説明

通気性に優れた編地

【課題】湿潤状態に於いて通気度調整機能を発揮するため、素材そのものの持つ伸長特性と撚効果、編地構造を組み合わせることにより、実用面で半永久的に機能を保持できるだけでなく幅広く衣料用素材として使用でき、原糸撚掛けしても何ら通気度調整効果が低下することなく、かつ耐久性に優れ、かつ良好な膨らみ、着心地を兼ね備えた編地を提供すること。
【解決手段】実撚を有し湿潤時、伸長挙動を示す長繊維糸Aと、紡績糸Bからなるリバーシブル構造編地であって、20℃×65%RH環境下での通気度aと含水率20%以上付与時の通気度bにおいて通気度変化率が下記式(1)を満たすことを有することを特徴とする通気性に優れた編地。
通気度変化率 = {(通気度b−通気度a)/通気度a}×100 ≧ +10% (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は実撚を有し湿潤時、伸長挙動を示す長繊維糸Aと、紡績糸Bからなるリバーシブル構造編地であり、生地 含水率10%以上の場合に特定の通気度調整機能を有することを特徴とした編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、湿度の変化により衣料の通気度を調整する提案は種々ある。例えば、特許文献1では、湿度の変化に従ってセルロースアセテート繊維の捲縮率が変化し衣服内気候を調整しようとするものである。また、特許文献2では、湿度の変化によりサイドバイサイド型に接合された複合繊維が捲縮し通気度を調整しようとするものである。
【特許文献1】特開2002−180323号公報
【特許文献2】特開2004−124305号公報
【0003】
しかしながら、特許文献1、および特許文献2いずれの方法に於いても湿潤時繊維捲宿による糸径差により織編物の目が大きくなり通気度向上を狙ったものであるが、この方法ではあくまで湿潤状態の変化による原糸レベルでの挙動が挙げられたものであり、原糸に撚掛けあるいは交編等による外部から何らかの力が加わることにより捲縮率等の挙動が低下することが考えられ、実用面に於いても使用素材、強度等の問題から用途が限定されること、また長繊維糸主体の素材であるため吸湿性、肌触りといった点でも満足できるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、湿潤状態に於いて通気度調整機能を発揮するため、素材そのものの持つ伸長特性と撚効果、編地構造を組み合わせることにより、実用面で半永久的に機能を保持できるだけでなく幅広く衣料用素材として使用でき、原糸撚掛けしても何ら通気度調整効果が低下することなく、かつ耐久性に優れ、かつ良好な膨らみ、着心地を兼ね備えた編地を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は以下の構成よりなるものである。
1.実撚を有し湿潤時、伸長挙動を示す長繊維糸Aと、紡績糸Bからなるリバーシブル構造編地であって、20℃×65%RH環境下での通気度aと含水率20%以上付与時の通気度bにおいて通気度変化率が下記式(1)を満たすことを有することを特徴とする通気性に優れた編地。
通気度変化率 = {(通気度b−通気度a)/通気度a}×100 ≧ +10% (1)
2.長繊維糸Aが湿潤時0.5%以上伸長する2本のマルチフィラメントからなり、異方向に300T/m以上の下撚を施された後150T/m以上で上撚し合撚されてなる上記第1に記載の通気性に優れた編地。
3.20℃×65%RH環境下での生地厚みaと含水率20%以上付与時の生地厚みbにおいて、生地厚み変化率が下記式(2)を満たすことを特徴とする上記第1又は第2に記載の通気性に優れた編地。
生地厚み変化率={(生地厚みb−生地厚みa)/生地厚みa}×100≧+5.0% (2)
4.リバーシブル構造編地の長繊維糸Aに占める混率が30重量%〜70重量%、紡績糸Bの混率が70重量%〜30重量%であることを特徴とする上記第1〜第3のいずれかに記載の通気性に優れた編地。
5.長繊維糸Aがナイロンマルチフィラメントであることを特徴とする上記第1〜第4のいずれかに記載の通気性に優れた編地。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、湿潤状態に於いて通気度調整機能を発揮するため、素材そのものの持つ伸長特性と撚効果、編地構造を組み合わせることにより、実用面で半永久的に機能を保持できるだけでなく原糸撚掛けをしても何ら通気度調整効果が低下することなく耐久性に優れ、かつ良好な膨らみ、着心地を兼ね備えた編地を提供しようとするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の編地は実撚を有し湿潤時に伸長挙動を示す長繊維糸Aと紡績糸Bから構成される。含水率20%以上付与時の通気度変化率 +10%以上向上するメカニズムとしては湿潤時に伸長挙動を示す長繊維糸Aのループ目が拡大すると共に、紡績糸Bの残留トルクによりループ目が構造変化し立ち、生地空隙間アップにより効果が発揮される。結果的に生地厚みは+5.0%以上となる。長繊維糸Aはグランド部で伸長すると同時に紡績糸Bを支え紡績糸Bはブラインド効果を発揮する。
【0008】
