説明

透湿防水性布帛

【課題】優れた透湿防水性能を保持しつつ、広く防寒衣料、スポーツ衣料、カジュアル衣料などに適用することができ、併せて廃棄後再利用することのできる新規な透湿防水性布帛を提供すること。
【解決手段】ポリアミド繊維から構成される布帛の片面に、接着剤を介して、ポリアミド系エラストマーフィルムが積層されている透湿防水性布帛。本発明では、ポリアミド系エラストマーフィルムが、ハードセグメントとソフトセグメントとを具備するポリエーテルブロックアミド共重合体から構成され、ハードセグメントとしてナイロン6、ナイロン11、ナイロン12を単独で又は混合して用いてなり、ソフトセグメントとしてポリアルキレングリコールを用いてなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防寒衣料、スポーツ衣料、カジュアル衣料などに適用される透湿防水性布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透湿性と防水性とを併せ持つ透湿防水性布帛は、身体からの発汗による水蒸気を衣服外へ放出する機能と、雨が衣服内に侵入するのを防ぐ機能とを有しており、防寒衣料やスポーツ衣料などに好適である。
【0003】
透湿防水性布帛には、高密度織物の他、繊維布帛に樹脂層を積層したものなどが知られており、高度な防水性能が要求される登山、海洋レジャー向けには、後者の樹脂層を積層する形態のものが好ましいとされている。この場合、繊維布帛には、ナイロン6又はポリエチレンテレフタレートなどの合成繊維からなる布帛が、樹脂層にはポリウレタン、ポリエステル又はポリテトラフルオロエチレンなど透湿防水性能を有するものが用いられ、樹脂層を形成する手段としてコーティング法、ラミネート法などが一般に採用されている。
【0004】
このような透湿防水性布帛の例として、特許文献1〜3記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−78984号公報
【特許文献2】特開2001−315236号公報
【特許文献3】特開2007−296798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の透湿防水性布帛には、環境面又は物性面で解決すべき多くの問題点がある。具体的には、上記特許文献1記載のコーティング布帛では、優れた透湿防水性能を発揮することができるが、樹脂層がポリウレタンから構成されていることから、再利用することができず、加えて樹脂層が厚いため、廃棄の際、焼却すると多量の有毒ガスを発するという環境面での問題を抱えている。また、特許文献2記載のラミネート布帛も同じく優れた透湿防水性能を有するが、樹脂層がポリテトラフルオロエチレンなどから形成されているため、同じく焼却時の有毒ガス発生が問題となる。
【0007】
一方、特許文献3記載の透湿防水性布帛は、ポリエステルマルチフィラメントからなる織編物にポリエステルフィルムをラミネートした構成を有し、再利用することができる。この点から、環境面においては特段大きな問題は見当たらない。しかし、かかる布帛では、織編物の染色に分散染料を使用しなければならず、外観上の点から濃色に染める必要がある。そうすると、フィルムへ分散染料が移行することに起因して布帛としての堅牢度が低下し、特にポリエステルフィルムとして透明なものを使用した場合などは、フィルム表面に斑状の汚れが顕著に現れ、用途展開を図る上で不利である。
【0008】
本発明は、上記の欠点を解消するものであり、優れた透湿防水性能を保持しつつ、広く防寒衣料、スポーツ衣料、カジュアル衣料などに適用することができ、併せて廃棄後再利用することのできる新規な透湿防水性布帛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するもので、次の構成よりなる。
(1)ポリアミド繊維から構成される布帛の片面に、接着剤を介して、ポリアミド系エラストマーフィルムが積層されていることを特徴とする透湿防水性布帛。
(2)前記ポリアミド系エラストマーフィルムが、ハードセグメントとソフトセグメントとを具備するポリエーテルブロックアミド共重合体から構成され、ハードセグメントとしてナイロン6、ナイロン11、ナイロン12を単独で又は混合して用いてなり、ソフトセグメントとしてポリアルキレングリコールを用いてなることを特徴とする前記(1)記載の透湿防水性布帛。
(3)前記接着剤がポリアミド系接着剤であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の透湿防水性布帛。
(4)前記ポリアミド繊維から構成される布帛が撥水加工されていることを特徴とする前記(1)〜(3)いずれかに記載の透湿防水性布帛。
