説明

通信装置及び通信多重方法

【課題】 通信の組み合わせを再構成することにより通信品質を向上すること。
【解決手段】 複数の通信を複数の通信単位の一部又は全部にそれぞれ割り当てることにより、該複数の通信を並行して行う多重通信を行い、前記複数の通信のうち、少なくとも一部の前記通信の組み合わせついて、その一方又は双方の通信品質を示す第1評価値を取得する相互相関データ取得部56と、前記第1評価値に基づいて選択される前記組み合わせの一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更するRID割当部58と、を含むことを特徴とする通信装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通信装置及び通信多重方法に関し、特に多重可否の判断に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信システムにおいては、限られた周波数資源を有効利用するために、種々の通信単位に通信を割り当てることにより多重を行うことが一般的である。具体的には、周波数分割多重、時分割多重、符号分割多重、空間分割多重等である。そして、これらの多重化された各通信間においては、多重されている通信の相互干渉により通信品質が劣化することがある。このような場合には、例えばリンクアダプテーション、送信電力制御等を行うことや、特許文献1に記載されているように、通常の空間多重しない呼と同じサービスグレードで空間多重した呼を確立・維持できるアダプティブアレイ基地局による物理スロットの割当て方法を用いることにより、通信品質を向上させることが一般的である。
【特許文献1】特開2002−58061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、リンクアダプテーションや送信電力制御等では多重されている通信の通信品質を制御することはできるが、通信単位の割当には変化がなく、相互に影響のある通信の組み合わせの再構成がなされないため、通信品質の向上に限界があった。
【0004】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、通信の組み合わせを再構成することにより通信品質を向上することができる通信装置及び通信多重方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明は、通信装置において、複数の通信を複数の通信単位の一部又は全部にそれぞれ割り当てることにより、該複数の通信を並行して行う多重通信手段と、前記複数の通信のうち、少なくとも一部の前記通信の組み合わせについて、その通信のうち一方又は双方の通信品質を示す第1評価値を取得する第1評価値取得手段と、前記第1評価値に基づいて選択される前記組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する通信単位割当変更手段と、を含むことを特徴とする。なお、通信単位とは、多重化される単位であり、該通信単位ごとに1の通信が行われる。
【0006】
このようにすることにより、多重通信において、通信品質に基づいて通信の組み合わせの通信のうち一方又は双方に割り当てる通信単位を変更することにより、通信の組み合わせを再構成し、通信品質を向上することができる。
【0007】
また、上記通信装置において、前記各通信について、前記組み合わせのうち該通信を含む組み合わせに関する前記第1評価値に基づく第2評価値を生成する第2評価値生成手段、をさらに含み、前記通信単位割当変更手段は、前記第2評価値に基づいて選択される前記組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する、こととしてもよい。このようにすれば、第2評価値に基づいて通信の組み合わせを再構成することができる。
【0008】
また、上記通信装置において、前記通信単位割当変更手段は、1又は複数の前記組み合わせにおいて前記第2評価値により示される評価が最も低い組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する、こととしてもよい。
【0009】
また、上記通信装置において、前記通信単位割当変更手段は、前記第2評価値により示される評価が所定値を下回る組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する、こととしてもよい。
【0010】
また、上記通信装置において、前記第1評価値は前記組み合わせの通信に係る通信間の相関関係の度合いを示す相互相関データに基づいて決定される、こととしてもよい。このようにすれば、通信の相互相関関係に基づいて組み合わせを再構成することができる。
