説明

送受信回路モジュール

【課題】アイソレーションの劣化を確実に防いで高性能の送受信を行うことができ、モジュールの小型化も図ることのできる送受信回路モジュールを提供すること。
【解決手段】絶縁基板2、絶縁基板2上に設けられた高周波送信回路部3および高周波受信回路部4と、高周波送信回路部3と高周波受信回路部4を覆う金属カバー29と、絶縁基板2上に設けられた接地パターン28とを備えているとともに、金属カバー29は、複数の取り付け脚30を有し、絶縁基板2は、金属カバー29の各取り付け脚30とそれぞれ接続される複数の固定パターン31を有し、固定パターン30の内、高周波受信回路部4のアンテナ端子16に最も近い固定パターン31aを絶縁基板2内の接地パターン28と直接接続しないこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送受信回路モジュールに係り、特に小型の送受信機に好適に用いることのできる送受信回路モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、送受信機においては、送受信において共用するアンテナに送受信回路モジュール接続し、更にその後段に各種の回路群を接続して形成されている。
【0003】
この送受信回路モジュールにおいては、送受信の回路を電磁シールドするために、例えば、1つの金属カバー内に送受信の回路を一緒に入れると、送信側の回路の送信高周波信号が受信側の回路に干渉する(つまり、アイソレーションが劣化する)ことがある。
【0004】
そこで、従来においては、送信回路と受信回路の位置を離したり、両者間にシールド板を設けることにより干渉を防止することが提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−274970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の携帯電話機等の送受信機の小型化の要望に伴い、送受信回路モジュールの大きさが小さくなるにつれて、アイソレーションの劣化を防ぐことが困難となってきた。具体的には、金属カバーが小さくなると、シールド板を金属カバー内に設けても干渉防止の効果が低いものであった。また、シールド板が送受信回路モジュールの小型化の妨げとなるものであった。特に、受信回路側のローノイズアンプ(LNA)で増幅する前の受信信号のレベルが低いため、他の回路からの干渉に弱く、グランドパターンの電位が僅かに変動してもノイズの原因となるという不都合があった。
【0007】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、アイソレーションの劣化を確実に防いで高性能の送受信を行うことができ、モジュールの小型化も図ることのできる送受信回路モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係る送受信回路モジュールは、絶縁基板と、前記絶縁基板上に設けられた高周波送信回路部と、前記絶縁基板上に設けられた高周波受信回路部と、前記高周波送信回路部と前記高周波受信回路部を覆う金属カバーと、前記絶縁基板上に設けられた接地パターンとを備えているとともに、前記金属カバーは、複数の取り付け脚を有し、前記絶縁基板は、前記金属カバーの各取り付け脚とそれぞれ接続される複数の固定パターンを有し、前記固定パターンの内、前記高周波受信回路部のアンテナ端子に最も近い前記固定パターンを絶縁基板内の接地パターンと直接接続しないことを特徴とする。
【0009】
本発明の送受信回路モジュールによれば、金属カバー内に流入した高周波送信回路部を流れる大電力の送信高周波信号は、金属カバーの高周波受信回路部のアンテナ端子に最も近い固定パターンであって絶縁基板内の接地パターンと直接接続していない固定パターンに接続されている取り付け脚部分を通らないで、接地パターンに接続されている他の固定パターンに接続されている取り付け脚部分を通って当該他の固定パターンおよび接地パターンを通って外部に流れる。これにより、高周波送信回路部を流れる大電力の送信高周波信号が高周波受信回路部に干渉することを防げることができる。
【0010】
また、本発明に係る送受信回路モジュールは、前記高周波送信回路部がアンテナ端子の近くにパワーアンプを有しており、前記高周波受信回路部がアンテナ端子の近くにローノイズアンプを有していることを特徴とする。
【0011】
本発明の送受信回路モジュールによれば、高周波送信回路部のパワーアンプ以降の送信高周波信号の信号レベルが大きい場合においても、当該送信高周波信号は、金属カバーの高周波受信回路部のアンテナ端子に最も近い固定パターンであって絶縁基板内の接地パターンと直接接続していない固定パターンに接続されている取り付け脚部分を通らないので、高周波受信回路部のローノイズアンプが高周波送信回路部のパワーアンプ部分を流れる大電力の送信高周波信号による干渉を受けることを防ぐことができる。
【0012】
また、本発明に係る送受信回路モジュールは、前記絶縁基板の上面に電子部品が載置され、下面にマザーボードと接続するための外部接続用端子が設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明の送受信回路モジュールによれば、絶縁基板の同一面に送受信回路を共に設けるとともに、下面の外部接続用端子を介してマザーボードと接続することができ、送受信回路モジュールの多機能化と小型化を図ることができる。
【0014】
また、本発明に係る送受信回路モジュールは、高周波受信回路部のアンテナ端子に最も近い固定パターン以外の固定パターンを、絶縁基板内の接地パターンと接続することを特徴とする。
【0015】
