説明

輸送用燃料の製油所ブレンド用成分の調製

プロセスは、硫黄及び/又は窒素含有不純物の量が削減された製油所輸送用燃料又は輸送用燃料の製油所ブレンド用成分の製造のために開示される。プロセスは、上述の不純物を含有する炭化水素供給原料を過酸化水素及び酢酸を含有する不混和相と酸化ゾーン内で接触させ、不純物を選択的に酸化することを含む。比重相分離の後、任意の酸化された不純物残渣を含有する炭化水素相を抽出ゾーンに通過させて、ここで水性酢酸を用いて任意の酸化された不純物の残渣の一部を抽出する。次いで、不純物が減少した炭化水素流を回収しても良い。酸化及び抽出ゾーンからの酢酸相流出物を、次いで、酢酸の回収用の共通の分離ゾーンに通過させてもよいし、場合によっては酸化及び抽出ゾーンに戻してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然石油由来の輸送用燃料に関し、特に、周囲条件で液体である輸送用燃料の製油所ブレンド用成分の製造方法に関する。特に、本発明は、硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有有機化合物を酸化するために石油留分の選択的酸化工程と、環境に優しい輸送用燃料の製油所ブレンド用成分を回収するために石油留分から硫黄含有化合物及び窒素含有化合物を除去する抽出工程と、を含む一体化プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
19世紀後半に、内燃機関は、それらの発明とともに輸送を革新してきたことは周知である。ガソリンなどの燃料の電気点火を用いるエンジンを発明し開発したBenz及びGottleib Wilhelm Daimlerや、費用の安い有機物燃料を利用するために燃料の自動点火のための圧縮を用いる自身の名を冠したエンジンを発明し組み立てたRudolf C. K. Dieselなどがいる。輸送機関に用いるための改良されたディーゼルエンジンの開発は、ディーゼル燃料組成物の改良と共に進行してきた。近代の高性能ディーゼルエンジンは、さらに進化した規格の燃料組成物を必要とするが、費用は重要な懸案事項として残されている。
【0003】
現在、ほとんどの輸送用燃料は、天然石油に由来する。実際、石油は未だに世界中で、燃料及び石油化学供給原料として用いられる炭化水素の主要源である。天然石油又は原油の組成は大幅に変動するが、すべての原油は硫黄化合物を含み、ほとんどの原油は窒素化合物を含む。酸素を含むかもしれないが、ほとんどの原油の酸素含量は低い。一般に、原油中の硫黄濃度は約8 %未満であるが、ほとんどの原油の硫黄濃度は約0.5〜約1.5 %の範囲にある。窒素濃度は通常は0.2 %未満であるが、1.6 %程度に高いこともある。
【0004】
原油は、油井にて産出したままの形態で用いられることはほとんどなく、製油所で広範囲の燃料及び石油化学供給原料に転化される。典型的には、輸送用燃料は、原油からの留分を特定の最終用途規格に合わせるように処理され、ブレンドされて製造される。今日、入手可能な原油のほとんどは硫黄分が高いので、留分を脱硫して、性能規格及び/又は環境基準に合致する製品としなければならない。燃料中の硫黄含有有機化合物は、環境汚染の主因であり続けている。燃焼中、硫黄含有有機化合物は、硫黄酸化物に変換し、次いで硫黄酸素酸を与え、さらに粒子状排出物の要因となる。
【0005】
最近でもなお、慣用の燃料を高性能ディーゼルエンジンで燃焼させると排ガス中に排煙を生じさせる。酸素化された化合物及びわずかに炭素−炭素化学結合を含むか炭素−炭素結合を含まないメタノール及びジメチルエーテルなどの化合物は、排煙及びエンジン排ガスを減少させることが知られている。しかし、このような化合物のほとんどは、高い蒸気圧を有し及び/又はディーゼル燃料にほとんど不溶性であり、これらのセタン価により示されるように点火品質に劣る。さらに、化学的に水素添加して硫黄及び芳香族含量を減少させることによるディーゼル燃料を改良する他の方法もまた燃料潤滑性を低下させる。潤滑性の低いディーゼル燃料は、燃料インジェクター及び高圧下で燃料と接触するようになる他の可動部品の過剰摩耗を引き起こすかもしれない。
【0006】
圧縮点火内燃機関(ディーゼルエンジン)で用いるための燃料又は燃料ブレンド用成分として使用される留分は、通常約1〜3wt%の硫黄を含む中間留分である。過去、ディーゼル燃料としての典型的な規格は、最大0.5wt%であった。1993年までに欧州及び米国での規制は、ディーゼル燃料中の硫黄を0.3wt%に制限した。1996年までに欧州及び米国で、及び1997年までに日本で、ディーゼル燃料中最大硫黄分は0.05wt%以下にまで削減された。この全世界的な傾向は、硫黄について、よりレベルを低下させ続けることが予測される。
【0007】
一側面において、カリフォルニア州及びその他の管轄区域において検討中の新規排出規制導入は、触媒排ガス処理に大きな関心を集めさせている。ディーゼルエンジン、特に大型ディーゼルエンジンに対する触媒排ガス制御適用の試みは、2種の因子ゆえに、スパーク点火内燃機関(ガソリンエンジン)の試みとは大きく異なる。第一に、慣用の三元触媒(TWC)はディーゼルエンジンからのNOx排出を取り除くには有効ではなく、第二に、粒子状物質制御の必要性はガソリンエンジンにおけるよりも大幅に高い。
【0008】
数種の排ガス処理技術がディーゼルエンジン排出の制御用として浮上しており、すべてのセクターにおいて、燃料中硫黄レベルは、この技術の効率に影響する。硫黄は、触媒活性を減少させる触媒毒である。さらに、ディーゼル排出の触媒制御との関連で、高濃度硫黄燃料は、硫酸ミストを形成する硫黄の接触酸化及び水との反応ゆえに、粒子状物質排出という二次的な問題をも引き起こす。このミストは、粒子状物質排出の一部として収集される。
【0009】
圧縮点火エンジン排出は、燃焼を開始するために用いられる方法の違いゆえに、スパーク点火エンジンの排出とは異なる。圧縮点火は、非常に希薄な空気/燃料混合物中での燃料液滴の燃焼を必要とする。燃焼プロセスは、極めて小さな炭素粒子を残し、ガソリンエンジンに存在するよりも大幅に高い粒子状物質排出を誘発する。希薄な運転ゆえに、CO及び気体状炭化水素排出はガソリンエンジンよりも大幅に低い。しかし、多量の未燃焼炭化水素が炭素粒子状物質に吸着される。これらの炭化水素は、SOF(可溶性有機成分)と呼ばれる。ディーゼル排出に関する健康への懸念の根本原因は、毒性炭化水素を含むこれらの非常に小さい炭素粒子を肺の深部にまで吸入することにあるといえる。
【0010】
燃焼温度の上昇は粒子状物質を減少させ得るが、これは周知のゼルドビッチ機構(Zeldovitch mechanism)によりNOx排出の増加を招く。よって、排出規制に合致するように、粒子状物質及びNOx排出のバランスを取ることが必要になってきている。
【0011】
入手可能な証拠は、超低レベル硫黄燃料が排出を制御するディーゼル排ガスの触媒処理を実現する重要な技術であることを強く示唆する。15ppm以下の燃料硫黄レベルが、おそらく0.01g/bhp-hr以下の粒子状物質レベルを達成するために必要である。このようなレベルは、現在浮上している排ガス処理用の触媒の組み合わせに非常に適合し、0.5g/bhp-hr近辺のNOx排出を達成する可能性が示されている。さらに、NOxトラップシステムは、燃料中硫黄に対する感受性が極めて高く、入手可能な証拠はこれらシステムが活性を維持するために10ppm以下の硫黄レベルを必要とすることを示唆する。
【0012】
輸送用燃料におけるより厳しい硫黄規格に直面して、石油供給原料及び製品からの硫黄除去は今後数年間でますます重要になるであろう。欧州、日本及び米国でのディーゼル燃料中硫黄の規制は、最近、0.05wt%(最大)にまでその規格を低下させており、将来の規格は現行の0.05wt%レベルをはるかに下回るであろうことを示している。
【0013】
従来の水素化脱硫(HDS)触媒は、輸送用燃料の製油所ブレンド用石油留分から大部分の硫黄を除去するために用いられ得るが、硫黄原子が多環芳香族硫黄化合物内にあるものとして立体的に込み入っている化合物から硫黄を除去するには効果的ではない。このことは、硫黄ヘテロ原子が二重に込み入っている場合(例えば、4,6−ジメチルジベンゾチオフェン)に特に当てはまる。これらの込み入ったジベンゾチオフェン類は、50〜100 ppmなどの低硫黄レベルで優位を占め、脱硫するために厳しいプロセス条件を必要とする。高温で慣用の水素化脱硫触媒を用いると、収率損失、早すぎる触媒コーキング及び製品品質劣化(例えば、色)を引き起こす。高圧を用いることは、大きな資本投資を必要とする。
【0014】
将来のより厳しい規格に合致するために、このような込み入った硫黄化合物は留分供給原料及び生成物から取り除かれなければならない。留分及び他の炭化水素生成物からの経済的な硫黄除去に対する差し迫った必要性がある。
【0015】
