説明

造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の製造方法

個体の造血組織からPCLP1陽性細胞を分離し、得られた細胞を培養する工程を含む、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の製造方法が提供された。個体の造血組織から得られるPCLP1陽性の細胞は、長期にわたって培養が可能で、培養中に大量の造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞を生成する。本発明によって得ることができる造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞は、再生医療に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の分離と、その利用に関する。
【背景技術】
哺乳類の発生過程において、造血はマウスでは胎生7.5日頃、ヒトでは胎生3週頃に胚体外の卵黄嚢で一過性の胎児型造血が始まり、主に有核の胎児型赤血球が産生される。その後、マウスでは10.5日頃、ヒトでは胎生5週頃に胚体内のAGM領域(大動脈・生殖隆起・中腎Aorta−Gonad−Mesonephros)で成体型造血幹細胞が形成される。この成体型造血幹細胞は肝臓へ移行し、ここで赤血球、リンパ球、血小板等の多様な血球を産生する。マウス胎児肝臓は、消化器官としての成熟が進む一方で、胎児期全体を通じて主要な造血器官として機能する。出生後の個体では肝臓は造血組織としての機能を失って、消化器官として成熟し、主要な造血組織は骨髄へと移行する。ヒトでは、胎生12週から24週の間に肝臓での造血が見られ、その後骨髄へと造血の場が移行する。
東京大学宮島篤教授らは、成体型造血が発生するとされているAGM領域において血液細胞と血管内皮細胞の共通の祖先であるヘマンジオブラストの存在を明らかにし、マウスAGM領域よりヘマンジオブラストの単離あるいは培養方法を確立した。本技術によって得られるヘマンジオブラストは適切なサイトカインを添加して培養することによって、血管内皮前駆細胞および血液細胞の両者を分化誘導することができた。さらに宮島らはAGM領域より得られるヘマンジオブラストを株化した内皮様細胞株(LO細胞)を利用することにより、新しいヘマンジオブラスト表面抗原としてPCLP1(podocalyxin−like protein 1)を同定した(WO 01/34797)。
PCLP1は細胞膜に存在し、細胞外領域が高度にグリコシル化された1回膜貫通型糖蛋白質である。PCLP1はN末端の細胞外領域が特徴的な糖鎖修飾を受けることから、シアロムチンファミリーとして分類され、その仲間にはCD34、CD164、CD162、CD43、Endoglycan等の造血細胞もしくは造血微小環境(血管内皮細胞等)に発現するものが属している。PCLP1は既に以下の生物種において分子同定されており、その他の脊椎動物由来にもPCLP1分子の存在が予想される。
ヒト(J.Biol.Chem.272:15708−15714(1997))
マウス(Immunity.1999:11:567−578)
ラット(Accession number:AB020726)
ウサギ(J.Biol.Chem.270:29439−29446(1995))
ニワトリ(J.Cell.Biol.138:1395−1407(1997))
PCLP1分子はN末端アミノ酸配列の、種間における保存性は低いことが知られている(Kershaw,D.B.et al.(1997)J.Biol.Chem.272,15708−15714;Kershaw,D.B.et al.(1995)J.Biol.Chem.270,29439−29446)。PCLP1分子における相同なアミノ酸残基は、細胞内領域の位置に見出されている。ニワトリにおけるPCLP1カウンターパートもまた造血前駆細胞としての活性が報告されており、ラット、ウサギ、マウス、ヒトにおいて組織局在性が同様であることが報告されていることから種間において同様の局在性および役割を持った物質であると考えられる。
【非特許文献1】J.Biol.Chem.272:15708−15714(1997)
【非特許文献2】Immunity.1999:11:567−578
【非特許文献3】GenBank Accession number:AB020726
【非特許文献4】J.Biol.Chem.270:29439−29446(1995)
【非特許文献5】J.Cell.Biol.138:1395−1407(1997)
【非特許文献6】Kershaw,D.B.et al.(1997)J.Biol.Chem.272,15708−15714
【非特許文献7】Kershaw,D.B.et al.(1995)J.Biol.Chem.270,29439−29446
【特許文献1】WO 01/34797
【発明の開示】
本発明は、個体の造血組織をもとに、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞を分離するための方法の提供を課題とする。
PCLP1を細胞表面抗原として選択されたAGM領域由来の細胞を培養することによって、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞の特徴を有する細胞へと分化することが既に明らかにされている(WO 01/34797)。AGM領域は、胚の発生過程で形成される組織である。しかし、胚の供給には限りがある。したがって、PCLP1陽性細胞をヒトの治療に利用するために、より入手の容易な細胞をもとに、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞を分離することができれば理想的である。
こうした背景のもとで、本発明者らは、特に個体由来の細胞をもとに、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞を分離するための方法について研究を続けた。その結果、個体由来のPCLP1陽性細胞からも、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞を誘導しうることを明らかにして本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞の製造技術、並びにその用途に関する。
〔1〕次の工程を含む造血幹細胞または血管内皮前駆細胞の製造方法。
(1)個体の造血組織からPCLP1陽性細胞を分離する工程、
(2)PCLP1陽性細胞を培養し造血幹細胞または血管内皮前駆細胞を誘導する工程、および
(3)(2)の培養物から造血幹細胞または血管内皮前駆細胞を回収する工程
〔2〕PCLP1陽性細胞が、c−Kit陽性の細胞であり、造血幹細胞を回収する工程を含む〔1〕に記載の方法。
〔3〕PCLP1陽性細胞が、赤芽球細胞表面抗原陰性の細胞であり、血管内皮前駆細胞を回収する工程を含む〔1〕に記載の方法。
〔4〕PCLP1陽性細胞が、赤芽球細胞表面抗原陰性かつCD45陰性の細胞である〔3〕に記載の方法。
〔5〕造血組織が骨髄である〔1〕に記載の方法。
〔6〕血管内皮前駆細胞を回収する工程を含む〔5〕に記載の方法。
〔7〕造血幹細胞を回収する工程を含む〔5〕に記載の方法。
〔8〕PCLP1陽性細胞が、CD34陽性細胞である〔5〕に記載の方法。
〔9〕造血組織が脾臓である、〔1〕に記載の方法。
〔10〕血管内皮前駆細胞を回収する工程を含む〔9〕に記載の方法。
〔11〕造血幹細胞を回収する工程を含む〔9〕に記載の方法。
〔12〕工程(2)が、PCLP1陽性細胞を間質細胞と共培養する工程である〔1〕に記載の方法。
〔13〕オンコスタチンM(OSM)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、および幹細胞因子(SCF)の存在下で、PCLP1陽性細胞を間質細胞と共培養する〔12〕に記載の方法。
〔14〕工程(2)が、間質細胞の培養物に含まれる液性因子の存在下でPCLP1陽性細胞を培養する工程である、〔1〕に記載の方法。
〔15〕〔1〕に記載の方法によって製造された造血幹細胞または血管内皮前駆細胞。
〔16〕次の要素を含む、造血幹細胞または血管内皮前駆細胞の製造用キット。
(a)PCLP1の発現レベルを検出するための試薬、および
(b)PCLP1陽性細胞を培養するための培地
〔17〕更に付加的に(c)間質細胞を含む〔16〕に記載のキット。
〔18〕更に付加的に(d)赤芽球細胞表面抗原、CD45、およびCD34からなる群から選択される少なくとも一つの細胞表面抗原の発現レベルを検出するための試薬を含む〔16〕に記載のキット。
〔19〕〔1〕に記載の方法によって得られた造血幹細胞を投与する工程を含む、造血細胞の不足に起因する疾患の治療方法。
〔20〕〔1〕に記載の方法によって得られた造血幹細胞を投与する工程を含む、血液細胞の補充方法。
〔21〕〔1〕に記載の方法によって得られた血管内皮前駆細胞を投与する工程を含む、血管疾患の治療方法。
〔22〕次の工程を含む、被験物質の血管新生活性を調節する作用の検出方法。
(1)〔1〕に記載の方法によって得られた血管内皮前駆細胞を被験物質とともに培養する工程、
