説明

農業用マルチフィルム

【課題】良好な成形性、生分解性、成形体物性を持ちつつ、成形体外観悪化が抑制された農業用マルチフィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を35質量%以上85質量%以下、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)を15質量%以上65質量%以下の割合で含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物100質量部に対し酸化チタンを10質量部以上50質量部以下添加した樹脂組成物(I)からなる表層、ならびに、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を55質量%以上85質量%以下、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)を15質量%以上45質量%以下の割合で含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物100質量部に対しカーボンブラックを1質量部以上5質量部以下添加した樹脂組成物(II)からなる裏層、を備えた農業用マルチフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用マルチフィルムに関する。詳しくは、少なくとも表層および裏層の2層を備えた農業用マルチフィルムであって、それぞれの層が特定の組成物から構成される農業用マルチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、野菜等の栽培において、農業用マルチフィルムが使用されている。農業用マルチフィルムは、保温や雑草抑制等の効果があり、生産性の向上に欠かせない農業資材として全国的に普及している。農業用マルチフィルムは、使用後、回収し、廃棄処理する必要がある。我国では農業従事者の高齢化が進んでおり、フィルムの回収、廃棄作業は、高齢者にとって重労働となっていた。また、フィルムの廃棄処理において、フィルムを焼却した場合、二酸化炭素の発生、ダイオキシン等の有害物質の発生といった問題があった。フィルムを埋め立てた場合は、埋め立て場所の確保、埋め立て地周辺の土壌汚染の問題があった。
【0003】
これらの問題を解決するものとして、生分解性マルチフィルムがある。この生分解性マルチフィルムは、使用後に土中にすき込むことにより、土中で分解されるため、フィルムの回収、廃棄作業が不要となる。これにより、農作業の省力化、ならびに、温暖化防止、土壌および大気の汚染防止を図ることができる。
【0004】
生分解性マルチフィルムの材料としては、デンプン系生分解性樹脂が使用されていたが、インフレーション成形が安定しない、デンプンの吸湿によりフィルムの物性変化が大きい、また、カビが生えやすい等の課題があった。
【0005】
また、生分解性マルチフィルムの材料としては、脂肪族ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル系樹脂が使用されていたが、結晶化速度が速く、インフレーション成形性は良好であるが、フィルムの引き裂き強度や、引張破断伸びが不十分な場合があった。
【0006】
また、生分解性マルチフィルムの材料としては、ポリブチレンアジペートテレフタレートといった芳香族ジカルボン酸単位、脂肪族ジカルボン酸単位および脂肪族ジオール単位を有する芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(特許文献1参照)が使用されていた。
【0007】
一方、地表面の保温と太陽光の反射による植物の成長を増進させることを目的として、地表面側に黒色層、太陽側に白色層を有する、いわゆる白黒マルチフィルムが使用されている。特許文献2には、生分解性樹脂を用い、引裂強度が高く、インフレーション成形時および/または成形後に亀裂が生じにくいことを目的とした白黒マルチフィルムが開示されている。
【特許文献1】特表2001−500907号公報
【特許文献2】特開2003−191418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の樹脂が十分な生分解性を発現するためには芳香族単位の合間に脂肪族単位が存在することが必要となるが、このような材料は結晶化速度が遅く、成形性に問題がある場合があった。また、成形品表面がべたつくためインフレフィルムにおける口開き特性が悪く、これを改善すべくアンチブロッキング剤等を配合すると不透明感が出てしまっていた。また、この材料は十分に柔軟ではあるが、引張強度が弱く、いわゆる腰のないフィルムとなってしまっていた。
【0009】
また、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載の技術では、成形時に厚みムラが生じ易いことが判明した。特に、白黒マルチフィルムにおいては、十分な白色度を達成するために白色フィルムに配合する酸化チタンの含有量が高いため、より厚みムラが生じやすく製造上の大きな問題であることも判明した。白黒マルチフィルムにおいては、厚みムラが生じた場合、裏側の色が透けることになり、マルチフィルムとしての機能が著しく低下する。
【0010】
そこで、本発明は、良好な成形性、生分解性、成形体物性を持ちつつ、成形体外観悪化が抑制された農業用マルチフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、生分解性白黒マルチフィルムにおいて、各層を特定の脂肪族ポリエステル系樹脂と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂との配合物、および酸化チタンやカーボンブラックの組成物にすることにより、良好な成形性、生分解性、成形体物性を持ちつつ、成形体外観悪化を抑制できるという驚くべき事実を知見し、以下の本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、少なくとも下記組成物からなる表層および裏層の2層を備えたフィルムであって、
表層:脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を35質量%以上85質量%以下、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)を15質量%以上65質量%以下の割合で含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物100質量部に対し酸化チタンを10質量部以上50質量部以下添加した樹脂組成物(I)、
裏層:脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を55質量%以上85質量%以下、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)を15質量%以上45質量%以下の割合で含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物100質量部に対しカーボンブラックを1質量部以上5質量部以下添加した樹脂組成物(II)、
