説明

送り出し腕形偏平縫いミシン

【課題】ヘッド部内の機構の潤滑を良好に行わせ、またヘッド部内への塵埃の侵入を有効に防止して、運転速度の高速化要求に応え得る送り出し腕形偏平縫いミシンを提供する。
【解決手段】ミシンアーム10の先端部外側に配したメス駆動機構の連結ロッド6及び押え上げ機構の押え上げリンク43を、ミシンアーム10の先端面に取付けた側面カバー9により覆い、連結ロッド6及び押え上げリンク43を延設するためにヘッド部12の背面に設けた開口を側面カバー9によって塞ぎ、ヘッド部12内の潤滑を容易にし、またヘッド部12内への塵埃の侵入を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン主軸を内蔵するミシンアームの先端部に連設されたヘッド部内に、針棒駆動機構を含む各種の駆動機構を備える送り出し腕形偏平縫いミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ブリーフ、ショーツの股下部の合わせ縫いに用いられる送り出し腕形偏平縫いミシンは、ミシンフレームの上下部に相異なる方向に延びるミシンアーム及びミシンベッドを夫々備えている。ミシンアームの先端部には、該ミシンアームと略直交する向きにヘッド部が連設してあり、該ヘッド部からミシンベッドの先端に向けて垂下された針棒の下端に複数本の針が取付けてあり、また針棒に近接してヘッド部から垂下された押え棒の下端に押え金が取り付けてある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
送り出し腕形偏平縫いミシンによる合わせ縫いは、縫い合わせるべき2枚の生地の端縁を所定幅に亘って上下に重ね、押え棒の下端に取り付けた押え金とミシンベッドの先端部上面に架設された針板との間に挾持し、ミシンベッド内部の送り機構の動作によりミシンベッドの基端から先端に向かう送りを加えて針落ち位置に送り込み、針棒と共に上下動する複数本の針とミシンベッド内部のルーパとの協調動作により相互に縫い合わせる手順にて行なわれる。
【0004】
押え棒は、上下方向への移動可能にヘッド部内に支持されており、押えばねのばね力により下方に付勢されており、この押え棒の下端に取り付けた押え金は、前記押えばねのばね力により針板上に下降して縫製中の生地を押え、また外部からの操作が可能な押え上げ機構により、押えばねのばね力に抗して押え棒を上動させることによって上昇し、生地の押えを解除するように構成してある。押え上げ機構は、ミシンアームの外部に支持され、使用者によって揺動操作される押え上げレバーと、該押え上げレバーの揺動をヘッド部内の押え棒に伝え、該押え棒に押し上げ力を加える押え上げリンクとを備えている。
【0005】
また送り出し腕形偏平縫いミシンの押え金は、押え棒の下端に取り付けた押え本体の前部に互いに平行をなして延びる一対の押え足を有しており、これらの押え足の夫々に相対向するように保持された固定メス及び可動メスにより、針落ち位置に送り込まれる生地の端縁を切り揃えるように構成されたメス装置を備えている。
【0006】
メス装置の可動メスは、押え棒の中途に同軸回りでの回動を可能として支持されたメスブラケットに取り付けてあり、該メスブラケットが反復回動することにより、押え金の保持部をガイドとして往復動作して固定メスに摺接し、摺接位置に達した生地の端縁を切り揃える作用をなす。メスブラケットは、ヘッド部の内側に延長され、この延長部に径方向に突出する作動アームを有している。この作動アームは、ミシン主軸からの伝動に応じて所定角度範囲内で反復回動するメス振り軸に連結ロッドを介して連結してあり、メス振り軸の反復回動を連結ロッドを介して作動アームに伝え、前記メスブラケットを反復回動させるメス駆動機構が構成してある。
【特許文献1】特公平7−57272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の如く構成された送り出し腕形偏平縫いミシンは、前述した押え上げ機構を備えており、該押え上げ機構の押え上げリンクは、ミシンアームの外部に位置する押え上げレバーとヘッド部の内側に位置する押え棒とを連結するために、ミシンアームとの連設側となるヘッド部の背面に設けた開口を経てヘッド部内に延設されている。
【0008】