(2)前記血管内皮前駆細胞の増殖のレベルを観察する工程、および
(3)対照と比較して、増殖のレベルの変化が観察されたときに、被験物質の血管新生活性を調節する作用が検出される工程
〔23〕増殖のレベルが低下していたときに、血管新生の阻害作用が検出される〔22〕に記載の方法。
〔24〕増殖のレベルが上昇していたときに、血管新生の促進作用が検出される〔22〕に記載の方法。
〔25〕次の工程を含む、血管新生活性の調節作用を有する物質のスクリーニング方法。
(1)〔22〕に記載の方法に基づいて、被験物質の血管新生活性の調節作用を検出する工程、および
(2)血管新生活性を調節する作用を有する被験物質を選択する工程
〔26〕〔25〕に記載の方法によって選択された物質を有効成分として含有する、血管新生の阻害剤または促進剤。
〔27〕〔25〕に記載の方法によって選択された、血管新生活性の阻害作用を有する物質を有効成分として含有する、血管新生を原因とするがん細胞に対する抗がん剤。
〔28〕次の要素を含む、血管新生の活性を調節する作用を検出するためのキット。
a)〔1〕に記載の方法によって得られた血管内皮前駆細胞、および
b)a)の細胞を培養するための培地
本発明によって、個体由来の細胞から、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞を誘導することが可能となった。これらの細胞を再生医療に広く利用するためには、できるだけ入手の容易な材料から目的とする細胞を得られることが重要な条件となる。本発明によれば、個体の骨髄細胞あるいは脾臓細胞をもとに、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞を誘導することができる。中でも骨髄は、再生が可能な組織である。また比較的採取が容易な組織でもある。更に、骨髄は、治療を必要としている患者本人からも採取することができる。患者自身の細胞を利用できることは、拒絶反応や感染性病原体感染のリスクを軽減する上で、きわめて効果的である。
また本発明に基づいて分離することができる、個体由来のPCLP1陽性細胞は、in vitroにおける培養によって、長期にわたって、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の増幅を継続することが確認された。したがって、個体由来のPCLP1細胞は、幹細胞として優れた細胞であると考えられる。更に、本発明は、長期にわたってこれらの細胞の増幅を実現したことにより、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の安定供給に貢献する。これらの細胞の安定供給は、移植医療を実用化していくうえでの重要な課題である。あるいは、血管内皮前駆細胞は、血管新生を標的とする抗がん剤の開発において、血管新生を調節する作用を検出するための被験細胞として有用である。
本発明は、次の工程を含む造血幹細胞または血管内皮前駆細胞の製造方法に関する。
(1)個体の造血組織からPCLP1陽性細胞を分離する工程、
(2)PCLP1陽性細胞を培養し造血幹細胞または血管内皮前駆細胞を誘導する工程、および
(3)(2)の培養物から造血幹細胞または血管内皮前駆細胞を回収する工程
本発明において、個体とは、組織の分化を経て、母体から独立して生存することができる個体を言う。たとえば、出生後の個体は、本発明における個体に含まれる。本発明者らは、出生直後のマウスから採取された骨髄と、成熟した成体から採取された骨髄のいずれからも、同様の活性を有したPCLP1陽性細胞を分離できることを確認している。したがって、出生直後の個体であっても、本発明に利用することができる。もちろん、本発明における個体は、成体であることもできる。成体とは、生殖可能年齢に達した個体と定義される。本発明において、個体は、増幅可能な細胞を分離できる限り、個体自身の生死は問わない。したがって、生体、脳死、あるいは心臓死の状態にある個体から、必要な細胞を分離することができる。
PCLP1陽性細胞は、個体の造血組織を構成する細胞から分離することができる。造血組織には、造血機能を有する任意の組織を利用することができる。造血とは、少なくとも1種類の血液細胞の産生あるいは成熟を言う。したがって、造血機能を有する組織には、骨髄、および脾臓が含まれる。
本発明は、PCLP1を細胞表面抗原として有する脊椎動物を対象として実施することができる。たとえば、本発明に基づいて、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、あるいはニワトリなどの造血幹細胞または血管内皮前駆細胞の製造が可能である。好ましい種は、ヒトあるいはマウスである。
本発明における造血幹細胞(hematopoietic stem cell)は、血液細胞への多分化能を有すると共に、自己複製能を持つ細胞である。同様に、血管内皮前駆細胞とは、血管内皮細胞への分化能を有する細胞である。これらの細胞は、各細胞に特徴的な形状と、各種の細胞表面抗原の発現プロファイルを確認することによって同定することができる。あるいは、実際に分化能を有していることを確認することによって同定することもできる。これらの細胞の具体的な特徴について、以下にまとめた。
一般に造血幹細胞は、全ての系譜の血液細胞への多分化能および自己複製能を有している細胞である。本発明における造血幹細胞は、少なくとも1種類の血液細胞に分化しうる細胞を含む。たとえば、以下のような細胞への多分化能を有する細胞は、造血幹細胞である可能性がある。各細胞は、それぞれカッコ内に記載したような細胞表面抗原によって同定することができる。
骨髄球系(例えばMac−1/Gr−1陽性)
リンパ球系(例えばB220/Thy−1陽性)
赤血球系(例えば赤芽球細胞表面抗原陽性)
造血幹細胞活性の確認に、間質細胞との共培養を利用することができる。また培養系には、種々の液性因子を添加することができる。液性因子としては、たとえば、Stem Cell Factor(SCF)、インターロイキン(IL)−3、およびエリスロポエチン(EPO)等の造血系増殖因子を示すことができる。あるいは、造血幹細胞としての表現型は、造血欠損動物に細胞を移植した場合に、移植細胞由来の造血幹細胞または血液細胞が再構築されることにより確認することもできる。
造血幹細胞の厳密な確認には、放射線照射などによって造血機能を失わせた動物に、検討したい細胞を移植し、長期にわたって全ての血球系統に移植細胞由来の血液細胞が検出されることを確認する長期再構築性造血幹細胞(Long Term Repopulating−Hematopoietic Stem Cell:LTR−HSC)アッセイが行われる。このようなアッセイ方法の応用として、ヒト由来の造血幹細胞を検出する目的で、重症免疫不全のためにヒトの細胞を拒絶できない遺伝マウス(NOD/SCID mice)を用いることができる。NOD/SCIDマウスにヒト造血幹細胞を移植することによって、マウス骨髄におけるヒト血液細胞の再構築を観察する方法をNOD−SCID repopulating cells(SRC)アッセイと呼んでいる。
本発明において望ましい造血幹細胞は、長期にわたって造血を再構築する能力を有する。このような造血幹細胞を、特に「長期再構築性造血幹細胞(LTR−HSC)」と言う。なお長期とは、たとえば6ヶ月以上を言う。
また本発明における血管内皮前駆細胞とは、位相差顕微鏡下で多角形的(polygonal)な形態を示す接着細胞として観察され、低密度リポ蛋白質(low density lipoprotein:LDL)受容体の発現をアセチル化LDLの取り込みで確認できる内皮細胞を産生できる細胞を指す。本発明において内皮細胞の産生は、より好ましくは、OSMに応答して増殖が刺激されうる。また、さらに好ましくは、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)およびOSM等と共にOP9間質細胞と共培養を行う内皮細胞分化培養系において、CD34、CD31、およびVECadherinなどの内皮細胞に発現している細胞表面抗原陽性の細胞が生成されうる。また、さらに好ましくは、マトリゲル(BD)やコラーゲンゲルを用いた三次元培養で管腔形成を起こしうる。これらの性質は、公知の方法に従ってアッセイすることができる。
本発明においては、まず個体の細胞からPCLP1陽性細胞が分離される。PCLP1陽性細胞は、個体の造血組織から得ることができる。本発明における好ましい造血組織は、骨髄および脾臓である。たとえば骨髄は次のようにして採取される。すなわち、全身麻酔した骨髄提供者の腸骨より骨髄血として骨髄を採取する。成人の場合、一般的な骨髄移植においては、通常400mL程度の骨髄血が採取される。採取した骨髄血から、Ficoll(ファルマシア)などを用いて比重遠心分離法によって、単核細胞分画を分離することができる。一般的には、骨髄血400mLより6x10細胞の単核球細胞が得られる。
骨髄細胞を直接採取する方法に加えて、末梢血中に骨髄中の幹細胞を動因し、抹消血から回収する方法(末梢血幹細胞移植)が確立されている。健常人ドナーの場合、骨髄から末梢血中への造血幹細胞の動因には、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)などが用いられる。10μg/kg/日のG−CSFを4〜6日間投与される。その後、2回程度アフェレーシスを行って、末梢血から骨髄の場合と同様の方法で単核球細胞を回収することができる。こうして単離された細胞群からPCLP1陽性細胞を選択することもできる。
