説明

透明シート及びその製造方法

【課題】 寸法安定性(低線熱膨張係数)やガスバリア性と、プラチック等の有機化合物の特徴である可とう性とを兼ね備え、且つ、可視光透明率の高い透明シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 有機無機複合体を主原料とし、可視光透過率が80%以上である透明シートであって、前記有機無機複合体が、ポリアミドからなる有機ポリマーと、酸化アルミニウム微粒子とを含み、該酸化アルミニウム微粒子は、平均粒子径が3nm〜100nmで、且つ、平均アスペクト比が3以上の板状微粒子であり、前記有機無機複合体中で、該板状微粒子の長軸方向の平面がシートの平面と略平面方向になるように2次元層構造を形成している透明シート、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光の透過率が高く、可とう性を有しており、シート面方向への寸法安定性及びシート垂直方向へのガスバリア性が高い透明シート及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各種板ガラスは可視光透過率が高く、シート面方向への寸法安定性及びガスバリア性も高いため、各種表示ディバイスの表示面の透明材料用に広く用いられている。しかし、ガラスは耐衝撃性に劣り可とう性も有していないため、各種モバイルでは落下、接触による破損例が多発していることや、ディバイスの製造工程で搬送等に非常な労力を要していることに加え、今後発展が予測されるフレキシブルディスプレイへの応用が不可能であるという問題点がある。一方、各種ポリマーからなる透明シートは、透明性もある程度高い上、耐衝撃性、可とう性を持つものが多いが、寸法安定性やガスバリア性はガラスに比べ大きく劣ため、ディスプレイ等への応用は出来てない。ガラスとポリマーの利点を兼備する透明シートがあれば、各種表示ディバイス用の部材等に広範囲の用途が期待できるため、広く研究開発が行われているが、未だにガラス代替の決定版となりうる透明シートは実用化されていない。
【0003】
上記の各種物性を満たすために、様々な技術が検討されている。特に、有機材料と無機材料を複合化することで、有機材料の持つ可とう性や柔軟性と、無機材料の持つ寸法安定性やガスバリア性を兼備させる試みが行われている。例えば特許文献1では、透明樹脂(ポリエチレンナフタレート)等のフィルム上に、有機層としてエポキシ樹脂を塗工法により設置したのち、酸化ケイ素層をプラズマCVD法により設置し、最外層に再度エポキシ樹脂層を設置したシートが開示されている。本シートでは透明樹脂上に直接無機層を設置したシートとは異なり、無機層と有機層との層間が剥離しにくい上、高いガスバリア性と低い線熱膨張係数を持つ。しかし、透明フィルム上に製造効率が低いプラズマCVD法を含む3層もの積層が必要な上、フィルムの片面にのみ無機層を設置しているため、フィルム上面と下面とでも線熱膨張係数が異なり、ディスプレイ用基板等の精密な用途には特性が不十分となる恐れがある。
【0004】
また、特許文献2では、平均粒径が20〜100nmでアスペクト比が2〜20の無機充を透明樹脂に混合することで樹脂の屈折率を無機繊維(ガラスクロス)の屈折率に近づけるように調整し、該樹脂を無機繊維(ガラスクロス)に含浸することにより作製した透明シートについて開示されている。本技術では、シートに柔軟性があることに加えガラスクロスによる補強により低い線熱膨張係数を達成した上、透明樹脂とガラスクロスとの屈折率差が小さいために透明性も高い。しかし、補強材がマクロの大きさであるガラスクロスであるため高いガスバリア性は持ち得ない。そのため、ディスプレイ類への応用がかなり限定されると予測される。また、該文献では透明シートの製造を枚葉式で行っているがこれを連続式で実施するには困難が予測されるため、高価格化が免れない。
【0005】
また、特許文献3では粘土/カプロラクタム分散液を沈降させて、得られた自立膜を熱処理して粘土/ポリアミド複合体を形成する技術が開示されている。本技術では無機分率を90%近くにまで高めることができる上、粘土が自然に配向することでガスバリア性に極めて優れる。また、配向した粘土間をポリアミドが補強するため柔軟性にも優れるとされる。しかし、本発明で得られた材料では透明性を高くすることが困難であると思われ、実際に光透過性に関する言及はない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−212229号広報
【特許文献2】特開2005−239802号広報
【特許文献3】特開2005−200290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ガラス等の無機化合物の特徴である、寸法安定性(低線熱膨張係数)やガスバリア性と、プラチック等の有機化合物の特徴である可とう性とを兼ね備え、且つ、可視光透明率の高い透明シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリアミドからなる有機ポリマーと、特定の形状を有する酸化アルミニウム微粒子とを含む有機無機複合体を有するシートが、可視光透過率が高く、寸法安定性(低線熱膨張係数)やガスバリア性、及び可とう性とを兼ね備えることを見いだした。
【0009】
すなわち本発明は、有機無機複合体を主原料とし、可視光透過率が80%以上である透明シートであって、前記有機無機複合体が、ポリアミドからなる有機ポリマーと、酸化アルミニウム微粒子とを含み、該酸化アルミニウム微粒子は、該微粒子の長軸長さ(板状微粒子の場合、板面方向に相当)と短軸長さ(板状微粒子の場合、板厚み方向に相当)の和を2で除した値の、100個の粒子の平均値である平均粒子径が3nm〜100nmで、且つ、該微粒子の前記長軸を前記短軸で除した値の、100個の粒子の平均値である平均アスペクト比が3以上の板状微粒子であり、前記有機無機複合体中で、該板状微粒子の長軸方向の平面がシートの平面と略平面方向になるように2次元層構造を形成している透明シートを提供する。
【0010】
また、本発明は、前記記載の透明シートの製造方法であって、