(5)前記ポリアミド系エラストマーフィルムと裏地とが接着剤を介して積層されていることを特徴とする前記(1)〜(4)いずれかに記載の透湿防水性布帛。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、廃棄後再利用可能な環境に優しい透湿防水性布帛を提供することができる。また、本発明の透湿防水性布帛は、優れた透湿防水性能を有し、広く防寒衣料、スポーツ衣料、カジュアル衣料などに適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明において、基布として使用される布帛には、ポリアミド繊維を使用してなる従来公知の織物、編物又は不織布などが適用できる。ポリアミド繊維の具体例としては、εカプロラクタムを原料とするナイロン6繊維、ウンデカンラクタムを原料とするナイロン11繊維、ラウリルラクタムを原料とするナイロン12繊維、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とを原料とするナイロン66繊維、テトラメチレンジアミンとアジピン酸とを原料とするナイロン46繊維、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸とを原料とするナイロン610繊維や、ナイロン56繊維、ナイロン510繊維といった脂肪族ポリアミド繊維の他、ジアミンとテレフタル酸とを原料とするナイロン6T繊維やナイロン9T繊維、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸とを原料とするナイロン6I繊維などの芳香族ポリアミド繊維、さらには芳香族系ジアミンとジカルボン酸との共縮重合反応により得られるアラミド繊維などがあげられる。
【0013】
ポリアミド繊維を用いた布帛は、酸性染料で染めることができるので、後述するポリアミド系エラストマーフィルムへの染料移行を抑制でき、透湿防水性布帛の外観や堅牢度を良好に保つ点で有用である。
【0014】
上記ポリアミド繊維のうち、中でもコストや汎用性の点でナイロン6繊維、ナイロン66繊維が、環境保全の点でナイロン11繊維がそれぞれ好適である。特にナイロン11繊維は、ヒマ(トウゴマ)の種子から抽出されたヒマシ油を元に11アミノウンデカン酸を得た後、これを原料として化学合成して得ることができるので、地球環境に配慮した所謂バイオマス素材と位置づける点で好ましい。加えて、ナイロン11繊維は、ナイロン6繊維やナイロン66繊維などと比べ密度が小さいため、軽量性に優れ、併せて耐摩耗性、耐化学薬品性、耐屈曲疲労性などにも優れることから、本発明において好ましく採用される。
【0015】
本発明における布帛としては、基本的に上記ポリアミド繊維のみからなるものが好ましいが、本発明の効果を損なわない限り、布帛中にポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維などの合成繊維、トリアセテートなどの半合成繊維、綿、ウールなどの天然繊維が併用されていてもよい。
【0016】
また、本発明におけるポリアミド系エラストマーフィルムとしては、従来公知のものであればどのようなものでも使用しうる。具体的には、ナイロン6フィルム、ナイロン66フィルム、ナイロン610フィルム、ナイロン11フィルム、ナイロン12フィルム、ナイロン6Tフィルムなどを、単独で又は複合して使用することができる。ただ、これらのフィルムは一般に無孔質であり、防水性能に優れる一方で透湿性能にはやや劣るといわれている。このため、透湿防水性布帛の透湿性能を向上させたいときは、フィルムの厚みを薄くするのが好ましく、防水性能を向上させたいときは、フィルムの厚みを厚くするのが好ましい。フィルムの厚みとしては、前者の場合、好ましくは3〜15μm、より好ましくは6〜15μmが、後者の場合、好ましくは15〜50μm、より好ましくは15〜30μmがそれぞれ好ましい。これは、フィルムの厚みが3μm未満になると、防水性能が低下することに加え作業性にも劣る傾向にあるからであり、一方、50μmを超えると、透湿性能を考慮していかなる重合体を選択しようとも、フィルムが無孔質であるがゆえに大幅な透湿性能の低下を招きやすく、風合い面でも不利となる傾向にあるからである。なお、本発明では、フィルム中に発泡剤を含有させるなどして有孔質フィルムとなしたものを採用してもよく、これを用いればフィルムの厚みを多少厚くしても良好な透湿性能を維持することができる。
【0017】
本発明では、上記フィルムのうち、柔軟性、耐衝撃性などの観点からナイロン6フィルム、ナイロン11フィルムが好ましく採用でき、特にナイロン11フィルムは、これらに加えバイオマス素材に位置づけられることから、より好ましく採用できる。
【0018】
