説明

農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置

【課題】農園芸作物用切断具の液化ガスの燃焼による加熱殺菌装置において、確実な加熱殺菌効果が得られるようにするようにし、かつ装置の簡略構造を提供する。
【解決手段】把持部2に組込んだ液化ガスカートリッジ4からの混合ガスを刃先部3に形成した溝に設けたガス流路としての金属細管8に導き、このガス流路8に蓄熱性セラミック材料で被覆した電熱ヒータ線9および燃焼反応触媒10を組込み、電熱ヒータ線9で混合ガスを加熱することにより燃焼反応触媒10を触媒燃焼の反応開始温度に加熱して混合ガスを触媒により無炎燃焼させ刃先部3を加熱殺菌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置に係り、たとえば作物の収穫、摘果、剪枝等の作業に用いる切断具の刃先を加熱して切断作業中に刃先に付着するおそれのある病原性の細菌やウィルスを死滅もしくは不活性化する農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農園芸作物、たとえばトマト、ナス、キュウリ等の野菜類、カトレヤ、シクラメン等の花卉類、メロン、マンゴー、ぶどう等の果実さらには煙草等の有用作物は青枯病、べと病、うどん粉病等の病原菌やモザイク病ウィルス等の感染によって立ち枯れしたり又は病変によってそれらの商品価値が全く失われることがあり、これら病原性微生物の防除について従来から種々の対策が講じられている。
【0003】
病原性微生物の感染経路には種々のものがあり、切断具による摘果、集果、剪枝、樹皮の皮剥き等の日常の農作業の際の刃先を介する接触感染もその一つの原因となっている、感染している作物を気付かずに処理すると、刃先に付着した微生物が周辺の作物の引続く処理の際にこれらに次々と感染して農場、果樹園、又はハウス等の全体の作物に致命的な損傷を生じることがある。
【0004】
このような切断具を介する接触感染を防止するため、従来から切断具の刃先を作業中に薬剤で殺菌することが行われていた。しかし、この場合には作業者が重い薬液タンクを常時携帯しなければならず、また毒性の強い殺菌液を扱う場合には作業者への負担がさらに増加する。また巾広い抗菌スペクトルを示す殺菌液として従来有効とされていた、たとえば臭化メチルはオゾン層破壊物質であることからすでにその使用が廃止される等、薬剤による殺菌は今後環境保全の点で大きな制約を受けることが予想される。
【0005】
これら微生物が熱感受性を有し、たとえば青枯病菌が90℃以上の温度では実質的に短時間で死滅ないしは不活性化することに着目して刈刃の刃先を加熱すること、たとえば、プロパンガスを燃焼源とする燃焼装置を刃先に設けて加熱殺菌することが試みられている。
【0006】
しかし、前記方法の場合には、ガスの消費量が約0.2kg/hrであり、ガスタンクとしてかなり大型のものが必要となる。またプロパンガスの燃焼炎を刃先に当てゝ加熱しているので熱の実質的な利用効率が低く、かつ風によってバーナの火が消えたりする場合があるとされていた。
【0007】
外部電源を熱源としヒータ線により刃先を加熱する園芸用ハサミが実開昭64−11655号公報(特許文献1)に開示されている。この特許文献1の方法では前記の欠点はある程度解消される。しかし、広い農場などでは電源の設置場所から切断具まで長いコードを延設した状態で作業を行う必要があるため、作業者に大きな負担を生じる。
【0008】
特開2007−611号公報(特許文献2)には種々の方式のハサミの殺菌装置が記載されており、その一例として電池によって刃に取り付けたヒータを加熱することが開示されている。しかし、刃を殺菌に必要な温度(約90℃以上)に維持するためには、たとえば標準的な大きさのハサミ(全長約20cm、重量約150g)で、約10〜15Wの電力が必要となる。このような消費電力で作業中連続して通電加熱を続けるには、たとえば単三型のリチウムイオン電池で最小4本組のパックが必要となり通常のハサミに組込む機構としては大きくて高価なものになり、かつ電池が極めて短時間に使用寿命に到る。またこのようなパックは外付電源として、ベルト等で腰に支持することになるが、この場合でもコードが接続された状態でハサミを操作することになり、作業上の不便さは解消できない。
【0009】
また前記特許文献2には液化 ガスを熱源とする触媒燃焼反応で生じた熱で刃先を加熱殺菌することも開示されている。
この方式では液化ガスのカートリッジを熱源とするため電気加熱方式の場合のようなコード類を省略することができる。また電池を加熱源とする場合に比較して液化ガスのカートリッジは比較的小型かつ軽量であり、同一の所要熱量を得るためのコストの面でも優れている。さらに電池を用いた場合、その再充電に長時間を必要とするのに対し液化ガスタンクの場合は再充填時間が著しく短く付帯的な作業時間を短縮することができる。
【0010】
しかし特許文献2ではガス燃焼時に生じるブロー(燃焼排気ガス)を刃先に吹き付ける構成がとられているので、小型の液化ガスタンクによる燃焼によって得られる限られた熱量を刃先の加熱に効率的に利用できる態様ではない。また従来のガスの燃焼機構全体をそのままハサミに取付ける構成をとっているため、従来のハサミの形状や切断刃の構造を大きく変えることになり、製造コストが増大すると共に形態的にも必ずしも使い勝手の良いものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭64−11655号公報
【特許文献2】特開2007−611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
