説明

通信装置及び通信制御方法

【課題】スループットの低下を効率的に抑えてハンドオーバできる通信装置及び通信方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る通信装置101は、自装置と通信接続可能な通信先候補装置のうち、第1の通信先候補装置と通信接続し、第1の通信先候補装置以外の所定数の第2の通信先候補装置それぞれに、評価用信号を複数回に亘って送信するよう要求し、第1の通信先候補装置の通信品質値が閾値未満になると、第2の通信先候補装置それぞれにおける複数の評価用信号の通信品質値に基づく評価値のうち、評価値が最も大きい通信先候補装置と通信接続する制御部115を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置及び通信制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LTEシステム(Long Term Evolution)やXGP(eXtended Global Platform)システムといった無線通信システムでは、基地局と移動局との間の通信品質が劣化すると、移動局と通信する基地局を切り替えるハンドオーバが行われる。
【0003】
以下、従来のハンドオーバについて図6を用いて説明する(例えば、特許文献1参照)。図6の無線通信システム31は、移動局301と、基地局303a〜303cとから構成されるものである。領域307a〜307cは、基地局303a〜303cのセル(通信可能領域)を示している。セルの境界(セルエッジ)の近傍では、複数のセルが重なり合っている。この重なり合っている領域を以下、セルエッジ近傍領域とする。
【0004】
移動局301は、基地局303aと通信を開始し(通信回線を確立し)(図7の1及び図8の1)、図6の方向305のように移動するとする。移動局301がセル307aのセルエッジに近づくほど、移動局301が基地局301aから受信する電波(受信電波)の品質は劣化し、当該電波のSNR(Signal to Noise Ratio:信号対雑音比)は小さくなる。受信電波のSNRが、安定した通信を保証する閾値未満になると、移動局301は、閾値以上の電波を送信する基地局に通信先を切り替える。
【0005】
例えば、移動局301がセルエッジ近傍領域Bの位置P31に位置するときに、通信先である基地局303aからの電波のSNRが閾値未満になったとする(図7の2及び図8の2)。すると移動局301は、通信先の基地局を切り替えたい旨を示す接続要求信号を送信する(図7の3及び図8の3)。移動局301は、セル307b及び307cの領域内に位置しているため、接続要求信号は、基地局303b及び303cに届くことになる。基地局303b及び303cは、接続要求信号を受け、自局の識別番号情報を含む応答信号を送信する(図7の4及び図8の4)。そして、移動局301は、受信した応答信号から、各基地局のSNRを算出する(図7の5及び図8の5)。移動局301は、SNRが閾値以上であり、且つ最も大きい電波を送信する基地局を新たな通信先として決定する。図7においては、基地局303bのSNRが最も大きいとする。
【0006】
その後、移動局301は、決定された基地局303bの識別番号情報を含む通信先決定信号を送信する(図7の6)。通信先決定信号を受信した基地局303bは、通信先決定信号の識別番号情報から自局が通信先として決定されたことを認識できる。そして、基地局303bは、移動局301と互いに同期信号を送受信し、移動局301との通信を開始する(図7の7)。ハンドオーバにより通信先が基地局303aから基地局303bに切り替わるので、移動局301は、基地局303aのセルを越えて移動しても、通信回線の切断なく、通信を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−78640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のハンドオーバでは、基地局からの応答信号のSNRのみに基づいて通信先の基地局を決定するわけだが、SNRは、測定時の通信環境の影響を強く受けるものである。例えば、移動局の移動に伴うフェージングや通信を妨害する障害物の出現により、一時的にSNRが低下することがある。そのため、一時的なSNRの低下により、本来通信状態の最も良い基地局が通信先として選択されないおそれがある。
【0009】
例えば、移動局301が位置P31に位置するときに、基地局303bからの電波のSNRが一時的に低下し、基地局303cに関するSNRよりも小さくなったとする。すると、移動局301は、基地局303cを通信先として決定し、通信先決定信号を送信する(図8の6)。そして、移動局301と基地局303cとは、通信を開始することになる(図8の7)。つまり、移動局は、通信状態の最も良い基地局以外の基地局に通信先を切り替えることがある。
【0010】
