説明

透明電極の製造方法および有機電子デバイス

【課題】高温雰囲気での保存性に優れ、有機電子デバイスの寿命を高める透明電極の製造方法を提供する。
【解決手段】透明電極の製造方法は、透明基板上に、金属細線を形成する工程と、前記透明基板および前記金属細線上に、少なくとも導電性ポリマーと一定の構造単位を有する水溶性バインダーとを含有する透明導電層を形成する工程と、前記金属細線および前記透明導電層を形成した前記透明基板を、温度が50℃以上90℃以下で時間が72時間以上720時間以下の条件で、加熱処理する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電子デバイスに用いられる透明電極の製造方法に関し、その製造方法に従って製造された透明電極を用いた有機電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機ELデバイス)や有機太陽電池といった有機電子デバイスが注目されており、このような有機電子デバイスにおいて、透明電極は必須の構成技術となっている。
【0003】
従来、透明電極は、透明基板上にインジウム−スズの複合酸化物(ITO)膜を真空蒸着法やスパッタリング法で製膜したITO透明電極が、その導電性や透明性といった性能の点から、主に使用されてきた。
しかし、真空蒸着法やスパッタリング法を用いた透明電極は生産性が悪いため製造コストが高いという問題があった。
さらに、近年、有機電子デバイスには、大面積化が要求されており、ITO透明電極の抵抗値では不十分となってきている。
【0004】
このような大面積かつ低抵抗値が要求される製品にも対応できるよう、パターン状に形成された金属細線に導電性ポリマー等の透明導電層を積層し、電流の面均一性と高い導電性を併せ持つ透明電極が開発されている(特許文献1、2)。
しかしながら、このような構成では、有機電子デバイスの電流リークの原因となる金属細線の凹凸を、導電性ポリマー等の透明導電層でなだらかにする必要があり、導電性ポリマーの厚膜化が必須となる。導電性ポリマーは可視光領域に吸収を有するため、厚膜化すると、透明電極の透明性が著しく低下してしまうという課題を有していた。
【0005】
また、導電性と透明性を両立するように、金属細線部上へ導電性ポリマーと絶縁性ポリマーとの混合物を積層する技術が開示されている(特許文献3)。
しかし、絶縁性ポリマーの添加は導電率の低下や導電性ポリマーへの相溶性の観点からヘイズ等の光学性能の劣化を引き起こすという課題を有していた。
【0006】
更に、導電性ポリマーと相溶する高分子として、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(ビニルピリジン)とポリ(酢酸ビニル)とのコポリマー(PVPy‐VAc)、ポリメタクリル酸(PMAA)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)とポリ(メタクリル酸)とのコポリマー(PHEA‐MAA)、ポリ(2‐ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリビニルブチラール(PVB)とからなる群から選択されたポリマー又はコポリマーが開示されている(特許文献4)。
しかし、これらのポリマーを用いた場合、膜強度不足のため、蒸着やスピンコートによる積層を行なった場合、膜表面が乱れ、有機電子デバイスを製造すると電流リークが発生するという課題を有していた。
【0007】
そこで導電性と透明性を両立しかつ膜強度を付与する手段として、導電性ポリマーにPHEA等のヒドロキシアルキル基含有アクリル系ポリマーを用いる方法が開示されている(特許文献5)。
しかしながら、ヒドロキシアルキル基含有アクリル系ポリマーを用いた場合においても、有機電子デバイスの高温保存性(高温で長時間保存した場合に輝度の低下をどの程度抑制できるかどうかの特性)や発光寿命(連続発光させた場合に輝度の低下をどの程度抑制できるかの特性)という課題については、ITO透明電極に対して特に有利とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−302508号公報
【特許文献2】特開2009−87843号公報
【特許文献3】特開2009−4348号公報
【特許文献4】特許第3716167号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2010/255323号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の主な目的は、透明性,導電性に優れ、特に有機電子デバイスに用いた際、高温雰囲気での保存性に優れ、有機電子デバイスの寿命を高める透明電極の製造方法およびその製造方法に従って製造された透明電極を用いた有機電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について詳細に検討してみたところ、下記のようなプロセスを経て、本発明を考案するに至った。
すなわち、大面積(10cm×10cm以上)の有機電子デバイスに好適に対応可能な透明電極を提供する場合、面抵抗を低下させるために、パターン状に形成された金属材料からなる金属細線を電極として用いることが有効だが、薄膜の有機機能層を有する有機電子デバイスでは、金属細線のエッジや、表面の平滑性不足により電流リークが発生とする、という課題がある。電流リークを防止するためと電流の面内均一性をえるために、導電性ポリマーを含有する透明導電層で、金属細線のパターンを覆う事が有効である。しかし、電流リークを十分に防止するためには、透明導電層を厚膜化する必要があり、透明性が低下するという問題が生じる。
【0011】
このような問題に対し、透明導電層の導電性ポリマーに、繰り返し単位中に水酸基(OH)を有する構造単位を含む水溶性バインダーを加えて可視域濃度を低下させることで、透明度の低下を抑えることが可能であることに加えて、シート抵抗の上昇を防ぐ事ができることが知られている。
ただし、水溶性バインダーを透明導電層の水溶性バインダーとして使用した場合、有機電子デバイスの高温雰囲気での保存性、例えば80℃での保存性を確保するため、透明導電層を塗布形成した後に100℃以上の高温で熱処理を行う事が必要と考えられてきた。
しかし、このような高温での熱処理は有機電子デバイスの寿命に悪影響を与えると考えられる。これはバインダーや導電性ポリマーの一部が分解され、低分子成分が生成したためと推定している。
このような課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討を行った結果、透明電極を、温度が50℃以上90℃以下で時間が72時間以上720時間の条件で加熱処理を行う事により、有機電子デバイスの高温雰囲気での保存性を確保しつつ、有機電子デバイスの発光寿命を大幅に改善できることを見出し、本発明に至った。
さらに、高温の熱処理を不要にすることができるため、樹脂基板、特に安価なポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などからなる樹脂フィルムを用いることが可能になった。
【0012】
以上の観点から、本発明の一態様として、
透明基板上に、金属細線を形成する工程と、
前記透明基板および前記金属細線上に、少なくとも導電性ポリマーと一般式(I)で表される構造単位を有する水溶性バインダーとを含有する透明導電層を形成する工程と、
前記金属細線および前記透明導電層を形成した前記透明基板を、温度が50℃以上90℃以下で時間が72時間以上720時間以下の条件で、加熱処理する工程と、
を備えることを特徴とする透明電極の製造方法が提供される。
【0013】
【化1】

【0014】
式(I)中、「R」は水素原子、メチル基を表し、「Q」は−C(=O)O−、−C(=O)NRa−を表す。「Ra」は水素原子、アルキル基またはNと共にモルホリン基を形成するための原子団を表し、「A」は置換或いは無置換アルキレン基、−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表し、「Rb」は水素原子、アルキル基を表し、「x」は平均繰り返しユニット数で1〜100の数である。
【0015】
本発明の他の態様によれば、
上記製造方法により製造された透明電極と、
前記透明電極に対向配置された第2電極と、
前記透明電極と前記第2電極との間に設けられた有機機能層と、
を備えることを特徴とする有機電子デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温雰囲気での保存性を向上させ、有機電子デバイスの寿命を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】テーパ角を概略的に説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0019】
[有機電子デバイス]
本発明の有機電子デバイスは、本発明の透明電極を用いた第1透明電極とこれに対向配置された第2電極とを有し、第1透明電極と第2電極との電極間に少なくとも1層の有機機能層が設けられた構成を有している。
有機機能層としては、有機発光層、有機光電変換層、液晶ポリマー層などを特に限定無く挙げることができるが、本発明は、有機機能層が薄膜でかつ電流駆動系のデバイスである有機発光層、有機光電変換層である場合において、特に有効である。
有機機能層は、発光層や有機光電変換層に加えて、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、正孔阻止層、電子阻止層などの発光層と併用して発光を制御する層を有しても良い。本発明では、導電性ポリマーを有する透明導電層は正孔注入層を兼ねることも可能だが、正孔の移動のしやすさの観点から、独立に正孔注入層をもうけ、透明導電層と隣接することが好ましい。
【0020】
[有機ELデバイス]
有機機能層が発光層である有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELと略す)デバイスについて説明する。
