説明

農作業機の走行伝動装置

【課題】HST伝動からHMT伝動への切り換わりに伴う速度変化を抑制や解消することができる農作業機の走行伝動装置を提供する。
【解決手段】HST伝動及び無負荷駆動での無段変速部がサンギヤ、キャリヤ及びリングギヤの一体回転を現出する一体回転現出速度Vに相当の速度の出力をする変速状態における斜板角を設定基準斜板角cとする。HST伝動での無段変速部の出力速度が一体回転現出速度Vになると、斜板角センサによる検出情報に基づいて油圧ポンプの斜板角が設定基準斜板角cより高速側になっていることを検出すれば、HSTクラッチ及びHMTクラッチを入り状態に維持しながら斜板を低速側に設定戻し角Eだけ戻し、この後にHST伝動からHMT伝動に切り換え設定するべくHSTクラッチ及びHMTクラッチを切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの駆動力を入力して変速し、出力する変速駆動力がHST変速線に沿って変速するよう作用する静油圧式の無段変速部、及びエンジンからの駆動力と前記無段変速部からの変速駆動力とを入力して合成し、出力する合成駆動力が前記無段変速部の変速によってHMT変速線に沿って変速するよう作用する遊星伝動部を有する変速伝動機を備え、HST伝動を設定するHSTクラッチ及びHMT伝動を設定するHMTクラッチの切り換えにより、前記無段変速部が出力する変速駆動力を出力回転体から走行装置に出力するHST伝動と、前記遊星伝動部が出力する合成駆動力を前記出力回転体から走行装置に出力するHMT伝動とに前記変速伝動機を切り換えるように構成し、変速操作具からの変速指令に基づいて前記無段変速部を構成する油圧ポンプを変速制御するとともに前記HSTクラッチ及び前記HMTクラッチを切換え制御する変速制御手段を備える農作業機の走行伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農作業機では、作業列の終端での方向変換を行なう場合など、前後進の切換えを繰り返して行なわれることがある。上記した農作業機の走行伝動装置は、図6に示す如き出力特性を備え、無段変速部の中立状態を挟んでの前進側と後進側への変速操作を行なうことで出力速度がHST変速線に沿って前進側と後進側とに変化し、前後進切換えのための特別な操作を必要としない簡単な変速操作を行なうだけで機体の前後進切換えを行なえるよう構成されたものである。
【0003】
この種の走行伝動装置として、従来、例えば特許文献1に記載されたものがあった。特許文献1に記載されたものでは、エンジンの出力を前後輪に伝達する伝動系に油圧式無段変速装置、遊星歯車機構及び2つ油圧クラッチを設け、2つの油圧クラッチの接続切換えを行なうことにより、HSTモードの駆動系が構成されて、油圧式無段変速装置のモータ出力軸から出力される駆動力が遊星歯車機構に伝達されずに前後輪に伝達される。また、2つの油圧クラッチの接続切換えを行なうことにより、HMTモードの駆動系が構成されて、油圧式無段変速装置のモータ出力軸から出力される駆動力が遊星歯車機構に伝達されて遊星歯車機構によって油圧式無段変速装置からの駆動力とエンジンからの駆動力を合成され、遊星歯車機構から出力される合成駆動力が前後輪に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−108061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えのためのクラッチ機構の切り換えが完了して遊星伝動部にエンジンからの駆動力が伝達されることになった時点で遊星伝動部のサンギヤ、キャリヤ及びリングギヤが一体回転することになると、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えのためのクラッチ機構の切り換えが、クラッチ機構を構成する伝動上手側部材と伝動下手側部材の相対位相の関係からスムーズに行われることになる。しかし、無段変速部の出力速度の検出を行なわせ、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えが行なわれる時点での無段変速部が設定の切り換え後の遊星伝動部にサンギヤ、キャリヤ及びリングギヤの一体回転を現出させるものに相当する出力速度(一体回転現出速度)を備えるように、無段変速部の出力速度の検出結果を基にクラッチ機構の切り換え制御が行なわれるよう構成した場合、HST伝動からHMT伝動に切り換わった直後に走行速度が変化する問題が発生しがちであった。この点について、図10,12に基づいて説明する。
【0006】
図10は、走行伝動装置における変速伝動機が備える出力特性を示すグラフである。縦軸は、変速伝動機が出力する駆動力の回転速度を示す速度線となっている。横軸は、縦軸の回転速度が零「0」の位置を通るものであり、無段変速部を構成する油圧ポンプの斜板位置を示す操作位置線Lとなっている。操作位置線Lの「n」は、無段変速部を中立状態にする斜板中立の操作位置である。操作位置線Lの「a」は、変速制御によって操作される斜板の前進側の最高速位置として設定した設定前進高速位置である。操作位置線Lの「−max」は、変速制御によって操作される斜板の後進側の最高速位置として設定した設定後進高速位置である。
【0007】
回転速度が零「0」を通る変速線Sは、HST伝動の設定及び無負荷駆動での変速伝動機の出力速度の変化を示す無負荷のHST変速線Sである。無負荷のHST変速線Sのうちの斜板位置「n」と「a」の間に対応する変速線域部SFは、前進側での出力速度の変化を示すものであって、前進側での無負荷のHST変速線SFである。無負荷のHST変速線Sのうちの斜板位置「n」と「−max」の間に対応する変速線域部SRは、後進側での出力速度の変化を示すものであって、後進側での無負荷のHST変速線SRである。無負荷のHST変速線Sに連続する変速線Mは、HMT伝動の設定及び無負荷駆動での変速伝動機の出力速度の変化を示す無負荷のHMT変速線Mである。
【0008】
回転速度が零「0」を通る変速線SAは、HST伝動の設定及び負荷駆動での変速伝動機の出力速度の変化を示す負荷のHST変速線SAである。負荷のHST変速線SAに交差する傾斜線MAは、HMT伝動の設定及び負荷駆動での変速伝動機の出力速度の変化を示す負荷のHMT変速線MAである。
【0009】
変速伝動機に掛かる駆動負荷は、無段変速部を構成する油圧ポンプの斜板に作用することから、無負荷のHST変速線SF及びHMT変速線Mと負荷のHST変速線SA及びHMT変速線MAとは、異なるものになる。すなわち、負荷のHST変速線SAの操作位置線Lに対する傾斜角が無負荷のHST変速線Sの操作位置線Lに対する傾斜角よりも緩い傾斜角になる。無段変速部の出力軸の回転を遊星伝動部に増減せずに入力する簡単な構成において、HST伝動とHMT伝動の設定が切り換わる点での速度連続性を保つように、設定前進高速位置「a」として、無段変速部の油圧ポンプに実際に操作可能なものとして備えられている斜板の実前進最高速位置の手前の位置を設定した場合、無負荷のHST変速線S及びHMT変速線Mと負荷のHST変速線SA及びHMT変速線MAとの傾斜角の差が大になりがちである。
【0010】
縦軸の回転速度「V」の位置を通る横線L1は、前記一体回転現出速度を示すものである。回転速度「V」は、「V1」と同じものである。図13は、HST伝動からHMT伝動への切り換わりを示す説明図である。図10,13に示すように、無段変速部の出力速度が一体回転現出速度「V」になることでHST伝動からHMT伝動への設定の切り換え制御が行なわれるよう構成した場合、無段変速部が負荷駆動となる実際の走行時においては、変速伝動機の出力速度としての無段変速部の出力速度が、負荷のHST変速線SAに沿って増速して一体回転現出速度[V]になることにより、すなわち負荷のHST変速線SAと横線L1との交点「X」に対応する出力速度になることにより、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えが行なわれることになる。この切り換えが行なわれた直後の変速伝動機の出力速度は、負荷のHMT変速線MAと、交点「X」を通る縦線との交点「Y」に対応する出力速度「V0」になる。
【0011】
