説明

軽質オレフィン類製造用触媒、その製造方法及びそれを用いた軽質オレフィン類の製造方法

【課題】活性劣化が少なく寿命の長い軽質オレフィン類製造用触媒、工業的に実施可能な簡素な方法で該触媒を製造する方法、及びその触媒を用いて、長期間にわたり安定して軽質オレフィン類を製造する方法を提供する。
【解決手段】軽質オレフィン類を製造するためのペンタシル型ゼオライト触媒であって、窒素吸着法で測定した細孔径分布曲線の0.6〜2.0nmの間に極大値があり、一次粒子の粒子径が0.2〜1.0μmであり、ゼオライト中のアルミニウム原子に対するアルカリ土類金属原子の原子比が0.05〜5であることを特徴とする軽質オレフィン類製造用触媒、その触媒の製造方法、及びその触媒を用いて、炭素数1〜20の含酸素有機化合物から軽質オレフィン類を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質オレフィン類製造用触媒、その製造方法及びそれを用いた軽質オレフィン類の製造方法に関し、特に、活性劣化が少なく寿命の長い触媒、工業的に実施可能な簡素な方法で該触媒を製造する方法、及びその触媒を用いて、長期間にわたり安定して軽質オレフィン類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレン等の軽質オレフィン類は、化学工業の原料として広く使われている。現在、これらの軽質オレフィン類は、主にナフサの熱分解法(希釈材として水蒸気を用いるためスチームクラッキング法とも呼ばれる)で製造されているが、反応温度が800℃以上と高く、エネルギー投入量が多いため、触媒を使った低温での合成法が望まれている。ゼオライト等の固体酸触媒を用いた有機化合物の分解による合成法(流動接触分解法、FCCとも呼ばれる)も開発されてきているが、触媒上への炭素蓄積(コーキング)が多いため、触媒を連続的に再生する複雑な反応器を用いなければならない。
一方、メタノールやジメチルエーテル(DME)等の含酸素有機化合物を原料として反応させ、軽質オレフィン類を合成するための触媒及び該触媒を用いた軽質オレフィン類の製造方法も数多く報告されている。触媒としてはゼオライトが主に用いられており、中でも、CHA構造のシリコアルミノフォスフェート(SAPO−34)、及びMFI構造のアルミノシリケート(ZSM−5)を用いた報告が多い(例えば、非特許文献1及び非特許文献2)。これらのうち、SAPO−34の方がZSM−5よりも細孔径が小さいためコーキング劣化が起こりやすく、そのためにSAPO−34を触媒とするプロセスは流動床型反応器による連続再生方式を採用している(非特許文献1)。一方、MFI構造を有するZSM−5ゼオライトはSAPO−34と比較してコーキング劣化が遅いため、固定床型反応器を用いたプロセスを構築することができる(非特許文献3)。固定床型反応器は、流動床型反応器と比較して構造が簡素なため、建設費等の経済的な面で有利である。このようなことから、MFI構造ゼオライトを用いた反応において、活性劣化をさらに抑制しようとする検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献5では、MFI構造ゼオライトにカルシウム等のアルカリ土類金属を含有させた場合に、コーキング劣化が抑制されることが開示されている。さらに、非特許文献4及び特許文献5には、触媒に用いるMFI構造ゼオライトの結晶サイズ(平均粒子径)が小さい場合には、触媒寿命が長くなることが示されている。また、特許文献7には、ゼオライトの吸着等温線の傾きの平均値が特定の値のとき、長期間にわたり高い活性が維持されることが示されている。
一方、ゼオライト結晶の構造を改良することによってゼオライトを高性能化しようとする試みが検討されている。
特許文献1、2、4及び6では、ゼオライト合成時に有機化合物の添加や添加物とシリカの前駆体を合成することによってメソ細孔とマイクロ細孔の両方を有するゼオライトを合成する方法が開示されている。特許文献1ではゼオライト前駆体物質にスクロース等の炭水化物を添加することによって、階層型細孔径を有するゼオライトを合成している。この方法で合成されたゼオライトは、平均細孔直径2nm〜100nmのメソ細孔を有し、メタノール及び/又はジメチルエーテルのようなオキシゲネート(oxygenate)を転化して炭化水素にするための触媒として使用できることが記載されている。
