説明

透明性フィルムの製造方法

【課題】 フマル酸ジエステル重合体からなる透明性、表面平滑性、厚み精度、機械強度に優れるフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 フマル酸ジエステル重合体と有機溶剤からなるポリマー溶液を支持基板上に流延し、溶剤を含む流延フィルムから溶剤を蒸発させる溶液流延法によりフィルムを製造する際に、該有機溶剤がベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、キュメン、クロロベンゼンより選ばれる1種類以上の芳香族系溶剤95重量%〜5重量%およびアセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、テトラヒドロフランより選ばれる1種類以上の非芳香族系溶剤5〜95重量%からなる混合溶剤であり、該ポリマー溶液がポリマー濃度15重量%以上50重量%以下のフマル酸ジエステル重合体溶液であり、かつ30℃で測定した際の溶液粘度が1000cP以上50000cP以下である透明性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フマル酸ジエステル重合体からなる透明性、表面平滑性、厚み精度、機械強度に優れるフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、有機EL、PDPなどに代表されるフラットパネルディスプレイは、薄型、軽量である特徴が市場ニーズにマッチし、急速に普及、あるいはその利用範囲を拡大している。これらのフラットパネルディスプレイにおいては、数々の高分子フィルムが用いられており、例えばプラスチック基板フィルム、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、光反射フィルム、電磁波遮蔽フィルム、ディスプレイ表面保護フィルムなどに利用されている。そして、これら高分子フィルムには、ディスプレイの視認性を低下させないよう、非常に高い透明性と優れた表面平滑性および厚み精度が要求されることが一般的である。
【0003】
一方、フマル酸ジエステルからなる高重合体は、1981年大津らにより見出され(例えば非特許文献1参照。)、光学レンズ、プリズムレンズ、光学ファイバー等の光学材料が提案されている(例えば特許文献1、2参照。)。また、フマル酸ジエステル重合体の単分子膜を用いた液晶ディスプレイ用の高分子配向膜基板が開示され(例えば特許文献3参照。)、フマル酸ジエステル重合体の超薄膜の製造方法についても開示され、電気素子、パターンニング、マイクロリソグラフィー、光学素子(光導波路、非線型三次素子用バインダー樹脂)等の用途が提案されている(例えば特許文献4参照。)。さらに、フマル酸ジエステル重合体からなる低誘電性高分子材料、フィルム、基板および電子部品が開示され、溶液キャスト法によるフィルムについても提案されている(例えば特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ラジカル重合ハンドブック(314頁)、株式会社エス・ティー・エス
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−028513号公報
【特許文献2】特開昭61−034007号公報
【特許文献3】特開平02−214731号公報
【特許文献4】特開平02−269130号公報
【特許文献5】特開平09−208627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フマル酸ジエステル重合体からなるフィルムを溶液流延法で工業的に生産するにはいくつかの課題があり、優れた特性を有する透明性フィルムを得ることができないのが現状であった。
【0007】
まず第1の課題は、フマル酸ジエステル重合体の有機溶剤への溶解性である。フマル酸ジエステル重合体は、溶剤への溶解性が低く、溶解する場合でもポリマー溶液が非常に高粘度となり、取り扱い性に劣るものであった。
【0008】
第2の課題は、ポリマー溶液の安定性である。フマル酸ジエステル重合体からなるポリマー溶液は、時間の経過とともにポリマー溶液の粘度が上昇し、最終的にゼリー状になったり、ポリマー溶液が白濁したりする場合が多い。ポリマー溶液の粘度は所望するフィルムの厚み、溶媒の乾燥時間等を考慮して調整されるものであり、ポリマー溶液の粘度が安定しない場合、ポリマー溶液作成後の時間経過に伴い、フィルムの厚みが変化する等の問題が発生する。また、ポリマー溶液の一部あるいは全体がゼリー状に固化した場合、フィルムの表面平滑性が悪化するばかりか、成膜自体ができなくなる場合もある。さらに経時的な変化によりポリマー溶液が白濁するなどの問題があり、このような場合には得られるフィルムが白濁するといった課題が発生した。
【0009】
第3の課題は、成膜条件に依存した機械強度の変化である。溶液流延法でフィルムを製造する場合、溶剤を速やかに蒸発させるために加熱乾燥させるのが一般的であるが、フマル酸ジエステル重合体の場合においては、加熱乾燥条件によって得られるフィルムの機械強度が変化するという課題があった。
【0010】
