説明

逆配列HIV−TATポリペプチドを用いる輸送分子

本発明は、HIV−TATタンパク質の塩基性部分の逆配列である配列に配置されたアミノ酸残基を含むポリペプチドを含む新規の輸送分子に関する。新規の輸送ポリペプチドは、カーゴ分子の膜貫通送達又は細胞内送達に有用であり、そのカーゴ分子の非限定的例としては、ポリペプチド及び核酸が挙げられる。新規の輸送ポリペプチドは、カーゴ分子に共有結合しても非共有結合してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年12月29日に出願された米国仮出願第60/882,639号の優先権を主張し、その米国仮出願の内容は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0002】
本発明は、HIV−TATタンパク質の塩基性部分の逆配列である配列に配置されたアミノ酸残基を有するポリペプチドを含む新規の輸送分子に関する。新規の輸送分子は、カーゴ(cargo)分子の膜貫通送達又は細胞内送達に有用であり、そのカーゴ分子の非限定的例としては、ポリペプチド及び核酸が挙げられる。新規の輸送分子は、カーゴ分子に共有結合しても非共有結合してもよい。縮小サイズの本発明の好ましい輸送分子はまた、カーゴ分子の生物活性への干渉を最小限にする。
【背景技術】
【0003】
診断薬又は治療薬の膜貫通送達又は細胞内送達は、そのような薬剤が所望の組織又は細胞内部位に到達できないことで問題となることが多い。こうした問題が生じるのは、一つには、膜生物が、生物を保護する方法として外部化合物を排除するように進化したためである可能性がある。
【0004】
例えば、ヒト皮膚の複雑な構造を考えると、これは、外部環境の脅威から身体の器官を保護し、体温を維持するための温度自動調節器として働く。皮膚は、いくつかの異なる層からなり、それぞれが特殊化した機能をもつ。主要な層としては、皮下組織、真皮、及び表皮が挙げられる。皮下組織は、皮膚の最深層である。それは、体熱保持のための断熱材と器官保護のための衝撃吸収材の両方として働く(Inlander, Skin, New York, N.Y.: People's Medical Society, 1-7 (1998))。加えて、皮下組織はまた、エネルギー蓄積のための脂肪を貯える。皮膚のpHは、正常な場合5から6の間である。この酸性度は、皮脂腺の分泌物由来の両性アミノ酸、乳酸、及び脂肪酸の存在による。用語「酸外套」とは、皮膚の大部分の領域にある水溶性物質の存在を指す。皮膚の緩衝能力は、皮膚の角質層に貯蔵されたこれらの分泌物に一部、起因する。
【0005】
皮下組織の上にある真皮は、厚さが1.5〜4ミリメートルである。皮膚の3層のうち最も厚い。加えて、真皮はまた、汗腺及び脂腺(毛穴又は面皰と呼ばれる皮膚の開口部を通して物質を分泌する)、毛包、神経終末、並びに血管及びリンパ管を含む皮膚構造の大部分が存在する(Inlander, Skin, New York, N.Y.: People's Medical Society, 1-7 (1998))。しかしながら、真皮の主要な構成要素は、コラーゲン及びエラスチンなどの結合組織である。
【0006】
表皮は、真皮を覆う、重層化した上皮細胞の層であり、皮膚の最外層である。表皮は、厚さが0.1〜1.5ミリメートルしかなく(Inlander, Skin, New York, N.Y.: People's Medical Society, 1-7 (1998))、ケラチノサイトからなり、それらの分化状態に基づいていくつかの層に分けられる。表皮はさらに、角質層と、顆粒マルピーギ(melphigian)細胞及び基底細胞からなる分裂可能な表皮とに分類することができる。
【0007】
生理活性物質を局所的に又は経皮的に投与することにおける一つの重大な問題は、皮膚が透過に対する効果的なバリアであることである。角質層の油性の性質及びその細胞の緊密さは、気体、固体、又は液体の化学物質に対して、それらが単独で用いられようと水溶液中又は油剤中で用いられようと、効果的なバリアとなる。したがって、角質層は、治療用、化粧用、又は診断用作用物質を身体の局部に局所投与する試みを妨げる。多くの生理活性物質は、理想的には、全身性過剰摂取なしに治療上の利点を得るのに十分高い作用物質の局所濃度に達するように局在的領域に局所投与されるべきであるため、これは問題である。さらに、胃腸管を介する治療用又は診断用作用物質の吸収は、しばしば、正常な代謝過程による作用物質の不要な化学的変化をもたらす可能性があるため、望ましくない。
【0008】
皮膚などの巨視的構造の他に、細胞は、一般的に、多くの治療用又は診断用作用物質に対して、特にその作用物質がタンパク質及び核酸などの高分子である場合には、不透過性又はほとんど不透過性である。さらに、いくつかの小分子は、生細胞に入る率が非常に低い。インビボで高分子を細胞へ送達するための手段がないことが、タンパク質及び核酸などの細胞内作用部位を有する潜在的多数の治療用及び診断用作用物質の治療的、予防的、及び診断的使用への障害になっている。
【0009】
インビトロで高分子を細胞へ送達するための様々な方法が開発されている。そのような方法のリストには、エレクトロポレーション、リポソームとの膜融合、DNA被覆微粒子での高速砲撃、リン酸カルシウム−DNA沈殿物とのインキュベーション、DEAEデキストラン媒介型トランスフェクション、改変ウイルス核酸の感染、及び単細胞への直接マイクロインジェクションが含まれる。これらのインビトロ方法は、典型的には、核酸分子を細胞集団全体のほんのわずかにだけ送達し、多数の細胞を損傷しがちである。インビボでの高分子の細胞への実験的送達は、掻爬負荷、リン酸カルシウム沈殿物、及びリポソームで達成されている。しかしながら、これらの技術は、今まで、インビボでの細胞送達について限られた有用性しか示していない。さらに、インビトロでの細胞に関してでさえ、そのような方法は、タンパク質の送達についての有用性が極めて限られている。
【0010】
インビトロ及びインビボでの生物活性タンパク質の無傷細胞への効率的送達のための一般的な方法が必要とされている。(L. A. Sternson, "Obstacles to Polypeptide Delivery", Ann. N.Y.Acad. Sci, 57, pp. 19-21 (1987))。リポペプチドの化学的付加(P. Hoffmann et al., "Stimulation of Human and Murine Adherent Cells by Bacterial Lipoprotein and Synthetic Lipopeptide Analogues", Immunobiol., 177, pp. 158-70 (1988))又はポリリシン若しくはポリアルギニンなどの塩基性重合体(W.-C. Chen et al., "Conjugation of Poly-L-Lysine Albumin and Horseradish Peroxidase: A Novel Method of Enhancing the Cellular Uptake of Proteins", Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, pp. 1872-76 (1978))は、高い信頼性があること又は一般的に有用であることが証明されていない。葉酸は輸送部分として用いられている(C. P. Leamon and Low, Delivery of Macromolecules into Living Cells: A Method That Exploits Folate Receptor Endocytosis", Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, pp. 5572-76 (1991))。葉酸コンジュゲートの内部移行についての証拠が提示されたが、細胞質送達については提示されなかった。インビボでの高レベルの循環葉酸を考えると、この系の有用性は完全には実証されていない。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素もまた、輸送部分として用いられている(T. I. Prior et al., "Barnase Toxin: A New Chimeric Toxin Composed of Pseudomonas Exotoxin A and Barnase", Cell, 64, pp. 1017-23 (1991))。しかしながら、生物活性カーゴ分子の細胞内送達についてのこの系の効率及び一般的な適用性は、発表された研究からは明らかではない。