【0013】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、脂肪族または脂環式ジオール単位、ならびに脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位を必須成分とする脂肪族ポリエステル系樹脂であり、
【0014】
芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)が、脂肪族または脂環式ジオール単位、脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位、ならびに芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とし、芳香族ジカルボン酸単位の含量が、脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位との合計に対し、5モル%以上50モル%以下である芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂である、農業用マルチフィルムである。
【0015】
本発明において、表層および/または裏層は、樹脂組成物(I)または(II)それぞれ100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下の脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)を含有していることが好ましい。なお、該脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)は、脂肪族オキシカルボン酸単位を必須成分とする樹脂である。各樹脂組成物に脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)を含有させることにより、製造されるフィルムの引き裂き強度や、衝撃強度が改良される。
【0016】
本発明において、表層および/または裏層は、樹脂組成物(I)または(II)それぞれ100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下のカルボジイミド化合物を含有していることが好ましい。各樹脂組成物にカルボジイミド化合物を含有させることにより、製造されるフィルムが大気中の水分等により加水分解されるのを抑制することができる。
【0017】
なお、カルボジイミド化合物は、重合度2以上40以下のポリカルボジイミド化合物であることが好ましい。このようなポリカルボジイミド化合物を使用することにより、フィルムの加水分解抑制効果が大きくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、良好な成形性、生分解性、成形体物性を持ちつつ、成形体外観悪化が抑制された農業用マルチフィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明の農業用マルチフィルムは、少なくとも表層および裏層を備えて構成される。表層を構成する材料は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)および芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の混合物に酸化チタンを添加した樹脂組成物(I)である。裏層を構成する材料は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)および芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の混合物にカーボンブラックを添加した樹脂組成物(II)である
【0020】
以下、樹脂組成物(I)(II)を構成する脂肪族ポリエステル系樹脂(A)および芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)について順に説明する。
【0021】
<脂肪族ポリエステル系樹脂(A)>
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート等の脂肪族ポリエステルおよびその誘導体、ポリシクロヘキシレンジメチルアジペート等の脂環式ポリエステルおよびその誘導体、ヒドロキシブチレート−ヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル共重合体等が挙げられる。
【0022】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)としては、下記式(1)で表される脂肪族または脂環式ジオ−ル単位、ならびに下記式(2)で表される脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位を必須成分とするものが好適である。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
式(1)中、Rは炭素数3以上の2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を、Rは2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を表す。
【0026】
式(1)の脂肪族または脂環式ジオール単位を与える脂肪族または脂環式ジオール成分は、炭素数の下限が3以上、上限が通常10以下のものであり、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でも1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0027】
式(2)の脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位を与える脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分は、Rの炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、中でもコハク酸、アジピン酸が好ましい。
【0028】
なお、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分、あるいは、脂肪族または脂環式ジオール成分は、それぞれ二種類以上を混合して用いることもできる。
【0029】
(脂肪族オキシカルボン酸単位)
さらに、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)には、脂肪族オキシカルボン酸単位が含有されていてもよい。
【0030】
脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸が挙げられる。また、これらの低級アルキルエステル、分子内エステルであってもよい。また、これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、またはラセミ体のいずれでもよく、形態としては固体、液体、または水溶液のいずれであってもよい。これらの中で好ましいものは、乳酸またはグリコール酸である。これら脂肪族オキシカルボン酸は単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0031】
