送信アンテナ
【課題】電波の伝播領域を制限して、所望する対象以外の情報を読み取らないように制御する送信アンテナを提供することを目的とする。
【解決手段】アンテナ8から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁2,3を、アンテナ8の両端縁近傍から突出状に配設したものである。さらに、アンテナ8から放射される電波の平面視の半値角が一対の電波吸収側壁2,3によって狭められ、狭められた制御後半値角を、40°以下とした。
【解決手段】アンテナ8から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁2,3を、アンテナ8の両端縁近傍から突出状に配設したものである。さらに、アンテナ8から放射される電波の平面視の半値角が一対の電波吸収側壁2,3によって狭められ、狭められた制御後半値角を、40°以下とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁波又は電磁界を介して非接触で情報を読み取るシステムが、次世代の識別技術として使用されてきており、例えば、2.45GHz 5.25GHz帯の無線LANや、ETCで用いられる 5.8GHz帯等の送信アンテナが知られている。そして、読取を行う電波を送信するアンテナが従来より知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2005−267077公報
【特許文献2】特開2006− 20083公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のUHF帯( 800MHz〜 960MHz)用送信アンテナは、上述のように、非接触で情報を読み取ることができる点が大きな利点の一つであるが、その反面、通信領域が広いために、読取を所望しない場所に存在する情報まで読み取ってしまうという問題や、隣接する同種システム間の干渉により正しくタグの情報を読み出せないという問題や、さらに、様々な周辺構造物からの反射波と送受信アンテナからの直接波が合成し、特に弱め合うポイント(Null点)ではタグが無応答となるという問題があった。これらの問題から、電磁環境を如何に制御するかが課題となっていた。
【0004】
そこで、本発明は、電波の伝播領域を制限して、所望する対象以外の情報を読み取らないように制御する送信アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る送信アンテナは、アンテナから放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁を、該アンテナの両端縁近傍から突出状に配設したものである
【0006】
また、上記アンテナから放射される電波の平面視の半値角が一対の上記電波吸収側壁によって狭められ、狭められた制御後半値角を、40°以下とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、次のような著大な効果を奏する。
本発明に係る送信アンテナは、アンテナから放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁を、アンテナの両端縁近傍から突出状として設けたものなので、簡易な構成でありながら、放射した電波(の半値角)を制御(ゾーンコントロール)でき、所望しない場所にあるタグ情報の読み取りを防ぐことができる。また、隣接する別のアンテナから放射した電波との干渉も防がれる。よって、所望の被識別体のみを、確実かつ正確に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、実施の形態を示す図面に基づき、本発明を詳説する。
図1〜図5は本発明に係る送信アンテナの実施の一形態を示し、この送信アンテナは、周波数が 300MHz〜 300GHzの広い範囲の電波を送受信するアンテナ8を具備する。
そして、アンテナ8から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁2,3が、アンテナ8の両端縁近傍から突出状に配設されている。
以下、具体例として、UHF帯( 800MHz〜 960MHz)のRFIDアンテナシステムについて説明する。
【0009】
アンテナ8は、その電波放射面28が通路部13の向き(被識別体10の通路方向12)と平面視において平行状となると共に、その給電点18が床面から所定(例えば、1300mm)の高さ位置となるように図示省略の保持部材によって保持される。
アンテナ8の筐体11は、長辺が 700mm〜 730mmで、短辺が 300mm〜 330mmで、厚さが35mm〜45mmの矩形平板状を有し、アルミニウムケースと塩ビカバーを有する。給電点18廻りに斜線で描いた円形の範囲は電波放射範囲であり、給電点18はこの範囲の中心点よりも僅かに下方に位置する。
