説明

透明導電円筒体及びその製造方法

【課題】電子写真画像形成装置において、背面露光感光体の内側に設けられた露光装置が
、感光体内壁に近接又は密着して回転された場合にも露光装置との摺擦による摩耗粉を生
じる事のない透明導電円筒体を提供することを目的とする。
【解決手段】透明ポリイミド樹脂からなる基層の内面にフッ素樹脂層と、該基層の外面に
透明導電層を備え、前記円筒体の厚み方向の光の透過率が500nm〜800nmの波長
の範囲において、50%以上であり、透明導電円筒体に加わる駆動トルクが、前記円筒体
の線速度が65mm/sのときに12N・cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明導電円筒体に関し、さらに詳しくは複写機、レーザービームプリンタ、フ
ァクシミリなど電子写真画像形成装置の「背面露光式感光体」の支持体として用いる透明
導電円筒体に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、電子写真技術による画像形成は記録媒体として感光体を用い
、帯電・露光・現像・転写・定着・除電及びクリーニングの7つの工程、いわゆるカール
ソン・プロセスによって行われるのが一般的である。
【0003】
しかし、カールソン・プロセスによる従来の電子写真画像形成装置では、各工程に用い
る手段が、感光体周辺に密集して配置されているため相当の空間を要し、携帯用プリンタ
ーなどの装置小型化ニーズに対応するには限界がある。そこで近年、複写機やプリンター
の小型化、軽量化への対応や、帯電工程でコロナ放電によるオゾンの発生、あるいは現像
器から現像剤の飛散による光学系の汚染等の問題改善のために、例えば、それまで感光体
の外側に配置されていた露光装置を感光体の内側に移し、感光体の背面から光照射を行う
「背面露光方式」が特許文献1、及び特許文献2に提案されている。露光手段としては、
LEDアレイ光学系、あるいは半導体レーザなどが使用されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の背面露光方式に関する改善された技術であっても、
露光装置と感光ドラム表面の焦点位置精度を向上させるために同文献の図4に示されてい
るように、フレキシブル露光装置が感光ドラムの内壁に密着させる構造であるため、感光
ドラムの回転に伴い、感光ドラムの極微細な芯振れなどによって感光ドラム内壁と露光装
置とが摺擦し、摩耗粉を生じ、感光が妨げられ、画像品質が低下するという問題がある。
とくに、高速回転において、かかる問題が顕著になる。
【0005】
また、特許文献2に記載の従来技術においても、同文献の図1に示されているように透
明フレキシブル基板及びLEDアレイが感光ドラムの内壁に近接又は接触して摺接可能に
固定配置されているため、前記同様に画質低下の問題を有する。
【特許文献1】特開2002−196571号公報
【特許文献2】特許第2891387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電子写真技術により画像を形成する背面露光感光装置において、感光体内壁
に近接、または接触させて露光装置を配置し、前記感光体を高速で回転させた場合であっ
ても、感光体と露光装置の摺擦による磨耗粉を発生させることのない透明導電円筒体を提
供することを目的とする。また、本発明は透明導電円筒体の基層として、特に機械的特性
が優れ、剛直なポリイミド樹脂を用いた場合であっても、露光装置のフレームなどの材料
(例えばポリアセタール樹脂などがよく用いられる)を摺擦させることのない透明導電円
筒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の透明導電円筒体は、電子写真画像形成装置の背面露
光感光体の支持体に用いる透明導電円筒体であって、前記円筒体の基層が透明ポリイミド
樹脂からなり、該基層の内面にフッ素樹脂層と、該基層の外面に透明導電層を備え、前記
円筒体の厚み方向の光の透過率が、500nm〜800nmの波長の範囲において、50
%以上であることを特徴とする。
【0008】
前記フッ素樹脂層の算術平均粗さRaが、0.2μm未満であることを特徴とする。摺
擦による磨耗粉の発生を緩和するためにはフッ素樹脂層の表面粗度が小さいことが好まし
い。また、前記透明導電円筒体内面に加わる駆動トルクが、前記円筒体の線速度が65m
m/sのときに、12N・cm以下であることを特徴とする。
【0009】
次に、前記透明ポリイミド樹脂が、少なくとも1種の芳香族ジアミンと、少なくとも1