本分野は、留分供給原料及び生成物から硫黄を除去すると言われているプロセスが豊富である。ある公知の方法は、非常に高い沸点の炭化水素物質よりも高温で沸騰する物質(約550゜Fよりも高温で沸騰する物質の大半を少なくとも含む石油留分)の主要量を少なくとも含む石油留分の酸化に続いて、酸化された化合物を含む流出物を高められた温度で処理して硫化水素を形成する工程(500゜F〜1350゜F)及び/又は水素化精製して炭化水素物質の硫黄含量を減少させる工程を含む。例えば、米国特許U. S. Patent Number 3,847,798号明細書(Jin Sun Yooら)及び米国特許U. S. Patent Number 5,288, 390号明細書(Vincent A. Durante)参照。このような方法は、むしろ程度の低い脱硫が達成されるに過ぎないので、限定された利用性しかないことが証明されている。加えて、これらの方法の実施中に分解及び/又はコークス形成ゆえに有価値製品の実質的な損失が起こり得る。したがって、分解又はコークス形成を減少させながら脱硫の程度を増加させるプロセスを開発することが有利である。
【0016】
燃料を改良するための数種の異なる酸化方法が、過去、記載されている。例えば、米国特許U. S. Patent Number 2,521, 698(G. H. Denison, Jr.ら)は、セタン価を改良するものとして炭化水素燃料の部分酸化を記載する。この特許は、燃料は比較的低い芳香族環含量と高いパラフィン系含量を有するべきであると示唆する。米国特許U. S. Patent Number 2,912, 313(James B. Hinkamp ら.)は、セタン価の向上が過酸化物及びジハロ化合物の両者を中間留出燃料油に添加することにより達成されると述べている。米国特許U. S. Patent Number 2,472, 152号明細書(Adalbert Farkasら)は、中間留分中の飽和環式炭化水素又はナフタレン系炭化水素類を酸化して、ナフタレン系過酸化物を形成することにより、中間留分のセタン価を改良する方法を記載する。この特許は、酸化が開始剤としての油溶性金属塩の存在下で促進され得るが、無機塩基の存在下で行われることが好ましいことを示唆する。しかし、形成されたナフタレン系過酸化物は有害なガム重合開始剤(gum initiator)である。したがって、ガム形成を減少もしくは防止するために、フェノール類、クレゾール類及びクレゾール酸などのガム重合阻害剤を、酸化された物質に添加しなければならない。これら後者の化合物(フェノール類、クレゾール類及びクレゾール酸など)は毒性があり発ガン性物質である。
【0017】
米国特許U. S. Patent Number 4,494, 961号明細書(Chaya Venkat ら)は、(i)アルカリ土類金属過マンガン酸塩、(ii)周期律表IB、IIB、IIIB、IVB、VB、VIB、VIIB又はVIIIB族の金属の酸化物、又は(i)及び(ii)の混合物のいずれかである触媒の存在下の緩やかな酸化条件下、50℃〜350℃の温度で、水素含量が低い未加工で未処理の芳香族レベルが高い中間留分を接触させることによる該中間留分のセタン価を改良することに関する。欧州特許出願公開公報European Patent Application 0 252 606 A2もまた、中間留出燃料油のセタン価を改良することに関し、錫、アンチモン、鉛、ビスマス及び周期律表IB、IIB、VB、VIB、VIIB及びVIIIB族の遷移金属などの触媒金属、好ましくは油溶性金属塩としての存在下で、中間留出燃料油を酸素又は酸化剤と接触させることにより、水素改質され得る。この出願は、触媒が燃料中のベンジル型炭素原子をケトン類に選択的に酸化すると述べている。
【0018】
米国特許U. S. Patent Number 4,723,963号明細書(William F. Taylor)は、160℃〜400℃の範囲で沸騰する中間留分炭化水素燃料中に少なくとも3wt%の酸素化芳香族化合物を含むことにより、セタン価が改良されることを示唆する。この特許は、酸素化されたアルキル芳香族類及び/又は酸素化されたヒドロ芳香族類がベンジル型炭素プロトン位置で好ましくは酸素化されると述べている。
【0019】
米国特許U. S. Patent Number 6,087,544号明細書(Robert J. Wittenbrink ら)は、留出供給流よりも低レベルの硫黄分を有する留出燃料油を製造するための留出供給流の処理に関する。このような燃料は、留出供給流をわずかに約50〜100ppmの硫黄を含む軽質留分と、重質留分とに分留することにより製造される。軽質留分は水素化精製されて、軽質留分中の実質的に全量の硫黄が取り除かれる。脱硫された軽質留分は、次いで重質留分の1/2とブレンドされて、例えば85wt%の脱硫された軽質留分と15wt%の未処理重質留分との硫黄レベルが663ppmから310ppmに低減された低レベル硫黄留出燃料油を製造する。しかし、この低硫黄レベルを得るために、わずかに約85%の留出供給流が低硫黄留出燃料油製品として回収されるに過ぎない。
【0020】
米国特許公開公報U. S. Patent Application Publication 2002/0035306 A1(Gore ら)は、窒素含有化合物及び芳香族をさらに取り除く液体石油燃料を脱硫するための多工程プロセスを開示する。このプロセス工程は、チオフェン抽出工程;チオフェン酸化工程;チオフェン酸化物及び二酸化物抽出工程;ラフィネート溶媒回収及び洗練(polishing);抽出溶媒回収;及び再循環溶媒精製である。
【0021】
Goreらの特許のプロセスは、酸化工程の前に、供給流中のチオフェン系物質及び窒素含有化合物の5〜65%及び芳香族類の部分を除去しようとするものである。ディーゼル燃料中の芳香族類の存在はセタン価を抑制するが、Goreらのプロセスは抽出された芳香族類についての最終用途を要求する。さらに、芳香族類の有効量の存在は、燃料密度(Btu/gal)を増加させ、ディーゼル燃料のコールドフロー特性を増強するように作用する。したがって、芳香族類の過度量を抽出することは賢明でない。
【0022】
酸化工程に関して、酸化剤はその場で調製されるか、又は予め形成されているものである。運転条件としては、約1:1と2.2:1の間にあるH2O2対Sのモル比;供給物の約5〜45%の間の酢酸含量;供給物の10〜25%の間の溶媒含量;及び約5,000ppm未満、好ましくは1,000ppm未満の硫酸の触媒容量を挙げることができる。Goreらは、さらに、酸化工程における酸触媒、好ましくは硫酸の使用を開示する。酸化剤としての硫酸の使用は、水が存在する場合に腐食が問題となり、また水がほとんど存在しない場合に炭化水素がスルホン化され得るという点で問題である。
【0023】
Goreらの特許によれば、チオフェン酸化物及び二酸化物抽出工程の目的は、90%を越える種々の置換ベンゾ−及びジベンゾ−チオフェン酸化物及びN酸化物化合物に加えて、1種以上の助溶媒を伴う水性酢酸である抽出溶媒で芳香族類フラクションを除去することにある。
【0024】
米国特許U. S. Patent 6,368,495 B1(Kocalら)もまた、石油留分からのチオフェン類及びチオフェン誘導体の除去のための多工程プロセスを開示する。このプロセスは、炭化水素供給物流を酸化剤と接触させる工程と、続いて、酸化工程流出物を固体分解触媒と接触させて、酸化された硫黄含有化合物を分解させ、こうして加熱された液体流及び揮発性硫黄化合物を得る工程を含む。この特許は、アルキル水素過酸化物類、過酸化物、 過カルボン酸類及び酸素などの酸化剤の使用を開示する。
【0025】
国際公開パンフレットWO 02/18518 A1(Rappas ら)は、水素化精製機のダウンストリームを利用する2ステージ脱硫プロセスを開示する。このプロセスは、チオフェン系硫黄を対応するスルホン類に転化する留分の水性蟻酸ベース過酸化水素二相性酸化を含む。酸化プロセスの間、いくらかのスルホン類が酸化溶液中に抽出される。これらのスルホン類は、続く相分離工程によって炭化水素相から取り除かれる。残りのスルホン類を含む炭化水素相は、次いで液−液抽出工程又は固体吸着工程に供される。
【0026】
酸化工程において蟻酸を用いることは適切ではない。蟻酸は、酢酸よりも比較的高価である。さらに、蟻酸は「還元」溶媒と考えられ、ある種の金属を水素化し得るのでこれらを弱める。したがって、蟻酸を取り扱うために新種の合金が必要とされる。これらの高価な合金は、溶媒回収区域及び貯蔵容器において用いられなければならないであろう。蟻酸を用いることは、さらに、第3の沈降固相の現出を防止するために、炭化水素相を水性酸化剤相から分離するために高温を用いることを必要とする。この望ましくない相は、蟻酸の親油性が低いために形成され得ると考えられる。したがって、より低温で、蟻酸は抽出されたスルホン類の幾分かを溶液中に維持することができない。