【0010】
また、通路部13の(下方)床面には、放射電波の床面による反射を防ぐ電波吸収床部材15を設置しても良い。また、通路部13の(上方)天井側には、電波の漏れを防ぐ電波吸収天井部材16を設置しても良い。
【0011】
そして、図1,図2,図4,図5において、本発明の装置は、RFIDアンテナ8から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁2,3が、RFIDアンテナ8の両端縁近傍から通路部13側へ突出状として設けられる。即ち、電波吸収側壁2,3は、電波の平面視のビーム領域6の半値角θを狭める。
具体的には、電波吸収側壁2,3は矩形平板状を有すると共に、RFIDアンテナ8を前後中央位置に挟んだ状態で、かつ、RFIDアンテナ8に直交状(通路方向12に直交状)に設けられる。側壁2,3の夫々の前端縁20,30は、通路部13側へ同じ位置まで突出している。
なお、本発明においては、RFIDアンテナ8から通路部13に直交する方向を前方とする。
【0012】
また、RFIDアンテナ8の給電点18は、前後方向中央に設けられている場合、即ち、左側の側壁2と給電点18との左右方向寸法W1 と、右側の側壁3と給電点18との左右方向寸法W2 とが同じ大きさに設定されている場合(図2〜図5参照)と、W1 <W2 (図12〜図15参照)や、W2 <W1 となるように設定される場合がある。なお、実施例のRFIDアンテナ8は、一点の給電点18において電波の送信・受信を行うものであるが、送信ポイントと受信ポイントが分離した位置に設けられたアンテナを用いてもよく、送信ポイントが本発明の給電点18に相当する(図示省略)。
【0013】
そして、θは、一対の側壁2,3が設けられていない場合のRFIDアンテナ8から放射される電波の半値角であり、6は、半値角θを成すビーム領域である。ビーム領域6が、RFIDアンテナ8の電波放射面28に対する法線よりも僅かに左側へ傾いているのはアンテナの放射特性による。
そして、θcは、RFIDアンテナ8から放射される電波の半値角θが側壁2,3によって狭められた(ゾーンコントロールされた)制御後半値角であり、20°〜40°となるように設定される。ゾーンコントロールされた制御領域9を点々で示した。
制御後半値角θcが40°を超過すると、電波が拡がり過ぎるため、読取対象外の範囲にあるタグの情報まで読んでしまう虞れがある。
一方、制御後半値角θcに下限をもたせることにより、電波の拡がりを一定量保つことができ、ゲートを通るRFIDタグの読み取り領域(距離、通過時間)を長く確保できることから、読取漏れを確実に防ぐことができる。この観点からは、制御後半値角θcは、20°以上とすることがより好ましい。
なお、半値角は、一番強く電波が出て行く点を基準として、これが電力で半分の値(最大電力から3dBを引いた値)になる点でつくる角度であり、ビームの鋭さを表す。
【0014】
また、側壁2,3の突出寸法Lは、制御後半値角θcが上記の範囲を満たす条件の下で、電気長にて 0.5×λ〜3×λ(λは電波の波長を示す)に設定され、かつ、側壁2,3とRFIDアンテナ8の左右縦辺部との間隔寸法は、同様の条件下で、 0.5×λ以下(0は当接した状態)に設定される。アンテナ8の左側の縦辺部と左側の側壁2、及び、アンテナ8の右側の縦辺部と右側の側壁3とは、夫々間隙を有するように設けられる場合(図1〜図5参照)と、隙間無く(当接状に)設けられる場合(図12〜図14参照)がある。例えば、 953MHZの場合、Lが 150mmのとき約0.48×λで表される。
【0015】
電波吸収側壁2,3は、例えば、ポリカーボネート、粘着材、Ag膜、PET、空隙部(を有する部材)、PET、ITO膜、粘着材、ポリカーボネートを順次積層して形成される。
【0016】
さらに、図1,図2,図4において示したように、RFIDアンテナ8から通路部13を挟んで前側に、平板形状の電波吸収対向壁1を対向状に設けるのもよい。電波吸収対向壁1は、RFIDアンテナ8の電波放射面28と平行状に立設されている。この対向壁1の上下端辺と、電波吸収天井部材16・床部材15の他端辺とを夫々隙間無く連結することで、電波の漏れが防がれる。
また、電波吸収対向壁1の左右方向の長さ寸法Pは、一対の側壁2,3が設けられた状態において制御後半値角θcのビーム領域6に対応するように形成される。即ち、RFIDアンテナ8と対向壁1との距離をXとすると、P≧2Xtan(θc/2)の式を満たすように形成される。そして、対向壁1は、ビーム領域6内の電波を漏れなく受けるように設置される。
【0017】
図6〜図8は他の実施例を示し、図1〜図5の装置との相違点は、RFIDアンテナ8から放射されるビーム領域6の上方領域や下方領域を狭める電波吸収上壁4や下壁5が設けられた点である。
