説明

造影剤でコーティングされた医療機器

磁気非透過性の医療機器が開示される。この医療機器では、実際の機器内に造影剤が組込まれる。医療機器は一般に、当該機器の構造を形成する基材と、トコフェロールおよびトコフェロール誘導体の溶液または懸濁液、ガドリニウム、または硫酸ニッケル等の造影剤とを含み、当該造影剤は、当該基材自体に一体化されるか、または、当該機器の外表の実質的部分の上に配設される。当該機器は、他のさらに別の機能性の薬剤および層を含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
技術分野
この発明は一般に、医療機器に関し、より特定的には、磁気非透過性であって、ヒトの患者または獣医学上の患者に少なくとも部分的に植込可能な医療機器に関する。好ましい実施例において、この発明は、カテーテル、カニューレ、および他の医療機器であって、磁気非透過性の造影剤が当該機器の本体の実質的部分に沿って組込まれた医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
背景の情報
ヒトの患者または獣医学上の患者における食道、気管、結腸、胆道、尿道、脈管系、または他の場所に、植込可能な医療機器を部分的または完全に導入することにより、さまざまな病状を治療することが一般的になっている。たとえば、脈管系の多くの治療は、ステント、カテーテル、バルーン、ワイヤガイド、コイル、カニューレ等の機器の導入を伴う。使用される機器は、血管開通の維持、身体の一部へのアクセス、または治療剤の導入等のさまざまな目的を果たし得る。しかしながら、これらの機器を植込むと損傷を与える可能性がある。考え得る損傷の例には、誘導中における管壁への妨害または創傷、管における血塊形成、血栓症、狭窄症、または閉塞の発生、および、感染の一般的なリスクが含まれる。感染は、医療機器内に抗生物質を組込むこと、たとえば、浸透性の層で被覆した機器に抗生物質の粉末を埋込むことにより、コントロールされてきた。このような場合、抗生物質の送出は、機器から浸透性の層を経由した周辺組織内への分散により、行なわれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
医療業界は、より多くの患者に対し、新規の態様で、植込可能な機器を一層使用するようになっている。これらの機器は、手術における重要な部分となっている。なぜなら、これらの機器が、切開および侵入を体腔に限定するだけでなく、治療剤用の内蔵型送出システムをしばしば有しているためである。広範囲の治療剤が使用され得、これらの治療剤には、抗生物質、制癌薬、化学療法薬、多数の疾患特異的な薬、遺伝物質、移植用に導入される生細胞、および他の生物学的治療剤が含まれる。それらの広範囲な使用のため、植込まれている間および/または植込中に機器の画像を取得する機能が不可欠である。撮像により、機器の位置の厳密な特定だけでなく、生物組織と医療機器との間の相互作用の視覚化が容易になる。植込可能な機器を用いたこれまでの外科的処置はしばしば、当該医療機器の周辺領域を視覚化するためのカメラまたはスコープを採用してきたが、このような手法は侵襲性であり、組織の裂傷または損傷の可能性を増大させる。
【0004】
X線および他の放射線画像技術が一般的である一方で、磁気ベースの撮像が、より一般的で好まれるものとなった。磁気共鳴撮像法(Magnetic Resonance Imaging(MRI))および脳磁計(Magnetoencephalagraphic(MEG))スキャンは、一般的な磁気ベースの撮像処置の2つである。MRIは、生体物質の磁気共鳴を検出することにより、骨、血管、および他の生体組織を撮像するための、頻繁に使用されるモダリティである。MRIは、着脱可能に位置付けられた機器の周辺の組織を検出することができても、一般に使用される、磁気半透明の機器を認識することができない。
【0005】
医療機器がこのように半透明であるため、対象となる臓器の構造、組織、および細胞集
合を基準とした、当該医療機器の場所を特定することが難しくなる。使用中における医療機器の視覚化は、多数の理由により貴重である。この多数の理由には、機器の領域における薬の送出の効力を監視および評価できること、機器の動きを追跡できること、または、その処置に対して精度が重要であるときに、機器の相対位置を正確に特定し得ることが含まれる。
【0006】