この脂肪族オキシカルボン酸単位の量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を構成する全構成成分中、下限が通常、0モル%以上、好ましくは、0.01モル%以上であり、上限が通常、30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0032】
(多価アルコール、多価カルボン酸)
また、本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、3官能以上の脂肪族または脂環式多価アルコール、脂肪族または脂環式多価カルボン酸またはその無水物、または脂肪族多価オキシカルボン酸を共重合すると、得られる脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の溶融粘度を高めることができ好ましい。
【0033】
3官能の脂肪族または脂環式多価アルコールの具体例としては、トリメチロールプロパン、グリセリンが挙げられ、4官能の脂肪族または脂環式多価アルコールの具体例としては、ペンタエリスリトールが挙げられる。3官能の脂肪族または脂環式多価カルボン酸またはその無水物の具体例としては、プロパントリカルボン酸またはその無水物が挙げられ、4官能の脂肪族または脂環式多価カルボン酸またはその無水物の具体例としては、シクロペンタンテトラカルボン酸またはその無水物が挙げられる。また、3官能の脂肪族多価オキシカルボン酸成分は、(i)カルボキシル基が2個とヒドロキシル基が1個を同一分子中に有するタイプと、(ii)カルボキシル基が1個とヒドロキシル基が2個のタイプとに分かれ、いずれのタイプも使用可能である。具体的には(i)のタイプのリンゴ酸が挙げられる。
【0034】
また、4官能の脂肪族多価オキシカルボン酸成分は、(i)3個のカルボキシル基と1個のヒドロキシル基とを同一分子中に共有するタイプ、(ii)2個のカルボキシル基と2個のヒドロキシル基とを同一分子中に共有するタイプ、(iii)3個のヒドロキシル基と1個のカルボキシル基とを同一分子中に共有するタイプとに分かれ、いずれのタイプも使用可能である。具体的には、クエン酸や酒石酸が挙げられる。これらは単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0035】
このような3官能以上の化合物の量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を構成する全構成成分中、下限が通常、0モル%以上、好ましくは、0.01モル%以上であり、上限が通常、5モル%以下、好ましくは2.5モル%以下である。
【0036】
(樹脂(A)の製法)
本発明で使用する脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、公知の方法で製造することができる。例えば、上記の脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分と脂肪族または脂環式ジオール成分とのエステル化反応および/またはエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができる。中でも、経済性ならびに製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重合でポリエステルを製造する方法が好ましい。
【0037】
重縮合反応は、重合触媒の存在下に行うのが好ましい。重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。
【0038】
重合触媒としては、一般には、周期表で、水素、炭素を除く1族〜15族金属元素を含む化合物である。具体的には、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩またはβ−ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、ならびに、上記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物が挙げられる。これらは、二種以上の混合物として使用してもよい。
【0039】
これらの中では、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムおよびカルシウムを含む金属化合物、ならびにそれらの混合物が好ましく、その中でも、特に、チタン化合物およびゲルマニウム化合物が好ましい。また、触媒は、重合時に溶融あるいは溶解した状態であると重合速度が高くなる理由から、重合時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステルに溶解する化合物が好ましい。
【0040】
これらの重合触媒として金属化合物を用いる場合の触媒添加量は、生成するポリエステルに対する金属量として、下限値が通常、5ppm以上、好ましくは10ppm以上であり、上限値が通常、30000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは250ppm以下、特に好ましくは130ppm以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなくポリマーの熱安定性が低くなるのに対し、逆に少なすぎると重合活性が低くなり、それに伴いポリマー製造中にポリマーの分解が誘発されやすくなる。
【0041】
脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分と脂肪族または脂環式ジオール成分とのエステル化反応および/またはエステル交換反応の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は、通常、常圧〜10kPaであるが、常圧が好ましい。反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは、4時間以下である。
【0042】
その後の重縮合反応は、圧力を、下限が通常0.001×10Pa以上、好ましくは0.01×10Pa以上であり、上限が通常1.4×10Pa以下、好ましくは0.4×10Pa以下の真空度下で行う。この時の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下の範囲である。反応時間は、下限が通常2時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは10時間以下である。
【0043】
本発明においてポリエステルを製造する反応装置としては、公知の縦型あるいは横型撹拌槽型反応器を用いることができる。例えば、溶融重合を同一または異なる反応装置を用いて、エステル化および/またはエステル交換の工程と減圧重縮合の工程の2段階で行い、減圧重縮合の反応器としては、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管を具備した攪拌槽型反応器を使用する方法が挙げられる。また、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の間には、凝縮器が結合されており、該凝縮器にて縮重合反応中に生成する揮発成分や未反応モノマーが回収される方法が好んで用いられる。