ポリアミド系エラストマーフィルムを得るには、公知の製法に準ずればよい。一例をあげると、フィルムの原料である各種ポリアミド系重合体を単軸スクリュー押出機又は二軸押出機において溶融混合した後、Tダイなどを用いてシート状に押出し、さらに、逐次二軸延伸法や同時二軸延伸法などに準じて所定の厚みになるまで延伸すれば、目的のフィルムを得ることができる。
【0019】
また、本発明におけるフィルムでは、透湿性能向上の観点から、ハードセグメントとソフトセグメントとを具備するポリエーテルブロックアミド共重合体から構成されるフィルムが好ましく採用される。この場合、ハードセグメントには、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12を単独で又は混合したものが用いられる。特にナイロン11、ナイロン12は、ナイロン6に比べ湿度に対する感度が小さく、低温時の耐衝撃性にも優れているので、好ましく採用できるものである。
【0020】
一方、ソフトセグメントには、ポリアルキレングリコールが用いられる。具体的には、ポリエチレングルコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコールが使用でき、目的に応じてこれらを単独で又は複数を混合もしくは合成して使用する。
【0021】
ポリエーテルブロックアミド共重合体におけるソフトセグメントの含有比率としては、透湿性能向上の観点から、20〜70質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。ソフトセグメントの含有比率が20質量%未満になると、透湿性能を向上させることが困難となる傾向にあり、一方、70質量%を超えると、フィルムの水膨潤性が大きくなる傾向にあり、結果、着用時に汗、雨水の影響を受けやすくなって洗濯耐久性に悪影響を及ぼすことがあるので、いずれも好ましくない。
【0022】
ポリエーテルブロックアミド共重合体を用いる場合、基本的に他の重合体を併用しないことが好ましいが、本発明の効果を損なわないのであれば、他の重合体を使用してもよい。この場合、他の重合体の使用比率は、全重合体に対し20質量%以下とするのが好ましい。他の重合体としては、ポリアミド系エラストマーに対し親和性を呈すると共にフィルムの可撓性向上に資するものであれば、どのようなものでも使用できる。具体的には、グラフト基を有するポリエステル樹脂や官能基を導入したポリオレフィン系樹脂などが使用できる。また、ブチルベンゼンスルホアミドなどの可塑剤などを含有させてもよい。そして、同様に本発明の効果を損なわない限り、第三成分として、滑剤、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤などをフィルム中に含有させてもよい。
【0023】
また、フィルムの厚みとしては、ポリエーテルブロックアミド共重合体を用いる場合であっても一般のポリアミド系エラストマーフィルム同様、3〜50μmとするのが好ましく、6〜30μmとするのがより好ましい。
【0024】
ポリエーテルブロックアミド共重合体は、通常、重合体内で後にハードセグメントとなる組成物と、後にソフトセグメントとなる組成物とを重縮合することにより得ることができる。この場合、両組成物は重縮合を円滑に進める観点から、反応性末端基を有していることが好ましい。反応性末端基としては、前者の場合、ジアミン鎖末端基、ジカルボン鎖末端基などがあげられ、後者の場合、ジカルボン鎖末端基、エーテルジオール鎖末端基などがあげられる。
【0025】
本発明では、上記のようなポリアミド系エラストマーフィルムを布帛の片面に積層するが、このとき接着剤を介してフィルムを積層する必要がある。
【0026】
接着剤としては、従来公知のものであればどのようなものでも使用しうる。具体的には、天然ゴム、ニトリルゴム系、クロロプレンゴム系などの合成ゴム、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、ポリウレタン系樹脂などの合成樹脂などを、単独で又は混合して用いることができる。特に、接着耐久性の観点から硬化型の接着剤を用いるのが好ましい。
【0027】
硬化型の接着剤としては、例えば、水酸基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基などの反応基を具備する、所謂架橋性を有するポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン酢酸ビニル系樹脂などが、自己架橋するか、又はイソシアネート系、エポキシ系などの架橋剤と架橋し、硬化型となるものが有用である。中でも、ポリウレタン系接着剤が柔軟性に富み、かつ透湿性にも優れているので特に好ましい。
【0028】
