通気ダクト
【課題】 不織布成形体を構成部材とする通気ダクトを製造する際のオーバーモールド成形の成形不良を防止する。
【解決手段】 通気ダクト1の構成部材の少なくとも1つが、熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を含むように、プレス加工によって前記不織布が賦形された不織布成形体2,3であって、不織布成形体2,3はその接続部21,31を互いに重ね合わせて、重ね合わせた接続部の末端部を包み込むように、樹脂被覆体4を被覆形成することにより一体化され、不織布成形体2,3には、樹脂被覆体4で被覆される側の表面に、不織布の表面を選択的に加熱する工程を経たことにより表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた熱処理硬化層が形成されている通気ダクト1とする。
【解決手段】 通気ダクト1の構成部材の少なくとも1つが、熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を含むように、プレス加工によって前記不織布が賦形された不織布成形体2,3であって、不織布成形体2,3はその接続部21,31を互いに重ね合わせて、重ね合わせた接続部の末端部を包み込むように、樹脂被覆体4を被覆形成することにより一体化され、不織布成形体2,3には、樹脂被覆体4で被覆される側の表面に、不織布の表面を選択的に加熱する工程を経たことにより表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた熱処理硬化層が形成されている通気ダクト1とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂などで形成されたダクトの内部に空気を通流する通気ダクトに関する。特に、ダクト壁の一部に不織布成形体が使用された通気ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
通気ダクトは、特に自動車用内燃機関の吸気システムや、空調システム・冷却風送風システムなどの一連のダクト系の一部として使用されている。このようなダクト系においては、一般にはダクト壁が非通気性素材からなるダクトが使用されるが、そのために、エンジンやファンやモータなどを騒音源とする騒音がダクト内を伝播したり、ダクト系に生ずる気柱共鳴が発生したりするので、かねてから騒音の低減が望まれていた。
【0003】
ダクト系を伝播する騒音を低減する技術としては、拡径チャンバー部を設けるものや、ヘルムホルツレゾネータなどの共鳴型消音器を設けるものなどが開発・応用されているが、非通気性素材で形成されるダクト壁の一部に、不織布成形体などの通気性を有する部分を設けて、ダクト系の気柱共鳴を予防して、ダクトを伝播する騒音の低減を図る技術、いわゆるポーラスダクトと呼ばれる技術が開発されている。
【0004】
そのような機能を有するポーラスダクトとして、特許文献1に記載されたような技術が知られている。この技術は、非通気性のダクト壁の一部に穴を設けて、適度な通気性を有する不織布などの多孔質材を、それらの穴を覆うように取付け、ダクト内部空間と外部空間とが多孔質材を通じて連通するようにした技術であり、さらに、特許文献1に記載のポーラスダクトにおいては、ダクト本体の壁面から突出する小筒部を設け、小筒部先端の開口部に不織布が熱溶着されている。このようなダクトにおいては、多孔質材の通気度を調整することにより、ダクト系に生ずる気柱共鳴の発生を防止しながら、ダクト系を伝播する騒音の低減を図ることができるとともに、不織布の取付けがしやすくなり、さらに、ダクトの通気抵抗が低減できるという効果が得られる。
【0005】
また、特許文献2には、自動車エンジン用の吸気管において、不織布よりなる成形体から管壁の少なくとも一部が形成されたことを特徴とする吸気管が開示され、不織布からなる成形体が例えば熱プレス成形によってダクトの半割り形状に立体成形されて、一対の半割れ体を接合部で接着一体化して通気ダクトを構成することが記載されている。
【0006】
また、複数の構成部材を一体化して通気ダクトを構成する接合技術としては、接着、溶着・熱かしめ、はめ込み、爪などによる係止、粘着テープの使用、インサート成形、オーバーモールド成形などが知られている。ここで、オーバーモールド成形による接合技術とは、図10に示すように、接合すべき構成部材91,92の接合部91a、92aを互いに重ね合わせた状態で、射出成形金型(M1,M2)内に当該構成部材を導入し、金型を閉じてキャビティCを形成し、重ね合わせられた接合部91a、92aの外周面を覆うように、キャビティCに合成樹脂の射出成形を行うことにより、合成樹脂Lにより接合部を被覆して接合する技術のことである(図11)。
【0007】
そして、特許文献3には、オーバーモールド成形を応用して構成部材を一体化し通気ダクトを構成することについて開示されており、特許文献3においては、一対の合成樹脂製半割れ体の接合部を重ね合わせて、互いの接合面を溶着すると共に、接合部の外周部を合成樹脂材により被覆する二次成形を行うことによって、一対の半割れ体を一体化して通気ダクトにすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−323853号公報
【特許文献2】特開2000−73895号公報
【特許文献3】特開平5−305679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
オーバーモールド成形による接合技術は、接合部の強度やシール性に優れるといった特徴を備える優れた接合技術であるが、特許文献1や特許文献2に開示されたような不織布成形体などの多孔質体をダクトの構成部材とした通気ダクトの製造において、オーバーモールド成形による接合技術を応用しようとすると、オーバーモールド成形の成形不良が発生しやすく、製造効率が低下し、成形不良の程度が著しい時には製造が不可能となってしまうことが判明した。
【0010】
即ち、不織布成形体などの多孔質材料は、その性質上弾力性を有するものであることが多く、そのような材料で構成された通気ダクト構成部材93,94をオーバーモールド成形により接合しようとして、金型M1,M2で接合部93a、94a挟持すると、不織布成形体がその弾力性のために変形してしまい、キャビティCの中で適正な位置を保てなくなるのである(図12)。具体的には、不織布成形体93,94が金型M1,M2で直接挟持される部分を起点として、不織布成形体の接続部93a、94aがめくれあがる方向に変形しやすくなる。
【0011】
この状態で樹脂の射出が行われると、不織布成形体の接続部93a、94aがめくれ上がった部分に対向するキャビティ部分C1,C2には樹脂が回り込みにくくなって、図13に示したように、合成樹脂Lが不織布成形体の接続部93a、94aを包み込んでいないような成形不良が起こりやすくなる。このような成形不良が起こると、完成した通気ダクトの外観がよくないほか、接合の強度も不十分となることがあり、通気ダクトとしての性能や商品性が著しく低下する。
【0012】
したがって、本発明の目的は、不織布成形体を構成部材とする通気ダクトを製造する際のオーバーモールド成形の成形不良を防止することにあり、それに適した通気ダクトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、鋭意検討の結果、不織布成形体の表面に特定の熱処理を施した層を設けると、上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、少なくとも2つ以上の構成部材を一体化して構成される通気ダクトであって、
構成部材の少なくとも1つは、熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を含むように、プレス加工によって前記不織布が賦形された不織布成形体であり、不織布成形体が他の構成部材と一体化される部位において、前記一体化が、互いに一体化される構成部材の端縁部に沿って形成された接続部を互いに重ね合わせて、重ね合わせた接続部の末端部を包み込むように、射出成形により樹脂被覆体を被覆形成することによりなされ、不織布成形体には、樹脂被覆体で被覆される側の表面に、不織布の表面を選択的に加熱する工程を経たことにより表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた熱処理硬化層が形成されていることを特徴とする通気ダクトである。