診断における撮像処理のこのような問題を克服するために、いくつかの技術が使用されてきた。一般に、MRIにとって視認可能な身体の上または内部の特定の地点を示すために、磁気非透過性の標識機器または基準マーカが使用される。磁気非透過性の基準マーカは、解剖上固有の内部マーカか、または、身体に一時的に添付される外部の位置的マーカのいずれかであり、いずれも基準点を生じる。外部の基準マーカは一般に、磁気非透過性の物質もしくは造影剤からなるか、または、当該磁気非透過性の物質もしくは造影剤を組込む。造影剤は、誘発され得ることにより磁気撮像において視覚化され得る認識可能な磁気共鳴または磁気モーメントを有するさまざまな材料である。一般的な造影剤は、砒素、ガドリニウム、トコフェロール(ビタミンE)およびその誘導体の溶液または懸濁液、金属イオン、塩、または硫酸ニッケル(NiSO4)等のキレートを特に含む。たとえば、ビタミンEの錠剤を身体の外部のさまざまな地点上に配置して、撮像中にその地点を示すことができ、解剖学的情報および機能上の情報のいずれをも生じる。マーカは基準点としてしばしば使用され得るが、身体の多くの領域は、適切な内部基準マーカも、造影剤を含有する外部マーカを位置付けるための適切な箇所も含まない。
【0007】
機器を視覚化または追跡するために、医療業界は、機器内に磁気非透過性の部分を組込むか、または、基準点としてのみ使用される第2の器具を使用してきた。
【0008】
MRIによる視認性が高められた機器の例には、磁気非透過性かつ常磁性の器具チップ、または、当該器具に取付けられた、MRIによる視認可能なマイクロコイル機器が含まれる。このような機器は、機器全体のうち不連続な部分を視認可能にするに過ぎず、嵩だかいことが考えられ、医療機器に効率よく組込むことが難しいことが考えられる。別の機器は、米国特許第5,897,536号に示されるように、カテーテルの2つの同軸の管腔間の空隙に、造影剤を含有する流体を組込んでおり、この主な目的は、液体を導入または除去することによりカテーテルを可変に加圧し得ることである。しかしながら、造影剤を含む流体は、機器のより高い剛性が所望されるときにのみ導入される。さらに、開示される機器は、加圧に十分な流体の空隙を生じるには直径が大きい。米国特許第6,056,700号に記載の医療機器は、生体組織検査を行ない、その後、生体組織検査の部位に磁気非透過性のマーカを残すことができ、それにより、生体組織検査の位置そのものを再度正確に見つけることができる。この機器はMRIの案内による処置を補助せず、今後の参照に備えて内部マーカを残すに過ぎない。別の医療機器は、カテーテルまたはガイドワイヤ上に磁気非透過性のジスプロシウム酸化物リングを適用することにより、MRIにより部分的に視認可能となる。これらのリングは機器の或る一定の間隔で配置されるに過ぎず、機器の直径を増大させ得る。
【0009】
マーカまたは基準点を提供するためだけに、完全に別個の医療機器が使用されてきた。たとえば、米国特許第6,628,982号は、MRIによる検出が可能な材料を含む別個の装置を開示する。別個の機器は、周辺組織に対して機能上の処置を行なうのとは対照的に、通常視認不可能な器官または生物学的物質を撮像するという理由だけで、それらの内部に挿入され得る。カテーテルおよびステント等の医療機器の他に別個の標識機器を使用することもできるが、患者に侵入する器具の嵩が増大することで、外傷、裂傷、および感染の可能性が増大する。
【0010】
医療機器の実質的な部分の全体にわたり磁気非透過性の物質を組込んだ医療機器を製造
することが望ましい。機器は、同様の磁気半透過性の機器よりも著しく大きくないことが望ましい。また、機能的な医療機器の上または内部に造影剤を配置することにより、処置の間に使用される機器の数を最小限にすることが望ましい。また、少なくとも部分的に植込まれている間に、医療機器のわずか一地点または一領域ではなく、当該機器の大部分を視覚化できることが望ましい。また、その行程、場所、および使用が磁気撮像のモダリティによって視覚的に追跡され得るように、最小サイズの磁気非透過性の機器を使用することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
概要
この発明は、医療機器の一部および/または領域に沿って造影剤を組込んだ医療機器を提供する。この発明の一実施例において、患者に少なくとも部分的に植込むための医療機器は、基材と、当該基材の表面をコーティングまたは被覆することのできる造影剤とを含む。この発明の別の実施例において、造影剤は、機器を規定する基材に直接組込まれる。
