説明

軽水炉一次冷却材の放射能浄化

【課題】本明細書では、金属イオン封鎖樹脂材料を使用して、原子力発電プラントの水性ストリーム中にあるコバルトおよびニッケルなどのイオン種を浄化する方法が開示される。
【解決手段】この方法は、プラントのプロセスストリームに含まれる遷移金属不純物の放射性同位体を除去するための金属イオン封鎖樹脂を提供する工程と、金属イオン封鎖樹脂をプラントのプロセスストリーム中に分配することにより、金属イオン封鎖樹脂がプロセスストリームと相互作用して遷移金属不純物を除去する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年12月15日に出願した米国仮出願第61/423,282号の利益を請求するものである。
【0002】
本発明は、概して、金属イオン封鎖樹脂材料を用いた原子力発電プラントにおけるコバルトおよびニッケルなどのイオン種の浄化に関する。
【背景技術】
【0003】
例えば、微量の放射性コバルトなどは、軽水炉での燃料補給停止時の主な個人線量源(principle source of personnel dose)であり、現在のところ、主に原子炉運転停止手順の初期段階で原子炉冷却材系から除去されているので、停止のクリティカルパスにおける著しい遅滞を引き起こす。イオン交換浄化系は運転中に冷却材を浄化する程に効果的ではないので、大半の放射性コバルトは最終的に停止時線量(outage dose)または停止の遅滞(outage delays)を引き起こす。
【0004】
現在のイオン種除去プロセスは、可逆的なイオン交換プロセスを用いたイオン交換樹脂を採用している。しかしながら、水性ストリーム中のイオン種の浄化にはより効果的なプロセスが必要とされることが判明している。結果として、本発明は、通常は不可逆的であるプロセスを使用して有効性を改善する方法を提案する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術のこれら欠点および他の欠点に取り組み、「金属イオン封鎖」プロセスを利用することにより、イオン種が樹脂骨格から自由に放出されないようにする方法を提供する。この樹脂を使用すると、原子炉水の放射能(activity)が低減されると共に、原子力プラント全体での線量率および被ばく(dose rates and exposures)が低減される。放射性廃棄物容量および放射能の制御および低減は、これら樹脂の適用にも起因し得る。本出願は、給水、原子炉水または燃料プール系に適用することもできる。除去されるイオン種としては、コバルトおよびニッケルが挙げられるが、これらに限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、原子力発電プラントのプロセスストリームを除染するための方法は、プラントのプロセスストリームに含まれる遷移金属不純物の放射性同位体を除去するための金属イオン封鎖樹脂を提供する工程と、金属イオン封鎖樹脂をプラントのプロセスストリーム中に分配することにより、金属イオン封鎖樹脂がプロセスストリームと相互作用して遷移金属不純物を除去する工程と、を含む。
【0007】
本発明の別の態様によれば、原子力発電プラントのプロセスストリームを除染するための方法は、プラントのプロセスストリームに含まれる遷移金属不純物の放射性同位体を除去するための金属イオン封鎖樹脂を提供する工程と、金属イオン封鎖樹脂と混合すべきアニオン樹脂の量を決定する工程と、アニオン交換樹脂で金属イオン封鎖樹脂を綿状凝集させる(floccing)ことによって均一なプレコートを確実に形成する工程と、綿状凝集させた金属イオン封鎖樹脂をベースミックス上にオーバーレイする工程と、金属イオン封鎖樹脂をプラントのプロセスストリーム中に分配することにより、金属イオン封鎖樹脂がプロセスストリームと相互作用して遷移金属不純物を除去する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明としてみなされる主題は、添付の図面と組み合わせて以下の説明を参照することにより最良に理解することができる。
【図1】本発明の1つの実施形態による金属イオン封鎖樹脂の活性部位と配位する(in coordination with)Co++を示す。
【図2】塩酸ベタインから始める「コーティング溶液」手法を使用するテトラエチレンペンタミン(TEPA)系金属イオン封鎖配位子の式を示す。図11に概略的に示され、かつ、本文中で検討されるように、プロトン化形態のTEPA自体から、つまり、塩酸ベタイン結合なしに同様のコーティング溶液が得られることに留意されたい。
【図3】非ベタインエポキシドから始める「コーティング溶液」手法を使用するTEPA系金属イオン封鎖配位子の式を示す。図11に示され、かつ、本文中で検討されるように、プロトン化形態のTEPA自体から同様のコーティング溶液が得られることに留意されたい。
【図4】コバルト容量対アニオン綿状凝集率を示す。理想的な綿状凝集塊(floc)は、金属イオン封鎖能力に最も影響を及ぼさないアニオン樹脂の画分で形成される。
【図5】従来のイオン交換樹脂と比較したコバルト除去効率に関する樹脂の試験結果を示す。実験室にてベンチスケールで合成された本発明の樹脂材料は、模擬試験溶液(simulated challenge solution)(沸騰水型原子炉の原子力発電プラントにおける原子炉水に匹敵する)を用いた典型的な市販の粉末イオン交換樹脂の性能との比較試験において、最大で3倍向上したコバルト除去効率を示した。
【図6】従来のイオン交換樹脂(白抜き記号)と比較した原子力プラントの原子炉水サンプルからのコバルトの除去効率に関する当該樹脂の試験結果を示す。実験室にてベンチスケールで合成され、従来のイオン交換樹脂をオーバーレイする本発明の樹脂材料(黒塗り記号)は、最大で3倍向上したコバルトの除染係数を示した。
【図7】従来のイオン交換樹脂と比較した原子力プラントの燃料プール水サンプルからのコバルトの除去効率に関する当該樹脂の試験結果を示す。実験室にてベンチスケールで合成され、従来のイオン交換樹脂(白抜きの四角記号)をオーバーレイする本発明の樹脂材料は、カチオン交換オーバーレイ(白抜きの三角記号)を有するベースラインイオン交換樹脂およびベースラインイオン交換樹脂のみ(しかし、アンダーレイ負荷が二倍)(白抜きの菱形記号)の双方と比較して最大で3倍向上したコバルトの除染係数を示した。
【図8】フルパワー運転から燃料補給状態までの運転停止時の典型的な沸騰水型原子炉の原子力発電プラントにおける原子炉水中の典型的な放射能放出を示す。
【図9】原子力プラントの原子炉冷却材60Co除染係数概要の試験を示す。実験室スケールで合成された金属イオン封鎖樹脂に関するデータ(図5)を、理想量のアニオン交換樹脂(図4)で綿状凝集させ、次いで、従来のイオン交換樹脂(白抜きの四角記号)に対するオーバーレイとして試験した同樹脂と比較する。
【図10】原子力プラントの原子炉冷却材60Co除染係数の延長試験を示す。図6の試験を、当該樹脂にチャレンジする実際の原子炉冷却材サンプルを大量に用いて延長する。
【図11】スルファミド結合TEPA、TEPAHn+共役型および他のタイプの樹脂配位部位を示す。全ての形態のTEPAは、強酸カチオン部位に共有結合されているにせよ、イオン結合されているにせよ、変化していないTEPAの窒素上にある孤立電子対を介してコバルトイオンを封鎖する。
【図12】市販の加圧水型原子炉の原子力発電プラントにて放射性廃棄物処理ストリーム上に配備されるパイロットスキッドでの60Co除染に関して市販のビーズ樹脂と比較した金属イオン封鎖樹脂(粉末形態)の放射性廃棄物パイロット試験を示す。
【図13】実験室樹脂およびスケールアップ樹脂製品を使用した金属イオン封鎖樹脂の60Co除染を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
記載される手法は、イオン交換プロセスに基づくものではなく、金属イオン封鎖プロセスに基づくものであり、このプロセスでは、典型的な浄化用樹脂が生成中に合成によって改変されるか、または生産後に好適な新規化学物質での処理によって改変されることにより、配位子の活性部位が樹脂上に置かれ、誘導配位(inductive coordination)を介して溶液からコバルトイオン(ならびに、おそらくはコロイド状汚染物質からのコバルトイオン)を誘引して不可逆的に結合する。この手法は、マルチアミン系配位子(multi−amine base ligands)を使用する金属イオン封鎖樹脂の生成などの遷移金属カチオンに特異的である。
【0010】
本発明は包括的に、軽水型原子炉の冷却水からコバルト由来の放射能を除去するのに有用なコバルトイオン封鎖樹脂(cobalt sequestration resins)の合成を包含する。水溶液からの遷移金属カチオンの分離に対する金属イオン封鎖手法は、アミン系配位子における多数の窒素原子上にある孤立電子対を活用して、カチオン分離を達成するべく典型的に使用されるイオン交換樹脂の細孔内での動電学的相互作用を指揮するのではなく、カチオンを配位する。本出願には、スルホンアミド結合を用いてかかるアミン塩基を市販のスルホン酸系ポリマー樹脂に共有結合するための合成アルゴリズムが記載されている。
【0011】
コバルトイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオンおよび多様なアルカリ金属カチオンのための樹脂をベースとするカルボン酸キレート剤(resin based carboxylic acid chelants)の公開された(published)合成においてテトラエチレンペンタミン(TEPA)スルホンアミドが中間体として使用されている。これらのポリカルボン酸化合物は、記載されたイオンのいずれかに対するそれらのキレート化能力において強いpH依存性を有する傾向にあると共に、これらカチオン取り込みに対して非特異的である傾向にある。更に、それらは、樹脂細孔内での遷移金属水酸化物沈殿の不都合な形成を促進する傾向を有する。
【0012】
他の従来技術の樹脂とは違って、表面上だけではなく全体的に官能化された粉末またはビーズ形状の樹脂基材から始める。なぜならば、これらの形態は市販されており、原子炉での使用(金属イオン封鎖樹脂の主要用途)に適しているからである。結果として、化学的性質および反応条件の多くは、反応物や生成物を反応部位へ送達することに対する物質移動抵抗(mass transfer resistances)の存在によって決定される。樹脂基材の物理的な細孔構造深部にある二価カチオンの強固な結合は、表面の化学的性質やアニオン交換に着目するこの一連の従来技術からはほとんど予期し得ない。
【0013】
スルホンアミド合成または樹脂自体の物理的構造を検討する前に、原子力産業において水溶液中の遷移金属カチオン取り込みのために金属イオン封鎖配位子を利用することがキレート剤の使用とは別個のものであると認識することは重要である。具体的には、米国原子力規制委員会は、10CRF 61.2章においてポリカルボン酸アミン(例えば、EDTA、DTPA)、ヒドロキシル−カルボン酸およびポリカルボン酸(例えば、クエン酸、石炭酸およびグルコン酸)としての原子力発電産業における混合廃棄物の発生についてキレート化剤を規定している。本出願において、金属イオン封鎖配位子は、先に規定したようなキレート化剤を包含せず、むしろポリアルキルアミンなどの一連の誘導性(inductive)電子供与官能基、より一般的には酸素および窒素などの非荷電元素を含有する一連の官能基である(例えば、図12)。
