説明

通帳搬送ローラ装置

【課題】トルクリミッタ機能の設定トルクをより的確に設定することができ、ジャム発生時の通帳類の損傷を防止することができる通帳搬送ローラ装置を提供する。
【解決手段】対向配置された搬送ローラ10及び狭持ローラ11を備え、通帳2を搬送する通帳搬送ローラ装置において、搬送ローラ10は、駆動軸に接続した内輪部材12と、金属製の外輪部材13と、例えば内輪部材12の外周面に固着され外輪部材13の内周面に圧入され、外輪部材13の内周面に対し周方向に所定の間隔をおきかつ点対称となる複数の位置で弾性力を付与するゴム部材14とを有し、外輪部材13の負荷トルクがゴム部材14の弾性力によって設定される設定トルク未満であるときは、ゴム部材14を介し内輪部材12及び外輪部材13を共に回転させ、外輪部材13の負荷トルクが設定トルク以上であるときは、外輪部材13の内周面とゴム部材14との間に相対滑りを生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向配置された搬送ローラ及び狭持ローラにより通帳類を搬送する通帳搬送ローラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば現金自動取引装置や通帳類取扱装置に設けられる通帳プリンタは、例えば、利用者が通帳の挿入又は取出しを行うための入出口と、この入出口からの通帳搬送路に設けられた搬送ローラ機構と、通帳の表紙に貼り付けた磁気ストライプの情報を読取る磁気ストライプ読取機構と、この磁気ストライプ読取機構で読取った情報に基づいて通帳に印字する例えばインクジェット式の印字機構と、通帳の印刷頁を替える頁捲機構とを備えている。搬送ローラ機構は、対向配置された搬送ローラ及び狭持ローラを複数列備えており、制御回路からの指令に応じて磁気ストライプ読書機構、印字機構、及び頁捲機構の位置に通帳を搬送するようになっている。
【0003】
ところで、電子写真複写機の用紙搬送路に設けられる搬送ローラ機構においては、搬送ローラ(駆動ローラ)にトルクリミッタ機能を設けたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。この搬送ローラは、駆動軸に係止され外周面に凹凸を形成した樹脂製のコア部材と、このコア部材の外径よりも小径な孔を有するゴムローラ部材とを備え、ゴムローラ部材の孔にコア部材が圧入されて一体構成されている。これにより、コア部材の外周面とゴムローラ部材の内周面との間に生じる摩擦力によってトルクリミッタ機能の設定トルクが設定されている。そして、例えば上流側の搬送ローラの回転速度を下流側の搬送ローラの回転速度よりも低速に設定するような場合に、下流側の搬送ローラにトルクリミッタ機能を設けている。これにより、搬送用紙が上流側の搬送ローラの影響を受けているときに、下流側の搬送ローラはゴムローラ部材がコア部材に対し滑る状態となって低速搬送を維持し、搬送用紙が上流側の搬送ローラの影響を受けなくなったときに、下流側の搬送ローラは高速搬送するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−316346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記通帳プリンタの搬送ローラ機構は、通帳に印字するための搬送精度を高める必要があるばかりでなく、通帳の印刷頁に応じた厚み変化に対応して搬送しなければならない。すなわち、例えば搬送ローラ及び狭持ローラの摩擦係数や狭持力が低いと、ローラと通帳との間で滑りが生じたり、通帳の表紙側の枚数と裏紙側の枚数との差による枚数段差及びとじ部の背山段差を通過できない可能性が生じる。そのため、一般に、搬送ローラ及び狭持ローラの摩擦係数や狭持力を高めることが求められる。ところが、搬送ローラ及び狭持ローラの摩擦係数や狭持力を高めると、例えば通帳のジャム(詰まり)が万一発生したときに、ローラが通帳の紙面を掘り込む可能性が生じる。特に、通帳のように厚みのある媒体は座屈しにくいため、損傷する可能性があった。
【0006】
