説明

送信装置、及び送信方法

【課題】大きなダイナミックレンジや高い線形性を有しない光源を利用してOFDM方式の光通信を実現すること。
【解決手段】送信データを直並列変換してN個の並列データを生成する直並列変換手段と、前記直並列変換手段により生成されたN個の並列データをそれぞれ変調してN個の変調信号を生成する変調手段と、第1番目〜第N番目の送信信号が互いに直交するように、前記変調手段により生成された第n番目(n=1〜N)の変調信号を周波数fnの矩形波にのせて第n番目の送信信号を生成する送信信号生成手段と、前記送信信号生成手段により生成された第1番目〜第N番目の送信信号を加算して加算信号を生成する加算手段と、前記加算手段により生成された加算信号に基づいて光源を発光させる発光手段と、を備える、送信装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置、及び送信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光領域の光を利用した光通信技術に注目が集まっている。特に、発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)等の発光素子を利用した照明装置の普及が急速に進んでいる状況を背景に、屋内外に設置された照明装置を活用し、利便性に富んだデータ通信環境(可視光通信システム)を実現すべく研究開発が進められている。光通信に利用される発光素子としては、人体や医療機器等に対する影響を考慮するとLEDが最も有力な候補になる。
【0003】
しかし、光通信によるデータ伝送速度は、発光素子や駆動回路の応答速度に依存する。そのため、高速なデータ伝送速度を必要とする用途では、LEDよりも応答速度が高いLD(Laser Diode)やSLD(Super luminescent Diode)も有力な候補として考えられている。
【0004】
また、データ伝送速度を更に向上させるため、発光素子が発する1シグナルの間に多くのデータを安定して伝送する技術も求められている。こうした光通信技術に関し、例えば、下記の特許文献1には、OFDM(Orthogonal Frequency−Division Multiplexing)信号の時間軸を空間方向へ割り付けることにより、空間干渉を除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−252444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
OFDM方式を用いると、周波数利用効率及びマルチパス耐性が向上する。そのため、無線通信システム(例えば、無線LAN)や有線通信システム(例えば、ADSL)において広く利用されている。光通信においても、これらのシステムと同様に、OFDM方式を適用することで通信品質の向上が期待される。OFDM信号は、複数のキャリア信号(変調された複数の正弦波)から構成される。そのため、OFDM信号を歪み無く伝送するためには、大きなダイナミックレンジと高い線形性を有する送信回路が必要になる。
【0007】
通常、LED及びその駆動回路は、一定光量の発光を目的として設計されている。そのため、このようなLED及びその駆動回路は、大きなダイナミックレンジや高い線形性を有していない。従って、光通信にOFDM方式を適用するには、大きなダイナミックレンジや高い線形性を有する特別なLED及びその駆動回路が必要になる。このような特別なLED及びその駆動回路は実現が難しい。仮に実現出来たとしても、通常のLEDや駆動回路に比べて製造コストが格段に高くなる上、既存の照明インフラが利用できなくなる。こうした理由から、光通信にOFDM方式を適用するのは現実的ではない。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、発光手段に対して大きなダイナミックレンジと高い線形性を要求せずに、OFDM方式による通信品質の向上効果を得ることが可能な、新規かつ改良された送信装置、及び送信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、送信データを直並列変換してN個の並列データを生成する直並列変換手段と、前記直並列変換手段により生成されたN個の並列データをそれぞれ変調してN個の変調信号を生成する変調手段と、第1番目〜第N番目の送信信号が互いに直交するように、前記変調手段により生成された第n番目(n=1〜N)の変調信号を周波数fnの矩形波にのせて第n番目の送信信号を生成する送信信号生成手段と、前記送信信号生成手段により生成された第1番目〜第N番目の送信信号を加算して加算信号を生成する加算手段と、前記加算手段により生成された加算信号に基づいて光源を発光させる発光手段と、を備える送信装置が提供される。