ジカルボン酸ハロゲン化物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、アルミン酸アルカリとジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し、反応させることにより、ポリアミドからなる有機ポリマーと、酸化アルミニウム微粒子とからなる有機無機複合体を製造する工程(1)と、
前記有機無機複合体を分散した分散液を作成する工程(2)と、
前記有機無機複合体分散液をろ過しシート化した後、該シートを加熱プレスする工程(3)と、
で構成される透明シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、寸法安定性(低線熱膨張係数)やガスバリア性と、可とう性とを兼ね備え、且つ、可視光線領域での透過性が80%以上の透明性を有する透明シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の透明シートは、有機無機複合体を主原料とする。ここで主原料とは、本発明の透明シートの構成成分の主要部分を有機無機複合体が占めることを意味する。勿論、本発明の範囲を損なわない範囲で、可塑剤等の、透明シートに汎用に使用される各種添加剤や、透明な有機ポリマー等を添加しても構わない。具体的には、本発明の透明シートの全質量に対して50%以上占めていることが好ましく、さらに好ましくは70%以上を有機無機複合体が占めていることである。
【0013】
(可視光透過率)
本発明の透明シートは可視光透過率が80%以上である。これ以下では透明性が不十分となり本発明が目的とする十分な性能の透明シートとはいえない。可視光透過率は高ければ高いほどよく、このましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。
ここで可視光透過率とは、例えば、JIS K 7361−1に従い、分光光度計を用いて可視光領域(波長400nm〜760nm)の平均の光透過率で表したものである。本発明においては、分光光度計として、U3000(日立製作所製)を用いて可視光領域(波長400nm〜760nm)の平均の光透過率を測定した。
【0014】
(有機無機複合体)
本発明の透明シートの主原料である有機無機複合体は、ポリアミドからなる有機ポリマーと、酸化アルミニウム微粒子とを含む。
【0015】
(ポリアミド)
本発明で使用するポリアミドは、公知の方法で合成することができ、例えば、後述の、ジアミンとジカルボン酸ハロゲン化物とを界面重合させることで得られる。本発明においては、得られる透明シートの可視光透過率が80%以上であることから、使用するポリアミドも透明度の高いものであることが好ましく、非晶性のポリアミドが透明度が高く好ましい。透明度の高いポリアミドを得るためには、例えば、結晶化を阻害する構造をポリアミド中に導入することが好ましく、ポリアミドの主鎖に側鎖を導入することや、ポリアミド主鎖に脂環構造を取り入れることで、透明度の高いポリアミドを得ることができる。側鎖としては、脂肪族のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。また脂環構造としては、シクロアルカン類が好ましく、具体的にはシクロヘキサン環、シクロペンタン環、シクロオクタン環、シクロドデカン環等が挙げられる。これらの環は、1つでもよいし、複数が縮合していても、複数が直接結合していてもよい。このような基は、全モノマー(全モノマーとは、後述の界面重縮合を例とすると、ジアミン+ジカルボン酸ハロゲン化物のモル数の和である)に対して15モル%以上導入することで、結晶性を阻害しポリアミド成分を透明化することができる。一方、芳香族構造が含まれていると、可視光の短波長側に吸収が生じる場合があり、シートが着色する場合がある。従って、芳香族構造は有さないポリアミドであることが好ましい。
本発明で用いられるポリアミドの分子量は、数平均分子量1万以上であることが好ましく、最も好ましくは3万以上である。分子量が小さすぎると、可とう性が低下する場合がある。
【0016】
(酸化アルミニウム微粒子)
(酸化アルミニウムの粒径)
酸化アルミニウムの粒径は平均粒子径3nm〜100nmの範囲にある必要がある。酸化アルミニウムが100nmを越える粒径であると、光散乱が生じ、シートが白色化される恐れがあり、目的とする透明性が得られなくなる場合がある。また、酸化アルミニウムの粒径が3nm未満の粒径で複合化することは実質的に困難であり、無機成分による各種補強効果が不十分となる恐れがある。粒径のさらに好ましい範囲は5〜50nmであり、最も好ましい範囲は7〜25nmである。
なお、本発明においては、平均粒子径は、該微粒子の長軸長さ(板状微粒子の場合、板面方向に相当)と短軸長さ(板状微粒子の場合、板厚み方向に相当)の和を2で除した値((長軸+短軸)/2)を粒子毎に算出し、100個の粒子の平均値とした。
【0017】
(酸化アルミニウムの形状)
一般に、物質の粒子は体積あたりの表面積が最小になるように球状で形成されることが多い。微粒子形がナノメートルオーダーになってもこの現象は同様で、一般に物質の微粒子は球状に近い形をとる。しかし、本発明で用いられる酸化アルミニウムの形状は平均アスペクト比が3以上の板状微粒子である。この形状であることで、ガスバリア性及び寸法安定性に優れる透明シートが得られる。
ガスバリア性の発現機構は以下の通りである。一般に気体分子は高分子鎖内を透過できるが、酸化アルミニウム等の無機物質層は透過できないとされている。従って、無機物質層を持つシートを気体分子が通過する場合、気体分子はシート内の無機物質層を迂回してシートを透過しようとする。無機物質が板状であれば、シート全体でのガス透過速度が遅くなり、即ち高いガスバリア性が発現する。ガスバリア性は、従ってアスペクト比の高い無機物質であるほど顕著な効果が得られる。
また、寸法安定性の評価基準である線熱膨張係数は、無機物質が有機物よりも遥かに高い値を示す。従って、無機微粒子が板状であれば、該板状物の板両端間での線熱膨張係数が低くなり無機微粒子重量あたりの線熱膨張係数を、球状の微粒子が複合化されている場合に比べて板の面方向に関しては低くすることができる。
なお、本発明において、平均アスペクト比は、無機化合物粒子の長軸と短軸の長さをそれぞれ測定し、長軸を短軸で除した値(長軸/短軸)を粒子毎に算出し、100個の粒子の平均値とした。したがって、本値が1付近のときはほぼ球状であることを意味し、例えば10であるときは厚みに対して、面の任意の方向の大きさが10倍である板状物であることを意味する。
