説明

透過型電子顕微鏡グリッド、及び該透過型電子顕微鏡グリッドに用いられるグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体

【課題】本発明は、透過型電子顕微鏡グリッド、及び該透過型電子顕微鏡グリッドに用いられるグラフェンシートーカーボンナノチューブフィルム複合構造体に関するものである。
【解決手段】本発明の透過型電子顕微鏡グリッドは、支持体及び該支持体に被覆された少なくとも一つのグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を含む。前記支持体の少なくとも一つの穿孔は、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体の一部で被覆され、該グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体は、少なくとも一つのカーボンナノチューブ構造体及び該カーボンナノチューブ構造体に被覆された少なくとも一つの官能性グラフェンシートを含み、前記カーボンナノチューブ構造体は少なくとも一つの微孔を有し、且つ該微孔が前記官能性グラフェンシートで被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡グリッド、及び該透過型電子顕微鏡グリッドに用いられるグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM)は、より微小な試料の観察と分析に対して、非常に重要な器具である。前記透過型電子顕微鏡により、薄い試料の高解像度の画像及び材料の分析を提供することができる。前記透過型電子顕微鏡において、透過型電子顕微鏡グリッドは、試料を載せることができる。前記透過型電子顕微鏡グリッドは、銅又はニッケルなどの金属からなるグリッドと、該金属グリッドを被覆した有機多孔膜材料と、前記有機多孔膜材料を被覆したアモルファスカーボン膜と、を含む。しかしながら、TEMでサイズが非常に微小なナノ粒子を観察する場合に、前記アモルファスカーボン膜の生じるバックグラウンドノイズが高い。
【0003】
カーボンナノチューブフィルムを利用した透過型電子顕微鏡グリッドは特許文献1に開示されている。特許文献1において、前記カーボンナノチューブフィルムは金属グリッドの表面に設置される。該透過型電子顕微鏡グリッドを使用する場合、試料が前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの側壁に吸着される。従って、TEMで前記試料を観察する場合に、前記試料は前記モルファスカーボン膜の生じるバックグラウンドノイズに影響されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第20080237464号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第101239712号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第101314464号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第101284662号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kaili Jiang、Qunqing Li、Shoushan Fan、“Spinning continuous carbon nanotube yarns”、Nature、2002年、第419巻、p.801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記カーボンナノチューブフィルムを利用した透過型電子顕微鏡グリッドは負荷効率が低い。更に、前記試料の数量が多い場合、該透過型電子顕微鏡グリッドで、同じ平面における前記試料の全体の分布状態が同時に観察されない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、前記課題を解決するために、本発明は負荷効率が高く、大量試料の全体の分布状態が同時に観察することができて、透過型電子顕微鏡グリッド像の解像度を高めることができるカーボンナノチューブフィルム複合構造体、カーボンナノチューブフィルム複合構造体を利用した透過型電子顕微鏡グリッドを提供する。
【0008】
本発明の透過型電子顕微鏡グリッドは、支持体と、該支持体に被覆された少なくとも一つのグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体と、を含む。前記支持体は、少なくとも一つの穿孔を有し、少なくとも一つの前記穿孔は、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体で被覆されている。前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体は、少なくとも一つのカーボンナノチューブ構造体及び該カーボンナノチューブ構造体に被覆された少なくとも一つの官能性グラフェンシートと、を含む。前記カーボンナノチューブ構造体は少なくとも一つの微孔を有し、且つ該微孔が前記官能性グラフェンシートで被覆されている。
【0009】
更に、本発明の透過型電子顕微鏡グリッドは、支持体と、該支持体に被覆された少なくとも一つのグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体と、を含む。前記支持体は、少なくとも一つの穿孔を有し、少なくとも一つの前記穿孔は、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体で被覆されている。前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体は、少なくとも一つのカーボンナノチューブ構造体及び該カーボンナノチューブ構造体に被覆された複数の官能性グラフェンシートと、を含む。前記カーボンナノチューブ構造体は複数の交差しているカーボンナノチューブワイヤからなり、複数の微孔を有し、且つ少なくとも一つの前記微孔が少なくとも一つの前記官能性グラフェンシートで被覆されている。
【0010】
本発明の、透過型電子顕微鏡グリッドに用いられるグラフェンシートーカーボンナノチューブフィルム複合構造体は、少なくとも一つのカーボンナノチューブ構造体及び該カーボンナノチューブ構造体に被覆された少なくとも一つの官能性グラフェンシートと、を含む。前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一つの微孔を有する。少なくとも一つの前記微孔は、少なくとも一つの前記官能性グラフェンシートで被覆されている。
