説明

輝尽性蛍光体及び放射線像変換パネル

【課題】 繰り返し使用に有効な輝尽性蛍光体及び放射線画像変換パネルの提供。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体の表面をアルカリ土類金属フッ素化合物で被覆製造することを特徴とする輝尽性蛍光体。
一般式(1)
Ba1-x2xFBry1-y:aM1,bLn,cO

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は輝尽性蛍光体(以下、単に蛍光体ともいう)及び放射線像(放射線画像)変換パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の放射線写真法に代わる有効な診断手段として、特開昭55−12145号等に記載の輝尽性蛍光体を用いる放射線像記録再生方法が知られている。
【0003】
この方法は、輝尽性蛍光体を含有する放射線像変換パネル(蓄積性蛍光体シートとも呼ばれる)を利用するもので、被写体を透過した、あるいは被検体から発せられた放射線を輝尽性蛍光体に吸収させ、可視光線、紫外線等の電磁波(励起光という)で時系列的に輝尽性蛍光体を励起して、蓄積されている放射線エネルギーを蛍光(輝尽発光光という)として放射させ、この蛍光を光電的に読み取って電気信号を得、得られた電気信号に基づいて被写体あるいは被検体の放射線画像を可視画像としてCRTやフィルム上に再生するものである。読み取り後の変換パネルは、残存画像の消去が行われ、次の撮影に供される。
【0004】
この方法によれば、放射線写真フィルムと増感紙とを組み合わせて用いる放射線写真法に比して、はるかに少ない被爆線量で情報量の豊富な放射線画像が得られる利点がある。また、放射線写真法では撮影毎にフィルムを消費するのに対して、放射線像変換パネルは繰り返し使用されるので、資源保護や経済効率の面から有利である。
【0005】
放射線像変換パネルは、支持体とその表面に設けられた輝尽性蛍光体層、または自己支持性の輝尽性蛍光体層のみからなり、輝尽性蛍光体層は通常輝尽性蛍光体とこれを分散支持する結合材からなるものと、蒸着法や焼結法によって形成される輝尽性蛍光体の凝集体のみから構成されるものがある。また、輝尽性蛍光体の凝集体の間隙に高分子物質が含浸されているものも知られている。さらに、輝尽性蛍光体層の支持体側とは反対側の表面には通常、ポリマーフィルムや無機物の蒸着膜からなる保護膜が設けられる。
【0006】
輝尽性蛍光体としては、通常400〜900nmの範囲にある励起光によって波長300〜500nmの範囲にある輝尽発光を示すものが一般的に利用され、特開昭55−12145号、同55−160078号、同56−74175号、同56−116777号、同57−23673号、同57−23675号、同58−206678号、同59−27289号、同59−27980号、同59−56479号、同59−56480号等に記載の希土類元素賦活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体;特開昭59−75200号、同60−84381号、同60−106752号、同60−166379号、同60−221483号、同60−228592号、同60−228593号、同61−23679号、同61−120882号、同61−120883号、同61−120885号、同61−235486号、同61−235487号等に記載の2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体;特開昭55−12144号に記載の希土類元素賦活オキシハライド蛍光体;特開昭58−69281号に記載のセリウム賦活3価金属オキシハライド蛍光体;特開昭60−70484号に記載のビスマス賦活アルカリ金属ハロゲン化物蛍光体;特開昭60−141783号、同60−157100号に記載の2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属ハロ燐酸塩蛍光体;特開昭60−157099号に記載の2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属ハロホウ酸塩蛍光体;特開昭60−217354号に記載の2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属水素化ハロゲン化物蛍光体;特開昭61−21173号、同61−21182号に記載のセリウム賦活希土類複合ハロゲン化物蛍光体;特開昭61−40390号に記載のセリウム賦活希土類ハロ燐酸塩蛍光体;特開昭60−78151号に記載の2価のユーロピウム賦活ハロゲン化セリウム・ルビジウム蛍光体;特開昭60−78151号に記載の2価のユーロピウム賦活複合ハロゲン化物蛍光体、等が挙げられ、中でも、沃素を含有する2価のユーロピウム賦活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体、沃素を含有する希土類元素賦活オキシハロゲン化物蛍光体及び沃素を含有するビスマス賦活アルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体は高輝度の輝尽発光を示す。