また送り出し腕形偏平縫いミシンは、前述したメス駆動機構を備えており、該メス駆動機構の連結ロッドは、可動メスの往復動作範囲の調整のために長さ調節可能とする必要がある。そこで従来においては、ミシンアームの先端外部にメス振り軸を突出させ、この突出部に基端を連結した連結ロッドの先端を、押え上げリンクと同様にヘッド部の背面に設けた開口を経てヘッド部内に延長してメス振り軸に連結し、ミシンアームの外側から連結ロッドの長さ調節が行えるようにしてある。
【0009】
更にメス駆動機構のメスブラケットは、特許文献1の図1にも示されているように、ヘッド部の正面を迂回して内側に延長されたコの字形の部材であり、ヘッド部の前面には、メスブラケットを受容する開口が形成されている。
【0010】
このように送り出し腕形偏平縫いミシンは、ヘッド部の前面及び背面に開口を有しており、これらの開口の存在が、針を上下動させるための針棒駆動機構等、ヘッド部内に設けられる機構の潤滑を難しくする上、縫製環境下に発生する塵埃が前記開口を経てヘッド部内に侵入し、前記機構の動作を阻害する虞れがあって、運転速度の高速化要求に応えることが難しいという問題がある。
【0011】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、ヘッド部内の機構の潤滑を良好に行わせ、またヘッド部内への塵埃の侵入を有効に防止して、運転速度の高速化要求に応え得る送り出し腕形偏平縫いミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1発明に係る送り出し腕形偏平縫いミシンは、ミシンアーム先端のヘッド部に垂下支持された押え棒と、該押え棒の下端に取り付けた押え金と、該押え金に保持された可動メスと、前記ミシンアームの外部に設けた押え上げレバーの揺動を前記ヘッド部の内側に延びる前記押え棒の上部に伝え、前記押え金を上昇させる押え上げ機構と、前記ミシンアームの外部に突出するメス振り軸の往復回動を前記押え棒を支持体として前記ヘッド部内に支持されたメスブラケットに伝え、該メスブラケットの前記ヘッド部の外側への突出端に取り付けた前記可動メスを往復移動させるメス駆動機構とを備える送り出し腕形偏平縫いミシンにおいて、前記ミシンアームに取り付けてあり、前記メス振り軸を前記メスブラケットに連結する連結ロッド及び前記押え上げレバーを前記押え棒に連結する押え上げリンクの一部又は全体を外側から覆うカバー部材を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、メス振り軸をメスブラケットに連結する連結ロッド、及び押え上げレバーを押え棒に連結する押え上げリンクの外側をカバー部材により覆い、前記連結ロッド及び押え上げリンクをヘッド部内に延設するためにヘッド部の背面に設けられる開口を塞ぎ、ヘッド部内の潤滑を良好に行わせ、ヘッド部内への塵埃の侵入を防止する。
【0014】
本発明の第2発明に係る送り出し腕形偏平縫いミシンは、第1発明におけるカバー部材が、前記メス振り軸との連結端を含む連結ロッドの全体を覆っており、前記押え上げリンクは、前記カバー部材を内外に貫通して延設され、前記押え上げレバーから離れた側の一部を前記カバー部材により覆ってあることを特徴とする。
【0015】
この発明においては、メス振り軸の反復回動に応じて複雑な動作をなす上、潤滑を必要とする連結ロッドは、メス振り軸との連結端を含む全体をカバー部材により覆う一方、押え上げレバーの揺動に応じて単純な往復動作をなす押え上げリンクは、押え上げレバーとの連結側から離れた先端側の一部のみをカバー部材により覆って、ヘッド部の内外を小サイズのカバー部材により効果的に遮断する。
【0016】
本発明の第3発明に係る送り出し腕形偏平縫いミシンは、第2発明のカバー部材に設けた貫通孔に周着され、該貫通孔を貫通する前記押え上げリンクの周面に弾接するシール板を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の第4発明に係る送り出し腕形偏平縫いミシンは、前記カバー部材に設けた貫通孔の周縁部に一端を固定され、該貫通孔を貫通する前記押え上げリンクの中途部に他端を固定されたベローズを備えることを特徴とする。
【0018】
これらの発明においては、カバー部材を貫通する押え上げリンクの中途部を、ゴム、樹脂等の弾性材料製のシール板又はベローズにより封止し、ヘッド部内の潤滑をより良好に行わせヘッド部内への塵埃の侵入を効果的に防止する。
【0019】