【0012】
さらに別の実施例において、医療機器は、少なくとも基材を含む複数の層と、造影剤の層とから構成される。さらに別の層は、治療剤、コーティング剤、潤滑剤、抗菌剤、生物剤、多孔質コーティング、非多孔質コーティング、または多数の他の適切な薬剤の任意の数の組合せを含み得る。
【0013】
この発明の別の実施例は、医療機器の実質的な部分に沿って造影剤が組込まれた医療機器を製造する方法である。一実施例において、この発明は、医療機器を規定する基材の部材と、当該基材に関連付けられる造影剤とを形成するステップを含む。当該基材と当該造影剤との一体化は、機器の形成前か、または、基材の表面を造影剤でコーティングする前に、造影剤と基材とを混ぜ合わせるステップを含み得る。造影剤のコーティングは、浸漬、噴霧、蒸着技術、プラズマ堆積、気相堆積、または液浸を含む多数の方法により施され得る。さらに別のステップは、治療剤、潤滑剤、または他のコーティングを含むさらに別の層を機器に適用するステップと、適用したコーティングを後に硬化させる任意のステップとを含み得る。
【0014】
この発明を実施する多くの態様が存在し、それらのいくつかを以下の明細書に示す。以下に示す実施例は、この発明を限定することを意図せず、この発明が使用され得る多くの態様を記述および例示することを意図する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
現時点で好ましい実施例
この発明は、医療機器の一部に沿ったコーティングであるか、医療機器の一部に沿って組込まれている、磁気非透過性の造影剤を有する医療機器に向けられており、身体または周辺組織を基準とした当該機器の撮像を可能にする。造影剤は、撮像中に医療機器の実質的な部分を線描するために、通常の磁気半透過性の医療機器に付着させることができる。
【0016】
この発明に関し、多数の造影剤が適切であり、これらの造影剤は、認識可能な磁気共鳴または磁気モーメントを有する任意の化合物を含む。したがって、当該機器が少なくとも部分的に植込まれた一般的な解剖学的領域の撮像中に、当該機器に含有される造影剤が誘導され得、当該機器の部分が磁気撮像において視覚化される。適切な造影剤には、ガドリニウム、トコフェノールの溶液または懸濁液、トコフェノール誘導体の溶液または懸濁液(一般にビタミンEと称する)、金属イオン、塩、または硫酸ニッケル(NiSO4)等のキレートが特に含まれる。造影剤の選択は、造影剤が組込まれる方法、造影剤と組織との接触の見込み、および当該医療機器の種類または目的に依存する。たとえば、ビタミンEは抗酸化剤および造影剤の両方として機能し得る。一般に造影剤は、MRIにより視認
可能な任意の常磁性化合物であり得、当該機器を周辺組織と区別することを可能にする。ヒトの組織と接触した造影剤は通常、代謝または排出される前に身体全体に拡散する。
【0017】
造影剤は好ましくは、機器の実質的な部分に沿って組込まれる。造影剤は、治療剤を医療機器に組込むために一般に使用される方法等の、通常使用されるいくつかの方法により機器内に組込まれ得る。以下に論じるように、造影剤は、たとえば噴霧、浸漬、コーティング、部材の基材内における分散、バルク分布、または任意の所望の方法により、医療機器の少なくとも1つの表面に塗布され得る。実際に、使用中に磁気的に視認可能な造影剤を医療機器の内部または上に組込む任意の技術が適している。ほとんどの基材、治療剤、または他のコーティングが磁気半透過性であるため、この発明は、当該機器を磁気非透過性にし、それにより、当該機器は使用中に視認可能となる。たとえば、機器の実質的部分をビタミンEまたは多数の他の造影剤でコーティングして、このようにコーティングされた機器のあらゆる部分の視覚化を可能にすることができる。
【0018】
この発明は、インターベンショナルMRIの間に患者に少なくとも部分的に植込まれる任意の医療機器と共に使用するのに適する。この発明はまた、部分的または全体的に植込まれる任意の医療機器の挿入中、挿入後、または除去中のいずれかに磁気撮像が望ましい場合に、当該医療機器と共に使用するのにも適する。医療機器の挿入後における磁気撮像は、患者の内部に永続的に位置付けられた機器を含み得る。この発明に従って製造され得る機器の種類の例には、ステント、カテーテル、カニューレ、ワイヤガイド、バルーン、および袋が含まれる。ステント構造は、脈管系だけでなく他の系、および、食道、気管、結腸、胆管、尿道、輸尿管等の部位において特に使用され得る。この機器は代替的に、さまざまな従来のステントおよび他の付属物、たとえば弦巻状の撚線、有孔円筒等を含む任意の従来の脈管機器または他の医療機器であり得る。さらに、この機器が部分的にのみ植込まれる場合、患者内に実際に位置付けられる当該機器の部分のみが造影剤で処理されるか、またはその影響を受ける必要がある。