長繊維糸Aは実撚を有した湿潤時、伸長挙動を示す素材でなければ本効果は充分に発揮されない。ここで実撚を有さなければ通気度調整効果を充分に発揮されない原理は完全には解明されていないが長繊維糸Aに実撚の存在しない長繊維糸がばらけた単繊維で存在すると、長繊維糸Aと紡績糸Bのリバーシブル編地の糸が交差している部分では紡績糸Bの残留トルクが長繊維糸Aの各単繊維に均一に掛からず長繊維糸A、紡績糸Bそれぞれのループ目が変形し、生地空隙が充分に開かないためと考えられる。また長繊維糸Aが実撚を有することにより伸長挙動が原糸長手方向のみへの伸長から撚方向への回転を伴う伸長により長繊維糸Aと紡績糸Bの交差部分の応力を和らげ、ループ目を拡大させることができると考えられる。
【0009】
また長繊維糸Aに実撚を有することで対摩耗特性、膨らみも兼ね備えることができる。長繊維糸Aは湿潤時0.5%以上伸長することが望ましく、かつ2本のフィラメントからなり、異方向に300T/m以上の下撚と150T/m以上の上撚を有する合撚糸を用いることが望ましい。下撚を異方向にするのは原糸トルクバランスを整え、湿潤時に生地斜行を抑え、生地空隙↓を防ぐためであり、300T/m以上の下撚とするのは前述の長繊維糸Aの単繊維収束性を上げ、通気効果を良くするためである。また上撚150T/m以上とするのは2本の繊維の収束性を良くするためであり、この値以下だと2本のフィラメントがばらけやすく製編製等の取り扱いの問題や、生地繊維切れした場合に単繊維毛羽が出やすくなるためである。
【0010】
長繊維糸Aの湿潤時とはJIS L1095の水(20℃±2℃)に10分間以上浸せきして十分に湿潤させたものをいい、JIS L1095標準状態(20℃±2℃,65%±2%)との差である。湿潤時の伸長率はJIS測定方法により実施しプラスの値(JIS L1095-A法 かせ収縮率)であれば良いが、望ましくは0.5%以上、なお望ましくは1.0%以上、更に望ましくは2.0%以上伸長挙動を示すものである。
【0011】
この長繊維糸Aと短繊維紡績糸Bを用いリバーシブル構造の編地とする。リバーシブル構造としては長繊維糸Aと短繊維紡績糸Bとの二層構造編地でも良いし、中間層構造を持った三層、あるいは四層構造編地でも良い。リバーシブル構造編地の長繊維糸Aに占める混率が編地30重量%〜70重量%であることが望ましく、40重量%〜65重量%であることがなお望ましい。
【0012】
湿潤時伸長挙動を示す長繊維糸Aの混率が30%未満だと長繊維糸Aを使用した編地面のループ目が広がらず、また生地も寸法安定性に欠け湿潤時に通気度が十分に上がらないためである。また70%以上になると湿潤時の通気度は良くなるものの短繊維紡績糸混率が低下し、衣料用素材としての肌触り、吸湿性等が劣ってしまう場合があるのであまり好ましくない。
【0013】
紡績糸Bは通常、トルク有する単糸からなり構成する素材としては、レーヨン、ポリノジック、キュプラ等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、ポリエステル繊維のステープル、その他の合成繊維のステープル、またこれらの混合された繊維等が挙げられるが、吸湿性あるいは肌触りと言った点から天然繊維もしくはセルロース系繊維が好ましい。65%RH、20℃における公定水分率(JIS-1096)が5%以上の親水性のものが使用する上で目安となる。また断面形状としては丸断面の他に三角断面、中空断面、多葉断面等のいずれの断面を有していても良く、さらに異繊度、異繊維長混合であっても良い。
【0014】
含水率10%以上とは一般に人体がスポーツあるいはその他の発汗作用により衣類が濡れたと感じる値に相当する。この時、通気度が+5.0%以上向上することにより生地の換気効果を高め水分を衣服内から外気へと素早く移行することができる。
【実施例】
【0015】
以下に本発明を具体的に実施例に基づいて説明する。
表1に示す素材を用いて本発明の実施例原糸、および比較例原糸を製造した。得られた原糸を福原(株)製 横編機に仕掛け針抜きリバース生地(表面:長繊維糸A、タックリブ:長繊維糸A、裏面:紡績糸B)を編立したのち、染色加工を実施した。この仕上がり生地を評価し表1に示した。
【0016】
測定方法は以下の通りである。
【0017】
(イ)撚数
手動式検撚機(浅野機械製作株式会社製)を用い、JIS L1095 A法に準じて撚数を測定した。
【0018】
(ロ)原糸伸長率
JIS L1095標準状態(20℃±2℃,65%±2%)から、JIS L1095-A法(かせ収縮率)を用いて実施した。伸長率は(湿潤時長−標準状態長)/標準状態長×100(%)で算出した。数値の前に− (マイナス)表示のあるものは原糸が収縮することを表す。
【0019】
(ハ)膨らみ、肌触り(肌側面)
7名の判定者により以下の4ランクで官能評価した。
◎ 非常に良好、 ○ 良好、 △ 普通、 × 悪い
【0020】
(ニ)スナッキング
JIS L1058 ICI型ピリング試験機法(D法)に準じて実施した。
【0021】
(ホ)生地収縮率
JIS L1018-A法に準じて実施した。
[1]生地片の作り方
a 法 約30×30cmの試験片を2枚採取し中央に20×20cmの正方形を描いて測定面とする。次に測定面の各4辺の長さおよび対応する2辺の中点を結ぶ線を測定基準長としその長さ(mm)を測る。
[2]操作