有機機能層が発光層である構成例を以下に示す。
本発明はこれらに限定されないが、上述の通り特に(v)の構成のデバイスが好ましい。
(i)(本発明の透明電極)/発光層/電子輸送層/(第2電極)
(ii)(本発明の透明電極)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/(第2電極)
(iii)(本発明の透明電極)/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/(第2電極)
(iv)(本発明の透明電極)/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/(第2電極)
(v)(本発明の透明電極)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/(第2電極)
【0021】
[透明電極]
透明電極は有機電子デバイスの1要素を構成する部材である。
透明電極は主に透明基板、金属細線および透明導電層から構成され、はじめに透明基板上に金属細線が形成され、その後に透明基板および金属細線上に透明導電層が形成される。
下記では、先に透明電極の構成について説明し、その後に有機電子デバイスの有機発光層と第2電極との各構成について説明する。
【0022】
[透明基板]
透明基板における「透明」とは、JIS K 7361−1:1997(プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法)に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率が70%以上であることをいう。
【0023】
本発明に係る透明基板の材料としては、透明な材料であれば特に制限なく、有機電子デバイスなどに用いられ公知のものを使用することができる。
【0024】
本発明では、例えば、樹脂基板、ガラス基板などを用いることができるが、硬度、軽量性、柔軟性、ロールツーロールによる連続生産適性、コストなどの観点から、樹脂フィルムまたは可撓性を有する薄膜ガラスが用いることが好ましい。このような可撓性に優れた基板を用いると、折り曲げ可能な有機電子デバイスが作製できる。
本発明では、特に、有機電子デバイスの折り曲げによる、発光均一性などのデバイス性能の劣化を防止できることから、基板は樹脂フィルムであることがより好ましい。
有機電子デバイスの折り曲げによる劣化の一因として、基板と透明導電層の界面の剥離による有機機能層へのダメージが考えられる。基板に樹脂フィルムを用い、透明電極を、温度が50℃以上90℃以下で時間が72時間以上720時間の条件で、加熱処理すると、基板と透明導電層の密着性が良くなり、折り曲げによる界面の剥離が起きにくくなったと考えられ、折り曲げによるデバイス性能劣化を防止できる。
【0025】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができる。中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
樹脂フィルムを用いる場合、その厚さとしては、1〜1000μmが好ましく、さらに10〜100μmであることが好ましい。
【0026】
薄膜ガラスとしては、例えば、厚さが120μm以下の薄膜ガラスを挙げることができ、より好ましくは、厚さが30μm〜100μmの薄膜ガラスが挙げられる。
可撓性を有するとはガラス基板に傷や欠陥が無い状態で、曲率半径100mmの曲げが可能な場合をいう。
これらのガラスの製造方法や種類に特に制限は無いが、一般に有機電子デバイスに好ましく用いられる無アルカリガラスが好ましく用いられる。
薄膜ガラスは、水や酸素に対するバリア能を有し、水や酸素による性能劣化の影響を受けやすい有機電子デバイスに適用する場合には、透明基板として好ましく用いることができる。
【0027】
透明基板には、基板と透明導電層との接着性を良好にするために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。
表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。
例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。
易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。
【0028】
透明基板が樹脂基板または樹脂フィルムの場合には必要に応じてバリアコート層が予め形成されていてもよいし、ハードコート層が予め形成されていてもよい。
バリアコート層としては表面または裏面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m・24h)以下のバリア性を持つ透明基板であることが好ましく、さらには、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10−3ml/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m・24h)以下であることが好ましい。
バリア層を形成する材料としては、水分や酸素等デバイスの劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。
さらに該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0029】
[金属細線]
本発明に係る金属細線は、金属材料を含有する層であり、透明基板上に開口部を有するようにパターン状に形成された層である。
開口部とは、透明基板のうち、金属細線を有さない部分であり金属パターンの透光性部分である。
パターンの形状には特に制限はない。
パターンの形状は、例えば、ストライプ状(平行線状)、格子状、ハニカム状、ランダムな網目状であってもよく、特にストライプ状、格子状、ハニカム状であることが好ましい。
透明電極において、面電極全体の面に対して、開口部が占める割合、即ち開口率は透明性の観点から80%以上であることが好ましい。
例えば、導電部がストライプ状であるとき、線幅100μm、線間隔1mmのストライプ状パターンの開口率は、およそ90%である。
パターンの線幅は、好ましくは10〜200μmであり、さらに好ましくは10〜100μmの範囲である。細線の線幅が10μm以上で、所望の導電性が得られ、また、200μm以下とすることで透明性が向上する。
ストライプ状、格子状のパターンにおいて細線の間隔は、0.5〜4mmが好ましい。
ハニカム状のパターンにおいては、細線の間隔(一辺の長さ)が0.5〜4mmが好ましい。
細線の高さ(厚さ)は、0.1〜5.0μmが好ましく、0.1〜2.0μmがより好ましい。細線の高さが0.1μm以上で所望の導電性が得られ、また5.0μm以下とすることで有機電子デバイスに用いた際、電流リークが抑制され、上層に積層される透明導電層の膜厚分布を均一にすることができる。
また、特に細線の高さ(厚さ)を0.1〜2.0μmとしたとき、折り曲げによる有機電子デバイスの性能劣化を抑制できることからより好ましい。
有機電子デバイスの折り曲げによる劣化には、前述の基板と透明導電層の剥離の他、細線の高さや透明導電層の膜厚分布も影響すると考えられる。細線の高さが高すぎると折り曲げの際、金属細線にクラックが生じ、透明導電層を突き破り、有機電子デバイスの性能を劣化させる。また、透明導電層の膜厚分布が不均一だと、膜厚が薄くなった部分に応力が集中するため、その部分が有機電子デバイスの劣化の原因となる。
【0030】
ストライプ状、格子状、ハニカム状の金属細線の形成方法としては、特に制限はなく、従来公知な方法が利用できる。
金属細線の形成方法としては、例えば、フォトリソ法、銀塩写真技術、印刷法を応用した方法などを利用でき、特に、有機電子デバイスに用いた際の折り曲げによる有機電子デバイスの性能劣化が少ないため印刷法を利用するのがより好ましい。これは印刷法で形成した金属細線が、フォトリソ法や銀塩写真技術を応用した方法で形成した金属細線と比較してテーパ角が小さく、金属細線上の透明導電層に膜厚分布が生じにくいためと考えられる。
図1に示すとおり、テーパ角1とは、透明基板2と金属細線3の縁部とで構成される内角を意味する。テーパ角1は透明基板2と金属細線3とを断面で切断し、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することで測定することができる。
【0031】
公知のフォトリソ法とは、具体的には、基材上に全面に、印刷、蒸着、スパッタ、めっき等の1あるいは2以上の物理的または化学的形成手法を用いて導電体層を形成する、あるいは、金属箔を接着剤で基材に積層した後、公知のフォトリソ法を用いて、エッチングすることにより、所望のストライプ状、格子状、ハニカム状に加工できる。
銀塩写真技術を応用した方法については、例えば、特開2009−140750号公報の[0076]−[0112]、及び実施例を参考にして実施できる。
【0032】
公知の印刷法とは、金属粒子を含有する金属細線用塗布液を印刷により、パターン形成する方法である。
金属粒子を含有する金属細線用塗布液は、下述する金属粒子を含有する金属粒子分散液である。
金属粒子分散液は、水、アルコールなどの溶媒中に金属粒子を含有するが、必要に応じバインダー、金属を分散させるための分散剤などを含んでもよい。
金属粒子分散液を用い、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等の印刷方式により金属パターンを形成することができる。
各印刷方式は、一般的に電極パターン形成に使われる手法が本発明に関しても適用可能である。具体的な例として、グラビア印刷法については特開2009−295980、特開2009−259826、特開2009−96189、特開2009−90662記載の方法等が、フレキソ印刷法については特開2004−268319、特開2003−168560記載の方法等が、スクリーン印刷法については特開2010−34161、特開2010−10245、特開2009−302345記載の方法等が例として挙げられる。
