説明

透明導電膜及びその製造方法

【課題】塗布方法を用いて透明導電膜を製造する際に、物理的手法により得られる膜と同等の特性を示す透明導電膜の製造を可能にすることを目的とする。
【解決手段】
透明導電性微粒子を含む流動性材料を基板上に塗布して塗膜を形成した後、この塗膜に圧力を加えた後に電磁波を照射し、透明導電性微粒子を燒結させる。この際に、塗膜の密度が3.0g/cm3以上になるように塗膜に圧力を加えるのが好ましい。また、ロールプレスによって塗膜の面に圧力を加えるのが好ましい。また、ロールプレスの線圧を200kg/cm以上に設定するのが好ましい。また、照射する電磁波は1GHz〜1THzのマイクロ波であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性微粒子を含む透明導電膜と、透明導電性微粒子を含む流動性材料を基板上に塗布して透明導電膜を製造する透明導電膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ITO(錫含有酸化インジウム)、SnO2(酸化錫)、IZO(亜鉛含有酸化インジウム)などは可視光透過性及び視覚的透明性が良く、高い導電性を示すことから、液晶ディスプレイ、タッチパネル、センサー、太陽電池、有機・無機EL、電子ペーパーなどに用いられている。
【0003】
これら透明導電膜は、スパッタリング法等の物理的手法により製造することができるが、この製造方法では製造装置及び製造コストが高くなってしまうデメリットがある。これに対し、ITO、SnO2、IZO等の透明導電性微粒子を溶剤等に分散させた微粒子分散液を、ガラスや高分子フィルム等の基板上に塗布する手法では、透明導電膜を安価に製造することが可能であり、この製造方法による成膜が望まれている。
【0004】
しかし、分散液を基板上に塗布して製造された透明導電膜は、スパッタリング法等の物理的手法を用いて製造された透明導電膜に比べて抵抗が高くなる。その理由としては、透明導電膜が微粒子によって形成されているために、粒子界面が増加することがあげられる。また、分散性を高めるために粒子表面に付着させる界面活性剤が、抵抗を増加させる要因になる。
【0005】
透明導電膜の抵抗を下げるためには、高温で焼成することにより、粒子表面に付着させた界面活性剤を分解し、微粒子を燒結させればよい。しかし、高分子フィルム上に透明導電性微粒子を塗布して得られる塗膜は、フィルムの特性上、高温で焼成することができないため、微粒子間の焼結を起こすことができない。
【0006】
この問題を解決するために、特許文献1に記載の透明導電膜の製造技術では、透明導電性微粒子の塗膜にマイクロ波を照射して粒子間の焼結を行っている。マイクロ波を用いると誘電体損失の大きいもの以外は加熱されないため、被加熱物自体を直接的且つ同時に発熱させることができ、被加熱物を比較的均一に加熱することが可能である。また、通常の外部加熱方法に比べて基材の熱変質が無いためにフィルムに損失を与えずに対象物質を焼成できるという特徴がある。
【特許文献1】特開平11−242916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、先に示した特許文献1の透明導電膜の製造技術により製造された透明導電度の抵抗は、102Ω/□以上であり、物理的手法により得られる透明導電膜の抵抗102〜1Ω/□と比較して大きくなってしまう。また、可視光透過率も80%程度と低くなっているうえに、視覚的透明性も低くなってしまう。このように、上記特許文献1の製造技術では、低抵抗で且つ可視光透過性及び視覚的透明性に優れた透明導電膜を製造することが難しい。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、透明導電性微粒子を含む分散液等の流動性材料を基板上に塗布して透明導電膜を製造する際に、従来よりも低抵抗で且つ可視光透過性及び視覚的透明性に優れた透明導電膜の製造を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、透明導電性微粒子を含む分散液等の流動性材料を基板上に塗布する手法を用いた従来公知の透明導電膜の製造技術について、低抵抗で且つ可視光透過性及び視覚的透明性に優れた透明導電膜を製造するために広く研究を行った結果、以下の知見を得た。
【0010】