特許文献2及び特許文献4では、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)のような有機化合物を添加してメソ構造を持つゼオライトを合成している。特許文献6では、ブロックコポリマーであるP−123(H(OCH2CH220(OCH2CH(CH3))70(OCH2CH220OH)とシリカ源を用いた前駆体工程を経て、ゼオライト合成を行なっている。いずれの方法においても、ゼオライト合成時に構造規定剤以外の添加剤を用いて合成が行なわれている。
また、特許文献3には、温度50〜300℃で行われる第1一定温度段階と、50℃未満の温度への冷却と、温度50〜300℃で行われる第2一定温度段階とで構成される少なくとも3工程を連続的に含む非等温性昇温(温度プログラム)の使用によって結晶化される複合連続ゼオライト/担体層からなる担持ゼオライト膜の形成方法が記載されている。
以上のような、各種ゼオライトの形成方法があるが、軽質オレフィン類を製造するのに適し、活性劣化が少なく寿命の長い触媒、工業的に実施可能な簡素な方法で該触媒を製造する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−19161号公報
【特許文献2】特表2007−534589号公報
【特許文献3】特開2002−316026号公報
【特許文献4】特開平10−87321号公報
【特許文献5】特開2005−13800号公報
【特許文献6】US6669924号公報
【特許文献7】特開2009−119453号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】John Q. Chen、Andrea Bozzano、Bryan Glover 、Terje Fuglerud 、Steinar Kvisle著、Catalysis Today誌、106巻、第103ページ、2005年
【非特許文献2】Michael Stocker著、Microporous and Mesoporous Materials誌、29巻、第3ページ、1999年
【非特許文献3】猪俣誠著、Journal of the Japan Institute of Energy誌、84巻、第335ページ、2005年
【非特許文献4】川村吉成、河野保男、松崎健二、佐野庸治、高谷晴生著、石油学会誌、34巻、第90ページ、1991年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、活性劣化が少なく寿命の長い軽質オレフィン類製造用触媒、工業的に実施可能な簡素な方法で該触媒を製造する方法、及びその触媒を用いて、長期間にわたり安定して軽質オレフィン類を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法により合成した特殊な物性を有するペンタシル型ゼオライトを触媒として用いることにより、そのような物性が総合的に寄与することで、含酸素化合物からのオレフィン製造反応において活性劣化を抑制し、寿命を大幅に向上できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)軽質オレフィン類を製造するためのペンタシル型ゼオライト触媒であって、窒素吸着法で測定した細孔径分布曲線の0.6〜2.0nmの間に極大値があり、一次粒子の粒子径が0.2〜1.0μmであり、ゼオライト中のアルミニウム原子に対するアルカリ土類金属原子の原子比が0.05〜5、であることを特徴とする軽質オレフィン類製造用触媒。
(2)前記ペンタシル型のゼオライトが、MFI構造を有することを特徴とする前記(1)記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
(3)前記ペンタシル型のゼオライトのケイ素/アルミニウム原子比が、20〜300であることを特徴とする前記(1)記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の触媒を用いて、炭素数1〜20の含酸素有機化合物から軽質オレフィン類を製造する方法。
(5)前記炭素数1〜20の含酸素有機化合物が、メタノール及び/又はジメチルエーテルである前記(4)記載の軽質オレフィン類を製造する方法。
(6)シリカ、アルミニウム化合物及びアルカリ土類金属塩を混合し、4級アンモニウム塩を加えて、ゼオライト触媒を製造する方法において、40℃以上200℃以下で4時間以上かけて昇温し攪拌する第一工程、100℃以下かつ第一の工程で昇温する温度よりも低い温度で5時間以上保持する第二工程、90℃以上200℃以下の温度まで昇温し1時間以上保持する第三工程、を有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒の製造方法。
