説明

農業用土壌加熱システム

【課題】農作物等が植えられる農業用土壌を加温して生育を効率的に促進する。周りを下側から加温することにより暖房コストを低減して充分な生産利益を確保する。
【解決手段】農業用土壌は、マイクロ波吸収材を所定の割合で含有して培養土等と配合すると共に農業用土壌には、マイクロ波発振器に接続され、側面に多数のマイクロ波射出孔が形成されたマイクロ波導波管を埋設し、マイクロ波射出孔から出力されるマイクロ波を農業用土壌中のマイクロ波吸収材によるマイクロ波吸収作用により農業用土壌を加温する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜等の農作物や樹木の苗を生育するのに使用する農業用土壌を加熱して生育を促進する農業用土壌加熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物や樹木の苗(以下、農作物等と称する。)を生育するには、農業用ハウス内に盛り土された農業用土壌に種や苗を植え付け、土壌の養分、湿度、温度等を制御して生育状態を管理可能にしている。特に、冬季等においては、農業用ハウス内を、農作物等の生育に適した温度に加温するには、例えばハウス内に配管されたダクト内に、ボイラー等により加熱された空気を供給して循環させてハウス内の空気を所定の温度に加温するハウス加熱システムが広く採用されている。
【0003】
しかし、上記した加熱システムにあっては、ハウス内の雰囲気を所定の温度に加熱するだけで、農作物等が植えられる農業用土壌を、生育に適した温度に加温することが困難であった。特に、種や苗にあっては、農業用土壌自体を加温することにより短期間の生育を可能にすることができるが、上記加熱システムでは、先ずハウス内の雰囲気を加熱し、その熱で農業用土壌を加熱するため、農業用土壌の加熱に時間がかかり、生育効率が悪かった。
【0004】
また、近年、重油等の化石燃料コストが増大する傾向にあるため、農作物等の生産コストにおいて、ハウス内の暖房に要するコストが著しく高くなり、充分な利益を確保できない問題を有している。また、ハウス内を加温するのに消費する重油等にあっては、そのときの国際情勢や経済情勢等により影響されて価格が変動しやすく、農作物等を安定的に生産する点において、問題を有している。
【特許文献1】特開 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、従来は、ハウス内の雰囲気を加温するだけで、農業用土壌自体を効率的に加温することが困難な点にある。ハウス内の暖房に要するコストが著しく高くなり、充分な利益を確保できない問題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1は、農作物等が植えられる農業用土壌を、生育に適した温度に加温する農業用土壌加熱システムにおいて、農業用土壌は、マイクロ波吸収材を所定の割合で含有して培養土等と配合すると共に農業用土壌には、マイクロ波発振器に接続され、側面に多数のマイクロ波射出孔が形成されたマイクロ波導波管を埋設し、マイクロ波射出孔から出力されるマイクロ波を農業用土壌中のマイクロ波吸収材によるマイクロ波吸収作用により農業用土壌を加温することを特徴とする。
【0007】
請求項7は、農作物等が植えられる農業用土壌を、生育に適した温度に加温する農業用土壌加熱システムにおいて、農業用土壌は、マイクロ波吸収材を所定の割合で含有して培養土等と配合した第1層及びマイクロ波吸収材の配合率が低い、または培養土等のみとした第2層とすると共に農業用土壌の第1層中には、マイクロ波発振器に接続され、側面に多数のマイクロ波射出孔が形成されたマイクロ波導波管を埋設し、マイクロ波発振器の発振駆動に伴ってマイクロ波導波管内を伝搬してマイクロ波射出孔から出力されるマイクロ波を農業用土壌中の第1層のマイクロ波吸収材に吸収させて加熱することにより農業用土壌を加温することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、農作物等が植えられる農業用土壌を加温して生育を効率的に促進することができる。雰囲気の温度を下側から加温することができ、暖房コストを低減して充分な生産利益を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、農業用土壌は、マイクロ波吸収材を所定の割合で含有して培養土等と配合すると共に農業用土壌には、マイクロ波発振器に接続され、側面に多数のマイクロ波射出孔が形成されたマイクロ波導波管を埋設し、マイクロ波射出孔から出力されるマイクロ波を農業用土壌中のマイクロ波吸収材によるマイクロ波吸収作用により農業用土壌を加温することを最良の形態とする。
【実施例1】
【0010】
以下に実施形態を示す図に従って本発明を説明する。
図1及び図2に示すように、農業ハウス(図示せず)内には、農作物等の栽培用で農業用土壌としての培養土1が、適宜の間隔をおいて畝状に盛り土されたり、培養土1が収容された多数の栽培用プランター3が、適宜の間隔をおいて配列されている。上記したように本発明において、農作物等とは、各種野菜や花類、樹木の苗等の植物を意味する。図1及び図2は、培養土1が収容された栽培用プランター3に本発明を適用する例を示す。
