説明

軽金属鋳造材料を鋳造するためのチル鋳型と、このような鋳型の使用および鋳鉄材料の使用

本発明はNiおよび/またはMnを添加した鋳鉄材料から製造された、軽金属鋳造材料を鋳造するためのチル鋳型であって、Niおよび/またはMnの含有量を、チル鋳型(2)の熱膨張係数が鋳造すべき軽金属鋳造材料の熱膨張係数に整合するように設定されていることを特徴とする。本発明では、最良の使用特性を有すると同時に最良の鋳造結果を可能にするチル鋳型を低コストで製造することができる。従って、このようなチル鋳型は特に軽金属鋳造材料からシリンダ・ブロック(1)を鋳造するための砂型の構成部品として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽金属鋳造材料を鋳造するためのチル鋳型に係わる。本発明はまた、このようなチル鋳型の使用およびそれ自体は公知の鋳鉄材料の使用にも係わる。
【背景技術】
【0002】
鋳型に注入される鋳造材料、特にアルミニウム-またはマグネシウム材料のような軽金属鋳造材料とチル鋳型との接触部位において砂型による冷却よりも急激に冷却するため、鋳型、特に砂型内にこのチル鋳型を据え付けることは公知である(Brunhuber: "Giesserei Lexikon",2001年第18版、735ページ)。このようにして、チル鋳型と接触する領域を起点とする鋳造材料の方向性凝固が可能となる。さらにまた、チル鋳型を組み込むことで達成される急冷により、得られる凝固鋳造品は、チル鋳型によって急冷された領域が特に緻密な組織になり機械的性質が向上する。
【0003】
従って、チル鋳型は製造すべき鋳造部品の、組織特性に特に高い条件が課せられる部位を形成する鋳型部分に組み込まれるのが普通である。これは、内燃機関のエンジン・ブロックまたはシリンダ・ヘッドを軽金属合金から鋳造により製造する場合が該当する。
【0004】
組織を局所的に改善するためにチル鋳型が組み込まれる鋳型の領域の典型的な例は内燃エンジンのシリンダ室である。シリンダ室の摩擦面には作動中大きい負荷が作用するから、特に耐摩耗性、靭性、強度に高い条件が課せられる。
【0005】
従来のチル鋳型は鋳鉄材料から製造される。チル鋳型は鋳造により低コストによって製造できる。ところが、特にアルミニウム溶湯またはマグネシウム溶湯のような軽金属鋳造材料を鋳造する場合、鋳鉄の熱膨張係数が軽金属鋳造材料のそれよりも小さいことが問題になる。鋳込みに際して、軽金属溶湯と接触するチル鋳型が加熱され、この鋳型固有の熱膨張係数で膨張する。これに続く凝固の過程で温度が低下すると、鋳型は再び初期容積にまで収縮する。
【0006】
溶湯と鋳型の熱膨張係数に差があると、チル鋳型と凝固する鋳造材料との接触領域に応力または場合によっては相対的な変位が起こる可能性があり、仕上がり鋳造部品に欠陥が現れる原因となる。特に、多孔質巣(ポロシティ)などのような表面欠陥となって現れる可能性がある。特に、それぞれの鋳造部品の作動時に極めて高い負荷が作用する部位において、このような欠陥は問題である。
【0007】
しかも、チル鋳型と鋳造部品との間に発生する応力が、多大の手間をかけなければチル鋳型を凝固した鋳造部品から分離させることができないほど大きい場合があり、特に、軽金属鋳造部品をオートメーションで生産する場合にはマイナス要因となる。
【0008】
真鍮製の鋳型を使用することによって、ねずみ鋳鉄コアの採用に伴う問題を解決する試みがなされた。即ち、アルミニウム溶湯を鋳造するための砂型に組み込まれた真鍮製鋳型によって内燃エンジンのシリンダ室を形成することが、ドイツ特許出願公開第195 33 529 A1号から公知である。この公知鋳型の真鍮組成はその熱膨張係数がアルミニウム溶湯の熱膨張係数と整合する20×10-6-1以上となるように設定することが好ましい。鋳型の熱膨張係数が鋳造すべきアルミニウムの熱膨張係数と同等であるから、鋳型と被鋳造材料とがほぼ同様に膨張もしくは収縮することになる。鋳造部品とチル鋳型との間に発生する応力を最小限に抑制することができる。
【0009】