【0018】
(ポリアミドと酸化アルミニウム微粒子との複合化形態)
本発明においては、前記ポリアミドと、酸化アルミニウム微粒子とが、有機無機複合体中で板状の長軸方向でシートの平面方向に略平行に2次元層構造を形成していることを特徴とする。具体的には、透明シートの厚み方向へ、ポリアミド成分が高密度で存在する有機ポリマー層と、酸化アルミニウム微粒子が高密度で存在する酸化アルミニウム層とが何層も重なった2次元層状構造を有する。該透明シートの厚み方向をマクロ構造として電子顕微鏡等で観察すると、酸化アルミニウム微粒子の層とポリアミドの層とが、シートの厚み方向に交互に多数に渡り積層された構造を有する。このような構造をとることで、酸化アルミニウム層によりシート平面方向への寸法安定性(低線熱膨張係数)やガスバリア性等の無機的な特性が、ポリアミド層により、可とう性や耐衝撃性、柔軟性等の有機的な特性が高いレベルで付与される。また、2次元層状構造を有することで、酸化アルミニウム微粒子の含有率が小さくても、無機特性が発現しやすい利点もある。
【0019】
(有機無機複合体中の酸化アルミニウム含有率)
本発明では、酸化アルミニウム層が2次元層構造を形成していることが必要なため、酸化アルミニウム含有率が低くなりすぎると酸化アルミニウム層ができにくくなることにより、寸法安定性(低線熱膨張係数)やガスバリア性等の無機的な特性が不十分となる恐れがある。そのため、酸化アルミニウム含有率は複合体全質量に対して好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上である。酸化アルミニウム含有率の上限には特に制限はないが、有機無機複合体の酸化アルミニウムの原料であるアルミン酸アルカリのAl/XO(Xはアルカリ金属)の数値に上限があるため複合化できる酸化アルミニウムの含有率に上限があることや、有機成分の量が少なくなると有機材料により付与されている可とう性、柔軟性等の特徴が失われるので50質量%以下が好ましい。最も好ましい範囲は10質量%〜40質量%の範囲内である。
【0020】
酸化アルミニウム層の平均層厚さと、酸化アルミニウム層間の平均層間隔は、酸化アルミニウムの含有率を制御することで調節することができる。これらの構造を制御することで、用途による複合体の設計を行うことができる。例えば、寸法安定性、表面硬度、耐摩耗性やガスバリア性を高くしたい場合は、酸化アルミニウム含有率を高くすることが好ましく、前記の特性と柔軟性や加工性のバランスを取りたい場合は酸化アルミニウム含有率を一定以下に抑えることが好ましい。具体的には、有機ポリマー層中の酸化アルミニウム層の平均層厚さは500nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは300nm以下である。また、酸化アルミニウムの平均層間隔は300nm以下が好ましく、さらに好ましくは200nm以下である。これらの層厚さや、層間隔が余りに広いとシートの厚み方向で各種特性、特に線熱膨張係数のブレが生じる恐れがある。
【0021】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアミド以外の有機ポリマーや、酸化アルミニウム微粒子以外の無機化合物を含んでいても構わない。また、シート化に必要な、可塑剤等の各種添加剤を含んでいても構わない。
【0022】
(シート平面方向の線熱膨張係数)
本発明の透明シートは、シート面方向への25℃〜120℃の範囲での線熱膨張係数が、2.5×10−5/℃以下(25ppm以下)であると、表示素子用の基板としても用いることができる。この数値以下であれば、該透明基板上に設置されたITO等の透明電極や、各種金属配線が、例えば表示素子等の製造工程中の基板の温度上昇に伴い断線するおそれが少ない。該値は低いほどよく、好ましくは2.0×10−5/℃以下、最も好ましくは1.0×10−5/℃以下である。
【0023】
(ガスバリア性)
本発明の透明シートは一定以上のガスバリア性を持っていることが好ましい。特に該透明シートの用途が表示素子用の基板の場合、水や酸素や二酸化炭素が透過すると、素子の劣化につながる場合がある。ガスバリア性の数値は対象ガス、シート厚さ、共存ガス雰囲気、温度等により大きく変動するので一概には言えないが、いずれの数値も低いことが好ましい。一般に無機材料は有機材料に比べガスバリア性はきわめて高い。本発明では酸化アルミニウムがガスバリア性を発現するためにはほぼ理想的にシート内で配列しているため、対象ガスを問わずにきわめて高いガスバリア性が得られる。
【0024】
(シート厚み、シート面積)
本発明の透明シートの厚みは使用対象による要求により決定されるので特に限定されないが、好ましい範囲は50〜500μmの範囲である。50μm以下の厚みでは製造工程に起因する問題により均一な厚さのシートの作製が困難な場合がある。また、500μm以上の厚みでは可視光透過率が80%を下回わる場合や、可とう性、柔軟性が低下する恐れがある。また、シート面積も使用対象による要求により決定され特に限定されない。本発明の透明シートは後述の製造方法により大面積化が可能である。更に、大面積シートでも可とう性、柔軟性、耐衝撃性がある上、低比重であるためガラスに比べてハンドリング性に優れる。
【0025】
(透明シートの製造方法)
以下に本発明の表示シートの製造方法を説明する。本表示シートの製造方法は、
ジカルボン酸ハロゲン化物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、アルミン酸アルカリとジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し、反応させることにより、ポリアミドと、酸化アルミニウム微粒子とからなる有機無機複合体を製造する工程(1)と、
前記有機無機複合体を分散した分散液を作成する工程(2)と、
前記有機無機複合体分散液をろ過しシート化した後、該シートを加熱プレスする工程(3)と、
から構成される。
【0026】
(透明シートに用いられる有機無機複合体の合成方法:工程(1))
本発明の透明シートに用いられる、有機無機複合体は、ジカルボン酸ハロゲン化物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、アルミン酸アルカリと、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し反応させることにより得ることができる。
