説明

透明導電性基板の製造方法

【課題】
この発明は、透明性と高いレベルの導電性を有し、電磁波シールドフィルムなどに用いる導電性基板の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の網目状金属微粒子積層基板の製造方法は、基板の少なくとも片面に、絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層を形成した後、工程(a):絶縁性の低分子化合物と金属微粒子の結合力を低下させる工程、工程(c):加熱により絶縁性の低分子化合物を除去する工程、をこの順に行なうことで、絶縁性の低分子化合物を除去することを特徴とする、表面比抵抗値が15Ω/□以下の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性および耐モアレ性に優れた網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法、および該導電性基板を用いた電磁波シールド基板、プラズマディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電性基板は回路材料として様々な機器に用いられており、電磁波シールド基板や太陽電池用途として用いられている。
【0003】
電磁波シールド基板は家電用品、携帯電話、パソコン、テレビをはじめとした電子機器から放射された多種多様な電磁波を遮断、抑制する目的に用いられている。特に伸長著しいデジタル家電の中で、プラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶テレビなどのフラットパネルディスプレイにおいても、本体から強力な電磁波が放出されており、周辺機器へのノイズ防止として、電磁波を遮断する部材として電磁波シールド基板が用いられている。また、PDPなどのディスプレイは、比較的近い距離で、かつ場合によっては長時間にわたり画像を観察するため、放出される電磁波の人体への影響も懸念されているため、これら電磁波を抑制する電磁波シールド基板が必要とされ、鋭意検討されている。
【0004】
一般に、ディスプレイパネルに用いられる電磁波シールド基板には、透明な導電性基板が用いられており、現行用いられている電磁波シールド基板用の導電性基板の製造方法には、各種の方法が採用されている。例えば、銅箔をポリエステルフィルムに貼り合わせ、フォトリソグラフィーで規則正しいメッシュ形状をパターン化し、該銅箔をメッシュ状にエッチングすることで、導電性部分が銅であるメッシュ状導電性フィルムを作成している(特許文献1参照)。
【0005】
その他に、パターン化した導電層を設けた導電性基板の製造方法として、例えば、金属微粒子溶液を基板に印刷して金属微粒子の導電層を設ける方法などが提案されている(特許文献2、3)。一般に、金属微粒子層の導電性を高めるためには、例えば200℃以上の高温条件下において、長時間、熱処理する必要があるが、高温下で長時間の熱処理は、例えば基板としてポリエステルフィルムなどの熱可塑性樹脂を用いた場合には、熱可塑性樹脂の変形が起こってしまうなどの問題があった。この問題に対しては、高温、長時間の熱処理を用いずに金属微粒子層の導電性を高める方法が提案されている(特許文献2〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】:特開2001−210988号公報
【特許文献2】:特開2004−79243号公報
【特許文献3】:特開2006−313891号公報
【特許文献4】:特開2008−72052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述した従来の技術には次のような問題点がある。
【0008】
特許文献1に記載の銅箔をエッチングする方法は、非常に精度の高いメッシュ形状を得るには優れた方法であるが、銅箔を貼り合わせる工程、フォトリソグラフィー工程、エッチング工程など一般的に収率が悪く、各工程の製品ロスが発生しやすい。特に、エッチング工程では有害な廃液が発生するなど環境面での課題も多い。更に、素材として銅箔を用い、かつその後、銅箔をエッチングして透過性を上げようとすると、エッチングによって該銅箔の多くの部分を溶かし出して廃液にする必要があり、素材リサイクルの面でも課題が多い。
【0009】
特許文献2には、導電性を高める処理として金属微粒子層に通電して焼結する方法が提案されているが、通電するためには電源や、端子の接続など、特別な装置、作業が必要となるなどの問題がある。
【0010】
特許文献3では、金属微粒子から成る導電層を酸により処理することで、導電性を高める方法が提案されている。この手法では、長時間の高温処理を必要としない利点があるが、酸を使用した場合、酸による装置の腐食の懸念から、特殊な装置が必要となり、汎用的な装置が使用できないといったことや、大量の酸性廃液が発生するなど、安全面、環境面への配慮の点で課題が挙げられる。
【0011】
特許文献4では、基板上の、被覆された金属ナノ粒子と分散溶媒を含む金属ナノ粒子ペーストに極性溶媒または溶解補助剤を含む極性溶媒を作用させ、金属粒子の被覆を除去後、被覆が除去された金属ナノ粒子は常温での乾燥工程において焼結が進行し、導電性を向上させることができる。本手法は、常温での焼結が可能なため、例えば紙を基板とすることも出来るという利点はあるが、極性溶媒や溶解補助剤を含む極性溶媒を作用させる工程において、被覆を除去するため、使用する金属ナノ粒子とその被覆化合物、使用する極性溶媒の組合せによっては、長時間作用させる必要があり、また、高導電性を得るためには、乾燥による焼結工程も長時間必要となるため、生産性に欠けることが課題として挙げられる。
【0012】
本発明の目的は、上記した欠点を解消せしめ、透明性と導電性を有する導電性基板を生産性良く製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、以下である。
1) 基板の少なくとも片面に、絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層を形成した後、以下の工程(a)、(c)をこの順に行なうことで、絶縁性の低分子化合物を除去することを特徴とする、表面比抵抗値が15Ω/□以下の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
【0014】
工程(a):絶縁性の低分子化合物と金属微粒子の結合力を低下させる工程。
【0015】
工程(c):加熱する工程。
2) 前記工程(a)が、以下の工程(a1)であることを特徴とする、請求項1に記載の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
【0016】
工程(a1):絶縁性の低分子化合物を含む金属微粒子層を有機溶媒で処理する工程。