本発明者らは、基板上に形成された透明導電性微粒子の塗膜を加圧してから、マイクロ波を照射することによって透明導電性微粒子粒子間の焼結が促進され、塗膜の低抵抗化が進むことを見出した。特に、線圧が200kg/cm以上のロールプレスを用いて塗膜の膜密度が3.0g/cm3以上になるように塗膜を加圧した場合に低抵抗化がより促進され、非常に低抵抗の透明導電膜が得られることが分かった。また、上述したように塗膜を加圧した後にマイクロ波を照射することによって製造した透明導電膜は、高い可視光透過率及び視覚的透明性を備えていることを見出した。特に、透明導電性微粒子として、粒子径が100nm以下である錫含有酸化インジウムを用いた場合に、透明導電膜の可視光透過率及び視覚的透明性を非常に高い値にすることができた。以上の知見に基づいて製造した透明導電膜の一例として、例えば表面抵抗が102Ω/□未満、可視光透過率85%以上の透明導電膜を得ることができた。
【0011】
さらに、マイクロ波を照射する際に、例えば金属発泡シート等の導電性発泡シートを透明導電性微粒子膜に接地させて行った場合には、放電が抑制されて基板であるフィルムにダメージを与えることなく、透明導電膜を安定して製造できることを見出した。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。即ち、本発明によれば、透明導電性微粒子を含む流動性材料を基板上に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜に圧力を加えた後に電磁波を照射し、前記透明導電性微粒子を燒結させることを特徴とする、透明導電膜の製造方法が提供される。
【0013】
上記透明導電膜の製造方法において、前記塗膜の密度が3.0g/cm3以上になるように前記塗膜の面に圧力を加えてもよい。
【0014】
上記透明導電膜の製造方法において、ロールプレスによって前記塗膜の面に圧力を加えてもよい。
【0015】
上記透明導電膜の製造方法において、前記ロールプレスの線圧が200kg/cm以上であってもよい。
【0016】
上記透明導電膜の製造方法において、前記電磁波は周波数が1GHz〜1THzのマイクロ波であってもよい。
【0017】
上記透明導電膜の製造方法において、前記電磁波の照射の際に、放電を防止するように導電性発泡シートを前記塗膜の下に敷いてもよい。
【0018】
上記透明導電膜の製造方法において、前記電磁波の照射が、不活性ガス雰囲気下で行われてもよい。
【0019】
上記透明導電膜の製造方法において、前記透明導電性微粒子は、BET粒子径が100nm以下である錫含有酸化インジウムであってもよい。
【0020】
また、本発明によれば、透明導電性微粒子分散溶媒を塗布し、粒子を焼結させた後の抵抗が100Ω/□未満、ヘイズが2%未満、全光透過率が85%以上であることを特徴とする、透明導電膜が提供される。
【0021】
上記透明導電膜において、透明導電性微粒子は酸化錫を含有した酸化インジウムであり、その粒子径が100nm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、透明導電性微粒子を含む流動性材料を基板上に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜の面に圧力を加えた後に電磁波を照射することによって透明導電性微粒子の焼結を促進させ、例えば高分子フィルム等の基板にダメージを与えることなしに、非常に低抵抗で且つ可視光透過性及び視覚的透明性に優れた透明導電膜を製造することが可能になる。これにより、スパッタリング法等の物理的手法を用いて製造された透明導電膜と同等以上の特性を備えた透明導電膜を、透明導電性微粒子を含む流動性材料を基板上に塗布して透明導電膜を製造する製造方法を用いて安価に製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明をする。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る透明導電膜の製造方法の手順を示すフロー図である。以下では、図1を用いて本発明の実施の形態に係る透明導電膜の製造方法について説明する。
【0025】
(ステップ0)
透明導電膜の製造を開始する。
【0026】
(ステップ1)
透明導電性粒子を含む流動性材料を作成する。本実施の形態では、透明導電性粒子としてSn(錫)含有酸化インジウム(In2O3(ITOとも呼ばれる))をアルコール系の溶媒に分散させることにより、流動性材料としての分散液を作成している。なお、透明導電性粒子の粒子径は、100nm以下であることが好ましい。
【0027】
透明導電性粒子としては、Sn含有In2O3(ITO)以外にも、例えばZn含有In2O3(IZO)、F含有In2O3(FTO)、Sb含有SnO2(ATO)、ZnO、Al含有ZnO(AZO)、Ga含有ZnO(GZO)、CdSnO3、Cd2SnO4、TiO2、CdO等を用いてもよい。また、これらを単独で用いてもよいし、2種類以上を任意に組み合わせてもよい。この中で特にIn又はSnを主体とした金属酸化物が、導電性及び透明性を両立する上で好ましい。