【0027】
(水溶液(B)の成分)
本発明の透明シート用の有機無機複合体の合成に用いられる水溶液(B)は水と、ジアミンと、無機原料であるアルミン酸アルカリとから構成される。
【0028】
(アルミン酸アルカリ)
本発明での水溶液(B)に使用するアルミン酸アルカリは、XAlO(メタアルミン酸アルカリ)やXAlO(オルトアルミン酸アルカリ)およびこれらの共溶物であり、Xがアルカリ金属であるものが挙げられる。これらの例として、アルミン酸ナトリウム(アルミン酸ソーダ)、アルミン酸カリウム、アルミン酸リチウム等が例示できる。特にアルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムは水溶性が高いため好ましく用いられる。また、これらは水に溶解させて用いるため、液体であっても水和物であっても好適に用いることができる。中でもアルミン酸ナトリウムは土壌改良剤、セメント添加剤等として大量に用いられている極めて安価な材料であり、このような材料を原料として用いることができることも本発明の特徴のひとつである。
【0029】
(アルミン酸アルカリの有機無機複合体の合成に与える作用)
アルミン酸アルカリに含まれるアルカリ金属は、ジアミンとジカルボン酸ハロゲン化物との重合によりポリアミドが生成する際に発生する酸の除去剤として作用することで、ポリアミドの重合反応をさらに促進する。アルカリ金属が除去されたアルミン酸アルカリはアルミノール基を経由し、脱水縮合しつつ相互に結合しナノサイズの酸化アルミニウム微粒子を形成する。このとき、モノマーからポリアミドへの重合とアルミン酸アルカリから酸化アルミニウムへの化学反応が並行、且つ相補的に進行するため、片方の生成物が優先的に析出することを抑制し、ナノ微分散構造が形成される。その際、アルミニウムイオンが3価であることに起因し、析出反応が二次元方向に優先的に進行し、二次元構造すなわち本発明に於いて有効に作用する、断面でのアスペクト比が3以上の板状酸化アルミニウムが生成すると推定される。加えて本発明では、無機微粒子の含有率を5質量%以上と高くできるため、板状のナノ微粒子が集合した酸化アルミニウム層が生成する。また、この酸化アルミニウムの層形成に伴ってポリアミドの合成も促進されるため、酸化アルミニウム層の上下にポリアミド層が形成されやすくなる。そのため本発明の複合体は、ポリアミドからなる有機ポリマー層と、酸化アルミニウムを含有した無機化合物層とが何層も重なった2次元層状構造を有すると考えられる。
【0030】
(複合化する無機化合物含有率の制御)
本発明の透明シートでは、透明シート中の酸化アルミニウム含有率を容易に制御することができる。アルミン酸アルカリの上記化学式のAl/XOの数値が大きいもの、すなわちX(アルカリ金属)に対するAlの量が大きいアルミン酸アルカリを用いることで、複合化する酸化アルミニウムの比率を高めることができる。また反対に、複合化する酸化アルミニウムの比率を低くしたい場合には、Al/XOの数値が小さいものを用いるほかに、水溶液(B)中に導入するアルミン酸アルカリ量を少なくすると同時に重縮合反応時に生じるハロゲン化水素の中和を目的として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの酸受容体を水溶液(B)に添加してもよい。
【0031】
(ジアミン)
発明での水溶液(B)に用いるジアミンは、有機溶液(A)中のジカルボン酸ハロゲン化物と反応しポリアミドを生成するものであり、具体的には、水溶液としてアルミン酸アルカリと同時に溶解させる必要があるため、水溶性であることが好ましく、炭素数は15以下のジアミンであることが好ましい。
また、透明性を付与するためには、非晶化させる目的で、アルキル基等の側鎖、あるいは、主鎖に脂環構造を有するジアミンが好ましい。ただしこのような構造をジカルボン酸ハロゲン化物側に導入した場合にはジアミン側には必ずしも必要ではない。また、得られるポリアミドの着色を防ぐために、主鎖に芳香環を持たないものが好ましい。
【0032】
具体的には、主鎖が脂肪族であり且つ側鎖を持つものとして、2−メチルペンタンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等の主鎖の炭素原子数が6以下であり、主鎖の任意の炭素原子にメチル基やエチル基を持つジアミンが挙げられる。また、主鎖に脂環構造をもつジアミンとしては、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等が好ましく用いられる。これらはシス体でもトランス体でも、またそれらの混合物でも差し支えない。その他、脂環構造を2個以上持つ4,4´−ジアミノジシクロヘキサンメタン等のジアミンを水の溶解度に応じて少量用いることもできる。これらのジアミンは単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して用いることができる。とくにポリマーの合成反応を促進しつつ結晶化を阻害すためには、合成の反応性が高い直鎖脂肪族ジアミンと、それ以外の側鎖や脂環構造を持つジアミンとを一定割合で混合して用いることが好ましい。直鎖脂肪族ジアミンとしては、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタンなどを例示することができる。
【0033】
(有機溶液(A)の成分)
本発明で有機無機複合体の合成に用いられる有機溶液(A)は、ジカルボン酸ハロゲン化物とこれを溶解させる有機溶媒より構成される。
【0034】
有機溶液(A)に用いる有機溶媒として水に対して非相溶の有機溶剤を用いた場合、重縮合反応は有機溶液(A)と水溶液(B)の界面で生じる界面重縮合反応となる。この場合は有機無機複合体が膜状に生成し、該複合体中のポリアミド分子量を容易に高くすることができ、得られる透明シートの可とう性を高くすることができるため、特に好ましく用いられる。この場合、有機溶液(A)と水溶液(B)とが接触した段階で強いせん断力を加えることで、得られる有機無機複合体を繊維形状とすることができる。この時得られる繊維の形状は、界面重縮合により得られた膜を経由するため膜の形状を引き継いでおり、繊維断面が円状ではなく扁平となる特徴がある。また、本発明の透明シート中の酸化アルミニウムとポリアミドとの層構造をより効率的に形成するためには、引き続く工程3により繊維形状物を分散した液を抄紙し加圧プレスすることが最も好ましい。そのため、このような工程を容易に行い、均一な外観で表面粗さが小さい透明シートを得るためには、該有機無機複合体は20μm以下の平均繊維径と、10以上の平均アスペクト比の繊維形状を有することが好ましい。