金属粒子の平均径としては、原子スケールから1000nmの範囲のものが好ましく適用できる。
本発明においては、特に平均粒径が3〜300nmであるものが好ましく、5〜100nmであるものがより好ましく用いられる。
上記の中でも特に、また、透明基板としてに樹脂基板や樹脂フィルムを用いる場合は、低い加熱温度で高い導電性を得ることができるため、平均粒径3nm〜100nmの銀ナノ粒子が好ましい。
本発明において、平均粒径とは、光散乱方式を用いた市販の測定装置を使用して簡便に計測することが可能であり、具体的にはゼータサイザー1000(マルバーン社製)を用いて、レーザドップラー法によりS25℃、サンプル希釈液量1mlにて測定した値をいう。
【0033】
金属粒子分散液はパターン形成後、加熱することが好ましい。これにより、金属粒子同士の融着が進み、金属細線が高導電化するため、特に好ましい。
加熱温度は金属粒子であれば、100℃以上500℃以下であることが好ましい。時間は温度や使用する金属粒子の大きさにもよるが、10秒以上30分以下であることが好ましく、生産性の観点から、10秒以上15分以下であることが好ましく、10秒以上5分以下であることがより好ましい。
透明基板に樹脂基板や樹脂フィルムを用いる場合は、100℃以上250℃以下の温度範囲で、基板にダメージのない温度で加熱することが好ましい。
加熱処理方法は特に制限はなく、公知の処理方法を用いることができる。
例えば、加熱処理態様として、ヒータやIRヒータを用いた加熱、減圧乾燥などを挙げることができるが、これに限定されない。また、透明基板に樹脂基板や樹脂フィルムを用いる場合は、加熱処理に加えて、プラズマ処理やキセノンフラッシュ処理などを行うことが低抵抗化の観点から、より好ましい。
【0034】
ランダムな網目状のパターンを形成する方法としては、例えば、特表2005−530005号公報に記載のような、金属粒子を含有する液を塗布乾燥することにより、自発的に導電性微粒子の無秩序な網目構造を形成する方法を利用できる。
【0035】
金属細線に用いられる金属としては、導電性に優れていれば特に制限はなく、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、クロム等の金属の他に合金などを挙げることができる。
導電性の観点から銀または銅が好ましく、銀または銅単独でもよいし、それぞれの組み合わせでもよく、銀と銅の合金、銀または銅が一方の金属でめっきされていてもよい。
【0036】
金属細線の細線部の表面比抵抗は、100Ω/□以下であることが好ましく、10Ω/□以下であることがより好ましく、さらに大面積化の観点から、5Ω/□以下であることがより好ましい。表面比抵抗は、例えば、JIS K6911、ASTM D257、等に準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
【0037】
[透明導電層]
本発明に係る透明導電層は、少なくとも導電性ポリマーと水溶性バインダーとを含有する透明でかつ導電性を有する層である。
この項目では、先に導電性ポリマーや水溶性バインダーの説明を行い、その後に透明導電層の構成や製造方法、特性などについて説明する。
【0038】
(1)導電性ポリマー
本発明に係る導電性ポリマーとしては、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含んで成る導電性ポリマーを好ましく用いることができる。
こうした導電性ポリマーは、後述するπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを、適切な酸化剤と酸化触媒と後述のポリアニオンの存在下で化学酸化重合することによって容易に製造できる。
【0039】
(1.1)π共役系導電性高分子
π共役系導電性高分子として、ポリチオフェン(基本のポリチオフェンを含む、以下同様)類、ポリピロール類、ポリインドール類、ポリカルバゾール類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリフラン類、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリアズレン類、ポリパラフェニレン類、ポリパラフェニレンサルファイド類、ポリイソチアナフテン類、ポリチアジル類の鎖状導電性ポリマーを利用することができる。
中でも、導電性、透明性、安定性等の観点からポリチオフェン類やポリアニリン類が好ましい。ポリエチレンジオキシチオフェンであることが最も好ましい。
【0040】
(1.2)π共役系導電性高分子前駆体モノマー
前駆体モノマーは、分子内にπ共役系を有し、適切な酸化剤の作用によって高分子化した際にもその主鎖にπ共役系が形成されるものである。
前駆体モノマーとしては、例えば、ピロール類及びその誘導体、チオフェン類及びその誘導体、アニリン類及びその誘導体等が挙げられる。
前駆体モノマーの具体例としては、ピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3−ドデシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール、3−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシエチルピロール、3−メチル−4−カルボキシブチルピロール、3−ヒドロキシピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−ブトキシピロール、3−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−オクタデシルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−シアノチオフェン、3−フェニルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジブチルチオフェン、3−ヒドロキシチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−ヘプチルオキシチオフェン、3−オクチルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−オクタデシルオキシチオフェン、3,4−ジヒドロキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−ジヘプチルオキシチオフェン、3,4−ジオクチルオキシチオフェン、3,4−ジデシルオキシチオフェン、3,4−ジドデシルオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン、3,4−ブテンジオキシチオフェン、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェン、3−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン、アニリン、2−メチルアニリン、3−イソブチルアニリン、2−アニリンスルホン酸、3−アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0041】
(1.3)ポリアニオン
ポリアニオンは、アニオン基を複数有するオリゴマーもしくはポリマーである。
ポリアニオンとしては、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステル及びこれらの共重合体が好ましく、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるものが好ましく用いられる。
【0042】
ポリアニオンは、π共役系導電性高分子を溶媒に可溶化させる可溶化高分子である。
ポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシ基、スルホ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシ基がより好ましい。
ポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
【0043】
また、化合物内にFを有するポリアニオンであっても良い。
具体的には、パーフルオロスルホン酸基を含有するナフィオン(Dupont社製)、カルボン酸基を含有するパーフルオロ型ビニルエーテルからなるフレミオン(旭硝子社製)などをあげることができる。
これらのうち、スルホン酸を有する化合物であると、透明導電層を塗布後、温度が50℃以上90℃以下で時間が72時間以上720時間以内の条件で加熱処理を行うことによって、透明導電層の洗浄耐性や溶媒耐性が著しく向上することから、より好ましい。
さらに、これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸が好ましい。これらのポリアニオンは、後述の水溶性バインダーとの相溶性が高く、また、得られる導電性ポリマーの導電性をより高くできる。
【0044】
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性及び導電性の点からは、50〜10000個の範囲がより好ましい。
ポリアニオンの製造方法としては、例えば、酸を用いてアニオン基を有さないポリマーにアニオン基を直接導入する方法、アニオン基を有さないポリマーをスルホ化剤によりスルホン酸化する方法、アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法が挙げられる。
アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法は、溶媒中、アニオン基含有重合性モノマーを、酸化剤及び/又は重合触媒の存在下で、酸化重合又はラジカル重合によって製造する方法が挙げられる。
具体的には、所定量のアニオン基含有重合性モノマーを溶媒に溶解させ、これを一定温度に保ち、それに予め溶媒に所定量の酸化剤及び/又は重合触媒を溶解した溶液を添加し、所定時間で反応させる。その反応により得られたポリマーは溶媒によって一定の濃度に調整される。この製造方法において、アニオン基含有重合性モノマーにアニオン基を有さない重合性モノマーを共重合させてもよい。
