説明

透光性アルミナ焼結体及びその製造方法

【課題】従来の透光性アルミナ焼結体は、透光性、強度が低く、特にセラミックス部品の加工工程で加熱処理すると透光性、強度が低下し、熱的耐久性が低いという問題があった。
【解決手段】ZrOが0.01〜0.5wt%、純度99.5%以上、カーボン含有量が5ppm以下、相対密度99.9%以上、1mm厚における全光透過率60%以上、3点曲げ強度が700MPa以上の透光性アルミナ焼結体では、1200℃、5時間の再熱処理後の1mm厚における全光透過率60%以上、3点曲げ強度が700MPa以上が維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度特性と透光性を必要とするセラミックス部品、例えば歯列矯正ブラケット、義歯、ミルブランク、などの歯科材料、更には光コネクター、発光管、高温用窓材に好適な透光性アルミナ焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯列矯正ブラケット、義歯、ミルブランクなど歯科材料を始めとする透光性セラミックス部品では十分な透光性と実使用に耐えうる機械的強度が必要とされている。高強度と透光性を両立する透光性アルミナ焼結体としては、例えば、結晶粒径1.0μm以下の多結晶アルミナで、透光性の指標として隠蔽率(コントラスト比)を用い、その値が0.7未満の透光性アルミナ焼結体が報告されている。(例えば、特許文献1)しかし、機械的強度として366〜817MPaの曲げ強度しかなく、強度が十分とは言えなかった。
【0003】
また99.5wt%以上の高純度で、結晶粒径が1.0〜1.7μmの高透明及び高強度なアルミナ焼結体が開示されている。(例えば特許文献2)しかし、これらの焼結体は、低温で使用する場合には高い透明性であるが、高温で熱処理をすると白濁し、透明性が低下するという問題があった。
【0004】
一方、0.001〜0.5wt%ジルコニウム及び/またはMgOを添加したアルミナ焼結体では、0.1%以下のポロシティーでは高透明で、アニール処理によって透明性が低下しないことが開示されている。(例えば特許文献3)しかし、これらの焼結体で結晶粒径が1μm未満のものでは高温でアニール処理すると粒成長し、透光性、強度が低下し、結晶粒径が1〜2μmでは曲げ強度が低いものしか得られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特表2005−514305号
【特許文献2】特開2006−87915号
【特許文献3】特表2005−532250号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透光性アルミナ焼結体において、高い透光性及び曲げ強度を有し、特に再加熱処理後において透光性、曲げ強度の低下のない、熱処理加工に対する耐久性の透光性アルミナ焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、高い透光性及び曲げ強度を有し、なおかつ再加熱処理においても強度の低下のない透光性アルミナ焼結体は、異種成分として炭素とZrOが一定の範囲である焼結体で、HIP処理によって得られること見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明を以下詳細に説明する。
【0009】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、ZrOが0.01〜0.5wt%、純度99.5%以上、炭素含有量が5ppm以下、相対密度99.9%以上、1mm厚における全光透過率60%以上、3点曲げ強度が700MPa以上の透光性アルミナ焼結体である。
【0010】
3点曲げ強度は800MPa以上、特に850MPa、さらには900MPaであることが好ましい。
【0011】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、ZrOを0.01〜0.5wt%含有するが、アルミナ焼結体中のZrOは粒界部に存在し、このZrOがアルミナ粒界面の移動度を低下させることによって本発明の透光性、強度が発揮されると考えられる。ZrOは焼結過程において結晶粒界に存在する気孔をスムーズ除去しながらアルミナ焼結体を緻密化させ、焼結体中に残留する気孔の少ない透光性の高い焼結体が得られる。
【0012】
従来の透光性アルミナ焼結体は1000℃以上程度の温度で再加熱処理すると残留する気孔の移動凝集により透光性や強度が低下するが、本発明ではZrOを添加することにより、本残留気孔の移動凝集が抑制できる。
【0013】
本発明の透光性アルミナ焼結体中のZrOは0.01%〜0.5wt%の範囲であるが、0.01wt%を下回ると添加効果が見られず、また0.5%以上になるとZrO自身が散乱源となり透過率が低下する。