【0007】
特開平9−291278号、特開平7−233369号等で開示されている液相からの輝尽性蛍光体の製造方法は、蛍光体原料溶液の濃度を調整して微粒子状の輝尽性蛍光体前駆体を得る方法であり、粒径分布の揃った輝尽性蛍光体粉末の製造方法として有効である。この方法で得られる輝尽性蛍光体前駆体(以下、蛍光体前駆体、前駆体ともいう)は、高温での焼成により初めて輝尽発光する。
【0008】
つまり焼成によって輝尽性蛍光体前駆体から輝尽性蛍光体が製造される。
【0009】
一般的な焼成工程では、輝尽性蛍光体前駆体を石英ボート、アルミナルツボ、石英ルツボ等の耐熱性容器に充填し、電気炉の炉心に入れて焼成を行う。この時の温度は400〜1300℃で、焼成時間は0.5〜12時間の範囲が適当である。焼成の雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の中性雰囲気、あるいは少量の水素ガスを含有する窒素ガス雰囲気等の弱還元雰囲気、あるいは微量酸素雰囲気が利用される。
【0010】
放射線像変換パネルを使用した放射線像変換方式の優劣は、放射線像変換パネルの輝尽性発光輝度(感度ともいう)及び得られる画像の鮮鋭性に大きく左右される。さらに、実用上繰返し使用に対する耐性も非常に大きな因子となる。ひとつは、温湿度環境に対する耐性が問題となる。この問題に対して、例えば、粒子表面に撥水処理剤による表面処理を施すことが試みられている。(例えば、特許文献1を参照)
あるいは、低吸水率保護層によりパネルを作製している。(例えば、特許文献2を参照)
しかしながら、いずれの場合も完全に吸湿を抑えることができず、経時により感度、鮮鋭性の低下を招いている。
【0011】
もうひとつの耐性因子として、X線曝射による感度低下である。総照射線量に対して減感が生じ、画像上に輝度ムラが発生し、診断上問題となる場合がある。
【特許文献1】特開2000−144126号公報
【特許文献2】特開平11−344596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、繰り返し使用に有効な輝尽性蛍光体及び放射線画像変換パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は以下の構成により達成される。
【0014】
(請求項1)
下記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体の表面をアルカリ土類金属フッ素化合物で被覆製造することを特徴とする輝尽性蛍光体。
【0015】
一般式(1)
Ba1-x2xFBry1-y:aM1,bLn,cO
(式中、M1はLi,Na,K,Rb,Csから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属原子、M2はBe,Mg,Sr及びCaから選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属原子、LnはCe,Pr,Sm,Eu,Gd,Tb,Tm,Dy,Ho,Nd,Er及びYbから選ばれる少なくとも一種の希土類元素であり、x,y,a,b及びcは、それぞれ0≦x≦0.3,0≦y≦0.3,0≦a≦0.05,0<b≦0.2,0≦c≦0.1である)
(請求項2)
前記アルカリ土類金属フッ素化合物がBaF2であることを特徴とする請求項1に記載の輝尽性蛍光体。
【0016】
(請求項3)
前記アルカリ土類金属フッ素化合物の被覆率が20〜60%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の輝尽性蛍光体。
【0017】
(請求項4)
一般式(1)で表される請求項1〜3の何れか1項に記載の輝尽性蛍光体を有することを特徴とする放射線像変換パネル。
即ち、本発明者らは種々結果した結果、前記一般式(1)で亜表される輝尽性蛍光体の表面をアルカリ土類金属フッ素化合物で被覆することにより、繰り返し使用に有効な輝尽性蛍光体を得ることができることを見出し、本発明に至った次第である。
【発明の効果】
【0018】