【0010】
このような構成にすることで、発光手段に対するダイナミックレンジと線形性への要求を低減することができる。
【0011】
また、前記周波数f(n=1〜N)は、f=f*(n+k)(fは所定値、k≧1、N=2*(k+1))としてもよい。このような構成にすることで、送信信号に含まれる高調波成分の干渉に起因して伝送特性が劣化するのを避けることができる。
【0012】
また、前記送信信号生成手段は、第m番目(m=1〜L、L<N)の変調信号を周波数f=f*(m+k)(fは所定値、k≧1、L=2*(k+1))の矩形波にのせて第m番目の送信信号を生成し、第q番目(q=(L+1)〜N)の変調信号を、周波数f*o(m=1〜L、oは1以上の奇数)以外の周波数f=f*q(q>L+k)を有する矩形波にのせて第q番目の送信信号を生成するように構成されていてもよい。このような構成にすることで、OFDMキャリアを有効に利用して伝送速度を向上させることができる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、送信データを直並列変換してN個の並列データを生成する直並列変換ステップと、前記直並列変換ステップで生成されたN個の並列データをそれぞれ変調してN個の変調信号を生成する変調ステップと、第1番目〜第N番目の送信信号が互いに直交するように、前記変調ステップで生成された第n番目(n=1〜N)の変調信号を周波数fの矩形波にのせて第n番目の送信信号を生成する送信信号生成ステップと、前記送信信号生成ステップで生成された第1番目〜第N番目の送信信号を加算して加算信号を生成する加算ステップと、前記加算ステップで生成された加算信号に基づいて光源を発光させる発光ステップと、を含む送信方法が提供される。
【0014】
このような構成にすることで、発光手段に対するダイナミックレンジと線形性への要求を低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、発光手段に対して大きなダイナミックレンジと高い線形性を要求せずに、OFDM方式による通信品質の向上効果を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】光通信でOFDMを利用する場合に想定される可視光通信装置(送信機)の構成を示す説明図である。
【図2】光通信でOFDMを利用する場合に想定されるOFDM信号のスペクトルを示す説明図である。
【図3】光通信でOFDMを利用する場合に想定される各キャリア信号及びOFDM信号の信号波形を示す説明図である。
【図4】光通信でOFDMを利用する場合に想定されるOFDM信号のスペクトル(計算例)を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る可視光通信装置の構成を示す説明図である。
【図6】同実施形態に係るOFDM信号のスペクトルを示す説明図である。
【図7】同実施形態に係る各キャリア信号及びOFDM信号の信号波形を示す説明図である。
【図8】同実施形態に係るOFDM信号のスペクトルを示す説明図である。
【図9】同実施形態に係るLED駆動回路の一構成例を示す説明図である。
【図10】同実施形態の第1変形例に係る各キャリア信号及びOFDM信号の信号波形を示す説明図である。
【図11】同実施形態の第2変形例に係る各キャリア信号及びOFDM信号の信号波形を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[説明の流れについて]
ここで、以下に記載する本発明の実施形態に関する説明の流れについて簡単に述べる。まず、図1を参照しながら、光通信にOFDM方式を適用する場合に想定される可視光通信装置10(送信機)の構成について説明する。次いで、図2〜図4を参照しながら、光通信にOFDM方式を適用する場合に想定されるOFDM信号のスペクトル、各キャリア信号の信号波形、OFDM信号の信号波形について説明する。
【0019】
次いで、図5を参照しながら、本実施形態に係る可視光通信装置100(送信機)の構成について説明する。次いで、図6〜図8を参照しながら、本実施形態に係るOFDM信号のスペクトル、各キャリア信号の信号波形、OFDM信号の信号波形について説明する。次いで、図9を参照しながら、本実施形態に係るLED駆動回路104の具体的な回路構成について説明する。次いで、図10、図11を参照しながら、本実施形態の第1及び第2変形例について説明する。