(7)第一工程及び/又は第二工程を複数回繰り返すことを特徴とする前記(6)記載の軽質オレフィン類製造用触媒の製造方法。
(8)前記4級アンモニウム塩が、テトラプロピルアンモニウムハイドロキサイド(TPAOH)及びテトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPABr)であることを特徴とする前記(7)又は(8)記載の軽質オレフィン類製造用触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によると、工業的に実施可能な簡素な方法で、活性劣化が少なく寿命の長い軽質オレフィン類製造用触媒を製造でき、その触媒を用いて、長期間にわたり安定して軽質オレフィン類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例及び比較例で得られたゼオライト粉末の細孔分布曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の軽質オレフィン類製造用触媒(以下、単に触媒又はゼオライト触媒と言うことがある)は、ペンタシル型ゼオライト触媒であって、窒素吸着法で測定した細孔径分布曲線の0.6〜2.0nmの間に極大値があり、一次粒子の粒子径が0.2〜1.0μmであり、ゼオライト中のアルミニウム原子に対するアルカリ土類金属原子の原子比が0.05〜5である。
本発明の触媒は、アルカリ土類金属を含有するペンタシル型のゼオライトであり、ZSM−5等のMFI構造ゼオライトは、「ペンタシル型ゼオライト」の1種である(文献:「ゼオライトの科学と応用」、冨永博夫編、講談社サイエンティフィク刊、1987年、第87ページ参照)。
【0012】
前記アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられるが、なかでもカルシウムを用いるのが好ましい。ゼオライトに対して、これらのアルカリ土類金属を含有させる方法としては、イオン交換法、含浸担持法、水熱合成法などが実施される。これらのうち、ゼオライトの水熱合成時にアルカリ土類金属塩を共存させる方法(水熱合成法)がより好ましい。アルカリ土類金属の含有量は、ゼオライト中のアルミニウムに対して、アルカリ土類金属原子/アルミニウム原子比で、通常0.05〜5であり、好ましくは0.1〜2、さらに好ましくは0.1〜0.5である。
【0013】
本発明の触媒の細孔分布に関する物性は、触媒の比表面積や細孔分布を測定するために一般的に実施されている窒素吸着法で観測することができる。窒素吸着法による細孔径分布の測定は、例えば、文献(「吸着の科学と応用」、小野嘉夫、鈴木勲 著、講談社サイエンティフィク刊、2003年、第60ページ)に記載されている方法(BJH法)で行うことができる。測定データとして吸着側のデータを使用し、該文献の第76ページ(図4.7)にあるように、測定温度(窒素吸着測定では通常77K)での窒素分圧を横軸として、縦軸に吸着容量をプロットした吸着等温線から求めることができる。この測定は、例えば日本ベル株式会社やユアサアイオニクス社等の市販の吸着測定装置で行い、市販のソフトウェアを用いて細孔分布曲線を得ることができる。
この方法で測定した細孔分布曲線において、通常0.6〜2.0nm、好ましくは0.7〜1.8nm、さらに好ましくは0.9〜1.5nmの範囲に極大値をもつものがよい。
【0014】
また、本発明の触媒は、一次粒子の粒子径が、通常0.2〜1.0μmであり、好ましくは0.3〜0.8μm、さらに好ましくは0.3〜0.5μmの範囲で球状のゼオライト粒子であるとよい。
一次粒子の直径(粒子軽)の測定法としては、例えば、電子顕微鏡(SEM、TEM)による方法や粒径分布測定装置を用いて測定する方法がある。本発明での一次粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で0.5×104〜2.0×104の範囲の拡大で観測される球状の粒子の個数平均による平均粒子径のことを称す。一次粒子径の球近似困難な場合は、長軸径と短軸径の平均を一次粒子径とする。
【0015】