そこで、本発明は、優れた透明性、良好な表面平滑性、厚み精度、実用的な機械強度を有する透明性フィルムの工業的な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、フマル酸ジエステル重合体と有機溶剤からなるポリマー溶液を支持基板上に流延し、溶剤を含む流延フィルムから溶剤を蒸発させる溶液流延法によりフィルムを製造する際に、特定の混合溶剤を用い、ポリマー溶液のポリマー濃度を特定の範囲とし、その溶液粘度をも特定の範囲内とすることにより、上記課題が解決し、優れた透明性、良好な表面平滑性、厚み精度、実用的な機械強度を有する透明性フィルムを製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、フマル酸ジエステル重合体と有機溶剤からなるポリマー溶液を支持基板上に流延し、溶剤を含む流延フィルムから溶剤を蒸発させる溶液流延法によりフィルムを製造する際に、該有機溶剤がベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、キュメン、クロロベンゼンより選ばれる1種類以上の芳香族系溶剤95重量%〜5重量%およびアセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、テトラヒドロフランより選ばれる1種類以上の非芳香族系溶剤5〜95重量%からなる混合溶剤であり、該ポリマー溶液がポリマー濃度15重量%以上50重量%以下のフマル酸ジエステル重合体溶液であり、かつ30℃で測定した際の溶液粘度が1000cP以上50000cP以下であることを特徴とする透明性フィルムの製造方法に関するものである。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いられるフマル酸ジエステル重合体は、フマル酸ジエステル重合体の範疇に属する限り如何なる重合体を用いることも可能であり、その中でも特に透明性、機械強度に優れるフィルムを得ることが可能となることから、下記の一般式(1)に示されるフマル酸ジエステル残基単位50モル%以上、好ましくは80モル%以上、特に耐熱性及び機械特性に優れたフィルムとなることから90モル%以上であることが好ましい。
【0015】
【化1】

(1)
(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐アルキル基又は環状アルキル基である。)
ここで、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐アルキル基又は環状アルキル基であり、これらはフッ素,塩素などのハロゲン基、エーテル基、エステル基若しくはアミノ基で置換されていても良く、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、特に耐熱性にも優れたものとなることからイソプロピル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、さらに耐熱性、機械特性、透明性のバランスに優れたフィルムとなることからイソプロピル基が好ましい。
【0016】
一般式(1)で示されるフマル酸ジエステル残基単位としては、具体的にはフマル酸ジメチル残基、フマル酸ジエチル残基、フマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ−s−ブチル残基、フマル酸ジ−t−ブチル残基、フマル酸ジ−s−ペンチル残基、フマル酸ジ−t−ペンチル残基、フマル酸ジ−s−ヘキシル残基、フマル酸ジ−t−ヘキシル残基、フマル酸ジシクロプロピル残基、フマル酸ジシクロペンチル残基、フマル酸ジシクロヘキシル残基等が挙げられ、フマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ−t−ブチル残基、フマル酸ジシクロペンチル残基、フマル酸ジシクロヘキシル残基が好ましく、特に耐熱性、機械特性、透明性のバランスに優れたものとなることからフマル酸ジイソプロピル残基が好ましい。
【0017】
また、該フマル酸ジエステル重合体は、フマル酸ジエステル類とその他の単量体との共重合体であってもよく、フマル酸ジエステル類と共重合可能な単量体の残基単位としては、例えばスチレン残基、α−メチルスチレン残基等のスチレン類残基;アクリル酸残基;アクリル酸メチル残基、アクリル酸エチル残基、アクリル酸ブチル残基等のアクリル酸エステル類残基;メタクリル酸残基;メタクリル酸メチル残基、メタクリル酸エチル残基、メタクリル酸ブチル残基等のメタクリル酸エステル類残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基等のビニルエステル類残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;エチレン残基、プロピレン残基等のオレフィン類残基;N−メチルマレイミド残基、N−シクロヘキシルマレイミド残基等のN−置換マレイミド残基より選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0018】
そして、得られる透明性フィルムが光架橋性フィルムとなることから共重合可能な単量体の残基単位としては、下記の一般式(2)で表されるオキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基、下記の一般式(3)で表されるテトラヒドロフルフリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基であることが好ましい。
【0019】
【化2】

(2)
(ここで、Rは水素、メチル基であり、Rは水素、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基である。n=1または2を示す。)
【0020】
【化3】

(3)
(ここで、Rは水素、メチル基であり、Rは水素、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基を示す。)