【0020】
<実施形態>
本発明の一実施形態について説明する。本実施形態は、光通信にOFDM方式を適用する場合に生じる問題に対して現実的な解決策を提供するものである。
【0021】
[1:可視光通信装置10の構成]
まず、図1〜図4を参照しながら、光通信にOFDM方式を適用する場合に想定される可視光通信装置10の構成について説明し、当該構成において生じる問題点について整理する。図1は、光通信でOFDMを利用する場合に想定される可視光通信装置(送信機)の構成を示す説明図である。図2(模式図)、図4(計算例)は、光通信でOFDMを利用する場合に想定されるOFDM信号のスペクトルを示す説明図である。図3は、光通信でOFDMを利用する場合に想定される各キャリア信号及びOFDM信号の信号波形を示す説明図である。
【0022】
図1に示すように、可視光通信装置100は、S/P変換器11、変調器12、IFFT部13、D/A変換器14、LED駆動回路15、LED16により構成される。
【0023】
まず、送信データは、S/P変換器11に入力される。そして、S/P変換器11に入力された送信データは、S/P変換器11により並列化されてN個(N≧2;OFDMキャリア数)の並列データに変換される。S/P変換器11による変換で得られたN個の並列データは、それぞれ変調器12に入力される。変調器12に入力された並列データは、所定の変調方式(例えば、BPSKや多相PSK等)に基づいて変調が施されて変調信号に変換される。個々の変調器12による変調で得られた変調信号は、IFFT部13に入力される。
【0024】
IFFT部13は、N個の乗算器及び1個の加算器により構成される。個々の変調器12から入力された変調信号は、それぞれ対応する乗算器に入力される。また、N個の乗算器には、互いに直交するN種類の搬送波(cos(2πf#1t)〜cos(2πf#Nt))がそれぞれ入力される。乗算器に入力された変調信号と搬送波は乗算器により乗算され、それぞれ周波数f#1〜f#Nのキャリア信号が生成される。そして、N個の乗算器により生成された周波数f#1〜f#Nのキャリア信号は加算器に入力され、OFDM信号が生成される。
【0025】
加算器により生成されたOFDM信号は、IFFT部13から出力され、D/A変換器14に入力される。例えば、このOFDM信号のスペクトルは、図2のような形状になる。図2の例は、N=4の場合(但し、f#k=f(k=1〜4、f=k×f))におけるOFDM信号のスペクトル形状を模式的に示したものである。また、このOFDM信号を構成する周波数f〜fのキャリア信号は、図3に示すような信号波形(但し、図3の横軸は時間軸、縦軸は信号強度)を有する。さらに、図3には、これら4本のキャリア信号を加算して得られるOFDM信号の信号波形も示した。また、f=1MHz、f=2MHz、f=3MHz、f=4MHzの条件で計算したOFDM信号のスペクトルを図4に示した。
【0026】
このようなスペクトル及び信号波形を有するOFDM信号は、D/A変換器14でアナログ信号に変換されてLED駆動回路15に入力される。LED駆動回路15は、そのアナログ信号の信号電位に応じた発光強度でLED16を発光させる。図3に例示したOFDM信号の信号波形からも推察される通り、OFDM信号を歪み無く伝送するためには、LED駆動回路15とLED16に大きなダイナミックレンジと高い線形性が要求される。また、OFDM信号が歪みを持つと、個々のキャリア信号成分が高調波を持つようになり、その高調波が他のキャリア信号成分に干渉を与えて伝送特性の劣化をもたらす。
【0027】
上記の通り、OFDM信号は、周波数の異なる複数のキャリア信号を重ね合わせて生成される。そのため、位相が揃った部分ではキャリア信号の振幅が加算され、OFDM信号の振幅絶対値はキャリア信号の本数倍程度まで増大してしまう。さらに、異なる複数のキャリア信号が重ね合わされているため、OFDM信号の信号波形は、図3に例示したような細かな構造を持つ複雑な信号波形となる。LED駆動回路15及びLED16において非線形歪みが生じると、このような細かな構造をLED16の発光強度に精度良く反映させることはできない。そのため、OFDM信号に歪みを与えないようにするには、LED駆動回路15及びLED16には高い線形性が求められるのである。
【0028】