【0028】
透明導電性微粒子がInとSnからなる場合には、Snの含有量を20wt%以下にするのが好ましい。これは、透明導電性微粒子に含有されるSnの量が多くなると、キャリアの散乱が起こって抵抗が悪化するからである。また、さらに好ましくは5〜15wt%である。これは、透明導電性微粒子に含有されるSnの量が少なすぎると、キャリア密度が少なくなって抵抗が悪化するからである。
【0029】
また、流動性材料に対する透明導電性微粒子の重量比は5〜50wt%にするのが好ましい。さらに好ましくは、10〜40wt%である。これは、流動性材料に対する透明導電性粒子の重量比が少なすぎると、流動性材料の粘度が小さくなり過ぎて後述するステップ2で流動性材料を基板上に塗布する際に塗膜の膜厚が不均一となってしまう恐れがあるからである。また、流動性材料に対する透明導電性微粒子の重量比が大きくなりすぎると、微粒子の分散安定性が悪化し、塗膜後の膜密度が低くなってしまう可能性がある。
【0030】
(ステップ2)
上記ステップ1で作成した流動性材料を基板に塗布する。本実施の形態では、流動性材料としての分散液を、透明な基板の一例として高分子フィルムに塗布している。透明な基板としては、例えばセルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ニトロセルロース、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド等を材料として用いることができる。これらの中でも、透明性に優れ、安価であるポリエチレンテレフタラートを用いるのが好ましい。
【0031】
本実施の形態では、3μmのアプリケータを用いて流動性材料としてのITO分散液を高分子フィルム上に塗布することにより塗膜を施した。流動性材料を基板に塗布する方法としては、アプリケータを用いる以外にも、例えばロールコート、スクリーン印刷、スプレーコート、ディップコート及びスピンコート等の公知の方法を使用することができる。
【0032】
(ステップ3)
基板に塗布した塗膜を乾燥させる。乾燥温度としては、基板として用いた高分子フィルムの軟化点以下になるように設定するのが好ましい。具体的に説明すると、例えばフィルムにポリエチレンテレフタラート(PET)を用いた場合には乾燥温度を80℃以下に設定するのが好ましい。
【0033】
(ステップ4)
塗膜に圧力を加える。本実施の形態では、図2に概略的な側面図を示すロールプレス1を用いて塗膜2の密度が3.0g/cm3以上になるように塗膜2の面に圧力を加えている。図2に示すように、ロールプレス1は、軸方向が互いに平行に(図2の紙面に垂直に)配置された樹脂ロール5、2つの金属ロール6、7及びガイドロール8を備えている。樹脂ロール5及びガイドロール8は、例えば反時計回りに回転するように構成されている。一方、2つの金属ロール6、7は、その側面を樹脂ロール5の側面と互いに接触した状態で例えば時計周りに回転するように構成されている。以上の構成により、ロールプレス1は、塗膜2を備えた基板としての高分子フィルム10を点線矢印で示す方向に搬送し、樹脂ロール5及び金属ロール6の間で挟持しながら通過させて塗膜2を高分子フィルム10ごと圧縮できるようになっている。さらに、樹脂ロール5及び金属ロール6で圧縮された塗膜2及び高分子フィルム10は、ガイドロール8を介してその進行方向が変更され、樹脂ロール5及び金属ロール7の間で挟持しながら通過させて2度目の圧縮が行われるようになっている。
【0034】
本実施の形態では、ロールプレス1の線圧が200kg/cm以上に設定されている。これにより、ロールプレス1を用いて塗膜2に圧力を加え、塗膜2の密度が3.0g/cm3以上になるようにすることができる。このようにしてロールプレス1を塗膜2に施すことにより、粒子間の接触が良くなり、膜密度が上昇する。同時に、塗膜表面が滑らかになることにより、製造される透明導電膜の可視光透過率及び視覚的透明性が飛躍的に向上する。なお、塗膜2に圧力を加える方法としては、上述したようにロールプレス1を用いる以外に例えばシートプレス等の公知の圧力手段を用いてもよい。
【0035】
(ステップ5)
塗膜に電磁波を照射し、塗膜の透明導電性微粒子を焼結させることにより透明導電膜を形成する。本実施の形態では、電磁波として例えばマイクロ波を用いている。この場合に、塗膜の密度を大きな値に設定すると、透明導電性微粒子同士の接触が多くなって焼結が促されるため、マイクロ波焼成後の抵抗が小さくすることができる。例えば、マイクロ波焼成後の抵抗を102Ω/□未満にするためには、塗膜の密度を3.0g/cm3以上にするとよい。
【0036】