本発明の第5発明に係る送り出し腕形偏平縫いミシンは、前記ヘッド部に取り付けてあり、該ヘッド部の外側への前記メスブラケットの突出部を覆う第2のカバー部材を備えることを特徴とする。
【0020】
この発明においては、ヘッド部の外側へのメスブラケットの突出部を第2のカバー部材により覆い、メスブラケットを外部に延長するためにヘッド部の正面に設けた開口の少なくとも一部を塞ぎ、ヘッド部内への塵埃の侵入を防止する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る送り出し腕形偏平縫いミシンにおいては、メス駆動機構及び押え上げ機構の構成部材を通すためにヘッド部に設けられる開口をカバー部材により塞いだから、ヘッド部内の機構の潤滑を良好に行わせ、またヘッド部内への塵埃の侵入を有効に防止することができ、針を上下動させるための針棒駆動機構等、ヘッド部内に設けられる高速動作する機構を良好に潤滑し、またヘッド部内への塵埃の侵入を確実に防止することができ、運転速度の高速化要求に応えることが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係る送り出し腕形偏平縫いミシンの全体構成を示す外観斜視図である。
【0023】
図示の如く送り出し腕形偏平縫いミシンは、ミシンフレーム1の上部に一方向に延びるミシンアーム10を備え、ミシンフレーム1の下部にミシンアーム10と異なる方向に延びる細幅筒型のミシンベッド11を備えている。ミシンアーム10の先端部には、該ミシンアーム10と略直交する向きに、中空の矩形ブロック状をなすヘッド部12が連設してある。
【0024】
ヘッド部12の下方には、相対向するミシンベッド11の先端部に向けて押え棒13が垂下支持され、該押え棒13の下端部に押え金14が取り付けてある。押え棒13は、後述のように、上下動可能に支持されている。押え金14は、押え棒13の下動によりミシンベッド11の先端部に架設された針板15の上に下降し、該針板15との間に図示しない生地を挾持する。押え金14と針板15との間に挾持された生地は、ミシンベッド11の内部に設けた図示しない送り機構の動作により、ミシンベッド11の基部から先端側に向かう送りを加えられ、この送りに同期して上下動する複数本の針(図示せず)により合わせ縫いされる。
【0025】
押え金14は、ミシンベッド11の基部(生地の導入側)に向けて延びる左右一対の押え足14a,14a を備えており、これらの押え足 14a,14aに、固定メス16及び可動メス17(図3参照)を備えるメス装置が装備されている。
【0026】
図1中には、固定メス16の基部が図示されている。固定メス16は、一方の押え足 14aに固定保持された板状のメスであり、他方の押え足 14bに向けて突出する先端部に刃を有している。可動メス17は、他方の押え足 14bに保持されており、後述の如く構成されたメス駆動機構の動作により、押え足 14a,14bと略直交する方向に往復動作し、固定メス16の刃に摺接して、公知のように、押え足 14a,14bの間に相互に合わせた状態で導入される生地の端縁を切り揃える。切り揃えられた生地は、メス装置の下流側に位置するガイド手段の作用により上下に重ねられ、針落ち位置に送り込まれて縫い合わされる。
【0027】
図2は、押え棒13の支持構造を示す断面図である。図示の如く押え棒13は、ヘッド部12の下壁 12bを上下方向に貫通する下ブッシュ2に回動筒20を介して支持されている。下ブッシュ2は、ヘッド部12と一体又は別体に構成することができる。押え棒13の上部は、ヘッド部12の上壁 12aを上下方向に貫通する上ブッシュ3に挿通支持されている。このように押え棒13は、上ブッシュ3と下ブッシュ2とにより上下に離隔した2箇所を支持されており、これらのブッシュ3,2による案内下にて上下動することができる。
【0028】
上ブッシュ3の上部は、ヘッド部12の外側に適長突出され、この突出端部に調節ねじ30が螺合されている。該調節ねじ30の下端部と押え棒13の上端部との間には、コイルばねを用いてなる押えばね31が介装されている。押えばね31は、押え棒13に下向きのばね力を加え、押え棒13の下端部に取り付けた押え金14を下向きに付勢する。なお図4中には、押え金14の図示を省略してある。
【0029】