アニオン基含有重合性モノマーの重合に際して使用する酸化剤及び酸化触媒、溶媒は、π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを重合する際に使用するものと同様である。
得られたポリマーがポリアニオン塩である場合には、ポリアニオン酸に変質させることが好ましい。アニオン酸に変質させる方法としては、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法、透析法、限外ろ過法等が挙げられ、これらの中でも、作業が容易な点から限外ろ過法が好ましい。
【0045】
(1.4)市販の材料
こうした導電性ポリマーは市販の材料も好ましく利用できる。
例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー(PEDOT−PSSと略す)が、H.C.Starck社からCLEVIOSシリーズとして、Aldrich社からPEDOT−PASS483095、560598として、Nagase Chemtex社からDenatronシリーズとして市販されている。
また、ポリアニリンが、日産化学社からORMECONシリーズとして市販されている。
本発明において、こうした剤も好ましく用いることが出来る。
【0046】
(1.5)第2のドーパント
第2のドーパントとして水溶性有機化合物を含有してもよい。
本発明で用いることができる水溶性有機化合物には特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、酸素含有化合物が好適に挙げられる。
前記酸素含有化合物としては、酸素を含有する限り特に制限はなく、例えば、ヒドロキシ基含有化合物、カルボニル基含有化合物、エーテル基含有化合物、スルホキシド基含有化合物などが挙げられる。
前記ヒドロキシ基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリンなどが挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。
前記カルボニル基含有化合物としては、例えば、イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
前記エーテル基含有化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、などが挙げられる。
前記スルホキシド基含有化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0047】
(2)水溶性バインダー
本発明に係る水溶性バインダーは一般式(I)で表される構造単位を有することを特徴とする。
水溶性バインダーは、水溶性であることが好ましく、25℃の水100gに0.001g以上溶解することが好ましい。
溶解性は、ヘイズメーター、濁度計で測定することができる。
【0048】
【化2】

【0049】
一般式(I)において、「R」は水素原子またはメチル基を表し、「Q」は−C(=O)O−または−C(=O)NRa−を表す。「Ra」は水素原子、アルキル基またはNと共にモルホリン基を形成するための原子団を表し、「A」は置換もしくは無置換アルキレン基、または−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表し、「Rb」は水素原子またはアルキル基を表す。「x」は平均繰り返しユニット数で1〜100の数である。
【0050】
Ra、Rbで表されるアルキル基は、例えば炭素原子数1〜5の直鎖、あるいは分岐アルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基である。また、これらのアルキル基は置換基で置換されていてもよい。
これら置換基の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基等で置換されてもよい。これらのうち好ましくは、ヒドロキシ基、アルキルオキシ基である。
【0051】
上記アルキル基は分岐を有していてもよく、炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましい。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が含まれる。
上記シクロアルキル基の炭素原子数は、3〜20であることが好ましく、3〜12であることがより好ましく、3〜8であることがさらに好ましい。シクロアルキル基の例には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基が含まれる。
上記アルコキシ基は、分岐を有していてもよく、炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基及びオクチルオキシ基が含まれ、好ましくはエトキシ基である。
上記アルキルチオ基の炭素数は、分岐を有していてもよく、炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が含まれる。
上記アリールチオ基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールチオ基の例にはフェニルチオ基及びナフチルチオ基等が含まれる。
上記シクロアルコキシ基の炭素原子数は、3〜12であることが好ましく、より好ましくは3〜8である。シクロアルコキシ基の例には、シクロプロポキシ基、シクロブチロキシ基、シクロペンチロキシ基及びシクロヘキシロキシ基が含まれる。
上記アリール基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリール基の例にはフェニル基及びナフチル基が含まれる。
上記アリールオキシ基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシ基の例にはフェノキシ基及びナフトキシ基が含まれる。
上記ヘテロシクロアルキル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましく、3〜5であることがさらに好ましい。ヘテロシクロアルキル基の例にはピペリジノ基、ジオキサニル基及び2−モルホリニル基が含まれる。
上記ヘテロアリール基の炭素原子数は、3〜20であることが好ましく、3〜10であることがさらに好ましい。ヘテロアリール基の例にはチエニル基、ピリジル基が含まれる。
上記アシル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アシル基の例にはホルミル基、アセチル基及びベンゾイル基が含まれる。
上記アルキルカルボンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルカルボンアミド基の例にはアセトアミド基等が含まれる。
上記アリールカルボンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アリールカルボンアミド基の例にはベンズアミド基等が含まれる。
上記アルキルスルホンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。スルホンアミド基の例にはメタンスルホンアミド基等が含まれる。
上記アリールスルホンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アリールスルホンアミド基の例には、ベンゼンスルホンアミド基及びp−トルエンスルホンアミドが基含まれる。
上記アラルキル基の炭素原子数は7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アラルキル基の例にはベンジル基、フェネチル基及びナフチルメチル基が含まれる。
上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルコキシカルボニル基の例にはメトキシカルボニル基が含まれる。
上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシカルボニル基の例にはフェノキシカルボニル基が含まれる。
上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は8〜20であることが好ましく、8〜12であることがさらに好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例にはベンジルオキシカルボニル基が含まれる。
上記アシルオキシ基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アシルオキシ基の例にはアセトキシ基及びベンゾイルオキシ基が含まれる。
上記アルケニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルケニル基の例に、ビニル基、アリル基及びイソプロペニル基が含まれる。
上記アルキニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルキニル基の例にはエチニル基が含まれる。
上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルスルホニル基の例に、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基が含まれる。
上記アリールスルホニル基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールスルホニル基の例に、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基が含まれる。
上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は1〜20あることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルオキシスルホニル基の例に、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基が含まれる。