【0011】
特定のクラスの治療薬の細胞内送達のための以前に報告された一つの方法は、特定のクラスの化合物の細胞内送達のためにHIV−TATタンパク質の塩基性領域を含む輸送剤を用いることを含む。例えば、米国特許第5,652,122号;第5,670,617号;第5,674,980号;第5,747,641号;第5,804,604号;及び第6,316,003号を参照されたい。加えて、精製されたヒト免疫不全ウイルス1型(「HIV」,human immunodeficiency virus)TATタンパク質が、培養増殖中のヒト細胞に周囲培地から取り込まれることが報告されている(A. D. Frankel and C. O. Pabo, "Cellular Uptake of the TAT Protein from Human Immunodeficiency Virus", Cell, 55, pp. 1189-93 (1988))。一般的に、TATタンパク質は、特定のHIV遺伝子をトランス活性化し、ウイルス複製にとって必須である。完全長HIV−1 TATタンパク質は86個のアミノ酸残基を有する。HIV TAT遺伝子は2つのエクソンを有する。TATアミノ酸1〜72位は、エクソン1によってコードされ、アミノ酸73〜86位はエクソン2によってコードされる。完全長TATタンパク質は、2個のリシン及び6個のアルギニンを含む塩基性領域(アミノ酸49〜57位)、並びに7個のシステイン残基を含むシステインリッチな領域(アミノ酸23〜37位)によって特徴づけられる。特に、塩基性領域(すなわち、アミノ酸49〜57位)は、核局在化にとって重要であると考えられる。(Ruben, S. et al., J. Virol. 63:1-8 (1989); Hauber, J. et al., J. Virol. 63 1181-1187 (1989))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,652,122号明細書
【特許文献2】米国特許第5,670,617号明細書
【特許文献3】米国特許第5,674,980号明細書
【特許文献4】米国特許第5,747,641号明細書
【特許文献5】米国特許第5,804,604号明細書
【特許文献6】米国特許第6,316,003号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Inlander, Skin, New York, N.Y.: People's Medical Society, 1-7 (1998)
【非特許文献2】L. A. Sternson, "Obstacles to Polypeptide Delivery", Ann. N.Y. Acad. Sci, 57, pp. 19-21 (1987)
【非特許文献3】P. Hoffmann et al., "Stimulation of Human and Murine Adherent Cells by Bacterial Lipoprotein and Synthetic Lipopeptide Analogues", Immunobiol., 177, pp. 158-70 (1988)
【非特許文献4】W.-C. Chen et al., "Conjugation of Poly-L-Lysine Albumin and Horseradish Peroxidase: A Novel Method of Enhancing the Cellular Uptake of Proteins", Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, pp. 1872-76 (1978)
【非特許文献5】C. P. Leamon and Low, Delivery of Macromolecules into Living Cells: A Method That Exploits Folate Receptor Endocytosis", Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, pp. 5572-76 (1991)
【非特許文献6】T. I. Prior et al., "Barnase Toxin: A New Chimeric Toxin Composed of Pseudomonas Exotoxin A and Barnase", Cell, 64, pp. 1017-23 (1991)
【非特許文献7】A. D. Frankel and C. O. Pabo, "Cellular Uptake of the TAT Protein from Human Immunodeficiency Virus", Cell, 55, pp. 1189-93 (1988)
【非特許文献8】Ruben, S. et al., J. Virol. 63:1-8 (1989)
【非特許文献9】Hauber, J. et al., J. Virol. 63 1181-1187 (1989)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
HIV−TATの塩基性領域は、以前、特定のクラスの分子の細胞内送達を増加させるために用いられていたが、本発明は、HIV−TATの塩基性領域の逆配列を用いることにより、本明細書に定義されているようなカーゴ分子の膜貫通送達又は細胞内送達を増加させることができるという予期せぬ所見に基づいている。この所見の結果として、本発明は、カーゴ分子の膜貫通透過又は細胞内透過を増加させることができる新規の輸送分子を提供する。したがって、本発明の輸送分子は、インビトロ又はインビボのいずれでも、カーゴ分子を膜を横切って(例えば、経皮的に)、又は細胞膜を通って真核細胞へ(例えば、細胞核又は細胞質へ)送達するのに用いることができる。本発明はさらに、輸送分子とカーゴ分子の共有結合又は非共有結合したコンジュゲート(複合体)に関する。
【0015】
加えて、本発明は、本発明の新規の輸送分子を用いてカーゴ分子の膜貫通透過又は細胞内透過を増加させる方法を提供する。この方法は、(1)本質的に、標的細胞、細胞核、若しくは膜に入ることができないか、又は(2)本質的に、標的細胞、細胞核、若しくは膜に有用な率で入ることができないかのいずれかであるカーゴ分子に特に適している。特定の好ましい実施形態において、本発明の輸送分子は、制御因子、酵素、抗体、薬物、又は毒素などのタンパク質又はペプチド、及びDNA又はRNAの細胞核への、又は膜を横切っての送達に有用である。特に好ましいカーゴ分子としては毒素が挙げられ、その毒素の非限定的例としては、ボツリヌス毒素、ワグレリン(waglerin)毒素、及び破傷風毒素が挙げられる。本発明によるカーゴ分子の細胞内送達は、新規の輸送分子とカーゴ分子のコンジュゲートの所望の細胞への投与によって達成される。他の実施形態において、本発明は、輸送分子/カーゴ分子コンジュゲートを所望の膜に投与することによる、カーゴ分子の膜を横切った送達方法を提供する。一つの特に好ましい実施形態において、輸送分子/カーゴ分子コンジュゲートは、所望のカーゴ分子の経皮透過をもたらすように局所投与される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Gスペーサーを介して一方の末端に付着した配列番号1に対応するポリペプチドを有する15個のリシンであるK15RT2に関する、ヒト皮膚における125I関連放射活性のインビトロでの経皮透過を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