【0027】
米国特許公報U. S. Patent 6,171,478 B1(Cabrera ら)は、また別の複雑な多工程脱硫プロセスを開示する。特に、このプロセスは、水素化脱硫工程、酸化工程、分解工程及び酸化された硫黄化合物の一部が分解工程の流出物流から分離される分離工程を含む。酸化工程で用いられる酸化水溶液は、好ましくは酢酸及び過酸化水素を含む。酸化工程流出物中の任意の残留過酸化水素は、流出物を分解触媒と接触させることにより分解される。
【0028】
分離工程は、選択溶媒で行われ、酸化された硫黄化合物を抽出する。Cabreraらの教示によれば、好ましい選択溶媒は、アセトニトリル、ジメチルフォルムアミド及びスルフォランである。
【0029】
酸化された硫黄化合物を除去するために、多数の溶媒が提案されている。例えば、米国特許U. S. Patent No. 6,160,193号明細書(Gore)において、スルホン類の抽出に用いるに適切な広範囲の溶媒の使用が教示されている。好ましい溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)である。
【0030】
硫黄化合物の抽出に用いられる溶媒の同様なリストの研究は、Otsuki, S.;Nonaka, T.;Takashima, N.;Qian, W.;Ishihara, A.;Imai, T.;Kabe, T.の"Oxidative Desulfurization of Light Gas Oil and Vacuum Gas Oil by Oxidation and Solvent Extraction" Energy & Fuels 2000,14, 1232により公開されている。当該リストは以下のように示されている:
【0031】
【表1】

【0032】
Goreは、溶媒の極性と溶媒の抽出効率との間に相関があると述べている。該特許及び論文に掲載されているすべての溶媒は、望ましいことにディーゼル燃料と不混和性である。これらはすべて、極性プロトン性溶媒又は非プロトン性溶媒のいずれかとして特徴付けられる。
【0033】
上述の溶媒を使用することにより生じる数種の有害な影響がある。DMSO及びスルフォランは良好な抽出溶媒であるが、製品中に残ったこれらの溶媒のいかなる痕跡量もディーゼル燃料油中の硫黄濃度を劇的に増加させるという極めて大きなリスクがある。例えば、最終製品中の残存DMSOが37ppmwの濃度であっても、最終的なディーゼル燃料中の硫黄濃度15ppmwを与えてしまう。同様の有害な影響は、窒素原子を含むアセトニトリル、トリエタノールアミン及びDMFを用いることによっても生じ得る。これらの溶媒の痕跡レベルも最終製品中の窒素濃度を劇的に増加させてしまう。
【0034】
上記溶媒は、硫黄に対して特に選択的なものではなく、芳香族類、特にモノ芳香族類をも除去するであろう。なぜなら、これらの種はディーゼル燃料の最も極性である成分らしいからである。表面上は、これらの芳香族類を除去することにより、ディーゼル燃料を飽和物(パラフィン類)豊富にして、燃料中のより高いセタン価を達成することが有利であるように見える。不利な面は、抽出溶媒流の寸法が劇的に膨張し、回収されなければならないいくらか価値のあるこれらのモノ芳香族類を含んでしまうことである。例えば、DMFは、酸化されていないジベンゾチオフェン類を抽出することができるが、オイルの大部分をも除去してしまうことが上述の引用文献から知られている。炭化水素を回収し、ジベンゾチオフェン類を同時に回収しないためには大きな努力が必要である。
【0035】
上記溶媒の使用に関する別の考慮事項は沸点である。より高い沸点は、フラッシュ洗浄によって最終製品から痕跡量の溶媒を分離することを困難にするであろう。ここで、フラッシュ洗浄は、より低温で沸騰するディーゼル燃料成分のいくらかをフラッシュと一緒に取り出すであろう。例えば、DMSOは、189℃すなわち372゜Fの沸点を有し、DMFは153℃すなわち307゜Fの沸点を有する。ディーゼル燃料の初留点は、典型的にはこれら2種の溶媒の沸点よりも低い。
【0036】
毒性は別の問題である。DMSOは技術的に低毒性溶媒であるが、広範囲の化合物を溶解させることができる「スーパー溶媒」として分類される。このDMSO溶液の皮膚接触は、DMSOの特徴の一つである溶質の経皮吸収を速やかに引き起こすであろう。DMFは、肝臓毒素であり、発ガン性物質であると疑われている。アセトニトリルもまた、かなり強い毒性である。
【0037】
DMFは周囲圧力下で蒸留させるに十分なほど熱的安定性ではない。DMFの大気圧沸点にて、分解も生じて、一酸化炭素及びジメチルアミンを与える(Perrin, D. D.; Armarego, W. L. F. Purification of Laboratory Chemicals, 3rd Edition, Pergamon Press, Oxford, 1988, page 157)。よって、真空蒸留が必要である。
【0038】
Goreは'193特許において、メタノールに関連する欠点を指摘する。すなわち、メタノールは典型的な炭化水素燃料とほぼ同じ密度を有する。排出プロセスに基づいて、メタノールは沸騰特性及び窒素又は硫黄を残さないであろうという事実からみれば良好な溶媒であるように見える。しかし、炭化水素全体のほとんどのフラクションもまたメタノール層に抽出されるであろう。メタノールもまた、ディーゼル燃料から迅速に分離されないという点で不利である。
【0039】
上記の点から、アセトニトリル又はDMFなどの毒性溶媒、DMSOなどのスーパー溶媒又はDMFなどの分離しにくい溶媒を用いない、あまり複雑でなく経済的な留分又はディーゼル燃料の脱硫プロセスに対する需要があることは明らかである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0040】
本発明は、炭化水素供給原料中に含まれる酸化された硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有有機化合物の一部を酸化プロセス工程中に同時に抽出し、続いてデカンテーション(洗い)又は相分離工程によって分離する比較的簡易なプロセスを提供する。この相分離は、さらに下流で抽出工程によって除去されるべき硫黄種及び窒素種を減少させる。さらに、本発明のプロセスは、酸化工程及び抽出工程の両者で用いるための単一の溶媒、酢酸の使用を提供し、こうして、酸化工程及び抽出工程の両者で用いる酢酸を再生するためのただ一つの再生塔の使用を可能にする。本発明の特定の実施形態において、本発明は、酸化工程で用いる高価な酸化剤の使用量を削減する。
【0041】
[発明の概要]
硫黄及び/又は窒素含有有機不純物の含有量を削減した製油所輸送用燃料又は輸送用燃料の製油所ブレンド用成分の製造プロセスが開示される。特に、本発明のプロセスは、酸化ゾーン内で、硫黄含有有機不純物及び/又は窒素含有有機不純物を含む炭化水素供給原料を過酸化水素、酢酸及び水を含む酸化剤を含有する不混和相と接触させ、硫黄含有有機不純物及び/又は窒素含有有機不純物を酸化させ、このような酸化された不純物の一部を不混和相中に抽出させる工程を含む。酸化に続いて、硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物の含有量が削減された第1の炭化水素流を製造するために、重力分離によって、酸化された硫黄化合物及び/又は窒素化合物の一部を含む不混和相を分離する。
【0042】
次いで、第1の炭化水素流は液−液抽出ゾーンまで通過する。抽出溶媒は、酢酸及び水を含み、第1の炭化水素流から、酸化された硫黄化合物及び/又は窒素化合物の任意の追加の残りの一部を優先的に抽出する作用をする。こうして、酸化された硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物の含有量が削減された第2炭化水素流を製造する。次いで、酸化された硫黄有機化合物及び/又は窒素有機化合物を含む抽出流は、第1の炭化水素流から分離された酸化された硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有有機化合物を含む不混和相と一緒に、分離ゾーンまで通過して、酸化された硫黄化合物及び/又は窒素化合物は酢酸及び水から分離され、次いで酢酸及び水は酸化ゾーン及び液−液抽出ゾーンに再循環され得る。
【0043】
[発明の詳細な説明]