A法(常温水浸せき法) 試験片を25℃±2℃の水中に30分間浸せきし、水を十分に浸漬させる。
[3]脱水および乾燥
脱水は原則として遠心脱水機でほぼ流水がなくなるまで行う。もしくは軽く押さえて水を切り布の中間に挟み押さえて脱水する。乾燥はスクリーン乾燥を行い、取り出した試験片をねじったり伸ばしたりすることなく不自然なシワを除いて水平なスクリーンメッシュ面上に載せ自然乾燥させる。自重の1.5倍となったところで試験片を平らな台の上に置き、測定基準長をミリメートル単位まで測る。(ウエール方向の長さの平均値を求める)
結ぶ数値の前に−(マイナス)表示のあるものは編地伸長することを表す。
【0022】
(ヘ)通気度変化率
JIS L1018に準じて実施した。[1]試験片の作り方、[2]操作、[3]脱水および乾燥のスクリーンメッシュ面上に載せ自然乾燥させるところまでは上述 生地収縮率と同じ手順で実施する。フラジール試験機を用いて通気度を測定した。なお算出方法は、20℃×65%RH環境下での通気度aと含水率を20%以上に高めた時の通気度bとから、
通気度変化率(%) = {(通気度b−通気度a)/通気度a}×100
の式で算出されるものである。尚、通常通気度自体の単位は(cc/cm2/sec)で表される。
【0023】
(ト)生地厚み変化率
JIS L1018に準じて実施した。編地を平らな台の上に置き、試料の異なる5ヶ所について厚さ試験機(定圧厚さ試験機 TECLOCK CORPORATION製 PG-11)を用いて厚み(mm)を測りその平均値を示す。なお算出方法は、20℃×65%RH環境下での生地厚みaと含水率を20%以上に高めた時の生地厚みbとから下記による。
生地厚み変化率(%)={(生地厚みb−生地厚みa)/生地厚みa}×100
表1には生地厚みbとして含水率10%時のデータを採用して算出したものを記載している。
【0024】
表1から次のことが確認された。実施例1〜3で製造した編地は各特性で良好な特性・評価を示し、総合評価も高いものとなった。また原糸撚糸・編立・加工の操業面においても特に問題のないレベルであることを確認している。
【0025】
これに対して比較例1ではナイロンマルチフィラメント下撚数、上撚数が少ないため、また、比較例3では長繊維糸Aに湿潤時収縮する繊維を用いたため、編地収縮率が大きく通気度が低下している。また風合も実施例のものより劣る評価が下された。
【0026】
比較例2では長繊維糸Aに実撚がないためスナッキング性能が低く、生地が膨らみのないものとなっている。
【0027】
比較例4では短繊維紡績糸Bに相当するステープルを用いなかったため、生地に膨らみがなくまた着心地も悪い。また編地の伸長率が大きい。
【0028】
【表1】

表1においてナイロンはナイロンマルチフィラメントを示す。また綿のあとの60,120は英式綿番手を/1,/2は単糸、双糸を表す。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の編地は湿潤状態において通気度調整機能を有するだけでなく編地寸法安定性にも優れ、実用面に於いても原糸撚掛けによるスナッキング、洗濯等の耐久性においても
何ら支障をきたすことなく用いることができ、インナー用途、スポーツ用途、オフィスユニフォーム用途など、幅広く衣料用途の素材として利用することができ、繊維産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実撚を有し湿潤時、伸長挙動を示す長繊維糸Aと、紡績糸Bからなるリバーシブル構造編地であって、20℃×65%RH環境下での通気度aと含水率20%以上付与時の通気度bにおいて通気度変化率が下記式(1)を満たすことを有することを特徴とする通気性に優れた編地。
通気度変化率 = {(通気度b−通気度a)/通気度a}×100 ≧ +10% (1)
【請求項2】
長繊維糸Aが湿潤時0.5%以上伸長する2本のマルチフィラメントからなり、異方向に300T/m以上の下撚を施された後150T/m以上で上撚し合撚されてなる請求項1に記載の通気性に優れた編地。
【請求項3】
20℃×65%RH環境下での生地厚みaと含水率20%以上付与時の生地厚みbにおいて、生地厚み変化率が下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の通気性に優れた編地。
生地厚み変化率={(生地厚みb−生地厚みa)/生地厚みa}×100≧+5.0% (2)
【請求項4】
リバーシブル構造編地の長繊維糸Aに占める混率が30重量%〜70重量%、紡績糸Bの混率が70重量%〜30重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の通気性に優れた編地。
【請求項5】
長繊維糸Aがナイロンマルチフィラメントであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の通気性に優れた編地。

【公開番号】特開2006−132010(P2006−132010A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319146(P2004−319146)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】