説明

透明導電膜形成用インク、及び透明導電膜

【課題】分散安定性に優れるとともに、導電性に優れた透明導電膜が得られるインクを提供する。
【解決手段】透明導電性粒子と、エチレングリコールを全溶媒中に80質量%より多く含有する分散溶媒とを有する透明導電膜形成用インクは、高濃度で透明導電性粒子を含有しても、透明導電性粒子の分散安定性に優れるとともに、導電性に優れた透明導電膜を形成することができる。上記インクは、さらに金属キレートを含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット法などによりプラスチック、ガラス、フィルムなどの基材に透明導電膜を印刷可能な透明導電膜形成用インク、及び前記透明導電膜形成用インクを用いて形成された透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電膜の材料としては、アンチモン含有酸化スズ(以下、ATOと略記)粒子、スズ含有酸化インジウム(以下、ITOと略記)粒子、アルミニウム含有酸化亜鉛(以下、AZOと略記)粒子、ガリウム含有酸化亜鉛(以下、GZOと略記)粒子などの透明導電性粒子が知られている。これらの中でも、ITO粒子は、可視光に対して高い透光性を有するとともに、優れた導電性を有するため、静電防止や電磁波遮蔽が要求されるCRT、LCDなどの表示素子透明電極や、タッチパネル、太陽電池用の透明電極の他、熱線反射、電磁波シールド、帯電防止、防曇などの機能性コーティングに広く使用されている。
【0003】
透明導電膜の形成方法としては、現在、主として真空蒸着法やスパッタリング法などの物理的方法が用いられているが、基材の大型化につれて、製造装置が大掛かりとなり、コストが高くなってしまうという問題が生じている。このため、透明導電性粒子を溶媒に分散させた塗布液を用いて透明導電膜を形成する塗布法が検討されており、中でも、インクジェット法は、直接、基材上に透明導電膜をパターンニングすることができるため、パターンニングのためのエッチング処理工程を省くことができるという利点を有している。このようなインクジェット法に利用できるインクとしては、例えば、10〜100nmの平均粒径を有する導電性酸化物微粒子と、3,000〜150,000の平均重量分子量を有する無機バインダと、γ−ブチロラクトンを10〜90質量%含有する分散溶媒とからなるインクが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−114396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インクジェット法を利用する場合、インクがプリンタヘッドに対応した最適な粘度及び表面張力を有するとともに、インク中で粒子の沈降が長期間生じない分散安定性が要求される。このため、上記特許文献1では透明導電性粒子を分散させる無機バインダとしてシリカ、アルミナなどのゾル液を、分散溶媒としてγ−ブチロラクトンを用いている。
【0005】
しかしながら、透明導電膜を、例えば透明電極として使用する場合には、少なくとも10Ω/□以下の導電性が必要とされる。上記のような無機バインダを用いて分散安定性を確保するためには、過剰のバインダ量が必要となり、それによって透明導電性粒子の表面が無機バインダによって被覆された状態になってしまう。そのため、基材上にインクが塗布された後も、バインダが透明導電性粒子同士の接触を阻害し、導電性が低下するという問題がある。従って、導電性を確保するためには、透明導電性粒子が密に充填された塗膜を形成し、透明導電性粒子同士の良好な接触を確保する必要がある。上記観点から導電性を向上するため、インク中の透明導電性粒子の濃度を増加することも考えられるが、この場合さらに分散安定性が低下する。このため、分散安定性と導電性を両立することが難しい。
【0006】
本発明は、上記の課題を鑑みなされたものであり、透明導電膜を形成する場合に、分散安定性に優れるとともに、導電性に優れた透明導電膜が得られるインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、透明導電性粒子と、エチレングリコールを含む分散溶媒とを含有する透明導電膜形成用インクであって、
前記分散溶媒の全溶媒中、前記エチレングリコールの含有量が80質量%よりも多い透明導電膜形成用インクである。
【0008】
上記透明導電膜形成用インクによれば、分散溶媒が全溶媒中にエチレングリコールを80質量%より多く含有するため、インク中に高濃度で透明導電性粒子を含有する場合でも分散安定性に優れたインクを調製することができる。
【0009】
上記インクは、前記透明導電性粒子に対してモル比で0.01〜0.2の金属キレートを含有することが好ましい。上記範囲で金属キレートを含有することにより、さらに導電性に優れたインクを得ることができる。