適切な供給原料は、一般に、周囲条件にて液体である炭化水素化合物から実質的になるほとんどの製油所ストリームを含む。適切な炭化水素供給原料は、一般に、約10゜API〜約100゜APIの範囲、好ましくは約20゜API〜約80又は100゜APIの範囲、より好ましくは最良の結果のために約30゜API〜約70゜又は100゜APIの範囲にあるAPI比重を有する。これらのストリームは、流体接触プロセスナフサ、流体又はディレードプロセスナフサ、軽質バージンナフサ、水素化分解(装置)ナフサ、水素化精製プロセスナフサ類、アルキレート、異性体(isomerate)、接触リフォーメート、及びベンゼン、トルエン、キシレン及びこれらの組み合わせなどのこれらのストリームの芳香族誘導体を含むがこれらに限定されるものではない。接触改質及び接触分解プロセスナフサ類は、しばしば、軽質及び重質接触ナフサ類や軽質及び重質接触リフォーメートなどのより狭い沸点範囲のストリームに分割することができ、本発明に従う供給原料として使用するために特別に誂えることができる。好ましいストリームは、軽質バージンナフサ、軽質及び重質接触分解ユニットナフサを含む接触分解ナフサ類、軽質及び重質接触リフォーメートを含む接触リフォーメート、及びこのような製油所炭化水素流類の誘導体である。
【0044】
適切な供給原料は、一般に、周囲圧力にて、約50℃〜約425℃の範囲、好ましくは150℃〜約400℃の範囲、より好ましくは最良の結果のためには約175℃と約375℃との間の温度範囲にて沸騰する製油所留分ストリームを含む。これらのストリームは、バージン軽質中間留分、バージン重質中間留分、流動接触分解プロセス軽質接触サイクルオイル、コークス炉蒸留器留分(coker still distillate)、水素化分解装置留分、及びこれらのストリーム類が集合的及び独立に水素化精製された実施形態を挙げることができるがこれらに限定されない。好ましいストリーム類は、流動接触分解プロセス軽質接触サイクルオイル、コークス炉蒸留器留分、水素化分解装置留分の集合的及び独立に水素化精製された実施形態である。
【0045】
本発明のプロセスに対する供給原料として使用するために上記留分ストリームの1種以上を組み合わせることができることもまた理解される。多くの場合において、種々の代替供給原料から得た製油所輸送用燃料又は製油所輸送用燃料用ブレンド成分の性能は同等であろう。これらの場合において、ストリームの容積利用性、最も近い接続位置及び短期経済性などの後方支援がどのストリームを利用するかを決定するであろう。
【0046】
一側面において、本発明は、水素化精製された石油留分からの製油所輸送用燃料又は製油所輸送用燃料用ブレンド用成分の製造を提供する。このような水素化精製された留分は、水素化精製された石油留分からの硫黄及び/又は窒素の水素添加除去を補助するために、水素添加触媒の存在下、水素添加条件にて石油留分を水素源と反応させる工程と;場合によっては、水素化精製された石油留分を分留して、貧硫黄−富モノ芳香族(sulfer-lean, mono-aromatic-rich)フラクションからなる低沸点ブレンド用成分と富硫黄−貧モノ芳香族(sulfer-rich, mono-aromatic-lean)フラクションからなる高沸点供給原料の少なくとも一方を与える工程とを含むプロセスにより、約50℃と約425℃の間で沸騰する石油留分を水素化精製することにより調製される。本発明のプロセスの一実施形態において、水素化精製留分又は低沸点成分は、本発明のプロセスに対する適切な供給原料として用いることができる。
【0047】
一般に、有用な水素添加触媒は、各々が総触媒の約0.1wt%〜約30wt%の量で不活性担体に組み込まれた周期律表のd−遷移元素からなる群より選択される少なくとも1の活性金属を含む。適切な活性金属としては、21〜30、39〜48及び72〜78の原子番号を有する元素である周期律表のd−遷移元素を挙げることができる。
【0048】
接触水素添加プロセスは、触媒の固定床、移動床又は沸騰床にて、比較的温和な条件において実施することができる。好ましくは、再生が必要になる前に比較的長期間が経過するような条件下で、1個又は複数の触媒固定床が用いられる。平均反応ゾーン温度は、約6〜約160気圧の範囲であってもよい圧力にて、最良の結果のために、約200℃〜約450℃の範囲、好ましくは約250℃〜約400℃の範囲、最も好ましくは約275℃〜約350℃の範囲とすることができる。
【0049】
水素化脱硫工程のために必要とされる圧力及び水素の量を最小にしながら、水素添加が非常に良好な硫黄除去を提供する特に好ましい圧力範囲は、20〜60気圧の範囲、より好ましくは約25〜40気圧の範囲内である。
【0050】
水素循環速度は、最良の結果のために、一般に約500SCF/Bbl〜約20,000SCF/Bblの範囲であり、好ましくは約2,000SCF/Bbl〜約15,000SCF/Bblの範囲であり、最も好ましくは約3,000〜約13,000SCF/Bblの範囲である。これらの範囲よりも低い反応圧力及び水素循環速度は、触媒失活速度を早め、結果的にあまり効果的ではない脱硫、脱窒及び脱芳香族をもたらす。過剰に高い反応圧力は、エネルギーコスト及び設備投資を上昇させ、限界利益を減少させる。
【0051】
水素添加プロセスは、最良の結果のために、典型的には約0.2hr-1〜約10.0hr-1、好ましくは約0.5hr-1〜約3.0hr-1、最も好ましくは約1.0hr-1〜約2.0hr-1の液体時間当たり空間速度で運転する。過剰に高い空間速度は、全体の水素添加を減少させる。
【0052】
一般に、本発明に有用な水素添加プロセスは、留分予備加熱工程から始める。留分は、最終予熱炉に入る前に、供給物/流出物熱交換器内で、目標とされる反応ゾーン入口温度まで予備加熱される。留分は、予備加熱の前、予備加熱中及び/又は予備加熱後に、水素流と接触し得る。
【0053】
水素流は、純水素であってもよいし、又は炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、水、硫黄化合物などの希釈剤と混合されていてもよい。水素流純度は、最良の結果のために、少なくとも約50vol%水素であり、好ましくは少なくとも約65vol%水素であり、より好ましくは少なくとも約75vol%水素である。水素は、水素プラント、接触改質工場又は他の水素製造プロセスから供給されるものでもよい。
【0054】
水素添加反応は一般に発熱反応であるから、固定床反応器間又は同反応器シェル内の触媒床間の熱移動装置からなるステージ間冷却を用いることができる。水素添加プロセスから発生した熱の少なくとも一部は、しばしば、水素添加プロセスで使用するために有利に回収され得る。この熱回収オプションが利用できない場合には、冷却水もしくは冷却空気などの冷却ユーティリティにより、又は反応器に直接注入される水素急冷流の使用により、冷却を行ってもよい。2ステージプロセスは、反応器シェルごとに発熱温度を下げることができ、より良好な水素添加反応器温度制御を提供することができる。
【0055】
反応ゾーン流出物は一般に冷却され、流出物流は水素を除去するための分離装置に送られる。回収された水素のいくらかはプロセスに戻され、水素のいくらかはプラント又は製油所燃料等の外部システムにパージされ得る。水素パージ速度は、最小水素純度を維持して硫化水素を除去するようにしばしば制御される。回収された水素は、一般に圧縮され、「メークアップ」水素で補填され、さらなる水素添加のためにプロセスに注入される。
【0056】
石油留分からの複素環式芳香族硫化物などの水素化精製によるさらなる還元は、これらの化合物を炭化水素類及び硫化水素(H2S)に転化するために、ストリームを非常に厳しい接触水素添加に供することを要求する。典型的には、炭化水素部位が大きくなるほど、硫化物を水素添加することが困難になる。したがって、水素化精製後に残っている有機硫黄化合物残渣が最も密集して置換された硫化物である。
【0057】
供給原料が製油所ストリームの水素添加から誘導された高沸点留分である場合、製油所ストリームは、約200℃及び約425℃の間で沸騰する物質から本質的になる。好ましくは、製油所ストリームは、約250℃及び約400℃の間で沸騰する物質、より好ましくは約275℃及び約375℃の間で沸騰する物質から本質的になる。
【0058】
本発明において、水素添加に対して有用な留分は、大気圧にて、約50℃〜約425℃の範囲、好ましくは150℃〜約400℃の範囲、より好ましくは約175℃と約375℃の間で沸騰する製油所ストリームの任意の1種、数種又は全部から本質的になる。蒸留生成物中のより軽質の炭化水素成分は、一般に、ガソリンよりもより有利に回収され、留出燃料油中のこれらの低沸点物質の存在は、しばしば留出燃料油引火点仕様により制約される。400℃よりも高温で沸騰するより重質の炭化水素成分は、一般に、流動接触分解機供給物としてより有利に処理され、ガソリンに転化される。留出燃料油中の重質炭化水素成分の存在は、さらに留出燃料油終点仕様により制約される。
【0059】