【0035】
有機溶液(A)に好適に用いることができる水と非相溶の有機溶媒としてはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類を挙げることができる。
【0036】
(ジカルボン酸ハロゲン化物)
本発明での有機溶液(A)に用いるジカルボン酸ハロゲン化物は、水溶液(B)中のジアミンと反応しポリアミドを生成するものである。溶媒には有機溶媒を使用するので、溶媒溶解性の観点からは制限は無いが、以下の理由で炭素数が15以下であることが好ましい。即ち、炭素数が15を超えると、アミド結合部位が少なくなることでポリマーとしての極性が小さくなり、極性物質である酸化アルミニウムを複合化しにくくなる。さらに本発明で用いられる有機無機複合体の合成方法では、アミド結合が形成される際に、発生する酸により、アルミン酸ナトリウム中の酸化アルミニウムが析出するため、ポリアミド部位が少なくなると、酸化アルミニウムを複合化できる量が少なくなるためである。
また、透明性を付与するためには、非晶化させる目的で、アルキル基等の側鎖、あるいは、主鎖に脂環構造を有するジカルボン酸ハロゲン化物が好ましい。ただしこのような構造をジアミン側に導入した場合にはジカルボン酸ハロゲン化物側には必ずしも必要ではない。また、得られるポリアミドの着色を防ぐために、主鎖に芳香環を持たないものが好ましい。
【0037】
具体的には、主鎖が脂肪族であり且つ側鎖を持つものとして、主鎖が脂肪族である酸ハロゲン化物としては、炭素原子数が12以下の主鎖の任意の炭素原子に、メチル基やエチル基等のアルキル基を有する酸ハロゲン化物が挙げられる。また、主鎖に脂環構造をもつ酸ハロゲン化物としては、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸の酸ハロゲン化物が挙げられる。その他、脂環構造を2個以上持つ酸ハロゲン化物も用いることもできる。
以上述べた酸ハロゲン化物はジアミンの場合と同様に、単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して用いることができる。
とくにポリマーの合成反応を促進しつつ、結晶化を阻害するためには、合成の反応性が高い脂肪族の酸ハロゲン化物と、それ以外の側鎖やシクロヘキサン環構造を持つ酸ハロゲン化物とを混合して用いることが好ましい。脂肪族酸ハロゲン化物としてはコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの酸ハロゲン化物を例示することができる。
【0038】
(有機無機複合体の製造装置)
本発明で用いる有機無機複合体の製造装置は、前記有機溶液(A)と前記水溶液(B)とを良好に接触反応させることができ且つ、一定以上のせん断力を反応生成物に与えることで、生成物を繊維化(パルプ化)させることができるものであれば、連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフローミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbau Gmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。バッチ式の場合は有機溶液と水溶液の接触後に生成した反応生成物を破砕し反応を進行させるために高い剪断力を持つミキサーを用いることが好ましく、例としてはオスタライザー(OSTERIZER)社製ブレンダーなどが挙げられる。
【0039】
前記有機溶液(A)と前記水溶液(B)とを重縮合反応させる温度は、例えば−10〜50℃の常温付近の温度範囲で十分に反応が進行する。加圧、減圧も一切必要としない。また、重合反応は用いるモノマーや反応装置にもよるが通常10分以内の短時間で完結する。
【0040】
(工程2:有機無機複合体の分散液作製工程)
有機無機複合体(パルプ)を含有する分散液は、該複合体を分散溶媒中で攪拌をおこなうのみで簡単に作成することができる。分散液用の分散溶媒は、有機無機複合体が高極性であるため、極性溶媒であれば特に制限無く用いることができる。例としては、水、エタノール、メタノール等の各種アルコール類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類の他、酢酸エチル、酢酸ブチル等を例示することができる。また、これらの混合物を用いることもできる。中でも、水を分散溶媒に用いると、コストが低く高い安全性が得られ最も好ましい。
更に、本工程中に、抄紙を良好におこなわせるための抄紙用の薬剤である紙力増強剤、界面活性剤等を本透明シートの特性を阻害しない範囲で混合しても良い。
【0041】
(分散液作製に用いる装置)
本発明で使用する有機無機複合体は、分散溶媒を適当に選定すれば、公知慣用の方法で容易に分散処理を行うことができる。分散処理はバッチ式でも連続式でも良く、工程1で繊維化が不十分である場合には離解処理を兼ねても良い。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフローミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbau Gmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。バッチ式の場合は一定以上の力で攪拌が行われればよいためプロペラ状翼、マックスブレンド翼やファウドラー翼等を持つような汎用の攪拌装置を用いても良い。
【0042】
(工程3:分散液からの透明シートの作製工程)
前記の工程2で有機無機複合体パルプを分散した液を作成したのち、該分散液を網上でろ過(抄紙)し、得られた抄紙物を加熱プレスすることにより本発明の透明シートとすることができる。
【0043】
(シート化工程)