基地局303cは、移動局301にとって、通信状態の最も良い基地局ではないので、SNRが閾値未満になりやすい。移動局301が位置P32に位置するときに、基地局303cに関するSNRが閾値未満になるとする(図8の8)。すると、移動局301は、再度、接続要求信号を送信し(図8の9)、基地局303bから応答信号を受信し(図8の10)、応答信号のSNRを算出する必要がある(図8の11)。通信状態の最も良い基地局303bの一時的なSNRの低下が解消されていると、移動局301は、基地局303bに通信先決定信号を送信し(図8の12)、移動局301は、通信先を移動局303cから303bに切り替えることになる(図8の13)。一時的なSNRの低下に伴いハンドオーバの回数が増えると、ハンドオーバの度に図8の9〜13に示すような処理が必要となる。よって、通信回線を確立するために時間を要することになり、移動局と基地局との間の通信におけるスループットが低下してしまう。このような状況は、フェージング環境下や見通し外通信下で特に問題となる。
【0011】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、スループットの低下を効率的に抑えてハンドオーバできる通信装置及び通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した諸課題を解決すべく、第1の観点に係る発明は、
自装置と通信接続可能な通信先候補装置のうち、通信接続した第1の通信先候補装置以外の所定数の第2の通信先候補装置それぞれに、評価用信号を複数回に亘って送信するよう要求し、
前記第1の通信先候補装置の通信品質値が閾値未満になると、前記第2の通信先候補装置それぞれにおける前記複数の評価用信号の通信品質値に基づく評価値のうち、評価値が最も大きい通信先候補装置と通信接続する制御部
を備える通信装置である。
【0013】
また、第2の観点に係る発明は、第1の観点に係る中継装置において、前記制御部は、前記評価値を、前記通信先候補装置毎の複数の前記通信品質値の平均値とすることを特徴とするものである。
【0014】
また、第3の観点に係る発明は、第1の観点に係る中継装置において、前記制御部は、前記評価値を、前記通信先候補装置毎の複数の前記通信品質値から得られる回帰直線の傾きとすることを特徴とするものである。
【0015】
また、第4の観点に係る発明は、第3の観点に係る中継装置において、前記評価値を、複数の前記通信品質値の少なくとも1つが閾値以上である通信先候補装置毎の前記傾きとすることを特徴とするものである。
【0016】
上述したように本発明の解決手段を装置として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0017】
例えば、本発明の第1の観点を方法として実現させた通信制御方法は、
通信装置における通信制御方法において、当該通信装置が、
自装置と通信接続可能な通信先候補装置のうち、第1の通信先候補装置と通信接続するステップと、
前記第1の通信先候補装置以外の所定数の第2の通信先候補装置それぞれに、評価用信号を複数回に亘って送信するよう要求するステップと、
前記第1の通信先候補装置の通信品質値が閾値未満になると、前記第2の通信先候補装置それぞれにおける前記複数の評価用信号の通信品質値に基づく評価値のうち、評価値が最も大きい通信先候補装置と通信接続するステップと
を含むものである。
【発明の効果】
【0018】
上記のように構成された本発明に係る通信装置及び通信制御方法によれば、通信装置は、ハンドオーバを実行するための接続要求信号の送信や応答信号のSNR算出の処理及びそれに必要な時間が削減され、スループットの低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る移動局の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る基地局の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る移動局と基地局との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る通信品質値の一例である。
【図6】図6は、従来の概略的な無線通信システム構成図である。
【図7】図7は、従来の移動局と基地局との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【図8】図8は、従来の移動局と基地局との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の通信装置を移動局に適用した場合の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。無線通信システム11は、移動局101と、複数の基地局103(103a、103b及び103c)とから構成されている。無線通信システム11は、ハンドオーバが行われるシステム、例えばLTEシステムやXGPシステムである。移動局101は、例えば、携帯電話端末やXGP端末である。移動局101は、方向105に沿って移動するものとし、位置P1、P2、P3及びP4は、移動中のある時点での移動局101の位置を示すものである。基地局103a〜103cは、移動局101と無線回線を確立して通信する。なお、本実施形態では、複数の基地局103の数を3つとしているが、本発明の基地局の数は3つに限定されるわけではなく、基地局の数を4つ以上にすることができる。