種の芳香族テトラカルボン酸二無水物を、有機極性溶媒中で反応させて得られるポリイミ
ド前駆体をイミド転化した透明ポリイミド樹脂であることを特徴とする。また、前記芳香
族ジアミンが、パラフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジア
ミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホンから選ばれる少なくと
も1つのモノマーであり、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、ピロメリット酸二無
水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス[4−
(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物から選ばれる、少なくとも1つ
のモノマーであることを特徴とする。
【0010】
さらに、前記芳香族ジアミンが、パラフェニレンジアミン(PPD)であり、前記芳香
族テトラカルボン酸二無水物が、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無
水物(BPDA)であることを特徴とする。
【0011】
次に、前記フッ素樹脂層がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロ
エチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオ
ロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれる少なくとも1種
のフッ素樹脂から成ることを特徴とする。
【0012】
次に、前記透明導電層が酸化インジウムスズ、アンチモンドープ酸化スズ、導電性酸化
スズ、導電性酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種の透明導電材料から成り、前記透明導
電層の表面抵抗が1×10Ω/□以下であることを特徴とする。
【0013】
また、前記透明導電層の少なくとも一端の外面に該透明導電層よりも低い表面抵抗を有
する電極層を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の透明導電円筒体は、上記構成からなるため感光体の内側に設けられた露光装置
が、感光体内壁に近接、または密着させた場合にも、透明ポリイミド樹脂基層内面に形成
されたフッ素樹脂層の存在により、露光装置とフッ素樹脂層間の摩擦が軽減されるので、
感光体が高速回転したときでも、感光体内壁と露光装置との摺擦による摩耗粉を生じるこ
とがなく、画質が低下するという問題から免れることができる。また、円筒体の基層が透
明なポリイミド樹脂からなり、寸法安定性、機械的特性に優れ、かつ、前記基層の内面の
フッ素樹脂層、及び基層の外面の導電層も透明体であるため、複層構造であっても光の透
過率が高く、感光体の内側に設けられた露光装置からの照射光の減衰が小さく、優れた露
光特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係わる透明導電円筒体についてさらに詳しく説明する。本発明の透明導
電円筒体10の概略断面図を図1に示す。1は透明ポリイミド樹脂からなる基層であり、
その内面にフッ素樹脂層2を設けている。また、前記基層の外面には透明導電層3が設け
られ、透明導電円筒体の片方端部に除電用電極4が設けてある。本発明の透明導電円筒体
を背面露光方式の感光体として使用する場合には、前記透明導電層の外面にアモルファス
シリコン(a−Si)や有機光導電体(OPC)などの光導電層が形成される。さらに、
その外層に表面保護や帯電、絶縁耐圧維持等のために、ポリイミド、ポリエチレン、Si
N、SiC等の層が設けられ使用される。また、感光体の内側には露光用光源として、発
光ダイオード(LED)、電界発光素子(EL)、半導体レーザ等が収納される。
【0016】
本発明においては、前記円筒体の基層が透明ポリイミド樹脂からなり、該基層の内面に
フッ素樹脂層と、該基層の外面に透明導電層を備え、前記円筒体の厚み方向の光の透過率
が500nm〜800nmの波長の範囲において、50%以上であることが必要である。
背面露光感光体では、光の透過率は高い方が望ましいが、露光用光線の波長は500〜8
00nmの範囲で特定した波長で使用されるため少なくとも前記範囲で50%以上の透過