【発明の効果】
【0011】
従来の技術と比べて、本発明の透過型電子顕微鏡グリッドは、超配列カーボンナノチューブアレイから引き出して得られた、微孔を有するカーボンナノチューブ構造体を支持体として、少なくとも一つの前記微孔が一つの官能性グラフェンシートで被覆される。前記官能性グラフェンシートの厚さは薄いので、TEMで観察する場合に生じるバックグラウンドノイズが小さい。従って、ナノ粒子に対してTEM像の解像度を高める。本発明の透過型電子顕微鏡グリッドを使用する場合、前記官能性グラフェンシートにナノ粒子の測定試料を載せることができる。従って、測定試料の負荷効率及び支持性を高めて、同じ平面における大量の試料の全体の分布状態を同時に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の酸化グラフェンシートの構造を示す図である。
【図2】透過型電子顕微鏡グリッド製造工程のフローチャートである。
【図3】ドローン構造カーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図3中のカーボンナノチューブフィルムのカーボンナノチューブセグメントの構造を示す図である。
【図5】図2中の少なくとも二つの積層されたドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含むカーボンナノチューブ構造体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例に係る酸化グラフェンシート−カーボンナノチューブフィム複合構造体の透過型電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例に係る、図2の製造方法によって、製造された透過型電子顕微鏡グリッドを示す図である。
【図8】本発明の実施例に係る酸化グラフェンシート−カーボンナノチューブフィム複合構造体の構造を示す図である。
【図9】本発明の実施例に係る酸化グラフェンシート−カーボンナノチューブフィム複合構造体の構造を示す図である。
【図10】本発明の実施例に係る酸化グラフェンシート−カーボンナノチューブフィム複合構造体に測定試料を設置した構造を示す図である。
【図11】図1に示す透過型電子顕微鏡グリッドを採用した透過型電子顕微鏡によってナノ金粒子を観測した透過型電子顕微鏡写真である。
【図12】本発明の実施例に係る高解像度を有するナノ金粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0014】
グラフェンとは、1原子の厚さのSP結合炭素原子のシートであり、炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造をとっている。グラファイト自体もグラフェンシートが多数積み重なっている。本発明の実施例において、グラフェンは1〜10枚の積層されたグラフェンシートからなる。共有結合又は非共有結合によって、前記グラフェンを官能化させて(例えば、イオン結合、水素結合及び/又はπ−π結合)、官能性グラフェンを形成することができる。一般に、前記官能性グラフェンは、基底面としてのグラフェンと、少なくとも一つの官能基と、を含む。前記官能性グラフェンは、前記官能基が前記グラフェンの炭素原子と結合されている。前記官能性グラフェンシートは1〜10枚の積層された官能性グラフェンを含む。前記官能基は、例えば、酸素官能基、窒素官能基、リン官能基、硫黄官能基、炭化水素の官能基及びハロゲンからなる官能基などの一種又は数種であることができる。図1を参照すると、実施例において、前記官能性グラフェンは、少なくとも一つの酸素官能基を含む。該酸化グラフェンシートは、1〜10枚の積層された酸化グラフェンを含む。前記酸素官能基は、例えば、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、エステル基、アルデヒド基及びエポキシ基などの一種又は数種であることができる。前記官能性グラフェンシート及び酸化グラフェンシートにおいて、グラフェン中の炭素原子が別々に少なくとも一つの官能基及び少なくとも一つの酸素族元素と結合されている。
【0015】
図2を参照すると、本実施例の透過型電子顕微鏡グリッドの製造方法は、少なくとも一つのカーボンナノチューブ構造体及び官能性グラフェンシートの分散溶液を提供するステップaと、前記官能性グラフェンシートの分散溶液で前記カーボンナノチューブ構造体を浸漬させるステップbと、前記分散溶液で浸漬された前記カーボンナノチューブ構造体を乾燥させて、前記カーボンナノチューブ構造体と前記官能性グラフェンシートとを複合させ、グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を形成するステップcと、一つの支持体を提供して、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を前記支持体に付着させるステップdと、を含む。
【0016】
前記ステップaにおいて、前記カーボンナノチューブ構造体は複数のカーボンナノチューブからなる。該カーボンナノチューブ構造体は複数の微孔を有する。前記複数の微孔は前記官能性グラフェンシートで被覆されている。前記カーボンナノチューブ構造体は膜状構造であり、前記官能性グラフェンシートを支持する。前記カーボンナノチューブ構造体は自立構造体である。ここで、自立構造とは、支持体材を利用せず、前記カーボンナノチューブフィルムを独立して利用することができるという形態のことである。即ち、前記カーボンナノチューブを対向する両側から支持して、前記カーボンナノチューブの構造を変化させずに、前記カーボンナノチューブを懸架させることができることを意味する。前記カーボンナノチューブ構造体に、前記複数のカーボンナノチューブが配向し又は配向せずに配置されている。前記複数のカーボンナノチューブの配列方式により、前記カーボンナノチューブ構造体は非配向型のカーボンナノチューブ構造体及び配向型のカーボンナノチューブ構造体の二種に分類される。本実施例における非配向型のカーボンナノチューブ構造体では、カーボンナノチューブが異なる方向に沿って配置され、又は絡み合っている。配向型のカーボンナノチューブ構造体では、前記複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列している。又は、配向型のカーボンナノチューブ構造体において、配向型のカーボンナノチューブ構造体が二つ以上の領域に分割される場合、各々の領域における複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って配列されている。この場合、異なる領域におけるカーボンナノチューブの配列方向は異なる。前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブである。
