説明

農薬製剤の製造方法

【課題】熱風乾燥工程を全く行うことがなくても、農薬有効成分の剥離及び飛散の少ない特性を有する農薬粒剤又は農薬粉粒剤を製造可能にすること。
【解決手段】担体とバインダー液をミキサー内で混合することによって該担体の表面にバインダー層を形成し、該バインダー層を介して、少なくとも農薬有効成分を固着させ、そして、脱水乾燥剤を混合して行う乾燥処理を行なうことによって、農薬有効成分の剥離及び飛散の少ない特性を有する目的の農薬粒剤又は農薬粉粒剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬製剤の製造技術に関する。より詳しくは、乾燥工程を行わなくても、農薬有効成分の剥離及び飛散が少ない農薬粒剤又は農薬粉粒剤を製造するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
農薬製剤の固体状の剤型には、粉剤、粉粒剤、粒剤などがある。まず、平均粒径10μm程度の粉体性状を有する、いわゆる「粉剤」は、水の便が悪い地域でも散布が容易であること、希釈の手間がいらないこと、直接病害、害虫へ農薬有効成分が触れるため即効性があること、ムラの少ない散布が可能であることなどの利点を有し、例えば、イモチ病、モンガレ病、カメムシ、ウンカ、ヨコバイ等の水稲の各種病害虫の防除に使用されてきた。しかしながら、平均粒径10μm程度の粉剤は飛散が多いため、現在は、平均粒径20μm以上の粉剤DLに移行している。そして、近年は、粉剤の散布時における隣接住宅地や他作物への飛散(ドリフト)を防止する要求が益々強くなっているため、この粉剤DLよりもさらにドリフトの少ない農薬製剤が求められている状況にある。
【0003】
次に、「微粒剤F」は、上記粉剤の代替製剤として、ドリフトを少なくする目的で開発された粉粒剤の一種であり、粒度範囲として63〜212μmの製剤である。この微粒剤Fは、散布されたときに、粉剤と比較して短い時間に地面まで落下するため、ドリフトを大幅に軽減することができるという利点がある。「粒剤」は、粒度範囲が300〜1700μm(0.3〜1.7mm)の固形剤である。日本では、多くの農薬が粒剤の形で供給され、水での希釈が必要ない上に、飛散が少なく簡便な装置でそのまま散布できるため、農業生産に大きく寄与できる。
【0004】
ここで、粒剤の製造には、一般に、練りこみ造粒法が広く採用されている。しかし、特に、微粒剤Fのような細かい粒体を前記練りこみ造粒法によって得ることは、製造速度、機械部品の耐久性の面などから工業的には非常に難しい。より現実的、かつ、経済的な微粒剤Fの調製方法としては、予め篩で粒度を揃えた担体に有効成分を吸収させる方法(含浸法)、あるいは、有効成分を、接着剤(バインダー)で貼り付ける方法(コーティング法)を挙げることができる。特に、このコーティング法は、有効成分が固体の場合に好適とされている。一方、有効成分が液体の場合は、「含浸法」の適用が可能であるため、製造手法において格段の問題はない。このため、本願において提案する技術は、含浸法が適用できない固体製剤に関する技術である。
【0005】
ここで、微粒剤Fに係わる前記コーティング法に関しては、非特許文献1に詳しい。該文献中、コーティング法では、粘性のある天然又は人工の高分子、あるいは、それらの水溶液や有機溶媒溶液が接着剤として使われており、不揮発性接着剤又は高分子溶解溶液の場合には、乾燥工程を省くことができると説明されている。しかし、この種の製造技術において乾燥工程を省くと、農薬有効成分の担体への固着が不充分となって、「剥離現象」が発生し易いので、そのような農薬製剤を動力散布装置で散布した場合、担体から剥離した農薬有効成分が目的外の場所に飛散して汚染の原因となったり、効果が不充分になったりすることが多い。
【0006】
また、特許文献1では、コーティング粒剤の製造にあたって、濃厚な粒剤を製造する過程で流動性を維持し、塊状化の発生を抑えるために、ホワイトカーボン、珪藻土、焼石膏(半水石膏)、脱水茫硝を添加し、さらに乾燥工程の前か後に担体で希釈する方法が提案されている。この方法によれば、全体の農薬有効成分含有量を目的の濃度とすることが可能であり、また、コーティング処理する担体の量を制限することによって安価な製造法とすることができる。しかし、局部的に担体が非常に高い濃度の農薬有効成分を保持しなければならいため、農薬有効成分が担体から剥離し、飛散することが危惧され、また、この方法では、高価で時間がかかる熱風乾燥工程を必要としていることに変わりはない。
