説明

送信装置およびこの送信装置に該当する回路を備えるICチップ

【課題】ゲインや周波数の設定値が変化しても、発振器への変調信号の高調波歪み成分による干渉を低減することができる送信装置および、この送信装置に該当する回路を備えるICチップを提供する。
【解決手段】発振器110から供給されるローカル信号を用いてベースバンド信号に対する周波数変換を行いRF変調出力信号を得る送信機11に、ローカル信号に対する位相調整を行って位相調整位ローカル信号を得る相調整回路130を設けると共に、この位相調整位ローカル信号の位相がRF信号による発振器110への干渉が低減された位相となるように相調整回路130に対しその位相調整動作を制御するための制御信号を供給する制御信号生成部160を含むデジタル制御回路12、を備えた送信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローカル信号を用いてベースバンド信号に対する周波数変換を行いRF変調出力信号を得る送信装置およびこの送信装置に該当する回路を備えるICチップに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイレクトアップコンバージョン方式で送信する送信機(例えば非特許文献1参照)では、その一態様として、発振器が発振した信号を直接、ローカル信号として周波数変換器に入力する。この場合、発振器の発振周波数を中心周波数とした変調信号が送信機から出力される。
また、他の態様として、発振器が発振した信号を分周回路で周波数を分周して、ローカル信号として周波数変換器に入力する。この場合も、発振器の発振周波数を中心周波数とした変調信号が、高調波歪み成分として送信機から出力される。
【0003】
後者の態様では、発振器の周波数を分周したローカル信号を周波数変換器に入力する場合、送信機から出力される高調波歪みの次数は分周回路の分周数と等しい。そして、発振器の発振周波数を中心周波数にした変調信号が、当該送信機の回路を備えたIC内や外部のボード基盤上の経路を伝わってこのIC内の発振器に到達すると、発振器が発振する信号と干渉を引き起こす。この干渉によって重ね合わされた信号が、直接または分周回路で分周されて、ローカル信号として周波数変換器に入力されると、送信機から出力される変調信号のEVM(Error Vector Magnitude)、Phase Error、或いは、隣接チャネル漏洩電力などの特性劣化を引き起こす。
上述における干渉の強弱は、発振器の発振信号と干渉波のそれぞれの振幅の大小関係と、位相関係に依存する。次式は、発振器が差動出力の場合における、干渉の強さを表す式である。
【0004】
【数1】

【0005】
数式1において、α1は発振器の発振信号と干渉波の位相差、A1は発振器が発振する信号振幅、a2は干渉波の振幅をそれぞれ表す。数式1から容易に理解される通り、発振器が発振する信号振幅に対し干渉波の振幅が相対的に小さいほど干渉は弱くなる。従って、発振器の発振信号の振幅を大きく且つ干渉波を相対的に小さくすることによって干渉を低減させることができる。
また、数式1から判読されるとおり、発振器の発振信号と干渉波の位相差α1がπ/2になると干渉は最大になり、0に近づけると、理想的には干渉は極めて小さくなる。即ち、干渉波の位相を発振器の位相に近づけることによって干渉を低減させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"An EDGE Transmitter with Mitigation of Oscillator Pulling" Imran Bashir et al. 2010 IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symposium
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、発振器の発振信号の振幅を上記干渉波との相対において十分に大きくするためには発振器での電力消費が多大なものとならざるを得ないという問題がある。また、発振器の振幅を大きくするにも電源電圧の仕様等の制約があるため十分に干渉を低減させる程の大振幅は得にくいといった場合がある。
反対に、干渉波を小さくすることは、その発信源である送信機の出力パワーに対する要求仕様上の制約を受けて、効果的な解決手段にならない場合が多い。
【0008】
また、予め、発振信号と干渉波との各位相が重なるように送信機を設計するためには、発振器から発振された信号が、干渉波として再び発振器に到達するまでの経路を特定した上で、その到達するまでの時間を高精度に計算する必要があり、それを正確に見積もることは困難を極める。
また仮に、上記の計算が可能であるとしても、後述する様々な要因によって発振器に到達する時点における干渉波の位相が定常とはならず、送信機の使用状況に応じて動的に変化するという問題がある。
【0009】
さらに、周波数変換器のゲインが可変である場合、または、周波数変換器の後段にゲインが可変のドライバーアンプがある場合、その少なくともいずれか一方のゲインが変化すると、干渉波が発振器に到達するまでの遅延量が変化し、発振器に到達する時点における位相が変化する。この位相の変化量Δα2は次の数式2で表される。
【0010】
【数2】