農園芸作物用の切断刃の殺菌に液化ガスを触媒反応によって燃焼させ、刃先を加熱殺菌する方式を適用することは、従来実際には全く試みられたことがなく、したがってそれを実施する際の具体的な課題も知られていない。
【0013】
本発明において農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置に対して適用される液化ガスの触媒燃焼反応の技術の概要およびこれを農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置に適用する場合の課題についてガスハンダごての加熱機構を利用する例についてまず簡単に説明する。
【0014】
従来の典型的な液化ガスハンダごては、基本的な構成として液化ガスのカートリッジと、液化ガスを空気と混合して混合ガスを生成するエゼクタと、混合ガスに圧電方式で点火して、生じた炎によって触媒を加熱する有炎燃焼室(予備加熱域)と、有炎燃焼による加熱で触媒燃焼反応を開始する燃焼反応触媒と、加熱チップとを有し、エゼクタからの空気と液化ガスとの混合ガスに圧電着火して有炎燃焼させ、この炎の高温により触媒を触媒燃焼反応の開始温度まで加熱し、以降触媒による混合ガスの無炎の完全燃焼反応を継続させて加熱チップを高温に加熱してワークを熱加工する。
【0015】
本発明の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置において、液化ガスを熱源とする方式を用いて小型小容量のガスカートリッジから得られる熱量を効果的に利用するためには、触媒やその予備加熱域を刃先に直接設けてその刃先全体への均一で熱損失の少ない熱伝達を図ることが必要である。
【0016】
しかし、このような目的のためにこれらを刃先に設ける場合には一般に切断刃の刃先の肉厚が薄いのでそこに埋込まれる燃焼室(予備加熱域)等の容積もそれに応じて限られたものとなり、そのような構成は極めて困難である。
また、このような狭い空間では触媒燃焼反応開始の前段としての予備加熱のための有炎燃焼が著しく不安定になる現象が知られている。例えば液化ガスに近似する性質を有するメタンガスでは燃焼管の管径が3mm以下になると有炎燃焼が困難になることが報告されており、本発明者による液化ガス(ブタンガス)を用いた実験でも同様な傾向が認められた。
【0017】
その他実際のハンダ付作業では空/燃比、気温、外気圧などの諸条件によって数回の圧電点火操作を繰返して始めて有炎燃焼および触媒の反応開始に到ることもあり、触媒への着火すなわち触媒燃焼反応の開始が必ずしも確実ではないことがあった。
【0018】
加熱処理の目的が病原性微生物の殺菌である本発明の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置のような場合、加熱によって完全な殺菌が行われているかどうかを作業中に確認することはできない。仮に燃焼触媒の非加熱状態のまま切断具を使用して感染した作物を誤って切断し、病原性微生物が刃先に付着している状態に気づかずさらに作業を続行すると、たとえそれが極めて低い確率であったとしても農園又はハウス全体に感染を引き起こす重大な結果を生じる場合がある。
【0019】
本発明の課題は農園芸作物用の切断具の加熱殺菌装置において前記触媒燃焼反応を確実に生起させて加熱殺菌を常時完全なものとすることの出来る構成を提供することにある。
本発明の別の課題は前記加熱殺菌装置において、熱源としての液化ガスを触媒反応により燃焼させて刃先を加熱殺菌する際に、液化ガスを効果的に燃焼させ小型の液化ガスタンクから得られる限られた熱量を極力有効に利用することにある。
本発明のさらに別の課題は従来の農園芸用の切断刃の構造をほとんど変えることなく小型、軽量で、取扱いの容易な農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題は基本的には液化ガスの触媒燃焼方式に基く農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置において、触媒燃焼反応の開始のために従来ガスハンダごてなどで汎用されているガスの圧電着火による有炎燃焼による予備加熱方式に代えて電熱ヒータ線によって混合ガスを加熱し、所定温度に加熱された混合ガスを下流の触媒に供給することにより反応開始温度以上の温度に予熱する方式を用いることにより達成される。
【0021】
すなわち本願発明の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置は
刃先部を先端側に備えた把持部を有し、液化ガスを熱源とする触媒燃焼反応により刃先部を加熱殺菌する農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置において、
前記把持部は、その内部に、
液化ガスタンクと、
前記ガスタンクから吐出される液化ガスの流量制御弁と、
前記流量制御弁により制御されて吐出するガスの流速により外部から空気を吸入して混合ガスを生成するエゼクタとを有し、
前記刃先部はその内部に、
前記エゼクタに連通し刃先部の内部に混合ガスの流れ方向に沿って先端側に向けて延設された混合ガス流路と、
前記混合ガス流路に沿って延設され、前記把持部に内蔵された供電部により通電されて発熱し、前記混合ガス流路内部の混合ガスを加熱する電熱ヒータ線からなる予備加熱域と、
前記混合ガス流路の内部の前記予備加熱域の下流側に収容され、前記電熱ヒータ線により加熱された混合ガスにより触媒燃焼反応を開始し、以降触媒燃焼反応によって混合ガスを無炎燃焼させて刃先部を加熱する燃焼反応触媒とを有している。
【0022】