つまり、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えが行なわれた直後の出力速度が、切換え直前の「V」から切換え直後の「V0」に低下したものになり、低下分の速度が比較的大になっていた。駆動負荷が大になるほど、負荷のHST変速線SAの操作位置線Lに対する傾斜角が小になり、切り換わり直前の出力速度「V」と切り換わり直後の出力速度「V0」との差がより大になる。
【0012】
本発明の目的は、HST伝動からHMT伝動への切り換わりに伴う速度変化を抑制や解消することができる農作業機の走行伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本第1発明は、エンジンからの駆動力を入力して変速し、出力する変速駆動力がHST変速線に沿って変速するよう作用する静油圧式の無段変速部、及びエンジンからの駆動力と前記無段変速部からの変速駆動力とを入力して合成し、出力する合成駆動力が前記無段変速部の変速によってHMT変速線に沿って変速するよう作用する遊星伝動部を有する変速伝動機を備え、
HST伝動を設定するHSTクラッチ及びHMT伝動を設定するHMTクラッチの切り換えにより、前記無段変速部が出力する変速駆動力を出力回転体から走行装置に出力するHST伝動と、前記遊星伝動部が出力する合成駆動力を前記出力回転体から走行装置に出力するHMT伝動とに前記変速伝動機を切り換えるように構成し、
変速操作具からの変速指令に基づいて前記無段変速部を構成する油圧ポンプを変速制御するとともに前記HSTクラッチ及び前記HMTクラッチを切換え制御する変速制御手段を備える農作業機の走行伝動装置において、
前記油圧ポンプの斜板角を検出する斜板角センサを備え、
HST伝動及び無負荷駆動での前記無段変速部が前記遊星伝動部のサンギヤ、キャリヤ及びリングギヤの一体回転を現出する一体回転現出速度に相当の速度の変速駆動力を出力する変速状態において前記油圧ポンプが備える無負荷斜板角を、設定基準斜板角として設定する基準斜板角設定手段を備え、
前記変速制御手段を、HST伝動での前記無段変速部の出力速度が前記一体回転現出速度になると、前記斜板角センサによる検出情報に基づいて前記油圧ポンプの斜板角が前記設定基準斜板角より高速側になっていることを検出することで、前記HSTクラッチ及び前記HMTクラッチを入り状態に維持しながら前記油圧ポンプの斜板を低速側に設定戻し角だけ戻し操作し、この後にHST伝動からHMT伝動に切り換え設定するべく前記HSTクラッチ及び前記HMTクラッチを切り換え制御するよう構成してある。
【0014】
本第1発明の構成によると、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えがたとえば図12に示す如く行なわれる。
すなわち、負荷のHST変速線SAに沿って増速する無段変速部の出力速度が一体回転現出速度「V」になると、このときの斜板角「b」は、設定基準斜板角[c]に対して高速側にずれたものになる。これは、負荷のHST変速線SAが無負荷のHST変速線Sに対して位置ずれしていることによる。したがって、負荷のHST変速線SAに沿って増速する無段変速部の出力速度が一体回転現出速度「V」になると、変速制御手段は、斜板角「b」が設定基準斜板角「c」より高速側になったことを斜板角センサによる検出情報に基づいて検出し、HSTクラッチ及びHMTクラッチを入り状態に維持しながら、油圧ポンプの斜板角を低速側に戻し操作し、この戻し分が設定戻し角「E」になると、HSTクラッチ及びHMTクラッチを切り換え制御してHST伝動の設定からHMT伝動への設定に切り換える。
【0015】
つまり、無段変速部の出力速度が一体回転現出速度「V」になることでHST伝動からHMT伝動への設定の切り換えを行なわせるのに、無段変速部の出力速度が一体回転現出速度「V」になってもHSTクラッチを直ちに切り状態に切り換えず、HMTクラッチを入り状態に切り換えるとともにHSTクラッチを入り状態に維持しながら、斜板角を無段変速部の出力速度が一体回転現出速度「V」になった際の斜板角「b」から低速側に設定戻し角「E」だけ戻し操作してから行なわせることになり、HSTクラッチを切り状態に切り換えてHMT伝動の設定に切り換わった時点で変速伝動機が備えることになる出力速度を、負荷のHMT変速線MAの線上に交点「Y」の箇所より高速側に変位して位置する戻し目標箇所に対応する出力速度であって、出力速度「V0」より高速の出力速度にする状態で行なわせることができる。さらに、無段変速部の出力速度が一体回転現出速度「V」になった際の斜板角「b」を設定戻し角「E」だけ戻し操作する間、HSTクラッチ及びHMTクラッチが入り状態になっていることによる伝動によって出力速度の低下を発生させない状態で行なわせることができる。
【0016】
設定戻し角「E」の設定によっては、HSTクラッチを切り状態に切り換えてHMT伝動の設定に切り換わった時点で変速伝動機が備えることになる出力速度を、負荷のHMT変速線MAと横線L1との交点「G」に対応する出力速度であって、一体回転現出速度「V」と同じ速度の出力速度にすることができる。
【0017】
従って、HST伝動とHMT伝動の設定の切り換えが可能であって、無段変速部の中立位置を挟んでの前進側と後進側の変速操作を行うだけで操作簡単に前後進切換えを行うことができるものでありながら、HST伝動の速度レンジからHMT伝動の速度レンジへの変速を速度ダウンによる変速ショックや違和感がない状態で軽快に行なうことができる。
【0018】
本第2発明は、前記変速制御手段を、HST伝動及び負荷駆動での演算HST変速線を前記斜板角センサによる検出情報に基づいて演算設定し、前記演算HST変速線に対応する演算HMT変速線を演算設定し、前記演算HMT変速線の線上における前記一体回転現出速度に相当する速度の変速駆動力を出力する変速状態に前記無段変速部を変速操作する斜板角を戻し目標斜板角とし、この戻し目標斜板角に斜板を戻すのに必要な戻し角を前記設定戻し角として設定するよう構成してある。
【0019】
本第2発明の構成によると、走行途中で駆動負荷が変化して傾斜角が異なる負荷のHST変速線が発生することになっても、変化する駆動負荷に対応する演算HST変速線及び演算HMT変速線を演算設定し、演算HST変速線及び演算HMT変速線を基に、HMT伝動への設定に切り換わった時点で変速伝動機が備えることになる出力速度を一体回転現出回転速度と同じ速度の出力速度にするのに適切な設定戻し角を設定させ、この設定戻し角に基づいてHST伝動からHMT伝動への設定の切り換えを行なわせ、駆動負荷の変化にかかわらず、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えに伴う走行速度の変化が発生しないようにできる。
【0020】
従って、走行時における駆動負荷の変化があっても、HST伝動の速度レンジからHMT伝動の速度レンジに切り換わる変速を変速ショックや違和感が少ないとか無い状態で行って軽快に走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】コンバインの全体を示す側面図である。
【図2】走行伝動装置を示す概略正面図である。
【図3】HMT伝動での変速伝動機を示す縦断正面図である。
【図4】HST伝動での変速伝動機を示す縦断正面図である。
【図5】HMTクラッチ及びHSTクラッチの操作状態と、伝動切換えのクラッチ機構の操作状態と、変速伝動機の伝動状態との関係を示す説明図である。
【図6】無負荷駆動での変速伝動機が備える出力特性を示すグラフである。
【図7】N/Xの値と全効率との関係を示す説明図である。
【図8】N/Xの値と無段変速部の小型化との関係を示す説明図である。
【図9】変速操作装置を示すブロック図である。
【図10】変速伝動機が備える出力特性を示すグラフである。
【図11】設定切り換え制御のフロー図である。
【図12】HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えを示す説明図である。
【図13】比較例でのHST伝動からHMT伝動への設定の切り換わりを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明に係る農作業機の変速伝動装置をコンバインに装備した場合について説明する。
図1に示すように、コンバインは、左右一対のクローラ式の走行装置1,1によって自走するように構成され、かつ乗用型の運転部2が装備された走行機体と、走行機体の機体フレーム3の前部に連結された刈取り部4と、機体フレーム3の後部側に刈取り部4の後方に配置して設けられた脱穀装置5と、機体フレーム3の後部側に脱穀装置5の横側方に配置して設けられた穀粒タンク6とを備えて構成してあり、稲、麦などの収穫作業を行う。