本発明の触媒を用いて、軽質オレフィン類の製造に供する原料は炭素数1〜20の有機化合物であり、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等の飽和炭化水素化合物、ブテン類、ペンテン類等の不飽和炭化水素化合物、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素化合物、あるいはメタノール、ジメチルエーテル、エタノール、プロパノール、ブタノール等の含酸素有機化合物が挙げられる。これらを混合したもの、あるいは他のガス(水素、窒素、スチーム、炭化水素)で希釈したものも使用することができる。また含窒素有機化合物、含硫黄有機化合物、あるいは生成物である軽質オレフィン類を含有していてもよい。
これらの中でも、好ましくは炭素数1〜20の含酸素有機化合物、さらに好ましくはメタノール及びジメチルエーテルが適している。
【0016】
本発明のゼオライト触媒の合成は、水熱合成法で行うのが望ましい。水熱合成法は、ゼオライト合成の際に実施されている一般的な方法であり、シリカ源、アルミニウム源、水、アルカリ塩、アルカリ土類金属塩、構造規定剤(テンプレート)などを、オートクレーブに仕込み、自圧条件下で、数十〜200℃程度の温度で所定の時間加熱する方法である。
シリカ源としては、コロイダルシリカ、水ガラスの他、有機ケイ素化合物なども使用される。アルミニウム源としては、アルミナゾル、ベーマイト、有機アルミニウム化合物などである。
構造規定剤としては、各種4級アンモニウム塩(例えば、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキサイドなど)やアミン類(トリエチルアミン)などが挙げられるが、なかでもTPAOH(テトラプロピルハイドロアンモニウムキサイド)およびTPABr(テトラプロピルアンモニウムブロマイド)の両者を含むのが好ましい。
アルカリ塩としては水酸化アンモニム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど、アルカリ土類金属塩としては、前記アルカリ土類金属の硝酸塩、酢酸塩などが用いられる。
ゼオライト触媒合成の際には、結晶性向上や合成時間を短縮するために種結晶を用いる場合もある。種結晶としては、MFI型のものが適しているが、FAU型、MOR型など、他の構造のものを使用してもよい。
ゼオライト触媒合成の際の一般的な仕込み比は、ケイ素/アルミニウム原子比=20〜300、アルカリ金属/アルミニウム原子比>1、構造規定剤/アルミニウムモル比>1、水/(アルカリ金属+構造規定剤)モル比=2〜30で実施するのが好ましい。
【0017】
本発明の触媒の製造方法としては、特に、シリカ、アルミニウム化合物及びアルカリ土類金属塩を混合し、4級アンモニウム塩を加えて、ゼオライト触媒を製造する方法において、40℃以上200℃以下で4時間以上かけて昇温し攪拌する第一工程、100℃以下かつ第一の工程で昇温する温度よりも低い温度で5時間以上保持する第二工程、90℃以上200℃以下の温度まで昇温し1時間以上保持する第三工程を有する。
本発明の物性のゼオライトは、上記水熱合成の合成条件、特に温度条件を特定の範囲に制御することで得ることができる。温度制御として、好ましくは、第一工程を好ましくは60℃で6時間かけて行ない、第二工程を好ましくは90℃以下、さらに好ましくは室温で20〜24時間で加熱を行ない、第三工程については、好ましくは100℃で1時間以上、さらに好ましくは120℃で6時間以上保持するのがよい。
また、第一工程及び/又は第二工程を複数回繰り返すことも好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されない。
実施例1
(ゼオライト触媒の合成)
テトラプロピルアンモニウムハイドロキサイド(TPAOH)水溶液(濃度10wt%)20.33gにテトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)2.66gをテフロン(登録商標)製容器に入れて撹拌した。水溶液が均一になったところで、水酸化ナトリウム水溶液(濃度50wt%)0.041gを加えた。この水溶液に水酸化アルミニウム0.047g、および硝酸カルシウム4水和物0.355gを添加して10分間撹拌した。その後、コロイダルシリカ(Ludox AS−40、アルドリッチ製)10.06gを加え1時間撹拌した。1時間後に、容器内のゲルをオートクレーブ(テフロン(登録商標)製内筒管つき、内容積100mL)に入れた。オートクレーブを水熱合成装置(ヒロカンパニー製)の加熱槽内にセットし、オートクレーブ全体を20rpmで回転させながら、6時間かけて60℃に昇温し、室温で24時間放冷してから、120℃まで昇温し6時間保持した。所定時間加熱・撹拌後、オートクレーブを放冷し、2000rpmで30分間遠心分離を行うことにより白色固形物を回収した。回収した白色固形物を120℃で一晩乾燥させた後、600℃で4時間、マッフル炉内で空気焼成し、白色の粉末を得た。この粉末を0.5Mの硝酸アンモニウム水溶液を用いて80℃、6時間イオン交換して焼成(600℃、4時間)することにより、プロトン型のゼオライト粉末を得た。