【0022】
領域107a、107b及び107cはそれぞれ、基地局103a、103b及び103cのセル(通信可能領域)を示している。つまり、領域107a〜107cが重なり合うセルエッジ近傍領域Aでは、移動局101は、3つの基地局103a〜103cと通信接続することが可能である。領域107b内には、移動局101と基地局103bとの通信を妨害する障害物109が存在するものとする。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態に係る移動局の概略構成を示す機能ブロック図である。本実施形態の移動局101は、移動局送受信部111(請求項における送受信部)と移動局記憶部113と移動局制御部115(請求項における制御部)とを備えている。
【0024】
移動局送受信部111は、アンテナを介して基地局103と無線信号を送受信するものである。移動局送受信部111は、受信した無線信号に対して低雑音での増幅及びダウンコンバート等を行うことによりベースバンド信号を生成し、移動局制御部115に送る。また、移動局送受信部111は、ベースバンド信号に対してアップコンバート及び増幅等を行うことにより、無線信号を生成し、アンテナを介して当該無線信号を基地局103に送信する。
【0025】
移動局送受信部111が基地局103へ送信する無線信号は、例えば接続要求信号、通信先決定信号、通信先候補決定信号等である。また、移動局送受信部111が基地局103から受信する無線信号は、応答信号、評価用信号等である。接続要求信号は、ハンドオーバにより通信先の基地局を切り替えたい旨を示す信号であり、当該信号を受信した基地局103は、移動局101に応答信号を送信する。応答信号は、基地局103の識別番号情報を含むものであり、移動局101は、当該応答信号の受信により、後述する通信品質値を求める。通信先決定信号は、ハンドオーバによる新たな通信先(切替先)の基地局の識別番号情報を含むものである。識別番号情報に対応する基地局が通信先決定信号を受信すると、当該基地局は、自局が通信先に選ばれたことを認識できる。通信先候補決定信号は、評価用信号を複数回に亘って送信するよう基地局103に要求するものであり、要求先の基地局の識別番号情報を含むものである。評価用信号は、基地局103の識別番号情報を含むものであり、移動局101は、当該評価用信号の受信により、後述する通信品質値を求める。
【0026】
移動局記憶部113は、移動局送受信部111により受信された無線信号の通信品質値や通信品質に関する閾値等の各種情報を記憶するものであり、ワークメモリ等としても機能する。通信品質値とは、例えばSNR、CNR(Carrier to Noise Ratio:搬送波対雑音比)、SINR(Signal to Interference and Noise Ratio:信号対干渉雑音比)、CINR(Carrier to Interference and Noise Ratio:搬送波対干渉雑音比)などであり、通信品質値が大きいほど通信先である基地局103の通信状態の良さを表す。以下、本実施形態では、通信品質値はSNRであるとする。
【0027】
通信品質に関する閾値とは、移動局101が基地局103と安定した通信を行うことができるか否かを判断するための基準であり、ハンドオーバの必要性を決定するための基準となる。通信品質値が閾値以上であると、移動局101は、通信中の基地局103と安定した通信を行うことができると判断する。そのため、移動局101は、ハンドオーバの実行は不要であると判断する。また、通信品質値が閾値未満であると、移動局101は、通信中の基地局103と安定した通信を行うことが困難であり、ハンドオーバが必要であると判断される。
【0028】
移動局制御部115は、移動局101の各機能ブロックをはじめとして移動局101の全体を制御及び管理している。移動局制御部115は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、処理ごとに特化した専用のプロセッサ(例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ))によって構成したりすることもできる。移動局制御部115は、移動局送受信部111から受けとったベースバンド信号からSNRを算出し、当該SNRに基づいてハンドオーバによる切替先を決定する。移動局制御部115が行うその他の処理については、後述の図4の説明にて詳述する。
【0029】