【0011】
ここで、F1は発振器の発振周波数すなわち、干渉波の周波数を示しているので、干渉波の周期は1/F1となる。また、t1はゲインの変化による干渉波の群遅延量を示しているので、干渉波の周期は1/F1に対するt1の比が位相の変化量となる。このように、送信機で設定されているゲインが変わると、発振器への干渉の強弱が変化する。
また、PLL周波数シンセサイザの設定周波数が変わる場合、発振器が発振する信号の周波数、すなわち干渉波の周波数が変化することにより、発振器に到達する時点における干渉波の位相が変化する。この位相の変化量Δα3は次の数式3で表される。
【0012】
【数3】

【0013】
ここで、f2は発振器の発振周波数の変化量すなわち、干渉波の周波数を示しているので、干渉波の周期は1/(F1+f2)から1/f2だけ変化する。従って、T2は干渉波が発振器に到達するまで時間を示すとすると、位相の変化量は数式3に従う。ここで、周波数の変動によるT2の変化は無視している。このように、送信機が出力する周波数、すなわち発振器の発振周波数が変わると、発振器への干渉の強弱が変化する。
さらに、送信機の回路を備えたICが搭載されるボード基盤上の信号または電源経路からIC内の発振器へ到達する干渉波が大きい場合、そのボード基盤上の環境による影響が大きくなる。
【0014】
例えば、送信機とその出力信号が入力される外付け部品との距離や、外付け部品の入力整合が変化すると、干渉波が発振器へ到達する経路や外付け部品からの反射波の位相が変化し、発振器に到達する時点での干渉波の位相が変化する。また、数式3において、干渉波が発振器に到達するまで時間T2が変化すると、発振器に到達する時点における干渉波の位相の変化量Δα3と干渉波の周波数f2の関係が変化することからわかるように、干渉波が発振器へ到達する経路が変化すると、一定の周波数変化に対する干渉の強弱の変動量が変化する。
本発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、ゲインや周波数の設定値が変化しても、発振器への変調信号の高調波歪み成分による干渉を低減することができる送信装置および、この送信装置に該当する回路を備えるICチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、ここに次に列挙する技術を提案する。
(1) ローカル信号を用いてベースバンド信号に対する周波数変換を行いRF変調出力信号を得る送信装置であって、
前記ローカル信号を生成するための信号を発振する発振器と、前記発振器の発振出力による前記ローカル信号に対する位相調整を行って位相調整ローカル信号を得る位相調整回路と、前記位相調整回路からの位相調整ローカル信号を用いてベースバンド信号に対する周波数変換を行ってRF信号を得る周波数変換器と、を含む送信機と、
前記位相調整ローカル信号の位相が前記RF信号による前記発振器への干渉が低減された位相となるように前記位相調整回路に対しその位相調整動作を制御するための制御信号を供給する制御信号生成部を含む制御回路と、
を備えたことを特徴とする送信装置。
【0016】
(2)前記制御信号生成部は、前記発振器からのローカル信号に対する位相シフトの態様を制御する位相設定コードを前記制御信号として発生する位相設定コード発生回路であることを特徴とする(1)の送信装置。
(3)前記位相調整回路は、差動増幅器を含み、前記制御信号生成部から供給される前記位相設定コードに応じて、前記差動増幅器の差動対のテイル電流を変更することによって前記発振器からのローカル信号の位相を0°〜180°の間でシフトさせることを特徴とする(2)の送信装置。
【0017】
(4)前記送信機は、前記周波数変換器からのRF信号に所定のゲインを与えるドライバーアンプを更に有し、
前記ドライバーアンプのゲインおよび前記周波数変換器のゲインのうち少なくとも一方のゲイン調整をもって前記発振器からのローカル信号の位相制御に寄与させることを特徴とする(2)の送信装置。
(5)前記ドライバーアンプのゲインおよび前記周波数変換器のゲインのうち少なくとも一方のゲインを設定するゲイン設定コードを発生するゲイン設定コード発生回路を更に備えることを特徴とする(4)の送信装置。
【0018】
(6)前記位相設定コード発生回路は、前記ゲイン設定コード発生回路による前記ゲイン設定コードの変化に応じて前記位相設定コードを変更することを特徴とする(5)の送信装置。
(7)前記発振器は、発振する周波数を変化させるPLL周波数シンセサイザであり、前記制御回路は、前記PLL周波数シンセサイザの周波数の変化に応じて前記ローカル信号の位相を制御する態様の前記位相設定コードを前記制御信号として発生することを特徴とする(6)の送信装置。
【0019】
(8)前記制御回路は、前記PLL周波数シンセサイザにその出力周波数を設定する周波数設定コードを供給する周波数設定コード発生回路を更に備えることを特徴とする(7)の送信装置。
(9)前記位相設定コード発生回路は、前記周波数設定コード発生回路が発する前記周波数設定コードの変化に応じて、前記位相設定コードを変更することを特徴とする(8)の送信装置。