【0011】
また、上記通信装置において、前記第2評価値生成手段は、前記通信の通信状況を示す通信状況データにさらに基づいて前記第2評価値を生成する、こととしてもよい。このようにすれば、通信の通信状況に基づいて組み合わせを再構成することができる。なお通信状況とは、通信の品質の状況を示す用語として使用される。すなわち、通信状況がよい場合と悪い場合とがあり、よい場合にはよりエラーが少なく高速に通信ができ、悪い場合にはよりエラーが多く低速な通信となり、最悪な場合には通信が切断される。
【0012】
また、本発明に係る通信多重方法は、複数の通信を複数の通信単位の一部又は全部にそれぞれ割り当てることにより、該複数の通信を並行して行う多重通信ステップと、前記複数の通信のうち、少なくとも一部の前記通信の組み合わせについて、その通信のうち一方又は双方の通信品質を示す第1評価値を取得する第1評価値取得ステップと、前記第1評価値に基づいて選択される前記組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する通信単位割当変更ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下では、本発明の実施の形態に係る多重通信システム1はデータ通信が可能な移動体通信システムであるとして説明するが、多重通信をおこなう通信システムであれば、特に移動体通信システムでなくとも本発明の適用が可能である。
【0014】
本発明の実施の形態に係る多重通信システム1は、図1に示すように、基地局装置2、移動局装置3、通信ネットワーク4を含んで構成されている。
【0015】
基地局装置2は、図2に示すように、制御部20と、無線通信部21と、記憶部22と、ネットワークインターフェイス部23と、を含んで構成されている。制御部20は、基地局装置2の各部を制御し、通話やデータ通信に関わる処理を実行している。無線通信部21は、アンテナを備え、移動局装置3からの音声信号や通信用パケット等をそれぞれ受信して復調し、制御部20に出力したり、制御部20から入力される指示に従って、制御部20から入力される音声信号や通信用パケット等を変調してアンテナを介して出力したり、といった処理を行う。記憶部22は、制御部20のワークメモリとして動作する。また、この記憶部22は、制御部20によって行われる各種処理に関わるプログラムやパラメータを保持している。ネットワークインターフェイス部23は、通信ネットワーク4と接続されており、通信ネットワーク4からの音声信号や通信用パケット等を受信して制御部20に出力したり、制御部20の指示に従って音声信号や通信用パケット等を通信ネットワーク4に対して送信したりする。
【0016】
移動局装置3は、従来公知の携帯電話端末やPHS端末等の移動体通信システムで使用される端末装置と同様の端末装置であり、図3に示すように、制御部30と、記憶部31と、無線通信部32と、を含んで構成されている。制御部30は、移動局装置3の各部を制御し、通話やデータ通信に関わる処理を実行している。記憶部31は、制御部30のワークメモリとして動作する。また、この記憶部31は、制御部30によって行われる各種処理に関わるプログラムやパラメータを保持している。無線通信部32は、アンテナを備え、制御部30から入力される指示に従って、音声信号や通信用パケット等を変調してアンテナを介して出力したり、アンテナに到来する音声信号や通信用パケット等を受信して復調し、制御部30に出力したり、といった処理を行う。
【0017】
通信ネットワーク4は移動体通信システムの交換機ネットワークであってもよいし、移動体通信システムとして使用される多重通信システム1がIP電話による通信システムである場合などにはTCP/IP網であってもよい。
【0018】
基地局装置2と移動局装置3とは、それぞれ無線通信部21と無線通信部32とを介して、通信を行う。そして該通信を行う際には、複数の通信を複数の通信単位の一部又は全部にそれぞれ割り当てることにより、該複数の通信を並行して行う。すなわち、多重通信を行う。具体的には、例えば周波数分割多重、時分割多重、符号分割多重、空間分割多重等の種々の多重通信方式により通信を行う。通常はこれらを組み合わせて複数の多重通信方式を使用しながら通信を行う。本実施の形態では、これらの多重通信方式のうち、空間分割多重の場合を例に取り説明する。
【0019】
図4は、基地局装置2の機能ブロック図である。基地局装置2は、同図に示すように、機能的には送受信機能部70及び信号処理機能部71を含んで構成される。そして、送受信機能部70は送受信部50及びパス制御部51を含んで構成され、これらは無線通信部21及び制御部20によって実現される。信号処理機能部71は重み取得部52、復調・復号部53、電力制御部54、符号化・変調部55、相互相関データ取得部56、通信状況データ取得部57、RID割当部58、多重中止通信決定部59及び記憶部60を含んで構成され、これらは制御部20及び記憶部22によって実現される。
