説明

透明ポリマーフィルムとその製造方法、位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】面内レタデーションを逆波長分散化した透明ポリマーフィルムを提供する。
【解決手段】固有複屈折の波長分散パラメータΔΔn0calcが負である化合物を含有するセルロースアシレートフィルムを、Tc以上Tm0未満の温度で熱処理する[TcとTm0はそれぞれ熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度と融点を表す。]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内レタデーションを逆波長分散化した透明ポリマーフィルムの製造方法に関する。また本発明は、当該製造方法により製造される透明ポリマーフィルム、位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
レダデーションを制御した光学フィルムの需要が急速に拡大している。例えば、光ディスク用ピックアップやPS変換素子用途などに用いられるλ/4板や、液晶表示装置の画像の視野角依存性を改良する光学補償フィルムなどが挙げられる。これらの光学フィルムでは、特定の波長でのレタデーションを所望の値に設計するだけでなく、広波長域に渡ってレタデ−ションを設計する必要がある。特にλ/4板、VAモード液晶表示装置用光学補償フィルム、IPSモード液晶表示装置用光学補償フィルムでは、長波長ほど面内レタデ−ションが大きい(逆波長分散)フィルムが求められている。また、上記光学補償フィルムを偏光板とロールツーロールで貼りあわせることで生産性を向上するために、上記光学補償フィルムの遅相軸はフィルム幅方向に発現することが求められている。
【0003】
特許文献1、2は、光学異方性を有しており、偏光板に直接貼り合わせることが可能な透明ポリマーフィルムを提供する方法として、セルロースアシレートフィルムを搬送し、200℃以上で熱処理する工程を含むことを特徴とする透明ポリマーフィルムの製造方法を開示している。
【特許文献1】特開2007−086755号公報
【特許文献2】特開2007−084804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記製法には、面内レタデ−ションの波長分散を制御する自由度が少ないという課題があることを見出した。特に、面内レタデ−ションが長波長ほど大きいフィルムを作製することは困難であった。そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、透明ポリマーフィルムの面内レタデーションを逆波長分散化する方法を提供することを本発明の目的として検討を進めた。なお、本発明において「逆波長分散化」とは、ΔReを正の方向に変化させることを言い、具体的には後述するΔRead80が正となることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、課題を解決するために添加剤を用いることを考えたが、透明ポリマーフィルムの製造工程中において多種多様な添加剤がどのように配向してどのような作用を示すかを容易に把握することはできなかった。そこで鋭意検討を重ねた結果、特定の条件を満たす添加剤を含むセルロースアシレートフィルムを特定の温度条件で熱処理することにより従来技術の課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0006】
[1] 下記式(1)で規定される固有複屈折の波長分散パラメータΔΔn0calcが負である化合物を含有するセルロースアシレートフィルムを、下記式(2)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とする透明ポリマーフィルムの製造方法。
式(1): ΔΔn0 calc= Δn0 calc(630nm)−Δn0 calc(450nm)
[上式において、Δn0 calc(630nm)は測定波長630nmにおける固有複屈折を表し、Δn0 calc(450nm)は測定波長450nmにおける固有複屈折を表す。]
式(2): Tc≦T<Tm0
[式中、Tcは熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度(単位;℃)を表し、Tm0は熱処理前のセルロースアシレートフィルムの融点(単位;℃)を表す。]
[2] 前記化合物が下記式(3)を満足することを特徴とする[1]に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
式(3): (A−1)×ΔΔn0calc ≦−0.01
[式中、Aは前記化合物のアスペクト比を表す。]
[3] 前記熱処理する工程において前記セルロースアシレートフィルムを延伸することを特徴とする[1]または[2]に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
[4] 前記延伸が2つ以上のニップロール間に加熱ゾーンを有する装置内において行う縦延伸であることを特徴とする[3]に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
[5] 前記セルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートが下記式(4)を満足することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
式(4): 2.70<SA+SB≦3.00
[式中、SAはセルロースの水酸基に置換されているアセチル基の置換度を表し、SBはセルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度を表す。]
【0007】
[6] [1]〜[5]のいずれかの製造方法により製造される透明ポリマーフィルム。
[7] 下記式(5)および(6)を同時に満足することを特徴とする[6]に記載の透明ポリマーフィルム。
式(5): Re(550nm)>0
式(6): ΔRe>0
[式中、Re(λ)は、測定波長がλであるときの面内レタデーション値(単位;nm)を表す。ΔReは測定波長が630nm及び450nmであるときの面内レタデーション値の差、Re(630nm)−Re(450nm)を表す(単位;nm)。]
[8] 下記式(5a)および(5b)を同時に満足することを特徴とする[6]または[7]に記載の透明ポリマーフィルム。
式(5a): Re(550nm)=20〜300
式(5b): ΔRe=10〜100
【0008】
[9] 少なくとも一枚の[6]〜[8]のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムを有することを特徴とする位相差フィルム。
[10] 少なくとも一枚の[6]〜[8]のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムを有することを特徴とする偏光板。
[11] 前記透明ポリマーフィルムが偏光膜と直接貼合されていることを特徴とする[10]に記載の偏光板。
[12] [6]〜[8]のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム、[9]に記載の位相差フィルム、または[10]または[11]に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、面内レタデーションを逆波長分散化した透明ポリマーフィルムを提供することができる。本発明によれば、そのような性質を有する透明ポリマーフィルム、それを用いた位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置も提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において、本発明の透明ポリマーフィルムとその製造方法等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
《透明ポリマーフィルムの製造方法》
[セルロースアシレート]
まず、本発明の透明ポリマーフィルムの製造方法に使用することができるセルロースアシレートについて説明する。
本発明の製造方法で熱処理するセルロースアシレートフィルムは、フィルムを構成する主成分としてのポリマーがセルロースアシレートであるフィルムである。ここで、「主成分としてのポリマー」とは、フィルムが単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
【0012】
セルロースアシレートは、セルロースとカルボン酸とのエステルである。前記セルロースアシレートは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部または一部が、アシル基で置換されている。アシル基の炭素原子数は2〜22のであることが好ましく、2〜4であることがより好ましく、2であることが最も好ましい。前記アシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、および、シンナモイル基が挙げられる。前記アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基がより好ましく、アセチル基が最も好ましい。
セルロースアシレートは、セルロースと複数のカルボン酸とのエステルであってもよい。すなわち、セルロースアシレートは、複数のアシル基で置換されていてもよい。
【0013】
セルロースアシレートのセルロースの水酸基に置換されているアセチル基(炭素数2)の置換度をSAとし、セルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度をSBとしたとき、SAおよびSBを調整することにより、本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムのReの発現性、レタデーションの湿度依存性の調整を行うことができる。また、Tcも調整することができ、これにより、熱処理温度を調整することができる。なお、レタデーションの湿度依存性とは、湿度によるレタデーションの変化である。
本発明のフィルムである、本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムに求める光学特性により、適宜、SA+SBを調整することとなるが、好ましくは2.70<SA+SB≦3.00、より好ましくは2.88≦SA+SB≦3.00であり、さらに好ましくは2.89≦SA+SB≦2.99であり、さらにより好ましくは2.90≦SA+SB≦2.98であり、特に好ましくは2.92≦SA+SB≦2.97である。SA+SBを大きくすることにより、熱処理後に得られるReを大きく、Tcをより低くすることができ、レタデーションの湿度依存性も改善することができる。Tcを低く設定することにより、熱処理温度を比較的低く設定することが可能となる。
また、SBを調整することにより、本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムのレタデーションの湿度依存性を調整することができる。SBを大きくすることにより、レタデーションの湿度依存性を低減させることができ、融点が下がる。レタデーションの湿度依存性および融点の低下のバランスを考慮すると、SBの範囲は、好ましくは0<SB≦3.0、より好ましくは0<SB≦1.0であり、さらに好ましくは0.1≦SB≦0.7である。なお、セルロースの水酸基がすべて置換されているとき、上記の置換度は3となる。
【0014】
セルロースアシレートは公知の方法により合成することができる。
例えば、セルロースアシレートの合成方法について、基本的な原理は、右田伸彦他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。セルロースアシレートの代表的な合成方法としては、カルボン酸無水物−カルボン酸−硫酸触媒による液相アシル化法が挙げられる。具体的には、まず、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸などのカルボン酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。前記アシル化混液は、一般に溶媒としてのカルボン酸、エステル化剤としてのカルボン酸無水物および触媒としての硫酸を含む。また、前記カルボン酸無水物は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。
【0015】
次いで、アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰カルボン酸無水物の加水分解を行うために、水または含水酢酸を添加する。さらに、エステル化触媒を一部中和するために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)を含む水溶液を添加してもよい。さらに、得られた完全セルロースアシレートを少量のアシル化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、20〜90℃に保つことにより鹸化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記中和剤などを用いて完全に中和するか、或いは、前記触媒を中和することなく水若しくは希酢酸中にセルロースアシレート溶液を投入(或いは、セルロースアシレート溶液中に、水または希酢酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理により目的物であるセルロースアシレートを得ることができる。
【0016】
前記セルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)の記載に従って測定することができる。前記粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
【0017】
また、低分子成分が少ないセルロースアシレートは、平均分子量(重合度)が高いが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低い値になる。このような低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより行うことができる。また、低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成により得ることもできる。低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成する場合、アシル化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。前記硫酸触媒の量を前記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。セルロースアシレートの重合度や分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定することができる。
セルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁にも記載がある。
【0018】
セルロースアシレートフィルムを製造する際に原料として用いるセルロースアシレートとしては、粉末や粒子状のものを使用することができ、また、ペレット化したものも用いることができる。原料として用いる際のセルロースアシレートの含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。また、前記含水率は場合により0.2質量%以下であることが好ましい。セルロースアシレートの含水率が好ましい範囲内にない場合には、セルロースアシレートを乾燥風や加熱などにより乾燥してから使用することが好ましい。
セルロースアシレートフィルムを製造する際には、単一種のポリマーを用いてもよいし、複数種のポリマーを用いてもよい。
【0019】
[本発明の添加化合物]
本発明の製造方法では、特定の条件を満たす化合物を添加剤として含有するセルロースアシレートフィルムを用いる。すなわち、固有複屈折の波長分散パラメータΔΔn0calcが負である化合物(本明細書中では、本発明の添加化合物という)を含有するセルロースアシレートフィルムを用いる。
【0020】
本発明の添加化合物は、固有複屈折の波長分散パラメータΔΔn0calcが負であるが、好ましくは−0.5<ΔΔn0calc<−0.05であり、より好ましくは−0.3<ΔΔn0calc<−0.1である。固有複屈折の波長分散パラメータΔΔn0 calcが小さいほどフィルムの波長分散を逆波長分散方向に変化させる効果が大きいが、ΔΔn0 calcが小さい添加剤は可視光領域に吸収を有する場合が多く、フィルム添加によりフィルムの着色を引き起こしてしまうため、ΔΔn0calcは上記の範囲を満たすことが好ましい。ΔΔn0calcに固有複屈折の波長分散パラメータΔΔn0calcは、下記式(1)により規定される。
式(1): ΔΔn0 calc= Δn0 calc(630nm)−Δn0 calc(450nm)
式(1)において、Δn0 calc(630nm)は測定波長630nmにおける固有複屈折を表し、Δn0 calc(450nm)は測定波長450nmにおける固有複屈折を表す。固有複屈折Δn0 calc(λ)[ここでλは測定波長を表す]は、以下の式(1a)により定義される。
式(1a): Δn0 calc(λ)=n0i calc(λ)−(n0j calc(λ)+n0k calc(λ))/2
式(1a)において、n0i calc(λ)、n0j calc(λ)、n0k calc(λ)は主屈折率を表し、本発明では理論計算により算出した値を用いる。
ここでいう理論計算はすべてGaussian03(米ガウシアン社)を用いて行い、手法としては密度汎関数法を用いる。また、計算に使用する分子構造は、構造最適化計算を行って生成エネルギーが最小となる構造を用いる。基底関数としてB3LYP/6-31G*を用いて波長450nm、630nmにおける分極率テンソルを求める。分極率テンソルの主軸系のうち、分子長軸方向に最も近い方向の主軸(分子長軸方向とのなす角が最も小さい主軸)をi、その他の主軸をj,kとし、分極率テンソル対角成分αii、αjj、αkkを求める。
分極率テンソルを用いて、下記式(1b)および(1c)(Lorentz-Lorenzの式の拡張版であるVuksの式)からn0l calc(λ)を算出し、それを用いて上記式(1a)によりΔn0calc(λ)を求める。
【0021】
【数1】

[式(1b)および(1c)において、nlは主屈折率(n0l calc(λ))、αllは分極率テンソル成分、ρは密度、NAはアボガドロ数、Mは分子量、nは平均屈折率を表す。]
【0022】
本発明の添加化合物は、さらに下記式(3)を満足することが好ましい。
式(3): (A−1)×ΔΔn0calc ≦−0.01