上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシスルホニル基の例に、フェノキシスルホニル基、ナフトキシスルホニル基が含まれる。
上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルスルホニルオキシ基の例に、メチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基が含まれる。
【0052】
上記アリールスルホニルオキシ基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールスルホニルオキシ基の例に、フェニルスルホニルオキシ基、ナフチルスルホニルオキシ基が含まれる。置換基は同一でも異なっていても良く、これら置換基がさらに置換されてもよい。
【0053】
一般式(I)において、「A」は置換あるいは無置換アルキレン基、−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表すが、アルキレン基は、例えば炭素原子数1〜5が好ましく、より好ましくはエチレン基、プロピレン基である。これらのアルキレン基は前述した置換基で置換されていてもよい。また、「Rb」は水素原子、アルキル基を表す。また、これらのアルキル基は前述の置換基で置換されていてもよい。さらに、「x」は平均繰り返しユニット数を表し、1〜100が好ましく、より好ましくは1〜10である。繰り返しユニット数は分布を有しており、表記は平均値を示し、小数点以下1桁で表記してもよい。
【0054】
一般式(I)において、「R」は水素原子またはメチル基を表し、「Q」は−C(=O)O−または−C(=O)NRa−を表す。「Ra」は水素原子、アルキル基またはNと共にモルホリン基を形成するための原子団を表す。
【0055】
以下に、一般式(I)で表される一般式の代表的具体例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0056】
【化3】

【0057】
本発明に係る水溶性バインダーは、一般式(I)で表される構造単位以外に構造単位を含有していてもよい。
本発明に係る水溶性バインダーにおいて、一般式(I)で表されるヒドロキシル基を有する構造単位のモル比は10〜100%が好ましく、より好ましくは、30〜90%である。
水溶性バインダーは一般式(I)で表わされる単独のモノマーから形成されたホモポリマーであっても良く、その共重合ポリマーであってもよい。
【0058】
本発明に係る水溶性バインダーは、汎用的な重合触媒を用いたラジカル重合により得ることができる。
重合様式としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられ、好ましくは溶液重合である。
重合温度は、使用する開始剤によって異なるが、一般に−10〜250℃、好ましくは0〜200℃、より好ましくは10〜100℃で実施される。
【0059】
本発明に係る水溶性バインダーの数平均分子量は3,000〜2,000,000の範囲が好ましく、より好ましくは4,000〜500,000、さらに好ましくは5000〜100000の範囲内である。
本発明に係る水溶性バインダーの数平均分子量、分子量分布の測定は、一般的に知られているゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により行うことができる。
使用する溶媒は、バインダー樹脂が溶解すれば特に限りはなく、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、CHClが好ましく、より好ましくはTHF、DMFであり、更に好ましくはDMFである。
測定温度も特に制限はないが40℃が好ましい。
【0060】
(3)構成や製造方法、特性など
透明導電層は、金属細線と透明基板とを被覆するように、上記した導電性ポリマーおよび水溶性バインダーと溶媒とを少なくとも含有する分散液を、塗布、乾燥して膜形成されたものである。
透明導電層の形成工程における「乾燥」は、温度が50℃以上90℃以下で時間が72時間以上720時間以下の条件で行う後述の加熱処理に含まれていてもよいし、これとは別に行う90℃以下で1〜30分の加熱処理を指してもよい。
溶媒としては、水系溶媒を好ましく用いることが出来る。
水系溶媒とは、50質量%以上が水である溶媒を表す。もちろん、他の溶媒を含有しない純水であっても良い。水系溶媒の水以外の成分は、水に相溶する溶剤であれば特に制限はないが、アルコール系の溶媒を好ましく用いることができ、中でも、沸点が比較的水に近いイソプロピルアルコールを用いることが形成する層の平滑性などには有利である。
透明導電層の塗布は、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の印刷方法に加えて、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、インクジェット法等の塗布法を用いることができる。
透明導電層は、前述の水溶性バインダーを含むことで、導電性ポリマーの導電性が増強され、高い導電性を得ることができる。
透明導電層は、水溶性バインダーの高い透明性により、導電性ポリマー単独では得られない、高い透明性が得られる。
さらに、50℃以上90℃以下の温度で72時間以上720時間以内の加熱処理を行うことで、水溶性バインダー間または水溶性バインダーと導電性ポリマーとの間で縮合反応が起こり、耐水性、耐溶媒性など膜強度が向上する。
【0061】
透明導電層の導電性ポリマーと、水溶性バインダーとの比率は、導電性ポリマーを100質量部とした時、水溶性バインダーが30質量部から900質量部であることが好ましく、電流リーク防止、水溶性バインダーの導電性増強効果、透明性の観点から、水溶性バインダーが100質量部以上であることがより好ましい。
透明導電層の乾燥膜厚は、透明導電層の透過率と金属細線の開口部の大きさから要求されるシート抵抗率を考慮して適宜選択できるが、30〜2000nmであることが好ましい。導電性の点から、100nm以上であることがより好ましく、透明性の点から、1000nm以下であることがより好ましい。
【0062】
本発明に係る導電性ポリマー及び水溶性バインダーを含む分散液は、透明導電層の導電性、透明性、平滑性を同時に満たす範囲において、さらに他の透明なポリマーや添加剤や架橋剤を含有してもよい。
透明なポリマーとしては、天然高分子樹脂または合成高分子樹脂から広く選択して使用することができ、水溶性高分子または水性高分子エマルジョンが特に好ましい。
水溶性高分子としては、天然高分子のデンプン、ゼラチン、寒天等、半合成高分子のヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、合成高分子のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸系高分子、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン等が、水性高分子エマルジョンとしては、アクリル系樹脂(アクリルシリコン変性樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂等)、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が、使用することができる。
合成高分子樹脂としては、透明な熱可塑性樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデン)や、熱・光・電子線・放射線で硬化する透明硬化性樹脂(例えば、メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケート等のシリコン樹脂)を使用することができる。
添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤や硫化防止剤等の安定剤、界面活性剤、溶解促進剤、重合禁止剤、染料や顔料等の着色剤等が挙げられる。さらに、塗布性等の作業性を高める観点から、溶媒(例えば、水や、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類等の有機溶媒)を含んでいてもよい。
水溶性バインダーの架橋剤としては、例えばオキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、阻止イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、ホルムアルデヒド系架橋剤等を単独あるいは複数併用して用いることができる。
【0063】
[透明電極の製造方法]
透明電極の製造方法は、主に(i)〜(iii)の工程から構成される。
(i)透明基板上に、金属細線を形成する工程
(ii)透明基板および金属細線上に、透明導電層を形成する工程
(iii)金属細線および透明導電層を形成した透明基板を、一定の条件で、加熱処理する工程
【0064】
(i)および(ii)の各工程の処理は上記したとおりである。
(iii)の工程では、透明導電層を塗布形成した後、金属細線および透明導電層を形成した透明電極を、温度が50℃以上90℃以下で時間が72時間以上720時間以下の条件で、加熱処理する。
本発明において、前述の加熱温度と加熱時間の範囲内で加熱処理を行うことにより、高温で処理したときと同等の有機電子デバイスの高温雰囲気での保存性を確保しつつ、発光寿命を大幅に向上させることができる。
これは、加熱温度が50℃以上90℃以下で加熱時間が72時間以上720時間以内という条件で加熱処理を行うと、透明導電層の樹脂バインダー間または導電性ポリマーと樹脂バインダーとの間の縮合反応を終了させ、反応により発生した水分等の副生成物を十分除去でき、さらに樹脂バインダーや導電性ポリマーの分解による低分子成分の発生を抑制できたためと考えられる。