押えばね31のばね力の大きさは、調節ねじ30の上端に設けたつまみ32を回転操作し、調節ねじ30のねじ込み量を変えることにより調節することができる。この調節は、押え金14と針板15との間での生地の押え力を変更すべく実施され、調節された押え力は、調節ねじ30の中途に設けたロックナット33を締め付けることにより維持することができる。
【0030】
押え棒13の中途部には、下ブッシュ2による支持位置と上ブッシュ3による支持位置との間に押え棒ホルダ4が固定してあり、この押え棒ホルダ4の後側には、略水平な支軸41の周りでの揺動自在に揺動レバー40が枢支してある。揺動レバー40は、前方に延びて押え棒ホルダ4の下面に当接する作用片42を備えている。
【0031】
また支持部から上方に延びる揺動レバー40の先端には、図中に2点鎖線により示す押え上げリンク43の一端が連結されている。押え上げリンク43の他端は、ヘッド部12の後部外側に延長されており、ミシンアーム10の先端部外面に支持された押え上げレバー44に後述するように連結されている。図1中には、押え上げレバー44と押え上げリンク43の連結部分が図示されている。
【0032】
押え上げレバー44は、揺動レバー40と平行な軸回りに揺動可能に支持され、作業者による適宜の操作に応じて所定角度揺動するように構成された操作レバーであり、作業者は、押え金14を上昇させる場合に押え上げレバー44を揺動操作する。押え上げレバー44の揺動は、公知のように、膝押し板、足踏みペダル等の操作端の操作を、リンク、ワイヤ等の機械的な伝動手段により伝えて行わせることができ、また作業者によるスイッチ操作に応じたアクチュエータの動作によって行わせることもできる。
【0033】
押え上げレバー44の揺動操作は、押え上げリンク43を介して揺動レバー40に伝えられ、該揺動レバー40は、図2中に矢符により示すように反時計回りに揺動する。この揺動により揺動レバー40に設けられた作用片42が押えホルダ4に作用し、該押え上げホルダ4を介して押え棒13が押し上げられ、該押え棒13の下端に取り付けた押え金14が上昇する。このように押え金14を上昇させる押え上げ操作は、縫製前の生地を針板15上にセットする際、又は縫製を終えた生地を針板15上から取り外す際に行われる。
【0034】
なお押え棒ホルダ4は、押え棒13の一側に、これと平行をなして設けたガイド棒に係合されており、押え棒13の軸回りの回転を拘束する作用を併せて行う。この作用により押え金14は、針板15との間に挾持する生地からの作用力により回転する虞れがない。
【0035】
押え棒13と下ブッシュ2との間に介装された回動筒20は、下ブッシュ2の上下に適長突出している。ヘッド部12の外側に突出する回動筒20の下端部には、フックブラケット21が設けてあり、このフックブラケット21は、押え金14の上部に設けた飾り糸機構22(図1参照)に連結してある。またヘッド部12の内側に延びる回動筒20の上端部には、連結ブラケット23が嵌着されている。連結ブラケット23は、ミシンアーム10の内部の駆動機構に連結ロッド(図示せず)を介して連結されている。
【0036】
以上の構成により回動筒20は、上端部の連結ブラケット23に伝えられる前記駆動機構の動作に応じて軸回りに反復回動し、この反復回動は、回動筒20の下端に設けたフックブラケット21を介して飾り糸機構22に伝えられる。飾り糸機構22は、フックブラケット21からの伝動により、縫製中の生地の上面に飾り糸を配置する公知の動作をなす。
【0037】
図3は、可動メス17を往復動作させるメス駆動機構の斜視図である。図中18は、メス駆動機構の駆動軸としてのメス振り軸である。該メス振り軸18は、ミシンアーム10の内部に横架支持され、ミシン主軸8(図4、図5参照)からの伝動により、所定の角度範囲内にて軸回りに反復回動する回動軸である。メス振り軸18の一端部には、径方向外向きに延びる揺動アーム19が固着してある。該揺動アーム19は、メス振り軸18の反復回動に応じて揺動する。
【0038】
図中5は、メスブラケットである。メスブラケット5は、コの字形の連結体50により連結され、同軸上に適長離れて並ぶ円筒形の支持筒5a,5bを備えている。一方の支持筒5aには、径方向外向きに延びる作動アーム51が設けてあり、他方の支持筒5bには、固定ブラケット52が設けてある。
【0039】
