説明

造形用材料、機能剤、造形製品及び製品

【課題】融点が1000℃を超えるような高融点金属を注湯可能な粉末固着積層法における造形用材料、及び、機能剤を提供する。
【解決手段】70重量%以上の鋳物砂と、当該鋳物砂を相互に結着させるバインダーの粉状前駆体であるところのセメント又は耐熱性を有する樹脂とが混合されてなる粉末固着積層法における造形用材料を製造する。そして、この種の造形用材料とともに、前記粉状前駆体をバインダーに変質させる機能剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形用材料、機能剤、造形製品及び製品に関し、特に、粉末固着積層法における造形用材料、機能剤、造形製品及び製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元製品の横断面部分を形成し、そしてそれぞれの横断面領域を層方向に集合させて、鋳型を製造する手法がある。この手法では、それぞれの横断面領域は、鋳造砂とそのバインダーとして機能することになる多量の鉱物石膏を含有したプラスターとを含む粒状材料に、水性流体を供給するインク‐ジェットプリントヘッドを用いて形成される。この種の鋳型製造手法は、粉末固着積層法と称されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−528375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、石膏が1000℃程度の温度で加熱されると、石膏の主成分である硫酸カルシウムが熱分解され、亜硫酸ガスが発生する。したがって、引用文献1に開示されている技術に対して、融点が1000℃を超える材料(たとえば、高融点金属)を鋳物材料とした場合には、これに接した鋳型が過熱され亜硫酸ガスなどが発生する。この結果、鋳物に気泡巣などの欠陥が生じてしまう。したがって、現実的には、石膏を用いて製造された鋳型に対して使用可能な鋳物材料は限定的であった。
【0005】
そこで、本発明は、融点が1000℃を超えるような高融点金属でも注湯可能な粉末固着積層法における造形用材料、及び、それを用いて製造される造形製品(たとえば、鋳型)、さらには、当該造形製品を成形型として用いて製造された製品(たとえば、鋳物)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の粉末固着積層法における造形用材料は、骨材と当該骨材を結着させるバインダーの粉状前駆体とが混合されてなる、粉末固着積層法における造形用材料であって、前記骨材が70重量%以上であり、前記粉状前駆体がセメント又は耐熱性を有する樹脂である。
【0007】
すなわち、本発明によれば、石膏に代わる粉状前駆体を選択することによって、融点が1000℃を超えるような高融点金属などを注湯しても、その温度に耐えうる造形製品を製造することが可能となる。
【0008】
なお、本発明の造形用材料を用いて製造された造形製品(たとえば、鋳型)、さらには、当該造形製品を成形型として用いて製造された製品(たとえば、鋳物)も、本発明の権利範囲に含まれるものとする。
【0009】
また、本発明の機能剤は、骨材と当該骨材を相互に結着させるバインダーの粉状前駆体とが混合されてなる、粉末固着積層法における造形用材料とともに用いられ、前記粉状前駆体をバインダーに変質させるものである。
【0010】
この機能剤には、さらに、防腐剤、消泡剤、乾燥剤の少なくともいずれかを含めてもよい。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態の造形用材料及び機能剤は、粉末固着積層法を採用した、ラピッドプロトタイプの立体造形物製造装置に用いられるものである。立体造形物製造装置は、例えば、Zコーポレーション社のSpectrumZ310-3DPrinter、EX ONE社のPrometal-S15を用いることができる。
【0012】
1.造形用材料について