こうした理由から、図1に例示した可視光通信装置10を利用してOFDM方式の光通信を実現するには、大きなダイナミックレンジと高い線形性を有するLED駆動回路15及びLED16を用意する必要がある。しかしながら、このような特別なLED駆動回路15やLED16は、製造可能であったとしても非常に高い製造コストがかかる。また、照明等に利用されている既存のLED駆動回路やLEDでは上記のような大きなダイナミックレンジと高い線形性を実現できないため、既存のインフラを利用してOFDM方式の光通信を実現することはできない。その結果、OFDM方式の光通信を実現するには高コストなインフラの整備が新たに必要になり現実的ではない、という問題がある。後述する技術は、こうした問題を解決するものである。
【0029】
[2:可視光通信装置100の構成]
ここまでは、光通信にOFDM方式を適用する場合に生じる問題点について整理してきた。次に、図5〜図8を参照しながら、ここで整理した問題点を解決することが可能な本実施形態に係る可視光通信装置100の構成について説明する。図5は、本実施形態に係る可視光通信装置100の構成を示す説明図である。図6(模式図)、図8(計算例)は、本実施形態に係るOFDM信号のスペクトルを示す説明図である。図7は、本実施形態に係る各キャリア信号及びOFDM信号の信号波形を示す説明図である。
【0030】
図5に示すように、可視光通信装置100は、S/P変換器101、変調器102、IFFT部103、LED駆動回路104、LED105により構成される。なお、上記の可視光通信装置10との主な違いは、D/A変換器14が省略されたことと、IFFT部103、LED駆動回路104の構成にある。
【0031】
まず、送信データは、S/P変換器101に入力される。そして、S/P変換器101に入力された送信データは、S/P変換器101により並列化されてN個(N≧2;OFDMキャリア数)の並列データに変換される。S/P変換器101による変換で得られたN個の並列データは、それぞれ変調器102に入力される。変調器102に入力された並列データは、所定の変調方式(例えば、BPSKや多相PSK等)に基づいて変調が施されて変調信号に変換される。個々の変調器102による変調で得られた変調信号は、IFFT部103に入力される。なお、キャリア毎に変調方式を変更してもよい。
【0032】
IFFT部103は、N個の乗算器及び1個の加算器により構成される。個々の変調器102から入力された変調信号は、それぞれ対応する乗算器に入力される。また、N個の乗算器には、互いに直交するN種類の矩形波(sign(cos(2πf#1t))〜sign(cos(2πf#Nt)))がそれぞれ入力される。但し、sign(…)は、…の符号が正の場合に+1、符号が負の場合に−1となる関数である。乗算器に入力された変調信号と矩形波は乗算器により乗算され、それぞれ周波数f#1〜f#Nのキャリア信号が生成される。そして、N個の乗算器により生成された周波数f#1〜f#Nのキャリア信号は加算器に入力され、OFDM信号が生成される。
【0033】
なお、上記の乗算器で生成されたキャリア信号は奇数次の高調波を含む。例えば、矩形波sign(cos(2πf#1t))が乗算されたキャリア信号は、周波数f#1の搬送波cos(2πf#1t)に対応する主成分に加え、周波数f#1×3、f#1×5、f#1×7、…に対応する奇数次の高調波成分を含む。この高調波成分は、他のキャリア信号に干渉して伝送特性の劣化を招いてしまう。例えば、周波数f#k=f(k=1〜4、f=k×f)とすると、周波数f#1×3に対応する高調波成分は、周波数f#3に対応するキャリア信号の主成分(搬送波cos(2πf#3t)に対応する成分)と干渉してしまう。
【0034】
上記の干渉を避けるには、周波数f#3に対応するキャリア信号を利用せず、周波数f#1、f#2に対応する2本のキャリア信号だけを利用すればよい。しかし、当然のことながらOFDM方式の利点である伝送速度の向上効果が制限されてしまうため、あまり現実的ではない。そこで、本件発明者は、図6に示すように、周波数fを利用せず、周波数fを利用する方法を考案した。この方法を適用すると、周波数f#1=fの高調波成分は、f#1×3=f×3=f×6に対応するものとなり、周波数f(=f#2)、f(=f#3)、f(=f#4)に対応するキャリア信号には干渉しない。従って、周波数f#1〜f#4に対応する4本のキャリア信号について、干渉による伝送特性の劣化は生じない。
【0035】