本発明において水素添加用の留分は、高レベル及び低レベル硫黄原油、コークス炉留分、接触分解軽質及び重質接触サイクルオイル、及び水素添加分解装置及び残油水素化精製設備からの蒸留沸騰範囲製品から誘導される高レベル及び低レベル硫黄バージン留分を含み得る。一般に、コークス炉留分及び軽質及び重質接触サイクルオイルが、80wt%程度に高い範囲にある最も高濃度の芳香族供給原料成分である。コークス炉留分及びサイクルオイル芳香族類のほとんどはモノ芳香族類及びジ芳香族類として存在し、トリ芳香族類として少量が存在する。高レベル及び低レベル硫黄バージン留分などのバージンストックは、芳香族類が20wt%程度に高い範囲である芳香族類含量が低下する。一般に、組み合わせられた水素添加設備供給原料の芳香族類含量は、約5wt%〜約80wt%の範囲、より典型的には約10wt%〜約70wt%の範囲、最も典型的には約20wt%〜約60wt%の範囲であろう。
【0060】
本発明において、水素添加用留分中硫黄濃度は、一般に、高レベル及び低レベル硫黄原油ミックス、原油1バレルあたりの製油所の水素添加容量及び留出物水素添加供給原料成分の代替処置の関数である。より高レベル硫黄の留分供給原料成分は、一般に、高レベル硫黄原油、コークス炉留分及び比較的高レベル硫黄の供給原料を処理する流体接触分解ユニットからの接触サイクルオイルから誘導されるバージン留分である。これらの留分供給原料成分は、元素状硫黄が2wt%程度に高い範囲でもよいが、一般に元素状硫黄が約0.1wt%〜約0.9wt%の範囲にある。
【0061】
本発明において、水素添加用留分の窒素含量もまた一般に、原油の窒素含量、原油1バレルあたりの製油所の水素添加容量及び留分水素添加供給原料成分の代替処理の関数である。より高レベル窒素の留分供給原料は、一般に、コークス炉留分及び接触サイクルオイルである。これらの留分供給原料成分は、2000ppm程度に高い範囲の総窒素濃度を有し得るが、一般に約5ppm〜約900ppmの範囲にある。
【0062】
典型的には、石油留分中の硫黄化合物は、置換ベンゾチオフェン類やジベンゾチオフェン類などの比較的非極性の複素環式芳香族硫化物である。一見したところ、複素環式芳香族硫黄化合物は、これらの複素環式芳香族類にだけ起因するとみられるいくつかの特性に基づいて選択的に抽出され得るように見えるかもしれない。これらの化合物中の硫黄原子がルイス塩基(Lewis base)としてこれらを分類する2つの非結合電子対を有するけれども、この特性は、ルイス酸(Lewis acid)により抽出するためには、まだ十分ではない。換言すれば、低レベル硫黄を達成するための複素環式芳香族硫黄化合物の選択的抽出は、硫化物と炭化水素類との間の極性の大きな差を必要とする。
【0063】
本発明に従う液相酸化によって、これらの硫化物を、スルホキシド類及びスルホン類などのより極性のルイス塩基性(Lewis basic)の酸素化された硫黄化合物に選択的に転化することが可能である。ジメチルスルフィドなどの化合物は非常に非極性分子であり、一方、酸化されると、この分子は非常に極性になる。したがって、製油所ストリーム中にみられるベンゾ−及びジベンゾ−チオフェンなどの複素環式芳香族硫化物を選択的に酸化することにより、本発明のプロセスは、より高い極性をこれらの複素環式芳香族化合物に選択的にもたらすことがある。これらの望ましくない硫黄化合物の極性が本発明による液相酸化により増加する場合に、炭化水素流の大部分は影響されずに、硫黄化合物は酢酸含有溶媒により選択的に抽出され得る。
【0064】
非結合電子対を有する他の化合物はアミン類を含む。複素環式芳香族アミン類もまた、上記硫化物が見出される同じストリーム中に見られる。アミン類は、硫化物よりも塩基性である。孤立電子対は、ブロンステッド−ローリィ塩基(Bronsted-Lowry base)(プロトン受容体)並びにルイス塩基(Lewis base)(電子供与体)として機能する。原子上のこの電子対は、硫化物に対すると同じ態様で、酸化を受けやすくさせる。
【0065】
一側面において、本発明は、製油所輸送用燃料又は製油所輸送用燃料用ブレンド成分を製造するプロセスを提供する。本プロセスは、下記工程:炭化水素類、硫黄含有及び窒素含有有機化合物の約10゜API〜約100゜APIの範囲にある比重を有する混合物を含む炭化水素供給原料を提供する工程;硫黄含有及び/又は窒素含有有機化合物の1種以上の酸化に対する適切な条件下で、酸化ゾーン内の液相反応混合物中で、供給原料を酢酸、水、及び過酸化水素を含む酸化剤を含む不混和相と接触させる工程;不混和性酢酸含有相の少なくとも一部を反応混合物から分離する工程;及び、酸化反応ゾーンへの供給原料よりも少量の硫黄及び/又は窒素を含有する有機化合物の混合物を含む第1の炭化水素流を回収する工程を含む。酸化条件は、約25℃〜約250℃の範囲にある温度と、反応混合物を実質的に液相中に維持するに十分な圧力とを含む。好ましくは酸化条件は約25℃よりも高く約90℃よりも低い酸化温度を含み、最も好ましくは約50℃よりも高く約90℃よりも低い酸化温度を含む。
【0066】
Lin, C. C.; Smith, T. R. ; Ichikawa,N.; Baba, T ; Itow, M.らの"International Journal of Chemical Kinetics" 1991 Vol. 23, pp. 971〜987により、90℃を越える温度では、過酸化水素の望ましくない熱分解が生じる傾向にあり、結果的により高い使用率となることが知られている。
【0067】
第1の炭化水素流は、次いで、液−液抽出ゾーン内で酢酸を含む溶媒と接触して、第1の炭化水素流内に残存する酸化された硫黄含有及び/又は窒素含有有機化合物の少なくとも一部及び酸化された硫黄含有及び/又は窒素含有有機化合物の量が減少した第2炭化水素流を含む抽出流を製造する。第2炭化水素流は、次いで、場合によっては輸送用燃料又は輸送用燃料用ブレンド成分として回収されるか、あるいは第2の液−液抽出ゾーン内で水と接触して、第2炭化水素流中に存在する望ましくない量の酢酸を除去する。酢酸、硫黄及び窒素の量が減少した輸送用燃料又は輸送用燃料用ブレンド成分として用いるに適する第3炭化水素流は、次いで、第2抽出ゾーンから回収される。
【0068】
一般に、本発明において用いるために、酸化工程において用いられる不混和相は過酸化水素源、酢酸及び水を混合することにより形成される。
過酸化水素は、過酸化水素対硫黄及び窒素の化学量論量モル比が約1:1〜約3:1の範囲になるような量で添加される。この化学量論量は、過酸化水素対硫化物及び過酸化水素対窒素の化学量論量がそれぞれ2:1及び1:1であると仮定して決定される。化学量論量比を増加させると、非常に高い硫黄減少率を達成することができるが、このような高い比率は、過酸化水素が高価な工業用化学品であることから変動費を大幅に増加させることにもなる。
【0069】
本発明の別の実施形態において、不混和相は、硫黄又は窒素を含まないプロトン酸を好ましくは不混和相の約0.5wt.%〜約10wt.%、最も好ましくは約1wt.%〜約3 wt.%の範囲の量で含む。酸触媒の存在は、酸化ゾーン内で生じる脱硫を改良する作用をする。好ましいプロトン酸はリン酸である。硫酸もしくは硝酸などの硫黄含有もしくは窒素含有酸は、硫黄及び窒素を回収された製品又はブレンド用成分である最終燃料に添加する可能性があることから、本発明のプロセスを実施する際にその使用が奨励されない。プロトン酸を使用すると、過酸化水素使用量を削減することができる。本発明の実施形態によれば、プロトン酸が用いられる場合には、約1対1〜約3対1、最も好ましくは約1対1〜約2対1の過酸化水素対硫黄及び窒素の化学量論量モル比で過酸化水素が使用される。
【0070】
有利なことに、不混和相は、存在する酢酸の量が不混和相の総量を基準として約80wt.%〜約99wt.%、より好ましくは約95wt.%〜約99wt.%の範囲となるように、水、酢酸源及び過酸化水素源を混合することにより形成される水性液体である。
【0071】
反応は、所望程度の脱硫及び脱窒を得ることができるに十分な時間にわたり行われる。好ましくは、酸化ゾーン内での反応体の滞留時間は、約5〜約180分の範囲にある。
本出願人は、酸化反応は、協奏的非ラジカル機構により有機過酸と二価の硫黄原子との迅速な反応を含み、こうして酸素原子が硫黄原子に正確に供与されると考えている。前述したように、より多量の過酸の存在において、スルホキシドは、多分同じ機構により、さらにスルホンに転化される。同様に、アミンの窒素原子はヒドロパーオキシ化合物により同じ態様において酸化されると予測される。
【0072】
本発明による液体反応混合物中での酸化は、酸素原子が二価の硫黄原子に供与される工程を含むという供述は、本発明によるプロセスはそのような反応機構を介して正確に進行することを意味するとはいえない。
【0073】
本発明について、用語「酸化」は、硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有有機化合物の1種以上が酸化されるものとして定義される。例えば、硫黄含有有機分子の硫黄原子は、スルホキシド及び/又はスルホンに酸化される。
【0074】