ここで一般式(2)のRは水素、メチル基であり、Rは水素、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基であり、nは1または2である。Rにおける炭素数1〜4の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基等が挙げられ、炭素数1〜4の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。そして、具体的な一般式(2)で表されるオキセタニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基としては、(メタ)アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル残基が挙げられる。
【0021】
また、一般式(3)のRは水素、メチル基であり、Rは水素、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基である。Rにおける炭素数1〜4の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、炭素数1〜4の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。そして、具体的な一般式(3)で表されるテトラヒドロフルフリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル残基としては、例えばアクリル酸テトラヒドロフルフリル残基、アクリル酸2−メチルテトラヒドロフルフリル残基、アクリル酸2−エチルテトラヒドロフルフリル残基が挙げられる。
【0022】
本発明に用いられるフマル酸ジエステル重合体は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が30000以上200000以下であることが好ましく、特に機械特性に優れ、成膜時の成形加工性に優れたものとなることから40000以上100000以下であることが好ましい。
【0023】
本発明に用いられるフマル酸ジエステル重合体は、フマル酸ジエステル類のラジカル重合により製造することが出来る。重合は公知の重合方法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれもが採用可能である。
【0024】
本発明に用いられる有機溶剤は、芳香族系溶剤95重量%〜5重量%および非芳香族系溶剤5〜95重量%からなる混合溶剤であり、好ましくは芳香族系溶剤85重量%〜15重量%及び非芳香族系溶剤15重量%〜85重量%、特に芳香族系溶剤75重量%〜25重量%及び非芳香族系溶剤25重量%〜75重量%、更に芳香族系溶剤60重量%〜40重量%及び非芳香族系溶剤40重量%〜60重量%からなるものが好ましい。ここで、芳香族系溶剤が95重量%以上である場合、フィルム製造時の溶剤の抜けが悪くなりフィルムに溶剤が残存する、高温をかけると発泡するなどの問題が発生し品質に優れる透明性フィルムを得ることができない。また、芳香族系溶剤が5重量%以下である場合、ポリマー溶液作成後の時間経過に伴い溶液粘度が上昇する、ポリマー溶液の一部あるいは全体がゼリー状に固化する、ポリマー溶液が白濁するなどの問題があり、このようなポリマー溶液を用いて成膜すると、フィルムの表面平滑性が悪化するばかりか、フィルムが白濁し品質に優れる透明性フィルムを得ることができない。
【0025】
該芳香族系溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、キュメン、クロロベンゼン等が挙げられ、その中でもフマル酸ジエステル重合体の溶解性に優れ、フィルム成膜時の乾燥性にも適していることからトルエン及び/又はキシレンが好ましい。
【0026】
該非芳香族系溶剤としては、表面性、厚み精度に優れる透明性フィルムを製造することが可能となることから沸点が90℃以下の溶剤が好ましく、更に80℃以下の溶剤が好ましい。該非芳香族系溶剤としては、例えばケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、炭化水素系溶剤、ハロゲン系溶剤が挙げられ、その中でもフマル酸ジエステル重合体の溶解性、フィルム成膜時の乾燥性に優れることからケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤が好ましい。ケトン系溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン等が挙げられ、特にポリマー溶液の安定性、フィルム成膜時の乾燥性に優れることからアセトン、メチルエチルケトンが好ましい。エステル系溶剤としては、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等が挙げられ、特にポリマー溶液の安定性、フィルム成膜時の乾燥性に優れることから酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルが好ましい。エーテル系溶剤としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン等が挙げられ、特にポリマー溶液の安定性、フィルム成膜時の乾燥性に優れることからテトラヒドロフランが好ましい。これら非芳香族系溶剤は、2種類以上組み合わせて用いることも出来る。
【0027】