【0010】
上記金属キレートは、チタンアセチルアセテート系化合物、ジルコニウムアセチルアセテート系化合物、チタンアルコキシド系化合物、及びジルコニウムアルコキシド系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの金属キレートはエチレングリコールを含有する分散溶媒への溶解性に優れるため、金属キレートの沈降が少なく、分散安定性に優れたインクを調製できるとともに、良好な導電性を有する透明導電膜を形成することができる。
【0011】
また、上記インクは、アセチレングリコール、アセチレンアルコール、及びアセチレンジオールからなる群から選択される少なくとも1種の表面改質剤をさらに含有してもよい。上記インクによれば、基材に対する濡れ性を改善することができ、一定厚みの透明導電膜を精度良く形成することができる。
【0012】
さらに、上記インクは、透明導電性粒子を分散させるためにバインダを含有させる必要がない。すなわち、全溶媒中にエチレングリコールを80質量%よりも多く含有する分散溶媒を用いれば、バインダを使用することなく、分散安定性に優れたインクを調製することができる。このため、低温の加熱処理でも導電性に優れた透明導電膜を形成することができる。
【0013】
上記インクは、前記透明導電性粒子を10〜60質量%含有し、前記分散溶媒を40〜90質量%含有することが好ましい。全溶媒中にエチレングリコールを80質量%よりも多く含有する分散溶媒を用いれば、上記のような高濃度で透明導電性粒子を含有する場合でも、分散安定性に優れたインクを調製することができる。このため、塗膜中で透明導電性粒子が密に充填され、透明導電性粒子同士の良好な接触を確保することができ、導電性に優れた透明導電膜を形成することができる。
【0014】
そして、本発明は、上記透明導電膜形成用インクをインクジェット法などにより印刷して形成された透明導電膜である。上記インクは、分散安定性に優れているため、プリンタヘッドから安定にインクを吐出することができ、一定厚みの透明導電膜を精密にパターンニングすることができる。特に、インクが金属キレートを一定量含有すると、導電性に優れた透明導電膜を形成することができる。そして、上記インクはバインダを必要としないため、形成された塗膜を200℃以下で加熱処理しても導電性に優れた透明導電膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、インクジェット法などにより透明導電膜を形成する場合に、分散安定性に優れるとともに、導電性に優れた透明導電膜が得られるインクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施の形態の透明導電膜形成用インクは、透明導電性粒子と、エチレングリコールを全溶媒中に80質量%より多く含有する分散溶媒とを有することを特徴とする。
【0017】
透明導電性粒子は、透明性と導電性とを兼ね備えた粒子であれば特に限定されない。例えば、インジウム、スズ、亜鉛、及びカドミウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物または窒化物を主成分とし、この酸化物または窒化物に、アンチモン、アルミニウム、スズ、及びガリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種がドープされた粒子が挙げられる。このような透明導電性粒子としては、具体的には、ATO粒子、ITO粒子、AZO粒子、GZO粒子などが挙げられる。これらの中でも、ITO粒子は、透明性、導電性、及び化学特性に優れているため、好ましい。
【0018】
上記透明導電性粒子は、5〜150nmの一次粒子径を有することが好ましい。一次粒子径が5nm未満であると、結晶性の良い粒子を得ることが難しく、分散安定性が低下する傾向がある。一方、一次粒子径が150nmよりも大きいと、透明性が低下する傾向がある。なお、一次粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で観測したときに、粒界で区切られた1つ1つの粒子20個の粒子径の平均値を意味する。
【0019】
また、上記透明導電性粒子はインク中で凝集しやすいため、150nm以下の分散平均粒子径を有することが好ましい。分散平均粒子径が150nmを超えると、ヘイズが高くなり、透明性が低下する傾向がある。なお、分散平均粒子径とは、レーザードップラー方式の粒度分布計でインクを測定したときの平均粒子径を意味する。
【0020】