公知の真鍮製鋳型はその価格が高く、耐摩耗性に劣るのが欠点である。また、真鍮鋳型は、例えば磁石で保持できないという点で取扱が難しい。特にオートメーション生産する場合、真鍮製鋳型を装備された鋳型を使用することは困難である。鋳造材料が鋳型に付着するのを回避し、最良の表面品質を達成するために、原則として鋳型表面に平滑化を施す必要がある。このような工程も製造方法を複雑化し、不可避的にコストの増大を招く。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に述べた公知技術に鑑み、本発明の課題は、最良の使用特性を有すると同時に最良の鋳造結果を可能にする低コストで製造できるチル鋳型を提供することにある。
【0011】
さらにまた、このようなチル鋳型の好ましい用途を提示することも本発明の課題である。
【0012】
本発明はまた、それ自体は公知の鋳鉄材料の新しい用途を提示することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
軽金属鋳造材料を鋳造するためのチル鋳型については、チル鋳型の熱膨張係数が鋳造すべき軽金属鋳造材料の熱膨張係数に整合するようにNi含有量および/またはMn含有量を設定してNiおよび/またはMnを添加した鋳鉄材料から製造することによって上記課題を解決した。
【0014】
本発明のチル鋳型は軽金属鋳造材料からシリンダ・ブロックを鋳造するための砂型の構成部品として使用するのに好適である。
【0015】
本発明は、鋳造すべき軽金属溶湯の熱膨張係数に相当する熱膨張係数を有するように鋳鉄を合金化できることを利用する。このように合金化された鋳鉄自体は公知である。即ち、ドイツ特許出願公開第27 19 456号に開示されている鋳鉄材料は20℃〜100℃の温度において16.0×10-6〜21.0×10-6-1熱膨張係数を有する。これは、例えば、上記温度区間における典型的なアルミニウム鋳造合金の熱膨張係数に相当する。しかし、このような鋳鉄材料は従来、軽金属部材に鋳包みまたは焼き嵌めされるか、または軽金属部材と一体にプレス圧着される構造成分として使用されているだけである。即ち、ドイツ特許出願公開第27 19 456号から公知の合金の典型的な使用例は、内燃機関用軽金属ピストンにおけるシール要素として使用されるリング溝である。
【0016】
本発明の課題が解決されるように鉄と軽金属鋳造材料の熱膨張係数を充分な精度で整合させるには、チル鋳型に使用される鉄鋳造材料の熱膨張係数と軽金属鋳造材料の熱膨張係数との差を最大限±0.4×10-6/Kに制限することが好ましい。
【0017】
公知材料をモデルとしてマンガンおよび/またはニッケルを添加した鋳鉄材料の熱膨張係数を調節することにより、この鋳鉄材料から製造されたチル鋳型が所期の鋳造結果に関して鋳型、特に砂型において最良の挙動を有するという驚くべき所見を得た。このことは予想できないことであった。なぜなら、公知技術では、公知の鋳鉄材料に期待される機能性として機械特性および組織特性に重点が置かれていたからである。これに対して、本発明は、機械的特性および組織特性以上に熱膨張挙動の点で、本発明の鋳鉄材料がチル鋳型の製造材料として特に好適である、との認識に立脚している。
【0018】
MnまたはNiを単独または適当に組み合わせて添加した本発明の鋳鉄材料をチル鋳型の製造に使用すれば、軽金属溶湯をチル鋳型に注入した際に、チル鋳型と凝固する鋳造材料との間に発生する応力を最小限に抑制することができる。チル鋳型の熱膨張係数を軽金属鋳造材料の熱膨張係数に整合させることによって、凝固の過程で鋳型と鋳造材料との間に発生する応力が最小限に軽減される。同時に、チル鋳型によって、既に公知技術からそれ自体は公知となっている方向性凝固に関する好ましい効果も確実に達成される。また、本発明の鋳型は公知の方法によって低コストで製造でき、公知の真鍮製鋳型よりも遥かに優れた耐摩耗性を有する。
【0019】
磁気特性に鑑み、自動化方式の加工に際して取扱が容易であり、公知技術と比較して軽金属鋳造の分野でその使用効率は遥かに優れている。具体的には、本発明の鋳型を使用すれば極めて優れた鋳造製品の表面品質が得られるから、公知技術が必要とした鋳造工程に先立つ手間のかかる表面平滑化はもはや不要となる。