率が必要であり、65%以上であることがより好ましく、75%以上であることが最も好
ましい。
【0017】
本発明において、透明導電円筒体内面に成形したフッ素樹脂層の算術平均粗さRa(J
IS−B601:1994)は、0.2μm以下であることが好ましい。0.2μm以上
であると目的とする摺擦摩滅防止効果が低下するからである。
【0018】
本発明において、透明導電円筒体に加わる駆動トルクは、前記円筒体の線速度が65m
m/sのときに12N・cm以下であることが好ましい。12N・cmを超えると、擦過
摩滅防止効果が低下してしまうからである。
【0019】
本発明において透明ポリイミド樹脂が、少なくとも1種の芳香族ジアミンと、少なくと
も1種の芳香族テトラカルボン酸二無水物を、有機極性溶媒中で反応させて得られるポリ
イミド前駆体をイミド転化した透明ポリイミド樹脂であることがこのましい。ポリイミド
樹脂は機械的特性、寸法安定性に優れ、また、導電性層の成形工程におけるスパッタ加工
や、アニール加工においても十分な耐熱性を有するからである。前記スパッタ加工やアニ
ール加工に対応するためには透明ポリイミド樹脂のガラス転移温度が200度C以上であ
ることが好ましい。
【0020】
また、前記芳香族ジアミンが、パラフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル
、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホンから
選ばれる少なくとも1つのモノマーであり、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、ピ
ロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2
,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物から選ばれる
、少なくとも1つのモノマーであることが好ましい。光の透過率の高いポリイミド樹脂を
得ることができるからである。
【0021】
また 前記芳香族ジアミンが、パラフェニレンジアミン(PPD)であり、前記芳香族
テトラカルボン酸二無水物が、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水
物(BPDA)であることがより好ましい。前記モノマーから得られるポリイミド樹脂は
、特に強靭であり、ポリイミド樹脂の中では最もガラス転移温度が高いからである。これ
らのパラフェニレンジアミン、及び3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二
無水物から得られるポリイミド前駆体溶液を用いて透明円筒体を作製する場合には、イミ
ド化温度を350度C以下で処理することが必要である。また、350度Cの雰囲気中で
のイミド化時間は30分以下であることが好ましい。350度C以上の温度で長時間加熱
すると、酸化により着色し、光の透過率が低下してくるからである。
【0022】
本発明において、透明ポリイミド樹脂からなる基層の厚みは、50〜100μmの範囲
で用いられるが、芯振れや、厚みのバラツキによる焦点距離のずれを防止するためには厚
みのばらつきは±5μmの範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明において、フッ素樹脂としてはPTFE、PFAもしくはFEPの1種、又はこ
れらを2種以上含むものであることが好ましい。なかでも、塗膜にするための焼成温度が
比較的低温であり、透明性が高いという点でPFA又はFEPが、より好ましい。なお、
ポリイミド樹脂層との接着性を向上させるために、プライマーを介在させるようにしても
よい。
【0024】
本発明において、フッ素樹脂層の膜厚は、0.1μm以上10μm未満であることが好
ましい。0.1μm未満では擦過摩滅防止効果が得られず、10μm以上で光透過率が低
下するからである。0.5μm以上5μm未満がより好ましい。
【0025】
本発明において、透明導電層としては、酸化インジウムスズ、アンチモンドープ酸化ス
ズ、導電性酸化スズ、もしくは導電性酸化亜鉛の1種、又はこれらを2種以上含むものを
用いることが好ましい。透明導電層の膜厚は、透明性及び導電性の観点から、50nm以
上5μm以下であることが好ましい。なお、透明ポリイミド樹脂基層の外面に透明導電層
を積層する際、接着性を向上させるために、接着層を介在させるようにしてもよい。
【0026】
本発明において、前記透明導電層の少なくとも一端の外面に前記導電層よりも低い表面