本発明の好ましい態様では、前記混合ガス流路は刃先部の表面に混合ガスの流れ方向に沿って穿設した溝に収容された混合ガスを流す金属細管からなり、この金属細管中に前記電熱ヒータ線および前記燃焼反応触媒が設けられている。
【0023】
本発明の好ましい態様では、前記溝の内壁面と前記金属細管の外周面との間に溝の長手方向に沿って形成された二次燃焼用の外気の流入路を有し、前記流入路への外気は前記溝蓋と刃先部の表面との間の隙間から流入し、前記触媒の下流側の排気孔から流出する。
【0024】
本発明の好ましい態様では、前記予備加熱域の電熱ヒータ線が蓄熱性および電気絶縁性のセラミック被覆を有する。
【0025】
本発明の好ましい実施態様では、前記予備加熱域の電熱ヒータ線が混合ガスの流路方向に沿って螺旋状に巻回されたヒータ線からなり、ヒータ線の螺旋体が蓄熱性および電気絶縁性のセラミック材料により全体的に被覆されている。
【0026】
本発明の好ましい態様では、前記触媒は板状の支持基材の両面に形成された白金微粒子の塗工層を触媒の燃焼反応域とする。
【0027】
本発明の好ましい態様では、前記支持基材は、流れ方向に対する断面が波形に形成されこれら各波形の対向壁の間に夫々分割形成される触媒燃焼域を有する。
【0028】
本発明の好ましい実施態様では、細い金属細管中での電熱ヒータ線の帰路を省略して簡略化するため、前記電熱ヒータ線と前記供電部一方の極性の端子とはリード線で接続され前記電熱ヒータ線の他方の端部と前記供電部の他方の極性の端子とは把持部の導電性部分を介して接続される。
【0029】
本発明の好ましい態様では、前記電熱ヒータ線への供電部は外部電源に接続される受電端子であってもよく又は前記把持部に内蔵した電池としてもよい。
【0030】
また本発明の好ましい実施態様では、前記刃先部および前記金属細管の前記燃焼反応触媒に対応する部分に前記燃焼反応触媒の触媒燃焼反応状態を確認する確認孔が設けられている。
【0031】
前記農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置はナイフ、包丁、鉈などからなる群より選ばれる単葉型の切断具でもよくまたは一対の刃先からなるハサミ型の切断具でもよい。
ハサミ型の場合は、一対の把持部と各把持部の先端側に夫々設けられ互いに回転開閉する一対の刃先部とを有し、液化ガスを熱源とする触媒燃焼反応により刃先部を加熱殺菌する農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置において、
少なくとも一方の把持部はその内部に形成された中空部に、
液化ガスのカートリッジと、
前記液化ガスのカートリッジから吐出される液化ガスの流量制御弁と、
前記流量弁により制御されたガスの流速により外部から空気を吸入して触媒燃焼反応に至適な空/燃比を有する混合ガスを生成するエゼクタとを有し、
前記少なくとも一方の把持部に設けられた刃先部はその内部に、
前記刃先部はその内部に、
前記エゼクタに連通し刃先部の内部に混合ガスの流れ方向に沿って先端側に向けて延設された混合ガス流路と、
前記混合ガス流路に沿って延設され、前記把持部に内蔵された供電部により通電されて発熱し、前記混合ガス流路内部の混合ガスを加熱する電熱ヒータ線からなる予備加熱域と、
前記混合ガス流路の内部の前記予備加熱域の下流側に収容され、前記電熱ヒータ線により加熱された混合ガスにより触媒燃焼反応を開始し、以降触媒燃焼反応によって混合ガスを無炎燃焼させて刃先部を加熱する燃焼反応触媒とを有している。
【0032】
本発明の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置では供電部からの通電により予備加熱域の電熱ヒータ線が所定の温度に加熱され、次いで液化ガスカートリッジから吐出される液化ガスとエゼクタで外部から吸引した空気との混合ガスが予備加熱域に流入される。
【0033】
混合ガスは加熱された電熱ヒータ線の予備加熱域で加熱され、これによって下流側に設けた燃焼反応触媒がその触媒反応の開始温度に加熱されると触媒による燃焼反応が開始される。以降触媒はそれ自体の燃焼反応で周辺の刃先部全体を所定の温度に加熱して殺菌状態とする。
【0034】
本発明においては触媒燃焼反応部の反応開始のために従来ガスハンダごてなどで汎用されている圧電点火によるガスの有炎燃焼による予備加熱方式に代えて電熱ヒータ線によって混合ガスを加熱しそれによって燃焼反応触媒の反応を開始させる方式を用いているので、触媒への着火、すなわち燃焼反応触媒の開始温度への加熱が確実になり、刃先部は作業中常時加熱殺菌状態に維持される。
【0035】
本発明では現在ガスハンダごてに用いられている白金触媒としては、その反応開始温度が180〜190℃程度の特性のものが利用可能であるため、触媒に供給される混合ガスをこれ以上の温度に加熱しておけば触媒の着火が可能であることに着目し、従来の圧電着火による混合ガスの有炎燃焼に代えて電熱ヒータ線により混合ガスを加熱する方式とした。圧電着火素子によるスパークの発生は瞬間的であるため、空/燃比、気圧、ガス流量等の条件によっては必ずしも着火が安定しないのに対し、電熱ヒータ線による混合ガスの加熱は連続的であり、ヒータ線の定格やガス流量等を適宜に設定すれば、切断作業の開始時に電熱ヒータ線に対する所定の短時間の供電で混合ガスを触媒の反応開始温度以上に加熱することができ、確実に触媒反応が生起される。これにより切断刃の表面は触媒反応による加熱で常に所定の殺菌温度に維持され農園芸作業に伴う病原性微生物の蔓延を防止することができる。
【0036】
ここで、本発明においては把持部側に液化ガスカートリッジ、流量制御弁、エゼクタ、および供電部を設け、刃先部には混合ガスのガス流路、供電部により加熱される電熱ヒータ線および燃焼反応触媒を設ける構成としているので、その構造が極めて簡略化される。