式(3)において、Aは化合物分子のアスペクト比を表す。アスペクト比Aは、分子長軸の長さaと分子短軸の長さbを用いて、a/bで表される。分子長軸の長さaは、分子内の二原子間距離の最大値であり、分子短軸の長さbは各原子nから分子長軸に垂線を降ろしたときの垂線の長さの2倍をb(n)としたときのb(n)の最大値である。
アスペクト比Aが大きいほど添加剤が配向しやすいためレタデーションの異方性をより大きく発現でき、フィルムの波長分散を変化させる効果が大きい。添加剤の配向性が同じ場合、ΔΔn0calcが小さいほどフィルムの波長分散を逆波長分散方向に変化させる効果が大きい。従って(A−1)×ΔΔn0 calcが小さいことが好ましい。(A−1)×ΔΔn0calc >−0.01ではフィルムの波長分散を逆波長分散方向に変化させる効果が小さく実用的でないため、本発明の添加化合物は式(3)を満足することが好ましい。
本発明の添加化合物は、下記式(3a)を満足することがより好ましく、下記式(3b)を満足することがさらに好ましい。
式(3a): −1.0<(A−1)×ΔΔn0calc ≦−0.02
式(3b): −0.5<(A−1)×ΔΔn0calc ≦−0.05
【0023】
本発明の添加化合物は、上記式(1)で規定される固有複屈折の波長分散パラメータΔΔn0calcが負であるうえに、さらに下記一般式(I)〜(VI)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。一般式(I)〜(VI)の中では、一般式(I)、(II)、(III)で表される化合物がより好ましく、一般式(I)で表される化合物がさらに好ましい。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
上記一般式(I)におけるR11、R12、R13、R14、R15、R16、およびR17;上記一般式(II)におけるR21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、およびR29;上記一般式(III)におけるR41、R42、R43、R44、R45、R46、およびR47;上記一般式(IV)におけるR51、R52、R53、R54、R55、R56、およびR57;上記一般式(V)におけるR61、R62、R63、R64、R65、R66、R67、およびR68;上記一般式(VI)におけるR71、R72、R73、R74、R75およびR76はそれぞれ独立に水素原子または置換基は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【0027】
これらの置換基は、ΔΔn0calc <0を満たすように組み合わせて選択される。上記一般式(I)〜(VI)において、紙面の水平方向(左右方向)が分子長軸方向となるように置換基を組み合わせることが好ましい。
【0028】
置換基として好ましくは、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは炭素原子数5〜30、より好ましくは炭素原子数5〜10の置換または無置換のビシクロアルキル基、つまり、好ましくは炭素原子数5〜30、より好ましくは炭素原子数5〜10のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1.2.2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2.2.2]オクタン−3−イル)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の置換または無置換のシクロアルケニル基、つまり、好ましくは炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)、ビシクロアルケニル基(置換または無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは炭素原子数5〜30、より好ましくは炭素原子数5〜10の置換または無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2.2.2]オクト−2−エン−4−イル)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族または非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、より好ましくは炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の5または6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、
【0029】
シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、シリルオキシ基(好ましくは炭素原子数3〜20、より好ましくは炭素原子数3〜10のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素原子数7〜30、より好ましくは炭素原子数7〜10の置換または無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、
【0030】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルアミノ基、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素原子数7〜30、より好ましくは炭素原子数7〜10の置換または無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素原子数0〜30、より好ましくは炭素原子数0〜10の置換または無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、
【0031】
ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、スルファモイル基(好ましくは炭素原子数0〜30、より好ましくは炭素原子数0〜10の置換または無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N'フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキルおよびアリールスルホニル基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のアルキルスルホニル基、炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、アシル基(好ましくはホルミル基、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素原子数7〜30、より好ましくは炭素原子数7〜10の置換または無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイルベンゾイル基)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素原子数7〜30、より好ましくは炭素原子数7〜10の置換または無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基)、
【0032】
アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基)、カルバモイル基(好ましくは、炭素原子数1〜30、より好ましくは炭素原子数1〜10の置換または無置換のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基)、アリールおよびヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは炭素原子数6〜10の置換または無置換のアリールアゾ基、炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の置換または無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数2〜10の置換または無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、シリル基(好ましくは、炭素原子数3〜30、より好ましくは炭素原子数3〜10の置換または無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)を表わす。
【0033】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0034】
上記の置換基の中でより好ましいものは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シアノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アリールスルホニル基であり、さらに好ましいものは、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、フェニルスルホニル基である。
また、1分子の中に置換基が二つ以上ある場合は、それらの置換基は同じであっても異なっていてもよい。また、可能な場合には互いに連結して環(一般式中に記載されている環との縮合環を含む)を形成してもよい。
【0035】
本発明の添加化合物の分子量は、好ましくは100〜5000であり、より好ましくは150〜3000であり、さらに好ましくは200〜1000である。添加化合物の分子量をこの範囲に調整することにより、フィルムからの添加物の揮散性低減と、フィルムへの溶解性向上(すなわち、ブリードアウト低減)とを両立させることが可能となる。
【0036】
セルロースアシレートフィルムにおける本発明の添加化合物の添加量は、フィルムに持たせる光学的性質等によって異なるが、好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは0.5〜15質量%であり、さらに好ましくは1〜10質量%である。本発明の添加化合物は、フィルムの製膜前にあらかじめ製膜用メルトや溶液に添加・混合しておくことが好ましい。
【0037】
[セルロースアシレート溶液]
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルム(以下、明細書中において、「熱処理前のセルロースアシレートフィルム」とも称する)は、例えば、上記セルロースアシレートや各種添加剤を含有するセルロースアシレート溶液から溶液流延製膜方法によって作製することができる。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができるセルロースアシレート溶液について説明する。
【0038】
(溶媒)
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルム」の作製に用いられるセルロースアシレート溶液の主溶媒としては、該ポリマーの良溶媒である有機溶媒を好ましく用いることができる。このような有機溶媒としては、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点からより好ましい。前記有機溶媒の沸点は、10〜80℃であることがさらに好ましく、20〜60℃であることが特に好ましい。また、場合により沸点が30〜45℃である有機溶媒も前記主溶媒として好適に用いることができる。
【0039】
このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記主溶媒は、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルム」の作製に用いられるセルロースアシレート溶液の主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを示し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も質量分率の高い溶媒のことを示す。主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を好適に挙げることができる。
【0040】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。
前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0041】
これら主溶媒と併用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記有機溶媒としては、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
【0042】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。好ましくは炭素数1〜4のアルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノールまたはブタノールであり、最も好ましくはメタノール、ブタノールである。前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
前記2種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0043】
本発明のセルロースアシレートフィルムを構成するポリマーは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることによって、熱処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられる前記セルロースアシレート溶液は、乾燥過程初期においてハロゲン化炭化水素とともに揮発する割合が小さく、次第に濃縮される沸点が95℃以上であり、且つ、セルロースエステルの貧溶媒である有機溶媒を1〜15質量%、より好ましくは1.5〜13質量%、さらに好ましくは2〜10質量%含有することが好ましい。また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めるのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させても良く、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0044】
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられるセルロースアシレート溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、比率の数値は、質量部を意味する。
(1)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/10/5/5
(2)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/5/5/10
(3)ジクロロメタン/イソブチルアルコール=90/10
(4)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール=80/5/5/10
(5)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン=80/8/10/2
(6)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/10/5/5
(7)ジクロロメタン/ブタノール=90/10
(8)ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/ブタノール=68/10/10/7/5
(9)ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/ペンタノール=80/2/15/3
(10)ジクロロメタン/メチルアセテート/エタノール/ブタノール=70/12/15/3
(11)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/5/5/10
(12)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/ペンタノール=50/20/15/5/10
(13)ジクロロメタン/1,3−ジオキソラン/メタノール/ブタノール=70/15/5/10
(14)ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/ブタノール=75/5/10/5/5
(15)ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブチルアルコール/シクロヘキサン=60/18/3/10/7/2
(16)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/イソブチルアルコール=70/10/10/10
(17)ジクロロメタン/アセトン/エチルアセテート/ブタノール/ヘキサン=69/10/10/10/1
(18)ジクロロメタン/メチルアセテート/メタノール/イソブチルアルコール=65/15/10/10
(19)ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール=85/7/3/5
(20)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=83/15/2
(21)ジクロロメタン=100
(22)アセトン/エタノール/ブタノール=80/15/5
(23)メチルアセテート/アセトン/メタノール/ブタノール=75/10/10/5
(24)1,3−ジオキソラン=100
(25)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/水=85/18/1.5/0.5
(26)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/ブタノール/水=87/5/5/2.5/0.5
(27)ジクロロメタン/メタノール=92/8
(28)ジクロロメタン/メタノール=90/10
(29)ジクロロメタン/メタノール=87/13
(30)ジクロロメタン/エタノール=90/10
【0045】
また、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とした場合の詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0046】
(溶液濃度)
調製する前記セルロースアシレート溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0047】
(添加剤)