【0019】
この発明に従った医療機器は、身体の中に完全に植込まれるか、または身体の中に部分的にのみ植込まれ得る。しかしながら各場合において、機器の少なくとも一部は皮下空間内に留まる。好ましい一実施例において、医療機器は、皮膚を横切って、表皮、真皮、および皮下層を経由して管に至る。たとえば、装置の遠端を管に直接挿入することにより、または、当該遠端を当該管に取付けること、たとえば合流により、当該管と機器の管腔との間に界面が形成され得る。当該機器が経皮的に植込まれるため、この実施例の機器は、身体の外に留まる部分を含む。この体外の部分は、管と連通する管腔への所望のアクセスを提供し、したがって管は、皮膚をさらに破壊することなくアクセスされ得る。
【0020】
当該医療機器は、ヒトの患者または獣医学上の患者に少なくとも部分的に導入されるように適合され、かつ、磁気撮像技術にとって視認可能な構造を含む。適合されるとは、この構造がこのような導入のために形作られかつサイズ決定されることを意味する。一般に、この発明に従った医療機器は好ましくは、いくつかの層状材料を含む。好ましい一実施例において、基材は機器の主構造を形成し、この主構造に対し、所望の造影剤が塗布されるか、または組込まれる。さらに別の治療剤、潤滑剤、または他の一般的なコーティングもまた、基材に塗布され得る。好ましい一実施例において、ビタミンE(トコフェロール)溶液、懸濁液、またはそれらの誘導体、従来の希薄ガドリニウム、または硫酸ニッケル(NiSO4)等の造影剤が、当該機器の少なくとも1つの層に関連付けられる。
【0021】
医療機器の基材は、多数の従来の材料の1つであり得、医療機器内での使用が容認され得る、すなわち生体適合性であって、かつ、機器の意図される用途に対して容認され得るものでありさえすればよい。しかしながら、患者から適宜分離されるならば、細胞傷害性の基材または他の有毒な基材が使用され得る場合がある。好ましくは、材料は、当該材料
に関連付けられた少なくとも1つの造影剤を有し得る。選択される材料は、機器の意図された用途、機器で使用される造影剤および/または治療剤、材料が当該材料に関連付けられた1つ以上の薬剤を有し得ること、および材料の浸透性(permeability)を含むいくつかの因子に依存する。
【0022】
適切な基材の例には、医療機器用の材料、たとえば重合体、共重合体、プラスチック、および金属が含まれる。基材は、その上方に適用されるべき重合体の層の可撓性または弾性に依存して、弾性または非弾性のいずれかであり得る。基材は、生体分解性または生体非分解性のいずれかであり得、さまざまな生体分解性の重合体が公知である。さらに、いくつかの生物剤は、基材として機能するのに十分な強度を有する。したがって基材は、シリコーン、炭素または炭素繊維、酢酸セルロース、硝酸セルロース、シリコーン、ポリエチレンテレフタラート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、またはポリテトラフルオロエチレンのうちの少なくとも1つを含み得る。代替的な基材は、生体適合性の高分子材料または共重合体の混合物、たとえばポリ乳酸、ポリグリコール酸、またはその共重合体、ポリアンヒドリド、ポリカプロラクトン、吉草酸ポリヒドロキシブチラートを含み得る。加えて基材は、生体分解性の重合体または共重合体の混合物、たとえばタンパク質、細胞外基質成分、コラーゲン、フィブリン、または別の生物剤を含み得る。最後に、基材は、上記の材料の任意の適切な組合せであり得る。
【0023】
シリコーンは、この発明に従った機器の植込可能な部分の1つまたはすべてにおいて使用するのに好ましい基材である。シリコーンは、いくつかの理由により好ましい。それらの理由には、さまざまな医療機器における広範な使用、公知の生体適合性、薬剤のさまざまなサイズ、形状、および種類に対する浸透性、ならびに、コーティング、バルク分布、およびこれらの手法の組合せによる薬剤との関連可能性が含まれる。またシリコーンは、粉末形態を含む種々の形態で、種々の商業的供給源から容易に利用することができ、当該粉末形態は、バルク分布方法において容易に使用され得る。
【0024】
