説明

軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法

【課題】軽量気泡コンクリートに埋設される補強用鉄筋の鉄筋表面を洗浄することで、防錆皮膜と補強用鉄筋の付着力が向上する軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法を提供すること。
【解決手段】ALCパネル1に埋設される補強用鉄筋マット11の製造方法であって、補強用鉄筋10を直線する直線工程の直後に、直線した補強用鉄筋10を親油性有機溶剤で洗浄することにより、防錆皮膜と補強用鉄筋10との付着力を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法に関し、詳しくは、軽量気泡コンクリートに埋設された軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(以下、ALCと称する)は、内部に気泡と細孔を含む絶乾かさ比重が0.5程度と非常に軽量でありながら、強度も比較的高いという優れた性質を持つ。ALCは、所定の大きさのパネルに成形され、このパネル内部には補強用鉄筋が埋設されている。パネルの厚さは100mmが標準的であり、75〜125mmが主流、37〜50mmの住宅用うす型パネルや150mm以上の厚いパネルもある。
【0003】
一般にALCは、珪石や珪砂等の珪酸質原料と、セメント、生石灰等の石灰質原料とを主原料とし、これに石膏、炭酸カルシウム、繰り返し原料や界面活性剤等の添加物と、適量の水と発泡剤であるアルミニウム粉末を加えて製造される。
【0004】
ALCの製造工程において、全原料を1つの鋳込ミキサーで攪拌混合し、混錬により生成されたスラリーは、アルミニウム粉末の反応で水素ガスが気泡安定剤により、球状の気泡として安定化され体積膨張する。セメント及び生石灰が原料スラリー中の水を取り込み、水和物を生成することによって、流動性のあるスラリーから、流動性が無い半硬化体へと硬化して生ケーキとなる。生ケーキは、180℃、10気圧のオートクレーブにおいて6時間高温高圧水蒸気養生される。この養生過程において珪石等の珪酸質原料とセメントや生石灰等の石灰質原料から、珪酸カルシウム水和物のトバモライトが生成され、強度物性を付与している。
【0005】
ALCは製造工程において、防錆皮膜と補強用鉄筋の引き抜き強度を得るように防錆処理した補強用鉄筋が埋設されている。補強用鉄筋は、バーインコイルや伸線が用いられ、これらを直線機で切断する。切断された補強用鉄筋は、ALCパネルの曲げ強度に必要な本数が縦筋と横筋とに別けられ、溶接機で互いに溶接され、補強用鉄筋マットとして製造される。
引き抜き強度とは、防錆皮膜と補強用鉄筋との付着力であり、付着力はJIS A5416に規定されているALCパネルの曲げ強度や防錆性能にも影響を与える。
【0006】
特許文献1には、防錆処理済みの補強用鉄筋を埋設したALCパネルにおいて、その外周面に凹み(インデント)加工による複数の凹みを施した普通鉄線により成形された補強用鉄筋を用いて形成されたALCパネルが提案されている。
この特許文献1のALCパネルによれば、その外周面に凹み(インデント)加工による複数の凹みを施した普通鉄線を使用して補強用鉄筋を成形することによって、防錆皮膜と該補強用鉄筋の付着力を向上させることにより、防錆性能及びALCパネルにおける補強用鉄筋の引抜き強度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−54550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、補強用鉄筋の表面には油脂分が残留している場合がある。
しかしながら、補強用鉄筋の鉄筋表面に残留する油脂分の処理に関する発明は見当たらない。従来の鉄筋表面に残留する油脂分を処理しないままの補強用鉄筋では防錆皮膜との付着力が弱くなり、所定値を満たさない場合がある。この付着力の所定値は、0.82N/mm以上であり、0.82N/mm以上だとパネル強度・防錆性能に問題ないが、0.82N/mm未満ではパネル強度・防錆性能に問題が出る場合がある。
本発明は、軽量気泡コンクリートに埋設される補強用鉄筋の鉄筋表面を洗浄することで、防錆皮膜と補強用鉄筋の付着力が向上する軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法は、軽量気泡コンクリートに埋設される軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法であって、補強用鉄筋を直線する直線工程の直後に、直線した前記補強用鉄筋を親油性有機溶剤で洗浄することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軽量気泡コンクリートに埋設される補強用鉄筋の鉄筋表面を洗浄することで、防錆皮膜と補強用鉄筋の付着力が向上する軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態により製造されたALCパネルを説明する図である。
【図2】サンプル1乃至4のボンド力試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態により製造されたALCパネル1を説明する図である。
ALCパネル1には、防錆処理した軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットである補強用鉄筋マット11が埋設されている。