抵抗を有する電極層を設けることが好ましい。この電極は感光体表面で行われる帯電、除
電操作において、残留電荷を完全に除電するためのものであって、電極層の表面抵抗は1
×10Ω/□以下であることが好ましい。前記電極層の幅は3mm〜7mmの範囲であ
り、厚みは1〜5μmの範囲が好ましい。電極層材料としては特に限定するものではなく
、一般的な導電性塗料や、ポリイミド樹脂、あるいはフッ素樹脂などに金属粉末やカーボ
ンブラックを混合した組成物を用い、コーティングし被膜化することによって成形するこ
とができる。
【0027】
次に、本発明の透明導電円筒体は、各種方法により製造することができる。まず、前記
円筒体の出発原料であるポリイミド前駆体溶液は、パラフェニレンジアミン、ジアミノジ
フェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェ
ニルスルホンなどの芳香族ジアミンとピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビ
フェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フ
ェニル]プロパン二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物を選定し、組み合わせ
有機極性溶媒中で反応させて得ることができる。
【0028】
前記有機極性溶媒としては例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなど
のスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド
などのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトア
ミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリ
ドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−又はp−クレゾール、キシレノー
ル、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、テトラヒドロフラン、
ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノールな
どのアルコール系溶媒、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒、炭酸エチレン、炭酸
プロピレンなどの炭酸エステル系溶媒、あるいは1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノ
ン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これ
らを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化
水素も用いることができる。前記有機極性溶媒はN,N−ジメチルアセトアミド、N,N
−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミ
ド、γ−ブチロラクトン、炭酸エチレン、炭酸プロピレンから選ばれる少なくとも1つで
あることがより好ましい。ポリイミド前駆体溶液を円筒体に成形した後、加熱してイミド
転化した場合、光の透過率を妨げる着色物の発生が少ないからである。
【0029】
次に、透明ポリイミド樹脂円筒体の製造方法は、ポリイミド前駆体溶液を出発材料とし
て特許第3103084号、あるいは特開平05−082289号に記載の方法で製造す
ることができる。前記製造方法に基づき、金型表面に形成したポリイミド前駆体溶液塗布
物を、加熱処理によってイミド転化させる場合、イミド化の最高温度が350度C以下で
処理することが好ましい。350度C以上の温度で長時間加熱すると酸化物による残渣が
生じ、光の透過率を低下させるからである。
【0030】
次に、透明ポリイミド樹脂円筒体内面に設けるフッ素樹脂層の成形方法は、一例として
図2に示す方法で成形できる。バルブ16から空気圧等によってタンク13内のフッ素樹
脂分散液12を透明ポリイミド樹脂円筒体11の内側の所定の高さまで送入し、その後バ
ルブ16を閉じ、次に、バルブ17を開放し透明ポリイミド樹脂円筒体11内のフッ素樹
脂液12aを所定の速度で流出させ、所定の厚さに形成し、その後、乾燥、焼成を行い、