【0023】
すなわち、刈取り部4は、機体フレーム3の前部から前方向きに上下揺動自在に延出する刈取り部フレーム4aを備え、この刈取り部フレーム4aが昇降シリンダ7によって揺動操作されることにより、刈取り部4の前端部に設けられた分草具4bが地面近くに下降した下降作業位置と、分草具4bが地面から高く上昇した上昇非作業位置とに昇降する。刈取り部4を下降作業位置に下降させて走行機体を走行させると、刈取り部4は、分草具4bによって刈取対象の植立穀稈を引起し経路に導入し、引起し経路に導入した植立穀稈を引起し装置4cによって引起しながらバリカン型の刈取装置4dによって刈取り、刈取り穀稈を供給装置4eによって脱穀装置5に供給する。脱穀装置5は、供給装置4eからの刈取り穀稈の株元側を脱穀フィードチェーン5aによって挟持して機体後方向きに搬送し、刈取り穀稈の穂先側を扱室(図示せず)に供給して脱穀処理し、脱穀穀粒を穀粒タンク6に送り込む。
【0024】
運転部2に備えられた運転座席2aの下方にエンジン8を設け、エンジン8が出力する駆動力を、機体フレーム3の前端部に設けたミッションケース11を備えた走行伝動装置10によって左右一対の走行装置1,1に伝達するように構成してある。
【0025】
図2は、走行伝動装置10の概略構造を示す正面図である。この図に示すように、走行伝動装置10は、エンジン8の出力軸8aからのエンジン駆動力を、伝動ベルト12aが備えられた伝動機構12を介してミッションケース11の上端部の横側に設けられた変速伝動機20に入力し、この変速伝動機20の出力を、ミッションケース11に内装された走行ミッション13に入力して走行ミッション13が備える左右一対の操向クラッチ機構14,14の左側の操向クラッチ機構14から左側の走行装置1の駆動軸1aに伝達し、右側の操向クラッチ機構14から右側の走行装置1の駆動軸1aに伝達する。
【0026】
走行伝動装置10は、ミッションケース11に内装された刈取りミッション15を備え、変速伝動機20の出力を、刈取りミッション15に入力して刈取り出力軸16から刈取り部4の駆動軸4fに伝達する。
【0027】
変速伝動機20について説明する。
図3,4に示すように、変速伝動機20は、ミッションケース11の上端側に横側部が連結される変速ケース21を備えた遊星変速部20Aと、変速ケース21のミッションケース11に連結する側とは反対側の横側部にケーシング31が連結された静油圧式の無段変速部30とを備えて構成してある。
【0028】
変速ケース21は、遊星伝動部40及び伝動機構50を収容する主ケース部21aと、入力軸22及び伝動軸23と無段変速部30の連結部を収容し、かつ変速ケース21とケーシング31のポートブロック34を連結する連結ケース部21bとを備えて構成してある。変速ケース21は、主ケース部21aの出力回転体24が位置する下部側面の横外側に膨出形成された膨出部分21cでミッションケース11に連結される。連結ケース部21bの走行機体上下方向での大きさが主ケース部21aの走行機体上下方向での大きさよりも小になっている。主ケース部21aを、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、ケーシング31を、機体前後方向視での縦断面形状が縦長形状となるように形成し、遊星変速部20Aと無段変速部30が機体横方向に並びながら、変速伝動機20全体としての機体横方向幅が小となり、変速伝動機20は、横外側に突出しないように走行機体の左右方向ではコンパクトな状態でミッションケース11の横側部に連結されている。さらに、ケーシング31の下部側面には下端側ほど機体内側に傾斜する傾斜面31Aが形成され、この傾斜面31Aにモータ軸33aのベアリングを支持する膨出部31Bが形成されて、変速伝動機20の更なるコンパクト化が図られている。また、ケーシング31の上面には上向きにオイルフィルタ20Fが配置され、オイルフィルタ20Fの横外側への突出を回避して更なるコンパクトが図られている。
【0029】
遊星変速部20Aは、変速ケース21の上端側に回転自在に支持された機体横向きの入力軸22と、変速ケース21の下端側に入力軸22と平行又はほぼ平行に回転自在に支持された伝動軸23及び回転軸型の出力回転体24と、伝動軸23に支持された遊星伝動部40と、入力軸22と遊星伝動部40のキャリヤ41とに亘って設けた伝動機構50とを備えている。
【0030】
入力軸22は、無段変速部30のポンプ軸32aに対して同軸芯状に並ぶよう配置されている。入力軸22は、変速ケース21から横外側に突出している側で伝動機構12を介してエンジン8の出力軸8aに連結するように構成され、エンジン8に連結される側とは反対側でジョイント22aを介して無段変速部30のポンプ軸32aに一体回転自在に連結されており、伝動機構12を介してエンジン駆動力を入力し、エンジン駆動力によって駆動されて無段変速部30の油圧ポンプ32を駆動する。
【0031】
出力回転体24は、無段変速部30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に無段変速部30のモータ軸33aと同軸芯状に並ぶように配置されている。出力回転体24は、変速ケース21から横外側に突出している側で走行ミッション13の入力部に連動するよう構成されており、遊星伝動部40及び無段変速部30からの駆動力を走行ミッション13を介して左右一対の走行装置1,1に出力する。
【0032】
無段変速部30は、ケーシング31の上端側にポンプ軸32aが回転自在に支持されている油圧ポンプ32と、ケーシング31の下端側にモータ軸33aが回転自在に支持されている油圧モータ33とを備えて構成してある。油圧ポンプ32は、可変容量形のアキシャルプランジャポンプによって構成し、油圧モータ33は、アキシャルプランジャモータによって構成してある。油圧モータ33は、油圧ポンプ32によって吐出され、ポートブロック34の内部に形成された油路を介して供給される圧油によって駆動される。無段変速部30には、ポンプ軸32aの端部に装備されたチャージポンプ90によって補充用の作動油が供給される。チャージポンプ90は、ポンプ軸32aに一体回転自在に取り付けられたロータ90a、及びケーシング31に脱着自在に連結されたポンプケーシング90bを備えている。
【0033】
したがって、無段変速部30は、油圧ポンプ32が備える斜板32bの角度変更操作が行なわれることにより、前進伝動状態と後進伝動状態と中立状態とに切り換わる。無段変速部30は、前進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を前進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、後進伝動状態に切換え操作されると、入力軸22からポンプ軸32aに伝達されるエンジン駆動力を後進駆動力に変換してモータ軸33aから出力し、前進伝動状態と後進伝動状態のいずれにおいても、エンジン駆動力を無段階に変速して出力する。無段変速部30は、中立状態に切換え操作されると、モータ軸33aからの出力を停止する。
【0034】
遊星伝動部40は、無段変速部30に対して入力軸22のエンジン連結側が位置する側と同じ側に、モータ軸33aと出力回転体24の間に位置する状態で配置されている。遊星伝動部40は、伝動軸23に支持されるサンギヤ42と、サンギヤ42に噛合う複数個の遊星ギヤ43と、各遊星ギヤ43に噛合うリングギヤ44と、複数個の遊星ギヤ43を回転自在に支持するキャリヤ41とを備えている。キャリヤ41は、遊星ギヤ43を延出端部で回転自在に支持するアーム部41aと、複数本のアーム部41aの基端側が連結している筒軸部41bとを備え、筒軸部41bで伝動軸23にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0035】
伝動軸23とモータ軸33aとは、ジョイント23aを介して一体回転自在に連結し、伝動軸23とサンギヤ42とは、スプライン構造を介して一体回転自在に連結しており、サンギヤ42は、モータ軸33aに対して一体回転自在に連動している。
【0036】