【0020】
送受信部50は、アンテナと、搬送波周波数帯域での信号を生成するアナログ無線回路と、該アナログ無線回路に変調周波数を提供する基準信号回路と、該アナログ無線回路に入力する送信信号の周波数を変換するディジタル・アップサンプリング・コンバータ(DUC)と、該アナログ無線回路により出力される受信信号の周波数を変換するディジタル・ダウンサンプリング・コンバータ(DDC)と、を含んで構成される。そして基地局装置2には複数の送受信部50が含まれ、各送受信部50に含まれるアンテナは、従来公知のアダプティブアレイアンテナを構成する。つまり、複数の送受信部50は、各アンテナにおいて、同一の信号を送信又は受信する。そして複数受信される同一の信号の受信電力に基づいて、送信時において信号を送信する際の各アンテナにおける送信電力の重みである送信アンテナ重みを算出し、該送信アンテナ重みに基づいて信号を送信する。このようにしてアンテナから送信される電波に指向性を持たせることにより、基地局装置2と移動局装置3との間での通信についての空間分割多重が行われる。
【0021】
パス制御部51は、DDCからの受信信号を後述するDSPに出力し該DSPからの送信信号と送信アンテナ重みを合成しDUCに搬送する経路制御回路(Path Controller)を含んで構成される。
【0022】
信号処理機能部71は、DUCへの入力送信信号およびDDCからの出力受信信号の信号処理を行う送受信ディジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)を含んで構成され、該DSPにより以下に説明する各部の機能が実現される。
【0023】
重み取得部52は、送受信機能部70から出力される受信信号から、送信アンテナ重みを算出する。具体的には、例えば受信信号の相関行列と、受信信号と参照信号との相関ベクトルから算出することができる。詳細には、「菊間信良著『アダプティブアンテナ技術』オーム社、2003年10月10日、p.11−54」に示されるような周知慣用の技術的手段を用いればよい。そして算出された送信アンテナ重みは電力制御部54において送信信号の送信電力に反映され、送受信機能部70に出力される。
【0024】
復調・復号部53は、送受信機能部70から出力される受信信号を復調して、該復調された信号を、ネットワークインターフェイス部23へ出力する。一方、符号化・変調部55は、図示しないネットワークインターフェイス部23から入力される信号を変調し、該変調された信号を送受信機能部70に対し出力する。
【0025】
RID割当部58は、移動局装置3との通信にRID(登録番号,Registration Indentity)を割り当てる加入者登録処理を行う。RIDは、移動局装置3との通信を基地局装置2において管理するために用いられる番号であり、基地局装置2ごとに、移動局装置3ごとに一意な番号が割り当てられる。RID割当の処理のシーケンスを図5に示す。図5は移動局装置3と基地局装置2の間で行われる通信のシーケンスのうち、RID割当に係る一部分を示したものである。同図に示すように、通信の開始にあたって、まず移動局装置3がRID割当を基地局装置2に対し要求するための信号を送信する(S100)。具体的には、リクエストアクセスと呼ばれる使用許可要求信号を送信する。そして基地局装置2はリクエストアクセスを送信してきた移動局装置3に通信を許可する場合にRIDを付与し、該RIDを移動局装置2に対し通知する(S101)。該通知は、具体的にはアクセスアサインメントと呼ばれる使用許諾信号に含めて移動局装置3に対し送信される(S101)。そして、該RIDを用いて移動局装置3と基地局装置2との間の通信が管理されることにより、移動局装置3と基地局装置2との間の通信が行われる(S102)。なお、このようにして付与されるRIDは、基地局装置2において図示しない管理テーブルに端末ID(端末ごとに一意に付与される識別子)と対応付けて記憶され、一旦付与されると管理テーブルに記憶できるRID数を超過しない限り、通信が終了しても付与されたままとなる。このため、基地局装置2との間での、ある移動局装置3との1回目の通信が終了して該移動局装置3との2回目の通信が始められる場合に、通常これらの2回の通信においては、同じRIDを使用して通信が行われる。
【0026】