ポリイミド樹脂円筒体の内面にフッ素樹脂層を成形できる。なおフッ素樹脂層を成形する
前に、ポリイミド層とフッ素樹脂層の接着力を強化するためにフッ素樹脂系のプライマー
層を形成することが好ましい。図2において14は密閉栓、15は連結管である。
【0031】
次に、透明ポリイミド樹脂円筒体の外面に設ける透明導電層の成形方法は、例えば、真
空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、プラズマCVD、あるいは透明導電性
微粒子分散液へ浸漬することによって形成できる。このうち酸化インジウムスズ、アンチ
モンドープ酸化スズ、導電性酸化スズ、導電性酸化亜鉛などの透明導電性微粒子分散液へ
の浸漬塗布法が、生産効率が高くより好ましい。また、前記透明導電層を成形した後、1
70度C以上の温度で比較的短時間で熱処理(アニール)することにより、透明性及び導
電性を向上さることができる。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、例えば、前記浸漬塗布法による透明導電層の成形
方法は、前記円筒体の一方の内面を密閉し、他方端部から透明導電性微粒子分散液に浸漬
したのち、所定の速度で引き上げて塗布、焼成して形成することができる。上記のような
浸漬塗布法による透明導電層の成形処理は、まず、円筒体の内面にフッ素樹脂層を形成し
、その後の工程で処理することが好ましい。フッ素樹脂の撥水撥油性によって、透明導電
性微粒子分散液が円筒体内部に浸入しにくく、かつ、付着した部分であっても汚染が防止
できるからである。
【0033】
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明する。実施例及び比較例における
特性は、次の計器を用いて測定した。
粘度:粘度計LVT(Brookfield)
膜厚:ダイヤルゲージNo.2119F(ミツトヨ)
光透過率:分光光度計UV−2550(島津製作所)
算術平均粗さRa:表面粗さ測定器SE−3H(小坂研究所)
表面抵抗率:低抵抗計ローレスタMCP−T610(三菱化学)
駆動トルク:引張試験機AGS−10kNG(島津製作所)
【0034】
駆動トルクは、図3に示す内面摺動測定装置40を用いて測定した。すなわち、測定支
持台29の一端に設けた直立する測定支持板30に、円筒状の回転付与部25を設けた。
回転付与部25の先には、それよりも小径の試料取付部24が同軸に設けられ、さらにそ
の先にはそれよりも小径の摺動板支持体28が同軸に設けられ、その先に正方体状の摺動
板22が固定されている。この摺動板22の素材には、ポリアセタール樹脂を用いたが、
他の材料に変更することもできる。回転付与部25と試料取付部24は一体化して、摺動
板支持体28とはベアリングを設けられているので、一体的に回転することができる。
摺動板支持体28は、測定支持板30に固定されているため、摺動板支持体28及び摺動
板22は、回転しない。試料取付部24に、試料である透明導電円筒体21を嵌め込む。
試料取付部24の外径は、透明導電円筒体21の内径よりもわずかに小さく設計してある
。また、摺動板22の4つの角が透明導電円筒体21の内面と摺擦するように、摺動板2
2は、長さ25.0mm、幅20.0mm及び厚み5mmの長方形で、その四隅をR1.
0の面取り加工したポリアセタール樹脂板を用いた。測定方法は回転付与部25の外面に
ワイヤー26を巻き付けてY方向に引くと、回転付与部25、試料取付部24及び試料(
透明導電円筒体)21は、X方向に一体的に回転する。このとき、摺動板22は回転しな
いため、その4つの角が透明導電円筒体21の内面と摺擦する。この摺擦の度合が引張試
験機27の値に直結するため、発明者らは、これを以て内面摺動測定値とした。なお、試
料(透明導電円筒体)21の線速度が65mm/sのときの値を採用した。
【0035】
(実施例1)
(透明ポリイミド前駆体溶液の調製)
3Lの3つ口セパラブルフラスコに、ポリテトラフルオロエチレン製の攪拌羽を取り付
けた攪拌棒と窒素ガス導入管を取り付けて反応容器とし、反応はすべて、窒素雰囲気下で
行った。ポリイミド前駆体溶液の濃度が31重量%となるようにジアミン成分として、4
,4'−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化工業製)68.388g(0.276
モル)及び3,3'−ジアミノジフェニルスルホン(三井化学ファイン製)68.388
g(0.276モル)、反応溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(三菱ガス化学製