【0015】
さらに、本発明においては、熱処理硬化層の表面には、熱可塑性樹脂繊維が溶融して形成された樹脂の塊が粒状に分布していることが好ましい(請求項2)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、オーバーモールド成形によって不織布成形体を通気ダクトに一体化する際の、オーバーモールド成形される樹脂被覆体の成形不良が予防・抑制されるという効果が得られる。また、請求項2に記載の発明においては、成形不良がより効果的に予防・抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明第1実施形態の通気ダクトの外観を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態の通気ダクトのX−X断面を示す断面図である。
【図3】本発明第1実施形態の通気ダクトを構成する構成部材の製造工程を示す模式図である。
【図4】不織布表面の熱処理硬化層に略球状の樹脂の塊が粒状に分布する状態を示す写真である。
【図5】不織布表面の熱処理硬化層に扁平な板状の樹脂の塊が粒状に分布する状態を示す写真である。
【図6】不織布表面に熱処理硬化層が存在しない通常の不織布表面の状態を示す写真である。
【図7】本発明第1実施形態のオーバーモールド成形工程を示す模式図である。
【図8】本発明第2実施形態の通気ダクトの断面を示す断面図である。
【図9】本発明第3実施形態の通気ダクトの一部のダクト長手方向に沿う断面を示す断面図である。
【図10】オーバーモールド成形における金型を閉じた状態を示す模式図である。
【図11】オーバーモールド成形によって接合部が接合された状態を示す断面図である。
【図12】不織布成形体を用いた場合の、オーバーモールド成形における金型を閉じた状態を示す模式図である。
【図13】不織布成形体を用いた場合に生じうる、オーバーモールド成形接合部の成形不良の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。図1及び図2に示す本発明の第1の実施形態の通気ダクト1は、ハイブリッド自動車や電気自動車の電池を冷却する冷却風を送るために使用される通気ダクト1である。図1には斜視図を、図2にはX−X断面図を示す。通気ダクト1は、一対の半割れ体2,3が、その端縁部で被覆体4により一体化された中空のダクト部材であり、被覆体4は、図2に示すように半割れ体2,3の端縁部を包み込むような断面形状で、半割れ体2,3の端縁部に沿って形成されている。通気ダクト1の片側及び反対側には、他のダクト部材や接続部材、電池ケースや送風ファンケースなどに接続される開口部11,12が設けられている。通気ダクト1は、電池の冷却システム中に組み込まれて、例えば、開口部11からダクト内部に流れ込んだ空気が開口部12から流出するように、その内部に電池冷却風が流れるように使用される。
【0019】
半割れ体2,3を一体化している被覆体4はオーバーモールド成形により形成される。即ち、半割れ体2,3は、互いに接合されるべき端縁部に沿って、略フランジ状をなすように接続部21,31が設けられたモナカ形状(ハット形状)に形成されて、接続部21、31を互いに重ね合わせた状態で射出成形金型の内部に導入され、その後、被覆体4を構成する樹脂材料が接続部21、31の重ねあわせ部分の末端部を包み込むような形態に射出されて、被覆体4が形成されている。その詳細については後に述べる。
【0020】
通気ダクト1の構成部材である半割れ体2,3は、いずれも、不織布素材をプレス成形により賦形して形成した部材である。本実施形態においては、後述するように3枚の不織布を積層してプレス成形に供して得られる、通気ダクトの略半分を構成するようなモナカ形状に賦形された半割れ体2,3となっている。そして半割れ体2,3の表面は、後述する熱処理により表層部の剛性が高められた熱処理硬化層となっている。さらに、本実施形態においては、熱処理硬化層が半割れ体のダクト内面側にもダクト外面側にも両面に設けられると共に、熱処理硬化層の表面には、熱処理硬化層を形成する際の熱処理により形成された樹脂の塊Gが粒状に分布している。
【0021】
本発明においては、不織布成形体である半割れ体2、3の表面のうち、特に通気ダクト外側の面、すなわち、被覆体4によって包み込まれる接合部21,31において被覆体4と直接接触する面の側の不織布表層部に、熱処理硬化層が存在する点に特徴がある。
【0022】
半割れ体2,3の不織布表面に存在する熱処理硬化層及び樹脂の塊G及びそれらを形成するための熱処理について詳述する。この表層部(即ち樹脂の塊Gが分布する熱処理硬化層)は、熱可塑性合成樹脂繊維を含む繊維素材によって、公知のカーディング工程や積層工程やニードルパンチ工程などを経て製造された不織布に対し、炎や熱輻射(例えば赤外線ヒータ)などの手段によって、不織布表面を選択的に加熱することにより不織布表面に形成される層である。不織布表面を選択的に加熱すると、不織布表面付近でのみ熱可塑性樹脂繊維が溶融し、不織布表面における繊維の結合度が上がって、不織布表層に剛性が高められた層すなわち熱処理硬化層が生じ、不織布内部では普通の不織布であるような不織布が得られる。また、この熱処理過程において、熱可塑性樹脂繊維が溶融した樹脂が集合して略球状となった状態で冷却すると、溶融した繊維の樹脂が略球状の塊となり、その塊を熱処理硬化層の表面に粒状に分布させることができる。
【0023】
このような不織布は、不織布表面を選択的に加熱する際の加熱・冷却の程度や時間を調節して得ることができ、好ましくは不織布生産ライン上に加熱装置を設けることによって連続的に製造することができる。加熱の時間が長すぎると繊維がより多く溶けて、溶けた樹脂が連続して不織布表面が膜状あるいは板状になってしまう場合もあるが、加熱の程度を弱めたり加熱時間を短縮したりして、溶融した樹脂の塊が熱処理硬化層に粒状に分布するように調節することができる。
【0024】
この熱処理は、不織布の表側・裏側に対してそれぞれ独立して行うことが可能であり、表側と裏側の両面に熱処理硬化層を形成することも、表側や裏側の一方のみに熱処理硬化層を形成して他方は通常の不織布表面とすることも、いずれも可能である。
【0025】
また、不織布に上記熱処理を行って略球状の樹脂の塊が分布した熱処理硬化層を形成した後に、さらに熱プレスをかけても良い。上記熱処理の直後に樹脂の塊が軟化した状態で熱プレスをかけると、樹脂の塊が潰れて、偏平な板状となって不織布表面に粒状に分布するようになる。このようにすると、熱処理硬化層の結合度及び剛性が効果的に向上する。
【0026】
また、熱処理の程度は必ずしも溶融した樹脂の塊が不織布表面に粒状に分布する程度に限られるものではなく、後述する他の実施形態のように、不織布表層を選択的に加熱することによって表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた層が生ずる限りにおいて、不織布表面が膜状あるいは板状となる程度まで加熱するものであっても良い。
【0027】
図4、5は不織布表面の熱処理硬化層に樹脂の塊Gが粒状に分布する様子を示す不織布表面の拡大写真であり、パワーハイスコープ装置により撮影した写真である。図4には、樹脂の塊Gが略球状の塊で分布したものを、図5には、樹脂の塊Gが偏平な板状の塊で分布したものを示し、いずれにおいても、不織布表面には、不織布の繊維組織が残存した状態の熱処理硬化層が形成されている。また、図4においては、溶融した樹脂が略球状(球状や涙型状や紡錘状を含む)の塊となって熱処理硬化層の表面に粒状に分布している様子が観察され、図5においては、溶融した樹脂が偏平に押しつぶされた板状の樹脂の塊となって、熱処理硬化層の表面に粒状に分布している様子が観察される。なお、図6には、熱処理硬化層が形成されず、樹脂の塊Gが表面に粒状に分布しない、通常の不織布表面の拡大写真を示し、通常の不織布表面には不織布の構成繊維が交絡した組織が観察される。
【0028】