記憶部60は、RIDごとに、対他ユーザ得失点テーブルを記憶する。図6は該対他ユーザ得失点テーブルの例である。同図はRID=000の通信についての対他ユーザ得失点テーブルである。同様なテーブルが各RIDについて記憶される。そして、同図に示すように、RID=000を割り当てられた通信とRID=000以外のRIDを割り当てられた通信との組み合わせごとに、「自己相関」、「相互相関」、「SER」、「FER」、「SINR」、「DSSI」、「変調クラス」、「トータルコスト」、「順位」を記憶している。
【0027】
「相互相関」には、あるRIDを割り当てられた通信と、他のRIDを割り当てられた通信と、の相互相関の度合いを示す相互相関データが記憶される。相互相関とは、通信の分離可能性を示す指標であり、ここでは各通信についての各アンテナの送信出力の重みを要素とするアンテナ重みベクトルwの内積により表すことができる。つまり、相関関係データにより、あるRIDを割り当てられた通信と他のRIDを割り当てられた通信との組み合わせについて、その組み合わせをなす通信の一方又は双方の通信品質が示される。
【0028】
該相互相関データは、相互相関データ取得部56において取得される。相互相関データ取得部56は、まず重み取得部52により算出される送信アンテナ重みを取得する。そして、各通信の送信アンテナ重みに基づいて、対他ユーザ得失点テーブルに記憶される通信の組み合わせに含まれる通信であって、特に多重されている通信との相互相関データを算出することにより取得する。該相互相関データは0.0〜1.0の範囲の値であり、相互相関データ取得部56は、この範囲に予め設定される閾値より大きいか或いは小さいかを判断し、大きい場合には「−1」を、小さい場合には「+1」を、対他ユーザ得失点テーブルにおいて、該組み合わせの相互相関データに加算することにより、該相互相関を記憶する。相互相関データ取得部56による上記処理は通信中の通信について例えばフレームごとに行われ、対他ユーザ得失点テーブルに記憶される相互相関データはフレームごとに更新される。
【0029】
次に「自己相関」には、対他ユーザ得失点テーブルの他のRIDを割り当てられた通信の自己相関の度合いを示す自己相関データが記憶される。自己相関とは、相互相関と同じく通信の分離可能性を示す指標であるが、該通信の現在のフレーム及び直前のフレームについての各アンテナの送信出力の重みを要素とするアンテナ重みベクトルwの内積により表すことができ、通信の通信状況を示す通信状況データのひとつである。すなわち、一の通信において、例えばフェージングが発生した結果直前のフレームが遅れて到着する場合があり、そのような場合にはフレーム間における信号の分離が困難になる場合がある。自己相関はこのような信号分離の困難性を表し、信号の分離ができない場合には通信ができなくなることから、自己相関は通信状況を表す指標のひとつとして使用される。
【0030】
そして該自己相関データは、通信状況データ取得部57において取得される。通信状況データ取得部57は、まず重み取得部52により取得される送信アンテナ重みを取得する。なおこの場合において、該送信アンテナ重みを記憶する。そして、各通信の送信アンテナ重みに基づいて、対他ユーザ得失点テーブルに記憶される通信の組み合わせに含まれる通信であって、特に多重されている通信の自己相関データを算出することにより取得する。より具体的には、該自己相関データは、記憶される直前のフレームの送信アンテナ重みと、今回取得されるフレームの送信アンテナ重みと、の相関を求めることにより算出される。該自己相関データも0.0〜1.0の範囲の値であり、通信状況データ取得部57は、この範囲に予め設定される閾値より大きいか或いは小さいかを判断する。そして大きい場合には「−1」を、小さい場合には「+1」を、対他ユーザ得失点テーブルにおいて、該通信を含む通信の組み合わせの自己相関データに加算することにより、該自己相関を記憶する。通信状況データ取得部57による上記処理は通信中の通信について例えばフレームごとに行われ、対他ユーザ得失点テーブルに記憶される自己相関データはフレームごとに更新される。
【0031】
以上説明したように、相互相関データ及び自己相関データは、送信アンテナ重み相互の内積に基づいて表すことができる。同様に、例えば符号分割多重の場合には、PN符号相互の内積に基づいて表すことができる。すなわち、相互相関データ及び自己相関データは、多重を行う場合の基準となる多重基礎データに基づいて算出することができる。
【0032】
「SER」は対他ユーザ得失点テーブルの他のRIDを割り当てられた通信の同期エラーレートを示す同期エラーレートデータであり、「FER」は対他ユーザ得失点テーブルの他のRIDを割り当てられた通信のフレームエラーレートを示すフレームエラーレートデータである。これらも通信の通信状況を示す通信状況データのひとつである。すなわち、該通信がエラーになった割合を示す通信失敗率を示すデータである。