図6は、アンテナ8の上方に、RFIDアンテナ8から通路部13側へ突出状として水平状の電波吸収上壁4が、設けられる。上壁4は、その前端縁40が側壁2,3の前端縁20,30と同じ位置まで通路部13側へ突出している。図7は、アンテナ8の下方に、RFIDアンテナ8から通路部13側へ突出状として水平状の電波吸収下壁5が、設けられる。下壁5は、その前端縁50が側壁2,3の前端縁20,30と同じ位置まで通路部13側へ突出している。図8では、電波吸収上壁4・下壁5が、図6,図7で説明したと同じ構成で設けられている。
上壁4と下壁5を設けることで、電波の垂直成分が上方・下方へ拡がる角度を制御でき、一層、他のタグの読取防止や、他の同種システムとの干渉防止も図り得る。
【0018】
図9〜図11は、側壁2,3の別の実施例を示す。図9では、側壁2,3は、両者の間隔が通路部13側へテーパ状に狭くなる平面視ハの字状に設けられている。図10の装置は、側壁2,3は、両者の間隔が通路部13側へテーパ状に拡がる平面視ハの字状に設けられている。また、図11の装置は、平行な側壁2,3の前端縁20,30が、夫々前後方向内側に小さく折曲られている。図9〜図11の実施例においても、図6〜図8で説明した上壁4や下壁5を組み合わせて設けてもよい。
【0019】
次に、RFIDアンテナ8の電波を実際に測定してその結果について考察する。
先ず、図1,図2の装置にて、設置位置等の条件を様々に変化させてRFIDアンテナ8の周囲の電波環境(電界分布)を測定した結果を図12〜図15に示した。また、一対の側壁2,3を省略して測定した(従来例の)結果を図16に示し、さらに、別の従来の装置の測定結果を図17に示した。23で示した枠内は、RFIDアンテナ8の周囲のうち、後述の図示省略の受信アンテナによって測定した平面視における測定範囲である。測定範囲23に沿って付された数字は、対向壁1の前後方向中心の基準点Oから、RFIDアンテナ8側と、前側への位置(座標)である。受信アンテナを測定範囲23内で移動させながら多数の箇所で測定を行う。
【0020】
電波吸収側壁2,3は共に、縦寸法が2000mm、横寸法が1000mm、厚さ寸法80mm(そのうち空隙が73mm)である(なお、図1は、側壁2,3の一部のみ図示した。)。また、RFIDアンテナ8と電波吸収対向壁1の距離Xを3000mmとした。また、RFIDアンテナ8の給電点18は、床面から1300mmの高さ位置に設定した。なお、給電点18は、左右中央よりも左寄りに設けられている。
また、RFIDアンテナ8の測定周波数は 953MHzである。測定範囲23に設置する測定用の受信アンテナは垂直偏波のダイポールアンテナであり、測定の高さ位置を1300mmとした。
【0021】
そして、図12、図13、図14は、装置の突出寸法Lを 300mm、 500mm、 750mmに設定した場合の夫々の電界分布を示す。また、図16は、前壁2・後壁3を設けずに測定を行ったときの電界分布を示す。24で示した白地の領域は、電界強度が一定値未満であってRFIDタグ7の情報を読み取れない読取不可領域を示す。そして、網掛けした領域22は、電界強度が一定値以上であってRFIDタグ7の情報を読み取ることのできる読取可能領域を示し、網掛けが密に示された領域ほど強く読み取ることができる。
図16における読取可能領域22が、広範囲であるのに対して、図12〜図14においては、前壁2・後壁3によりゾーンコントロールされて狭くなった読取可能領域22が測定された。また、突出寸法Lが大きくなるに従って、より大きく狭められていくことが分かる。なお、測定範囲23よりも後側における範囲の測定は省略したが、省略した範囲においても読取可能領域はゾーンコントロールされている。
【0022】
図15は、Lを 500mmとし、かつ、一対の側壁2,3の間隔を、図12〜図14の装置に対して約2倍に設定した場合の電界分布を示し、この図15によれば、読取可能領域22が広範囲に拡がり過ぎているため、所望しない場所のタグ情報も読み取ってしまい、適切なゾーンコントロールではない。
【0023】
また、図17は、図1の装置において一対の側壁2,3を設けず、かつ、電波吸収対向壁1に替えて電波反射対向壁14を設けた場合の電界分布を示す。この図17によれば、RFIDアンテナ8からの直接波と、電波反射対向壁14からの反射波とが合成し、読取可能領域22内に、特に弱め合うポイントで複数のNull点17…が生じてしまい、タグが無応答となるという問題がある。
また、図示省略するが、従来では、RFIDアンテナを電波遮蔽材で覆う対策が採られていたが、遮蔽材による反射波の到達経路を予測することが困難であった。
【0024】