インク中の透明導電性粒子の含有量は、インク全量に対して10〜60質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。特に、本実施の形態のインクは、エチレングリコールを80質量%より多く含有する分散溶媒が用いられるため、透明導電性粒子を30〜60質量%の高濃度で含有するインクとしても、透明導電性粒子を良好に分散することができ、分散安定性に優れたインクを調製することができる。このため、透明導電膜を透明電極などとして使用する場合に、一定の厚みを確保することができるとともに、優れた導電性を得ることができる。
【0021】
分散溶媒は、全溶媒中にエチレングリコールを80質量%より多く含有する。分散溶媒中のエチレングリコールの含有量が80質量%より多ければ、透明導電性粒子を高濃度で含有するインクであっても、分散安定性に優れたインクを得ることができる。また、この透明導電性粒子の良好な分散によりバインダを使用する必要がなくなる。このため、透明導電性粒子が密に充填された透明導電膜を形成することができる。さらに、エチレングリコールを80質量%より多く含有する分散溶媒は、後述する金属キレートの分散性にも優れるため、金属キレートがインク中で沈降することもない。なお、既述した特許文献1においては、副溶媒としてエチレングリコールを用いることも記載されているが、該インクは透明導電性粒子を分散させるためにバインダとして無機バインダを、主溶媒としてγ−ブチロラクトンを用いる必要があり、その実施例において使用されている分散溶媒中のエチレングリコールの含有量は18質量%程度に過ぎない。しかしながら、本発明者等の検討によれば、驚くべきことに、全溶媒中にエチレングリコールを80質量%より多く含有する分散溶媒を用いれば、特許文献1のような特殊な無機バインダを用いなくても分散溶媒中に高濃度で透明導電性粒子を安定に分散させることができるとともに、バインダを使用する必要がないため、200℃以下の低温での加熱処理によっても導電性に優れた透明導電膜を形成できることが見出された。従って、本実施の形態のインクによれば、形成される透明導電膜中で透明導電性粒子同士の接触がバインダによって阻害されることがない。また、これにより塗膜を高温で加熱処理する必要もなくなるため、加熱処理による基材のダメージや変形も低減することができる。分散溶媒中のエチレングリコールの含有量は、全溶媒量に対して80質量%より多ければ特に限定されないが、多いほど透明導電性粒子の分散安定性が向上するため、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましい。
【0022】
本実施の形態において、分散溶媒としてはエチレングリコールとともに他の分散溶媒を併用することができる。このような分散溶媒としては、具体的には、例えば、水、プロピレングリコール、2−プロパノール、1−プロパノール、エタノール、及びメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。上記の分散溶媒はエチレングリコールに対して良好な相溶性を有するため、インクジェット法に適した粘度及び表面張力を有するインクを調製することができる。ただし、エチレングリコールと上記の分散溶媒とを併用する場合、分散溶媒中のエチレングリコールの含有量が80質量%以下となると、エチレングリコールによる分散能が低下するため、他の分散溶媒は20質量%以下とする必要があり、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が最も好ましい。
【0023】
本実施の形態において、分散溶媒の全溶媒量は、インク全量中、40〜90質量%が好ましく、50〜70質量%が好ましい。分散溶媒の全溶媒量が40質量%以上であれば、透明導電性粒子を高濃度で含有する場合であっても、優れた分散安定性を有するインクを得ることができる。一方、分散溶媒の全溶媒量が90質量%以下であれば、透明導電性粒子の含有量を増加することができるため、導電性をさらに向上することができる。
【0024】
本実施の形態のインクは、金属キレートを含有することが好ましい。本実施の形態のインクは、透明導電性粒子を良好に分散させるためにエチレングリコールを80質量%より多く含有する分散溶媒が使用されるが、このエチレングリコールを多く含有する分散溶媒を用いたインクに金属キレートを含有させれば、さらに導電性に優れた透明導電膜を形成することができる。また、金属キレートを含有するインクを用いれば、200℃以下の低温の加熱処理によっても、導電性に優れた透明導電膜を形成することができる。このような金属キレートとしては、具体的には、例えば、チタンアセチルアセテート系化合物、ジルコニウムアセチルアセテート系化合物、チタンアルコキシド系化合物、及びジルコニウムアルコキシド系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、チタンアセチルアセテート系化合物、及びジルコニウムアセチルアセテート系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属キレートが好ましい。