熱処理によって、表面が膜状あるいは板状となった熱処理硬化層が不織布表面に形成される場合には、図4、図5に示した熱処理硬化層に比べて、より多くの表面の繊維が溶融し、互いに融合してつながった状態となる。なお、熱処理硬化層が膜状あるいは板状であるという状態は、必ずしも非通気性となる程度まで連続した状態にあることを意味せず、通気性を有するような網状の状態、及び、樹脂が互いに連続しながらも空隙や穴があるような状態を含んでいる。
【0029】
本実施形態の半割れ体(不織布成形体)2,3の成形に好ましく使用できる不織布の構成および性状について説明する。不織布としては、合成樹脂繊維からなる不織布が好ましく使用でき、合成樹脂繊維としては、PET樹脂繊維、ポリプロピレン樹脂繊維や、ポリアミド樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維などの熱可塑性樹脂繊維が例示できる。特に、不織布に熱可塑性樹脂繊維が含まれることが、上述した熱処理によって不織布表面に熱処理硬化層を形成する上で重要である。不織布には、熱可塑性樹脂繊維のほか、天然繊維(綿・麻・パルプ)や準天然繊維(レーヨン繊維など)や金属繊維やガラス繊維、カーボン繊維、ロックウールなどの他の繊維素材を含ませるようにしても良い。
【0030】
熱可塑性樹脂繊維としては、融点の異なる熱可塑性樹脂を芯鞘構造とした樹脂繊維を使用しても良い。また、融点の異なる熱可塑性樹脂繊維を混紡した不織布としても良い。特に、融点の異なる熱可塑性樹脂繊維を混紡した不織布を本発明の実施に供するようにすれば、前述した熱処理工程において、不織布表面で、低融点繊維のみが溶融しながら、高融点繊維は繊維の形態を維持することになって、不織布の通気性を維持しながら不織布表層の剛性が高められやすくなる。また、低融点繊維と高融点繊維とが混紡された不織布素材は、後述する熱プレス加工の際の加工性がよくなり、プレス成形品の凹凸形状の固定や通気性の調整が行いやすくなる。
【0031】
不織布は、単層の不織布であっても良いし、複層の不織布であっても良い。また、不織布には、不織布の保形性を高めたり、不織布の通気性を調整したりする目的で、アクリル系樹脂や、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などの樹脂成分を含むバインダー樹脂を含浸させて使用することができる。
【0032】
本実施形態の通気ダクト1及びその構成部材である半割れ体2,3においては、不織布に対し上記熱処理が行われて、熱処理硬化層が形成されると共に樹脂の塊Gが熱処理硬化層に粒状に分布する不織布素材(A1,A2,A3)が、プレス成形によって賦形されて、その結果、プレス成形された不織布成形体(半割れ体2、3)および、通気ダクト1の表面には、上記熱処理によって形成された熱処理硬化層が形成された状態となっている。
【0033】
上記通気ダクト1及びその構成部材(半割れ体2,3)の製造方法について説明する。不織布成形体である半割れ体2,3は、不織布の調製工程、プレス金型への供給工程、プレス成形工程、必要によりカット・仕上げ工程、を順に経て製造される。そして、得られた半割れ体2,3を射出成形金型にセットして、いわゆるオーバーモールド成形によって、半割れ体2,3が結合されるべき端縁部に設けられた接続部21、31を被覆材4で包むように被覆材の樹脂材料を射出成形し、半割れ体2,3を一体化させて通気ダクト1が製造される。
【0034】
以下各工程を詳細に説明する。
(不織布の調製工程)
プレス成形に供する不織布の調製を行う。熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を公知の製造方法により製造し、得られた不織布に対し、上述したように、不織布表面を選択的に加熱して、不織布表面に熱処理硬化層が存在し、熱処理硬化層に樹脂の塊Gが粒状に分布する不織布を得る。不織布を積層してプレス成形する場合もあるので、必要に応じて、不織布の繊維の配合や厚みや目付け、表面状態の異なる不織布をそれぞれ準備しても良い。
【0035】
(プレス金型への供給工程)
先の工程で得られた不織布を、プレス処理に適した所定の大きさにカットする。
そして、必要に応じて複数の不織布を積層する。不織布は単層でプレス成形に供することも可能であって、その場合は積層しなくても良い。即ち、プレス成形に供する不織布は単層状態でも積層状態でも良いが、少なくとも上記熱処理により不織布表面に熱処理硬化層が存在するようにされた不織布を含むようにしてプレス成形に供する必要がある。
そして、積層する場合には、上下方向に型開きしたプレス金型P1,P2のうち、少なくともダクト外周面を形成する側の金型面(図ではP1)に、熱処理硬化層が存在する不織布面が対向するように、不織布を積層・配置する。
【0036】
本実施形態においては、片面のみに樹脂の塊Gが粒状に分布した熱処理硬化層を有する不織布2枚(A1,A2)と、両面に樹脂の塊Gが粒状に分布した熱処理硬化層を有する不織布1枚(A3)とを積層し、最下層には両面に熱処理硬化層を有する不織布A3を、中間層及び最上層には、片面のみに熱処理硬化層を有する不織布A2,A1をそれぞれ熱処理硬化層を有する面が上側となるように積層している(図3(a))。その結果、積層された不織布積層体AAにおいては、その最上面と最下面において、樹脂の塊Gが粒状に分布する熱処理硬化層が露出している。
【0037】
この積層状態を維持しながら、不織布積層体AAの全体を加熱する。加熱にはオーブン加熱が好ましく用いられ、不織布積層体全体を均一に加熱することが好ましい。加熱温度は、プレス成形に好適な温度で、不織布積層体AAに含まれる熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が軟化する温度であることが好ましい。
そして、所定の温度まで加熱された不織布積層体AAを、型開きされたプレス型P1、P2の内部に供給・配置する(図3(b))。
【0038】
(プレス成形工程)
プレス金型P1,P2を閉じて、所定の圧力を加える。本工程により、不織布積層体AAはプレス金型に設けられたキャビティの形状と合致する形状を有する不織布成形体Bとなる(図3(c))。プレス工程を経ることにより、不織布表面に分布していた樹脂の塊は、偏平な板状になることもある。また、不織布積層体AAの加熱が比較的低温であり、不織布表面に分布していた樹脂の塊が軟化するに至らないような温度で加熱されてプレスされた場合には、プレス工程を経ても不織布表面に分布していた樹脂の塊Gは、略球状のプレス前の形状を維持したまま不織布成形体Bの表面に分布することもある。
【0039】
(カット・仕上げ工程)
プレス成形された不織布成形体Bをプレス金型から取り出し、必要に応じて不要な部分をカッターCT、CTなどによってカットする(図3(d))。また、穴あけ加工が必要であればこの段階で行うこともできる。本実施形態においては、半割れ体の側部の余計な部分を切除すると共に、通気ダクト1の開口部11,12となる部分をカットしている。これら工程を経て、本発明実施形態の1つである通気ダクト1の構成部材(すなわち半割れ部材2,3)を製造できる。
単純な平面形状である場合など、構成部材の形状によっては、カット・仕上げ工程が不要となる場合もある。また、カット工程は、プレス金型を利用してプレス成形と同時並行的に行うこともできる。
【0040】
(通気ダクト組立工程)
上記工程により、得られた通気ダクト構成部材(本実施形態では半割れ体2,3)を組み立てて、通気ダクト1を製造する。本発明においては、いわゆるオーバーモールド成形によって、半割れ体2,3を一体化する。以下、図7を参照しながら、その工程を説明する。
【0041】
まず、半割れ体2,3を射出成形金型にセットする。半割れ体2,3の互いに接続されるべき端縁部にフランジ状に設けられた接続部21,31を互いに重ね合わせるようにして、半割れ体2,3を仮組み立てする。その状態を維持しながら、半割れ体2,3を型開きされた状態の射出成形金型M1,M2内部に導入する(図7(a)の状態)。
【0042】
次に、金型を閉じ、接続部21,31の末端が包み込まれるような形状のキャビティCを形成する(図7(b))。即ち、キャビティCは、半割れ体2及び3の接続部21,31におけるダクト外周面側となる面及び末端面、ならびに、金型M1,M2の内周面によって画定される空間である。
【0043】
形成されたキャビティCに液状の合成樹脂を射出し、固化させることによって、半割れ体2,3の接続部21,31が射出された合成樹脂で包まれるように被覆体4が形成される(図7(c))。以上のオーバーモールド工程を経ることによって、半割れ体2,3が接合一体化されて、通気ダクト1が完成する。