本発明の送受信回路モジュールによれば、高周波受信回路部のアンテナ端子に最も近い固定パターン以外の多数の固定パターンが接地パターンに接続されているので、金属カバーが多くの箇所でグランドに接続され、シールド効果(送受信回路モジュールの内から外に伝わる電磁波および外から内に伝わる電磁波の遮断)が高まる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明に係る送受信回路モジュールによれば、アイソレーションの劣化を確実に防いで高性能の送受信を行うことができ、モジュールの小型化も図ることができる等の優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る送受信回路モジュールの実施形態を図1から図7を参照して説明する。
【0018】
図1は本発明の送受信回路モジュールの1実施形態を用いた送受信機の主要部を示す回路図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の送受信回路モジュール1は、絶縁基板2の上面に高周波送信回路部3および高周波受信回路部4を設けて形成されている。
【0020】
一方の高周波送信回路部3は、送信IC5とフィルタ6とによって形成されている。送信IC5のミキサMOD9には送受信回路モジュール1の前段の送信用ベースバンドIC7から送信信号(変調信号)が送信信号入力端子8を介して入力されるようになっている。このミキサMOD9と次段のミキサ10とにおいては、シンセサイザ11から発振される送信用発振信号(搬送波信号)を前記送信信号によって変調して送信高周波信号が生成される。生成された送信高周波信号はフィルタ6によって送信高周波信号成分のみがフィルタリング処理され、続いてローノイズアンプ12およびパワーアンプ13によって順に増幅され、送信アンテナ端子14より出力され、アンテナ15から送信される。
【0021】
他方の高周波受信回路部4は、受信IC17と2つのフィルタ18、19とによって形成されている。アンテナ14によって受信した受信高周波信号は受信アンテナ端子16より入力され、フィルタ18によって受信高周波信号成分のみがフィルタリング処理され、続いてローノイズアンプ20によって増幅された後に、再度フィルタ19によってフィルタリング処理される。続いて、ミキサDEM21において受信高周波信号はシンセサイザ22から送給されてくる発振信号と混合されて受信信号出力端子23から受信用ベースバンドIC24へ出力される。
【0022】
このような回路構成を備えている送受信回路モジュール1は、図2から図7に示すように絶縁基板2上に構成各部を搭載して形成されている。
【0023】
絶縁基板2は、図3から図5に示すように、矩形状に形成されており、図6および図7に示すように、本実施形態においては複数枚の単板2a、2aを積層して形成されている。この絶縁基板2の上面には、図4および図5に示すように、高周波送信回路部3を形成する送信IC4およびフィルタ6と、高周波受信回路部4を形成する受信17および2個のフィルタ18、19とが絶縁基板2の領域を2分割するように配置して搭載されている。更に、絶縁基板2の上面には、回路構成上必要なコイル、コンデンサ、抵抗がチップ25として搭載されている。これらのIC5、17、フィルタ6、18、19およびチップ25は図示しない線路によって電気的に接続されている。絶縁基板2の下面の周縁部分には、図3に示すように、マザーボード(図示せず)と接続するための外部接続用端子26が多数形成されており、図6および図7示すように、絶縁基板2の上面若しくは単板2aに形成されている線路等とビア27を介して電気的に接続されている。また、絶縁基板2の下面の中央部分には、大きい2つの接地パターン28が設けられており、ビア27を介して必要部分と電気的に接続されている。
【0024】
更に、絶縁基板2の上面に搭載されているIC5、17、フィルタ6、18、19およびチップ25は、図2から図7に示すように、シールド効果を発揮する薄い矩形箱上の金属カバー29によって覆われている。この金属カバー29の4隅には金属カバー29の板材をL字形に曲げた取り付け脚30a、30b、30c、30dが形成されており、図6および図7示すように、絶縁基板2の上面に設けられた4個の固定パターン31a、31b、31c、31dにそれぞれ半田付けして接続されている。4個の固定パターン31a、31b、31c、31dの内、高周波受信回路部4のアンテナ端子に最も近いフィルタ18に隣接して配置されている固定パターン31aを絶縁基板2に設けた接地パターン28と直接接続させていない。他の3個の固定パターン31b、31c、31dは順に受信IC17、高周波送信回路部3のフィルタ6、送信IC5に隣接して配置されており、それぞれビア27を通して接地パターン28に電気的に接続されている。
【0025】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0026】
本実施形態の送受信回路モジュール1においては、4個の固定パターン31a、31b、31c、31dの内、高周波受信回路部4のアンテナ端子に最も近いフィルタ18に隣接して配置されている固定パターン31aを絶縁基板2に設けた接地パターン28と直接接続させていない。
【0027】
従って、本実施形態の送受信回路モジュール1によれば、金属カバー29内に流入した高周波送信回路部3を流れる大電力の送信高周波信号は、金属カバー29の高周波受信回路部4のアンテナ端子16に最も近い固定パターン31aであって絶縁基板2内の接地パターン28と直接接続していない固定パターン31aに接続されている取り付け脚30a部分を通らないで、接地パターン28に接続されている他の固定パターン31b、31c、31dに接続されている取り付け脚30b、30c、30d部分を通って当該他の固定パター31b、31c、31dンおよび接地パターン30b、30c、30dを通って外部に流れるこれにより、高周波送信回路部3を流れる大電力の送信高周波信号が高周波受信回路部4に干渉することを防げることができる。