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられる前記ポリマー溶液は、各調製工程において用途に応じた各種の液体または固体の添加剤(上記の本発明の添加化合物以外の添加剤)を更に含むことができる。前記添加剤の例としては、紫外線吸収剤(0.001〜1質量%)、平均粒子サイズが5〜3000nmである微粒子粉体(0.001〜1質量%)、フッ素系界面活性剤(0.001〜1質量%)、剥離剤(0.0001〜1質量%)、劣化防止剤(0.0001〜1質量%)、光学異方性制御剤(0.01〜10質量%)、赤外線吸収剤(0.001〜1質量%)が含まれる。
【0048】
前記光学異方性制御剤は、分子量3000以下の有機化合物であり、好ましくは疎水部と親水部とを併せ持つ化合物である。これらの化合物は、ポリマー鎖間で配向することにより、レタデーション値を変化させる。さらに、これらの化合物は、本発明で特に好ましく用いられるセルロースアシレートと併用することで、フィルムの疎水性を向上させ、レタデーションの湿度変化を低減させることができる。また、前記紫外線吸収剤や前記赤外線吸収剤を併用することで、効果的にレタデーションの波長依存性を制御することもできる。本発明のセルロースアシレートフィルムに用いられる添加剤は、いずれも乾燥過程での揮散が実質的にないものが好ましい。
【0049】
前記光学異方性制御剤のうち、本発明においては、目的とするRe、Rth値に応じて、熱処理前のセルロースアシレートフィルムのRthを上昇させる効果のある光学異方性制御剤を好ましく用いることができる。これらのRth上昇幅は、8〜100nmがより好ましく、10〜50nmがさらに好ましく、15〜30nmが最も好ましい。このような添加剤を添加することにより、本発明の製造方法を実施する前のフィルム(原反)のRthを選択的に上昇させることができるため、このような原反に本発明の製造方法を適用することにより、Rth/Re値を上昇させることができ、例えば、Rth/Re≧−0.39、且つRe>0、且つRth<0を同時に満たすフィルムを製造することが可能となる。
また、目的とするRe、Rth値によっては、熱処理前のフィルムのRthをあまり変化させなかったり、下降させたりするような効果のある光学異方性制御剤も好ましく用いることができる。これらのRth変動幅(添加剤がある原反のRth−添加剤がない原反のRth)は、−100以上8nm未満がより好ましく、−50〜5nmがさらに好ましく、−30〜5nmが最も好ましい。このような添加剤を添加することにより、熱処理時のポリマー分子の運動性を向上させることができるため、本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムのReやRthの発現性をさらに調整することができるため、熱処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。したがって、レタデーション上昇剤等の光学異方性制御剤を組み合わせることにより、|Rth|/Re<0.5を満たす透明ポリマーフィルムだけでなく、|Rth|/Re≧0.5を満たす透明ポリマーフィルムも適宜、製造することができる。
【0050】
本発明において、添加剤によるRthの変動幅は、フィルムを25℃にてメタノールに浸漬し、3時間超音波抽出し、さらに80℃にて10分乾燥した後に測定したRth(Rth1)と、メタノール処理前のRth(Rth0)との差(Rth0−Rth1)によって評価することができる。また、メタノールによる抽出が難しい添加剤の場合は、添加剤を加えたドープ溶液から製膜したフィルムの熱処理前のRth(Rth2)と、添加剤を加えていないドープ溶液から製膜したフィルムの熱処理前のRth(Rth3)との差(Rth2−Rth3)によって評価することもできる。
【0051】
このような添加剤としては、具体的には、芳香環を1個以上有する化合物が好ましく、2〜15個有することがより好ましく、3〜10個有することがさらに好ましい。化合物中の芳香環以外の各原子は、芳香環と同一平面に近い配置であることが好ましく、芳香環を複数有している場合には、芳香環同士も同一平面に近い配置であることが好ましい。また、Rthを選択的に上昇させるため、添加剤のフィルム中での存在状態は、芳香環平面がフィルム面と平行な方向に存在していることが好ましい。
前記添加剤は、単独で使用しても良いし、2種類以上の添加剤を組み合わせて使用しても良い。
Rthを上昇させる効果のある添加剤としては、具体的には、特開2005−104148号公報の33〜34頁に記載の可塑剤や、特開2005−104148号公報の38〜89頁に記載の光学異方性のコントロール剤などが挙げられる。
【0052】
レタデーションの湿度変化低減を図る観点からは、これらの添加剤の添加量は多いほうが好ましいが、添加量の増大に伴い、ポリマーフィルムのガラス転移温度(Tg)低下や、フィルムの製造工程における添加剤の揮散問題を引き起こしやすくなる。従って、本発明においてより好ましく用いられるセルロースアセテートをポリマーとして用いる場合、前記分子量3000以下の添加剤の添加量は、前記ポリマーに対し0.01〜30質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。
【0053】
本発明においてポリマーとしてセルロースアシレートを用いる場合に好適に用いることのできる光学異方性制御剤については、特開2005−104148号公報に記載がある。また、赤外吸収剤については、特開平2001−194522号公報に記載がある。添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。
【0054】
また、本発明においては、下記の高分子系可塑剤を添加剤として好ましく用いることもできる。
ここで、本発明における高分子系可塑剤は、その化合物中に繰り返し単位部分を有することを特徴とする。本発明の高分子可塑剤は、その数平均分子量が500〜3000であるが、好ましくは数平均分子量600〜2800であり、さらに好ましくは数平均分子量700〜2500であり、特に好ましくは数平均分子量700〜2000である。ただし、本発明における高分子系可塑剤は、このような繰り返し単位部分を有する化合物のみからなるものに限定されることはなく、繰り返し単位を有さない化合物との混合物であってもよい。
【0055】
また、本発明の高分子系可塑剤は使用する環境温度あるいは湿度下で(一般には室温状況、所謂25℃、相対湿度60%)、液体であっても固体であっても良い。また、その色味は少ないほど良好であり特に無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上、さらに200℃以上が好ましい。
以下、本発明に用いられる高分子系可塑剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、本発明で用いることができる高分子系可塑剤はこれらに限定されるものではない。
【0056】
本発明のポリマーフィルムに用いることのできる高分子系可塑剤としては、特に限定されないが、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系可塑剤、ポリアミド系可塑剤、ポリスルフォン系可塑剤、ポリスルフォンアミド系可塑剤、後述するその他の高分子系可塑剤から選択される少なくとも1種の数平均分子量が500以上の可塑剤を好ましく挙げることができる。
【0057】
そのうち少なくとも1種は、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系可塑剤、ポリアミド系可塑剤、ポリスルフォン系可塑剤、ポリスルフォンアミド系可塑剤であることがさらに好ましく、特にはポリエステル系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤であることが好ましい。以下に、本発明で好ましく用いられる高分子系可塑剤について種類別に記述する。
【0058】
まず、本発明で用いられるポリエステル系可塑剤について説明する。好ましいポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、ジカルボン酸とグリコールの反応によって得られるものであり、反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸やモノアルコールを反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系可塑剤に使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0059】
本発明で好ましく用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等がある。また炭素数8〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等がある。これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。次にポリエステル系可塑剤に利用されるグリコールについて記すと、炭素数が2〜12の脂肪族または脂環式グリコール残基、炭素数6〜12の芳香族グリコール残基を表わす。
【0060】
炭素原子2〜12個の脂肪族グリコールまたは脂環式グリコール類としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0061】
また、本発明のポリエステル可塑剤の両末端がカルボン酸とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。その場合、モノアルコール残基としては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコール残基が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0062】
好ましく使用され得る末端封止用アルコール残基は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
【0063】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族カルボン酸でもよい。まず好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0064】
以上、具体的な好ましいポリエステル系可塑剤としては、ポリ(エチレングリコール/アジピン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/アジピン酸)エステル、ポリ(1,3−ブタンジオール/アジピン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/セバチン酸)エステル、ポリ(1,3−ブタンジオール/セバチン酸)エステル、ポリ(1,6−ヘキサンジオール/アジピン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/フタル酸)エステル、ポリ(1,3−ブタンジオール/フタル酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/テレフタル酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/1,5−ナフタレン−ジカルボン酸)エステル、ポリ(プロピレングリコール/テレフタル酸)エステルの両末端が2−エチル−ヘキシルアルコールエステル/ポリ(プロピレングリコール、アジピン酸)エステルの両末端が2−エチル−ヘキシルアルコールエステル、アセチル化ポリ(ブタンジオール/アジピン酸)エステル、などを挙げることができる。
【0065】
かかるポリエステル類の合成は常法により、上記二塩基性酸またはこれらのアルキルエステル類とグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系可塑剤については、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0066】
また、商品として、株式会社ADEKAからポリエステル系可塑剤としてDIARY 2007、55頁〜27頁に記載にアデカサイザー(アデカサイザーPシリーズ、アデカサイザーPNシリーズとして各種あり)を使用でき、また大日本インキ化学工業株式会社「ポリマ関連製品一覧表2007年版」25頁に記載のポリライト各種の商品や、大日本インキ化学工業株式会社「DICのポリマ改質剤」(2004.4.1.000VIII発行)2頁〜5頁に記載のポリサイザー各種を利用できる。さらに、米国 CP HALL 社製のPlasthall Pシリーズとして入手できる。ベンゾイル官能化ポリエーテルは、イリノイ州ローズモントのベルシコルケミカルズ(Velsicol Chemicals)から商品名BENZOFLEXで商業的に販売されている(例えば、BENZOFLEX400、ポリプロピレングリコールジベンゾエート)。
【0067】
次に、本発明で用いられるポリエステルポリエーテル系可塑剤について説明する。本発明のポリエステルポリエーテル系可塑剤とは、ジカルボン酸とポリエーテルジオールとの縮合ポリマーを示すものである。ジカルボン酸としては、ポリエステル系可塑剤で記述した炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸残基をそのまま使用するものである。
【0068】
次に炭素原子2〜12個の脂肪族グリコールを有するポリエーテル類としては、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics)レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。本発明に使用されるポリエステルポリエーテル系可塑剤の製造に際しては、当業者に周知の常用されている重合法が使用できる。
【0069】
これらのポリエステルエーテル系可塑剤としては、米国特許第4,349,469号明細書に記載されているポリエステルポリエーテル系可塑剤などが挙げられる。基本的に、例えばジカルボン酸として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と、ポリエーテルとして1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールなどから合成されるポリエステルポリエーテル系可塑剤である。その他の有用なポリエステルポリエーテル系可塑剤としては、DuPont製のハイテレル(Hytrel)コポリエステル類やGAF製のガルフレック(Galflex)ポリマーのようなコポリマーのごとき市販のレジンが挙げられる。これらは、特開平5−197073号公報に記載の素材を利用できる。株式会社ADEKAからアデカサイザーRSシリーズとして市販されており利用できる。また、アルキル官能化ポリアルキレンオキシドであるポリエステルエーテル系可塑剤は、デラウェア州ウィルミントンのアイシーアイ(ICI Chemicals)から商品名PYCALで商業的に販売されている(例えば、PYCAL94、ポリエチレンオキシドのフェニルエステル)。
【0070】
(ポリエステルポリウレタン系可塑剤)
さらに、本発明で用いられるポリエステルポリウレタン系可塑剤について説明する。該可塑剤は、ポリエステルとイソシアナート化合物の縮合で得ることができる。まず、ポリエステルとしては、両末端を封止する前のポリエステル系可塑剤をそのまま使用でき、ポリエステル系可塑剤で前述した素材を好ましく利用できる。
【0071】
ポリウレタン構造を形成するジイソシアナート成分としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等で代表されるOCN(CH2p NCO(p=2〜8)ポリメチレンイソシアナート並びに、p−フェニレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、p,p′−ジフェニルメタンジイソシアナート、1,5−ナフチレンジイソシアナート等の芳香族ジイソシアナート、さらには、m−キシリレンジイソシアナート等が用いられるが、これらに制限されるものではない。これらの中でも、特にトリレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナートが好ましいものである。
【0072】
本発明においてポリエステルポリウレタン系可塑剤の合成は、原料のポリエステルジオール類とジイソシアナートとを混じ攪拌下加熱させる常法の合成法により、容易に得る事ができる。これらは、特開平5−197073号、特開2001−122979号、特開2004−175971号、特開2004−175972号各公報などに記載してある素材を利用できる。
【0073】
本発明においては、前述したポリエステル系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤やポリエステルポリウレタン系可塑剤だけでなく、その他の高分子系可塑剤も使用し得るものである。該高分子系可塑剤としては、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー(エステル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、tert−ノニル基、ドデシル基、トリデシル基、ステアリル基、オレイル基、ベンジル基、フェニル基など)、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0074】
これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でも良い。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いても良い。これらの高分子量可塑剤は、各々単独で用いても良く、またこれらを混合して用いても同様の効果が得られる。これらの中でも、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルあるいは他のビニルモノマーとの共重合度体が好ましく、特にはポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー(エステル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、オレイル基)を基本とする高分子可塑剤が好ましい。
【0075】
以下に、好ましい高分子系可塑剤の具体例を記すが、本発明で用いることができる高分子系可塑剤はこれらに限定されるものではない。
PP−1: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2500)
PP−2: 1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−3: 1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1300)