また、図18は、図12,図13,図14,図16の測定で、RFIDアンテナ8(給電点18)から一定距離の箇所で測定した電界強度の変位を示す。横軸は、給電点18を通るRFIDアンテナ8に立てた法線を基準として計測した左右方向への角度を示し、プラス側が右側への角度、マイナス側が左側への角度を示す。また、縦軸は電界強度を示す。そして、電界強度の最強点から3dB低い電界強度を成す電波の半値角は、図18のグラフからも明らかなように、一対の側壁2,3が設けられない(図16に対応する)場合の半値角θが最も大きく、そして、突出寸法Lが大きくなるに従って(図12,図13,図14の順に)、制御後半値角θcが小さくなる。
【0025】
そして、以上の測定結果から、RFIDアンテナ8が放射した電波を効果的にゾーンコントロールできるので、所望しない場所のタグの情報を読み取ることがない。また、別の同種システムからの電波と干渉も防がれ、正確にタグの情報を読み取ることができる。また、Null点が発生することもないので、タグ情報の読取漏れが防がれる。なお、UHF帯のRFIDについての測定結果を示したが、その他の周波数において測定を行っても、同様のゾーンコントロールが行われる。
【0026】
また、従来のように電波反射体を用いた場合には、送信アンテナが例えばパラボラやホーンアンテナなどの指向性の高いアンテナを構成することとなり、アンテナ利得が増加する。本発明によれば、送信アンテナの利得に影響を与えないため、UHF帯で電波の強さとして規制されているEIRP(実効放射電力:アンテナ利得と送信出力の積)値を変化させることなくゾーンコントロールを行うことができる利点がある。
なお、図1に於て、アンテナ8を通路部13の左右両側壁に配置するも自由であり(図示省略)、両アンテナ8,8の一方をONとしたとき他方をOFFとして、電波は交互に発信させる。あるいは、通路部13の天井部(上方)にアンテナ8を下方に向けて電波が発信するように配置するも、好ましい。
【0027】
以上のように、本発明に係る送信アンテナは、アンテナ8から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁2,3を、アンテナ8の両端縁近傍から突出状に配設したものなので、簡易な構成でありながら、放射した電波を制御(ゾーンコントロール)でき、所望しない場所にあるタグ情報の読み取りを防ぐことができる。また、隣接する別のアンテナ(同種システム)から放射した電波との干渉も防がれる。よって、所望する被識別体10のみを、確実かつ正確に測定することが可能となる。また、このアンテナ8は、アンテナ利得を増加させずに、指向性が高まり、技術的に合理的であるといえる。
【0028】
また、アンテナ8から放射される電波の平面視の半値角θが一対の電波吸収側壁2,3によって狭められ、狭められた制御後半値角θcを、40°以下としたので、読取対象外の範囲にあるタグの情報まで読み取ってしまうのを防ぐことができる。なお、制御後半値角θcを、20°以上とするのが望ましく、そうすることで電波の届く範囲が狭過ぎないため、読取漏れを確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る送信アンテナの実施の一形態を示す斜視図である。
【図2】平面図である。
【図3】アンテナを示す正面図である。
【図4】説明用平面図である。
【図5】要部正面図である。
【図6】他の実施例を示す要部正面図である。
【図7】別の実施例を示す要部正面図である。
【図8】さらに別の実施例を示す要部正面図である。
【図9】他の実施例を示す要部平面図である。
【図10】別の実施例を示す要部平面図である。
【図11】さらに別の実施例を示す要部平面図である。
【図12】電界分布を示す説明用平面図である。
【図13】電界分布を示す説明用平面図である。
【図14】電界分布を示す説明用平面図である。
【図15】電界分布を示す説明用平面図である。
【図16】電界分布を示す説明用平面図である。
【図17】電界分布を示す説明用平面図である。
【図18】電界強度の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
2 電波吸収側壁
3 電波吸収側壁
8 アンテナ
θ 半値角
θc 制御後半値角
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁波又は電磁界を介して非接触で情報を読み取るシステムが、次世代の識別技術として使用されてきており、例えば、2.45GHz 5.25GHz帯の無線LANや、ETCで用いられる 5.8GHz帯等の送信アンテナが知られている。そして、読取を行う電波を送信するアンテナが従来より知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2005−267077公報