【0044】
本発明において、目的とする重合度の脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を得るための脂肪族または脂環式ジオール成分と脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分とのモル比は、その目的や原料の種類により好ましい範囲は異なるが、酸成分1モルに対するジオール成分の量が、下限が通常0.8モル以上、好ましくは、0.9モル以上であり、上限が通常1.5モル以下、好ましくは1.3モル以下、特に好ましくは1.2モル以下である。また、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)には、生分解性に影響を与えない範囲で、ウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等を導入することができる。
【0045】
本発明に用いられる脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は十分に結晶化速度が高いものであり、示差走査熱量計測定において10℃/分で冷却した際の結晶化に基づく発熱ピークの半値幅が、通常、15℃以下、好ましくは10℃以下、特に好ましくは8℃以下である。なお示差走査熱量計測定は、例えばパーキンエルマー社製DSC7を用い、10mgのサンプルを流量50mL/分の窒素気流下で加熱溶融させた後、10℃/分の速度で冷却し、結晶化に伴う発熱ピークを記録することにより実施される。
【0046】
本発明に用いられる脂肪族ポリエステル系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kg荷重で測定した場合、下限が通常、0.1g/10分以上であり、上限が通常、100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは30g/10分以下である。
【0047】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)は、含有する低分子量オリゴマーが成形後時間とともに成形体表面に噴出し外観を損ねることがある。低分子量オリゴマーの分子量が2000以下、特に1000以下で、かつその含有量が1000ppm以上、特に1500ppm以上の場合に、オリゴマー噴出による外観悪化傾向は顕著になる。特に、低分子量オリゴマーが上記式(1)および式(2)の構成単位から構成されている場合、またこれら構成単位が環状構造を形成する場合に外観悪化傾向はさらに顕著になる。ここでいう環状構造とは、例えば2個の1,4−ブタンジオール単位(BG)と2個のコハク酸(SA)単位とからなる
【0048】
【化3】

のような構造を指す。しかし、本発明においては、後記の芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)との組成物にすることにより、このようなオリゴマー噴出は抑制され、外観悪化を改善することができる。
【0049】
さらに、本発明の製造方法の途中または得られる脂肪族ポリエステル系樹脂(A)には、その特性が損なわれない範囲において各種の添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤および紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【0050】
<芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)>
本発明において使用される芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)は、下記式(4)で表される脂肪族または脂環式ジオ−ル単位、下記式(5)で表される脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位、ならびに下記式(6)で表される芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とする。
【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
【化6】

【0054】
式(4)中、Rは2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を、式(5)中、Rは直接結合、2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を、式(6)中、Rは2価の芳香族炭化水素基を表す。
【0055】
式(4)の脂肪族または脂環式ジオール単位を与える脂肪族または脂環式ジオール成分は、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でもエチレングリコール、1,4−ブタンジオールが好ましく、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。
【0056】
式(5)の脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位を与える脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分は、Rの炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、中でもコハク酸、アジピン酸が好ましい。
【0057】
式(6)の芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、中でもテレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。
【0058】
本発明において使用される芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)において生分解性を発現させるためには芳香環の合間に脂肪族鎖が存在することが必要である。そのため、芳香族−脂肪族族共重合ポリエステル系樹脂(B)中の芳香族ジカルボン酸単位の量は、脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位の全量に対し、下限が5モル%以上、好ましくは、10モル%以上、特に好ましくは15モル%以上であり、上限が50モル%以下、好ましくは48モル%以下である。この量が少なすぎると脂肪族ポリエステル系樹脂(A)との組成物とした際、引き裂き強度等の力学強度改良効果が低くなる。また多すぎると生分解性が不十分となる傾向がある。
【0059】
なお、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分、脂肪族または脂環式ジオール成分および芳香族ジカルボン酸成分は、それぞれ2種類以上を混合して用いることもできる。
【0060】
さらに、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)には、脂肪族オキシカルボン酸単位が含有されていてもよい。