そこで通帳プリンタの搬送ローラ機構に、上述したトルクリミッタ機能を備えた搬送ローラを適用する場合を想定する。これにより、ジャム発生時の通帳の損傷を防止することができると思われる。しかしながら、この従来の搬送ローラはゴムローラ部材で構成されているため、金属製のローラ部材とは異なり、搬送精度の向上を目的として狭持力を高めると、印字インクが転写(ローラへの1次転写及び通帳への2次転写)する可能性があった。また、従来の搬送ローラは、コア部材の外周面に形成した凹凸を梨地加工又は軸方向の多数の溝等によって形成し、コア部材の外周面に対しほぼ全周にわたってゴムローラ部材の弾性力が生じている。そのため、弾性部材の弾性力に分布や誤差が生じやすく、トルクリミッタ機能の設定トルクをより的確に設定することができなかった。
【0007】
本発明の目的は、トルクリミッタ機能の設定トルクをより的確に設定することができ、ジャム発生時の通帳類の損傷を防止することができる通帳搬送ローラ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、対向配置された搬送ローラ及び狭持ローラを備え、通帳類を搬送する通帳搬送ローラ装置において、前記搬送ローラは、駆動軸に接続した内輪部材と、前記内輪部材の外周側に配置した金属製の外輪部材と、前記内輪部材の外周面及び前記外輪部材の内周面のうちの一方に固着され、前記内輪部材の外周面及び前記外輪部材の内周面のうちの他方に対し、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称配置となる複数の位置で弾性力を付与する少なくとも1つの弾性部材を有し、前記外輪部材の負荷トルクが前記弾性部材の弾性力によって設定される設定トルク未満であるときは、前記弾性部材等を介し前記内輪部材及び外輪部材を共に回転させ、前記外輪部材の負荷トルクが前記設定トルク以上であるときは、前記内輪部材の外周面及び前記外輪部材の内周面のうちの他方と前記弾性部材側との間に相対滑りを生じさせるトルクリミッタ手段とを備える。
【0009】
本発明においては、搬送ローラは、例えば内輪部材の外周面(又は外輪部材の内周面、以降かっこ内対応同じ)に固着され、外輪部材の内周面(又は内輪部材の外周面)に対し、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称配置となる複数の位置で弾性力を付与する弾性部材を設ける。これにより、外輪部材の内周面(又は内輪部材の外周面)と弾性部材側との間に、摩擦係数及び弾性部材の弾性力に応じた摩擦力が生じる。そして、例えば搬送ローラ(言い換えれば、外輪部材)の負荷トルクが設定トルク(詳細には、前述した摩擦力に有効半径を掛け合わせた摩擦トルク)未満である場合は、弾性部材等を介し内輪部材及び外輪部材を共に回転させる、一方、例えば搬送ローラの負荷トルクが設定トルク以上である場合は、外輪部材の内周面(又は内輪部材の外周面)と弾性部材側との間に相対滑りを生じさせることができる。したがって、このようなトルクリミッタ機能の設定トルクを例えば通帳類の正常搬送時の負荷トルクより大きくかつジャム発生時の負荷トルクより小さく設定することにより、ジャム発生時に駆動軸及び内輪部材を空回転させて通帳類の損傷を防止することができる。
【0010】
また本発明においては、弾性部材の弾性力を外輪部材の内周面(又は内輪部材の外周面)に対し周方向に所定の間隔をおきかつ点対称配置となる複数の位置で付与している。これにより、例えば外輪部材の内周面(又は内輪部材の外周面)に対しほぼ全周に亘って弾性力を付与する場合に比べ、その弾性力すなわちトルクリミッタ機能の設定トルクをより的確に設定することができる。また、例えば通帳の厚み寸法の変化等により外輪部材の軸心が内輪部材の軸心に対し若干ずれる可能性があるが、弾性力を付与する位置を点対称に配置することにより、弾性力の増減を互いに補完させ弾性力の総和を維持することができる。その結果、トルクリミッタ機能の設定トルクをより安定させることができる。
【0011】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記トルクリミッタ手段は、前記内輪部材の外周面に固着され、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称に形成した複数の外周側突部が前記外輪部材の内周面に圧入された前記弾性部材を有し、前記外輪部材の負荷トルクが前記弾性部材の複数の外周側突部における弾性力によって設定される設定トルク未満であるときは、前記弾性部材を介し前記内輪部材及び外輪部材を共に回転させ、前記外輪部材の負荷トルクが前記設定トルク以上であるときは、前記外輪部材の内周面と前記弾性部材の外周側突部との間に相対滑りを生じさせる。