【0044】
オーバーモールド工程で射出される樹脂は、射出成形に使用可能な熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーや熱硬化性樹脂などが使用できる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン樹脂やポリアミド樹脂などの汎用のプラスチック材料が広く使用でき、熱硬化性樹脂としては、例えばLIMS成形に使用可能な液状シリコーンゴムなどが使用できる。オーバーモールド工程で射出される樹脂としては、半割れ体2,3を形成する樹脂材料と接着性が良い材料であることが好ましく、溶着可能な材料であることがより好ましい。
【0045】
本実施形態における有利な作用と効果について説明する。
本実施形態によれば、オーバーモールド成形に供される不織布成形体において、樹脂被覆体で被覆される側の表面に、不織布の表面を選択的に加熱する工程を経たことにより表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた層(即ち熱処理硬化層)が存在するようにしたので、射出成形の金型内部で、不織布成形体が変形してしまうことが効果的に抑制される。その結果、不織布成形体のダクト外周面に対向するキャビティ部分C1,C2が十分に確保されて、射出した樹脂が接合部21,31の末端を包み込むようにキャビティCを満たすようになって、図7(c)に示すような成形品が得られやすくなり、図13に示したような、不織布成形体の弾力性に起因するような成形不良の発生が予防・抑制される。
【0046】
上記効果を得るためには、オーバーモールド工程中の金型を閉じてキャビティCを形成した段階において不織布成形体のキャビティ空間内への変形を直接制限できるように、樹脂被覆材で被覆される側の表面(即ちダクト外周面側)に、熱処理硬化層が存在することが重要であるが、本実施形態のように、ダクト内周面側にも熱処理硬化層を存在させれば、より効果的にオーバーモールド成形工程における成形不良を防止できる。
【0047】
また、本実施形態のように、不織布成形体の接続部の末端部を覆うように樹脂被覆材を形成して、不織布成形体の通気ダクトへの一体化を行うようにすれば、不織布成形体の表層部、特にダクト外周面側が不織布成形体の末端からはがれることが確実に防止され、通気ダクトに対し、不織布成形体を確実に一体化でき、その接合強度が高められる。
【0048】
また、本実施形態のように、オーバーモールド成形に供される不織布成形体において、樹脂被覆材で被覆される側の表面に、熱処理硬化層が存在し、かつ、当該表面には、熱可塑性樹脂繊維が溶融して形成された樹脂の塊が粒状に分布するようにすることが特に好ましい。
【0049】
このように、樹脂被覆体で被覆される側の面に樹脂の塊Gが粒状に分布している場合には、たとえ接続部21,31がキャビティCの内側に向けて変形することがあろうとも、表面に樹脂の塊が存在することによって、不織布成形体の表面と金型内周面が密着してしまうことが防止されて、キャビティの部分C1,C2にも射出された樹脂がいきわたるようになり、より効果的にオーバーモールド成形における成形不良を予防・抑制できる。
【0050】
また、樹脂被覆体で被覆される側の面に樹脂の塊Gが粒状に分布していれば、射出された樹脂材料が、樹脂の塊Gを包み込むように隙間に入り込んで被覆体4の成形が行われるので、いわゆるアンカー効果によって、被覆体4と半割れ体(不織布成形体)2,3との間の接合強度が向上する。
【0051】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に本発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分については同じ番号を付すと共にその詳細な説明を省略する。
【0052】
上記実施形態の説明においては、通気ダクトが、電気自動車などの電池冷却システムの送風ダクトとして使用される実施形態について説明したが、通気ダクトの用途はそれに限定されるものではない。例えば、本発明の通気ダクトは、自動車用エンジンなどの内燃機関に空気を供給するための吸気システムの通気経路の一部を構成するための通気ダクトとして使用できる。また、エアコンディショナーなどの空調システムにおいて、空気を送風するための送風経路の一部を構成するための通気ダクトとしても使用できる。
【0053】
図8および図9には、本発明の通気ダクトに関し、他の実施形態を示す。例えば、図8には、本発明の通気ダクトの第2実施形態の断面を示すが、本実施形態においては、不織布素材をプレス成形して半割れモナカ状の不織布成形体からなる通気ダクト半割れ体5を用いる点は第1実施形態と同様であるが、本実施形態においては、反対側の半割れ体6は非通気性の合成樹脂素材(たとえばポリアミド樹脂)でブロー成形や射出成形により形成されている点が異なる。また、本実施形態においては、不織布成形体の半割れ体5のダクト外面側にのみ熱処理がされて、半割れ体5の外表面に熱処理硬化層Hが存在する。さらに本実施形態では、熱処理硬化層Hの表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して膜状になっている。本実施形態においても、熱処理硬化層Hがダクト外周面に存在することによって、樹脂被覆材4をオーバーモールド成形する際の成形不良の発生が予防・抑制される。
【0054】
図9には、本発明の通気ダクトの第3実施形態について、通気ダクトの一部のダクト軸方向に沿った断面を示すが、本実施形態においては、特許文献1に記載のダクトのごとく、ポリプロピレン樹脂などの非通気性素材で成形されたダクト本体部材8の一部に設けられた筒状開口部81の端部に、不織布がプレス加工された不織布成形体7が一体化されており、不織布成形体7のダクト外周面側には、樹脂の塊Gが粒状に分布する熱処理硬化層が存在するようにされている。本実施形態においても、熱処理硬化層がオーバーモールド成形で形成される被覆体4と直接接触する面の側に存在することによって、樹脂被覆体4をオーバーモールド成形する際の成形不良の発生が予防・抑制される。
【0055】
このように、本発明が通気ダクトに適用される形態は特に限定されず、不織布をプレス成形した不織布成形体をオーバーモールド成形により一体化した通気ダクトであれば、広く適用可能である。そして、不織布成形体以外の通気ダクトの構成要素に関しては、広く公知技術が採用できることは明らかであって、通気ダクトに非通気性素材の部分が存在すれば、その部分は、熱可塑性樹脂の射出成形やブロー成形によって形成したり、金属板などで構成したりできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の通気ダクトは、その内部に空気を通流する用途の通気ダクト(吸気ダクトやエアコン用ダクト、送風ダクトなど)において使用することができる。本発明の通気ダクトによれば、好ましい特性のダクトを効率的に製造でき、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0057】
1 通気ダクト
2,3 半割れ体(通気ダクト構成部材)
21,31 接続部
4 樹脂被覆体
G 樹脂の塊
H 膜状の表面を有する熱処理硬化層
AA 不織布積層体
A1,A2 不織布
P1、P2 プレス金型
B 不織布成形体
CT カッター
M1、M2 射出成形金型
C キャビティ
5 半割れ体(通気ダクト構成部材)
6 非通気性の半割れ体(通気ダクト構成部材)
7 通気性部材(通気ダクト構成部材)
8 非通気性のダクト部材(通気ダクト構成部材)
91,92 半割れ体(合成樹脂製)
93、94 半割れ体(不織布成形体)
L 樹脂被覆体
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂などで形成されたダクトの内部に空気を通流する通気ダクトに関する。特に、ダクト壁の一部に不織布成形体が使用された通気ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
