説明

農産物の熟成の進行を制御するシクロプロペン発生装置

植物の熟成の進行を促進するエチレンの作用を阻害するシクロプロペン化合物を直接その場で調製および塗布することが可能な、シクロプロペン化合物の発生装置が提供される。装置は、シクロプロペン化合物の前駆体(“シクロプロペン前駆体”)を貯蔵する第一貯蔵部と、シクロプロペン前駆体を化学反応によりシクロプロペン誘導体に変換する反応試薬を貯蔵する第二貯蔵部と、シクロプロペン前駆体と反応試薬の化学反応により生成するシクロプロペン誘導体を噴霧する噴霧部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロプロペン化合物を発生する装置に関する。より詳細には、本発明は、果物、花、野菜等の植物の熟成の進行に関与するエチレンの作用を阻害することが知られている、シクロプロペン、1−メチルシクロプロペン等のシクロプロペン化合物を必要に応じてその場で(in situ)簡便に調製および噴霧することが可能な、シクロプロペン化合物を発生する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ハロゲン化アリルと強塩基の反応によりシクロプロペン誘導体を調製することができる(非特許文献1,2)。更に、特許文献1を含む近年の幾つかの刊行物を参照すると、シクロプロペン、1−メチルシクロプロペン等の構造が比較的簡単なシクロプロペン化合物は、植物の熟成の進行に関して優れた阻害作用を示すことが分かっている(非特許文献3〜7)。
【0003】
特に、シクロプロペン化合物の中でも、シクロプロペン(沸点:−36〜−35℃/744mmHg)および1−メチルシクロプロペン(沸点:12℃/760mmHg)は、室温で気相状態にあり、故に、追加の噴霧装置を用いなくても、農産物の貯蔵空間全体を容易に処理することができる。
しかし、シクロプロペンや1−メチルシクロプロペン等のシクロプロペン化合物は、化学的に不安定である。従って、かかるシクロプロペン化合物を低温(−100℃以下)で貯蔵しない場合、これらの化合物は二量化等により化学的特性を容易に損なう可能性がある。これらの化合物の貯蔵に関連した問題を解消するために、シクロプロペン化合物の安全な貯蔵方法を見出そうとする広範な研究が、鋭意進められてきた。
【0004】
例えば、特許文献2〜7には、シクロプロペン誘導体、特に1−メチルシクロプロペンの安全な貯蔵方法および標的部位へのその塗布が開示されている。即ち、これらの特許文献には、1−メチルシクロプロペン等の小さな分子をα−シクロデキストリン等の巨大分子に封入するカプセル化が開示されている。より詳細には、1−メチルシクロプロペンはα−シクロデキストリンを用いて安全に貯蔵され、1−メチルシクロプロペンを含有するα−シクロデキストリン複合体は、その目的とする塗布に用いるために水で処理される。添加された水分子は次第にα−シクロデキストリンに浸透し、このようにして、1−メチルシクロプロペンが外側に放出されるようになり、そのため、放出された1−メチルシクロプロペンが植物に作用してエチレンの作用を阻害する。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,518,988号明細書
【特許文献2】米国特許第6,017,849号明細書
【特許文献3】米国特許第6,426,319号明細書
【特許文献4】米国特許第6,444,619号明細書
【特許文献5】米国特許第6,548,448号明細書
【特許文献6】米国特許第6,762,153号明細書
【特許文献7】米国特許第6,953,540号明細書
【非特許文献1】J.Org.Chem.,30(1965),2089−2090
【非特許文献2】J.Org.Chem.,36(1971),1320−1321
【非特許文献3】J.Agric.Food Chem.,53(2005),7565−7570
【非特許文献4】J.Agric.Food Chem.,51(2003),4680−4686
【非特許文献5】J.Agric. Food Chem.,51(2003),3858−3864
【非特許文献6】J.Agric. Food Chem.,51(2003),1189−1200
【非特許文献7】J.Agric. Food Chem.,47(1999),2847−2853
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の技術は、例えば、1−メチルシクロプロペンを調製する困難性、1−メチルシクロプロペンの調製後に1−メチルシクロプロペンをα−シクロデキストリンに吸着させる別の処理、1−メチルシクロプロペンを植物に処理するために、1−メチルシクロプロペン含有のα−シクロデキストリン複合体を水で処理して、複合体から1−メチルシクロプロペンを放出させるなど、様々な欠点があり、それ故に、上記処理のために長い処理時間およびノウハウに繋がり、そのため、処理コストが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するためには、以上に述べたように、シクロプロペン誘導体を簡素化された方法でその場で簡便に調製することが可能であって、これに続いて植物を直接上記誘導体で処理する技術開発の必要性が大いにある。
【0008】
従って、本発明は、以上の問題点および更に解消しなければならないその他の技術的問題を解決するためになされたものである。
具体的には、本発明の目的は、簡素化された方法により、貯蔵安定性の低いシクロプロペン誘導体をその場で簡便に調製し、即座に塗布することが可能な、シクロプロペン化合物の発生装置を提供することにある。
【0009】
本発明の態様によれば、前記および他の目的は、植物の熟成の進行を促進するエチレンの作用を阻害するシクロプロペン化合物を直接その場で調製および塗布することが可能な、シクロプロペン化合物の発生装置を提供することによって達成することができ、装置は、シクロプロペン化合物の前駆体(“シクロプロペン前駆体”)を貯蔵する第一貯蔵部と、シクロプロペン前駆体を化学反応によりシクロプロペン誘導体に変換する反応試薬を貯蔵する第二貯蔵部と、シクロプロペン前駆体と反応試薬の化学反応により生成するシクロプロペン誘導体を噴霧する噴霧部とを含む。
【0010】
従って、本発明のシクロプロペン化合物の発生装置は、植物の熟成の進行を阻害するシクロプロペン誘導体が化学的に不安定であることを考慮に入れて、化学的安定性が比較的高いシクロプロペン前駆体と、目的とする化合物への前駆体の化学的変換を引き起こすことが可能な反応試薬とが、個々に別の貯蔵部材に貯蔵されることを特徴とするものであって、シクロプロペン誘導体を使用したいと望むとき、反応試薬とシクロプロペン前駆体を接触させて互いを反応可能にし、これにより、所望の生成物を生成させ、その際適切に噴霧され、このようにして、シクロプロペン化合物の直接その場での調製および簡便な塗布をもたらすものである。
【0011】
第一および第二貯蔵部が反応物質を適切に貯蔵でき、塗布の際にこれらを排出できる限り、シクロプロペン前駆体を貯蔵する第一貯蔵部と反応試薬を貯蔵する第二貯蔵部との材料および構造は、特に限定されるものではない。例えば、貯蔵部材は、少なくとも一側に反応物質の供給出口を有すると共に、反応物質および試薬に不活性な材料で構成される容器の形態とすることができる。即ち、シクロプロペン前駆体を貯蔵する第一貯蔵容器と反応試薬を貯蔵する第二貯蔵容器とから、貯蔵部を構成することができる。