図2に示すようにメスブラケット5は、ヘッド部12の内側に突出する後述の回動筒20の上部に一方の支持筒5aを外嵌し、回動筒20の上端の連結ブラケット23と下ブッシュ2の上面との間に挾持する一方、ヘッド部12の外側に突出する回動筒20の下部に他方の支持筒5bを外嵌し、下ブッシュ2の下面と回動筒20の下端のフックブラケット21との間に挾持して、両支持筒5a,5bの連結体50が、ヘッド部12の前面(図2における右側端面)を迂回してヘッド部12の内外を連絡するように取付けてある。
【0040】
以上の如く取付けられたメスブラケット5は、回動筒20を介して押え棒13に支えられ、該押え棒13と同軸上にて回動することができる。なお、支持筒5a,5bと、下ブッシュ2及び回動筒20との間には滑り板を夫々介装し、メスブラケット5の回動が滑らかに生じるようになしてある。
【0041】
上部の支持筒5aに設けられた作動アーム51は、図3に示すように、玉継手60,60を備える両端に連結ロッド6によりメス振り軸18の揺動アーム19に連結してある。以上の構成によりメスブラケット5は、揺動アーム19、連結ロッド6及び作動アーム51を介して伝えられるメス振り軸18の反復回動に応じて軸回りに反復回動する。連結ロッド6の両端の玉継手60,60は、図3に示すように、ねじによる軸長方向の位置調節を可能として取り付けてある。この位置調節は、連結ロッド6の長さを変え、後述の如く生じる可動メス17の往復動作範囲を微調整するために実施される。この調節を可能とするため、メス振り軸18と作動アーム51とを連結する連結ロッド6は、後述の如く、ミシンアーム10の先端部外側に配してある。
【0042】
下部の支持筒5bに設けた固定ブラケット52は、図3に示すように、前方に迂回するように延び、この延長端から更に下向きに延びる固定座53を備えている。固定座53には、メス台54を介して前記可動メス17が取り付けてある。可動メス17は、長手方向の一端に刃を有する板状のメスであり、前記メス台54に他端を固定し、押え棒13の前位置に、該押え棒13と略直交するように取り付けてある。
【0043】
このように取付けられた可動メス17は、前述したように、押え金14の一方の押え足 14bに設けたガイド部に通し、該押え足 14bと略直交する方向に往復動作可能に保持されている。可動メス17の往復動作は、メスブラケット5の反復回動に伴う固定ブラケット52の揺動に応じて前記ガイド部による案内下にて生じる。可動メス17は、メス台54に設けたコイルばね55により下向きに押圧付勢されている。コイルばね55は、固定メス16への可動メス17の押し付けを強化し、両メス16,17の摺接位置での生地の切断を確実に行わせる作用をなす。
【0044】
図1、図2に示すように、ヘッド部12の前面を封止する前板7の下部には、下縁に連続する矩形の開口70が設けてある。この開口70は、メスブラケット5の上下の支持筒5a,5bを連結するコの字形の連結体50を揺動範囲よりも大きい幅を有しており、メスブラケット5の連結体50は、前記開口70を通してヘッド部12の前面に延出され、図2に示すように下方に延長されてヘッド部12の内外に位置する前記支持筒5a,5bを連結している。
【0045】
前板7の下部前面には、前カバー(第2のカバー部材)71が取付けてある。この前カバー71は、図1及び図2に示すように、前板7に開設された前記開口70の前面を、該開口70の幅及び長さ方向の全域に亘って覆っている。従って、メスブラケット5の揺動を可能としながらヘッド部12の内外の連通を十分に遮断することができ、ヘッド部12内への塵埃の侵入を防止し、またヘッド部12内の潤滑を、外部への潤滑剤の漏れ出しを生じることなく実施することができる。
【0046】
図4及び図5は、ミシンアーム10の先端部の外観斜視図である。図4に示すようにミシンアーム10の先端部には、ミシン主軸8が突設され、突設端部に嵌着された伝動プーリ80を介してミシンモータ(図示せず)に連結されており、ミシン主軸8の突出部の一側は、図5に示すように側面カバー9(カバー部材)により覆ってある。
【0047】
図4は、側面カバー9を取り外した状態が示されており、本図に示す如くミシンアーム10の先端部には、ミシン主軸8の突設部の一側にメス振り軸18の端部が突出しており、この突出端部に前記揺動アーム19が固着されている。この揺動アーム19には、前述の如く連結ロッド6の一端部が連結してあり、該連結ロッド6は、ミシンアーム10の先端面に沿って前方(図4における右方)に延び、ヘッド部12の内部に、背面に設けた開口部を経て挿入され、図3に示すように、メスブラケット5に連結されており、メス振り軸18からの伝動により可動メス17を往復動作させる前述したメス駆動機構が構成されている。