【0012】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記トルクリミッタ手段は、前記外輪部材の内周面に固着され、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称に形成した複数の内周側突部が前記内輪部材の外周面に圧入された前記弾性部材を有し、前記外輪部材の負荷トルクが前記弾性部材の複数の内周側突部における弾性力によって設定される設定トルク未満であるときは、前記弾性部材を介し前記内輪部材及び外輪部材を共に回転させ、前記外輪部材の負荷トルクが前記設定トルク以上であるときは、前記内輪部材の外周面と前記弾性部材の内周側突部との間に相対滑りを生じさせる。
【0013】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記トルクリミッタ手段は、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称に配置され、前記外輪部材の内周面を摺動可能な複数の摺動部材と、前記内輪部材の外周面に固着され、前記複数の摺動部材にそれぞれ径方向外周側の弾性力を付与する前記複数の弾性部材とを有し、前記外輪部材の負荷トルクが前記複数の弾性部材の弾性力によって設定される設定トルク未満であるときは、前記弾性部材及び摺動部材を介し前記内輪部材及び外輪部材を共に回転させ、前記外輪部材の負荷トルクが前記設定トルク以上であるときは、前記外輪部材の内周面と前記摺動部材との間に相対滑りを生じさせる。
【0014】
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1つにおいて、好ましくは、前記外輪部材は、外周面にセラミック粒子層を設ける。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トルクリミッタ機能の設定トルクをより的確に設定することができ、ジャム発生時の通帳類の損傷を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
本発明の第1の実施形態を図1〜図6により説明する。
図1は、本発明の適用対象である通帳プリンタの全体構成を表す概略図である。
【0018】
この図1において、例えば現金自動取引装置や通帳類取扱装置に設けられる通帳プリンタ1は、利用者が通帳2の挿入や取出しを行うための入出口3と、この入出口3からの通帳搬送路に設けられた搬送ローラ機構4とを備えている。また、この通帳搬送路には入出口3側(図1中左側)から順に、通帳2の表紙に貼り付けた磁気ストライプの情報を読取る磁気ストライプ読取機構5、この磁気ストライプ読取機5で読取った情報に基づいて通帳2に印字する例えばインクジェット式の印字機構6、通帳2の印刷頁を替える頁捲機構7が設けられている。また、頁捲機構7の上側には、通帳搬送路へ新規発行用の通帳2を繰り出すための通帳発行機構8が設けられ、頁捲機構7の下側には、通帳搬送路上の使用済みの通帳2を回収するための通帳回収機構9が設けられている。
【0019】
搬送ローラ機構4は、通帳2の印刷面側(図1中上側)に配置された搬送ローラ10及び対向配置された狭持ローラ11を複数列備えており、搬送ローラ10及び狭持ローラ11を互いに反対方向に回転させることにより、通帳2を取込方向(図1中右側)又は放出方向(図1中左側)に搬送するようになっている。なお、本実施形態では、搬送ローラ10及び狭持ローラ11を共に回転制御する双駆動方式とする場合を例にとって説明するが、これに代えて、搬送ローラ10のみを回転制御する単駆動方式としてもよい。
【0020】
図2は、本実施形態の要部である上記搬送ローラ10の詳細構造を表す側面図であり、図3は、図2中断面III−IIIによる搬送ローラ10の断面図である。
【0021】