通気ダクトは、特に自動車用内燃機関の吸気システムや、空調システム・冷却風送風システムなどの一連のダクト系の一部として使用されている。このようなダクト系においては、一般にはダクト壁が非通気性素材からなるダクトが使用されるが、そのために、エンジンやファンやモータなどを騒音源とする騒音がダクト内を伝播したり、ダクト系に生ずる気柱共鳴が発生したりするので、かねてから騒音の低減が望まれていた。
【0003】
ダクト系を伝播する騒音を低減する技術としては、拡径チャンバー部を設けるものや、ヘルムホルツレゾネータなどの共鳴型消音器を設けるものなどが開発・応用されているが、非通気性素材で形成されるダクト壁の一部に、不織布成形体などの通気性を有する部分を設けて、ダクト系の気柱共鳴を予防して、ダクトを伝播する騒音の低減を図る技術、いわゆるポーラスダクトと呼ばれる技術が開発されている。
【0004】
そのような機能を有するポーラスダクトとして、特許文献1に記載されたような技術が知られている。この技術は、非通気性のダクト壁の一部に穴を設けて、適度な通気性を有する不織布などの多孔質材を、それらの穴を覆うように取付け、ダクト内部空間と外部空間とが多孔質材を通じて連通するようにした技術であり、さらに、特許文献1に記載のポーラスダクトにおいては、ダクト本体の壁面から突出する小筒部を設け、小筒部先端の開口部に不織布が熱溶着されている。このようなダクトにおいては、多孔質材の通気度を調整することにより、ダクト系に生ずる気柱共鳴の発生を防止しながら、ダクト系を伝播する騒音の低減を図ることができるとともに、不織布の取付けがしやすくなり、さらに、ダクトの通気抵抗が低減できるという効果が得られる。
【0005】
また、特許文献2には、自動車エンジン用の吸気管において、不織布よりなる成形体から管壁の少なくとも一部が形成されたことを特徴とする吸気管が開示され、不織布からなる成形体が例えば熱プレス成形によってダクトの半割り形状に立体成形されて、一対の半割れ体を接合部で接着一体化して通気ダクトを構成することが記載されている。
【0006】
また、複数の構成部材を一体化して通気ダクトを構成する接合技術としては、接着、溶着・熱かしめ、はめ込み、爪などによる係止、粘着テープの使用、インサート成形、オーバーモールド成形などが知られている。ここで、オーバーモールド成形による接合技術とは、図10に示すように、接合すべき構成部材91,92の接合部91a、92aを互いに重ね合わせた状態で、射出成形金型(M1,M2)内に当該構成部材を導入し、金型を閉じてキャビティCを形成し、重ね合わせられた接合部91a、92aの外周面を覆うように、キャビティCに合成樹脂の射出成形を行うことにより、合成樹脂Lにより接合部を被覆して接合する技術のことである(図11)。
【0007】
そして、特許文献3には、オーバーモールド成形を応用して構成部材を一体化し通気ダクトを構成することについて開示されており、特許文献3においては、一対の合成樹脂製半割れ体の接合部を重ね合わせて、互いの接合面を溶着すると共に、接合部の外周部を合成樹脂材により被覆する二次成形を行うことによって、一対の半割れ体を一体化して通気ダクトにすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−323853号公報
【特許文献2】特開2000−73895号公報
【特許文献3】特開平5−305679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
オーバーモールド成形による接合技術は、接合部の強度やシール性に優れるといった特徴を備える優れた接合技術であるが、特許文献1や特許文献2に開示されたような不織布成形体などの多孔質体をダクトの構成部材とした通気ダクトの製造において、オーバーモールド成形による接合技術を応用しようとすると、オーバーモールド成形の成形不良が発生しやすく、製造効率が低下し、成形不良の程度が著しい時には製造が不可能となってしまうことが判明した。
【0010】
即ち、不織布成形体などの多孔質材料は、その性質上弾力性を有するものであることが多く、そのような材料で構成された通気ダクト構成部材93,94をオーバーモールド成形により接合しようとして、金型M1,M2で接合部93a、94a挟持すると、不織布成形体がその弾力性のために変形してしまい、キャビティCの中で適正な位置を保てなくなるのである(図12)。具体的には、不織布成形体93,94が金型M1,M2で直接挟持される部分を起点として、不織布成形体の接続部93a、94aがめくれあがる方向に変形しやすくなる。
【0011】
この状態で樹脂の射出が行われると、不織布成形体の接続部93a、94aがめくれ上がった部分に対向するキャビティ部分C1,C2には樹脂が回り込みにくくなって、図13に示したように、合成樹脂Lが不織布成形体の接続部93a、94aを包み込んでいないような成形不良が起こりやすくなる。このような成形不良が起こると、完成した通気ダクトの外観がよくないほか、接合の強度も不十分となることがあり、通気ダクトとしての性能や商品性が著しく低下する。
【0012】
したがって、本発明の目的は、不織布成形体を構成部材とする通気ダクトを製造する際のオーバーモールド成形の成形不良を防止することにあり、それに適した通気ダクトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、鋭意検討の結果、不織布成形体の表面に特定の熱処理を施した層を設けると、上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、少なくとも2つ以上の構成部材を一体化して構成される通気ダクトであって、
構成部材の少なくとも1つは、熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を含むように、プレス加工によって前記不織布が賦形された不織布成形体であり、不織布成形体が他の構成部材と一体化される部位において、前記一体化が、互いに一体化される構成部材の端縁部に沿って形成された接続部を互いに重ね合わせて、重ね合わせた接続部の末端部を包み込むように、射出成形により樹脂被覆体を被覆形成することによりなされ、不織布成形体には、樹脂被覆体で被覆される側の表面に、不織布の表面を選択的に加熱する工程を経たことにより表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた熱処理硬化層が形成されていることを特徴とする通気ダクトである。
【0015】
さらに、本発明においては、熱処理硬化層の表面には、熱可塑性樹脂繊維が溶融して形成された樹脂の塊が粒状に分布していることが好ましい(請求項2)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、オーバーモールド成形によって不織布成形体を通気ダクトに一体化する際の、オーバーモールド成形される樹脂被覆体の成形不良が予防・抑制されるという効果が得られる。また、請求項2に記載の発明においては、成形不良がより効果的に予防・抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明第1実施形態の通気ダクトの外観を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態の通気ダクトのX−X断面を示す断面図である。
【図3】本発明第1実施形態の通気ダクトを構成する構成部材の製造工程を示す模式図である。
【図4】不織布表面の熱処理硬化層に略球状の樹脂の塊が粒状に分布する状態を示す写真である。
【図5】不織布表面の熱処理硬化層に扁平な板状の樹脂の塊が粒状に分布する状態を示す写真である。
【図6】不織布表面に熱処理硬化層が存在しない通常の不織布表面の状態を示す写真である。
【図7】本発明第1実施形態のオーバーモールド成形工程を示す模式図である。
【図8】本発明第2実施形態の通気ダクトの断面を示す断面図である。
【図9】本発明第3実施形態の通気ダクトの一部のダクト長手方向に沿う断面を示す断面図である。
【図10】オーバーモールド成形における金型を閉じた状態を示す模式図である。
【図11】オーバーモールド成形によって接合部が接合された状態を示す断面図である。
【図12】不織布成形体を用いた場合の、オーバーモールド成形における金型を閉じた状態を示す模式図である。