リングギヤ44と出力回転体24とは、伝動軸23に対してこれの軸芯方向に並んで相対回転自在に外嵌した環状の遊星側連動体26及び環状の出力側連動体27によって一体回転自在に連動している。すなわち、遊星側連動体26は、遊星側連動体26の外周部から放射状にかつ一体回転自在に延出する複数本の係合アーム部26aを備えている。複数本の係合アーム部26aは、リングギヤ44の複数箇所に係合しており、遊星側連動体26は、リングギヤ44に対して一体回転自在に連動している。出力側連動体27は、遊星側連動体26に対して係合爪27aによって一体回転自在に係合し、出力回転体24に対してスプライン構造によって一体回転自在に係合しており、遊星側連動体26と出力回転体24とを一体回転自在に連結している。遊星側連動体26は、伝動軸23にベアリングを介して相対回転自在に支持されている。出力側連動体27は、変速ケース21にベアリングを介して回転自在に支持されている。
【0037】
伝動機構50は、キャリヤ41の筒軸部41bに一体回転自在に設けられたキャリヤ41の入力ギヤ41cに噛合う状態で入力軸22にニードルベアリングを介して相対回転自在に支持された伝動ギヤ52と、伝動ギヤ52と入力軸22に亘って設けたHMTクラッチ55とを備えて構成してある。
【0038】
HMTクラッチ55は、入力軸22に一体回転及び摺動操作自在に支持されたクラッチ体56と、クラッチ体56の一端側と伝動ギヤ52の横側部とに亘って設けたクラッチ本体57とを備えて構成してある。クラッチ体56は、クラッチ体56の端部に内嵌された油圧ピストン58によって摺動操作される。クラッチ本体57は、クラッチ体56に設けた噛合い爪と伝動ギヤ52に設けた噛合い爪とが係脱することによって入り状態と切り状態に切り換わるように噛合いクラッチに構成してある。
【0039】
HMTクラッチ55は、クラッチ本体57が入り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52を一体回転自在に連動させるように入り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41と入力軸22とを連動させるようHMT伝動を設定した状態になる。
【0040】
HMTクラッチ55は、クラッチ本体57が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸22と伝動ギヤ52の連動を絶つように切り状態に切換え操作され、遊星伝動部40のキャリヤ41と入力軸22の連動を絶つようHMT伝動の設定を解除した状態になる。
【0041】
したがって、遊星伝動部40は、HMTクラッチ55がHMT伝動を設定した状態に切換え操作されることにより、入力軸22のエンジン連結側と無段変速部連結側との間に位置する部位から入力軸22の駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力する。遊星伝動部40は、HMTクラッチ55がHMT伝動の設定を解除した状態に切換え操作されることにより、キャリヤ41の入力軸22に対する連動が絶たれた状態になる。
【0042】
遊星伝動部40のサンギヤ42と遊星側連動体26とに亘り、伝動軸23に外嵌されたクラッチ体61を備えたHSTクラッチ60を設けてある。
【0043】
クラッチ体61は、クラッチ体61の内周側に形成してある油室に圧油が供給されることにより、入り付勢ばね62に抗してサンギヤ42に向けて摺動操作されて切り位置に切り換わり、油室から圧油が排出されることにより、入り付勢ばね62によって遊星側連動体26に向けて摺動操作されて入り位置に切り換わる。クラッチ体61は、入り位置に切り換わると、クラッチ体61に設けてあるクラッチ爪61aと遊星側連動体26に設けてあるクラッチ爪とが係合して、遊星側連動体26に対して一体回転自在に連結する。クラッチ体61は、サンギヤ42に対して係合爪61bによって一体回転自在に係合した状態を維持しながら摺動操作され、サンギヤ42に対する係合状態を維持しながら入り位置になる。クラッチ体61は、切り位置に切り換わると、クラッチ爪61aによる遊星側連動体26に対する係合を解除する。
【0044】
したがって、HSTクラッチ60は、クラッチ体61が入り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26を一体回転自在に連動させることで、モータ軸33aを出力回転体24に一体回転自在に連動させて、無段変速部30による出力の出力回転体24からの出力を可能にするようHST伝動を設定した状態になる。HSTクラッチ60は、HST伝動を設定した場合、サンギヤ42と伝動軸23が一体回転自在に連動し、リングギヤ44と遊星側連動体26が一体回転自在に連動していることにより、遊星ギヤ43の自転が発生しないように、サンギヤ42とキャリヤ41とリングギヤ44がモータ軸33aと一体回転することを可能にする。
【0045】
HSTクラッチ60は、遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24とを連動状態に維持しながら、遊星伝動部40のサンギヤ42と出力回転体24とを連動入り状態と連動切り状態に切換える。
【0046】
HSTクラッチ60は、クラッチ体61が切り位置に切換え操作されることにより、サンギヤ42と遊星側連動体26の連動を絶ち、モータ軸33aの出力回転体24に対する連動を絶つように、かつ遊星伝動部40のリングギヤ44と出力回転体24が一体回転自在に連動する状態を現出して、遊星伝動部40の合成駆動力の出力回転体24からの出力を可能にするようにHST伝動の設定を解除した状態になる。
【0047】
したがって、遊星伝動部40は、HMTクラッチ55がHST伝動を設定した状態に切換え操作され、HSTクラッチ60がHST伝動の設定を解除し状態に切換え操作されることにより、エンジンから入力軸22に伝達された駆動力を伝動機構50を介してキャリヤ41に入力し、無段変速部30のモータ軸33aから出力される変速駆動力を伝動軸23を介してサンギヤ42に入力し、エンジンからの駆動力と無段変速部30からの変速駆動力とを合成して合成駆動力を発生させ、発生させた合成駆動力をリングギヤ44から遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24に出力する。
【0048】
つまり、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60を備えて、変速伝動機20をHMT伝動とHST伝動とに切換えて設定する伝動設定のクラッチ機構70を構成してある。
【0049】
図5は、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の操作状態と、伝動設定のクラッチ機構70の操作状態と、変速伝動機20の伝動状態との関係を示す説明図である。図5に示す「切」は、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の切り状態を示し、「入」は、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の入り状態を示す。この図に示すように、HMTクラッチ55が切り状態に切換え操作され、HSTクラッチ60が入り状態に切換え操作されると、伝動設定のクラッチ機構70は、HST伝動設定状態になり、変速伝動機20にHST伝動を設定する。HMTクラッチ55が入り状態に切換え操作され、HSTクラッチ60が切り状態に切換え操作されると、伝動設定のクラッチ機構70は、HMT伝動設定状態になり、変速伝動機20にHMT伝動を設定する。
【0050】
図3は、HMT伝動での変速伝動機20を示す縦断正面図である。この図に示すように、変速伝動機20は、HMTクラッチ55が入り状態に切換え操作され、HSTクラッチ60が切り状態に切換え操作されると、入力軸22の駆動力(エンジン8からの駆動力)を伝動機構50を介して遊星伝動部40のキャリヤ41に入力し、無段変速部30が入力軸22から入力した駆動力を変速してモータ軸33aから出力する変速駆動力を遊星伝動部40のサンギヤ42に入力し、遊星伝動部40が入力軸22から入力するエンジン8からの駆動力と無段変速部30から入力する変速駆動力とを遊星伝動部40によって合成して合成駆動力を発生させ、遊星伝動部40がリングギヤ44から出力する合成駆動力を、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24の端部に伝達して出力回転体24から走行ミッション13に出力する。