これら図2及び図3において、搬送ローラ10は、駆動軸(図示せず)に係止される内輪部材12と、外周面にセラミック粒子層13aが設けられた金属製の外輪部材13と、内輪部材12の外周面に固着され外輪部材13の内周面に圧入された例えば略四角形状のゴム部材(弾性部材)14とで構成されている(すなわち、圧入前のゴム部材14の最大外径寸法は外輪部材13の内径寸法より大きくなっている)。なお、内輪部材12及び外輪部材13の軸心は同一となるように構成されている。
【0022】
ゴム部材14の外周側には、周方向に90度の間隔をおきかつ点対称となるように4つの突部14aが形成され、これら突部14aの円弧状先端面が外輪部材13の内周面に圧接されている。これにより、ゴム部材14の外周側突部14aの径方向圧縮量に応じて外輪部材13の内周面に対する弾性力が生じ、ゴム部材14の外周側突部14aと外輪部材13の内周面との間には摩擦係数及びその弾性力に応じた摩擦力が生じる。
【0023】
そして、搬送ローラ10(言い換えれば外輪部材13)の負荷トルクが上記摩擦力によって設定される設定トルク(詳細には、上記摩擦力に外輪部材13の内周半径を掛け合わせた摩擦トルク)未満であるときは、ゴム部材14を介し内輪部材12及び外輪部材13を共に回転させ、一方、搬送ローラ10の負荷トルクが設定トルク以上であるときは、外輪部材13の内周面とゴム部材14の外周側突部14aとの間に相対滑りを生じさせるようになっている(トルクリミッタ機能)。
【0024】
狭持ローラ11は、詳細は図示しないが、例えば本体又は表面にゴム材(硬さHs≦60)を設けたゴムローラであり、バネによって搬送ローラ10側へのピンチ力(例えば5N程度)が与えられている。
【0025】
次に、上述した搬送ローラ10のトルクリミッタ機能の設定トルクについて詳細を説明する。図4は、本願発明者らが測定した搬送ローラ10の負荷トルクを表す図である。
【0026】
この図4において、横軸は、通帳2の表紙側又は裏紙側(図1において取込方向に搬送する場合は右側、放出方向に搬送する場合は左側)の枚数をとって表し、縦軸は、搬送ローラ10の負荷トルクをとって表している。搬送ローラ10の負荷トルクは、搬送ローラ10及び狭持ローラ11を回転させつつ通帳2を搬送しない場合(図4では通帳2の枚数をゼロとして示す)に約0.6N・mとなり、通帳2を正常に搬送させた場合(図4中、取込方向の搬送時を丸印で示し、放出方向の搬送時を四角印で示す)に約0.64〜0.78N・mの範囲(その中間値は約0.71N・m)となる。そして、通帳2のジャム(詰まり)が発生した場合には約0.13N・mとなり、正常搬送時の1.8倍程度となっている。
【0027】
そこで本実施形態では、搬送ローラ10のトルクリミッタ機能の設定トルクを、正常搬送時の負荷トルク(例えば中間値0.71N・m)に安全係数(例えば1.4)を掛けた値(=0.1N・m)に設定し、ジャム発生時の負荷トルク(=0.13N・m)より小さく設定する。これにより、通帳2のジャムが発生する瞬間あるいは直前に、外輪部材11の内周面とゴム部材14の外周側突部14aとの間に相対滑りを生じさせるようになっている。
【0028】
次に、ゴム部材14の材質及び形状・寸法の設計方法について詳細を説明する。
【0029】
搬送ローラ10は、狭持ローラ11のピンチ力によってゴム部材14の狭持ローラ11(図1中下側)が圧縮され、外輪部材13の軸心と内輪部材12の軸心とが若干ずれる可能性がある。このような軸心ずれの低減を図るため、ゴム部材14の硬さは、例えばHs≧80として狭持ローラ11の硬さ(Hs≦60)より高く設定することが好ましい。また、ゴム部材14の各外周側突部14aにおける弾性力は、狭持ローラ11のピンチ力の2〜3倍以上に設定することが好ましい。また、ゴム部材14の弾性力を狭持ローラ11のピンチ力の2〜3倍以上(例えば12N)とするため、外輪部材13の内周面に圧接するゴム部材14の外周側突部14aの先端面はコーティング処理を施し、摩擦係数が低くなるように(例えば0.2〜0.3の範囲に)設定することが好ましい。
【0030】
そして、図5に示すようなゴム部材14の計算モデルを用いた有限要素法の演算により、上述したトルクリミッタ機能の設定トルク(=0.1N・m)、ゴム部材14の各外周側突部14aにおける弾性力(=12N)、外輪部材13の内周面とゴム部材14の外周側突部14aとの間の摩擦係数(=0.3)、ゴム部材14の各外周側突部14aの接触円弧長さ(=2mm)、ゴム部材14の各外周側突部14aの接触幅、ゴム部材14の硬さ(=80)、外輪部材13の内周半径(=7.5mm)等から、ゴム部材14の各外周側突部14aの径方向圧縮長さ(=0.2mm)を求めることができる。この演算結果により、外輪部材13の内周半径7.5mmに対しゴム部材14の外周半径7.7mmとすれば、搬送ローラ10のトルクリミッタ機能の設定トルクを0.1N・mに設定することが可能である。