【図13】不織布成形体を用いた場合に生じうる、オーバーモールド成形接合部の成形不良の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。図1及び図2に示す本発明の第1の実施形態の通気ダクト1は、ハイブリッド自動車や電気自動車の電池を冷却する冷却風を送るために使用される通気ダクト1である。図1には斜視図を、図2にはX−X断面図を示す。通気ダクト1は、一対の半割れ体2,3が、その端縁部で被覆体4により一体化された中空のダクト部材であり、被覆体4は、図2に示すように半割れ体2,3の端縁部を包み込むような断面形状で、半割れ体2,3の端縁部に沿って形成されている。通気ダクト1の片側及び反対側には、他のダクト部材や接続部材、電池ケースや送風ファンケースなどに接続される開口部11,12が設けられている。通気ダクト1は、電池の冷却システム中に組み込まれて、例えば、開口部11からダクト内部に流れ込んだ空気が開口部12から流出するように、その内部に電池冷却風が流れるように使用される。
【0019】
半割れ体2,3を一体化している被覆体4はオーバーモールド成形により形成される。即ち、半割れ体2,3は、互いに接合されるべき端縁部に沿って、略フランジ状をなすように接続部21,31が設けられたモナカ形状(ハット形状)に形成されて、接続部21、31を互いに重ね合わせた状態で射出成形金型の内部に導入され、その後、被覆体4を構成する樹脂材料が接続部21、31の重ねあわせ部分の末端部を包み込むような形態に射出されて、被覆体4が形成されている。その詳細については後に述べる。
【0020】
通気ダクト1の構成部材である半割れ体2,3は、いずれも、不織布素材をプレス成形により賦形して形成した部材である。本実施形態においては、後述するように3枚の不織布を積層してプレス成形に供して得られる、通気ダクトの略半分を構成するようなモナカ形状に賦形された半割れ体2,3となっている。そして半割れ体2,3の表面は、後述する熱処理により表層部の剛性が高められた熱処理硬化層となっている。さらに、本実施形態においては、熱処理硬化層が半割れ体のダクト内面側にもダクト外面側にも両面に設けられると共に、熱処理硬化層の表面には、熱処理硬化層を形成する際の熱処理により形成された樹脂の塊Gが粒状に分布している。
【0021】
本発明においては、不織布成形体である半割れ体2、3の表面のうち、特に通気ダクト外側の面、すなわち、被覆体4によって包み込まれる接合部21,31において被覆体4と直接接触する面の側の不織布表層部に、熱処理硬化層が存在する点に特徴がある。
【0022】
半割れ体2,3の不織布表面に存在する熱処理硬化層及び樹脂の塊G及びそれらを形成するための熱処理について詳述する。この表層部(即ち樹脂の塊Gが分布する熱処理硬化層)は、熱可塑性合成樹脂繊維を含む繊維素材によって、公知のカーディング工程や積層工程やニードルパンチ工程などを経て製造された不織布に対し、炎や熱輻射(例えば赤外線ヒータ)などの手段によって、不織布表面を選択的に加熱することにより不織布表面に形成される層である。不織布表面を選択的に加熱すると、不織布表面付近でのみ熱可塑性樹脂繊維が溶融し、不織布表面における繊維の結合度が上がって、不織布表層に剛性が高められた層すなわち熱処理硬化層が生じ、不織布内部では普通の不織布であるような不織布が得られる。また、この熱処理過程において、熱可塑性樹脂繊維が溶融した樹脂が集合して略球状となった状態で冷却すると、溶融した繊維の樹脂が略球状の塊となり、その塊を熱処理硬化層の表面に粒状に分布させることができる。
【0023】
このような不織布は、不織布表面を選択的に加熱する際の加熱・冷却の程度や時間を調節して得ることができ、好ましくは不織布生産ライン上に加熱装置を設けることによって連続的に製造することができる。加熱の時間が長すぎると繊維がより多く溶けて、溶けた樹脂が連続して不織布表面が膜状あるいは板状になってしまう場合もあるが、加熱の程度を弱めたり加熱時間を短縮したりして、溶融した樹脂の塊が熱処理硬化層に粒状に分布するように調節することができる。
【0024】
この熱処理は、不織布の表側・裏側に対してそれぞれ独立して行うことが可能であり、表側と裏側の両面に熱処理硬化層を形成することも、表側や裏側の一方のみに熱処理硬化層を形成して他方は通常の不織布表面とすることも、いずれも可能である。
【0025】
また、不織布に上記熱処理を行って略球状の樹脂の塊が分布した熱処理硬化層を形成した後に、さらに熱プレスをかけても良い。上記熱処理の直後に樹脂の塊が軟化した状態で熱プレスをかけると、樹脂の塊が潰れて、偏平な板状となって不織布表面に粒状に分布するようになる。このようにすると、熱処理硬化層の結合度及び剛性が効果的に向上する。
【0026】
また、熱処理の程度は必ずしも溶融した樹脂の塊が不織布表面に粒状に分布する程度に限られるものではなく、後述する他の実施形態のように、不織布表層を選択的に加熱することによって表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた層が生ずる限りにおいて、不織布表面が膜状あるいは板状となる程度まで加熱するものであっても良い。
【0027】
図4、5は不織布表面の熱処理硬化層に樹脂の塊Gが粒状に分布する様子を示す不織布表面の拡大写真であり、パワーハイスコープ装置により撮影した写真である。図4には、樹脂の塊Gが略球状の塊で分布したものを、図5には、樹脂の塊Gが偏平な板状の塊で分布したものを示し、いずれにおいても、不織布表面には、不織布の繊維組織が残存した状態の熱処理硬化層が形成されている。また、図4においては、溶融した樹脂が略球状(球状や涙型状や紡錘状を含む)の塊となって熱処理硬化層の表面に粒状に分布している様子が観察され、図5においては、溶融した樹脂が偏平に押しつぶされた板状の樹脂の塊となって、熱処理硬化層の表面に粒状に分布している様子が観察される。なお、図6には、熱処理硬化層が形成されず、樹脂の塊Gが表面に粒状に分布しない、通常の不織布表面の拡大写真を示し、通常の不織布表面には不織布の構成繊維が交絡した組織が観察される。
【0028】
熱処理によって、表面が膜状あるいは板状となった熱処理硬化層が不織布表面に形成される場合には、図4、図5に示した熱処理硬化層に比べて、より多くの表面の繊維が溶融し、互いに融合してつながった状態となる。なお、熱処理硬化層が膜状あるいは板状であるという状態は、必ずしも非通気性となる程度まで連続した状態にあることを意味せず、通気性を有するような網状の状態、及び、樹脂が互いに連続しながらも空隙や穴があるような状態を含んでいる。
【0029】
本実施形態の半割れ体(不織布成形体)2,3の成形に好ましく使用できる不織布の構成および性状について説明する。不織布としては、合成樹脂繊維からなる不織布が好ましく使用でき、合成樹脂繊維としては、PET樹脂繊維、ポリプロピレン樹脂繊維や、ポリアミド樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維などの熱可塑性樹脂繊維が例示できる。特に、不織布に熱可塑性樹脂繊維が含まれることが、上述した熱処理によって不織布表面に熱処理硬化層を形成する上で重要である。不織布には、熱可塑性樹脂繊維のほか、天然繊維(綿・麻・パルプ)や準天然繊維(レーヨン繊維など)や金属繊維やガラス繊維、カーボン繊維、ロックウールなどの他の繊維素材を含ませるようにしても良い。
【0030】
熱可塑性樹脂繊維としては、融点の異なる熱可塑性樹脂を芯鞘構造とした樹脂繊維を使用しても良い。また、融点の異なる熱可塑性樹脂繊維を混紡した不織布としても良い。特に、融点の異なる熱可塑性樹脂繊維を混紡した不織布を本発明の実施に供するようにすれば、前述した熱処理工程において、不織布表面で、低融点繊維のみが溶融しながら、高融点繊維は繊維の形態を維持することになって、不織布の通気性を維持しながら不織布表層の剛性が高められやすくなる。また、低融点繊維と高融点繊維とが混紡された不織布素材は、後述する熱プレス加工の際の加工性がよくなり、プレス成形品の凹凸形状の固定や通気性の調整が行いやすくなる。
【0031】
不織布は、単層の不織布であっても良いし、複層の不織布であっても良い。また、不織布には、不織布の保形性を高めたり、不織布の通気性を調整したりする目的で、アクリル系樹脂や、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などの樹脂成分を含むバインダー樹脂を含浸させて使用することができる。
【0032】
