説明

透過光照明を用いた光学観察装置および光学観察方法

【課題】 テレセントリックレンズのような特殊なレンズを使用することなく、低倍率でケラレを生じることなく、広範囲に亘る観察を行うことができる光学観察装置および光学観察方法を提供する。
【解決手段】
照明光7を発する点光源16を有する光源装置6と、照明光7を平行光にする第1の凸レンズ4と、第1の凸レンズ4からの平行光を集光して、細胞培養を行うディッシュ等の観察対象物13に照射する第2の凸レンズ5とを設け、更に観察対象物13の像を形成するための結像用レンズ14と、形成される像を撮像するCCD等からなる撮像素子15を設ける。この装置では、点光源16から発せられた照明光7は、第2の凸レンズ5によって結像光学系の開口絞り面の中心位置C(結像用レンズ14の中心)に集光する。即ち、照明光の直接光9は、結像光学系の主光線8と一致しているので、結像領域Lの全てにおいて明るい画像が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過光照明を用いた光学観察装置および光学観察方法関し、より詳細には、観察対象を安価でかつ低倍率で広範囲に亘って観察し得る光学観察装置および光学観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞などの位相物体の観察、半透明体の光の透過率の観察、非透明体の形状観察等を行う場合の照明法として、平行光照明を用いる方法や点光源を用いる方法がある(例えば、特許文献1、2)。これらの照明方法の特徴は、各観察対象位置には1方向からのみ照明光が照射されることである。この照明方法によれば、観察対象物の形状を明瞭に観察することができ、影を明瞭に生成させることが可能である。また、細胞観察の分野では、デフォーカス法によって透明な細胞の位相情報の観察を行うことができる。
【0003】
図5(a)は、平行光照明を用いる方法を示しており、また、図5(b)は点発光照明を用いる方法を示している。図5(a)および(b)では、何れも細胞などの観察対象物13の像は、結像光12が結像用レンズ14によって撮像素子15上に集光することにより形成される。また、図5(a)では、平行照明光11が照明光として使用されており、この平行照明光11は観察対象物13に照射され、結像用レンズ14によって集光した後、更に発散しながら撮像素子15に到達する。一方、図5(b)では、点発光照明16から発せられる拡散光が照明光17として使用されており、この照明光17は観察対象物13に照射され、図5(a)と同様に結像用レンズ14によって集光した後、更に発散しながら撮像素子15に到達する。
【0004】
しかし、上記観察方法を用いて、例えば細胞培養などを行うための容器(ディッシュ、シャーレ、Tフラスコ)の全体を広視野かつ低倍率で観察する場合、図5(a)および(b)に示すように、照明像は矢印Lで示すように撮像素子15の一部の領域にのみ形成されるため、撮像素子15の全体に均一な明るさで観察対象物の像を形成することができず、ケラレが生じることとなる。このようなケラレの発生を防止するためには、大きなレンズを使用しなければならなず、そのために観察装置全体が大きくなり、しかも高価なものになるという問題点がある。
【0005】
また、これらの点を解決するものとして、図6に示すテレセントリックレンズと平行照明光とを使用する方法がある(例えば、オプトアート社のTC-4M-04など)。図6に示すように、両側テレセントリックレンズ50は2つの凸レンズ51、52の間に開口絞り53が設けられた構造を有し、平行照明光11は観察対象物13に照射された後、凸レンズ51により集光されて開口絞り53を通過する。また、結像光12も凸レンズ51を通過した後、開口絞り53を通過する。開口絞り53を通過した照明光は、凸レンズ52によって再び平行光となって撮像素子15まで到達する。一方、開口絞り53を通過した結像光12は、凸レンズ52を通過した後、撮像素子15上に像を形成することになる。このような特殊なテレセントリックレンズと平行照明光とを使用する方法では、照明光の直接光と結像光学系の主光線とが一致し、観察対象物13に平行な照明光が照射される点が特徴となっている。しかしながら、上記構成では、特殊なレンズであるテレセントリックレンズを使用しなければならないという問題点がある。
【0006】
更に、撮像素子15を使用せずに目視で観察を行う場合、上記平行光照明を用いる図5(a)、点発光照明を用いる図5(b)、テレセントリックレンズを用いる図6の方法においては、人間の目の水晶体を結像用レンズ14の位置に置くことになるが、この場合に水晶体を大きくすることができないため、目視での観察時にもケラレが発生してしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−235540号公報(図1)