本発明による輝尽性蛍光体及び放射線画像変換パネルは繰り返し使用に有効で優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は前記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体の表面がアルカリ土類金属フッ素化合物で被覆されていることを特徴とする輝尽性蛍光体であり、これらの構成により、本発明の目的である、繰り替えし使用しても、性能の劣化少ない輝尽性蛍光体及び放射線画像変換パネルをえることができたのである。
【0020】
また、前記アルカリ土類金属フッ素化合物としては、BaF2であること、その輝尽性蛍光体表面の被覆率が20〜60%であることが、本発明の効果をより奏する点で好ましい。
【0021】
前記一般式(1)において、M1はLi,Na,K,Rb,Csから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属原子、M2はBe,Mg,Sr及びCaから選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属原子、LnはCe,Pr,Sm,Eu,Gd,Tb,Tm,Dy,Ho,Nd,Er及びYbから選ばれる少なくとも一種の希土類元素であり、x,y,a,b及びcは、それぞれ0≦x≦0.3,0≦y≦0.3,0≦a≦0.05,0<b≦0.2,0≦c≦0.1である。
【0022】
以下に本発明の一般式(1)で表される輝尽性蛍光体の製造方法の態様を以下に詳しく説明する。
【0023】
液相法による輝尽性蛍光体前駆体製造については、特開平10−140148号公報、特開平10−147778号公報、特開2002−38143号公報に記載された技術を好ましく利用できる。
【0024】
ここで輝尽性蛍光体前駆体とは、前記一般式(I)で表される化合物が400℃以上の高温を経ていない状態を示し、輝尽性蛍光体前駆体は、輝尽発光性や瞬時発光性を殆ど示さない。
【0025】
本発明においては、一般式(I)で示される輝尽性蛍光体前駆体を合成する液相合合成法は、バリウムを有する化合物及び無機フッ素化合物が存在して行われることが好ましい。バリウムを有する化合物とフッ素化合物との反応母液中への添加の順序は特に限定されないが、無機フッ素化合物の添加が後であることがより好ましい。
【0026】
又、一般式(I)で示される輝尽性蛍光体を構成する他の成分の原材料の投入順序は限定がなく、液相中に添加しても良いし、焼成時に添加しても良い。
【0027】
その結果、一般式(I)で示される輝尽性蛍光体前駆体の表面がアルカリ土類金属フッ素化合物で被覆される。
【0028】
より、具体的には、本発明においては、以下の液相合成法により輝尽性蛍光体前駆体を得ることが好ましい。
【0029】
また、前記一般式(I)で示される輝尽性蛍光体製造方法は、粒子形状の制御が難しい固相合成法では無く、粒径の制御が容易である液相合成法により行うことが好ましい。特に、下記の液相合成法により輝尽性蛍光体を得ることが好ましい。
【0030】
[製造法]
BaI2及びLnのハロゲン化物を用い、前記一般式(I)のxが0でない場合には、更にM2のハロゲン化物を、yが0でない場合はBaBr2を、そしてaが0でない場合、M1のハロゲン化物を含み、それらの化合物を溶解した後、バリウム濃度を3.0mol/L以上、好ましくは3.3mol/L以上で、上限として好ましくは5.0mol/L以下の溶液に調製する工程;
上記溶液を50℃以上、好ましくは100℃以上の温度に維持しながら、これに濃度3mol/L以上、好ましくは8mol/L以上、更に好ましくは12mol/L以上、上限として好ましくは15mol/L以下の無機フッ素化合物(例えば、弗化アンモニウム又はアルカリ金属の弗化物)の溶液を添加し、前記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体前駆体結晶の沈澱物を得る工程;
上記無機フッ素化合物を添加しつつ、又は添加終了後、反応液から溶媒を除去する工程;
上記前駆体結晶沈澱物を反応液から分離する工程;
分離した前駆体結晶沈澱物を焼結を避けながら焼成する工程
を含む製造方法である。
【0031】
次に、本発明の一般式(1)で表される輝尽性蛍光体の製造法の詳細について説明する。
【0032】
(前駆体結晶の沈澱物の作製)
最初に、水系媒体中を用いて無機フッ素化合物以外の原料化合物を溶解させる。すなわち、BaI2とLnのハロゲン化物、そして必要により更にM2のハロゲン化物、そして更にM1のハロゲン化物を水系媒体中に入れ充分に混合し、溶解させて、それらが溶解した水溶液を調製する。
【0033】