)670.16gを投入した。ジアミン成分が完全に溶解後、テトラカルボン酸二無水物
成分として、2,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水
物(上海市合成樹脂研究所製)71.644g(0.138モル)及び3,3',4,4
'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学製)121.52g(0.413モ
ル)を固体のままで添加し、40度Cで12時間反応させ、粘度約800P(23度C)
の粘稠なポリイミド前駆体溶液を合成した。
【0036】
(透明ポリイミド樹脂からなる円筒体の作製)
鏡面研磨加工、及び離型性加工された外径30.0mm、長さ500mmのアルミニウ
ム製金型と、内径31.5mmのリング状ダイスを用意し、前記金型に前記透明ポリイミ
ド前駆体溶液を塗布後、リング状ダイスを自重で落下走行させ、均一にポリイミド前駆体
溶液を塗布した。その後、80度Cで45分間、120度Cで45分間、200度Cで3
0分間及び300度Cで20分間加熱して、透明ポリイミド樹脂の円筒体を作製した。こ
の基層の厚さは、65±2μmであり、波長780nmの光透過率は85.9%であった

【0037】
(透明ポリイミド樹脂からなる円筒体内面にフッ素樹脂層の成形)
長さ300mmに切断した透明ポリイミド樹脂円筒体の内側に図2に示す方法でプライ
マー液「PR−990CL」(三井・デュポンフロロケミカル製)を送入し、貯留した。
その後、60mm/分の一定速度で前記プライマー液を流出させ前記円筒体の内面に2μ
mの厚みで塗布し、室温で乾燥してプライマー層を成形した。
【0038】
前記、プライマー層を成形した透明ポリイミド樹脂円筒体を用い、プライマー層の成形
と同様に、フッ素樹脂分散液「Algoflon MFA LATEX XPH−1」(
ソルベイ・ソレクシス製)を塗布して、室温で乾燥後、80度Cで20分間、340度C
で20分焼成することにより、透明ポリイミド樹脂円筒体の内面にフッ素樹脂層が成形さ
れた透明ポリイミド・フッ素樹脂積層円筒体を得た。該フッ素樹脂層の厚みは4μmであ
り、内面の表面粗度Raは0.05μmであった。また、波長780nmにおける光透過
率は83.5%であった。透明ポリイミド・フッ素樹脂積層円筒体の内径は30.0mm
であり駆動トルクは9N・cmであった。
【0039】
(透明ポリイミド樹脂円筒体の外面に導電層の成形)
前記透明ポリイミド・フッ素樹脂積層円筒体の片方を密閉し、透明導電アンチモンドー
プ酸化スズ微粒子分散液「TDL−1」(三菱マテリアル製)に浸漬した。その後、円筒
体を60mm/分の速度で引き上げることにより塗布した後、室温で乾燥後、室温から2
00度Cまで60分間アニール処理を行うことにより、透明ポリイミド樹脂基層の内面に
フッ素樹脂層が成形され、基層の外面には約3μmの厚みで透明導電層が成形された3層
構造の透明導電円筒体を得た。該透明導電円筒体の厚み方向で、波長780nmの光透過
率は84.0%であり、波長550μmの光の透過率は75%であった。また、該透明導
電円筒体の外面の表面抵抗は、2.2×10Ω/□であった。
【0040】
(電極層の成形)
前記透明導電円筒体の片端部全周に5mmの幅でフッ素樹脂導電接着剤(三井デュポン
フロロケミカル製「855−003」)を約5μmの厚みで塗布し、乾燥後200度Cの
温度で加熱しで表面抵抗が1×10Ω/□の電極を成形した。この透明導電円筒体を感
光体の支持体として用いて、背面露光式レーザービームプリンタで10000枚の初期画
像出しテストを行ったところ、高品質な画像を得ることができた。
【0041】
(実施例2)
(ポリイミド前駆体溶液の調製)
3Lの3つ口セパラブルフラスコに、ポリテトラフルオロエチレン製の攪拌羽を取り付
けた攪拌棒と窒素ガス導入管を取り付けて反応容器とし、反応はすべて、窒素雰囲気下で
行った。ポリイミド前駆体溶液の濃度が17.5重量%となるように、ジアミン成分とし
て、パラフェニレンジアミン(大新化学製)77.46g(0.717モル)、反応溶媒
として三菱ガス化学社から販売されているN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)1
,211gを投入し、ジアミン成分が完全に溶解後、テトラカルボン酸二無水物成分とし
て、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学製)210.