特定の細胞表面抗原を指標として、目的とする細胞を単離するための方法は公知である。より具体的にはPCLP1を認識する抗体を、PCLP1陽性細胞を含む細胞集団と反応させ、抗体を結合した細胞を公知の方法で分離することによって、PCLP1陽性細胞を精製することができる。PCLP1を認識する抗体は公知である。あるいは、当業者は、実施例に示すような方法によって、PCLP1の検出に必要な抗体を調製することができる。すなわち、ヒトPCLP1をコードするcDNAを単離し、組み換え体として発現させる。得られたPCLP1の組み換え体を適当な免疫動物に免疫することによって、免疫動物からPCLP1を認識するポリクローナル抗体を得ることができる。更に、抗体産生細胞をクローニングすることによって、モノクローナル抗体を得ることもできる。
蛍光標識抗体を使って、蛍光シグナルを指標としてセルソーターによって目的の細胞を分離することができる。波長の異なる蛍光色素で標識された、異なる細胞表面抗原に結合する抗体を組み合わせれば、複数の細胞表面抗原によって細胞を選択することもできる。
また、抗体を固定化した磁性粒子に細胞を反応させ、目的とする細胞を磁性粒子に捕捉することができる。磁性粒子と結合した細胞を、MACS(第一化学)などの磁石装置を用いて分離し、目的とする細胞を回収できる。単一細胞表面抗原で細胞を選択し、分離する場合には磁性粒子を用いた分離方法は、簡便な方法である。
次いで分離されたPCLP1陽性細胞は、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞を誘導することができる条件下で培養される。本発明における培養とは、in vitro、あるいはex vivoにおける培養を意味する。たとえばマウスの胚AGM領域から単離されたPCLP1陽性細胞を、間質細胞と共培養することによって造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞が誘導されることが公知である(WO 01/34797)。胚は、生体組織への分化の過程にある種々の細胞の集合体である。したがって、胚を構成する細胞の中から、特定の分化能を有する細胞は取得できるかもしれない。しかし分化を完了した個体の組織においては、多分化能を有する細胞を単離できる可能性は極めて低い。にもかかわらず本発明者らは、個体から分離されたPCLP1陽性細胞が、間質細胞との共培養によって造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞が誘導されることを確認した。したがって、間質細胞との共培養は、本発明における望ましい培養条件の一つである。間質細胞としては、たとえばマウス間質細胞OP9(理化学研究所バイオリソースセンター RCB1124)を示すことができる。同様に、マウス間質細胞株HESS−5は、ヒト臍帯血に含まれるNOD/SCID mice repopulating cells(SRC)の増幅に有用であることが報告されている(Ando K.,et al.Exp.Hemato 1 28:690−699,2000)。
その他、マウス間質細胞株M2−10B4も、ヒト臍帯血の増幅に有用な細胞株としてよく研究されている(Cancer Res.1996 Jun 1;56(11):2566−72.Engineered stromal layers and continuous flow culture enhance multidrug resistance gene transfer in hematopoietic progenitors.Bertolini F,Battaglia M,Corsini C,Lazzari L,Soligo D,Zibera C,Thalmeier K.)。また、ヒト骨髄から間質細胞を調製し、血液細胞の間質細胞として利用することも報告されている(Int J Oncol.2003 Oct;23(4):925−32.Immortalization of bone marrow−derived human mesenchymal stem cells by removable simian virus 40T antigen gene:analysis of the ability to support expansion of cord blood hematopoietic progenitor cells.Nishioka K,Fujimori Y,Hashimoto−Tamaoki T,Kai S,Qiu H,Kobayashi N,Tanaka N,Westerman KA,Leboulch P,Hara H.)。これら公知の共培養方法は、いずれも本発明のための共培養方法として応用することができる。
共培養は、PCLP1陽性細胞を間質細胞と同じ培養液の中で培養する培養方法である。本発明において分離すべき細胞は、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞である。これらの細胞が、間質細胞と接着性の相違や形態上(大きさ、複雑さ等)の明瞭な相違を有する場合には、目的とする細胞を回収することは容易である。仮に両者の細胞間で明瞭な差が見られない場合には、いずれかの細胞を細胞表面抗原によって識別することができる。
更に、両者が混合しないように、最初から分離して培養することもできる。培養液は共有しながら、細胞間の接触を防ぐ培養システムとして、膜分離型共培養法が知られている。膜分離型共培養法においては、液性因子の通過は許すが、細胞の移動は阻止できる口径の有孔膜を用いて、間質細胞とPCLP1陽性細胞が培養される。PCLP1陽性細胞の維持と、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞の誘導に必要な液性因子は、間質細胞から膜を隔てて供給される。膜は間質細胞を通過させないので、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞に間質細胞が混合する恐れは無い。膜分離型共培養法は、異種の細胞の混入を避けるという点でも、有用な技術である。
本発明において、PCLP1陽性細胞は、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の誘導を助けるために、種々の液性因子の存在下で培養することができる。たとえば次のような液性因子は、造血幹細胞の誘導に有用である。
オンコスタチンM(oncostatin M;OSM)
幹細胞因子(stem cell factor;SCF)
Flk2/Flt3リガンド(Flk2/Flt3 ligand;FL)
トロンボポエチン(thrombopoietin;TPO)
Wnt
エリスロポエチン(erythropoietin;EPO)
インターロイキン−3(interleukin−3;IL−3)
インターロイキン−6(interleukin−6;IL−6)
インターロイキン−7(interleukin−6;IL−7)
インターロイキン−11(interleukin−11;IL−11)
可溶性インターロイキン−6受容体(soluble interleukin−6 receptor;sIL−6R)
白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor;LIF)
顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte−colony stimulating factor;G−CSF)
細胞由来因子−1(stroma cell derived factor−1;SDF−1)
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子
(granulocyte macrophage colony stimulating factor;GM−CSF)
マクロファージコロニー刺激因子
(macrophage colony stimulating factor;M−CSF)
本発明の培養方法には、PCLP1陽性細胞の共培養に有用な間質細胞の培養上清に含まれる、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の誘導を助ける液性因子の存在下でPCLP1陽性細胞を培養する方法が含まれる。すなわち、間質細胞を利用することなく、間質細胞の培養上清に含まれている、必要な成分のみを供給し、目的とする細胞を誘導することができる。液性因子は、間質細胞の培養上清をそのまま添加することによって供給することができる。あるいは、限外ろ過によって蛋白質を濃縮して利用しても良い。
更に、培養上清を分画し、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の誘導を助ける液性因子を含む分画を適宜組み合わせて用いることもできる。あるいは、これらの細胞の誘導に必要な液性因子を同定することもできる。同定された液性因子を添加することによって、目的とする細胞が誘導される。液性因子は、間質細胞に由来するもののみならず、その遺伝子を適当な発現系で発現させることによって得られる遺伝子組み換え体であっても良い。
