説明

透明導電膜付き基材

【課題】表面の導電性を維持しつつ透明導電膜を保護することができる透明導電膜付き基材を提供する。
【解決手段】透明基材1の上に金属ナノワイヤ4を含む透明塗膜によって形成される透明導電膜2を設け、透明導電膜2の表面に透明なオーバーコート層3を設ける。オーバーコート層3を加水分解性シラン化合物の縮合物をマトリクス樹脂5として形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に透明導電膜を設けた透明導電膜付き基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイやPDP、タッチパネル、また有機ELや太陽電池などの分野で、透明電極として広く用いられている。そしてこのような透明で導電性を発現する透明導電膜を形成するにあたっては、透明で導電性を有する材料を用いて膜を形成する方法の他に、透明樹脂に導電性フィラーを含有させて膜を形成することによって、着色するけれども導電性フィラーの形状や配向によって透明性を確保しつつ導電性が発現した透明導電膜を形成する方法がある。
【0003】
例えば特許文献1では、導電性フィラーとして金属ナノワイヤを用いて透明導電膜を形成することが提案されている。金属ナノワイヤの導電性はその金属に由来し、例えば銀の場合には10−7Ω・cmと非常に優れた導電性を有しているので、透明電極に適用することが可能である。ここで、金属ナノワイヤを含有する透明導電膜を形成する方法の一つとして、金属ナノワイヤを分散した樹脂溶液を透明基材の表面に塗布して成膜する方法があり、透明導電膜は透明樹脂の塗膜中に金属ナノワイヤが含有されたものとして形成することができる。このものでは金属ナノワイヤ同士の接触によって、透明導電膜に導電性を付与することができるものである。
【0004】
このように透明樹脂中に金属ナノワイヤを含有して形成される透明導電膜は膜強度が弱く、傷付き易いものであり、耐磨耗性が低下し易い。このため、透明導電膜の表面にオーバーコート層を設けて、透明導電膜を保護することが行なわれている。例えば特許文献1では、透明導電膜の表面にウレタン樹脂などの被膜を形成してオーバーコート層を設けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−505358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように透明導電膜の表面にオーバーコート層を設けて被覆すると、オーバーコート層を形成する樹脂は一般に導電率が低いので、透明基材の表面に透明導電膜を設けて形成される透明導電膜付き基材の表面抵抗値が著しく増加し、導電性が低下するという問題がある。
【0007】
例えば、透明導電膜付き基材を抵抗膜式のタッチパネルに用いる場合、透明導電膜付き基材の表面を指で押して使用するので、透明導電膜の表面をオーバーコート層で被覆して保護する必要があるが、透明導電膜の表面に設けるオーバーコート層によって表面抵抗値が大きくなって、導電性が低下すると、タッチパネルとしての性能が悪くなることになる。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、表面の導電性を維持しつつ透明導電膜を保護することができる透明導電膜付き基材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る透明導電膜付き基材は、透明基材の上に金属ナノワイヤを含む透明塗膜によって形成される透明導電膜を設け、透明導電膜の表面に透明なオーバーコート層を設けると共にオーバーコート層を加水分解性シラン化合物の縮合物をマトリクス樹脂として形成して成ることを特徴とするものである。
【0010】
このようにオーバーコート層を加水分解性シラン化合物の縮合物からなるマトリクス樹脂で形成することによって、表面抵抗値を増大させることなく表面の導電性を維持しつつ、オーバーコート層で透明導電膜を保護して、膜強度を向上することができるものである。
【0011】
また本発明は、透明導電膜の屈折率がオーバーコート層の屈折率より高いことを特徴とするものである。
【0012】
この発明によれば、オーバーコート層と透明導電膜の界面での光の反射を低減することができ、光透過率を高めることができるものである。
【0013】
また本発明は、オーバーコート層中に、オーバーコート層のマトリクス樹脂よりも屈折率が小さい低屈折率粒子を含有することを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、オーバーコート層の屈折率を小さくして、反射を低減する効果を高く得ることができるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、オーバーコート層を加水分解性シラン化合物の縮合物からなるマトリクス樹脂で形成するようにしたので、表面抵抗値を増大させることなく表面の導電性を維持しつつ、オーバーコート層で透明導電膜を保護することができ、透明導電膜の膜強度を向上することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、透明基材1の表面に透明導電膜2が設けてあり、透明導電膜2の透明基材1と反対側の表面にオーバーコート層3が設けてある。このように、透明基材1、透明導電膜2、オーバーコート層3の三層構成で本発明の透明導電膜付き基材を形成するようにしてある。
【0018】
本発明において透明基材1としては、その形状、構造、大きさ等について、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。透明基材1の形状としては、例えば平板状、シート状、フィルム状などが挙げられ、また構造としては、例えば単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、適宜選択することができる。透明基材1の材料についても特に制限はなく、無機材料及び有機材料のいずれであっても好適に用いることができる。透明基材1を形成する無機材料としては、例えば、ガラス、石英、シリコンなどが挙げられる。また有機材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセテート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
また本発明において透明基材1としては、上記のような基材単体のものであってもよいが、基材の表面に一層ないし複数層のハードコート層が形成されたものであってもよい。このように透明基材1がハードコート層を備える場合、透明導電膜2はハードコート層の上に形成されるものである。
【0020】
ハードコート層は、例えば、反応性硬化型樹脂、即ち、熱硬化型樹脂と電離放射線硬化型樹脂の少なくとも一方を含むハードコートコーティング材を用いて形成することができる。
【0021】
前記熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を使用することができ、これらの熱硬化性樹脂に必要に応じて架橋剤、重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、溶剤を加えて使用することもできる。
【0022】
また、前記電離放射線硬化型樹脂としては、好ましくは、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー、プレポリマー、及び反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を比較的多量に含有するものを使用することができる。さらに、上記の電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂とするには、この中に光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤としてはアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α−アミロキシムエステル、チオキサントン類などを例示することができる。また、光重合開始剤に加えて光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、チオキサントンなどを例示することができる。
【0023】