【0025】
市場で入手可能な金属キレートとしては、マツモトケミカル社製のオルガチックスTA−10(テトライソプロピルチタネート,[Ti(OPr)])、同TA−25(テトラノルマルブチルチタネート,[Ti(OBu)])、同TC−100(チタンアセチルアセトナート,[(CO)Ti(C])、同TC−401(チタンテトラアセチルアセトナート,[Ti(C])、同ZA−40(テトラノルマルプロポキシジルコニウム,[Zr(OPr)])、同ZA−65(テトラノルマルブトキシジルコニウム,[Zr(OBu)])、同ZC−540(ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート,[(CO)Zr(C)])などが挙げられる。
【0026】
上記金属キレートの量は、透明導電性粒子に対してモル比で0.01〜0.2が好ましく、0.05〜0.1がより好ましい。金属キレートの量が0.05未満では、金属キレートを添加する効果が少ない。金属キレートの量が0.2より多いと、インク中の金属キレートの量が多くなりすぎ、得られる透明導電膜の抵抗が顕著に増加するとともに、エチレングリコールを含有する分散溶媒中で金属キレートが加水分解を起こして、沈降物が生じ、分散安定性が低下する。
【0027】
本実施の形態のインクは、表面改質剤をさらに含有してもよい。表面改質剤を使用することによって、基材に対するインクの濡れ性を向上することができる。このような表面改質剤としては、具体的には、例えば、アセチレングリコール、アセチレンアルコール、及びアセチレンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。インク中の表面改質剤の量は、インク全量に対して0.0001〜0.2質量%が好ましく、0.01〜0.1質量%がより好ましい。上記範囲であれば、導電性の低下を招くことなく、基材に対するインクの濡れ性を十分に向上することができ、一定の厚みの微細なパターンを精度良く形成することができる。
【0028】
また、本実施の形態のインクは、エチレングリコールを80質量%より多く含有する分散溶媒を用いることにより、透明導電性粒子が良好に分散されたインクが得られるため、透明導電性粒子の分散を目的としてバインダを使用する必要はないが、塗膜と基材との接着性を向上させるなど他の目的で従来公知のバインダをさらに含有してもよい。このようなバインダとしては、具体的には、例えば、シランカップリング剤、シリケートなどが挙げられる。ただし、バインダの添加により導電性が低下するため、その量は、透明導電性粒子に対して0〜10質量%が好ましい。
【0029】
本実施の形態のインクの固形分濃度は、10〜65質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。固形分濃度が10質量%未満の場合、透明導電膜を形成したときに、透明導電膜中の透明導電性粒子の含有量が少なくなり、一定の厚みを有する透明導電膜を形成することが困難となるとともに、導電性が低下し、10/□以下の導電性を確保することが難しくなる。固形分濃度が65質量%より多いと、インクの粘度が高くなってしまい、インクジェット法による印刷が困難となる。
【0030】
本実施の形態において、透明導電性粒子と、必要により金属キレートや表面改質剤などとを、エチレングリコールを含有する分散溶媒中に分散させてインクを調製する方法としては、従来公知の分散処理方法を使用することができる。このような分散処理方法としては、具体的には、例えば、ボールミル、サンドミル、ピコミル、ペイントコンディショナーなどのメディアを介在させた機械的処理;超音波分散機による超音波処理;ホモジナイザー、ディスパー、ジェットミルなどによる分散処理が挙げられる。
上記のようにして調製されるインクの粘度は8〜50mPa・sが好ましい。また、表面張力は20〜45mN/mが好ましい。粘度及び表面張力が上記の範囲内にない場合、吐出特性が低下する傾向がある。
【0031】