本発明に従い供給原料を不混和相と接触させることにより、単核芳香族類のいかなる共酸化をも無視して、密集して置換された硫化物は、対応するスルホキシド類及びスルホン類に酸化される。水素化精製されたストリーム内での密集して置換された硫化物の少量と結合している酸化剤の高度な選択率は、本発明を最小の収率損失を伴う特に効果的な深脱硫手段とする。収率損失は、一般に、酸化された密集して置換された硫化物の量に対応する。水素化精製された原油中に存在する密集して置換された硫化物の量は少ないので、対応して収率損失も少ない。さらに、二相酸化工程の間、酸化された硫黄及び窒素含有化合物の一部は、過酸化水素、酢酸及び水を含む不混和相中に同時に抽出される。
【0075】
酸化ゾーン反応は、バッチモード又は連続モードで行うことができる。当業者は、バッチ運転のために撹拌機付きタンク反応器を用いるか、あるいは連続モード運転のために連続的に撹拌するタンク反応器("CSTR")を用いるであろう。CSTR反応器において、滞留時間範囲は、反応器内での反応体の平均滞留時間に関連する。
【0076】
酸化工程の後で、又は酸化工程で、2種の不混和相はミキサー−セトラー内又は相の比重分離を利用して操作する同様の傾注ユニット内で分離される。特に、有機相、第1の炭化水素流は供給原料中の硫黄を基準として10〜70%の範囲にある減少した硫黄含量を望ましくは含むであろう。第1の炭化水素流、より軽量の相は、次いで、液−液抽出ゾーンに通過する。
【0077】
液−体抽出は、酢酸及び水を含む溶媒で行われる。溶媒があまり水を含まない場合には、硫黄除去効率は増加するが、これは第1の炭化水素流の過剰抽出を引き起こしかねないことがわかっている。好ましくは過剰抽出を防止して、硫黄及び/又は窒素含有化合物の所望量の抽出を可能とするために、本発明による溶媒は約70〜約92wt.%、好ましくは約85〜約92wt.%の酢酸を含み、残りは水であるべきである。溶媒は、好ましくは、酸化された硫黄含有及び/又は窒素含有化合物を第1の炭化水素流から抽出し、結果的に、酸化された硫黄及び/又は窒素含有有機化合物をあまり含まない第2炭化水素流を得る。液−液抽出は、向流抽出、交流又は並流を利用することを含む当業者に公知の任意の態様で行うことができる。好ましい運転温度範囲は、25〜200℃の範囲であり、一方、好ましい圧力は0〜300psigの範囲である。50ppm未満のS及び50ppm未満のN、好ましくは20ppm未満のS及び20ppm未満のNを含むこの第2炭化水素流は、次いで、燃料又は燃料ブレンド用成分として回収することができる。
【0078】
製品又は第2炭化水素流内に残存する溶媒の限りにおいて、第2水液−液抽出工程を続いて行ってもよい。
第2水抽出工程は、第2炭化水素流中に残存する酢酸の所望量を抽出するために、第2炭化水素流を水と接触させることを含む。
【0079】
減少した量の酢酸を有する第3炭化水素流は、次いで燃料又は燃料ブレンド用成分として回収される。この第2液−液抽出に対して好ましい運転温度範囲は25〜100℃であり、一方、好ましい圧力は0〜300psigの範囲にある。
【0080】
本発明の実質的な利点は、酸化ゾーン及び抽出ゾーンの両者で酢酸を使用することにより現れる。
好ましい実施形態において、これは、酸化工程に続いて分離された不混和相及び酢酸溶媒液−液抽出工程からの酢酸抽出流を蒸留塔などの共通の分離ユニットに通過させるために本発明を実施することができ、分離ユニットにおいて高沸点硫黄含有及び/又は窒素含有有機化合物から酢酸及び過剰の水が分離される。回収された酢酸は、次いで酸化ゾーン及び液−液抽出ゾーンに戻されてもよい。特に、回収された酢酸の一部を次いで、酸化ゾーンに戻すか、あるいは場合によってはメークアップタンクに戻すことができる。酸化ゾーンを本発明に従って運転することができるように、酸化ゾーンに戻す前に、過酸化水素、水及び場合によってはプロトン酸を添加する。さらに、酢酸の別の部分を第1液−液抽出に再循環させて、本発明に従って酸化ゾーンに再循環させる前に水含量を調整することができる。
【0081】
本発明をより完全に理解するために、添付図面及び以下のより詳細に説明されている実施形態を参照すべきである。
【好ましい実施形態】
【0082】
本発明の一実施形態は図1に概略的に示されている。
硫黄含有有機不純物及び/又は窒素含有有機不純物を含むディーゼル油供給物(1)は、酸化ゾーン反応器(2)まで通過する。酢酸、過酸化水素及び水を含む流は、導管(3)を通して酸化ゾーン反応器に導入される。反応混合物は、導管(4)を通して分離装置/セトラー(5)まで通過する。分離装置(5)は、硫黄含有有機不純物及び/又は窒素含有有機不純物の含有量が減少した第1中間体炭化水素流を分離させる作用をする。導管(7)は、酸化された硫黄化合物及び/又は窒素化合物を含む不混和性水性酢酸相を除去するために用いられる。
【0083】
第1中間体炭化水素流は、導管(6)を通して分離装置から取り除かれ、液−液抽出ゾーン(8)内で水性酢酸と接触する。導管(11)を通して液−液抽出器に流入する酢酸は、第1中間体炭化水素流から酸化された硫黄化合物及び/又は窒素化合物の残渣を抽出する作用をする。次いで、酸化された硫黄及び/又は窒素の含有量が減少した第2中間体炭化水素流は、導管(9)を通して抽出ゾーンから取り除かれ、水洗浄ゾーン(12)まで通過し、ここで残留酢酸が除去され、生成物は導管(13)に回収される。
【0084】
導管(10)は、抽出ゾーンからの抽出流を溶媒回収塔(14)に通過させ、ここで酸化された硫黄及び/又は窒素化合物を水性酢酸から分離する。導管(7)は、同様に、水性酢酸流を分離装置/セトラーから溶媒回収塔に通過させる。導管(15)は、再循環した酢酸を酸化ゾーン及び液−液抽出ゾーンに導管(16)及び(17)をそれぞれ通して通過させる。導管(19)は、新鮮な過酸化水素及び水を酸化ゾーンに通過させるために用いられ、一方、導管(18)は新鮮なメークアップ酢酸をプロセスに通過させるために用いられる。
【0085】
[実施例1]
【0086】
【表2】

【0087】
本発明のプロセスを示す数種のバッチ実験を行った。ディーゼル燃料供給物は、Table Iに示す組成を有していた。
過酸化水素、酢酸、水及びディーゼル燃料の仕込み量をこれらの実験のすべてにおいて、一定に保持した。丸底フラスコ、オーバーヘッド撹拌機、環流コンデンサ、窒素入口及び出口、加熱マントルからなる反応器に、300 gのディーゼル燃料(345 ppm S, 112 ppm N)、300 gの氷酢酸、1.01 gの30%過酸化水素水及び25.5 gの蒸留及び脱イオン水("D&D")を仕込んだ。反応混合物を勢いよく撹拌し、加熱を開始した。窒素を入口から供給して混合物の表面を掃引し、過酸化物の分解からの酸素の蓄積を防止した。反応温度が目標レベルに達したら、その温度で混合物を所定の反応時間にわたり撹拌した。酸化時間が経過した後、ディーゼル燃料油を冷却して傾注し、S及びNの分析のために採取した。次いで、85%水性酢酸(ディーゼル燃料/溶媒比2:1)の3種の部分でディーゼル燃料層を抽出した。これらの抽出の後、ディーゼル燃料層を次いで、水(ディーゼル燃料/水の重量比1:1に準拠して)で3回、抽出した。ディーゼル燃料油を次いで、S及びN分析に供した。
【0088】
反応条件、脱硫、脱窒及び物質平衡の結果をTables II〜Vにまとめた。脱硫及び脱窒結果は、酸化後及び抽出後として分けて掲載した。前者は、酸化ステージ後の脱硫及び脱窒の結果を示し、後者は液−液抽出ステージ後の結果を示す。
【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
【表5】

【0092】
【表6】

【0093】
各tableに認められるデータは、他は同一条件で、酸化ゾーン中での酸添加なし、蟻酸添加及びリン酸添加であるから、脱硫及び脱窒を直接比較することができる。Table IIは、50℃、60分における酸化条件の最も厳しくないセットからのデータを含む。これらの非常に温和な条件下であっても、非常に低濃度の酸触媒の存在は本発明のプロセスにとって利点であることが証明された。例えば、5wt%リン酸の添加は、抽出に続く脱硫を25%(実験1)から50%(実験7)に増加させた。
【0094】
Table IVは、酸化温度を50℃から80℃に上昇させた点を除いて、Table IIと同一の1セットの実験からのデータを示す。脱硫レベルは、これらの条件下でわずかに上昇した。酸触媒の添加は、酸触媒を用いなかった実験15よりも、より高いレベルの脱窒を呈した。全体的には、60分後で、80℃での脱窒レベルは、50℃での実験よりもそれほど優れてはいなかった。
【0095】
Table IIに示すデータとTable IVに示すデータの比較は、明らかに、温度上昇が脱硫を増加させることを示す。明らかに、1wt%を越える酸触媒の添加は、両方の温度でわずかだけ改良された結果をもたらす。50℃及び80℃での酸触媒は、本質的に同じ結果を与えた。