本実施形態の軽量気泡コンクリート製造方法は、軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法である、ALCパネル1に埋設されたALC用の補強用鉄筋マット11を製造する補強用鉄筋マット製造工程と、補強用鉄筋マット製造工程で製造された補強用鉄筋マット11を複数枚モールドにセットするモールドセット工程と、複数枚の補強用鉄筋マット11をセットしたモールドにスラリーを注入するスラリー注入工程と、モールドに注入したスラリーが発泡し半硬化体へと硬化して生ケーキとなった後に脱型する生ケーキ製造工程と、脱型された生ケーキをピアノ線で所定の寸法で切断する切断工程と、切断された生ケーキをオートクレーブにおいて高温高圧水蒸気養生しALCパネル1とする養生工程と、を備える。
【0013】
補強用鉄筋マット製造工程について、詳細に説明する。
補強用鉄筋マット製造工程は、コイルに巻かれた補強用鉄筋10を直線する直線工程と、直線した補強用鉄筋10の油脂分を洗浄する洗浄工程と、洗浄した補強用鉄筋10を所定の長さに切断する鉄筋切断工程と、切断された補強用鉄筋10をALCパネル1の曲げ強度に必要な本数を縦筋と横筋に別け、これらの縦筋と横筋を溶接機で互いに溶接し補強用鉄筋マット11を形成する溶接工程と、補強用鉄筋マット11を防錆剤に浸漬させ、防錆剤に浸漬させた補強用鉄筋マット11を乾燥させ防錆皮膜を形成する防錆処理工程と、を備える。
【0014】
洗浄工程について、詳細に説明する。
洗浄工程は、直線された補強用鉄筋10の表面に親油性有機溶剤であるアセトン等をスプレーして塗布し、当該溶剤により補強用鉄筋10の表面に残留していた油脂分を溶解し布等の吸収素材で拭きとる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例によって、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
本実施例は、防錆皮膜と補強用鉄筋の付着力(以下、ボンド力と称する)を調査することを目的とした比較試験である。
本実施例では、珪石45重量部、石灰質原料として生石灰5重量部、セメント30重量部、繰り返し原料20重量部を混合し、これらの固体原料合計100重量部に水60重量部とALC用アルミニウム粉末及び界面活性剤を加えて、混練してスラリーを作成した。該スラリーに補強用鉄筋マットを埋設し、該スラリーが石灰質原料の水和により硬化した後、180℃、10気圧のオートクレーブにおいて6時間高温高圧水蒸気養生を施し、厚さ100mmのALCパネルを製造し、ボンド力の強さを試験した。
【0016】
サンプル1及び2は、比較例であり、上記実施形態の洗浄工程を行っていない補強用鉄筋マットが埋設されたALCパネルである。
サンプル3及び4は、上記実施形態の洗浄工程を行った補強用鉄筋マット11が埋設されたALCパネルである。
【0017】
本実施例では、サンプル1乃至4のALCパネルのそれぞれについて、S.Aroni,G.J.de Groot,M.J.Robinson,G.Svanholm and F.H.Wittman,“Autoclaved Aerated Concrete RILEM,” E&FN SPON An Imprint of Chapman&Hall:UP,1993,p.290-292.に記載される測定方法に準じて防錆皮膜と補強用鉄筋とのボンド力試験を実施した。
【0018】
図2は、サンプル1乃至4のボンド力試験の結果を示す図である。
図2の縦軸は、ボンド力を示し、その単位はN/mmである。
ボンド力試験の結果は、以下のとおりであった。
サンプル1のボンド力は、0.62N/mmであった。
サンプル2のボンド力は、0.57N/mmであった。
サンプル3のボンド力は、1.42N/mmであった。
サンプル4のボンド力は、1.58N/mmであった。
このように、上記実施形態の洗浄工程を行った補強用鉄筋マット11を用いたサンプル3及び4のボンド力は、上記実施形態の洗浄工程を行っていない補強用鉄筋マットを用いたサンプル1及び2のボンド力と比べ、2倍以上のボンド力を有する。
【0019】
以上の試験結果より、ALCパネルの補強用鉄筋の鉄筋表面に残留する油脂分を、直線工程において補強用鉄筋を直線した直後、アセトン等の親油性有機溶剤で洗浄する洗浄工程を行うことで防錆皮膜と補強用鉄筋との付着力を向上することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、例えば建築物の壁材、屋根、床材等として使用される軽量気泡コンクリートに関するものであり、防錆皮膜と補強用鉄筋の付着力を向上させた軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法を提供するものである。
【符号の説明】
【0021】
1 ALCパネル
10 補強用鉄筋
11 補強用鉄筋マット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量気泡コンクリートに埋設される軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法であって、
補強用鉄筋を直線する直線工程の直後に、直線した前記補強用鉄筋を親油性有機溶剤で洗浄することを特徴とする軽量気泡コンクリート用補強用鉄筋マットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−229577(P2012−229577A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99390(P2011−99390)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】