(iii)の工程によれば、高温の熱処理を不要にすることができるため、樹脂基板、特に安価なフィルム樹脂を用いることが可能になる。
加熱温度は50℃以上90℃以下であることが好ましく、70℃以上90℃以下であることがより好ましい。加熱温度が50℃未満または加熱時間が72時間未満の場合、導電性ポリマーと樹脂バインダーの反応が不十分であるため、有機電子デバイスの高温雰囲気での保存性が低下する。
加熱温度が90℃超または720時間超で加熱処理を行うと、透明導電層中の樹脂バインダーや導電性ポリマーの一部が分解され、低分子成分が発生し、有機電子デバイスの発光寿命の向上の効果が得られない。
【0065】
加熱処理方法は特に制限はなく、公知の加熱処理方法を用いることができる。
加熱処理方法としては、例えば、ヒータやIRヒータを用いた加熱、減圧乾燥、誘導加熱、マイクロ波加熱、レーザ加熱、プラズマ加熱等が挙げられるが、温度や湿度制御の簡便さの観点から、ヒータを用いた加熱や減圧乾燥が好ましい。
また、加熱乾燥を行う際には、低温(例えば、30℃程度)からゆっくりと昇温させ、本発明の範囲内の温度(例えば、60℃程度)で乾燥させた後、ゆっくりと降温させることが好ましい。
特に本発明においては加熱処理を透明導電層の塗布形成後、減圧下で行うことが水分の乾燥促進にもつながり、好ましい。
加熱処理を行う場合、湿度を最適範囲に設定することが好ましい。
その湿度は好ましくは0〜70%であり、より好ましくは0〜5%であり、さらに好ましくは0〜1%である。
【0066】
[発光層]
発光層は、発光極大波長が各々430〜480nm、510〜550nm、600〜640nmの範囲にある単色発光層であってもよく、また、これらの少なくとも三層の発光層を積層して白色発光層としたものであってもよく、さらに、発光層間には非発光性の中間層を有していてもよい。
本発明に係る有機ELデバイスとしては、白色発光層であることが好ましい。
【0067】
また、本発明において有機発光層に使用できる発光材料又はドーピング材料としては、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチルベンゼン誘導体、ジスチルアリーレン誘導体、及び各種蛍光色素及び希土類金属錯体、燐光発光材料等があるが、これらに限定されるものではない。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を90〜99.5質量部、ドーピング材料を0.5〜10質量部含むようにすることも好ましい。
【0068】
有機発光層は上記の材料等を用いて公知の方法によって作製されるものであり、蒸着、塗布、転写などの方法が挙げられる。
この有機発光層の厚さは0.5〜500nmが好ましく、特に、0.5〜200nmが好ましい。
【0069】
[阻止層:正孔阻止層、電子阻止層]
阻止層は、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機ELデバイスとその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止層がある。
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。本発明の白色有機ELデバイスに設ける正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。
本発明に係る正孔阻止層、電子輸送層の膜厚としては、好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは5〜30nmである。
【0070】
[正孔輸送層]
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。
正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。
例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、更にはポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
また、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)、特表2003−519432号公報に記載されているような、所謂p型半導体的性質を有するとされる正孔輸送材料を用いることもできる。
本発明においては、より高効率の発光デバイスが得られることから、これらの材料を用いることが好ましい。
【0071】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。
正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。
この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0072】
[電子輸送層]
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。
電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は、発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。
更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq3)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。
また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0073】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。
電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。
電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
また、不純物をドープしたn型半導体的性質を有するとされる電子輸送材料を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開平10−270172号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)などに記載されたものが挙げられる。本発明においては、このようなn型半導体的性質を有するとされる電子輸送材料を用いることが、より低消費電力のデバイスを作製することができるため好ましい。
【0074】
[注入層:電子注入層、正孔注入層]
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機機能層間に設ける層のことで、例えば、「有機ELデバイスとその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)にその詳細に記載されており、正孔注入層と電子注入層とがある。
正孔注入層としては、第1透明電極との仕事関数の差が少ないことが要求される。特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性ポリマー層等が挙げられる。特に塗布法での使用が可能である点から、導電性ポリマー層を使用することが好ましい。
また、正孔注入層に使用する導電性ポリマーは仕事関数の観点から、化合物内にフッ素(F)を有するポリアニオンであることが好ましい。また、Fは後から添加してもよく、パーフルオロ化されたポリアニオンでもよい。
具体的には、パーフルオロスルホン酸基を含有するナフィオン(Dupont社製)、カルボン酸基を含有するパーフルオロ型ビニルエーテルからなるフレミオン(旭硝子社製)などをあげることができる。
電子注入層としては、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
注入層はごく薄い膜であることが望ましく、使用する素材にもよるが、その膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。また、導電性ポリマーを用いたときは、透明性の観点から5nm〜50nmであることが特に好ましい。
【0075】
〔第2電極〕
本発明に係る第2電極は、有機ELデバイスにおいては陰極となる。
本発明に係る第2電極部は導電材単独層であっても良いが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用してもよい。
第2電極部の導電材としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。
このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第2金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。
また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0077】
《サンプルの作製》
(1)透明電極の作製
(1.1)フィルム基板の準備・作製
(1.1.1)平滑層の形成
厚み100μmのポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)およびポリエチレンテレフタレート(PETフィルム)のそれぞれに対し、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7501を、塗布・乾燥後の平均膜厚が4μmになるようにワイヤーバーで塗布し、その後80℃で3分間乾燥させ、その後空気雰囲気下で高圧水銀ランプを使用して硬化条件1.0J/cmで硬化を行い、平滑層を形成した。
【0078】
(1.1.2)ガスバリア層の形成
次に、上記平滑層を設けた試料を、この上にガスバリア層を以下に示す条件で、形成した。
(ガスバリア層塗布液)