【0019】
(ゼオライト触媒の分析)
上述の方法で回収した白色粉末について、X線回折分析、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法による組成分析、窒素吸着等温線の測定を行った。X線回折分析は、株式会社リガク製、RINT−Ultima III型X線回折装置を用い、Cu−Kα線によって測定を行った。その結果、白色粉末は、MFI型構造を持つゼオライトであることを確認した。ICP発行分光分析法による組成分析は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製SPS5100型ICP発光分光分析装置で行った。測定結果から、上記で調製したゼオライトはカルシウムが含有されていることが確認され、カルシウム/アルミニウム原子比は0.34であり、ケイ素/アルミニウム原子比は110であった。また、2×104倍の拡大の電子顕微鏡写真より、粒子径は0.3〜0.5μmであった。
窒素吸着等温線の測定は、ユアサアイオニクス社製Autosorb−6型を用い、文献(触媒学会参照触媒委員会、触媒、第26巻、6号、495ページ、1984年)に記載の方法にしたがって、液体窒素温度(77K)、1kPaから100kPaの窒素圧力下で行った。得られた細孔分布曲線を図1に示す。この図から、0.6〜2.0nmの間に極大値をもつことを確認した。
【0020】
(含酸素有機化合物:ジメチルエーテルの反応)
上述の調製ゼオライト粉末を、60MPaの荷重で圧縮固化させた後に、乳鉢で粉砕し篩い分けを行って約1mmφの粒状にした成型品1gを内径14mmのステンレス製リアクター(外径3mmの熱電対用内挿管付き)に充填した。触媒層の長さは約15mmであった。触媒層は上下に石英ウールを詰めて触媒を保持し、リアクターのその他の部分には2mmφのアルミナボール(フジミインコーポレーテッド製、A・901型)を充填した。このリアクターに窒素を48cm3/min(0℃、1気圧換算、以下同じ)で流しながら触媒層の温度を600℃まで昇温し、そのまま1時間焼成した。焼成後、触媒層の温度を450℃に保持し、原料としてジメチルエーテルを48cm3/min、窒素を48cm3/minの流量で供給して、ジメチルエーテルの反応を行った。
反応生成物の分析は、原料流通開始後の所定時間にリアクター出口ガスをオンラインでサンプリング(生成物は全て気化させてサンプリング)し、ガスクロマトグラフィーで分析した。生成物収率および原料転化率を次式により算出した。
生成物収率(炭素%)=(各成分中の炭素モル量/供給原料中の炭素モル量)×100
原料転化率(%)=(1−未反応原料重量/供給原料重量)×100
なお、微量に生成するメタノールは、原料(ジメチルエーテルに換算)として計算した。
反応開始時のジメチルエーテルの転化率は、通常95%以上(最大100%)で安定しているが、長時間反応することによって触媒のコーキング劣化が進行し、ある時点で転化率は95%以下となり、その後急激な活性の低下が起こる。そこで、ここでは触媒上にジメチルエーテルを流し始めてから、ジメチルエーテルの転化率が95%を下回る値に低下するまでに、触媒1gあたり反応させることのできたジメチルエーテルの反応量(単位:g−DME/g−触媒)を「触媒寿命」と定義する。
反応開始から1時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は100%であり、オレフィン収率(エチレン+プロピレン+ブテン)は60.0%であった。そのまま触媒層の温度を450℃に保持して反応を継続し、随時リアクター出口の生成ガス組成を分析した。リアクター出口の生成ガス組成分析で、ジメチルエーテルの転化率が95%を下回るまで低下した時点でのジメチルエーテルの総反応量(触媒寿命)を調べたところ、1600(g−DME/g−触媒)であった。
以上の結果を表1に示す。
尚、表1において、軽質オレフィン類の製造に用いた触媒に細孔分布曲線の0.6〜2.0nmに極大値が確認された場合を「○」とし、確認できなかった場合を「×」とした。
【0021】
実施例2
(ゼオライト触媒の合成)
