説明

透明導電性基板及びその製造方法並びに光電変換素子

【課題】近赤外領域における光透過率を向上させた透明導電膜を備えた透明導電性基板を提供すること。
【解決手段】本発明の透明導電性基板は、透明部材からなる被処理体の一方の面に、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有する透明導電膜を配したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性基板及びその製造方法、並びに該透明導電性基板を備えた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電基板は、絶縁体であるガラスの表面にスズドープ酸化インジウム(ITO)や酸化スズ(TO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの透光性導電酸化膜(TCO:Transparent Conductive oxide)を形成することにより導電性を備えた基板であり、光学的に透明な性質を保ちつつ、電気を流す性質も有する。これらの中で特にITOが透明導電膜として広く知られており、パソコン、テレビ、携帯電話などの液晶ディスプレイや太陽電池の透明電極に応用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、従来のITOからなる透明導電膜は、波長800nmの光に対しては70%程度の透過率を有するが、波長が長くなるにつれて透過率は激減し、波長1400nmにおいては0.5%程度の透過率しかもたないという欠点がある。
【0004】
このような透明導電性基板を、例えば光電変換素子の窓極に用いた場合、色素を含む光電変換層まで近赤外域の光(波長900nm〜1300nm)を届けることが殆どできなかった。そのため、近赤外域の光を有効に利用することができず、光電変換効率向上の妨げとなっていた。
【特許文献1】特許第2516688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、近赤外領域における光透過率を向上させた透明導電膜を備えた透明導電性基板を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含む透明導電膜を容易に形成できる透明導電性基板の製造方法を提供することを第二の目的とする。
また、本発明は、近赤外域の光も有効に利用することができ、光電変換効率を向上させた光電変換素子を提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の透明導電性基板は、透明部材からなる被処理体の一方の面に、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有する透明導電膜を配したことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の透明導電性基板は、請求項1において、前記微粒子の平均外径は、450nm以上、750nm以下であることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の透明導電性基板は、請求項1において、前記微粒子の平均含有量は、1.0×10個/mm以上、5.0×10個/mm以下であることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の透明導電性基板は、請求項1において、前記微粒子は、前記透明導電膜中に一様に分散されていることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の透明導電性基板の製造方法は、スプレー熱分解法により透明部材からなる被処理体の一面上に透明導電膜を形成する方透明導電性基板の製造方法であって、前記透明導電膜を形成する際に、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含む原料溶液を用いることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の光電変換素子は、少なくとも一部に増感色素が担持された酸化物半導体多孔質層を有する作用極と、前記作用極の酸化物半導体多孔質層と対向して配された対極と、前記作用極と前記対極との間の少なくとも一部に配された電解質と、を備えてなる光電変換素子であって、前記作用極または前記対極の少なくとも一方は、透明部材からなる被処理体の一方の面に、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有する透明導電膜を配した透明導電性基板を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、透明導電膜中に酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有させることで、透明導電膜の近赤外領域における透過率を向上させた透明導電性基板を提供することができる。
また、本発明では、スプレー熱分解法により透明導電膜を形成する際に、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含む原料溶液を用いることで、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含む透明導電膜を容易に形成できる透明導電性基板の形成方法を提供することができる。
また、本発明では、近赤外領域における透過率を向上させた透明導電性基板を備えることで、近赤外域の光を増感色素が担持された酸化物半導体多孔質層まで届けることができる。その結果、近赤外域の光も有効に利用することができ、光電変換効率を向上した光電変換素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る透明導電性基板および光電変換素子の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0009】
