8は図6で説明したフロントカバー130’にレーザビーム加工、プレス加工等により、円周方向に長いスリット138を放射方向に所定ピッチで複数個設けた構造を示す図である。上記したように強磁性のフロントカバー130’を使用するときは、そこを流れる磁束が変化することによって渦電流が流れ渦電流損が発生するが、スリット138を設けることによりその渦電流が流れにくくなり渦電流損を低減できる。また、スリット138は放射方向が長手となるように形成することもできるが、円周方向が長手となるように形成することによって、円周方向に磁束が流れ易くなり、d軸やq軸方向の磁束がトルクに寄与し易くなる利点がある。
【0025】
なお、以上の実施例1,2では同期モータに適用する場合について説明したが、同期発電機にも同様に適用することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1のロータをもつ2ロータ1ステータ方式の軸方向空隙型同期モータの概略構成を示す断面図である。
【図2】(a)は実施例1のロータのバックヨークの正面図、(b)は(a)のb−b線断面図である。
【図3】(a)は実施例1のロータの正面図、(b)は(a)のb−b線断面図、(c),(d)はフロントヨーク取付の説明用の断面図である。
【図4】(a)は実施例1の変形例のロータの正面図、(b)は(a)のb−b線断面図、(c)は(a)のc−c線断面図である。
【図5】(a)〜(c)は実施例1のマグネット配置手法の変形例の断面図である。
【図6】(a)は実施例2のロータの正面図、(b)は(a)のb−b線断面図である。
【図7】(a)は実施例2の変形例のロータの正面図、(b)は(a)のb−b線断面図、(c)は(a)のc−c線断面図である。
【図8】(a)は実施例2の別の変形例のロータの正面図、(b)は(a)のb−b線断面図である。
【符号の説明】
【0027】
100:ロータ、110:マグネット、120:バックヨーク、121:凹部、122:土手、123:固定軸孔、124:段部、130,130’:フロントカバー、131:固定軸孔、132:スポット溶接、133:ネジ、134:リブ、135:開口、136:ブリッジ、137:曲折部、138:スリット、140:スペーサ、150:強磁性体
200:ステータ、210:コイル、220:ステータコア、230:軸受け
300:出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータとロータとが回転軸の軸方向の間隙を介して対向するよう配置された軸方向空隙型同期機において、
前記ロータが、円盤形状で強磁性のバックヨークと、該バックヨークの円周方向に等角度ピッチで配置された複数のマグネットと、該複数のマグネットを覆うよう前記バックヨークに固着された常磁性乃至非磁性のフロントカバーとを具備し、該フロントカバーが前記ステータと対向するようにしたことを特徴とする軸方向空隙型同期機。
【請求項2】
請求項1に記載の軸方向空隙型同期機において、
前記バックヨークは、前記マグネット収納用の凹部が円周方向に等角度ピッチで形成され、該凹部内にその内壁面に対してフラックスバリア用の空隙を残すように前記マグネットが収納されていることを特徴とする軸方向空隙型同期機。
【請求項3】
請求項1に記載の軸方向空隙型同期機において、
前記フロントカバーは、前記空隙に対応する部分にリブが形成されていることを特徴とする軸方向空隙型同期機。
【請求項4】
請求項1に記載の軸方向空隙型同期機において、
前記フロントカバーを強磁性のフロントカバーに置き換え、前記空隙に対応する位置に複数のフラックスバリア用の開口を形成したことを特徴とする軸方向空隙型同期機。
【請求項5】
請求項4に記載の軸方向空隙型同期機において、
前記フロントカバーの前記開口の縁部に、前記空隙側への曲折部を形成したことを特徴とする軸方向空隙型同期機。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の軸方向空隙型同期機において、
前記フロントカバーの前記マグネットに対応する部分に、渦電流低減用のスリットを形成したことを特徴とする軸方向空隙型同期機。
【請求項7】
請求項2に記載の軸方向空隙型同期機において、
前記バックヨークは、前記凹部に段部が形成され、該段部に前記マグネットが嵌め込まれていることを特徴とする軸方向空隙型同期機。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つに記載の軸方向空隙型同期機において、
前記バックヨークは、前記空隙に常磁性乃至非磁性のスペーサが嵌め込まれていることを特徴とする軸方向空隙型同期機。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つに記載の軸方向空隙型同期機において、
前記マグネットと前記フロントカバーとの間に強磁性のフロントヨークを挟持させたことを特徴とする軸方向空隙型同期機。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の軸方向空隙型同期機において、
前記フロントカバーを、前記バックヨークに対して溶接又はボルトにより一体化したことを特徴とする軸方向空隙型同期機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−43864(P2007−43864A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227589(P2005−227589)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000006611)株式会社富士通ゼネラル (1,266)
【Fターム(参考)】