ただし、BaI2濃度が3.0mol/L以上、好ましくは3.3mol/L以上となるように、BaI2濃度と水系溶媒との量比を調整しておく。
【0034】
このときバリウム濃度が低いと所望の組成の前駆体が得られないか、得られても粒子が肥大化する。
【0035】
よって、バリウム濃度は適切に選択する必要があり、本発明者らの検討の結果、3.0mol/L以上で所望の前駆体を形成することができることが分かった。このとき、少量の酸、アンモニア、アルコール、水溶性高分子ポリマー、水不溶性金属酸化物微粒子粉体などを添加してもよい。
【0036】
また、BaI2の溶解度が著しく低下しない範囲で低級アルコール(メタノール、エタノール)を適当量添加しておくのも好ましい態様である。この水溶液(反応母液)は50℃以上、好ましくは100℃以上の温度に維持される。
【0037】
次に、50℃以上、好ましくは100℃以上の温度に維持され、撹拌されている水溶液に、無機フッ素化合物(弗化アンモニウム、アルカリ金属の弗化物など)の水溶液をポンプ付きのパイプなどを用いて注入する。
【0038】
この注入は、撹拌が特に激しく実施されている領域部分に行なうのが好ましい。この無機フッ素化合物水溶液の反応母液への注入によって、前記の一般式(1)に該当する蛍光体前駆体結晶が沈澱する。
【0039】
この注入と同時に反応液から溶媒を除去する。溶媒の除去量は除去前と除去後の質量比で2%以上が好ましい。これ以下では結晶がBFIになりきらない場合がある。そのため除去量は2%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。
【0040】
溶媒の除去に要する時間は生産性に大きく影響するばかりでなく、粒子の形状、粒径分布も溶媒の除去方法に影響されるので、除去方法は適切に選択する必要がある。一般的に溶媒の除去に際しては溶液を過熱し、溶媒を蒸発する方法が選択される。本発明においてもこの方法は有用である。溶媒の除去により、意図した組成の前駆体を得ることができる。
【0041】
更に、生産性を挙げるため、また、粒子形状を適切に保つため、他の溶媒除去方法を併用することが好ましい。併用する溶媒の除去方法は特に問わない。逆浸透膜などの分離膜を用いる方法を選択することも可能である。本発明では生産性の面から、以下の除去方法を選択することが好ましい。
【0042】
1.乾燥気体を通気する
反応容器を密閉型とし、少なくとも2箇所以上の気体が通過できる孔を設け、そこから乾燥気体を通気する。気体の種類は任意に選ぶことができる。安全性の面から、空気、窒素が好ましい。通気する気体の飽和水蒸気量に依存し、溶媒が気体に同伴され、除去される。反応容器の空隙部分に通気する方法の他、液相中に気体を気泡として噴出させ、気泡中に溶媒を吸収させる方法もまた有効である。
【0043】
2.減圧
よく知られるように減圧にすることにより、溶媒の蒸気圧は低下する。蒸気圧降下により効率的に溶媒を除去することができる。減圧度としては溶媒の種類により適宜選択することができる。溶媒が水の場合650mmHg以下が好ましい。
【0044】
3.液膜
蒸発面積を拡大することにより溶媒の除去を効率的に行うことができる。本発明のように、一定容積の反応容器をもちいて加熱、攪拌し、反応を行わせる場合、加熱方法としては、加熱手段を液体中に浸漬するか、容器の外側に加熱手段を装着する方法が一般的である。該方法によると、伝熱面積は液体と加熱手段が接触する部分に限定され、溶媒除去に伴い、伝熱面積が減少し、よって、溶媒除去に要する時間が長くなる。
【0045】
これを防ぐため、ポンプ、あるいは攪拌機を用いて反応容器の壁面に散布し、伝熱面積を増大させる方法が有効である。このように反応容器壁面に液体を散布し、液膜を形成する方法は”濡れ壁”として知られている。濡れ壁の形成方法としては、ポンプを用いる方法のほか、特開平6−335627、同11−235522に記載の攪拌機を用いる方法が挙げられる。
【0046】
これらの方法は単独のみならず、組み合わせて用いてもかまわない。液膜を形成する方法と容器内を減圧にする方法の組み合わせ、液膜を形成する方法と乾燥気体を通気する方法の組み合わせなどが有効である。特に前者が好ましく、特開平6−335627に記載の方法が好ましく用いられる。
【0047】
次に、上記の蛍光体前駆体結晶を、濾過、遠心分離などによって溶液から分離し、メタノールなどによって充分に洗浄し、乾燥する。この乾燥蛍光体前駆体結晶に、アルミナ微粉末、シリカ微粉末などの焼結防止剤を添加、混合し、結晶表面に焼結防止剤微粉末を均一に付着させる。なお、焼成条件を選ぶことによって焼結防止剤の添加を省略することも可能である。
【0048】
(アルカリ土類金属フッ化物微粒子沈澱物の作成)