図3は、本発明の一実施形態に係る基地局の概略構成を示す機能ブロック図である。本実施形態の基地局103は、基地局送受信部121と基地局記憶部123と基地局制御部125とを備えている。なお、図3に示された基地局103に関する機能ブロックは、基地局103a〜103cにおいて共通であり、基地局103aに関する機能ブロックの参照符号にはaを、基地局103bに関する機能ブロックの参照符号にはbを、基地局103cに関する機能ブロックの参照符号にはcを付して説明する。
【0030】
基地局送受信部121は、アンテナを介して移動局101と無線信号を送受信するものである。
【0031】
基地局記憶部123は、基地局103の識別番号情報等を記憶するものであり、ワークメモリ等としても機能する。
【0032】
基地局制御部125は、基地局103の各機能ブロックをはじめとして基地局103の全体を制御及び管理している。基地局制御部125は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、処理ごとに特化した専用のプロセッサ(例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ))によって構成したりすることもできる。基地局制御部125が行う処理については、後述の図4の説明にて詳述する。
【0033】
続いて、無線通信システム11におけるハンドオーバ方法について、図4を参照して説明する。図4は、本発明の一実施形態に係る移動局と基地局との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【0034】
まず、移動局101は、図1において、基地局103aと通信接続を確立し、通信しながら、方向105に沿って移動するとする(図4の1)。移動局制御部115は、通信中、基地局103aからの無線信号のSNRを定期的又は不定期的に算出し、移動局記憶部113に記憶されている閾値と比較する。そして、移動局101がセル107aのセルエッジに近づくほど、基地局103aの電波は移動局101に届きにくくなり、基地局103aのSNRは小さくなる。移動局101が位置P1に位置するときに通信先の基地局103aのSNRが閾値未満になったとする(図4の2)。以下、本実施形態では、移動局101が位置P1に位置するときの基地局103aからの電波のSNRは19dBであり、閾値は20dBであるとする。
【0035】
すると、移動局制御部115は、接続要求信号を送信するように移動局送受信部111を制御する(図4の3)。接続要求信号は、移動局101と通信接続可能な通信先候補装置に届くことになる。通信先候補装置とは、現在移動局101と通信を行ってはいないが、移動局101と互いに電波が届く距離に位置する装置のことであり、本実施形態では、移動局101をセル内に含む基地局103b及び103cとなる。よって、基地局103b及び103cの基地局送受信部121b及び121cは、移動局101からの接続要求信号を受信する。
【0036】
そして、基地局制御部125b及び125cはそれぞれ、基地局記憶部123b及び123cに記憶されている自局の識別番号情報を読み取り、当該識別番号情報を含む応答信号を送信するように基地局送受信部121b及び121cを制御する(図4の4)。
【0037】
移動局送受信部111は、応答信号を受信し、移動局制御部115は、応答信号のベースバンド信号からSNRを算出する(図4の5)。移動局制御部115は、識別番号情報を基に応答信号を基地局毎に識別する。
【0038】
基地局103bは、基地局103cよりも位置P1に近いため、基地局103bの応答信号のSNRのほうが基地局103cの応答信号のSNRよりも大きくなりやすい。しかし、基地局103bと位置P1との間に存在する高層ビル等の障害物109により、基地局103bの応答信号は、基地局103cの応答信号よりも減衰して移動局101に届くことになる。そのため、基地局103bに関するSNRが基地局103cに関するSNRよりも小さくなったとする。以下、本実施形態では、位置P1における基地局103b及び103cの応答信号のSNRはそれぞれ、10dB及び21dBであるとする。
【0039】
移動局制御部115は、移動局101と通信接続可能な通信先候補装置(基地局103b及び103c)のうち、応答信号のSNRが最も大きい第1の通信先候補装置に通信先を切り替える。つまり、本実施形態では、第1の通信先候補装置は、基地局103cとなる。
【0040】
よって、移動局制御部115は、基地局103cをハンドオーバにおける新たな通信先(切替先)に決定する。そして、移動局制御部115は、基地局103cの識別番号情報を含む通信先決定信号を送信するように移動局送受信部111を制御する(図4の6)。
【0041】
基地局103cの基地局送受信部121cは、通信先決定信号を受信し、基地局制御部125cは、通信先決定信号に含まれる識別番号情報から自局103cが通信先に決定されたことを認識する。そして、基地局103cは、移動局101と互いに同期信号を送受信し、移動局101との通信を開始する(図4の7)。つまり、ハンドオーバにより、通信先は基地局103aから基地局103cに切り替わったことになる。