輸送分子の形成
本発明の好ましい輸送分子は、HIV−TAT塩基性領域アミノ酸配列(天然のHIV−TATタンパク質のアミノ酸49〜57位)の逆配列に対応する配列を有するポリペプチドの存在によって特徴づけられる。このHIV−TAT塩基性領域の逆配列RRRQRRKKR(配列番号1)を、以下、「逆配列ポリペプチド」と呼ぶものとし、コンジュゲートを形成するのに所望のカーゴ分子に共有結合により付着(attach)しても、非共有結合により付着してもよい。特定の実施形態において、直接か又はペプチド若しくは重合体リンカーを介してかのいずれかで、1又は複数の逆配列ポリペプチドを所望のカーゴ分子に共有結合により付着することが有利である。例えば、逆配列ポリペプチドは、本明細書に記載されているように、化学架橋又は遺伝子融合によってカーゴ分子に有利に付着することができる。
【0018】
逆配列ポリペプチドの変異体もまた、本発明によって企図される。一般的に、カーゴ分子の経皮的透過又は膜貫通透過を向上させるために輸送分子に用いることができる、逆配列ポリペプチドの任意の変異体が、本発明の一部とみなされる。例えば、いくつかの実施形態において、逆配列ポリペプチドの変異体は、改変逆配列ポリペプチドを生じるように逆配列ポリペプチドに存在する少なくとも1個のアミノ酸の欠失及び/又は置換によって作製される。したがって、逆配列ポリペプチドのアミノ酸配列と同一ではないが、実質的に類似するアミノ酸配列を有する改変逆配列ポリペプチドを作製することができる。 好ましい改変逆配列ポリペプチドには、機能的に等価であるもの、又は機能上等価のそのペプチド断片が挙げられる。そのような機能的等価物又は機能上等価の断片は、天然の逆配列ポリペプチドの透過能力と実質的に類似する膜貫通透過能力及び細胞内透過能力をもつ。
【0019】
逆配列ポリペプチド又はその変異体は、遺伝子工学技術又は化学合成を含む様々な方法を用いて得ることができる。特定の好ましい実施形態において、結果として生じる輸送分子が標的細胞の細胞質などの特定の領域に局在化させる傾向があるように、逆配列ポリペプチドの透過能力を調節するために1又は複数の置換を行ってもよい。同様の挙動は、以前、天然のHIV−TATの塩基性領域について観察されており、細胞質中にHIV−TAT断片を局在化させる、又は部分的に局在化させるために用いられている(例えば、Dang, C. V. and Lee, W. M. F., J. Biol. Chem, 264: 18019-18023 (1989); Hauber, J. et al., J. Virol. 63: 1181-1187 (1989); Ruben, S. A. et al., J. Virol. 63: 1-8 (1989)参照)。或いは、逆配列ポリペプチド及びカーゴ分子を細胞質に保持するために、又はカーゴ分子の核取り込みを制御するために、細胞質成分を結合するための配列を逆配列ポリペプチドに付着させることができる。他の実施形態において、輸送分子の膜溶解性を増強するために逆配列ポリペプチド又はその変異体にコレステロール又は他の脂質誘導体を付加することができる。もちろん、所定のカーゴ分子の細胞質への送達に続いて、同じカーゴ分子の核へのさらなる送達があってもよい。核送達は、必然的に、細胞質のどこかの部分を横切ることを含む。
【0020】
逆配列ポリペプチドは、カーゴ分子の膜貫通送達又は細胞内送達をもたらすのに有用であるが、本発明によって企図される輸送分子はまた、膜貫通輸送又は細胞内輸送を増強するHIV−TAT天然タンパク質の任意の他の部分を含んでもよい。例えば、必要に応じて、輸送分子はまた、取り込み活動の増加を実証するその任意の部分の配列を増加させる、天然HIV−TATタンパク質の領域の配列を有する完全HIV−TATポリペプチドのすべての86個の残基を含んでもよく、その任意の部分の非限定的例としては、残基1〜58位、37〜72位、又は49〜57位が挙げられる。しかしながら、好ましい実施形態において、輸送分子は、HIV−TATのシステインリッチな領域を含まず、そのシステインリッチな領域は、天然のHIV−TAT配列のアミノ酸22〜37位に対応し、その16個のアミノ酸のうち7個がシステインである。それらのシステイン残基は、互いと、存在する可能性がある他のHIV−TATタンパク質分子又はその断片のシステインリッチな領域におけるシステイン残基と、及び所望のカーゴ分子を構成するタンパク質又はポリペプチドに存在する可能性があるシステイン残基と、ジスルフィド結合を形成する能力がある。そのようなジスルフィド結合形成は、カーゴ分子の生物活性の損失を引き起こしうる。さらに、カーゴ分子へのジスルフィド結合の可能性がないとしても(例えば、治療薬がシステイン残基を含まないタンパク質である場合)、輸送分子間でのジスルフィド結合形成は、輸送分子、輸送分子−カーゴ分子コンジュゲート、又は両方の凝集及び不溶性へと導く。したがって、天然HIV−TATタンパク質のシステインリッチな領域は、治療用又は診断用作用物質の送達のためのHIV−TAT関連タンパク質の使用において深刻な問題の原因となる可能性がある。HIV−TATタンパク質に存在するシステインリッチな領域の非存在によって、本発明の好ましい輸送分子は、輸送ポリペプチド/治療薬の共有結合性又は非共有結合性コンジュゲートの生物活性の損失又は不溶性、又は両方を生じうるジスルフィド凝集の問題を回避する。さらに、縮小サイズの本発明の好ましい輸送分子もまた、治療用又は診断用作用物質の生物活性への干渉を有利に最小化する。縮小された輸送分子サイズのさらなる利点は、カーゴ分子あたり複数の逆配列ポリペプチドの付着を含む本発明の実施形態における取り込み効率の増強である。
【0021】
さらに、本発明はまた、他のウイルス由来のTATタンパク質と組み合わせた1又は複数の逆配列ポリペプチドを含む輸送分子を企図し、その他のウイルスの非限定的例としては、HIV−2(M. Guyader et al., "Genome Organization and Transactivation of the Human Immunodeficiency Virus Type 2", Nature, 326, pp. 662-669 (1987))、ウマ伝染性貧血ウイルス(R. Carroll et al., "Identification of Lentivirus TAT Functional Domains Through Generation of Equine Infectious Anemia Virus/Human Immunodeficiency Virus Type 1 TAT Gene Chimeras", J. Virol., 65, pp. 3460-67 (1991))、及びサル免疫不全ウイルス(L. Chakrabarti et al., "Sequence of Simian Immunodeficiency Virus from Macaque and Its Relationship to Other Human and Simian Retroviruses", Nature, 328, pp. 543-47 (1987); S. K. Arya et al., "New Human and Simian HIV-Related Retroviruses Possess Functional Transactivator (tat) Gene", Nature, 328, pp. 548-550 (1987))が挙げられる。逆配列ポリペプチド及びこれらの他のTATタンパク質由来の任意のポリペプチドを含む輸送分子が、本発明の範囲内にあることは理解されるべきであり、TAT塩基性領域の存在及びTATシステインリッチな領域の非存在によって特徴づけられるものが挙げられる。
【0022】