【0031】
なお、図6は、上述した有限要素法の演算において、外輪部材13の内周面とゴム部材14の外周側突部14aとの間に相対滑りが生じた状態を表す。
【0032】
また、搬送ローラ10は、上述した外輪部材13の軸心ずれによって内輪部材12の軸心から通帳2までの半径距離が減少し、通帳2の搬送速度(周速度)が低下する可能性がある。そのため、特に搬送ローラ10及び狭持ローラ11を共に回転制御する双駆動方式の場合は、搬送ローラ10の回転速度を若干速く設定し、搬送ローラ10及び狭持ローラ11の搬送速度を合わせることが好ましい。
【0033】
次に、本実施形態による通帳プリンタ1の動作及び作用効果を説明する。
【0034】
例えば記帳等を目的として利用者が通帳2を入出口3に挿入すると、通帳2は搬送ローラ機構4によって磁気ストライプ読取機構5の位置へ搬送され、磁気ストライプ読取機構5によって通帳2の磁気ストライプの情報(既印字済み行データ含む)が読み取られる。その後、通帳2は搬送ローラ機構4によって印字機構6の位置へ(詳細には、印字ヘッドと通帳2の印字位置とを合わせるように)搬送され、この印字機構6によって未印刷データが印字される。そして、例えば1頁内に未印刷データが印刷しきれない場合や別の頁に印刷を行う必要が生じた場合は、通帳2は搬送ローラ機構4によって頁捲機構7の位置へ搬送され、頁捲機構7によって新たな頁が捲られ、さらに通帳2の頁コードを検出するセンサ(図示せず)によって確実に捲られたかどうか確認される。また、例えば通帳2の最終頁まで印字され新たな通帳2が必要になった場合は、使用済みとなった通帳2は通帳回収機構9によって回収され、通帳発行機構8によって新規発行用の通帳2が繰り出される。そして、通帳2は搬送ローラ機構4によって再び印字機構6の位置へ搬送され、引き続き印字される。この印字作業が完了すると、通帳2は搬送ローラ機構4によって入出口3から排出される。
【0035】
このような通帳2の取込方向又は排出方向への搬送動作中に、万一何らかの理由で通帳2のジャムが発生する可能性がある。そこで本実施形態においては、搬送ローラ機構4を構成する搬送ローラ10は、内輪部材12の外周面に固着され、外輪部材13の内周面に対し、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称に形成した外周側突部14aが圧入されたゴム部材14を設ける。これにより、ゴム部材14の外周側突部14aの径方向圧縮量に応じて外輪部材13の内周面に対する弾性力が生じ、ゴム部材14の外周側突部14aと外輪部材13の内周面との間には摩擦係数及びその弾性力に応じた摩擦力が生じる。そして、例えば搬送ローラ10の負荷トルクが設定トルク(詳細には、前記摩擦力に外輪部材13の内周半径を掛け合わせた摩擦トルク)未満である場合は、ゴム部材14を介し内輪部材12及び外輪部材13を共に回転させ、一方、例えば搬送ローラ10の負荷トルクが設定トルク以上である場合は、外輪部材13の内周面とゴム部材14の外周側突部14aとの間に相対滑りを生じさせることができる。したがって、このトルクリミッタ機能の設定トルクを例えば通帳2の正常搬送時の負荷トルクより大きくかつジャム発生時の負荷トルクより小さく設定することにより、ジャム発生時に駆動軸及び内輪部材12を空回転させて通帳2の損傷を防止することができる。
【0036】
また本実施形態においては、ゴム部材14の外周側突部14aは、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称となるように形成し、それらの径方向圧縮量に応じて外輪部材13の内周面に対し弾性力を付与する。これにより、例えば外輪部材13の内周面に対しほぼ全周に亘って弾性力を付与する場合に比べ、その弾性力すなわちトルクリミッタ機能の設定トルクをより的確に設定することができる。また、例えば通帳2の厚み寸法の変化等により外輪部材13の軸心が内輪部材12の軸心に対し若干ずれる可能性があるが、弾性力を付与する位置を点対称に配置することにより、弾性力の増減を互いに補完させ弾性力の総和を維持することができる。その結果、トルクリミッタ機能の設定トルクをより安定させることができる。