本実施形態の造形用材料は、粉末固着積層法において好適に用いることができるものである。この造形用材料は、平均径が10μm〜90μm以下の骨材を備える。骨材の平均径は、この範囲とすることが必須ではないが、この範囲内の大きさの骨材は、積層不良が生じにくいという利点がある。本実施形態の造形用材料を用いて鋳型を製造した場合には、骨材として鋳物砂を採用することが考えられるが、その平均径は、好ましくは、鋳肌の品質と溶融金属を注湯時に発生するガスの通気性とを考慮して、鋳物砂の平均径を20μm〜75μmとするとよい。
【0013】
鋳物砂は、成分の観点からすれば、天然鋳物砂であってもよいし、セラミックスなどの人工鋳物砂であってもよい。ただし、人工鋳物砂の方が、平均径の大きさにばらつきがなく、低熱膨張化、粉状前駆体の高充填性が得られるという点で好ましい。特に、人工鋳物砂は、真球形に近いので、下記の粉状前駆体との混合をさせやすいという効果がある。
【0014】
また、鋳物砂は、新砂のみならず、再生砂を用いることもできる。本実施形態において好適に用いられる鋳物砂は、市販品としては、ルナモス(花王クエーカー社製)、アルサンド(群栄ボーデン社製)、ナイガイセラビーズ(伊藤忠セラテック社製)、ジルコンサンド、クロマイトサンドなどを用いることができる。鋳物砂は、様々な粒径のものを用いると、石垣効果により下記の粉状前駆体と混合させ易いという効果があるので、粒径分布に広がりを持たせるとよく、このためには、混合砂を用いることも一法である。
【0015】
また、本実施形態の造形用材料は、耐熱性を有する粉状前駆体を備える。この粉状前駆体には、例えば、セメント、フラン、フェノール、アルキッドなどの樹脂を用いることができる。ここでいう耐熱性とは、鋳物の製造についていえば、鋳物材料を鋳型に注湯したときに、鋳物材料と鋳型との接触面で所要のシェルが形成されるという条件を満たすものをいう。したがって、必ずしも、粉状前駆体の融点が、1000℃を超える必要はない。
【0016】
なお、セメントの場合には、ブレーン比表面積値が大きいほど、セメントの粒径が小さく、水和反応が促進されやすいし、ブリージング量も減少する。また、ブレーン比表面積値が大きいほど、初期強度が大きい。したがって、本実施形態の場合には、ブレーン比表面積値が大きいほど好ましい。一例としては、ブレーン比表面積値は、2500cm/g以上のもの(ポルトランドセメントなど)、好ましくは、4000cm/g以上のもの(速硬セメントなど)、さらに好ましくは4500cm/g以上のもの(超速硬セメント)を用いればよい。
【0017】
さらに、造形用材料には、各種調整剤を混合させるとよい。調整剤としては、例えば、後述するように、造形用材料に対して機能剤を噴霧したときに、機能剤の余剰分がその噴霧すべき位置の周辺に染込むことを抑止するものが挙げられる。この種の調整剤を用いると、鋳型の解像度を向上させることができ、ひいては、鋳肌の高品質化を図ることができる。
【0018】
また、この種の調整剤を用いると、機能剤の余剰分の存在によって、溶融金属を注湯時に発生するガスを減少させることができるので、当該ガスによって鋳物に欠陥が生じることを防止することが可能となる。調整剤は、鋳物砂又は粉状前駆体の種別に応じたものを選択すればよい。
【0019】
例えば、粉状前駆体がセメントの場合には、機能剤本体として水を用いることになるが、この場合には、調整剤として、珪酸ソーダ、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、デキストリン、或いは、これらの混合物を配合することができる。これにより、機能剤本体であるところの水の余剰分が、珪酸ソーダ等に吸収されることになる。なお、鋳物砂の粒径の大きさに応じて、調整剤の配合割合を適宜選択すればよい。
【0020】
鋳物砂と粉状前駆体との混合割合を例示すると、本実施形態では、例えば、鋳物砂として人工鋳物砂を用い、粉状前駆体として止水セメントを用い、水分調整剤として珪酸ソーダを用いた場合には、これらを約70重量%:25重量%:5重量%で混合すればよい。ここで、一般的には、超速硬セメントが25重量%を超えると、止水セメント内の石膏成分によるガス欠陥が生じ易くなる。実際に、超速硬セメントとして住友大阪セメント社の「ライオン止水」という商品を用いた場合には、止水セメントが20重量%を超えると、止水セメント内の石膏成分によるガス欠陥が生じ易くなった。したがって、超速硬セメントの混合割合は、25重量%以下とするとよい。