【0014】
遷移金属カチオン(具体的には二価コバルトであるが、二価ニッケルまたは鉄および三価鉄などの軽水炉に対する目的のカチオンを含む)の分離は、イオン交換によってではなく、配位子ベースの非荷電アミノ官能基上に中性pHで存在する多数の孤立電子対による遷移金属イオンの誘導配位によって生じる。
【0015】
合成生成物を構成する化合物の一般的なクラスはスルホンアミド種であり、ここではスルホンアミド結合が、骨格ポリスチレンジビニルベンゼンポリマー網状骨格(backbone polystyrene divinylbenzene polymer network backbone)を、マルチアミン塩基からなる配位子へ結合している。例えば、合成は、グラバーテクノロジー社(Graver Technologies Co.)のPCH(典型的にカチオン交換媒質としての役割を果たすスルホン化ポリスチレンジビニルベンゼンポリマー樹脂)などの市販の樹脂材料から始まり、スルホネートを塩化スルホニルに変換し、次いで、TEPAなどの市販のマルチアミン塩基を結合する。
【0016】
スルホンアミド共有結合を含まず、むしろイオン会合を利用するマルチアミン系配位子をスルホン酸イオン交換樹脂に結合するための代替手法も、四級アンモニウム結合剤、四級結合剤のエポキシドベースの合成、目的の遷移金属カチオンをマルチアミン系配位子に結合する平衡能力、および粉末またはビーズ形状の金属イオン封鎖樹脂性能の動態に関する問題を通じて検討される。
【0017】
例えば、ポリマー骨格および金属イオン封鎖配位子ベース間の代替的な結合機構は、スルホンアミド結合に関して最初に記載されるものとは完全に異なる合成プロセスを包含する。具体的には、代替の結合は、PCHのスルホン酸官能基と、マルチアミン金属イオン封鎖配位子ベースに合成的に結合される四級アンモニウム官能基とのイオン会合を包含する。この結合は本来イオン性であるが、スルホンアミド共有結合よりもpH変化に対してより感受性が高く、故に、プラントでのPCHのin situ官能化、ならびに、軽水炉プラントにおける下流の放射性廃棄物処理のために配位子もしくはCo2+またはその両方を水溶液中に放出するpH依存性プロセスを提供する。参考のために、Co2+を除去する目的は、軽水炉内の作業員が経験する放射能被ばくの大半が、原子炉の炉心で生成されるコバルト同位体によるガンマ線放射から生じるという事実にある。
【0018】
次いでスルホンアミド合成へと続くが、まず、化学式としての所要生成物に関して述べる。具体的には、PCHのポリマー骨格は「−P−」と表す。故に、PCHのスルホン酸官能基は、−P−SOHと表す。従来技術は、ポリスチレンジビニルベンゼンの中性骨格(つまりスルホン酸官能基がない)から始め、次いで、樹脂骨格上のペンダントベンゼン環とClSOHとの反応を介して単一工程にて塩化スルホニル中間体−P−SOClを生成すると、本発明のように細孔全体にわたって官能化されるのではなく、表面のみが官能化されたポリマー粒子が生じる。
【0019】
金属イオン封鎖配位子であるTEPAは、HN[CHCHNH]Hとして化学的に同定される。この時点で、いくつかの市販されている代替配位子アミンを列挙する。場合によっては、1つのアミンにつき(具体的にはポリアミンの場合)2つ以上の配位子部位が存在するために、金属イオン封鎖樹脂が遷移金属カチオンを取り込む能力を著しく増大させる可能性がポリアミンの選択により存在することに留意されたい。アミンの例を以下に列挙する。
エチレンジアミン
ジエチレントリアミン(DETA)
トリエチレンテトラミン(TETA)
テトラエチレンペンタミン(TEPA)
ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)
トリス(エチルアミノ)アミン(TEAA)
ポリアリルアミン
ポリビニルアミン
ポリエチレンイミン(PEI):各配位子部位が幾何学的には6つの配位電子対(coordination electron pairs)を含有している可能性があり、かつ、熱力学的にはたった5つで最も安定であり得ることに留意すると、広範な分子量が利用可能であり、複数の配位子部位を提供する。TEPAアミンの場合、たった4つの孤立電子対がコバルトに配位する。
【0020】
故に、合成例に関して、スルホンアミド生成物は−P−SONH−[CHCHNH]Hとして表される:
【化1】


【化2】

は、スチレンスルホン酸:
【化3】

とジビニルベンゼン:
【化4】

とのポリマーを表すことに留意されたい。
【0021】
合成方法は以下の通りである。
1.市販の粉末状ポリスチレンジビニルベンゼンスルホネートカチオン交換樹脂から、沈殿およびデカンテーションにより微粒子を洗浄・除去する。合成は、ビーズ形状の樹脂を使用して達成可能であることに留意されたい。あるいは、樹脂粉末粒子は、許容される粒径の上限および下限を画定する既知の制限メッシュ開口を有する一連の振動スクリーンを通して流すことによってサイズ分けしてもよい。上述のように重合された材料の典型的なスルホン化度は、未スルホン化出発材料から形成されるポリマーの表面スルホン化と比較して極めて高い可能性がある。例えば、グラバー社のPCHは、およそ88%スルホン化されており、これはポリマー鎖上にぶらさがったベンゼン環の88%が、スルホン酸官能基を含有すると測定されることを意味する。かかる高スルホン化度は、スルホン酸基が粉末またはビーズ形状の樹脂粒子の細孔構造全体に分散しているはずであることを必然的に暗示していることに留意されたい。許容可能なコバルトイオン封鎖樹脂生成物の合成もまた、樹脂骨格上のかなり低いスルホン化度から始めることにより達成され得る。しかしながら、かかる商品化された形態の出発物質は、典型的には、原子炉におけるイオン交換樹脂としての独立した使用には適さない。
2.樹脂を脱イオン水で中性pHになるまで洗浄し、将来の使用に備えて貯蔵し、最終的には対向流回転キルン型の操作において暖気流中に水を蒸発させることによって乾燥させる。あるいは、エタノール洗浄および暖気流を使用し、次いでエタノールを真空蒸発させることによって、樹脂粉末を乾燥させてもよい。
3.トルエン中で間隙水を共沸させることにより樹脂粉末を乾燥させ続ける。
4.スルホン酸基を官能化することにより、塩化スルホニル中間体を介してスルホンアミド合成を行う。樹脂を完全に乾燥させる必要がある。官能化は、塩化チオニルを使用してトルエン中で達成することができる。この工程の生成物は、−P−SOClと表すことができる。研究室内でのスルホン酸の塩化スルホニルへの変換において、ほぼ100%の理論収量を達成した。スルホネート樹脂の塩素化は、非スルホン化ポリスチレンジビニルベンゼン樹脂から始める従来技術の手法とは異なる。次いで、その樹脂をモノクロロスルホン酸ClSO3Hと反応させてクロロスルホン化樹脂を直接生成する。従来技術の手法によると、樹脂骨格中の塩化スルホニル官能基は、88%官能化されていると報告されるグラバー社のPCHのようなスルホン化樹脂から始めることによって達成できるよりもはるかに少なくなる。
水から単離されたままである限り安定な中間体を生成する塩素化工程もしくは最終生成物を生成するアミド化工程のための変換反応の便利な指標としていくつかの変数が同定されている。
色変化:中間体塩化物は濃い紫色である。その色がないということは、塩素化されておらず、結果としてスルホンアミド生成物への変換が乏しいということを示している。樹脂生成物は、粉末樹脂合成の場合はベージュ色ないしわずかに黄褐色である。ビーズの場合、最終生成物の色は著しく濃い。
元素分析:ポリマー樹脂ベースのサンプルのアッシングによる元素分析は、金属イオン封鎖能力および合成化学量論から算出した値と比較して、塩化物および窒素含有量の正しい値よりも小さい値を生じることが判明している。故に、TEPAのような窒素含有化合物を樹脂マトリックスに配合するための定性試験は、完全には置換されていないアミンとニンヒドリンとの反応に基づいて使用される。
フーリエ変換赤外線ピーク:FTIRを使用してS−O結合のS−Cl結合への変換を同定すると共に、スルホンアミド生成物中のS−N結合を同定することに成功した。
5.ライゲーション工程は、TEPAなどのマルチアミン塩基を塩化スルホニル樹脂と反応させることを包含する。この工程は、モノグライムまたはジグライムなどのエーテル溶媒中にて80℃でおよそ30分間行う。従来技術で報告されている溶液中での変換度はおよそ60%である。しかしながら、本発明では、トリエチルアミンを添加してHCl生成物を除去することによって反応を引き起こすことにより、従来技術の表面反応の場合よりも高い変換レベルが達成されている。
マルチアミン試薬を送達する際に均一な懸濁状態で樹脂粉末を保持することに関する注意は、モノグライム溶媒に溶解したTEPAの送達を選択的に制限しつつ、撹拌によって過剰モノグライム溶媒中にて塩素化樹脂粉末中間体を懸濁状態で保持することによって達成される。樹脂細孔内でのTEPAの移送を更に促進するために、中間体を著しく加水分解することなく、最大4重量%の水をモノグライム懸濁液に添加することが可能であることを見出した。
これにより、推測した変換、ならびに、小粒子粉末樹脂の場合にはおよそ60%〜90%の、そして典型的なビーズ状樹脂の場合にはおよそ30%〜50%の当該金属イオン封鎖樹脂生成物によるコバルト取り込み能力が得られる。いずれの場合の範囲も、温度、反応時間、反応物濃度を変更するおよび/または方法を組み合わせることによって樹脂細孔内および樹脂粒子間(スケールアップ合成において)の物質移動抵抗を克服することに左右される。
6.次いで、工程5の合成生成物を氷泥中で冷却し、デカンテーションし、その後エタノール洗浄して真空乾燥させる。
7.樹脂最終生成物が細孔内のTEPA部位でコバルトイオンを取り込む能力は、最終の浄化洗浄が完了した後に残る細孔構造に影響を受ける。更に、残存するスルホン酸イオン交換部位に対する共役カチオンは、原子力プラントにとって許容できるものでなければならない。なぜならば、原子炉水浄化(RWCU)ろ過脱塩装置内のプレコート・アンダーレイのカチオン交換能力が十分でない場合、これらのカチオンが炉水内に混入する(sloughed into)可能性があるからである。また、共役カチオンは、隣接するTEPA部位上の正電荷に作用することができ、次いでコバルトイオンをはねつけることができ、その後コバルトイオンが首尾よく封鎖される。
スルホンアミド樹脂の残留イオン容量を多様な共役形態とするための(place the remnant ionic capacity of the sulfonamide resin in various conjugate forms)洗浄手順は、水素形態、アンモニウム形態、テトラメチルアンモニウム形態、ナトリウム形態ならびにTEPAH2+およびTEPAH3+形態について開発された。一般に、原子力産業は水素形態を好むが、その理由は、浄水中に原子炉冷却材ストリーム内に混入する可能性がある場合、危険性が最も少ないからである。これら形態の各々に関する手順は、カチオン性TEPA形態を除き従来のイオン交換化学に相当するものであり、これらの形態については以下の脱ライゲーション(de−ligation)化学に関する章において取り上げる。