【特許文献2】特開2006− 20083公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のUHF帯( 800MHz〜 960MHz)用送信アンテナは、上述のように、非接触で情報を読み取ることができる点が大きな利点の一つであるが、その反面、通信領域が広いために、読取を所望しない場所に存在する情報まで読み取ってしまうという問題や、隣接する同種システム間の干渉により正しくタグの情報を読み出せないという問題や、さらに、様々な周辺構造物からの反射波と送受信アンテナからの直接波が合成し、特に弱め合うポイント(Null点)ではタグが無応答となるという問題があった。これらの問題から、電磁環境を如何に制御するかが課題となっていた。
【0004】
そこで、本発明は、電波の伝播領域を制限して、所望する対象以外の情報を読み取らないように制御する送信アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る送信アンテナは、アンテナから放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁を、該アンテナの両端縁近傍から突出状に配設したものである
【0006】
また、上記アンテナから放射される電波の平面視の半値角が一対の上記電波吸収側壁によって狭められ、狭められた制御後半値角を、40°以下とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、次のような著大な効果を奏する。
本発明に係る送信アンテナは、アンテナから放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁を、アンテナの両端縁近傍から突出状として設けたものなので、簡易な構成でありながら、放射した電波(の半値角)を制御(ゾーンコントロール)でき、所望しない場所にあるタグ情報の読み取りを防ぐことができる。また、隣接する別のアンテナから放射した電波との干渉も防がれる。よって、所望の被識別体のみを、確実かつ正確に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、実施の形態を示す図面に基づき、本発明を詳説する。
図1〜図5は本発明に係る送信アンテナの実施の一形態を示し、この送信アンテナは、周波数が 300MHz〜 300GHzの広い範囲の電波を送受信するアンテナ8を具備する。
そして、アンテナ8から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁2,3が、アンテナ8の両端縁近傍から突出状に配設されている。
以下、具体例として、UHF帯( 800MHz〜 960MHz)のRFIDアンテナシステムについて説明する。
【0009】
アンテナ8は、その電波放射面28が通路部13の向き(被識別体10の通路方向12)と平面視において平行状となると共に、その給電点18が床面から所定(例えば、1300mm)の高さ位置となるように図示省略の保持部材によって保持される。
アンテナ8の筐体11は、長辺が 700mm〜 730mmで、短辺が 300mm〜 330mmで、厚さが35mm〜45mmの矩形平板状を有し、アルミニウムケースと塩ビカバーを有する。給電点18廻りに斜線で描いた円形の範囲は電波放射範囲であり、給電点18はこの範囲の中心点よりも僅かに下方に位置する。
【0010】
また、通路部13の(下方)床面には、放射電波の床面による反射を防ぐ電波吸収床部材15を設置しても良い。また、通路部13の(上方)天井側には、電波の漏れを防ぐ電波吸収天井部材16を設置しても良い。
【0011】
そして、図1,図2,図4,図5において、本発明の装置は、RFIDアンテナ8から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁2,3が、RFIDアンテナ8の両端縁近傍から通路部13側へ突出状として設けられる。即ち、電波吸収側壁2,3は、電波の平面視のビーム領域6の半値角θを狭める。
具体的には、電波吸収側壁2,3は矩形平板状を有すると共に、RFIDアンテナ8を前後中央位置に挟んだ状態で、かつ、RFIDアンテナ8に直交状(通路方向12に直交状)に設けられる。側壁2,3の夫々の前端縁20,30は、通路部13側へ同じ位置まで突出している。
なお、本発明においては、RFIDアンテナ8から通路部13に直交する方向を前方とする。
【0012】
また、RFIDアンテナ8の給電点18は、前後方向中央に設けられている場合、即ち、左側の側壁2と給電点18との左右方向寸法W1 と、右側の側壁3と給電点18との左右方向寸法W2 とが同じ大きさに設定されている場合(図2〜図5参照)と、W1 <W2 (図12〜図15参照)や、W2 <W1 となるように設定される場合がある。なお、実施例のRFIDアンテナ8は、一点の給電点18において電波の送信・受信を行うものであるが、送信ポイントと受信ポイントが分離した位置に設けられたアンテナを用いてもよく、送信ポイントが本発明の給電点18に相当する(図示省略)。