PP−4: 1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−5: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)
PP−6: 1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−7: 1,4−シクロヘキサンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量800)
【0076】
PP−8: 1,3−プロパンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−9: 1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のシクロヘキシルエステル化体(数平均分子量1500)
PP−10: エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量3000)
PP−11: 1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1500)
PP−12: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のプロピルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−13: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−14: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−15: 1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1800)
【0077】
PP−16: エタンジオール/テレフタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2000)
PP−17: 1,3−プロパンジオール/1,5−ナフタレンジカルボン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−18: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/イソフタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)
PP−19: 1,3−プロパンジオール/テレフタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のベンジルエステル化体(数平均分子量1500)
PP−20: 1,3−プロパンジオール/1,5−ナフタレンジカルボン酸両末端のプロピルエステル化体(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
PP−21: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/イソフタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1200)
【0078】
PP−22: ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1800)
PP−23: ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1600)
PP−24: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量2200)
PP−25: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/フタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)
【0079】
PP−26: ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1900)
PP−27: ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端の2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量1700)
PP−28: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物両末端のtert−ノニルエステル化体(数平均分子量1300)
PP−29: ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/フタル酸(1/1モル比)との縮合物両末端のプロピルエステル化体(数平均分子量1600)
PP−29’: エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1000)
【0080】
PP−30: 1,3−プロパンジオール/コハク酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)をトリメチレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステルウレタン化合物、
PP−31: 1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)をテトラメチレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−32: 1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1000)をp−フェニレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−33: 1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)との縮合物(数平均分子量1500)をトリレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−34: 2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1200)をm−キシリレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
PP−35: 1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1500)をテトラメチレンジイソシアナート(1モル)で縮合したポリエステル−ウレタン化合物
【0081】
PP−36: ポリイソプロピルアクリレート(数平均分子量1300)
PP−37: ポリブチルアクリレート(数平均分子量1300)
PP−38: ポリイソプロピルメタクリレート(数平均分子量1200)
PP−39: ポリ(メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート(モル比8/2、数平均分子量1600)
PP−40: ポリ(メチルメタクリレート/2−エチルヘキシルメタクリレート(モル比9/1、数平均分子量1600)
PP−41: ポリ(ビニルアセテート(数平均分子量2400)
【0082】
(セルロースアシレート溶液の調製)
前記セルロースアシレート溶液の調製は、例えば、特開昭58−127737号公報、同61−106628号公報、特開平2−276830号公報、同4−259511号公報、同5−163301号公報、同9−95544号公報、同10−45950号公報、同10−95854号公報、同11−71463号公報、同11−302388号公報、同11−322946号公報、同11−322947号公報、同11−323017号公報、特開2000−53784号公報、同2000−273184号公報、同2000−273239号公報に記載されている調製方法に準じて行うことができる。具体的には、ポリマーと溶媒とを混合攪拌し膨潤させ、場合により冷却や加熱等を実施して溶解させた後、これをろ過してセルロースアシレート溶液を得る。
【0083】
本発明においては、ポリマーの溶媒への溶解性を向上させるため、ポリマーと溶媒の混合物を冷却および/または加熱する工程を含んでもよい。
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いて、ポリマーと溶媒の混合物を冷却する場合、混合物を−100〜10℃に冷却することが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜39℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜39℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0084】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を加熱する場合、下記(a)または(b)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(a)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜39℃に加温する。
(b)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜39℃に冷却する。
さらに、溶媒として非ハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を冷却する場合、混合物を−100〜−10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜55℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜57℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0085】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を加熱する場合、下記(c)または(d)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(c)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜57℃に加温する。
(d)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜57℃に冷却する。
【0086】
[本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの製膜]
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムは、上記のセルロースアシレート溶液を用いて溶液流延製膜方法により製造することができる。溶液流延製膜方法の実施に際しては、従来の方法に従い、従来の装置を用いることができる。具体的には、溶解機(釜)で調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を、ろ過後、貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製することができる。ドープは30℃に保温し、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延する(流延工程)。次いで、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離し、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、ロール群で搬送しながら乾燥を終了する。溶液流延製膜方法の流延工程、乾燥工程の詳細については、特開2005−104148号公報の120〜146頁にも記載があり、適宜本発明にも適用することができる。
【0087】
また、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムは、上記のセルロースアシレート溶液を用いずに溶融流延製膜方法により製造することができる。溶融流延製膜方法は、ポリマーを加熱して溶融したものを支持体上に流延し、冷却してフィルムを形成する方法である。ポリマーの融点、もしくはポリマーと各種添加剤との混合物の融点が、これらの分解温度よりも低くかつ延伸温度よりも高い場合には、溶融流延製膜方法を採用することが可能である。溶融流延製膜方法については、特開2000−352620号公報などに記載がある。
【0088】
本発明においては、熱処理前のセルロースアシレートフィルムの製膜の際に用いる金属支持体として金属バンドまたは金属ドラムを使用することができる。金属バンドを使用して製膜したセルロースアシレートフィルムを用いる場合は、熱処理後のフィルムのRthが低くなるという傾向があり、前記添加剤等、他のレタデーションを調整する要素にもよるが、Rthが負であり、|Rth|/Re<0.5であるフィルムを作製することができる。また、金属ドラムを使用して製膜したセルロースアシレートフィルムを用いる場合は、熱処理後のフィルムのRthが高くなるという傾向があり、前記添加剤等、他のレタデーションの調整する要素にもよるが、Rthがゼロに近い負、もしくは正であり、場合により|Rth|/Re<0.5も満たすフィルムを作製することができる。これらの本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの熱処理後のRthの違いは、製膜過程でウェブにかかる外力が異なることに起因する、熱処理前のフィルム中に存在するポリマー鎖の面配向状態の違いが原因であると推測される。
【0089】
本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムのレタデーションを制御する際には、熱処理前のセルロースアシレートフィルムにかかる力学的な履歴、すなわち製膜過程においてポリマーウェブに与えられる外力を制御しておくことが好ましい。具体的には、本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムが、大きなReを示し且つ負のRthを示す場合は、ポリマーウェブを、好ましくは0.1%以上15%未満、より好ましくは0.5〜10%、さらに好ましくは1〜8%延伸する。なお、熱処理前のセルロースアシレートフィルムを搬送しながら作製する場合には、当該搬送方向へ、延伸することが好ましい。この延伸の際のポリマーウェブの残留溶媒量は、下記式に基づいて算出されるもので5〜1000%とする。残留溶媒量は、10〜200%であることが好ましく、30〜150%であることがより好ましく、40〜100%であることがさらに好ましい。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
[式中、Mは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムの質量、Nは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムを110℃で3時間乾燥させたときの質量を表す]
また、大きなReを示し且つ正のRthを示す場合は、ポリマーウェブを、好ましくは15〜300%、より好ましくは18〜200%、さらに好ましくは20〜100%延伸する。なお、熱処理前のセルロースアシレートフィルムを搬送しながら作製する場合には、当該搬送方向へ、延伸することが好ましい。この延伸の際のポリマーウェブの残留溶媒量は、上記式に基づいて算出されるもので5〜1000%とする。残留溶媒量は、30〜500%であることが好ましく、50〜300%であることがより好ましく、80〜250%であることがさらに好ましい。
前記延伸の際のポリマーウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。このような延伸を行うことによって、レタデーションの発現性を調整することができる。
【0090】
残留溶媒量が5%以上の状態で延伸すればヘイズが大きくなりにくく、残留溶媒量が1000%以下の状態で延伸すればポリマー鎖に加えられる外力が伝わりやすく、前記溶媒を含有した状態で実施されるポリマーウェブ延伸によるレタデーション発現性調整の効果が大きくなる傾向がある。なお、ポリマーウェブの残留溶媒量は、前記セルロースアシレート溶液の濃度、金属支持体の温度や速度、乾燥風の温度や風量、乾燥雰囲気中の溶媒ガス濃度等を変更することにより、適宜調整することができる。
【0091】
さらに、前記ポリマーウェブを伸ばす工程においては、ウェブの膜面温度はポリマーに外力を伝える観点から低いほうが好ましく、ウェブの温度を(Ts−100)〜(Ts−0.1)℃とすることが好ましく、(Ts−50)〜(Ts−1)℃とすることがより好ましく、(Ts−20)〜(Ts−3)℃とすることがさらに好ましい。ここで、Tsは流延支持体の表面温度を表し、流延支持体の温度が部分的に異なる温度に設定されている場合には、支持体中央部における表面温度のことを表す。
このようにして伸ばされる工程を経たポリマーウェブは、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、テンターで両端をクリップされたり、ロール群で搬送したりしながら乾燥を終了する。
【0092】
このようにして乾燥の終了したフィルム中の残留溶剤量は0〜2質量%が好ましく、より好ましくは0〜1質量%である。このフィルムは、そのまま熱処理ゾーンへ搬送してもよいし、フィルムを巻き取ってからオフラインで熱処理を実施してもよい。熱処理前のセルロースアシレートフィルムの好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3mである。また、一旦フィルムを巻き取る場合には、好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000mであり、さらに好ましくは1000〜7000mである。
【0093】
製膜した本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの膜厚80μm換算の透湿度は、100g/(m2・day)以上であることが好ましく、100〜1500g/(m2・day)であることがより好ましく、200〜1000g/(m2・day)であることがさらに好ましく、300〜800g/(m2・day)であることが特に好ましい。80μm換算で100g/(m2・day)以上の透湿度を有する本発明のフィルムを調製するには、ポリマーの親疎水性を適切に制御するか、フィルムの密度を低下させることが好ましい。前者の方法として、例えば、ポリマー主鎖の親疎水性を適切に制御し、さらに疎水的もしくは親水的な側鎖を導入する方法などが挙げられ、後者の方法として、例えば、ポリマー主鎖に側鎖を導入する、製膜時に用いる溶媒の種類を選択する、製膜時の乾燥速度を制御する、などの方法が挙げられる。