本実施の形態の透明導電膜は、上記のようにして調製されたインクをインクジェット法などにより基材上に所定のパターンで印刷し、この塗膜を加熱処理することにより形成することができる。加熱処理温度は、200〜600℃の高温とすることもできるが、本実施の形態のインクは透明導電性粒子を分散させるためにバインダを使用する必要がないことから、200℃以下の低温の加熱処理によっても、優れた導電性を有する透明導電膜を形成することができる。ただし、加熱処理の温度が低過ぎると分散溶媒が残存して導電性及び強度が低下するため、加熱処理温度は150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。加熱処理の雰囲気は、大気雰囲気に限らず、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や水素などの還元雰囲気で行ってもよい。加熱処理は、高温槽や電気炉などを用いてもよいし、基材が熱に弱い場合は、電磁波やランプを用いてもよい。また、上記加熱処理に先立って、塗膜から分散溶媒を除去するため乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理の条件は、塗膜中の分散溶媒を蒸発させることができる条件であれば特に限定されず、常温常圧で行ってもよいし、加熱あるいは減圧してもよい。
【0032】
上記のようにして形成される透明導電膜の厚さは、用途によっても異なるが、50〜2000nmが好ましく、120〜900nmがより好ましい。特に、本実施の形態のインクは高濃度で透明導電性粒子を含有する場合にも、分散安定性に優れているため、一定の厚みの透明導電膜を形成することができる。
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。なお、以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
2部のITO粒子(一次粒子の平均粒子径:30nm)と、18部のエチレングリコールとを混合し、この混合液をペイントコンディショナー(分散メディア:ジルコニアビース)で分散処理を施して、インクを調製した。
【0035】
[実施例2]
0.01部のアセチレングリコールをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0036】
[実施例3]
15部のエチレングリコールと3部の2−プロパノールとからなる分散溶媒を用い、0.01部のアセチレングリコールをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0037】
[実施例4]
6部のITO粒子と、14部のエチレングリコールとを用い、0.01部のアセチレングリコールをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0038】
[実施例5]
12部のITO粒子と、8部のエチレングリコールとを用い、0.01部のアセチレングリコールをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0039】
[実施例6]
17.5部のエチレングリコールを用い、0.5部のチタンテトラアセチルアセトナート含有溶液(チタンテトラアセチルアセトナートの量:0.3部,2−プロパノールの量:0.2部)と、0.01部のアセチレングリコールとをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0040】
[実施例7]
17部のエチレングリコールを用い、1部のチタンテトラアセチルアセトナート含有溶液(チタンテトラアセチルアセトナートの量:0.6部,2−プロパノールの量:0.4部)と、0.01部のアセチレングリコールとをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0041】
[実施例8]
16部のエチレングリコールを用い、2部のチタンテトラアセチルアセトナート含有溶液(チタンテトラアセチルアセトナートの量:1.2部,2−プロパノールの量:0.8部)と、0.01部のアセチレングリコールとをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0042】
[実施例9]
6部のITO粒子6部と、12.5部のエチレングリコールとを用い、1.5部のチタンテトラアセチルアセトナート含有溶液(チタンテトラアセチルアセトナートの量:0.9部,2−プロパノールの量:0.6部)と、0.01部のアセチレングリコールとをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0043】
[実施例10]
10部のITO粒子と、7.5部のエチレングリコールとを用い、3部のチタンテトラアセチルアセトナート含有溶液(チタンテトラアセチルアセトナートの量:1.5部,2−プロパノールの量:1.0部)と、0.01部のアセチレングリコールとをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0044】
[実施例11]