本実施の形態では、電磁波として2.45GHzの周波数のマイクロ波を1000Wで10分間、塗膜に照射している。この場合に基板として用いている高分子フィルムは誘電損失が少ないため、マイクロ波を照射しても吸収が起こらず、高分子フィルムが加熱されることはない。これに対して、高分子フィルムに施された酸化物の塗膜は誘電損失が大きいため、マイクロ波を照射すると熱が発生する。これを利用して高分子フィルム上の塗膜のみを選択的に加熱することができる。また、酸化物の塗膜は、マイクロ波高速応答性能を有しているので、加熱時間や出力調整により必要な温度への到達時間の制御を容易に行うことができる。
【0037】
本実施の形態では、図3に示すように、塗膜2を施した高分子フィルム10を例えば発泡Niシート等の導電性発泡シート11の上に載置し、この塗膜2にマイクロ波(図3中、点線矢印15)を照射している。この際に、塗膜2を高分子フィルム10の下面側に配置し、塗膜2を導電性発泡シート11に接触させた状態でマイクロ波を照射している。なお、マイクロ波は、高分子フィルム10の上面側(即ち、導電性発泡シート11の反対側の面)から照射されている。なお、塗膜2に対するマイクロ波の照射は、窒素雰囲気下で行っている。
【0038】
(ステップ6)
上記ステップ1〜5の手順により、基板である高分子フィルム上における透明導電膜の製造が完了する。
【0039】
以上の実施の形態によれば、透明導電膜を製造する際に基板上に透明導電性微粒子を含む流動性材料を塗布して塗膜を形成し、この塗膜に圧力を加えた後に電磁波を照射したことによって、塗膜を構成する透明導電性微粒子間の燒結を促進させることができ、透明導電性微粒子を含む流動性材料を基板上に塗布する従来公知の透明導電膜の製造技術で製造される透明導電膜よりも抵抗が低く、且つ可視光透過性及び視覚的透明性に優れた透明導電膜を製造することが可能になる。特に、塗膜を加圧する際に、塗膜の膜密度が3.0g/cm3以上になるように加圧した場合に低抵抗化がより促進され、その抵抗を非常に低くすることができる。これにより、スパッタリング法等の物理的手法を用いて製造された透明導電膜と同等以上の特性を備えた透明導電膜を、透明導電性微粒子を含む流動性材料を基板上に塗布する手順による透明導電膜の製造方法を用いて安価に製造することが可能になる。
【0040】
特に、粒子径が100nm以下である錫含有酸化インジウムを透明導電性微粒子として用いた場合には、塗膜内での光の散乱を生じさせず、視覚的透明性が非常に高い透明導電膜を製造することが可能になる。また、粒子径を小さくしたことによって、例えばロールプレス等を用いて塗膜に圧力を加えた際に膜密度を充分に大きくすることができ、マイクロ波を照射した際の粒子間の焼結を適切に促進させ、製造される透明導電膜の抵抗をより低くすることができる。
【0041】
さらに、塗膜に圧力を加える際に、図2に示すロールプレス1を用いた場合には、塗膜の面全体に圧力を均等に加えて塗膜の密度を面全体で概ね均一にすることができ、製造される透明導電膜の特性が面全体で均一になり、高品質の透明導電膜を製造することが可能になる。特に、ロールプレス1の線圧を200kg/cm以上に設定した場合には、塗膜の膜密度を3.0g/cm3以上にすることができ、上述したように従来公知の製造技術を用いた場合よりも非常に低い抵抗及び非常に高い可視光透過率を備えた透明導電膜を製造することが可能になる。
【0042】
また、塗膜にマイクロ波を照射する際に、導電性発泡シートを透明導電性微粒子膜に接地させたことによって、放電を抑制することができ、例えば高分子フィルム等である基板を溶かしてしまう等のダメージを与えずに済む。さらに、塗膜及び基板が局所的に高温になって基板が損傷してしまうことを防止する効果もある。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0044】
上述した実施形態においては、透明導電性粒子を含む流動性材料が分散液である場合について説明したが、透明導電性粒子を含む流動性材料は、例えば半液体、ペースト、溶融物、溶液、分散液、懸濁液又は粒状材料等であってもよい。また、流動性材料を塗料化する場合の塗料化の方法としてはボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー、ペイントシェーカー等の方法を用いることができる。流動性材料を作成する際に透明導電性粒子を混入させる溶媒としては、例えば水、アルコール、ケトン、エーテル、エステル等の溶媒を使用することができる。また、場合によっては、界面活性剤、バインダ等を添加してもよい。
【0045】