3) 前記工程(c)が、以下の工程(c1)であることを特徴とする、前記1)又は2)に記載の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
【0017】
工程(c1): 100℃以上で加熱する工程。
4) 工程(a1)と工程(c)の間に、以下の工程(b)を有し、工程(a1)、(b)、(c)を、この順に連続して行うことを特徴とする、前記3)に記載の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
【0018】
工程(b): 10℃以上40℃以下で乾燥する工程。
5) 前記工程(c)を、10秒以上行うことを特徴とする、請求項1)〜4)のいずれかに記載の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
6) 前記1)〜5)のいずれかに記載の製造方法により得られうる導電性基板を用いた電磁波シールド基板。
7) 前記6)に記載の電磁波シールド基板を用いたプラズマディスプレイ。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、透明性および導電性のいずれにも優れ、高品位な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板を連続で生産することができる。なお以下の説明においては、網目状の金属微粒子層を有する導電性基板のことを、網目状金属微粒子積層基板ともいうこととする。本発明の製造方法により得られる網目状金属微粒子積層基板は、透明性と高いレベルの導電性を有し、網目状の金属微粒子層を有するため、耐モアレ性にも優れるので、電磁波シールド基板にも好適であり、またそれを用いることで、例えば、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどのフラットパネルディスプレイに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、前記課題、つまり導電性に優れた、網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法について、鋭意検討し、絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層から、導電性を低下させる要因である絶縁性の低分子化合物を、有機溶媒処理や熱処理等により除去することで、導電性を向上させることを見出し、前記課題を一挙に解決することを究明したものである。つまり、基板の少なくとも片面に、絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層を形成した後、工程(a):絶縁性の低分子化合物と金属微粒子の結合力を低下させる工程、工程(c):加熱する工程、をこの順に行なうことで絶縁性の低分子化合物を除去する、表面比抵抗値が15Ω/□以下の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法の発明である。
【0021】
本発明において使用される金属微粒子の大きさは特に限定されるものではないが、数平均粒子径が0.001〜5.0μmであることが好ましい。金属微粒子の数平均粒子系が5.0μmを超えると、金属微粒子層を網目状に形成しにくいことがある。そのため金属微粒子の数平均粒子系は、好ましくは0.001〜2.0μmであり、より好ましくは0.002〜1.5μmであり、特に好ましくは、0.002〜0.2μmである。数平均粒子径が0.001μmより小さい場合には、金属微粒子層中の金属微粒子同士の連続的な接触が途切れる場合が多くなり、その結果、十分な導電性が得られない場合がある。数平均粒子径が5.0μmよりも大きい場合には、後述する本発明の有機溶媒処理および熱処理を連続で行った場合でも導電性を高める十分な効果が得られなくなり、十分な導電性が得られない場合がある。
【0022】
ここで、金属成分として好適に用いられる金属微粒子の数平均粒子径とは、測定サンプル中に含有される金属微粒子数を基に算出した平均粒子径である。金属微粒子の数平均粒子径は、金属微粒子分散液を銅メッシュ上に滴下して、透過型電子顕微鏡(H−7100FA型 (株)日立製作所製)で金属微粒子を観察し、任意に選択した100個の金属微粒子の粒子径を測定し、その平均値を数平均粒子径とした。
【0023】
金属微粒子層を形成する金属微粒子の粒径分布は、大きくても、小さくてもよく、粒径が不揃いであっても、均一であってもよい。 金属微粒子に用いられる金属としては特に限定されず、白金、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ビスマス、コバルト、鉄、アルミニウム、亜鉛、錫などが挙げられるが、導電性の観点から、銀、銅が好ましく、より好ましくは銀である。金属は1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明における金属微粒子層とは、上記のような金属微粒子によって構成された層であり、網目状の金属微粒子層を形成するために必要であれば、金属微粒子層は、金属微粒子以外に、他の各種添加剤、例えば、分散剤、界面活性剤、保護樹脂、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、などの無機成分、有機成分を含有することができる。なお、本発明の製造方法により得られる網目状金属微粒子積層基板中の網目状の金属微粒子層は、各種添加剤を含有することが可能であるが、後述するように絶縁性の低分子化合物を可能な限り含まないことが好ましい。
【0025】
金属微粒子の調整法としては、例えば、液層中で金属イオンを還元して金属原子とし、原子クラスターを経てナノ粒子へ成長させる化学的方法や、バルク金属を不活性ガス中で蒸発させて微粒子となった金属をコールドトラップで捕捉する手法や、ポリマー薄膜上に真空蒸着させて得られた金属薄膜を加熱して金属薄膜を壊し、固相状態でポリマー中に金属ナノ粒子を分散させる物理的手法などを用いることができる。
【0026】
基板の少なくとも片面に、絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層を形成する方法は特に限定されず、例えば、金属微粒子層を形成しうる化合物の溶液として、金属微粒子分散液、または金属酸化物微粒子分散液、または有機金属化合物分散液、またはこれらを2種以上混合した溶液などを、網目状に印刷する方法、前述の溶液を網目状に塗布する方法、前述の溶液を基板全面に塗布した後、金属微粒子層が網目状になるように物理的に削ったり、化学的にエッチング処理を行ったりする方法、基板を掘ったり、型押ししたりして、あらかじめ基板の少なくとも片面に網目状の溝を作成しておき、そこに前述の溶液を充填させる方法など種々の方法を選択できる。
【0027】
絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層を形成させるためのより好ましい方法としては、金属微粒子分散液を用いて、網目状とした絶縁性の低分子化合物を含む金属微粒子層を形成させる方法である。この場合、例えば、金属微粒子と分散剤などの有機成分とからなる分散液(金属微粒子分散液)を用いて、基板の少なくとも片面に塗布を行う方法によって、絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層を形成することができる。かかる金属微粒子分散液の溶媒としては、水、各種の有機溶媒を用いることができる。
【0028】
本発明においては、上述の金属微粒子分散液として自己組織化する金属微粒子分散液を好ましく用いることができる。ここで、「自己組織化する金属微粒子分散液」とは、基板の少なくとも片面上に一面に塗布して放置しておくと、自然に基板上に不規則な網目状の構造(不規則な網目状の金属微粒子層)を形成する溶液を意味するものである。このような自己組織化する金属微粒子分散液としては、例えばCima NanoTech社製CE103−7を用いることができる。
【0029】
なお、本発明における網目状の構造とは、いくつかの点を何本かの線分で結んだ構造のことを示す。つまり、本発明における網目状の金属微粒子層とは、金属微粒子や前述の各種添加剤などで構成される複数の線分が、複数の点で結ばれた構造を意味する。
【0030】
本発明の網目状金属微粒子積層基板における網目状の構造は、規則的であっても、不規則であっても良いが、不規則であることが好ましい。すなわち、本発明の網目状金属微粒子積層基板をプラズマディスプレイに貼り合わせて使用した場合、網目状の構造を不規則な構造にすることでモアレ現象が発生しないものを得ることができるからである。モアレ現象とは、「点または線が幾何学的に規則正しく分布したものを重ね合せた時に生ずる縞状の斑紋」であり、また広辞苑によれば、「点または線が幾何学的に規制正しく分布したものを重ね合わせた時に生ずる縞模様の斑紋。網版印刷物を原稿として網版を複製する時などに起こりやすい」との記載があり、フラットパネルディスプレイ関係で言えば、画面上に縞模様状の模様が発生する。これは、ディスプレイの前面に設けられる導電性基板の網目状の金属微粒子層が規則的な構造の場合、ディスプレイ本体における、RGB各色の画素を仕切る規則正しい格子状の隔壁などとの相互作用により、該モアレ現象が生じるものである。これらは、互いに規則正しく配列されたものであり、特に画素を仕切る格子状の隔壁は、その規則正しい形状を変更することは不可能であるため、該モアレ現象を解消する一つの有力な方法として、導電性基板の網目状の構造を不規則(ランダム)にする方法が挙げられる。不規則(ランダム)な網目状の構造は、微分干渉顕微鏡の観察像で特定し、該網目状の構造が、その形状において、空隙部分の形状や大きさが不揃いである状態、すなわち不規則(ランダム)な状態として観察されるものである。従って、網目を構成する部分、すなわち線状の部分の形状も不揃いである状態、すなわち不規則(ランダム)な状態として観察されるものである。
【0031】
本発明においては、金属微粒子層を網目状に積層することによって、透明で、導電性のある基板を得ることができる。本発明の製造方法で製造した導電性基板の全光線透過率は好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上である。光線透過率が50%より小さいと、導電性基板の透明性の点で問題が生じる場合がある。なお、導電性基板の全光線透過率は高いほど好ましいが、現実的に90%よりも高くすることは困難と考えるため、上限は90%程度と考えられる。
【0032】
本発明の製造方法においては、絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層を積層する方法は特に限定されず、基板の少なくとも片面に金属微粒子層が網目状につながった構造を形成させればよい。
【0033】
本発明においては、基板の少なくとも片面に、絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層を形成した後、絶縁性の低分子化合物と金属微粒子の結合力を低下させる工程(a)と加熱する工程(c)をこの順に設けることで、絶縁性の低分子化合物を除去することが可能となり、金属微粒子層の導電性を高めることができる。
【0034】
本発明における導電性向上のメカニズムについては、明確ではないが、以下のように推測される。
【0035】
金属微粒子分散液を塗布することによって形成される網目状の金属微粒子層中には、金属微粒子以外に、低分子の分散剤、低分子の界面活性剤、低分子の酸化防止剤、低分子の耐熱安定剤、低分子の耐候安定剤、低分子の紫外線吸収剤分散剤、など、種々の低分子化合物が溶液中に含有されている。また、金属微粒子の溶液中での分散性や安定性を向上させるために、金属微粒子分散液中の金属微粒子の表面は、低分子化合物によって被覆されていることが一般的である。そのため、積層された金属微粒子層の金属微粒子間には、金属微粒子分散液中に含有されている種々の低分子化合物や、金属微粒子を被覆している低分子化合物が存在し、これら低分子化合物が導電性を有していない場合には、絶縁性成分(絶縁性の低分子化合物)として作用することで、結果として、優れた導電性を発現する妨げとなっていると推察される。また、金属微粒子を被覆する低分子化合物が多く残存する場合には、熱による金属微粒子の焼結が進行しにくく、結果として、高導電性を得るためには、高温で長時間処理する必要が生じる。つまり、これらの絶縁性の低分子化合物を効率的に除去することで、金属微粒子間の導電性が向上すると考えられる。本発明においては、あらかじめ有機溶媒で処理することで、絶縁性の低分子化合物と金属微粒子間の結合力を低下させ、続いて行なう加熱により、絶縁性の低分子化合物を除去することで、優れた導電性を得ることができると推測される。
【0036】
本発明における工程(a)は、絶縁性の低分子化合物と金属微粒子間の結合力を低下させるために重要である。結合力を低下させるための方法は、特に限定されないが、絶縁性の低分子化合物を含む金属微粒子層を、有機溶媒で処理する工程(a1)であることが望ましい。本工程(a1)によれば、絶縁性の低分子化合物と金属微粒子間の結合力を低下させることが可能であり、また有機溶媒の種類と絶縁性低分子化合物の種類の選択によっては、有機溶媒中に絶縁性の低分子化合物を溶解できる場合もある。有機溶媒中に絶縁性の低分子化合物を溶解させた結果、金属微粒子層から完全に絶縁性の低分子化合物が除去されても構わないが、この工程(a)(工程(a1))において完全に低分子化合物を除去することは、現実的には困難と考えられる。そこで、一部の絶縁性の低分子化合物がこの工程(a)(工程(a1))において除去され、残りの絶縁性の低分子化合物は、金属微粒子との結合力が低下した状態で残存する態様でも問題はない。後工程である工程(c)において、加熱により絶縁性の低分子化合物を除去することから、工程(a)においては、絶縁性の低分子化合物と金属微粒子との結合力が低下しさえすれば十分である。