【0012】
特定の一実施の形態において、装置は第一貯蔵容器と第二貯蔵容器に選択的に相互接続する反応容器を更に含み、噴霧部は反応容器に接続することができる。従って、別々の貯蔵容器から供給されるシクロプロペン前駆体と反応試薬は反応容器内で接触して化学反応が生起し、これにより、シクロプロペン誘導体が生成し、得られるシクロプロペン誘導体は噴霧部を介して排出される。また、必要に応じて、噴霧部を反応容器にその一部として組み込むことができる。
【0013】
別の実施の形態において、噴霧部は、第二貯蔵容器に直接接続してもよく、さもなければ第二貯蔵容器にその一部として組み込まれてもよく、第一貯蔵容器は第二貯蔵容器と選択的に相互接続することができる。必要に応じて、装置を異なった構造で具現することができ、その場合、噴霧部は、第一貯蔵容器に直接接続するか、さもなければ第一貯蔵容器にその一部として組み込まれ、第二貯蔵容器は第一貯蔵容器と選択的に相互接続する。
【0014】
本明細書に用いられているように、“選択的に相互接続する”なる句は、必要に応じて、相互接続部が開成または閉成できることを意味する。このための一例として、各容器がパイプを介して相互接続すると共に、パイプが開閉式コック等の制御弁を備えた構造に関して述べることができる。更に別の実施の形態では、装置は、個々の容器が互いに隣接すると共に、相互接続用開口が隣接する領域に形成され、開閉式障壁が開口に取り付けられた構造を採ることができる。
【0015】
好ましい一実施の形態において、得られるシクロプロペン誘導体を容易に噴霧するために、装置は、噴霧部に向かう媒体としての搬送ガスの搬送供給部を更に含むことができる。搬送ガスとしては、窒素、空気等の不活性ガスを例示することができる。搬送供給部は、例えばガス流を引き起こす圧縮機とすることができる。搬送供給部は、反応容器に接続するか、或いは前述の実施の形態における第二貯蔵容器(または第一貯蔵容器)に接続し、これにより、噴霧部へのシクロプロペン誘導体の移行が容易になる。
【0016】
本発明の装置における噴霧部は、様々な構造を採ることができ、例えば、シクロプロペン誘導体の噴霧量および方向を制御するノズルと、液状シクロプロペン誘導体の蒸発を促進する加熱器と、反応から生じる化学的不純物を除去するフィルタとを任意に含むことができる。
【0017】
本発明の装置で調製されるシクロプロペン誘導体は、下記の式(I)で表される物質である。
【化1】

【0018】
ここで、Rは、水素;メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、フェニル、メトキシメチル、メトキシエチル、エトキシメチル、若しくはエトキシエチル等のC−C10のアルキル;または、酸素、窒素、硫黄、珪素若しくはハロゲン含有の置換アルキルである。
【0019】
好ましくは、シクロプロペン誘導体は、室温でガス状であるかまたは容易に蒸発可能な物質である。例えば、シクロプロペン、1−メチルシクロプロペン、1−エチルシクロプロペン、1−プロピルシクロプロペン、1−ブチルシクロプロペン、1−ペンチルシクロプロペン、1−ヘキシルシクロプロペン、1−ヘプチルシクロプロペン、1−オクチルシクロプロペン、およびこれらの組み合わせに関して述べることができる。
特に、シクロプロペンおよび1−メチルシクロプロペン自体は室温でガス状であり、それ故に、本発明の装置において追加の別の部材を用いることなく、これらのシクロプロペンを周囲に容易に排出することができる。しかも、その前駆体は化学的に安定であり、容易に貯蔵することができる。
【0020】
当該技術分野において公知の様々な合成法により、シクロプロペン誘導体を調製することができる。代表的な方法は次の通りである。
第一の方法として、ハロゲン化アリルまたはその同族体と塩基の反応により、シクロプロペン誘導体を調製することができる(前出の非特許文献1,2、米国特許第6,452,060号明細書)。
【0021】
上記合成法の反応式は下記の通りである。
【化2】

【0022】
第二の方法として、メチルリチウム等の強塩基と、ハロ−オレフィンおよびジハロカルベンの反応から容易に得ることができるトリハロシクロプロパンとの反応により、シクロプロペン誘導体を調製することができる。この方法では、当量の塩基を制御することによってハロシクロプロペンとシクロプロペニル・アニオンとを得ることができる(J.Chem.Soc.Perkin Trans.,1,1986,1845−1854;J.Chem.Soc.Perkin Trans.,1,1993,321−326)。
【0023】
具体的には、トリハロシクロプロパン量に対して2〜3当量の塩基を用いると、これにより、シクロプロペニル・アニオンを生成し、このアニオンは水と反応して直ちにシクロプロペン誘導体を生成する。上記合成法の反応式は下記の通りである。
【化3】

【0024】
第三の方法として、ハロシクロプロパンと塩基の反応により、シクロプロペン誘導体を簡単に調製することができる。ここで、オレフィンとジハロカルベンの反応から生成するジハロシクロプロペンを還元することによって、ハロシクロプロパンを調製することができる(Synthesis 1974,190;Russian J.of Org.Chem.,15(1979),853−859)。上記合成法の反応式は下記の通りである。
【化4】

【0025】
第四の方法として、1−トリアルキルシリル−2−ハロシクロプロパンまたはその化学同族体とフッ化アニオン(F−)との反応により、シクロプロペン誘導体を調製することができる(J.Am.Chem.Soc.,113,(1991),5084−5085(非特許文献8);J.Am.Chem.Soc.,113,(1991),7980−7984;Tetrahedron Lett.,36(1995),3457−3460;Tetrahedron Lett.,16(1975),3383−3386;J.Org.Chem.,65(2000),6217−6222;J.Chem.Soc.Perkin Trans.,1,1993,945)。
【0026】
上記合成法の反応式は下記の通りである。
【化5】

【0027】
反応式4において、Rが水素であると、Rは、水素、または、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル若しくはペンチル等のアルキルであり、Rが水素であると、Rは、水素、または、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル若しくはオクチル等のアルキルである。
【0028】
従って、本発明の装置において、第一貯蔵部に貯蔵されるシクロプロペン前駆体は、ハロゲン化アリルまたはその同族体、トリハロシクロプロパンまたはその同族体、ハロシクロプロパンまたはその同族体、および1−シリル−2−ハロシクロプロパンまたはその同族体とすることができ、第二貯蔵部に貯蔵される反応試薬は塩基またはフッ化アニオン物質である。
【0029】
まず、シクロプロペン誘導体を調製する合成法に用いられる前駆体を以下に具体的に見直してみる。