本発明は、個体由来のPCLP1陽性細胞から、in vitroにおいて、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞を増幅できるという新規な知見に基づいている。本発明は更に、PCLP1以外の細胞表面抗原を組み合わせることによって、PCLP1陽性細胞の亜分画を分離できることを見出した。PCLP1に他の細胞表面抗原を組み合わせて分離することができる亜分画は、それぞれ目的に応じた細胞の増幅に有用である。以下に、本発明によって見出されたPCLP1陽性細胞の亜分画と、その亜分画によって増幅することができる細胞の関係をまとめた。
PCLP1 CD45 c−Kit 赤芽球細胞表面抗原
+ − :血管内皮前駆細胞
+ − − :血管内皮前駆細胞
+ + :造血幹細胞
+ − :赤芽球細胞
PCLP1との組み合わせとして用いる亜分画の分離に必要なこれらの細胞表面抗原も、PCLP1と同様に、各細胞表面抗原を認識する抗体によって検出することができる。これらの細胞表面抗原はいずれも既に血液細胞などの識別に利用されている。したがって、これらの細胞表面抗原を検出するための抗体も、市販されている。市販の抗体には、蛍光色素や磁性粒子に結合されたものもある。このような標識抗体は、本発明の方法に有用である。なお上記のうち赤芽球細胞表面抗原としては、マウスTER−119、ヒトグリコフォリンA(glycophorin A)、ヒトおよびマウスCD71などを利用することができる。
本発明者らの知見によれば、これらの亜分画は、いずれも細胞が由来する組織によって、その存在割合が異なっている。つまり、ある組織から分離されたPCLP1陽性細胞中には、様々な亜分画が含まれる。また、PCLP1陽性細胞群は特に亜分画に絞り込まなくても、特定の細胞が優先的に増幅される場合もある。たとえば、個体の骨髄から分離されたPCLP1陽性細胞は、造血幹細胞の増幅に利用できる。同様に、個体の脾臓から分離されたPCLP1陽性細胞は、血管内皮前駆細胞の増幅に利用できる。
さて、CD34陽性細胞から造血幹細胞を増幅し再生医療に利用することが試みられている。CD34陽性細胞は、現在のところ、造血幹細胞の増幅にもっとも幅広く利用されている細胞である。たとえば、臍帯血から分離したCD34陽性細胞を、特定の液性因子の存在下で培養し、造血幹細胞を増幅する方法が報告されいてる(Ueda T et al.,J Clin Invest.105:1013−1021,2000)。CD34陽性細胞におけるPCLP1陽性細胞の存在割合を解析すると、以下のような事実が明らかとなった。
まず、胎児期最初に造血幹細胞が発生する部位であるAGM領域では、CD34陽性細胞の約90%がPCLP1を発現していることが明らかにされている(WO 01/34797)。更に、本発明者らは、発生に伴ってCD34陽性細胞およびPCLP1陽性細胞の存在割合がどのように推移するのか追跡した。その結果、造血の場がAGMから胎児肝臓、骨髄へと次第に移り変わるのに伴い、CD34+細胞中のPCLP1+細胞の割合が胎児肝臓で50%程度、骨髄で数%程度と劇的に減少してゆくことが確認された(図18)。ヒト骨髄における分布もマウスの結果とほぼ一致した(図15)。
これらの結果は、造血幹細胞が濃縮されると考えられているCD34陽性細胞集団が、さらにPCLP1の発現によって分画できることを示している。本発明の知見によればPCLP1陽性細胞はPCLP1陰性細胞より未分化であると考えられる。したがって、PCLP1陽性で、かつCD34陽性の細胞は、本発明において好ましい細胞集団である。たとえば、骨髄由来の細胞から選択された、PCLP1陽性で、かつCD34陽性の細胞は、より長期にわたって造血幹細胞の増幅機能を維持した。
実際にCD34+/c−Kit+/PCLP1−の細胞集団は、骨髄の間質細胞との共培養系において、比較的早く血球増殖を始め、増殖を終了するまでの時間が早い。一方、CD34+/c−Kit+/PCLP1+の細胞集団は血球増殖を開始するまでの期間が長く、長期間血球を産生し続けるという現象が確認された(図19)。さらに、後者の画分(CD34+/c−Kit+/PCLP1+)を間質細胞と共培養することによって大量に得られる血球細胞は、CD34+/c−Kit+/PCLP1−である(図20)。これらのことから、細胞表面抗原であるPCLP1分子は、造血幹細胞を含む細胞集団であるCD34+/c−Kit+細胞集団中のより未分化な細胞集団を分画することができる事が判明した。
本発明は、本発明に基づいて、PCLP1陽性細胞から増幅された、造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞を提供する。本発明の、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞は、各種の再生医療に利用することができる。たとえば造血幹細胞の投与は、白血病や再生不良性貧血などの血液疾患の治療方法として有効である。あるいは造血幹細胞は、白血病や再生不良性貧血などの血液疾患の治療剤の製造に有用である。また血管内皮前駆細胞の投与は、血管疾患の治療方法として有効である。加えて血管内皮細胞は、血管疾患の治療剤の製造に有用である。更に本発明は、造血幹細胞の血液疾患の治療剤開発への利用に関する。加えて本発明は、血管内皮前駆細胞の血管疾患および血管新生を原因とするがんの治療剤開発への利用に関する。
本発明の造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞は、たとえば、患者自身の組織から分離されたPCLP1陽性細胞の培養によって、生体外において増幅される。あるいは、ドナーから得られた非自己組織の培養によって、目的の細胞を得ることもできる。培養を通じて増幅された目的とする細胞は回収され、必要に応じて洗浄、分画、あるいは濃縮などの処理を経て、患者に投与される。各細胞の投与量は、患者の体格、性別、年齢、そして症状に応じて適宜調製できる。
本発明によって得られた造血幹細胞、あるいは血管内皮前駆細胞は、たとえば公知の同種骨髄移植と同様の手法にしたがって、治療に用いることができる。同種骨髄移植(Bone Marrow Transplantation;BMT)は、白血病、再生不良性貧血、先天性免疫代謝異常症などに対する治療方法として最も初期に確立された移植治療のひとつである。BMTにおいては、1回の治療のために、通常10〜10Cells/kg、たとえば5x10cells/kg程度の造血幹細胞が投与される。
ドナーから提供されたPCLP1陽性細胞由来の細胞を患者に同種移植する場合には、移植片対宿主反応病(GVHD)予防には免疫抑制剤の投与、感染症予防には抗生物質の投与及び無菌室で管理を行う必要がある。また、移植される患者の体力維持のために高カロリー輸液の投与が必要となることがある。細胞移植時には、発熱、悪寒、血圧低下、ショックなどの危険性があり、心電図モニターを行い、予めハイドロコルチゾン等を投与してショックに対応する。一方、自己のPCLP1陽性細胞から得られた細胞を移植する場合には、GVHDの危険性は低く、免疫抑制剤の投与は、通常、必要とされないことが多いが、その他は同種移植に準じた管理が必要である。
細胞は、患者への投与に当たって、任意の媒体中に浮遊させることができる。本発明の造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞も、通常用いられる媒体中に浮遊させて投与することができる。細胞の分散に好適な媒体としては、生理食塩水などを示すことができる。
本発明により、個体由来のPCLP1陽性細胞をもとに、in vitroにおける培養によって、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞を増幅できることが明らかにされた。したがって、PCLP1陽性細胞の分離に利用することができるPCLP1分子を認識する抗体は、個体由来のPCLP1陽性細胞を分離するための試薬として有用である。抗PCLP1抗体は、精製された抗体あるいはその可変領域のみならず、分離に有用な任意の物質で標識することもできる。具体的には、蛍光物質、磁気粒子、酵素、あるいは固相担体などに結合した抗PCLP1抗体を本発明におけるPCLP1陽性細胞の分離用試薬とすることができる。すなわち本発明は、PCLP1分子を認識する抗体を含む試薬の、PCLP1陽性細胞の分離における使用に関する。
一方、分離されたPCLP1陽性細胞は、間質細胞との共培養などの条件の下で培養を継続することによって、大量の造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞を生成する。このとき、培養条件に応じて、様々な補助的な成分が培地に添加される。これらの成分を添加した培地組成物は、PCLP1陽性細胞の培養による、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の増幅に有用である。すなわち本発明は、少なくとも以下の成分の組み合わせのいずれかを含む、PCLP1陽性細胞の培養による、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の増幅のための培地組成物を提供する。あるいは本発明は、少なくとも以下の成分の組み合わせのいずれかを含む培地組成物の、PCLP1陽性細胞の培養による、造血幹細胞あるいは血管内皮前駆細胞の増幅における使用に関する。