アルカリ土類金属フッ化物は、CaF2でも良く、BaF2でも良く、SrF2でもよい。中でもBaF2が好ましい。
【0049】
例えば、BaF2微粒子は以下のように作製できる。水系媒体中を用いて、ハロゲン化バリウムを溶解させる。BaX濃度が3mol/Lに対して、F濃度が10moL/Lの無機弗化物(弗化アンモニウム又はアルカリ金属の弗化物)の溶液を添加し、その後、ろ別、乾燥しBaF2微粒子を得る。
【0050】
次にBaFX粒子とBaF2微粒子をエタノール中に添加、分散後、ろ別、乾燥し、BaF2付着BaFX粒子を得た。
【0051】
(輝尽性蛍光体の作製)
前記、蛍光体前駆体の結晶を、石英ポート、アルミナルツボ、石英ルツボなどの耐熱性容器に充填し、電気炉の炉心に入れて焼結を避けながら焼成を行なう。焼成温度は400〜1300℃の範囲が適当であって、500〜1000℃の範囲が好ましい。焼成時間は蛍光体原料混合物の充填量、焼成温度および炉からの取出し温度などによっても異なるが、一般には0.5〜12時間が適当である。
【0052】
焼成雰囲気としては、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の中性雰囲気、あるいは少量の水素ガスを含有する窒素ガス雰囲気、一酸化炭素を含有する二酸化炭素雰囲気などの弱還元性雰囲気、あるいは微量酸素導入雰囲気が利用される。焼成方法については特開2000−8034に記載の方法が好ましく用いられる。
【0053】
上記の焼成によって目的の一般式(1)で表される輝尽性蛍光体の表面をアルカリ土類金属フッ素化合物で被覆された輝尽性蛍光体が得られる。
【0054】
(放射線画像変換パネルの作製、蛍光体層、塗布工程、支持体、保護層)
本発明の放射線画像変換パネルにおいて用いられる支持体としては各種高分子材料、ガラス、金属等が用いられる。特に情報記録材料としての取り扱い上可撓性のあるシートあるいはウェブに加工できるものが好適であり、この点からいえばセルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム等のプラスチックフィルム、アルミニウム、鉄、銅、クロム等の金属シートあるいは該金属酸化物の被覆層を有する金属シートが好ましい。
【0055】
また、これら支持体の層厚は用いる支持体の材質等によって異なるが、一般的には80μm〜1000μmであり、取り扱い上の点から、さらに好ましくは80μm〜500μmである。
【0056】
これらの支持体の表面は滑面であってもよいし、輝尽性蛍光体層との接着性を向上させる目的でマット面としてもよい。
【0057】
さらに、これら支持体は、輝尽性蛍光体層との接着性を向上させる目的で輝尽性蛍光体層が設けられる面に下引層を設けてもよい。
【0058】
本発明において輝尽性蛍光体層に用いられる結合剤の例としては、ゼラチン等の蛋白質、デキストラン等のポリサッカライド、またはアラビアゴムのような天然高分子物質;および、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース、エチルセルロース、塩化ビニリデン・塩化ビニルコポリマー、ポリアルキル(メタ)アクリレート、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、ポリウレタン、セルロースアセテートブチレート、ポリビニルアルコール、線状ポリエステルなどのような合成高分子物質などにより代表される結合剤を挙げることができる。このような結合剤の中で特に好ましいものは、ニトロセルロース、線状ポリエステル、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ニトロセルロースと線状ポリエステルとの混合物、ニトロセルロースとポリアルキル(メタ)アクリレートとの混合物およびポリウレタンとポリビニルブチラールとの混合物である。なお、これらの結合剤は架橋剤によって架橋されたものであってもよい。輝尽性蛍光体層は、例えば、次のような方法により下塗層上に形成することができる。
【0059】
まず、ヨウ素含有輝尽性蛍光体、上記黄変防止のための亜燐酸エステル等の化合物および結合剤を適当な溶剤に添加し、これらを充分に混合して結合剤溶液中に蛍光体粒子および該化合物の粒子が均一に分散した塗布液を調製する。
【0060】