【0051】
図4は、HST伝動での変速伝動機20を示す縦断正面図である。この図に示すように、変速伝動機20は、HMTクラッチ55が切り状態に切換え操作され、HSTクラッチ60が入り状態に切換え操作されると、無段変速部30が入力軸22から入力した駆動力を変速してモータ軸33aから出力する変速駆動力を、伝動軸23、HSTクラッチ60、遊星側連動体26及び出力側連動体27を介して出力回転体24の端部に伝達し、出力回転体24から走行ミッション13に出力する。
【0052】
伝動設定のクラッチ機構70は、HST伝動を設定した場合、入力軸22から遊星伝動部40のキャリヤ41への伝動が絶たれた状態にあり、サンギヤ42が伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあり、リングギヤ44が遊星側連動体26、クラッチ体61、サンギヤ42及び伝動軸23を介してモータ軸33aに一体回転自在に連動された状態にあることから、遊星伝動部40のサンギヤ42、キャリヤ41及びリングギヤ44をモータ軸33aと一体回転させることになり、変速伝動機20は、HST伝動において、遊星ギヤ43の自転を発生させず、すなわちサンギヤ42と遊星ギヤ43の相対回転及び遊星ギヤ43とリングギヤ44の相対回転を発生させずに、無段変速部30のモータ軸33aの出力を出力回転体24に伝達する。
【0053】
図6は、出力回転体24に駆動負荷としての走行負荷を掛けないで駆動される無負荷駆動での変速伝動機20が備える出力特性を示すグラフ(速度線図)である。このグラフの縦軸は、出力回転体24の回転速度を示す速度線となっている。このグラフの横軸は、縦軸の回転速度が零「0」の位置を通るものであり、かつ無段変速部30における油圧ポンプ32の斜板位置を示す操作位置線Lとなっている。操作位置線Lの「n」は、無段変速部30を中立状態にする斜板32bの中立位置である。操作位置線Lの「a」は、無負荷駆動でのHST伝動とHMT伝動の設定の切換えを行なうための斜板32bの前進側の最高速位置として設定した設定前進高速位置である。操作位置線Lの「+max」は、無段変速部30の実前進最高速位置であって、無段変速部30を前進高速側の操作限界まで変速操作した場合、油圧ポンプ32の斜板32bに実際に発生する斜板角位置である。設定前進高速位置「a」は、モータ軸33aの回転を遊星端子に増減せずに入力する簡単な構成において、HST伝動とHMT伝動が切り換わる点での速度連続性を保つ為に、実前進最高速位置「+max」の手前の位置に設定してある。操作位置線Lの「−max」は、変速制御によって操作される斜板32bの後進側の最高速位置として設定した設定後進高速位置である。設定後進高速位置「−max」は、無段変速部30を後進高速側の操作限界まで変速操作した場合、油圧ポンプ32の斜板32bに実際に発生する斜板角位置と同じ位置に設定してある。
【0054】
図6に示す変速線Sは、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態において変速伝動機20がHST伝動で変速された場合の出力回転体24の回転速度の変化を示す無負荷のHST変速線(以下、HST変速線Sと略称する。)であり、変速線Mは、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態において変速伝動機20がHMT伝動で変速された場合の出力回転体24の回転速度の変化を示す無負荷のHMT変速線(以下、HMT変速線Mと略称する。)である。
【0055】
図6に示すように、HMTクラッチ55が切り状態に切換え制御され、HSTクラッチ60が入り状態に切換え制御されてHST伝動が設定され、HST伝動の設定が維持された状態において、無段変速部30を中立位置「n」から設定前進高速位置「a」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が零「0」からHST変速線Sの前進域SFに沿って前進側に無段階に増速していき、無段変速部30が設定前進高速位置「a」に至ると、出力回転体24の回転速度が第1の前進中間速度「V1」になる。
【0056】
無段変速部30が設定前進高速位置「a」に至ると、HMTクラッチ55が切り状態から入り状態に切換え制御され、HSTクラッチ60が入り状態から切り状態に切換え制御されてHST伝動に替えてHMT伝動が設定され、HMT伝動の設定が維持された状態において、無段変速部30を設定前進高速位置「a」から中立位置「n」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が第1の前進中間速度「V1」からHMT変速線Mの低速域MLに沿って無段階に増速していき、無段変速部30が中立位置「n」に至ると、出力回転体24の回転速度が第2の前進中間速度「V2」になる。HMT伝動の設定が維持された状態において、無段変速部30を中立位置「n」から設定後進高速位置「−max」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が第2の前進中間速度「V2」からHMT変速線Mの高速域MHに沿って無段階に増速していき、無段変速部30が設定後進高速位置「−max」に至ると、出力回転体24の回転速度が前進最高速度「V3」になる。
【0057】
HST伝動の設定が維持された状態において、無段変速部30を中立位置「n」から設定後進高速位置「−max」に向けて変速操作することにより、出力回転体24の回転速度が零「0」からHST変速線Sの後進域SRに沿って後進側に無段階に増速していき、無段変速部30が設定後進高速位置「−max」に至ると、出力回転体24の回転速度が後進最高速度「VR」になる。
【0058】
HMT変速線Mの高速域MHに対応する変速状態で出力される駆動力が移動走行に適切な回転速度の駆動力になるように、かつHMT変速線Mの低速域MLに対応する変速状態で出力される駆動力が作業走行に適切な回転速度の駆動力になるように、さらに油圧ポンプ32の吐出容量が極力小である無段変速部30を採用しながらエンジン8から入力する駆動力を変速に伴うロスを極力少なくして変速後の駆動力として得ることができるように、HMT変速線Mの操作位置線Lに対する傾斜角Bを次の如く設定してある。
【0059】
図6に示す変速線延長線MEは、HMT変速線Mを操作位置線Lに向けて延長したものであり、操作位置線Lでの位置「P」は、変速線延長線MEと操作位置線Lとが交差する交差位置である。無段変速部30の油圧ポンプ32の斜板32bを実際に傾斜操作できる前進側の最大傾斜位置としての実前進最高速位置「+max」を超えて交差位置「P」まで傾斜操作できると仮定し、交差位置「P」まで傾斜操作した場合の斜板32bが備えることとなる仮想傾斜角の値を「N」とし、実前進最高速速位置「+max」に変速操作した無段変速部30の油圧ポンプ32に実際に発生する実最大斜板角の値を「X」とすると、NがXの2倍(N/X=2.0)となるに相当する傾斜角に、HMT変速線Mの操作位置線Lに対する傾斜角Bを設定してある。N/X=2.0の設定は、油圧ポンプ32の吐出容量の設定、遊星伝動部40及び遊星伝動部40以外の機械伝動部におけるギヤ伝動比の設定による。
【0060】
HMT変速線Mの操作位置線Lに対する傾斜角Bは、前進最高速度「V3」での出力回転体24の回転速度が第1の前進中間速度「V1」での出力回転体24の回転速度の2倍以上となる傾斜角に設定してある。
【0061】
N/X=2.0の設定は、次に説明する根拠に基づくものである。
無段変速部30の出力回転が零で出力回転数がV2の時、全動力が無段変速部30を通らずに出力される。出力回転が零になる仮想斜板角の位置(P)では、出力回転数V2の時の動力が無段変速部30を通じて駆動側に戻され出力が零になる。すなわち、無段変速部30を通さない機械伝達力が無段変速部30の動力(以下、HST動力と呼称する。)と釣り合う。実際には、仮想斜板角の位置(P)は仮想的な位置なので、無段変速部30の実前進最高速位置「+max」での実最大傾斜角X=1を考えると、HST動力は、回転数が1/Nなので、無段変速部30を通さない機械伝達動力の1/N倍になる。
【0062】
仮に機械効率を、機械伝達動力でKM、無段変速部30を通す動力でKHとすると、出力動力は一定機械動力±HST動力となり、変速伝動機20が発揮する全効率は、
無段変速部30が中立位置「n」であると、(1+0×1/N)/(1/KM+0×1/N/KH)=KM と計算され、