【0042】
移動局制御部115は、通信先決定信号のみならず、通信先候補決定信号を、第1の通信先候補装置以外の所定数の第2の通信先候補装置それぞれに送信するように移動局送受信部111を制御する(図4の8)。つまり、本実施形態では、通信先候補装置は、基地局103c以外は基地局103bのみであるので、第1の通信先候補装置(基地局103c)以外の所定数の第2の通信先候補装置は、基地局103bである。なお、通信先候補装置が、基地局103c以外複数存在する場合は、そのうちの一部の装置のみを第2の通信先候補装置に設定することができる。例えば、移動局制御部115は、基地局103c以外の装置のSNRが大きい順に所定数(例えば、2つ)の装置を第2の通信先候補装置に設定することができる。つまり、移動局制御部115は、ハンドオーバにより通信先となる可能性の高い基地局のみを対象とすることにより、処理負荷を削減することができる。
【0043】
なお、本発明は、移動局101が、通信先候補決定信号と、通信先決定信号とを別々に送信することに限定されるものではない。例えば、移動局101は、通信先候補決定信号と通信先決定信号との役割を併せた優先順位信号を送信することができる。優先順位信号は、SNRの大きさの順番と基地局の識別番号とが関連付けられた情報を有するものである。最も大きいSNRに関する識別番号が、通信先として決定された基地局を示し、次点移行のSNRに関する識別番号が通信先候補として決定された基地局を示す。移動局101は、通信先決定信号、通信先候補決定信号及び優先順位信号をサブチャネル(共通チャネル)で送ることができる。
【0044】
よって、103bの基地局送受信部121bは、通信先候補決定信号を受信する。基地局制御部125bは、通信先候補決定信号に含まれる識別番号情報から自局103bが通信先候補に選ばれ、評価用信号を送信する必要があることを認識する。そして、基地局制御部125bは、評価用信号を定期的又は不定期的に複数回に亘って移動局101に送信するように基地局送受信部121bを制御する(図4の9)。評価用信号には、送信元である基地局の識別番号情報が含まれているため、送信先である移動局101は、識別番号情報を基に評価用信号の送信元を特定できる。以下、本実施形態では、移動局101が位置P2〜P4に位置しているときに、基地局103bは、評価用信号を送信するとする。
【0045】
なお、第2の通信先候補装置が複数存在し、移動局101が複数の基地局から評価用信号を受信する場合、移動局101は、複数の基地局からの評価用信号を基地局毎に分離する必要がある。よって、この場合、基地局103は、評価用信号を時分割多重方式や周波数分割多重方式で送信することになる。また、基地局103が複数アンテナを有する場合、基地局103は、MIMO(Multiple Input Multiple Output)、MISO(Multiple Input Single Output)、SDMA(Space Division Multiple Access:空間分割多元接続)といった空間多重伝送方式により、評価用信号を送信することもできる。この場合、移動局101は、空間多重伝送方式に対応する移動局送受信部(例えば、空間多重伝送方式がMIMOである場合複数アンテナを有する移動局送受信部)を備える必要がある。
【0046】
移動局101が基地局103cと通信している間、移動局制御部115は、第1の通信先候補装置である基地局103cからの無線信号のSNRを定期的又は不定期的に算出する(図4の10)。更に、移動局制御部115は、第2の通信先候補装置である基地局103bからの評価用信号のSNRを算出する(図4の10)。算出されたSNRは、移動局記憶部113に記憶される。以下、本実施形態では、移動局101が位置P2、P3及びP4に位置しているときの基地局103cからの無線信号のSNRは、22dB、21dB及び14dBであるとする。また、基地局103bからの評価用信号のSNRは、23dB、25dB及び30dBであるとする。
【0047】
移動局制御部115は、基地局103cからの無線信号のSNRを算出すると、移動局記憶部113に記憶されている閾値と比較する。基地局103cのSNRが閾値以上である限り、移動局101は、基地局103cと通信し続ける。
【0048】
ここで、移動局101が位置P4に位置したときに、基地局103cからの無線信号のSNRが閾値未満になったとする(図4の11)。すると、移動局制御部115は、通信先の基地局103cの無線信号のSNRに基づく評価値及び基地局103bからの評価用信号のSNRに基づく評価値を算出する(図4の12)。評価値は、移動局101に電波が届く基地局103の通信状態の良さを表す指標であり、値が大きいほど通信状態の良さを表す。
【0049】