【0017】
前記カーボンナノチューブ構造体は、ドローン構造カーボンナノチューブフィルム(特許文献2を参照)、プレシッド構造カーボンナノチューブフィルム(特許文献3を参照)及び綿毛構造カーボンナノチューブフィルム(特許文献4を参照)のいずれか一種からなり、少なくとも二枚の積層されたカーボンナノチューブフィルムからなることが好ましい。本実施例において、前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも二枚の積層されたドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなる。単一の前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおける複数のカーボンナノチューブは同じ方向に沿って配列されている。隣接する前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブは、それぞれ0°〜90°(0°は含まず)の角度αで交差している。
【0018】
前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムの製造方法は、超配列カーボンナノチューブアレイ(Superaligned array of carbon nanotubes,非特許文献1を参照)を提供するステップa11と、前記カーボンナノチューブアレイから、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルムを引き伸ばすステップa12と、を含む。
【0019】
前記テップa11において、前記超配列カーボンナノチューブアレイの製造方法は、化学気相堆積法を採用する。該カーボンナノチューブアレイは、互いに平行し、基材に垂直するように生長する複数のカーボンナノチューブからなる。該カーボンナノチューブは、分子間力で接近して、相互に絡み合っている。前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブであり、その直径は0.5nm〜50nmに設定される。本実施例において、前記カーボンナノチューブの長さは、100〜900μmである。
【0020】
前記ステップa12において、前記カーボンナノチューブフィルムは複数のカーボンナノチューブからなり、隣接する前記カーボンナノチューブの間に間隙がある。前記カーボンナノチューブフィルムにおいて、前記複数のカーボンナノチューブは、それぞれ前記複数のカーボンナノチューブフィルムの表面に平行に配列され、相互に平行に配列されている。前記カーボンナノチューブフィルムを引き伸ばす工程は、次のサブステップを含む。前記超配列カーボンナノチューブアレイにおける一定の幅を有するカーボンナノチューブセグメントを選択するサブステップa121と、所定の速度で前記カーボンナノチューブセグメントを引き出し、複数のカーボンナノチューブセグメントからなる連続のカーボンナノチューブフィルムを形成するサブステップa122と、を含む。
【0021】
前記サブステップa121において、セロテープ(登録商標)、プライヤー、ピンセットなどの工具を利用して、前記超配列カーボンナノチューブアレイから前記一定の幅を有するカーボンナノチューブセグメントを選択する。前記カーボンナノチューブセグメントは複数の相互に平行に配列されているカーボンナノチューブを含む。前記サブテップa122において、任意の方向に沿って、前記カーボンナノチューブセグメントを引き出すことができる。
【0022】
具体的に、前記複数のカーボンナノチューブセグメントを引き出す工程において、前記複数のカーボンナノチューブセグメントがそれぞれ基材から脱離すると、分子間力で前記カーボンナノチューブセグメントが端と端で接合され、連続のカーボンナノチューブフィルムが形成される。前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムは、自立構造である。該ドローン構造カーボンナノチューブフィルムは一定の幅を有して、均一に配列されている。前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおける前記複数のカーボンナノチューブは、分子間力で端と端が接続され、同じ方向に沿って均一に配列されている。
【0023】
図3に示すように、前記カーボンナノチューブフィルム143aはドローン構造カーボンナノチューブフィルム(drawn carbon nanotube film)である。前記カーボンナノチューブフィルムにおいて、複数のカーボンナノチューブが同じ方向に沿って、端と端が接続されている。即ち、単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aは、分子間力で長軸方向端部同士が接続された複数のカーボンナノチューブを含む。図3及び図4を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aは、複数のカーボンナノチューブセグメント143bを含む。前記複数のカーボンナノチューブセグメント143bは、長手方向に沿って分子間力で端と端が接続されている。それぞれのカーボンナノチューブセグメント143bは、相互に平行に、分子間力で結合された複数のカーボンナノチューブ145を含む。単一の前記カーボンナノチューブセグメント143bにおいて、前記複数のカーボンナノチューブ145の長さは同じである。前記カーボンナノチューブフィルム143aの幅、厚さ、均一性及び形状は変更することができる。
【0024】