上述した実施形態においては、流動性材料を塗布する透明な基板が、例えばセルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ニトロセルロース、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド等を材料として用いた高分子フィルムである場合について説明したが、流動性材料を塗布する透明な基板は、これら以外を材料とする高分子フィルムであってもよいし、高分子フィルム以外であってもよい。また、流動性材料を塗布する基板は、透明でなくてもよい。
【0046】
上述した実施形態においては、電磁波として2.45GHzのマイクロ波を1000Wで10分間、塗膜に照射する場合について説明したが、照射する電磁波の周波数は1GHz〜1THzであってもよい。また、マイクロ波の照射投入電力は例えば500〜1000W等、その他の値であってもよい。マイクロ波の照射時間は、長くなると基板に熱が伝達されてダメージを与える原因となるので、例えば1〜10分にするのが好ましい。
【0047】
上述した実施形態においては、導電性発泡シート11として発泡Niシートが用いられている場合について説明したが、導電性発泡シート11として、電子伝導性が良く、放熱性に優れた任意の材料で構成されたシートを使用してもよい。
【0048】
上述した実施形態においては、図3に示す塗膜2に対する電磁波の照射を窒素雰囲気下で行っている場合について説明したが、電磁波を照射する際に大気雰囲気、不活性雰囲気又は還元雰囲気等、その他の雰囲気中で行ってもよい。なお、大気雰囲気中で電磁波を照射する場合には、塗膜2の導電酸化物が酸化されて塗膜2中のキャリアが減少し、不活性雰囲気又は還元雰囲気中でマイクロ波を照射した場合に比べて抵抗が悪化する可能性があるため、不活性雰囲気又は還元雰囲気中で塗膜2にマイクロ波の照射を行うのが好ましい。
【実施例】
【0049】
本発明を、実施例と比較例を用いて説明する。
【0050】
以下の表1において、実施例1〜6の各データは本発明の製造方法を用いて製造した透明導電膜の各特性を示し、比較例1〜4の各データは従来公知の製造方法を用いて製造した透明導電膜の各特性を示している。
【0051】
【表1】

【0052】
上記表1に示す各データの特性は、以下のようにして測定した。
<BET粒径>
透明導電膜(塗膜)の透明導電性微粒子のBET粒径は、下記式により計算した。
BET粒径(nm)=6/(ρ×比表面積)×109
但し、ρは透明導電性微粒子の真比重であり、例えば、透明導電性微粒子がITO(錫含有酸化インジウム)である場合には、ρ=7.13×109(g/m3)となる。また、比表面積は、BET法(一点法)により求めた。
【0053】
<表面抵抗>
透明導電膜(塗膜)の表面抵抗は、三菱化学株式会社製のLorestaHPを用いて、四探針法により測定した。
【0054】
<全光透過率及びヘイズ>
透明導電膜(塗膜)の光透過率及びヘイズは、日本電色工業株式会社製のNDH2000を用いて測定した。光源にはハロゲンランプを用いた。
【0055】
<膜厚>
透明導電膜(塗膜)の膜厚は、日本電子社製JSM-6700Fの走査型電子顕微鏡を用いて、倍率10000倍にて観察し測定した。
【0056】
<膜の密度>
透明導電膜(塗膜)の密度は、以下の手順で測定した。予め、基板となるPETフィルムを5(cm)×5(cm)に切り取り、重量を測定しておく。次いで、導電性微粒子を塗布後に乾燥させて加圧した基板(下記式における「塗膜を施した基板」)を5(cm)×5(cm)に切取り、重量を測定する。次いで、走査型電子顕微鏡を用いて塗膜の膜厚を測定し、測定により得られた重量及び膜厚に基づいて下記式から膜の密度を求めた。なお、ロールプレス後の基板厚みは変化しておらず、基板重量の変化もない。
(膜密度)={(塗膜を施した基板重量)−(基板重量)}/{(塗膜の面積)×(塗膜の膜厚)}
【0057】
次に、上記表1に示す各データ(実施例1〜6及び比較例1〜4)について、透明導電膜を製造した際の各条件について説明する。
【0058】
[実施例1]
実施例1のデータは、本発明の製造方法を用いて以下の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。まず、透明導電性粒子としてSnO2を15wt%含有したITO粉末(BET粒径30nm)7.5gを、アルコール系の溶媒17.5g及びアニオン系界面活性剤0.225gと混合し、遊星ボールミル(フリッチェ製P-5型、容器容量80ml、ビーズPSZ 0.3mm)にて、300rpmで30分間回転させ、流動性材料としての分散液を作成した。このようにして得たITO含量が30wt%のITO分散液をアプリケータ(フィルム送り速度5m/min)にて、基板としてのPETフィルム(東レ製 ルミラー100T ヘイズ1.5% 全光透過率89%)上に塗布し、80℃の温度にて乾燥させた。その後、図2に示すロールプレス(フィルム送り速度2.5m/min)を用いてこのPETフィルムを線圧200kg/cmで加圧し、PETフィルム上の塗膜の密度を3.0g/cm3にした。家庭用電子レンジ(2.45GHz)内のトレイ上に発泡Niシートを敷き、この発泡Niシート上に製造した透明導電膜を配置した。この際に透明導電膜の塗膜面が発泡Niシートに接するように、塗膜面を下にして基板としてのフィルムをセットした。その後、窒素雰囲気下で、この透明導電膜に周波数が2.45GHzのマイクロ波を1000Wで10分間照射した。以上の手順により得られた透明導電膜は、上記表1の実施例1のデータに示すように表面抵抗が60Ω/□、全光透過率が86.4%、且つヘイズが1.7%であった。