医療機器の断面形状は、当該機器が使用される処置の種類に適した任意の形状であり得る。機器がカニューレを含む実施例では、円形の断面形状が特に好ましい。円形の断面形状は、カニューレの管腔内の空間を最大にしながら、身体の管との界面をなすための適切な形状も提供する。さらに医療機器は、任意の適切な構成の管腔を有し得、選択された構成は、機器が使用される使途に依存する。単一の管腔または多数の管腔の構成を使用することができる。
【0025】
造影剤は、医療機器の基材に塗布されるか、または基材に組込まれ得る。このことは、いくつかの態様で、いくつかの方法により、多数の順序で行なわれ得る。たとえば造影剤は、たとえば噴霧、浸漬、コーティング、バルク分布、または他の一般的な塗布技術のいずれかにより、選択された基材と混和され得、または、基材の外表に塗布され得る。さらに、治療剤、潤滑剤、および多孔質の層または非多孔質の層等のさらに別の1つ以上のコーティングを、造影剤の下方または上部に塗布するか、または、造影剤の内部に混合することができ、または、造影剤をさらに別の層のいずれかの中に同様に組込むこともできる。造影剤の組込は、薬剤が周辺の生物組織と接触することを制限または阻止し得るが、そうである必要はない。造影剤の組込み方に依存して、ビタミンE等の薬剤は、組織に暴露する点で実に安全であり、有益ですらあり得る。ビタミンEのコーティングはさらに、抗酸化剤として作用することを助け、免疫機能を助ける働きをし得る。しかしながら、このような分散は撮像を妨害し得る。なぜなら、造影剤が組織内にも存在することになるためである。機器の使用時間の所望される長さ、必要とされる撮像の長さ、および処置の一般的な目的に基づき、造影剤が分散しないように、造影剤が分散するように、または、造影
剤がゆっくりと分散するように、造影剤を組込むことができる。
【0026】
好ましい一実施例において、造影剤は構造の基材の真上に配設される。造影剤は、機器の表面に、好ましくは患者内に挿入されるべき部分の上方に、均一に噴霧されるか、ディップコートされるか、または適切な溶剤に投入して塗布され得る。このような場合、基材に表面処理または表面活性化を行なって、基材上への造影剤の堆積または付着を促進することが極めて有利であり得る。このような表面改質は、以下のものに限定されないが、イソプロピルアルコールを用いた機器表面の洗浄、TDMACコーティングおよび/または塩(たとえば重炭酸ナトリウムまたは塩化ナトリウム)を用いたグリッドブラスチング、ガラス玉、酸化アルミニウム、もしくは胡桃の殻の適用、エッチング、穿孔、切断、研摩、または溶剤処理等の化学的改質、粗面コーティングの適用、界面活性剤の塗布、プラズマ処理、イオン衝撃、および共有結合を含む。この工程は、容易に脱落また剥離することなく表面に塗布され得る造影剤の量、および使用されている造影剤の粘度に依存する。たとえばビタミンEは、ビタミンEアセテートとして液体ゲルタイプの粘度で使用され得、または、大豆油およびヤシ油と組合せて使用され得る。またビタミンEは、200I.U.と1000I.U.を上回る量との間でd−a(di-alpha)酢酸トコフェロールの形態のソフトゲルとして利用可能である。
【0027】
好ましい一実施例において、造影剤の層は、構造の総表面積の1cmにつき、好ましくは約0.01mgから約10mg、より好ましくは約0.1mgから約4mgの造影剤を含む。すなわち、コーティング厚さの0.001インチにつき約100ugから約300ugの薬が機器表面に含まれ得る。
【0028】
好ましい別の一実施例において、造影剤は、基材により形成される機器自体の形状に一体化された窪み、溝、または他の適切な流路形成部内に注入または包含され得る。このような一実施例では、機器の全体的な形状、外形、長さ、または他の実質的部分が磁気非透過性である限り、任意のパターン、長さ、または幅の窪みまたは溝が適切である。機器のうちどの程度の部分が磁気的に視認可能であるか、または、機器のどの部分が磁気的に視認可能であるかは、機器の種類と、その意図される目的とに基づいて異なり得る。
【0029】
代替的に、別の好ましい実施例では、造影剤が基材に混和されている。適切な造影剤が適切な基材に含まれ得、それにより、焼入れ、硬化、押出、または他の手法により基材が医療機器へと形成される際に、造影剤が当該機器の本体全体の中に必ず存在するようにする。このような造影剤の組込みにより、当該医療機器は、磁気のモダリティにより撮像される際に明瞭に線描される。なぜなら、薬剤が機器自体に付随しているためである。