【非特許文献1】「造粒ハンドブック」(平成3年、オーム社)
【特許文献1】特開昭48−18435号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、農薬有効成分の剥離及び飛散が少ない性状の農薬粒剤や農薬粉粒剤を製造するためには、熱風乾燥処理を必須工程として実施し、担体に対する農薬有効成分の強い接着力を得る手法を採用していた。即ち、製剤を構成する担体や農薬有効成分等に存在している水分を熱風乾燥により強制的に除去して強く接着するとともに、流動性を確保することが従来の技術的常識であった。
【0008】
しかしながら、この熱風乾燥工程には、巨大で高価な設備が必要であり、工程時間も長い上に、乾燥装置の燃料、維持管理にも多額の費用が必要である。また、従来の粒剤の造粒設備は、それよりも粒径が小さい粉粒剤(例えば、微粒剤F)などの製造にはそのまま転用できないという問題もあった。結局、粉粒剤の製造には、粒剤の製造設備を大幅に改造するか、あるいは、新設するしかないので、それには巨額の費用がかかり広いスペースも必要であった。
【0009】
そこで、本発明では、従来の技術常識から発想を転換し、熱風乾燥工程を全く行うことがなくても、農薬有効成分の剥離及び飛散の少ない特性を有する農薬粒剤又は農薬粉粒剤を製造可能にすること、並びに、熱風乾燥処理工程が一切不要で、かつ、粒剤と粉粒剤のいずれにも適用可能な農薬製剤の製造技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ミキサー内において、担体とバインダー液を混合し、該担体の表面にバインダー層を形成し、該バインダー層を介して、少なくとも農薬有効成分を固着させ、脱水乾燥剤を混合して乾燥する、以上の処理を少なくとも行うように工夫した農薬粒剤又は農薬粉粒剤の製造方法を提供する。なお、本発明において「農薬粉粒剤」とは、微粒剤、微粒剤F、細粒剤F等を広く意味し、担体に固着される農薬有効成分は、複数の成分から構成されている場合もある。
本製造方法の特徴は、強制的な熱風乾燥処理工程を一切行なうことなく、農薬製剤の中核構造部分となる担体に対して強固に農薬有効成分を固着させることによって、該農薬有効成分の担体からの剥離及び飛散を有効に防止することができることである。
本発明では、前記脱水乾燥剤として、例えば、「半水石膏」を用いる。この半水石膏は、脱水乾燥作用を発揮することによって余分な水分を除去する結果、乾燥状態が維持されて流動性が良好な農薬粒剤又は農薬粉粒剤を得ることができる。
ここで、「石膏」は、無害で比較的反応性が低い物質であることから、農薬製剤の原料として本質的に良い特性を持っていると言える。「石膏」は、大別すると、結晶石膏(CaSO・2HO)、別称「二水石膏」)、半水石膏((CaSO・0.5HO、別称「焼石膏」)、無水石膏(CaSO、可溶性石膏と死焼石膏の二種)の三種に大別できる。そのうち「半水石膏」は、硫酸カルシウム1分子あたり1/2個の水分子を有する粉体状の物質であり、空気中の水蒸気との反応性は低いが、その一方、液状の水と触れると定量的に水を石膏の構造の中に取り込み、結晶石膏(二水石膏)となるという性質を持つ。
例えば、145gの半水石膏は27g(18.6%)の水を吸収する乾燥剤として働くと同時に、石膏それ自体も固化して接着及び結合力を発揮する。高分子の水溶液形態、あるいは、高分子を水に分散させたエマルジョン、サスペンジョンの形態をなす接着剤(バインダー)によって農薬有効成分を担体表面に接着させた後、この半水石膏を加えて混合して適度な力を担体表面に加えると、該半水石膏は接着剤中の水分を吸収して取り込むという作用を発揮し、熱風乾燥処理によって得られるのと同様の接着力を得ることができる。また、半水石膏それ自体も、取り込まれた水分の働きによって結合して固化するという作用が発揮され、上記接着をより確実なものとする。また、水分は、結晶水として石膏内部に取り込まれ、製剤中に遊離した状態で存在しなくなるため、全体として農薬製剤の流動性は良好に保たれ、散布作業が容易となる。さらに好都合なことに、石膏は適度な水溶解度(0.298g/100g)を持つので、粒剤や粉粒剤が植物体に散布された後、該植物体上で夜露等によって湿潤すると、強固な接着力が次第に弱まっていき、これにより農薬有効成分が植物体上に広がって対象生物と農薬有効成分との接触確率が高まって、目的の防除効果を有効に発揮する。