無段変速部30が設定後進高速位置「−max」であると、(1+1/N)/(1/KM+1/N/KH)=KM・KH(N+1)/(KM+KH・N) と計算され、
無段変速部30が実前進最高速位置「+max」であると、(1−1/N)/(1/KM−1/N・KH)=KM(N−1)/(N−KM・KH) と計算され、計算上はNが大きいほど高効率化できる。
【0063】
図7は、N/Xの値を変化させた場合の全効率と変速位置との関係を示す説明図である。ここでは、KM=0.95、KH=0.7とし、N/X=1.0、N/X=2.0、N/X=3.0と変化させて上記した如く概算した全効率を示している。
【0064】
図7に示す横軸は、変速位置を示すものであり、HST伝動での前進側及びHMT伝動において無段変速部30を任意の変速位置に変速された場合における出力回転速度の設定後進高速位置「−max」に変速された場合における出力回転速度の割合を横軸の変速位置としている。すなわち、HST伝動での前進側及びHMT伝動において無段変速部30を任意の変速位置に変速された場合に出力される駆動力の回転速度=Vnとすると、Vn/V3を横軸の変速位置としている。図7に示す縦線Dは、N/X=2.0の時にHST伝動の最高速を示す線で、Vn/V3=0.33(0.2と0.4の間)を示すものである。図7に示す縦線Eは、N/X=2.0の時にHMT伝動で、油圧ポンプ32の斜板中立での速度を示す線で、Vn/V3=0.67(0.6と0.8の間)を示すものである。したがって、無段変速部30の設定前進高速位置「a」は、横軸での0.2と0.4の間の位置となり、無段変速部30の中立位置「n」は、横軸での0.6と0.8の間の位置となる。
【0065】
図7に示す効率線Kは、無段変速部30が備える全効率を示すものである。図7に示す効率線K1は、N/X=1.0として概算した全効率を示すものであり、効率線K2は、N/X=2.0として概算した全効率を示すものであり、効率線K3は、N/X=3.0として概算した全効率を示すものである。
【0066】
縦線Dと縦線Eとの間では、全効率が良いのはN/X=1.0の場合であるが、高速側は出力も大きいので、ロス動力としては大きくなり、小さな効率差も無視できなくなる。ロス率と出力動力を掛けたロス動力を検討すると、N/X=1.8程度が極小値となる。ロス動力としての最適値はN/X=1.8を挟んでN/Xが小さい側に広いが、無段変速部30の小型化は、N/X=2.0が最適値となる。このバランスを取って、N/X=1.5〜2.5程度とすれば、高速域での高効率化を実現しつつ、無段変速部30の小型化も38%程度にできて両立される。この時のHMT伝動での遊星伝動部40の出力回転も10000rpmを超えない現実的な領域で設計できる。変速伝動機20ユニットとして独立させる場合、駆動源からの回転数程度に減速した方が、出力部のシールなどによるトルクロスの影響を小さくできるので、2.5〜3の減速を、遊星伝動部40で行なうが、これも現実的に構成しやすくなる。上記した如くシンプルな伝動設定のクラッチ機構70を採用して、高効率と無段変速部30の小型化を図るには、N/X=1.5〜2.5の設定が好都合である。
【0067】
図8は、N/Xの値と無段変速部30の小型化との関係を示す説明図である。図8の横軸は、N/Xの値を示す。図8に示す線Fは、HST動力(1/N)の全動力(1+1/N)に対する割合「W」を示す。この割合「W」が大になるほど、油圧ポンプ32の吐出容量が大となる大型の無段変速部30が必要になる。
【0068】
所定の変速範囲に亘る駆動力を遊星伝動部40による出力によって得る場合、無段変速部30による出力によって得る場合よりも無段変速部30の小型化が可能になるのであり、図8に示す線Gは、N/Xの値と、無段変速部30を小型化できる度合との関係を示す。
【0069】
すなわち、仮に、HST伝動とHMT伝動が切り換わる点を実最大傾斜位置「+max」とすると、HMT伝動での最高速度(前進最高速度「V3」)はHST伝動での最高速度に対し、相似形で計算して(N+1)/(N−1)=Zとなる。Zは、N/X=1.5とすると5.0となり、N/X=2.0とすると3.0となり、N/X=2.5とすると2.3となり、N/X=3.0とすると2.0となる。図8の縦軸で示す値は、1/Zの値である。
【0070】
Zの値が大になるほど、HMT伝動によって得ることができる変速範囲がより広くなり、HST伝動による変速範囲をより小に済ませることができて、無段変速部30のより小型化を図ることができるが、油圧ポンプ32の吐出容量をあまり小にするとリリーフ回路が開き作動するなどの駆動トラブルが発生する。したがって、線Fと線Gとの交差を現出するN/X=2.0を採用することにより、HMT伝動による前進最高速度「V3」や第2の前進中間速度「V2」を移動や作業に必要な速度にしながら、かつ無段変速部30の小型化を図りながら、無段変速部30の駆動トラブルの発生を回避した変速伝動が可能な変速伝動機20を得ることができる。
【0071】
図10は、出力回転体24に駆動負荷としての走行負荷を掛けないで駆動される無負荷駆動での変速伝動機20が備える出力特性、及び出力回転体24に駆動負荷としての走行負荷が掛かる状態で駆動される負荷駆動での変速伝動機20が備える出力特性を示すグラフ(速度線図)である。図12は、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えを示す説明図である。図10,12の縦軸及び横軸は、図6に記載のグラフの縦軸及び横軸と同じものである。図10,12に記載の「n」、「a」及び「−max」は、図6のグラフに記載の「n」、「a」及び「−max」と同じものである。
【0072】
図10に示す変速線SAは、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態で、かつ出力回転体24に設定値の駆動負荷としての走行負荷が掛かる状態で、さらにHST伝動の設定で駆動される変速伝動機20の出力回転体24の回転速度の変化を示す負荷のHST変速線(以下、HST変速線SAと略称する。)である。図10に示す変速線MAは、エンジン8が設定の一定速度の駆動力を出力するようにアクセルセットされた状態で、かつ出力回転体24に設定値の駆動負荷としての走行負荷が掛かる状態で、さらにHMT伝動の設定で駆動される変速伝動機20の出力回転体24の回転速度の変化を示す負荷のHMT変速線(以下、HMT変速線MAと略称する。)である。HST変速線SAは、斜板32bに駆動負荷が作用している状態のものであるから、HST変速線SAの操作位置線Lに対する傾斜角は、HST変速線Sの操作位置線Lに対する傾斜角より小になる。HMT変速線MAは、斜板32bに駆動負荷が作用している状態のものであるから、HMT変速線MAの低速側は、HMT変速線Mに対して低速側に位置ずれする。
【0073】
図10に示す横線L1は、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えを行なわせる際のモータ軸33aに備えさせておけば、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換えのためのクラッチ機構70の切り換えが完了して遊星伝動部40にエンジン8からの駆動力が伝達されることになった時点で遊星伝動部40にサンギヤ42、キャリヤ41及びリングギヤ44の一体回転を現出させることになるモータ軸33aの回転速度(一体回転現出速度「V」)を示すものである。このモータ軸33aの回転速度は、出力回転体24の回転速度「V」と同じになる。HST伝動及び無負荷駆動での無段変速部30は、油圧ポンプ32の斜板32bが設定前進高速位置「a」に操作されることにより、一体回転現出速度「V」を備える。
【0074】
図9は、変速伝動機20を変速操作する変速操作装置71を示すブロック図である。この図に示すように、変速操作装置71は、無段変速部30の変速操作部30a、HMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の操作部55a,60aに連係された制御装置72と、制御装置72に連係された変速操作具77、エンジン回転数センサ74、斜板角センサ75、伝動機用の出力回転数センサ76、及び変速部用の出力回転数センサ79とを備えている。
【0075】