【0048】
以上の如く配された連結ロッド6は、外部から長さ調節することができ、前述した可動メス17の往復動作範囲を微調整することが可能である。連結ロッド6の下位置には、油受けパン61が取付けてある。油受けパン61は、前方を下とした適宜の傾斜を有してヘッド部12の内部に延長されており、メス振り軸18の支持部、揺動アーム19と連結ロッド6との連結部等から漏れ落ちる潤滑用の油を受け、底面の傾斜によってヘッド部12内に戻す作用をなす。
【0049】
またミシンアーム10の先端部には、後部上面にレバー台45が固着してあり、該レバー台45に、前述した押え上げ機構の押え上げレバー44が取付けられている。押え上げレバー44は、図示のようなL字形のアームであり、屈曲部に設けた支軸46によりレバー台45に枢支してあり、上方に延びる一辺の中途に押え上げリンク43の一端が連結されている。
【0050】
更にミシンアーム10の先端部には、前述した押え上げ機構の揺動レバー40が、ヘッド部12の内側に位置して枢支してある。この揺動レバー40には、ミシンアーム10の先端面に沿って前方に延び、ヘッド部12内に侵入する前記押え上げリンク43の他端部が連結されており、前述したように、押え上げレバー44の揺動操作を押え上げリンク43を介して揺動レバー40に伝え、該揺動レバー40を揺動させて押え金14を上昇させる押え上げ機構が構成されている。
【0051】
図4に示すように側面カバー9は、以上のようにミシンアーム10の先端部外側に配されたメス駆動機構の連結ロッド6の全部を揺動アーム19との連結部及びメス振り軸18の突出部を含めて覆い、同じく押え上げリンク43の押え上げレバー44から離れた側の一部を覆い得る形状を有する箱形のカバーであり、周縁の一部に設けたブラケット90をミシンアーム10の端面に設けたねじ孔に締め付け固定し、図5に示すように、ヘッド部12の背面の開口を全域に亘って閉止するように装着されている。
【0052】
押え上げリンク43の先端部は、側面カバー9の該当位置に設けた貫通孔91に通して側面カバー9の内部に延長されており、図4に示すように揺動レバー40に連結されている。前記貫通孔91の周縁には、ゴム、軟質樹脂等の弾性材料製のシール板が周設され、貫通孔91に挿通された押え上げリンク43の中途部外周に弾接させてあり、押え上げレバー44の挿通部を封止してある。
【0053】
本発明に係る送り出し腕形偏平縫いミシンにおいては、以上のように装着された側面カバー9を備えており、該側面カバー9が、メス駆動機構の連結ロッド6及び押え上げ機構の押え上げリンク43を延長するためにヘッド部12の背面に設けられる開口を塞ぎ、この開口によるヘッド部12の内外の連通を遮断している。従って、針棒駆動機構等、ヘッド部12の内部に設けられる各種の運動機構の潤滑を、潤滑剤の漏れ出しの虞れなく良好に行わせることができ、またヘッド部12内への塵埃の侵入を防止することが可能であり、運転速度の高速化に対応することができる。
【0054】
側面カバー9は、図4、図5に示す形状に限らず、連結ロッド6及び押え上げリンク43の一部又は全部を覆い、ヘッド部12の背面の開口を塞ぎ得る適宜の形状とすることができる。図4、図5に示す側面カバー9は、連結ロッド6の外側を、メス振り軸18の突出部を含めて覆っており、メス振り軸18の支持部、揺動アーム19と連結ロッド6との連結部に必要な潤滑をも良好に行わせることができる。
【0055】
押え上げリンク43は、一部のみを覆ってあるが、この押え上げリンク43は、押え上げレバー44の揺動に応じて軸長方向に移動する単純な動作をなすのみであり、押え上げリンク43のわずかの振れを許容し得る小径の貫通孔91を設けるだけで対応することができ、ヘッド部12の内外の連通を有効に遮断することができる。また前述したシール板の配置により押え上げリンク43の挿通部を封止する構成により、押え上げリンク43の運動を阻害せずにヘッド部12の内外をより確実に遮断することができるから、ヘッド部12内の潤滑を良好に実施し、ヘッド部12内への塵埃の侵入を確実に防止して、運転速度の高速化に寄与することができる。
【0056】