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも二枚の積層された前記カーボンナノチューブフィルムからなる場合、その製造方法は、一つのカーボンナノチューブフィルム(ここで、第一カーボンナノチューブフィルムと定義される)の少なくとも一つの辺部を一つのフレーム(図示せず)に固定して、該第一カーボンナノチューブフィルムの他の部を懸架させる第一ステップと、もう一つのカーボンナノチューブフィルム(ここで、第二カーボンナノチューブフィルムと定義される)を前記第一カーボンナノチューブフィルムに被覆させる第二ステップと、を含む。前記第一カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが第一方向に沿って配列している。前記第二カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが第二方向に沿って配列している。前記第一方向と前記第二方向とは0°〜90°(0°は含まず)を成す。前記の製造方法によって、積層された複数の前記カーボンナノチューブフィルムからなる前記カーボンナノチューブ構造体が前記フレームに固定される。各々の前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブは異なる方向に沿って配列していることができる。前記カーボンナノチューブ構造体は自立構造体である。
【0025】
隣接する前記カーボンナノチューブフィルムが分子間力で結合されているので、安定なカーボンナノチューブ構造体を形成することができる。前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブフィルムの枚数は制限されない。本実施例において、前記カーボンナノチューブフィルムの枚数は2〜4である。隣接する前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが0°〜90°(0°は含まず)の角度αで交差する。本実施例において、前記角度αは90°である。
【0026】
更に、前記ステップaで得られたカーボンナノチューブ構造体を有機溶剤に浸漬させることにより、前記カーボンナノチューブ構造体の複数の微孔を大きくさせ、隣接する前記カーボンナノチューブフィルムを緊密に結合させる。前記有機溶剤は、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、ジクロロエタン、クロロホルムなどのいずれか一種の揮発性有機溶剤である。本実施例において、前記有機溶剤は、エタノールである。該有機溶剤は、前記カーボンナノチューブ構造体に対して良好な濡れ性を有する。具体的には、ドロッパーで有機溶剤を前記カーボンナノチューブ構造体の表面に滴下し、該有機溶剤で前記カーボンナノチューブ構造体を浸漬させる。又は、前記カーボンナノチューブ構造体を全て有機溶剤の中に入れて浸漬させる。図5を参照すると、前記カーボンナノチューブ構造体は少なくとも二枚の積層されたドローン構造カーボンナノチューブフィルムからなる場合、前記有機溶剤で処理することにより、前記有機溶剤の表面張力によって、隣接する配列されたカーボンナノチューブの間の間隙がなくなり、前記複数のカーボンナノチューブは複数のカーボンナノチューブワイヤに形成される。複数の前記カーボンナノチューブが一本の前記カーボンナノチューブワイヤに収縮してなるので、前記カーボンナノチューブ構造体における複数の微孔の寸法が大きくなる。前記カーボンナノチューブ構造体における微孔の寸法は、1nm〜10μmであり、1nm〜900nmであることが好ましい。前記カーボンナノチューブ構造体を有機溶剤によって処理することにより、その接着性を低くさせることができる。前記カーボンナノチューブ構造体における前記カーボンナノチューブフィルムの枚数が4枚である場合、該カーボンナノチューブ構造体のナノサイズの微孔の数量比は60%より大きい。前記カーボンナノチューブ構造体における前記カーボンナノチューブフィルムの枚数が多くなるほど、前記カーボンナノチューブ構造体における微孔の寸法はより小さくなる。従って、前記カーボンナノチューブ構造体における前記カーボンナノチューブフィルムの枚数を調整することによって、要望の寸法の微孔を得ることができる。
【0027】
更に、表面改質により、前記カーボンナノチューブ構造体を官能性カーボンナノチューブ構造体に形成させる。該官能性カーボンナノチューブ構造体における少なくとも一つの官能基は、共有結合により、該カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブ、の少なくとも一つの炭素原子と結合する。本実施例において、硫酸、塩素酸カリウム、硝酸、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤によって、前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムを酸化させる。即ち、前記ドローン構造カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブの側壁を酸化させる。前記官能基の共有結合によって、前記官能性カーボンナノチューブ構造体を前記官能性グラフェンシートと結合させることができる。この結合工程は、前記官能性カーボンナノチューブ構造体と前記官能性グラフェンシートとの官能基の縮合反応によって、完成することができる。
【0028】
具体的に、前記官能性グラフェンシートは少なくとも一つの第一官能基を含み、前記官能性カーボンナノチューブ構造体は少なくとも一つの第二官能基を含む。縮合反応などの化学反応によって、前記第一官能基を前記第二官能基と結合させて、少なくとも一つの第三官能基を形成する。このように、該第三官能基は前記官能性グラフェンシートと前記官能性カーボンナノチューブ構造体と結合する。例えば、式FG−3rdgroup−CNTにおいて、FGが官能性グラフェン、CNTがカーボンナノチューブであり、3rdgroupが第三官能基である。共有結合によって、前記第三官能基は前記カーボンナノチューブ及び前記官能性グラフェンと結合する。前記式FG−3rdgroup−CNTは、FG−COO−CNT、FG−O−CNT、FG−(CH−CNT及びFG−COONH−(CH−CNTなどの化合物であることができる。
【0029】
前記分散溶液は、官能性グラフェンシートを溶媒に分散させて形成したものである。本実施例において、前記官能性グラフェンシートの分散溶液の製造方法は、以下の階段を含む。第一階段は、官能性グラフェンシートを提供する。第二階段は、前記官能性グラフェンシートを溶媒に入れて、混合物を形成する。第三階段は、超音波で前記混合物を攪拌し、前記官能性グラフェンシートを溶媒に均一的に分散させて、官能性グラフェンシートの分散溶液を形成する。本実施例において、前記混合物は超音波で処理する時間が15minである。前記第三階段は、例えば、前記グラフェンシートと溶媒の混合物を機械的に攪拌することができる。
【0030】