また、本発明に係る製造方法では、半水石膏を使用する乾燥処理工程で採用するミキサー(混合手段)として、例えば、コンクリートミキサー又は解砕機能付きミキサーを用いることが好適である。コンクリートミキサー又は解砕機能付きミキサーを用いると、塊状化を有効に防止しながら均一な性状の農薬粒剤又は農薬粉粒剤を得ることができる。
まず、コンクリートミキサーを採用した場合では、製剤組成物の流動による大きな落差と大量の製剤自身の重量によって担体表面に大きな力がかかり、農薬有効成分を該担体表面に強く押し付けることができる。これによって、強い接着力が得られると同時に、余剰のバインダーによって発生してしまう粒体同士の凝集も有効に防止できる。コンクリートミキサーは、構造が比較的単純であり、大量のコーティング製剤の製造に適しており、特に、大型のコンクリートミキサーは、より強い力を担体表面に与えることができるため、より確実に農薬有効成分を該担体表面に固着することが可能であり、特に好適である。なお、コンクリートミキサーは、一般に、「重力式」と「強制練り式」に分類できる。重力式は、回転するドラム内の羽根で処理対象物をすくい上げて自重落下させることによって混練する方式であり、強制練り式は、ドラム内で攪拌羽根を回転させ、材料を強制的に混練する方式である。本発明では、重力式と強制練り式のいずれも採用可能であり、重力式のコンクリートミキサーについては、排出時にドラム全体を傾ける傾胴式と傾けずに排出するドラム式のいずれであってもよい。また、本発明では、バッチ式のコンクリートミキサーだけでなく、目的に応じて、連続式のコンクリートミキサーを採用することも可能である。
例えば、少量の農薬製剤を製造する場合には、「解砕機能付ミキサー」が特に適している。この解砕機能付ミキサーは、ミキサー内部に主攪拌羽根の他に高速で回転する解砕羽根が取り付けられている構成を備えている。解砕機能付ミキサーは、主攪拌羽根によって作られる粒剤の流れの中を前記解砕羽根が回転することによって、粒同士の凝集が確実に解消されると同時に、担体表面に強い力を与え、農薬有効成分を担体表面に強く接着させることができる。
液体の農薬有効成分の場合は、粒状の担体(一般に多孔質)に農薬有効成分を含浸させることによって調製する方法(含浸法)が簡便である。しかし、液体の農薬有効成分と固体の農薬有効成分との混合剤を製造する場合、固体成分を溶解する適当な溶剤がない場合では、「コーティング法」が適当な製造法となり得る。具体的には、固体の農薬有効成分とともに液体有効成分を吸収させるのに適当な吸着剤(例えば、ホワイトカーボンなど)を担体と接着剤(バインダー)の混合物中に添加することによって、固体、液体両方の農薬有効成分を粉体として担体表面に貼り付ける方法である。このようなコーティング方法が採用される場合でも、本発明に係る製造方法を固体の農薬有効成分のみの場合と同様に採用することが可能である。また、多孔質の担体を使用した場合では、製剤の比重が小さくなる傾向にあるが、本製造方法を採用することによって、農薬有効成分を異にする多種類の製剤間での比重差を小さくすることができるため、農薬使用者が適量を均一に散布する場合の機械の調整が容易になるという効果も得られるので好適である。
なお、本発明に係る製造方法の適用可能な粒度範囲は特に限定されず、参考のために一例を挙げると、微粒剤F(粒度範囲63〜212μm程度の固形製剤)や粒剤(粒度範囲が300〜1700μm(0.3〜1.7mm)程度の固形製剤)などに適用可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る製造方法によって得られた農薬粒剤や農薬粉粒剤は、その製造過程で熱風乾燥処理工程が全く行われないにもかかわらず、流動性が良好であるので散布が容易であるとともに、担体に対して農薬有効成分を強固に固着できるため、散布時に農薬有効成分が担体から剥離して、他の作物や住宅などの周辺に飛散(ドリフト)してしまうことを有効に防止できる。