なお、図4、図5に示す側面カバー9は、周縁の一箇所に固定用のブラケット90を備えるように図示されているが、周縁の複数箇所に同様のブラケットを備え、夫々をミシンアーム10の先端面にねじ止め固定するのが望ましい。側面カバー9の周縁とヘッド部12の開口部との密着部、及び側面カバー9の周縁とミシンアーム10の先端面との密着部の一方又は両方にシール手段を介装することにより、側面カバー9の内外をより確実に封止することが可能となるが、このシール手段の介装は必須ではない。
【0057】
図6は、本発明の他の実施の形態を示すミシンアーム10の先端部の外観斜視図である。本図においても、ミシンアーム10の先端部外面には、押え上げリンク43及び連結ロッド6の外側を覆い、ヘッド部12の背面の開口を塞ぐように側面カバー9が装着してある。この実施の形態において、押え上げリンク43は、丸棒状のリンクであり、該当位置に設けた貫通孔(図示せず)を通して側面カバー9の内部に延長されており、押え上げリンク43の挿通部は、前記開口の周縁部に一端を固定され、押え上げリンク43の中途部に他端を固定されたベローズ92により封止してある。
【0058】
ベローズ92は、わずかな振れを伴って生じる押え上げリンク43の往復動作に追随変形することができ、押え上げリンク43の動作を許容しながら、側面カバー9の内外、即ち、ヘッド部12の内外の連通をより確実に遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る送り出し腕形偏平縫いミシンの外観斜視図である。
【図2】押え棒の支持構造を示す断面図である。
【図3】可動メスを往復動作させるメス駆動機構の斜視図である。
【図4】側面カバーを取り外した状態を示すミシンアームの先端部の外観斜視図である。
【図5】側面カバーを取り付けた状態を示すミシンアームの先端部の外観斜視図である。
【図6】本発明の他の実施の形態を示すミシンアーム10の先端部の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
5 メスブラケット
6 連結ロッド
8 側面カバー(カバー部材)
10 ミシンアーム
12 ヘッド部
13 押え棒
14 押え金
17 可動メス
18 メス振り軸
43 押え上げリンク
44 押え上げレバー
71 前面カバー(第2のカバー部材)
91 貫通孔
92 ベローズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンアーム先端のヘッド部に垂下支持された押え棒と、該押え棒の下端に取り付けた押え金と、該押え金に保持された可動メスと、前記ミシンアームの外部に設けた押え上げレバーの揺動を前記ヘッド部の内側に延びる前記押え棒の上部に伝え、前記押え金を上昇させる押え上げ機構と、前記ミシンアームの外部に突出するメス振り軸の往復回動を前記押え棒を支持体として前記ヘッド部内に支持されたメスブラケットに伝え、該メスブラケットの前記ヘッド部の外側への突出端に取り付けた前記可動メスを往復移動させるメス駆動機構とを備える送り出し腕形偏平縫いミシンにおいて、
前記ミシンアームに取り付けてあり、前記メス振り軸を前記メスブラケットに連結する連結ロッド及び前記押え上げレバーを前記押え棒に連結する押え上げリンクの一部又は全部を外側から覆うカバー部材を備えることを特徴とする送り出し腕形偏平縫いミシン。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記メス振り軸との連結端を含む前記連結ロッドの全体を覆っており、前記押え上げリンクは、前記カバー部材を内外に貫通して延設され、前記押え上げレバーから離れた側の一部を前記カバー部材により覆ってある請求項1記載の送り出し腕形偏平縫いミシン。
【請求項3】
前記カバー部材に設けた貫通孔に周着され、該貫通孔を貫通する前記押え上げリンクの周面に弾接するシール板を備える請求項2に記載の送り出し腕形偏平縫いミシン。
【請求項4】
前記カバー部材に設けた貫通孔の周縁部に一端を固定され、該貫通孔を貫通する前記押え上げリンクの中途部に他端を固定されたベローズを備える請求項2に記載の送り出し腕形偏平縫いミシン。
【請求項5】
前記ヘッド部に取り付けてあり、該ヘッド部の外側への前記メスブラケットの突出部を覆う第2のカバー部材を備える請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の送り出し腕形偏平縫いミシン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate