説明

送り装置

【課題】出力部の静止安定性を高く維持しながらも、装置のコンパクト化を図ることができる、送り装置を提供することを課題とする。
【解決手段】送り装置41は、相互に交差するように配置され且つ前部において出力端部55を共有する少なくとも一対の超音波振動子51を有する出力部45と、出力部の後方に配置され、該出力部に対して被駆動部42への当接方向の予圧を付与する予圧付与機構47と、出力部と予圧付与機構との間に配置され、出力部を前後方向への移動可能に支持する板ばねを有する支持機構48と、出力端部に対して左右両側に振り分けられて配置され、出力部の前後方向の移動を許容する共に該出力部の左右方向の傾きを規制する左右一対の傾き規制機構50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子を用いた送り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波振動子を用いた送り装置としては、特開2000−152671号公報に例示されるように、交差態様で配置された一対の超音波振動子を一つの出力端部で接続する送り装置が存在している。図6にその構成を模式的に示す。
【0003】
図6において、送り装置1は、出力部3と、スライドガイド機構5と、予圧付与機構7とを備えている。出力部3は、交差するように配置された一対の超音波振動子9を有する。一対の超音波振動子9は、一つの出力端部11によって接続されている。スライドガイド機構5は、出力部3をベース13に対してスライド自在に支持しており、通常、特定方向の直線移動だけを許容するローラーガイドなどによって構成されている。予圧付与機構7は、コイルばねなどによって構成されており、出力部3を被駆動部15に向けて付勢して出力端部11が適当な押し付け力で被駆動部15に当接するようにしている。
【特許文献1】特開2000−152671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の送り装置では、出力部3とベース13との間に占有スペースが大きいスライドガイド機構5が介在しており、送り装置1全体が大型化する問題があった。その一方で、出力部を過度に簡素な構成で支持した場合には、支持機構の小型化は実現できるものの、出力部が傾きやすく適正な姿勢を保持しきれず、出力部の静止安定性が悪化する可能性もある。
【0005】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、出力部の静止安定性を高く維持しながらも、装置のコンパクト化を図ることができる、送り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係る送り装置は、相互に交差するように配置され且つ前部において出力端部を共有する少なくとも一対の超音波振動子を有する出力部と、前記出力部の後方に配置され、該出力部に対して被駆動部への当接方向の予圧を付与する予圧付与機構と、前記出力部と前記予圧付与機構との間に配置され、該出力部を前後方向への移動可能に支持する板ばねを有する支持機構と、前記出力端部に対して左右両側に振り分けられて配置され、前記出力部の前後方向の移動を許容すると共に該出力部の左右方向の傾きを規制する左右一対の傾き規制機構とを備える。
【0007】
また、前記出力部の左右両側部からは、左右一対の延長ブラケットが前方に延びており、前記左右一対の傾き規制機構は、それぞれ対応する前記左右一対の延長ブラケットに接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、出力部の静止安定性を高く維持しながらも、装置のコンパクト化を図ることができる。
【0009】
なお、本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施の形態によって更に詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る送り装置を、被駆動部を直線的に駆動するリニアタイプ送り装置として実施した場合の実施の形態について、添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。
【0011】
図1に、本発明の実施の形態に係る送り装置の平面を示す。送り装置41は、それぞれが所定のベース上に設けられた出力部45と、予圧付与機構47と、支持機構48と、左右一対の傾き規制機構50とを備えている。出力部45は、それぞれ圧電素子を含む一対のランジュバン型超音波振動子51と、交差保持ブラケット53とを備えている。一対の超音波振動子51は、交差保持ブラケット53によって平面的にみて各軸が相互に交差するような態様で支持されている。また、一対の超音波振動子51は円柱状の出力端部55を共有しており、すなわち、一対の超音波振動子51の先端には単一の出力端部55が設けられている。本実施の形態では、例示構成として、超音波振動子51、交差保持ブラケット53及び出力端部55の組立体は、平面視、左右対称的な構成を有しており、ほぼ左右対称軸CL上に出力端部55の被駆動部42に対する当接点55aが位置している。
【0012】
交差保持ブラケット53の後方、すなわち、超音波振動子51や交差保持ブラケット53を挟んだ出力端部55との反対側には、予圧付与機構47が設けられている。予圧付与機構47は、コイルばね57と、ばね受け板59とを備えている。
【0013】
ばね受け板59は、ベース上に立設されている。そして、ばね受け板59にはコイルばね57の後端が接続されている。予圧付与機構47は、コイルばね57の弾性力によって出力部45に対して被駆動部42への当接方向の予圧を付与している。
【0014】
出力部45と予圧付与機構47との間には、支持機構48が配置されている。支持機構48は、左右一対のばね受け体48aと、板ばね48bとを備えている。左右一対のばね受け体48aはそれぞれ、ベース上に立設されている。板ばね48bは、本実施の形態では左右方向に延長しており、その左右両端部において、対応する左右一対のばね受け体48aに支持されている。板ばね48bの前面は、交差保持ブラケット53の後面に接続されており、板ばね48bの後面は、予圧付与機構47のコイルばね57に接続されている。かかる構成によって、支持機構48の板ばね48bが、出力部45を前後方向への移動可能な態様で支持する。
【0015】
左右一対の傾き規制機構50は、支持機構48の前方であって、出力部45、特に出力端部55の左右両側に振り分けられて配置されている。左右一対の傾き規制機構50はそれぞれ、ばね受け体81と、コイルばね83とを備えている。ばね受け体81は、ベースに取り付けられている。本実施の形態では、コイルばね83は、その軸線が左右方向に延長しており、各コイルばね83の一端は、対応するばね受け体81に接続されている。一方、各コイルばね83の他端は、出力部45に一体的に形成されている延長ブラケット91に接続されている。
【0016】
左右一対の延長ブラケット91は、出力部45の左右両側部から前方に延長している。より詳細には、本実施の形態では左右一対の延長ブラケット91は、交差保持ブラケット53の一部として構成されており、超音波振動子51を保持している部分の前端から前方に延長している。
【0017】
このように左右一対の傾き規制機構50及び支持機構48は、出力部45を囲むように、より詳細には出力部45を取り囲む三角形状の角部を占めるように配置され、出力部45を3点支持している。そして、左右一対の傾き規制機構50は、支持機構48の前方において出力端部55を左右両側から挟むように位置し、出力部45の前後方向の移動を許容すると共に、出力部45の左右方向の傾きを規制している。
【0018】
次に、以上のように構成された送り装置41の動作について説明する。図1に示されるように出力部45のほぼ左右対称軸上にある当接点55aが被駆動部42に当接している状態から、予圧付与機構47を機能させ、出力部45に予圧を付与する。このとき、支持機構48及び左右一対の傾き規制機構50が何れも、出力部45の前後方向の移動を許容しているため、出力部45は、支持機構48及び左右一対の傾き規制機構50に阻害されることなく、予圧付与機構47の作用によって前方に付勢され、所望の予圧力が付与される。所望の予圧が付与されたならば、超音波振動子51に電流を印加することで各超音波振動子51から変位を出力させ、出力端部55において出力変位を合成して摩擦力として取り出し、被駆動部42を駆動方向(左右方向)へと動作させる。
【0019】
このように、本実施の形態の送り装置41によれば、出力部45と予圧付与機構47との間に挿入した板ばね48bによって、出力部45を支持する。このため、従来のように、出力部とベースとの間にローラーガイドなどの大掛かりなガイド機構を設けていた態様に比べ、極めてコンパクトな構成で出力部45を支持することができ、従って、送り装置41全体をコンパクト化することができる。特に、出力部とベースとの間に大掛かりなガイド機構が不要となるため、高さを低背化できる。
【0020】