また、ハードコートコーティング材中に高屈折率粒子、すなわち高屈折率の金属や金属酸化物の超微粒子を添加することで、ハードコート層に高屈折率粒子を含有させて屈折率を調整しても良い。高屈折率粒子は屈折率が1.6以上で粒径が0.5〜200nmのものが好ましい。高屈折率粒子の配合量はハードコート層に対して例えば5〜70体積%の範囲となるように調整される。前記高屈折率の金属や金属酸化物の超微粒子としては、チタン、アルミニウム、セリウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、アンチモンから選ばれる一つあるいは二つ以上の酸化物の粒子が挙げられ、具体的には、例えば、ZnO(屈折率1.90)、TiO(屈折率2.3〜2.7)、CeO(屈折率1.95)、Sb(屈折率1.71)、SnO、ITO(屈折率1.95)、Y(屈折率1.87)、La(屈折率1.95)、ZrO(屈折率2.05)、Al(屈折率1.63)等の微粉末が挙げられる。
【0024】
このようなハードコートコーティング材を基材に重ねて塗布し、必要に応じて乾燥した後、熱硬化性樹脂を含むハードコートコーティング材の場合は加熱し、電離線硬化性樹脂を含むハードコートコーティング材の場合は紫外線等の電離線を照射するなどして硬化成膜することで、ハードコート層が形成される。塗布方法は特に制限されず、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビードコーター法等の各種方法が採用される。
【0025】
このハードコート層の屈折率は1.54〜1.90の範囲であることが好ましい。この屈折率が1.54より小さくなると特に反射防止用途の光学部材においては十分な反射防止効果が得られなくなるおそれがあり、またこの屈折率が1.90より大きくなるとハードコート層の高屈折率化のために高屈折率粒子を多く添加することとなって、耐摩耗性等の実用性が低下するおそれがある。
【0026】
この透明基材1の上に設ける透明導電膜2は、金属ナノワイヤ4を含む透明塗膜5によって形成されるものである。金属ナノワイヤ4としては任意のものを用いることができるものであり、また金属ナノワイヤ4の製造手段には特に制限は無く、例えば、液相法や気相法などの公知の手段を用いることができる。具体的な製造方法にも特に制限は無く、公知の製造方法を用いることができる。例えば、Agナノワイヤの製造方法として、Adv.Mater.2002,14,P833〜837や、Chem.Mater.2002,14,P4736〜4745や、MaterialsChemistry and Physics vol.114 p333−338 “Preparation of Ag nanorods with high yield by polyol process”や、前記の特許文献1等を、Auナノワイヤの製造方法として、特開2006−233252号公報等を、Cuナノワイヤの製造方法として、特開2002−266007号公報等を、Coナノワイヤの製造方法として、特開2004−149871号公報等を挙げることができる。特に、上記のAdv.Mater.及びChem.Mater.で報告されたAgナノワイヤの製造方法は、水系で簡便にかつ大量にAgナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、本発明で用いる金属ナノワイヤ4の製造方法として好ましく適用することができる。
【0027】
金属ナノワイヤ4の平均直径は、透明性の観点から200nm以下であることが好ましく、導電性の観点から10nm以上であることが好ましい。平均直径が200nm以下であれば光透過率の低下を抑えることができるため好ましい。一方で、平均直径が10nm以上であれば導電体としての機能を有意に発現でき、平均直径がより大きい方が導電性が向上するため好ましい。従って平均直径は、より好ましくは20〜150nmであり、40〜150nmであることが更に好ましい。また金属ナノワイヤ4の平均長さは、導電性の観点から1μm以上であることが好ましく、凝集による透明性への影響から100μm以下であることが好ましい。より好ましくは1〜50μmであり、3〜50μmであることが更に好ましい。金属ナノワイヤ4の平均直径及び平均長さは、SEMやTEMを用いて十分な数のナノワイヤについて電子顕微鏡写真を撮影し、個々のナノワイヤの像の計測値の算術平均から求めることができる。金属ナノワイヤ4の長さは、本来直線状に伸ばした状態で求めるべきであるが、現実には屈曲している場合が多いため、電子顕微鏡写真から画像解析装置を用いて金属ナノワイヤ4の投影径及び投影面積を算出し、円柱体を仮定して算出する(長さ=投影面積/投影径)ものとする。計測対象のナノワイヤ数は、少なくとも100個以上が好ましく、300個以上の金属ナノワイヤ4を計測するのが更に好ましい。
【0028】
金属ナノワイヤ4は透明塗膜5を形成する樹脂溶液に分散させて使用されるものであり、後述のようにこの樹脂溶液を透明基材1の表面に塗布することによって、透明導電膜2を形成することができるものである。樹脂溶液において、透明塗膜5を形成するための樹脂としては、光透過性を有するものであれば特に制限されることなく使用することができるものであり、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。
【0029】
例えば、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びその部分又は全部ケン化物、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸メチル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のアクリロニトリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−メタクル酸メチル共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアクリル酸エチル等のアクリル酸エステル重合体、ポリメタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル重合体、それらの共重合体や他の共重合成分を加えた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチルセルロース、アセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコン系樹脂等が挙げることができる。
【0030】
また熱硬化型樹脂として、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を使用することができ、必要に応じて架橋剤、重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、溶剤を加えて使用することもできる。
【0031】
また、電離放射線硬化型樹脂としては、好ましくは、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー、プレポリマー、及び反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を比較的多量に含有するものを使用することができる。さらに、上記の電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂とするには、この中に光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤としてはアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、α−アミロキシムエステル、チオキサントン類などを例示することができる。また、光重合開始剤に加えて光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、チオキサントンなどを例示することができる。
【0032】
透明塗膜5を形成する樹脂として導電性高分子を用いると、透明導電膜2の導電性をより高めることができる。導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセチレン、ポリカルバゾール、ポリアセチレンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。さらに、導電性を高めるために、次のようなドーパントを用いてドーピングを行なうようにしても良い。ドーパントとしては、スルホン酸、ルイス酸、プロトン酸、アルカリ金属、アルカリ土類金属などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
樹脂溶液への金属ナノワイヤ4の配合量は、透明導電膜2中に金属ナノワイヤ4が0.01〜90質量%含有されるように調整して設定するのが好ましい。金属ナノワイヤ4の含有量は0.1〜30質量%がより好ましく、さらに好ましくは0.5〜10質量%である。