【0037】
また本実施形態においては、通帳2の印刷面と接触する搬送ローラ10は、外輪部材13を金属製とするとともに外周面にセラミック粒子層13aを設ける。これにより、印字インクの転写(搬送ローラ10への1次転写及び通帳2への2次転写)を抑えることができる。また、通帳2の印刷面と接触しない狭持ローラ11は、ゴムローラとして構成するとともにバネによってピンチ力を付与する。これにより、通帳2の表紙側枚数と裏紙側枚数との差による枚数段差やとじ部の背山段差との衝突を緩和させることができ、搬送ローラ10の外輪部材13の軸心ずれを低減させることができる。その結果、通帳2の搬送精度を高めることができる。
【0038】
なお、上記第1の実施形態においては、搬送ローラ10のゴム部材14は略四角形状とし、4つの外周側突部14aを外輪部材13の内周面に圧入する構成を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えばゴム部材を略六角形状、略八角形状、略十角形状等の多角形状としてもよい。また、例えば図7に示すように、搬送ローラ10Aのゴム部材15は、周方向に45度の間隔をおきかつ点対称となるように8つの外周側突部15aを形成して外輪部材13の内周面に圧接するとともに、その集中応力を減少するために突部15以外の外周側部分を内周側に円弧を描く曲線形状としてもよい。これらの場合も、上記第1の実施形態同様の効果を得ることができる。
【0039】
本発明の第2実施形態を図8により説明する。本実施形態の搬送ローラは、外輪部材の内周面に固着され内輪部材の外周面に圧入されたゴム部材を設けた実施形態である。
【0040】
図8は、本実施形態による搬送ローラの詳細構造を表す側面図である。なお、この図8において、上記第1の実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0041】
本実施形態による搬送ローラ10Bは、駆動軸の外周側に係止される内輪部材12と、外周面にセラミック粒子層13aが設けられた金属製の外輪部材13と、外輪部材13の内周面に固着され内輪部材12の外周面に圧入されたゴム部材(弾性部材)16とで構成されている(すなわち、圧入前のゴム部材16の最小内径寸法は内輪部材12の外径寸法より大きくなっている)。なお、内輪部材12及び外輪部材13の軸心は同一となるように構成されている。
【0042】
ゴム部材16の内周側には、周方向に所定の間隔(図8では45度の間隔)をおきかつ点対称となるように複数(図8では8つ)の突部(詳細には、同一円周面より内周側に突出した部分)16aが形成されており、これら突部16aの端面が内輪部材12の外周面に圧接されている。これにより、ゴム部材16の内周側突部16aの径方向圧縮量に応じて内輪部材12の外周面に対する弾性力が生じ、ゴム部材16の内周側突部16aと内輪部材12の外周面との間に摩擦係数及びその弾性力に応じた摩擦力が生じる。
【0043】
そして、搬送ローラ10B(言い換えれば外輪部材13)の負荷トルクが上記摩擦力によって設定される設定トルク(詳細には、上記摩擦力に内輪部材12の外周半径を掛け合わせた摩擦トルク)未満であるときは、ゴム部材16を介し内輪部材12及び外輪部材13を共に回転させ、一方、搬送ローラ10Bの負荷トルクが設定トルク以上であるときは、内輪部材12の外周面とゴム部材16の内周側突部16aとの間に相対滑りを生じさせる(トルクリミッタ機能)。
【0044】
そして本実施形態では、搬送ローラ10Bのトルクリミッタ機能の設定トルクを、通帳2の正常搬送時の負荷トルクより大きくかつジャム発生時の負荷トルクより小さく設定する。これにより、上記第1の実施形態同様、ジャム発生時に駆動軸及び内輪部材12を空回転させ、通帳2の損傷を防止することができる。また、ゴム部材16の外周側突部16aは、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称となるように形成し、それら径方向圧縮量に応じて内輪部材12の外周面に対し弾性力を付与するので、上記第1の実施形態同様、トルクリミッタ機能の設定トルクをより的確に設定することができる。