第一の合成法において、シクロプロペン誘導体を調製する前駆体としてのハロゲン化アリルまたはその同族体は、3−クロロプロペン、3−ブロモプロペン、2−メチル−3−クロロプロペン、2−メチル−3−ブロモプロペン、2−メチル−3−ヨードプロペン、2−エチル−3−クロロプロペン、2−エチル−3−ブロモプロペン、2−エチル−3−ヨードプロペン、2−メチル−3−メタンスルホニルオキシプロペン、2−メチル−3−ベンゼンスルホニルオキシプロペン、およびその組み合わせよりなる群から選ぶことができる。
【0030】
第二の合成法において、シクロプロペン誘導体を調製する前駆体としてのトリハロシクロプロパンまたはその同族体は、1,2,2−トリクロロシクロプロパン、1,2,2−トリブロモシクロプロパン、1−ブロモ−2,2−ジクロロシクロプロパン、1−クロロ−2,2−ジブロモシクロプロパン、1−メチル−1,2,2−トリクロロシクロプロパン、1−メチル−1,2,2−トリブロモシクロプロパン、1−メチル−1−ブロモ−2,2−ジクロロシクロプロパン、1−メチル−1−クロロ−2,2−ジブロモシクロプロパン、1−エチル−1,2,2−トリクロロシクロプロパン、1−エチル−1,2,2−トリブロモシクロプロパン、1−エチル−1−ブロモ−2,2−ジクロロシクロプロパン、1−エチル−1−クロロ−2,2−ジブロモシクロプロパン、およびその組み合わせよりなる群から選ぶことができる。
【0031】
第三の合成法において、ハロシクロプロパンまたはその同族体は、クロロシクロプロパン、ブロモシクロプロパン、ヨードシクロプロパン、シクロプロパンメタンスルホネート、シクロプロパンベンゼンスルホネート、シクロプロパントルエンスルホネート、1−クロロ−1−メチルシクロプロパン、1−ブロモ−1−メチルシクロプロパン、1−ヨード−1−メチルシクロプロパン、1−メタンスルホニルオキシ−1−メチルシクロプロパン、1−クロロ−1−エチルシクロプロパン、1−ブロモ−1−エチルシクロプロパン、1−ヨード−1−エチルシクロプロパン、1−メタンスルホニルオキシ−1−エチルシクロプロパン、1−クロロ−2−メチルシクロプロパン、1−クロロ−2−エチルシクロプロパン、およびその組み合わせよりなる群から選ぶことができる。
【0032】
第四の合成法において、シクロプロペン誘導体を調製する前駆体としての1−トリアルキルシリル−2−ハロシクロプロパンまたはその同族体は、1−トリメチルシリル−2−クロロシクロプロパン、1−トリメチルシリル−2−ブロモシクロプロパン、1−トリメチルシリル−2−メタンスルホニルオキシシクロプロパン、1−トリメチルシリル−2−ベンゼンスルホニルオキシシクロプロパン、1−トリメチルシリル−2−トルエンスルホニルオキシシクロプロパン、1−メチル−1−トリメチルシリル−2−クロロシクロプロパン、1−メチル−1−トリメチルシリル−2−ブロモシクロプロパン、1−メチル−1−トリメチルシリル−2−メタンスルホニルオキシシクロプロパン、1−メチル−1−トリメチルシリル−2−ベンゼンスルホニルオキシシクロプロパン、1−メチル−1−トリメチルシリル−2−トルエンスルホニルオキシシクロプロパン、2−メチル−1−トリメチルシリル−2−クロロシクロプロパン、2−メチル−1−トリメチルシリル−2−ブロモシクロプロパン、2−メチル−1−トリメチルシリル−2−メタンスルホニルオキシシクロプロパン、2−メチル−1−トリメチルシリル−2−ベンゼンスルホニルオキシシクロプロパン、2−メチル−1−トリメチルシリル−2−トルエンスルホニルオキシシクロプロパン、3−メチル−1−トリメチルシリル−2−クロロシクロプロパン、3−メチル−1−トリメチルシリル−2−ブロモシクロプロパン、3−メチル−1−トリメチルシリル−2−メタンスルホニルオキシシクロプロパン、3−メチル−1−トリメチルシリル−2−ベンゼンスルホニルオキシシクロプロパン、3−メチル−1−トリメチルシリル−2−トルエンスルホニルオキシシクロプロパン、1−エチル−1−トリメチルシリル−2−クロロシクロプロパン、1−エチル−1−トリメチルシリル−2−ブロモシクロプロパン、1−エチル−1−トリメチルシリル−2−メタンスルホニルオキシシクロプロパン、1−エチル−1−トリメチルシリル−2−ベンゼンスルホニルオキシシクロプロパン、1−エチル−1−トリメチルシリル−2−トルエンスルホニルオキシシクロプロパン、およびその組み合わせよりなる群から選ぶことができる。
【0033】
更に、トリメチルシリル基は、例えば、トリエチルシリル、トリプロピルシリル、トリフェニルシリル、トリメトキシシリル、トリエトキシシリル、t−ブチルジメチルシリル、ジメチルメトキシシリル、ジメチルエトキシシリル、ジメチルプロポキシシリル、ジメチルイソプロポキシシリル、ジメチルtert−ブトキシシリル等の様々なシリル誘導体の形態とすることができる。
【0034】
次に、反応試薬として用いられる塩基およびフッ化物イオン物質を以下に具体的に説明する。
本発明において用いられ得る塩基としては、例えば、NaNH、KNH、LiNH、NaNMe、KNMe、LiNMe、NaNEt、LiNEt、NaNPr、LiNPr、LiN(SiMe、NaN(SiMe、MeLi、EtLi、PrLi、BuLi、t−BuLi、s−BuLi、PhLi、NaOMe、KOMe、NaOEt、KOEt、NaOPr、NaOBu、t−BuONa、t−BuOK、NaH、KH、LiH等の強塩基を例示することができる。
【0035】
本発明において用いられ得るフッ化物イオン物質としては、例えば、BuNF、PrNF、MeNF、EtNF、PentylNF、HexylNF、BnBuNF、BnPrNF、BnMeNF、BnEtNF等のアルキルまたはアリールアンモニウム塩の形態のフッ化塩や、NaF、LiF、KF等の無機フッ化塩を例示することができる。
【0036】
前述の合成法の中でも、フッ化物を用いる第四の方法がより好ましい。というのは、メチルリチウム、ブチルリチウム、フェニルリチウム、ナトリウムアミド、リチウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド等の強塩基は有害かつ危険であるばかりでなく、第四の方法は、シクロプロペン化合物の発生方法として最も正確かつ速いからである。
従って、本発明の特に好ましい実施の形態として、第四の合成法に基づくシクロプロペン化合物の発生装置を以下により詳細に説明する。
【0037】
下記の式(II)で表されるβ−ハロシクロプロピルシランまたはその化学同族体をフッ化物イオン物質と混合するか、或いはこれらを互いに接触させることによって、シクロプロペン誘導体を簡単かつ簡便に調製することができる。かかる反応は下記の反応式5で表すことができる。
【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
ここで、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、C−C10のアルキル若しくはアルコキシ、C−C10のアルケニル、またはハロゲンであり、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、i−ブチル、フェニル、トリル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、塩素、フッ素、臭素等が例示される。