本発明では、このように接着剤として種々のものが適用可能であるが、本発明の効果を鑑みれば、ポリアミド系接着剤が有用である。これは、当該接着剤を用いることにより、透湿防水性布帛がポリアミド系組成物から構成されることになり、結果、廃棄後の再利用において一段と有利となるからである。
【0029】
ポリアミド系接着剤としては、例えば、マレイン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのジカルボン酸や、タール油脂肪酸を重合するなどして得るダイマー酸などを酸成分とし、他方、1,4−ブタンジアミン、1,6ヘキサメチレンジアミン、1,8ジアミノオクタン、1,12ジアミノドデカンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、イソフォロンジアミンなどの環式ジアミン、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミンなどのポリオキシアルキレンジアミンなどをアミノ成分として、両成分を縮合重合して得た重合体などがあげられる。
【0030】
また、接着剤の種類としては、特に限定されるものでなく、溶液型、ホットメルト型のいずれも採用可能である。溶液型の場合、接着剤粘度は500〜5000mPa・s(25℃)であるのが好ましく、グラビアロールやコンマコータなどの塗布手段にて、布帛又はエラストマーフィルムの表面に所定の接着剤を塗布すればよい。塗布後は、ラミネート機を用いて両者を圧着又は熱圧着するなどして貼り合わせればよい。他方、ホットメルト型の場合は、融点や溶融状態での粘性を考慮し、80〜200℃程度の温度で接着剤を溶融させ、次に、布帛又はエラストマーフィルムの表面にこれを塗布すればよい。塗布後は、ラミネート機などを用い必要に応じ冷却しつつ両者を圧着すればよい。
【0031】
接着剤は、必ずしも布帛又はエラストマーフィルムの表面に全面状に塗布されている必要はなく、目的に応じて部分状に塗布されていてもよい。接着剤を全面状に塗布することは、透湿防水性布帛の剥離強度向上に有利であり、部分状に塗布することは透湿防水性布帛の透湿性能、風合いの向上に有利である。いずれの態様を採用するかは、目的に応じて選択すればよいことである。
【0032】
ここで、部分状の形態を例示すると、点状、線状、市松模様、亀甲模様などがあげられるが、本発明ではこれらに限定されず、任意の形態が採用できることはいうまでもない。また、部分状の模様は均一、不均一のいずれであってもよい。
【0033】
そして、部分状の形態を採用する場合、接着剤の占有面積は、塗布面全面積に対し10〜60%が好ましい。占有面積が10%未満になると、接着剤の厚みを厚くしても接着力が不十分となり、結果、剥離強度が低下しやすくなり、一方、60%を超えると、接着力は十分であるものの、透湿性能や風合いが低下することがあり、いずれも好ましくない。なお、接着剤の占有面積を増やしつつ透湿防水性布帛の透湿性能や風合いを良好に保つには、透湿性能がありソフト感に優れる接着剤を使用するのが好ましく、この場合、ポリウレタン系接着剤が好適である。
【0034】
また、接着剤の好ましい厚みとしては、接着剤の占有面積や布帛の表面形態にも多少左右されるが、一般には5〜100μm程度が適当である。接着剤の厚みが5μm未満では剥離強度が低下する傾向にあり、100μmを超えると透湿性能、風合いが低下する傾向にあり、いずれも好ましくない。
【0035】
本発明の透湿防水性布帛は、このようにポリアミド繊維から構成される布帛の片面に、接着剤を介して、ポリアミド系エラストマーフィルムが積層されるという構成を有するものであるが、得られる透湿防水性布帛の用途が防寒衣料、スポーツ衣料、カジュアル衣料と多岐に渡る点を考慮すると、ポリアミド繊維から構成される布帛が撥水加工されていることが好ましい。
【0036】
撥水加工には、一般に撥水剤エマルジョンを用いる。撥水剤エマルジョンとしては、フッ素系撥水剤エマルジョン、ポリシロキサン系撥水剤エマルジョン、パラフィン系撥水剤エマルジョンなどが使用できる。中でも撥水耐久性の観点からフッ素系撥水剤エマルジョンが好ましく使用できる。特に、環境保全の観点から、フッ素系撥水剤中にパーフルオロオクタン酸が残留し難い、又はフッ素系撥水剤から経時的にパーフルオロオクタン酸が生成し難いものが、より好ましい。この理由は、パーフルオロオクタン酸は難分解性で、残留して環境を汚染することがあるからである。このようなフッ素系撥水剤の代表的なものに、側鎖に炭素数1〜6パーフルオロアルキル基を有するアクリレート組成物を重合して得られたものがある。具体例として、旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E061(商品名)」、「アサヒガードAG−E081(商品名)」、「アサヒガードAG−E092(商品名)」ダイキン工業株式会社製「ユニダインTG−5521(商品名)」、「ユニダインTG−5601(商品名)」などがある。