【0037】
すなわち前記ヒータ線による加熱方式によれば、従来の有炎燃焼室(およびこれに付随するシャッタ機構)を省略することができ、混合ガス流路中に電熱ヒータ線および触媒を挿入するだけでよいので、これらの部分は刃先部自体に容易に設けることができ、燃焼反応触媒からの熱量を刃先部の表面全体に熱損失なく効率的に伝達することができる。これに伴って、刃先部側の構造を著しく簡略化して製造コストを低下させると共にその外観形状を従来の刃先とほとんど変わりのないものとすることができる。
【0038】
小型のガスカートリッジ、エゼクタ、および予備加熱に用いられる内蔵電池又は外付電池からの受電のための端子などは把持部の内部空間などを利用して収容することもできるので構造は極めて簡単なものとなり、外観形状も従来の切断具の把持部と変わらず、使い勝手の点でも特に作業に支障をきたすことはない。
【0039】
本発明の実施態様においては予備加熱域の電熱ヒータ線が蓄熱性セラミックで被覆されているので、点火時に混合ガスを確実に加熱して触媒を短時間に反応開始温度に加熱することができる。
【0040】
また本発明の実施態様では触媒の混合ガスの流路方向に対する断面が波形に形成されているので燃焼反応領域が増大して燃焼効率が向上する。また刃先に沿って触媒の下流側の排気時に連通する二次燃焼用の外気の流入路を設けてあるので、排気孔からの高温の排気ガス中に残存する未燃焼成分を外気(酸素)によりさらに二次燃焼させて燃焼効率を高めることができる。
【0041】
以下本発明を添付の図面に示す具体例により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】は本願発明の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置の基本的な具体例の構造を示す断面図である。
【図2】は図1の要部を示す模式的拡大断面図である。
【図3】は図1の模式的AーA断面図である。
【図4】は農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置のより具体的な実験例としてのハサミの構造を示す断面図である
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下本発明を図1〜3に示す農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置の基本的な態様を示す具体例によりさらに説明する。
【0044】
図1中、農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置1は本発明を単葉型の切断刃に適用したものであり、把持部2とこれに組合された刃先部3とからなる。把持部2は中空状に形成され、その内部に通常のカートリッジタイプの液化ガスタンク4を収容する。液化ガスタンク4は小容量のブタン/プロパンガスカートリッジであり、再充填のための注入弁4Aおよび吐出流量を制御するための流量弁4Bおよびその調節用の回動部材4Cを有している。液化ガスタンク4の下流側には液化ガスと外気の混合ガスを生成するためのエゼクタ5が設けられている。エゼクタ5は把持部2の筒面に設けた外気取入口5Aに連通しており、かつ刃先部3の後述する混合ガス流路に連通する。
把持部2には後述する電熱ヒータ線9に対するDC電流の供電部6が設けられており、この図示の例では再充電可能な小型リチウムニ次電池が供電部として把持部2の内部に組込んである。
【0045】
一方図2、3にも示すように刃先部3の側面にはエゼクタ6側の上流側(図中左側)から下流側(図中右側)にかけて刃先部3の表面に断面長方形の溝7が穿設してある。溝7中には前記エゼクタ5に連通し刃先部3の溝7の先端側に到る混合ガス流路としての金属細管8が嵌入され、この金属細管8中の下流側には燃焼反応触媒10が配置されている。最下流側には図1に示すように混合ガスの触媒燃焼反応後の排気ガス排出口Hが形成されている。
【0046】
電熱ヒータ線9が金属細管8の内部に沿って挿通され、溝7はこの状態で溝蓋7Aによって閉じられている。ヒータ線9の最下流部分は図2に示すようにらせん状に巻回され蓄熱性のセラミック被覆を施して燃焼反応触媒10に対する予備加熱域9Aが形成されている。溝7はヒータ線9の上流側の端部で前記供電部6の一極に接続され、下流側の端部で刃先3の金属導電部を介して供電部6他の一極に接続されている。
【0047】
電熱ヒータ線8の下流側には燃焼反応触媒10が設置され、燃焼反応触媒10はシート状のステンレス鋼の基板に担持された白金の微粒子からなる。図3に示すように燃焼反応触媒10は刃先部3の全体の温度を少なくとも所定の加熱殺菌温度以上に保持するのに充分な有効表面積を有しかつガス流路の各部の混合ガスが整流されて触媒の反応域と効果的に接触するように混合ガスの流れ方向に対する断面が波形状に形成されている。
【0048】
混合ガス流路を単にシート状の触媒で2分した形態では触媒の表裏面からはなれた部分を流れる混合ガスの一部は未燃焼または不完全な燃焼状態のまま排気孔から噴出される。触媒のシート状の基板を波形とすることによりガス流路は波形の隣接する山部または谷部の細分化された領域を通過することになるので混合ガスは夫々の領域触媒の反応領域により近接して流れ混合ガスの燃焼反応の効率が向上する。
【0049】