AおよびBの一方は水素であり、他方は、水素、C−Cのアルキル、アルケニル若しくはアルキニル、またはアリールであって、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、フェニル、エテニル、エチニル、メトキシメチル、メトキシエチル、エトキシメチル、エトキシエチル等が例示される。或いは、AおよびBの他方は、酸素若しくはハロゲン含有の置換アルキル、アルケニルまたはアルキニルであってもよい。
Xは、塩素、フッ素、臭素若しくはヨウ素等のハロゲン、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、窒素(N)、またはリン(P)を含有する適当な脱離基である。
【0041】
酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、窒素(N)またはリン(P)含有の脱離基に関して、
酸素(O)含有の脱離基の代表的な例としては、ROSO−O−、RSO−O−、RSO−O−、RS−O−、R−O−、RCO−O−、ROCO−O−、RNHCO−O−、RSe−O−、(RO)P−O−、(RO)PO−O−等が挙げられ、
硫黄(S)またはセレン(Se)含有の脱離基の代表的な例としては、ROSO−、RSO−、RSO−、RS−、ROSO−、ROS−、RSe−、RSeO−等が挙げられ、
窒素(N)またはリン(P)含有の脱離基の代表的な例としては、RN−、RN−、RNH−、NH−、RP−、R−、(RO)P−、(RO)PO−等が挙げられる。
【0042】
更に、β−ハロシクロプロピルシランまたはその化学同族体と、シリカまたはアルミナ等の無機物質に被覆されたフッ化物イオン物質との反応によって、シクロプロペン誘導体を合成する反応は、安定であり、かつ、下記の構造式で表されるスピロペンタジエン(前出の非特許文献8)またはオキサスピロペンテン(Org.Lett.,1(1999),115−116)等の非常に不安定なシクロプロペン誘導体の合成反応に採用できる簡便な方法である。
【0043】
【化8】

【0044】
フッ化物イオン物質は、好ましくは下記の式(III)で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムとすることができる。
【化9】

【0045】
ここで、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、フェニルまたはベンジル等のC−C20のアルキルまたはアリールである。
【0046】
フッ化物イオン物質は、それ自体で使用してもよく、或いは使用する溶媒に溶解してもよい。特に、フッ化物イオン物質は、シリケート、アルミナ、クレー、砂、ポリマー樹脂等の固形粒子上への吸着に用いることができる。その結果、装置の構成が更に簡素化され得る。
従って、好ましい一実施の形態において、表面が反応試薬としてフッ化物イオン物質で被覆された固形粒子は、噴霧部が直接接続するか或いは一部として組み込まれた第二貯蔵容器に充填され、第一貯蔵容器は第二貯蔵容器と選択的に相互接続する。それ故に、コンパクトな大きさの装置を製造することができる。
【0047】
本発明の別の態様によれば、前述のシクロプロペン誘導体の発生装置を用いて、果物、花、野菜等の収穫した農産物を貯蔵する方法が提供される。シクロプロペン誘導体を用いて果物等の熟成の進行を阻害する技術は、当該技術分野において周知であり、それ故にその詳細な説明を省略する。
【0048】
植物の熟成の進行を促進するエチレンの作用を阻害するシクロプロペン誘導体の調製に関連して、説明の前駆体の中でも、式(IIA)で表されるβ−ハロシクロプロピルシラン誘導体は自体新規化合物である。
【化10】

【0049】
ここで、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、C−C10のアルキル若しくはアルコキシ、C−C10のアルケニル、またはハロゲンである。
A′およびB′の少なくとも一方は水素であり、A′が水素であるときは、B′は、水素、メチルまたはエチルであり、B′が水素であるときは、A′は、水素、メチルまたはエチルである。
Xは、ハロゲン、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、窒素(N)、またはリン(P)を含有する脱離基である。
【0050】
式(IIA)で表されるβ−ハロシクロプロピルシラン誘導体の中でも、A′が炭素数4以上のアルキルである式(IIA)の化合物は、当該技術分野において公知であるが、A′およびB′が上記の通り定義される式(IIA)の化合物は新規物質である。本発明の発明者は、また、これらの新規物質がシクロプロペン誘導体の調製に有用な前駆体として使用できることを確認した。
これらの内、B′が水素で、A′が水素、メチルまたはエチルである式(IIA)の化合物が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
本発明の前記および他の目的、特長および他の利点は、添付の図面と共に以下の詳細な説明からより明確に理解されるであろう。
以下に、添付の図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0052】
図1は、本発明の一実施の形態のシクロプロペン誘導体発生装置の概要を示す。
図1を参照して、シクロプロペン誘導体発生装置100は、原料としてのシクロプロペン前駆体を貯蔵する第一貯蔵容器120と、反応試薬としての塩基またはフッ化物イオン物質を貯蔵する第二貯蔵容器130と、シクロプロペン前駆体と反応試薬が反応する反応容器110と、反応不純物を除去するフィルタ150とを備えている。
【0053】
シクロプロペン前駆体と反応試薬は、それぞれ、制御弁140を介して反応容器110に所定量が導入され、反応が生起してシクロプロペン誘導体を合成する。このようにして合成されたシクロプロペン誘導体は、電源152に接続した加熱コイル151により取り囲まれたフィルタ150で濾過され、その後、ノズル160を介して外部に噴霧される。
【0054】
図2は、本発明の別の実施の形態のシクロプロペン誘導体発生装置の概要を示す。
図2を参照して、シクロプロペン誘導体発生装置200において、シリカゲル(図示せず)に吸着されたフッ化物イオン物質が反応容器210に入れられ、その一側に反応容器に空気を注入する圧縮機230が設けられている。貯蔵容器220内のシクロプロペン前駆体が制御弁240を介して反応容器210に導入され、圧縮機230を通って注入される空気は、反応容器210で合成されたシクロプロペン誘導体をフィルタ250に向けて案内するのに役立つ。このようにして案内されたシクロプロペン誘導体は、外側に加熱コイル251が設けられたフィルタ250を通過し、ノズル260を介して外部に排出される。なお、反応試薬として用いられるフッ化物イオン物質が反応容器210内のシリカゲル表面に吸着されているので、反応試薬を貯蔵する別の貯蔵容器を必要としない。
【0055】
シクロプロペン誘導体発生装置200は、構造が圧縮機230および加熱コイル251を介して合成されるシクロプロペン誘導体の蒸発を容易にするように構成されているが、シクロプロペンおよび1−メチルシクロプロペン自体は室温でガス状であり、そのため、圧縮機230または加熱コイル251等の蒸発装置を別途設置することなく、これらのシクロプロペンを周囲に直接蒸発および排出してもよい。
【0056】
図3は、本発明の更なる実施の形態のシクロプロペン誘導体発生装置の概要を示す。