図1は、本発明に係る透明導電性基板の一実施形態を示す概略断面図である。
この透明導電性基板10は、透明基材11、および、その一方の面11aに形成された透明導電膜12から概略構成されている。
【0010】
透明基材11としては、光透過性の素材からなる基板が用いられ、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなど、通常、透明基材として用いられるものであればいかなるものでも用いることができる。透明基材11は、これらの中から適宜選択される。また、透明基材11としては、用途上、できる限り光透過性に優れる基板が好ましく、透過率が90%以上の基板がより好ましい。
【0011】
透明導電膜12は、透明基材11に導電性を付与するために、その一方の面11aに形成された薄膜である。本発明では、透明導電性基板の透明性を著しく損なわない構造とするために、透明導電膜12は、導電性金属酸化物からなる薄膜であることが好ましい。
透明導電膜12を形成する導電性金属酸化物としては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO)、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)などが用いられる。これらの中でも、成膜が容易かつ製造コストが安価であるという観点から、FTO、ITOが好ましい。また、透明導電膜12は、FTOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜であることが好ましい。
【0012】
透明導電膜12を、ITOのみからなる単層の膜、または、ITOからなる膜にFTOからなる膜が積層されてなる積層膜とすることにより、可視域における光の吸収量が少なく、導電率が高い透明導電性基板を構成することができる。
【0013】
そして本発明の透明導電性基板10は、前記透明導電膜12が、酸化ケイ素(SiO2)および/または酸化亜鉛(ZnO)からなる微粒子を含有することを特徴とする。透明導電膜中に酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有させることで、近赤外域(波長900nm〜1300nm)における光透過率を向上することができる。
酸化ケイ素の微粒子、酸化亜鉛の微粒子は、どちらか一方を単独で用いてもよいし、両方を所定の割合で混合したものを用いてもよい。
【0014】
例えば、本発明の透明導電性基板10を光電変換素子の窓極として用いる場合、近赤外域の光を、増感色素が担持された酸化物半導体多孔質層まで届けることができるので、近赤外域の光も有効に利用することができ、光電変換効率を向上することができる。
【0015】
また、前記微粒子の平均外径は、450nm以上、750nm以下であることが好ましい。前記微粒子の平均外径を、近赤外域の光の波長(900nm〜1300nm)の半分程度とすることで、近赤外域の光透過性をより向上することができる。
【0016】
また、透明導電膜12中における前記微粒子の平均含有量は、1.0×10個/mm以上、5.0×10個/mm以下であることが好ましい。前記微粒子の平均含有量が1.0×10個/mmよりも少ないと、微粒子の添加による近赤外域の光透過率向上の効果が十分に得られない。一方、前記微粒子の平均含有量が5.0×10個/mmよりも多いと、透明導電膜12の表面抵抗が増加してしまう。
【0017】
また、前記微粒子は、透明導電膜12中に一様に分散されていることが好ましい。これにより、透明導電膜12の全面における透過率のバラツキを抑制し、透明導電膜12の全面において近赤外域をはじめ高い光透過率を有するものとなる。
【0018】
また、前記透明導電膜12は、スプレー熱分解法により形成されたものであることが好ましい。透明導電膜12を、スプレー熱分解法により形成することで、容易にヘーズ率を制御することができる。また、スプレー熱分解法は、減圧システムが不要なため、製造工程の簡素化低コスト化を図ることができるので好適である。
【0019】
次に、この実施形態の透明導電性基板10の製造方法について説明する。
この実施形態では、まず、透明基材11の一方の面11aの全域を覆うように透明導電膜12を形成し、透明導電性基板10を作製する。
透明導電膜12を形成する方法としては、スプレー熱分解法(SPD法)が挙げられる。
【0020】
そして本発明の透明導電性基板の製造方法は、スプレー熱分解法により前記透明導電膜を形成する際に、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含む原料溶液を用いることを特徴とする。透明導電膜12を、スプレー熱分解法により形成することで、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有する透明導電膜を容易に形成することができる。
また、スプレー熱分解法は、減圧システムが不要なため、製造工程の簡素化低コスト化を図ることができるので好適である。
【0021】
ここで、図3は、本発明に係る透明導電性基板の製造に用いる成膜装置の一例を示す模式図である。
この成膜装置50は、スプレー熱分解法により被処理体(透明基材11)上に薄膜(透明導電膜12)を形成する成膜装置であって、前記被処理体を載置する支持手段51と、前記被処理体の温度を調整する温度制御手段と、前記被処理体の一面に向けて、前記薄膜の原料溶液からなるミスト53を噴霧する吐出手段54と、前記原料溶液に含有されるスズの濃度を調整する濃度制御手段55と、吐出手段54と対向する位置に配される被処理体との間の空間56を包み込むように配置されるフード57とを少なくとも備える。
【0022】