図3に示すように電熱ヒータ線9を収容した金属細管8は刃先部3に設けた溝7に収められ、溝蓋7Aで溝7を閉鎖することにより固定される。この場合溝7の内壁面と金属細管8の外周面との間には燃焼効率を向上させるための二次燃焼用の外気の流路Lが形成され、この流路Lは触媒20の下流側の排気孔Hに連通している。溝蓋7Aを刃先3の表面に対して僅かな間隙Gを有するようにして取り付けることにより、この間隙Gから吸引される外気が流路Lにより排気孔Hに噴出し、触媒燃焼による排気中に未燃焼の液化ガス成分が残存している場合、前記吸引された外気(酸素)がこれらと反応して二次燃焼を生じ、混合ガスの燃焼効率すなわち液化ガスの利用効率が一層改善される。
【0050】
刃先部3における溝蓋7Aおよびその溝7に収容された金属細管8の前記燃焼反応触媒10に対応する部分には燃焼反応触媒10の燃焼反応動作中にその反応状態(赤熱状態)を確認するための確認孔7Bが形成されている。
【0051】
前記農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置を使用する場合には、供電部(電池)6の図示しないスイッチをONにし、電池6からの電流を刃先部3に形成した溝7に埋設されたガス流路としての金属細管8中の電熱ヒータ線9に供電して加熱する。
【0052】
混合ガスは液化ガスの気化により低温化され、電熱ヒータ線9の発熱時に短時間では所定の温度まで加熱されない場合がある。この具体例では図2に示すように電熱ヒータ線9をセラミックコートで被覆して形成した予備加熱域9Aを触媒10に近接して設けてあるので、電熱ヒータ線9から発生される熱がセラミック被覆層に蓄熱され、点火スイッチON後に短時間で前記セラミック被覆体に充分な量の熱が蓄積される。
【0053】
所定の短時間の経過後、液化ガスタンク4に付設された流量弁4Bの調節ノブ4Cを回動操作して所定の初期流量の液化ガスを吐出させ、エゼクタ5の内部で外気と混合して混合ガスを生成し、前記金属細管8中のヒータ線7の予備加熱域9Aに供給する。混合ガスは予備加熱域9Aを通過する際、電熱ヒータ線9からの発熱に加えてセラミック被覆体に蓄積されていた熱により触媒10を反応開始温度以上に加熱するのに充分な温度まで加熱する。燃焼反応触媒10が燃焼反応の開始温度を超えて加熱されると、触媒10が燃焼反応によりそれ自体で無炎燃焼を開始する。これを確認孔17Bを通して触媒の赤熱状態として確認したのち、混合ガスの流量を加熱殺菌のための所要の流量にまで増加させ(点火スイッチはOFF)、以降所定の燃焼温度で燃焼反応触媒10による混合ガスの無炎の燃焼反応が継続し、刃先部3全体が微生物の加熱殺菌に充分な温度に加熱される。
【0054】
この際、混合ガスは図3に示すように波形(M字型)に形成された触媒10の夫々の山部、谷部により分割された流路を通して流れるので混合ガスと触媒10との接触面積が増加し、かつ各部分でのガスの流れが整流されて反応効率が向上する。
【0055】
触媒10で燃焼された混合ガスの排気は排気孔Hから排出されるが、この排気口Hには図3に示す溝7の隙間Gより吸引され流路Lを経て流入した外気が送られ、排気中の未燃焼成分をさらに二次燃焼させて液化ガスの燃焼効率を向上させ、刃先部3の加熱温度をさらに上昇させる。
【0056】
本実施態様の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置1では燃焼反応触媒10の燃焼反応開始温度への予備加熱は混合ガス流路としての金属細管8中の混合ガスを電熱ヒータ線9により加熱することにより確実に行われ、作業開始時に触媒燃焼反応が確実に生起する。
【0057】
前記のように、混合ガスの予備加熱から触媒の燃焼反応による無炎燃焼への移行、すなわち燃焼反応触媒10が燃焼反応を開始する際の着火安定性は前記のように農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置においては特に重要である。
【0058】
本発明では供電部6からの連続的な供電により電熱ヒータ線9が発熱して混合ガスが常時確実に加熱されるので、作業開始時に点火スイッチを一定時間ON状態にしておけば、混合ガスの加熱により触媒が必ずその燃焼反応の開始温度に達し、その後は触媒の燃焼反応による完全な無炎燃焼により、刃先部3が常に加熱殺菌状態になる。
【0059】
また、従来の圧電着火方式のハンダごての方式をより用いる場合、予備加熱域(有炎燃焼室)やそのシャッタ機構などを薄い刃先部3側に設けることは構造上困難であったが、本発明においては刃先部13に沿ってその表面側に穿設された溝7中に金属細管8を嵌入し、その内部に混合ガスを加熱する電熱ヒータ線9、およびそれによって無炎燃焼する燃焼反応触媒10を設ければ良いので、従来の切断具における刃先の外形や重量をほとんど変えることなく、前記部材を容易に刃先部3に組込むことができる。
【0060】
この実施態様の装置では加熱殺菌装置の始動/停止の際には電池6のスイッチをONにした後、流量弁4Bの調節ノブ4Cを回動させて液化ガスの吐出および流量調節を行うだけで良いので操作は極めて簡単である。この際のガスの噴出音が作業者によって容易に聴き取れるので触媒着火に必要な混合ガスの供給の有無は確実に判断できる。カートリッジ4の使用中に液化ガスの噴出音が停止した場合にはこれをカートリッジのガスを使い切った状態と判断して作業を中止し、再充填/交換などを行う。
【0061】
また燃焼反応への移行の際には、前記のように作業者は使用マニュアル等で定められた所定時間だけ点火スイッチを押し、確認孔7Bによる触媒10の赤熱状態を確認するだけで燃焼反応触媒10の動作状態すなわち刃先の加熱殺菌状態を確実かつ容易に知ることができる。
【0062】
実験例
以下、本発明のより具体的な実施例として実際の実験のために用いられた農園芸作物用切断器具であるハサミを一例としてその刃先部の加熱殺菌装置を図面に示す実施例によって説明する。
【0063】