パーヒドロポリシラザン(PHPS、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN320)の20質量%ジブチルエーテル溶液を、ワイヤレスバーにて、乾燥後の(平均)膜厚が0.30μmとなるように塗布し、塗布試料を得た。
【0079】
(1.1.3)乾燥処理
得られた塗布試料を温度85℃、湿度55%RHの雰囲気下で1分処理し、乾燥試料を得た。
【0080】
(1.1.4)除湿処理
乾燥試料をさらに温度25℃、湿度10%RH(露点温度−8℃)の雰囲気下に10分間保持し、除湿処理を行った。
【0081】
(1.1.5)改質処理
(改質処理A)
除湿処理を行った試料を下記の条件で改質処理を行い、ガスバリア層を形成した。改質処理時の露点温度は−8℃で実施した。
(改質処理装置)
株式会社エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200、波長172nm、ランプ封入ガス:Xe
稼動ステージ上に固定した試料を以下の条件で改質処理を行った。
(改質処理条件)
エキシマ光強度 60mW/cm(172nm)
試料と光源の距離 1mm
ステージ加熱温度 70℃
照射装置内の酸素濃度 1%
エキシマ照射時間 3秒
上記のようにしてガスバリア性を有する透明電極用のPENフィルム基板、PETフィルム基板を作製した。
【0082】
(1.2)金属細線の形成
(1.2.1)スクリーン印刷
厚さ0.5mmの3cm角のガラス基板の3.0cm×3.0cmの範囲に、銀ナノ粒子インク(TEC−PA−010;InkTec社製)を用いて、線幅50um幅、間隔1.0mm、高さ(厚さ)1.0μmになるようにストライプ状の細線をスクリーン印刷方式で印刷し、150℃、30分加熱した。印刷機は小型厚膜半自動印刷機STF−150IP(東海商事社製)を用い、線径13μmの版(ソノコム社製)を用いた。これらの電極1〜22、42〜46とした。
また、スクリーン版の線幅、間隔、細線のパターンを変え、上記と同様の方法で表1に示した電極23〜33を作製した。
また、基板を厚さ0.1mmの3cm角の薄ガラス、バリア処理したPETフィルム、PENフィルムに変え、同様の方法で電極34、37、38を作製した。ただし、PETフィルムは印刷後、120℃、30分加熱した。
また、基板を厚さ0.1mmの3cm角の薄ガラス状に上記の方法でスクリーン印刷した後、さらに同じ場所に2回、3回印刷を繰り返し、膜厚2μm、3μmの細線を作製し、電極35、36とした。
【0083】
(1.2.2)フォトリソ法
厚さ0.1mmの3cm角のガラス基板の3.0cm×3.0cmの範囲に、銀ナノ粒子インク(TEC−PA−010;InkTec社製)を用いて、スピン塗布により膜厚1.0μmに均一塗布した後、110℃、5分の乾燥処理を行った。その後、さらにフォトリソグラフィ法により線幅50μm、間隔1.0mmのストライプ状細線を作製した後、150℃、30分の乾燥処理を行い、電極39とした。
【0084】
(1.2.3)インクジェット印刷
銀ナノ粒子インク(ハリマNPS−J ハリマ化成製)を、インクジェット記録ヘッドとして、圧力印加手段と電界印加手段とを有し、ノズル口径25μm、駆動周波数12kHz、ノズル数128、ノズル密度180dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)のピエゾ型ヘッドを搭載したインクジェットプリント装置に装填し、厚さ0.1mmの3cm角のガラス基板の3.0cm×3.0cmの範囲に、線幅50μm、高さ(厚さ)0.5μm、間隔1.0mmのストライプ状の細線を印刷し、150℃、30分加熱した。これを電極40とした。
【0085】
(1.2.4)ダイレクトグラビア印刷
厚さ0.1mmの3cm角のガラス基板の3.0cm×3.0cmの範囲に、銀ナノ粒子インク(TEC−PR−020;InkTec社製、)を用いて、線幅50um幅、間隔1.0mm、高さ0.2μmになるように細線格子をダイレクトグラビア印刷方式で印刷し150℃、30分加熱した。印刷機はRK Print Coat Instruments Ltd製グラビア印刷試験機K303MULTICOATERを用いた。これを電極41とした。
なお、金属細線の形成工程において、形成した金属細線の高さはWYKO NT9300(Veeco社製)を用いて確認した。
【0086】
(1.2.5)テーパ角の測定
電極34、39、40、41について何点かテーパ角を測定したところ、印刷方法で作製した電極34、40、41はテーパ角が10°以下であったのに対し、フォトリソ法で作製した電極39はテーパ角が70〜90°であった。
【0087】
(1.3)透明導電層の形成
電極1〜46上に、以下の方法で透明導電層を積層し、透明電極1〜46を作製した。透明導電層は3cm角のガラス基板の3.0cm×3.0cmの範囲に積層した。
電極1〜20、23〜46に塗布液Aを、電極21に塗布液Bを、電極22に塗布液Cを、押し出し法を用いて、乾燥膜厚400nmになるように押し出しヘッドのスリット間隙を調整して塗布し、その後ヒータを用いて表1に示す条件でそれぞれ加熱処理を行った。
電極1〜41には、湿度60%RHの条件下で、加熱処理を行った。
電極42については、加熱処理において、温度を30℃から72時間かけて60℃まで昇温し、60℃で336時間加熱した後、温度を60℃から72時間かけて30℃に降温した。
電極43については、表1に示す条件下で、減圧乾燥(−200mmH0)を行った。
電極44〜46については、湿度の調整を、espec社プラチナスKシリーズ低湿度型恒温恒湿器PDR−3Kを用いて行った。
なお、塗布液A〜C中の「PEDOT−PSS」はポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマーを示している。塗布液A〜C中の「P−1〜P−3」は水溶性バインダーを示しており、その調製方法は塗布液A〜Cの組成の説明の後に記載している。
【0088】
(塗布液A)
PEDOT−PSS CLEVIOS PH510(固形分濃度1.89%、H.C.Starck社製) 1.59g
P−1(固形分20%水溶液) 0.35g
ジメチルスルホキシド(DMSO) 0.08g
【0089】
(塗布液B)
PEDOT−PSS CLEVIOS PH510(固形分濃度1.89%、H.C.Starck社製) 1.59g
P−2(固形分20%水溶液) 0.35g
ジメチルスルホキシド(DMSO) 0.08g
【0090】
(塗布液C)
PEDOT−PSS CLEVIOS PH510(固形分濃度1.89%、H.C.Starck社製) 1.59g
P−3(固形分20%水溶液) 0.35g
ジメチルスルホキシド(DMSO) 0.08g
【0091】
<P−1の合成>
500ml三ツ口フラスコにTHF200mlを加え10分間加熱還流させた後、窒素下で室温に冷却した。I−1:2−ヒドロキシエチルアクリレート(10.0g、86mmol、分子量:116.05)、AIBN(1.41g、8.5mmol、分子量:164.11)を加え、5時間加熱還流した。室温に冷却した後、5000mlのMEK中に反応溶液を滴下し、1時間攪拌した。MEKをデカンテーション後、200mlのMEKで3回洗浄後、THFでポリマーを溶解し、100mlフラスコへ移した。THFをロータリーエバポレーターにより減圧留去後、50℃で3時間減圧乾燥した。その結果、数平均分子量35700、分子量分布2.3の「P−1」を9.0g(収率90%)得た。
【0092】
分子量はGPC(Waters2695、Waters社製)で測定した。
<GPC測定条件>
装置:Wagers2695(Separations Module)
検出器:Waters 2414 (Refractive Index Detector)
カラム:Shodex Asahipak GF−7M HQ
溶離液:ジメチルホルムアミド(20mM LiBr)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
【0093】
<P−2の合成>
P−1の合成において、モノマーとしてヒドロキシエチルアクリルアミド(I−19)を用いた。
それ以外はP−1の合成と同様の方法により「P−2」を得た。
【0094】
<P−3の合成>
200ml三ツ口フラスコにTHF100mlを加え10分間加熱還流させた後、窒素下で室温に冷却した。I−1:2−ヒドロキシエチルアクリレート(4.1g、35mmol、分子量:116.05)、ヒドロキシエチルアクリルアミド(I−19)(1.7g、15mmol、分子量:115.15)、AIBN(0.8g、5mmol、分子量:164.11)を加え、5時間加熱還流した。室温に冷却した後、3000mlのMEK中に反応溶液を滴下し、1時間攪拌した。MEKをデカンテーション後、100mlのMEKで3回洗浄後、THFでポリマーを溶解し、100mlフラスコへ移した。THFをロータリーエバポレーターにより減圧留去後、50℃で3時間減圧乾燥した。その結果、数平均分子量33700、分子量分布2.4の「P−3」を10.3g(収率90%)得た。
【0095】
(1.4)透明電極の評価
透明導電層を積層した透明電極1〜46について、東京電色社製 HAZE METER NDH5000を用いて、全光線透過率を測定したところ、すべての透明電極において75%以上であり、高い透明性を有していた。
透明電極1〜46について、抵抗率計(ロレスタGP(MCP−T610型):(株)ダイヤインスツルメンツ社製)を用いて表面抵抗を測定したところ、すべての透明電極において5Ω/□以下であり、優れた導電性も有していた。
【0096】
(1.5)比較対象の作製
透明電極1〜46の比較対象として別途の透明電極(ITO基板)を下記のとおり作製した。
3cm角のガラス基板と、3cm角のガスバリア性を有する透明電極用のフィルム基板とに対し、ITO(インジウムチンオキシド)をスパッタ法により150nm成膜し、ITO基板を作製し、フォトリソ法により、アノード電極(中央部15mm×15mm)を、取り出し部にITOが残るようにパターニングした。
【0097】
(2)有機ELデバイスの作製