本発明の輸送分子は、輸送分子がポリペプチドである場合、化学合成してもよいし、組換えDNA方法によって作製してもよい。既知のアミノ酸配列を有するポリペプチドの化学合成方法又は組換えDNA産生方法は周知である。ポリペプチド合成又はDNA合成の自動化装置は市販されている。ポリペプチド輸送分子を調製するための宿主細胞、クローニングベクター、DNA発現制御配列、及びオリゴヌクレオチドリンカーもまた、市販されている。
【0023】
本発明によれば、カーゴ分子は、輸送分子と共有結合又は非共有結合のいずれかにより一緒になってコンジュゲートを形成する。好ましい実施形態において、本発明によって企図されるカーゴ分子には、予防的、治療的、又は診断的適用をもつ任意の物質が挙げられる。しかしながら、任意の生物活性物質も本発明によって企図され、それには、動物を安楽死させるのに有用である毒素などのレシピエントに悪影響を及ぼしうるカーゴ分子が含まれる。本発明の実施に用いるカーゴ分子の選択には幅広い許容範囲が存在する。本発明により企図されるカーゴ分子の非限定的例としては、薬剤、診断薬、酵素、タンパク質、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、抗原、及び毒素が挙げられる。本発明により企図されるカーゴ分子は、化学合成、遺伝子工学方法、又はそれが天然で存在している源からの単離などの公知の技術を用いて獲得又は作製できる。
【0024】
一つの好ましい実施形態において、カーゴ分子は、ある血清型のボツリヌス毒素由来の毒素分子である。特に好ましいのは、ボツリヌス血清型A型、B型、C型、D型、E型、F型、及びG型から直接単離された毒素であるが、これらのボツリヌス血清型の改変形もまた、本発明の一部であると明確にみなされる。そのような改変形には、非限定的に、アミノ酸残基の付加又は欠失を含む毒素分子が挙げられるが、ただし、それらの付加又は欠失が毒素分子の生物学的効果を実質的に変化させることはないという条件である。他の実施形態において、カーゴ分子は抗原であり、輸送分子への結合は、ワクチンを作製することを目的とする。例えば、カーゴ分子は、ワクチンが免疫にする対象になっている細菌又はウイルス又は他の感染病原体由来の抗原(例えば、HIVのgp120)でありうる。抗原を細胞質へ供給することは、細胞がその分子をプロセシングし、それを細胞表面上に提示することを可能にする。抗原の細胞表面上の提示は、キラーTリンパ球応答を引き起こし、それにより、免疫を誘導する。
【0025】
本発明のさらに別の実施形態において、カーゴ分子は、細胞への送達、特に細胞核への送達が望まれる酵素、抗体、毒素、又は制御因子(例えば、転写因子)などのタンパク質である。例えば、いくつかのウイルス癌遺伝子は、細胞遺伝子の発現をそれらのプロモーターへの結合によって不適切にオンにする。競合結合タンパク質を細胞核へ供給することにより、ウイルス癌遺伝子活性を阻害することができる。
【0026】
さらなる実施形態において、カーゴ分子は、標的細胞遺伝子又は遺伝子領域に相補的であり、且つ細胞遺伝子又は遺伝子領域の活性をそれにハイブリダイズすることによって阻害する能力があるオリゴヌクレオチド配列などの診断用ツール(又はプローブ)又は治療用作用物質として用いることができるヌクレオチド配列である。インビトロ及びインビボで一本鎖及び二本鎖核酸が細胞に入る率は、本発明の輸送分子を用いると、有利に増強する可能性がある。例えば、ポリペプチドの核酸への化学架橋のための方法は、当技術分野において周知である。本発明の好ましい実施形態において、カーゴ分子は、一本鎖アンチセンス核酸である。アンチセンス核酸は、それらが相補的である配列の細胞発現を阻害するのに有用である。本発明の別の実施形態において、カーゴ分子は、核酸結合タンパク質によって認識される結合部位を含む二本鎖核酸である。そのような核酸結合タンパク質の例は、ウイルストランス活性化因子である。
【0027】
所望のカーゴ分子はまた、細胞核への特異的且つ確実的な導入が望まれる、ペプチド類似体又は小分子酵素阻害剤などの薬物であってもよい。
【0028】
本発明のカーゴ分子はまた、インビトロ又はインビボで、カーゴ分子が存在する局所環境についての情報を提供する診断薬であってもよい。診断薬を選択するにおいて考慮されるべき因子には、限定されるわけではないが、求められる実験情報のタイプ、診断又は画像診断されることになっている状態、投与経路、非毒性、検出の利便性、検出の定量可能性、及び有効性が挙げられる。多くのそのような診断用作用物質は当業者に公知である。適切な診断薬の非限定的例としては、放射線不透過性造影剤、常磁性造影剤、超常磁性造影剤、CT造影剤、及び他の造影剤が挙げられる。例えば、放射線不透過性造影剤(X線画像診断用)は、無機及び有機ヨード化合物(例えば、ジアトリゾエート)、放射線不透過性金属及びその塩(例えば、銀、金、プラチナなど)、並びに他の放射線不透過性化合物(例えば、カルシウム塩、硫酸バリウムなどのバリウム塩、タンタル及び酸化タンタル)が挙げられるだろう。適切な常磁性造影剤(MR画像診断用)には、ガドリニウムジエチレントリアミンペンタ酢酸(Gd−DTPA,gadolinium diethylene triaminepentaacetic acid)及びその誘導体、並びに他のガドリニウム、マンガン、鉄、ジスプロシウム、銅、ユーロピウム、エルビウム、クロム、ニッケル、及び1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(DOTA,1,4,7,10-tetraazacyclododecane-N,N',N'',N'''-tetraacetic acid)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA,ethylenediaminetetraacetic acid)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N’’−トリ酢酸(DO3A,1,4,7,10-tetraazacyclododecane-N,N',N''-triacetic acid)、1,4,7−トリアザシクロノナン−N,N’,N’’−トリ酢酸(NOTA,1,4,7-triazacyclononane-N,N',N''-triacetic acid)、1,4,8,10−テトラアザシクロテトラデカン−N,N’,N’’,N’’’−四酢酸(TETA,1,4,8,10-tetraazacyclotetradecane-N,N',N'',N'''-tetraacetic acid)、ヒドロキシベンジルエチレン−ジアミン二酢酸(HBED,hydroxybenzylethylene-diamine diacetic acid)などとの錯体を含むコバルト錯体が挙げられる。適切な超常磁性造影剤(MR画像診断用)には、磁鉄鉱、超常磁性酸化鉄、単結晶酸化鉄、特に、本明細書に記載されたような逆配列ポリペプチド又は逆配列ポリペプチドを含む正電荷をもつ骨格に共有結合又は非共有結合により付着することができるこれらの作用物質のそれぞれの錯体型が挙げられる。さらに他の適切な画像診断用作用物質は、ヨウ化及び非ヨウ化並びにイオン性及び非イオン性のCT造影剤、並びにスピン標識又は他の診断に有効な作用物質などの造影剤を含むCT造影剤である。
【0029】
診断用作用物質の他の例としては、細胞で発現した場合、容易に検出可能であるタンパク質をコードするマーカー遺伝子が挙げられ、限定されるわけではないが、β−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼなどが挙げられる。放射性核種、蛍石、酵素、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤、リガンド(特に、ハプテン)などの幅広い種類の標識を用いることができる。さらに他の有用な物質は、99mTcグルコヘプトネートなどの、放射性種又は放射性成分で標識されたものである。
【0030】