【特許文献2】特開2007−275030号公報(図4、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑みて為されたものであり、本発明の目的は、テレセントリックレンズのような特殊なレンズや大きなレンズを使用することなく、また、低倍率でケラレを生じることなく広範囲の画像を得ることができ、またケラレを生じることなく広範囲の目視観察を行うことができる光学観察装置および光学観察方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光学観察装置は、光源と、該光源から発せられた照明光を収束光として観察対象物に照射する照明光学系と、観察対象物の像を形成する結像光学系とを備えた光学観察装置であって、前記照明光学系からの前記照明光の直接光と、前記結像光学系の主光線とが一致していることを特徴とする。
【0010】
このように、照明光の直接光と、結像光学系の主光線とを一致させることにより、観察対象物の像が結像する領域の全てに照明光が到達するため、低倍率、広視野で観察を行った場合にも、照明像ケラレは発生しない。また、従来の図5(a)および(b)に示す平行光照明、点発光照明を用いた照明方法と同様に、各観察対象位置には一方向からのみ照明光が照射されるため、観察対象物の形状を明瞭に観察し、影を明瞭に生成することができるという特徴をも有している。
【0011】
ここで、前記照明光学系は、1以上のレンズ、又は1以上の凹面鏡を用いて構成することが可能である。
【0012】
また、上記発明は、前記観察対象物が細胞等の位相物体である場合にも、適用することができる。
【0013】
本発明の光学観察方法は、光源と、該光源から発せられた照明光を収束光として観察対象物に照射して、結像光学系により観察対象物の像を形成する光学観察方法であって、前記照明光の直接光と、前記結像光学系の主光線とが一致していることを特徴とする。
【0014】
このように、照明光の直接光と、結像光学系の主光線とを一致させることにより、低倍率、広視野で観察を行った場合の照明像ケラレは発生しない。また、従来の照明方法と同様に、観察対象物の形状を明瞭に観察し、影を明瞭に生成することができるという特徴をも有している。
【0015】
上記発明は、前記観察対象物が細胞等の位相物体である場合にも、適用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光学観察装置および光学観察方法では、照明光の直接光と、結像光学系の主光線とが一致するように構成されているので、低倍率、広視野で観察を行った場合もケラレを生じることがない。これにより、細菌、細胞等の培養に使用されるディッシュ等における培養の様子を広範囲に亘って観察することが可能である。また、本発明の光学観察装置は、テレセントリックレンズのような特殊なレンズや広い視野を確保するための大きなレンズを使用する必要もなく、一般的なマクロレンズを用いて作製することも可能である。更に、目視観察を行う場合にも、ケラレを生ずることなく広視野で観察を行うことができる。これにより、ディッシュ等における培養の様子を広範囲に亘って撮影及び目視観察を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学観察装置の概略構成図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る光学観察装置の概略構成図である。
【図3】本発明に係る図1の光学観察装置を用いて、細胞培養を行ったディッシュを観察した場合の写真である。
【図4】図5(a)従来の照明方法を用いて、図3と同じディッシュを観察した場合の写真である。
【図5】(a)は平行光照明を用いる従来の照明方法を示し、(b)は点発光照明を用いる従来の照明方法を示す説明図である。
【図6】テレセントリックレンズを用いた照明方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら以下に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る光学観察装置の概略構成を示している。本実施形態の光学観察装置は、顕微鏡のように高倍率で狭い範囲を観察するのではなく、細胞培養を行うディッシュ等における広い範囲を低倍率で観察するのに使用される。本実施形態の光学観察装置は、照明光7を発する点光源16を有する光源装置6と、照明光7を平行光にする第1の凸レンズ4と、第1の凸レンズ4からの平行光を集光して、細胞培養を行うディッシュ等の観察対象物13に照射する第2の凸レンズ5とを有している。また、本実施形態の光学観察装置は、観察対象物13の像を形成するための結像用レンズ14と、形成される像を撮像するCCD等からなる撮像素子15を備えている。本実施形態では、観察対象物13は第2の凸レンズ5と結像用レンズ14との間に位置している。