8.上記合成手順のあり得る1つの副産物は、プロトン化TEPAアミンと元来のPCH樹脂上の未反応スルホン酸基とのイオン会合であることに留意されたい。この不純物を「イオン性TEPA」と呼ぶことにする。上記プロセスを介してなおスルホンアミドへ変換されていないスルホン酸部位の中で、典型的には少なくとも10%がカチオン形態のTEPAによって共役結合されたイオン形態であることを見出した。金属イオン封鎖樹脂によるコバルトイオン取り込み(以下に述べる)をフォローする、ならびに、原子力産業用途のために炉水中への不純物の混入(adding)を回避するべく開発された分析方法に支障を来さないようにするには、最終生成物からイオン性TEPAを除去する必要がある。イオン性TEPAを除去する方法は、塩化ナトリウムの飽和水溶液で合成樹脂生成物を完全に洗浄することである。この洗浄により、変換されていないスルホネート部位はナトリウム形態のまま残り、冷酸への曝露により水素形態へ変換し得る。
9.別のあり得る合成不純物は、樹脂細孔の表面領域内にある物理吸着配位子アミンである。かかる物理吸着は、荷電されていない(通常は芳香族)塩基の存在下でイオン交換樹脂を使用する際に見られている。TEPAを使用して上述のように合成された金属イオン封鎖樹脂を、コバルトイオン取り込みに関する研究中に物理吸着TEPAの存在について調査したところ、最終洗浄された金属イオン封鎖樹脂生成物上に、測定可能な物理吸着配位子は存在しなかった。
【0022】
軽水炉から得られた原子炉水を使用して、放射性コバルトの取り込みに関する上記樹脂形態のスルホンアミド結合型コバルトイオン封鎖配位子の試験を行った(図5および6)。これらの試験から、金属イオン封鎖樹脂の全コバルト取り込み効率は、カチオンおよびアニオン樹脂プレコートの組み合わせを用いて、本分野で使用される典型的な粉末コーティング型ろ過脱塩装置の場合に達成されたものよりも2〜4倍高かった(between a factor of 2 to 4 above)ことが示唆される。更に、研究室での試験は、TEPA配位子部位におけるコバルトイオンの配位結合(ionic cobalt binding via coordination)が中性pHでは本質的に不可逆的であることを示している。pHが1〜3まで低下すると、TEPAアミン内の窒素がプロトン化され、Co2+が溶液中に放出される。更に、pHが低下するとスルホンアミドが加水分解されて、溶液中に荷電配位子が放出される。
【0023】
これらの観察により、系統的な水処理プロセスが構築される。これらのプロセスでは、まず典型的な軽水炉一次冷却材中に見られる放射性コバルトを除去し、次いで、その放射性廃棄物処理および廃棄に注力する。最後に、上述のTEPAに代わる配位子が他の遷移金属カチオンのための様々な配位部位を形成することができ、それにより、軽水炉設備内の原子炉水および他のプラントストリーム中の様々なカチオン不純物を選択的に取り込むのに適合する様々な金属イオン封鎖樹脂を作成する可能性が付与されることを理解すべきである。更に、分子量が異なるポリアリルアミンなどのポリアミンを使用することにより、金属イオン封鎖樹脂の平衡能力の調整が可能になることも理解すべきである。
【0024】
代替実施形態では、スルホンアミド結合の代わりに、イオン化スルホン酸と、これもまたイオン化された完全な四級アンモニウム塩基官能基(fully quaternary ammonium base functionality)との従来型イオン相互作用を利用する。遷移金属カチオン分離は、スルホンアミドの場合と同じ配位子塩基との同じ金属イオン封鎖相互作用により達成される。しかしながら、ポリマー樹脂骨格に対する結合はもはや共有結合ではないが、樹脂細孔内の水溶液のpHに左右される。
【0025】
中性pHでは、典型的な軽水炉内の原子炉冷却水および燃料プール貯蔵水の典型的な操作中、樹脂に対する配位子の結合を構築するイオン相互作用はきわめて強く、典型的には溶液中で低濃度カチオンによっては置換(displaced)されないことが分かる。いくらか低いpHでは、コバルトイオンは配位子から除去され、結合が解除されることにより、アミン系配位子が自由溶液中に放出される。この手法により、原子炉冷却材システムおよび放射性廃棄物処理システムの両方における目的のプロセスストリームからコバルトカチオンを捕捉および除去するためのpH依存性機構が得られることは明らかなはずである。
【0026】
本発明に関して、最初に、トリメチルアンモニウムクロリド結合官能基に対するTEPA配位子の合成について記載した。スルホンアミド結合と同様、前述のアミン系配位子も全て使用してもよい。更に、本明細書中に記載されるトリメチル置換の代わりに複数の四級置換を生じさせる他の合成手法もある。最後に、エポキシド出発材料およびTEPA配位子アミン塩基を特定的に包含するこの手法に対する更なる新規性は、結果生じる遷移金属カチオン用金属イオン封鎖部位が、面内の窒素からの4つの孤立電子対ならびに末端アミンおよび面に垂直なエポキシド開口からの水酸化物残渣(hydroxide residue)からのそれぞれ1対で完全に6配位していることである。このように封鎖されたコバルトは動力学的阻害をほとんど受けず、不可逆的に結合されているはずである。
【0027】
TEPAに結合した四級アンモニウム化合物の合成は、市販の物質である塩酸ベタイン、(カルボキシルメチル)トリメチルアンモニウム塩酸塩、N(CHCHCOOHClから始める(図2を参照)。塩酸ベタインを様々な塩素化剤と反応させて、クロロカルボキシメチルトリメチルアンモニウムクロリドを生成し、次いでこれをテトラエチレンペンタミン(TEPA)または他のアミンと反応させてTEPAのベタインアミド(一例として、N(CHCHCONH(CHCHNH)HCl)を形成することができる。
【0028】
この化合物の水溶液を、グラバー社のPCHのような、サイズ分けされた清潔なスルホン酸カチオン交換樹脂に通すと、イオン化スルホネート残基とイオン化四級アンモニウム基との静電会合(electrostatic association)により、中性pHで樹脂上にペンダントTEPA配位子が結合するので、この樹脂は前述のスルホンアミド共有結合樹脂と同様に機能する。グラバー社のPCHのコーティング手法における代替出発材料は、ベタインのスルホン酸類似体N(CHCHSOHClを使用することである。塩素化またはエステル化によりスルホン酸基を活性化させ、その後TEPAまたは他のアミンでアミド化すると、ベタインスルホンアミドN(CHCHSO−NH(CHCHNH)HClが生成される。カルボン酸アミドおよびスルホンアミドはいずれも、BWR/PWRプラントで見られるように、中性に近いpHの溶液での加水分解に対して安定である。
【0029】
TEPA(上記構造を参照のこと)または他のアミンアミド類似体のベタインカルボキシアミドの合成は、(1)ブロモ酢酸メチルまたはエチルとトリメチルアミンを反応させ、その後、生成されたトリメチルアンモニウムベタインエステルをTEPAまたは他のアミンでアミド化し、(2)酸触媒エステル化により塩酸ベタインのカルボン酸をエステルに変換し、再びTEPAまたは他のアミンでアミド化することによって行うことができる。スルホノ類似体は、トリメチルアミンとブロモメチルスルホン酸メチルまたはエチルエステルを反応させることによって作製できる。結果生じるトリメチルアンモニウムブロモメチルスルホンネートエステルをTEPAまたはその他のアミンでアミド化する。これらの合成手法により、(1)グラバー社のPCHのスルホン酸基に対してイオンコーティングすることができ、かつ、(2)コバルトおよび他の金属イオンに対する金属イオン封鎖配位子を有し得るベタイン様小分子が生成される。図2を参照のこと。
【0030】
この合成手法は、これらの低分子量ベタイン類似体がクロマトグラフィーまたは結晶化によって精製されることを許容するので、共有結合していないTEPAは「コーティング溶液」中に含まれない。小分子合成調製における、遊離もしくは過剰TEPAまたはPCHに共有結合しているTEPAの存在は、先に検討した吸光分光分析をマスクして、最終形態の修飾PCH樹脂におけるコバルトイオン取り込み能力を測定できることを指摘すべきである。遊離TEPAは、コバルトイオンと複合体を形成し、310nmで強く光を吸収し、510nmでのコバルトイオンの弱い吸収をマスクする。PCH樹脂上の遊離TEPAの除去は、水、エタノールおよび塩化ナトリウム溶液を使用した一連の洗浄を包含する。遊離TEPAを排除する低分子量コーティングについては記載した。
【0031】
市販のエポキシド(2,3エポキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドCHOCHCH(CH Clを使用して、四級アンモニウム基を有する新たな非ベタイン小分子TEPA配位子を開発した(図3を参照のこと)。この分子は、TEPAまたはその他のアミンの第一級アミノ基によるエポキシド開環を受けて、1−Nテトラエチレンペンタミン2−ヒドロキシ3−プロピルトリメチルアンモニウムクロリド(CHCHCH(OH)CHNH(CHCHNH)Clを生じる。この構造体は、金属イオン封鎖のための完全に6配位した配位子部位を有し、これらの部位は、窒素上の5つの孤立電子対およびコバルトイオンのサイズに近い遷移金属カチオンの配位圏(coordination sphere)を完成させるヒドロキシル置換基上の立体配置型孤立電子対である。図3を参照のこと。
金属イオン封鎖能力を測定するための分析方法
【0032】
この時点で、つい先ほど述べたようなスルホンアミド官能基を介して結合されたPCH樹脂骨格上の金属イオン封鎖配位子TEPAのコバルトイオン容量を評価することに特化して開発された幾つかの分析方法について述べることには価値がある。第一に、生成物材料は、窒素に対する硫黄の比を決定する標準的な元素分析に適しており(amenable to)、この決定はコバルト捕捉能力を定量的に決定すべきものである。しかしながら、アッシングおよび捕捉水蒸気のGC/msを行った経験は、樹脂サンプル材料における実際の窒素および塩素レベルを過少表現している(understated)。更に、樹脂上の窒素の存在(つまり、紫色)に対する標準的なニンヒドリン試験を用いて、TEPAを配合するための合成手順の成功を決定することができる。第三に、本発明の金属イオン封鎖樹脂による水溶液からのコバルトの取り込みは、樹脂上の残留イオン交換部位のコバルトに起因するピンク色、および封鎖されたコバルトの位置に関するピンク色の樹脂上の茶色により追跡(follow)可能であり、これにより、ろ過脱塩装置における典型的な樹脂プレコートを通過する、または典型的な原子力施設の復水浄化プラント内に見られるような典型的な樹脂床を通過するコバルトフロントの均一性に関する工学研究が可能になる。第四に、イオン性TEPAの存在は、封鎖されたコバルトイオンと結合したTEPAの末端一次窒素(terminal primary nitrogen)へのプロトンの添加として定義されるが、樹脂から洗浄されると、溶液中のその茶色により識別可能である。第五に、紫外−可視吸光分光分析を用いて、金属イオン封鎖樹脂のカラムの貫流容量(breakthrough capacity)を評価するための手順が開発された。ここでは、510nmの吸収帯を用いてコバルトイオン取り込みを追跡し、310nmのより広域な吸収帯を用いて望ましくない遊離TEPA上のコバルトの取り込みを追跡する。第六に、中間体塩化スルホニルおよび最終スルホンアミド生成物のプロセス間形成は、合成プロセス全体での樹脂スラリーの小サンプルのフーリエ変換赤外線スペクトルにおける明確な変化によって追跡可能である。
