説明

透明導電体及びその製造方法、その透明導電体を用いた車両のパネル

【課題】 簡単なプロセスで安価に製造することができる低抵抗率の透明導電体及びその製造方法、その透明導電体を用いた車両のパネルを実現する。
【解決手段】 まず、液状リン酸を主成分とする溶媒とスズを含む化合物及び銅を含む化合物とを混合し、混合生成物を作製する。次に、混合生成物をガラス基板に塗布した後に加熱処理する。加熱処理は、所定の焼成雰囲気において、脱水反応などの反応が起きる温度まで昇温し、所定時間保持することにより行う。そして、加熱処理された混合生成物を冷却固化させる。これにより、ガラス基板に塗布された混合生成物は、ガラス基板上に透明導電体の膜として形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属元素を含有するリン酸塩ガラスを主成分とした透明導電体及びその製造方法、その透明導電体を用いた車両のパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルや有機ELなどのフラットパネルディスプレイの電極形成などに用いるための透明導電体の需要が増大している。現在、フラットパネルディスプレイの電極としては、可視光の透過率が高く、抵抗率が低い酸化インジウムスズ(ITO)が用いられている。このような透明導電体として、例えば、特許文献1には、スパッタリング法でガラス基板上に形成された有機EL表示装置用のITO膜が開示されている。
【特許文献1】特開2007−115800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、ITOは高価なインジウムを使用するとともに、一般的な製法はスパッタリング法であるため、コストが高く、ワークの大きさに制限があるという問題がある。また、インジウムを使わない透明導電体として、酸化亜鉛(ZnO)系の材料も検討されているが、上述の技術同様に、プラズマやレーザーアブレーションなどの高コストの工程が必要となるという課題が残されている。
【0004】
そこで、本発明は、簡単なプロセスで安価に製造することができる低抵抗率の透明導電体及びその製造方法、その透明導電体を用いた車両のパネルを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、金属元素を含有するリン酸塩ガラスを主成分とした透明導電体であって、前記金属元素がスズ、銅及びシリコンであることを特徴とする透明導電体、という技術的手段を用いる。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、シリコン含有リン酸塩ガラスにより透明性を得るとともに、金属元素として銅が含有されているため、抵抗率を低減することができる。また、金属元素としてスズが含有されているため、リン酸塩ガラスの吸湿性を改善し、安定化させることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の透明導電体において、前記銅が前記スズよりも多く含有されている、という技術的手段を用いる。
【0008】
請求項2に記載の発明のように、本発明の透明導電体は、銅がスズよりも多く含有されている場合に良好な抵抗率を発現することができる。
【0009】
請求項3に記載の発明では、液状リン酸を主成分とする溶媒と、スズを含む化合物と、銅を含む化合物と、シリコンを含む基板と、を用意し、前記溶媒と、前記各化合物とを混合し、混合生成物を作製する工程と、前記混合生成物を前記基板に塗布した後に加熱処理する工程と、前記加熱処理された混合物を冷却固化させる工程と、を備え、請求項1または請求項2に記載の透明導電体を製造する、という技術的手段を用いる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、液状リン酸を主成分とする溶媒と、スズを含む化合物と、銅を含む化合物とを用意し、この溶媒と、各化合物とを混合し、混合生成物を作製し、この混合生成物を前記基板に塗布した後に加熱処理した後に、冷却固化させることにより、請求項1または請求項2に記載の透明導電体を製造することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明では、車両のパネルの加熱装置において、車両のパネルに、請求項1または請求項2に記載の透明導電体により抵抗パターンが形成されて加熱部が構成された、という技術的手段を用いる。
【0012】
請求項4に記載の発明のように、車両のパネルに、請求項1または請求項2に記載の透明導電体により抵抗パターンが形成されて加熱部が構成された車両のパネルの加熱装置では、視界を邪魔することなく、例えば、自動車のフロントウィンドウ、リアウインドウの霜取りや曇り止めを行うことができる。
【0013】
請求項5に記載の発明では、車両のパネルの加熱装置において、請求項3に記載の透明導電体の製造方法により、車両のパネルに、透明導電体による抵抗パターンが形成されて加熱部が構成された、という技術的手段を用いる。
【0014】
請求項5に記載の発明のように、請求項3に記載の透明導電体の製造方法により、車両のパネルに、透明導電体による抵抗パターンが形成されて加熱部を構成することにより、車両のパネルの加熱装置を製造することができる。これにより、大型であるため従来の方法では製造が困難である透明導電体を備えた車両のパネルの加熱装置を、簡単なプロセスで、製造コストを低減して製造することができる。例えば、自動車のフロントウィンドウ、リアウインドウの霜取りや曇り止め用の加熱装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[第1実施形態]