【0059】
[実施例2]
実施例2のデータは、マイクロ波照射を500Wで行った以外は、実施例1のデータの場合と同様の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。
【0060】
[実施例3]
実施例3のデータは、マイクロ波照射の時間を5分間にしたこと以外は、実施例1と同様の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。
【0061】
[実施例4]
実施例4のデータは、マイクロ波照射の時間を5分間にしたこと以外は、実施例2と同様の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。
【0062】
[実施例5]
実施例5のデータは、ロールプレスの線圧を300kg/cmとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。
【0063】
[実施例6]
実施例6のデータは、ロールプレスの線圧を300kg/cmとしたこと以外は、実施例2と同様の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。
【0064】
[比較例1]
比較例1のデータは、従来公知の製造方法を用いて以下の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。即ち、比較例1の透明導電膜は、実施例1と同様の手順で作成した分散液をアプリケータで基板上に塗布し、80℃で乾燥した膜であり、その後にロールプレス及びマイクロ波焼成をいずれも行わずに製造した。なお、この透明導電膜の膜密度は2.6g/cm3であった。
【0065】
[比較例2]
比較例2のデータは、従来公知の製造方法を用いて以下の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。即ち、比較例2の透明導電膜は、実施例1の場合と同様にして作成した分散液をアプリケータで基板上に塗布し、80℃で乾燥し、その後にロールプレスをかけたがマイクロ波処理を行わずに製造した。
【0066】
[比較例3]
比較例3のデータは、従来公知の製造方法を用いて以下の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。即ち、比較例3の透明導電膜は、実施例1の場合と同様にして作成した分散液をアプリケータで基板上に塗布し、80℃で乾燥した後、ロールプレスをかけずにマイクロ波を1000Wで10分間照射して製造した。
【0067】
[比較例4]
比較例4のデータは、従来公知の製造方法を用いて以下の手順で製造した透明導電膜の各特性を示している。即ち、比較例4の透明導電膜は、実施例1の場合と同様にして作成した分散液をアプリケータで基板上に塗布し、80℃で乾燥した後、ロールプレスをかけ、電気炉にて窒素雰囲気下にて100℃で加熱することにより製造した。
【0068】
上記表1の実施例1〜6のデータが示すように本発明の製造方法を用いて製造した透明導電膜の場合には、透明導電性粒子を含む流動性材料を基板上に塗布して塗膜を形成し、ロールプレスを用いて塗膜に圧力を加えた後にマイクロ波を照射して透明導電性粒子の焼結が促進させたことによって、上記表1の比較例1〜4のデータが示すように従来公知の製造方法を用いて製造した透明導電膜の表面抵抗650〜20000(Ω/□)の値よりも大幅に低い100Ω/□未満の表面抵抗を達成できていることが分かる。なお、比較例1及び3のデータが示すように、製造する際に塗膜に圧力が加えられなかった場合には、透明導電膜の膜密度が2.6(g/cm3)と非常に小さく、これにより製造される透明導電膜の表面抵抗が非常に大きくなってしまっていることが分かる。
【0069】
なお、上記表1の実施例1〜6では、発泡Niシートを用いて焼成を行っているために放電が防止され、フィルムにダメージを与えずに焼成を行うことができた。これに対し、発泡Niシートを引かずにマイクロ波照射を行った場合には、塗膜が放電により局所的に高温になって消失してしまう恐れがある。このようにして、マイクロ波照射を行う際には、発泡Niシートのような導電性発泡シートを引くことが好ましい。