実施例1と同組成のゲルを調製し、水熱合成温度を6時間かけて40℃に昇温し、室温で24時間放冷してから、120℃まで昇温し6時間保持するように設定した。以降は、実施例1の手順と同様にして白色粉末を得た。
(ゼオライト触媒の分析)
得られた白色粉末を実施例1と同様にして評価した。
その結果、実施例2で得られた白色粉末は、MFI型構造を持つゼオライトであり、組成分析では、カルシウム/アルミニウム原子比は0.23、ケイ素/アルミニウム原子比は126であることを確認した。電子顕微鏡写真から、粒子径は0.3〜0.5μmであった。窒素吸着等温線より得られた細孔分布曲線から、0.6〜2.0 nmの間に極大値をもつことを確認した。細孔分布曲線を図1に示す。
【0022】
(含酸素有機化合物:ジメチルエーテルの反応)
実施例1と同様の方法で、ゼオライト粉末1gを用いて、ジメチルエーテルの反応を行った。反応開始から1.5時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は100%であり、オレフィン収率(エチレン+プロピレン+ブテン)は60%であった。そのまま触媒層の温度を450℃に保持して反応を継続し、随時リアクター出口の生成ガス組成を分析した。
リアクター出口の生成ガス組成分析で、ジメチルエーテルの転化率が95%を下回るまで低下した時点でのジメチルエーテルの総反応量(触媒寿命)を調べたところ、1400(g−DME/g−触媒)であった。以上の結果を表1に示す。
【0023】
比較例1
(ゼオライト触媒の合成)
文献(岡戸秀夫、庄司宏、川村吉成、神徳泰彦、山崎康義、佐野庸治、高谷晴生 著、日本化学会誌、1987年版、1号、25ページ、1987年)に記載の方法を基に、コロイダルシリカ(Cataloid SI−350、触媒化成工業製)、硝酸アルミニウム9水和物、硝酸カルシウム4水和物、水酸化ナトリウム、テトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPABr)を使用し、Si/Al=100、OH-/SiO2=0.1、TPABr/SiO2=0.1、H2O/SiO2=40、Ca/Si=0.025のモル組成でゲルを調製した。水熱合成は2Lオートクレーブにて撹拌を行いながら160℃で18時間行った。生成物をイオン交換水により十分に洗浄し、120℃にて乾燥後600℃で4時間焼成した。回収した粉末を0.5Mの硝酸アンモニウム水溶液を用いて80℃、6時間イオン交換して焼成(600℃、4時間)することにより、プロトン型のゼオライト粉末を得た。
【0024】
(ゼオライト触媒の分析)
得られたゼオライト粉末を実施例1と同様にして評価した。
その結果、MFI型構造を持つゼオライトであり、組成分析では、カルシウム/アルミニウム原子比は2.19、ケイ素/アルミニウム原子比は102であることを確認した。電子顕微鏡写真から、粒子径は3.0μmであった。また、窒素吸着等温線より得られた細孔分布曲線から、0.6〜2.0nmの間に極大値が観測されなかった。細孔分布曲線を図1に示す。
(含酸素有機化合物:ジメチルエーテルの反応)
実施例1と同様な方法で、ゼオライト粉末1gを用いて、ジメチルエーテルの反応を行った。反応開始から1時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は100%であり、オレフィン収率(エチレン+プロピレン+ブテン)は55%であった。そのまま触媒層の温度を450℃に保持して反応を継続し、随時リアクター出口の生成ガス組成を分析した。リアクター出口の生成ガス組成分析で、ジメチルエーテルの転化率が95%を下回るまで低下した時点でのジメチルエーテルの総反応量(触媒寿命)を調べたところ、950(g−DME/g−触媒)であった。
以上の結果を表1に示す。
実施例1及び比較例1から、ゼオライトがアルカリ土類金属元素を含有していても、カルシウム/アルミニウム原子比が高くて、細孔分布曲線の0.6〜2.0nmに極大値がなければ触媒寿命が短いことがわかった。
【0025】
比較例2
(ゼオライト触媒の合成)
実施例1と同組成のゲルを調製し、水熱合成温度を24時間かけて60℃に昇温し、24時間保持後、90℃まで昇温した。その後、さらに130℃まで昇温し18時間保持した。以降は、実施例1の手順と同様に行ない白色粉末を得た。
(ゼオライト触媒の分析)
得られた白色粉末を実施例1と同様にして評価した。