シート化工程は複合体パルプを効率よくシート化(抄紙)することが出来る装置であれば特に限定されずに、連続式抄紙装置、枚葉式抄紙装置ともに使用することができる。製造効率を重視した場合には連続式抄紙装置が好ましく用いられるが、枚葉式では抄紙厚みの制御等が容易で、品質の高いシートが作製できる。抄紙の際には抄紙網径を適当に調節することで、有機無機複合体中の余剰な粉体成分を分級除去しても良い。好ましい抄紙網の目開きは工程1で得られた有機無機複合体パルプの繊維長さにより異なるが、10μm〜250μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは30〜150μmの範囲である。目開きが10μm未満では、シート化に不要である粉体成分が混入する問題や、抄紙のための濾過速度が遅くなり製造速度が低下する問題が生じる恐れがあり、目開きが250μmを越える大きさでは、良好な透明シートを構成しうる複合体の微小パルプ成分が濾過液中に流出することにより、シートの歩留まりが低下する問題が生じる。
【0044】
(酸化アルミニウムが透明シート面方向に略平行に層構造を形成する機構)
本発明では、透明シートの平面方向へ略平行に酸化アルミニウムの集合体が2次元層構造を形成しているため、透明シートとしての高い特性を有している。このような制御された構造は本シート化工程に伴う以下の機構により生じると推定される。複合体パルプは前述の通り界面重縮合により、膜構造を経由してパルプ化されるため扁平な断面構造をしている。また、前述の有機無機複合体の合成機構により、界面重縮合の面方向に酸化アルミニウムの板状物が配列しやすくなっている。そのため、該パルプを濾過により抄紙した場合、パルプの扁平面が自動的に濾過面に接する形状で多層にわたり堆積し、これが後述の加熱プレス工程により圧縮されて、酸化アルミニウム板が透明シートの面方向に配列することで複合化効果が高い、透明シート面方向に略平行に層を形成した構造となりうる。
【0045】
(加熱プレス工程)
加熱工程は抄紙工程にて得られたシートを加熱プレスすることにより、抄紙シート中の残存液を除き、且つ平滑なシートとすることができる装置であれは特に限定されずに、連続式加熱プレス装置、枚葉式加熱プレス装置のいずれかを用いることができる。製造効率を重視した場合には連続式加熱プレス装置が好ましく用いられる。一方、枚葉式では透明シート厚みの制御等が容易で、品質の高いシートが作製できる。
連続式加熱プレス装置としては、圧力をかけつつ加熱を行うことができる装置である、加熱ローラーを例示することができる。加熱ローラーは連続式抄紙装置での抄紙に引き続き、加熱プレス工程を行うと、効率の良い製造が可能となる。加熱ローラーは複数段に渡って行うことで、所望の厚みにまで加工しても良い。また、枚葉式加熱プレス装置としては公知慣用の加熱プレス装置を例示することができる。
また、加熱プレス温度は用いる有機無機複合体の熱特性により異なるが、120℃〜300℃の範囲で行うことが多い。120℃以下であると加熱温度が不十分で複合体不織布を圧着することができずに透明シートの平滑性が不十分となる場合がある。300℃以上の場合ではポリアミド成分が劣化する恐れがある。加熱プレス工程において、プレス面を減圧処理することにより、より平滑で透明性の高い透明シートとすることもできる。
【0046】
このような制御された2次元層構造は、単に無機粉末と有機ポリマーとを溶融混練等の手法により複合化した材料をシート化しても生じない。
【実施例】
【0047】
以下に実施例、比較例及び参考例を示す。
【0048】
(実施例1:透明シートの作成1)
イオン交換水81.1gに1,6-ジアミノヘキサン0.91g、2−メチル-1,5−ペンタンジアミン0.925g、浅田化学(株)製アルミン酸ナトリウム粉末P−100(Al,54質量%、NaO,36質量%)2.93gを入れ、室温で15分間攪拌し、均質淡黄色透明な水溶液(B)を得た。室温下でこの水溶液をオスタライザー社製ブレンダー瓶中に仕込み、毎分10000回転で攪拌しながら、アジポイルクロライド2.86gをトルエン56.2gに溶解させた有機溶液(A)を20秒かけて滴下した。生成したゲル状物をスパチュラで砕き、さらに毎分10000回転で40秒間攪拌した。この操作で得られたパルプ状の生成物が分散した液を、直径90mmのヌッチェを用い目開き40μmのナイロン濾布上で減圧濾過した。ヌッチェ上の生成物をメタノール150gに分散させ、スターラーで30分間攪拌し減圧濾過することで洗浄処理を行った。引き続き同様な洗浄操作を蒸留水150gを用いて行い、白色パルプ状物から成る有機無機複合体ウエットケーキを得た。(工程1)
【0049】
得られた有機無機複合体ウエットケーキ2.0gを蒸留水100g中にいれ、スタ−ラーで10分間攪拌することにより分散液を得た。この分散処理は極めて容易で複合体パルプが均一に分散した液が得られた(工程2)。
【0050】
この分散液を直径55mmのヌッチェを用い目開き40μmの濾布上で減圧濾過しシート形状とした。得られたシート状物を濾布上から剥離し、130℃、5MPa/cm、の条件で2分間熱プレスを行うことでシート状物を脱水し不織布を作成した。得られた不織布は白色であった。この不織布を4枚重ね、170℃、20MPa/cmの条件で30分間熱プレスを行うことで、シート状物を得た(工程3)。得られたシートの厚みは145μmであり、外観は透明であった。以下いずれのシートも約55mmφの大きさで得られた。
【0051】
(実施例2:透明シートの作成2)
実施例1の水溶液(B)を、イオン交換水81.1部に1,6-ジアミノヘキサン0.91部、1,4-シクロヘキサンジアミン0.89部、浅田化学(株)製アルミン酸ナトリウム粉末P−100を2.93部を入れ、室温で15分間攪拌することで得た均質淡黄色透明液を用いた以外は実施例1と同様な方法で厚みが150μmの透明シートを得た。
【0052】
(実施例3:透明シートの作成3)
実施例1の水溶液(B)を、イオン交換水81.1部に1,6-ジアミノヘキサン0.91部、1,4-シクロヘキサンジアミン0.89部、浅田化学(株)製液状アルミン酸ナトリウム#1819(Al,18質量%、NaO,19質量%)を5.55部を入れ、室温で15分間攪拌することで得た均質淡黄色透明液を用いた以外は実施例1と同様な方法で厚みが148μmの透明シートを得た。
【0053】
(比較例1:酸化アルミニウムを有していない透明シートの作成)