【0030】
さらに別の実施例において、医療機器は2つの同軸の管腔を含み、これらの管腔は、両者の間に環状の空間を生じて造影剤を収容する。この環状の空間は、機器が視認可能となるように十分な量の造影剤を収容するだけの大きさであればよい。このような場合、管腔は、多孔質材料または非多孔質材料のいずれかで形成され得る。所望される場合、管腔のいずれかの端部に封止剤を配置して、形成された環状の空間を封鎖し、当該空間から周辺組織への造影剤の拡散を防止または阻止することができる。
【0031】
別の好ましい実施例では、基材および造影剤に加え、少なくとも1つのさらに別の層またはコーティングが機器に適用される。さらに別の層は、機能的であることが多く、医療機器の挿入、使用、制御、および構造を補佐し得る。このような機能層は、上で論じた治療層に加え、単純なコーティングまたはプライマー、潤滑剤、多孔質の拡散制御層、または封鎖を行なう非多孔質の層を特に含み得る。さらに別の層またはコーティングは、上記の多数の態様で機器に適用され得る。一般に、機器への溶液の塗布は、当該溶液を機器上に噴霧するか、または、機器を当該溶液に浸すことにより、行われ得る。液漬による塗布
または噴霧による塗布のいずれを選択するかは主に、溶液の粘度および表面張力に依存するが、エアブラシにより利用可能な噴霧等の微細噴霧における噴霧が、コーティングに最高の均質性を提供し、機器に塗布されるべきコーティング材料の量に対する最良の制御を提供することが分かっている。噴霧または液浸のいずれかにより塗布されるコーティングでは、コーティングの均質性を改善するため、および、機器に塗布されるべき造影剤の量に対する制御を改善するために、多数の塗布のステップが一般に望ましい。表面処理を再び使用して、存在する場合は、さらに別のコーティング層の堆積または付着を促すことができる。
【0032】
使用されるコーティングは一般に、紫外線(UV)硬化可能か、放射線硬化可能か、光反応性か、光により固定化されるか(photo-immobilizing)、または、他の態様で硬化可能である。コーティングの調製後に適切な溶液を調製して、所望の医療機器に塗布することができる。次に、このコーティングは、適切な放射線または光エネルギ、たとえばUVランプか、または適切な光開始活動の他の源に曝露することにより、硬化され得る。
【0033】
機器に層またはコーティングを適用する他の方法は、気相堆積およびプラズマ堆積である。好ましくは層は、任意の溶剤、触媒、または同様の重合助触媒を含まない蒸気から重合された層である。また好ましくは、コーティング層内の重合体は、硬化剤の作用、または、加熱、可視光もしくは紫外光、放射線、超音波等の適用等の活動を伴わなくても、気相から濃縮されると自動的に重合する重合体である。さらに別の技術では、機器に重合体溶液を塗布して溶媒を蒸発させ、それにより、重合体のコーティングおよび他の任意の組込まれた薬剤を機器の表面に残すことができる。
【0034】
例示的な一実施例では、造影剤が基材に組込まれるか、または基材に取付けられる前または後に、医療機器上に少なくとも1つの非多孔質の層を配設する。たとえば非多孔質の層を、造影剤が注入された基材の上方に適用するか、造影剤の塗布前に基材の上方に適用するか、または、造影剤の層の上方に適用して、造影剤が周辺組織内に放散することを抑制することができる。非多孔質の層は、当該非多孔質の層のいずれかの側の2つの層間における大きな相互作用を防止するのに十分に不透質でありさえすればよく、当該非多孔質の層は、基材、周辺組織または血液、治療剤または他のコーティングを含み得る。非多孔質の層は、所望であれば、影響を受けた組織と機器との間の識別を困難にする、造影剤の組織内への拡散を生じにくくするように、造影剤と生物材料との間に障壁を設けることができる。
【0035】
非多孔質のコーティング材料は、パリレン誘導体を含み得る。この発明の好ましい一実施例において、非多孔質の層は、50から500,000オングストローム(Å)の範囲の厚さ、より好ましくは100,000から500,000Åの範囲の厚さ、そして例示的には約200,000Åの厚さを有し得る。この発明のさらに別の局面において、コーティング層は、造影剤を取付ける吸着性の層および/または吸収性の層と考えることができる。
【0036】