図3を参照して、シクロプロペン誘導体発生装置300は、シクロプロペン誘導体が合成される反応容器310と、シクロプロペン前駆体を供給する噴射器320と、空気を反応容器310に供給する圧縮機330とを備えている。
【0057】
シリカゲル(図示せず)に吸着されたフッ化テトラブチルアンモニウム(BuNF)が、反応容器310に入れられ、噴射器320により供給されるシクロプロペン前駆体と反応して、シクロプロペン誘導体を合成する。このようにして合成されたシクロプロペン誘導体は、圧縮機330により供給される空気の流れを通して外部に噴霧される。
【実施例】
【0058】
以下に、次の実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためにのみ提示されるもので、本発明の範囲および精神を限定するものとして解釈してはならない。
【0059】
実施例1:塩化メタリルから1−メチルシクロプロペンの合成
塩化メタリル1.8gを無水のデカン3mLに溶解し、無水のデカンを更に添加して5mL容量とした後、得られた溶液を容器Iに入れた。2.0Mフェニルリチウムのシクロヘキサン溶液20mLを容器IIに入れた。常温条件下に容器Iの溶液を0.1mL/分の流速で容器IIに排出するように、噴射弁を設定した。その後、容器IIから発生する1−メチルシクロプロペン・ガスの排出を促進するために、容器IIの一端に小型の圧縮機を取り付けて、空気の流れを100mL/分の流速に維持した。この時、ノズルを介して排出されるガスを収集し、GC/MSにより分子量分析にかけた。その結果、検出されたガスは、1−メチルシクロプロペンとその異性体(MW:54)であることが確認された。
【0060】
実施例2:1−メチル−1,2,2−トリブロモシクロプロパンから1−メチルシクロプロペンの合成
2−ブロモシクロプロペンとブロモホルムの反応から得られる1−メチル−1,2,2−トリブロモシクロプロパン2.95gを無水のデカン5mLに溶解し、無水のデカンを更に添加して10mL容量とした後、得られた溶液を容器Iに入れた。2.0Mブチルリチウムのデカン溶液20mLを容器IIに入れた。常温条件下に、容器Iおよび容器IIの溶液をそれぞれ0.1mL/分および0.2mL/分の流速で別の反応容器たる容器IIIに排出するように、噴射弁を設定した。このようにして排出された溶液は容器III内に均一に混合しており、反応溶液の容量が2mL以上に達すると、溶液が自然に溢流して、水10mLを入れた水バケツに徐々に滴下した。その後、水バケツから発生する1−メチルシクロプロペン・ガスの排出を促進するために、水バケツの一端に小型の圧縮機を取り付けて、空気の流れを100mL/分の流速に維持した。ノズルを介して水バケツに排出されるガスを収集し、GC/MSにより分子量分析にかけた。その結果、分析されたガスは、1−メチルシクロプロペンとその異性体(MW:54)から構成されていることが確認された。
【0061】
実施例3:ブロモシクロプロパンからシクロプロペンの合成
ブロモシクロプロパン1.5gを容器Iに入れ、t−ブトキシカリウムの15%t−ブタノール溶液20mLを容器IIに入れた。次いで、容器Iの溶液を1.0mL/分の流速で容器IIに徐々に放出した。その後、容器IIから発生するシクロプロペン・ガスの排出を促進するために、容器IIの一端に小型の圧縮機を取り付けて、空気の流れを100mL/分の流速に維持した。この時、容器IIのノズルを介して排出されるガスを収集し、GC/MSにより分子量分析にかけた。その結果、分析されたガスは、シクロプロペンとその異性体(MW:40)から構成されていることが確認された。
【0062】
実施例4:1−クロロ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンからシクロプロペンの合成
(1)1−クロロ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンの調製
ビニルトリメチルシラン2.0gおよびジクロロメタン17.0gを100mL三口丸底フラスコに入れ、氷浴で0℃に冷却した。1.6Mメチルリチウムのエーテル溶液70mLを30分かけて徐々に添加しながら、反応溶液を激しく撹拌した。反応溶液を室温に加温した後、更に30分間撹拌した。飽和ブライン20mLを溶液に添加した。混合液からエーテル層を分離し、無水硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥し、水浴でエーテル層を60℃に維持して濃縮した。得られた濃縮物をアスピレータによる真空条件下に25〜45℃で蒸留して、透明な液体を0.23g得た。このようにして得られた液体は、1−クロロ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンの2種の異性体、即ちトランスおよびシス混合物が一緒に溶解したエチルエーテル溶液であった。混合物の主要な異性体についてのH−NMRは次の通りである。
H−NMR(CDCl,δ):2.83−2.87(1H,m),0.98−1.06(1H,m),0.72−0.81(1H,m),0.16−0.25(1H,m),0.128(9H,s)。
【0063】
(2)シクロプロペンの調製
フッ化テトラブチルアンモニウム(BuNF)の75%水溶液100gをメタノール500mLに添加し、溶液を微細なシリカゲル粉末425gと均一に混合した。混合液を80℃に加熱して真空下に溶媒を完全に留去した。このようにして処理され完全に乾燥したシリカゲル(BuNF15%のシリカゲル)5gを中空のガラス棒に充填して、ガラス棒の両端を綿できつく栓をした。ガラス棒内部の一方向に空気の流れを起こさせるために、ガラス棒の一端に小型の圧縮機を取り付けて、空気の流れを100mL/分の流速に維持した。同時に、項(1)で合成した1−クロロ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンを10%含有するエチルエーテル溶液2.0mLをシリンジでガラス棒の空気入口に注入した。ガラス棒の他端から排出されるガスを1時間収集して、ガスの構成成分をGC/MS分析システムにより分析した。収集されたガスは、シクロプロペン(MW:40)を含有していることが確認された。
【0064】
実施例5:1−メチル−1−(メタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンから1−メチルシクロプロペンの合成
(1)1−メチル−1−ヒドロキシ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンの合成