実施例2の水溶液(B)中のアルミン酸ナトリウム粉末の代わりに、水酸化ナトリウム1.32gを入れ、室温で15分間攪拌することで得た均質透明液を用いた以外は、実施例1と同様な方法によりパルプ状ポリアミドを合成した。これを、実施例1での工程3での170℃でのプレスを130℃に変更した以外は実施例1と同様な方法により厚みが132μmの透明シートを得た。
【0054】
(比較例2:酸化ケイ素/ポリアミド複合体から構成されるシートの作成)
実施例1の水溶液(B)を、イオン交換水81.1gに1,6-ジアミノヘキサン0.91g、1,4-シクロヘキサンジアミン0.89g、珪酸ナトリウム1号を5.86gを入れ、室温で15分間攪拌することで得た均質透明液を用いた以外は実施例1と同様な方法で厚みが165μmの白色シートを得た。
【0055】
(比較例3:溶融混練法により作成した酸化アルミニウム/ポリアミド複合体シート)
ポリマーとして透明ポリアミド(5033B:宇部興産株式会社製)65.0gと平均粒径31nmの球状酸化アルミニウム粉末(ナノテックパウダー:シーアイ化成株式製)35.0gとを、ツバコー製小型2軸押し出し機MP2015中で270℃で30分間溶融混練することで、ペレット状の有機無機複合体を得た。混練操作に先立つ原料仕込み操作は、酸化アルミニウムの粒径が極めて小さいことによる粉体の飛散が生じやすく一部酸化アルミニウムの損失があった。本複合体をミキサー型破砕機を用いて1mm以下に破砕した後、270℃、120MPa/cmの条件で3時間熱プレスを行うことで、厚みが162μmの複合体シートを得た。複合体シートは乳白色半透明であった。
【0056】
(参考例1:脂肪族直鎖のポリアミドのみからなる、酸化アルミニウム/ポリアミド複合体から構成されるシートの作成)
実施例1の水溶液(B)を、イオン交換水81.1部に1,6-ジアミノヘキサン1.82部、浅田化学(株)製アルミン酸ナトリウム粉末P−100を2.93部を入れ、室温で15分間攪拌することで得た均質淡黄色透明液を用いた以外は実施例1と同様な方法で厚みが155μmの淡黄色の半透明シートを得た。
【0057】
上記実施例1〜3、比較例1〜3及び参考例1で得られた各種シートについて、下記の項目の測定、あるいは試験を行い、得られた結果を表1及び表2に示した。
【0058】
(1)無機化合物含有率(灰分)の測定法
各種シートに含まれる無機化合物の含有率の測定法は下記の通りである。
有機シートを絶乾後に精秤(複合体質量)し、これを空気中、600℃で3時間焼成し有機ポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量(=無機化合物質量)とした。下式により無機化合物含有率を算出した。
無機化合物全含有率(質量%)=(灰分質量/複合体質量)×100
無機成分を含有していない比較例1及び、溶融混練法により作製した比較例3を除いて、焼成後のシートはほぼ原型を保った。
【0059】
(2)無機微粒子の粒子径及びアスペクト比の測定
各実施例及び比較例でえられたシートを、シートの面方向に垂直になるようにマイクロトームを用いて厚さ約75nmの超薄切片とした。得られた切片を日本電子株式社製、透過型電子顕微鏡「JEM−200CX」にて10万倍〜25万倍の倍率で観察し透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮影した。撮影の際にはシートの面方向と画像との関係とが明確になるように留意した。実施例1〜3及び、参考例1での10万倍の写真では、無機化合物は暗色の像として、明るい有機ポリマー中にシートの平面方向と略平行に2次元層構造を形成しているのが観察された。また、25万倍で無機化合物よりなる暗色部を拡大観察したところ、層構造はナノメートルオーダーの棒状物の集合体より形成されているのが見られた。この時、切片の作製方向の関係より棒状物の短軸は板状酸化アルミニウムの厚み方向に、長軸は板状酸化アルミニウムの面のいずれかの方向に相当する。下記1及び2の項目について25万倍のTEM写真から測定を行った。
【0060】
平均粒子径:無機化合物粒子の長軸(板状微粒子の場合、板面方向に相当)と短軸(板状微粒子の場合、板厚み方向に相当)長さをそれぞれ測定し、(長軸+短軸)/2の数値を粒子毎に算出し、100個の粒子の平均値を本測定値とした。
粒子平均アスペクト比:無機化合物粒子の長軸と短軸の長さをそれぞれ測定し、長軸/短軸の数値を粒子毎に算出し、100個の粒子の平均値を本測定値とした。したがって、本値が1付近のときはほぼ球状であることを意味し、例えば10であるときは厚みに対して、面の任意の方向の大きさが10倍である板状物であることを意味する。
【0061】
図1には、実施例2で得られた酸化アルミニウム/ポリアミド複合体のシートの10万倍の透過型電子顕微鏡写真を示した。図2には実施例2と同一のサンプルの酸化アルミニウム層の25万倍の拡大写真を示した。
【0062】
(3)各種シートの可視光の透過率の測定
各種シートを分光光度計U3000(日立製作所製)を用いてJIS K 7361−1の方法に準じて可視光領域(波長400nm〜760nm)の平均の光透過率を測定した。
【0063】
(4)各種シートの水蒸気透過率の測定
ガスバリア性を代表しうる特性として、水蒸気透過率の測定を下記方法にて行った。各種シートを3cm×3cmに切り出した試料を用い、透湿面積が4cmであること以外はJIS Z 0208(防湿包装材料の透湿度測定方法(カップ法))に準じた方法で、該規格の条件Bに相当する40℃、相対湿度90%の条件下で、水蒸気透過率の測定を行った。各実施例、比較例のシート厚みは同一ではないため実測値を100μmでの厚さでの値に換算して用いた。尚、ガス透過率はシート厚みに反比例する。
【0064】
(5)各種シートの可とう性の測定
各種シートを1cm×5cmの短冊状に切り出し、その短冊状物を完全に伸ばした状態から長辺に沿って丸めその短辺同士を合わせる操作を手動にて行った。この操作を行う過程で、操作1回でシートが破断した場合は可とう性なし(×)、1回の本操作では破断しなかったが10回以下の操作により破断しなかった場合は(△)、50回繰り返しても破断しなかった場合は可とう性有り(○)と判定した。
【0065】
(6)各種シートの線熱膨張係数の測定