【0061】
脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸としては、上記した脂肪族ポリエステル系樹脂(A)におけるものと同様のものを用いることができる。また、樹脂中への含有量についても同様である。
【0062】
芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)は、上記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と同様の製法により製造することができる。
【0063】
芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、下限が通常、0.1g/10分以上であり、上限が通常100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは30g/10分以下である。
【0064】
<脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)>
本発明の農業用マルチフィルムを構成する表層および/または裏層は、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)を含有していることが好ましい。脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)は、下記式(7)で表される脂肪族オキシカルボン酸単位を必須成分とする脂肪族オキシカルボン酸系樹脂である。
【0065】
【化7】

【0066】
式(7)中、Rは2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を表す。式(7)の脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸としては、上記した脂肪族ポリエステル系樹脂(A)におけるものと同様のものを用いることができる。
【0067】
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)の製法は、特に限定されるものではなく、オキシカルボン酸の直接重合法、あるいは環状体の開環重合法等公知の方法で製造することができる。
【0068】
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、下限が通常、0.1g/10分以上であり、上限が通常100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは30g/10分以下である。
【0069】
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)を配合することで、フィルムの引き裂き強度や衝撃強度が改良される。脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)の配合量は、各層における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の合計100質量部に対し、下限が1質量部以上、好ましくは、2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であり、上限が50質量部以下、好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。この量が多すぎても、少なすぎても引き裂き強度等の力学強度改良効果が低くなる傾向がある。
【0070】
<カルボジイミド化合物>
本発明の農業用マルチフィルムにおける表層および/または裏層は、カルボジイミド化合物を含有していることが好ましい。これにより、主に大気中の水分等による加水分解を抑制することができる。用いられるカルボジイミド化合物は、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)であり、このようなカルボジイミド化合物は、例えば触媒として有機リン系化合物または有機金属化合物を用いて、イソシアネート化合物を70℃以上の温度で、無溶媒または不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応させることにより合成することができる。
【0071】
上記のカルボジイミド化合物のうち、モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等を例示することができる。これらの中では、工業的に入手が容易であるので、ジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドが好ましい。
【0072】
またポリカルボジイミド化合物としては、例えば米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28巻、p2069−2075(1963)、およびChemical Review 1981、81巻、第4号、p.619−621等に記載された方法により製造したものを用いることができる。
【0073】
ポリカルボジイミド化合物の製造原料である有機ジイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルジイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等を例示することができる。
【0074】
これらのポリカルボジイミド化合物の合成時には、モノイソシアネートやその他の末端イソシアネート基と反応可能な活性水素含有化合物等を用いて、所望の重合度に制御することもできる。このような目的に用いられる化合物としては、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物、メタノール、エタノール、フェノール、シクロヘキサノール、N−メチルエタノールアミン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等の水酸基含有化合物、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、β−ナフチルアミン、シクロヘキシルアミン等のアミノ基含有化合物、コハク酸、安息香酸、シクロヘキサン酸等のカルボキシル基含有化合物、エチルメルカプタン、アリルメルカプタン、チオフェノール等のメルカプト基含有化合物、および種々のエポキシ基含有化合物等を例示することができる。
【0075】
本発明においては、カルボジイミド化合物としては、ポリカルボジイミド化合物を用いることが好ましく、その重合度は、下限が2以上、好ましくは4以上であり、上限が通常40以下、好ましくは、20以下である。この重合度が大きすぎると組成物中における分散性が不十分となり、例えばインフレフィルムにおいて外観不良の原因になったりする。
【0076】
有機ジイソシアネートの脱炭酸縮合反応に用いられるカルボジイミド化触媒としては、有機リン系化合物や一般式(8)
【0077】
【化8】