変速操作部30aは、無段変速部30における油圧ポンプ32の斜板32bの角度変更操作を行なう電動アクチュエータ又は油圧アクチュエータによって構成してある。HMTクラッチ55の操作部55aは、入力軸22の内部に形成された操作油路を介して油圧ピストン58に接続された操作弁によって構成してあり、油圧ピストン58を操作してクラッチ体56を摺動操作することにより、HMTクラッチ55を切り換え操作する。HSTクラッチ60の操作部60aは、伝動軸23の内部に形成された操作油路を介してクラッチ体61の油室に接続された操作弁によって構成してあり、クラッチ体61の油室に対する操作油の供給及び排出を行なうことにより、クラッチ体61を摺動操作してHSTクラッチ60を切り換え操作する。
【0076】
変速操作具77は、運転部2に走行機体前後方向に揺動操作自在に設けた変速レバーによって構成してあり、中立位置「77N」、中立位置[77N]から機体前方側に延びる前進操作域「77F」、及び中立位置「77N」から機体後方側に延びる後進操作域「77R」で揺動操作するようになっている。変速操作具77は、変速操作具77の操作位置を検出する変速検出センサ73を介して制御装置72に連係されている。変速検出センサ73は、変速操作具77に回転操作軸が連動された回転ポテンショメータによって構成してあり、変速操作具77は、揺動操作されることにより、変速検出センサ73を作動させて、変速検出センサ73から変速指令を電気信号で制御装置72に出力する。
【0077】
エンジン回転数センサ74は、エンジン8の回転数を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。斜板角センサ75は、無段変速部30の油圧ポンプ32の斜板角を検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。伝動機用の出力回転数センサ76は、出力回転体24の回転数を変速伝動機20の出力回転数として検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。変速部用の出力回転数センサ79は、モータ軸33aの回転数を無段変速部30の出力回転数として検出し、この検出結果を制御装置72に出力する。
【0078】
制御装置72は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、変速制御手段78及び基準斜板角設定手段80を備えている。
【0079】
基準斜板角設定手段80は、制御装置72に設けられた記憶部によって構成されている。基準斜板角設定手段80は、HST伝動からHMT伝動への設定の切り換え制御を行なわせる際の設定基準斜板角「c」を予め設定して入力されている。設定基準斜板角「c」としては、HST伝動及び無負荷駆動の無段変速部30が一体回転現出速度「V」に相当する速度の変速駆動力を出力する変速状態に変速操作された状態において油圧ポンプ32が備える無負荷斜板角であって、設定前進高速位置「a」に操作された斜板32bが備える斜板角を設定してある。
【0080】
変速制御手段78は、エンジン回転数センサ74による検出情報を基に、アクセルセットされたエンジン8の回転数を検出し、この検出結果と、変速操作具77からの変速指令と、斜板角センサ75、伝動機用の出力回転数センサ76及び変速部用の出力回転数センサ79による検出情報と、基準斜板角設定手段80による設定情報とに基づいて油圧ポンプ32を変速制御し、かつクラッチ機構70のHSTクラッチ60及びHMTクラッチ55を切換え制御する。
【0081】
図11は、HST伝動からHMT伝動への設定を切り換える設定切り換え制御を示すフロー図である。この図に示すように、変速制御手段78は、設定戻し角「E」に対応する戻し目標斜板角「e」を後述する如く演算設定する。変速制御手段78は、変速部用の出力回転数センサ79による検出回転速度「Vk」と記憶部に予め入力された一体回転現出速度「V」とを比較することにより、HST伝動での無段変速部30の出力速度が一体回転現出速度「V」になったか否かを検出し、斜板角センサ75による検出斜板角「Sk」と基準斜板角設定手段80による設定基準斜板角「c」とを比較することにより、油圧ポンプ32の斜板角が設定基準斜板角「c」より高速側になっているか否かを検出する。
【0082】
変速制御手段78は、無段変速部30の出力速度が一体回転現出速度「V」になったと検出し、かつ油圧ポンプ32の斜板角が設定基準斜板角「c」より高速側になっていると検出した場合、HSTクラッチ60を入り状態に維持しながら、かつHMTクラッチ55を入り状態に切り換え制御して入り状態に維持しながら、無段変速部30の変速操作部30aに所定の操作信号を付与して斜板32bを低速側に戻し操作し、斜板角センサ75による検出斜板角「SK」と戻し目標斜板角「e」とを比較することにより、斜板32bが設定戻し角「E」だけ戻った否かを検出する。
【0083】
変速制御手段78は、斜板32bが設定戻し角「E」だけ戻ったと検出した場合、HSTクラッチ60を切り状態に切り換え制御し、HMTクラッチ55を入り状態に維持することにより、HMTクラッチ55を入り状態に、HSTクラッチ60を切り状態に切り換え制御する。
【0084】
従って、エンジン8を一定の回転速度での駆動力を出力するようアクセルセットしておいて、変速操作具77を後進操作域[77R]、中立位置「77N」及び前進操作域[77F]にわたって操作することにより、変速制御手段78が変速伝動機20をHST伝動とHMT伝動とに切り換えて設定する制御及び油圧ポンプ32の変速制御を行ない、走行機体を前進側と後進側に切り換えて走行させるとともに前進側及び後進側において変速走行させたり、停止させたりできる。
【0085】
すなわち、変速操作具77を中立位置[77N]、後進操作域「77R」及び前進操作域「77F」の低速域部に操作した場合、変速操作具77からの変速指令及び斜板角センサ75及び出力回転数センサ79による検出情報、基準斜板角設定手段80による設定情報に基づく変速制御手段78のHMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の切り換え制御により、変速伝動機20がHST伝動に設定される。変速操作具77を前進操作域「77F」の高速側部に操作した場合、変速操作具77からの変速指令及び斜板角センサ75及び出力回転数センサ79による検出情報、基準斜板角設定手段80による設定情報に基づく変速制御手段78のHMTクラッチ55及びHSTクラッチ60の切り換え制御により、変速伝動機20がHMT伝動に設定される。
【0086】
変速操作具77を中立位置「77N」に操作すると、変速制御手段78が変速操作具77からの変速指令に基づいて油圧ポンプ32の斜板32bを中立位置「n」に操作し、無段変速部30が中立状態になって変速伝動機20が出力を停止する。
【0087】
変速操作具77を前進操作域「77F」の低速域部で移動操作すると、変速制御手段78が変速操作具77からの変速指令及び出力回転数センサ76による検出情報に基づいて油圧ポンプ32の斜板32bを中立位置「n」より前進側で傾動操作し、変速伝動機20が出力する駆動力が負荷のHST変速線SAの前進域に沿って変速する。
【0088】
変速操作具77を前進操作域「77F」の高速域部で移動操作すると、変速制御手段78が変速操作具77からの変速指令及び出力回転数センサ76による検出情報に基づいて油圧ポンプ32の斜板32bを前進側と後進側とにわたって傾動操作し、変速伝動機20が出力する駆動力が負荷のHMT変速線MAに沿って変速する。
【0089】
変速操作具77を後進操作域「77R」で移動操作すると、変速制御手段78が変速操作具77からの変速指令及び出力回転数センサ76による検出情報に基づいて油圧ポンプ32の斜板32bを中立位置「n」より後進側で傾動操作し、変速伝動機20が出力する駆動力が負荷のHST変速線SAの後進域に沿って変速する。
【0090】
図13は、比較例でのHST伝動からHMT伝動への切り換わりを示す説明図である。図13に示す横線L1は、図10に示す横線L1と同じものである。
【0091】
図10,13に示すように、HST変速線Sに沿って増速するモータ軸33aの回転速度が一体回転現出速度「V」になるのは、HST変速線SとHMT変速線Mとの交点で示される時点であり、この時点での油圧ポンプ32の斜板角は、設定前進高速位置「a」で成る無負荷斜板角「a」となる。HST変速線SAに沿って増速するモータ軸33aの回転速度が一体回転現出速度「V」になるのは、HST変速線SAと横線L1との交点「X」で示される時点であり、この時点での油圧ポンプ32の斜板角は、負荷斜板角「b」となり、この負荷斜板角「b」は、斜板32bが無負荷斜板角「a」より高速側に傾動した斜板角になる。