本発明における透湿度は、塩化カルシウムを入れたカップを評価するフィルムで蓋をして密閉したものを、40℃・相対湿度90%の条件で24時間放置した際の調湿前後の質量変化(g/(m2・day))から評価した値である。なお、透湿度は、温度の上昇に伴い上昇し、また、湿度の上昇に伴い上昇するが、各条件によらず、フィルム間における透湿度の大小関係は不変である。そのため、本発明においては40℃・相対湿度90%における前記質量変化の値を基準とする。また、透湿度は膜厚の上昇に伴い低下し、膜厚の低下に伴い上昇するため、まず実測した透湿度に実測した膜厚を乗じ、それを80で割った値を本発明における「膜厚80μm換算の透湿度」とした。
【0094】
[予備延伸]
溶媒を乾燥させ、上記式に基づいて算出される残留溶媒量が5%未満となった熱処理前の製膜したセルロースアシレートフィルムは、Tc≦T<Tm0を満たす温度Tで熱処理を行う前に延伸を行ってもよい(以下、当該延伸を「予備延伸」とも称する)。該予備延伸を行うことにより、熱処理工程におけるReやRthの発現性をさらに調整することができる。具体的には、後述の範囲内で、延伸温度を低下させたり、延伸倍率を上昇させることにより、熱処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、予備延伸工程と熱処理工程の間に他の工程を含んでいてもよい。
【0095】
本発明の製造方法では、予備延伸は、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度をTg(単位;℃)としたとき、(Tg−20)〜(Tg+50)℃で行うことが好ましい。前記予備延伸温度は、より好ましくは(Tg−10)〜(Tg+45)℃であり、さらに好ましくは、Tg〜(Tg+40)℃であり、最も好ましくは、(Tg+5)〜(Tg+35)℃である。ただし、予備延伸温度は後述の結晶化温度(Tc)を超えることはない。予備延伸温度はTcよりも5℃以上低い温度で実施することが好ましく、Tcよりも10℃以上低い温度で実施することがより好ましく、Tcよりも15℃以上低い温度で実施することがさらに好ましく、Tcよりも20℃以上低い温度で実施することが特に好ましく、Tcよりも35℃以上低い温度で実施することが最も好ましい。
本発明においてガラス転移温度とは、本発明のセルロースアシレートフィルムを構成するポリマーの運動性が大きく変化する境界温度である。本発明におけるガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)の測定パンに本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分間保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、この後、再度30℃から250℃まで昇温し、ベースラインが低温側から偏奇し始める温度である。
本発明の製造方法は、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムをTc以上にすることにより、X線回折で観測される構造体を成長させ、レタデーションを調整できると推定されるが、このように予めフィルムに予備延伸を実施することによってポリマーを予備延伸方向にある程度配列させることができるため、後述の熱処理工程において、X線回折で観測される構造体を効率的に、且つ異方的に成長させることができる。また、予備延伸温度を、熱処理温度より低くすることにより、X線回折で観測される構造体を成長させることなくポリマーを配向させることができるため、その後の熱処理工程でより効率的にX線回折で観測される構造体を成長させることができるという利点がある。したがって、予備延伸における延伸方向と、後述の熱処理時の延伸方向もしくは搬送方向とは一致していることが、熱処理温度低減の観点や、ReやRthの到達範囲拡張の観点から、より好ましい。逆に、これらの方向が一致していない場合は、ReやRthの到達範囲を縮小させることができる。
【0096】
前記予備延伸の方向は特に制限されるものではなく、熱処理前のセルロースアシレートフィルムが搬送されている場合には、搬送方向に延伸する縦延伸であっても、それに直交する方向に延伸する横延伸であってもよいが、縦延伸であることが好ましい。縦延伸や横延伸の方法や好ましい態様については後述する熱処理の欄を参照することができる。予備延伸倍率は1〜500%であることが好ましく、3〜400%がより好ましく、5〜300%がさらに好ましく、10〜100%が特に好ましい。これらの予備延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。なお、ここでいう「予備延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
予備延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
前記予備延伸における延伸速度は10〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20〜1000%/分であり、さらに好ましくは30〜800%/分である。
【0097】
[熱処理]
本発明の透明ポリマーフィルムの製造方法は、セルロースアシレートフィルムを、下記式(2)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とする。ここで、熱処理は搬送しながら行うことが好ましい。
式(2): Tc≦T<Tm0
式(2)において、Tcは熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度を表し、単位は℃である。本発明において結晶化温度とは、セルロースアシレートフィルムを構成するポリマーが規則的な周期構造を形成する温度のことを示し、この温度を超えるとX線回折で観測される構造体が成長する。本発明における結晶化温度は、DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に、観測された発熱ピークの開始温度である。Tcは通常、前述のガラス転移温度(Tg)よりも高温側に現れる。例えば、全置換度が2.85のセルローストリアセテートフィルムの結晶化温度は添加剤や製膜条件等により上下するが、約190℃であり、全置換度が2.92のセルローストリアセテートフィルムの結晶化温度は約170℃である。
式(2)において、Tm0は熱処理前のセルロースアシレートフィルムの融点を表し、単位は℃である。本発明における融点は、DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に、観測された吸熱ピークの開始温度である。Tm0は通常、前述の結晶化温度(Tc)よりも高温側に現れる。例えば、全置換度が2.85のセルローストリアセテートフィルムの融点は添加剤や製膜条件等により若干上下するが、約285℃であり、全置換度が2.92のセルローストリアセテートフィルムの融点は約290℃である。
【0098】
式(2)の条件を満たす温度Tでセルロースアシレートフィルムを熱処理すること、および本発明の添加剤を添加することによって、透明ポリマーフィルムのレタデーション値およびレタデーションの波長分散の発現性を調整することができる。これによって、従来は製造することが容易ではなかったレタデーション値およびレタデーションの波長分散性を有する透明ポリマーフィルムを簡便な方法で製造することができるようになった。特に、従来は煩雑な製法によらなければ製造することができなかった|Rth|/Re<0.5の透明ポリマーフィルムを簡便な方法で面状よく製造することができるようになった。
本発明の製造方法における熱処理温度は、下記式(7a)を満たすことが好ましく、下記式(7b)を満たすことがより好ましく、下記式(7c)を満たすことがさらに好ましい。これらの式を満たす温度を選択することによって、Re発現性が増大したり、場合により延伸方向と遅相軸の方向とが直交したりするという利点がある。
式(7a): Tc≦T<Tm0−5
式(7b): Tc≦T<Tm0−10
式(7c): Tc+5≦T<Tm0−15
【0099】
本発明の製造方法にしたがってTc≦T<Tm0を満たす温度Tで延伸することによって、ポリマー鎖の運動性を向上させることができるため、延伸倍率の増大に伴うフィルムの白化(ヘイズ上昇)やフィルムの切断を防ぐことができる。また、後述のように延伸速度や延伸倍率を調整することによって、ポリマー鎖の凝集や配向と、同時に起こる熱緩和とのバランスを適切に制御することができる。したがって、本発明の製造方法に従うことにより、フィルム中のポリマー鎖の凝集や配列を高度に進めることができ、弾性率が大きく、湿度寸法変化が小さく、適度な透湿度を有する透明ポリマーフィルムを製造することが可能となる。
【0100】
本発明の製造方法における熱処理は、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら行うことが好ましい。セルロースアシレートフィルムの搬送手段は特に制限されないが、典型的な例としてニップロールやサクションドラムにより搬送する手段、テンタークリップで把持しながら搬送する手段(空気圧で浮上搬送する手段)などを挙げることができる。目的とするRth/Re値が小さい場合に好ましいのは、ニップロールにより搬送する手段である。具体的には、少なくとも熱処理を行うゾーンの前後にそれぞれニップロールを設置しておき、当該ニップロールの間を通すことによりセルロースアシレートフィルムを搬送する態様を挙げることができる(収縮熱処理、すなわち非拘束熱処理)。また、目的とするRth/Re値が大きい場合に好ましいのは、テンタークリップで把持しながら搬送する手段である。具体的には、フィルムの両端をテンタークリップで把持しながら熱処理ゾーンを通過させる態様を挙げることができ(拘束熱処理)、搬送方向と直交する方向への寸法変化率を−10%以上とすることが好ましい。
【0101】
搬送の速度は、通常は1〜500m/分であり、5〜300m/分が好ましく、10〜200m/分がより好ましく、20〜100m/分がさらに好ましい。搬送速度が、上記の下限値である1m/分以上であれば産業上、十分な生産性を確保することができるという点で好ましくなる傾向があり、上記の上限値である500m/分以下であれば実用的な熱処理ゾーン長で十分に結晶成長を進行させることができるという点で好ましくなる傾向がある。搬送速度を速くすればフィルムの着色を抑制することができる傾向があり、搬送速度を遅くすれば熱処理ゾーン長を短くすることができる傾向がある。熱処理中の搬送速度(搬送速度を決定するニップロールやサクションドラム等の装置の速度)は一定にしておくことが好ましい。
【0102】
本発明の製造方法における熱処理の方法として、例えば、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を通過させる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱風をあてる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱線を照射する方法、セルロースアシレートフィルムを昇温されたロールに接触させる方法などを挙げることができる。
好ましいのは、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を熱風をあてながら通過させる方法である。この方法によれば、セルロースアシレートフィルムを均一に加熱することができるという利点がある。ゾーン内の温度は、例えば温度センサでモニターしつつヒータで一定温度に制御することにより温度Tに維持することができる。温度Tのゾーン内のセルロースアシレートフィルムの搬送長は、製造しようとする透明ポリマーフィルムの性質や搬送速度によって異なるが、通常は(搬送長)/(搬送するセルロースアシレートフィルムの幅)の比が0.1〜100となるように設定することが好ましく、より好ましくは0.5〜50であり、さらに好ましくは1〜20である。この比は、本明細書において縦横比と略すこともある。温度Tのゾーンの通過時間(熱処理の時間)は、通常0.01〜60分であり、好ましくは0.03〜10分であり、さらに好ましくは0.05〜5分である。前記範囲とすることにより、レタデーションの発現に優れ、フィルムの着色を抑制することができる。
【0103】
本発明の製造方法では、熱処理と同時に延伸してもよい。熱処理時の延伸方向は特に制限されるものではないが、熱処理前のセルロースアシレートフィルムに異方性がある場合には、熱処理前のセルロースアシレートフィルム中のポリマーの配向方向への延伸であることが好ましい。ここで、フィルムに異方性があるとは、音波伝播速度が最大となる方向の音波伝播速度と、これと直交する方向の音波伝播速度との比が、好ましくは1.01〜10.0であり、より好ましくは1.1〜5.0であり、さらに好ましくは1.2〜2.5であることを指す。音波伝播速度が最大となる方向、および各方向の音波伝播速度は、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、配向性測定機(SST−2500:野村商事(株)製)を用いて、超音波パルスの縦波振動の伝搬速度が最大となる方向、および各方向の伝搬速度として求めることができる。
【0104】
例えば、2つのニップロールの間に加熱ゾーンを有する装置を用いてセルロースアシレートフィルムを搬送しながら熱処理を行う場合、加熱ゾーンの入口側のニップロールの回転速度よりも、加熱ゾーンの出口側のニップロールの回転速度を速くすることにより、搬送方向(縦方向)にセルロースアシレートフィルムを延伸することができる。また、セルロースアシレートフィルムの両端をテンタークリップで把持し、これを搬送方向と直交する方向(横方向)に広げながら加熱ゾーンを通過させることにより延伸することもできる。セルロースアシレートフィルムを熱処理中に搬送方向に延伸することによって、レタデーション発現性をさらに調整することができる。搬送方向の延伸倍率は、通常0.8〜100倍、好ましくは1.0〜10倍、より好ましくは1.2〜5倍である。また、セルロースアシレートフィルムを熱処理中に搬送方向と直交する方向に延伸することによって、熱処理後の透明ポリマーフィルムの面状を改良することができる。搬送方向に直交する方向の延伸倍率は、通常0.5〜10倍、好ましくは0.7〜1.0倍、より好ましくは0.8〜1.0倍である。なお、ここでいう延伸倍率(%)とは、以下の式を用いて求めたものを意味する。
【0105】
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
また、前記延伸における延伸速度は10〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20〜1000%/分であり、さらに好ましくは30〜800%/分である。
【0106】
熱処理の際に、セルロースアシレートフィルムを収縮させてもよい。このような収縮は前記収縮熱処理(すなわち非拘束熱処理)で制御せず行っても、前記拘束熱処理で制御しながら行ってもより。当該収縮は、熱処理時に行うことが好ましい。熱処理の際にセルロースアシレートフィルムを収縮させることによって、光学特性および/または力学物性を調整することができるようになる。幅方向に収縮させる工程は、熱処理の際に行うだけでなく、熱処理の前後の工程でも行うことができる。また、幅方向に収縮させる工程は一段で行ってもよく、収縮工程と延伸工程とを繰り返し実施してもよい。
収縮させる場合の収縮率は5〜80%であることが好ましく、10〜70%であることがより好ましく、20〜60%であることがさらに好ましく、25〜50%であることが最も好ましい。なお、収縮の方向は、特に制限されるものではないが、熱処理前のセルロースアシレートフィルムが搬送されて作成されている場合には、当該搬送方向に直交する方向に行うことが好ましい。また、収縮前に延伸(予備延伸等)を行っている場合には、当該延伸方向と直交する方向に、収縮させることが好ましい。収縮率は熱処理温度の調整や、フィルムにかかる外力の調整によって制御することができる。具体的には、フィルムの端部をテンタークリップで把持している場合にはレールの拡幅率などで制御することができる。また、フィルムの端部が固定されておらず、ニップロール等のフィルムを搬送方向に固定する装置によってのみ保持されている場合には、搬送方向に固定する装置間距離の調整や、フィルムにかかるテンションの調整や、フィルムに与えられる熱量の調整などによって制御することができる。幅方向の収縮率は、フィルムが収縮する直前と直後の全幅を計測し、下記式から求める。
【0107】
幅方向の収縮率(%)=100×(収縮直前の全幅−収縮直後の全幅)/収縮直前の全幅
【0108】
[拘束熱処理]
熱処理の際に、セルロースアシレートフィルムをフィルムの配向方向と直交する方向に延伸してもしなくてもよい。前記拘束熱処理によってセルロースアシレートフィルムをフィルムの配向方向と直交する方向に延伸する場合、熱処理ゾーンでの、フィルムの配向方向と直交する方向への寸法変化率は−10%以上であることが好ましく、−10〜100%であることが好ましく、−10〜50%であることがより好ましく、−5〜30%であることがさらに好ましく、−3〜10%であることがさらにより好ましい。このようにすることにより、レタデーション発現性を確保しつつ、フィルムの割れやすさやトタン板状の皺を改良し、さらに広い製品幅を確保することが可能となる。また、ReやRthの湿度依存性を大幅に改良できる、という効果も得られる。なお、この場合、熱処理ゾーンに入る前に、フィルムには予め予備延伸が行われていることが好ましく、予備延伸の方向と、前記熱処理ゾーンにおける寸法変化を与える方向とは略直交であることが好ましい。
【0109】
熱処理工程における、予備延伸の方向に直交する方向への寸法変化率は、例えば予備延伸の方向に直交する方向がフィルムの幅方向である場合、熱処理に伴う幅方向の寸法変化率として以下のようにして求めることができる。
熱処理に伴う幅方向の寸法変化率は、熱処理によってフィルムの全幅が熱処理直前よりも短くなる場合は、熱処理中の最小全幅と熱処理直前の全幅とから、次式で求めることができる。
幅方向への寸法変化率(%)=100×(熱処理中の最小全幅−熱処理直前の全幅)/熱処理直前の全幅
ここでいう熱処理中の最小全幅とは、熱処理工程中においてフィルムが幅方向に最も収縮して短くなったときの幅を意味する。例えば、全幅200cmのフィルムが熱処理中に180cmまで収縮した後に190cmまで膨張した(延伸された)場合は、熱処理中の最小全幅は180cmとなる。
【0110】
熱処理によってフィルムの全幅が熱処理直前よりも短くならない場合や、熱処理工程中にフィルムが収縮するだけで膨張しない場合は、幅方向への寸法変化率は熱処理ゾーン入口におけるフィルム全幅と熱処理ゾーン出口におけるフィルム全幅とから、次式で求めることもできる。