【0037】
撥水加工は、上記撥水剤エマルジョンのみを用いて行われてもよいが、撥水剤エマルジョンとの相溶性向上や接着剤との接着力向上の観点から、架橋剤を併用するのが好ましく、中でもイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤などが好適である。特にイソシアネート系架橋剤は、混合溶液のポットライフや加工工程を安定に保つことができる点で有利である。イソシアネート系架橋剤には、アセトオキシム、フェノール、カプロラクタムなどでブロックした熱解離タイプのブロックイソシアネート組成物などがある。一方、エポキシ系架橋剤には、炭素数50以下の直鎖状グリシジルエーテル系組成物などがあり、グリシジルエーテル系組成物は、水に対する溶解性に優れている点で有利である。これらの好ましい架橋剤の具体例として、明成化学工業株式会社製「メイカネートMF(商品名)」、「メイカネートTP−10(商品名)」、「メイカネートWEB(商品名)」、「NBP−211(商品名)」、ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX811(商品名)」、「デナコールEX821(商品名)」、「デナコールEX841(商品名)」、「デナコールEX851(商品名)」などがある。
【0038】
布帛を撥水加工する手段としては、従来公知の方法が採用できる。すなわち、撥水剤エマルジョン又は撥水剤エマルジョンと架橋剤との混合溶液に布帛を浸漬する、あるいは布帛表面に前記撥水剤エマルジョン又は混合溶液を塗布して、それぞれ後に乾燥、キュアリングする方法が採用できる。具体的には、パディング法、コーティング法、グラビアコーティング法、スプレー法などが好適である。例えば、パディング法では、撥水剤エマルジョンに布帛を浸漬した後、マングルで絞ることで所定の付与量に調整し、乾燥、キュアリングすし、両面に撥水加工が付された布帛を得ることができる。また、グラビアコーティング法では、高メッシュのグラビアロールを用いて、片面のみに撥水剤エマルジョンを付着させ、乾燥、キュアリングすることで片面のみに撥水加工が付された布帛を得ることができる(以下、撥水加工が付された布帛のことを、単に「撥水加工布帛」ということがある)。
【0039】
ここで、撥水加工の具体的な条件を例示する。まず、撥水剤エマルジョン及び架橋剤の合計付与量としては、布帛全質量に対し固形分換算で0.1〜3質量%が好ましく、0.3〜2質量%がより好ましい。付与量が0.1質量%未満になると、布帛に十分な撥水性能を付与し難く、一方、3質量%を超えると、得られる透湿防水性布帛の風合いが硬化しやすく、また、接着性や透湿性能に悪影響を及ぼすこともあり、いずれも好ましくない。
【0040】
また、撥水剤エマルジョンと架橋剤とを併用する場合、架橋剤の固形分比率としては全固形分に対し5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。5質量%未満では接着力が向上し難く、50質量%を超えると、風合いや堅牢度が低下しやすく、いずれも好ましくない。
【0041】
そして、乾燥は、80〜150℃の温度で30秒〜5分間、キュアリングは、150〜180℃の温度で30秒〜3分間程度行うのがよい。乾燥は、撥水剤エマルジョン又は混合溶液を布帛に付与した後行うのが一般的であるが、キュアリングは、布帛乾燥後であればどのような段階で行ってもよい。例えば、架橋剤として前記したブロックイソシアネート組成物を、接着剤として反応型の水酸基又はカルボキシル基などの反応基を具備するポリウレタン系接着剤やポリアミド系接着剤を選択したときは、キュアリングをフィルム積層後に行うのがよい。これはキュアリングの熱により、架橋剤を熱解離させることができるからであり、これにより、透湿防水性布帛の剥離強度向上が期待できる。
【0042】
さらに、着用時のベタツキ感低減や縫製工程の簡略化を図る目的から、本発明の透湿防水性布帛には、前記ポリアミド系エラストマーフィルム表面に裏地を積層してもよい。
【0043】
裏地には、基本的に布帛と同様のものが用いられる。特に、コスト、風合い、軽量性及びシームテープ接着性などの観点から、好ましくはトータル繊度15〜78dtex、より好ましくは15〜44dtexのポリアミド繊維糸条を用いて構成されたものが好ましく選択される。シームテープとは、縫製品の縫い目に防水目的で貼合する接着テープのことであり、上記裏地を積層すると、シーリング部分の防水性能とその耐久性とを同時に向上させることができ、併せて透湿防水性布帛を廃棄後再利用する点からも有利である。
【0044】
フィルムに裏地を積層する手段としては、接着剤を介して積層する既述の方法を準用すればよい。
【0045】