前記溶媒は、前記官能性グラフェンシートが簡単に分散され、且つ揮発性を有する低分子量の溶媒であり、例えば、水、エタノール、メタノール、アセトン、ジクロロエタン及びクロロホルムの一種又は数種からなる。前記溶媒は前記官能性グラフェンシートと反応しない。前記官能性グラフェンシートは、単層グラフェン又は多層グラフェンからなる。本実施例において、前記官能性グラフェンシートの分散溶液における官能性グラフェンシートの層数が1〜3層であることが好ましい。従って、それを採用した透過型電子顕微鏡グリッドを利用して、対比度が優れたTEM画像を得ることができる。前記官能性グラフェンシートの寸法は、50μm〜100μmであることが好ましい。ここで、前記官能性グラフェンシート及び前記カーボンナノチューブ構造体の微孔が長方形又は不規則の多角形である場合、前記グラフェンシート又は前記カーボンナノチューブ構造体の微孔の寸法とは、以下に同じように、前記グラフェンシート又は前記微孔の縁部の一点から他点までの距離が最大となる時の距離である。前記分散溶液における前記官能性グラフェンシートの体積比は5%以下である。前記官能性グラフェンシートは酸化グラフェンシートであることができる。該酸化グラフェンシートにおける炭素原子と酸素原子とのモル比率は2:1〜3:1である。
【0031】
前記ステップbにおいて、試験管又は滴瓶を利用して、前記官能性グラフェンシートの分散溶液を前記カーボンナノチューブ構造体の一つの表面に滴下し、前記グラフェンシートの分散溶液で前記カーボンナノチューブ構造体を浸漬させる。前記カーボンナノチューブ構造体の面積が大きい場合、前記カーボンナノチューブ構造体を、前記官能性グラフェンシートの分散溶液を有する容器内に浸漬させた後、前記カーボンナノチューブ構造体を前記官能性グラフェンシートの分散溶液から分離させる。本実施例において、前記フレームに付着したカーボンナノチューブ構造体の表面に、前記官能性グラフェンシートの分散溶液を滴下することにより、前記官能性グラフェンシートの分散溶液に浸漬された前記カーボンナノチューブ構造体を形成する。
【0032】
前記ステップcにおいて、前記官能性グラフェンシートの分散溶液に浸漬された前記カーボンナノチューブ構造体を乾燥すると、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に少なくとも一つの官能性グラフェンシートを含む官能性グラフェンシート層が形成される。これにより、前記少なくとも一つの官能性グラフェンシートは分子間力で前記カーボンナノチューブ構造体の一つの表面に接着して、グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体が得られる。前記官能性グラフェンシート層における官能性グラフェンシートは連続的に又は分離して配列される。前記カーボンナノチューブ構造体の表面に形成された前記官能性グラフェンシートの配列状態は、前記官能性グラフェンシートの分散溶液を前記カーボンナノチューブ構造体の表面に滴下した回数及び濃度によって決定される。図8を参照すると、前記ステップbによって得られたグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体において、少なくとも一つの官能性グラフェンシートは、前記カーボンナノチューブ構造体の少なくとも一つの微孔を覆っている。
【0033】
さらに、前記ステップb又は前記ステップcの後に、ステップhを行うこともできる。前記ステップhにおいて、一つのカーボンナノチューブ構造体を、前記官能性グラフェンシートの分散溶液で浸漬された前記カーボンナノチューブ構造体の一つの表面に被覆させる。これにより、前記官能性グラフェンシートは、前記二つのカーボンナノチューブ構造体によって挟まれたグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を形成する。
【0034】
前記挟まれたグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体における二つのカーボンナノチューブ構造体は同じでも異なっていてもよい。前記ステップb、前記ステップc及び前記ステップhを繰り返して行うことができる。前記挟まれたグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を形成した後、該挟まれたグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体の表面に、前記官能性グラフェンシートの分散溶液を滴下して、さらに一つのカーボンナノチューブ構造体を分散溶液が滴下された該グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体の表面に被覆する。これにより、積層されたグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体が形成される。本実施例において、前記積層されたグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体は、一つの前記官能性グラフェンシートと、二つの前記カーボンナノチューブ構造体と、を含む。一つの前記官能性グラフェンシートは、二つの前記カーボンナノチューブ構造体によって挟まれ、前記官能性グラフェンシートは該グラフェン−カーボンナノチューブ複合構造体に安定的に固定されることができる。
【0035】
前記ステップcで得られたグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を化学的方法で処理して、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体における官能性グラフェンシート及びカーボンナノチューブ構造体の炭素原子同士を結合させることができる。前記化学的方法は、レーザー又はUV光によってグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を照射することであり、又は高エネルギー粒子を前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体に衝突させることである。前記化学的方法により、前記官能性グラフェンシートの炭素原子及び前記カーボンナノチューブの炭素原子は、SP混成軌道によって共有結合を形成して結合されるので、前記官能性グラフェンシートは、該グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体に更に安定的に固定されることができる。
【0036】
前記ステップdにおいて、前記支持体は少なくとも一つの穿孔及び支持部(図示せず)を含む。前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体の一部は前記支持部に付けられ、その他の部分は前記穿孔の上に懸架されている。前記支持体は金属又はセラミックスなどの材料からなる格子板である。本実施例において、前記格子板の材料は銅である。