【0033】
ここで、合成スルホンアミド樹脂の残留イオン容量および全金属イオン封鎖能力を決定するための分析手順について述べる。17mMのコバルトイオン水溶液をおよそ150ml/時で送達する蠕動ポンプに接続されているピペット内におよそ250mgの樹脂のカラムを流す。紫外−可視吸光分光分析を用いて溶出液を特徴付ける。簡単に言えば、コバルトイオン溶液はピンク色であり、TEPAとのコバルトイオン封鎖複合体は茶色であり、これらの種はそれぞれ510nmおよび310nmのピークによって決定される。粉末形態ではベージュまたはわずかに黄褐色である色から始まる樹脂上では、濃いチョコレート色をしたフロントが見られ、樹脂内のTEPAがコバルトイオンを封鎖すると、カラム上部から底部まで移動する。バックグラウンド樹脂は、イオン交換部位がコバルトイオンを捕捉するとピンク色になる。イオン容量はコバルトの破壊(cobalt break)から決定することができ、金属イオン封鎖能力は、チョコレート色のTEPA複合体による、樹脂の乾燥グラム重量当たりのコバルト取り込み量から決定することができる。イオン性TEPA形態がコバルトを封鎖して樹脂カラムを通過する際、他の様々な比色スキームが発現される。
【0034】
この時点で記載すべき1つの予期せぬ結果は、チョコレート色の帯が樹脂カラムを横断する速度が、予想される全金属イオン封鎖能力に左右されるだけでなく、コバルト負荷溶液(cobalt challenged solution)の流速にも左右されるということである。匹敵する時間スケールでコバルトの送達が生じる点まで流速を遅くして、金属イオン封鎖部位へおよびそこから樹脂細孔内のコバルトを拡散させると、チョコレート色の帯が樹脂を横断する速度は更に遅くなる。言い換えると、金属イオン封鎖部位の中には、試験の規定流速だと孔構造内では物質移動抵抗に起因してアクセスできないが、十分な時間があれば、流速を規定値よりも十分に遅くすることによってアクセスできるようになるものもある。あり得る全ての金属イオン封鎖部位にコバルトイオンと結合する機会が与えられる場合、数分〜2、3時間から数時間〜数日まで試験を延長することは珍しいことではない。
ビーズ状の金属イオン封鎖樹脂の合成
【0035】
原子力産業およびほぼ全ての軽水炉原子力発電プラント内での放射性廃棄物処理における大半の加圧水型原子炉は、ろ過脱塩装置で粉末樹脂を使用するのとは対照的に、深層脱塩装置でビーズを使用するため、ビーズ状樹脂は重要である。その合成は、ビーズ形状でも粉末形状でも同じであり、以下に記載される。ビーズ状樹脂の中でも、ゲルビーズおよびマクロ多孔性ビーズが当該産業で使用される主要な2つのビーズタイプである。ゲル樹脂かマクロ多孔性ビーズ樹脂かが問題になったので、各樹脂タイプの詳細を以下の章に記載する。
【0036】
ゲル樹脂ビーズの細孔構造に関する問題、具体的には、熱力学特性が異なる溶媒への曝露中に細孔が崩壊してしまうという問題が認められている。この崩壊は塩化チオニル反応部位へのアミン試薬の移送を阻害するものである。ゲル樹脂は、十分に形作られた(well−formed)細孔を有していないフレキシブルな鎖状ポリマーであり、これらの細孔は、共有結合している金属イオン封鎖配位子を付着させるためのスルホンアミド合成プロセスに必要なものに特有のより疎水性の溶液に混ざる(going to)と崩壊する傾向を有するものである。
【0037】
従来技術で論じられたように、本特許において目的とするものと同様の金属イオン封鎖部位を生成する基本的な(principle)化学反応は、スチレンおよびジビニルベンゼンのゲルコポリマーから始めることにより行われる。この材料は疎水性であり、スルホン酸前駆体部位は表面反応のみによって加えられる。実際、低温でのクロロスルホン酸との直接反応は、クロロスルホネート基であらゆる表面ベンゼン環を官能化し、次いで、この基が再び低温にてTEPAのようなアミンと直接反応し、非常に素早くほぼ完了する(to near completion)ことができる。
【0038】
この挙動は、ビーズ形状または粉末形状の核グレードのスルホン酸カチオン交換樹脂を出発材料として使用する必要がある我々の手法とは対照的である。物理的な細孔構造が、内部のスルホネート部位へのアクセスを制限すると共に、TEPAのような反応物および塩酸のような生成物の移送に対する拡散抵抗を付与することを思い起こしていただきたい。故に、自由表面上とは対照的に細孔構造内では、反応は最後まで起こらず、より長い時間より高い温度で引き起こされ、所望のスルホンアミドへの変換を改善するために、HClのような小分子生成物の除去を促進しなければならない。例えば、元素分析から、表面反応が非常に素早く完全な変換に達する従来技術と比較して、ビーズ樹脂細孔内の多くても3分の1〜半分の化学的スルホン酸部位しか合成時に実際にスルホンアミドに変換されないことが示唆される。
【0039】
テトラエチレンペンタミン(TEPA)および他のアミンのためにゲルビーズ樹脂を用いて試験を行い、その結果、表面スルホン酸基のみが官能化された。例えば、直鎖構造または分岐構造を有するアミンを両方用いた試験を試みた。第一の場合、TEPAよりも低い分子量のエチルアミノ化合物および高い分子量のエチルアミノ化合物を試し、その結果は、コバルトイオン封鎖能力により決定されるようなスルホンアミドへの化学的変換に関していずれもより小さい値を示した。第二の場合、スルホンアミドの合成は、表面活性型および侵入型(interstitial)スルホン酸基を含有するゲル樹脂から開始し、これらの基が、第一級アミン基の1つでトリス(エチルアミノ)アミン(TEAA)と反応して、鉤爪型の金属イオン封鎖部位を生じる。この樹脂に関する試験によれば、表面活性型配位子も侵入型配位子も有意量のコバルトを封鎖しなかった。表面活性型配位子はゲル樹脂構造の場合にはほとんど存在せず、侵入型配位子は、限られた細孔空間および高い細孔屈曲度(tortuosity)の双方に起因する高い物質移動抵抗によってコバルト検体から遮蔽される。
【0040】
侵入型の結果は、ビーズを粉砕し、再度溶液を混合し、より大きな変換およびより大きいコバルト取り込み能力を得ることによって確認した。これらの観察は、ポリマー細孔形状の構造衝撃の予期せぬ結果であり、典型的には表面反応のみを記載する文献/従来技術には見られない。
【0041】
マクロ網状またはマクロ多孔性樹脂ビーズは、2つの物理的に隣接する細孔領域からなるという点で、ゲル様樹脂とは物理的に異なる。典型的に、マクロ多孔性ビーズの中心コアは、ほぼ無孔性の領域を形成するタイトに編み込まれて絡み合ったポリマー鎖から構成される。このコア領域には、数個のイオン交換官能基がある。このコアは、あまりフレキシブルではなく、より棒状のポリマー鎖からなる領域に取り囲まれており、これらのポリマー鎖が凝集して、ほぼ剛性の細孔壁を形成する。このいわゆるマクロ多孔性領域において、細孔壁がスルホン酸カチオン交換部位などのイオン交換部位で官能化されても、細孔構造はそのままの状態である。塩化チオニル中間体を通じて様々なマルチアミンと本願に記載されるように更に反応することにより、コバルトなどの遷移金属を誘引して結合する誘導性電子供与構造を形成するのは、これらのカチオン交換基である。この結合は、溶液中TEPAに対するコバルトの結合エネルギーに関する文献値(literature value)に基づき、単純なイオン交換によって達成し得るよりもおよそ5桁大きいエネルギーで起こる。これらのスルホン酸配位子は、粉末状金属イオン封鎖樹脂におけるのと完全に類似した化学的様式で、ビーズの金属イオン封鎖部位を形成する。
【0042】
マクロ多孔性ビーズ樹脂の細孔構造は、溶媒の質的変化に対して物理的に安定であるので、溶媒が親水性と疎水性の間を循環する際に、反応物および生成物が、細孔崩壊を伴うことなく塩化チオニル反応部位へ/から物質移動することができる。かかるマクロ多孔性ビーズ構造を使用してビーズ形状の金属イオン封鎖樹脂を形成する必要性は、本研究の予期せぬ結果である。
【0043】
TEPAを使用して粉末状金属イオン封鎖樹脂の金属イオン封鎖配位子能力および残留イオン交換能力を発現させる比色分析法に関して、ゲルおよびマクロ多孔性ビーズはいずれも、粉末樹脂と比べてより色が濃い。故に、それらの分析試験は、色で確認するのがより困難である。しかしながら、色が測定し難い場合、紫外−可視スペクトルも、例えばTEPAに結合されたコバルトの封鎖を確認するために使用されるピークを検出する。
【0044】
カルボン酸系およびスルホン酸系カチオン交換樹脂の両方を、金属イオン封鎖部位を作出するためのマクロ多孔性基材として使用した。これらのマクロ多孔性カチオン交換ビーズ樹脂は市販されており、典型的には水素交換部位の形態で供給され、数百ミクロンの直径を有する傾向にあり、本明細書に記載した粉末状の金属イオン封鎖樹脂の合成に関して記載したのと同じ基礎化学を用いて官能化されて酸塩化物中間体になることができる。TEPAのような直鎖マルチアミン、TEAAのような分岐鎖マルチアミンおよびポリアリルアミンなどのより低い分子量のポリマーアミンから形成される金属イオン封鎖配位体を、コバルトイオン取り込みについて試験した。これらマクロ多孔性金属イオン封鎖樹脂の完全ビーズサンプルおよび粉砕ビーズサンプルの両方を試験して、表面および侵入型金属イオン封鎖部位でのコバルト取り込み能力を調べた。
【0045】
上述のゲル樹脂ビーズの場合と同様、高度に多孔性のマクロ網状マトリックス構造をビーズに採用する場合でさえ、合成に対する、および分岐鎖ポリマーマルチアミン配位子のコバルトイオン取り込みに対する予期せぬ物質移動抵抗がある。しかしながら、直鎖の場合、樹脂マトリックスのマクロ多孔性領域内に形成された金属イオン封鎖配位子は、同等のイオン交換樹脂それ自体よりも著しく高いコバルトイオン取り込み能力を呈した。この結果は、一般には、カルボン酸(弱酸)系およびスルホン酸(強酸)系カチオン交換部位に関して見られた。強酸カチオン交換樹脂は、典型的には、作動中の原子炉冷却材ストリームの精製のため、ならびに、放射性廃棄物処理ストリームの浄化のために、ビーズ形状および粉末形状にて原子力産業で独占的に使用されるので、本出願は、スルホン酸カチオン交換マクロ多孔性樹脂に焦点を当てる。以下の章では、深層脱塩装置(deep bed demineralizers)において使用するためのビーズ形状の金属イオン封鎖樹脂の合成について記載する。