【0020】
(10)前記位相設定コード発生回路は、前記周波数設定コード発生回路が発する前記周波数設定コードの変化に応じて前記位相設定コードを変更するときに、前記周波数設定コードによって表される周波数の変動に対する前記位相設定コードの変動幅を制御可能であることを特徴とする(9)の送信装置。
(11)上記(1)から(10)のいずれかに記載の送信装置に該当する回路を備えることを特徴とするICチップ。
【0021】
以上の、(1)〜(10)の送信装置、および、(11)のICチップでは、前記制御回路が発する制御信号によって、前記位相調整位ローカル信号の位相が前記RF信号による前記発振器への干渉が低減された位相となるように前記相調整回路に対しその位相調整動作が制御される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、送信機のゲインや設定周波数が変化しても、発振器への干渉を低減することができる。また、送信機を備えたICチップの環境が変わっても、周波数の変化に対して、発振器への干渉を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一つの実施の形態としての送信装置を表す機能ブロック図である。
【図2】図1の送信装置における位相設定コード発生回路を表す機能ブロック図である。
【図3】図1の送信装置における送信機のゲイン設定と干渉の強弱の関係を示す図である。
【図4】図1の送信装置における送信機の周波数設定と干渉の強弱の関係を示す図である。
【図5】図1の送信装置における送信機の周波数設定と干渉の強弱の関係について図4とは異なる場合を示す図である。
【図6】図1の送信装置における位相調整回路の構成例を示すブロック図である。
【図7】図6におけるステージ1を差動回路を用いて実現した構成例を示す回路図である。
【図8】図6におけるステージ2を差動回路を用いて実現した構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態につき詳述するこれにより本発明を明らかにする。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の一つの実施の形態としての送信装置を表す機能ブロック図である。
図1の送信装置10は、送信機11とそれを制御するデジタル制御回路12から構成される。ここに、送信機11とデジタル制御回路12とは機能上区分して観念し各別の称呼にて表現しているが、実装上二分される態様を採ることを必須とする意ではない。
【0025】
先ず、送信機11について説明する。この送信機11は、ローカル信号を用いてベースバンド信号に対する周波数変換を行いRF変調出力信号を得るべく、PLL周波数シンセサイザ110と、次段の分周回路120と、更に次段の位相調整回路130と、その次段の周波数変換器140と、その出力を増幅して出力するドライバーアンプ150から構成されている。
【0026】
そして、発振器としてのPLL周波数シンセサイザ110が出力したローカル信号を分周回路120によって分周すると共に位相に係る処理を施して、互いに位相がπ/2だけずれたIQ直交ローカル信号を得る。このIQ直交ローカル信号に対して後段の位相調整回路130によって互いにπ/2の位相差を保ったまま一定量の位相をシフトさせることによって位相調整を行った位相調整ローカル信号を得て、該得た位相調整ローカル信号を周波数変換器140に入力する。
【0027】
周波数変換器140ではIQ直交変調ベースバンド信号に対して上述の如く入力される位相をシフトさせたIQ直交ローカル信号(位相調整ローカル信号)を掛け合わせて周波数変換を行い、RF信号を生成する。
そして、この周波数変換器140から出力されたRF信号にドライバーアンプ150によって一定のゲインを加えて出力する。
【0028】
尚、発振器としてのPLL周波数シンセサイザ110が出力した信号の周波数が送信機11の出力するキャリア周波数に等しい場合は分周回路120を用いることなく互いに位相がπ/2だけずれたIQ直交ローカル信号を得て、該得た信号を位相調整回路130に入力する。また、送信機11での設定周波数が変動しない場合は、PLL周波数シンセサイザ110として固定の周波数を出力するPLLを適用しても良い。
【0029】
次に、デジタル制御回路12について説明する。このデジタル制御回路12は、位相設定コード発生回路160と、位相設定コード発生回路160に周波数設定コードを供給する周波数設定コード発生回路170と、位相設定コード発生回路160にゲイン設定コードを供給するゲイン設定コード発生回路180から構成される。
ゲイン設定コード発生回路180は、既述のドライバーアンプ150のゲインを制御するゲイン設定コードを生成し、該生成したゲイン設定コードをドライバーアンプ150および位相設定コード発生回路160に供給する。
【0030】
尚、既述の周波数変換器140がそのゲインが可変である態様のものである場合は、ゲイン設定コード発生回路180で生成したゲイン設定コードによってこの周波数変換器140のゲインをも制御する。