本発明に用いられる結着剤としては、例えばゼラチンの如き蛋白質、デキストランの如きポリサッカライドまたはアラビアゴム、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース、エチルセルロース、塩化ビニルデン・塩化ビニルコポリマー、ポリメチルメタクリレート、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、ポリウレタン、セルロースアセテートブチレート、ポリビニルアルコール等のような通常層構成に用いられる造膜性の結着剤が使用される。一般に結着剤は輝尽性蛍光体1質量部に対して0.01乃至1質量部の範囲で使用される。しかしながら得られる放射線画像変換パネルの感度と鮮鋭性の点では結着剤は少ない方が好ましく、塗布の容易さとの兼合いから0.03乃至0.2質量部の範囲がより好ましい。
【0061】
塗布液における結合剤と輝尽性蛍光体との混合比(ただし、結合剤全部がエポキシ基含有化合物である場合には該化合物と蛍光体との比率に等しい)は、目的とする放射線像変換パネルの特性、蛍光体の種類、エポキシ基含有化合物の添加量などによって異なるが、一般には結合塗布液調製用の溶剤の例としては、メタノール、エノタール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノールなどの低級アルコール;メチレンクロライド、エチレンクロライドなどの塩素原子含有炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル;ジオキサン、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル;トルエン;そして、それらの混合物を挙げることができる。
【0062】
輝尽性蛍光体層用塗布液の調製に用いられる溶剤の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等の低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル、トリオール、キシロールなどの芳香族化合物、メチレンクロライド、エチレンクロライドなどのハロゲン化炭化水素およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0063】
なお、塗布液には、該塗布液中における蛍光体の分散性を向上させるための分散剤、また、形成後の輝尽性蛍光体層中における結合剤と蛍光体との間の結合力を向上させるための可塑剤などの種々の添加剤が混合されていてもよい。
【0064】
そのような目的に用いられる分散剤の例としては、フタル酸、ステアリン酸、カプロン酸、親油性界面活性剤などを挙げることができる。そして可塑剤の例としては、燐酸トリフェニル、燐酸トリクレジル、燐酸ジフェニルなどの燐酸エステル;フタル酸ジエチル、フタル酸ジメトキシエチル等のフタル酸エステル;グリコール酸エチルフタリルエチル、グリコール酸ブチルフタリルブチルなどのグリコール酸エステル;そして、トリエチレングリコールとアジピン酸とのポリエステル、ジエチレングリコールとコハク酸とのポリエステルなどのポリエチレングリコールと脂肪族二塩基酸とのポリエステルなどを挙げることができる。
【0065】
なお、輝尽性蛍光体層用塗布液中に、輝尽性蛍光体層蛍光体粒子の分散性を向上させる目的で、ステアリン酸、フタル酸、カプロン酸、親油性界面活性剤などの分散剤を混合してもよい。また必要に応じて結着剤に対する可塑剤を添加してもよい。前記可塑剤の例としては、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチルなどのフタル酸エステル、コハク酸ジイソデシル、アジピン酸ジオクチル等の脂肪族二塩基酸エステル、グリコール酸エチルフタリルエチル、グリコール酸ブチルフタリルブチルなどのグリコール酸エステル等が挙げられる。
【0066】
上記のようにして調製された塗布液を、次に下塗層の表面に均一に塗布することにより塗布液の塗膜を形成する。この塗布操作は、通常の塗布手段、例えば、ドクターブレード、ロールコーター、ナイフコーターなどを用いることにより行なうことができる。
【0067】
次いで、形成された塗膜を徐々に加熱することにより乾燥して、下塗層上への輝尽性蛍光体層の形成を完了する。輝尽性蛍光体層の層厚は、目的とする放射線像変換パネルの特性、輝尽性蛍光体の種類、結合剤と蛍光体との混合比などによって異なるが、通常は20μm乃至1mmとする。ただし、この層厚は50〜500μmとするのが好ましい。
【0068】
輝尽性蛍光体層用塗布液の調製は、ボールミル、サンドミル、アトライター、三本ロールミル、高速インペラー分散機、Kadyミル、および超音波分散機などの分散装置を用いて行なわれる。調製された塗布液をドクターブレード、ロールコーター、ナイフコーターなどの塗布液を用いて支持体上に塗布し、乾燥することにより輝尽性蛍光体層が形成される。前記塗布液を保護層上に塗布し、乾燥した後に輝尽性蛍光体層と支持体とを接着してもよい。
【0069】