【0033】
具体的には、まず同期エラーレートデータには、受信時のシンボル同期検波の失敗率を点数化したデータが使用される。該シンボル同期検波の失敗率は0.0〜1.0の範囲の値をとり、この範囲内に4つの閾値を設けて5段階の値(0,1,2,3,4)としたものが使用される。該5段階の値は、大きいほど失敗率が高いことを示している。同様に、フレームエラーレートデータは受信時のフレームがエラーになった割合を示すデータであり、これも5段階の値(0,1,2,3,4)で評価したものが使用される。該5段階の値も、大きいほどエラーになった割合が高いことを示している。
【0034】
通信状況データ取得部57は、復調・復号部53において入力される受信信号を復調・復号する際に算出される同期エラーレート及びフレームエラーレートに基づいて、対他ユーザ得失点テーブルの他のRIDを割り当てられた通信の同期エラーレートデータ及びフレームエラーレートデータを取得する。そして対他ユーザ得失点テーブルにおいて、該通信を含む通信の組み合わせの同期エラーレートデータ及びフレームエラーレートデータを置き換えることにより、該同期エラーレートデータ及び該フレームエラーレートデータを記憶する。通信状況データ取得部57による上記処理は通信中の通信について例えばフレームごとに行われ、対他ユーザ得失点テーブルに記憶される同期エラーレートデータ及びフレームエラーレートデータはフレームごとに更新される。
【0035】
「SINR」は信号対干渉雑音比の移動平均値を示すSINRデータである。信号対干渉雑音比は受信信号の信号強度の干渉波や雑音の強度に対する比を表すデータであり、これも通信の通信状況を示す通信状況データのひとつである。すなわち、干渉波や雑音の強度が信号強度に比べて高い場合には、信号の分離が困難になり、信号の分離ができない場合には通信ができなくなることから、信号対干渉雑音比は通信状況を表す指標のひとつとして使用される。
【0036】
該信号対干渉雑音比は、復調・復号部53において、入力される信号の受信信号成分と他の成分との比を算出することにより取得される。そして通信状況データ取得部57は、対他ユーザ得失点テーブルの他のRIDを割り当てられた通信の信号対干渉雑音比を所定時間にわたり取得し、その平均を計算することにより、該信号対干渉雑音比の移動平均値であるSINRデータを取得する。なお、SINRデータについても、5段階の値(0,1,2,3,4)で評価したものが使用され、大きいほど干渉波及び雑音が大きいことを示している。そして対他ユーザ得失点テーブルにおいて、該通信を含む通信の組み合わせのSINRデータを置き換えることにより、該信号対干渉雑音比の移動平均値を記憶する。通信状況データ取得部57による上記処理は通信中の通信について例えば信号対干渉雑音比を取得する際の上記所定時間ごとに行われ、対他ユーザ得失点テーブルに記憶されるSINRデータは該所定時間ごとに更新される。
【0037】
「DSSI」は所望信号の受信強度を示すDSSIデータであり、これも通信の通信状況を示す通信状況データのひとつである。所望信号は受信信号に含まれる移動局装置3が送信した信号成分であり、該信号成分の振幅が弱い場合には受信信号から該信号成分を分離することが困難になり、該信号成分の分離ができない場合には通信ができなくなることから、所望信号の受信強度は通信状況を表す指標のひとつとして使用される。
【0038】
該所望信号の受信強度は、復調・復号部53において、入力される信号を復調して得られる信号成分の振幅を取得することにより取得される。そして通信状況データ取得部57は、対他ユーザ得失点テーブルの他のRIDを割り当てられた通信に含まれる所望信号の受信強度を所定時間にわたり取得し、その平均を計算することにより、該所望信号の受信強度の移動平均値であるDSSIデータを取得する。なおDSSIデータについても、5段階の値(0,1,2,3,4)で評価したものが使用され、大きいほど所望信号の受信強度が小さいことを示している。そして通信状況データ取得部57は、対他ユーザ得失点テーブルにおいて、該通信を含む通信の組み合わせのDSSIデータを置き換えることにより、該所望信号の受信強度の移動平均値を記憶する。通信状況データ取得部57による上記処理は通信中の通信について例えば所望信号の受信強度を取得する際の上記所定時間ごとに行われ、対他ユーザ得失点テーブルに記憶されるDSSIデータは該所定時間ごとに更新される。
【0039】