【0037】
前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体の面積が大きい場合、前記複数の支持体を間隔をおいて並列させ、大面積の前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を前記複数の支持体に設置して、隣接する前記支持体の間の隙間に対応して、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体をカットする。例えば、レーザーによって前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を照射して焼き切る。前記レーザーの照射能率は5W〜30Wであり、18Wであることが好ましい。これにより、グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体が覆われた複数の透過型電子顕微鏡グリッドを形成することができる。
【0038】
更に、前記ステップdで得られた、前記支持体を被覆したグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を有機溶剤によって処理して、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体と前記支持体との接触面積を増加させることにより、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体と前記支持体とを、更に緊密的に接続させる。前記有機溶剤は、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、ジクロロエタン、クロロホルムなどの揮発性有機溶剤である。本実施例において、前記有機溶剤は、エタノールである。前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体が覆われた前記支持体を、有機溶剤が充満した容器内に入れる。該有機溶剤は、前記カーボンナノチューブに対して良好な濡れ性を有する。具体的には、ドロッパーで有機溶剤を前記グラフェンシート−カーボンナノチューブ複合構造体の表面に滴下し、該有機溶剤で前記グラフェンシート−カーボンナノチューブ複合構造体を浸漬させてもよく、又は、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブ複合構造体の全体を有機溶剤に浸漬させる。
【0039】
前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体の電気伝導性を高めるために、不活性ガス又は真空中で該グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を100℃〜300℃に加熱し、200℃に加熱することが好ましい。前記不活性ガスは窒素ガス又は希ガスである。優れた電気伝導性を有する前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体は、透過型電子顕微鏡グリッドをとして利用する場合、該透過型電子顕微鏡グリッドのTEM像の解像度を高める。
【0040】
一つの前記カーボンナノチューブ構造体が前記官能性カーボンナノチューブを含む官能性カーボンナノチューブフィルムである場合、前記加熱工程によって、前記官能性カーボンナノチューブにおける官能基を、官能性グラフェンシートにおける官能基と結合させることができる。更に、前記官能化カーボンナノチューブにおける官能基と官能性グラフェンにおける官能基とを相互に合わせて、化学反応を起こすことができる。
【0041】
前記透過型電子顕微鏡グリッドの製造方法は、次の優れた点がある。第一に、前記カーボンナノチューブフィルム及び前記カーボンナノチューブフィルムからなるカーボンナノチューブ構造体は自立構造体であるので、利用しやすい。第二に、レーザー又はUV光で前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を照射し、又は高エネルギー粒子を該グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体に衝突させることにより、前記官能性グラフェンシート及び前記カーボンナノチューブ構造体は、共有結合によって安定的に結合できる。第三に、前記カーボンナノチューブ構造体を官能化させることにより、前記官能性グラフェンシートは、該官能性カーボンナノチューブ構造体と安定的に固定されることができる。第四に、前記カーボンナノチューブ構造体は大きい比表面積を有するので、高い接着性を有しており、前記カーボンナノチューブ構造体は直接的に前記支持体に接着できる。第五に、有機溶剤で処理することにより、前記カーボンナノチューブ構造体と前記支持体とを、更に緊密的に結合できる。更に、大きな前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体を、前記複数の支持体に被覆させることにより、複数の前記透過型電子顕微鏡グリッドを得ることができる。
【0042】
図6、図7及び図8を参照すると、前記の製造方法によって得られた透過型電子顕微鏡グリッド100は、支持体110と、該支持体110の表面を被覆するグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体120と、を含む。前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体120は、グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体である。前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体120は膜状構造である。
【0043】
前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体120は、少なくとも一つのカーボンナノチューブ構造体122、及び該カーボンナノチューブ構造体122の表面に設置された少なくとも一つの官能性グラフェンシート124を含む。前記カーボンナノチューブ構造体122は複数の微孔126を有し、少なくとも一つの前記微孔126が前記官能性グラフェンシート124で被覆されている。本実施例において、一つの前記微孔126が一つの前記官能性グラフェンシート124で被覆されている。