【0096】
Table IIと温度を50℃に固定し反応時間を60分から120分に延長したTable IIIとの比較は、より高いレベルの脱硫が観察された5%酸触媒を用いた場合を除いて、反応時間がこの温度における脱硫に関してあまり大きな相違を生じさせないことを示す。しかし、反応を120分間続けることで、延長された滞留時間が酸触媒なしでの酸化実験と、酸触媒を用いる実験とで等しい結果を与えることができた。
【0097】
Tables IVと、温度を80℃に固定したが滞留時間を60分から120分に変動させたTable Vとの比較は、リン酸が80℃、120分で優れていたことを明らかにした。蟻酸は、これらのより高温及びより長期の反応時間の場合でも、何らの利点を呈していなかった。より短い反応時間において、再び、1wt%酸触媒は、最適な結果を呈した。
【0098】
Table IIと温度を50℃及び80℃に変えて、60分間行ったTable IVとの間の脱窒データの比較は、80℃においてのみ制御に対して触媒の使用からの利点があったことを明らかにした。60分間、温度を50℃に確立してしまうと、触媒は因子ではなくなった。
【0099】
Table IIIに示す脱窒データと、滞留時間を120分に固定したが温度を50℃から80℃に変動させたTable Vに示す脱窒データとの比較は、1wt%リン酸の添加により、80℃、120分で高い脱窒が達成されたことを示す。酸濃度を上昇させると、脱窒が減少するようだ。
【0100】
各実験において、質量収支(mass balance)は、ディーゼル燃料層が酸化後に常に100%よりも高かったことを示した。ディーゼル燃料層の膨張は、酢酸の吸着によるようである。しかし、ディーゼル燃料層への酢酸の損失は、酸化からの酢酸の損失の全量であるとは考えられない。酢酸及び水がほとんど、反応温度における窒素掃引の剥離作用の結果として損失したらしいと考えられる。環流コンデンサからの無色の液体ダウンストリームの蓄積が観察された。この物質は、ほとんどが失われた酢酸/水らしいと考えられる。
【0101】
1回目の85% HOAc 抽出後の収支は引き続く2回目及び3回目の抽出と比較して最も高かった。1回目の抽出からのより高い収支は、ディーゼル燃料層からの酸化酢酸の逆抽出からのものであると考えられる。しかし、1回目のD&D水抽出は、水抽出セット内で最も高い収支を有したから、逆抽出は完全に成功するとはいえない。高い収支は、酢酸の除去による。引き続く水抽出は、物質収支をほぼ100%に戻した。全体的に、ディーゼル燃料収支は、元のディーゼル燃料の平均85wt%を回収した点で偏りがなかった。残りのディーゼル燃料はおそらく溶媒によって抽出され、慣用の手段で回収することができる。
【0102】
[実施例 2]
下記Table VIは、実施例1に記載したとおりに行った実験28と実験29との間の比較を示す。しかし、実験29は、より高い酸化温度100℃で、酸触媒を使用せずに行った。
【0103】
【表7】

【0104】
5wt%リン酸を添加して、温度を80℃に低下させることにより、一定レベルの脱硫を行うために過酸化水素の使用量を45%まで大幅に削減することが可能である。
[実施例3]
実施例1で使用したものと同じディーゼル燃料を本実施例でも用いた。酸化のプロセス条件はTable VIlにまとめた。
【0105】
【表8】

【0106】
実験手順は、実施例1に記載した手順と同じとした。過酸化水素化学量論量過剰モル比は、ディーゼル燃料供給物中過酸化水素0〜200%又は1,010〜3,030 ppmの範囲で探究した。酸触媒によりなされる貢献を試験するために、直接比較するために酸触媒の不在下で実験を行った。
【0107】
抽出ステージにおける水濃度の影響を研究するために、 75%、85%及び95%の酢酸濃度を有する3種の異なる水性酢酸溶媒で、抽出ステージに対する同一の流入物(influent)の抽出も行った。水性酢酸抽出に続いて、ディーゼル燃料層をD&D水の3種の部分で抽出した。
【0108】
Table VIIIは、過酸化水素の仕込み量を増加させて、ディーゼル燃料供給物のリン酸触媒酸化及び酸触媒なしでの酸化の酸化工程及び抽出工程の結果をまとめたものである。
【0109】
【表9】

【0110】
実験データから、生成物の酸化後実施例において、硫黄濃度は、一定の過酸化物仕込み量における酸触媒あり及び酸触媒なしの両方で非常に似ていることが明らかである。実験の両セットにおいて、過酸化物濃度が増加するにつれて、全体の硫黄濃度は下降する傾向にある。しかし、硫黄分析は、ディーゼル燃料層中に溶解した酸化及び非酸化硫黄化合物の間で識別できない。実験1及び2を除いて、酸化後の窒素種は同じであるといえる。図2は、触媒系列及び非触媒系列の両者に対する酸化後ディーゼル燃料中の残留硫黄濃度のプロットを示す。上の曲線は実験の非触媒系列に属するが、2種の曲線の間にギャップがある。過酸化物仕込み量が増加するにつれて、酸触媒系列と非酸触媒系列の間の脱硫の差は、減少し始める。酸化工程流出物が95ppm未満の硫黄を含む場合はない。
【0111】
一連の85%水性酢酸及びD&D水抽出の後、硫黄濃度及び窒素濃度のより大きな減少が観察される。一般に、過酸化物仕込み量が増加するにつれて、硫黄濃度の急激な減少が観察される。図3は、抽出工程流出物中の硫黄濃度のプロットを示す。
【0112】
図3に示すように、実験の触媒系列と非触媒系列との間にもギャップが見られる。図3における酸触媒曲線は、より積極的な硫黄濃度の減少を示すが、過酸化物の化学量論量要求の3倍で硫黄濃度は20ppm硫黄(94%の硫黄減少)近くで横ばいになり始める。対応して、3倍の過酸化物で酸触媒なしの場合には、生成物は29ppmを含んでおり、これは92%の硫黄減少を示す。
【0113】
酸触媒系列(図4)及び非酸触媒系列(図5)についての酸化工程流出物と抽出工程流出物との間の硫黄濃度のギャップもプロットした。酸化工程硫黄と抽出工程硫黄との間のギャップは、過酸化物仕込み量が増加するにつれて実質的に広がる。差は、これらの棒グラフに重ね合わせた曲線としてプロットした。
【0114】
図4及び5は、ディーゼル燃料が依然として、酸化された硫黄化合物に対する良好な溶媒であることを示す。図4において、最も低い硫黄レベルである98ppm硫黄を含む酸化工程流出物は、抽出工程流出物中での硫黄濃度が最も低くはならなかった。図6は、脱窒が、過酸化物濃度及び触媒添加の増加によって有利となることを示す。酸触媒系列と非酸触媒系列との間で、前者が窒素除去に対してより良好であった。
【0115】
[実施例 4]
実施例1に記載した手順に従って、わずかに1×過酸化水素(ディーゼル燃料中1010ppm過酸化水素)を用いて、多量の酸化生成物を調製した。液−液抽出中の水濃度を変動させた。抽出工程への流入物は、135ppm硫黄及び55ppm窒素を含んでいた。
【0116】
この物質のアリコート(100g)を95%、85%及び75%水性酢酸の部分50gで、3回抽出した。これらの抽出に続いて、ディーゼル燃料フラクションを次いで蒸留及び脱イオン(D&D)水の部分50 gで3回抽出して、残留酢酸を除去した。結果を下記Table IXにまとめる。
【0117】
【表10】

【0118】
一般に、95%水性酢酸は、最も高い程度の脱硫を与えたが、85%及び75%濃度よりもそれほど高くはなかった。95%酢酸の損失は、過抽出である。2回目及び3回目の95%酢酸抽出後の物質残収支は、85%及び75%酢酸での2回目及び3回目の抽出後の収支よりも高い。より高い物質収支は、酢酸フラクションを膨張させるディーゼル燃料の過抽出により説明することができる。95%酢酸についての1回目の抽出は、酢酸層の不充分な沈降故に1回目の抽出についての通常ではない低い収支を生じさせ、ディーゼル燃料中により多量の酢酸が残った。2回目の外側及び抽出後の収支は非常に高かったことに留意されたい。
【0119】
Tableは、さらに、溶媒中の水濃度を増加させると、硫黄除去レベルを減少させるが、より多量のディーゼル燃料も残されることを明らかにする。このプロセスにおいてトレードオフ(妥協)は重大である。水抽出後収支は95%酢酸抽出について最も高い。これらの結果は、ディーゼル燃料中に残された酢酸のかなりの逆抽出を示す。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】図1は、本発明のプロセスの一実施形態の概略図である。
【図2】図2は、本発明の酸の触媒作用を利用した酸化実施形態と酸の触媒作用を利用しない酸化実施形態に対する酸化工程流出物における硫黄濃度を示す。
【図3】図3は、本発明の酸の触媒作用を利用した酸化実施形態と酸の触媒作用を利用しない酸化実施形態に対する抽出工程流出物における硫黄濃度を示す。
【図4】図4は、本発明の酸の触媒作用を利用した酸化実施形態に対する酸化工程流出物の硫黄濃度と抽出工程流出物の硫黄濃度の間の差を示す。