移動局制御部115は、例えば、評価値を、通信先候補装置である基地局103b及び103c毎の、複数のSNRの平均値とすることができる。つまり、第1の通信先候補装置である基地局103cに関する評価値は、19dB((22+21+14)/3=19)となる。また、第2の通信先候補装置である基地局103bに関する評価値は、26dB((23+25+30)/3=26)となる。
【0050】
また、移動局制御部115は、例えば、評価値を、通信先候補装置である基地局103b及び103c毎の、複数のSNRから得られる回帰直線の傾きとすることができる。回帰直線は、例えば最小二乗法により求まる直線である。移動局101が位置P1、P2、P3及びP4に位置しているときの基地局103b及び103cのSNRをグラフにプロットすると図5のようになる。図5の横軸は、移動局101の位置であり、縦軸は、SNRの値[dB]である。移動局101が位置P2、P3及びP4に位置するときの基地局103cのSNRから回帰直線131の傾きを求めると−4となる。また、移動局101が位置P2、P3及びP4に位置するときの基地局103bのSNRから回帰直線133の傾きを求めると3.5となる。つまり、基地局103c及び103bに関する評価値はそれぞれ、−4及び3.5となる。
【0051】
なお、上記の評価値を求める上で、移動局101が位置P2、P3及びP4に位置するときのSNRを使用したが、SNRを複数使用して評価値を算出する限り、本発明はこの態様に限定されるものではない。そのため、基地局103cのSNRと基地局103bのSNRとが、移動局101が異なる位置で算出したデータであってもよい。
【0052】
移動局制御部115は、評価値を求めた後、評価値が最も大きい通信先候補装置に決定する。評価値が最も大きい通信先候補装置が、第1の通信先候補装置である場合、ハンドオーバは実行されず、移動局は、第1の通信先候補装置と通信を継続することになる。また、評価値が最も大きい通信先候補装置が、第2の通信先候補装置である場合、移動局は、ハンドオーバにより第1の通信先候補装置から第2の通信先候補装置に通信先を切り替えることになる。なお、移動局制御部115は、第1の通信先候補装置及び第2の通信先候補装置の双方ではなく、第2の通信先候補装置のみの評価値を求め、評価値が最も大きい第2の通信先候補装置と通信接続することもできる。
【0053】
評価値がSNRの平均値である場合、移動局制御部115は、通信先を基地局103bに決定する。
【0054】
評価値がSNRから得られる回帰直線の傾きである場合、移動局制御部115は、通信先を基地局103bに決定することができる。また、移動局制御部115は、評価値を通信品質値の少なくとも1つが閾値以上である通信先候補装置毎の回帰直線の傾きとすることもできる。これにより、回帰直線の傾きは大きいが通信品質値が閾値未満である基地局103が通信先の対象から外れる。本実施形態では、移動局101が位置P2及びP3に位置しているときに、基地局103cのSNR(22dB及び21dB)が閾値(20dB)以上となり、移動局101が位置P2〜P4に位置しているときに、基地局103bのSNR(23dB、25dB及び30dB)が閾値(20dB)以上となっている。よって、どちらの基地局に関しても閾値以上のSNRが存在するので、移動局制御部115は、回帰直線の傾きが最も大きい基地局103bを通信先に決定する。
【0055】
そして、移動局制御部115は、通信先に決定した基地局103bの識別番号情報を含む通信先決定信号を送信するように移動局送受信部111を制御する(図4の13)。基地局103bの基地局送受信部121bは、通信先決定信号を受信し、基地局制御部125bは、通信先決定信号に含まれる識別番号情報から自局103bが通信先に決定されたことを認識する。そして、基地局103bは、移動局101と互いに同期信号を送受信し、移動局101との通信を開始(確立)する(図4の14)。以上より、移動局制御部115は、評価値が最も大きい通信先候補装置と通信接続する。
【0056】
このように本実施形態では、移動局101の移動局制御部115は、通信中の第1の通信先候補装置である基地局103cのSNRが閾値未満になると、基地局103cから通信中に受信した複数の無線信号のSNRに基づく評価値と、第2の通信先候補装置である基地局103bにおける複数の評価用信号のSNRに基づく評価値とのうち、評価値が最も大きい通信先候補装置と通信接続する。つまり、移動局制御部115は、移動局101がある基地局と通信している間も、接続可能な他の基地局の通信状態を監視することにより、ハンドオーバが必要になった場合に、即座に通信状態の良い基地局を特定し、当該基地局と通信することができる。よって、ハンドオーバを実行するために必要な接続要求信号の送信や応答信号のSNR算出などの処理を省略できる。そのため、ハンドオーバに必要な処理及び時間が削減され、スループットの低下を抑えることができる。また、ハンドオーバ先を決定する上で、複数のSNRに基づいて評価値が決定されるため、一時的なSNRの低下により、基地局の通信状態が必要以上に低く又は高く評価されることを防ぐことができる。更に、基地局103は、移動局101から評価用信号の送信要求があった場合にのみ評価用信号を送信し、移動局101による基地局103のSNRの監視のために常に評価用信号を送信するわけではないので、基地局103は、評価用信号を送るためのチャネルの占有を最小限に抑えることができる。