「変調クラス」は、位相変調方式の場合に使用される多値化の度合いを示す変調クラスデータである。すなわち、位相変調方式の場合には干渉波やフェージング等の通信に影響を与える外部干渉の状況に応じて変調クラスが変更される。例えば変調クラスが4値の場合には1シンボルにより通信できる信号量が8値の場合に比べて1/2となるが、複素平面におけるシンボル間の距離が遠くなるため、復号しやすくなる。このため、干渉波やフェージングの状況により受信状態が悪い場合には、多値化の度合いを小さくすることにより、復号しやすくし、逆に受信状態がよい場合には、多値化の度合いを大きくすることにより、通信速度を速くするというリンクアダプテーション処理が行われる場合がある。このように、変調クラスは間接的に通信状況を表しており、通信の通信状況を示す通信状況データのひとつとして使用される。
【0040】
そして該多値化の度合いは、復調・復号部53で復調のために使用される変調方式そのものであるので、通信状況データ取得部57は、該変調クラスを取得することにより、該変調クラスに基づいて変調クラスデータを決定することができる。具体的には、対他ユーザ得失点テーブルの他のRIDを割り当てられた通信の通信中に選択された変調クラスを所定時間にわたりヒストグラム化し、その積分値を、大きい順(多値化の度合いが大きい順)に5段階の値(0,1,2,3,4)として評価したものを変調クラスデータとして使用することができる。すなわち、値が大きいほど多値化の度合いが小さいことを表している。そして通信状況データ取得部57は、対他ユーザ得失点テーブルにおいて、該通信を含む通信の組み合わせの変調クラスデータを置き換えることにより、該変調クラスデータを記憶する。通信状況データ取得部57による上記処理は通信中の通信について例えば変調クラスををヒストグラム化する際の上記所定時間ごとに行われ、対他ユーザ得失点テーブルに記憶される変調クラスデータは該所定時間ごとに更新される。
【0041】
そして以上のようにして記憶される自己相関データ、相互相関データ、同期エラーレートデータ、フレームエラーレートデータ、SINRデータ、DSSIデータ、変調クラスデータの少なくとも1つに基づいて、トータルコストが算出され、「トータルコスト」として対他ユーザ得失点テーブルに記憶される。トータルコストが算出される処理は、相互相関データ取得部56若しくは通信状況データ取得部57により該対他ユーザ得失点テーブルが更新される際に該相互相関データ取得部56又は該通信状況データ取得部57により行われることとしてもよい。具体的には、自己相関データ、相互相関データ、同期エラーレートデータ、フレームエラーレートデータ、SINRデータ、DSSIデータ、変調クラスデータの合計をトータルコストとしてもよい。そして、対他ユーザ得失点テーブルに記憶される、他のRIDを割り当てられた通信におけるトータルコストの大きい順に順位がつけられ、「順位」に記憶される。
【0042】
以上の対他ユーザ得失点テーブルに各データを記憶させる処理を、処理フローを参照しながらまとめて説明する。図7は、信号処理機能部71における処理のフロー図である。まず、相互相関データ取得部56及び通信状況データ取得部57は一の通信に注目する。そして、通信状況データ取得部57は該一の通信以外の通信について、通信状況データを取得する(S202)。また、相互相関データ取得部56は注目通信と、該注目通信と多重される通信との相互相関データを取得する(S204)。そして、それぞれが注目通信の対他ユーザ得失点テーブルに各データを記憶する際に、トータルコストを計算し(S206)、各データとトータルコストを併せて注目通信の対他ユーザ得失点テーブルに記憶する(S208)。なお、実際の処理においては、例えば相互相関データ取得部56と通信状況データ取得部57とが、それぞれ取得するデータを次から次へと対他ユーザ得失点テーブルに書き込んでいくこととしてもよい。
【0043】
多重中止通信決定部59は、以上のようにして各データが記憶される対他ユーザ得失点テーブルに基づいて、多重通信を中止する通信を決定する。対他ユーザ得失点テーブルに記憶されるトータルコストは、注目RIDを割り当てられた通信と、他のRIDを割り当てられた通信と、の組み合わせにおいて、多重させることが望ましい度合いを示している。具体的には、相互相関データが大きい場合には注目RIDを割り当てられた通信と、他のRIDを割り当てられた通信と、の信号分離が困難であるため、多重させることは望ましくない。自己相関データ、同期エラーレートデータ、フレームエラーレートデータ、SINRデータ、DSSIデータ、変調クラスデータが大きい場合には、他のRIDを割り当てられた通信自身の通信状況がよくないため、多重させることは望ましくない。このように、各データが大きい場合には多重化しないことが望ましく、トータルコストはこれらのデータを総合的に評価するための指標として使用される。このため、該トータルコストが大きい組み合わせに係る、注目RIDを割り当てられた通信と、他のRIDを割り当てられた通信と、が多重化されている場合には、多重化を中止することにより、通信状況を改善することが可能となる。