上述のようにゲイン設定コードによってこの周波数変換器140のゲインをも制御する態様を採る場合には、ドライバーアンプ150のゲインおよび周波数変換器140のゲインのうち少なくとも一方のゲイン調整(上述の場合は双方のゲイン調整)をもって発振器としてのPLL周波数シンセサイザ110からのローカル信号の位相制御に寄与させる構成となる。
【0031】
周波数設定コード発生回路170は、既述のPLL周波数シンセサイザ110が出力する信号の周波数を制御する周波数設定コードを生成し、該生成した周波数設定コードをPLL周波数シンセサイザ110および位相設定コード発生回路160に供給する。
位相設定コード発生回路160は、発振器としてのPLL周波数シンセサイザ110
からのローカル信号に対する位相シフトの態様を制御する位相設定コードを制御信号として発生する制御信号生成部を成している。
【0032】
位相設定コード発生回路160には、上述の如くゲイン設定コード発生回路180から供給されるゲイン設定コードと、周波数設定コード発生回路170から供給される周波数設定コードと、更に外部から供給される位相設定初期コードがそれぞれ入力される。そして、それら各入力されたコードの値に応じて、既述の位相調整回路130が変換する位相を制御する位相設定コードを生成する。
【0033】
即ち、位相設定コード発生回路160は、周波数設定コード発生回路が発する周波数設定コードの変化に応じて位相設定コードを変更するときに、前記周波数設定コードによって表される周波数の変動に対する位相設定コードの変動幅を制御可能である。
本実施の形態では、デジタル制御回路12に、周波数設定コード発生回路170とゲイン設定コード発生回路180とを含んだ例を示したが、周波数設定コード発生回路170と、ゲイン設定コード発生回路180をデジタル制御回路12の外部に備えてもよく、その場合は、周波数設定コードとゲイン設定コードとを、それら外部に備えた回路によって書き換えが可能とする。
【0034】
図2は、図1の送信装置における位相設定コード発生回路160を表す機能ブロック図である。位相設定コード発生回路160は、加算器161と、ゲイン変動加算コード発生回路162と、周波数変動加算コード発生回路163とを含んで構成される。
加算器161は、外部から供給される位相設定初期コードと、ゲイン変動加算コード発生回路162から供給されるゲイン変動加算コードと、周波数変動加算コード発生回路163から供給される周波数変動加算コードとを加算して、図1の送信機11における位相調整回路130に供給する位相設定コードを生成する。
【0035】
ゲイン変動加算コード発生回路161は、外部から供給されるゲイン設定コード、周波数設定コード、および、ゲイン位相変動幅設定コードの各コードに基づいてゲイン変動加算コードを生成する。
また、周波数変動加算コード発生回路162は、外部から供給される周波数位相変動幅設定コード、周波数設定コード、および、ゲイン設定コードの各コードに基づいて周波数変動加算コードを生成する。
【0036】
上述の位相設定初期コード、周波数位相変動幅設定コード、および、ゲイン位相変動幅設定コードは、外部設定からその設定値を書き換え可能である。また、位相設定初期コードは固定値でも良いが、外部からその設定値を書き換え可能であることがより望ましい。更にまた、周波数位相変動幅設定コードは固定値でも良いが、外部からその設定値を書き換え可能である方がより望ましい。また、ゲイン位相変動幅設定コードは固定値でも良いが、これについても、外部からその設定値を書き換え可能であることがより望ましい。
【0037】
ゲイン設定コードと周波数設定コードとが初期設定値であるとき、ゲイン変動加算コードと周波数変動加算コードはそれぞれ0となる。即ち、位相設定初期コードが図1の送信機11における位相調整回路130に供給される位相設定コードとなる。位相設定初期コードは外部からその設定値を書き換え可能であるため、初期設定のときに発振器(PLL周波数シンセサイザ110)の発振信号と干渉波の位相差を十分に小さくして、干渉を低減させることができる。
ゲイン変動加算コード発生回路162は、ゲイン設定コードによって設定されるゲインが変動する場合に、周波数設定コードによって設定される周波数に応じて当該ゲイン変動によって生じる位相の変化を抑制したゲイン変動加算コードを生成する。
【0038】
上述のようにしてゲイン変動によって生じる位相の変化が抑制されたゲイン変動加算コードが加算器161において位相設定初期コードと加算されることによってゲインが変動しても、発振器(PLL周波数シンセサイザ110)の発振信号と干渉波の位相差が十分小さいままに保たれるような位相設定コードが生成され、該生成された位相設定コードが図1の送信機11における位相調整回路130に供給される。
このときのゲイン変動加算コードの決定の方法を説明する。ゲイン設定コードによって設定されるゲインが変動する場合の、発振器(PLL周波数シンセサイザ110)の発振信号と干渉波の位相α1を次の数式4で表す。
【0039】
【数4】