さて、周波数f〜fのキャリア信号は、図7に示すような信号波形(但し、図7の横軸は時間軸、縦軸は信号強度)を有する。なお、図7には、これら4本のキャリア信号を加算して得られるOFDM信号の信号波形も示した。また、f=2MHz、f=3MHz、f=4MHz、f=5MHzの条件で計算したOFDM信号のスペクトルを図8に示した。図7に示すように、各キャリア信号の主成分は、他のキャリア信号の高調波成分に干渉しない。また、図8に示すように、各キャリア信号に高調波成分が生じるため、OFDM帯域より高周波の帯域にも比較的大きな強度のスペクトルが現れている。
【0036】
このように、本実施形態においては、OFDM信号を構成する各キャリア信号を矩形波により生成し、さらに、各キャリア信号の高調波成分が他のキャリア信号と干渉しないように配置する方法が適用される。図7に示すように、このようなN本のキャリア信号を加算したOFDM信号は、キャリア本数(N)+1個の振幅レベルを有する階段状の波形となる(但し、4値ASK等の多値変調方式を利用すると、OFDM信号の振幅レベル数が(N+1)よりも多くなる)。そのため、LED駆動回路104やLED105に対して大きなダイナミックレンジや高い線形性を要求することなく、高い伝送品質を実現することが可能になる。
【0037】
例えば、N=4の場合(但し、変調方式はBPSKとする。)、図7に示すように、IFFT部103から出力されるOFDM信号は、5値の振幅レベルを有する信号波形となる。このOFDM信号は、LED駆動回路104に入力される。そして、LED駆動回路104は、入力されたOFDM信号に応じた信号強度でLED105を発光させる。OFDM信号の振幅レベルが5値の場合、LED105の発光強度は5段階となる。この場合、LED駆動回路104は、5段階の発光強度でLED105を発光させる。なお、LED105の駆動方法については、LED駆動回路104の具体的な回路構成を例示しつつ、後段において説明する。
【0038】
ここで、図8に示したOFDM信号のスペクトル(計算例)を参照する。上記の通り、図8のスペクトルは、f=2MHz、f=3MHz、f=4MHz、f=5MHzの条件で計算したOFDM信号のスペクトルである。図4、図8の計算例を比較すると、OFDM帯域(2〜5MHz)におけるスペクトルの形状は、図4、図8の計算例でほぼ等しい。そのため、矩形波を利用したOFDM信号は、通常の搬送波を利用したOFDM信号と同様に伝送することができる。
【0039】
また、OFDM信号のスペクトルに現れる帯域外の高調波成分(スプリアス)は、図4に比べて図8の方が大きい。無線LAN機器や携帯電話等の無線伝送において、このようなスプリアスが生じると電波法に違反することとなる。しかし、可視光通信の場合、電波法による制限がないため、図8のようなスプリアスの発生は問題とならない。
【0040】
また、帯域外のスプリアス放射による電力損失についても、上記のような無線伝送では問題となるが、可視光通信の場合には光源が照明として使われるため、ほとんど問題とはならない。また、LED105の周波数応答特性は、多くの場合、高周波になるにつれて緩やかに減衰する。そのため、帯域外にスプリアスが生じていても、その電力は、ある一定値以下に抑えられる。また、本実施形態に係るOFDM信号は、図1に示した可視光通信装置10が送信するOFDM信号を受信可能な受信機において復調することができる。
【0041】
以上説明したように、可視光通信装置100を利用すると、大きなダイナミックレンジと高い線形性を有する発光手段を用いずに、OFDM方式による伝送特性の良い光通信を実現することが可能になる。また、特別な発光手段を利用しないため、回路設計が比較的容易であり、製造コストも低く抑えることができる。さらに、特別な受信機を利用せずに済むため、システム構成の変更を小さく抑えることが可能になる。
【0042】
(LED駆動回路104の具体例)
ここで、図9を参照しながら、LED駆動回路104の具体的な回路構成について説明する。上記の通り、本実施形態の場合、LED駆動回路104は、キャリア本数(N)+1段階の発光強度でLED105を発光させる。このような発光制御は、例えば、図9に示すような回路構成を用いて実現される。図9は、LED駆動回路104の具体的な回路構成を示す説明図である。なお、図9の例は、キャリア本数が4本(N=4)の場合におけるLED駆動回路104の回路構成を示している。
【0043】
図9に示すように、LED駆動回路104は、レベル検出器111、回路切替器112、電流発生回路113により構成される。また、電流発生回路113は、OFDM信号がとり得る5段階の振幅レベルに対応する5つの電源により構成される。
【0044】