【0037】
絶縁性の低分子化合物を含む金属微粒子層を有機溶媒で処理する工程(a1)で好適に使用される有機溶媒は、絶縁性の低分子化合物と金属微粒子間の結合力を低下させることが出来れば、水可溶性溶媒であっても、水難溶性溶媒であってもよく、これらを混合したものを用いても良い。工程(a1)で使用する有機溶媒は、絶縁性の低分子化合物の種類と金属微粒子の種類によって、好適な有機溶媒を適宜、選択すれば良いが、有機溶媒の一例を挙げると、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、1,3ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ヘキサン、ヘプタン、デカン、シクロヘキサンなどのアルカン類、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシドなどの双極性非プロトン溶媒、トルエン、キシレン、アニリン、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコール、エチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、クロロホルム等、およびこれらの混合溶媒を使用できる。これらの中でも、ケトン類、エステル類、トルエンが含まれていると、導電性向上効果に優れるために好ましく、特に好ましくはケトン類であり、その中でもアセトンが特に好ましい。
【0038】
水可溶性の有機溶媒を用いる場合、水と混合した溶液として使用しても良い。水混合有機溶媒溶液中の有機溶媒量としては、5vol%以上が好ましく、より好ましくは50vol%以上、さらに好ましくは70vol%以上であり、最も好ましくは99vol%である。水混合有機溶媒溶液の含水量が多い場合には、十分な導電性向上の効果が得られない可能性があるため、好ましくない。なお、水混合有機溶媒溶液を使用することは、特に問題がないが、絶縁性の低分子化合物と金属微粒子間の結合力を低下させるためには、水を含有していない有機溶媒を使用した方が、効率的に導電性を向上させることが出来ると考えられる。
【0039】
工程(a1)における有機溶媒による処理時間は、0.1秒〜60分であることが好ましく、より好ましくは0.5秒〜30分、さらに好ましくは1秒〜15分、特に好ましくは1秒〜1分である。0.1秒未満では、十分に金属微粒子層を処理できずに、絶縁性の低分子化合物と金属微粒子の結合力を十分に低下させることができず、導電性向上効果が高まらない場合があるため、好ましくない。また、60分よりも長時間処理した場合に、導電性向上効果が高まらない場合や、導電性が悪化する場合がある。また、連続での生産効率を考えた場合には、短時間での処理にて、十分に導電性向上の効果が得られることが好ましいため、有機溶媒での処理時間は1秒〜1分が特に好ましい。
【0040】
工程(a1)における有機溶媒による処理温度は、常温で十分である。高温で処理を行うと、有機溶媒の蒸気が発生、揮散して、安全面、環境面で問題が生じる場合があるため、好ましくない。好ましい処理温度は40℃以下であり、より好ましくは30℃以下であり、さらに好ましくは25℃以下である。
【0041】
工程(a1)において、絶縁性の低分子化合物を含む金属微粒子層を有機溶媒で処理する方法は、特に限定されず、例えば、有機溶媒や、有機溶媒の溶液の中に絶縁性の低分子化合物を含む金属微粒子層を形成した基板を浸したり、有機溶媒や、有機溶媒の溶液を前記金属微粒子層上に塗布したり、有機溶媒や、有機溶媒の溶液の蒸気を前記金属微粒子層にあてたりする方法が用いられる。これらの中でも、有機溶媒や、有機溶媒の溶液の中に前記金属微粒子層を形成した基板を浸したり、有機溶媒や、有機溶媒の溶液を前記金属微粒子層上に塗布したりするなど、直接金属微粒子層と有機溶媒の液体を接触させる方法が、導電性向上効果に優れるため好ましい。すなわち、有機溶媒による処理条件としては、40℃以下の温度として、有機溶媒の中に絶縁性の低分子化合物を含む金属微粒子層を形成した基板を浸したり、有機溶媒を前記金属微粒子層上に塗布したりすることが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法においては、工程(a1)と工程(c)の間に、10℃以上40℃以下で乾燥する工程(b)を行い、さらに工程(a1)、(b)、(c)がこの順に連続して行なわれることがより好ましい。このより好ましい態様である工程(b)の乾燥は、有機溶媒で処理した金属微粒子層から該有機溶媒を除去するために行う工程である。該10℃以上40℃以下での乾燥は、特に限定されないが、自然乾燥であっても、気流を利用してもよく、減圧除去、加熱除去しても良い。有機溶媒の蒸発時の蒸発潜熱により基板の冷却、周囲の湿気が冷却されることで、基板上に結露が発生する可能性があるため、気流を基板へ当てることで、乾燥を促進、結露発生を抑制する方法が好ましい。この際の気流温度は、特に限定されないが、常温付近で十分である。40℃を超える高温条件下の乾燥では、短時間での乾燥が可能となる利点はあるが、有機溶媒の蒸気が発生、揮散して、安全面、環境面での問題が生じる場合があるため、40℃以下で乾燥することが好ましい。減圧除去は、特殊な減圧装置が必要となり、加熱除去では、溶媒蒸気の揮散や装置の爆発下限の問題があるため、好ましくない。乾燥の程度に関して、特に限定されないが、生産を行う上で、装置の爆発下限よりも低いレベルまで乾燥されていれば良い。10℃未満では、有機溶媒の乾燥に時間を要するため、連続生産を行う際には、コストアップに繋がる、結露する可能性があるなど、問題点が挙げられるため、好ましくない。
【0043】
本発明における工程(c)の加熱は、工程(a)にて金属微粒子との結合力を低下させた、絶縁性の低分子化合物を除去するために行う。加熱する工程(c)の加熱温度は特に限定されないが、工程(c)が100℃以上で加熱する工程(c1)であることが好ましい。工程(c1)は、より好ましくは100℃以上300℃以下であり、さらに好ましくは150℃以上250℃以下、特に好ましくは150℃以上200℃以下である。工程(c1)の加熱温度が100℃未満の場合、絶縁性の低分子化合物を効率よく除去することができない場合があるために、好ましくない。一方、工程(c1)を300℃よりも高温で行う場合には、熱可塑性樹脂を基板に用いた場合に、基板を白化させ、透明性を損なう可能性があるために好ましくない。また、工程(c)において、低分子化合物を除去している間に、金属微粒子が焼結される可能性があるが、金属微粒子が焼結されることで、導電性が向上する。つまり工程(c)の加熱は、加熱により絶縁性の低分子化合物が除去される事による導電性向上効果と、金属微粒子が焼結されることによる導電性向上効果の相乗効果が生じた場合が特に好ましい。
【0044】