(1)次の群から選択される少なくとも1つの液性因子
オンコスタチンM(oncostatin M;OSM)、
塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor;bFGF)、および幹細胞因子(Stem cell factor;SCF)
(2)間質細胞とPCLP1陽性細胞の共培養条件下で分泌される液性因子および細胞表面蛋白質
これらの組成は、動物細胞培養用の基本培地に添加される。基本培地には、DMEM、BME、あるいはRPMI1640などの公知の基本培地を用いることができる。あるいはこれらの公知の培地組成を改変して、PCLP1陽性細胞に最適化した培地を用いることもできる。本発明の培地には、更に動物の血清を添加することもできる。これらの、PCLP1陽性細胞の培養に必要な成分は、予め組み合わせて培養用キットとすることができる。共培養用の培地については、培地に加えて、間質細胞を組み合わせることもできる。更に、共培養のための培養容器をキットに加えてもよい。培養容器としては、膜分離型共培養法のための培養容器を示すことができる。
更に、PCLP1分子を認識する抗体と、分離されたPCLP1陽性細胞の培養に用いられる各要素をセットにして、PCLP1陽性細胞分離システム、およびEx−vivo培養システムとすることができる。PCLP1陽性細胞分離システムとは、PCLP1を認識する抗体と、この抗体を利用した生体組織からPCLP1陽性細胞を分離するためのシステムで構成される。より具体的には、個体から分離した骨髄細胞からPCLP1陽性細胞を分離するための手段で構成される。磁性粒子あるいは固相担体に結合したPCLP1を認識する抗体は、骨髄細胞との接触によって、PCLP1陽性細胞を捕捉する。抗体に結合した抗体を集めて、PCLP1陽性細胞を分離することができる。あるいは、蛍光標識したPCLP1抗体を用いて、セルソーターを使ってPCLP1陽性細胞を分離することもできる。更に、PCLP1以外の任意の細胞表面抗原を認識する抗体を、PCLP1抗体とは異なる蛍光色素で標識し、多重染色によってPCLP1陽性細胞の亜分画を分離することもできる。
すなわち本発明は、次の要素を含む、造血幹細胞および血管内皮前駆細胞のいずれかまたは両方の製造用キットに関する。あるいは本発明は、次の要素を含むキットの、造血幹細胞および血管内皮前駆細胞のいずれかまたは両方の製造における使用に関する。
(a)PCLP1の発現レベルを検出するための試薬、および
(b)PCLP1陽性細胞を培養するための培地
本発明のキットは、付加的に間質細胞として有用な(c)間質細胞を含むことができる。あるいは、間質細胞に代えて、PCLP1陽性細胞から造血幹細胞または血管内皮前駆細胞への分化を支持する液性因子を含む培地の補助成分(supplement)を組み合わせることもできる。更に本発明のキットは、付加的に(d)赤芽球細胞表面抗原の発現レベルを検出するための試薬を含むことができる。
脊椎動物は閉鎖血管系を持っており、身体の殆どの組織は各組織に特有の実質細胞と血管系の密接な相互作用の上に成り立っている。このような血管系は、胎生前期における基本的な閉鎖血管系の構築(脈管形成)と、それに引き続く既存の血管からの新しい血管枝の構築(血管新生)によって形成される。生体内において異常な血管新生を引き起こすケースとして、固形腫瘍、炎症性疾患、糖尿病性網膜症、リウマチ様関節炎などを挙げることができる。特に固形腫瘍が成長する際には、新生された血管からの栄養、酸素等の供給が必要であると言われている。そこで、抗がん剤開発の1つの戦略として、がんを直接的に殺傷もしくは退縮させる方法以外に、がん細胞が必要とする物質の供給を絶つという方法も着目されている。以上のことより、血管新生を制御する活性を持つ物質および物質を選択(スクリーニング)するin vitro培養システムは、抗がん剤等の薬剤開発の上で重要であると言える。
本発明によって得ることができる血管内皮前駆細胞は、血管新生活性の調節作用の評価に有用である。すなわち本発明は、次の工程を含む、被験物質の血管新生活性を調節する作用の検出方法に関する。
(1)本発明に基づいて分離された血管内皮前駆細胞を被験物質とともに培養する工程、
(2)前記血管内皮前駆細胞の増殖のレベルを観察する工程、および
(3)対照と比較して、増殖のレベルの変化が観察されたときに、被験物質の血管新生活性を調節する作用が検出される工程
本発明の方法において、前記血管内皮前駆細胞の増殖レベルが低下していたときには、血管新生の阻害作用が検出される。また増殖レベルの上昇によって、血管新生の促進作用が検出される。本発明の方法において、血管内皮前駆細胞の培養方法は限定されない。たとえば動物細胞を培養するためのさまざまな培地組成が公知である。これらの培地は、本発明の血管内皮前駆細胞を維持できる限り、本発明に利用することができる。このような培地として、たとえば、Minimum Essential Medium(MEM)、Basal Medium,Eagle(BME)、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DME)、あるいはRPMI−1640 Medium(RPMI1640)などを示すことができる。これらの培地には、各種の増強成分を添加することもできる。具体的には、ウシ血清アルブミン、動物血清、あるいは各種の液性因子などを添加することができる。
また、血管内皮前駆細胞を培養する環境として、本発明において示した間質細胞と共培養する方法以外に、BDファルコン社等から発売されている培養用プラスチックプレート、プラスチックプレートに細胞の生育を補助する物質(コラーゲン、フィブロネクチン等)を塗末したもの、細胞の三次元的な培養をするためのマトリゲルおよびコラーゲンゲルなどを用いることができる。
本発明の方法においては、血管内皮前駆細胞の増殖のレベルが測定される。細胞の増殖レベルは、生細胞の数を測定することによって評価することができる。このような方法として、チミジンの取り込み活性、あるいは細胞自身の呼吸作用に関与する還元酵素活性などを指標に、生細胞の数を評価することができる方法が公知である。たとえば、MTTアッセイキット(ロッシュ)等の利用によって、細胞の還元酵素活性を指標として、細胞の増殖レベルを評価することができる。
本発明によって得られる細胞に対する、被験物質の目的とする活性を評価するには、任意の細胞を対照として基準に用いることができる。この場合、対照には目的とする活性を誘導しない条件下で培養された細胞を使用することができる。より具体的には、被験物質の非存在下で培養された同じ細胞、あるいは予め目的とする活性を誘導しないことが確認された成分の存在下で培養された同じ細胞を対照とすることができる。目的とする活性を誘導しない成分としては、生理食塩水等を用いることができる。
また、目的とする活性を誘導する物質の存在下で培養した細胞を対照とすることもできる。このような対照を用いた場合には、被験物質と対照に用いた物質との間で、目的とする活性の大きさを比較評価することができる。
更に本発明の血管新生活性を調節する作用の検出方法に基づいて、当該作用を有する物質のスクリーニング方法が提供される。すなわち本発明は、次の工程を含む、血管新生活性の調節作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。
(1)前記検出方法に基づいて、被験物質の血管新生活性の調節作用を検出する工程、および
(2)血管新生活性を調節する作用を有する被験物質を選択する工程
本発明のスクリーニング方法において利用することができる候補物質には、精製タンパク質(抗体を含む)、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成ペプチドのライブラリー、RNAライブラリー、細胞抽出液、細胞培養上清、あるいは合成低分子化合物のライブラリーなどが挙げられるが、これらに制限されない。
本発明のスクリーニング方法によって、血管新生の阻害剤または促進剤を選択することができる。血管新生の阻害剤は、血管新生を原因とする疾患の治療剤として有用である。より具体的には、血管新生によって増殖能を維持している癌などの新生物は、血管新生の阻害によって治療することができる。すなわち本発明は、本発明のスクリーニングによって選択された物質を有効成分として含有する、血管新生を原因とするがん細胞に対する抗がん剤を提供する。また本発明は、本発明のスクリーニング方法によって選択された化合物の、血管新生の阻害剤あるいは抗がん剤の製造における使用に関する。一方、本発明のスクリーニング方法によって選択することができる、血管新生の促進作用を有する物質は、血流阻害によってもたらされる疾患の、血管新生に基づく治療に有用である。あるいは本発明は、本発明のスクリーニング方法によって選択された化合物の、血管新生の促進剤の製造における使用に関する。