【0034】
ここで、樹脂溶液には、樹脂固形分、金属ナノワイヤ4など固形成分を溶解乃至分散するための溶剤が含有されることが必須であるが、溶剤の種類は特に限定されるものではない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、あるいはこれらの混合物を用いることができる。これらの中でも、ケトン系の有機溶剤を用いるのが好ましく、ケトン系溶剤を用いて樹脂溶液を調製すると容易に均一に塗布することができ、かつ、塗工後において溶剤の蒸発速度が適度で乾燥むらを起こし難いので、均一な厚さの大面積の透明導電膜を容易に得ることができるものある。また、溶剤としては上記の有機溶剤の他に、水を用いる場合もあり、有機溶剤と水を組み合わせて用いる場合もある。溶剤の量は、上記の各固形成分を均一に溶解、分散することができ、樹脂溶液を調製した後の保存時に凝集を来たさず、かつ、塗工時に希薄すぎない濃度となるように適宜調節するものである。この条件が満たされる範囲内で溶剤の使用量を少なくして高濃度の樹脂溶液を調製し、容量をとらない状態で保存し、使用時に必要分を取り出して塗工作業に適した濃度に溶剤で希釈するのが好ましい。固形分と溶剤の合計量を100質量部とした時に、全固形分0.1〜50質量部に対して、溶剤の量を50〜99.9質量部に設定するのが好ましく、さらに好ましくは、全固形分0.5〜30質量部に対して、溶剤を70〜99.5質量部の割合で用いることにより、特に分散安定性に優れ、長期保存に適した樹脂溶液を得ることができる。
【0035】
金属ナノワイヤ4を分散した樹脂溶液を透明基材1の表面に塗工して成膜することによって、金属ナノワイヤ4を含有する透明塗膜5で透明導電膜2を形成することができるものであり、この塗工はスピンコート、スクリーン印刷、ディップコート、ダイコート、キャスト、スプレーコート、グラビアコートなど任意の方法で行なうことができる。
【0036】
このように透明導電膜2の表面にオーバーコート層3を設けることによって、透明導電膜2をオーバーコート層3で保護することができるものであるが、本発明は加水分解性シラン化合物の縮合物をマトリクス樹脂6として、オーバーコート層3を形成するようにしたものである。
【0037】
すなわち、特開2003−201443号公報に記載されるように、
(1)一般式が
SiX
(式中、置換基X,X,XおよびXは水素、ハロゲン(例えば塩素、フッ素等)、1価の炭化水素基、OR(Rは1価の炭化水素基である)で表されるアルコキシ基、およびOHで表される水酸基から選択される基であり、これらは相互に異なっても、部分的に異なっても、あるいは全部同じであってもよく、これらの少なくとも2つは、それぞれアルコキシ基および水酸基から選択される基である。)で表されるシラン化合物、
(2)該シラン化合物の部分加水分解物および完全加水分解物、ならびに
(3)該シラン化合物、該シラン化合物の該部分加水分解物および該完全加水分解物のいずれかの組み合わせの縮合物から選択される少なくとも1種からなるコーティング材組成物を用い、このコーティング組成物を透明導電膜4の上に塗布して乾燥することによって、多孔質のシリコーン樹脂からなるマトリクス樹脂6でオーバーコート層3を形成することができる。
【0038】
特開2003−201443号公報に記載されるように、上記のコーティング材組成物の1つの態様では、多孔質のマトリクス樹脂を形成するマトリクス形成材料は、シロキサン結合を有する珪素化合物(「珪素化合物(1)」と呼ぶ)であるか、あるいは成膜して被膜を形成する過程において、シロキサン結合を新たにもたらし得る珪素化合物(「珪素化合物(2)」と呼ぶ)である。後者の珪素化合物(2)は、既にシロキサン結合を既に有していてもよい。これらの珪素化合物(1)(2)には、有機珪素化合物(即ち、有機基を有する珪素化合物)、ハロゲン化珪素化合物(例えば、塩素、フッ素等のハロゲンを含む化合物)および有機ハロゲン化珪素化合物(即ち、有機基およびハロゲンを含む化合物)等が含まれる。
【0039】
そしてコーティング材組成物において使用できる珪素化合物としては、
一般式(A):RSiY4−n
(式中、Rは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1〜9の1価炭化水素基又はフェニル基を示し、nは0〜2の整数、Yは加水分解可能官能基を示す。)で表される加水分解可能オルガノシラン、それが加水分解して生成する化合物(部分加水分解して生成するものをも含む)、その加水分解物が縮合して生成する化合物等を挙げることができる。
【0040】
上記一般式(A)で表される加水分解可能オルガノシラン中の基Rは炭素数1〜9の置換又は非置換の一価の炭化水素基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基などのアラルキル基;フェニル基、トリル基のようなアリール基;ビニル基、アリル基のようなアルケニル基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル元のようなハロゲン置換炭化水素基;γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基等の置換炭化水素基などを例示することができる。これらの中でも、合成の容易さ、あるいは入手の容易さから炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基が好ましい。
【0041】
加水分解可能官能基のYとしてはアルコキシ基、アセトキシ基、オキシム基(−O−N=C−R(R'))、エノキシ基(−O−C(R)=C(R')R”)、アミノ基、アミノキシ基(−O−N(R)R')、アミド基(−N(R)−C(=O)−R')(これらの基において、R、R'、R”は、例えば、それぞれ独立に水素原子又は一価の炭化水素基等である)等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さからアルコキシル基が好ましい。
【0042】
このような加水分解性オルガノシランとしては、上記一般式(A)中のnが0〜2の整数である、ジ−、トリ−、テトラ−の各官能性のアルコキシシラン類、アセトキシシラン類、オキシムシラン類、エノキシシラン類、アミノシラン類、アミノキシシラン類、アミドシラン類等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さからアルコキシシラン類が好ましい。
【0043】
特に、n=0のテトラアルコキシシランとしてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等を例示でき、n=1のオルガノトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等を例示できる。また、n=2のジオルガノジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等を例示できる。
【0044】
コーティング材組成物のマトリクス形成材料が、シロキサン結合を新たにもたらし得る珪素化合物である場合、加水分解可能置換基および水酸基から選択される基の少なくとも2つが、同じまたは異なる珪素原子に結合している珪素化合物であるのが好ましい。これらの少なくとも2つの基は、同じであっても、あるいは異なってもよい。加水分解可能置換基は水の存在下で加水分解して水酸基を有する化合物(シラノール化合物)となる。従って、加水分解可能置換基および水酸基から選択される基の少なくとも2つが同じまたは異なる珪素原子に結合している珪素化合物は、水の存在下、加水分解可能置換基および水酸基から選択される基の少なくとも2つが同じまたは異なる珪素原子に結合している同じ種類または別の種類の珪素化合物と縮合して新たにシロキサン結合をもたらす。
【0045】
1つの態様では、コーティング材組成物において、マトリクス形成材料として使用することができる珪素化合物は、
一般式(1):SiX
(式中、置換基X,X,XおよびXは水素、ハロゲン(例えば塩素、フッ素等)、1価の炭化水素基、OR(Rは1価の炭化水素基である)で表されるアルコキシ基、およびOHで表される水酸基から選択される基であり、これらは相互に異なっても、部分的に異なっても、あるいは全部同じであってもよく、これらの少なくとも2つは、それぞれアルコキシ基および水酸基から選択される基である。)で表されるシラン化合物である(これを「シラン化合物(1)」と呼ぶ)。このシラン化合物(1)は、上記珪素化合物(2)に相当し、少なくとも2つ、好ましくは3つ、より好ましくは4つの同じまたは異なるアルコキシル基および/もしくは水酸基を有する。マトリクス形成材料は、シラン化合物(1)の少なくとも1つのアルコキシル基が加水分解されているものであってもよい。