【0013】
そして、θは、一対の側壁2,3が設けられていない場合のRFIDアンテナ8から放射される電波の半値角であり、6は、半値角θを成すビーム領域である。ビーム領域6が、RFIDアンテナ8の電波放射面28に対する法線よりも僅かに左側へ傾いているのはアンテナの放射特性による。
そして、θcは、RFIDアンテナ8から放射される電波の半値角θが側壁2,3によって狭められた(ゾーンコントロールされた)制御後半値角であり、20°〜40°となるように設定される。ゾーンコントロールされた制御領域9を点々で示した。
制御後半値角θcが40°を超過すると、電波が拡がり過ぎるため、読取対象外の範囲にあるタグの情報まで読んでしまう虞れがある。
一方、制御後半値角θcに下限をもたせることにより、電波の拡がりを一定量保つことができ、ゲートを通るRFIDタグの読み取り領域(距離、通過時間)を長く確保できることから、読取漏れを確実に防ぐことができる。この観点からは、制御後半値角θcは、20°以上とすることがより好ましい。
なお、半値角は、一番強く電波が出て行く点を基準として、これが電力で半分の値(最大電力から3dBを引いた値)になる点でつくる角度であり、ビームの鋭さを表す。
【0014】
また、側壁2,3の突出寸法Lは、制御後半値角θcが上記の範囲を満たす条件の下で、電気長にて 0.5×λ〜3×λ(λは電波の波長を示す)に設定され、かつ、側壁2,3とRFIDアンテナ8の左右縦辺部との間隔寸法は、同様の条件下で、 0.5×λ以下(0は当接した状態)に設定される。アンテナ8の左側の縦辺部と左側の側壁2、及び、アンテナ8の右側の縦辺部と右側の側壁3とは、夫々間隙を有するように設けられる場合(図1〜図5参照)と、隙間無く(当接状に)設けられる場合(図12〜図14参照)がある。例えば、 953MHZの場合、Lが 150mmのとき約0.48×λで表される。
【0015】
電波吸収側壁2,3は、例えば、ポリカーボネート、粘着材、Ag膜、PET、空隙部(を有する部材)、PET、ITO膜、粘着材、ポリカーボネートを順次積層して形成される。
【0016】
さらに、図1,図2,図4において示したように、RFIDアンテナ8から通路部13を挟んで前側に、平板形状の電波吸収対向壁1を対向状に設けるのもよい。電波吸収対向壁1は、RFIDアンテナ8の電波放射面28と平行状に立設されている。この対向壁1の上下端辺と、電波吸収天井部材16・床部材15の他端辺とを夫々隙間無く連結することで、電波の漏れが防がれる。
また、電波吸収対向壁1の左右方向の長さ寸法Pは、一対の側壁2,3が設けられた状態において制御後半値角θcのビーム領域6に対応するように形成される。即ち、RFIDアンテナ8と対向壁1との距離をXとすると、P≧2Xtan(θc/2)の式を満たすように形成される。そして、対向壁1は、ビーム領域6内の電波を漏れなく受けるように設置される。
【0017】
図6〜図8は他の実施例を示し、図1〜図5の装置との相違点は、RFIDアンテナ8から放射されるビーム領域6の上方領域や下方領域を狭める電波吸収上壁4や下壁5が設けられた点である。
図6は、アンテナ8の上方に、RFIDアンテナ8から通路部13側へ突出状として水平状の電波吸収上壁4が、設けられる。上壁4は、その前端縁40が側壁2,3の前端縁20,30と同じ位置まで通路部13側へ突出している。図7は、アンテナ8の下方に、RFIDアンテナ8から通路部13側へ突出状として水平状の電波吸収下壁5が、設けられる。下壁5は、その前端縁50が側壁2,3の前端縁20,30と同じ位置まで通路部13側へ突出している。図8では、電波吸収上壁4・下壁5が、図6,図7で説明したと同じ構成で設けられている。
上壁4と下壁5を設けることで、電波の垂直成分が上方・下方へ拡がる角度を制御でき、一層、他のタグの読取防止や、他の同種システムとの干渉防止も図り得る。
【0018】
図9〜図11は、側壁2,3の別の実施例を示す。図9では、側壁2,3は、両者の間隔が通路部13側へテーパ状に狭くなる平面視ハの字状に設けられている。図10の装置は、側壁2,3は、両者の間隔が通路部13側へテーパ状に拡がる平面視ハの字状に設けられている。また、図11の装置は、平行な側壁2,3の前端縁20,30が、夫々前後方向内側に小さく折曲られている。図9〜図11の実施例においても、図6〜図8で説明した上壁4や下壁5を組み合わせて設けてもよい。
【0019】
次に、RFIDアンテナ8の電波を実際に測定してその結果について考察する。