透明導電層を積層した透明電極1〜46をアノード電極として、当該アノード電極上に、有機EL層(正孔輸送層、有機発光層、正孔阻止層および電子輸送層)とカソード電極とを以下の手順で形成し、有機ELデバイス1〜46を作製した。
有機EL層の正孔輸送層以降の層は蒸着により形成した。
市販の真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を各々素子作製に必要量を充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製またはタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0098】
(2.1)有機EL層の形成
まず、透明電極1〜46に対し、正孔輸送層、有機発光層、正孔阻止層、電子輸送層からなる有機EL層を、透明電極1〜46の中央部の17mm×17mmの範囲に順次形成した。
【0099】
(2.1.1)正孔輸送層の形成
真空度1×10−4Paまで減圧した後、化合物1の入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、厚さ30nmの正孔輸送層を設けた。
【0100】
(2.1.2)有機発光層の形成
次に、以下の手順で各発光層を設けた。
形成した正孔輸送層上に、化合物2が13.0質量%、化合物3が3.7質量%、化合物5が83.3質量%になるように、化合物2、化合物3及び化合物5を蒸着速度0.1nm/秒で正孔輸送層と同じ領域に共蒸着し、発光極大波長が622nm、厚さ10nmの緑赤色燐光発光の有機発光層を形成した。
次いで、化合物4が10.0質量%、化合物5が90.0質量%になるように、化合物4及び化合物5を蒸着速度0.1nm/秒で緑赤色燐光発光の有機発光層と同じ領域に共蒸着し、発光極大波長が471nm、厚さ15nmの青色燐光発光の有機発光層を形成した。
【0101】
(2.1.3)正孔阻止層の形成
さらに、形成した有機発光層と同じ領域に、化合物6を膜厚5nmに蒸着して正孔阻止層を形成した。
【0102】
(2.1.4)電子輸送層の形成
引き続き、形成した正孔阻止層と同じ領域に、CsFを膜厚比で10%になるように化合物6と共蒸着し、厚さ45nmの電子輸送層を形成した。
【0103】
【化4】

【0104】
(2.2)カソード電極の形成
形成した有機EL層の電子輸送層の上に、15mm×22mmの陰極形成用材料としてAlを5×10−4Paの真空下にてマスク蒸着し、厚さ100nmの陰極を形成した。
さらに、陰極及び陽極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除き陽極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基板としAlを厚さ300nmで蒸着した可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させ封止膜を形成し、発光エリア15mm×15mmの「有機ELデバイス1〜46」を作製した。
なお、熱処理は周囲の接着剤だけが加熱されるように、接着剤の塗ってある部分に型取ったステージを用いてヒータで行った。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
《有機ELデバイスの評価》
得られた有機ELデバイス1〜46のそれぞれについて高温雰囲気での保存性、発光寿命、さらに折り曲げによる劣化を下記のように評価した。また、有機電子デバイス1〜39は均一発光しているのを目視で確認できた。
【0108】
(1)高温保存性
80℃のドライサーモ器で保存した。
ドライサーモ器での保存中、12時間毎にドライサーモ器から取り出し、初期の1000cd/m発光時の電圧を印加してその時の輝度を測定し、輝度が半減した時間を評価し、これを保存時間とした。
透明電極1〜39に用いたガラス基板、バリア性を有するPETフィルム基板およびPENフィルム基板に対しアノード電極をITOとした透明電極(比較対象)を具備する有機ELデバイスを、上記と同様の方法で作製し、これに対する比率を求め、以下のランクで評価した。
基板については材質の同じものを使用し比較した。
90%以上が好ましく、100%以上であることがより好ましい。
「◎」:100%以上
「○」:90%以上〜100%未満
「△」:80%以上〜90%未満
「×」:80%未満
【0109】
(2)発光寿命
得られた有機ELデバイスの、初期の輝度を5000cd/mで連続発光させて、電圧を固定して、輝度が半減するまでの時間を求めた。
アノード電極をITOとした透明電極(比較対象)を具備する有機ELデバイスを、上記と同様の方法で作製し、これに対する比率を求め、以下の基準で評価した。
100%以上が好ましく、150%以上であることがより好ましい。
「5」:150%以上
「4」:130%以上〜150%未満
「3」:100%以上〜130%未満
「2」:80%以上〜100%未満
「1」:80%未満
【0110】
(3)折り曲げ耐性
有機ELデバイス34〜41に対し折り曲げによる劣化の具合を観察した。
具体的には、封止前の有機ELデバイスを空気下にさらすことなく、N雰囲気下のグローブボックスに入れ、破断応力100MPaで折り曲げ操作を100回繰り返した。その後、サンプルの発光面均一性を下記のように評価し、折り曲げ耐性の指標とした。
発光面均一性:
KEITHLEY製ソースメジャーユニット2400型を用いて、各有機EL素子に直流電圧を印加して輝度が1000cd/mになるよう発光させ、発光状態を下記基準で目視評価した。
「5」:均一発光しており、問題ないレベル
「4」:部分的に発光ムラが見られるが、問題ないレベル
「3」:半分程度の発光が見られ、使用上は問題ないレベル
「2」:ほとんど発光せず、使用上問題となるレベル
「1」:発光せず、使用上問題となるレベル
上記の評価の結果を表3に示す。
【0111】
【表3】

【0112】
(4)まとめ
表3に示すとおり、サンプル1,6〜8,13〜15,18〜20とサンプル2〜5,9〜12,16〜17との比較から、透明電極を、温度が50℃以上90℃以下で時間が72時間以上720時間以下の条件で加熱処理すると、有機ELデバイスの高温保存性を確保しつつ、発光寿命が大幅に向上することが分かる。
サンプル34とサンプル37〜38との比較から、透明基板としてガラス基板を用いてもPETフィルム基板やPENフィルム基板を用いても、同様の結果が得られたが、特にPETフィルム基板やPENフィルム基板の樹脂フィルムが折り曲げ耐性に優れていた。
サンプル34〜35とサンプル36との比較から、金属細線の高さ(厚さ)が2μm以下であることが、折り曲げ耐性の観点からより好ましいことが分かる。
サンプル34,40〜41とサンプル39との比較から、印刷法で金属細線を形成することがより好ましいことが分かる。
サンプル16とサンプル42との比較から加熱乾燥を行う際には、低温からゆっくりと昇温させ、本発明の範囲内の温度で処理した後、ゆっくりと降温させることが好ましいことがわかる。
サンプル43〜46の比較から、湿度がより低い条件で加熱処理を行うと、高温保存性と発光寿命とがさらに向上することが分かる。
【符号の説明】
【0113】
1 テーパ角
2 基板
3 金属細線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、金属細線を形成する工程と、
前記透明基板および前記金属細線上に、少なくとも導電性ポリマーと一般式(I)で表される構造単位を有する水溶性バインダーとを含有する透明導電層を形成する工程と、
前記金属細線および前記透明導電層を形成した前記透明基板を、温度が50℃以上90℃以下で時間が72時間以上720時間以下の条件で、加熱処理する工程と、
を備えることを特徴とする透明電極の製造方法。
【化1】

式(I)中、「R」は水素原子、メチル基を表し、「Q」は−C(=O)O−、−C(=O)NRa−を表す。「Ra」は水素原子、アルキル基またはNと共にモルホリン基を形成するための原子団を表し、「A」は置換或いは無置換アルキレン基、−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表し、「Rb」は水素原子、アルキル基を表し、「x」は平均繰り返しユニット数で1〜100の数である。
【請求項2】
請求項1に記載の透明電極の製造方法において、
前記金属細線および前記透明導電層を形成した前記透明基板を、加熱処理する工程では、湿度を0〜70%とすることを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の透明電極の製造方法において、
前記透明基板が樹脂フィルムであることを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明電極の製造方法において、
前記金属細線が幅10〜100μm、間隔0.5〜4mm、高さ0.1〜2μmのストライプまたは格子状パターンを呈することを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明電極の製造方法において、
前記金属細線が幅10〜100μm、線間隔0.5〜4mm、高さ0.1〜2μmのハニカム状パターンを呈することを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により製造された透明電極と、
前記透明電極に対向配置された第2電極と、
前記透明電極と前記第2電極との間に設けられた有機機能層と、
を備えることを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の有機電子デバイスにおいて、
有機エレクトロルミネッセンスデバイスであることを特徴とする有機電子デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2012−243492(P2012−243492A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111022(P2011−111022)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】