本発明において支持基板上に流延されるポリマー溶液は、15重量%以上50重量%以下のフマル酸ジエステル重合体を溶解したフマル酸ジエステル重合体溶液である。ポリマー溶液のポリマー濃度が50重量%を越える場合、フマル酸ジエステル重合体の混合溶剤への溶解性が低下するとともに、ポリマー溶液の貯蔵安定性が低下し品質に優れるフィルムを製造することができない。一方、ポリマー濃度が15重量%に満たない場合、得られるフィルムは、厚み精度、表面平滑性に劣ったものとなり品質に優れるフィルムを製造することができない。また、該ポリマー溶液は、30℃で測定した溶液粘度が1000cP以上50000cP以下のものであり、好ましくは3000cP以上10000cP以下である。ここで、ポリマー溶液の溶液粘度が1000cP未満の場合、得られるフィルムは、厚み精度、表面平滑性に劣ったものとなり品質に優れるフィルムを製造することができない。一方、50000cPを越える場合、得られるフィルムは、表面平滑性に劣るものとなる。なお、溶液粘度については、例えばスピンドルタイプ粘度計を用いることにより測定することが可能である。
【0028】
本発明における溶液流延法としては、一般的に溶液流延法として知られている方法を採用することができ、例えばポリマー溶液をベルト状の支持基板上に流延した後、溶剤を蒸発・乾燥させてフィルムを得るベルト流延法又はポリマー溶液をドラム状の支持基板上に流延した後、溶剤を蒸発・乾燥させてフィルムを得るドラム流延法等を挙げることができる。この際にポリマー溶液を支持基板上に流延する方法としては、例えばTダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法等が挙げられる。また、支持基板としては、例えばガラス基板、ステンレスやフェロタイプ等の金属基板、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチックフィルム基板などが挙げられる。
【0029】
また、支持基板上に流延したポリマー溶液(以下、流延フィルムという。)から溶剤を蒸発・乾燥する方法としては、室温で自然乾燥する方法、加熱により強制的に蒸発・乾燥する方法、等を挙げることができ、特に乾燥時間の短縮化が可能となり生産性に優れた透明フィルムの製造方法となることから、加熱により蒸発・乾燥を行う方法が好ましい。そして、フマル酸ジエステル重合体よりなる透明性フィルムの機械強度はフィルム化の際の乾燥条件に大きく影響されるものであり、特に機械強度に優れる透明性フィルムを製造することが可能となることから、溶剤を含む流延フィルムから溶剤を蒸発させる乾燥工程において、溶剤含有量12重量%のフィルムとする際の所要時間が10分以上60分以下、好ましくは12分以上30分以下、特に好ましくは14分以上20分以下という乾燥条件で乾燥を行うことが好ましい。なお、溶剤含有量12重量%に達した後の乾燥条件は、透明性フィルムの機械強度に影響をおよぼすことなく、これ以降の乾燥条件としては自然乾燥・強制乾燥等を任意に選択すればよい。
【0030】
本発明により製造される透明性フィルムの厚みは、任意であり、その中でも生産効率よく透明性、機械強度に優れるフィルムが得られることから10〜500μmであることが好ましく、特に50〜200μmであることが好ましい。
【0031】
また、本発明により製造される透明性フィルムは、その他ポリマー、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、染料、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤、可塑剤等が加えられていてもよく、これは、ポリマー溶液に配合することも可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明における透明性フィルムの製造方法により、フラットパネルディスプレイ用透明性フィルム、例えば、偏光子保護フィルム、視野角補償フィルム、透明電極フィルム、光拡散フィルム、光反射フィルム、電磁波遮蔽フィルム、ディスプレイ表面保護フィルム、プラスチック基板用フィルムに利用される透明性フィルムを工業的に製造することが可能となる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例に示す諸物性は、以下の方法により測定した。
【0035】
〜数平均分子量〜
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー製、商品名C0−8011(カラム;(商品名)GMHHR−Hを装着))を用い、クロロホルムを溶媒として、40℃で測定した溶出曲線より標準ポリスチレン換算として算出して求めた。
【0036】
〜フマル酸ジエステル共重合体の組成〜
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(H−NMR)スペクトル分析より求めた。
【0037】
〜ポリマー溶液粘度〜
スピンドルタイプ粘度計(東機産業製、商品名TV−20)を用い、30℃で測定した。
【0038】
〜透明性の評価方法〜
ヘーズメーター(日本電色工業製、商品名NDH2000)を用いヘーズを測定し、透明性の指標とした。
【0039】
〜フィルム中の溶剤含有率〜
溶剤を含有するフィルムを200℃で10分間乾燥し、当該処理での重量減少量から、下記式に従い溶剤含有率を算出した。
200℃10分間乾燥した後の減少重量(g)/処理前フィルム重量(g)×100
〜フィルムの破断伸度〜
ASTM D882に従い、引張試験機(東洋ボールドウィン製、商品名UTM−2.5T)を用い、破断伸度を測定した。
【0040】