粒子径の大きい金属微粒子では、600℃以上の高温で熱処理することで、粒子同士を融着して、焼結させる必要がある。一方で、粒子径の小さい金属微粒子においては、粒子表面に存在するエネルギー状態の高い活性な金属原子の割合が多くなるために、金属微粒子を構成する金属そのものの融点よりも低い温度で焼結させることができることが知られている。金属微粒子に用いられる金属によって融点が異なり、さらには、金属微粒子の粒子径によっても、焼結が進行する温度は異なってくるが、本発明において使用する金属微粒子の好ましい数平均粒子径は、0.001〜5.0μmであることから、200℃以下の低温加熱にて焼結が可能と考えられる。つまり、上記の工程(c1)の温度範囲であれば、絶縁性の低分子化合物が除去される事による導電性向上効果と、金属微粒子が焼結されることによる導電性向上効果の相乗効果が期待されると考えられる。
【0045】
工程(c)における加熱処理時間は、特に限定されないが、10秒以上であることが好ましい。より好ましくは10秒以上60分以下であることが好ましく、より好ましくは、10秒以上30分以下、さらに好ましくは10秒以上10分以下、特に好ましくは10秒以上5分以下である。加熱処理時間が60分より長くなると、長時間の加熱処理となるため、基板として熱可塑性樹脂フィルムを用いた場合には、変形が起こってしまうなどの問題が生じるため好ましくない。10秒未満の場合、加熱処理が不十分となり、絶縁性の低分子化合物を効率的に除去できない可能性があるため、好ましくない。
【0046】
本発明の製造方法により得られる網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の金属微粒子層は、表面比抵抗値が15Ω/□以下であることが重要である。より好ましくは10Ω/□以下であり、さらに好ましくは5Ω/□以下である。表面比抵抗値が15Ω/□以下であると、導電性基板として通電して用いる際に、抵抗による負荷が小さくなるため、発熱が抑えられることや、低電圧で用いることができるなどの点から、重要である。なお、表面比抵抗値は、低い方が好ましいものの、現実的に達成可能な下限は、1Ω/□程度と考えられ、そのため、1Ω/□程度が下限と考えられる。また本発明により得られる表面比抵抗値が15Ω/□以下の網目状金属微粒子積層基板を、例えば、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなど、フラットパネルディスプレイの電磁波シールド基板用の導電性基板として用いた場合には、電磁波シールド性が良好となるために重要である。なお、本発明の製造方法である工程(a)、工程(c)をこの順に行なうことで、より好ましくは工程(a1)、工程(c1)をこの順に行なうこと、さらに好ましくは工程(a1)、工程(b)、工程(c1)をこの順に行なうことによって、絶縁性の低分子化合物を除去すれば、網目状金属微粒子積層基板の表面比抵抗値を15Ω/□以下とすることが可能である。つまり、絶縁性の低分子化合物が除去されたか否は、表面比抵抗値が15Ω/□以下か、それともそれを超えるかによって判断することができる(なお絶縁性の低分子化合物は完全に除去されることが好ましいものの、本発明においては、絶縁性の低分子化合物が完全に除去される必要はなく、表面比抵抗値が15Ω/□以下となる程度にまで除去された状態で十分である。)。
【0047】
金属微粒子層の表面比抵抗値の測定は、例えば、常態(23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下で、JIS-K-7194(1994年制定)に準拠した形で、ロレスタ-EP(三菱化学株式会社製、型番:MCP-T360)を用いて測定することができる。
【0048】
本発明において使用される基板とは、特に限定されず、ガラスや樹脂など種々の基板を用いることができる。また、ガラスや樹脂などの基板を2種以上貼り合わせるなどして組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明では、網目状金属微粒子積層基板の製造方法において、かかる基板の該金属微粒子分散液が塗布される面の表面ぬれ張力を、45mN/m以上73mN/m以下にすることが好ましく、より好ましくは50〜73mN/mであり、さらに好ましくは55〜73mN/mである。表面ぬれ張力は、73mN/mが測定限界値であり、45mN/m未満であると、基板の該面に該金属微粒子分散液を塗布したときに、金属微粒子分散液が網目状にならず、全体に均一な塗膜ができてしまい、金属微粒子積層基板の透明性が劣る問題が生じる場合がある。
【0050】
基板の該金属微粒子分散液が塗布される面の表面ぬれ張力を45mN/m以上73mN/m以下とするためには、コロナ放電処理、プラズマ処理などの公知の方法が使用できる。
【0051】
なお本発明では、基板の表面をアンカーコート剤やプライマーなどのコーティングにより親水性処理を行うなどして、少なくとも片面に親水性処理層を有する基板とすることで、金属微粒子分散液が塗布される側の面の表面ぬれ張力を、45mN/m以上73mN/m以下とすることも、好ましい実施態様である。
【0052】
本発明において、基板の表面に親水性処理層が積層されている場合には、金属微粒子が網目状に積層されやすくなるため好ましい。かかる親水性処理層としては、特に限定されるものではないが、ポリエステル、アクリル変性ポリエステル、ポリウレタン、アクリル系樹脂、メタクリレート系樹脂、ポリアミド、ポリビニルアルコール類、澱粉類、セルロース誘導体、ゼラチン等の天然樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリアクリルアミド、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリアニリン、各種シリコーン樹脂や変性シリコーン樹脂などからなる層を用いることができる。
【0053】
本発明においては、金属微粒子層の導電性を高めるために長時間の高温加熱を必要としないため、基板として熱可塑性樹脂フィルムを用いることが出来る。基板が熱可塑性樹脂フィルムである場合、透明性、柔軟性、加工性などの点で好ましい。本発明でいう熱可塑性樹脂フィルムとは、熱によって溶融もしくは軟化するフィルムの総称であって、特に限定されるものではないが、代表的なものとして、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルムやポリスチレンフィルムなどのアクリル系フィルム、ナイロンなどのポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリウレタンフィルム、フッ素系フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムなどを用いることができる。
【0054】
これらは、ホモポリマーでも共重合ポリマーであってもよい。これらのうち、機械的特性、寸法安定性、透明性などの点で、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルムなどが好ましく、更に、機械的強度、汎用性などの点で、ポリエステルフィルムが特に好ましい。