17.3部のエチレングリコールを用い、0.7部のジルコニウムモノアセチルアセトナート含有溶液(ジルコニウムモノアセチルアセトナートの量:0.3部,1−ブタノールの量:0.4部)と、0.01部のアセチレングリコールとをさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0045】
[比較例1]
14部のエチレングリコールと4部の2−プロパノールとからなる分散溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0046】
[比較例2]
14部のITO粒子と、6部のエチレングリコールとを用いた以外は、実施例1と同様に分散処理を行ったが、分散途中で増粘し、インクを調製することができなかった。
【0047】
[比較例3]
18部のγ−ブチロラクトンを分散溶媒として用いた以外は、実施例1と同様にして分散処理を行ったが、分散途中で増粘し、インクを調製することができなかった。
【0048】
[比較例4]
18部の2−プロパノールを分散溶媒として用いた以外は、実施例1と同様にして分散処理を行ったが、分散処理後直ちにITO粒子が沈降し、インクを調製することができなかった。
【0049】
[比較例5]
18部のエタノールを分散溶媒として用いた以外は、実施例1と同様にして分散処理を行ったが、分散処理後直ちにITO粒子が沈降し、インクを調製することができなかった。
【0050】
[比較例6]
18部のN−メチルピロリドンを分散溶媒として用いた以外は、実施例1と同様にして分散処理を行ったが、分散途中で増粘し、インクを調製することができなかった。
【0051】
[比較例7]
17.6部の酢酸ブチルを分散溶媒として用い、0.4部のバインダ(吸着部位として塩基性官能基を有する櫛形コポリマー)をさらに添加した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0052】
[比較例8]
0.5部のITO粒子と、19.5部のエチレングリコールとを使用した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0053】
次に、インクの増粘、及び沈降物が見られなかった実施例1〜11及び比較例1,7〜8の各インクについて以下の評価を行った。
【0054】
〔分散安定性〕
調製したインクを遠心分離機で7,000rpm、5分間処理した際に、沈降物がないものを○、沈降物がみられるものを×、と評価した。
【0055】
〔分散平均粒子径〕
粒度分布測定装置N4−PLUS(コールター社製のレーザードップラー方式の粒度分布計)を用いて、インク中の透明導電性粒子の分散平均粒子径を測定した。
【0056】
〔粘度測定〕
R100型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、コーンの回転数20rpmの条件で、インクの粘度を測定した。
【0057】
〔表面張力〕
全自動平衡式エレクトロ表面張力計ESB−V(協和科学社製)を用いて、25℃でのインクの表面張力を測定した。
【0058】
〔吐出特性〕
ソルベントインク用のインクジェットプリンタにインクを充填し、インクを吐出させ、インクを吐出できるものを○、インクを吐出できないものを×、と評価した。
【0059】
次に、実施例1〜11及び比較例1,7〜8の各インクを用いて形成した透明導電膜の特性について以下の評価を行った。なお、これらの評価には連続した透明導電膜が形成されている必要があるため、スピンコートにより平面上に透明導電膜を形成した測定試料を作製した。測定試料の作製にあたっては、調製したインクを青板ガラス基材(50mm×50mm)上にスピンコートにより成膜(回転数:2,000rpm)し、この塗膜を60℃で減圧乾燥し、さらに大気雰囲気中、200℃で30分間加熱処理した。
【0060】
〔導電性〕
抵抗率測定装置ロレスタAP MCP−T400(三菱化学社製)を用い、抵抗を測定した。
【0061】
〔透過率〕
紫外可視近赤外分光光度計V−570(日本分光社製)を用い、透過率(550nm)を測定した。青板ガラス基材の透過率を100%として、透明導電膜を形成した測定試料の透過率を評価した。
【0062】
〔膜厚〕
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、透明導電膜の断面形状観察を行ない、膜厚を測定した。
【0063】
下記の表はこれらの結果を示す。表中、インク全量に対する透明導電性粒子の含有量(質量%)、透明導電性粒子に対する金属キレートの量(モル比)、全溶媒中のエチレングリコールの含有量(質量%)、及び透明導電性粒子に対する金属キレートの量(モル比)をそれぞれ併記した。なお、表中の略号は、以下を示す。
【0064】
・ITO:スズ含有酸化インジウム
・EG:エチレングリコール
・IPA:2−プロパノール
・EtOH:エタノール
・BuOH:ブタノール
・NMP:N−メチルピロリドン