実施例、比較例及び参考例で得られたシートをさらに6枚重ねて、180℃、20MPa/cmの条件で30分加熱プレスを行うことにより、厚さ約700μmの平板を得た。この平板を板の垂直方向の面を出すように切り出し、平板の平面方向(つまりシート平面方向)での25℃〜120℃の範囲での平均線熱膨張係数をTMA/SS120C(セイコー電子工業製)を用いて、空気雰囲気下で2℃/分の昇温速度にて測定、算出した。
【0066】
以上の測定によって得られた各種シートの各種物性、及びTEM写真からの測定結果について各実施例については表1にまとめた。また、同様な測定を行った各比較例、参考例については表2にまとめた。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1で示されたとおり、各実施例のシートは、ポリアミドの一部に脂肪族側鎖構造または脂環構造を導入することにより88%以上の高い可視光の透過性を示した。また、ナノメートルオーダー且つ、10以上のアスペクト比を持つ酸化アルミニウム微粒子による補強作用に加え、酸化アルミニウム層とポリアミド層とがシート平面方向に、層構造を形成していることでシート可とう性を維持した状態で、低い水蒸気透過率(0.42g/m・日/100μm以下)と線熱膨張係数(0.86×10−5/℃以下)とを達成した。水蒸気透過率と線熱膨張係数の特性は酸化アルミニウムの含有率が低いと、低くなる傾向にあった。
【0070】
一方、表2に示されたように、酸化アルミニウム微粒子を含有しない比較例1では可視光透過率は高いものの水蒸気透過率、線熱膨張係数がともに高く、表示素子の透明基板等の精密な用途には使えるレベルに無かった。
比較例2のシートでは、無機成分が酸化ケイ素に変更されたことにより、無機微粒子が3次元的に連結したことでシート内で光散乱を生じたと思われる白色を呈し、可視光をほとんど透過しなかった。本シートでは平均粒径8nm酸化ケイ素の微粒子が互いに3次元的に粒子末端で接続しポリアミドマトリクス中に分散しているのが観察された。この場合の粒子平均アスペクト比は1に相当する。即ち、有機成分の層状構造がないため可とう性も有していなかった。
比較例3に示した溶融混練法により製造したポリアミド/酸化アルミニウム複合体より作製したシートは透明ポリアミドと平均粒径31nmの酸化アルミニウム微粒子を用いて作製したにもかかわらす、粒子が均一分散せずに独立して分布した凝集体を形成していた。また、中には500nmを超える粗大粒子も散見された。平均粒子径は160nmであった。従って透明性が不十分であった。加えて、酸化アルミニウムが球状物であり、且つ複合体シート内で粒子が独立で存在しており層状構造を形成していないため、ガスバリア性、線熱膨張係数が本発明の透明シートよりも劣った。
一方、参考例1のシートではポリアミド構造が脂肪族によってのみ構成されたため、有機成分が結晶構造をとった推定され、透明性のみが各実施例に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の透明シートは多くの光学用途に利用可能である。特に、液晶、エレクトロルミネッセンス、プラズマ等の各種ディスプレイや電子ペーパーの他、太陽電池等の透明電極用の部材として好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例2で得られた透明シートの断面の倍率10万倍の透過型電子顕微鏡写真である。尚、図中の矢印はシート厚み方向である。
【図2】図1の透過型電子顕微鏡写真の酸化アルミニウム微粒子の集合部分(写真暗色部)をさらに25万倍まで拡大した透過型電子顕微鏡写真である。尚、図中の矢印はシート厚み方向である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機無機複合体を主原料とし、可視光透過率が80%以上である透明シートであって、前記有機無機複合体が、ポリアミドからなる有機ポリマーと、酸化アルミニウム微粒子とを含み、該酸化アルミニウム微粒子は、該微粒子の長軸長さ(板状微粒子の場合、板面方向に相当)と短軸長さ(板状微粒子の場合、板厚み方向に相当)の和を2で除した値の、100個の粒子の平均値である平均粒子径が3nm〜100nmで、且つ、該微粒子の前記長軸を前記短軸で除した値の、100個の粒子の平均値である平均アスペクト比が3以上の板状微粒子であり、前記有機無機複合体中で、該板状微粒子の長軸方向の平面がシートの平面と略平面方向になるように2次元層構造を形成していることを特徴とする透明シート。
【請求項2】
前記ポリアミドの主鎖が、脂肪族アルキル基からなる側鎖を有するか、また脂環構造を有する、請求項1に記載の透明シート。
【請求項3】
前記有機無機複合体中の酸化アルミニウム含有率が複合体全質量に対して5〜50質量%である請求項1に記載の透明シート。
【請求項4】
シート面方向への25℃〜120℃の範囲での線熱膨張係数が2.5×10−5/℃以下である請求項1に記載の透明シート。
【請求項5】
前記透明シートの厚みが50〜500μmである請求項1に記載の透明シート。
【請求項6】
請求項1に記載の透明シートの製造方法であって、
ジカルボン酸ハロゲン化物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、アルミン酸アルカリとジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)とを混合攪拌し、反応させることにより、ポリアミドからなる有機ポリマーと、酸化アルミニウム微粒子とからなる有機無機複合体を製造する工程(1)と、
前記有機無機複合体を分散した分散液を作成する工程(2)と、
前記有機無機複合体分散液をろ過しシート化した後、該シートを加熱プレスする工程(3)と、
で構成されることを特徴とする透明シートの製造方法。
【請求項7】
前記ジカルボン酸ハロゲン化物、もしくはジアミンの一部が、主鎖に脂肪族アルキル基からなる側鎖を有するか、また脂環構造を有する請求項6に記載の透明シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−326901(P2007−326901A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157174(P2006−157174)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】