【0028】
次に、検証データを説明する。
【0029】
4個の固定パターン31a、31b、31c、31dを全部接地パターン28と直接接続させた状態で、高周波送信回路部3を流れる送信信号を−26.85dBm/Freq.(=2010MHz)とし、高周波受信回路部4をOFFとして受信用ベースバンドIC24に到達する送信信号の漏れは−8.66dBmであった。次に、4個の固定パターン31a、31b、31c、31dを順に接地パターン28との接続を遮断して送信信号の漏れを測定すると、固定パターン31aを遮断した場合の漏れが−12.40dBm(改善量−3.74dB)、固定パターン31bを遮断した場合の漏れが−8.97dBm(改善量−0.31dB)、固定パターン31cを遮断した場合の漏れが−8.69dBm(改善量−0.03dB)、固定パターン31dを遮断した場合の漏れが−9.31dBm(改善量−0.65dB)となった。従って、固定パターン31aと接地パターン28との接続を遮断した時が、最も送信信号の漏れが小さく、アイソレーションが最も向上していることが、実験からも立証された。
【0030】
更に、本実施形態の送受信回路モジュール1によれば、高周波送信回路部3のパワーアンプ13以降の送信高周波信号の信号レベルが大きい場合においても、当該送信高周波信号は、金属カバー29の高周波受信回路部4のアンテナ端子16に最も近い固定パターン31aであって絶縁基板2内の接地パターン28と直接接続していない固定パターン31aに接続されている取り付け脚部分30aを通らないので、高周波受信回路部4のローノイズアンプ20が高周波送信回路部3のパワーアンプ13部分を流れる大電力の送信高周波信号による干渉を受けることがない。
【0031】
更に、本実施形態の送受信回路モジュール1によれば、絶縁基板2の上面に電子部品としてのIC5、17、フィルタ6、18、19およびチップ25が載置され、下面にマザーボードと接続するための外部接続用端子26が設けられているので、絶縁基板2の同一面に送受信回路3、4を共に設けるとともに、下面の外部接続用端子26を介してマザーボードと接続することができ、送受信回路モジュール1の多機能化と小型化を図ることができる。
【0032】
更に、本実施形態の送受信回路モジュール1によれば、高周波受信回路部4のアンテナ端子16に最も近い固定パターン31a以外の多数の固定パターン31b、31c、31dがそれぞれ接地パターン28に接続されているので、金属カバー29が多くの箇所でグランドに接続され、シールド効果(送受信回路モジュール1の内から外に伝わる電磁波および外から内に伝わる電磁波の遮断)が高まる。
【0033】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の送受信回路モジュールの1実施形態を用いた送受信機の主要部を示す回路図
【図2】本発明の送受信回路モジュールの1実施形態を示す斜視図
【図3】図2の底面側より見た斜視図
【図4】図2の金属カバーを鎖線によって示した斜視図
【図5】図4の平面図
【図6】図5の6−6線に沿った拡大断面図
【図7】図5の7−7線に沿った拡大断面図
【符号の説明】
【0035】
1 送受信回路モジュール
2 絶縁基板
3 高周波送信回路部
4 高周波受信回路部
13 パワーアンプ
16 受信アンテナ端子
20 ローノイズアンプ
26 外部接続用端子
28 接地パターン
29 金属カバー
30 取り付け脚
31 固定パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、前記絶縁基板上に設けられた高周波送信回路部と、前記絶縁基板上に設けられた高周波受信回路部と、前記高周波送信回路部と前記高周波受信回路部を覆う金属カバーと、前記絶縁基板上に設けられた接地パターンとを備えているとともに、
前記金属カバーは、複数の取り付け脚を有し、前記絶縁基板は、前記金属カバーの各取り付け脚とそれぞれ接続される複数の固定パターンを有し、前記固定パターンの内、前記高周波受信回路部のアンテナ端子に最も近い前記固定パターンを絶縁基板内の接地パターンと直接接続しないことを特徴とする送受信回路モジュール。
【請求項2】
前記高周波送信回路部は、アンテナ端子の近くにパワーアンプを有しており、前記高周波受信回路部は、アンテナ端子の近くにローノイズアンプを有していることを特徴とする請求項1に記載の送受信回路モジュール。
【請求項3】
前記絶縁基板は、上面に電子部品が載置され、下面にマザーボードと接続するための外部接続用端子が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の送受信回路モジュール。
【請求項4】
前記高周波受信回路部のアンテナ端子に最も近い前記固定パターン以外の前記固定パターンを、前記絶縁基板内の接地パターンと接続することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の送受信回路モジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−219453(P2008−219453A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53698(P2007−53698)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】