【0044】
なお多重中止通信決定部59は、例えばトータルコストが所定値を上回る組み合わせがあるか否かを監視し、トータルコストが該所定値を上回る組み合わせがある場合に、その組み合わせに含まれる通信の一方又は双方の多重を中止する通信を決定することとしてもよい。図8は、この場合の処理フロー図である。多重中止通信決定部59はまず1の通信に注目し(S220)、該通信について記憶される対他ユーザ得失点テーブルにおいて記憶されるトータルコストが所定値を上回る組み合わせがあるか否かを判断する(S222)。なければ他の通信に注目してS220からの処理を繰り返す。あれば、該組み合わせに含まれる通信の一方又は双方のRIDを再割当することを決定し、RID割当部58に対し指示をする。なお、例えば必ず注目通信ではない通信、すなわち注目通信の対他ユーザ得失点テーブルにおいて他の通信としてRIDが記憶される通信について、RIDを再割当することを決定するととしてもよい。そして指示を受けたRID割当部58は該通信についてのRIDの再割当を行う(S224)。そして多重中止通信決定部59は、注目通信を変えてS220からの処理を繰り返す。
【0045】
また多重中止通信決定部59は、例えば相互相関データが所定値を上回る組み合わせがあるか否かを監視し、所定値を上回る組み合わせがある場合に、該組み合わせのうちで、トータルコストが最大の組み合わせ、すなわち順位が最も高い組み合わせに含まれる通信の一方又は双方の多重を中止する通信を決定することとしてもよい。図9は、この場合の処理フロー図である。多重中止通信決定部59はまず1の通信に注目し(S230)、該通信について記憶される対他ユーザ得失点テーブルにおいて「相互相関」が所定値を上回る組み合わせがあるか否かを判断する(S232)。なければ他の通信に注目してS230からの処理を繰り返す。あれば、該組み合わせのうちで、トータルコストが最大の組み合わせに含まれる通信の一方又は双方のRIDを再割当することを決定し、RID割当部58に対し指示をする。なお、例えば必ず注目通信ではない通信、すなわち注目通信の対他ユーザ得失点テーブルにおいて他の通信としてRIDが記憶される通信について、RIDを再割当することを決定するととしてもよい。そして指示を受けたRID割当部58は該通信についてのRIDの再割当を行う(S234)。そして多重中止通信決定部59は、注目通信を変えてS230からの処理を繰り返す。
【0046】
RID割当部58においてRIDの再割当を行う際の処理を、図5に示すシーケンス図を参照しながら説明する。S102までの処理において、上述の通り通信中となっている通信について、基地局装置2の多重中止通信決定部59においてRIDの再割当を行うことが決定されると、RID割当部58は新たなRIDを決定し、移動局装置2に対して該RIDを通知する(S103)。これもアクセスアサインメントと呼ばれる使用許諾信号に含めて移動局装置3に対し送信されることとしてもよい。そして、該RIDを用いて移動局装置3と基地局装置2との間の通信が管理されることにより、移動局装置3と基地局装置2との間の通信が行われる(S104)。このようにRIDが再割当をされると、通信はリセットされ、再度チャネルの割当が行われることとなる。このため、多重化についてもリセットされ、それまで多重化されていた通信と再度多重化される可能性を残しつつ、より通信状況がよくなると考えられるように、多重化等がやり直されることとなる。すなわち、多重化される単位(例えば時分割多重ではタイムスロット、空間分割多重では送信アンテナ重み)としての通信単位の割当を変更することを目的としてRID割当部58においてRIDを再割当する。
【0047】
以上のようにすることにより、通信の組み合わせを再構成することにより通信品質を向上することができるようになる。すなわち、多重化をやり直すことにより、多重化されている通信間での相互の影響による通信品質の悪化について、改善することができる。
【0048】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、通信状況データとして上記実施の形態では自己相関データ、同期エラーレートデータ、フレームエラーレートデータ、SINRデータ、DSSIデータ、変調クラスデータを用いたが、この他の通信状況を示す通信状況データを用いても構わない。また、上記実施の形態では空間分割多重の場合を例に取り説明したが、周波数分割多重、時分割多重、符号分割多重その他の多重方法による多重においても本発明を適用することができる。すなわち、多重基礎データの相関に基づいて多重化されている通信相互間の信号分離可能性を取得することにより、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態にかかる多重通信システムの構成図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる基地局装置の構成ブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる移動局装置の構成ブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる基地局装置の機能ブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態にかかるシーケンス図である。