合成例1(フマル酸ジエステル共重合体の合成)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた50リットルオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)40g、蒸留水26000g、フマル酸ジイソプロピル13750g、アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル250gおよび重合開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート80gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、200rpmで攪拌しながら50℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。その後、室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液を遠心分離した。得られたポリマー粒子を蒸留水で2回およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:81%)。
【0041】
得られたフマル酸ジイソプロピル共重合体は、数平均分子量50000であった。H−NMR測定により、フマル酸ジイソプロピル残基単位/アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル残基単位=97/3(モル%)であるフマル酸ジイソプロピル共重合体であることを確認した。
【0042】
実施例1
トルエン39.5gとメチルエチルケトン39.5gからなる混合溶剤に、合成例1により得られたフマル酸ジエステル共重合体21g、フェノール系酸化防止剤0.07g(旭電化製、商品名AO−60)、リン系酸化防止剤(旭電化製、商品名PEP−36)0.22gを溶解しポリマー溶液を得た。溶解直後のポリマー溶液の溶液粘度は4300cPであり、3日後の溶液粘度は4400cPとほぼ一定であり、ポリマー溶液は安定していた。
【0043】
溶解3日後のポリマー溶液を、ギャップ1.1mmのバーコーターにてポリエチレンテレフタレート基板の上に溶液流延法にて塗布して、室温で一晩乾燥した。その後、ポリエチレンテレフタレート基板からフマル酸ジエステル共重合体フィルムを剥離して、減圧下、100℃、1時間乾燥することにより透明性フィルムを得た。得られた透明性フィルムはヘーズ0.5であり、表面性は良好なものであった。
【0044】
実施例2
トルエン39.5gとメチルエチルケトン39.5gからなる混合溶剤の代わりに、トルエン19.75gとメチルエチルケトン59.25gからなる混合溶剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリマー溶液および透明性フィルムを得た。
【0045】
溶解直後のポリマー溶液の溶液粘度は4500cPであり、3日後の溶液粘度は4700cPとほぼ一定であり、ポリマー溶液は安定していた。また、透明性フィルムはヘーズ0.5であり、表面性は良好なものであった。
【0046】
実施例3
トルエン39.5gとメチルエチルケトン39.5gからなる混合溶剤の代わりに、トルエン39.5gとアセトン39.5gからなる混合溶剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリマー溶液および透明性フィルムを得た。
【0047】
溶解直後のポリマー溶液の溶液粘度は4800cPであり、3日後の溶液粘度は4900cPとほぼ一定であり、ポリマー溶液は安定していた。また、透明性フィルムはヘーズ0.5であり、表面性は良好なものであった。
【0048】
実施例4
トルエン39.5gとメチルエチルケトン39.5gからなる混合溶剤の代わりに、トルエン39.5gと酢酸エチル39.5gの混合溶剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリマー溶液および透明性フィルムを得た。
【0049】
溶解直後のポリマー溶液の溶液粘度は5000cPであり、3日後の溶液粘度は5200cPとほぼ一定であり、ポリマー溶液は安定していた。また、透明性フィルムはヘーズ0.5であり、表面性は良好なものであった。
【0050】
実施例5
トルエン39.5gとメチルエチルケトン39.5gからなる混合溶剤の代わりに、キシレン39.5gとメチルエチルケトン39.5gの混合溶剤を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリマー溶液および透明性フィルムを得た。
【0051】
溶解直後のポリマー溶液の溶液粘度は5500cPであり、3日後の溶液粘度は5800cPとほぼ一定であり、ポリマー溶液は安定していた。また、透明性フィルムはヘーズ0.5であり、表面性は良好なものであった。
【0052】
比較例1
トルエン39.5gとメチルエチルケトン39.5gからなる混合溶剤の代わりに、溶剤としてメチルエチルケトン79gを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリマー溶液およびフィルムを得た。
【0053】
溶解直後のポリマー溶液の溶液粘度は90000cPであり、3日後の溶液粘度は1000000cP以上であり、ポリマー溶液は白濁した。また、フィルムは、ヘーズ5.8であり、表面平滑性、厚み精度に劣るものであった。
【0054】
比較例2
トルエン39.5gとメチルエチルケトン39.5gからなる混合溶剤の代わりに、溶剤として酢酸エチル79gを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリマー溶液を得た。
【0055】
溶解直後のポリマー溶液の溶液粘度は1000000cP以上であり、3日後は白濁したゼリー状となった。また、成膜は実施できず、フィルムを得ることは出来なかった。
【0056】
比較例3
トルエン39.5gとメチルエチルケトン39.5gからなる混合溶剤の代わりに、溶剤としてアセトン79gを用いた以外は、実施例1と同じ方法でポリマー溶液を得た。
【0057】