で示される有機金属化合物(但し、Mはチタン、ナトリウム、カリウム、バナジウム、タングステン、ハフニウム、ジルコニウム、鉛、マンガン、ニッケル、カルシウムやバリウム等の金属原子を、Rは炭素原子数1〜20のアルキル基または炭素原子数6〜20のアリール基を示し、nは金属原子Mが取り得る原子価を示す)が好適である。中でも、有機リン系化合物ではホスフォレンオキシド類が、有機金属化合物では、チタン、ハフニウム、ジルコニウムのアルコシド類が活性が高く好ましい。
【0078】
ホスフォレンオキシド類の具体例としては、3−メチル−1−フェニル−2−ホスフォレン−1−オキシド、3−メチル−1−エチル−2−ホスフォレン−1−オキシド、1,3−ジメチル−2−ホスフォレン−1−オキシド、1−フェニル−2−ホスフォレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスフォレン−1−オキシド、1−メチル−2−ホスフォレン−1−オキシドおよびこれらの二重結合異性体を例示することができる。中でも工業的に入手が容易な3−メチル−1−フェニル−2−ホスフォレン−1−オキシドが特に好ましい。カルボジイミド化合物は単独または複数の化合物を混合して使用することができる。
【0079】
本発明の農業用マルチフィルムにおける表層および/または裏層へのカルボジイミド化合物の配合量は、各層における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)および芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の合計量100質量部あたり、下限が通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、特に好ましくは0.1質量部以上、上限が通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。配合量が少なすぎると、加水分解抑制効果が不十分となる傾向があり、多すぎると添加効果は飽和し、添加量の増加に見合う効果が得られない。
【0080】
<層構成>
(表層)
表層を構成する樹脂組成物(I)における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の配合量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の合計量を100質量%として、下限が35質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましく45質量%以上であり、上限が85質量%以下、好ましくは80質量%以下である。
【0081】
また、樹脂組成物(I)における芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の配合量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の合計量を100質量%として、下限が15質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、上限が65質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。
【0082】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が多すぎると引き裂き強度等の力学強度改良効果が低くなる。また少なすぎると成形体表面がべたつき、例えばインフレフィルムの口開き性が悪くなったり、厚みムラが顕著になるとともに、生分解性が劣る傾向がある。
【0083】
樹脂組成物(I)における酸化チタンの配合量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)合計量100質量部に対して、下限が10質量部、好ましくは15質量部、より好ましくは20質量部であり、上限は50質量部、好ましくは45質量部、より好ましくは40質量部である。
【0084】
酸化チタンの配合量が少なすぎるとフィルムの白色度が低下し、マルチフィルムとしての機能が不十分になる。一方、多すぎると、フィルム中の酸化チタン含有量が高くなりすぎ、フィルム物性が著しく低下する。
【0085】
(裏層)
裏層を構成する樹脂組成物(II)における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の配合量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の合計量を100質量%として、下限が55質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましく65質量%以上であり、上限が85質量%以下、好ましくは80質量%以下である。
【0086】
また、樹脂組成物(II)における芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の配合量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の合計量を100質量%として、下限が15質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、上限が45質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0087】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が多すぎると引き裂き強度等の力学強度改良効果が低くなる。また少なすぎると成形体表面がべたつき、例えばインフレフィルムの口開き性が悪くなったり厚みムラが顕著になるとともに、生分解性が劣る傾向がある。
【0088】
樹脂組成物(II)におけるカーボンブラックの配合量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)合計量100質量部に対して、下限が1質量部、好ましくは1.2質量部、より好ましくは1.4質量部であり、上限が5質量部、好ましくは4質量部、より好ましくは3質量部である。
【0089】
カーボンブラックの配合量がこれより少なくなるとフィルムの黒色度が低下し、マルチフィルムとしての機能が不十分になる。一方、多すぎると、カーボンブラック凝集物等による穴開きが起き易くなる。
【0090】
<樹脂組成物(I)、(II)>
本発明において表層・裏層を構成する樹脂組成物(I)・(II)には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の生分解性樹脂、例えば、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロースエステル等や澱粉、セルロース、紙、木粉、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、クルミ殻粉末等の動物/植物物質微粉末またはこれらの混合物を配合することができる。
【0091】