図4において、通常の農園芸作物の切断、摘果、剪定などの作業に用いる切断具としてのハサミ11は各一対の把持部12、12および刃先部13、13からなり、図中下方に示す一方の把持部12は、液化ガスのカートリッジ14などを収容する中空部を有している。上方の把持部12はほゞ平板状をなし、先端側で下方に示す刃先部13と一体に連接しており、少なくとも刃先部13は導電性/伝熱性の良好な工具鋼等の金属性材料からなっている。一対の刃先部13,13はバネ部材Sにより弾性的に回動結合されている。
【0064】
本実施例に用いたカートリッジ14はブタン/プロパンの90:10の組成比の液化ガスを加圧下に収容した約50mm×25mmφのサイズのものであり、刃先部13を常時90℃以上の温度に加熱する為に必要な流量のガスを約90分にわたって供給することができる。カートリッジ14の基端部にはガス補充用の注入弁14Aおよび先端部には流出ガスの流量制御/開閉弁14Bが設けられている。下方の把持部12に装入したカートリッジ14は回転操作が可能であり、その流量制御弁14Bを把持部12に形成した流量目盛等に合致するように回転操作することにより液化ガスの流量が制御される。
【0065】
流量制御14Bの下流側にはカートリッジ14から噴出する液化ガスの流速により外気を吸引して混合するエゼクタ15が設けられており、液化ガスの速度に応じて吸引孔15Aから外気を吸引して液化ガスと混合し、後述する燃焼反応触媒での燃焼に最適な空/燃比(31:1モル比)を有する混合ガスを生成するようになされている。前記エゼクタ15の下流側には把持部12の中空部を通して刃先部13に到る混合ガス流路としての金属細管18(外径3mmφ)が設けられている。
【0066】
なお前記把持部12には電熱ヒータ線19に加熱電流を供給するための供電部16として外部電源と接続するリード線を有する一対の受電端子が設けられている。実際に用いられたこの実験例では作業者の携帯する図示しないLi二次電池からの供電コードがこの受電端子に接続される。
【0067】
切断刃11の一方の刃先部13には、図3および図4に示すように、刃先の長手方向(混合ガスの流れ方向)に沿って巾4mm×深さ3mm程度の溝17が形成されており、その内部に前記把持部12のエゼクタ15の下流側からの混合ガス流路としての金属細管18が埋設されている。金属細管18および溝17は溝蓋17Aで覆われ、刃先部13の一面にたとえばネジ等によって固定される。図3に示すようにこの際金属細管18は溝蓋17Aにより開口部を閉鎖する際やや扁平に加圧変形され、溝17の壁面に密着して固定されるが、この際溝17の内壁面と金属細管18の外周面には後述する二次燃焼用の外気の流路Lが形成される。流路Lには溝蓋17Aの刃先部13Aに対する取付け隙間Gを介して二次燃焼用の外気が吸引され、流路Lの下流端部は触媒20からの排気ガスの排出孔Hの近傍に連通している。
【0068】
刃先部13内の金属細管18には電熱ヒータ線19が挿入されている。ここでヒータ線19の一端は耐熱性ポリイミドで被覆したリード線により供電部としての受電端子16の一方の極性端16Aに接続され、電熱ヒータ線19の他端は前記金属細管18に接続され刃先部13の導電部分を介して受電端子16の他方の極性端16Bに接続されている。これにより一方のリード線を省略し金属細管18内での配線を単線路の形態に簡略化して金属細管18の限られた収容スペースを効果的に利用できるようにしている。電熱ヒータ線19は約0.15mmφのニクロム(NCH)または鉄クロム(FCH)電熱線を外形約1.5mmφのコイル状に巻回して形成され、蓄熱性および電気絶縁性を有するセラミックスラリーのディップコーティングにより図2に示す予備加熱域19Aを形成してある。
【0069】
金属細管18の前記電熱ヒータ線19の下流側(刃先端側)には燃焼反応触媒20が配置されている。燃焼反応触媒20には耐熱性に優れたステンレス鋼の金属箔を支持体として用い、その両面に反応面積を増加させるための担持基体としての比表面積の大きな耐熱セラミックであるアルミナを形成し、ここに白金族金属又は合金の微粒子を高分散状態で担持させて耐熱性の燃焼反応触媒を形成してある。図3に示すように触媒20は混合ガスの流れの方向に対する断面を波形(M型)に形成して混合ガスとの接触面積を増加させかつ混合ガスの流路を各波形で分割した領域毎に均一に整流して反応効率を向上させるようにしてある。
【0070】
燃焼反応触媒20としての白金触媒20は電熱ヒータ線19からなる予備加熱域19Aの発熱による混合ガスの加熱に伴って、約185℃の触媒の燃焼開始反応温度に到るとその燃焼反応を開始し、それ以降それ自体の触媒燃焼反応によりブタン/プロパンの混合ガスを完全に無炎燃焼させる。
【0071】
本発明の前記実験例においては、図示しない外部電池を把持部12に設けた供電部16としての受電端子に接続し点火スイッチ(図示せず)をONにする。これにより電熱ヒータ線19が加熱され、触媒20に近接する最下流の螺旋体からなる予備加熱域19Aのセラミック皮膜層に所定の短時間で充分な熱量が蓄積する。ここで流量制御弁14Bにより適量の液化ガスを噴出させ、エゼクタ15で混合ガスを生成し、ガス流路としての金属細管18を通して予備加熱域19Aに供給する。
【0072】
ここで加熱された混合ガスが下流の燃焼反応触媒20と接触して流れ、それにより燃焼反応触媒20が所定の触媒燃焼反応の開始温度の(185℃)以上に加熱されると、触媒20は触媒燃焼反応を開始する。この赤熱状態を確認孔19Aを通して確認した後、流量制御弁14Bをさらに回動させてガス流量を所定値まで増加させる。以降燃焼反応触媒20は混合ガスに対する触媒燃焼反応により約700℃以上の温度の触媒燃焼反応を持続し、触媒20が埋込まれている刃先部13全体を約90℃以上に加熱する。