【0044】
前記カーボンナノチューブ構造体122は複数のカーボンナノチューブからなる。該カーボンナノチューブ構造体122には、複数の微孔126が形成されている。前記カーボンナノチューブ構造体122に、前記複数のカーボンナノチューブが配向し又は配向せずに配置されている。前記カーボンナノチューブが配向せずに配置されている場合、該カーボンナノチューブが異なる方向に沿って配置され、又は絡み合っている。前記カーボンナノチューブが配向して配置されている場合、前記複数のカーボンナノチューブが同じ方向又は異なる方向に沿って配列している。更に、前記カーボンナノチューブ構造体122は少なくとも一つの官能基を有する。前記官能基及び前記カーボンナノチューブの炭素原子は、共有結合によって接続される。前記カーボンナノチューブ構造体122における官能基は、前記官能性グラフェンシートにおける官能基と結合することができる。
【0045】
一つの例として、図5を参照すると、前記カーボンナノチューブ構造体122は、少なくとも二つの積層されたドローン構造カーボンナノチューブフィルムを含む。この場合、隣接する前記カーボンナノチューブフィルムは、分子間力で結合されている。隣接する前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブは、それぞれ0°〜90°(0°は含まず)の角度で交差している。本実施例において、隣接する前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブが90°の角度で交差するので、前記カーボンナノチューブ構造体122に複数の微孔126が形成される。これにより、前記透過型電子顕微鏡グリッド100で試料を観測する場合に、該試料に対して参照する座標軸を提供することができて、前記試料の定位及び識別を便利にする。
【0046】
もう一つの例として、図6及び図8を参照すると、前記カーボンナノチューブ構造体122は複数の交差しているカーボンナノチューブワイヤ128を含む。詳しく、前記カーボンナノチューブワイヤ128は、分子間力で接続された複数のカーボンナノチューブからなる。前記複数のカーボンナノチューブは分子間力で端と端とが接続され、基本的に同じ方向に沿って配列している。前記カーボンナノチューブ構造体122におけるカーボンナノチューブワイヤ128が相互に交差して、複数の微孔126が形成される。前記カーボンナノチューブ構造体122における微孔126の寸法は、1nm〜10μmである。本実施例において、該カーボンナノチューブ構造体122において、ナノサイズの微孔126の数量比が60%より大きいことが好ましい。
【0047】
前記官能性グラフェンシート124は、単層グラフェン又は多層グラフェンからなる。前記官能性グラフェンシート124の寸法は、一つの前記カーボンナノチューブ構造体122における微孔126の寸法より大きく設けられるので、前記官能性グラフェンシート126によって一つの前記微孔126を完全に覆うことができる。本実施例において、前記官能性グラフェンシート124は、分子間力で前記カーボンナノチューブ構造体122におけるカーボンナノチューブに接着する。前記官能性グラフェンシート124の寸法が2nm〜100μmである。本実施例において、前記官能性グラフェンシート124の寸法が2nm〜50μmであり、前記官能性グラフェンシート124は1〜3層の酸化グラフェンシートを含む。
【0048】
更に、前記官能性グラフェンシート124の炭素原子及び前記カーボンナノチューブの炭素原子は、SP混成軌道によって共有結合を形成して結合されるので、前記官能性グラフェンシート124は、前記カーボンナノチューブ構造体122に更に安定的に固定されることができる。又は、前記カーボンナノチューブ構造体122は少なくとも一つの官能基を含む場合(例えば、官能性カーボンナノチューブ構造体)、前記官能性グラフェンシート124の官能基及び前記カーボンナノチューブの官能基は、共有結合によって結合される。例えば、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体120はFG−3rdgroup−CNTの構造体を含むことができる。従って、前記官能性グラフェンシート124及び前記カーボンナノチューブ構造体122は、前記分子間力、前記炭素原子同士の共有結合及び前記官能基同士の共有結合によって、接続される。
【0049】
更に、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体120は、積層された複数の前記カーボンナノチューブ構造体122を含み、各々の隣接する前記カーボンナノチューブ構造体122の間に複数の官能性グラフェンシート124が配置されている。図9を参照すると、前記官能性グラフェンシート124は、二つの隣接する前記カーボンナノチューブ構造体122におけるカーボンナノチューブワイヤ128によって保護されているので、前記官能性グラフェンシート124は前記カーボンナノチューブ構造体122に安定的に固定されることができる。
【0050】
前記支持体110は、一つ又は複数の穿孔112を有する。該支持体110は金属、セラミックス又はシリコンなどの材料からなるシート状構造である。本実施例において、前記支持体110は銅片であり、透過型電子顕微鏡に用いられる格子板であることができる。前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体120は前記支持体110に付けられ、その他の部は、前記穿孔112の上に懸架されている。本実施例において、前記支持体110及び前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体120は、同じ寸法と形状を有する。前記支持体110の穿孔112の寸法は、前記カーボンナノチューブ構造体122の微孔126の寸法より大きく、且つ前記官能性グラフェンシート124の寸法よりも大きい。本実施例において、前記支持体110の穿孔112は、円柱形を有し、その直径が10μm〜2mmである。
【0051】
図10及び図11を参照すると、本実施例の透過型電子顕微鏡グリッド100を利用した場合、複数の測定試料200は、前記カーボンナノチューブ構造体122の微孔126を覆った官能性グラフェンシート124の表面に配置される。該測定試料200は、例えばナノワイヤ、ナノ球、ナノチューブなどのナノ粒子である。単一の前記測定試料200の寸法は、1μmより小さく、10nmより小さいことが好ましい。図11及び図12は、ナノサイズの金粉の分散溶液を、前記透過型電子顕微鏡グリッド100に滴下し、乾燥させて透過型電子顕微鏡で観測した異なる解像度の透過型電子顕微鏡写真である。図11及び図12に示された黒色粒子は、測定物のナノ金粒子である。