マグネシウム2.02gおよびエチルエーテル30mLを100mL三口丸底フラスコに加えた後、2−クロロプロパン6.3gを徐々に添加してグリニャール溶液を調製した。イソプロポキシチタン(IV)10.7gおよびビニルトリメチルシラン3.7gを−78℃に冷却された別の100mL三口丸底フラスコに添加し、これに上述のようにして調製されたグリニャール溶液を30分かけて徐々に添加した。このようにして調製した反応溶液を−50℃に加温して、激しく2時間撹拌した。酢酸エチル3.5gを30分かけて徐々に添加しながら、反応溶液を−50℃に維持した。反応溶液を−20℃に加温して激しく1時間撹拌し、0℃に加温した後更に1時間激しく撹拌した。反応溶液を室温に加温して飽和ブライン7mLを溶液に添加した。得られた溶液をセライトで濾過した後、エーテル20mLでもう一度完全に洗浄した。このようにして得られた濾液を無水硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥し、低真空度の下に30℃以下の低温で溶媒を蒸発して濃縮した。得られた濃縮物を蒸留して(35−50℃/0.1mmHg)、2種の異性体混合物として、即ちトランスとシス異性体の比が3〜5:1の1−メチル−1−ヒドロキシ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンを2.2g得た。
【0065】
混合物の主要な異性体(トランス異性体)についてのH−NMRおよび13C−NMRの結果は、次の通りである。
H−NMR(CDCl,δ):1.934(1H,b,−OH),0.985(1H,dd),0.394(1H,dd),0.064(1H,dd),0.022(9H,s)。
13C−NMR(CDCl,δ):56.178,23.551,18.255,14.106,−0.859。
混合物の少量の異性体(シス異性体)についての13C−NMRの結果は、次の通りである。
13C−NMR(CDCl,δ):57.085,27.140,18.065,14.370,−0.587。
【0066】
(2)1−メチル−1−(メタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンの合成
項(1)で調製した1−メチル−1−ヒドロキシ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンのトランスおよびシス混合物2.2gをジクロロメタン15mLに溶解して、得られた溶液にトリエチルアミン1.7gを添加した。反応混合物を0℃に冷却して、これに塩化メタンスルホニル1.8gを徐々に添加し、混合物を激しく1時間撹拌した。飽和NaHCO溶液5mLを反応混合物に添加して反応を終了させた。有機層を分離して、無水硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥し、30℃以下の低温で低度の真空蒸留により濃縮した。更に精製することなく直接蒸留してもよいが、濃縮物は真空蒸留(65−70℃/0.1mmHg)によりきれいに精製された。その結果、トランスとシスの異性体混合物として、その比が3〜4:1の1−メチル−1−(メタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンを2.8g得た。
【0067】
混合物の主要な異性体(トランス異性体)についてのH−NMRおよび13C−NMRの結果は、次の通りである。
H−NMR(CDCl,δ):1.705(3H,s),1.399(1H,dd),0.584(1H,dd),0.539(1H,dd),0.074(9H,s)。
13C−NMR(CDCl,δ):67.348,40.075,21.539,16.053,12.712,−1.197。
混合物の少量の異性体(シス異性体)についての13C−NMRの結果は、次の通りである。
13C−NMR(CDCl,δ):68.709,40.073,24.333,16.985,13.248,−1.106。
【0068】
(3)1−メチルシクロプロペンの合成
項(2)で調製した1−メチル−1−(メタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパン2.65gをジグリム3mLに溶解した後、得られた溶液を容器Iに入れた。フッ化テトラブチルアンモニウム3.0gをジグリム6mLに溶解して、得られた溶液を容器IIに入れた。常温条件下に容器Iの溶液を0.2mL/分の流速で容器IIに排出するように、噴射弁を設定した。次いで、容器IIから発生する1−メチルシクロプロペン・ガスの排出を促進するために、容器IIの一端に小型の圧縮機を取り付けて、空気の流れを100mL/分の流速に維持した。次に、ノズルを介して排出されるガスを15%NaOH水溶液に通して、フッ化トリメチルシリルと同種の副生成物を除去した。その後、得られたガスを乾燥した氷/アセトン・トラップ(−78℃)で処理して、清澄な液体を0.2g得た。液体は、GC/MS、H−NMRおよび13C−NMRにかけられた。その結果、液体は、純粋な1−メチルシクロプロペン(MW:54)であることが確認された。H−NMRおよび13C−NMRの結果は、次の通りである。
H−NMR(CDCl,δ):6.42(1H,s),2.14(3H,s),0.88(2H,s)。
13C−NMR(CDCl,δ):116.73,98.58,12.88,6.10。
【0069】
実施例6:1−メチル−1−(メタンスルホニルオキシ)−2−(ジメチルイソプロポキシシリル)シクロプロパンから1−メチルシクロプロペンの合成
(1)1−メチル−1−ヒドロキシ−2−(ジメチルイソプロポキシシリル)シクロプロパンの合成
合成法は、ビニルトリメチルシランに代えてクロロジメチルビニルシラン3.6gを使用した以外には、実施例5の項(1)と同様であった。このようにして、2種の異性体混合物として、即ちトランスとシス異性体の比が3〜4:1の1−メチル−1−ヒドロキシ−2−(ジメチルイソプロポキシシリル)シクロプロパン(35−50℃/0.01mmHg)を得た。混合物の主要な異性体(トランス異性体)についてのH−NMRの結果は、次の通りである。
H−NMR(CDCl,δ):4.13(1H,m),1.51(3H,s),1.18(3H,d),1.15(3H,d),1.03(1H,dd),0.54(1H,dd),0.18(1H,dd),0.13(3H,s),0.12(9H,s)。
【0070】
(2)1−メチル−1−(メタンスルホニルオキシ)−2−(ジメチルイソプロポキシシリル)シクロプロパンの合成
合成法は、トリメチルシリル誘導体に代えてジメチルイソプロポキシシリル誘導体を使用した以外には、実施例5の項(2)と同様であった。このようにして、2種の異性体混合物として、即ちトランスとシスの比が3〜4:1の1−メチル−1−(メタンスルホニルオキシ)−2−(ジメチルイソプロポキシシリル)シクロプロパン(55−60℃/0.1mmHg)を得た。混合物の主要な異性体(トランス異性体)についてのH−NMRの結果は、次の通りである。
H−NMR(CDCl,δ):4.02(1H,m),2.97(3H,s),1.76(3H,s),1.42(1H,dd),1.15(6H,d),0.72(1H,dd),0.59(1H,dd),0.21(3H,s),0.19(3H,s)。
【0071】
(3)1−メチルシクロプロペンの合成
合成法は、トリメチルシリル誘導体に代えてジメチルイソプロポキシシリル誘導体を使用した以外には、実施例5の項(3)と同様であった。更に、シリル種と同様の副生成物を除去する水性NaOHフィルタは、この場合適用しなかった。このようにして、ノズルを介して排出されるガスは、乾燥した氷/アセトン・トラップ(−78℃)で処理され、清澄な液体は濃縮されてGC/MSにより分子量分析にかけられた。液体は、純粋な1−メチルシクロプロペン(MW:54)であることが確認された。
【0072】
実施例7:1−エチル−1−(エタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンから1−エチルシクロプロペンの合成