【0014】
本発明の透光性アルミナ焼結体に含まれるZrOはさらに0.06wt%以上0.25wt%であることが好ましい。0.06wt%未満、0.25%を超える場合では焼結体強度が低下しはじめる傾向が見られるからである。
【0015】
本発明の透光性アルミナ焼結体中に存在するカーボン量は5ppm以下であり、2ppm以下がさらに好ましい。カーボンは、焼結体の色を薄黒色化する作用があるため、審美性を必要とする透光性材料の不純物として特に好ましくない。
【0016】
後からカーボンを除去するためには1000〜1300℃程度の温度で空気中または酸素中などの酸化性雰囲気で再熱(アニール)処理する方法がある。しかし、焼結体中にカーボンが存在すると酸素ガスとの反応によりCOガスが生成し、これがアニール中に移動凝集して気孔となるため強度および透光性が低下する。
【0017】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、高い透光性を発揮するために上記以外の不純物も少ない方が好ましく、少なくとも純度は99.5%以上である。
【0018】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、1mm厚における全光透過率が60%以上、3点曲げ強度が700MPa以上である。全光透過率が60%未満では審美性に欠け、3点曲げ強度が700MPa未満では、各種セラミックス部品としての用途における信頼性に問題がある。
【0019】
全光透過率はさらに65%以上、特に70%以上が好ましく、上限は概ね80%までである。3点曲げ強度は、700MPa以上、さらに800MPa以上、特に850MPa以上、最も好ましくは900MPa以上が好ましい。
【0020】
従来の透光性アルミナ焼結体では、セラミックス部品の加工の過程で熱処理すると、失透や、強度が低下して割れるという問題があったが、本発明の焼結体ではその様な問題がない。
【0021】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、1200℃で5時間再熱処理後において、1mm厚における全光透過率60%以上、3点曲げ強度が700MPa以上、さらに800MPa以上、特に850MPa以上、最も好ましくは900MPa以上の耐久性を有するものであることが好ましい。
【0022】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、その結晶粒径が1.0μm以上1.7μm以下であることが好ましい。結晶粒径が1.0μm未満、1.7μm以上では、本発明の透光性、強度を発揮することが難しい。
【0023】
本発明のアルミナ焼結体中は、さらに気孔率が0.1%以下であり、焼結体切断面において0.05μm以上2μm以下の気孔径が1×10個/mm以下、かつ5μm以上20μm以下の気孔径が100個/mm以下であることが好ましい。
【0024】
次に本発明の透光性アルミナ焼結体の製造法を説明する。
【0025】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、ZrOを0.01〜0.5wt%含有する純度99.5%以上のAlからなる成形体を1200℃を超える温度で一次焼結し、さらに1300℃以上で熱間静水圧プレス(HIP)処理することによって製造できる。
【0026】
一次焼結度が1200℃を下回ると開放気孔が残存するためHIP処理しても緻密な焼結体が得られない。高強度と高透光性を達成する達成するための一次焼結温度は1300℃〜1350℃が好ましい。また、HIP処理温度は1300℃以上が良く、さらに好ましくは1400℃以上が好ましい。
【0027】
本発明ではHIP処理を、HIP処理装置中に半密閉状態の容器を配し、当該容器中に一次焼結体を配してHIP処理することが特に好ましい。
【0028】
半密閉状態としては、開口部を有するセラミックス製容器の開口部にセラミックス製平板を置いた容器内に一次焼結体を配して処理することにより形成でき、その際、セラミックス製容器内にセラミックス粉末を敷き詰めその中に一次焼結体を埋設し、HIP処理することがさらに好ましい。
【0029】
本発明では透光性アルミナ焼結体中の炭素含有量を本発明の範囲に制御するために、HIP装置の内壁材質である炭素成分の飛散による焼結体への汚染を抑制することが好ましい。半密閉状態の容器を配し、当該容器中に一次焼結体を配して処理する方法、特に一次焼結体をいれる容器の開口部にセラミックス製の平板を置いて半密閉容器としたHIP処理では、炭素による一次焼結体の汚染がない。
【0030】
更にアルミナやジルコニアなどのセラミックス粉末を半密閉製の容器内に敷き詰めその中に一次焼結体を埋没させることにより、飛散した炭素からの汚染を防止することができる。
【0031】