【0040】
ここで、α0は初期設定時の発振器(PLL周波数シンセサイザ110)の発振信号と干渉波の位相、Δα2はゲイン設定によって生ずる位相の変動量を示す。Δα2は上掲の数式2で表される通りであり、上記発振器の発振周波F1と、ゲインの変化による群遅延量の変化量t1で与えられる。この変化量t1は次の数式5で表される。
【0041】
【数5】

【0042】
ここで、Ng1はゲイン設定コードの初期値からの差分を示す。数式5から了解されるとおり、係数k1はゲイン設定コードの変化に対する群遅延量の変化の割合を示しており、ゲインが制御される図1の送信機11におけるドライバーアンプ150または、周波数変換器140に固有の値となる。
以上より、ゲインの変化による位相の変化量を打ち消すためのゲイン変動加算コード発生回路162の出力であるゲイン変動加算コードNgaは、次の数式6で与えられる。
【0043】
【数6】

【0044】
ここで、θは位相調整回路130の分解能であり、2πθが位相設定コードの1コード当たりの位相変化量に相当する。また、係数K2は係数k1とθの比であり、ゲイン位相変動幅設定コードに応じて簡単なデコーダで制御可能な構成を採ることによって、ゲイン設定コードと、周波数設定コードと、ゲイン位相変動幅設定コードから、適切なゲイン変動加算コードを決めることができる。
【0045】
図3は、図1の送信装置における送信機のゲイン設定と干渉の強弱の関係を示す図である。
図3において、Ng2は、ゲイン変動加算コードを1コード変化させるゲイン設定コードの変動値に相当し、上掲の数式6の符号を用いると1/(K2*F1)になる。即ち、ゲイン設定コードがNg2だけ変動する毎に、位相設定コードが1コードずれて干渉が弱い状態を保っている。仮に、ゲイン設定の変動に対応して、位相設定コードを変動させなければ、干渉強度は図3の点線の軌跡をたどり、ゲイン設定が変動する程に強くなっていく。
【0046】
周波数設定コードによって設定される周波数が変化する場合は、周波数変動加算コード発生回路163を用いて、設定されるゲインに応じて周波数変動によって生じる位相の変化量を打ち消すように、周波数変動加算コードが生成される。
上述のようなゲイン変動加算コードおよび周波数変動加算コードが加算器161によって位相設定初期コードと加算されることによって、周波数が変動しても、発振器(PLL周波数シンセサイザ110)の発振信号と干渉波の位相差が十分小さいままに保たれるような位相設定コードが図1の送信機11における位相調整回路130に供給される。
上述における周波数変動加算コードの算定方法について説明する。周波数設定コードによって設定される周波数が変化する場合の、上記発振器の発振信号と干渉波の位相α1を次の数式7で表す。
【0047】
【数7】

【0048】
ここで、α0は初期設定時の発振器(PLL周波数シンセサイザ110)の発振信号と干渉波の位相、Δα3は周波数設定によって生ずる位相の変動量を示す。Δα3は数式3と同じ式で表されており、上記発振器の発振周波数の初期設定からの変化量f2と、干渉波が上記発振器に到達するまで時間T2で与えられる。このT2は次の数式8で表される。
【0049】
【数8】

【0050】
ここで、T0はゲイン設定が初期設定のときにおける、干渉波が上記発振器に到達するまで時間を示し、t1は数式5で表されるゲインの変化による群遅延量の変化量である。
以上より、周波数の変化による位相の変化量を打ち消すための周波数変動加算コードNfaは、次の数式9で与えられる。
【0051】
【数9】