カーゴ分子の輸送分子への付着は、用いられる条件に耐えるのに十分安定であり、且ついずれの構成物の機能も変化させない、2つの構成物間の連結を生じる任意の手段によってもたらされてよい。それらの間の連結は、非共有結合でも共有結合でもよい。例えば、カーゴ分子をコードする遺伝子をポリペプチド輸送分子をコードする遺伝子と連結し、その後、その生じた遺伝子構築物をそのコンジュゲートを発現する能力がある細胞へ導入することによって、ポリペプチドである輸送分子をタンパク質/ポリペプチドに基づいたカーゴ分子へ共有結合により付着させるように組換え技術を用いることができる。或いは、公知の技術を用いて、その2つの別々のヌクレオチド配列を細胞中に発現させ、又は化学合成し、その後、共有結合により連結することができる。また、輸送分子とのタンパク質/ペプチドに基づいたカーゴ分子コンジュゲートを、単一のアミノ酸配列(すなわち、両方の構成物が存在する一つのもの)として化学合成することもでき、したがって、連結は必要とされない。
【0031】
多数の化学架橋方法が公知であり、本発明の輸送ポリペプチドを高分子であるカーゴ分子に結合させるのに適用できる可能性がある。多くの公知の化学架橋方法は、非特異的である、すなわち、結合点を輸送ポリペプチド又はカーゴ高分子上のいかなる特定の部位へも方向づけない。結果として、非特異的架橋剤の使用は、機能性部位を攻撃し、又は活性部位を立体的にブロックして、結合したタンパク質を生物学的に不活性にする可能性がある。
【0032】
本発明の実施において結合特異性を増強するための好ましいアプローチは、架橋されることになっているポリペプチドの一方又は両方においてたった1回又は2、3回だけ見出される官能基への直接化学的結合である。例えば、多くのタンパク質では、チオール基を含む唯一のタンパク質アミノ酸であるシステインは、2、3回だけ現れる。また、例えば、ポリペプチドがリシン残基を含まない場合には、1級アミンに特異的な架橋試薬は、そのポリペプチドのアミノ末端に対して選択的であろう。結合特異性を増強するためのこのアプローチの利用が成功するには、ポリペプチドが、分子の生物活性の損失なしに変化することができる、分子の領域に適切にまれで且つ反応性の残基を有する必要がある。
【0033】
システイン残基は、それらがポリペプチド配列の何カ所かに存在し、それらの架橋反応への関与が生物活性に干渉する可能性が高い場合には、置換してもよい。システイン残基を置換する場合、ポリペプチドフォールディングにおいて結果として生じる変化を最小限にすることが典型的には、望ましい。代替物がシステインと化学的及び立体的に類似している場合、ポリペプチドフォールディングにおける変化は最小化される。これらの理由によって、セリンがシステインの代替物として好ましい。架橋を目的として、システイン残基をポリペプチドのアミノ酸配列へ導入してもよい。システイン残基を導入する場合、アミノ末端若しくはカルボキシ末端での、又は末端近くでの導入が好ましい。所望のポリペプチドが化学合成によって作製されようと組換えDNAの発現によって作製されようと、そのような配列改変には通常の方法が利用できる。
【0034】
2つの構成物の結合は、カップリング剤又は結合剤を介して達成することができる。利用することができるいくつかの分子間架橋試薬がある(例えば、Means, G. E. and Feeney, R. E., Chemical Modification of Proteins, Holden-Day, 1974, pp. 39-43参照)。これらの試薬の中には、例えば、J−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP,J-succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate)又はN,N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド(どちらもスルフィドリル基に高特異的であり、不可逆的結合を形成する);N,N’−エチレン−ビス−(ヨードアセトアミド)又は6〜11個の炭素メチレン橋を有する他のそのような試薬(スルフィドリル基に比較的特異性がある);及び1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(アミノ基及びチロシン基と不可逆性結合を形成する)がある。この目的に有用な他の架橋試薬には、p,p’−ジフルオロ−m,m’−ジニトロジフェニルスルフォン(アミノ基及びフェノール基と不可逆性架橋を形成する);ジメチルアジピミデート(アミノ基に特異的である);フェノール−1,4−ジスルホニルクロリド(主にアミノ基と反応する);ヘキサメチレンジイソシアネート又はジイソチオシアネート、又はアゾフェニル−p−ジイソシアネート(主にアミノ基と反応する);グルタルアルデヒド(いくつかの異なる側鎖と反応する);及びジスジアゾベンジジン(主にチロシン及びヒスチジンと反応する)が挙げられる。
【0035】
架橋試薬は、ホモ二官能性、すなわち、同じ反応を起こす2つの官能基を有すること、であってよい。好ましいホモ二官能性架橋試薬は、ビスマレイミドヘキサン(「BMH」,bismaleimidohexane)である。BMHは2つのマレイミド官能基を含み、その官能基は穏やかな条件(pH6.5〜7.7)下でスルフィドリル含有化合物と特異的に反応する。2つのマレイミド基は、炭化水素鎖によって連結されている。それゆえに、BMHは、システイン残基を含むポリペプチドの不可逆性架橋に有用である。
【0036】
架橋試薬はまた、ヘテロ二官能性であってもよい。ヘテロ二官能性架橋剤は、2つの異なる官能基、例えば、遊離アミン及び遊離チオールを有する2つのタンパク質をそれぞれ、架橋するアミン反応基及びチオール反応基を有する。ヘテロ二官能性架橋剤の例は、スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキレート(「SMCC」,succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(「MBS」,m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester)、及びMBSの延長した鎖の類似体であるスクシンイミド4−(p−マレイミドフェニル)ブチレート(「SMPB」,succinimide 4-(p-maleimidophenyl)butylate)である。これらの架橋剤のスクシンイミジル基は、1級アミンと反応し、チオール反応性マレイミドは、システイン残基のチオールと共有結合を形成する。
【0037】
架橋試薬は、しばしば、水への溶解度が低い。スルホン酸基などの親水部分を、水溶性を改善するために架橋試薬に付加してもよい。スルホ−MBS及びスルホ−SMCCは、水溶性を改変した架橋試薬の例である。
【0038】
多くの架橋試薬は、本質的に細胞条件下で開裂不可能であるコンジュゲートを生じる。しかしながら、いくつかの架橋試薬は、細胞条件下で開裂可能であるジスルフィドなどの共有結合を含む。例えば、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(「DSP」,dithiobis(succinimidylpropionate));Traut試薬、及びN−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(「SPDP」)は周知の開裂可能な架橋剤である。開裂可能な架橋試薬を用いることにより、標的細胞への送達後、カーゴ部分が輸送ポリペプチドから分離することが可能になる。直接ジスルフィド結合もまた有用な場合がある。
【0039】
n−γ−マレイミドブチリルオキシ−スクシンイミドエステル(「GMBS」,n-γ-maleimidobutyryloxy-succinimide ester)及びスルホ−GMBSなどのいくつかの新しい架橋試薬は、免疫原性が低下している。本発明のいくつかの実施形態において、そのような免疫原性の低下は有利の場合がある。
【0040】