【0046】
市販のマクロ多孔性カチオン交換樹脂であるPurolite NRW1600(商業的な原子力発電プラントでの浄水プロセスのための深層脱塩装置におけるカチオン交換用に使用されるもの)上で合成を行った。このマクロ多孔性ビーズ樹脂の特性としては、1リットルにつき2.1当量(eq/l)の全能力、43%〜48%の間隙水分(interstitial moisture)保持率、570±50μmの平均径が挙げられる。この樹脂は、再生を必要としない原子力発電プラントで使用される。この樹脂は、セシウム、ナトリウムおよびコバルトに対して高い選択性を有する高性能(high capacity)樹脂であり、当該樹脂のイオン交換動態は、高負荷容量で良好である。スルホンアミド金属イオン封鎖部位の合成および当該ビーズ樹脂に関する観察は、本明細書において記載されるような粉末状カチオン交換樹脂から始める同合成に関する知識から得られる以下の工程からなる:
1.ビーズ樹脂(H形態)を真空下50℃で24時間乾燥させた。樹脂の40重量%の水を除去した。トルエン中での樹脂の共沸蒸留は、当該マクロ多孔性樹脂において水を最終的に除去することが困難であることを示した。オーブンで乾燥した樹脂はガラスに付着しやすく、乾燥樹脂は黒紫色であり、酸、塩基または有機溶媒によっていかなる色変化に関する影響も受けない。
2.乾燥したビーズはトルエン中でガラス壁に付着しやすく、塩化チオニルを添加すると懸濁状態になり、マクロ多孔性間隙体積(interstitial volume)内に入る。この塩素化工程は、スルホンアミド合成に必要な塩化チオニル中間体を形成する。乾燥した樹脂(NRW1600塩化スルホニル)は紫色の樹脂である。当該樹脂は、粉末状金属イオン封鎖樹脂と同じ様式で達成され、反応温度を80℃にまで上昇させることにより、最終変換の増加を促進できることが更に観察された。この予期せぬ結果、つまり、最終製品に損傷を与えることなくきわめて高くまで温度を上昇させる能力は、スルホン化ポリスチレン樹脂骨格に到達する反応物に対する物質移動抵抗が、はるかに低い温度での記載される自由表面反応の場合よりも、樹脂細孔内の方がはるかに大きいという事実の結果である。
従来技術は、0〜−5℃のトルエン中で塩化チオニルを使用してスルホン酸をクロロスルホン酸に変換する塩素化反応を行うことを示唆しているが、樹脂細孔内の間隙水をトルエン共沸によって除去すると、塩素化温度が80℃まで上昇し得ることが分かる。この温度でほぼ24時間、トルエン溶媒を還流させつつ行っても、物質移動抵抗があるために、反応は完了しない。元素分析から、典型的には、利用可能なスルホン酸部位のわずか2分の1しか塩素化されないことが分かる。にもかかわらず、これは樹脂の色を濃い紫色にするには十分であり、結果として、TEPAなどのマルチアミンをその後添加する際に十分なアミド化が生じるであろう。
従来技術はまた、塩化チオニルの化学量論的添加により表面の塩素化を達成することができ、樹脂細孔における反応が、著しく過剰な塩化チエニル(理論的な化学量論値の最大2.25倍)を用いることで成功することを示唆している。
間隙水除去中の細孔形状の完全性は、ポリマー表面で達成される従来技術の反応では問題とならない。本件の場合、ならびにビーズ樹脂の場合、物理的な乾燥による間隙水の除去は、細孔の崩壊を招き、結果として内部のスルホン酸基のクロロスルホン酸への変換を乏しくさせる傾向を有する。代わりに、共沸蒸留中のトルエンによる間隙水の物理的な置換は、細孔を崩壊させずに水の除去を達成し、故に、通常は物質移動制限が課されるであろう後続の反応を容易にする。
3.予期せぬ拡散抵抗を克服する必要があるために、従来の表面活性反応経路と比べて、反応時間および温度を著しく拡大できる(例えば、最大で24時間および60℃)ことを除き、塩素化された中間体をスルホンアミド金属イオン封鎖樹脂へ変換するアミド化工程を、粉末形態について本明細書中に記載される手順に従って行った。また、樹脂は共に凝集していたが、撹拌を増やしてジメチルホルムアミドを添加することによって(これらはいずれも粉末状樹脂の合成には必要ない)、ビーズ塊を分離した。ろ過したビーズを最終的に水とメタノールで濯いだ。
塩素化に類似した理由で、クロロスルホン酸およびTEPAからスルホンアミドを作出するアミド化反応は、細孔形状内で、従来技術が表面反応の経験に基づいて示唆するよりもはるかに高い温度と長い時間で達成される。本件の場合、アミド化温度は、24時間もの長い間、65℃もの高い温度に維持する。
再び、塩素化工程における反応物の濃度と同様、アミド化工程におけるTEPA濃度は、1.5〜10倍ほども理論的な化学量論値を大きく超え得る。
4.ニンヒドリンを用いたビースの試験によれば、紫色のビーズはアミン由来の窒素が配合されていることを裏付けた。コバルトイオン水溶液(本研究では、典型的には17ミリモルの塩化コバルト)で試験した(challenged)ビーズは、310nmでの吸光度を特徴とする茶色を呈し、これはコバルトの封鎖を表している。
放射性コバルトの浄化に関する粉末状金属イオン封鎖樹脂の評価
【0047】
検討したように、原子力発電プラントの水性ストリーム中のコバルトやニッケルなどのイオン種の浄化は、個人線量を低減する上で重要である。本発明の方法は、特定的には他の遷移金属イオン(鉄、ニッケル、亜鉛など)の存在下で、選択イオン(コバルトおよびニッケルなど)を封鎖するために開発される。この樹脂は、活性化コバルトや他の類似種を除去するためにあらゆる軽水炉原子力発電プラントにおいて使用してもよい。
評価1
【0048】
プラントの隔壁上に金属イオン封鎖樹脂の均一なプレコートを確実に形成するには、標準的なアニオン交換樹脂で金属イオン封鎖樹脂を綿状凝集させることが必要である。金属イオン封鎖樹脂の残存するカチオン容量は、十分な綿状凝集を達成させると共にコバルトを除去するのに役立つ。故に、金属イオン封鎖樹脂と混合すべきアニオン樹脂の最適量を決定する必要がある。媒質をアニオン樹脂と混合し、次いで、最適な綿状凝集特性に関して観察した。金属イオン封鎖樹脂と共に初期の試験で使用したアニオン樹脂の量は、5%、10%、20%および50%であった。第2組の金属イオン封鎖樹脂試験で使用したアニオン樹脂ははるかに少なく、1%〜10%であった。これは、金属封鎖イオン樹脂のカチオン容量が標準的なカチオン交換樹脂よりもはるかに低いからである。
【0049】
アニオン樹脂濃度範囲を5%〜20%とする綿状凝集塊の性能(capabilities)に関する第1組の試験では、1つのサンプルしか透明な上澄みを伴う適正な(decent)綿状凝集塊を示さなかったので、5分間の相対体積低下(a 5 minute relative volume reduction)のみを使用した。たった5%の標準的なアニオン樹脂の比率で、透明な上澄みと適正な綿状凝集塊(agglomerated floc)が得られた。
【0050】
第2組の試験は、標準的なアニオン樹脂の添加レベルを低くして(1%、2%、5%および10%のレベルで)完了した。配位子部分はアニオン樹脂と相互作用しないはずなので、これらのより低い値は、おそらく、金属イオン封鎖樹脂のスルホン酸カチオン容量が低下したことと関係している。
【0051】
5%および10%の標準的なアニオン樹脂比率のサンプルは、沈殿体積(settling volumes)および上澄み液の質に関して最良の結果を示した。
評価2
【0052】
最適な綿状凝集特性に関する試験の後、混合物をコバルトイオン封鎖能力について評価することにより、アニオン樹脂の存在によって能力が低下しないことを確かめた。
【0053】
アニオン負荷が2%、5%、10%、20%および50%の場合の試験サンプルを、元素コバルト封鎖能力(elemental cobalt sequestering capacity)について評価した。
【0054】
サンプルをろ過し、脱塩水およびエタノールで濯ぎ、低温真空オーブン内で乾燥させた。特定の容量データ(Co(mg)/金属イオン封鎖樹脂(gm))を図4に示す。示されるように、実際のプラントシステムでの適用に最適であると決定されたスラリーの範囲ではコバルト容量は変化も低下もしていない。
【0055】
金属イオン封鎖樹脂は、最適量のアニオン樹脂で綿状凝集させると、オーバーレイとして、または、事前に綿状凝集させた(preflocced)他のプレコートとの混合物として使用できることは明らかである。
【0056】
本発明の金属イオン封鎖樹脂は、図5〜7に示すように、はるかに迅速かつ高い放射能浄化能力を付与する。これらの図において、樹脂材料は、一次冷却材カチオン(58Coおよび60Coを含む)のコバルト除去効率が最大3倍向上しており、故に、停止および他のプラント過渡時のクリティカルパスのダウンタイムが短くなる。外部コア線量率も低くなり、結果として、原子力プラントでの全体的な放射線被ばくが低減される。60Coおよび58Co生成をなくすために原子炉給水から特定的な元素種を低減することは、当該産業において大きな意義がある。なぜならば、60Coおよび58Coは、BWRおよびPWRにおける大部分の運転停止時放射線量の原因となる主要な放射性核種であるからである。具体的に、現在の最新コバルト除去方法は、放射能レベルを安全なレベルまで低下させるのに運転停止後2〜3日を要するので、停止スケジュール(クリティカルパス)に影響を及ぼす制限要因となる。図8は、運転停止時のプラントでの典型的な放射能放出を示す。
【実施例1】
【0057】
PCH系スルホンアミドコバルトイオン封鎖樹脂(「金属イオン封鎖樹脂」)のオーバーレイを使用して行った幾つかの試験は、放射性コバルト60Coを含有する原子力プラントの原子炉水を用いて完了した。現在プラントで使用されているもののベースラインとして、金属イオン封鎖樹脂の性能を、2つの市販されている粉末状樹脂−繊維混合プレコートの構成、すなわち、それらの標準的な樹脂オーバーレイと併用するアンダーレイ媒質としてのプラント標準である67%の樹脂と33%の繊維との混合物Ecodex P202H(本明細書では、P202H)、および、プラント標準である90%の樹脂と10%の繊維との混合物Ecodex P205H(本明細書では、P205H)と比較した。金属イオン封鎖樹脂の試験は、オーバーレイとしての当該材料を、次いでP202Hと混合して使用する第3のプレコート組み合わせを使用して、または、第5の選択肢として、単層プレコートを形成する事前に綿状凝集させた実体(entity)として材料混合物を使用して完了した。
【0058】
放射性コバルト60Coの除去による原子炉水ストリームの除染を、廃水サンプルをカウントすることによって検出した。図9に示すように、事前に綿状凝集させた金属イオン封鎖樹脂のオーバーレイは、全てのプレコート組み合わせの中で最良の60Co除去性能を付与した。これはおそらく、金属イオン封鎖樹脂媒質が、オーバーレイ中にて均一に分散され、かつ、流れがそれに作用した時に安定していた(stationary)からであろう。分析の大半において廃水中に検出可能な60Coはなく、検出限界60Co放射能(MDA)レベルを使用して60Co除染係数(DF)を算出した。
【0059】