【0021】
造形用材料の製造は限定的でなく、鋳物砂と粉状前駆体と調整剤とが十分に攪拌されさえすればよい。したがって、例えば、約100kgの造形用材料を製造する場合には、鋳物砂を約80kgと、粉状前駆体を約15kgと、調整剤を約5kg用意し、これらを攪拌器にセットして適宜攪拌すればよい。
【0022】
2.機能剤について
本実施形態の機能剤は、造形用材料の鋳物砂を相互に結着させるように、粉状前駆体をバインダーに変質させるものであればよい。したがって、機能剤は、例えば、粉状前駆体としてセメントを用いる場合には水を含むもの、樹脂を用いる場合には当該樹脂を硬化させるもの(例えば、水系樹脂硬化剤)とすることができる。もっとも、樹脂を用いた場合には、ノズルからの水系樹脂硬化剤等の噴霧に代えて、樹脂硬化用のエネルギー(例えば、熱又は紫外線)を付加してもよい。
【0023】
ここで、粉状前駆体としてセメントを用いる場合には、原理的には、水のみをバインダーとすればよいが、水とその噴霧手段(ノズルヘッド)との間の摩擦により、当該噴霧手段が発熱することがある。粉状前駆体としてセラミックス等を用いる場合も同様である。さらに、粉状前駆体としてセラミックス等を用いる場合には、ノズルヘッドの目詰まりを抑止する必要もある。そこで、この発熱に対応すべく、機能剤には、温度上昇を抑止する抑止剤及び/又は機能剤本体の表面張力を調整する界面活性剤を混合するとよい。
【0024】
機能剤本体に対する抑止剤等の混合割合は、例えば、粉状前駆体としてセメントを用いる場合であって、噴霧手段としてヒューレット・パッカード社のカートリッジHp11を用いる場合には、機能剤本体である水が90容量%〜95容量%(例えば94容量%)、抑止剤としてのグリセリンを4容量%〜10容量%(例えば5容量%)、界面活性剤を1容量%〜2容量%(例えば1容量%)とすればよい。さらに、このバインダーには、保存性、作業性などを考慮して、選択的に、防腐剤、消泡剤、乾燥剤などを含めてもよい。
【0025】
以上説明したように、本実施形態では、石膏に代わる粉状前駆体を選択して、粉末固着積層法における造形用材料を構成している。このため、融点が1000℃を超えるような高融点金属を注湯しても、その温度に耐えうる鋳型を得ることが可能となる。
【0026】
本実施形態では、主として、鋳型を製造する場合を例に説明したが、鋳型のみならず他の成形型、例えば、樹脂系、ガラス系、又は、ゴム系などの流動硬化性材料を使用した成形型を製造することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材と当該骨材を結着させるバインダーの粉状前駆体とが混合されてなる、粉末固着積層法における造形用材料であって、
前記骨材が70重量%以上であり、
前記粉状前駆体がセメント又は耐熱性を有する樹脂である造形用材料。
【請求項2】
骨材と当該骨材を相互に結着させるバインダーの粉状前駆体とが混合されてなる、粉末固着積層法における造形用材料とともに用いられ、前記粉状前駆体をバインダーに変質させる機能剤。
【請求項3】
さらに、防腐剤、消泡剤、乾燥剤の少なくともいずれかを含む、請求項2記載の機能剤。
【請求項4】
請求項1記載の造形用材料を用いて製造された造形製品。
【請求項5】
請求項4記載の造形製品を成形型として用いて製造された製品。

【公開番号】特開2010−110802(P2010−110802A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287467(P2008−287467)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(506118412)有限会社小松鋳型製作所 (5)
【出願人】(508334694)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【Fターム(参考)】