【0046】
別の態様では、マトリクス形成材料としての珪素化合物は、上記シラン化合物(1)の1種またはそれ以上が、加水分解可能な場合には加水分解した後、縮合することによって生成するシロキサン化合物またはポリシロキサン化合物(これらを総称して「(ポリ)シロキサン化合物(1)」と呼ぶ)である。尚、ポリシロキサン化合物とは2以上のシロキサン結合を有する化合物を意味する。この(ポリ)シロキサン化合物は、上記珪素化合物(1)に相当する。この(ポリ)シロキサン化合物(1)は、少なくとも2つのアルコキシ基および/または水酸基を置換基として有するのが好ましく(本明細書において、このような(ポリ)シロキサン化合物を「(ポリ)シロキサン化合物(2)」と呼ぶ)、その場合、この(ポリ)シロキサン化合物は、シロキサン結合を既に有するが、上記珪素化合物(2)に相当する。
【0047】
尚、上述のシラン化合物(1)および(ポリ)シロキサン化合物(2)は、アルコキシル基を有する場合、アルコキシル基が加水分解して生成する水酸基を有することができる。その結果、これらのシラン化合物(1)および(ポリ)シロキサン化合物(2)も、コーティング材組成物を塗布して乾燥するに際して、少なくとも部分的に縮合して架橋し、多孔質のマトリクスを形成できる。従って、この縮合に際しては、生成する全ての水酸基が縮合に関与するとは限らず、一般的には、一部分の水酸基は、そのままの状態で残る。尚、(ポリ)シロキサン化合物(1)は、アルコキシ基および/または水酸基の置換基を有さない場合であっても、コーティング材組成物を塗布して乾燥するに際して、多孔質のマトリクスを形成できる。
【0048】
このように、シラン化合物(1)および(ポリ)シロキサン化合物(2)は、架橋して多孔質のマトリクスを形成するが、置換基の水酸基、または置換基がアルコキシ基の場合はそれが加水分解して生成する水酸基は、珪素化合物同士の縮合による架橋をもたらすと共に、架橋に関与せずに残存するものは、親水性基として機能して基材等への密着性を向上させることができる。また、被膜が帯電しにくくなる。
【0049】
このようなシラン化合物(1)はその分子量が40〜300であるのが好ましく、100〜200であるのがより好ましい。また、上述の(ポリ)シロキサン化合物(1)および(2)は、乾燥被膜の機械的強度が要求される場合は、その重量平均分子量が約200〜2000であるのが好ましく、600〜1200であるのがより好ましい。この範囲の分子量は、乾燥被膜の強度の向上およびマトリクスの多孔率(即ち、マトリクス中の空隙の割合)の増加を達成しやすい傾向にある。また、上述の(ポリ)シロキサン化合物(1)および(2)は、乾燥被膜に大きな機械的強度が要求されない場合は、その重量平均分子量が約2000以上であるのが好ましく、3000以上であるのがより好ましく、例えば、3000〜5000である。このようにより大きい分子量であると、加水分解反応がより進み、未反応のアルコキシ基がほとんど存在せず、乾燥被膜の多孔度と共に、縮合物としての屈折率が小さくなるため、形成されるバインダーがより低屈折率になり易い傾向にある。
【0050】
好ましい1つの態様では、コーティング材組成物は、SiX(Xは加水分解可能な1価の有機置換基、例えばアルコキシル基)で表される4官能加水分解可能オルガノシランをマトリクス形成材料として含む。この4官能加水分解可能オルガノシランは、シラン化合物(1)に含まれるものである。好ましいもう1つの態様では、コーティング材組成物は、SiX(Xは加水分解可能な有機置換基、例えばアルコキシ基)で表される4官能加水分解可能オルガノシランの部分加水分解物及び/又は完全加水分解物が縮合して生成するシロキサン結合を有する化合物、好ましくは複数のシロキサン結合を有する樹脂(この化合物および樹脂を総称して「シリコーンレジン−M」と呼ぶ。そのような「シリコーンレジン−M」は、一般的にシリコーン樹脂として知られているものと同じである必要はない。)をマトリクス形成材料として含む。このようなものは(ポリ)シロキサン化合物(1)に含まれるが、シリコーンレジン−Mが、珪素に結合した水酸基または加水分解可能な有機置換基を有する縮合性である場合には、(ポリ)シロキサン化合物(2)に相当する。尚、完全加水分解物とは加水分解可能な有機置換基が全て加水分解したもの、即ち、テトラヒドロキシシラン(Si(OH))を意味し、部分加水分解物とはそれ以外の加水分解物(即ち、ジまたはトリヒドロキシシラン)を意味する。このようなシリコーンレジン−Mについても、重量平均分子量が約200〜2000であるのが好ましく、600〜1200であるのがより好ましい。
【0051】
上述のシリコーンレジン−Mは、SiX(X=OR、Rは1価の炭化水素基)で表されるテトラアルコキシシランを、モル比[HO]/[OR]が1.0以上、例えば1.0〜5.0、好ましくは1.0〜3.0となる量の水の存在下、ならびに好ましくは酸又は塩基触媒存在下で、加水分解して得られた部分加水分解物及び/又は完全加水分解物を用いて得ることができる。特に酸触媒存在下で、加水分解して得られる加水分解物及び/又は完全加水分解物は、2次元架橋構造を形成しやすいため、乾燥被膜の多孔度が増加する傾向がある。1.0未満のモル比では未反応アルコキシル基の量が多くなり、被膜の屈折率を高くするといった悪影響を及ぼすおそれがあり、逆に、5.0より大きい場合には縮合反応が極端に速く進み、コーティング材組成物のゲル化を招くおそれがある。この場合、加水分解は、いずれの適当な条件で実施してもよい。例えば、5℃〜30℃の温度で10分〜2時間、これらの材料を撹拌して混合することによって加水分解できる。また、分子量を2000以上にして、マトリクス自身の屈折率をより小さくするためには、得られた加水分解物を、例えば40〜100℃で2〜100時間反応させて所望のシリコーンレジン−Mを得ることができる。
【0052】
上述のようにシリコーンレジン−Mを、特に分子量2000以上のシリコーンレジン−Mを得るに際して、SiXと水と希釈シンナー(例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類)と他の成分(存在する場合、例えば触媒、触媒としてコロイダルシリカを使用する場合はシリカ等)の合計量(即ち、全体量)に対して、5質量%以上20質量%以下のSiO換算の固形分(SiXに含まれるSiが全てSiOに変換されると仮定した場合のSiOの量)となるような量のSiXを用いて加水分解反応して得られる部分加水分解物及び/又は加水分解物を用いるのが特に好ましい。SiXの量が5質量%未満では、上述の量の水を配合しても未反応アルコキシル基の量が多くなる場合があり、得られるマトリクスの屈折率を高くするといった悪影響を及ぼすおそれがあり、逆に、20質量%より大きくなると、上述の量の水を配合してもコーティング材組成物のゲル化を招くおそれがある。
【0053】
コーティング材組成物のマトリクス形成材料として使用するのが好ましい4官能加水分解可能オルガノシランとしては、下記式(2)で表される4官能アルコキシシランを挙げることができる。
【0054】
式(2):Si(OR)
上記化学式(2)中のアルコキシル基「OR」の「R」は1価の炭化水素基であれば特に限定されるものではないが、炭素数1〜8の1価の炭化水素基が好適である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ペプチル基、オクチル基等のアルキル基等を例示することができる。アルコキシル基中に含有されるアルキル基のうち、炭素数が3以上のものについては、n−プロピル基、n−ブチル基等のように直鎖状のものであってもよいし、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基等のように分岐を有するものであってもよい。
【0055】
4官能アルコキシシラン等の4官能加水分解可能オルガノシランを用いてシリコーンレジン−Mを調製するにあたっては、4官能加水分解可能オルガノシランを加水分解(以下、部分加水分解も含む)して縮合する。ここで、得られるシリコーンレジン−Mの質量平均分子量は特に限定されるものではないが、コーティング材組成物において、より少ない割合のシリコーンレジン−Mによって、得られる被膜のより大きい機械的強度を得るためには、重量平均分子量は200〜2000の範囲にあることが好ましい。重量平均分子量が200より小さいと被膜形成能力に劣るおそれがあり、逆に2000を超えると被膜の機械的強度に劣るおそれがあるが、それほど大きな機械的強度を必要としない用途では、マトリクス自身の屈折率を小さくするためには分子量2000以上が有効である。