幅方向への寸法変化率(%)=100×(熱処理直後の全幅−熱処理直前の全幅)/熱処理直前の全幅
【0111】
いかなる理論にも拘泥するものではないが、熱処理に伴う予備延伸の方向に直交する方向(好ましくはフィルムの幅方向)への寸法変化率を抑制することによりレタデーションの湿度依存性が低下するのは以下の理由によるものと考えられる。すなわち、上記のようにTc≦T<Tm0の条件を満たす温度Tで熱処理を行うことにより、フィルムの予備延伸と同じ方向に、結晶が優先的に配向しながら成長すると同時に、その周囲に配向した非晶部分も形成されると考えられ、配向した非晶部分は、特に冷却時に外力がかかると、その方向に形成されようとする。これらのうち、結晶部分は負の複屈折性を示し、非晶部分は正の複屈折性を有しているため、互いに複屈折を打ち消しあう効果があり、本発明のセルロースアシレートフィルムにおいては、結晶部分の影響が大きいため、配向した非晶部分を減少させることによりレタデーション発現性を向上させることができる。一方、配向した非晶部分は、水分子と相互作用しており、環境湿度が変化するとレタデーションも変化すると考えられるため、配向した非晶部分を減少させることによって、レタデーションの湿度依存性も低減することができると考えられる。
配向した非晶部分を減少させるためには、熱処理における予備延伸の方向に直交する方向への寸法変化率を抑制することが非常に効果的であると考えられ、さらに、後述のように、熱処理後の冷却過程における搬送テンションを低減させ、フィルムにかかる外力を下げることも併せて有効であると考えられ、その結果、レタデーションの湿度依存性を低減することができる。
【0112】
セルロースアシレートフィルムを温度Tにおいて熱処理する工程は、本発明の製造方法において1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回行うとは、前の熱処理が終了した後に一旦温度をTc未満に下げ、その後、再び温度をTc以上Tm0未満に設定して搬送しながら熱処理を行うことを意味する。複数回熱処理を行う場合は、すべての熱処理が完了した段階で上記の延伸倍率の範囲を満たすことが好ましい。本発明の製造方法における熱処理は、3回以下が好ましく、2回以下がより好ましく、1回が最も好ましい。
【0113】
[熱処理後の冷却]
熱処理を終えたポリマーフィルムは、Tc未満の温度に冷却する。冷却温度は特に制限されるものではないが、好ましくは100〜1,000,000℃/分、より好ましくは1,000〜100,000℃/分、さらに好ましくは3,000〜50,000℃/分でフィルムを冷却する。このような冷却速度でフィルムを冷却する温度幅は、50℃以上であることが好ましく、100〜300℃であることがより好ましく、150〜280℃であることがさらに好ましく、180〜250℃であることが特に好ましい。
このように冷却速度を調整することによって、得られる透明ポリマーフィルム(特にセルロースアシレートフィルム)のレタデーションの発現性をさらに調整することができる。具体的には、冷却速度を速くすることによって、レタデーションの発現性を向上させることができる。また、セルロースアシレートフィルム中の、厚み方向のポリマー鎖の配向の分布を低減させることができ、フィルムの湿度カールを抑制することができる。このような効果は、比較的速い冷却速度で冷却する温度幅を上記の好ましい範囲に制御することによって、さらに十分に得ることができる。その結果、例えば|Rth|/Re<0.5とRe≧30の両方の関係式を満たす透明ポリマーフィルムを得ることができる。また、|Rth|/Re<0.5とRe≧60の両方の関係式を満たす透明ポリマーフィルム、|Rth|/Re<0.5とRe≧100の両方の関係式を満たす透明ポリマーフィルム、|Rth|/Re<0.5とRe≧150の両方の関係式を満たす透明ポリマーフィルム、|Rth|/Re<0.5とRe≧200の両方の関係式を満たす透明ポリマーフィルムも得ることができる。
【0114】
前記冷却速度は、加熱ゾーンの後に、加熱ゾーンより低い温度に保持された冷却ゾーンを設けておいて、これらのゾーンに透明ポリマーフィルムを順次搬送したり、冷却ロールをフィルムと接触させたり、冷却風をフィルムに吹き付けたり、フィルムを冷却された液体に浸漬したりして制御することができる。冷却速度は、冷却工程中において常に一定であることは必要とされず、冷却工程の初期と終盤は冷却速度を小さくし、その間において冷却速度を大きくしてもよい。冷却速度は、後述する実施例に記載されるようにフィルム膜面上に配置した熱電対によって複数地点の温度を測定することにより求めることができる。
【0115】
[熱処理後の延伸]
本発明の製造方法では、セルロースアシレートフィルムの熱処理に続けて延伸を行ってもよい。熱処理に続けて行われる延伸は、熱処理後に透明ポリマーフィルムがTc未満の温度まで冷却された後に行われてもよく、熱処理温度を保ったまま冷却されることなく行われてもよい。一旦ポリマーフィルムが冷却される場合、冷却は自然放冷してTc未満の温度になった状態でもよいし、強制的に冷却してTc未満の温度になった状態でもよい。また、いったん冷却した後に再度Tc未満に加熱した状態でもよい。一旦フィルムを冷却する場合の冷却温度は、前記熱処理温度よりも50℃以上低いことが好ましく、100〜300℃低いことがより好ましく、150〜250℃低いことがさらに好ましい。熱処理温度よりも冷却温度を50℃以上低くすることによって熱処理後のフィルムのRth/Re値を容易に制御できる傾向がある。また、一旦フィルムを冷却温度まで冷却した後に再度Tc未満の温度に加熱してから延伸することが好ましい。前記熱処理温度と延伸温度との差は1℃以上であることが好ましく、10〜200℃がより好ましく、30〜150℃がさらに好ましく、50〜100℃が特に好ましい。この温度差を適切に設定することによって、Rth/Re値を制御することができる。具体的には、熱処理温度と延伸温度との差を大きくすればRth/Re値が上昇する傾向があり、差を小さくすればRth/Re値の変化が小さくなる傾向がある。
【0116】
延伸の方法としては、上記の熱処理中の延伸の説明にて記載した方法等を採用することができる。延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。好ましいのは、上記のニップロールの回転速度を変えることにより搬送方向に延伸する方法とポリマーフィルムの両端をテンタークリップで把持してこれを搬送方向と直交する方向に広げることより延伸する方法である。特に好ましいのは、熱処理の際に延伸を行わないか、あるいは、ニップロールの回転速度を変えることにより搬送方向に延伸しておき、熱処理後にポリマーフィルムの両端をテンタークリップで把持してこれを搬送方向と直交する方向に広げることより延伸する態様である。
【0117】
延伸倍率は透明ポリマーフィルムに要求するレタデーションに応じて適宜設定することができ、1〜500%が好ましく、3〜400%がより好ましく、5〜300%がさらに好ましく、10〜100%が特に好ましい。延伸速度は10〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20〜1000%/分であり、さらに好ましくは30〜800%/分である。
【0118】
熱処理後に延伸を行うことにより、得られる透明フィルムのReとRthを調整することができる。例えば、熱処理後の延伸温度を高くすることによって、Reをあまり変化させずにRthを低下させることができる。また、熱処理後の延伸倍率を高くすることによって、Reを低下させRthを上昇させることもできる。これらは、ほぼ線形的な相関関係を示すことから、熱処理後の延伸条件を適当に選択することによって、目的とするReやRthを達成しやすくなる。熱処理が終わった後、延伸を行う前の状態の透明ポリマーフィルムのReやRthは特に制限されない。
【0119】
《透明ポリマーフィルム》
(本発明の透明ポリマーフィルムの光学的特徴)
上記の本発明の製造方法によれば、面内レタデーションが逆波長分散化した透明ポリマーフィルムを得ることができる。すなわち、本発明の添加化合物をフィルム中に添加して本発明の製造方法により透明ポリマーフィルムを製造することにより、ΔReを正の方向に変化させることができる。本発明の添加化合物を添加して本発明の製造方法を実施すれば、ΔReが負である透明ポリマーフィルムのΔReをゼロに近づけたり、正にしたりすることが可能である。本発明の製造方法により得られる透明ポリマーフィルムは、ΔReが正である波長分散が逆分散であるフィルムが好ましい。
【0120】
(レタデーション)
本明細書において、Re、Rth(単位;nm)は次の方法に従って求めたものである。まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて下記式(8)で表される平均屈折率(n)を求める。
式(8): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
【0121】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λ(単位;nm)における面内レタデーションおよび厚さ方向のレタデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが一軸または二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、λに関する記載が特になく、Re、Rthとのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレタデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレタデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレタデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(9)および式(10)よりRthを算出することもできる。
【0122】
式(9)
【数2】

[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタ−デーション値を表す。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する厚み方向の屈折率を表し、dはフィルムの膜厚を表す。]
式(10): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
【0123】
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
ここで平均屈折率の仮定値は、「ポリマーハンドブック」(JOHN WILEY & SONS,Inc.)、および各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについては、アッベ屈折計で測定することができる。本明細書において、セルロースアシレートの平均屈折率の仮定値は1.48とした。これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0124】
本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムは、測定波長が550nmであるときの面内レタデーションRe(550nm)と、測定波長が630nm及び450nmであるときの面内レタデーション値の差ΔRe[=Re(630nm)−Re(450nm)]が下記式(5)および(6)を同時に満足することが好ましい。
式(5): Re(550nm)>0
式(6): ΔRe>0
さらに本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムは、下記式(5a)および(5b)を同時に満足することがより好ましい。
式(5a): Re(550nm)=20〜300
式(5b): ΔRe=10〜100
【0125】
(X線回折強度)
本発明において、セルロースアシレートフィルムのX線回折強度は、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、イメージングプレート読み取り装置付きX線回折装置(R−AXIS Rapid−S:(株)リガク製)を用いて、フィルムを透過したビームの回折写真から求めた(Cu Kα線 50kV 100mA 3分 コリメーター0.8mmφ)。フィルム面に対し鉛直方向からビームを入射した場合の2次元回折イメージを撮影し、ブランク測定の2次元回折イメージを差し引いた。また、フィルムの搬送方向を長手として20mm×0.30mmに切り出した切片試料を作製し、この試料の断面中央部に対し鉛直方向からビームを入射した場合の2次元回折イメージを撮影し、ブランク測定の2次元回折イメージを差し引いた。同様に、フィルムの搬送方向と直交する方向を長手として20mm×0.30mmに切り出した切片試料を作製し、この試料の断面中央部に対し鉛直方向からビームを入射した場合の2次元回折イメージを撮影し、ブランク測定の2次元回折イメージを差し引いた。
上記3通りの測定結果を平均化した2次元回折イメージを算出し、この2次元回折イメージについて、方位角90〜270°の回折プロファイルを平均化した回折プロファイルI(2θ)を求めた。ここで、ビームストッパーによってビームが除去されている方位を方位角0°と定義した。ここで、θはブラッグ角を表す。
上記2θプロファイルについて、2θ=24.9°および28.7°におけるプロットI(24.9°)およびI(28.7°)の間を結ぶ直線をベースラインf(2θ)とし、2θが24.9〜28.7°の間に存在するピークのエリア強度Icを下記式(I)に従って求めた。ただし、Icが負の値となった場合はIc=0とした。また、2θが24.9〜28.7°の間に存在する全ての回折シグナルのエリア強度Itを下記式(II)に従って求めた。
【0126】
【数3】

[式中、I(2θ)は、全方位について平均化したフィルムのX線回折プロファイル、f(2θ)は上記回折プロファイルI(2θ)について、2θ=24.9°および28.7°におけるプロットI(24.9°)およびI(28.7°)の間を結ぶ直線(ベースライン)である。但し、θはブラッグ角である。]
【0127】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記IcおよびItが下記式(III)を満たすことが好ましい。
式(III): 0.08≦Ic/It≦0.4
前記式(2)の条件を満たす温度Tでセルロースアシレートフィルムを熱処理することによって、2θ=24.9°〜28.7°におけるX線回折のピーク強度を適切に制御でき、Ic/Itを0.08以上とすることにより、負の固有複屈折を効果的に発現できる。またIc/Itを0.4以下とすることにより、フィルムの脆性を損なうことなく透明フィルムを得ることができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記IcおよびItが下記式(IIIa)を満たすことがより好ましい。
式(IIIa): 0.08≦Ic/It≦0.3
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記IcおよびItが下記式(IIIb)を満たすことがさらに好ましい。
式(IIIb): 0.10≦Ic/It≦0.2
【0128】
(湿度依存性)
本発明において、相対湿度がH(単位;%)であるときの面内方向および膜厚方向のレタデーション値:Re(H%)およびRth(H%)は、フィルムを25℃、相対湿度H%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度H%において、前記方法と同様にして、相対湿度H%における測定波長が590nmであるときのレタデーション値を測定、算出したものである。
【0129】
本発明の透明ポリマーフィルムの湿度を変化させた場合のレタデーション値は、以下の関係式を満たすことが好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|<50、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<50
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|<30、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<40
また以下の関係式を満たすことがさらに好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|<20、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<30
また以下の関係式を満たすことが最も好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|<10、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<15
【0130】
また、本発明の透明ポリマーフィルムの湿度を変化させた場合のレタデーション値は、以下の関係式も満たすことが好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|/Re<3、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|/Rth<3
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|/Re<1、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|/Rth<1
また以下の関係式を満たすことがさらに好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|/Re<0.5、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|/Rth<0.7
また以下の関係式を満たすことが最も好ましい。
|Re(10%)−Re(80%)|/Re<0.2、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|/Rth<0.4
上記湿度を変化させた場合のレタデーション値を制御することにより、外部環境が変化した場合のレタデーション変化を低下させることができ、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【0131】
(遅相軸)
本発明の透明ポリマーフィルムは、製造時の搬送方向とフィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0±10°もしくは90±10°であることが好ましく、0±5°もしくは90±5°であることがより好ましく、0±3°もしくは90±3°であることがさらに好ましく、場合により、0±1°もしくは90±1°であることが好ましく、90±1°であることが最も好ましい。