【0092】
HST変速線SAに沿って増速するモータ軸33aの回転速度が一体回転現出速度「V」になった時点でHSTクラッチ60を切り状態に切り換えてHST伝動からHMT伝動への設定の切り換えが行なわれると、出力回転体24による出力速度が一体回転現出速度「V」から、HMT変速線MAと、交点「X」及び負荷斜板角「b」の位置を通る縦線とが交わる交点「Y」に対応する回転速度であって一体回転現出速度「V」より低速の回転速度「V0」に変化する。つまり、HSTクラッチ60を切り状態に切り換えてHST伝動からHMT伝動への設定の切り換えが行なわれると、切り換え直後には、一体回転現出速度「V」に対応する速度から出力速度「V0」に対応する速度に走行速度が低下する。
【0093】
図12は、本発明の実施例の変速制御手段78によるHST伝動からHMT伝動への設定の切り換えを示す説明図である。この図に示す斜板角「c」は、基準斜板角設定手段80によって設定される設定基準斜板角「c」である。
【0094】
図12に示すように、変速制御手段78は、HST伝動及び負荷駆動で変速伝動機20が駆動され、HST変速線SAに沿って増速する無段変速部30の出力速度が一体回転現出速度「V」になるまでの間、斜板角センサ75による検出情報を常に入力し、斜板角センサ75による検出情報を入力する都度、斜板角センサ75による検出情報及び記憶部83(図9参照)に入力されているマップ制御のデータを基に、斜板角センサ75による検出斜板角に対応したHST伝動及び負荷駆動での演算HST変速線SA1を演算して設定し、この演算HST変速線SA1に対応する演算HMT変速線MA1を演算して設定する。
【0095】
変速制御手段78は、演算HMT変速線MA1を演算設定すると、この演算HMT変速線MA1と横線L1との交点「G」を割り出し、この交点「G」に対応する斜板角「e」を割り出し、この斜板角「e」を、演算HMT変速線MA1の線上における一体回転現出速度「V」に相当する速度の変速駆動力を出力する変速状態に無段変速部30を変速操作するための斜板角として設定し、この斜板角を戻し目標斜板角「e」として設定する。交点[X]に対応する負荷斜板角「b」から戻し目標斜板角「e」に斜板32bを戻すのに必要な戻し角を設定戻し角「E」として設定する。
【0096】
図11,12に示すように、変速制御手段78は、HST伝動での無段変速部30の出力速度が一体回転現出速度[V]になり、かつ油圧ポンプ32の斜板角が設定基準斜板角「c」より高速側になっていると検出すると、HSTクラッチ60およびHMTクラッチ55を入り状態に維持しながら、斜板角を負荷斜板角「b」から設定戻し角「E」だけ戻し操作することにより、戻し目標斜板角「e」に戻し操作する。変速制御手段78は、斜板角を設定戻し角「E」だけ戻し操作すると、この後、HSTクラッチ60を切り状態に切り換え制御することにより、HMTクラッチ55を入り状態に維持していることで、HSTクラッチ60を切り状態に制御するとともにHMTクラッチ55を入り状態に制御し、HSTクラッチ60が切り状態になってHMT伝動に設定が切り換わっても、切り換わり直後での変速伝動機20の出力速度が一体回転体現出速度「V」になる状態でHST伝動からHMT伝動への設定の切り換え制御を行なう。HST伝動からHMT伝動への設定の切り換え制御は、変速操作具77が前進操作域77Fの中間部に位置する状態で行なわれる。
【0097】
〔別実施例〕
(1)上記した実施例では、演算HST変速線SA1及び演算HMT変速線MA1に基づいて設定され、負荷によって変化することになる設定戻し角「E」を採用したが、予め設定した固定の設定戻し角「E」を採用して実施してもよい。
【0098】
(2)上記した実施例では、負荷のHMT変速線MAと横軸L1との交点「G」に対応する斜板角を戻し目標斜板角「e」とし、この戻し目標斜板角「e」まで斜板32bを戻し操作する戻し角を設定戻し角「E」とするよう構成した例を示したが、無負荷斜板角「a」など、交点「G」に対応する斜板角よりも高速側で、負荷斜板角「b」より低速側の斜板角を戻し目標斜板角とすることによって設定戻し角を設定する構成を採用して実施してもよい。
【0099】
(3)上記した実施例では、咬み合い形式のHMTクラッチ55及びHSTクラッチ60によってクラッチ機構70を構成した例を示したが、摩擦式のHMTクラッチ55及びHSTクラッチ60によってクラッチ機構70を構成して実施してもよい。
【0100】
(4)上記した実施例では、固定容量形の油圧モータ33を備えて無段変速部30を構成した例を示したが、可変容量形の油圧モータを備えて無段変速部30を構成して実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、コンバインの他、田植機、運搬車など各種の農作業機に利用できる。
【符号の説明】
【0102】
1 走行装置
8 エンジン
20 変速伝動機
24 出力回転体
30 無段変速部
32 油圧ポンプ
32b 斜板
40 遊星伝動部
41 キャリヤ
42 サンギヤ
44 リングギヤ
55 HMTクラッチ
60 HSTクラッチ
75 斜板角センサ
77 変速操作具
78 変速制御手段
80 変速斜板角設定手段
a 無負荷斜板角
b 負荷斜板角
c 設定基準斜板角
e 戻し目標斜板角
E 設定戻し角
S HST変速線
M HMT変速線
V 一体回転現出速度
SA1 演算HST変速線
MA1 演算HMT変速線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの駆動力を入力して変速し、出力する変速駆動力がHST変速線に沿って変速するよう作用する静油圧式の無段変速部、及びエンジンからの駆動力と前記無段変速部からの変速駆動力とを入力して合成し、出力する合成駆動力が前記無段変速部の変速によってHMT変速線に沿って変速するよう作用する遊星伝動部を有する変速伝動機を備え、
HST伝動を設定するHSTクラッチ及びHMT伝動を設定するHMTクラッチの切り換えにより、前記無段変速部が出力する変速駆動力を出力回転体から走行装置に出力するHST伝動と、前記遊星伝動部が出力する合成駆動力を前記出力回転体から走行装置に出力するHMT伝動とに前記変速伝動機を切り換えるように構成し、
変速操作具からの変速指令に基づいて前記無段変速部を構成する油圧ポンプを変速制御するとともに前記HSTクラッチ及び前記HMTクラッチを切換え制御する変速制御手段を備える農作業機の走行伝動装置であって、
前記油圧ポンプの斜板角を検出する斜板角センサを備え、
HST伝動及び無負荷駆動での前記無段変速部が前記遊星伝動部のサンギヤ、キャリヤ及びリングギヤの一体回転を現出する一体回転現出速度に相当の速度の変速駆動力を出力する変速状態において前記油圧ポンプが備える無負荷斜板角を、設定基準斜板角として設定する基準斜板角設定手段を備え、
前記変速制御手段を、HST伝動での前記無段変速部の出力速度が前記一体回転現出速度になると、前記斜板角センサによる検出情報に基づいて前記油圧ポンプの斜板角が前記設定基準斜板角より高速側になっていることを検出することで、前記HSTクラッチ及び前記HMTクラッチを入り状態に維持しながら前記油圧ポンプの斜板を低速側に設定戻し角だけ戻し操作し、この後にHST伝動からHMT伝動に切り換え設定するべく前記HSTクラッチ及び前記HMTクラッチを切り換え制御するよう構成してある農作業機の走行伝動装置。
【請求項2】
前記変速制御手段を、HST伝動及び負荷駆動での演算HST変速線を前記斜板角センサによる検出情報に基づいて演算設定し、前記演算HST変速線に対応する演算HMT変速線を演算設定し、前記演算HMT変速線の線上における前記一体回転現出速度に相当する速度の変速駆動力を出力する変速状態に前記無段変速部を変速操作する斜板角を戻し目標斜板角とし、この戻し目標斜板角に斜板を戻すのに必要な戻し角を前記設定戻し角として設定するよう構成してある請求項1記載の農作業機の走行伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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