【図5】図5は、本発明の酸の触媒作用を利用しない酸化実施形態に対する酸化工程流出物の硫黄濃度と抽出工程流出物の硫黄濃度の間の差を示す。
【図6】図6は、本発明の酸の触媒作用を利用した酸化実施形態及び酸の触媒作用を利用しない酸化実施形態に対する酸化ゾーン流出物における窒素濃度の差を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有有機不純物及び/又は窒素含有有機不純物を含む炭化水素供給原料を脱硫して、製油所輸送用燃料又は製油所輸送用燃料用ブレンド成分を製造する方法であって:
(a)酸化ゾーン内で、硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有有機化合物を酸化させる酸化ゾーン条件にて、供給原料を酢酸、水及び過酸化水素を含む酸化剤を含む不混和相と接触させる工程;
(b)酸化された硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有有機化合物を含む不混和相の少なくとも一部を分離して、酸化された硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物の含有量が減少した第1の炭化水素流を形成する工程;
(c)液−液抽出ゾーン内で、第1の炭化水素流の少なくとも一部を酢酸及び水を含む溶媒と接触させて、酸化された硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有有機化合物の少なくとも一部を含む抽出流と、酸化された硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有有機化合物の量が減少したラフィネート第2炭化水素流と、を製造する工程;及び
(d)第2炭化水素流を回収する工程、を含む方法。
【請求項2】
過酸化水素と炭化水素供給原料中の硫黄及び窒素との化学量論量比は、約1:1〜約3:1の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
過酸化水素と炭化水素供給原料中の硫黄及び窒素との化学量論量比は、約1:1〜約2:1の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
酸化ゾーン条件は、約90℃よりも低い温度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
酸化条件は、約1分〜約180分の範囲にある滞留時間を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
酸化ゾーン内で用いられる酢酸は、不混和相の質量を基準として約80wt.%〜約99wt.%の範囲にある量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記液−液抽出ゾーンで用いられる前記溶媒は、約70wt.%〜約92wt.%の酢酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2炭化水素流は第2液−液抽出ゾーンまで通過して、ここで第2炭化水素流は水を含有する溶媒と接触して、ラフィネート第3炭化水素流と、酢酸を含む抽出水流と、を製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記酢酸は約95wt.%〜99wt.%の範囲で存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記酢酸は約85wt.%〜約92wt.%の範囲で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記炭化水素供給原料の少なくとも一部は石油留分に対する水素化精製プロセスの生成物であり、水素化精製プロセスは、水素添加触媒の存在下、水素添加条件にて石油留分を水素源と反応させて、硫黄及び/又は窒素の石油留分からの水素添加除去を補助することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記不混和相及び前記抽出流は分離ゾーンまで通過して、ここで酸化された硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有化合物から酢酸が分離されて回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化剤は、硫黄もしくは窒素を含まないプロトン酸を追加的に含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記プロトン酸は、約0.5wt.%〜約10.0wt.%の範囲の量で存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プロトン酸はリン酸であり、リン酸は約1wt.%〜約3wt.%の範囲にある量で存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
炭化水素供給原料中の過酸化水素と硫黄及び窒素との化学量論量比は約1:1〜約2:1の範囲にある、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記酸化ゾーン条件は約90℃よりも低い温度を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記酸化条件は、約1分〜約180分の範囲にある滞留時間を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記酸化ゾーン内で用いられる酢酸は、前記不混和相の質量を基準として約80wt.%〜約99wt.%の範囲にある量で存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
液−液抽出ゾーン内で用いられる前記溶媒は、約70wt.%〜約92wt.%の酢酸を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記第2炭化水素流は第2液−液抽出ゾーンまで通過して、ここで前記第2炭化水素流は水を含有する溶媒と接触して、ラフィネート第3炭化水素流と、酢酸を含有する抽出水流と、を製造する、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記炭化水素供給原料の少なくとも一部は石油留分に対する水素化精製プロセスの生成物であり、水素化精製プロセスは水素添加触媒の存在下、水素添加条件にて、石油留分を水素源と反応させて、石油留分からの硫黄及び/又は窒素の水素添加除去を補助することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記不混和相及び前記抽出流は分離ゾーンまで通過して、ここで酸化された硫黄含有有機化合物及び/又は窒素含有有機化合物から酢酸が分離され回収される、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記酸化剤は、約1wt.%〜約3wt.%の範囲にある量のリン酸を追加的に含み;
前記酸化ゾーン条件は、約90℃よりも低い温度を含み;
前記酸化ゾーン内で用いられる前記酢酸は、前記不混和相の抽出の質量を基準として約95wt.%〜約99wt.%の範囲にある量で存在し;
前記液−液抽出ゾーン内で用いられる前記溶媒は、約85wt.%〜約92wt.%含まれ;
過酸化水素と硫黄及び窒素との前記化学量論量比は、約1:1〜約2:1の範囲にある、
請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記炭化水素供給原料の少なくとも一部は、石油留分に対する水素化精製プロセスの生成物であり、水素化精製プロセスは、水素添加触媒の存在下、水素添加条件にて、石油留分を水素源と反応させて、石油留分からの硫黄及び/又は窒素の水素添加除去を補助することを含む、請求項24に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2006−511658(P2006−511658A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565008(P2004−565008)
【出願日】平成15年11月11日(2003.11.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/036746
【国際公開番号】WO2004/061054
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(503259381)ビーピー・コーポレーション・ノース・アメリカ・インコーポレーテッド (84)
【Fターム(参考)】