・AcB:酢酸ブチル
・BLO:γ−ブチロラクトン
・TiTAc:チタンテトラアセチルアセトナート
・ZrAc:ジルコニウムモノアセチルアセトナート
・AcG:アセチレングリコール
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】




【0067】
上記表に示すように、実施例のインクはいずれも高濃度でITO粒子を含有するが、バインダを使用していないにも拘らず、分散安定性に優れているとともに、インクジェットインクとして利用する場合の吐出特性に優れていることが分かる。これは実施例のインクがエチレングリコールを80質量%より多く含む分散溶媒を含有しているため、バインダを用いなくても透明導電性粒子が良好に分散されているためと考えられる。特に、インク中の透明導電性粒子の含有量が30質量%以上であっても、分散安定性及び吐出特性に優れたインクジェットインクが得られることが分かる。また、これら実施例のインクは、200℃の低温の加熱処理により透明導電膜を形成しても、いずれも低い抵抗を示しており、導電性に優れていることが分かる。さらに、金属キレートを含有する実施例のインクは、同条件の他の実施例に比べて導電性がさらに改善されていることが分かる。なお、金属キレートの含有量を増加していくに従って導電性が低下し、ITO粒子の含有量に対してモル比で0.1を超えると、若干導電性が低下する傾向がある。
【0068】
これに対して、分散溶媒としてエチレングリコールを含有しない比較例のインクは、分散処理後、直ちにITO粒子が沈降したり、分散途中で増粘したりしてインクジェット法に不適なインクとなった。また、エチレングリコールを含有してもその含有量が80質量%以下の場合、インクを調製することはできるが、分散安定性が不十分であることが分かる。従って、インクの調製初期においてはある程度の吐出特性を確保できるが、上記インクは長期保存が予定されるインクジェットインクとして不適である。さらに、ITO粒子に対してバインダを20質量%含有する比較例のインクは、分散安定性は確保できるが、塗膜中にバインダが残存するため導電性が低下した。なお、インク中のITO粒子の含有量が少な過ぎると、インクの分散安定性は確保できたが、導電性が低下した。また、インク中のITO粒子の含有量が多過ぎると、分散中に増粘し、インクジェット法には不適なインクとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性粒子と、エチレングリコールを含む分散溶媒とを含有する透明導電膜形成用インクであって、
前記分散溶媒の全溶媒中、前記エチレングリコールの含有量が80質量%よりも多い透明導電膜形成用インク。
【請求項2】
金属キレートをさらに含有し、
前記金属キレートの含有量が前記透明導電性粒子に対してモル比で0.01〜0.2である請求項1に記載の透明導電膜形成用インク。
【請求項3】
前記金属キレートとして、チタンアセチルアセテート系化合物、ジルコニウムアセチルアセテート系化合物、チタンアルコキシド系化合物、及びジルコニウムアルコキシド系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項2に記載の透明導電膜形成用インク。
【請求項4】
アセチレングリコール、アセチレンアルコール、及びアセチレンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種の表面改質剤をさらに含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電膜形成用インク。
【請求項5】
バインダを含有しない請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電膜形成用インク。
【請求項6】
前記透明導電性粒子を10〜60質量%、前記分散溶媒を40〜90質量%含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電膜形成用インク。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに1項に記載の透明導電膜形成用インクを用いて形成される透明導電膜。
【請求項8】
前記透明導電膜は、前記透明導電膜形成用インクを用いて形成された塗膜を200℃以下で加熱処理することにより形成される請求項7に記載の透明導電膜。

【公開番号】特開2009−224071(P2009−224071A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64801(P2008−64801)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】