その一方で、本発明者の検討によると、コンパクト化を図るべく板ばねにより出力部を支持した場合、出力部において、出力端部の左右方向の傾きが生じることが懸念される。しかしながら、本実施の形態では、左右一対の傾き規制機構50が、出力部45(特に出力端部55)を左右から挟みこむように配置されているため、板ばねにより出力部45を支持しておりながら出力端部の左右方向の傾きが規制されている。
【0021】
これにより、被駆動部42への当接点55aが実質的に平面視一箇所だけとなる当接態様、換言するならば、被駆動部42と出力端部55との当接を広範に亙って確保していない当接態様であっても、出力部45の姿勢を保持し送り装置41の停止時における出力部45の静止安定性を高く確保することができる。これは、特に、ナノオーダーの微動送りを要求される使用においては非常に有益である。
【0022】
また、板ばね48bで構成される支持機構48と、コイルばね83で構成される左右一対の傾き規制機構50とによる、出力部45の3点支持態様は、出力部45の上下方向の移動は拘束していない。このため、出力部45における円柱状の出力端部55は、予圧力を受けて、その上端から下端に亙って連続する線接触態様で、被駆動部42と当接されるように企図されている。すなわち、従来のローラーガイドに代表されるようなベースと平行な動作のみを許容するような出力部の支持態様では、精度の問題や、使用に伴う磨耗、振動などによって、出力端部が被駆動部に対して上下一方に片当たりするような場合でも、本実施の形態の支持態様であれば、出力端部55の偏りを吸収し、常時、出力端部55の被駆動部42への線接触状態を確保することが可能となっている。
【0023】
さらに、本発明者は、本実施の形態に係る送り装置と、比較例として、傾き規制機構を具備せず、板ばねによる支持機構のみを具備した送り装置とに関して、静止安定性すなわち駆動方向の剛性について測定を行った。
【0024】
測定方法について説明すると、送り装置につき、可動部重量10kgのステージを取り付け、静止状態で駆動方向にハンマリングを行い、ステージ位置の変化を測定する。次に、この位置変化をFFT解析して共振周波数を求め、可動部重量から送り方向の剛性を算出した。測定の結果、本実施の形態に係る送り装置では、剛性は0.8N/μmであった。
【0025】
さらに、フィードバックコントロールシステムを接続して位置決めを行い、静止時の目的位置との差を位置誤差として0.1msecおきに測定した。位置センサには分解能1nmのリニアスケールを用いた。その結果、20秒間の位置誤差の標準偏差をσとすると、3σ<1.0nmであった。
【0026】
これに対して、比較例の送り装置では、まず、板ばねの厚みが0.2mm以下の場合、すでに出力部の先端が傾いてしまい駆動自体が不可能となった。よって、厚みが0.3mmの板ばねを用いたところ、出力部の保持は可能となり、本実施の形態の送り装置の場合と同様にして、共振周波数を求め剛性を算出すると、剛性は0.3N/μmであった。さらに、同様に位置誤差を測定したところ、3σ≒10nmという結果を得た。なお、比較例では、板ばねが厚いため、予圧を発生させるコイルばねの弾性力を板ばねが受けてしまい、取り付け位置の微妙な差で予圧力の大きな変化をもたらし、均一なセッティングが困難になる不利益も生じていた。
【0027】
以上から分るように、本実施の形態の送り装置では、比較例に対して、剛性において約3倍弱の増加、位置誤差において約10分の1の減少という、著しい性能向上が得られている。また、厚い板ばねを用いなくても出力部の傾きを抑制できるため、厚い板ばねを用いたことによりセッティングが困難になるといった問題も回避できる。
【0028】
次に、傾き規制機構に関する改変形態について説明する。本発明に関する傾き規制機構は、出力端部に対して左右に振り分けて配置され、出力部の前後方向の移動を許容する共に出力部の左右方向の傾きを規制できれば特に限定されるものではないが、あくまでも例示として幾つかの態様を挙げる。
【0029】
図2に示されるように、出力部の左右一方に、コイルばね83及びばね受け体81を設け、他方に、ガイド面181及びローラ183を設けることによって、左右一対の傾き規制機構151を構成することもできる。あるいは、図示省略するが、出力部の左右両方に、ガイド面181及びローラ183を設けることによって、左右一対の傾き規制機構を構成することもできる。
【0030】
図3に示されるように、出力部の左右一方に、ガイド面181及びローラ183を設け、他方に、ベース体281及びそれに沿ってスライドする摺動プレート283を設けることによって、左右一対の傾き規制機構251を構成することもできる。あるいは、図示省略するが、一方のガイド面181及びローラ183に代えて、コイルばね83及びばね受け体81を設けてもよいし、出力部の左右両方に、ベース体281及び摺動プレート283を設けてもよい。