【0045】
本発明の第3の実施形態を図9及び図10により説明する。本実施形態の搬送ローラは、外輪部材の内周面を摺動可能な複数の摺動部材と、内輪部材の内周面に固着され複数の摺動部材に径方向外周側の弾性力をそれぞれ付与する複数のバネ部材とを設けた実施形態である。
【0046】
図9は、本実施形態による搬送ローラの詳細構造を表す側面断面図であり、図10は、図9中X部の部分拡大側面断面図である。なお、これら図9及び図10において、上記第1及び第2の実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0047】
本実施形態による搬送ローラ10Cは、駆動軸の外周側に係止された内輪部材17と、外周面にセラミック粒子層13aが設けられた金属製の外輪部材13と、外輪部材13の内周面を摺動可能な複数の摺動部材18と、内輪部材17の外周側に固着され、複数の摺動部材18にそれぞれ径方向外周側の弾性力を付与する複数のバネ部材(弾性部材)19とで構成されている。なお、内輪部材17及び外輪部材13の軸心は同一となるように構成されている。
【0048】
内輪部材17の外周側には、周方向に所定の間隔(図9では45度の間隔)をおきかつ点対称配置となる複数(図9では8つ)の位置に、摺動部材18及びバネ部材19を組み合わせてそれぞれ収納する収納溝17aが形成されている。そして、バネ部材19の弾性力によって摺動部材18の円弧状摺動面が外輪部材13の内周面に圧接され、摺動部材18の摺動面と外輪部材13の内周面との間に摩擦係数及びその圧接力(言い換えればバネ部材19の弾性力)に応じた摩擦力が生じる。
【0049】
そして、搬送ローラ10C(言い換えれば外輪部材13)の負荷トルクが上記摩擦力によって設定される設定トルク(詳細には、上記摩擦力に外輪部材13の内周半径を掛け合わせた摩擦トルク)未満であるときは、バネ部材19及び摺動部材18を介し内輪部材17及び外輪部材13を共に回転させ、一方、搬送ローラ10Cの負荷トルクが設定トルク以上であるときは、外輪部材13の内周面と摺動部材18の摺動面との間に相対滑りを生じさせる(トルクリミッタ機能)。
【0050】
そして本実施形態では、搬送ローラ10Cのトルクリミッタ機能の設定トルクを、通帳2の正常搬送時の負荷トルクより大きくかつジャム発生時の負荷トルクより小さく設定する。これにより、上記第1及び第2の実施形態同様、ジャム発生時に駆動軸及び内輪部材17を空回転させて通帳2の損傷を防止することができる。また、バネ部材19及び摺動部材18は、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称となるように配置し、外輪部材13の内周面に対し圧接力(弾性力)を付与するので、上記第1及び第2の実施形態同様、トルクリミッタ機能の設定トルクをより的確に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の適用対象である通帳プリンタの全体構造を表す概略図である。
【図2】本発明の通帳搬送ローラ装置の第1の実施形態を構成する搬送ローラの詳細構造を表す側面図である。
【図3】図2中断面III−IIIによる搬送ローラの断面図である。
【図4】本発明の通帳搬送ローラ装置の第1の実施形態を構成する搬送ローラの負荷トルクを表す図である。
【図5】本発明の通帳搬送ローラ装置の第1の実施形態を構成する搬送ローラのゴム部材の計算モデルを表す図である。
【図6】本発明の通帳搬送ローラ装置の第1の実施形態を構成する搬送ローラのゴム部材の計算モデルを表す図であり、ゴム部材の外周側突部と外輪部材の内周面との間に相対滑りが生じた状態を表す。
【図7】本発明の通帳搬送ローラ装置の第1の実施形態を構成する搬送ローラの詳細構造を変形例として表す側面図である。
【図8】本発明の通帳搬送ローラ装置の第2の実施形態を構成する搬送ローラの詳細構造を表す側面図である。
【図9】本発明の通帳搬送ローラ装置の第3の実施形態を構成する搬送ローラの詳細構造を表す側面断面図である。
【図10】図9中X部の部分拡大側面断面図である。
【符号の説明】
【0052】
2 通帳
4 搬送ローラ機構
10,10A,10B,10C 搬送ローラ
11 狭持ローラ
12 内輪部材
13 外輪部材