まず、LED駆動回路104に入力されたOFDM信号は、レベル検出器111に入力される。レベル検出器111は、入力されたOFDM信号の振幅レベルを検出する。例えば、レベル検出器111は、所定の閾値に基づいて閾値判定を実施し、その判定結果に基づいて5つの振幅レベルを検出する。このようにしてLED駆動回路104により検出されたOFDM信号の振幅レベルは、回路切替器112に入力される。
【0045】
OFDM信号の振幅レベルが入力されると、回路切替器112は、入力された振幅レベルに対応する発光強度でLED105が発光するように、電流発生回路113の電源を切り替える。LED105の発光強度は、LED105に印加される電流値に応じて決まる。そのため、OFDM信号の各振幅レベルに応じた電流値(A〜A)を出力する5つの電源が電流発生回路113に設けられている。そこで、回路切替器112は、入力された振幅レベルに応じて、LED105に出力される電流の発生源(電源)を切り替え、電流値(A〜A)のいずれかがLED105に印加されるようにする。
【0046】
このような回路構成を適用することにより、実用的なLED駆動回路104を実現することができる。例えば、レベル検出器111は、デジタル回路で構成できる。また、電流発生回路113は、定電圧源と複数の抵抗を用いて構成できる。そのため、LED駆動回路104は、比較的小さな回路規模で実現できる。なお、照明用LEDは、通常、大電流駆動であるため、高速で連続的に電流値を変化させることは難しい。こうした理由からも、OFDM信号の振幅レベル数が比較的少ない場合、図9に示した回路構成は非常に実用的であると言える。
【0047】
なお、LED駆動回路104は、D/A変換器と線形駆動回路を組み合わせて実現することもできる。この場合であっても、本実施形態の方法を適用すれば、D/A変換器の分解能(ビット数)を大幅に低減することが可能になる。さらに、LED駆動回路104のダイナミックレンジと線形性への要求を緩和することができる。結果として、回路規模の縮小や製造コストの低減を実現することが可能になる。もちろん、上記いずれの回路構成にしても、LED105のダイナミックレンジと線形性への要求は低減される。
【0048】
[3:第1変形例]
次に、本実施形態の第1変形例について説明する。
【0049】
ここで、図10を参照しながら、本実施形態の第1変形例に係るキャリア配置方法について説明する。図10は、本実施形態の第1変形例に係るキャリア配置方法を説明するための説明図である。上記の通り、矩形波を利用して生成したキャリア信号は、奇数次の高調波成分を含んでいる。そのため、上記説明においては、OFDM帯域において利用可能な第1番目(最小)の周波数fを利用しない方法を提案した。さらに、この方法を適用すると、干渉による伝送特性の劣化を受けずに周波数f、f、f、fのキャリア信号を利用できることを説明した。
【0050】
本変形例では、この方法を拡張し、第k番目(k≧2)の周波数fまで利用しない方法を提案する。例えば、周波数f、fを利用しない場合、OFDM信号は、周波数f以上の周波数に対応するキャリア信号により構成される。周波数fの高調波成分は、周波数がf×3=f×9未満のキャリア信号には干渉しない。そのため、周波数f〜fに対応する6本のキャリア信号を利用することができる。より一般的に、周波数fkまでキャリア信号を配置しない場合、周波数がfk+1×3=f×(k+1)×3未満のキャリア信号には高調波成分の干渉が生じない。そのため、周波数fk+1〜f3k+2に対応する2(k+1)本のキャリア信号を利用することが可能になる。
【0051】
このように、低域側のキャリアを利用しないことにより、より多くのキャリア数を利用できるようになり、伝送速度を向上させることが可能になる。この方法は、周波数応答特性が良好なLED105を利用する場合に、より有効である。
【0052】
[4:第2変形例]
次に、本実施形態の第2変形例について説明する。
【0053】
ここで、図11を参照しながら、本実施形態の第2変形例に係るキャリア配置方法について説明する。図11は、本実施形態の第2変形例に係るキャリア配置方法を説明するための説明図である。上記の通り、矩形波を利用して生成したキャリア信号は、奇数次の高調波成分を含んでいる。そのため、上記説明においては、OFDM帯域において利用可能な第1番目(最小)の周波数fを利用しない方法を提案した。さらに、上記の第1変形例においては、周波数f(k≧2)のキャリアまで利用しない方法を提案した。
【0054】
しかし、これまで説明した方法においては、高調波成分が存在しない周波数の一部にキャリア信号が配置されていなかった。そこで、本変形例では、高周波成分が存在せず、上記の方法においてキャリア信号が配置されていないキャリアを有効に利用する方法を提案する。