【0057】
また本実施形態では、移動局制御部115は、評価値を、通信先候補装置毎の複数のSNRの平均値とすることができる。移動局制御部115は、処理負荷の少ない平均化という方法で基地局の通信状態を評価することができる。
【0058】
また本実施形態では、移動局制御部115は、評価値を、通信先候補装置毎の複数のSNRから得られる回帰直線の傾きとすることができる。傾きが大きいということは、ある基地局に関して算出されたSNRが時間と共に大きくなっていることであり、移動局101が、当該基地局に近づいていることを意味する。そのため、移動局101は、ハンドオーバ後も安定した通信を継続できる可能性の高い基地局に通信先を切り替えることができる。
【0059】
また本実施形態では、移動局制御部115は、評価値を、複数のSNRの少なくとも1つが閾値以上である通信先候補装置毎の傾きとすることができる。これにより、移動局101は、現在の通信状態も良く、且つ将来的にも良い通信状態が維持される可能性の高い基地局に通信先を切り替えることができる。
【0060】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0061】
例えば、各部材、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0062】
上述の本発明の実施形態の説明において、ハンドオーバにより切り替わる移動局101の通信先は基地局であるとして説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、ハンドオーバにより、移動局と基地局との間の通信を中継する中継局が切り替わる場合に本発明を適用することもできる。
【0063】
また、上述の本発明の実施形態の説明において、通信装置は移動局であるとして説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、通信装置が車両に搭載された中継局であり、中継局の通信先である基地局がハンドオーバにより切り替わる場合に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0064】
11 無線通信システム
101 移動局
103、103a、103b、103c 基地局
105 方向
107a、107b、107c 領域
109 障害物
111 移動局送受信部
113 移動局記憶部
115 移動局制御部
121 基地局送受信部
123 基地局記憶部
125 基地局制御部
131、133 回帰直線
A セルエッジ近傍領域
P1、P2、P3、P4 位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自装置と通信接続可能な通信先候補装置のうち、通信接続した第1の通信先候補装置以外の所定数の第2の通信先候補装置それぞれに、評価用信号を複数回に亘って送信するよう要求し、
前記第1の通信先候補装置の通信品質値が閾値未満になると、前記第2の通信先候補装置それぞれにおける前記複数の評価用信号の通信品質値に基づく評価値のうち、評価値が最も大きい通信先候補装置と通信接続する制御部
を備える通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信装置において、前記制御部は、前記評価値を、前記通信先候補装置毎の複数の前記通信品質値の平均値とすることを特徴とする通信装置。
【請求項3】
請求項1に記載の通信装置において、前記制御部は、前記評価値を、前記通信先候補装置毎の複数の前記通信品質値から得られる回帰直線の傾きとすることを特徴とする通信装置。
【請求項4】
請求項3に記載の通信装置において、前記制御部は、前記評価値を、複数の前記通信品質値の少なくとも1つが閾値以上である通信先候補装置毎の前記傾きとすることを特徴とする通信装置。
【請求項5】
通信装置における通信制御方法において、当該通信装置が、
自装置と通信接続可能な通信先候補装置のうち、第1の通信先候補装置と通信接続するステップと、
前記第1の通信先候補装置以外の所定数の第2の通信先候補装置それぞれに、評価用信号を複数回に亘って送信するよう要求するステップと、
前記第1の通信先候補装置の通信品質値が閾値未満になると、前記第2の通信先候補装置それぞれにおける前記複数の評価用信号の通信品質値に基づく評価値のうち、評価値が最も大きい通信先候補装置と通信接続するステップと
を含む通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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