上記で考察されたものを含む多数の架橋試薬は市販されている。その使用についての詳細な使用説明書は、商業的供給業者から容易に入手できる。タンパク質架橋及びコンジュゲート調製に関する一般的な参考文献は、S. S. Wong, Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking, CRC Press (1991)である。
【0041】
化学架橋は、スペーサーアームの使用を含んでもよい。スペーサーアームは、分子内可動性を与え、又は結合した部分間の分子内距離を調整し、それにより、生物活性を保存するのを助ける可能性がある。スペーサーアームは、スペーサーアミノ酸を含むポリペプチド部分の形をとってもよい。一つの特定の実施形態において、スペーサーリンカーは、例えば、GGダイマーなどの1又は複数のグリシン単位で構成される。或いは、スペーサーアームは、「長鎖SPDP」(Pierce Chem. Co., Rockford, Ill., cat. No. 21651 H)内などの架橋試薬の一部であってもよい。
【0042】
いくつかの実施形態において、輸送ポリペプチドがカーゴ部分に遺伝的に融合する場合、アミノ末端メチオニンを付加することが有利であるが、スペーサーのアミノ酸(例えば、CysGlyGly又はGlyGlyCys)を付加する必要はないことは、当業者によって認識されているだろう。唯一の末端システイン残基は化学架橋の好ましい手段である。本発明のいくつかの好ましい実施形態によれば、逆配列ポリペプチドのカルボキシ末端は、ポリペプチド又はタンパク質を含むカーゴ分子のアミノ末端に遺伝的に融合する。
【0043】
特定の好ましい実施形態において、逆配列ポリペプチドはそれ自体、カーゴ分子と非共有結合により会合して、カーゴ分子の送達を増強する非共有結合性コンジュゲートを形成する輸送分子である。或いは、逆配列ポリペプチドは、カーゴ分子にではなく、代わりに骨格分子に共有結合により付着して(直接か又はリンカーを介してかのいずれかで)、コンジュゲートを形成するようにカーゴ分子と非共有結合により会合する輸送分子を形成する。特定の好ましい実施形態において、輸送分子は、正電荷をもつ骨格に共有結合により付着した、1又は複数のコピーの逆配列ポリペプチドを含む。天然HIV−TATタンパク質又は他のウイルス由来TATタンパク質の他の輸送増強断片も同様に、正電荷をもつ骨格に付着していてもよい。正電荷をもつ骨格は、典型的には、原子の直鎖であり、生理的pHで正電荷を有する基を鎖中に含むか、又は骨格から伸びた側鎖に付着した、正電荷を有する基を含むかのいずれかである。直鎖状骨格は炭化水素骨格であり、いくつかの実施形態において、窒素、酸素、イオウ、ケイ素、及びリンから選択されるヘテロ原子が割り込んでいる。骨格鎖原子の大部分は通常、炭素である。加えて、骨格は、しばしば、繰り返し単位(例えば、アミノ酸、ポリ(エチレンオキシ)、ポリ(プロピレンアミン)など)の重合体である。一つの群の実施形態において、正電荷をもつ骨格は、いくつかのアミン窒素原子が正電荷を有するアンモニウム基(四置換型)として存在するポリプロピレンアミンである。別の群の実施形態において、骨格は、正電荷をもつ基(例えば、アンモニウム基、ピリジニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基、グアニジニウム基、又はアミジニウム基)を含む複数の側鎖部分を付着している。この群の実施形態における側鎖部分は、骨格に沿って、離隔距離が一貫している、又は様々であるスペーシングで配置することができる。加えて、側鎖の長さは、類似しても類似しなくてもよい。例えば、一つの群の実施形態において、側鎖は、1〜20個の炭素原子を有し、且つ上記の正電荷をもつ基の1つにおける遠位末端(骨格から離れて)が終端となる直鎖状又は分岐状炭化水素鎖でありうる。
【0044】
一つの群の実施形態において、正電荷をもつ骨格は、正電荷をもつ複数の側鎖基(例えば、リシン、アルギニン、オルニチン、ホモアルギニンなど)を有するポリペプチドである。アミノ酸が本発明のこの部分に用いられる場合、側鎖は、付着の中心にD型又はL型(R配置又はS配置)のいずれかをとることができることは当業者に理解されよう。
【0045】
或いは、骨格は、ペプトイドなどのポリペプチドの類似体でありうる。例えば、Kessler, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32:543 (1993)、Zuckermann et al. Chemtracts-Macromol. Chem. 4:80 (1992)、及びSimon et al. Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 89:9367 (1992)を参照されたい。簡単には、ペプトイドとは、側鎖がα−炭素原子よりむしろ骨格窒素原子に付着しているポリグリシンである。上記のように、側鎖の一部は、典型的には、正電荷をもつ骨格構成要素を形成しうる正電荷をもつ基で終結することになるだろう。ペプトイドの合成は、例えば、米国特許第5,877,278号に記載されている。その用語が本明細書に用いられる場合、ペプトイド骨格構造を有する正電荷をもつ骨格は、α−炭素位置に天然の側鎖を有するアミノ酸で構成されていないので、「非ペプチド」とみなされる。
【0046】
例えば、ペプチドのアミド結合が、エステル結合、チオアミド(−−CSNH−−)、逆チオアミド(−−NHCS−−)、アミノメチレン(−−NHCH−−)又はその逆のメチレンアミノ(−−CHNH−−)基、ケトメチレン(−−COCH−−)基、ホスフィネート(−−PORCH−−)、ホスホンアミデート及びホスホンアミデートエステル(−−PORNH−−)、逆ペプチド(−−NHCO−−)、トランスアルケン(−−CR=CH−−)、フルオロアルケン(−−CF=CH−−)、ジメチレン(−−CHCH−−)、チオエーテル(−−CHS−−)、ヒドロキシエチレン(−−CH(OH)CH−−)、メチレンオキシ(−−CHO−−)、テトラゾール(CN)、スルホンアミド(−−SONH−−)、メチレンスルホンアミド(−−CHRSONH−−)、逆スルホンアミド(−−NHSO−−)などの代替物で置換されている、ポリペプチドの立体的又は電気的模倣体、並びに、例えば、Fletcher et al. ((1998) Chem. Rev. 98:763)によって概説され、且つそれに引用されている参考文献によって詳述されているような、マロン酸及び/又はジェム−ジアミノ−アルキルサブユニットを有する骨格を利用する様々な他の骨格を用いることができる。前述の置換の多くは、α−アミノ酸から形成された骨格と比較してほぼ等配電子の重合体骨格を生じる。
【0047】
別の特に好ましい実施形態において、骨格部分は、ポリリシンであり、逆配列ポリペプチドは、リシン側鎖アミノ基に付着している。この特に好ましい実施形態に用いられるポリリシンは、例えば、分子量>70,000のポリリシン、70,000〜150,000の分子量のポリリシン、分子量150,000〜300,000のポリリシン、及び分子量>300,000のポリリシンなどの市販されている(Sigma Chemical Company, St. Louis, Mo., USA)ポリリシンのいずれかでありうる。ポリリシンの適切な選択は、組成物の残りの構成要素に依存し、全体的正味の正電荷を組成物に与えるのに十分であろう。
【0048】
輸送分子/カーゴ分子コンジュゲートの送達
本発明は、一般的に、有用な率で標的細胞に入る又は生体膜を透過することが本質的にできない、小分子、並びにタンパク質、核酸、及び多糖などの高分子の治療的、予防的、又は診断的な細胞内送達又は膜貫通送達に適用できる。本発明の方法及び組成物は、ヒトを含む任意の生物体に適用してもよい。本発明の方法及び組成物はまた、子宮内で動物及びヒトに適用してもよい。本発明の一つの好ましい実施形態によれば、輸送分子−カーゴコンジュゲートの生きたヒト又は動物の体内又は表面への導入後、カーゴ分子は、様々な器官及び組織の細胞へ送達される。例えば、カーゴ分子/輸送分子コンジュゲートを、カーゴ分子の導入が望まれる細胞と接触させてもよい。結果として、コンジュゲートは細胞に入り、核の中へ移行する。別の実施形態において、カーゴ分子/輸送分子コンジュゲートを、膜の表面に投与し、カーゴ分子/輸送分子コンジュゲートの膜貫通透過を引き起こす。例えば、カーゴ分子の治療作用が有効であろう領域にカーゴ分子/輸送分子コンジュゲートを局所投与してもよい。特に好ましい実施形態において、カーゴ分子はある血清型のボツリヌス毒素であり、深いしわ(furrow)又はしわ(wrinkle)の出現を減少させるために深いしわ又はしわがある皮膚の領域にカーゴ分子/輸送分子コンジュゲートを局所投与する。