混合ガスは触媒10を通過する際に高い燃焼効率で燃焼されるが、排気孔H付近の燃焼後の排気にはなお未燃焼の燃料成分(ブタン)が含まれている。この実施例では
前記溝蓋の隙間Gから吸引された外気が流路Lを通して排出孔Hに流出すると燃焼直後の高温の排気ガス中のブタンがこの外気中の酸素により再度燃焼し、燃焼効率がさらに改善される。この実施例のハサミでは二次空気の流路を塞いだ場合と比較して刃先の排気孔周辺の温度が約30〜50℃上昇した。
【0073】
この触媒燃焼反応はカートリッジ14からの混合ガスが供給されている限り、継続され、農園芸作業の処理が続く間、刃先部13を前記高温に保持して確実な加熱殺菌を行い病原性微生物の付着を生じた場合でもこれを短時間で不活性化もしくは死滅させて周辺への感染の拡大を防止する。刃先が加熱状態にあることは確認孔17Bによる触媒の赤熱状態およびガス噴出音により常時確認することができる。
【0074】
本実施例の切断はとしてのハサミは図1に示す基本的な具体例の場合と同様加熱殺菌装置を設けることによってもほとんど大型化せず、その構造も大幅に簡略化される。すなわち従来の圧電点火式の触媒燃焼反応による加熱機構と比較して、圧電着火による有炎燃焼のための燃焼室やそこに付設されるシャッタが省略され、ガス供給路としての金属細管、電熱ヒータ線、燃焼反応触媒などの加熱機構は刃先部に穿設した溝に収容されるのでその構造が著しく簡略され、切断刃の製作コストが低下し、かつ従来のハサミと同様な操作により容易に使用することができる。
【0075】
なお、前記実施例では、一方の刃先部13(図3における上側の刃先部13)にのみ混合ガス流路を設けて加熱する構成としているが、両方の刃先部13に混合ガス流路を設けて加熱する構成にしてもよい。この場合、混合ガス流路としての金属細管を途中で分岐し、その分岐部の周りには可撓性のある金属チューブなどを用いて、分岐した金属細管(ガス流路)を他方の刃先部13に形成する等の構造にしてもよい。
【0076】
試験例
本発明の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置の前記実験例によるハサミを用いて実際の作物に対する加熱殺菌効果を実証する下記の試験を行った。
【0077】
供試菌液の調整
ナス青枯病菌30−2株を脇本液体培地で27℃、100rpmで36時間振とう培養し、約1×10cells/mlに菌液を調整した。
【0078】
加熱殺菌試験
前記菌液を2本のハサミの加熱殺菌機構を組込んだ夫々の刃先部に塗布し、一方のハサミは電熱ヒータ線に3分間通電することにより刃先部を90℃に加熱し、他方のハサミは非加熱状態としてトマト苗(ポンデローザ、地上部高さ約40cm)10株の本葉第3葉と第4葉の葉柄基部を2枚続けて切った。接種後のトマト苗を温室条件にしてガラス室で管理し、接種20日後に発病の有無を調査した。
【0079】
非加熱状態の10株中9株に青枯病の発症(萎縮病状)が認められたのに対し、90℃に加熱したハサミで処理したトマト苗には発症は全く認められずハサミの刃先部の加熱が青枯病菌の殺菌にきわめて効果的であることが確認された。
【0080】
前記菌液をあらかじめ接種され萎縮症状を呈したトマト苗(菌泥の流出確認)の茎を刃先部を加熱したハサミ、非加熱のハサミ、および消毒液としての次亜塩素酸カルシウム水溶液(50倍希釈)に浸漬したハサミを用いて、夫々1回切断し、その直後に健全なトマト苗(ポンデローザ、地上部高さ約40cm)15株およびナス苗(千両二号、地上部高さ約40cm)10株の本葉第3葉と第4葉の葉柄基部を2枚続けて切断し、切断処理20日後の各苗木について青枯病の発症の有無を調べた。
【0081】
切断処理後の15株のトマト苗の中、加熱したハサミでは1株に、非加熱ハサミでは15株全てに、また次亜塩素酸ナトリウムで処理した非加熱ハサミでは5株に青枯病の発症が認められた。
ナス苗木10株については、加熱したハサミでは1株、非加熱ハサミでは10株全てに、また次亜塩素酸ナトリウムで処理した非加熱ハサミでは5株に青枯病の発症が認められた。
【0082】
非加熱ハサミによる切断作業では全数に感染の生起が認められたのに対し、本発明の加熱したハサミでは優れた感染抑止効果を有することが確認された。尚僅かであっても感染が生じた原因は本発明の実験例のハサミでは一方の刃先のみを加熱したことによるものと考えられる(一方の加熱刃の温度95℃、他方の刃の場合60℃)が、従来の化学薬品による処理と比較しても感染率は明らかに低下している。
【0083】
前記のように、ハサミの他方の切断刃に同様な加熱機構を設けるか、又はガスカートリッジ側からの混合ガスの供給量や電熱ヒータ線の発熱量を増大させ、もしくは刃先の形状をより小型化して他方の刃先部の温度をさらに上昇させることにより、感染防止の効果はより向上するものと考えられる。
【0084】
本発明の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置はハサミ、ナイフ、包丁、鉈等の種々の形式の切断具に適用することができ、その殺菌が加熱殺菌方式であるため、熱感受性を有する広い範囲の病原性微生物に対応して作物の切断、剪枝、摘果など種々の農作業時に生じ得る感染の蔓延を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0085】
1、11 切断刃
2、12 把持部
3、13 刃先部
4、14 液化ガスカートリッジ
4A、14A 注入弁
4B、14B 流量制御/開閉弁
4C 回動部材
5、15 エゼクタ
5A、15A 吸引孔
6、16 供電部(電池)
7、17 溝
7A 溝蓋