本発明の放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体層の膜厚は目的とする放射線画像変換パネルの特性、輝尽性蛍光体の種類、結着剤と輝尽性蛍光体との混合比等によって異なるが、10μm〜1000μmの範囲から選ばれるのが好ましく、10μm〜500μmの範囲から選ばれるのがより好ましい。
【0070】
以上、ユーロピウム賦活弗化ヨウ化バリウム等の一般式(1)で表される輝尽性蛍光体の例について主に説明したが、ユーロピウム賦活弗化臭化バリウムその他の一般式(1)で表される輝尽性蛍光体の製造についても、上記を参照すれば容易に製造することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を例証する。
【0072】
実施例1
ユーロピウム賦活弗化ヨウ化バリウムの輝尽性蛍光体前駆体を合成するために、2つの耐圧容器にBaI2水溶液(3.35mol/L)2500mlとEuI3水溶液(0.2mol/L)26.5mlを反応器に入れた。更に、水溶液中にヨウ化カリウム992gを添加した。この反応器中の反応母液を撹拌しながら82℃で保温した。乾燥空気を10l/minの割合で通気しながら弗化アンモニウム水溶液(10mol/L)600mlを反応母液中にローラーポンプを用いて注入し、沈澱物を生成させた。反応終了後通気前後の溶液の質量比は0.91であった。そのままの温度で90分間攪拌した。90分攪拌した後ろ過しエタノール2000mlで洗浄した。回収した前駆体の重量を計測し、投入したBaI2量と比較することにより収率を求めた。
【0073】
前駆体微粒子を合成するために、BaI2水溶液(3mol/L)2500mlを反応器に入れ、撹拌しながら80℃で保温した。弗化アンモニウム水溶液(10mol/L)750mlを反応母液中にローラーポンプを用いて300ml/minの速度で注入し、沈澱物を生成させた。次に沈澱物をろ別後、メタノールにより洗浄した後真空乾燥させて粒径0.02μmのBaF2微粒子を得た。
【0074】
BaFI粒子とBaF2微粒子を99.7/0.3の割合で混合し、エタノール中で分散し、ろ別乾燥した。
【0075】
次に、粒子形状の変化、粒子間融着による粒子サイズ分布の変化を防止するために、アルミナの超微粒子粉体を1質量%添加し、ミキサーで充分撹拌して、結晶表面にアルミナの超微粒子粉体を均一に賦着させた。これを石英ボートに充填して、チューブ炉を用いて水素ガス雰囲気中、850℃で2時間焼成して輝尽性蛍光体を得た。その後、ESCAにより定量を行い、被覆率を求めた。
【0076】
実施例2
BaFI粒子とBaF2微粒子を99.5/0.5の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様の操作を行い、輝尽性蛍光体を得た。実施例1と同様に収率を計算し、ESCAにより定量を行い、被覆率を求めた。
【0077】
実施例3
BaFI粒子とBaF2微粒子を99.0/1.0の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様の操作を行い、輝尽性蛍光体を得た。実施例1と同様に収率を計算し、ESCAにより定量を行い、被覆率を求めた。
【0078】
実施例4
BaFI粒子とBaF2微粒子を99.95/0.05の割合で混合した。これ以外は実施例1と同様の操作を行い、輝尽性蛍光体を得た。実施例1と同様に収率を計算し、ESCAにより定量を行い、被覆率を求めた。
【0079】
比較例1
BaF2微粒子を混合しないこと以外は実施例1と同様の操作を行い、輝尽性蛍光体を得た。実施例1と同様に収率を計算し、ESCAにより定量を行い、被覆率を求めた。
【0080】
(輝尽性蛍光体の評価)
得られた蛍光体について、以下の評価を行った。
【0081】
[表面組成比F/Ba]
上記放射線像変換パネルに用いられた酸素導入希土類賦活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体のOとBaとの表面組成比F/Baを、XPS表面分析装置を用いて測定した。
【0082】
XPS表面分析装置はVGサイエンティフィックス社のESCALAB−200Rが用いられた。X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定した。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定した時、1.5〜1.7eVとなるように設定した。
【0083】
測定を行う前に、先ず、汚染による影響を除く為、薄膜の膜厚の10〜20%の厚さに相当する表面層をArイオンエッチングにより除去した。
【0084】