【0012】
本製造方法は、熱風乾燥処理工程が一切不要であり、かつ、粒剤や粉粒剤(例えば、微粒剤F)などに適用することが可能であるので、製造コスト及び設備コストを低減でき、造粒設備の集約が可能になるため、製造現場での省スペース化も達成できる。
【実施例】
【0013】
(1)農薬粒剤又は農薬粉粒剤の調製試験
まず、本発明に係る農薬粒剤又は農薬粉粒剤を調製した。実施例1〜5の調製方法は、次の通りである。2kg分の原料を使用して調製を行った。選択した所定粒度の担体を所定量、解砕機能付きミキサーの一例であるパウレックス社製バーティカルミキサー(表1中の「A」に対応)に加えた。なお、実施例1〜5の担体とその配合量は、後掲する「表1」に示す通りである。また、界面活性剤(ジオクチルスルホコハク酸-Na)を加えた実施例5では、該界面活性剤を予めバインダー溶液に加えて混合し調製しておいた。前記ミキサーに担体を投入後、所定のバインダー液(表1参照)を加え、該ミキサーを3分間連続運転した。その後、所定の農薬原体(表1参照)を加え、さらにミキサーを3分間連続運転した。ここに、脱水乾燥剤である半水石膏を所定量加え、さらにミキサーを3分間連続運転した。内部の塊を掻き落とした後、さらにミキサーを10分間運転し、目的の製剤(農薬粒剤;実施例2、農薬粉粒剤:実施例1、3〜5)を得た。なお、解砕機能付きミキサーは、上記バーティカルミキサー以外に、例えば、パグミル、ミューラーミキサー、ヘンシェルミキサーを使用することも可能である。
【0014】
「実施例6」に係わる製剤については、次の調製方法を採用した。10kg分の原料を使用して調製を行った。担体を重力式コンクリートミキサー(タケムラテック製、表1中の「B」に対応)に加えた。続いて、所定のバインダー液(表1参照)を前記コンクリートミキサーに加え、該ミキサーを10分間運転した。その後、所定の農薬原体(表1参照)をコンクリートミキサーに加え、さらに該ミキサーを10分間運転した。ここに、脱水乾燥剤としての半水石膏を加えて、ミキサーをさらに10分間運転した。内部の塊を掻き落とした後、さらに該ミキサーを30分間運転して、目的の製剤(農薬粉粒剤)を得た。なお、各実施例1〜6に係わる製剤の配合構成は、次の「表1」の通りである。
【0015】
【表1】

【0016】
次に、比較例としての農薬製剤を調製した。2kg分の原料を使用して調製を行った。所定粒度の担体(珪砂)を、解砕機能付きミキサーの一例であるパウレックス社製バーティカルミキサーに加えた。次に、選択された所定のバインダー液(表2参照)を該ミキサーに加え、該ミキサーを3分間連続運転した。その後、所定の農薬原体(表2参照)を前記ミキサー加え、さらに該ミキサーを3分間連続運転した。比較例1〜3では、脱水乾燥剤を添加しなかったが、比較例4では、半水石膏をミキサーにさらに加えて、3分間連続運転した。最後に、内部の塊を掻き落とした後、さらに該ミキサーを10分間連続運転し、比較例としての農薬粉粒剤を得た。なお、各実施例1〜4に係わる製剤の配合構成は、次の「表2」の通りである。
【0017】
【表2】

【0018】
(2)調製した農薬製剤の評価試験。
上記手法に基づき調製した農薬製剤(実施例、比較例)についての製剤の物性評価試験と防除評価試験を行った。物性評価試験は、流動性評価試験と剥離性評価試験を行った。防除評価試験は、イネイモチ病に対する防除価を計算して求め、評価した。
【0019】
2−1)流動性評価試験。
実施例1〜6、比較例1〜4の全てを対象として、各製剤10gを薬包紙に量り取り、折り曲げた該薬包紙の端から薬剤を自然落下させ、薬剤の流出のし易さを目視で観察した。
【0020】
2−2)剥離性試験。