支持手段51は、透明基材11の被成膜面11aを所定の温度に保ちながら薄膜を形成するため、被処理体2の加熱・保持・冷却機能を備えた温度制御手段52を内蔵している。温度制御手段52は、例えばヒータである。
【0023】
吐出手段は、空気(Airと表示)を取り込む第一導入路54αと、濃度制御手段55によってスズの添加量が調整された原料溶液を取り込む第二導入路54βとを備えている。例えば、矢印αの方向に空気を、矢印βの方向に原料溶液を導入し、これらを混ぜ合わせてミスト化を図った上で吐出口54aを通して被処理体である透明基材11に向けて噴霧する。
【0024】
また、成膜装置50では、フード57が吐出手段52と対向する位置に配される被処理体との間の空間を包み込むように配置されているので、吐出手段54の吐出口54aからスプレー状に噴射された原料溶液は外気の影響を受けることなく、吐出口54aから被処理体に向かう放射状空間に噴霧された状態を安定に保つことができる。換言すると、フード57はその内部空間から装置への外部へ原料溶液が飛散し、無駄な使用量が増加するのも防ぐ働きもする、これにより、原料溶液は薄膜の形成に有効に使われる。
【0025】
このような成膜装置を用いてスプレー熱分解法により透明導電膜12を透明基材11上に成膜するとき、該透明導電膜の原料溶液中に酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を混合させる。
これにより、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有する透明導電膜を容易に形成することができる。その結果、近赤外領域における透過率を向上させた透明導電膜を形成することができる。
【0026】
以上のようにして得られる透明導電性基板10は、透明導電膜12中に酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有させることで、近赤外領域における透過率が向上したものとなる。
【0027】
図2は、本発明に係る光電変換素子の一実施形態を示す概略断面図である。
図2において、符号10は透明導電性基板、11は透明基材、12は透明導電膜、13は多孔質酸化物半導体層、14は作用極、15は電解質層、16は他の基材、17は導電膜、18は対極、19は封止部材、20は積層体、30は色素増感型光電変換素子をそれぞれ示している。
この光電変換素子30は、作用極14と、対極18と、これらの間に封入された電解質からなる電解質層15と、から概略構成されている。
【0028】
作用極14は、透明導電性基板10をなす透明導電膜12の一方の面に形成され、増感色素を担持させた多孔質酸化物半導体層13とから構成されている。
対極18は、他の基材16と、この一方の面上に形成された導電膜17とから構成されている。
光電変換素子30において、電解質層15を作用極14と対極18で挟んでなる積層体20が、その外周部が封止部材19によって接着、一体化されて光電変換素子として機能する。
【0029】
多孔質酸化物半導体層13は、透明導電膜12の上に設けられており、その表面には増感色素が担持されている。多孔質酸化物半導体層13を形成する半導体としては特に限定されず、通常、光電変換素子用の多孔質酸化物半導体を形成するのに用いられるものであれば、いかなるものでも用いることができる。このような半導体としては、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タングステン(WO)などを用いることができる。
【0030】
多孔質酸化物半導体層13を形成する方法としては、例えば、市販の酸化物半導体微粒子を所望の分散媒に分散させた分散液、あるいは、ゾル−ゲル法により調製できるコロイド溶液を、必要に応じて所望の添加剤を添加した後、スクリーンプリント法、インクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スプレー塗布法など公知の塗布方法により塗布した後、この添加剤を加熱処理や化学処理により除去して空隙を形成させ多孔質化する方法などを適用することができる。
【0031】
増感色素としては、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを配位子に含むルテニウム錯体、ポリフィリン、フタロシアニンなどの含金属錯体、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素などを適用することができ、これらの中から、用途、使用半導体に適した挙動を示すものを特に限定なく選ぶことができる。
【0032】
電解質層15は、多孔質酸化物半導体層13内に電解液を含浸させてなるものか、または、多孔質酸化物半導体層13内に電解液を含浸させた後に、この電解液を適当なゲル化剤を用いてゲル化(擬固体化)して、多孔質酸化物半導体層13と一体に形成されてなるもの、あるいは、イオン液体、酸化物半導体粒子あるいは導電性粒子を含むゲル状の電解質が用いられる。
【0033】
上記電解液としては、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリ−ブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解されてなるものが用いられる。
この電解液をゲル化する際に用いられるゲル化剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などが挙げられる。
【0034】
上記イオン液体としては、特に限定されるものではないが、室温で液体であり、四級化された窒素原子を有する化合物をカチオンとした常温溶融塩が挙げられる。
常温溶融塩のカチオンとしては、四級化イミダゾリウム誘導体、四級化ピリジニウム誘導体、四級化アンモニウム誘導体などが挙げられる。