【0055】
ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレン−2,6−ナフタレート、エチレン−α,β−ビス(2-クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成成分を主要構成成分とするものを好ましく用いることができる。これら構成成分は、1種のみ用いても、2種以上併用してもよいが、中でも品質、経済性などを総合的に判断すると、エチレンテレフタレートを主要構成成分とするポリエステル、すなわち、ポリエチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。また、基材に熱や収縮応力などが作用する場合には、耐熱性や剛性に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレートが更に好ましい。これらポリエステルには、更に他のジカルボン酸成分やジオール成分が一部、好ましくは20モル%以下共重合されていてもよい。
【0056】
また、このポリエステル中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0057】
上述したポリエステルの極限粘度(25℃のo−クロロフェノール中で測定)は、0.4〜1.2dl/gが好ましく、より好ましくは0.5〜0.8dl/gの範囲にあるものが本発明を実施する上で好適である。
【0058】
上記ポリエステルを使用したポリエステルフィルムは、二軸配向されたものであるのが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、一般に、未延伸状態のポリエステルシートまたはフィルムを長手方向および幅方向に各々2.5〜5倍程度延伸され、その後、熱処理が施されて、結晶配向が完了されたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。
【0059】
ポリエステルフィルムの厚みは、特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは10〜500μm、より好ましくは38〜250μm、最も好ましくは75〜150μmである。また、ポリエステルフィルム基材は、共押出による複合フィルムであってもよい。一方、得られたフィルムを各種の方法で貼り合わせて用いることもできる。
【0060】
本発明の導電性基板には、基板、金属微粒子層の他に各種の層が積層されていてもよい(本発明の導電性基板は、以下の各種の層を有する基板を使用して製造してもよい。)。例えば、特に限定されるものではないが、基板と金属微粒子層の間に密着性改善のための下塗り層などが設けられていてもよく、金属微粒子層の上に保護層が設けられていてもよく、基板の片面、または両面に粘着層や、離型層や、保護層や、接着性付与層や、耐候性層などが設けられていてもよい。
【0061】
本発明の導電性基板の製造方法をより具体的に例示して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。二軸延伸ポリエステルフィルムに銀微粒子の溶液を格子状に印刷し、絶縁性の低分子化合物を含む金属微粒子層を格子状網目構造に形成する。その後、該金属微粒子層を有機溶媒で処理するために、二軸延伸ポリエステルフィルムごと有機溶媒に浸漬させ、0.1秒〜60分程度放置する。その後、二軸延伸ポリエステルフィルムを取り出してから、有機溶媒を30℃で乾燥させ、100℃以上で加熱処理を行う。
【0062】
本発明の導電性基板の製造方法を用いれば、透明性と高いレベルの導電性を有した導電性基板を、生産性に優れた方法で得ることができる。
【0063】
本発明の製造方法によって得られた導電性基板は、透明性と高いレベルの導電性を有しているため、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどのフラットパネルディスプレイに用いられる電磁波シールド基板として用いることが可能である他、回路材料用途や、太陽電池用途など、各種の導電性基板用途にも好適に用いることができる。
【0064】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
各実施例・比較例で作成した導電性基板の特性の測定方法及び効果の評価方法は次の通りである。
【0065】
(1)導電性
導電性基板の金属微粒子層の導電性は、表面比抵抗値により評価した。表面比抵抗値の測定は、常態(23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下で、JIS−K−7194(1994年制定)に準拠した形で、ロレスタ-EP(三菱化学株式会社製、型番:MCP−T360)を用いて実施した。単位は、Ω/□である。なお、本測定器は1×10Ω/□以下が測定可能である。表面比抵抗値が15Ω/□以下であれば、絶縁性の低分子化合物が除去できており、導電性は良好とした。
(2)全光線透過率
全光線透過率は、常態(23℃、相対湿度65%)において、導電性基板を2時間放置した後、JIS−K―7375(2008年制定)に準拠した形で、スガ試験機(株)製全自動直読ヘイズコンピューター「HGM−2DP」を用いて測定した。3回測定した平均値を該導電性基板の全光線透過率とした。全光線透過率が50%以上であれば透明性は良好である。なお、基板の片面のみに金属微粒子層を積層している導電性基板の場合、金属微粒子層を積層した面側より光が入るように導電性基板を設置した。
(3)金属微粒子の数平均粒子径
金属粒子の数平均粒子径は、金属粒子分散液を銅メッシュ上に滴下して、透過型電子顕微鏡(H−7100FA型 (株)日立製作所製)で金属粒子を観察し、任意に選択した100個の金属粒子の粒子径を測定し、その平均値を数平均粒子径とした。
(4)表面ぬれ張力
基板の表面ぬれ張力の測定は、各実施例・比較例で用いた基板を常態(23℃、相対湿度50%)において、6時間放置後、その雰囲気下で、JIS−K−6768(1999)に準拠した形で行った。
まず、基板の測定したい面を上にしてハンドコーターの基盤の上に置き、表面ぬれ張力試験用混合液を数滴滴下して、直ちにWET厚み12μmが塗布できるワイヤーバーを引いて広げる。
【0066】
表面ぬれ張力の判断は、試験用混合液の液膜を明るいところで観察し、2秒後の液膜の状態で行う。液膜が破れを生じないで、2秒以上、塗布されたときの状態を保っていればぬれていることになる。ぬれが2秒以上保つ場合は、さらに、表面ぬれ張力の高い混合液に進み、また逆に、2秒未満で液膜が破れる場合は、表面ぬれ張力の低い混合液に進む。この操作を繰り返し、基板の表面を正確に2秒以上ぬらすことができる混合液を選び、その基板の表面ぬれ張力とする。この測定法による表面ぬれ張力の最大は、73mN/mであり、表面ぬれ張力の単位は、mN/mである。