86g(0.717モル)を固体のままで添加し、40度Cで12時間反応させ、粘度1,000ポイズの粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0042】
実施例1と同様に前記BPDAとPPDを重合したポリイミド前駆体溶液を用い、金型
表面に所定の厚みで塗布した後、80度Cで45分間、120度Cで45分間、200度
Cで30分間及び330度Cで20分間加熱して透明ポリイミド樹脂円筒体を作製した。
この基層の厚みは63±2μmであった。この透明ポリイミド樹脂円筒体を基層として実
施例1と同様にフッ素樹脂層、及び透明導電層を成形して3層積層円筒体を得た。この透
明導電円筒体の厚み方向の波長780nmにおける光透過率は77%であった。また、波
長550μmの光の透過率は68%であった。また、3層積層円筒体の内径は30.04
mmであり駆動トルクは8.5N・cmであった。この透明導電円筒体を背面露光感光体
の支持体として用い、実施例1と同様の画像出しテストを行った結果、高品質な画像を得
ることができた。
【0043】
(実施例3)
実施例1において、内面のフッ素樹脂層の厚みが8μmであるほかは、実施例1と同様にして透明導電円筒体を作製した。該透明導電円筒体の内面の表面粗度Raは、0.05μmであった。また、波長780nmにおける光透過率は、81.0%であった。また、3層積層円筒体の内径は30.02mmであり、駆動トルクは8.6N・cmであった。この透明導電円筒体を背面露光感光体の支持体として用いて、実施例1と同様に画像出しテストを行った結果、高品質な画像を得ることができた。
【0044】
(比較例1)
内面にフッ素樹脂層を形成しなかったほかは、実施例1と同様にして作製した透明導電
円筒体の駆動トルクは15N・cmであった。この透明導電円筒体を感光体の支持体とし
て用いて、実施例1と同様に画像出しテストを行った結果、1,000枚で摩耗粉が発生
し、画像劣化が生じた。
【0045】
(比較例2)
実施例1において、内面のフッ素樹脂層の厚みが25μmであるほかは、実施例1と同様にして透明導電円筒体を作製した。該透明導電円筒体の波長780nmにおける光透過率は、45.5%と低く、背面露光することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の透明導電円筒体の概略断面図である
【図2】本発明の透明導電円筒体の内面にフッ素樹脂液を塗布する一実施例を示す概略図である。
【図3】本発明の透明導電円筒体の内面摺動測定装置を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
10 透明導電円筒体
20 フッ素樹脂液塗布装置
40 内面摺動測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真画像形成装置の感光体の支持体に用いる透明導電円筒体であって、前記円筒体
の基層が透明ポリイミド樹脂からなり、該基層の内面にフッ素樹脂層と、該基層の外面に
透明導電層を備え、前記円筒体の厚み方向の光の透過率が500nm〜800nmの波長
の範囲において、50%以上であることを特徴とする透明導電円筒体。
【請求項2】
前記フッ素樹脂層の算術平均粗さRaが、0.2μm以下であることを特徴とする請求
項1に記載の透明導電円筒体。
【請求項3】
前記透明導電円筒体内面のフッ素樹脂層に加わる駆動トルクが、前記円筒体の線速度が
65mm/sのときに、12N・cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明
導電円筒体。
【請求項4】
前記透明ポリイミド樹脂が、少なくとも1種の芳香族ジアミンと、少なくとも1種の芳
香族テトラカルボン酸二無水物を、有機極性溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆
体をイミド転化した透明ポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の透明導
電円筒体。
【請求項5】
前記芳香族ジアミンが、パラフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル、4,
4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホンから選ばれ
る少なくとも1つのモノマーであり、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が、ピロメリ
ット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−
ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物から選ばれる、少な
くとも1つのモノマーであることを特徴とする請求項4に記載の透明導電円筒体。
【請求項6】
前記芳香族ジアミンが、パラフェニレンジアミン(PPD)であり、前記芳香族テトラ
カルボン酸二無水物が、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(B
PDA)であることを特徴とする請求項4に記載の透明導電円筒体。
【請求項7】
前記フッ素樹脂層がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレ
ン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチ
レン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれる少なくとも1種のフッ
素樹脂から成ることを特徴とする請求項1〜3に記載の透明導電円筒体。
【請求項8】
前記透明導電層が酸化インジウムスズ、アンチモンドープ酸化スズ、導電性酸化スズ、
導電性酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種の透明導電材料から成り、前記透明導電層の
表面抵抗が1×10Ω/□以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電円筒
体。
【請求項9】
前記透明導電層の少なくとも一端の外面に該透明導電層よりも低い表面抵抗を有する電
極層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の透明導電円筒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−293275(P2007−293275A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40282(P2007−40282)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】