好ましい一実施例において、パリレンの付着促進コーティング層は、たとえば0.5から5,000Å、好ましくは2から50Åの範囲の厚さを有するシランの薄い層である。適切な調製後に、医療機器をシランに浸漬して、基材の外表にシランの極めて薄い層を適用する。所望であれば、その後、さらに別の薬剤をコーティング層の表面に取付けることができる。さまざまな薬剤およびコーティング材料の連続した配設は、所望通りに行なわれ得る。多数の薬剤を医療機器の内部に、または医療機器の外部上の不連続な場所上に配置することができ、または、薬剤を共に配合して、医療機器の内部または表面上に均一に分布させることができる。
【0037】
非多孔質のコーティング層の使用は、上記のとおり、有害または有毒な基材の使用を容認し得る。しかしながら、たとえ構造の基材が生体適合性であっても、基材により規定された管腔の表面のコーティングを含む、実質的に非多孔質のコーティング層の使用により、当該基材を血液から分離することが有利であると考えられる。
【0038】
したがってこの発明は、造影剤と、治療剤または潤滑剤等の少なくとも1つの他の機能性コーティングとの両方を組込む医療機器を含み得る。開示される当該機器の特定の構造は、さまざまな態様で特定の用途に適合され得る。たとえば、当該機器は、同一のまたは異なる機能性薬剤のさらに別の層、たとえば、その上に造影剤、非多孔質の層、治療剤、および多孔質の層をこの順で配設した基材等を含み得る。開示される当該機器の特定の構造は、さまざまな態様において特定の用途に適合され得る。当該機器の層化構造の数、順序、および組成は、層自体の機能、たとえば、層自体が分散されるべきか否か、当該層が他の層の混合を防止するように意図されているか否か、当該層が拡散速度を制御するように意図されているか否か、または、当該層が何らかの他の態様で補助を行なうか否かに依存する。
【0039】
このような層化はまた、特定の処置の所望の用途、結果、および必要性にも依存する。考慮事項には、医療機器の目的、植込の程度、所望されるサイズの最小化、および、医療機器が使用されるべき物理的領域が含まれる。上記の多数の組合せが可能である。さらに別の任意のコーティング層自体を同様に処理して、生体に作用する材料層の堆積または付着を促進することができる。
【0040】
造影剤でコーティングされた医療機器のさまざまな要素の構成または組成の詳細において他に開示されていないものは、開示される通りに機能することが必要とされる磁気非透過性を要素が有する限り、この発明の利点の達成に重要であるとは考えられない。構成のこのような詳細の選択は、この開示を考慮することにより、この分野での十分に基本的な技量の1つにおける能力の中に十分に収まること、ならびに、この発明の精神および請求項の範囲内に収まるものと考えられる。したがって、上記の詳細な説明は、限定よりも例示と考えるべきであり、この発明の精神および範囲を規定するように意図されるものが、すべての等価物を含む前掲の請求項であることを理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植込可能な医療機器であって、
患者内に導入するための構造を備え、前記構造は少なくとも1つの表面を有し、前記植込可能な医療機器はさらに、
前記構造の少なくとも1つの表面上に配設される少なくとも1つの層を備え、前記層は造影剤を含む、植込可能な医療機器。
【請求項2】
前記造影剤は、浸漬、噴霧、バルク分布、プラズマ堆積、または気相堆積の1つにより前記構造に塗布される、請求項1に記載の植込可能な医療機器。
【請求項3】
前記造影剤の層の上部に配設される治療剤をさらに備える、請求項1または2に記載の植込可能な医療機器。
【請求項4】
患者内に植込むための構造を備え、前記構造は複数の層を有し、前記複数の層は、基部構造の層と造影剤の層とを少なくとも含む、植込可能な医療機器。
【請求項5】
前記基部構造と前記造影剤の層との間にコーティング層が配設される、請求項1、2、3、または4のいずれか1つに記載の植込可能な医療機器。
【請求項6】
前記造影剤の層の上方に非多孔質の層が配設される、請求項1、2、3、4、または5のいずれか1つに記載の植込可能な医療機器。
【請求項7】
前記複数の層の1つは治療剤を組込む、請求項4、5または6のいずれか1つに記載の植込可能な医療機器。
【請求項8】
前記造影剤の層の上方に非多孔質の層、治療剤の層、および多孔質の層が配設される、請求項1、2、3、4、5、6、または7のいずれか1つに記載の植込可能な医療機器。
【請求項9】
植込可能な医療機器であって、
患者内に植込むための構造を形成する基材と、前記基材に混入される造影剤とを備える、植込可能な医療機器。