二番目に性能が良好なプレコート組み合わせは、P205Hと、オーバーレイとしての金属イオン封鎖樹脂混合物との組み合わせであった。三番目に性能が良好なのは、アンダーレイとしてP202Hを用い、かつ、オーバーレイとして金属イオン封鎖樹脂混合物を用いたものであった。これらの結果は、アンダーレイ材料における能力量と一致する。
【0060】
これらのDFデータは、コバルトイオン封鎖樹脂が、原子力産業における原子炉水と共に使用するのに適した市販の粉末状イオン交換樹脂よりも高い取り込み能力と良好なプレコート性能を示すという請求項を裏付ける証拠となる。
【0061】
これら試験の主たる目的ではないが、54Mn、58Coおよび65Znなどの他の放射性核種も、アンダーレイとしてP205Hを使用し、かつ、オーバーレイとして金属イオン封鎖樹脂を使用するプレコート試験によって定量的に除去された。
【実施例2】
【0062】
また、60Coを含有する原子力プラントの使用済み燃料プール水を使用して試験を完了した。原子炉水試験と同様、金属イオン封鎖樹脂を、0.1乾燥重量lbs/ftのオーバーレイとして、0.1乾燥重量lb./ftのP202Hベースプレコート上に被せて試験し、原子力発電プラントでの使用済み燃料プールの浄化に現在使用されているP202Hのみのベースライン性能と比較した。この試験結果を図7にまとめる。一般に、金属イオン封鎖樹脂のオーバーレイは、全試験期間にわたってDFを2〜4倍増大させた。
【0063】
オーバーレイとして金属イオン封鎖樹脂を使用する試験が5リットルまでのスループットで有望であったとしても、それより高いスループット性能を測定することが必要である。媒質の動作能力(operational capacity)を測定することができるように、60Co除去効率が低下するまでこれらの試験を行うことが理想的であった。
【0064】
図10は、ベースラインP205Hおよび綿状凝集させた金属イオン封鎖樹脂のオーバーレイに関する延長スループット試験を比較している。この図は、比較のために、図9の事前に綿状凝集させた金属イオン封鎖樹脂のオーバーレイに関するデータを含むものである。
【0065】
金属イオン封鎖樹脂のオーバーレイプレコートは、処理された最初の5リットルにおいて、明らかにベースラインP205Hよりも性能が優れている。本試験におけるP205Hの延長試験性能は、説明するのが難しく、反復不可能であった。
実験室スケール樹脂およびスケールアップした粉末状樹脂の性能比較
【0066】
実験室スケールでの、および複数のキログラムバッチサイズが可能である合成装置での本発明の金属イオン封鎖樹脂のサンプルを、市販の沸騰水型原子炉の原子力発電プラントでのそれらの60Co除染性能に関して比較した。数リットルの実際の原子炉水を、パイロットろ過脱塩装置スキッド内にある3例の粉末状樹脂プレコートを通過させた。このスキッドは、その入口と出口でガンマスキャンにより60Co放射能を測定することが可能なものである。試験したプレコートは、ベースライン試験としての役割を果たす市販の粉末状樹脂混合イオン交換プレコートのアンダーレイ、本特許出願の当初本文に記載された実験室スケール方法を使用して合成されたプレコート上に少量のアニオン樹脂で綿状凝集させた金属イオン封鎖樹脂のオーバーレイ、ならびに、スケールアップベンダーによって生成した本発明の金属イオン封鎖樹脂を綿状凝集させたものからなるオーバーレイであった。結果を図13に示す。この図では、金属イオン封鎖樹脂の両サンプルは同等の性能を有し、いずれもアンダーレイのベースライン除染係数を大幅に超えた。これらのデータは、本出願に記載される合成技術のプラクティスまで首尾よく低下したことの明らかな証拠となる。
【0067】
放射能除去を向上させることにより、本発明は、クリティカルパスの衝撃を低減して停止時間を短くすることができるので、結果として、原子力交換(power replacement)費用が削減されると共に、停止および保守作業員のための作業負荷計画が最適化される。また、作業員線量も低減されると共に、放射性廃棄物の生成および最終的な廃棄費用も削減される。
【0068】
本発明は、当該産業全体で現在使用されているイオン交換樹脂の平衡能力および取り込み動態によって制限されている原子炉水の放射能浄化の問題を克服することにより、(1)停止時および他の非発電過渡時のクリティカルパス時間を低減して原子力プラント能力係数を向上させ、(2)作業員線量被ばくを低減し、(3)現場での放射能目標値(site activity goals)を低くする。
粉末状金属イオン封鎖樹脂に関する脱ライゲーション(Deligation)化学
【0069】
本章は、粉末状金属イオン封鎖樹脂、具体的にはグラバー社PCH核グレード粉末樹脂上のスルホン酸基から合成されるTEPA金属イオン封鎖部位に関する脱ライゲーション化学について記載する。上述のような、TEPAアミンを用いて合成されるビーズ状樹脂やマクロ多孔性スルホン酸カチオン交換樹脂ビーズを使用しても同様の結果が得られる。試験は全て粉末状樹脂に限定したが、典型的な放射性廃棄物用途においてビーズを使用しても同じライゲーションおよび脱ライゲーション化学が見られることが予想される。
【0070】
イオン結合された金属イオン封鎖部位を使用することによってスルホン酸カチオン交換樹脂上に金属イオン封鎖配位子部位を達成できることを思い起こしていただきたい。本出願では、マルチアミン配位子のカチオン交換ハンドルへの添加について記載する。これらのハンドルは、共役カチオンをSOに形成する際、それら自体がスルホン酸樹脂上にコーティングされるものである。本発明は、ハンドルを必要とせずにこの概念を適用することを包含する。この場合、既知の量の強塩基を市販の分析グレードのTEPA五塩酸塩に添加して、TEPA自体を化学量論的にプロトン化する。類似性により、独立して利用可能な他の多塩酸塩(multi−hydrochlorides)(例えば、PEHA六塩酸塩)から同様のコーティングアミンを合成することができる。
【0071】
幾つかの異なる部位が、粉末状スルホン酸カチオン交換樹脂上での官能化に利用できる。本研究で使用されるモデル系統は、中性型、一価型(TEPAH)、二価型(TEPAH2+)または三価型(TEPAH3+)のTEPAの溶液で処理したPCH樹脂であった。一般に、水中で中性のTEPAは、およそ11の室温pHを有する塩基性である。それは、エタノールなどの有機溶媒で洗浄することによってPCHから除去可能である。一価カチオンは、コバルトまたは亜鉛などの典型的な二価遷移金属カチオンとのイオン交換によってPCHから除去可能である。二価および三価型のTEPAは、PCH内のスルホン酸カチオン交換部位で樹脂に結合したままで、コバルトイオンに対する金属イオン封鎖部位として機能し得るコーティング剤である。
【0072】
本章は、これらの異なるPCH−TEPA部位の形成方法およびそれらのコバルトイオン(60Coイオンは、原子力プラントの放射性廃棄物ストリーム中において典型的に見られる汚染物質である)に対する応答を、実験室で得た観察と共に記載する。
1.第1タイプの作出部位は、樹脂上の共有結合スルホンアミド(金属イオン封鎖形態)部位からなる。コバルトがこの部位に導入されると、樹脂は茶色になるが、溶出液はピンク色である。これらの色は、遊離コバルトまたは金属イオン封鎖配位子に結合されたコバルトを表している。ピンク色は水和コバルトを表し、紫外−可視吸光分光分析による510nmの吸光ピークによって実証される。茶色は、コバルトが封鎖され、紫外−可視吸光分光分析による310nmの吸光ピークによって実証可能であることを示している。
2.第二に、TEPAH共役部位は、樹脂上で作出可能である。TEPA塩基から開始し、1モル当量のHClで処理し、TEPA上の一次窒素(primary nitrogen)をプロトン化することによって、TEPAHカチオンを作出する。次いで、この樹脂を飽和食塩水で洗浄することにより、TEPAHを置換する。故に、TEPAH形態が二価コバルトに導入されると、それは置換される。
これらの結論は、以下のプロセスによって実験室で観察された。コバルトイオンを導入すると、それらは金属イオン封鎖配位子に結合し、これは、色の変化(茶色)によって観察され、紫外−可視吸光分光分析により確認される。コバルトが導入されると、茶色がカラム底部から溶出され、樹脂がピンク色になる。これは従来のイオン交換を表している。まず、TEPAHカチオンがコバルトを封鎖し、次いで、PCH上のスルホン酸部位でイオン交換によって置換される。故に、コバルトの放射性同位体を包含するいかなる用途においても、運転中および後続の処理中にコバルトを保持することを所望する場合には、TEPAHを樹脂から除去する必要がある。
3.第三に、TEPAH2+を樹脂上で作出することができる。市販のTEPA五塩酸塩(372mg、1mmol)を脱イオン水(25mlの水、pH1〜2)に溶解させることによってTEPAH2+カチオンを生成する。強塩基(3mmolのNaOH)を加えて混合すると、結果として、pH9〜10の溶液が得られる。PCHのようなスルホン酸カチオン交換樹脂をこの溶液で洗浄すると、交換部位がTEPAH2+に共役する。コバルトは、この材料に導入されると、TEPAH2+に封鎖され、樹脂は茶色になる。これは、高強度の金属イオン封鎖結合が残り3つの窒素電子対から得られることを示している。しかしながら、pHが中性のままだと溶出液は茶色にならない。故に、コバルトイオンが共役したTEPAH2+は、依然として樹脂にイオン結合したままである。これは、CO2+が同様に荷電されているTEPAH2+を置換しないという事実に起因する予期せぬ結果である。このTEPAH2+カチオン共役樹脂を中性pHにてZn2+で試験しても、Zn2+はTEPAH2+を置換しないことが観察される。Zn2+およびCo2+の両方で同樹脂を試験しても同様の結果に終わり、ここでは、典型的な市販の原子炉冷却材は、コバルトイオンよりもはるかに高いレベルの亜鉛イオンを含有しているであろう。まず、コバルトイオンがTEPAH2+によって封鎖され、Zn2+を導入しても、樹脂からのTEPAH2+共役カチオンを置換しない。
金属イオン封鎖部位がスルホンアミドとして共有結合している場合、亜鉛イオンチャレンジの存在下でさえ、コバルトイオンが中性pHでその部位に不可逆的に取り込まれることは明らかである。樹脂が単にイオン交換樹脂であり、当該樹脂上のイオン交換部位にZn2+およびCO2+がいくらか平衡状態で存在する場合、これらの結果は予期せぬものである。
4.イオン交換のモデル研究で作出された第4タイプの部位は、樹脂上のスルホン酸のTEPAH3+共役部位である。市販のTEPA五塩酸塩(372mg、1mmol)を脱イオン水(25ml、pH1〜2)に溶解させることによってTEPAH3+を生成する。強塩基(2mmolのNaOH)を加えて混合すると、結果として、pH7の溶液が得られる。この溶液は、2つのプロトン化されていない窒素上に残存する2つの孤立電子対をなお含有しているTEPAH3+からなる。非荷電のままのこれら2つの窒素はやはりコバルトイオンを封鎖する。二価コバルトは、樹脂上のスルホン酸交換部位からのTEPAH3+を置換しない。TEPAH2+と同様、樹脂は濃いチョコレートブラウン色になり、これはコバルトが封鎖されていることを表している。コバルトがカチオン交換部位からのTEPAH3+を置換すると、樹脂はピンク色になるであろう。