【0020】
本発明では、ニッケルだけまたはマンガンだけを鋳鉄材料に添加してもよいし、上記元素の両方を合金成分としてもよい。要はチル鋳型の熱膨張係数を鋳造材料の熱膨張係数と整合させることである。
【0021】
本発明のチル鋳型は、特にアルミニウム合金と熱膨張係数を整合させ易いから、アルミニウム合金鋳造に使用するのに特に好適である。但し、本発明のチル鋳型はその他の軽金属合金、例えば、マグネシウム合金の鋳造にも使用することができる。
【0022】
本発明のチル鋳型は、軽金属鋳造材料からシリンダ・ブロックを鋳造するための砂型に組み込むのに特に好適である。本発明のチル鋳型は、特に、内燃機関用に鋳造されるシリンダ・ブロックのシリンダ室を形成する役割を果す。このことは、シリンダ室自体がシリンダ摺動面として機能するか、またはシリンダ摺動ブシュが補足的に設けられるかとは無関係である。
【0023】
シリンダ室の内壁自体がシリンダ摺動面を形成する場合には、鋳造部品が凝固した後、耐摩耗性を高めるため、シリンダ室内壁を、公知の方法を利用して、例えばニッケルまたはシリコンのような材料で被覆すればよい。但し、鋳造材料として、シリコン析出相を含む公知の過共晶合金を使用することもでき、その場合、シリンダ摺動面の領域において本発明のチル鋳型による制御下で凝固が加速されるため、所要のSi析出が確実に起こる。当然のことながら、この場合、鋳造部品が凝固した後、公知の方法で摺動面を加工することによって析出シリコン相を露出させればよい。
【0024】
好ましい実施態様として、鋳造材料は0.1〜13.0wt%のニッケルを含有することができる。ニッケル含有量をこのように設定すれば、熱膨張係数をきわめて簡単に調節することができる。Ni含有量を高くすれば加熱された際の鋳鉄の膨張を大きくすることができる。一方、Ni含有量を低くすると、またはこれに少量のMnを組み合わせると、熱膨張係数を低く設定することができる。Niの含有量を6.00wt%超、特に6.5wt%以上に設定すれば、本発明のチル鋳型の熱膨張係数はアルミニウム基の溶湯の熱膨張係数に特に良く整合できる。ニッケル含有量の上限を8.00wt%以下、好ましくは8.00wt%未満に設定することによって、本発明の効果をより確実にすることができる。
【0025】
別の形態または捕捉的形態として、熱膨張係数を整合させるために、鋳鉄材料に0.1〜19.0wt%のマンガンを含有させることができる。Mn含有量が高いと熱膨張係数の値が上昇し、少量のNiと共存するかまたはNiが共存していない状態でMn含有量が低ければ、加熱の際の鋳鉄の膨張が小さくなる。アルミニウム溶湯の熱膨張係数に最も正確に整合させるためには、Mnの含有量が4〜12wt%であることが好ましい。
【0026】
鋳鉄材料の耐摩耗性に関しても最良の成果を達成するためには、鋳鉄材料が公知のように鉄および不可避の不純物のほかに下記の元素をも含めばよい(wt%):
C:1.5〜4.0%、
Si:0.5〜4.0%、
Cu: 0.3〜7.0%、
Cr:<2.0%、
Al:0.3〜8.0%、
Ti:0.01〜0.5%。
【0027】
従って、ドイツ特許出願公開第27 19 456 A1号で公知の鋳鉄材料の使用に関連する上記課題の解決策は、鉄および不可避の不純物のほかに、wt%で、C:1.5−4.0%、Si:0.5−4.0%、Cu:0.3−7.0%、Cr:< 2.0%、Al: 0.3−8.0%、Ti:0.01−0.5%を含有し、更にNi含有量:0.1−13.0%かつMn含有量:0.1−19.0%という条件でNiおよびMnのうち少なくとも一方の元素を含有し、残余が鉄および不可避の不純物である材料を使用して、軽金属鋳造材料の鋳造用のチル鋳型の製造することにある。
【実施例】
【0028】
図示の実施例に基づいて本発明を以下に詳述する。添付の単一の図面はチル鋳型2を組み込んで鋳造したシリンダ・ブロック1を示す断面図である。
【0029】
図1は、マルチシリンダ内燃機関の、それ自体は公知の図示しない砂型で鋳造され、完全に凝固したシリンダ・ブロック1のシリンダ室の断面図を示す。凝固および冷却後、砂型を破壊してシリンダ・ブロック1から除去した。