【0049】
或いは、産生され、且つ個体に移植される細胞によって、カーゴ分子/輸送分子コンジュゲートをインビボで送達することができる。その細胞は、それらがインビボで連続的にカーゴ分子/輸送分子コンジュゲートを発現するように遺伝子操作されている。
【0050】
或いは、本発明は、カーゴ分子をインビトロで送達するために用いてもよい。例えば、カーゴ分子が培養中の細胞へ送達されることになっているインビトロでの適用において、カーゴ分子/輸送分子コンジュゲートを単に、培地へ加えるだけでよい。これは、例えば、細胞機能への効果が評価されることになっている核物質への送達の手段として、有用である。例えば、精製転写因子の活性を測定することができる、又はインビボでの処置に用いる前にインビトロアッセイを用いて、カーゴ分子の活性の重要な試験を提供することができる。
【0051】
送達はまた、所望のカーゴ分子/輸送分子コンジュゲートをインビトロで合成する細胞を作製することによって、又は個体から採取された試料(例えば、血液、骨髄)をカーゴ分子/輸送分子コンジュゲートと適切な条件下で混合することによって、インビトロで実行することができる。例えば、TATタンパク質と組み合わせる選択されたカーゴ分子、又は所望のカーゴ分子−TATタンパク質コンジュゲートを、個体から採取された試料(例えば、血液、骨髄)と、試料に存在する細胞へ所望の分子を導入するために、混合することができ、このように処理した後、試料を個体へ戻すことができる。このように実行される一連の処理は、感染病原体の作用を予防又は阻害するために用いることができる。例えば、HIV若しくは他のウイルスに感染した個体から、又は遺伝的欠陥をもつ個体から血液を採取することができる。その後、所望のカーゴ分子がウイルスを不活性化する能力がある薬物である、又は選択されたウイルス配列にハイブリダイズして、それを不活性化する能力があるオリゴヌクレオチド配列、又は欠損若しくは欠陥タンパク質を補充するタンパク質であるカーゴ分子/輸送分子コンジュゲートと血液を、コンジュゲートの細胞内流入、及び試料を個体へ戻すことができるような状態での試料の維持に適切な条件下で、混合することができる。処理後、血液を個体へ戻す。
【0052】
カーゴ分子/輸送分子コンジュゲートを、それが診断目的、予防目的、又は治療目的に用いられることになっている個体へ投与することにより、送達をインビボで実施することができる。標的細胞は、インビボでの細胞、すなわち、生きた動物若しくはヒトの器官若しくは組織を構成する細胞、又は生きた動物若しくはヒトに見出される微生物であってよい。
【0053】
いくつかの実施形態において、輸送分子/カーゴ分子コンジュゲートを、安定性及び透過を増強する作用物質と組み合わせる。例えば、HIV−TATタンパク質に結合し、その安定性及び透過を増加させる金属イオンをこの目的のために用いることができる。或いは、細胞による取り込みを増強するために、リソソーム栄養性剤を輸送分子及びカーゴ分子と共に細胞外に供給する。リソソーム栄養性剤は、単独で、又は安定剤と共に用いることができる。例えば、いくらかの細胞において天然のHIV−TATの取り込みを数百倍増加させることが示されている、クロロキン、モネンシン、アマンタジン、及びメチルアミンなどのリソソーム栄養性剤をこの目的に用いることができる。
【0054】
別の実施形態において、残基38〜58位に対応するペプチド配列、又はHIV−TAT、又はプロタミンなどの塩基性ペプチドを、カーゴ分子の取り込みを増強するために輸送分子及びカーゴ分子と共に細胞外へ供給する、そのような塩基性ペプチドもまた、単独で、又は安定化剤若しくはリソソーム栄養性剤と組み合わせて、用いることができる。
【0055】
本発明の医薬組成物は、治療、予防、又は診断への適用に用いることができ、様々な形をとることができる。これらには、例えば、錠剤、丸薬、粉末、溶液又は懸濁液、エアロゾル、リポソーム、座剤、注射可能及び注入可能溶液、並びに徐放性製剤などの固体、半固体、及び液体の剤形が挙げられる。好ましい形は、意図される投与様式、及び治療、予防、又は診断への適用に依存する。本発明によれば、選択されたカーゴ分子/輸送分子コンジュゲートを、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、病巣内、胸骨内、頭蓋内、又はエアロゾル経路などの通常の投与経路によって投与してもよい。局所的投与経路もまた用いてもよく、適切な場合には、身体の特定部分(例えば、皮膚、下部腸管、膣、直腸)へ局所的に組成物を適用する。組成物はまた、好ましくは、当業者に公知である通常の薬学的に許容される担体及び補助剤を含む。
【0056】
一般的に、本発明の医薬組成物を、例えば、αインターフェロンなどの薬学的に重要なポリペプチドについて用いられるものと類似した方法及び組成物を用いて、製剤化し、投与してもよい。通常の用量は、含まれる特定のカーゴ分子、及び患者の健康、体重、年齢、性別、状態又は疾患、並びに所望の投与様式に依存して変わるものであることは理解されているだろう。本発明の医薬組成物には、薬理学的に適切な担体、補助剤、及び媒体を含む。一般的に、これらの担体には、生理食塩水及び緩衝媒質を含む、水溶液又はアルコール/水性溶液、乳濁液、又は懸濁液が挙げられる。非経口媒体には、塩化ナトリウム溶液、リンガーのデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンガー液、又は固定油を挙げることができる。加えて、静脈内媒体には、流動性及び栄養性補充液、並びにリンガーのデキストロースに基づいたものなどの電解質補充液を挙げることができる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート化剤、及び不活性ガスなどの保存剤及び他の添加剤もまた存在することができる。一般的に、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th Ed., Mack, ed. 1980を参照。
【0057】
しかしながら、本発明の代替の実施形態が臨床的適用に限定されないことは理解されているはずである。本発明は、医学的研究及び生物学的研究に有利に適用できる。本発明の研究適用において、カーゴ分子は、薬剤又は診断薬であってよい。本発明の輸送分子は、研究実験試薬として、単独か又は輸送分子結合キットの一部としてかのいずれかで用いてもよい。
【0058】
本発明者らは、本発明のいくつかの実施形態を記載したが、本発明者らの基本構成を変化させて、本発明の方法及び生成物を利用する他の実施形態を提供することができることは明らかである。それゆえに、本発明の範囲は、例として示されている特定の実施形態によるよりむしろ、添付された特許請求の範囲によって定義されるべきであることは理解されているだろう。
【実施例1】
【0059】
本研究の目的は、フロースルー型拡散セルを用いて大きなカーゴ分子(ボツリヌス毒素A型)をヒト皮膚へ送達する実現可能性をインビトロで評価することであった。毒素がかなりのサイズをもつため、いかなる輸送分子も使用しない経皮摂取は、無視できるほど低いと予想された。それゆえに、角質層を通しての経皮摂取を増加/促進させる試みにおいて、担体溶液を異なる毒素/担体比で加えた。様々な時点でのレセプター液に存在する量に加えて、様々な皮膚層における分布を24時間後、評価した。完全Neuronox(登録商標)製品(すなわち、アクセサリータンパク質を含む毒素/アルブミンコンジュゲート)を、125Iを用いて放射標識した。