【0052】
本実施例の透過型電子顕微鏡グリッド100は次の優れた点がある。
【0053】
第一に、前記官能性グラフェンシート124に前記測定試料200を載せるので、大量の前記測定試料200を前記官能性グラフェンシート124の表面に均一に分布させることができる。これにより、前記測定試料200の粒径分布及び、前記官能性グラフェンシート124の表面に大量の前記測定試料200の自己組織性を測定することができる。前記官能性グラフェンシート124は前記カーボンナノチューブ構造体122の微孔126を被覆し、前記測定試料200は前記官能性グラフェンシート124に載せられるので、大量の前記測定試料200が前記カーボンナノチューブ構造体122の前記微孔126の上に均一に分布して、前記透過型電子顕微鏡グリッド100の負荷効率を高める。
【0054】
第二に、従来のグラフェンシートと比べると、前記官能性グラフェンシート124は前記カーボンナノチューブ構造体122の表面により、平らになりやすいので、均一の薄い支持体を形成することができる。これにより、TEMで前記測定試料200を観測する結果は、該支持体の影響を受けない。
【0055】
第三に、前記カーボンナノチューブ構造体122の微孔126はナノサイズ(例えば、1nm〜1μm)であるので、前記官能性グラフェンシート124の寸法が小さくても、前記微孔126を完全に覆うこともできる。
【0056】
第四に、前記官能性グラフェンシート124は非常に薄く、単一の前記官能性グラフェンシート124の厚さが1nmである。その結果、TEMで観察する場合に生じるバックグラウンドノイズが小さい。従って、ナノ粒子に対してTEM像の解像度を高める。
【0057】
第五に、前記カーボンナノチューブ構造体110は超配列カーボンナノチューブアレイから引き出して得られるものであるので、その純度が高い。それ故、前記透過型電子顕微鏡グリッド100の生産コストを下げることができる。
【0058】
第六に、前記カーボンナノチューブ構造体122及び前記官能性グラフェンシート124は炭素原子を含み、且つ類似の構造を有するので、前記カーボンナノチューブ構造体122及び前記官能性グラフェンシート124は類似の特性を有する。本実施例において、前記カーボンナノチューブ構造体122及び前記官能性グラフェンシート124は、SP混成軌道によって形成される共有結合又は、官能基によって結合する。これにより、前記SP混成軌道によって形成される共有結合及び/又は官能基による結合を含む前記透過型電子顕微鏡グリッド100は耐久力がある。
【0059】
第七に、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体120において、前記官能性グラフェンシートは、前記二つのカーボンナノチューブ構造体によって挟まれているので、前記透過型電子顕微鏡グリッド100は安定した構造を有する。
【符号の説明】
【0060】
100 透過型電子顕微鏡グリッド
110 支持体
112 穿孔
120 グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体
122 カーボンナノチューブ構造体
124 官能性グラフェンシート
126 微孔
128 カーボンナノチューブワイヤ
143a カーボンナノチューブフィルム
143b カーボンナノチューブセグメント
145 カーボンナノチューブ
200 測定試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、該支持体に被覆された少なくとも一つのグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体と、を含む透過型電子顕微鏡グリッドであって、
前記支持体は、少なくとも一つの穿孔を有し、
少なくとも一つの前記穿孔は、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体で被覆され、
前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体は、少なくとも一つのカーボンナノチューブ構造体と、該カーボンナノチューブ構造体に被覆された少なくとも一つの官能性グラフェンシートと、を含み、
前記カーボンナノチューブ構造体は少なくとも一つの微孔を有し、且つ該微孔が前記官能性グラフェンシートで被覆されていることを特徴とする透過型電子顕微鏡グリッド。
【請求項2】
支持体と、該支持体に被覆された少なくとも一つのグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体と、を含む透過型電子顕微鏡グリッドであって、
前記支持体は、少なくとも一つの穿孔を有し、
少なくとも一つの前記穿孔は、前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体で被覆され、
前記グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体は、少なくとも一つのカーボンナノチューブ構造体と、該カーボンナノチューブ構造体に被覆された複数の官能性グラフェンシートと、を含み、
前記カーボンナノチューブ構造体は、複数の交差したカーボンナノチューブワイヤからなり、複数の微孔を有し、且つ少なくとも一つの前記微孔が少なくとも一つの前記官能性グラフェンシートで被覆されていることを特徴とする透過型電子顕微鏡グリッド。
【請求項3】
少なくとも一つのカーボンナノチューブ構造体及び該カーボンナノチューブ構造体に被覆された少なくとも一つの官能性グラフェンシートと、を含むグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体であって、
前記カーボンナノチューブ構造体は、少なくとも一つの微孔を有し、
少なくとも一つの前記微孔は、少なくとも一つの前記官能性グラフェンシートで被覆されていることを特徴とするグラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合構造体。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−198749(P2011−198749A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8637(P2011−8637)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】