【請求項10】
前記基材の表面上に配設される非多孔質のコーティング層をさらに備える、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、または9のいずれか1つに記載の植込可能な医療機器。
【請求項11】
前記基部構造は、シリコーンまたはシリコーン誘導体を含む、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10のいずれか1つに記載の植込可能な医療機器。
【請求項12】
植込可能な医療機器であって、患者内への植込のための構造を備え、前記構造は基材で構成され、前記植込可能な医療機器はさらに、
前記基材に塗布される複数のコーティング層を備え、前記複数のコーティング層の1つは、造影剤と、治療剤、潤滑剤、多孔質のコーティング、非多孔質のコーティング、または抗菌剤の少なくとも1つを含む少なくとも1つの層とを含む、植込可能な医療機器。
【請求項13】
前記複数の層の少なくとも1つは放射線硬化可能である、請求項4、5、6、7、8、または12のいずれか1つに記載の植込可能な医療。
【請求項14】
前記造影剤は、トコフェロール、トコフェロール誘導体の溶液または懸濁液、ガドリニウム、または硫酸ニッケルの1つである、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、
10、11、12、または13のいずれか1つに記載の植込可能な医療機器。
【請求項15】
医療機器を製造する方法であって、
基材から機器の部材を形成するステップと、
前記部材の少なくとも外表を造影剤でコーティングするステップとを含む、方法。
【請求項16】
前記造影剤の上部に少なくとも1つの層を配設するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記部材の少なくとも外表を治療剤でコーティングするステップをさらに含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
医療機器を製造する方法であって、
基材と造影剤とを共に混合して磁気的に視認可能な混合物を製造するステップと、
前記磁気的に視認可能な混合物からほぼ筒状の部材を形成するステップとを含む、方法。
【請求項19】
前記造影剤は、トコフェロール、トコフェロール誘導体の溶液または懸濁液、ガドリニウム、または硫酸ニッケルの1つである、請求項15、16、17、または18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
治療剤、潤滑剤、多孔質のコーティング、非多孔質のコーティング、または抗菌剤の少なくとも1つで前記機器の部材をコーティングするステップをさらに含む、請求項15、16、17、18、または19のいずれか1つに記載の方法。
【請求項21】
基材から機器の部材を形成するステップと、前記部材の少なくとも外表を造影剤でコーティングするステップとを含む、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、12、13、または14のいずれか1つに記載の医療機器を製造する方法。
【請求項22】
基材と造影剤とを共に混合して磁気的に視認可能な混合物を製造するステップと、前記磁気的に視認可能な混合物からほぼ筒状の部材を形成するステップとを含む、請求項9、10または11のいずれか1つに記載の医療機器を製造する方法。
【請求項23】
造影剤は、医療機器が磁気撮像を用いて視認可能となるように前記医療機器と関連付けられる、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または13のいずれか1つに記載の、医療機器の作成における造影剤の使用。

【公表番号】特表2008−522747(P2008−522747A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545611(P2007−545611)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/044370
【国際公開番号】WO2006/063106
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(506118906)クック・インコーポレイテッド (57)
【氏名又は名称原語表記】COOK INCORPORATED
【Fターム(参考)】