【0052】
ここで、θは位相調整回路の分解能であって、2πθが位相設定コードの1コード当たりの位相変化量に相当し、Nf1は周波数変化量f2に相当する周波数設定コードの変化量を示す。係数K4を周波数位相変動幅設定コードに応じて簡単なデコーダで制御可能なようにすれば、ゲイン設定コードと、周波数設定コードと、周波数位相変動幅設定コードから、適切な周波数変動加算コードを決めることができる。
【0053】
図4は、図1の送信装置における送信機の周波数設定と干渉の強弱の関係を示す図である。
図4において、Nf2は、周波数変動加算コードを1コード変化させる周波数設定コードの変動値に相当し、数式9の符号を用いると1/(K4*Ng1)になる。つまり、即ち、周波数設定コードがNf2だけ変動する毎に、位相設定コードが1コードずれて干渉が弱い状態を保っている。仮に、周波数設定の変動に対応して、位相設定コードを変動させなければ、干渉強度は図4の点線の軌跡をたどり、周波数設定が変動する程に強くなっていく。
【0054】
また、当該送信装置10を搭載したICの外部環境の変化によって、干渉波が発振器(PLL周波数シンセサイザ110)へ到達する時点での位相が変化する場合は、位相設定初期コードの外部入力設定値を変えて、ゲイン設定コードと周波数設定コードが初期設定であるときの、干渉を低減させることができる。また同時に、干渉波が上記発振器へ到達する時間、即ち、数式8におけるT0が変化して、一定の周波数変化に対する位相の変動量が変化する場合は、周波数位相変動幅設定コードの外部入力設定値を変えることで、周波数設定が変化しても干渉が低減されたままにすることができる。
【0055】
図5は、図1の送信装置における送信機の周波数設定と干渉の強弱の関係について図4とは異なる場合を示す図である。図5では、図4の場合と外部環境が変わり、周波数変動加算コードを1コード変化させる周波数設定コードの変動値がNf2からNf2/2に変化した場合を例にして示している。数式9の符号を用いると、周波数位相変動幅設定コードを変えて、K4を2倍に変化させれば良い。仮に、外部環境の変化によって、干渉波が上記上記発振器へ到達する経路が変化しても、周波数位相変動幅設定コードを変えなければ、周波数設定の変動に対して、位相設定コードは適切に切り替わらず、干渉強度は図4の点線の軌跡をたどり、低減された状態が保てなくなる。
【0056】
図6は、本発明の実施形態に係わる位相調整回路を実現した構成例を示す図である。
図6において、位相調整回路130に入力されるローカル信号Iとローカル信号Qは、位相調整回路130に前置された分周回路120の出力信号であって、互いにπ/2の位相差を持つ。位相調整回路130はローカル信号I2とローカル信号Q2が出力されるステージ1(131)と、ローカル信号I3とローカル信号Q3が出力されるステージ2(132)と、位相設定コードに基づいてそれらステージ1および2を制御するデジタルコードを発生するデコーダ133から構成される。
【0057】
次に、位相調整回路130について更に詳述する。
先ず、ローカル信号Iおよびローカル信号Qが入力されてローカル信号I2およびローカル信号Q2を出力するステージ1(131)について説明する。
ステージ1(131)の増幅器131−1と、反転増幅器131−2と、増幅器131−3と、増幅器131−4はそれぞれゲインが可変のアンプで、増幅器131−1と増幅器131−4はデコーダ133からのゲイン制御コードGC1に応じてゲインが決まり、それぞれのゲインは常に等しく、反転増幅器131−2と増幅器131−3はゲイン制御コードGC2に応じてゲインが決まり、それぞれゲインの絶対値は常に等しい。従って、ローカル信号I2とローカル信号Q2はそれぞれ次の数式10で表される。
【0058】
【数10】

【0059】
ここで、g1は増幅器131−1のゲインを示し、g2は増幅器131−3のゲインを示し、ローカル信号Iとローカル信号Qをそれぞれcosωtとsinωtで表している。ここで、g1とg2について、次の数式11に置き換える。
【0060】
【数11】

【0061】
数式11を挿入すると、ローカル信号I2とローカル信号Q2は次の数式12で表される。
【0062】
【数12】

【0063】
数式12からわかるように、ローカル信号I2とローカル信号Q2は互いにπ/2の位相差を保ったまま、ローカル信号Iとローカル信号Qから位相がβだけシフトすることがわかる。また、数式11からわかるように、増幅器131−1のゲインg1と増幅器131−3のゲインg2を変動させることでβを変化させることができる。尚、g1とg2はともに0または正の値をとるので、βは0〜π/2の間になる。
【0064】
次に、ステージ1(131)からローカル信号I2およびローカル信号Q2が入力されてローカル信号I3とローカル信号Q3を出力するステージ2(132)の動作について説明する。増幅器132−1と増幅器132−4のそれぞれのゲインは等しく、反転増幅器132−2と増幅器132−3のそれぞれゲインの絶対値は等しい。
また、それらのオンとオフの切換えはデコーダ133からのON/OFF切換え制御信号SCで制御され、増幅器132−1と増幅器132−4のペアに入力される信号と反転増幅器132−2と増幅器132−3のペアに入力される制御信号は極性が互いに反対になる。
【0065】
即ち、増幅器132−1と増幅器132−4が動作するときは、反転増幅器132−2と増幅器132−3はオフしており、逆に反転増幅器132−2と増幅器132−3が動作するときは、増幅器132−1と増幅器132−4はオフしている。
従って、ローカル信号I3はローカル信号I2または、ローカル信号Q2のどちらかになり、ローカル信号Q3はローカル信号I2の反転または、ローカル信号Q2のどちらかになる。ローカル信号I3がローカル信号I2を出力するときは、ローカル信号Q3はローカル信号Q2を出力し、ローカル信号I3がローカル信号Q2を出力するときは、ローカル信号Q3はローカル信号I2の反転を出力する。以上より、ローカル信号I3とローカル信号Q3は次の数式13または、数式14で表される。
【0066】
【数13】