7B 確認孔
8、18 金属細管
9、19 電熱ヒータ
10、20 燃焼反応触媒
L 外気(二次燃焼空気)流路
G 溝蓋の隙間
H 排気孔
S バネ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃先部を先端側に備えた把持部を有し、液化ガスを熱源とする触媒燃焼反応により刃先部を加熱殺菌する農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置において、
前記把持部は、その内部に、
液化ガスタンクと、
前記ガスタンクから吐出される液化ガスの流量制御弁と、
前記流量制御弁により制御されて吐出するガスの流速により外部から空気を吸入して混合ガスを生成するエゼクタとを有し、
前記刃先部はその内部に、
前記エゼクタに連通し刃先部の内部に混合ガスの流れ方向に沿って先端側に向けて形成された混合ガス流路と、
前記混合ガス流路に沿って延設され、前記把持部に内蔵された供電部により通電されて発熱し、前記混合ガス流路内部の混合ガスを加熱する電熱ヒータ線からなる予備加熱域と、
前記混合ガス流路の内部の前記予備加熱域の下流側に収容され、前記電熱ヒータ線により加熱された混合ガスにより触媒燃焼反応を開始し、以降触媒燃焼反応によって混合ガスを無炎燃焼させて刃先部を加熱する燃焼反応触媒とを有する農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置。
【請求項2】
前記混合ガス流路は刃先部の表面に混合ガスの流れ方向に沿って穿設した溝に収容された混合ガスを流す金属細管からなり、この金属細管中に前記電熱ヒータ線および前記燃焼反応触媒を設け溝蓋により閉鎖および固定した請求項1記載の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置。
【請求項3】
前記溝の内壁面と前記金属細管の外周面との間に溝の長手方向に沿って形成された二次燃焼用の外気の流入路を有し、前記流入路への外気は前記溝蓋と刃先部の表面との間の隙間から流入し、前記触媒の下流側の排気孔から流出する請求項2記載の加熱殺菌装置。
【請求項4】
前記予備加熱域の電熱ヒータ線が蓄熱性および電気絶縁性のセラミック被覆を有する請求項1に記載の加熱殺菌装置。
【請求項5】
前記予備加熱域の電熱ヒータ線は混合ガスの流路方向に沿って螺旋状に巻回され、蓄熱性および電気絶縁性のセラミック材料により全体的に被覆されている請求項3記載の加熱殺菌装置。
【請求項6】
前記触媒は板状の支持基材の両面に形成された白金微粒子の塗工層を触媒の燃焼反応域とする請求項1記載の加熱殺菌装置。
【請求項7】
前記支持基材は、混合ガスの流れ方向に対する断面が波形に形成されこれら各波形の対向壁の間に夫々分割形成される触媒燃焼域を有する請求項5記載の加熱殺菌装置。
【請求項8】
前記電熱ヒータ線と前記供電部一方の極性の端子とをリード線で接続し前記電熱ヒータ線の他方の端部と前記供電部の他方の極性の端子とを把持部の金属部分を介して接続した請求項1記載の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置。
【請求項9】
前記電熱ヒータ線への供電部は前記把持部に内蔵した電池である、請求項1記載の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置。
【請求項10】
前記電熱ヒータ線への供電部が外部電源に対する受電端子である請求項1記載の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置。
【請求項11】
前記刃先部および前記金属細管の前記燃焼反応触媒に対応する部分に前記燃焼反応触媒の触媒燃焼反応状態を確認する確認孔を設けた前記請求項3記載の農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置。
【請求項12】
一対の把持部と各把持部の先端側に夫々設けられ互いに回転開閉する一対の刃先部とを有し、液化ガスを熱源とする触媒燃焼反応により刃先部を加熱殺菌する農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置において、
少なくとも一方の把持部はその内部に形成された中空部に、
液化ガスタンクと、
前記液化ガスタンクから吐出される液化ガスの流量制御弁と、
前記流量弁により制御されたガスの流速により外部から空気を吸入して混合ガスを生成するエゼクタとを有し、
前記少なくとも一方の把持部に設けられた刃先部はその内部に、
前記エゼクタに連通し刃先部の内部に混合ガスの流れ方向に沿って先端側に向けて形成された混合ガス流路と、
前記混合ガス流路に沿って延設され、前記把持部に内蔵された供電部により通電されて発熱し、前記混合ガス流路内部の混合ガスを加熱する電熱ヒータ線からなる予備加熱域と、
前記混合ガス流路の内部の前記予備加熱域の下流側に収容され、前記電熱ヒータ線により加熱された混合ガスにより触媒燃焼反応を開始し、以降触媒燃焼反応によって混合ガスを無炎燃焼させて刃先部を加熱する燃焼反応触媒とを有する農園芸作物用切断具の加熱殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−249562(P2012−249562A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123831(P2011−123831)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(591068665)中島銅工株式会社 (3)
【Fターム(参考)】