【0020】
本実施形態の光学観察装置では、まず、点光源16から発せられた照明光7は、第1の凸レンズ4により平行光となる。この平行光は、第2の凸レンズ5によって、結像光学系の開口絞り面の中心位置C、即ち結像用レンズ14の中心に収束するように集光される。このように第2の凸レンズ5によって集光される照明光7は、結像用レンズ14に至る途中で観察対象物13に照射されることになる。結像用レンズ14の中心位置Cを通過した照明光7は、発散しながら撮像素子15まで到達することになる。一方、本実施形態の光学観察装置においては、観察対象物13から出た結像光12は、結像用レンズ14により撮像素子15上に到達して像を形成する。
【0021】
ここで、一例として、第2の凸レンズ5を介して観察対象物13の観察点13aに照射される照明光7aに着目する。観察対象物13の観察点13aを透過した照明光7aのうち、拡散せずに直進する直接光9は、結像用レンズ14の中心位置Cを通過し、更に撮像素子15まで到達する。一方、観察対象物13の観察点13aの像を形成する結像光の主光線8も、結像用レンズ14の中心位置Cを通過した後、撮像素子15まで到達する。このように、本実施形態の光学観察装置では、照明光7aの直接光9は、結像光学系の主光線8と一致している(図1では、直接光9と主光線8とが重複して画かれている)ことが特徴となっている。このような照明光の直接光と結像光学系の主光線との一致は、撮像素子15に画像が形成される全ての領域Lで生じており、これにより、広い視野の範囲において明るい画像が得られることになる。従って、本実施形態の光学観察装置を使用すれば、テレセントリックレンズのような特殊なレンズを使用することなく、低倍率で観察を行った場合もケラレを生じることはなく、例えば細菌、細胞等の培養に使用されるディッシュの様子を広範囲に亘って観察することが可能となる。
【0022】
図1の光学観察装置を用いて人間の目により目視観察を行う場合は、人間の目の水晶体が結像用レンズ14の位置となり、撮像素子15が目の網膜に相当することとなる。従って、目視観察の場合には人間の目の水晶体および網膜が結像光学系を構成することとなる。このような目視観察を行う場合にも、Lで示す領域の全体においてケラレを生じることはなく、ディッシュ等の様子を広範囲に亘って観察することが可能である。
【0023】
図3は、実際の細胞培養に使用されるディッシュについて、図1に示す実施形態の光学観察装置を使用して観察を行った場合の写真であり、図4は、前述の図5(a)に示す従来の照明方法を使用して上記と同じディッシュについて観察を行った場合の写真である。図3および図4の写真における倍率は、何れも0.5倍である。図3および図4の比較から、図4の従来の照明方法では、ディッシュの画像の周囲にケラレが発生し、視野が狭くなっていることが分かる。これに対して、図3に示すように、本実施形態の光学観察装置を使用した場合、ケラレの発生はなく、ディッシュの広範囲に亘る部分の画像を得ることができることが分かる。
【0024】
図2は、本発明の他の実施形態に係る光学観察装置の概略構成を示している。本実施形態の光学観察装置も、顕微鏡のように高倍率で狭い範囲を観察するのではなく、細胞培養を行うディッシュ等における広い範囲を低倍率で観察するのに使用される。本実施形態の光学観察装置は、透過照明光7を発する点光源16を有する光源装置6と、照明光7を平行光にする第1の放物面鏡24と、第1の放物面鏡24からの平行光を集光して、細胞培養を行うディッシュ等の観察対象物13に照射する第2の放物面鏡25とを有している。また、本実施形態の光学観察装置には、前述と同様に、観察対象物13の像を形成するための結像用レンズ14と、形成される像を撮像するCCD等からなる撮像素子15も設けられている。
【0025】