TEPAH2+モデルシステムと類似する様式で亜鉛イオンを導入すると、TEPAH3+の場合でも同じ結果を生じる。この結果は、TEPAが、二価型または三価型であるときに、イオンコーティング剤として、および金属イオン封鎖部位として機能するに十分な程高い分子量であることを実証するものである。更に、樹脂のカチオン交換部位からのTEPAH2+を置換する前に、まずコバルトイオンがTEPAによって封鎖されるという結果は、それを導入して樹脂をイオンコーティングするためにTEPA配位子上の一部の窒素のプロトン化が必要であることを考えると、予期せぬものである。更に、TEPAH3+共役部位によりコバルトイオンを封鎖するのにわずか2つの未プロトン化窒素しか必要としないという事実は、特に、コバルトイオンよりもかなり高濃度の亜鉛イオンの存在下では、予期せぬ結果である。
5.典型的なスルホン酸カチオン交換樹脂の場合の、TEPAH上でのコバルトイオンのイオン交換選択性を調べるために更なる実験を行った。水溶液中でコバルトイオンに曝露されたPCH樹脂と、TEPAH共役形態にされた樹脂との混合物を加熱して撹拌した。上澄み溶液は茶色になり、コバルト−TEPA金属イオン封鎖複合体の場合には310nmでの吸光度によって確認される。スルホン酸カチオン交換部位と、TEPAがコバルトイオンを捕捉するTEPAH共役部位との動的交換であるようである。故に、コバルトイオンが交換部位に結合する場合、任意の利用可能なTEPAH共役体(conjugate)は、同様に荷電されているとしても、コバルトイオンを金属封鎖部位内に誘引するであろう。これは明らかに予期せぬ結果である。上澄みが茶色になる理由は、一価TEPAHが、封鎖されたコバルトと結合されているとしても、二価コバルトが一価TEPAHを置換するからである。このような挙動も、単にイオン交換動態だけからでは予期せぬものであることは明らかである。
したがって、放射性廃棄物システム用途の場合、イオン交換部位は、一時的な60Co取り込みに対する動的コントロールになり得るが、一方で金属イオン封鎖部位は長期コントロールになる。例えば、深層脱塩装置において、イオン交換混合床を、金属イオン封鎖樹脂ビーズでオーバーレイしてもよく、またはその逆でもよい。金属イオン封鎖部位が利用可能になると、イオン交換部位は、検体の長期部位への移送により遊離する。
【0073】
粉末状樹脂合成の主要実施形態では、マルチアミンテトラエチルペンタミン(TEPA)を採用した。TEPAがスルホンアミドとしての樹脂骨格のスルホン酸カチオン交換部位に共有結合している場合、TEPA中の5つの孤立電子対のうちの4つが、コバルトイオンのような遷移金属カチオンを取り込むための金属イオン封鎖配位子を形成することを思い起こしていただきたい。あるいは、金属イオン封鎖配位子は、カチオン形態としてそれ自体樹脂上にイオンコーティングされ得る。TEPAの場合、金属イオン封鎖取り込み能力をなお維持した3つのあり得るカチオン共役体、すなわち、TEPAH、TEPAH2+およびTEPAH3+を研究した。これらは、一、二および三プロトン化形態のTEPAを意味する。最後に、中性型のマルチアミンも樹脂骨格に物理吸着し得る。しかしながら、この形態において、それは、通常、金属イオン封鎖配位子として機能する程に強く結合していない。故に、当該モデル研究における中性型TEPAは、典型的には、合成プロセス中にエタノールまたはメタノールのような溶媒を用いて樹脂から洗浄される(washed from the resin)。
【0074】
好ましい金属イオン封鎖樹脂を選択するために、スルホン酸カチオン交換部位に対するTEPAH2+およびTEPAH3+共役体を研究した。なぜならば、これらのアミンは、前述したようにコーティング剤であるかのように作用するからである。換言すると、それらは、ビーズ状樹脂または粉末状樹脂によるスルホンアミドTEPA合成において残留スルホン酸交換部位上に更なる金属イオン封鎖容量(sequestration capacity)をコーティングすることができるハンドルとして機能する。故に、同様に好ましい生成物は、合成により許容されるのと同数の共有結合TEPA部位(典型的には、利用可能なスルホン酸官能基の30%〜50%)を有するが、一方で、残りのイオン部位をTEPA形態とする樹脂であろう。残りのイオン部位は、水中にZn2+よりも強い競合イオン、例えばFe3+がある場合(この場合、好ましい形態はTEPAH3+であろう)を除き、TEPAH2+形態とされる可能性が最も高い。
脱ライゲーション化学の利用
【0075】
本発明は、本明細書中に記載されるような金属イオン封鎖型樹脂から放射性種を除去するための1工程の脱ライゲーション技術を利用する。このプロセスによれば、樹脂材料上の放射能が低減され、これにより、オンサイト廃棄物処理などのより多くの廃棄物処理に関する選択肢が得られる。
【0076】
1工程の脱ライゲーション技術を達成するために、コバルトイオン取り込みに適用できる金属イオン封鎖樹脂の粉末状樹脂合成(ここで、放射性廃棄物ストリームはコバルトイオンならびに60Coおよび58Co同位体を含有し得る)を、先に検討したようなビーズ樹脂形態に適合させなければならない。
【0077】
本適合の1つの予期せぬ結果は、ベンチスケールから、樹脂ビーズを使用するベンチスケール合成でも見られるおよそ10キログラムまでの粉末状樹脂合成のスケールアップに関与する物質移動抵抗(拡散抵抗としても知られている)に関する。この観察により、ビーズ形態合成が、ゲルベースのポリマービーズの代わりに、マクロ多孔性樹脂ビーズから始まることが分かった。粉末状樹脂の適用におけるように、既に原子力産業におけるカチオン交換樹脂としての使用に適するとされているビーズから始める。
【0078】
ビーズを合成した時点で、金属イオン封鎖マルチアミンライゲーションおよび脱ライゲーション化学のpH依存性に関するモデル研究が、段落[0105]において検討する放射性廃棄物処理用途に直接当てはまることは明らかであった。
【0079】
本出願において検討されるコバルトイオン封鎖樹脂の放射性廃棄物処理用途に関する脱ライゲーション化学に関して、配位子がイオン会合により樹脂骨格に結合されている場合に、pHが脱ライゲーションに及ぼす影響を識別するためにモデル化合物研究に着手した。先に検討したように、マルチアミン系配位子をポリスチレンジビニルベンゼンスルホネート樹脂骨格に付着させる1つの方法は、水溶液中において四級アンモニウムカチオンを使用する化合物でコーティングすることである。
【0080】
モデル研究では、グラバー社のPCHをスルホン化樹脂として使用し、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド(BTAB)を四級カチオンとして使用した。BTAB水溶液を中性pHで樹脂上にコーティングした後、コーティングされた樹脂を様々な塩酸水溶液に供した。3モルのHCl〜0.1モルのHClを添加すると、樹脂からBTABを除去できることが判明した。故に、四級アンモニウム(BTA+)が、中性pHで樹脂上に付着した配位子を保持するのに十分な安定性をもって樹脂スルホネートに結合すると結論付けた。更に、コーティングされた樹脂を、1000ppm(17ミリモル)の濃度のコバルトイオン水溶液に曝露した。プラントでの条件に相当するより低い濃度では、樹脂カラムを通過した溶出洗浄水中にBTA+は見られなかった。より高い濃度範囲では、溶出洗浄水中に少量のBTA+が見られたが、これは、中性pHでさえ、コバルトのような遷移金属カチオンがスルホン化樹脂に付着した四級カチオンを置換し得ることを示している。
【0081】
モデル研究は、放射性廃棄物プラントにおいて放射性コバルトで飽和された金属イオン封鎖樹脂の処理を考慮すると、2つのあり得る脱ライゲーション方法があることを実証する。第1の手法は単一工程でpHを低下させることであり、第2の手法は単一工程で高濃度の非放射性遷移金属カチオンに曝露することである。
【0082】
したがって、利用可能な脱ライゲーション化学のpH依存性は、プラント内で以下の工程を許容するプロセスの概念を許容する。
1.コバルトの取り込みを伴って、または伴わないで、固体樹脂表面から金属イオン封鎖配位子を除去し、それを溶液中に放出するpHの変更。
2.コバルトを含有する配位子の溶液を、配位子を含有する溶液(おそらくは、イオン化されている)と、溶液中に遊離するコバルトイオンに分離させる更なるpHの変更。
【0083】
よって、放射性コバルトで汚染された金属イオン封鎖樹脂を処理するための脱ライゲーション化学経路を形成するべく、以下の工程を使用してもよい。
1.典型的な軽水炉内の燃料プールまたは原子炉水浄化システムに相当する圧力および温度条件で金属イオン封鎖樹脂と接触する中性のコバルト水溶液から始める。樹脂の例は、出発樹脂材料に対する四級アンモニウム結合またはスルホンアミド共有結合によりテトラエチレンペンタミン(TEPA)などの金属イオン封鎖樹脂に結合した市販のポリスチレンジビニルベンゼンスルホネートである。
2.イオン結合の場合、塩酸を使用してpHを5から3まで変更すると、樹脂骨格から放射性コバルトを含有する配位子が分離される。
3.スルホンアミド共有結合の場合、pHを1より低くすると、配位子からのコバルトの放出に加えて、樹脂骨格に対する配位子のスルホンアミド結合の加水分解が生じるはずである。単独の実験研究において、上述のスルホンアミド化化学を使用してスルホン化樹脂を首尾よく再ライゲーションできることを見出した。
4.イオン結合の場合、放射性廃棄物処理ストリーム中に存在し得る濃度1000ppmの遷移金属カチオンへのライゲーションされた樹脂の曝露も、スルホン化樹脂骨格から四級アンモニウム結合を解除するのに十分であるはずだと気付いた。脱ライゲーション工程後に残存するイオン化されたスルホン化樹脂は中性pHコーティングによる再ライゲーションを行いやすい(amenable to)はずである。単独の予備的研究において、スルホン化樹脂は10回程もこのように循環可能であることを見出した。
放射性廃棄物試験におけるTEPA金属イオン封鎖樹脂
【0084】
放射性廃棄物試験スキッドにおいてTEPA金属イオン封鎖樹脂を実際に使用した。その結果は、放射性コバルトに関する金属イオン封鎖取り込み化学が、少なくとも、60Coを含有する水性ストリームの浄化に特化して設計された市販の放射性廃棄物用樹脂と同じくらい実行可能であることを示唆する。図12を参照のこと。
【0085】
脱ライゲーション化学のpH依存性については先に述べた。本章は、特定のTEPA形態のpH依存性について述べる。
1.参考までに、中性TEPA塩基の水溶液は室温でpH11である。水性懸濁液中のスルホンアミド結合TEPA、イオン性TEPAHおよびTEPAH2+部位ならびにコバルトイオンを描写する図11に示されるカチオン交換樹脂生成物を考慮されたい。コバルトイオンは、いずれかのTEPA形態に、ならびに、スルホン酸カチオン交換部位に結合され得る。HClなどの酸を加えることによってpHを7まで低下させると、図11に示す全ての部位の平衡が確立する。