先ず、図1,図2の装置にて、設置位置等の条件を様々に変化させてRFIDアンテナ8の周囲の電波環境(電界分布)を測定した結果を図12〜図15に示した。また、一対の側壁2,3を省略して測定した(従来例の)結果を図16に示し、さらに、別の従来の装置の測定結果を図17に示した。23で示した枠内は、RFIDアンテナ8の周囲のうち、後述の図示省略の受信アンテナによって測定した平面視における測定範囲である。測定範囲23に沿って付された数字は、対向壁1の前後方向中心の基準点Oから、RFIDアンテナ8側と、前側への位置(座標)である。受信アンテナを測定範囲23内で移動させながら多数の箇所で測定を行う。
【0020】
電波吸収側壁2,3は共に、縦寸法が2000mm、横寸法が1000mm、厚さ寸法80mm(そのうち空隙が73mm)である(なお、図1は、側壁2,3の一部のみ図示した。)。また、RFIDアンテナ8と電波吸収対向壁1の距離Xを3000mmとした。また、RFIDアンテナ8の給電点18は、床面から1300mmの高さ位置に設定した。なお、給電点18は、左右中央よりも左寄りに設けられている。
また、RFIDアンテナ8の測定周波数は 953MHzである。測定範囲23に設置する測定用の受信アンテナは垂直偏波のダイポールアンテナであり、測定の高さ位置を1300mmとした。
【0021】
そして、図12、図13、図14は、装置の突出寸法Lを 300mm、 500mm、 750mmに設定した場合の夫々の電界分布を示す。また、図16は、前壁2・後壁3を設けずに測定を行ったときの電界分布を示す。24で示した白地の領域は、電界強度が一定値未満であってRFIDタグ7の情報を読み取れない読取不可領域を示す。そして、網掛けした領域22は、電界強度が一定値以上であってRFIDタグ7の情報を読み取ることのできる読取可能領域を示し、網掛けが密に示された領域ほど強く読み取ることができる。
図16における読取可能領域22が、広範囲であるのに対して、図12〜図14においては、前壁2・後壁3によりゾーンコントロールされて狭くなった読取可能領域22が測定された。また、突出寸法Lが大きくなるに従って、より大きく狭められていくことが分かる。なお、測定範囲23よりも後側における範囲の測定は省略したが、省略した範囲においても読取可能領域はゾーンコントロールされている。
【0022】
図15は、Lを 500mmとし、かつ、一対の側壁2,3の間隔を、図12〜図14の装置に対して約2倍に設定した場合の電界分布を示し、この図15によれば、読取可能領域22が広範囲に拡がり過ぎているため、所望しない場所のタグ情報も読み取ってしまい、適切なゾーンコントロールではない。
【0023】
また、図17は、図1の装置において一対の側壁2,3を設けず、かつ、電波吸収対向壁1に替えて電波反射対向壁14を設けた場合の電界分布を示す。この図17によれば、RFIDアンテナ8からの直接波と、電波反射対向壁14からの反射波とが合成し、読取可能領域22内に、特に弱め合うポイントで複数のNull点17…が生じてしまい、タグが無応答となるという問題がある。
また、図示省略するが、従来では、RFIDアンテナを電波遮蔽材で覆う対策が採られていたが、遮蔽材による反射波の到達経路を予測することが困難であった。
【0024】
また、図18は、図12,図13,図14,図16の測定で、RFIDアンテナ8(給電点18)から一定距離の箇所で測定した電界強度の変位を示す。横軸は、給電点18を通るRFIDアンテナ8に立てた法線を基準として計測した左右方向への角度を示し、プラス側が右側への角度、マイナス側が左側への角度を示す。また、縦軸は電界強度を示す。そして、電界強度の最強点から3dB低い電界強度を成す電波の半値角は、図18のグラフからも明らかなように、一対の側壁2,3が設けられない(図16に対応する)場合の半値角θが最も大きく、そして、突出寸法Lが大きくなるに従って(図12,図13,図14の順に)、制御後半値角θcが小さくなる。
【0025】
そして、以上の測定結果から、RFIDアンテナ8が放射した電波を効果的にゾーンコントロールできるので、所望しない場所のタグの情報を読み取ることがない。また、別の同種システムからの電波と干渉も防がれ、正確にタグの情報を読み取ることができる。また、Null点が発生することもないので、タグ情報の読取漏れが防がれる。なお、UHF帯のRFIDについての測定結果を示したが、その他の周波数において測定を行っても、同様のゾーンコントロールが行われる。
【0026】
また、従来のように電波反射体を用いた場合には、送信アンテナが例えばパラボラやホーンアンテナなどの指向性の高いアンテナを構成することとなり、アンテナ利得が増加する。本発明によれば、送信アンテナの利得に影響を与えないため、UHF帯で電波の強さとして規制されているEIRP(実効放射電力:アンテナ利得と送信出力の積)値を変化させることなくゾーンコントロールを行うことができる利点がある。