常温溶融塩のアニオンとしては、BF、PF、F(HF)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド[N(CFSO]、ヨウ化物イオンなどが挙げられる。
イオン液体の具体例としては、四級化イミダゾリウム系カチオンとヨウ化物イオンまたはビストリフルオロメチルスルホニルイミドイオンなどからなる塩類を挙げることができる。
【0035】
上記酸化物半導体粒子としては、物質の種類や粒子サイズなどが特に限定されないが、イオン液体を主体とする電解液との混和製に優れ、この電解液をゲル化させるようなものが用いられる。また、酸化物半導体粒子は、電解質の半導電性を低下させることがなく、電解質に含まれる他の共存成分に対する化学的安定性に優れることが必要である。特に、電解質がヨウ素/ヨウ化物イオンや、臭素/臭化物イオンなどの酸化還元対を含む場合であっても、酸化物半導体粒子は、酸化反応による劣化を生じないものが好ましい。
このような酸化物半導体粒子としては、TiO、SnO、WO、ZnO、Nb、In、ZrO、Ta、La、SrTiO、Y、Ho、Bi、CeO、Alからなる群から選択される1種または2種以上の混合物が好ましく、二酸化チタン微粒子(ナノ粒子)が特に好ましい。この二酸化チタンの平均粒径は2nm〜1000nm程度が好ましい。
【0036】
上記導電性微粒子としては、導電体や半導体など、導電性を有する粒子が用いられる。この導電性粒子の比抵抗の範囲は、好ましくは1.0×10−2Ω・cm以下であり、より好ましくは、1.0×10−3Ω・cm以下である。また、導電性粒子の種類や粒子サイズなどは特に限定されないが、イオン液体を主体とする電解液との混和性に優れ、この電解液をゲル化するようなものが用いられる。さらに、電解質中で酸化被膜(絶縁被膜)などを形成して導電性を低下させることがなく、電解質に含まれる他の共存成分に対する化学的安定性に優れることが必要である。特に、電解質がヨウ素/ヨウ化物イオンや、臭素/臭化物イオンなどの酸化還元対を含む場合でも、酸化反応による劣化を生じないものが好ましい。
このような導電性微粒子としては、カーボンを主体とする物質からなるものが挙げられ、具体例としては、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、カーボンブラックなどの粒子を例示できる。これらの物質の製造方法はいずれも公知であり、また、市販品を用いることもできる。
【0037】
他の基材16としては、透明基材11と同様のものや、特に光透過性をもつ必要がないことから金属板、合成樹脂板などが用いられる。
導電膜17は、他の基材16に導電性を付与するために、その一方の面に形成された金属、炭素などからなる薄膜である。導電膜17としては、例えば炭素や白金などの層を、蒸着、スパッタ、塩化白金酸塗布後に熱処理を行ったものが好適に用いられるが、電極として機能するものであれば特に限定されるものではない。
【0038】
封止部材19としては、対極18をなす他の基材16に対する接着性に優れるものであれば特に限定されないが、例えば、分子鎖中にカルボン酸基を有する熱可塑性樹脂からなる接着剤などが望ましく、具体的には、ハイミラン(三井デュポンリケミカル社製)、バイネル(三井デュポンリケミカル社製)、アロンアルファ(東亞合成社製)などが挙げられる。
【0039】
この光電変換素子30は、透明導電膜12中に酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有した透明導電性基板10を備えているので、近赤外領域における透過率が向上する。これにより、近赤外域の光を増感色素が担持された酸化物半導体多孔質層まで届けることができる。その結果、近赤外域の光も有効に利用することができ、光電変換効率が向上したものとなる。
【0040】
以上、本発明の透明導電性基板およびその製造方法、光電変換素子について説明してきたが、本発明は上記の例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更が可能である。
【実施例】
【0041】
図3に示したような成膜装置を用いて、透明導電性基板を製造した。全ての工程は、大気雰囲気中にて行った。
【0042】
<原料溶液の調製>
まず、FTO透明導電膜を形成するための出発原料を、次のようにして調製した。
塩化スズ(IV)五水和物7.01gに対してエタノール30%、水溶液100mlの割合で溶解し、これにフッ化アンモニウム2.96gの飽和水溶液を加え、この混合物を超音波にて溶解した。
以上の溶液にSiO粒子(平均外径:450〜750nm)を所定の割合で混合し、原料溶液を調製した。
【0043】
<実験例1>
実験例1(試料A〜試料L)では、SiO粒子含有量をそれぞれ変えてFTO透明導電膜を形成した。
FTO透明導電性膜中のSiO粒子含有量が表1に示すような値となるように、原料溶液へのSiO粒子の混合量をそれぞれ変えて原料溶液を調製した。
透明基材としてガラス基板上に、上記原料溶液を用いてスプレー熱分解法により、750nmの厚さにFTO透明導電膜を成膜し、透明導電性基板を作製した。
【0044】
以上のようにして作製された透明導電性基板(試料A〜試料L)について、透過率と表面抵抗値とを評価した。なお、透過率は近赤外領域である900〜1300nmの平均値で表している。評価結果をSiO粒子含有量と併せて表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から分かるように、SiO粒子含有量が少ない試料A〜試料Eでは、十分高い透過率が得られていない。一方、SiO粒子含有量が多い試料Lでは、透過率は高いものの表面抵抗値が増加してしまっている。これに対し、SiO粒子含有量を1×10個/mm以上、5×10個/mm以下とした試料F〜試料Kでは、80%以上という高い透過率と、8Ω/cm以下という低い表面抵抗とを共に確保できており、好ましい。
【0047】
<実験例2>