本実施形態の通気ダクト1及びその構成部材である半割れ体2,3においては、不織布に対し上記熱処理が行われて、熱処理硬化層が形成されると共に樹脂の塊Gが熱処理硬化層に粒状に分布する不織布素材(A1,A2,A3)が、プレス成形によって賦形されて、その結果、プレス成形された不織布成形体(半割れ体2、3)および、通気ダクト1の表面には、上記熱処理によって形成された熱処理硬化層が形成された状態となっている。
【0033】
上記通気ダクト1及びその構成部材(半割れ体2,3)の製造方法について説明する。不織布成形体である半割れ体2,3は、不織布の調製工程、プレス金型への供給工程、プレス成形工程、必要によりカット・仕上げ工程、を順に経て製造される。そして、得られた半割れ体2,3を射出成形金型にセットして、いわゆるオーバーモールド成形によって、半割れ体2,3が結合されるべき端縁部に設けられた接続部21、31を被覆材4で包むように被覆材の樹脂材料を射出成形し、半割れ体2,3を一体化させて通気ダクト1が製造される。
【0034】
以下各工程を詳細に説明する。
(不織布の調製工程)
プレス成形に供する不織布の調製を行う。熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を公知の製造方法により製造し、得られた不織布に対し、上述したように、不織布表面を選択的に加熱して、不織布表面に熱処理硬化層が存在し、熱処理硬化層に樹脂の塊Gが粒状に分布する不織布を得る。不織布を積層してプレス成形する場合もあるので、必要に応じて、不織布の繊維の配合や厚みや目付け、表面状態の異なる不織布をそれぞれ準備しても良い。
【0035】
(プレス金型への供給工程)
先の工程で得られた不織布を、プレス処理に適した所定の大きさにカットする。
そして、必要に応じて複数の不織布を積層する。不織布は単層でプレス成形に供することも可能であって、その場合は積層しなくても良い。即ち、プレス成形に供する不織布は単層状態でも積層状態でも良いが、少なくとも上記熱処理により不織布表面に熱処理硬化層が存在するようにされた不織布を含むようにしてプレス成形に供する必要がある。
そして、積層する場合には、上下方向に型開きしたプレス金型P1,P2のうち、少なくともダクト外周面を形成する側の金型面(図ではP1)に、熱処理硬化層が存在する不織布面が対向するように、不織布を積層・配置する。
【0036】
本実施形態においては、片面のみに樹脂の塊Gが粒状に分布した熱処理硬化層を有する不織布2枚(A1,A2)と、両面に樹脂の塊Gが粒状に分布した熱処理硬化層を有する不織布1枚(A3)とを積層し、最下層には両面に熱処理硬化層を有する不織布A3を、中間層及び最上層には、片面のみに熱処理硬化層を有する不織布A2,A1をそれぞれ熱処理硬化層を有する面が上側となるように積層している(図3(a))。その結果、積層された不織布積層体AAにおいては、その最上面と最下面において、樹脂の塊Gが粒状に分布する熱処理硬化層が露出している。
【0037】
この積層状態を維持しながら、不織布積層体AAの全体を加熱する。加熱にはオーブン加熱が好ましく用いられ、不織布積層体全体を均一に加熱することが好ましい。加熱温度は、プレス成形に好適な温度で、不織布積層体AAに含まれる熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が軟化する温度であることが好ましい。
そして、所定の温度まで加熱された不織布積層体AAを、型開きされたプレス型P1、P2の内部に供給・配置する(図3(b))。
【0038】
(プレス成形工程)
プレス金型P1,P2を閉じて、所定の圧力を加える。本工程により、不織布積層体AAはプレス金型に設けられたキャビティの形状と合致する形状を有する不織布成形体Bとなる(図3(c))。プレス工程を経ることにより、不織布表面に分布していた樹脂の塊は、偏平な板状になることもある。また、不織布積層体AAの加熱が比較的低温であり、不織布表面に分布していた樹脂の塊が軟化するに至らないような温度で加熱されてプレスされた場合には、プレス工程を経ても不織布表面に分布していた樹脂の塊Gは、略球状のプレス前の形状を維持したまま不織布成形体Bの表面に分布することもある。
【0039】
(カット・仕上げ工程)
プレス成形された不織布成形体Bをプレス金型から取り出し、必要に応じて不要な部分をカッターCT、CTなどによってカットする(図3(d))。また、穴あけ加工が必要であればこの段階で行うこともできる。本実施形態においては、半割れ体の側部の余計な部分を切除すると共に、通気ダクト1の開口部11,12となる部分をカットしている。これら工程を経て、本発明実施形態の1つである通気ダクト1の構成部材(すなわち半割れ部材2,3)を製造できる。
単純な平面形状である場合など、構成部材の形状によっては、カット・仕上げ工程が不要となる場合もある。また、カット工程は、プレス金型を利用してプレス成形と同時並行的に行うこともできる。
【0040】
(通気ダクト組立工程)
上記工程により、得られた通気ダクト構成部材(本実施形態では半割れ体2,3)を組み立てて、通気ダクト1を製造する。本発明においては、いわゆるオーバーモールド成形によって、半割れ体2,3を一体化する。以下、図7を参照しながら、その工程を説明する。
【0041】
まず、半割れ体2,3を射出成形金型にセットする。半割れ体2,3の互いに接続されるべき端縁部にフランジ状に設けられた接続部21,31を互いに重ね合わせるようにして、半割れ体2,3を仮組み立てする。その状態を維持しながら、半割れ体2,3を型開きされた状態の射出成形金型M1,M2内部に導入する(図7(a)の状態)。
【0042】
次に、金型を閉じ、接続部21,31の末端が包み込まれるような形状のキャビティCを形成する(図7(b))。即ち、キャビティCは、半割れ体2及び3の接続部21,31におけるダクト外周面側となる面及び末端面、ならびに、金型M1,M2の内周面によって画定される空間である。
【0043】
形成されたキャビティCに液状の合成樹脂を射出し、固化させることによって、半割れ体2,3の接続部21,31が射出された合成樹脂で包まれるように被覆体4が形成される(図7(c))。以上のオーバーモールド工程を経ることによって、半割れ体2,3が接合一体化されて、通気ダクト1が完成する。
【0044】
オーバーモールド工程で射出される樹脂は、射出成形に使用可能な熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーや熱硬化性樹脂などが使用できる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン樹脂やポリアミド樹脂などの汎用のプラスチック材料が広く使用でき、熱硬化性樹脂としては、例えばLIMS成形に使用可能な液状シリコーンゴムなどが使用できる。オーバーモールド工程で射出される樹脂としては、半割れ体2,3を形成する樹脂材料と接着性が良い材料であることが好ましく、溶着可能な材料であることがより好ましい。
【0045】
本実施形態における有利な作用と効果について説明する。
本実施形態によれば、オーバーモールド成形に供される不織布成形体において、樹脂被覆体で被覆される側の表面に、不織布の表面を選択的に加熱する工程を経たことにより表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた層(即ち熱処理硬化層)が存在するようにしたので、射出成形の金型内部で、不織布成形体が変形してしまうことが効果的に抑制される。その結果、不織布成形体のダクト外周面に対向するキャビティ部分C1,C2が十分に確保されて、射出した樹脂が接合部21,31の末端を包み込むようにキャビティCを満たすようになって、図7(c)に示すような成形品が得られやすくなり、図13に示したような、不織布成形体の弾力性に起因するような成形不良の発生が予防・抑制される。
【0046】
上記効果を得るためには、オーバーモールド工程中の金型を閉じてキャビティCを形成した段階において不織布成形体のキャビティ空間内への変形を直接制限できるように、樹脂被覆材で被覆される側の表面(即ちダクト外周面側)に、熱処理硬化層が存在することが重要であるが、本実施形態のように、ダクト内周面側にも熱処理硬化層を存在させれば、より効果的にオーバーモールド成形工程における成形不良を防止できる。
【0047】