13a セラミック粒子層
14 ゴム部材(弾性部材、トルクリミッタ手段)
14a 外周側突部
15 ゴム部材(弾性部材、トルクリミッタ手段)
15a 外周側突部
16 ゴム部材(弾性部材、トルクリミッタ手段)
16a 内周側突部
17 内輪部材
18 摺動部材(トルクリミッタ手段)
19 バネ部材(弾性部材、トルクリミッタ手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された搬送ローラ及び狭持ローラを備え、通帳類を搬送する通帳搬送ローラ装置において、
前記搬送ローラは、駆動軸に接続した内輪部材と、前記内輪部材の外周側に配置した金属製の外輪部材と、前記内輪部材の外周面及び前記外輪部材の内周面のうちの一方に固着され、前記内輪部材の外周面及び前記外輪部材の内周面のうちの他方に対し、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称配置となる複数の位置で弾性力を付与する少なくとも1つの弾性部材を有し、前記外輪部材の負荷トルクが前記弾性部材の弾性力によって設定される設定トルク未満であるときは、前記弾性部材等を介し前記内輪部材及び外輪部材を共に回転させ、前記外輪部材の負荷トルクが前記設定トルク以上であるときは、前記内輪部材の外周面及び前記外輪部材の内周面のうちの他方と前記弾性部材側との間に相対滑りを生じさせるトルクリミッタ手段とを備えたことを特徴する通帳搬送ローラ装置。
【請求項2】
請求項1記載の通帳搬送ローラ装置において、前記トルクリミッタ手段は、前記内輪部材の外周面に固着され、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称に形成した複数の外周側突部が前記外輪部材の内周面に圧入された前記弾性部材を有し、前記外輪部材の負荷トルクが前記弾性部材の複数の外周側突部における弾性力によって設定される設定トルク未満であるときは、前記弾性部材を介し前記内輪部材及び外輪部材を共に回転させ、前記外輪部材の負荷トルクが前記設定トルク以上であるときは、前記外輪部材の内周面と前記弾性部材の外周側突部との間に相対滑りを生じさせることを特徴する通帳搬送ローラ装置。
【請求項3】
請求項1記載の通帳搬送ローラ装置において、前記トルクリミッタ手段は、前記外輪部材の内周面に固着され、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称に形成した複数の内周側突部が前記内輪部材の外周面に圧入された前記弾性部材を有し、前記外輪部材の負荷トルクが前記弾性部材の複数の内周側突部における弾性力によって設定される設定トルク未満であるときは、前記弾性部材を介し前記内輪部材及び外輪部材を共に回転させ、前記外輪部材の負荷トルクが前記設定トルク以上であるときは、前記内輪部材の外周面と前記弾性部材の内周側突部との間に相対滑りを生じさせることを特徴する通帳搬送ローラ装置。
【請求項4】
請求項1記載の通帳搬送ローラ装置において、前記トルクリミッタ手段は、周方向に所定の間隔をおきかつ点対称に配置され、前記外輪部材の内周面を摺動可能な複数の摺動部材と、前記内輪部材の外周面に固着され、前記複数の摺動部材にそれぞれ径方向外周側の弾性力を付与する前記複数の弾性部材とを有し、前記外輪部材の負荷トルクが前記複数の弾性部材の弾性力によって設定される設定トルク未満であるときは、前記弾性部材及び摺動部材を介し前記内輪部材及び外輪部材を共に回転させ、前記外輪部材の負荷トルクが前記設定トルク以上であるときは、前記外輪部材の内周面と前記摺動部材との間に相対滑りを生じさせることを特徴する通帳搬送ローラ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の通帳搬送ローラ装置において、前記外輪部材は、外周面にセラミック粒子層を設けたことを特徴とする通帳搬送ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−217130(P2007−217130A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40446(P2006−40446)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】