埋設に使用するセラミックス粉末としては、アルミナやジルコニアなどが挙げられる。これらのセラミックス粉末は、還元雰囲気下で酸素を放出しやすいため、侵入した炭素成分と反応してCOガスとなるためカーボンによる汚染に対して有効である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、高い透明性および曲げ強度を有し、特に再加熱処理において透明性及び3点曲げ強度の低下がなく、熱処理加工に対して耐久性、信頼性の高い透光性アルミナ焼結体である。本発明の透光性アルミナ焼結体は、特にセラミックス部品の加工において、熱処理加工工程を有するものに特に好適に適用できる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
本発明における、透光性セラミックスの評価は以下の方法で行った。
【0035】
(1)全光線透過率
全光線透過率は、日本分光製の分光光度計(V−650)を用いて測定した。試料はその両面を鏡面研磨加工した厚み1mmの円盤形状ものを用い、試料を通過する可視光を積分球で集光した時の可視光強度(I)と試料を置かずに測定した時の可視光強度(I)の比率(=I/I)より算出した。
【0036】
(2)曲げ強度
曲げ強度の測定は、島津製作所製万能試験機オートグラフDCS−2000を用い、JIS R 1601「ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法」に記載されている方法に基づいて3点曲げ強度を測定した。なお、曲げ強度は、試験片10本の平均値とした。
【0037】
(3)焼結体中の残留炭素分析
試料をアセトン洗浄し、温風乾燥した後、堀場製作所製EMIA−920V型を用い、高周波炉燃焼−赤外線吸収法にて炭素量を分析した。
【0038】
(4)気孔率
得られたジルコニア焼結体の気孔率は、電子天秤(メトラー社製、型式:AT261)を使用して、アルキメデス法によりその密度を測定し(2)式より算出した。なお、理論焼結体密度は3.987g/cmとした。
【0039】
P(%)=100−Dobs/Dtho x 100 ・・・(2)
P:気孔率(%)
obs:焼結体密度(実測値)
tho:焼結体密度(理論値)
(5)気孔径及び気孔個数
1)微細気孔(0.05〜2μm)
0.05〜2μm以下の微細な気孔についてはアルミナ焼結体を100nm程度の薄片状の試料を作成後、透過型電子顕微鏡にて焼結体の微細構造を観察した。観察視野面積に対する気孔の個数比率より、単位面積あたりの気孔数を算出した。
【0040】
2)粗大気孔(5〜20μm)
粗大気孔の大きさとその個数は、オリンパス製BX−60型光学顕微鏡を用いて測定した。観察視野面積に対する気孔の個数比率より、単位面積あたりの気孔数を算出した。
【0041】
実施例1
純度99.99%、比表面積14m/gの高純度アルミナ微粉末にスラリー濃度で50wt%となるようにエタノールを加え、ジルコニアボールを用いて20時間湿式粉砕した。
【0042】
当該スラリー液をロータリエバポレーターを用いてエタノールを除去後、110℃で一晩乾燥し原料粉末を得た。なお、この粉末にはZrO換算で0.06wt%のジルコニウムが含有していた。この粉末を金型プレスとラバープレスを用い、プレートに成形した。それを電気炉に入れ、大気中、1325℃で2時間保持して一次焼結体を得た。
【0043】
次いで、この焼結体をこう鉢内に敷詰めたアルミナ粉末中に埋没させた後、HIP装置に入れ、アルゴンガスを導入し1400℃、150MPaで1時間処理した。
【0044】
実施例2
湿式粉砕時間を40時間とした以外は、実施例1と同様にして原料粉末を調製後、プレートにプレス成形し、大気中、1350℃で2時間保持して一次焼結体を得た。次いで、この焼結体をこう鉢内に敷詰めたアルミナ粉末中に埋没させた後、HIP装置に入れ、アルゴンガスを導入し1400℃、150MPaで1時間処理した。
【0045】
実施例3
実施例1で使用した高純度アルミナ微粉末にBET比表面積15.5m/g、一次結晶粒子径23nmのZrO粉末(東ソー製TZ−3Y)を0.1wt%添加後、スラリー濃度で50wt%となるようにエタノールを加え、ジルコニアボールを用いて20時間湿式粉砕した。このスラリー液をロータリエバポレーターを用いてエタノールを除去後、110℃で一晩乾燥してプレートにプレス成形し、大気中、1350℃で2時間保持して一次焼結体を得た。
【0046】
次いで、この焼結体をこう鉢内に敷詰めたアルミナ粉末中に埋没させた後、HIP装置に入れ、アルゴンガスを導入し1400℃、150MPaで1時間処理した。
【0047】
実施例4〜5
ZrO粉末の添加量が0.2wt%であること事以外は実施例3と同様にして、一次焼結体を得た。次いでこの焼結体をこう鉢内に敷詰めたジルコニア粉末中に埋没させた後、HIP装置に入れ、所定の条件でHIP処理を行った。