【0060】
1.1 試験系
皮膚膜の調製:ヒト皮膚膜を凍結した皮膚試料(腹部手術後すぐの単一のドナー)から調製した。解凍後、皮膚を、皮膚採取器(Dermatome 25 mm)(Nouvag GmbH, Germany)を用いて約400μmの記録された厚さで採取した。
【0061】
フロースルー型拡散セル:皮膚膜を、9mmフロースルー型自動拡散セル(PermeGear Inc., Riegelsville, PA, USA)に配置した。皮膚表面温度を、周囲湿度で約32℃に保持した。レセプター液を約1.6mL/hの速度でポンプで注入し、それは、0.01%アジ化ナトリウム(W/V)を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)からなった。
【0062】
1.2 実験設計及び手順
試験物質の125I標識:Neuronox製品を含む1つのバイアルの内容物を、100μL 50mM KHPO緩衝液、pH7.2中に再構成した。ヨウ素化の間、37MBq Na125I(10μl)、20μlの約100,000倍希釈した過酸化水素水溶液(30%(v/v)ペリヒドロール)、及び20μlラクトペルオキシダーゼ(4μg/10μL水)を、Neuronox(登録商標)製品を含むバイアルに加えた。約60秒後、利用可能なタンパク質(毒素、アルブミンなど)とまだ反応していない過剰125Iを除去するためにリン酸緩衝液中50μLチロシン溶液(1mg/mL)の添加によってヨウ素化を停止した。1分後、125I(L−チロシンと結合した)を、0.5%(w/v)BSA含有アッセイ緩衝液と平衡に達した約10mL容量のSephadex G25微細カラムを用いることによって放射標識タンパク質から分離した。約250μLの画分を収集した。細画分を放射活性測定のために採取した。画分をさらに使用するまで、2〜10℃で保存した。
【0063】
実験設計:Neuronox(登録商標)製品を、K15RT2担体溶液において、それが皮膚を透過する能力について評価した。試験化合物の適用前に、皮膚完全性を、トリチウム標識した水の透過係数(Kp)を測定することによって評価した。設定した実験は以下のとおりであった:
【0064】
【表1】

【0065】
回収手順:24時間後、吸収されなかった試験物質(除去可能用量)を、穏やかなセッケン溶液(3%Teepol水溶液)及び綿棒を用いて適用部位から除去した。皮膚表面を、洗浄後、乾いた綿棒を用いて乾燥させた。レセプターコンパートメント及びドナーコンパートメントを水ですすいだ(1mLで2回)。その後、各皮膚膜を、D-squame(Monaderm, Monaco)を用いてテープで剥ぎ取った(膜あたり10回)。表皮が裂けた場合は、テープ剥ぎ取りを中止した。表皮(の断片)を含むテープ条片を皮膚膜(表皮)と共にプールした。最後に、表皮と真皮を、外科用ナイフ及びピンセットを用いて機械的に分離した。全画分における放射活性を、γ−放射線カウンティングによって測定した。
【0066】
1.3 分析
放射活性の測定:完全性試験の試料における放射活性を、Wallac Pharmacia モデルS1414シンチレーションカウンターにおけるクエンチ補正についてDOT−DPMTM(スペクトルライブラリー及び外部標準スペクトルを用いるデジタルオーバーレイ技術)を用いる液体シンチレーションカウンティング(LSC,liquid scintillation counting)によって測定した。装置についての較正手順は試験施設で確立されている。
【0067】
用量製剤:投薬直前及び直後に採取された用量製剤のアリコートを、液体シンチラント(scintillant)(Ultima Gold(商標))に直接加え、LSCによって測定した。レセプター液:レセプター液の試料を液体シンチラント(Ultima Gold(商標))に直接加え、LSCによって測定した。125I標識試験化合物を用いる吸収試験の試料における放射活性を、γカウンター(Perkin Elmer)を用いて測定した。
【0068】
1.4 計算
全吸収は、レセプター液、レセプターコンパートメント洗浄液、及び皮膚(テープ条片を除く)に存在する化合物関連放射活性の量として定義される。
【0069】
2.結果
試験品目の経皮吸収
125I]Neuronox(登録商標)の経皮吸収をヒト皮膚膜上で評価した。暴露時間は24時間であった。(組織)分布は表1に示されている。
【0070】
【表2】

【0071】
図1は、K15RT2に関するヒト皮膚における125I関連放射活性のインビトロ経皮透過を示す。データは明らかに、125I関連放射活性のインビトロ経皮透過が、ボツリヌス毒素単独と比較して、ボツリヌス毒素+K15RT2に関してはるかに高いことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1によるアミノ酸配列を有する逆配列ポリペプチドを含む、カーゴ分子の送達のための輸送分子。
【請求項2】
逆配列ポリペプチドがカーゴ分子に共有結合により付着している、請求項1に記載の輸送分子。
【請求項3】
逆配列ポリペプチドが、カーゴ分子に非共有結合により付着した正電荷をもつ骨格に共有結合している、請求項1に記載の輸送分子。
【請求項4】
逆配列ポリペプチドが、カーゴ分子に非共有結合した正電荷をもつ骨格に共有結合している、請求項3に記載の輸送分子。
【請求項5】
カーゴ分子の生体膜を通した透過を増強する、請求項1に記載の輸送分子。
【請求項6】
生体膜が皮膚に存在する、請求項5に記載の輸送分子。
【請求項7】
カーゴ分子の細胞内透過を増強する、請求項1に記載の輸送分子。
【請求項8】
配列番号1に示すアミノ酸配列を有する逆配列ポリペプチドを含む輸送分子;及び
カーゴ分子
を含む、カーゴ分子の送達のためのコンジュゲート。
【請求項9】
輸送分子がカーゴ分子に共有結合により付着している、請求項8に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
輸送分子がカーゴ分子に非共有結合により付着している、請求項8に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
カーゴ分子が治療薬である、請求項8に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
治療薬が、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、酵素、及び抗原からなる群から選択される、請求項11に記載のコンジュゲート。
【請求項13】
治療薬がある血清型のボツリヌス毒素又はその断片に由来する、請求項11記載のコンジュゲート。
【請求項14】
診断薬が、放射線不透過性造影剤、常磁性造影剤、超常磁性造影剤、及びCT造影剤からなる群から選択される、請求項13に記載のコンジュゲート。
【請求項15】
カーゴ分子を選択するステップ;
輸送分子を選択するステップ;
前記カーゴ分子を前記輸送分子に共有結合又は非共有結合のいずれかにより結合して、カーゴ分子/輸送分子コンジュゲートを形成するステップ;及び
カーゴ分子の細胞内送達又は膜貫通送達を引き起こすために前記コンジュゲートを標的細胞又は膜に投与するステップ
を含む、疾患の治療方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−514779(P2010−514779A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544158(P2009−544158)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/087241
【国際公開番号】WO2008/082885
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(509168461)ルバンス セラピュティックス インク. (9)
【氏名又は名称原語表記】REVANCE THERAPEUTICS,INC.
【Fターム(参考)】