【図6】本発明の実施の形態にかかる対他ユーザ得失点テーブルである。
【図7】本発明の実施の形態にかかる処理のフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態にかかる処理のフロー図である。
【図9】本発明の実施の形態にかかる処理のフロー図である。
【符号の説明】
【0050】
1 多重通信システム、2 基地局装置、3 移動局装置、4 通信ネットワーク、20,30 制御部、21,32 無線通信部、22,31 記憶部、23 ネットワークインターフェイス部、50 送受信部、51 パス制御部、52 重み取得部、53 復調・復号部、54 電力制御部、55 符号化・変調部、56 相互相関データ取得部、57 通信状況データ取得部、58 RID割当部、59 多重中止通信決定部、60 記憶部、70 送受信機能部、71 信号処理機能部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通信を複数の通信単位の一部又は全部にそれぞれ割り当てることにより、該複数の通信を並行して行う多重通信手段と、
前記複数の通信のうち、少なくとも一部の前記通信の組み合わせについて、その通信のうち一方又は双方の通信品質を示す第1評価値を取得する第1評価値取得手段と、
前記第1評価値に基づいて選択される前記組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する通信単位割当変更手段と、
を含むことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信装置において、
前記各通信について、前記組み合わせのうち該通信を含む組み合わせに関する前記第1評価値に基づく第2評価値を生成する第2評価値生成手段、
をさらに含み、
前記通信単位割当変更手段は、前記第2評価値に基づいて選択される前記組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の通信装置において、
前記通信単位割当変更手段は、1又は複数の前記組み合わせにおいて前記第2評価値により示される評価が最も低い組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項4】
請求項2に記載の通信装置において、
前記通信単位割当変更手段は、前記第2評価値により示される評価が所定値を下回る組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の通信装置において、
前記第1評価値は、前記組み合わせの通信に係る通信間の相関関係の度合いを示す相互相関データに基づいて決定される、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項6】
請求項2に記載の通信装置において、
前記第2評価値生成手段は、前記通信の通信状況を示す通信状況データにさらに基づいて前記第2評価値を生成する、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項7】
複数の通信を複数の通信単位の一部又は全部にそれぞれ割り当てることにより、該複数の通信を並行して行う多重通信ステップと、
前記複数の通信のうち、少なくとも一部の前記通信の組み合わせについて、その通信のうち一方又は双方の通信品質を示す第1評価値を取得する第1評価値取得ステップと、
前記第1評価値に基づいて選択される前記組み合わせの通信のうち一方又は双方について、割り当てる通信単位を変更する通信単位割当変更ステップと、
を含むことを特徴とする通信多重方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−14204(P2006−14204A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191791(P2004−191791)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】