また、本実施形態のように、不織布成形体の接続部の末端部を覆うように樹脂被覆材を形成して、不織布成形体の通気ダクトへの一体化を行うようにすれば、不織布成形体の表層部、特にダクト外周面側が不織布成形体の末端からはがれることが確実に防止され、通気ダクトに対し、不織布成形体を確実に一体化でき、その接合強度が高められる。
【0048】
また、本実施形態のように、オーバーモールド成形に供される不織布成形体において、樹脂被覆材で被覆される側の表面に、熱処理硬化層が存在し、かつ、当該表面には、熱可塑性樹脂繊維が溶融して形成された樹脂の塊が粒状に分布するようにすることが特に好ましい。
【0049】
このように、樹脂被覆体で被覆される側の面に樹脂の塊Gが粒状に分布している場合には、たとえ接続部21,31がキャビティCの内側に向けて変形することがあろうとも、表面に樹脂の塊が存在することによって、不織布成形体の表面と金型内周面が密着してしまうことが防止されて、キャビティの部分C1,C2にも射出された樹脂がいきわたるようになり、より効果的にオーバーモールド成形における成形不良を予防・抑制できる。
【0050】
また、樹脂被覆体で被覆される側の面に樹脂の塊Gが粒状に分布していれば、射出された樹脂材料が、樹脂の塊Gを包み込むように隙間に入り込んで被覆体4の成形が行われるので、いわゆるアンカー効果によって、被覆体4と半割れ体(不織布成形体)2,3との間の接合強度が向上する。
【0051】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に本発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分については同じ番号を付すと共にその詳細な説明を省略する。
【0052】
上記実施形態の説明においては、通気ダクトが、電気自動車などの電池冷却システムの送風ダクトとして使用される実施形態について説明したが、通気ダクトの用途はそれに限定されるものではない。例えば、本発明の通気ダクトは、自動車用エンジンなどの内燃機関に空気を供給するための吸気システムの通気経路の一部を構成するための通気ダクトとして使用できる。また、エアコンディショナーなどの空調システムにおいて、空気を送風するための送風経路の一部を構成するための通気ダクトとしても使用できる。
【0053】
図8および図9には、本発明の通気ダクトに関し、他の実施形態を示す。例えば、図8には、本発明の通気ダクトの第2実施形態の断面を示すが、本実施形態においては、不織布素材をプレス成形して半割れモナカ状の不織布成形体からなる通気ダクト半割れ体5を用いる点は第1実施形態と同様であるが、本実施形態においては、反対側の半割れ体6は非通気性の合成樹脂素材(たとえばポリアミド樹脂)でブロー成形や射出成形により形成されている点が異なる。また、本実施形態においては、不織布成形体の半割れ体5のダクト外面側にのみ熱処理がされて、半割れ体5の外表面に熱処理硬化層Hが存在する。さらに本実施形態では、熱処理硬化層Hの表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して膜状になっている。本実施形態においても、熱処理硬化層Hがダクト外周面に存在することによって、樹脂被覆材4をオーバーモールド成形する際の成形不良の発生が予防・抑制される。
【0054】
図9には、本発明の通気ダクトの第3実施形態について、通気ダクトの一部のダクト軸方向に沿った断面を示すが、本実施形態においては、特許文献1に記載のダクトのごとく、ポリプロピレン樹脂などの非通気性素材で成形されたダクト本体部材8の一部に設けられた筒状開口部81の端部に、不織布がプレス加工された不織布成形体7が一体化されており、不織布成形体7のダクト外周面側には、樹脂の塊Gが粒状に分布する熱処理硬化層が存在するようにされている。本実施形態においても、熱処理硬化層がオーバーモールド成形で形成される被覆体4と直接接触する面の側に存在することによって、樹脂被覆体4をオーバーモールド成形する際の成形不良の発生が予防・抑制される。
【0055】
このように、本発明が通気ダクトに適用される形態は特に限定されず、不織布をプレス成形した不織布成形体をオーバーモールド成形により一体化した通気ダクトであれば、広く適用可能である。そして、不織布成形体以外の通気ダクトの構成要素に関しては、広く公知技術が採用できることは明らかであって、通気ダクトに非通気性素材の部分が存在すれば、その部分は、熱可塑性樹脂の射出成形やブロー成形によって形成したり、金属板などで構成したりできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の通気ダクトは、その内部に空気を通流する用途の通気ダクト(吸気ダクトやエアコン用ダクト、送風ダクトなど)において使用することができる。本発明の通気ダクトによれば、好ましい特性のダクトを効率的に製造でき、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0057】
1 通気ダクト
2,3 半割れ体(通気ダクト構成部材)
21,31 接続部
4 樹脂被覆体
G 樹脂の塊
H 膜状の表面を有する熱処理硬化層
AA 不織布積層体
A1,A2 不織布
P1、P2 プレス金型
B 不織布成形体
CT カッター
M1、M2 射出成形金型
C キャビティ
5 半割れ体(通気ダクト構成部材)
6 非通気性の半割れ体(通気ダクト構成部材)
7 通気性部材(通気ダクト構成部材)
8 非通気性のダクト部材(通気ダクト構成部材)
91,92 半割れ体(合成樹脂製)
93、94 半割れ体(不織布成形体)
L 樹脂被覆体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つ以上の構成部材を一体化して構成される通気ダクトであって、
構成部材の少なくとも1つは、熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を含むように、プレス加工によって前記不織布が賦形された不織布成形体であり、
不織布成形体が他の構成部材と一体化される部位において、前記一体化が、互いに一体化される構成部材の端縁部に沿って形成された接続部を互いに重ね合わせて、重ね合わせた接続部の末端部を包み込むように、射出成形により樹脂被覆体を被覆形成することによりなされ、
不織布成形体には、樹脂被覆体で被覆される側の表面に、不織布の表面を選択的に加熱する工程を経たことにより表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた熱処理硬化層が形成されていることを特徴とする通気ダクト。
【請求項2】
熱処理硬化層の表面には、熱可塑性樹脂繊維が溶融して形成された樹脂の塊が粒状に分布していることを特徴とする請求項1に記載の通気ダクト。
【請求項1】
少なくとも2つ以上の構成部材を一体化して構成される通気ダクトであって、
構成部材の少なくとも1つは、熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を含むように、プレス加工によって前記不織布が賦形された不織布成形体であり、
不織布成形体が他の構成部材と一体化される部位において、前記一体化が、互いに一体化される構成部材の端縁部に沿って形成された接続部を互いに重ね合わせて、重ね合わせた接続部の末端部を包み込むように、射出成形により樹脂被覆体を被覆形成することによりなされ、
不織布成形体には、樹脂被覆体で被覆される側の表面に、不織布の表面を選択的に加熱する工程を経たことにより表面の熱可塑性樹脂繊維が溶融して剛性が高められた熱処理硬化層が形成されていることを特徴とする通気ダクト。
【請求項2】
熱処理硬化層の表面には、熱可塑性樹脂繊維が溶融して形成された樹脂の塊が粒状に分布していることを特徴とする請求項1に記載の通気ダクト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2011−101984(P2011−101984A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257765(P2009−257765)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
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