さらに、成形体の物性や加工性を調整する目的で、熱安定剤、可塑剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、無機フィラー、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤、改質剤、架橋剤等を添加することも可能である。特に、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩を、例えば、各層における脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)の合計100質量部に対し、下限が0.03質量部以上、上限が10質量部以下配合すると、フィルム外観や成形性が安定する。
【0092】
本発明の樹脂組成物(I)および(II)の調整方法は、特に限定されることはなく従来既知の各種方法、手順で行われる。すなわち、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)、そして必要に応じて脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)のペレットを同一の押出機で溶融混合する方法、各々別々の押出機で溶融させた後に混合する方法等が挙げられる。
【0093】
カルボジイミド化合物は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)や芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)、または、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)の重合製造時に添加しても良いし、押出機で樹脂を溶融混合する際に添加しても良いが、好ましくは後者である。カルボジイミド化合物を押出機に投入する場合、樹脂を押出機に投入するどの段階で添加してもよい。これは、その他各種添加剤を混合する際も同様である。すなわち、ペレットの投入口に投入してもよいし、押出機途中に別途投入口を設けて投入してもよい。また、少なくとも一つの樹脂成分に練り混んで一旦ペレット化し、成形時に他の樹脂成分のペレットとブレンドして成形するような方法を取ってもよい。さらに、少なくとも一つの樹脂成分で高濃度のカルボジイミド化合物等の各種添加剤のマスターバッチを調整して、成形時に当該添加剤濃度が所定濃度となるように各種樹脂成分をブレンドして希釈するような方法も挙げられる。
【0094】
<成形法>
樹脂組成物(I)(II)を成形してマルチフィルムにするには通常、Tダイ、Iダイ、丸ダイ等から所定の厚み、層構成で押し出す方法が取られる。具体的には、複数台の押出機と多層成形の可能なダイスを有する、空冷および水冷のインフレーション成形、冷却ロールを使用するTダイ成形が実施される。インフレーション成形の場合、樹脂が押し出されてくるダイスの隙間(リップ)は通常0.5mm〜3mmであり、その幅が小さいほど、フィルム物性の縦横バランスが良好となる。また、ブロー比は通常1.5〜5.0であり、ブロー比が大きいほどフィルム物性の縦横バランスがよくなる傾向がある。成形温度は樹脂の融点以上であれば可能であるが、通常150℃〜220℃の範囲で行われる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0096】
なお、以下の例における結晶化温度は、パーキンエルマー社製、示差走査熱量計、製品名:DSC7を用い、10mgのサンプルを流量50mL/分の窒素気流下で加熱溶融させた後、10℃/分の速度で冷却する際の結晶化ピーク温度とした。また、引き続き10℃/分の速度で昇温する際の融解ピーク温度およびガラス転移開始温度をそれぞれ融点およびガラス転移温度とした。
【0097】
(1)脂肪族ポリエステル系樹脂(A)
<脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)>
撹拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計および減圧口を備えた容量1立方メートルの反応容器に、コハク酸134kg、1,4−ブタンジオール116リットル、DLリンゴ酸0.24kg、酸化ゲルマニウムを予め1質量%溶解させた90%DL乳酸水溶液7.21kgを仕込んだ。容器内容物を撹拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下120℃から反応を開始し、1時間40分かけて200℃まで昇温した。引き続き、1時間25分かけて230℃に昇温すると同時に1mmHg(133Pa)まで減圧し、230℃、1mmHg(133Pa)にて4時間20分重合を行い、脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)を得た。
【0098】
得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)のMFR(190℃、2.16kg荷重)は4.2g/10分、結晶化温度は82℃であった。また、融点は110℃であった。
【0099】
<脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)>
撹拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計および減圧口を備えた容量1立方メートルの反応容器に、コハク酸76.9kg、アジピン酸24.8kg、1,4−ブタンジオール84.3リットル、DLリンゴ酸0.24kg、酸化ゲルマニウムを予め1質量%溶解させた90%DL乳酸水溶液5.4kgを仕込んだ。容器内容物を撹拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下120℃から反応を開始し、1時間40分かけて200℃まで昇温した。引き続き、1時間25分かけて230℃に昇温すると同時に1mmHg(133Pa)まで減圧し、230℃、1mmHg(133Pa)にて4時間重合を行い、脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)を得た。
【0100】
得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(A2)のMFR(190℃、2.16kg荷重)は4.2g/10分、結晶化温度は58℃であった。また、融点は88℃であった。
【0101】
(2)芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)
<芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B1)>
芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B1)として、ビー・エー・エス・エフ ジャパン社製のポリブチレンテレフタレートアジペート「エコフレックス」を用いた。この樹脂のMFR(190℃、2.16kg荷重)は4.3g/10分であった。なお、H−NMR測定によると、「エコフレックス」を構成するモノマーの組成は、テレフタル酸/アジピン酸/1,4−ブタンジオール=87/100/187モル比であった。
【0102】
(3)脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)
<脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)>