そして、結合エネルギー0eVから1100eVの範囲をデータ取込間隔1.0eVで測定し、如何なる元素が検出されるかを調べた。次に、検出された全ての元素(エッチングイオン種を除く。)において、データ取込間隔を0.2eVとして最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンを行い、各元素のスペクトルを測定した。
【0085】
得られたスペクトルは、測定装置やコンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを無くす為、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM(Ver.2.3以降)上に転送した後、同ソフトで処理し、各元素含有率を原子数濃度(at%)として求めた。
【0086】
定量処理を行う前に、各元素についてのCount Scaleのキャリブレーションを行い、5ポイントのスムージング処理を行った。
【0087】
定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度を用いた。バックグラウンド処理にはShirley法(D.A.Shirley,Phys.Rev.,B5,4709(1972)参照)を用いた。
【0088】
(放射線画像変換パネルの評価)
各放射線画像変換パネルについて、以下の評価を行った。
【0089】
《感度》
放射線画像変換パネルに管電圧80kVpのX線を照射した後、パネルをHe−Neレーザー光(633nm)で操作して励起し、蛍光体層から放射される輝尽発光を受光器(分光感度S−5の光電子像倍管)で受光して強度を測定した。表1において、感度は相対値で示した。
【0090】
《鮮鋭度》
放射線画像変換パネルに、鉛製のMTFチャートを通して管電圧80kVpのX線を照射した後、パネルをHe−Neレーザー光で操作して励起し、蛍光体層から放射される輝尽発光を感度測定と同じ受光器で受光して電気信号に変換し、これをアナログ/デジタル変換して磁気テープに記録し、磁気テープをコンピューターで分析して、磁気テープに記録されているX線画像の変調伝達関数(MTF)を調べた。表1には、空間周波数2サイクル/mmにおけるMTF値(%)を示した。
【0091】
《繰返し耐久性》
放射線画像変換パネルに管電圧80kVpのX線(5R)を照射した後、パネルをハロゲン光で操作してパネル内の情報を消去する。この操作を積算線量1000Rとなるまで、繰返し、初期感度の低下率を求めた。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から明らかなように、本発明の輝尽性蛍光体の製造方法で得られた一般式(1)で表される輝尽性蛍光体を有する放射線画像変換パネルが比較の放射線画像変換パネルに比して優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体の表面をアルカリ土類金属フッ素化合物で被覆製造することを特徴とする輝尽性蛍光体。
一般式(1)
Ba1-x2xFBry1-y:aM1,bLn,cO
(式中、M1はLi,Na,K,Rb,Csから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属原子、M2はBe,Mg,Sr及びCaから選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属原子、LnはCe,Pr,Sm,Eu,Gd,Tb,Tm,Dy,Ho,Nd,Er及びYbから選ばれる少なくとも一種の希土類元素であり、x,y,a,b及びcは、それぞれ0≦x≦0.3,0≦y≦0.3,0≦a≦0.05,0<b≦0.2,0≦c≦0.1である)
【請求項2】
前記アルカリ土類金属フッ素化合物がBaF2であることを特徴とする請求項1に記載の輝尽性蛍光体。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属フッ素化合物の被覆率が20〜60%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の輝尽性蛍光体。
【請求項4】
一般式(1)で表される請求項1〜3の何れか1項に記載の輝尽性蛍光体を有することを特徴とする放射線像変換パネル。

【公開番号】特開2006−143914(P2006−143914A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337237(P2004−337237)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】