このように、本発明の実施態様には、2枚の布帛の間にポリアミド系エラストマーフィルムを有し、かつそれぞれが接着剤により貼合されている態様が含まれる。
【0046】
本発明は、以上のような構成を有するものであり、優れた透湿性能、防水性能を有しながら、環境保全にも配慮した透湿防水性布帛を提供することができる。
【0047】
ここで、透湿防水性能について具体的に述べておく。まず、防水性能の指標たる耐水圧としては、50kPa以上が好ましく、100kPa以上がより好ましい。一方、透湿性能の指標たる透湿度としては、3000g/m・24hrs以上が好ましく、5000g/m・24hrs以上がより好ましい。耐水圧はJIS L1092(高水圧法)、透湿度はJIS L1099A−1法(塩化カルシウム法)にそれぞれ準じて測定されるものである。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例及び比較例にかかる諸物性は、下記手段に準じて測定した。
1.剥離強度
JIS L−1089法に準じて、布帛と接着剤間又は接着剤と裏地間の経方向の剥離強度を測定した。
2.外観変化
恒温恒湿器を用いて、60×90%RHの環境下において、各試料を他の試料と触れないようフリー状態で吊り下げ、1週間後の外観変化を観察した。
【0049】
(実施例1)
経糸、緯糸の双方に、ナイロン6マルチフィラメント78dtex68fを用いて、経糸密度110本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの平組織織物を製織した。
【0050】
製織後、精練剤(日華化学株式会社製「サンモールFL(商品名)」)を1g/L用いて、織物を80℃で20分間精練し、酸性染料(日本化薬株式会社製「Kayanol Milling Blue 2RW(商品名)」)1%omf、均染剤(丸菱油化株式会社製「レベランNKD(商品名)」)2%omf、酢酸(48%)0.2mL/L含む染浴で織物を100℃で20分間染色した。続いて、フィックス剤(日華化学株式会社製「サンライフE−37(商品名)」)を1%omf用いて、80℃で20分間フィックスした後、170℃で1分間ファイナルセットし、布帛を得た。得られた布帛の目付けは、70.7g/mであった。
【0051】
その後、下記処方1の5%水分散液をパディング法(ピックアップ率40%)にて、上記布帛に付与した後、120℃で2分間乾燥した後、170℃で40秒間キュアリングし、撥水加工布帛を得た。この布帛の目付けは、71.0g/mであった。
【0052】
(処方1)
フッ素系撥水剤エマルジョン(旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E061(商品名)」、固形分20質量%) 50質量部
イソプロピルアルコール 10質量部
水 940質量部
【0053】
一方、ナイロン6からなる樹脂重合体を温度230℃でTダイより溶融押出した後、冷却することにより、厚み約30μmの未延伸フィルムを得た。続いて、これを温度190℃で縦方向に2.0倍、横方向に2.2倍に同時二軸延伸し、200℃で5秒間熱処理して、厚み6〜8μmのエラストマーフィルムを得た。このフィルムの目付けは、8.0g/mであった。
【0054】
次に、ホットメルト型接着剤として、一液湿気硬化型反応性ポリウレタン樹脂(DIC株式会社製「タイフォースWT−003(商品名)」)を用意し、これを125℃で溶融した後(溶融粘度1900mPa・s(25℃))、24メッシュのドット状グラビアロール(直径0.6mm、深度0.06mm)を用いて、前記撥水加工布帛の表面に、樹脂の占有面積が塗布面全面積に対し約25%となるよう樹脂を部分状に約10g/m塗布した。このとき、樹脂の最大厚みは40μmであった。
【0055】
そして、自然冷却後、圧力300kPaでこの上から上記エラストマーフィルムを積層し、30℃で3日間エージングして、本発明の透湿防水性布帛を得た。得られた透湿防水性布帛の目付けは、89.5g/mであった。
【0056】
(実施例2)
ハードセグメントとしてナイロン11及びナイロン12を含有し、ソフトセグメントとしてポリエチレングルコールを含有するポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ株式会社製、「Pevax MV3000(商品名)」)を用意し、これを、温度250℃でTダイより溶融押出した後、冷却しながら縦方向に延伸することで、厚み9〜10μmのエラストマーフィルムを得た。このフィルムの目付けは、9.7g/m2であった。
【0057】
次に、ポリウレタン系接着剤として、下記処方2に示す組成の2液タイプのものを用意し(固形分40質量%、粘度1500mPa・s(25℃))、24メッシュのドット状グラビアロール(直径0.6mm、深度0.15mm)を用いて、前記エラストマーフィルムの表面に、接着剤の占有面積が塗布面全面積に対し約25%となるよう接着剤を部分状に25g/m塗布した。