【0031】
図4に示されるように、出力部の左右一方に、平行ばね381を設け、他方に、平行ヒンジ383を設けることによって、左右一対の傾き規制機構351を構成することもできる。平行ばね381は、前後一対の板ばね381aと、左右一対の平行保持ブロック381bとを備えている。これによって、左右一対の平行保持ブロック381bが平行関係を保ったまま前後方向に相対移動できるように構成されている。また、平行ヒンジ383は、左右一対のブロック部分383aと、これらブロック部分の間に設けられたヒンジ付きの前後一対の連結板部383bとを備える。これによって、左右一対のブロック部分383aが平行関係を保ったまま前後方向に相対移動できるように構成されている。
【0032】
さらに、図示省略するが、出力部の左右一方に、平行ばね381又は平行ヒンジ383を設け、他方に、コイルばね83及びばね受け体81の組み合わせ、ガイド面181及びローラ183の組み合わせ、ベース体281及び摺動プレート283の組み合わせのうちの何れか一つの組み合わせを採用することもできる。あるいは、出力部の左右両方に、平行ばね381を設けたり、出力部の左右両方に、平行ヒンジ383を設けたりすることもできる。
【0033】
次に、傾き規制機構と出力部との接続に関する改変形態について説明する。本発明に関する傾き規制機構は、出力端部に対して左右に振り分けて配置され、出力部の前後方向の移動を許容する共に出力部の左右方向の傾きを規制できるように出力部と接続されていれば図1の延長ブラケット91を用いることに限定されるものではないが、あくまでも例示として他の態様を挙げる。
【0034】
図5に、接続態様の改変形態に係る送り装置の平面及び側面を示す。接続用の前方延長ブラケット54は、交差保持ブラケット53の後部に固定されており、側面視、前方に開口するコの字状の板部材からなる。そして、前方延長ブラケット54の前縁の左右両側面に、傾き規制機構の一例としてのコイルばね83が接続されている。
【0035】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【0036】
本発明の送り装置は、被送り体を直線的に移動させる態様に限定されるものではなく、例えば、ロータ(被駆動部)を回転駆動させる態様として実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る送り装置の平面図である。
【図2】傾き規制機構に関する改変形態を示す図である。
【図3】傾き規制機構に関する改変形態を示す図である。
【図4】傾き規制機構に関する改変形態を示す図である。
【図5】傾き規制機構と出力部との接続に関する改変形態を示す図である。
【図6】従来の送り装置の平面及び側面を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
41 送り装置
42 被駆動部
45 出力部
47 予圧付与機構
48 支持機構
50、150、250、350 傾き規制機構
51 超音波振動子
55 出力端部
91 延長ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に交差するように配置され且つ前部において出力端部を共有する少なくとも一対の超音波振動子を有する出力部と、
前記出力部の後方に配置され、該出力部に対して被駆動部への当接方向の予圧を付与する予圧付与機構と、
前記出力部と前記予圧付与機構との間に配置され、該出力部を前後方向への移動可能に支持する板ばねを有する支持機構と、
前記出力端部に対して左右両側に振り分けられて配置され、前記出力部の前後方向の移動を許容すると共に該出力部の左右方向の傾きを規制する左右一対の傾き規制機構と
を備える送り装置。
【請求項2】
前記出力部の左右両側部からは、左右一対の延長ブラケットが前方に延びており、
前記左右一対の傾き規制機構は、それぞれ対応する前記左右一対の延長ブラケットに接続されている
請求項1に記載の送り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−43129(P2008−43129A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216829(P2006−216829)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】