【0056】
一般的に、4官能加水分解可能オルガノシランSiXを加水分解して縮合することによって得られるシリコーンレジン−Mは、分子内に未反応基、即ち、加水分解可能置換基Xが一部残った状態で縮合して高分子化(オリゴマー化を含む)されている。このコーティング材組成物を用いてオーバーコート層3を形成するマトリクス樹脂6の被膜を作製する場合、マトリクス形成材料としてのシリコーンレジン−Mがその分子内に未反応基が残留しており、その結果、形成されるマトリクスが未反応の置換基を有していても、乾燥して得られる被膜を300℃を超える温度で熱処理して硬化被膜を得る場合には、未反応基は分解されるので、最終的に得られる硬化被膜の屈折率に悪影響を及ぼすことはない。熱処理が50〜300℃、例えば50℃〜150℃、特に50℃〜120℃のように比較的低温で行われる場合には、未反応基は分解されることなく硬化被膜中に残留することがあり、その結果、マトリクスとしての屈折率が高くなるという悪影響を及ぼすおそれがある。
【0057】
これを考慮すると、4官能加水分解可能オルガノシランは、部分加水分解物よりも完全に加水分解した状態でマトリクス形成材料として使用する、あるいは、完全に加水分解した状態のものを用いてシリコーンレジン−Mを調製して、それをマトリクス形成材料として用いる方が好ましいが、完全加水分解物を使用する場合、マトリクス形成材料は、一般的には分子量2000以上の高分子物質になるため、得られる乾燥被膜の機械的強度は必ずしも十分ではない。この場合、ディスプレイ等の最表面以外のようにそれほど大きな機械的強度を必要としない用途に有効である。完全加水分解物は分子末端に−OH基のみを有しているので、この完全加水分解物を用いて被膜を形成した場合、被膜が有し得る残存している基は−OHのみとなるので、この被膜の表面は親水性に優れたものとなり、表面水滴接触角は小さくなる。
【0058】
マトリクス形成材料を調製するために、シラン化合物(1)、特に4官能アルコキシシラン等の4官能加水分解可能オルガノシランを加水分解する場合、必要に応じて触媒を使用してよい。使用する触媒は、特に限定されるものではないが、得られる部分加水分解物及び/あるいは加水分解物が2次元架橋構造になりやすく、その縮合化合物が多孔質化しやすい点、および加水分解に要する時間を短縮する点から、酸触媒(または酸性触媒)が好ましい。このような酸触媒としては、特に限定されないが、例えば、有機酸(例えば酢酸、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、蟻酸、プロピオン酸、グルタール酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸等)、無機酸(例えば塩酸、硝酸、ハロゲン化シラン等)、酸性ゾル状フィラー(例えば酸性コロイダルシリカ、酸化チタニアゾル等)を挙げることができ、これらの1種又はそれ以上を使用することができる。アルコキシドの加水分解は、必要に応じて(例えば、それほど大きな機械的強度を必要としない場合)加温して行ってもよく、特に40〜100℃の条件下で2〜100時間かけて加水分解反応を促進させると、未反応アルコキシド基を限りなく少なくすることができ、その結果、マトリクス形成材料自身の屈折率が低下して好ましい。上記の温度範囲や時間範囲を外れて加水分解すると、未反応アルコキシド基が残留するおそれがある。尚、上記酸性触媒の代わりに、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液、アンモニア水、アミン類の水溶液等の塩基触媒(または塩基性触媒)を用いてもよい。しかしながら、塩基触媒を用いる場合、3次元架橋を形成しやすく、その結果、乾燥被膜の多孔度が低くなり、また、ゲル化し易いので、酸触媒の方が好ましい。コーティング材組成物は、マトリクス形成材料として加水分解可能置換基を有する場合には、このような加水分解触媒を含んでよい。
【0059】
尚、コーティング材組成物は、塗布して塗膜を形成するために、また、マトリクス形成材料の少なくとも部分的な加水分解が起こるのが好ましい場合があることの点から、水または水と他の液体との混合物を含むのが好ましい。そのような他の液体としては、例えば親水性有機溶媒があり、それには、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコール誘導体、及びジアセトンアルコール等が含まれる。また、これらからなる群より選ばれる1種あるいは2種以上を使用することができる。更に、これらの親水性有機溶媒と併用して、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトオキシム等の1種あるいは2種以上のものを使用することができる。
【0060】
コーティング材組成物において、マトリクス形成材料は、以下の3つの態様(a)、(b)および(c)に分類できる。
【0061】
(a)1つの態様では、マトリクス形成材料は、上述のシラン化合物(1)(好ましくは4官能加水分解可能オルガノシラン、より好ましくは4官能加水分解可能アルコキシシラン)である。この場合、シラン化合物(1)は、コーティング材組成物を調製する間、および/または、調製後に基材に塗布して塗膜を乾燥する間、水の存在下で縮合してマトリクスを形成する。
【0062】
(b)別の態様では、マトリクス形成材料は、(ポリ)シロキサン化合物(2)(好ましくは縮合性シリコーンレジン−M)である。この場合、(ポリ)シロキサン化合物(2)は、コーティング材組成物を調製する間、および/または、調製後に基材に塗布して塗膜を乾燥する間、水の存在下で縮合してマトリクスを形成する。尚、縮合が生じる程度は、マトリクス形成材料としてシラン化合物(1)が含まれる上述の態様より小さい。
【0063】
(c)更にもう1つの態様では、マトリクス形成材料は、(ポリ)シロキサン化合物(1)(好ましくはシリコーンレジン−M)であって、この化合物は水酸基も加水分解可能置換基も実質的に有さない化合物である。この場合、(ポリ)シロキサン化合物(1)は、コーティング材組成物を調製する間および調製後に基材に塗布して塗膜を乾燥する間、縮合することなく多孔質のマトリクスを形成する。
【0064】
また、コーティング材組成物は、上記(a)および(b)の態様のマトリクス形成材料を含む場合、マトリクス形成材料を架橋する硬化触媒を含むのが好ましい。これによって、コーティング材組成物を基材に塗布して塗膜を形成して乾燥する際に、縮合反応が促進されて被膜中の架橋密度が高くなり、被膜の耐水性及び耐アルカリ性を向上させることができる効果がある。そのような硬化触媒には、金属キレート化合物(例えばTiキレート化合物、Zrキレート化合物等)、有機酸等が含まれる。金属キレート化合物は、マトリクス形成材料が4官能アルコキシシランを原料に調製する場合に特に有効である。
【0065】
特に好ましい硬化触媒は有機ジルコニウムであり、上述のような硬化触媒の効果の点で使用するのが特に好ましい。有機ジルコニウムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、一般式ZrO(OR(m,pは0〜4の整数、nは0又は1、2n+m+p=4)で表され、この化学式中のアルコキシル基(OR)の官能基(R)が式(2)と同様のものを用いることができる。また、Rとしては、例えばCであるもの(アセチルアセトネート錯体)やCであるもの(エチルアセトアセテート錯体)を挙げることができる。RとRとしては、1つの分子中に同一あるいは異種のものが存在していてもよい。特に有機ジルコニウムとして、Zr(OC、Zr(OC(C)及びZr(OC(C)(C)のうち少なくともいずれかを用いると、被膜の機械的強度を一層向上させることができるものである。例えば、中空シリカ微粒子に対して(ポリ)シロキサン化合物(2)、例えば4官能加水分解可能アルコキシシランを縮合して得られるシリコーンレジン−Mの割合が少ないコーティング材組成物を用いて被膜を形成すると、この被膜の機械的強度は不足する場合があるが、有機ジルコニウムを添加することによって、被膜の機械的強度を向上させることができる。また、このコーティング材組成物を基材に塗布した後に、これを比較的低温である100℃で乾燥して、その後、その温度で熱処理して得られる硬化被膜は、有機ジルコニウムを添加しないで被膜を得て、それを300℃を超える高温で熱処理を行う場合と通常同じ程度の強度を有する。
【0066】