実施例1〜6及び比較例2〜4を対象として、全農法(微粒剤F物理性規格試験法、昭和48年2月20日全農農業技術センター・肥料農薬研究部による)に準拠して、試料製剤10gを2号ガラスフィルター上で、風量30L(リットル)/分の割合で2分間空気を送風した後、前記ガラスフィルター内に残った試料製剤を回収、混合し、送風処理前後の有効成分含有量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析し、次の数式により「剥離率」を求めた。
【0021】
【数1】

【0022】
2−3)イモチ病防除効果評価試験。
実施例1,3,4,5,6を対象として、次の方法により、イモチ病防除効果評価を行った。1/5000aのワグネルポットでイネを穂孕み期まで育成して本評価試験に供した。1mの回転ワゴンの上にポット3個を置いて、回転させながら各製剤3gをハンディスプレヤーで散布した。翌日、イモチ病菌を接種した後、一晩加湿条件におき、前記接種から5日目に各植物体の病班点数を計数し、製剤を散布しなかった群を対照区として、防除価を計算した。
【0023】
以上、試験1)〜3)の評価試験の結果を、次の「表3」にまとめた。
【0024】
【表3】

【0025】
(3)評価試験結果の考察。
まず、熱風乾燥工程を一切実施することなく、担体に農薬有効成分を接着するためのバインダー液として高分子水溶液又は分散液を用い、さらに、流動性を高めるための脱水乾燥剤として半水石膏を使用したことで、簡易に農薬製剤(粒剤又は微粒剤Fに該当)を調製することができた。また、調製された農薬製剤は、流動性が良好であったため、散布作業を容易に実施できた。また、本製造方法で得られた農薬粒剤又は農薬粉粒剤は、担体からの農薬有効成分の剥離性が少ないため、散布時に農薬有効成分がドリフトし、他の作物や近隣住宅を汚染してしまうことを有効に防止できると考えられる。
【0026】
脱水乾燥剤として半水石膏を使用して得た農薬製剤の場合、半水石膏は、該石膏の結晶水が2となるような量を計算して添加するが、湿度等の環境条件やミキサーのサイズや種類等に応じて適宜微調整して実施することができる。なお、余剰の石膏は、微量が粒の間に粉体の形で残り、剥離率の測定を行うと容易に飛散して全体の重量が減少し、その結果残った粒剤の農薬有効成分含有率はもとの製剤よりも高くなり、剥離率がマイナスとなる場合がある。この場合、余剰の石膏が剥離していることになるが、農薬有効成分それ自体は、担体表面に強く保持されているので飛散(ドリフト)の原因となることはなく、問題はない。
【0027】
比較例1では、PVA10%溶液を接着剤として用いて、熱風乾燥工程を行わず、かつ、脱水乾燥剤である石膏を添加しないで微粒剤Fを調製した。この場合、担体に残る過剰の液状接着剤が粒子の流動を阻害してしまうため、散布には適さない農薬粉粒剤(微粒剤F)しか得ることができなかった。
【0028】
比較例2及び比較例3では、不揮発性の接着剤(バインダー)を用いて、乾燥工程や脱水乾燥剤の添加無しで農薬粉粒剤(微粒剤F)の調製を試みた。この場合、接着剤(バインダー)の量を調製することにより流動性のある農薬粉粒剤(微粒剤F)を得ることができた。しかし、剥離性試験を行うと目安とされる10%をはるかに越える値となった(表3の比較例2〜3の剥離率データを参照)。これは、不揮発性である高分子接着剤の接着力が不充分なために、剥離性測定時の製剤の流動によって農薬有効成分が剥離、飛散するためと考えられる。このような製剤を散布した場合、農薬粉粒剤開発の重要課題である飛散(ドリフト)の低減が期待できない。
【0029】
比較例4は、接着剤(バインダー)として水のみを使用し、半水石膏の結合力のみで製剤を調製することを試みた。その結果、剥離率は11%であった(表3の比較例4の剥離率データを参照)。この結果から、一定の結合力が水と半水石膏の組み合わせによって得られることが分かったが、接着剤(バインダー)に高分子接着剤の水溶液を使った場合には及ばないため(特に、実施例3との比較)、剥離性が十分に抑制されて散布時の飛散(ドリフト)を軽減できる農薬粉粒剤を得るには、水溶性の接着剤(バインダー)と半水石膏の組み合わせが好適であることが判明した。
【0030】
さらに、実際の植物を使用した防除効果評価試験に係わる「防除価」の結果から明らかなように、本製造方法で得られた農薬粒剤又は農薬粉粒剤は、充分な防除効果を持つことも確認された。