本発明のスクリーニング法により単離される物質を、血管新生活性の調整剤として用いる場合には、公知の製剤学的製造法により製剤化して用いることができる。例えば、薬理学上許容される担体または媒体(生理食塩水、植物油、懸濁剤、界面活性剤、安定剤など)とともに患者に投与される。投与は、物質の性質に応じて、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、静脈内、または経口的に行われる。投与量は、患者の年齢、体重、症状、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適宜適当な投与量を選択することができる。
本発明の、血管新生の活性を調節する作用を検出するための方法に必要な各種の要素は、予め組み合わせて、キットとして供給することができる。すなわち本発明は、次の要素を含む、血管新生の活性を調節する作用を検出するためのキットに関する。あるいは本発明は、次の要素の血管新生の活性を調節する作用を検出するための方法における使用に関する。
a)〔1〕に記載の方法によって得られた血管内皮前駆細胞、および
b)a)の細胞を培養するための培地
本発明のキットには、更に付加的に、細胞の増殖レベルを測定するための試薬を組み合わせることができる。あるいは先に述べた、PCLP1陽性細胞を分離し、それを培養して本発明の方法に必要な血管内皮前駆細胞を増幅するためのキットを組み合わせることもできる。
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、14.5日マウス胎仔肝細胞におけるPCLP1の発現解析の結果を示す図である。PCLP1陰性かつCD45陽性の画分を白血球画分(A)、PCLP1陽性かつc−Kit陰性の画分を赤芽球画分(A)、PCLP1陽性かつc−Kit陽性の画分を造血幹細胞画分(B)、PCLP1陽性かつCD45陰性かつTER119陰性の画分を内皮前駆細胞(C)と定義した。
図2は、OP9間質細胞と14.5日マウス胎仔肝細胞の共培養の結果を示す写真である。a,c,eはそれぞれ、PCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性細胞(分画A)とOP9細胞の共培養開始から、4日、7日および10日経過後の培養結果を示す。b,d,fはそれぞれ、PCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性細胞(分画B)とOP9細胞の共培養開始から、4日、7日および10日経過後の培養結果を示す。
図2−2は、OP9間質細胞と14.5日マウス胎仔肝細胞の共培養の結果を示す写真である。gは、PCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性細胞を新しいOP9細胞に継代して培養した結果を示す。h,i,jはそれぞれ、PCLP1強陽性かつCD45,TER−119陰性ないし弱陽性細胞(分画C)とOP9細胞の共培養開始から、3日、5日および7日経過後の培養結果を示す。
図3は、PCLP1強陽性分画をOP9共培養することによって生じた内皮様コロニーについて、各種内皮細胞表面抗原を用いて免疫組織染色を行った結果を示す顕微鏡写真(100倍)である。
図4は、OP9共培養によって生じたPCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性分画由来の浮遊細胞を培養10日目に回収し、フローサイトメトリー法により細胞表面抗原の発現を解析した結果を示す図である。
図5は、各種細胞を用いた場合の血球コロニーの形成をアッセイした結果を示す図である。aは、PCLP1強陽性、PCLP1中等度陽性、およびPCLP1弱陽性分画を用いてコロニーアッセイを行った結果を示す。bは、OP9細胞と各分画を共培養する前にアッセイを行った結果を示す。cは、OP9細胞と各分画を共培養することによって生じた浮遊細胞を用いてコロニーアッセイを行った結果を示す。
図6は、マウス胎児造血組織におけるPCLP1の発現パターンを示す図である。
図7は、マウス個体造血組織におけるPCLP1の発現パターンを示す図である。
図8は、マウス個体由来PCLP1陽性細胞とOP9細胞を共培養した結果を示す写真である。a,bは、個体脾臓由来のPCLP1陽性細胞から生じた内皮細胞様コロニーを示す。c,dは、個体骨髄由来のPCLP1陽性細胞から生じた血球細胞を示す。
図9は、マウス個体骨髄由来のPCLP1陽性細胞とOP9細胞を共培養した結果生じた浮遊細胞の細胞表面抗原をフローサイトメトリー法により解析した結果を示す図である。
図10は、マウス個体骨髄由来のPCLP1陽性細胞を用いたコロニーアッセイの結果を示す図である。aは、骨髄から単離したPCLP1陽性細胞を用いたアッセイの結果を示す。bは、PCLP1陽性細胞とOP9細胞を共培養した結果生じた浮遊細胞を用いたアッセイの結果を示す。
図11は、ヒトPCLP1の全長配列または膜外領域を組み込んだ動物細胞発現用コンストラクトの構造を示す図である。
図12は、確立したPCLP1蛋白質強制発現細胞株が、全長PCLP1または膜外PCLP1を発現することを抗mycタグによるウエスタンブロットにより確認した結果を示す写真である。
図13は、分泌型遺伝子組換えPCLP1を精製し、精製蛋白質が目的蛋白質であることを抗mycタグによるウエスタンブロットにより確認した結果を示す写真である。
図14は、CHO細胞のトランスフェクタントと抗ヒトPCLP1モノクローナル抗体との反応性を示す図である。
図15は、抗ヒトPCLP1モノクローナル抗体を用いて骨髄細胞からPCLP1発現細胞を分離した結果を示す図である。
図16は、新生仔マウス骨髄由来CD34陽性かつc−Kit陽性の細胞集団を更にPCLP1陽性分画または陰性分画に分離した結果を示す図である。
図17は、OP9間質細胞と新生仔マウス骨髄由来細胞の共培養の結果を示す写真である。a,cはそれぞれ、CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陽性の骨髄由来細胞とOP9細胞の共培養開始から、10日および15日経過後の培養結果を示す。b,dはそれぞれ、CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陰性の骨髄由来細胞とOP9細胞の共培養開始から、10日および15日経過後の培養結果を示す。
図18は、CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陽性の新生仔マウス骨髄由来細胞とOP9細胞を共培養した結果生じた浮遊細胞の細胞表面抗原をフローサイトメトリー法により解析した結果を示す図である。
図19は、CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陽性またはCD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陰性の新生仔マウス骨髄由来細胞とOP9細胞を共培養した結果生じた浮遊細胞を用いたコロニーアッセイの結果を示す図である。
図20は、OP9間質細胞とマウス個体脾臓細胞の共培養10日経過後の結果を示す写真である。a,bはそれぞれPCLP1強陽性分画の共培養の結果を示す。cはCD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陰性分画、dはCD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1弱陽性分画、eはCD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1強陽性分画での培養結果を示す。
図21は、全骨髄細胞、およびPCLP1陰性細胞をOP9細胞と共培養した後、8日目の状態を示す顕微鏡写真である(上:100倍、下:200倍)。全骨髄細胞(左)、およびPCLP1陰性細胞(右)の培養においては、cobble−stoneと内皮前駆細胞様コロニーは認められなかった。
図21−2は、PCLP1陽性細胞をOP9細胞と共培養した後、8日目の状態を示す顕微鏡写真である(上:100倍、下:200倍)。PCLP1陽性細胞を播種した場合には、cobble−stoneと内皮前駆細胞様コロニーが認められた。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。
【実施例1】
マウス胎仔肝を用いた造血前駆細胞および内皮前駆細胞の分離培養方法
材料:
妊娠14.5日C57BL/6マウス
塩入リン酸緩衝液(PBS)
Liver perfusion medium(GIBCO BRL)
Collagenase/Dyspae solution(GIBCO BRL)
50μg/ml ゲンタマイシン/15%ウシ胎児血清(FBS)/DMEM(GIBCO BRL)
2%FBS/PBS
OP9 cell line(理化学研究所バイオリソースセンター RCB1124)
抗マウスCD16/32モノクローナル抗体(Pharmingen)
ビオチン化抗マウスPCLP1モノクローナル抗体(MBL)
PE標識抗マウスCD45モノクローナル抗体(Pharmingen)
PE標識抗マウスTER−119モノクローナル抗体(Pharmingen)
7−AAD(Pharmingen)
OncostatinM(OSM)
basic fibroblast growth factor(bFGF)