(5)表面観察(形状観察)
金属微粒子積層基板の表面を微分干渉顕微鏡(LEICA DMLM ライカマイクロシステムズ(株)製)にて倍率100倍で観察し、表面形状が網目状になっているか観察した。表面観察は、任意で選択した3箇所の表面にて実施し、いずれの場所においても網目構造が確認された場合、観察した金属微粒子層を有する導電性基板は、網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)であるとした。
【実施例】
【0067】
次に、実施例に基づいて本発明を説明する。
(金属微粒子分散液1)
金属微粒子分散液1として、銀微粒子溶液であるCima Nanotech社製CE103−7を用いた。
(金属微粒子分散液2)
金属微粒子分散液2として、銀微粒子溶液である藤倉化成株式会社製XA―9053を用いた。銀微粒子の数平均粒子径は0.04μmであった。
(実施例1)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製 ルミラー(登録商標)U46)の金属微粒子分散液を塗布する面に、プライマー溶液をwet厚み12μmになるようにワイヤーバーで塗布し、親水性処理層を形成した。プライマー溶液により形成した親水性処理層の表面ぬれ張力は、73mN/mであった。金属微粒子分散液1をWET厚み30μmになるように基板にダイコート法により塗布し、150℃の熱風オーブン(タバイエスペック(株)製 PHH−200)で2分間、加熱処理を行い、基板の片面に絶縁性の低分子化合物を含む銀微粒子層を形成した。この積層基板の銀微粒子層は、不規則な網目状であり、全光線透過率は80%であり、表面比抵抗値は30.4Ω/□であった。
【0068】
次に、該積層基板を25℃のアセトン(佐々木化学薬品(株)製)に2秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を150℃の熱風オーブン(タバイエスペック(株)製 PHH−200)で60秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は7.1Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例2)
実施例1と同様の手法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに2秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を150℃の熱風オーブンで180秒加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は5.0Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例3)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに30秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を150℃の熱風オーブンで60秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は6.7Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例4)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに30秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を150℃の熱風オーブンで120秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は5.9Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例5)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに2秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を160℃の熱風オーブンで30秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は7.4Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例6)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに2秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を160℃の熱風オーブンで90秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は5.2Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例7)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに2秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を170℃の熱風オーブンで30秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は5.4Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例8)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに10秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を170℃の熱風オーブンで30秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は5.3Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例9)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに30秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を170℃の熱風オーブンで60秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は5.0Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例10)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに30秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を170℃の熱風オーブンで10秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は、7.0Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例11)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに30秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を170℃の熱風オーブンで8秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は、12.5Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(実施例12)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製 