【0067】
【数14】

【0068】
数式13および数式14から容易に理解される通り、ローカル信号I3とローカル信号Q3は互いにπ/2の位相差を保ったまま、ローカル信号Iとローカル信号Qから位相がβまたはβ+π/2だけシフトすることがわかる。
以上を要するに、ステージ1(131)では0〜π/2の間に入る位相βをシフトさせて、ステージ2(132)では、位相をシフトしないかまたは、π/2シフトさせることで、全体としては、ローカル信号I3とローカル信号Q3は互いにπ/2の位相差を保ったまま、ローカル信号Iとローカル信号Qから0〜πの間までシフトさせることができる。
ステージ1(131)のβの制御はゲイン制御コードGC1とゲイン制御コードGC2によって行うことができ、ステージ2(132)の位相をシフトしないかまたは、π/2シフトさせる選択はON/OFF切換え制御信号SCで制御することができる。従って、デコーダ133を用いることで、位相設定コードに応じて、位相シフトを0〜πの間で設定することができる。
【0069】
次に、図7および図8を参照して、位相調整回路の具体例について説明する。
図7は、差動回路を用いて、図6におけるステージ1(131)を実現した構成例を示す回路図である。差動対710と電流源711は図6における増幅器131−1に相当する。
図7において、電流源711は、例えば一般的なカレントミラー回路から構成され、ゲイン制御コードGC1に応じて、電流を流すカレントミラー回路の数が変化して、差動対のテイル電流を変えることによってゲイン調整を行う回路構成を採ることができる。
同様に、差動対720と電流源712は反転増幅器131−2に相当し、差動対730と電流源713は増幅器131−3に相当し、差動対740と電流源714は増幅器131−4に相当する。
【0070】
図8は、差動回路を用いて、図6におけるステージ2(132)を実現した構成例を示す回路図である。
図8において、図7と同様に、差動対810と電流源811は図6における増幅器132−1に相当し、差動対820と電流源812は反転増幅器132−2に相当し、差動対830と電流源813は増幅器132−3に相当し、差動対840と電流源814は増幅器131−4に相当し、抵抗801と抵抗802は加算器132aに相当し、抵抗803と抵抗804は加算器132bに相当する。
【0071】
電流源811および電流源814は入力されるON/OFF切換え制御信号SCの極性によって、電流を流すか全く流さないかが選択される。電流源812および電流源813も同様の動作を行うが、ON/OFF切換え制御信号SCの反対の極性によって制御される。従って、差動対810および差動対840が動作するときは、差動対820および差動対830は動作しない。
反対に、差動対810および差動対840が動作しないときは、差動対820および差動対830が動作する。
【0072】
以上を要するに、ON/OFF切換え制御信号SCの極性によってシフトされる位相を0からπ/2の範囲で選択することができる。
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、位相調整回路130や位相設定コード発生回路160を用いることで、送信機が出力する信号の位相を制御することができるため、例えばPLL周波数シンセサイザ内部の発振器に到達する干渉波の位相を制御することができる。そのため、発振器が発振する信号振幅を高くするための余分な電力を消費させることなく、発振器への干渉を低減することができる。
【0073】
位相調整回路130がシフトする位相は、差動対のテイル電流の切換えにより、0〜πの間で非連続的に変化させることができ、外部入力により、位相設定コード発生回路160が発生する位相設定コードを設定できるため、予め、干渉波が発振器へ到達する経路を特定しなくとも、発振器への干渉の低減することができる。
ドライバーアンプ150または周波数変換器140においてそれらに対して設定されるゲインが変わる場合は、位相設定コード発生回路160において、ゲイン設定コードの変化に応じて、位相設定コードを切り換えることによって、ゲインが変動しても、常に発振器への干渉を低減することができる。
【0074】
同様に、PLL周波数シンセサイザ110における設定周波数が変わる場合は、位相設定コード発生回路160において、周波数設定コードの変化に応じて、位相設定コードを切り換えることで、発振周波数が変動しても、常に発振器への干渉を低減することができる。
本発明の他の一つの態様は、図1乃至図8を参照して説明した送信装置10に該当する回路を備えるICチップである。
【0075】
このようなICチップが搭載されるボード基板上の環境が変化して、干渉波が発振器へ到達する経路が変化する場合は、位相設定コード発生回路160において、外部入力設定により位相設定初期コードを変えて、初期状態における発振器への干渉を低減することができる。