【0031】
界面活性剤を使用した実施例5の製剤を散布した場合が、最も防除価が高かった。これは散布された農薬粉粒剤(微粒剤F)が夜露等の水分に触れた時に界面活性剤の効果によって有効成分が植物体表面に広がり、散布時点状に分布していた有効成分が面状に広がることによって効果的に植物表面を保護する効果が働いたものと考えられる。このように散布時には担体上からの剥離を接着剤と半水石膏の組み合わせで低減させると同時に、散布後は界面活性剤の働きによって有効成分を植物体表面に広げる工夫をすることによって、農薬粉粒剤(例えば、微粒剤F)をより効果的に活用することが可能となる。なお、界面活性剤の添加によって剥離率には大きな変化はなく、飛散(ドリフト)低減の効果に対して何ら悪影響がないことが分かる。
【0032】
また、混合工程において、解砕機能付きミキサーや重力式コンクリートミキサーを使用した場合、ほぼ同じ性質の農薬粉粒剤(微粒剤F)が得られており、この両方のミキサー(混合装置)によって目的の農薬製剤を製造可能なことが確認できた。重力式コンクリートミキサーは、装置が比較的安価で大量生産に向いており、特に、微粒剤Fを、安価で、かつ安定して供給できるという利点があり、一方の解砕機能機付きミキサーは、少量の製剤開発に有効であると同時に、装置の大きさが変わっても同じ特性の製剤を得ることができるという利点がある。
【0033】
以上のように、脱水乾燥剤として半水石膏を使用し、混合装置として、農薬製剤の製造量に応じて、重力式コンクリートミキサー、解砕機能付きミキサーのいずれかを選択して適宜使い分けることによって、流動性が良好であるため散布が容易であり、また、担体に農薬有効成分が強固に固着して散布時に農薬有効成分が担体から剥離せず、他の作物や住宅などの周辺に飛散(ドリフト)してしまうことがない農薬粒剤又は農薬粉粒剤を製造することができる。
【0034】
水を吸収する石膏には、半水石膏の他に、「可溶性無水石膏」も存在する。この「可溶性無水石膏」は、結晶石膏に戻る過程での水の吸収能力は半水石膏よりも高いが、製剤中の水分だけでなく空気中の水蒸気をも取り込んで半水石膏化する。従って、この可溶性無水石膏を半水石膏と同様に脱水乾燥剤として使用することは可能ではあるが、空気中の水蒸気の影響で取り込み可能な水分量が変化してしまうため、半水石膏よりは取り扱いが難しくなる。なお、「無水石膏」には、可溶性無水石膏の他に「死焼石膏」も存在するが、該死焼石膏は水を作用させても水を吸収して結晶石膏に戻ることはないため、農薬製剤製造時の脱水乾燥剤としては不適である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、農薬粒剤又は農薬粉粒剤の新規な製造技術として利用できる。本製造方法は、熱風乾燥工程が全く不要であり、かつ、粒剤や粉粒剤の製造に広く適用可能である。本製造技術は、茎葉散布する殺菌剤、殺虫剤、殺虫殺菌混合剤、除草剤等の農薬全般に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミキサー内で、次の(1)〜(3)を少なくとも行う農薬粒剤又は農薬粉粒剤の製造方法。
(1)担体とバインダー液を混合し、該担体の表面にバインダー層を形成する。
(2)前記バインダー層を介して少なくとも農薬有効成分を固着させる。
(3)脱水乾燥剤を混合して乾燥処理を行う。
【請求項2】
前記脱水乾燥剤として、半水石膏を用いることを特徴とする請求項1記載の農薬粒剤又は農薬粉粒剤の製造方法。
【請求項3】
前記ミキサーは、コンクリートミキサー又は解砕機能付きミキサーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の農薬粒剤又は農薬粉粒剤の製造方法。

【公開番号】特開2009−84183(P2009−84183A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254357(P2007−254357)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】