【0058】
そして、130℃で2分間乾燥した。このとき、接着剤の最大厚みは35μmであった。その後、キュアリングを省く以外実施例1と同一の方法で得た撥水加工布帛を用意し、ゲージ圧力300kPaで前記接着剤の上から当該撥水加工布帛を積層した後、150℃で3分間キュアリングして、本発明の透湿防水性布帛を得た。得られた透湿防水性布帛の目付けは、91.2g/mであった。
【0059】
(処方2)
ポリウレタン樹脂溶液(セイコー化成株式会社製「ラックスキンUD-108(商品名)」) 100質量部
イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製「コロネートHL(商品名)」) 5質量部
メチルエチルケトン 15質量部
トルエン 15質量部
【0060】
(実施例3)
処方1に代えて下記処方3の水分散液を用いること、及びキュアリングを省略すること以外は、実施例1と同一の方法で撥水加工布帛を得た。この布帛の目付けは、71.1g/mであった。
【0061】
(処方3)
フッ素系撥水剤エマルジョン(旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E061(商品名)」、固形分20質量%) 50質量部
イソシアネート系架橋剤(明成化学工業株式会社製「メイカネートWEB(商品名)」) 10質量部
イソプロピルアルコール 10質量部
水 930質量部
【0062】
次に、実施例2で使用したエラストマーフィルムを用意し、それ以降は実施例2に準じて当該フィルム表面に上記撥水加工された布帛を積層し、本発明の透湿防水性布帛を得た。得られた透湿防水性布帛の目付けは、91.3g/mであった。
【0063】
(実施例4)
経糸、緯糸の双方に、ナイロン11マルチフィラメント78dtex34fを用いて、経糸密度110本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの平組織織物を製織し、その後、酸性染料として住友化学株式会社製「Suminol Milling Red RS(125%)(商品名)」を1%omf使用すること、織物を130℃で30分間染色すること、及び160℃で1分間ファイナルセットすること以外は、実施例1と同一の方法で布帛を得た。得られた布帛の目付けは、64.4g/mであった。
【0064】
次に、下記処方4の6%水分散液をパディング法(ピックアップ率35%)にて、上記布帛に付与した後、120℃で2分間乾燥した後、160℃で1分間キュアリングし、撥水加工布帛を得た。この布帛の目付けは、64.6g/mであった。
【0065】
(処方4)
フッ素系撥水剤エマルジョン(旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E061(商品名)」、固形分20質量%) 60質量部
イソプロピルアルコール 10質量部
水 930質量部
【0066】
続いて、実施例2で使用したエラストマーフィルムと、ホットメルト型接着剤として、ナイロン11及びナイロン12を含有するポリアミド系樹脂(アルケマ(株)製「プラタミドH2513(商品名)」)とを用意した。そして、前記ポリアミド系樹脂を150℃で溶融した後(溶融粘度2500mPa・s(25℃))、実施例1に準じてこれをフィルム表面に塗布すると共に以降も実施例1と同様に行い、本発明の透湿防水性布帛を得た。得られた透湿防水性布帛の目付けは、86.2g/mであった。
【0067】
(実施例5)
処方4に代えて下記処方5の水分散液を用いること、及びキュアリングを省略すること以外は、実施例4と同一の方法で撥水加工布帛を得た。この布帛の目付けは、71.1g/mであった。
【0068】
(処方5)
フッ素系撥水剤エマルジョン(旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−E061(商品名)」、固形分20質量%) 60質量部
エポキシ系架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX851(商品名)」) 15質量部
イソプロピルアルコール 10質量部
水 915質量部
【0069】
以降は、実施例4に準じて実施例2で使用したエラストマーフィルムに前記撥水加工布帛を積層し、130℃で10分間キュアリングして、本発明の透湿防水性布帛を得た。得られた透湿防水性布帛の目付けは、84.4g/mであった。
【0070】
(実施例6)
ナイロン6マルチフィラメント22dtex7fを用いて、28ゲージのトリコット地を編成し、実施例1の場合と同様に精練し、目付け27.7g/mの裏地用布帛を得た。