実験例2(試料M〜試料N)では、SiO粒子の平均外径をそれぞれ変えてFTO透明導電膜を形成した。
FTO透明導電性膜中のSiO粒子含有量が5×10個/mmとなるように、原料溶液に、所定の平均外径を有するSiO粒子を混合した。
透明基材としてガラス基板上に、上記原料溶液を用いてスプレー熱分解法により、750nmの厚さにFTO透明導電膜を成膜し、透明導電性基板を作製した。
【0048】
また、得られた透明導電性基板を用いて、色素増感型の光電変換素子を作製した。
25mm角のチタン板(厚さ0.03mm)上に、直径15μm以下の33NaO・67Bガラス粒子を静置、700℃で6時間保持後、温水処理、超音波洗浄を行って表面粒子層を除去した。その結果、一辺が10〜30nm、長さ約5μmの四角柱状の酸化チタンナノロッドが形成された。
【0049】
この酸化チタンナノロッド上に、粒子径約10nmの酸化チタン微粒子をアセチルニトリルに分散してペーストとしたものをバーコート法により厚さ約15μmに塗布し、乾燥後450℃で1時間加熱焼成して行った。
さらにルテニウムピピリジン錯体(N3色素)のエタノール溶液中に16時間浸漬して色素担持させ、作用極を作製した。
【0050】
対極として上記で作製した透明導電性基板を用い、対極と作用極とを50μm厚の熱可塑性ポリオレフィン樹脂シートをスペーサーとして介在させた状態で対向させ、樹脂シートの溶融熱により両電極を固定した。この際、電解質の注液口とするため、その隙間にヨウ素/ヨウ化物の電解液を充填して電解質層とし色素増感型の光電変換素子を作製した。
【0051】
以上のようにして作製された透明導電性基板および光電変換素子(試料L〜試料N)について、透過率、表面抵抗値および光電変換効率を評価した。なお、透過率は近赤外領域である900〜1300nmの平均値で表している。評価結果をSiO粒子の平均外径と併せて表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から分かるように、SiO粒子の平均外径を50〜300nmとした試料Mと試料Nでは、十分高い透過率が得られていない。これに対し、粒子の平均外径を450〜750nmとした試料Oでは、80%以上という高い透過率を有しており、好ましい。ただし、粒子の平均外径がさらに大きな試料P(800〜1200nm)では、透過率が70%まで低下するとともに、表面抵抗の増大もまねくため、芳しくない。
また、この透明導電性基板を用いた光電変換素子においても、試料Nでは、近赤外域の光を有効に利用することができず、高い光電変換効率が得られていない。これに対し、試料Oでは、近赤外域の光も有効に利用することができ、高い光電変換効率を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、透明導電性基板およびその製造方法、並びに該透明導電性基板を備えた光電変換素子に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る透明導電性基板の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る光電変換素子の一例を示す概略断面図である。
【図3】透明導電性基板の製造に用いた成膜装置の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0056】
10 透明導電性基板、11 透明基材、12 透明導電膜、13 多孔質酸化物半導体層、14 作用極(窓極)、15 電解質層、16 他の基材、17 導電膜、18 対極、19 封止部材、20 積層体、30 光電変換素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明部材からなる被処理体の一方の面に、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有する透明導電膜を配したことを特徴とする透明導電性基板。
【請求項2】
前記微粒子の平均外径は、450nm以上、750nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性基板。
【請求項3】
前記微粒子の平均含有量は、1.0×10個/mm以上、5.0×10個/mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性基板。
【請求項4】
前記微粒子は、前記透明導電膜中に一様に分散されていることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性基板。
【請求項5】
スプレー熱分解法により透明部材からなる被処理体の一面上に透明導電膜を形成する透明導電性基板の製造方法であって、前記透明導電膜を形成する際に、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含む原料溶液を用いることを特徴とする透明導電性基板の製造方法。
【請求項6】
少なくとも一部に増感色素が担持された酸化物半導体多孔質層を有する作用極と、
前記作用極の酸化物半導体多孔質層と対向して配された対極と、
前記作用極と前記対極との間の少なくとも一部に配された電解質と、を備えてなる光電変換素子であって、
前記作用極または前記対極の少なくとも一方は、透明部材からなる被処理体の一方の面に、酸化ケイ素および/または酸化亜鉛からなる微粒子を含有する透明導電膜を配した透明導電性基板を備えたことを特徴とする光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−77942(P2008−77942A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254820(P2006−254820)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】