また、周波数設定コードの変化に応じて、位相設定コードを切り換える際に、外部入力により、位相設定の変動幅を変えることにより、干渉波の位相の周波数依存性が変化しても、発振周波数の変動に応じて適応的に発振器への干渉を低減することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
10………………………………送信装置
11………………………………送信機
12………………………………デジタル制御回路
110……………………………PLL周波数シンセサイザ
120……………………………分周回路
130……………………………位相調整回路
131……………………………ステージ1
132……………………………ステージ2
133……………………………デコーダ
140……………………………周波数変換器
150……………………………ドライバーアンプ
160……………………………位相設定コード発生回路
161……………………………加算器
162……………………………ゲイン変動加算コード発生回路
163……………………………周波数変動加算コード発生回路
170……………………………周波数設定コード発生回路
180……………………………ゲイン設定コード発生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローカル信号を用いてベースバンド信号に対する周波数変換を行いRF変調出力信号を得る送信装置であって、
前記ローカル信号を生成するための信号を発振する発振器と、前記発振器の発振出力による前記ローカル信号に対する位相調整を行って位相調整ローカル信号を得る位相調整回路と、前記位相調整回路からの位相調整ローカル信号を用いてベースバンド信号に対する周波数変換を行ってRF信号を得る周波数変換器と、を含む送信機と、
前記位相調整ローカル信号の位相が前記RF信号による前記発振器への干渉が低減された位相となるように前記相位調整回路に対しその位相調整動作を制御するための制御信号を供給する制御信号生成部を含む制御回路と、
を備えたことを特徴とする送信装置。
【請求項2】
前記制御信号生成部は、前記発振器からのローカル信号に対する位相シフトの態様を制御する位相設定コードを前記制御信号として発生する位相設定コード発生回路であることを特徴とする請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
前記位相調整回路は、差動増幅器を含み、前記制御信号生成部から供給される前記位相設定コードに応じて、前記差動増幅器の差動対のテイル電流を変更することによって前記発振器からのローカル信号の位相を0°〜180°の間でシフトさせることを特徴とする請求項2に記載の送信装置。
【請求項4】
前記送信機は、前記周波数変換器からのRF信号に所定のゲインを与えるドライバーアンプを更に有し、
前記ドライバーアンプのゲインおよび前記周波数変換器のゲインのうち少なくとも一方のゲイン調整をもって前記発振器からのローカル信号の位相制御に寄与させることを特徴とする請求項2に記載の送信装置。
【請求項5】
前記ドライバーアンプのゲインおよび前記周波数変換器のゲインのうち少なくとも一方のゲインを設定するゲイン設定コードを発生するゲイン設定コード発生回路を更に備えることを特徴とする請求項4に記載の送信装置。
【請求項6】
前記位相設定コード発生回路は、前記ゲイン設定コード発生回路による前記ゲイン設定コードの変化に応じて前記位相設定コードを変更することを特徴とする請求項5に記載の送信装置。
【請求項7】
前記発振器は、発振する周波数を変化させるPLL周波数シンセサイザであり、前記制御回路は、前記PLL周波数シンセサイザの周波数の変化に応じて前記ローカル信号の位相を制御する態様の前記位相設定コードを前記制御信号として発生することを特徴とする請求項6に記載の送信装置。
【請求項8】
前記制御回路は、前記PLL周波数シンセサイザにその出力周波数を設定する周波数設定コードを供給する周波数設定コード発生回路を更に備えることを特徴とする請求項7に記載の送信装置。
【請求項9】
前記位相設定コード発生回路は、前記周波数設定コード発生回路が発する前記周波数設定コードの変化に応じて、前記位相設定コードを変更することを特徴とする請求項8に記載の送信装置。
【請求項10】
前記位相設定コード発生回路は、前記周波数設定コード発生回路が発する前記周波数設定コードの変化に応じて前記位相設定コードを変更するときに、前記周波数設定コードによって表される周波数の変動に対する前記位相設定コードの変動幅を制御可能であることを特徴とする請求項9に記載の送信装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の送信装置に該当する回路を備えることを特徴とするICチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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