【0132】
(膜厚)
本発明の透明ポリマーフィルムの膜厚は20μm〜180μmが好ましく、30μm〜160μmがより好ましく、40μm〜120μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明の透明ポリマーフィルムの膜厚むらは、搬送方向および幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0133】
(透湿度)
本発明の透明ポリマーフィルムの透湿度は、80μm換算で100g/(m2・day)以上であることが好ましい。前記80μm換算の透湿度を100g/(m2・day)以上としたフィルムを使用することで、偏光膜と直接貼合しやすくなる。前記80μm換算の透湿度としては、100〜1500g/(m2・day)がより好ましく、200〜1000g/(m2・day)がより好ましく、300〜800g/(m2・day)がさらに好ましい。
また、本発明の透明ポリマーフィルムを後述のように偏光膜と液晶セルとの間に配置されない外側の保護フィルムとして用いる場合、本発明の透明ポリマーフィルムの透湿度は、80μm換算で500g/(m2・day)未満であることが好ましく、100〜450g/(m2・day)がより好ましく、100〜400g/(m2・day)がさらに好ましく、150〜300g/(m2・day)が最も好ましい。このようにすることで、湿度もしくは湿熱に対する偏光板の耐久性が向上し、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【0134】
(透明ポリマーフィルムの構成)
本発明の透明ポリマーフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていても良いが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のポリマーフィルムを意味する。そして、複数のセルロースアシレート溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のポリマーフィルムを製造する場合も含む。この場合、添加剤の種類や配合量、ポリマーの分子量分布やポリマーの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなポリマーフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0135】
本発明の透明ポリマーフィルムには、適宜、表面処理を行うことにより、各機能層(例えば、下塗層、バック層、光学異方性層)との接着を改善することが可能となる。前記表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、鹸化処理(酸鹸化処理、アルカリ鹸化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリ鹸化処理が好ましい。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。これらの表面処理方法の詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0136】
フィルム表面と機能層との接着性を改善するため、表面処理に加えて、或いは表面処理に代えて、本発明の透明ポリマーフィルム上に下塗層(接着層)を設けることもできる。前記下塗層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。また、セルロースアシレートフィルム上に設けられる機能性層について、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これに記載のものを適宜、本発明の透明ポリマーフィルム上に使用することができる。
【0137】
《位相差フィルム》
本発明の透明ポリマーフィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明の透明ポリマーフィルムを用いることで、Re値およびRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。 また、本発明の透明ポリマーフィルムを複数枚積層したり、本発明の透明ポリマーフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。 また、場合により、本発明の透明ポリマーフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つポリマーフィルムから形成してもよいし、本発明の透明ポリマーフィルムから形成してもよい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0138】
[ディスコティック液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang etal.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0139】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0140】
[棒状液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例は、例えば、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、および特開2001−328973号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0141】
《偏光板》
本発明の透明ポリマーフィルムまたは位相差フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明ポリマーフィルム)からなり、本発明の透明ポリマーフィルムまたは位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。
本発明の透明ポリマーフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明の透明ポリマーフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、または、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0142】
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明の透明ポリマーフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記透明ポリマーフィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0143】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明の透明ポリマーフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明の透明ポリマーフィルムは、液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)との間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。また、前記偏光膜を挟んで本発明の透明ポリマーフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0144】
《液晶表示装置》
本発明の透明ポリマーフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明の透明ポリマーフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は特にVAモードおよびIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0145】
(TN型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0146】
(STN型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0147】
(VA型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。これらの態様において本発明の透明ポリマーフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0148】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体、または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明の透明ポリマーフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0149】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置或いはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムには、レタデーションの絶対値が最小となる方向が位相差フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0150】
(反射型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest-Host)型の反射型液晶表示装置の位相差フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0151】
(その他の液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))に記載がある。
【0152】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明の透明ポリマーフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明の透明ポリマーフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明の透明ポリマーフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0153】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0154】
《測定法》
まず、実施例および比較例において用いた特性の測定法および評価法を以下に示す。
【0155】
[置換度]
セルロースアシレートのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83-91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0156】
[Tm0
DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に現れた吸熱ピークの開始温度を熱処理前のセルロースアシレートフィルムのTm0とした。
【0157】
[Tc]
DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に現れた発熱ピークの開始温度を熱処理前のセルロースアシレートフィルムのTcとした。
【0158】
[重合度]
製造したセルロースアシレートを絶対乾燥した後、約0.2gを精秤し、ジクロロメタン:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mLに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度DPを以下の式により求めた。
ηrel=T/T0
[η]=ln(ηrel)/C
DP=[η]/Km
[式中、Tは測定試料の落下秒数、T0は溶剤単独の落下秒数、lnは自然対数、Cは濃度(g/L)、Kmは6×10-4である。]
【0159】
[偏光度]
作製した2枚の偏光板を吸収軸を平行に重ね合わせた場合の透過率(Tp)および吸収軸を直交させて重ね合わせた場合の透過率(Tc)を測定し、下記式で表される偏光度(P)を算出した。
偏光度P=((Tp−Tc)/(Tp+Tc))0.5
【0160】
[透湿度]
本発明における透湿度は、塩化カルシウムを入れたカップをフィルムを用いて蓋をし、且つ密閉したものを、40℃・相対湿度90%の条件で24時間放置した際の調湿前後の質量変化(g/(m2・day))から評価した値である。
【0161】
《合成例1》 セルロースアセテートプロピオネートの合成
セルロース(広葉樹パルプ)150g、酢酸75gを、反応容器である還流装置を付けた5Lセパラブルフラスコに取り、60℃に調節したオイルバスにて加熱しながら、2時間激しく攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、フラッフ状を呈した。反応容器を2℃の氷水浴に30分間置き冷却した。
別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1545g、硫酸10.5gの混合物を作
製し、−30℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を徐々に上昇させ、アシル化剤の添加から2時間経過後に内温が25℃になるように調節した。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、アシル化剤の添加から0.5時間後に内温が10℃、2時間後に内温が23℃になるように調節し、内温を23℃に保ってさらに3時間攪拌した。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、5℃に冷却した25質量%含水酢酸120gを1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、1.5時間攪拌した。次いで反応容器に、50質量%含水酢酸に酢酸マグネシウム4水和物を硫酸の2倍モル溶解した溶液を添加し、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸1L、33質量%含水酢酸500mL、50質量%含水酢酸1L、水1Lをこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートの沈殿は温水にて洗浄を行った。このときの洗浄条件を変化させることで、残硫酸根量を変化させたセルロースアセテートプロピオネートを得ることができる。洗浄後、20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、洗浄液のpHが7になるまで、さらに水で洗浄を行った後、70℃で真空乾燥させた。
1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル化度0.30、プロピオニル化度2.63、重合度320であった。硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96により測定した。
【0162】
《合成例2》 セルロースアセテートブチレートの合成
セルロース(広葉樹パルプ)100g、酢酸135gを、反応容器である還流装置を付けた5Lセパラブルフラスコに取り、60℃に調節したオイルバスにて加熱しながら、1時間放置した。その後、60℃に調節したオイルバスにて加熱しながら、1時間激しく攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、フラッフ状を呈した。反応容器を5℃の氷水浴に1時間置き、セルロースを十分に冷却した。
別途、アシル化剤として酪酸無水物1080g、硫酸10.0gの混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を20℃まで上昇させ、5時間反応させた。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、約5℃に冷却した12.5質量%含水酢酸2400gを1時間かけて添加した。内温を30℃に上昇させ、1時間攪拌した。次いで反応容器に、酢酸マグネシウム4水和物の50質量%水溶液を100g添加し、30分間攪拌した。酢酸1000g、50質量%含水酢酸2500gを徐々に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートブチレートの沈殿は温水にて洗浄を行った。このときの洗浄条件を変化させることで、残硫酸根量を変化させたセルロースアセテートブチレートを得ることができる。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、さらに、洗浄液のpHが7になるまで水で洗浄を行った後、70℃で乾燥させた。得られたセルロースアセテートブチレートはアセチル化度0.84、ブチリル化度2.12、重合度268であった。
【0163】
《実施例1〜20、比較例1〜12》 透明ポリマーフィルムの製造
(セルロースアシレート溶液の調製)
1)セルロースアシレート
各実施例および比較例において、下記のセルロースアセレートA〜Dの中から表2に記載されるものを選択して使用した。各セルロースアシレートは、上記合成例と同様の方法により製造した。また、各セルロースアシレートは120℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、15質量部を使用した。
・セルロースアシレートA:
置換度が2.85のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートAの粘度平均重合度は300、6位のアセチル基置換度は0.89、アセトン抽出分は7質量%、質量平均分子量/数平均分子量比は2.3、含水率は0.2質量%、6質量%ジクロロメタン溶液中の粘度は305mPa・s、残存酢酸量は0.1質量%以下、Ca含有量は65ppm、Mg含有量は26ppm、鉄含有量は0.8ppm、硫酸イオン含有量は18ppm、イエローインデックスは1.9、遊離酢酸量は47ppmであった。粉体の平均粒子径は1.5mm、標準偏差は0.5mmであった。
・セルロースアシレートB:
置換度が2.95のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートBの粘度平均重合度は300、6位のアセチル基置換度は0.94であった(40℃・相対湿度90%における透湿度は膜厚80μm換算で400〜1200g/(m2・day)の範囲内)。
・セルロースアシレートC:
アセチル置換度が2.55で、プロピオニル置換度が0.3のセルロースアセテートプロピオネートを用いた。