【0011】
培養土1は、有機肥料、化学肥料を含んだ土にマイクロ波吸収材5を所要の割合で含有するように配合調整される。マイクロ波吸収材5としては、酸化鉄、酸化スラグ等の磁性材からなるが、コスト、安全性(無毒性)の点から、電解炉酸化スラグが適している。該マイクロ波吸収材5としての酸化スラグは、所要の粒度に微粉砕され、容積比で15〜30%、好ましくは20%の割合で配合調整される。マイクロ波吸収材5の配合比率は、少ない場合には、培養土1を有効に加温できないと共に出力されるマイクロ波を有効に吸収することができず、マイクロ波が作業者に照射されて電磁波障害を発生させる恐れが高くなる。反対に、配合比率が高い場合には、農作物等の生育に必要な養分が少なくなり、農作物を効率的に生育させることが困難になる。
【0012】
栽培用プランター3の底板中央部上には、該栽培用プランター3の長手方向に一致する長さのマイクロ波導波管7が配置される。該マイクロ波導波管7は、例えばステンレス鋼、鉄等の金属材で、内部に長手方向に延出する導波路としての中空部を有している。また、該マイクロ波導波管7の図示する上板には、多数のマイクロ波出力孔7aが長手方向に対して適宜の間隔をおいて形成される。該マイクロ波出力孔7aは、後述するマイクロ波の波長の1/4以上の幅で形成される。また、マイクロ波導波管7の上面には、合成樹脂板又はガラス板等の気密板9が固着され、該気密板9は、マイクロ波出力孔7aを閉鎖して水の浸入を規制する。
【0013】
上記マイクロ波導波管7の一方端部には、マイクロ波発振手段11が接続され、発振したマイクロ波をマイクロ波導波管7内に出力して伝搬させる。該マイクロ波発振手段11は、マイクロ波数帯域(2〜10GHz)のマイクロ波を、例えば0.5〜5kWで出力するマグネトロンや、レーザダイオード及び多段増幅器から構成される半導体マイクロ波発振手段等により構成される。マイクロ波としては、電波法等により、工業用、科学用、医療用等の用途に割当てられた、例えば2.45GHz帯域が好適であるが、上記周波数及び出力に限定されるものではなく、周波数に関しては、約1〜20GHzの範囲で適宜選択すればよい。
【0014】
なお、マイクロ波導波管7の他端部は、閉鎖され、その内部には、伝搬されるマイクロ波をマイクロ波吸収板(図示せず)が設けられる。これにより、マイクロ波導波管7の他端部に伝搬されたマイクロ波は、該マイクロ波吸収板により吸収され、一方端部側(マイクロ波発振手段11が取付けられた側)へ反射されて伝搬するのを規制する。
【0015】
図3に示すように、制御回路13には、マイクロ波発振手段11に接続された電源回路15をON−OFF制御する電源駆動回路17が接続される。また、制御回路13には、培養土1中に埋設された温度センサー19が接続される。更に、制御回路13には、可変抵抗器等により構成される温度設定回路21が接続され、培養土1の加温温度を設定する。
【0016】
次に、マイクロ波を使用した培養土1の加温作用を説明する。
マイクロ波導波管7の上に所要の厚さで盛り土された培養土1に農作物等を植えた状態で、マイクロ波発振手段11に電源電圧を印加してマイクロ波を発振駆動させると、出力されるマイクロ波は、マイクロ波導波管7内を伝搬させられ、一部がマイクロ波出力孔7aを介して培養土1中に出力される。培養土1中に出力されたマイクロ波は、マイクロ波吸収材5に照射されると、該マイクロ波吸収材5による磁気損失及び電界損失により熱エネルギーに変換することにより吸収する。これによりマイクロ波吸収材5は、上記したマイクロ波の吸収作用により発熱し、培養土1を加温させる。(図4参照)
【0017】
そして温度センサー19により検知される培養土1の温度が、温度設定回路21により予め設定された所定の温度に達したとき、マイクロ波発振手段11に対する電源電圧の印加を中断し、マイクロ波の発振を停止させる。これにより培養土1をマイクロ波により加温し、ほぼ一定の温度に保たせる。
【0018】
図5は、マイクロ波の出力時間に対する培養土1中の各位置における温度データを示す。該温度データは、マイクロ波の周波数:2.45GHz、マイクロ波発振手段の出力:500W、マイクロ波導波管の長さ:3m、マイクロ波出力孔の幅:30mm、マイクロ波出力孔の相互幅:10mmの場合を示す。
【0019】
培養土1中に出力されるマイクロ波は、その多くがマイクロ波吸収材5に吸収されて外部に漏出する危険性が低いが、一部のマイクロ波は、マイクロ波吸収材5に吸収されずに外部に漏出して作業者や設置された電子機器に障害をもたらす恐れがある。これを防止するため、培養土1の表面に、金属薄膜がコーティングされたシールドシートを掛け、外部に漏出するマイクロ波を培養土1側へ反射させることにより漏出を防止することができる。なお、シールドシートとしては、マイクロ波の波長の1/4以下の大きさからなる多数の孔または開口が形成されたものであってもよい。
【0020】