なお、図1に於て、アンテナ8を通路部13の左右両側壁に配置するも自由であり(図示省略)、両アンテナ8,8の一方をONとしたとき他方をOFFとして、電波は交互に発信させる。あるいは、通路部13の天井部(上方)にアンテナ8を下方に向けて電波が発信するように配置するも、好ましい。
【0027】
以上のように、本発明に係る送信アンテナは、アンテナ8から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁2,3を、アンテナ8の両端縁近傍から突出状に配設したものなので、簡易な構成でありながら、放射した電波を制御(ゾーンコントロール)でき、所望しない場所にあるタグ情報の読み取りを防ぐことができる。また、隣接する別のアンテナ(同種システム)から放射した電波との干渉も防がれる。よって、所望する被識別体10のみを、確実かつ正確に測定することが可能となる。また、このアンテナ8は、アンテナ利得を増加させずに、指向性が高まり、技術的に合理的であるといえる。
【0028】
また、アンテナ8から放射される電波の平面視の半値角θが一対の電波吸収側壁2,3によって狭められ、狭められた制御後半値角θcを、40°以下としたので、読取対象外の範囲にあるタグの情報まで読み取ってしまうのを防ぐことができる。なお、制御後半値角θcを、20°以上とするのが望ましく、そうすることで電波の届く範囲が狭過ぎないため、読取漏れを確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る送信アンテナの実施の一形態を示す斜視図である。
【図2】平面図である。
【図3】アンテナを示す正面図である。
【図4】説明用平面図である。
【図5】要部正面図である。
【図6】他の実施例を示す要部正面図である。
【図7】別の実施例を示す要部正面図である。
【図8】さらに別の実施例を示す要部正面図である。
【図9】他の実施例を示す要部平面図である。
【図10】別の実施例を示す要部平面図である。
【図11】さらに別の実施例を示す要部平面図である。
【図12】電界分布を示す説明用平面図である。
【図13】電界分布を示す説明用平面図である。
【図14】電界分布を示す説明用平面図である。
【図15】電界分布を示す説明用平面図である。
【図16】電界分布を示す説明用平面図である。
【図17】電界分布を示す説明用平面図である。
【図18】電界強度の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
2 電波吸収側壁
3 電波吸収側壁
8 アンテナ
θ 半値角
θc 制御後半値角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ(8)から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁(2)(3)を、該アンテナ(8)の両端縁近傍から突出状に配設したことを特徴とする送信アンテナ。
【請求項2】
上記アンテナ(8)から放射される電波の平面視の半値角(θ)が一対の上記電波吸収側壁(2)(3)によって狭められ、狭められた制御後半値角(θc)を、40°以下とした請求項1記載の送信アンテナ。
【請求項1】
アンテナ(8)から放射される電波の指向性を制御する一対の鉛直状電波吸収側壁(2)(3)を、該アンテナ(8)の両端縁近傍から突出状に配設したことを特徴とする送信アンテナ。
【請求項2】
上記アンテナ(8)から放射される電波の平面視の半値角(θ)が一対の上記電波吸収側壁(2)(3)によって狭められ、狭められた制御後半値角(θc)を、40°以下とした請求項1記載の送信アンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図18】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図18】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−141566(P2008−141566A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326709(P2006−326709)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【出願人】(593022076)佐川印刷株式会社 (18)
【出願人】(594095028)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【出願人】(593022076)佐川印刷株式会社 (18)
【出願人】(594095028)
【Fターム(参考)】
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