本発明に係るリン酸塩ガラスを主成分とした透明導電体について説明する。図1は、透明導電体の製造工程を示すフロー図である。なお、実施例における具体的な記載内容は、本発明を限定するものではない。
【0016】
まず、液状リン酸を主成分とする溶媒と、スズを含む化合物と、銅を含む化合物と、シリコンを含む基板と、を用意する。液状リン酸を主成分とする溶媒としては、オルトリン酸を好適に用いることができる。その他、液状リン酸を主成分とする溶媒としては、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、亜リン酸、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸水素二ナトリウム、亜リン酸三ナトリウム、三塩化リン、五塩化リンなどを用いることができる。スズを含む化合物として、酸化スズ、酢酸スズなどを好適に用いることができる。銅を含む化合物として、酸化銅などを好適に用いることができる。シリコンを含む基板として、例えば、ガラスを好適に用いることができる。
【0017】
ステップS1では、溶媒とスズを含む化合物及び銅を含む化合物とを混合し、混合生成物を作製する。混合生成物としてゾル溶液が生成する場合には、続くステップS2においてこのゾル溶液を用いる。また、沈殿物が生成する場合には、混合生成物として、上澄み液を用いる場合と、沈殿物を用いる場合がある。ここで、混合生成物に銅がスズよりも多く含有されるように混合すると好適である。
【0018】
次に、ステップS2では、ステップS1で作製した混合生成物をガラス基板に塗布した後に加熱処理する。ここで、混合生成物を塗布する厚さは、要求される透過性を満足する厚さに調整する。加熱処理は、所定の焼成雰囲気において、脱水反応などの反応が起きる温度まで昇温し、所定時間保持することにより行う。例えば、溶媒としてオルトリン酸を用いた場合には、メタリン酸に変化する300℃以上に大気中で昇温する。本工程において、混合生成物はガラス基板と共晶を形成し、シリコンを含有する。
【0019】
続くステップS3では、ステップS2において加熱処理された混合生成物を冷却固化させる。冷却固化は、例えば、自然冷却で降温することにより行う。これにより、ガラス基板に塗布された混合生成物は、ガラス基板上に透明導電体の膜として形成される。
【0020】
上述の工程のように、高価なインジウムなどを用いずに、簡単なプロセスで透明導電体を安価に製造することができる。
【0021】
このように形成された透明導電体は、シリコン含有リン酸塩ガラスにより透明性を得るとともに、金属元素として銅が含有されているため、抵抗率を低減することができる。また、金属元素としてスズが含有されていない透明導電体は吸湿性を有しており、安定した抵抗値を維持することができないが、本実施形態の透明導電体は、金属元素としてスズが含有されているため、リン酸塩ガラスの吸湿性を改善し、安定化させることができる。
【0022】
また、本発明の透明導電体は、銅がスズよりも多く含有されている場合に良好な抵抗率を発現することができる。
【0023】
上述の工程では、基板としてガラス基板を用い、ガラス基板から透明導電体中にシリコンを含有させたが、これに限定されるものではなく、ステップS1において混合生成物を作製する際に、シリコンを含む化合物を更に混合してもよい。
【0024】
(実施例)
以下に、本発明の実施例を示す。図2は、透明導電体作製の焼成条件を示す説明図である。図3は、透明導電体の抵抗率の測定結果を示す説明図である。図4は、透明導電体の原子数濃度の測定結果を示す説明図である。なお、実施例における具体的な記載内容は、本発明を限定するものではない。
【0025】
透明導電体の作製は、以下の手順で行った。まず、液状リン酸を主成分とする溶媒として85%のオルトリン酸、スズを含む化合物として一酸化スズ(SnO)、銅を含む化合物として酸化銅(CuO)を用意し、元素のモル比で、リン(P)を基準に、スズ(Sn)が0.25、銅(Cu)が0.05、0.10、0.15、0.20となるように混合し、混合溶液を作製した。
【0026】
作製した混合溶液を真空中で24時間保存した後に、反応により生成した沈殿物を除去した上澄み液を混合生成物としてガラス基板に塗布し、焼成した。ガラス基板への混合生成物の塗布量は、作製される透明導電体膜の厚さが60μm程度になるように調整した。
【0027】
焼成は、図2に示すように、大気中で所定の保持温度まで1時間で昇温し、6時間保持した後に自然冷却して冷却固化することにより行った。保持温度は、200、250、275、300、325、350、375、400℃の8水準とした。なお、昇降温パターンは適宜選択することができる。
【0028】
作製した透明導電体について、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により元素分析を、4端針法により抵抗率測定を、入射光強度と反射光強度との比を求めることにより透過率測定を行った。
【0029】
図3には、銅の添加量が0.05、0.10、0.15である場合の抵抗率を、銅を添加しない場合(0)と比較して示す。焼成温度275℃以下では、混合生成物は焼成後もゲル状で固化しなかった。焼成温度300〜375℃では、抵抗率が1Ωm以下になる透明導電体を作製することができた。
【0030】
抵抗率が低い透明導電体、例えば、焼成温度300℃、銅添加量0.10の透明導電体では、X線回折による分析結果でCu(PO及びSiPが検出された。銅を添加しない場合には、SiPが検出されないことから、銅だけでなく、リンとシリコンが共晶を形成することが抵抗率低減の一因であると考えられる。