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)として、三井化学社製のポリ乳酸「レイシアH−100」を用いた。この樹脂のMFR(190℃、2.16kg荷重)は8.3g/10分であった。なお、融点は166℃、ガラス転移温度は59℃であった。
【0103】
(4)カルボジイミド化合物
ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートを縮合して得られたポリカルボジイミド(軟化温度70℃、熱分解温度340℃、重合度8〜12)を用いた。
【0104】
(5)酸化チタン
酸化チタン含量が60質量%である酸化チタンマスターバッチを用いた。なお該マスターバッチのベース樹脂は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)であり、以下では「白MB」と呼ぶ。
【0105】
(6)カーボンブラック
カーボンブラック含量が30質量%であるカーボンブラックマスターバッチを用いた。なお該マスターバッチのベース樹脂は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)であり、以下では「黒MB」と呼ぶ。
【0106】
<実施例1〜5および比較例1〜6>
脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)および(A2)、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B1)、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C1)、カルボジイミド化合物、酸化チタン(白MB)、カーボンブラック(黒MB)を表1(実施例)および表2(比較例)に示した配合にて、190℃において二軸混練機にて混練し、175℃でインフレ成形し、20μm厚みのフィルムを得た。なおインフレチューブ外側を白色層とし内側を黒色層とした。
【0107】
得られたフィルムにつき、以下の評価を実施した。結果を表1(実施例)および表2(比較例)に示す。なお、MDとはフィルム成形時の流れ方向、TDとはその直角方向を表す。
【0108】
<フィルム外観(厚みムラ)>
成形フィルムを目視で判断した。
○:筋ムラが殆ど見られない。
△:筋ムラが若干認められる。
×:筋ムラが顕著に認められる。
【0109】
<引張特性(引張破断伸び)>
JIS K6781に準拠して測定した。
【0110】
<エルメンドルフ引裂強度(引裂強度)>
JIS K7128に準拠して測定した。
【0111】
<打ち抜き衝撃強度>
東洋精機社製フィルムインパクトテスターを用い、直径50mmのフィルムの打ち抜き衝撃強度をJIS P8134に準じて測定した。なお、インパクトテスター打ち抜き部先端には直径25.4mmの半球状金属製治具を取り付けて評価を行った。
【0112】
<加水分解性>
引張特性測定用サンプル(MD方向)を50℃、90%RHの状態に30日間保持した。23℃、50%RH雰囲気下で24時間以上状態調節後、サンプルの引張測定を行い、その引張破断伸びの初期値に対する保持率で評価した。
【0113】
<生分解性>
圃場に埋設し、その生分解性を観察した。
○:6ヶ月後にフィルムに穴あきが認められる。もしくは消失している。
×:6ヶ月後に外観に変化がない。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う農業用マルチフィルムもまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記組成物からなる表層および裏層の2層を備えたフィルムであって、
表層:脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を35質量%以上85質量%以下、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)を15質量%以上65質量%以下の割合で含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物100質量部に対し酸化チタンを10質量部以上50質量部以下添加した樹脂組成物(I)、
裏層:脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を55質量%以上85質量%以下、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)を15質量%以上45質量%以下の割合で含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物100質量部に対しカーボンブラックを1質量部以上5質量部以下添加した樹脂組成物(II)、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂(A)が、脂肪族または脂環式ジオール単位、ならびに脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位を必須成分とする脂肪族ポリエステル系樹脂であり、
前記芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(B)が、脂肪族または脂環式ジオール単位、脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位、ならびに芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とし、芳香族ジカルボン酸単位の含量が、脂肪族または脂環式ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位との合計に対し、5モル%以上50モル%以下である芳香族−脂肪族共重合ポリエステル系樹脂である、農業用マルチフィルム。
【請求項2】
前記表層および/または前記裏層が、前記樹脂組成物(I)または(II)それぞれ100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下の脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)を含有し、該脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(C)が脂肪族オキシカルボン酸単位を必須成分とする樹脂である、請求項1に記載の農業用マルチフィルム。
【請求項3】
前記表層および/または前記裏層が、前記樹脂組成物(I)または(II)それぞれ100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下のカルボジイミド化合物を含有する、請求項1または2に記載の農業用マルチフィルム。
【請求項4】
前記カルボジイミド化合物が、重合度2以上40以下のポリカルボジイミド化合物である、請求項3に記載の農業用マルチフィルム。

【公開番号】特開2009−72113(P2009−72113A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244098(P2007−244098)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】