(1)1−エチル−1−ヒドロキシ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンの合成
実施例5の項(1)に示す方法と同様して、マグネシウム2.02gおよび2−クロロプロパン6.3gを使用して、グリニャール溶液を調製した。得られた溶液を−78℃に冷却して、イソプロポキシチタン(IV)10.7gおよびビニルトリメチルシラン3.7gと反応させた。このようにして調製した反応溶液を−50℃に加温して、激しく2時間撹拌した。プロピオン酸エチル4.1gを30分かけて徐々に添加しながら、反応溶液を−50℃に維持した。反応溶液を−20℃に加温して激しく1時間撹拌し、0℃に加温した後更に1時間激しく撹拌した。反応溶液を室温に加温して濃厚なブライン7mLを溶液に添加した。得られた溶液をセライトで濾過した後、エーテル20mLでもう一度完全に洗浄した。このようにして得られた濾液を無水硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥し、30℃以下の低温で溶媒蒸留により濃縮した。得られた濃縮物を高い真空条件(35−50℃/0.01mmHg)下に蒸留して、シスおよびトランス異性体の混合物として1−エチル−1−ヒドロキシ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンを2.6g得た。混合物をシリカゲル・クロマトグラフィにより精製して、トランス異性体のみを分離した。トランス異性体についてのH−NMRの結果は、次の通りである。
H−NMR(CDCl,δ):1.94(1H,b),1.68(1H,m),1.48(1H,b),1.10(3H,t),0.96(1H,dd),0.36(1H,dd),0.08(1H,dd),0.03(9H,s)。
【0073】
(2)1−エチル−1−(エタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンの合成
項(1)で調製した1−エチル−1−ヒドロキシ−2−(トリメチルシリル)シクロプロパン2.5gをジクロロメタン15mLに溶解して、得られた溶液にトリエチルアミン2.3gを添加した。このようにして調製した反応溶液を0℃に冷却して、これに塩化エタンスルホニル1.8gを徐々に添加し、混合液を激しく1時間撹拌した。飽和NaHCO溶液5mLを反応溶液に添加して反応を終了させた。反応溶液から有機層を分離して、無水硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥し、30℃以下の低温で溶媒蒸留により濃縮した。更に処理することなく直接蒸留してもよいが、得られた濃縮物をヘキサンおよび酢酸エチルを用いるシリカゲル・クロマトグラフィにより精製して、1−エチル−1−(エタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパンを純粋なトランス異性体として1.62g得た。トランス異性体についてのH−NMRおよび13C−NMRの結果は、次の通りである。
H−NMR(CDCl,δ):3.06(2H,q),2.13(1H,m),1.53(1H,dd),1.40(3H,t),1.32(1H,m),1.17(1H,t),0.68(1H,dd),0.48(1H,dd),0.09(9H,s)。
13C−NMR(CDCl,δ):71.852,46.928,28.459,14.710,13.311,10.513,8.211,−1.088。
【0074】
(3)1−エチルシクロプロペンの合成
項(2)で調製した1−エチル−1−(エタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパン0.50gをジグリム3mLに溶解した。アルミナに担持された15%BuNF(アルドリッチ 33,195−3)5gをガラス棒に詰めた。小型の圧縮機により空気の流れを1L/分の流速に維持しながら、同時に、1−エチル−1−(エタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパン溶液をシリンジでガラス棒の空気入口に注入した。ガラス棒の他端から排出されるガスを収集して、ガスの構成成分をGC/MSにより分析した。分析されたガスは、1−エチルシクロプロペン(MW:68)を含有していることが確認された。
【0075】
実験例1:トマトの熟成に関するシクロプロペン化合物の阻害作用
透明なアクリル系プラスチック板から立方体(60×60×60cm)を作製した。立方体の上面に空気噴射用および排気用の2つの弁を装着した。赤く熟す段階の開始直前に、20個の青いトマトを収穫し、処理群と対照群に分けた後、それぞれアクリル系プラスチック容器に入れた。2つのプラスチック容器のうち、処理群については、小型の圧縮機(図3参照)を作動して空気の流れを2mL/分の流速に維持しながら、BuNFが15%被覆されたシリカゲル(実施例4の項(2)で調製)5gを詰めたカラムに、1−メチル−1−(メタンスルホニルオキシ)−2−(トリメチルシリル)シクロプロパン(実施例5の項(2)で合成)0.2g含有のジグリム溶液3mLを噴射して、発生する1−メチルシクロプロペンで処理した。
【0076】
処理群のトマトを上述の方法に従って1時間処理した後、弁を閉成した状態で12時間放置した。その後、処理群のトマトおよび対照群のトマトについて、赤色に変色する経過を観察した。観察結果に基づいて、トマトの熟成の進行度を評価した。このようにして得られた結果を下記の表1に示す。
ここで、トマトの熟成度を0〜5段階に分類した。
0:完全に緑のトマトの収穫時と同様に赤色なし
5:完全に暗赤色に熟成
1〜4:段階0〜5の中間の赤色
従って、高い値ほどより赤色のトマトを示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の結果から、対照群のトマトは1日後から熟成が始まり、その殆どは約3日後から熟成の進行が開始して7日後に完全に熟成したことが分かる。一方、処理群のトマトは約3日後から熟成の進行が始まり、その殆どは10日経っても十分な熟成を示さなかったことが分かる。このように、本発明の装置により発生する1−メチルシクロプロペンは、トマトの熟成の進行に関して意義ある阻害作用を示すことが確認され得る。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上の説明から明らかなように、本発明は、果物、花、野菜等の農産物の熟成の進行を促進するエチレンの作用を阻害することが広く知られている、シクロプロペン、1−メチルシクロプロペン、1−エチルシクロプロペン等のシクロプロペン化合物を、必要に応じて簡単かつ簡便に調製および排出することが可能な装置を提供する。従って、本発明の装置は、収穫した農産物の農家および倉庫での貯蔵性を著しく改善することが期待される。
【0080】
本発明の好ましい実施の形態を説明のために開示したが、当業者ならば、添付の特許請求の範囲に開示した通りの発明の範囲および精神から逸脱することなく、各種の修正や、追加および置換が可能であることを認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態のシクロプロペン誘導体発生装置を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態のシクロプロペン誘導体発生装置を示す概略図である。