本実施形態の光学観察装置では、まず、点光源16から発せられた照明光7は、第1の放物面鏡24により曲げられて平行光となる。この平行光は、第2の放物面鏡25によって更に曲げられ、結像光学系の開口絞り面の中心位置C、即ち結像用レンズ14の中心に収束するように集光される。このように第2の放物面鏡25によって集光される照明光7は、結像用レンズ14に至る途中で観察対象物13に照射されることになる。結像用レンズ14の中心位置Cを通過した照明光7は、発散しながら撮像素子15まで到達する。本実施形態の光学観察装置においても、観察対象物13から出た結像光12は、結像用レンズ14により撮像素子15上に到達して像を形成する。
【0026】
ここで、一例として、第2の放物面鏡25を介して観察対象物13の観察点13aに照射される照明光7aに着目する。観察点13aを透過した照明光7aのうち、拡散せずに直進する直接光9は、図1の場合と同様に、結像用レンズ14の中心位置Cを通過し、更に撮像素子15まで到達する。一方、観察対象物13の観察点13aの像を形成する結像光の主光線8も、結像用レンズ14の中心位置Cを通過した後、撮像素子15まで到達する。このように、本実施形態の光学観察装置においても、照明光7aの直接光9は、結像光学系の主光線8と一致している(図2では、直接光9と主光線8とが重複して画かれている)ことが特徴となっている。このような照明光の直接光と結像光学系の主光線との一致は、撮像素子15に画像が形成される全ての領域Lで生じており、これにより、広い視野の範囲において明るい画像が得られることになる。従って、本実施形態の光学観察装置を使用すれば、テレセントリックレンズのような特殊なレンズを使用することなく、低倍率で観察を行った場合もケラレを生じることはなく、例えば細菌、細胞等の培養に使用されるディッシュの様子を広範囲に亘って観察することが可能となる。
【0027】
図2の光学観察装置を用いて人間の目により目視観察を行う場合、本実施形態においても人間の目の水晶体が結像用レンズ14の位置となり、撮像素子15が目の網膜に相当し、人間の目の水晶体および網膜が結像光学系を構成することになる。このような目視観察を行う場合にも、結像領域の全体においてケラレを生じることはなく、ディッシュ等の様子を広範囲に亘って観察することが可能である。
【0028】
なお、図1の光学観察装置においては、第1の凸レンズ4、第2の凸レンズ5として両凸レンズを使用しているが、平凸レンズを使用してもよい。さらに装置の軽量化を図るためにフレネルレンズを使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の光学観察装置および光学観察方法は、低倍率で観察を行った場合もケラレを生じることはなく、広い視野で明るい画像を得ることができるので、バイオ関連機器、特に画像処理を行うバイオ関連機器の分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0030】
4 第1の凸レンズ
5 第2の凸レンズ
6 光源装置
7 照明光
7a 照明光
8 主光線
9 直接光
12 結像光
13 観察対象物
13a 観察点
14 結像用レンズ
15 撮像素子
16 点光源
24 第1の放物面鏡
25 第2の放物面鏡
C 結像光学系の開口絞り面の中心位置(結像用レンズ14の中心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、該光源から発せられた照明光を収束光として観察対象物に照射する照明光学系と、観察対象物の像を形成する結像光学系とを備えた光学観察装置であって、
前記照明光学系からの前記照明光の直接光と、前記結像光学系の主光線とが一致していることを特徴とする光学観察装置。
【請求項2】
前記観察対象物が位相物体である請求項1に記載の光学観察装置。
【請求項3】
光源と、該光源から発せられた照明光を収束光として観察対象物に照射して、結像光学系により観察対象物の像を形成する光学観察方法であって、前記照明光の直接光と、前記結像光学系の主光線とが一致していることを特徴とする光学観察方法。
【請求項4】
前記観察対象物が位相物体である請求項3に記載の光学観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−81082(P2011−81082A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231645(P2009−231645)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構iPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発/iPS細胞等幹細胞の選別・評価・製造技術等の開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】