【0071】
次に、実施例4で得た透湿防水性布帛を用意し、実施例4においてフィルム表面に撥水加工布帛を積層したときの方法を準用して、透湿防水性布帛におけるエラストマーフィルムの表面に前記裏地用布帛を積層し、本発明の透湿防水性布帛を得た。得られた透湿防水性布帛の目付けは、123.0g/mであった。
【0072】
(比較例1)
経糸、緯糸の双方に、ポリエステルマルチフィラメント83dtex72fを用いて、経糸密度110本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの平組織織物を製織した。
【0073】
製織後、精練剤(日華化学株式会社製「サンモールFL(商品名)」)を1g/L用いて、織物を80℃で20分間精練し、酸性染料(日本化薬株式会社製「Kayanol Microester Blue AQ−LE(商品名)」)1%omf、分散剤(日華化学株式会社製「ニッカサンソルトSN130(商品名)」)2%omf、酢酸(48%)0.2mL/L含む染浴で織物を130℃で30分間染色した。続いて、還元剤(一方社株式会社製「ビスノールP−55(商品名)」)を5g/L用いて、80℃で20分間還元洗浄した後、170℃で1分間ファイナルセットし、布帛を得た。得られた布帛の目付けは、83.0g/mであった。
【0074】
以降は、実施例1と同一の方法で撥水加工布帛(目付け83.5g/m)を得た後、同じく実施例1と同一の方法で透湿防水性布帛を得た(目付け101.5g/m)。
【0075】
(比較例2)
実施例4で使用した撥水加工布帛の表面に、コンマコータを用いて、下記処方6の微多孔膜形成用樹脂溶液(固形分23%、粘度15000mPa・s(25℃))を全面状に100g/m塗布した。このとき、樹脂の厚みは約50μmであった。
【0076】
その後、20℃の水に1分間浸漬して樹脂を凝固し、40℃のオーバーフロー温水で5分間湯洗した後、風乾し、170℃で1分間熱処理して透湿防水性布帛を得た(目付け91.1g/m)。
【0077】
(処方6)
ポリウレタン樹脂溶液(セイコー化成株式会社製「ラックスキンUJ8517(商品名)」、固形分27質量%) 100質量部
シリカ含有ポリウレタン樹脂溶液(セイコー化成株式会社製「ラックスキンUJ8518M(商品名)」、固形分21%) 25質量部
イソシアネート系架橋剤(大日精化工業株式会社製「レザミンX(商品名)」) 2質量部
N,N−ジメチルホルムアミド 25質量部
【0078】
【表1】

【0079】
本発明の透湿防水性布帛は、透湿防水性能に優れ、廃棄後再利用することのできるものである。特に、実施例4〜6で得られた透湿防水性布帛は、軽量性と共にバイオマス素材を使用している点で有用である。また、実施例6にかかる透湿防水性布帛は、裏地を具備するものの、肉厚感の少ないものであり、着用性向上が期待できるものであった。
【0080】
対して、比較例1では、フィルム表面に斑状の青みがかった汚れが認められた。比較例2では、優れた透湿防水性能は認められるが、肉厚感が強く、用途展開に限りがあるという点で問題が残った。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド繊維から構成される布帛の片面に、接着剤を介して、ポリアミド系エラストマーフィルムが積層されていることを特徴とする透湿防水性布帛。
【請求項2】
前記ポリアミド系エラストマーフィルムが、ハードセグメントとソフトセグメントとを具備するポリエーテルブロックアミド共重合体から構成され、ハードセグメントとしてナイロン6、ナイロン11、ナイロン12を単独で又は混合して用いてなり、ソフトセグメントとしてポリアルキレングリコールを用いてなることを特徴とする請求項1記載の透湿防水性布帛。
【請求項3】
前記接着剤がポリアミド系接着剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の透湿防水性布帛。
【請求項4】
前記ポリアミド繊維から構成される布帛が撥水加工されていることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の透湿防水性布帛。
【請求項5】
前記ポリアミド系エラストマーフィルムと裏地とが接着剤を介して積層されていることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の透湿防水性布帛。


【公開番号】特開2011−37101(P2011−37101A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185718(P2009−185718)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】