stem cell factor(SCF)
マウス細胞表面抗原に対する各種抗体
2%パラフォルムアルデヒド/PBS
ヤギ血清(和光純薬)
Block Ace(雪印乳業)
MethoCult(StemCell Technologies)
方法:
1.胎仔肝細胞の調製
妊娠マウスを頚椎脱臼法により安楽死させ、子宮を摘出した。更にPBS中で子宮壁を除去し、胎仔を摘出した。新しいPBSに置換し、実体顕微鏡下で胎仔から肝臓を摘出し、胎仔一腹(6−12胚)あたり12mlのLiver perfusion mediumに置換した。以下の操作は全て無菌的に行った。
解剖用ハサミで胎児肝臓を細かく刻み、胎仔一腹分(6−12胚)あたり12mlのCollagenase/Dyspase solutionに置換した。COインキュベーターにて37℃10分間インキュベートし、酵素処理した。10mlのガラスピペットで十分にピペッティングし、組織構造を壊し、細胞を浮遊状態にした。遠心用チューブに移し、等量の50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMを加えて混合し、800rpmで4℃10分間遠心した。上清を除き、氷冷した溶血バッファー(0.1M NHCl/16.5mM Tris)を胎仔一腹分(6−12胚)あたり15ml注ぎ、静かに2〜3度ピペッティングして細胞をほぐして氷上に9分間静置し、溶血させた。等量の50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMを添加し、800rpmで4℃10分間遠心した。回収した細胞を10mlの50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMに希釈し、70μmのセルストレーナーを通した。トリパンブルーで死細胞を染色し、ヘモサイトメーターを用いて細胞数を計測した。
2.抗体反応
抗マウスCD16/32モノクローナル抗体を50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMで100倍希釈し、細胞1×10細胞あたり1ml加えて混合し、氷上に15分間放置し、FcR block処理を行うことによって抗体の非特異的な結合を阻止した。3本のチューブにそれぞれおよそ1×10程度の細胞を分注し、それぞれのチューブについて以下の抗体を加えて混合し、アイソタイプコントロールおよび蛍光補正用サンプルとした。なお抗体はいずれも100倍希釈になるように加えた。
1本目:ビオチン化ラットIgG2aおよびPE標識ラットIgG2a
2本目:ビオチン化抗マウスCD45モノクローナル抗体およびPE標識ラットIgG2a
3本目:ビオチン化ラットIgG2aおよびPE標識抗マウスCD45モノクローナル抗体
残りの細胞にビオチン化抗マウスPCLP1モノクローナル抗体、PE標識抗マウスCD45モノクローナル抗体およびPE標識抗マウスTER−119モノクローナル抗体をそれぞれ100倍希釈になるように加えて混合してサンプルとした。抗体添加後の細胞は、それぞれ氷上に30分間放置した。
アイソタイプコントロール、蛍光補正用サンプルおよびサンプルを、それぞれ氷冷した2%FBS/PBSで洗浄した。2%FBS/PBSで50倍希釈したストレプトアビジン−APCにアイソタイプコントロール、蛍光補正用サンプルおよびサンプルをそれぞれ再希釈し、氷中に30分間放置した。氷冷した2%FBS/PBSで洗浄した。1×10細胞あたり5μlの7−AADに希釈し、室温に5分間放置した。2%FBS/PBSもしくはPBSに5×10−1×10/mlになるよう希釈し、細胞分離装置用チューブに移した。
3.ソート(細胞分離)
細胞分離装置を用いて、アイソタイプコントロールおよび蛍光補正用サンプルを用いて各パラメーターの感度および蛍光補正を行った。アイソタイプコントロールの蛍光強度に対し、以下の各細胞集団にゲートをかけ、10μg/ml OSM、1μg/ml bFGF、100μg/ml SCFを混合した50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMを入れたチューブに細胞を分取した。
PCLP1強陽性かつCD45,TER−119陰性ないし弱陽性、
PCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性、
PCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性
分取した細胞を再び解析し、設定したゲートどおりに純度良く分取されているかどうか確認した。得られた細胞数をヘモサイトメーターによって計測した。
4.分離細胞の間質細胞共培養
10センチディッシュあるいは6ウェルプレートにOP9間質細胞を70−90%コンフルエント程度になるまで50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMで培養した。これにソートした細胞を播種する直前に培地をサイトカイン(10μg/ml OSM、1μg/ml bFGF、100μg/ml SCF)入りのものに置換した。PCLP1強陽性かつCD45,TER−119陰性ないし弱陽性分画は、6ウェルプレートの1ウェルあたり数百から5000細胞程度、PCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性分画およびPCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性分画はそれぞれ1ウェルあたり20000細胞ずつまき込んだ。COインキュベーターで37℃、CO分圧5%の条件下で培養した。まき込み翌日から数週間に渡り、それぞれの分画における血球産生を顕微鏡で観察した。
5.コロニーアッセイ
ソートした細胞を1000細胞/mlになるようMethoCultに添加し、これに50μg/mlになるようゲンタマイシンを加えて混合した。1ml注射器および18Gの注射針を用いて6ウェルプレートの1ウェルあたり1mlずつまきこんだ。保湿用にプレートの一角に滅菌蒸留水あるいはPBSを1ml添加しておき、COインキュベーターで37℃、CO分圧5%の条件下で培養した。培養9日目にコロニーを顕微鏡下で観察し、コロニーの種類を分類して計数した。
6.血球細胞の解析
OP9共培養開始から数日後、十分量の浮遊細胞が生じた後OP9の混入に注意しながら浮遊細胞のみを遠心用チューブに回収した。得られた細胞を用いてフローサイトメトリー法による細胞表面抗原の発現解析、およびコロニーアッセイ法による血球増殖活性の測定を行った。
7.内皮様コロニーの解析
細胞がはがれないよう注意しながらPBSでシャーレを洗浄した。2%パラホルムアルデヒド/PBSで細胞を固定した後、5%ヤギ血清/BlockAce(雪印乳業)でブロッキング(室温1時間)した。一次抗体反応を4℃で一晩行い、PBSで洗浄した。蛍光標識した抗マウスIgG抗体(二次抗体)反応を室温で1時間し、PBSで洗浄した後に顕鏡にて観察した。
結果:
1.胎仔肝における細胞集団の解析
14.5日胎仔肝におけるPCLP1の発現は、強度別に強陽性(約1%)、中等度陽性(約40%)、弱陽性(約40%)および陰性(約15%)の4集団に分けられることが明らかとなった(図1)。PCLP1弱陽性集団および陰性集団(分画A)はCD45,TER−119強陽性、PCLP1中等度陽性集団(分画B)はCD45,TER−119弱陽性ないし陽性、PCLP1強陽性集団(分画C)はCD45,TER−119陰性ないし弱陽性であった(図1)。
2.分離細胞の培養結果
各分画のOP9共培養を位相差顕微鏡で観察すると、PCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性細胞をまいたウェルからは、培養開始から2−3日でOP9間質細胞の下にもぐりこんで黒く見える敷石状領域形成細胞(Cobble stone area forming cells:CAFC)が多数観察され、その周囲に白く光る多数の浮遊細胞が生じるのが観察された(図2a)。PCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性細胞をまいたウェルでは、PCLP1陰性細胞をまいたウェルと同様にCAFCが観察されたが、白く光る浮遊細胞は生じなかった(図2b)。
PCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性細胞をまいたウェルでは、培養開始後7日から10日ほどでCAFCの周囲に白く光る浮遊細胞が増殖し始めた(図2d)。PCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性細胞の培養において観察される血球増殖は約10日から数週間ほどで次第に沈静化するのに対し、PCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性細胞の培養で観察される血球増殖は数週間以上持続し、新しいOP9に継代して培養することが可能であった(図2−2g)。
一方、PCLP1強陽性かつCD45,TER−119陰性ないし弱陽性細胞をまいたウェルでは、培養開始から3−6日ほどで、まきこんだ細胞数に対して約1割ほどの頻度で内皮様コロニーが形成され、成長するのが観察された(図2−2h−j)。