また、培養土1中に出力されるマイクロ波の漏出を防止するには、図6に示すように培養土1を、マイクロ波吸収材が多く配合され、マイクロ波導波管7側に盛り土される第1層1aと、マイクロ波吸収材が含有されていないか、またはその配合量が少なく、第1層1a上に盛り土される第2層1bとし、出力されるマイクロ波を、主に第1層1a中の培養土1に配合されたマイクロ波吸収材5により吸収して加温するものとしてもよい。この場合にあっては、第1層1aと第2層1bの間に、マイクロ波の波長の1/4以下の大きさからなる多数の孔51aが形成されて透水可能で、金属薄膜がコーティングされたシールドシート51を介在し、第1層1aを通過したマイクロ波を第1層13a側へ反射して戻すことにより培養土1を効率的に加温することを可能にすると共にマイクロ波が第2層1bを通過して外部に漏出するのを防止することができる。
【0021】
上記説明は、培養土1中に配合されたマイクロ波吸収材5によりマイクロ波を吸収して培養土1を加温するものとしたが、実際の培養土1には、水分が含まれている。このため、培養土1にマイクロ波を出力した際には、含まれた水分がマイクロ波により加熱され、この水分の加熱とマイクロ波吸収材5による加熱との相乗効果により培養土1を効率的に加温することができる。
【0022】
上記説明は、栽培用プランター3の底板上にマイクロ波導波管を配置して培養土を盛り土するものとしたが、栽培用プランター3を使用せず、畝状に盛り土された培養土の下方にマイクロ波導波管を直接配置して培養土を加温可能にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】農業用土壌加熱システムの概略を示す説明図である。
【図2】図1のA−A線縦断面図である。
【図3】農業用土壌加熱システムの制御概略を示す電気的ブロック図である。
【図4】マイクロ波による培養土の加温作用を示す説明図である。
【図5】マイクロ波の出力時間に対する培養土中の各位置における温度データを示す表である。
【図6】本発明の変更例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 農業用土壌としての培養土
1a 第1層
1b 第2層
3 栽培用プランター
5 マイクロ波吸収材
7 マイクロ波導波管
7a マイクロ波出力孔
9 気密板
11 マイクロ波発振手段
13 制御回路
15 電源回路
17 電源駆動回路
19 温度センサー
21 温度設定回路
51 シールドシート
51a 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物等が植えられる農業用土壌を、生育に適した温度に加温する農業用土壌加熱システムにおいて、
農業用土壌は、マイクロ波吸収材を所定の割合で含有して培養土等と配合すると共に、
農業用土壌には、マイクロ波発振器に接続され、側面に多数のマイクロ波射出孔が形成されたマイクロ波導波管を埋設し、
マイクロ波発振器の発振駆動に伴ってマイクロ波導波管内を伝搬してマイクロ波射出孔から出力されるマイクロ波を農業用土壌中のマイクロ波吸収材に吸収させて加熱することにより農業用土壌を加温する農業用土壌加熱システム。
【請求項2】
請求項1において、マイクロ波吸収材は、酸化鉄とした農業用土壌加熱システム。
【請求項3】
請求項2において、酸化鉄は、酸化スラグである農業用土壌加熱システム。
【請求項4】
請求項1において、多数のマイクロ波射出孔が形成されたマイクロ波導波管の側面には、防水板を設けてマイクロ波射出孔を遮蔽した農業用土壌加熱システム。
【請求項5】
請求項1において、マイクロ波導波管の側面に設けられた各マイクロ波射出孔には、防水材を充填し遮蔽した農業用土壌加熱システム。
【請求項6】
請求項1において、農業用土壌に含有されるマイクロ波吸収材は、容積比で15乃至30%とした農業用土壌加熱システム。
【請求項7】
農作物等が植えられる農業用土壌を、生育に適した温度に加温する農業用土壌加熱システムにおいて、
農業用土壌は、マイクロ波吸収材を所定の割合で含有して培養土等と配合した第1層及びマイクロ波吸収材の配合率が低い、または培養土等のみとした第2層とすると共に、
農業用土壌の第1層中には、マイクロ波発振器に接続され、側面に多数のマイクロ波射出孔が形成されたマイクロ波導波管を埋設し、
マイクロ波発振器の発振駆動に伴ってマイクロ波導波管内を伝搬してマイクロ波射出孔から出力されるマイクロ波を農業用土壌中の第1層のマイクロ波吸収材に吸収させて加熱することにより農業用土壌を加温する農業用土壌加熱システム。
【請求項8】
請求項7において、農業用土壌の第1層及び第2層の間には、マイクロ波波長の1/4以下の大きさからなる多数の孔が形成された金属シートを有したシールドシートを設けた農業用土壌加熱システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−51273(P2010−51273A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221696(P2008−221696)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(505384483)株式会社巧 (9)
【出願人】(508323355)有限会社カネ鉄商会 (5)
【Fターム(参考)】