【0031】
図4には、銅の添加量が0.10、0.20である場合の原子数濃度を示す。作製した透明導電体では、混合比に比べて、リンに対するスズの割合が大きく低下している。スズの多くは、混合溶液の沈殿物に含まれており、透明導電体中のスズは銅よりも少ない。銅はリンに対して0.1〜0.2程度の割合を維持しており、過剰な銅が沈殿したものと考えられる。透明導電体は、ガラス基板と共晶を作るため、シリコンがスズよりも多く取り込まれている。
【0032】
透過率は、銅の添加量が0.05、0.10である場合には、基板とともに測定して80%以上であった。視覚的には透明であり、良好な透過率を有する透明導電体を作製することができた。銅の添加量0.15以上では、視覚的に透明な導電体は得られなかった。
【0033】
以上に示すように、本実施例では、焼成温度300〜350℃、銅の添加量0.05、0.10の場合に、低抵抗率である透明導電体が得られることが確認できた。
【0034】
(変更例)
本実施例では、混合溶液作製後に24時間保存し、沈殿物を除去した上澄み液を混合生成物として用いて透明導電体を作成したが、沈澱させない状態で焼成することもできる。
【0035】
[第1実施形態の効果]
本発明の透明導電体によれば、シリコン含有リン酸塩ガラスにより透明性を得るとともに、金属元素として銅が含有されているため、抵抗率を低減することができる。また、金属元素としてスズが含有されているため、リン酸塩ガラスの吸湿性を改善し、安定化させることができる。
【0036】
[第2実施形態]
本発明の透明導電体を用いて、車両のパネルを形成することができる。自動車のフロントウィンドウ、リアウインドウなど視界を確保する必要があるパネルの表面に、本発明の透明導電体により、抵抗パターンを形成し、霜取りや曇り止め用の加熱部を形成する。
【0037】
加熱部は、第1実施形態のステップS1において形成した混合生成物を、ジグザグ形状などの所定の形状にマスキングしたガラス板にスプレー塗布した後に、ステップS2、S3を経て形成することができる。
【0038】
この加熱部に電流を流すことにより、加熱部が抵抗加熱により発熱し、自動車のフロントウィンドウ、リアウインドウの霜取りや曇り止めを行うことができる。ここで、加熱部は視覚的に透明であるので、視界を邪魔することがない。
【0039】
また、自動車のフロントウィンドウ、リアウインドウは大型であるため、従来の透明導電体は適用が困難であったが、本発明の透明導電体を適用すると、簡単なプロセスで、製造コストを低減して、霜取りや曇り止め用の加熱部を備えた車両のパネルを製造することができる。
【0040】
なお、抵抗パターンの形状はジグザグ形状以外でもよく、用途に応じて任意である。例えば、パネル全体に透明導電体を形成してもよい。
【0041】
[その他の実施形態]
(1)本実施形態では、混合生成物の加熱、冷却により透明導電体を作製したが、これに限定されるものではなく、例えば、スパッタ法などにより同様の組成の透明導電体を作製してもよい。
【0042】
(2)本発明の透明導電体は、車両のパネル以外にも、液晶パネルでは液晶分子の配向を制御するための電圧を印加する電極、有機ELパネルでは正孔輸送層、発光層、電子輸送層をなどを挟む陽極、太陽電池、抵抗膜方式のタッチパネル、青色発光ダイオードの電極、ハンダ代替材料などに適用することができる。
【0043】
(3)本発明の透明導電体は、混合溶液を作製する際に、酸化亜鉛などを添加することにより、亜鉛を含有させることもできる。亜鉛を含有させることにより、抵抗率のばらつきを小さくすることができる。この場合の亜鉛の添加量は、元素のモル比で、例えばスズと同程度とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】透明導電体の製造工程を示すフロー図である。
【図2】透明導電体作製の焼成条件を示す説明図である。
【図3】透明導電体の抵抗率の測定結果を示す説明図である。
【図4】透明導電体の原子数濃度の測定結果を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素を含有するリン酸塩ガラスを主成分とした透明導電体であって、前記金属元素がスズ、銅及びシリコンであることを特徴とする透明導電体。
【請求項2】
前記銅が前記スズよりも多く含有されていることを特徴とする請求項1に記載の透明導電体。
【請求項3】
液状リン酸を主成分とする溶媒と、スズを含む化合物と、銅を含む化合物と、シリコンを含む基板と、を用意し、
前記溶媒と、前記各化合物とを混合し、混合生成物を作製する工程と、
前記混合生成物を前記基板に塗布した後に加熱処理する工程と、
前記加熱処理された混合物を冷却固化させる工程と、を備え、
請求項1または請求項2に記載の透明導電体を製造することを特徴とする透明導電体の製造方法。
【請求項4】
車両のパネルに、請求項1または請求項2に記載の透明導電体により抵抗パターンが形成されて加熱部が構成されたことを特徴とする車両のパネル。
【請求項5】
請求項3に記載の透明導電体の製造方法により、車両のパネルに、透明導電体による抵抗パターンが形成されて加熱部が構成されたことを特徴とする車両のパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−73591(P2010−73591A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241897(P2008−241897)
【出願日】平成20年9月21日(2008.9.21)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【Fターム(参考)】