また、有機ジルコニウムの添加量は、ZrO換算でコーティング材組成物中における固形分全量に対して、0.1〜10質量%であることが好ましい。添加量が0.1質量%未満では有機ジルコニウムによる効果がみられないおそれがあり、逆に、10質量%を超えるとコーティング材組成物がゲル化したり、凝集等が起こったりするおそれがある。尚、固形分とは、コーティング材組成物の全質量に対する加熱残分の質量%であり、この加熱は酸素雰囲気下、300℃以上の温度(一般的に300℃でよい)にて実施する。中空微粒子が中空シリカ微粒子であり、マトリクス形成材料が珪素化合物である場合には、加熱残分がこれらの2つの材料から生成する場合には、中空粒子の仕込み質量およびマトリクス形成材料の縮合化合物換算質量(例えばテトラアルコキシシランの場合は存在するSiがSiOであるとしての質量、トリアルコキシシランの場合は、SiO1.5であるとしての質量)から、固形分量を求めることができる。
【0067】
コーティング材組成物には、シランカップリング剤を更に含んでいてもよい。シランカップリング剤を含むことによって、コーティング材組成物を用いて被膜を形成する場合、被膜との間の密着性が向上する。また、乾燥被膜、特に硬化被膜の表面に撥水性を付与する効果もある。乾燥被膜、特に硬化被膜の表面に撥水性を付与するためには、特に好ましいシランカップリング剤は、フッ素原子を含むもの、いわゆるフッ素系シランカップリング剤である。但し、フッ素原子を含むシランカップリング剤は基材との被膜との間の密着性を向上させる効果は期待できないので、フッ素系以外のシランカップリング剤と併用して使用することが好ましい。コーティング材組成物中におけるフッ素系シランカップリング剤は、被膜表面に撥水性を付与することが主たる目的であるので、マトリクス形成材料とは共重合しないほうが望ましく、共重合せずに、被膜形成時にフッ素系シランカップリング剤が表面に移行・配向し、被膜形成時に被膜表面で縮合するのが望ましい。好ましいシランカップリング剤の具体例としては、次のものを挙げることができる。
【0068】
【化1】

【0069】
そして、上記のようにして調製したコーティング材組成物を、透明基材1上に設けた透明導電膜2の表面に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥することによって、多孔質のシリコーン樹脂をマトリクス樹脂6として、オーバーコート層3を形成することができるものである。
【0070】
コーティング材組成物を透明導電膜2の表面に塗布するにあたって、その方法は特に限定されるものではないが、例えば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディップコート)、ロールコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、テーブルコート、シートコート、枚葉コート、ダイコート、バーコート、リバースコート、キャップコート等の通常の各種塗布方法、インクジェットコーターを用いるパターン状に塗布する方法等を選択することができる。
【0071】
コーティング材組成物を塗布して被膜を乾燥させた後に、これに熱処理を行うのが好ましい。この熱処理によって、被膜の機械的強度をさらに向上させることができるものである。熱処理の際の温度は、特に限定されるものではない。
【0072】
さらに、コーティング材組成物を塗布して塗膜を形成して乾燥することによってシロキサン結合を有する被膜を形成した後、酸化雰囲気下で熱処理することによって不必要な置換基等を除去して実質的にSiO(屈折率1.47)から形成される被膜を形成することができる。また、このような熱処理によって、マトリクスの安定性が向上し、機械的強度が向上し、また、置換基が存在していた領域を空隙に変えることができる。更に、熱処理によって、最終的な機械的な強度まで短時間で到達させることができる。
【0073】
このような熱処理は、ある種の珪素化合物については300℃以上の高温で処理する必要があり、それより低い温度の熱処理では、硬化被膜内に未反応基、例えばアルコキシド基が残留して屈折率を1.47まで低下させることはできないことがある。しかしながら、後述するような別の珪素化合物については、例えば100〜300℃の比較的低温の熱処理でも残留する基が非常に少なく、1.47またはそれに近い屈折率、または1.47以下を達成することが可能である。
【0074】
例えば4官能アルコキシレジンから形成したシリコーンレジン−Mをマトリクス形成材料として使用するコーティング材組成物を用いて被膜を形成する場合、低温、好ましくは100〜300℃、より好ましくは50〜150℃で5〜30分熱処理する。このように低温で熱処理を行っても、高温で熱処理を行う場合と実質的に同等の機械的強度を得ることができるので、この場合には、被膜の形成コストを低減することが可能となる。また、高温による熱処理の場合のように、基材の種類が制限されることがなくなる。しかも、例えばガラス基材の場合には熱伝導率が低いため、温度の上昇と冷却に時間がかかり、高温による熱処理ほど処理スピードが遅くなるのに対し、低温による熱処理では逆に処理スピードを速めることができる。
【0075】
上記のようにして、透明基材1の上に設けた透明導電膜2の表面にオーバーコート層3を被覆することができ、本発明に係る透明導電膜付き基材を得ることができるものである。この透明導電膜付き基材にあって、透明導電膜2は、含有されている金属ナノワイヤ4によって導電性を得ることができるものであり、またオーバーコート層3によって透明導電膜2を保護することができるものである。従って、透明導電膜付き基材を抵抗膜式のタッチパネルのように、表面を指で押して使用する用途などに使用するにあたって、透明導電膜2はオーバーコート層3で保護されているので、透明導電膜2に傷が付いたり、摩滅したりすることを防ぐことができるものである。金属ナノワイヤ4を含有して形成される透明導電膜2は、ITOなどの金属酸化物膜で形成されるものよりも耐磨耗性に劣るが、このようにオーバーコート層3で保護することによって、透明導電膜2に磨耗等が発生することを防ぐことができるものである。
【0076】
ここで、透明導電膜2の表面はオーバーコート層3で被覆されることになるが、透明導電膜2は表面抵抗値が大きく増加することはなく、導電性が大きく低下することはない。これは、オーバーコート層3は加水分解性シラン化合物の縮合物をマトリクス樹脂として形成されており、オーバーコート層3は多孔質の膜になっているためであると考えられる。つまり透明導電膜2はオーバーコート層3で完全に遮蔽されることはなく、オーバーコート層3の多孔を通して透明導電膜2の導電をとることができるものであり、透明導電膜2の表面抵抗値が増加することを防いで、導電性が低下することを抑制することができると考えられる。従って、透明度電膜2の表面抵抗値を低下させることなく、オーバーコート層3で透明導電膜2を保護することが可能になるものである。
【0077】
オーバーコート層3の厚みは、特に限定されるものではないが、50〜500nmの範囲が好ましく、より好ましくは80〜200nmである。オーバーコート層3の厚みがこの範囲未満であると、膜強度が不十分であって、透明導電膜2を保護する効果を十分に得ることができない場合がある。逆にオーバーコート層3の厚みがこの範囲を超えて大きいと、表面抵抗値が大きくなって導電性が低下するおそれがある。
【0078】
また、透明導電膜付き基材にあって、透明導電膜2の屈折率をn1、オーバーコート層3の屈折率をn2とすると、n1>n2となるように、透明導電膜2とオーバーコート層3の屈折率を設定するのが好ましい。このように透明導電膜2の屈折率n1がオーバーコート層3の屈折率n2より高いと、オーバーコート層3から透明導電膜2へと通過する光が、オーバーコート層3と透明導電膜2の界面でフレネル反射することを低減することができるものであり、光透過率を高めることができるものである。
【0079】
図2は本発明の他の実施の形態を示すものであり、オーバーコート層3に低屈折率粒子7が含有させてある。低屈折率粒子7は屈折率が、オーバーコート層3のマトリクス樹脂6の屈折率より小さいものであり、オーバーコート層3に低屈折率粒子7を含有させることによって、オーバーコート層3の屈折率n2を下げることができるものである。従って、透明導電膜2の屈折率n1に対してオーバーコート層3の屈折率n2をより小さくすることが可能になり、フレネル反射を低減して光透過率を向上する効果を高く得ることができるものである。特に、n2=√(n1)となるようにオーバーコート層3の屈折率を調整することによって、フレネル反射を最小限に抑えて、光透過率をより高めることができるものである。
【0080】
上記のような低屈折率粒子7としては、中空微粒子を用いることができる。中空微粒子は、外殻の内部に空洞が形成されたものであり、いずれの適当な既知の中空微粒子を使用してもよい。特に使用するのが好ましい中空微粒子は、シリカ系中空微粒子である。具体的には、以下のようなものを用いることができる。