溶解直後のポリマー溶液の溶液粘度は1000000cP以上であり、3日後は白濁したゼリー状となった。また、成膜は実施できず、フィルムを得ることはできなかった。
【0058】
比較例4
トルエン79gに、合成例1により得られたフマル酸ジエステル共重合体21g、フェノール系酸化防止剤0.07g(旭電化製、商品名AO−60)、リン系酸化防止剤(旭電化製、商品名PEP−36)0.22gを溶解しポリマー溶液を得た。溶解直後のポリマー溶液の溶液粘度は5000cPであり、3日後の溶液粘度は5200cPとほぼ一定であり、ポリマー溶液は安定していた。
【0059】
溶解3日後のポリマー溶液を、ギャップ1.1mmのバーコーターにてポリエチレンテレフタレート基板の上に溶液流延法にて塗布して、室温で一晩乾燥したが、トルエンが残存しており流延フィルムをポリエチレンテレフタレート基板より剥離することができなかった。そこで、再度90℃で加熱・乾燥を行った後、ポリエチレンテレフタレート基板からフマル酸ジエステル共重合体フィルムを剥離して、減圧下、100℃、1時間乾燥することによりフィルムを得た。フィルムは、ヘーズ0.5であったが、成膜の際に発泡が生じ表面平滑性、厚み精度に劣るものであった。
【0060】
比較例5
トルエン39.5gとメチルエチルケトン39.5gからなる混合溶剤の代わりに、溶剤としてキシレン79gを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリマー溶液、フィルムを得た。
【0061】
溶解直後および3日後ともにポリマー溶液の溶液粘度は1000000cP以上であった。また、フィルムは、ヘーズ1.2であり、表面平滑性、厚み精度に劣るものであった。
【0062】
【表1】

実施例6
乾燥条件を4つに設定できる連続式ドライラミネーターにて、第1乾燥室50℃、第2乾燥室50℃、第3乾燥室60℃、第4乾燥室70℃と設定し、実施例1により得られたポリマー溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延して溶液流延法によりロールフィルムを作成した。その際、ロールフィルムの溶剤含有量が12重量%となるまでの所要時間は17分間であった。その後、該ロールフィルムを更に120℃で50分乾燥することにより透明性フィルムを得た。
【0063】
得られた透明性フィルムは、表面平滑性、厚み精度に優れるものであり、破断伸度も高いものであった。
【0064】
実施例7〜9
第1乾燥室、第2乾燥室、第3乾燥室、第4乾燥室のそれぞれの温度設定条件及びロールフィルムの溶剤含有量が12重量%となるまでの所要時間を表2に示す条件とした以外は、実施例6と同様の方法により透明性フィルムを得た。
【0065】
得られた透明性フィルムは、表面平滑性、厚み精度に優れるものであり、破断伸度も高いものであった。
【0066】
実施例10〜11
第1乾燥室、第2乾燥室、第3乾燥室、第4乾燥室のそれぞれの温度設定条件及びロールフィルムの溶剤含有量が12重量%となるまでの所要時間を表2に示す条件とした以外は、実施例6と同様の方法により透明性フィルムを得た。
【0067】
得られた透明性フィルムは、表面平滑性、厚み精度に優れるものであった。
【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ジエステル重合体と有機溶剤からなるポリマー溶液を支持基板上に流延し、溶剤を含む流延フィルムから溶剤を蒸発させる溶液流延法によりフィルムを製造する際に、該有機溶剤がベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、キュメン、クロロベンゼンより選ばれる1種類以上の芳香族系溶剤95重量%〜5重量%およびアセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、テトラヒドロフランより選ばれる1種類以上の非芳香族系溶剤5〜95重量%からなる混合溶剤であり、該ポリマー溶液がポリマー濃度15重量%以上50重量%以下のフマル酸ジエステル重合体溶液であり、かつ30℃で測定した際の溶液粘度が1000cP以上50000cP以下であることを特徴とする透明性フィルムの製造方法。
【請求項2】
溶剤を含む流延フィルムから溶剤を蒸発させる際に、溶剤含有量12重量%のフィルムとする所要時間が10分以上60分以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明性フィルムの製造方法。
【請求項3】
フマル酸ジエステル重合体が、下記の一般式(1)に示されるフマル酸ジエステル残基単位50モル%以上からなる重合体であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の透明性フィルムの製造方法。
【化1】

(1)
(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12の分岐アルキル基又は環状アルキル基である。)
【請求項4】
溶液流延法が、ドラム流延法またはベルト流延法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−66589(P2012−66589A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241065(P2011−241065)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【分割の表示】特願2005−234011(P2005−234011)の分割
【原出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】