【0030】
シリンダ・ブロック1は公知のAlSi17Cu4Mg合金(wt%で、Si:16.0〜18.0; Cu:4.0〜5.0; Fe:≦0.7; Mg:0.4〜0.7; Mn:≦0.2; Ti:≦0.2; Zn:≦0.2; Σ他元素:≦0.2; 残余Al)から鋳造した。この鋳造材料は19.4×10-6/Kの熱膨張係数を有する。
【0031】
チル鋳型2は「Niレジスト(Ni-Resist)」の名称で知られるGGL−NiCr20−2鋳造合金から製造した。MnおよびNiの含有量を選択することによって、チル鋳型は20℃〜200℃で18.7×10-6/Kの範囲内の熱膨張係数を有する。この熱膨張係数はエンジン・ブロックの鋳造材料であるAlSi17Cu4Mg合金の熱膨張係数に近いから、加熱および冷却の際にチル鋳型はAl鋳造材料とほぼ同様に挙動する。従って、鋳造部品とチル鋳型との間の接触領域に発生する応力は常に最小であり、最良の鋳造結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、マルチシリンダ内燃機関の、それ自体は公知の図示しない砂型で鋳造され、完全に凝固したシリンダ・ブロック1のシリンダ室の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niおよび/またはMnを添加した鋳鉄材料から製造された、軽金属鋳造材料を鋳造するためのチル鋳型であって、Niおよび/またはMnの含有量を、チル鋳型(2)の熱膨張係数が、鋳造すべき軽金属鋳造材料の熱膨張係数に整合するように設定されていることを特徴とするチル鋳型。
【請求項2】
鋳造材料が0.1wt%〜13.0wt%、特に6wt%超、8wt%未満のNiを含有することを特徴とする請求項1に記載のチル鋳型。
【請求項3】
鋳鉄材料が0.1〜19.0wt%のMnを含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチル鋳型。
【請求項4】
鋳鉄材料がNiおよび/またはMnのほかに、鉄および下記合金成分(wt%):
C:1.5〜4.0%、
Si:0.5〜4.0%、
Cu:0.3〜7.0%、
Cr:<2.0%、
Al:0.3〜8.0%、
Ti:0.01〜0.5%
をも含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のチル鋳型。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載されているように構成されたチル鋳型の、軽金属鋳造材料からシリンダ・ブロックを鋳造するための砂型の構成部品としての使用。
【請求項6】
wt%で、
C:1.5〜4.0%、
Si:0.5〜4.0%、
Cu:0.3〜7.0%、
Cr:<2.0%、
Al:0.3〜8.0%、
Ti:0.01〜0.5%
を含有し、更に、
Ni含有量:0.1〜13.0%、
Mn含有量:0.1〜19.0%、
という条件でNiおよびMnのうち少なくとも一方の元素を含有し、
残余が鉄および不可避の不純物である鋳鉄材料の、軽金属鋳造材料を鋳造するためのチル鋳型(2)の製造への使用。
【請求項7】
軽金属鋳造材料がアルミニウム基合金材料であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2008−528292(P2008−528292A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552581(P2007−552581)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000701
【国際公開番号】WO2006/081983
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(502315226)ハイドロ アルミニウム ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【Fターム(参考)】