2.pHを更に5まで低下させると、遊離コバルトイオンがイオンスルホネート部位から濾し出され始める(begin to leach off of)。TEPAHも、まだ封鎖されているコバルトイオンと共に溶出し始める。
3.pHを5からおよそ3まで低下させると、TEPAH2+が、まだ封鎖されているコバルトイオンと共に溶出し始める。
4.pHをおよそ3からおよそ1まで低下させると、TEPAH3+が、まだ封鎖されているコバルトイオンと共に溶出し始める。
5.pHを更に1より低くすると、スルホンアミド部位(すなわち、共有結合TEPA部位)が加水分解し始め、コバルトイオンが全TEPA形態から溶液中にやむなく放出され始める(be driven into solution)。
金属イオン封鎖樹脂の放射性廃棄物用途
【0086】
一般に、放射性廃棄物処理の問題は2種類ある。第一に、廃棄または再利用するのに十分な溶出水品質を維持する方法であり、第二に、移送または長期貯蔵のための潜在的に放射性の固体樹脂廃棄物の処理方法である。このようなわけで、金属イオン封鎖樹脂を使用する幾つかの放射性廃棄物処理用途を以下に記載する。
1.多くの放射性廃棄物ストリームは「コロイド状コバルト」を含有しており、この「コロイド状コバルト」とは、大まかには、イオン化されていない非ろ過性コバルト種として規定される。これらは、典型的には、常套のイオン交換プロセスによっても除去されないし、アニオン樹脂浄化床上の破損部分(breakdown)からも溶出されない。現在の経験によれば、アニオン樹脂によってコロイド状コバルトが除去される場合、他の廃棄物ストリームの処理中、それは後で(later)放出される。コバルトの配位子への結合機構は本来イオン性ではないので、このようなコロイド種からコバルトを選択的に取り込むのに金属イオン封鎖樹脂を使用する可能性が存在する。金属イオン封鎖樹脂の試験によれば、金属イオン封鎖樹脂は、他の市販コバルト特異的樹脂のおよそ10倍のコロイド状60Co除染係数を呈する。
2.四級アンモニウム官能化金属イオン封鎖配位子に対するスルホン酸カチオン交換樹脂のイオン会合に基づく配位子結合機構については先に述べた。放射性廃棄物処理に関して、浄化用樹脂の能力を最適化するために配位子形態を迅速にスクリーニングする手段として、この結合機構が使用されるであろう。したがって、樹脂骨格と配位子とのスルホンアミド共有結合は、金属イオン封鎖樹脂の好ましい機能的形態である。その理由は2つある。第一に、よい高濃度の遷移金属カチオンは、実験室スケールのモデル研究において樹脂骨格からの四級アンモニウム配位子を置換することが分かったからである。第二に、放射性廃棄物処理プラントは、典型的には、放射性廃棄物ストリームのpHを意のままに変更するのに十分な配管や導管(vessels)を施設内に(on site)含まないからである。
3.金属イオン封鎖樹脂に関する別の用途は、貯蔵される放射性廃棄物の容量を低下させることである。例えば、低容量(low capacity)のコバルト結合部位を含有する放射性樹脂を処理することにより、コバルトを除去して、はるかに高容量に設計された金属イオン封鎖樹脂上に不可逆的に取り込むことができる。この樹脂は、乾燥させると、プラント現場での最終用途である放射性樹脂貯蔵施設において、より低容量のパッケージ内に貯蔵できる。
4.放射性廃棄物処理に対する金属イオン封鎖樹脂の最も重要な適用には、貯蔵または発送前の要件である廃棄物の分類が含まれる。放射性廃棄物の分類によれば、60Coは、通常、廃棄物処理のための特徴付けを行うためにクラスAからクラスB廃棄物へ樹脂を動かすドライバーではない。更に、クラスBおよびクラスC廃棄物に60Coに関する制限はない。結果として、このコバルトイオン封鎖媒質が、既にクラスBまたはクラスC廃棄物である廃棄物ストリームに適用される場合、金属イオン封鎖樹脂上の60Co濃度の増加は、廃棄のための樹脂の分類を変更しない。故に、前段落に記載した容量低下用途は、高額な分類変更を伴わずに達成できる。しかしながら、ニッケルの同位体はクラスドライバーであるため、確実に分類変更が生じないようにするには、コバルトイオン封鎖樹脂上でのニッケルの競合的な取り込みを監視しなければならない。ニッケルよりもコバルトの取り込みを優先する配位子を設計できる可能性があることに留意されたい。反対に、コバルトや亜鉛よりも63Niのようなクラスドライバーを特定的に除去する樹脂もまた非常に有益であり得る。更に、63Niだけでなく、137Csまたは92Srも含む主要なクラスドライバーの各々に特異的な配位子を有する樹脂を設計することもできる。
5.廃棄用液体廃棄物ストリームからコバルトを完全に除去するための特殊樹脂もまた、廃水品質管理における重要な技術革新である。四級アンモニウム結合形態のコバルトイオン封鎖樹脂を使用して素早く多数の配位子の化学的性質を試験する能力により、液体廃棄物中のコバルトをゼロにする特殊樹脂を費用効果的に設計することができる。
実験用コバルトイオン封鎖樹脂のサンプル(図12)を、放射性廃棄物パイロットスキッドにおいて試験した。本試験は、当該産業において使用されている他の市販される樹脂と比較して、コバルトイオン封鎖樹脂で行った。市販の樹脂はビーズからなり、コバルトイオン封鎖酸樹脂は粉末状であった。図12は、コバルトイオン封鎖樹脂が、60Co取り込みに関してより高性能である市販のビーズ樹脂に匹敵する除染係数を呈したことを示している。故に、この結果から、金属イオン封鎖技術が、放射性廃棄物目的に使用でき、かかるプロセスのために通常のビーズ形態で利用できる場合には、おそらくより良好に機能しさえすることが示唆される。
6.PWRプラントでは、使用済み燃料プールブリッジ上で生じる個人線量は58Coによって決定される。PWR運転停止時に使用され、58Coをワンパスで不可逆的に除去するビーズ樹脂形状の金属イオン封鎖配位子コバルト浄化用樹脂は、浄化用樹脂能力を幾何学的に増大させるポリマー配位子を使用することによって達成可能である。PWR運転停止中に原子炉冷却材系から58Coを除去する効率の向上は、停止期間を直接改善するであろう。
【0087】
最後に、原子力以外の分野、例えば、医療廃棄物の分野で放射性廃棄物に特異的な金属イオン封鎖樹脂を使用することもでき、ここでは、治療および診断で使用される放射性同位体に特異的な樹脂が設計され得る。また、このような樹脂を、同位体分離を可能にするであろう選択的な下流処理と組み合わせることもできる。
【0088】
これまで、金属イオン封鎖樹脂材料を用いて、原子力発電プラントの水性ストリーム中にあるコバルトおよびニッケルなどのイオン種を浄化する方法について述べてきた。本発明の特定実施形態を記載したが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく本発明に対して様々な修正を行うことができることは、当業者には明白であろう。したがって、本発明の好ましい実施形態および本発明を実施するための最良の形態に関する上記説明は、単に例証することを目的とするものであって、限定することを目的とするものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントのプロセスストリームを除染するための方法であって、
(a)該プラントのプロセスストリームに含まれる遷移金属不純物の放射性同位体を除去するための金属イオン封鎖(sequestration)樹脂を提供する工程と、
(b)該金属イオン封鎖樹脂を該プラントのプロセスストリーム中に分配することにより、該金属イオン封鎖樹脂が該プロセスストリームと相互作用し、該遷移金属不純物を除去する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記金属イオン封鎖樹脂が粉末形状である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記放射性同位体の除去が、作業員に対する放射線被ばくレベルを低減する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記遷移金属不純物の放射性同位体が、コバルト、活性化コバルトおよびニッケルからなる群から選択される金属カチオンを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アニオン交換樹脂で前記金属イオン封鎖樹脂を綿状凝集させる(floccing)ことによって均一なプレコートを確実に形成する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属イオン封鎖樹脂と混合することにより、ろ過脱塩装置の隔壁上へのプレコート形成性(precoatability)を促進するのに最適なアニオン交換樹脂量を決定する工程を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記綿状凝集させた金属イオン封鎖樹脂をベースミックス上のオーバーレイとして使用する工程を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
(a)前記金属イオン封鎖樹脂と混合すべきアニオン樹脂の量を決定する工程と、
(b)前記アニオン交換樹脂で前記金属イオン封鎖樹脂を綿状凝集させることによって均一なプレコートを確実に形成する工程と、
(c)前記綿状凝集させた金属イオン封鎖樹脂をベースミックス上にオーバーレイする工程と、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記金属イオン封鎖樹脂で原子炉水用ろ過脱塩装置をプレコーティングする工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
プラントのプロセスストリームが、原子炉水および使用済み燃料プール水を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記金属イオン封鎖樹脂が、スルホンアミドコバルトイオン封鎖樹脂(sulfonamide cobalt sequestration resin)である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記金属イオン封鎖樹脂がビーズ形状である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
深層脱塩装置の混床用アニオン樹脂の量を決定する工程を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
金属イオン封鎖樹脂のビーズを前記混床の上にオーバーレイする工程を更に含む、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−127949(P2012−127949A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−266425(P2011−266425)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【出願人】(507291523)エレクトリック パワー リサーチ インスティテュート,インク. (15)
【Fターム(参考)】