【0081】
シリカ系無機酸化物からなる外殻(シェル)の内部に空洞を有した中空シリカ微粒子を用いることができる。シリカ系無機酸化物とは、(A)シリカ単一層、(B)シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる複合酸化物の単一層、及び(C)上記(A)層と(B)層との二重層を包含するものをいう。外殻は細孔を有する多孔質なものであってもよく、あるいは細孔が閉塞されて空洞が外殻の外側に対して密封されているものであってもよい。外殻は、内側の第1シリカ被覆層及び外側の第2シリカ被覆層からなる複数のシリカ系被覆層であることが好ましい。外側に第2シリカ被覆層を設けることにより、外殻の微細孔を閉塞させて外殻を緻密化し、さらには、内部の空洞を密封した中空シリカ微粒子を得ることができる。
【0082】
外殻の厚みは1〜50nm、特に5〜20nmの範囲であるのが好ましい。外殻の厚みが1nm未満であると、中空微粒子が所定の粒子形状を保持していない場合がある。逆に、外殻の厚みが50nmを超えると、中空シリカ微粒子中の空洞が小さく、その結果、空洞の割合が減少して屈折率の低下が不十分であるおそれがある。更に、外殻の厚みは、中空微粒子の平均粒子径の1/50〜1/5の範囲にあることが好ましい。上述のように第1シリカ被覆層および第2シリカ被覆層を外殻として設ける場合、これらの層の厚みの合計が、上記1〜50nmの範囲となるようにすればよく、特に、緻密化された外殻には、第2シリカ被覆層の厚みは20〜40nmの範囲が好適である。
【0083】
尚、空洞には中空シリカ微粒子を調製するときに使用した溶媒及び/又は乾燥時に浸入する気体が存在してもよい。また、後述する空洞を形成するための前駆体物質が空洞に残存していてもよい。前駆体物質は、外殻に付着してわずかに残存していることもあるし、空洞内の大部分を占めることもある。ここで、前駆体物質とは、外殻によって包囲された核粒子から、核粒子の構成成分の一部を除去した後に残存する多孔質物質である。核粒子には、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる多孔質の複合酸化物粒子を用いる。無機酸化物としては、Al、B、TiO、ZrO、SnO、Ce、P、Sb、MoO、ZnO、WO等の1種又は2種以上を挙げることができる。2種以上の無機酸化物として、TiO−Al、TiO−ZrO等を例示することができる。
【0084】
中空シリカ微粒子の平均粒子径は5nm〜2μmの範囲が好ましい。5nmよりも平均粒子径が小さいと、中空によって低屈折率になる効果が小さく、逆に2μmよりも平均粒子径が大きいと、透明性が極端に悪くなり、拡散反射(Anti-Glare)による寄与が大きくなってしまう。尚、粒子径は、透過型電子顕微鏡観察による数平均粒子径である。また、中空微粒子の量とマトリクス形成材料の量は、いずれの適当な割合であってよいが、一般的には、中空微粒子の重量のマトリクス形成材料に対する質量比(即ち、中空微粒子質量/マトリクス形成材料質量)が、30/70〜95/5であるのが好ましく、例えばシリコーンレジン−Mを使用する場合において、シリコーンレジン−Mの分子量が2000より大きい場合は、30/70〜60/40であるのがより好ましく、シリコーンレジン−Mの分子量が2000以下の場合は、70/30〜90/10であるのがより好ましい。
【0085】
上述のような中空シリカ微粒子の製造方法は、特開2001−233611号公報に詳細に記載されており、に記載された方法に基づいて当業者であれば製造できるものであり、また一般に市販されている中空シリカ微粒子を用いることもできる。
【実施例】
【0086】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0087】
(実施例1)
アクリル樹脂(新中村化学工業(株)製「A−DPH」)14.55質量部を、メチルエチルケトン34.87質量部とメチルイソブチルケトン34.86質量部の混合溶媒に溶解した。次にこの溶液に金属ナノワイヤとして銀ナノワイヤを配合した。銀ナノワイヤはMEKを分散媒として固形分3.0質量%で分散した分散液とし、上記の溶液にこの分散液を12.0質量部加えてよく混合した。さらに光重合開始剤1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバガイギー社製「イルガキュア184」)0.72質量部を加えてよく混合し、25℃の恒温雰囲気下で1時間撹拌混合することによって、透明導電膜形成用のコーティング材組成物1を調製した。
【0088】
尚、銀ナノワイヤとして、論文「Materials Chemistry and Physics vol.114 p333−338“Preparation of Ag nanorodswith high yield by polyol process”」に準じて作製したものを用いた。この銀ナノワイヤは平均直径50nm、平均長さ5μmである。
【0089】
また、テトラエトキシシラン208質量部にメタノール356質量部を加え、更に水18質量部及び0.01Nの塩酸水溶液18質量部を加え(「HO/「OR」=0.5)、これをディスパーを用いてよく混合して混合液を得た。この混合液を25℃恒温槽中で2時間攪拌して、重量平均分子量を850に調整したシリコーンレジン−Mをマトリクス形成材料として得た。この後、全固形分が1質量%になるようにメタノールで希釈することによって、オーバーコート層形成用のコーティング材組成物2を調製した。
【0090】
そして、透明基材としてガラス基材(BK7、100×100×0.7mm)を用い、
上記のコーティング剤組成物1をガラス基材の表面に、膜厚が100nmになるようにスピンコーターによって塗布し、常温(23℃)で3分間乾燥した後、120℃で5分間加熱して乾燥することによって、透明導電膜を形成した。さらに、この表面に上記のコーティング材組成物2をスピンコーターで膜厚が100nmになるように塗布し、120℃で5分間乾燥することによって、オーバーコート層を形成することによって、図1のような層構成の透明導電膜付き基材を得た。
【0091】
(実施例2)
実施例1において、コーティング剤組成物1を膜厚が20nmになるように塗布して、透明導電膜を形成するようにした。その他は実施例1と同様にして透明導電膜付き基材を得た。
【0092】
(実施例3)
テトラエトキシシラン208質量部にメタノール356質量部を加え、更に水18質量部及び0.01Nの塩酸水溶液18質量部を加え(「HO/「OR」=0.5)、これをディスパーを用いてよく混合して混合液を得た。この混合液を25℃恒温槽中で2時間攪拌して、重量平均分子量を850に調整したシリコーンレジン−Mをマトリクス形成材料として得た。次に、中空シリカ微粒子として中空シリカIPA(イソプロパノール)分散ゾル(固形分20質量%、平均一次粒子径35nm、外殻厚み約8nm:触媒化成工業製)を用い、これをシリコーンレジン−Mに加え、中空シリカ微粒子/シリコーンレジン−M(縮合化合物換算)が固形分基準で質量比が70/30になるように配合し、その後、全固形分が1質量%になるようにメタノールで希釈することによって、オーバーコート層形成用のコーティング材組成物3を調整した。
【0093】
そして、実施例1と同じガラス基材の表面に、実施例1で調製したコーティング剤組成物1を膜厚が100nmになるようにスピンコーターによって塗布し、常温(23℃)で3分間乾燥した後、120℃で5分間加熱して乾燥することによって、透明導電膜を形成した。さらに、この表面に上記のコーティング材組成物3をスピンコーターで膜厚が100nmになるように塗布し、120℃で5分間乾燥することによって、オーバーコート層を形成することによって、図2のような層構成の透明導電膜付き基材を得た。
【0094】
(実施例4)
テトラエトキシシラン208質量部にメタノール356質量部を加え、更に水18質量部及び0.01Nの塩酸水溶液18質量部を加え(「HO/「OR」=0.5)、これをディスパーを用いてよく混合して混合液を得た。この混合液を25℃恒温槽中で2時間攪拌して、重量平均分子量を850に調整したシリコーンレジン−Mをマトリクス形成材料として得た。このシリコーンレジン−Mにγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン84.7質量部を加え、40℃で1時間重合反応させた。その後、全固形分が1質量%になるようにメタノールで希釈することによって、オーバーコート層形成用のコーティング材組成物4を調整した。
【0095】