・セルロースアシレートD:
アセチル置換度が2.55で、ブチリル置換度が0.3のセルロースアセテートブチレートを用いた。
【0164】
2)溶媒
各実施例および比較例において、ジクロロメタン/メタノール/ブタノール(83/15/2質量部)の混合溶媒を使用した。なお、溶媒の含水率は、いずれも0.2質量%以下であった。
【0165】
3)添加剤
各実施例および比較例において、二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)0.08質量部を使用した。また、本発明の添加化合物として、表1に示す添加剤A〜Jの中から表2に記載されるものを選択し、表2に示す添加量になるように混合し、製膜用ドープを調製した。表1には、添加剤A〜JのΔΔn0calc、アスペクト比A、(A−1)×ΔΔn0calcも示した。ΔΔn0calcとアスペクト比Aの定義と算出法は上記の[本発明の添加化合物]の欄に記載したとおりである。なお、ここでは密度ρは1とした。
【0166】
【表1】

【0167】
4)膨潤、溶解
各実施例および比較例において、下記の溶解工程AおよびBの中から表2に記載される方を選択して使用した。
・溶解工程A
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、前記溶媒および添加剤を投入して撹拌、分散させながら、前記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて2時間撹拌し、3時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート溶液を得た。
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2〔4.9×105N/m/sec2〕)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2〔9.8×104N/m/sec2〕)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。
膨潤した溶液をタンクから、ジャケット付配管で50℃まで加熱し、さらに2MPaの加圧化で90℃まで加熱し、完全溶解した。加熱時間は15分であった。この際、高温にさらされるフィルター、ハウジング、および配管はハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有する物を使用した。
次に36℃まで温度を下げ、セルロースアシレート溶液を得た。
・溶解工程B
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、前記溶媒および添加剤を投入して撹拌、分散させながら、前記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて2時間撹拌し、3時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート溶液を得た。
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2〔4.9×105N/m/sec2〕)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2〔9.8×104N/m/sec2〕)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。
膨潤した溶液をタンクから、軸中心部を30℃に加温したスクリューポンプで送液して、そのスクリュー外周部から冷却して−70℃で3分間となるように冷却部分を通過させた。冷却は冷凍機で冷却した−75℃の冷媒を用いて実施した。冷却により得られた溶液は、スクリューポンプで送液柱に30℃に加温し、ステンレス製の容器に移送した。
次に30℃まで温度を下げ、30℃で2時間撹拌し、セルロースアシレート溶液を得た。
【0168】
5)ろ過
得られた溶液を、絶対濾過精度10μmの濾紙(#63、東洋濾紙(株)製)で濾過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの金属焼結フィルター(FH025、ポール社製)にて濾過してセルロースアシレート溶液を得た。
【0169】
(フィルムの作製)
前記セルロースアシレート溶液を30℃に加温し、流延ギーサー(特開平11−314233号公報に記載)を通して15℃に設定したバンド長60mの鏡面ステンレス支持体上に流延した。流延スピードは50m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをバンドから剥ぎ取り、45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥して、セルロースアシレートの膜厚80μmの透明フィルムを得た。
【0170】
(予備延伸)
実施例20および比較例12において、下記の予備延伸工程Aを使用した。
フィルムの予備延伸倍率は、フィルムの搬送方向と直交する方向に一定間隔の標線を入れ、その間隔を熱処理前後で計測し、下記式から求めた。
フィルムの予備延伸倍率(%)=100×(熱処理後の標線の間隔−熱処理前の標線の間隔)/熱処理前の標線の間隔
また、各実施例において、予備延伸後のフィルム幅の減少率は、10〜25%であった。
【0171】
・予備延伸工程A
上記製膜したセルロースアシレートフィルムを、ロール延伸機を用いて縦一軸延伸処理を実施した。ロール延伸機のロールは表面を鏡面処理した誘導発熱ジャケットロールを用い、各ロールの温度は個別に調整できるようにした。延伸ゾーンはケーシングで覆い表1に記載の温度とした。延伸部の前のロールは徐々に160℃に加熱できるように設定した。延伸倍率は、ニップロールの周速を調整することで40%に制御した。縦横比(ニップロール間の距離/ベース入口幅)は0.5となるように調整し、延伸速度は延伸間距離に対して10%/分とした。
【0172】
(熱処理)
下記の熱処理工程AまたはBから選択し、表2に記載した。
【0173】
・熱処理工程A
得られたフィルムを、2つのニップロール間に加熱ゾーンを有する装置を用いて熱処理した。縦横比(ニップロール間の距離/ベース幅)は3.3となるように調整し、加熱ゾーンは表2記載の温度とし、2つのニップロールを通過した後、フィルムを1000℃/分で25℃まで冷却した。また、フィルムの伸びは、フィルムの搬送方向と直交する方向に一定間隔の標線を入れ、その間隔を熱処理前後で計測し、下記式から求めた。
フィルムの伸び(%)=100×(熱処理後の標線の間隔−熱処理前の標線の間隔)/熱処理前の標線の間隔
・熱処理工程B
得られたフィルムの両端をテンタークリップで把持した後、加熱ゾーン内を通過させた。幅方向の寸法変化率は、テンターの拡縮率を変更することにより調整した。加熱ゾーンの温度、および前述の方法にしたがって求めた加熱ゾーンの温度、および前述の方法にしたがって求めたフィルムの搬送方向のフィルムの伸びは、表2に記載した。
【0174】
(再延伸)
全ての実施例およびにおいて、下記の再延伸工程を使用した。得られたフィルムの両端をテンタークリップで把持した後、加熱ゾーン内で搬送方向と直交する方向に延伸した。加熱ゾーンの温度、およびテンターの拡縮率から算出した延伸倍率は、2%だった。なお、熱処理工程Aを用いた場合は、熱処理ゾーン入口にてテンタークリップで把持した後、テンタークリップを外すことなく、そのまま再延伸ゾーンに搬送した。
【0175】
(透明ポリマーフィルムの評価)
得られた各透明ポリマーフィルムのRe(550nm)、ΔRe、Re80(550nm)、ΔRe80、Read80(550nm)、ΔRead80、Read80,%(550nm)、ΔRead80,% 、Rth(550nm)、Rth80(550nm)を測定・計算した。それぞれの意味は以下のとおりである。dは透明ポリマーフィルムの厚みである。
Re(550nm): 測定波長550nmにおける面内レタデーション
[(nx−ny)×d;nxは延伸方向に直交方向の屈折率、nyは延伸方向の屈折率、dは膜厚]
ΔRe=Re(630nm)−Re(450nm)
[ΔReは面内レタデーションの波長分散パラメータ]
Re80(550nm)=Re(550nm)×80/d
[Re80(550nm)はRe(550nm)の80μm厚換算値]
Read80(550nm)=[添加剤ありでのRe80(550nm)]−[添加剤なしでのRe80(550nm)]
ΔRead80=[添加剤ありでのRead80]−[添加剤なしでのRead80
Read80,%(550nm)=Read80(550nm)/添加剤の添加量
ΔRead80,%=ΔRead80/添加剤の添加量
Rth(550nm): 測定波長550nmにおける厚み方向レタデーション
[{(nx+ny)/2−nz}×d;nzは厚み方向の屈折率]
Rth80(550nm)=Rth(550nm)×80/d
[Rth80(550nm)はRth(550nm)の80μm厚換算値]
【0176】
結果を下記表3に示す。全ての実施例、比較例でフィルムの遅相軸はフィルムの幅方向に観測された。
【0177】
【表2】

【0178】
【表3】

【0179】
(添加剤によるΔRe変化)
表2に示したように、本発明の条件を満たす実施例1〜20では、本発明の添加化合物を添加することによってΔRe80が増加し、ΔRead80とΔRead80,%が正の値を示した。すなわち、本発明の添加化合物を添加することによって、面内レタデーションが逆波長分散化することが確認された。一方、ΔΔn0calcが0であり本発明の条件を満たさない化合物を添加した比較例8および11では、ΔRe80が減少し、ΔRead80とΔRead80,%が負の値を示した。また、本発明の条件を満たす化合物を添加した場合であっても、本発明の範囲外の温度で熱処理を行った比較例9および10では、ΔRead80とΔRead80,%が負の値を示した。
また、全ての実施例において、フィルム幅方向に遅相軸が発現した。これらの位相差フィルムは偏光板とロールツーロールで貼りあわせることができるため好ましい。
【0180】
また、(A−1)×ΔΔn0calcと添加量当たりの逆分散発現性ΔRead80,%の関係を図1に示す。両者の間には相関が認められ、(A−1)×ΔΔn0calc≦−0.01ではΔRead80,%が正になって、面内レタデーションが逆波長分散化することが確認された。
【0181】
《実施例101》 積層位相差フィルムの作製と評価
本発明の透明ポリマーフィルムは、位相差フィルムとしてそのまま使用することができるが、ここでは、粘着剤を用いてフィルムをロールツーロールで貼り合わせることにより、Rth/Re比を制御した位相差フィルムを作製した。フジタックTD80UF(富士フイルム(株)製)と実施例1の透明ポリマーフィルムとを粘着剤(ポリ(メチルアクリレート/ブチルアクリレート/ヒドロキシエチルアクリレート)とトルエンジイソシアネートおよびジグリシジルエチレングリコールからなる)を用いてロールツーロールで貼り合せた。位相差フィルムのReの遅相軸は、フィルムの幅方向に観測され、偏光板としては優れた面状であった。
【0182】
《実施例102》 偏光板の作製と評価
1)フィルムのケン化
実施例101で得られたフィルムを、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(ケン化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を30秒流水下で通して、フィルムを中性にした状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、ケン化処理したフィルムを作製した。得られたフィルムは面状も優れたものであり、光学特性などもケン化前の特性をほぼ維持したものであった。
【0183】
2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0184】
3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、前記ケン化処理したフィルムを、フィルムの鹸化面を偏光膜側に配置し、これらで前記偏光膜を挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とフィルムの長手方向とが直交するように貼り合わせて、偏光板を調製した。
【0185】
4)偏光板の評価
(初期偏光度)
前記偏光板の偏光度を下記方法で算出した。初期偏光度、経時偏光度1および経時偏光度2は、全て99.9%であり、優れた偏光板特性を示した。
(経時偏光度1)
前記偏光板のケン化処理したフィルム側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、60℃・相対湿度95%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出した。いずれも視野角特性は良好であった。
(経時偏光度2)
前記偏光板のケン化処理したフィルム側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、90℃・相対湿度0%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出したところ、偏光度の低下は0.1%≦であり商品としては問題にならないレベルであった。
【0186】
《実施例103》 液晶表示装置の作製と評価
実施例102で製造した偏光板をIPS型液晶表示装置(32V型ハイビジョン液晶テレビモニター(W32−L7000)、日立製作所(株)製)に組み込まれていた偏光板の代わりに組み込んだところ、視野角特性が改善された。この効果は、液晶表示装置を低湿条件(25℃・相対湿度10%)で500時間放置した後に観察した場合にも、高湿条件(25℃・相対湿度80%)で500時間放置した後に観察した場合にも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明の製造方法によれば、面内レタデーションを逆波長分散化した透明ポリマーフィルムを提供することができる。本発明によれば、そのような性質を有する透明ポリマーフィルム、それを用いた位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置も提供することができる。このため本発明は、光ディスク用ピックアップやPS変換素子用途などに用いられるλ/4板や、液晶表示装置の画像の視野角依存性を改良する光学補償フィルムなどに広範囲に応用されうる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】(A−1)×ΔΔn0calcとΔRead80,%の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で規定される固有複屈折の波長分散パラメータΔΔn0calcが負である化合物を含有するセルロースアシレートフィルムを、下記式(2)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とする透明ポリマーフィルムの製造方法。
式(1): ΔΔn0 calc= Δn0 calc(630nm)−Δn0 calc(450nm)
[上式において、Δn0 calc(630nm)は測定波長630nmにおける固有複屈折を表し、Δn0 calc(450nm)は測定波長450nmにおける固有複屈折を表す。]
式(2): Tc≦T<Tm0
[式中、Tcは熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度(単位;℃)を表し、Tm0は熱処理前のセルロースアシレートフィルムの融点(単位;℃)を表す。]
【請求項2】
前記化合物が下記式(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
式(3): (A−1)×ΔΔn0calc ≦−0.01
[式中、Aは前記化合物のアスペクト比を表す。]
【請求項3】
前記熱処理する工程において前記セルロースアシレートフィルムを延伸することを特徴とする請求項1または2に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記延伸が2つ以上のニップロール間に加熱ゾーンを有する装置内において行う縦延伸であることを特徴とする請求項3に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記セルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートが下記式(4)を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
式(4): 2.70<SA+SB≦3.00
[式中、SAはセルロースの水酸基に置換されているアセチル基の置換度を表し、SBはセルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度を表す。]
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする透明ポリマーフィルム。
【請求項7】
下記式(5)および(6)を同時に満足することを特徴とする請求項6に記載の透明ポリマーフィルム。
式(5): Re(550nm)>0
式(6): ΔRe>0
[式中、Re(λ)は、測定波長がλであるときの面内レタデーション値(単位;nm)を表す。ΔReは測定波長が630nm及び450nmであるときの面内レタデーション値の差、Re(630nm)−Re(450nm)を表す(単位;nm)。]
【請求項8】
下記式(5a)および(5b)を同時に満足することを特徴とする請求項6または7に記載の透明ポリマーフィルム。
式(5a): Re(550nm)=20〜300
式(5b): ΔRe=10〜100
【請求項9】
少なくとも一枚の請求項6〜8のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムを有することを特徴とする位相差フィルム。
【請求項10】
少なくとも一枚の請求項6〜8のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項11】
前記透明ポリマーフィルムが偏光膜と直接貼合されていることを特徴とする請求項10に記載の偏光板。
【請求項12】
請求項6〜8のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム、請求項9に記載の位相差フィルム、または請求項10または11に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−64006(P2009−64006A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199269(P2008−199269)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】