【0070】
さらに、上記表1の実施例1〜6のデータが示すように、製造した透明導電膜の全光透過率は85%以上になっており、この値は、比較例1〜4のデータが示す従来公知の製造方法を用いて製造した透明導電膜の全光透過率74.7〜86.4と同じかそれ以上であり、本発明の製造方法により製造した透明導電膜は可視光透過性が優れていることが分かる。また、上記表1の実施例1〜6のデータが示すように、製造した透明導電膜のヘイズは1.5〜1.8%であり、この値は、比較例1〜4のデータが示す従来公知の製造方法を用いて製造した透明導電膜のヘイズ1.7〜12.5と同じかそれ以下であり、本発明の製造方法により製造した透明導電膜は、高い視覚的透明性を保持していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、透明導電性微粒子を基板に塗布して透明導電膜を製造する際に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態に係る透明導電膜の製造方法の手順を示すフロー図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る製造方法を用いて透明導電膜を製造する際に用いるロールプレス1の概略的な側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る製造方法を用いて透明導電膜を製造する際に、基板としての高分子フィルム10上に施した塗膜2にマイクロ波を照射する手順を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 ロールプレス
2 塗膜
5 樹脂ロール
6、7 金属ロール
8 ガイドロール
10 高分子フィルム
11 導電性発泡シート
15 マイクロ波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性微粒子を含む流動性材料を基板上に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜に圧力を加えた後に電磁波を照射し、前記透明導電性微粒子を燒結させることを特徴とする、透明導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記塗膜の密度が3.0g/cm3以上になるように前記塗膜に圧力を加えることを特徴とする、請求項1に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
ロールプレスによって前記塗膜の面に圧力を加えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項4】
前記ロールプレスの線圧が200kg/cm以上であることを特徴とする、請求項3に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項5】
前記電磁波は周波数が1GHz〜1THzのマイクロ波であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記電磁波の照射の際に、放電を防止するように導電性発泡シートを前記塗膜の下に敷くことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項7】
前記電磁波の照射が、不活性ガス雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項8】
前記透明導電性微粒子は、BET粒子径が100nm以下である錫含有酸化インジウムであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項9】
透明導電性微粒子分散溶媒を塗布し、粒子を焼結させた後の抵抗が100Ω/□未満、ヘイズが2%未満、全光透過率が85%以上であることを特徴とする、透明導電膜。
【請求項10】
透明導電性微粒子は酸化錫を含有した酸化インジウムであり、その粒子径が100nm以下であることを特徴とする、請求項9に記載の透明導電膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−91126(P2008−91126A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268908(P2006−268908)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】