ルミラー(登録商標)U46)の金属微粒子分散液を塗布する面に、プライマー溶液をwet厚み12μmになるようにワイヤーバーで塗布し、親水性処理層を形成した。プライマー溶液により形成した親水性処理層の表面ぬれ張力は、73mN/mであった。続いて、金属微粒子分散液2をスクリーン印刷により、不規則な網目状に印刷した。そして印刷した金属微粒子分散液2を150℃で1分間乾燥することで、銀微粒子層を不規則な網目状に積層した積層基板を得た。該積層基板の全光線透過率は70%であり、表面比抵抗値は30Ω/□であった。
【0069】
得られた積層基板を、25℃のアセトンに30秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた、次に、この積層基板を170℃の熱風オーブンで60秒間加熱処理を行った。得られた不規則な網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は8.0Ω/□であり、全光線透過率は70%であった。
(比較例1)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに30秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を90℃の熱風オーブンで60秒間加熱処理を行った。得られた網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は18.4Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(比較例2)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を170℃の熱風オーブンで120秒間加熱処理を行った。得られた網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は18.5Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(比較例3)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のアセトンに60秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。得られた網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は17.2Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
(比較例4)
実施例1と同様の方法にて、積層基板を形成した後、該積層基板を25℃のシクロヘキサノンに2秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。該積層基板を150℃の熱風オーブンで120秒加熱処理を行った。得られた網目状の金属微粒子層を有する導電性基板(網目状金属微粒子積層基板)の表面比抵抗値は26.3Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
【0070】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の導電性基板の製造方法を用いれば、透明性と高いレベルの導電性を有した導電性基板を、生産性に優れた方法で得ることができる。
【0072】
本発明の製造方法で製造した導電性基板は、透明性と高いレベルの導電性を有する。そのため、例えば、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどのフラットパネルディスプレイに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の少なくとも片面に、絶縁性の低分子化合物を含む網目状の金属微粒子層を形成した後、以下の工程(a)、(c)をこの順に行なうことで、絶縁性の低分子化合物を除去することを特徴とする、表面比抵抗値が15Ω/□以下の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
工程(a):絶縁性の低分子化合物と金属微粒子の結合力を低下させる工程。
工程(c):加熱する工程。
【請求項2】
前記工程(a)が、以下の工程(a1)であることを特徴とする、請求項1に記載の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
工程(a1):絶縁性の低分子化合物を含む金属微粒子層を有機溶媒で処理する工程。
【請求項3】
前記工程(c)が、以下の工程(c1)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
工程(c1): 100℃以上で加熱する工程。
【請求項4】
工程(a1)と工程(c)の間に、以下の工程(b)を有し、工程(a1)、(b)、(c)を、この順に連続して行うことを特徴とする、請求項3に記載の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
工程(b): 10℃以上40℃以下で乾燥する工程。
【請求項5】
前記工程(c)を、10秒以上行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の網目状の金属微粒子層を有する導電性基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られうる導電性基板を用いた電磁波シールド基板。
【請求項7】
請求項6に記載の電磁波シールド基板を用いたプラズマディスプレイ。

【公開番号】特開2011−61053(P2011−61053A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210127(P2009−210127)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】