その結果、比較例2で得られた白色粉末は、MFI型構造をもつゼオライトであり、組成分析では、カルシウム/アルミニウム原子比は0.12であり、ケイ素/アルミニウム原子比は48であることを確認した。電子顕微鏡写真より、粒子径は0.3〜0.5μmであった。窒素吸着等温線より得られた細孔分布曲線から、0.6〜2.0nmの間に極大値が観測されなかった。細孔分布曲線を図1に示す。
【0026】
(含酸素有機化合物:ジメチルエーテルの反応)
実施例1と同様な方法で、ゼオライト粉末1gを用いて、ジメチルエーテルの反応を行った。反応開始から1時間後にリアクター出口ガス組成を分析したところ、ジメチルエーテル転化率は100%であり、オレフィン収率(エチレン+プロピレン+ブテン)は60%であった。
そのまま触媒層の温度を450℃に保持して反応を継続し、随時リアクター出口の生成ガス組成を分析した。リアクター出口の生成ガス組成分析で、ジメチルエーテルの転化率が95%を下回るまで低下した時点でのジメチルエーテルの総反応量(触媒寿命)を調べたところ、140(g−DME/g−触媒)であった。
以上の結果を表1に示す。
実施例1及び比較例2から、ゼオライトがアルカリ土類金属を含有し、粒子径が0.2〜1.0μmの範囲であっても、細孔分布曲線の0.6〜2.0nmに極大値がなければ、触媒寿命が短いことがわかった。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
以上詳細に説明したように、本発明の製造方法によると、工業的に実施可能な簡素な方法で、活性劣化が少なく寿命の長い軽質オレフィン類製造用触媒を製造でき、その触媒を用いて、長期間にわたり安定して軽質オレフィン類を製造することができる。
したがって、本発明の軽質オレフィン類製造用触媒、その製造方法及びそれを用いた軽質オレフィン類の製造方法は、高品質及び低コストで軽質オレフィン類を提供できるため、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽質オレフィン類を製造するためのペンタシル型ゼオライト触媒であって、
窒素吸着法で測定した細孔径分布曲線の0.6〜2.0nmの間に極大値があり、
一次粒子の粒子径が0.2〜1.0μmであり、
ゼオライト中のアルミニウム原子に対するアルカリ土類金属原子の原子比が0.05〜5、
であることを特徴とする軽質オレフィン類製造用触媒。
【請求項2】
前記ペンタシル型のゼオライトが、MFI構造を有することを特徴とする請求項1記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
【請求項3】
前記ペンタシル型のゼオライトのケイ素/アルミニウム原子比が、20〜300であることを特徴とする請求項1記載の軽質オレフィン類製造用触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒を用いて、炭素数1〜20の含酸素有機化合物から軽質オレフィン類を製造する方法。
【請求項5】
前記炭素数1〜20の含酸素有機化合物が、メタノール及び/又はジメチルエーテルである請求項4記載の軽質オレフィン類を製造する方法。
【請求項6】
シリカ、アルミニウム化合物及びアルカリ土類金属塩を混合し、4級アンモニウム塩を加えて、ゼオライト触媒を製造する方法において、
40℃以上200℃以下で4時間以上かけて昇温し攪拌する第一工程、
100℃以下かつ第一の工程で昇温する温度よりも低い温度で5時間以上保持する第二工程、
90℃以上200℃以下の温度まで昇温し1時間以上保持する第三工程、
を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軽質オレフィン類製造用触媒の製造方法。
【請求項7】
第一工程及び/又は第二工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求項6記載の軽質オレフィン類製造用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記4級アンモニウム塩が、テトラプロピルアンモニウムハイドロキサイド及びテトラプロピルアンモニウムブロマイドであることを特徴とする請求項6又は7記載の軽質オレフィン類製造用触媒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−45505(P2012−45505A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191482(P2010−191482)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】