【図3】本発明の他の実施形態のシクロプロペン誘導体発生装置を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の熟成の進行を促進するエチレンの作用を阻害するシクロプロペン化合物を直接その場で調製および塗布することが可能な、シクロプロペン化合物の発生装置であって、
シクロプロペン化合物の前駆体(“シクロプロペン前駆体”)を貯蔵する第一貯蔵部;
前記シクロプロペン前駆体を化学反応によりシクロプロペン誘導体に変換する反応試薬を貯蔵する第二貯蔵部;および
前記シクロプロペン前駆体と前記反応試薬の化学反応により生成する前記シクロプロペン誘導体を噴霧する噴霧部
を含むシクロプロペン化合物の発生装置。
【請求項2】
前記第一貯蔵部が第一貯蔵容器であり、
前記第二貯蔵部が第二貯蔵容器であり、
前記第一貯蔵容器と前記第二貯蔵容器に選択的に相互接続する反応容器を更に含み、
前記噴霧部が前記反応容器に接続している
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第一貯蔵部が第一貯蔵容器であり、
前記第二貯蔵部が第二貯蔵容器であり、
前記噴霧部が前記第二貯蔵容器に直接接続し、または前記第二貯蔵容器にその一部として組み込まれ、
前記第一貯蔵部が前記第二貯蔵容器と選択的に相互接続している
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記シクロプロペン誘導体を容易に噴霧するために、前記噴霧部に向かう媒体としての搬送ガスを供給する搬送供給部を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記噴霧部が、
前記シクロプロペン誘導体の噴霧量および方向を制御するノズル;
室温で液体または固体の前記シクロプロペン誘導体の蒸発、或いは室温でガス状の前記シクロプロペン誘導体の気相活性化を促進する加熱器;および
反応物質から不純物を除去するフィルタ
のうち1以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記シクロプロペン誘導体が、下記式(I):
【化1】

(式中、Rは、水素、C−C10のアルキル、または、酸素、窒素、硫黄、珪素若しくはハロゲン含有の置換アルキルである)
で表される物質であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記シクロプロペン誘導体が、シクロプロペン、1−メチルシクロプロペン、1−エチルシクロプロペン、1−プロピルシクロプロペン、1−ブチルシクロプロペン、1−ペンチルシクロプロペン、1−ヘキシルシクロプロペン、1−ヘプチルシクロプロペン、1−オクチルシクロプロペンおよびこれらの組み合わせよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記第一貯蔵部に貯蔵される前記シクロプロペン前駆体が、ハロゲン化アリル若しくはその同族体、トリハロシクロプロパン若しくはその同族体、ハロシクロプロパン若しくはその同族体、または1−トリアルキルシリル−2−ハロシクロプロパン若しくはその同族体であり、
前記第二貯蔵部に貯蔵される前記反応試薬が塩基またはフッ化物アニオン物質である
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記シクロプロペン前駆体として前記第一貯蔵部に貯蔵される前記1−トリアルキルシリル−2−ハロシクロプロパンまたはその同族体が、下記式(II):
【化2】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、C−C10のアルキル若しくはアルコキシ、C−C10のアルケニルまたはハロゲンであり;
AおよびBの一方は水素であり、他方は、水素、C−Cのアルキル、アルケニル若しくはアルキニル、またはアリールであるか、または、酸素若しくはハロゲン含有の置換アルキル、アルケニル若しくはアルキニルであり;
Xは、ハロゲン、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、窒素(N)またはリン(P)を含有する脱離基である)
で表されるβ−ハロシクロプロピルシラン、またはその化学的ハロ−同族体であることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記フッ化物イオン物質が、下記式(III):
【化3】

(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、C−C20のアルキルまたはアリールである)
で表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムであることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項11】
前記フッ化物イオン物質が、それ自体である、溶媒に溶解している、または固形粒子に吸着されていることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記反応試薬としての前記フッ化物イオン物質で表面が被覆された固形粒子が、前記第二貯蔵部としての前記第二貯蔵容器に充填され、
前記噴霧部が、前記第二貯蔵容器に直接接続しているか、或いは前記第二貯蔵容器にその一部として組み込まれ、
前記第一貯蔵部としての前記第一貯蔵容器が、前記第二貯蔵容器と選択的に相互接続している
ことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のシクロプロペン化合物の発生装置を用いて、収穫した農産物を処理および貯蔵する方法。
【請求項14】
下記式(IIA)
【化4】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素、C−C10のアルキル若しくはアルコキシ、C−C10のアルケニルまたはハロゲンであり;
A′およびB′の少なくとも一方は水素であり、A′が水素であるときは、B′は、水素、メチルまたはエチルであり、B′が水素であるときは、A′は、水素、メチルまたはエチルであり;
Xは、ハロゲン、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、窒素(N)またはリン(P)を含有する脱離基である)
で表されるβ−ハロシクロプロピルシラン誘導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−515947(P2009−515947A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541077(P2008−541077)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【国際出願番号】PCT/KR2006/004812
【国際公開番号】WO2007/058473
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(508143720)
【Fターム(参考)】