【0048】
実施例1〜5において用いた原料粉末組成および焼結条件(一次焼結条件、HIP条件)を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
得られた焼結体について焼結体の炭素含有量、全光線透過率および曲げ強度を測定した。結果を表2に示す。ジルコニア含有量が0.06%〜0.25%で強度と透光性双方の高い焼結体が得られた。
【0051】
【表2】

【0052】
次に実施例1〜5で得られた焼結体を1200℃の温度で5時間アニールし、その特性を評価した。表3には、アニール処理条件、アニール後の全光線透過率、曲げ強度、気孔率、微細気孔量、粗大気孔量、の結果を示す。アニール処理後も高い透過率と十分な強度を示した。
【0053】
【表3】

【0054】
比較例1
実施例1で用いた高純度アルミナ微粉末にジルコニアを添加することなく金型プレスとラバープレスを用いてプレートに成形し、それを電気炉に入れ、大気中、1300℃で2時間保持して一次焼結体を得た後、この焼結体をこう鉢内に敷詰めたアルミナ粉末中に埋没させた後HIP装置に入れ、アルゴンガスを導入し1400℃、150MPaで1時間処理した。(No.6)
次に得られた焼結体を1200℃の温度で5時間アニール処理した。表6には、アニール処理条件、アニール後の全光線透過率、曲げ強度、気孔率、微細気孔量、および粗大気孔量の結果を示す。ジルコニアを含まない焼結体では、当初の透光性、強度は高かったが、アニール処理により強度、透光性が大きく低下した。結果を表4〜6に示す。
【0055】
比較例2
実施例3と同様な方法調製した1次焼結体をこう鉢に入れ、蓋をしない開放状態でアルゴンガスを導入し1400℃、150MPaで1時間処理したところ、炭素含有量の多い焼結体が得られた。(No.7)
比較例1と同様の処理をしたところ、比較例1と同様にアニール処理後に性能が低下し、特に透光性の低下が著しかった。
【0056】
比較例3
ZrOの添加量が0.55wt%であること以外は、実施例3と同様にして、一次焼結体を得た。次いでこの焼結体をこう鉢内に敷詰めたジルコニア粉末中に埋没させた後、HIP装置に入れ、所定の条件でHIP処理を行った。ジルコニア含有量が0.55wt%の場合、アニールにかかわらず透光性、強度共に低かった。(No.8)
【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrOが0.01〜0.5wt%、純度99.5%以上、炭素含有量が5ppm以下、相対密度99.9%以上、1mm厚における全光透過率60%以上、3点曲げ強度が700MPa以上の透光性アルミナ焼結体。
【請求項2】
ZrOが0.06wt%以上0.2重量%未満である請求項1に記載の透光性アルミナ焼結体。
【請求項3】
平均結晶粒径が1.0μm以上1.7μm以下である請求項1〜2に記載の透光性アルミナ焼結体。
【請求項4】
気孔率が0.1%以下であり、焼結体切断面において0.05μm以上2μm以下の気孔径が1×10個/mm以下、かつ5μm以上20μm以下の気孔径が100個/mm以下である請求項1〜3に記載の透光性アルミナ焼結体。
【請求項5】
1200℃、5時間の再熱処理後の1mm厚における全光透過率60%以上、3点曲げ強度が700MPa以上である請求項1〜4に記載の透光性アルミナ焼結体。
【請求項6】
ZrOを0.01〜0.5wt%含有する、純度99.5%以上のAlを1200℃を超える温度で一次焼結し、さらに1300℃以上で熱間静水圧プレス(HIP)処理する方法において、HIP処理装置中に半密閉状態の容器を配し、当該容器中に一次焼結体を配してHIP処理することを特徴とする透光性アルミナ焼結体の製造方法。
【請求項7】
一次焼結温度が1300℃以上1350℃以下、熱間静水圧プレス(HIP)処理温度が1400℃以上である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
半密閉状態が、開口部を有するセラミックス製容器の開口部にセラミックス製平板を置いて形成してなる請求項6〜7に記載の製造方法。
【請求項9】
半密閉状態のセラミックス製容器内の一次焼結体をさらにセラミックス粉末に埋設して処理してなる請求項6〜8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5に記載の透光性アルミナ焼結体を用いてなる歯列矯正ブラケット。

【公開番号】特開2008−195581(P2008−195581A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34067(P2007−34067)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】