【0055】
例えば、周波数fのキャリアを利用しない場合、周波数f〜fにキャリア信号が配置される。周波数f〜fに配置されたキャリア信号の高調波成分は、周波数f(=f×3=f×6)、f(=f×3=f×9)、f10(=f×5=f×10)、f12(=f×3=f×12)、f14(=f×7=f×14)、f15(=f×5=f×15=f×3=f×15)、…に発生する。この場合、周波数f、f、f11、f13、f14、…には高調波成分が存在しない。そこで、本変形例では、周波数f、f、f11、f13、f14、…にキャリア信号を配置する。
【0056】
このように、高調波成分と干渉しないキャリアを利用することにより、より多くのキャリアを利用することが可能になり、より伝送速度を向上させることができる。この方法は、周波数応答特性が良好なLED105を利用する場合に、より有効である。
【0057】
[5:最後に]
以上、本実施形態に係る可視光通信装置100の構成、矩形波を利用したキャリア信号の生成方法、キャリア信号の配置方法、第1及び第2変形例について説明した。上記の方法を適用することにより、LED駆動回路104、LED105へのダイナミックレンジと線形性に対する要求を緩和することができる。さらに、高調波成分の干渉を効果的に回避し、伝送特性を劣化させずにOFDMキャリアを有効に利用することが可能になる。なお、上記説明においては、第1及び第2変形例を含めて3通りのキャリア配置方法を示したが、これらの方法を組み合わせて様々なキャリア配置を実現してもよい。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0059】
10、100 可視光通信装置
11、101 S/P変換器
12、102 変調器
13、103 IFFT部
14 D/A変換器
15、104 LED駆動回路
16、105 LED
111 レベル検出器
112 回路切替器
113 電流発生回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信データを直並列変換してN個の並列データを生成する直並列変換手段と、
前記直並列変換手段により生成されたN個の並列データをそれぞれ変調してN個の変調信号を生成する変調手段と、
第1番目〜第N番目の送信信号が互いに直交するように、前記変調手段により生成された第n番目(n=1〜N)の変調信号を周波数fの矩形波にのせて第n番目の送信信号を生成する送信信号生成手段と、
前記送信信号生成手段により生成された第1番目〜第N番目の送信信号を加算して加算信号を生成する加算手段と、
前記加算手段により生成された加算信号に基づいて光源を発光させる発光手段と、
を備える
ことを特徴とする、送信装置。
【請求項2】
前記周波数f(n=1〜N)は、f=f*(n+k)(fは所定値、k≧1、N=2*(k+1))である
ことを特徴とする、請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
前記送信信号生成手段は、第m番目(m=1〜L、L<N)の変調信号を周波数f=f*(m+k)(fは所定値、k≧1、L=2*(k+1))の矩形波にのせて第m番目の送信信号を生成し、
第q番目(q=(L+1)〜N)の変調信号を、周波数f*o(m=1〜L、oは1以上の奇数)以外の周波数f=f*q(q>L+k)を有する矩形波にのせて第q番目の送信信号を生成する
ことを特徴とする、請求項1に記載の送信装置。
【請求項4】
送信データを直並列変換してN個の並列データを生成する直並列変換ステップと、
前記直並列変換ステップで生成されたN個の並列データをそれぞれ変調してN個の変調信号を生成する変調ステップと、
第1番目〜第N番目の送信信号が互いに直交するように、前記変調ステップで生成された第n番目(n=1〜N)の変調信号を周波数fの矩形波にのせて第n番目の送信信号を生成する送信信号生成ステップと、
前記送信信号生成ステップで生成された第1番目〜第N番目の送信信号を加算して加算信号を生成する加算ステップと、
前記加算ステップで生成された加算信号に基づいて光源を発光させる発光ステップと、
を含む
ことを特徴とする、送信方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−171942(P2011−171942A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32930(P2010−32930)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】