そして、実施例1と同じガラス基材の表面に、実施例1で調製したコーティング剤組成物1を膜厚が100nmになるようにスピンコーターによって塗布し、常温(23℃)で3分間乾燥した後、120℃で5分間加熱して乾燥することによって、透明導電膜を形成した。さらに、この表面に上記のコーティング材組成物4をスピンコーターで膜厚が100nmになるように塗布し、120℃で5分間乾燥することによって、オーバーコート層を形成することによって、図1のような層構成の透明導電膜付き基材を得た。
【0096】
(実施例5)
4官能シリコーンレジンであるポリメトキシポリシロキサン(三菱化学株式会社製「メチルシリケートMS51」)208質量部にメタノール356質量部を加え、更に水18質量部及び0.01Nの塩酸水溶液18質量部を加え(「HO/「OR」=0.5)、これをディスパーを用いてよく混合して混合液を得た。この混合液を25℃恒温槽中で2時間攪拌して、重量平均分子量を850に調整したシリコーンレジン−Mをマトリクス形成材料として得た。この後、全固形分が1質量%になるようにメタノールで希釈することによって、オーバーコート層形成用のコーティング材組成物5を調製した。
【0097】
そして、実施例1と同じガラス基材の表面に、実施例1で調製したコーティング剤組成物1を膜厚が100nmになるようにスピンコーターによって塗布し、常温(23℃)で3分間乾燥した後、120℃で5分間加熱して乾燥することによって、透明導電膜を形成した。さらに、この表面に上記のコーティング材組成物5をスピンコーターで膜厚が100nmになるように塗布し、120℃で5分間乾燥することによって、オーバーコート層を形成することによって、図1のような層構成の透明導電膜付き基材を得た。
【0098】
(比較例1)
実施例1において、透明導電膜の上にオーバーコート層形成用のコーティング組成物2を塗布しないようにした。
【0099】
(比較例2)
実施例1と同様にして、コーティング組成物1を塗工してガラス基材の表面に透明導電膜を形成した。次にこの透明導電膜の表面に、ウレタン系ハードコート剤(日本合成化学(株)製「UV−1400B」)をバーコーター(#4)で塗布し、120℃で5分間乾燥し、その後、紫外線照射装置で5kJ/mの強度で紫外線を照射して硬化させることによって、オーバーコート層を形成した。
【0100】
(比較例3)
重合性単量体であるジアクリル酸(ペルフルオロオクチル)メチルエチレングリコール50質量部と、光重合開始剤「Darocur1173」(商品名、チバガイギー社製)1質量部と、トリフルオロメチルベンゼン500質量部を混合して、固形分濃度8質量%のオーバーコート層形成用のコーティング剤組成物6を調製した。
【0101】
そして実施例1と同様にして、ガラス基材の表面に透明導電膜を形成した後、上記のコーティング剤組成物6をバーコーター(#4)で塗布し、120℃で5分間乾燥し、その後、紫外線照射装置で5kJ/mの強度で紫外線を照射して硬化させることによって、オーバーコート層を形成した。
【0102】
(比較例4)
実施例2と同様にして、コーティング組成物1を塗工してガラス基材の表面に透明導電膜を形成した。次にこの透明導電膜の表面に、ウレタン系ハードコート剤(日本合成化学(株)製「UV−1400B」)をバーコーター(#4)で塗布し、120℃で5分間乾燥し、その後、紫外線照射装置で5kJ/mの強度で紫外線を照射して硬化させることによって、オーバーコート層を形成した。
【0103】
(比較例5)
アクリル樹脂(新中村化学工業(株)製「A−DPH」)14.55質量部を、メチルエチルケトン34.87質量部とメチルイソブチルケトン34.86質量部の混合溶媒に溶解した。次にこの溶液に導電性フィラーとしてITOゾル(シーアイナノテック(株)製「ITCW15WT%−G30」)を配合した。ITOゾルはMEKを分散媒として固形分3.0質量%で分散した分散液とし、上記の溶液にこの分散液を12.0質量部加えてよく混合した。さらに光重合開始剤1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバガイギー製「イルガキュア184」)0.72質量部を加えてよく混合し、25℃の恒温雰囲気下で1時間撹拌混合することによって、透明導電膜形成用のコーティング剤組成物7を調製した。
【0104】
そして、実施例1と同じガラス基材の表面に、上記のコーティング剤組成物7を膜厚が100nmになるようにスピンコーターによって塗布し、常温(23℃)で3分間乾燥した後、120℃で5分間加熱して乾燥することによって、透明導電膜を形成した。さらに、この表面に実施例1で調製したコーティング材組成物2をスピンコーターで膜厚が100nmになるように塗布し、120℃で5分間乾燥することによって、オーバーコート層を形成することによって、図1のような層構成の透明導電膜付き基材を得た。
【0105】
(比較例6)
比較例5において、透明導電膜の上にオーバーコート層形成用のコーティング組成物2を塗布しないようにした。
【0106】
(比較例7)
比較例6と同様にして、コーティング組成物7を塗工してガラス基材の表面に透明導電膜を形成した。次にこの透明導電膜の表面に、ウレタン系ハードコート剤(日本合成化学(株)製「UV−1400B」)をバーコーター(#4)で塗布し、120℃で5分間乾燥し、その後、紫外線照射装置で5kJ/mの強度で紫外線を照射して硬化させることによって、オーバーコート層を形成した。
【0107】
上記のコーティング組成物1〜7の被膜及びウレタン系ハードコート剤(日本合成化学(株)製「UV−1400B」)の被膜について、屈折率を求めた。すなわち、各コーティング剤をガラス表面に塗布して上記と同じ条件で乾燥乃至硬化させ、この被膜の反射率を分光光度計((株)日立ハイテクフィールデング製「U−4100」)を用いて測定し、得られたスペクトルより屈折率を推定した。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
上記の実施例1〜5及び比較例1〜7で得た、透明導電膜付き基材について、光の透過率、表面抵抗、表面の耐磨耗性を測定した。結果を表2に示す。
【0110】
透過率の測定は、分光光度計((株)日立ハイテクフィールデング製「U−4100」)を用いて行なった。
【0111】
表面抵抗の測定は、表面抵抗値測定器(三菱化学(株)製「ハイレスタ IP MCP−HT260」)を用いて行なった。
【0112】
耐磨耗性は、スチールウール#0000を用いて表面塗膜を擦り、発生する傷の発生レベルで機械的強度を次のように判定した。
A:傷が発生しない
B:傷が僅かに発生する
C:傷が発生する
D:傷が多数発生する
E:膜が剥離する
【0113】
【表2】

【0114】
表2にみられるように、オーバーコート層を設けない比較例1及び比較例5は、表面抵抗値は小さく、表面での導電性は得られたが、耐摩耗性に劣るものであった。また、オーバーコート層にウレタン系樹脂やアクリル系樹脂を用いた比較例2〜4、6〜7は、耐摩耗性は良好であったものの、表面抵抗値が大きくなり、表面の導電性が低下するものであった。
【0115】
これに対して、実施例1〜5のものは、表面抵抗値が小さく、表面の導電性と耐磨耗性の両方に優れるものであった。特に、低屈折率粒子を含むシリコーン樹脂でオーバーコート層を形成し実施例3では、表面の低抵抗値と耐磨耗性に加えて、光の透過率が向上するものであった。
【符号の説明】
【0116】
1 透明基材
2 透明導電膜
3 オーバーコート層
4 金属ナノワイヤ
5 透明樹脂
6 マトリクス樹脂
7 低屈折率粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の上に金属ナノワイヤを含む透明塗膜によって形成される透明導電膜を設け、透明導電膜の表面に透明なオーバーコート層を設けると共にオーバーコート層を加水分解性シラン化合物の縮合物をマトリクス樹脂として形成して成ることを特徴とする透明導電膜付き基材。
【請求項2】
透明導電膜の屈折率がオーバーコート層の屈折率より高いことを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜付き基材。
【請求項3】
オーバーコート層中に、オーバーコート層のマトリクス樹脂よりも屈折率が小さい低屈折率粒子を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電膜付き基材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−204649(P2011−204649A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73628(P2010−73628)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】