3.培養によって生じた接着細胞の解析
PCLP1強陽性分画をOP9共培養することによって生じた内皮様コロニーについて、各種内皮細胞細胞表面抗原を用いて免疫組織染色を行った。その結果、CD34、CD31およびVE−Cadherinでは、アイソタイプコントロールに比して明確な染色が見られた(図3)。
4.血液細胞の解析結果
OP9共培養によって生じたPCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性分画由来の浮遊細胞を培養10日目に回収し、フローサイトメトリー法により細胞表面細胞表面抗原の発現を解析したところ、ほぼ100%が白血球細胞表面抗原であるCD45を発現しており、また造血幹細胞および造血前駆細胞表面抗原であるCD34、c−Kit、Sca−1、CD31などを高頻度に発現していた(図4)。
5.コロニーアッセイ結果
コロニーアッセイは播種した細胞10000個あたりのコロニー形成数をColony Forming Unit(CFU)として表示し、CFU−Cはコロニー形成総数、CFU−の後にその他のアルファベットが続く場合は分化した各種血球のコロニー形成数を表示し、Gは顆粒球、Mは単球およびマクロファージ、Megは巨核球、Eは赤芽球、Mixは全ての細胞が混合されているものをそれぞれ意味している。PCLP1強陽性、PCLP1中等度陽性、およびPCLP1弱陽性分画からは、いずれも血球コロニーの形成はほとんど認められなかった。PCLP1陰性分画のコロニー形成数は細胞10000個当たりCFU−C=670、肝臓全体では細胞10000個あたりCFU−C−63.3であった(図5a)。また、PCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性分画(分画A)のコロニー形成数は、細胞10000個あたりCFU−G=4.3,CFU−M=4.7,CFU−GM=14.7,CFU−Meg=0.7,CFU−EM=18.3,CFU−Mix=3.0,CFU−C=45.7であった(図5b)。
6.培養によって生じた血液細胞のコロニーアッセイ結果
OP9共培養によって生じた浮遊細胞を用いてコロニーアッセイを行った結果、PCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性分画由来の浮遊細胞のコロニー形成数はCFU−C=1276.7、PCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性分画由来の浮遊細胞のそれはCFU−C=543.3であり、いずれもOP9共培養前に比べて著しいコロニー形成能の上昇を認めた(図5c)。
7.培養によって生じた接着細胞の継代培養結果
OP9共培養によって生じた内皮様コロニーの免疫染色の結果、内皮細胞表面抗原であるCD34、VE−Cadherinを発現していた。また、内皮様コロニーをOP9ごとトリプシン処理し、細胞を分散して新しいOP9にまき直したところ、再び内皮様コロニーを形成し、増殖した。
考察:
PCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性細胞分画は、直ちに機能的な血球を供給可能な血球前駆細胞を含む細胞集団であるため、培養開始初期より活発に血球増殖をおこすと考えられた。これに対してPCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし中等度陽性細胞分画は、血球としてより幼若な分化段階にある細胞を含むため、OP9間質細胞との共培養において血球増殖を開始するまでに時間がかかり、PCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性細胞分画に遅れて血球前駆細胞を産生し、またこの血球増殖は長期間持続されたと考えられる。
また、PCLP1中等度陽性細胞由来浮遊細胞のみが継代培養可能であり、より長期間血球産生を維持させることが可能であったことから、この分画には自己複製する血球幹細胞が含まれる可能性を有している。また、PCLP1陰性かつCD45,TER−119強陽性細胞分画およびPCLP1中等度陽性かつCD45,TER−119弱陽性ないし陽性分画の双方において、OP9共培養前後でコロニー形成能が著しく異なり、いずれもOP9共培養後にコロニー形成能が著しく上昇したことから、OP9共培養によって血球分化、および増殖が強く誘導されたと考えられる。
フローサイトメトリー法による細胞表面抗原発現解析の結果、PCLP1強陽性細胞は既存の内皮細胞表面抗原であるCD34、CD31、Flk−1はいずれも陰性ないし弱陽性であった。しかしながらこの分画はOP9共培養を行うと、高頻度に内皮細胞表面抗原であるCD34、VE−Cadherin陽性の内皮様コロニーを形成した。従って、PCLP1強陽性細胞分画は間質細胞との共培養によって初めて内皮細胞へと分化し、内皮細胞の性質を獲得しうる内皮前駆細胞を含む細胞集団であると考えられる。このことは、抗PCLP1抗体を用いることによって、既存の内皮細胞表面抗原では得られないより幼若な内皮前駆細胞を分離可能であることを示している。
以上より、PCLP1の発現レベルおよびこれとCD45,TER−119の発現情報を組み合わせることにより、血球前駆細胞を含む細胞分画とより幼若な血球幹細胞を含む細胞分画、および内皮前駆細胞を含む細胞分画をそれぞれ分離することが可能であること、およびOP9間質細胞と共培養することにより、in vitroで血球分化、および増殖を強く誘導することが可能であり、また長期間にわたってこの増殖活性を維持させることが可能であることが示された。
【実施例2】
マウス個体組織を用いた造血前駆細胞および内皮前駆細胞の分離培養
方法
材料:
C57BL/6新生仔マウス
PBS
Collagenase/Dyspase solution(GIBCO BRL)
50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEM(GIBCO BRL)
2%FBF/PBS、OP9 cell line
抗マウスCD16/32モノクローナル抗体(Pharmingen)
ビオチン化抗マウスPCLP1モノクローナル抗体(MBL)
APC標識抗マウスc−Kitモノクローナル抗体(Pharmingen)
FITC標識抗マウスCD34モノクローナル抗体(Pharmingen)
ストレプトアビジン−APC(Molecular Probes)
7−AAD(Pharmingen)、OncostatinM(OSM)
basic fibroblast growth factor(bFGF)
stem cell factor(SCF)
マウス細胞表面抗原に対する各種抗体
MethoCult(Stem cell Technologies)
方法:
1.個体組織細胞(脾臓、骨髄)の調製
新生仔マウスより脾臓および骨髄を摘出した。脾臓もしくは骨髄を胎仔一腹(6−12胚)あたり12mlのCollagenase/Dyspase solutionに浸し、解剖ハサミを用いて粉砕したのち、COインキュベーターにて37℃10分間インキュベートし、酵素処理を施した。10mlのガラスピペットで十分にピペッティングし、細胞を分散し、遠心用チューブに移して等量の50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMを加えて混合し、800rpmで4℃10分間遠心した。上清を除き、50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMに再懸濁し、ヘモサイトメーターを用いて細胞数を計測した。
2.抗体反応
抗マウスCD16/32モノクローナル抗体を50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMで100倍希釈し、脾臓細胞もしくは骨髄細胞1×10細胞あたり0.1ml加えて混合し、氷上に15分間放置し、FcR block処理することによって抗体の非特異的な結合を阻止した。4本のチューブに、それぞれおよそ1×10程度の細胞を分注し、各チューブに以下の抗体を加えて混合し、それぞれアイソタイプコントロールおよび蛍光補正用サンプルとした。抗体は、いずれも100倍希釈になるように加えた。
1本目:FITC標識ラットIgG2a、PE標識ラットIgG2aおよびビオチン化ラットIgG2a
2本目:FITC標識抗マウスCD45モノクローナル抗体、PE標識ラットIgG2aおよびビオチン化ラットIgG2a
3本目:FITC標識ラットIgG2a、PE標識抗マウスCD45モノクローナル抗体およびビオチン化ラットIgG2a
4本目:FITC標識抗ラットIgG2a、PE標識ラットIgG2aおよびビオチン化抗マウスCD45モノクローナル抗体
残りの細胞にビオチン化抗マウスPCLP1モノクローナル抗体、APC標識抗マウスc−Kitモノクローナル抗体およびFITC標識抗マウスCD34モノクローナル抗体をそれぞれ100倍希釈になるように加えて混合してサンプルとした。抗体添加後の細胞は、それぞれ氷上に30分間放置した。アイソタイプコントロール、蛍光補正用サンプルおよびサンプルを、それぞれ氷冷した2%FBS/PBSで洗浄した。2%FBS/PBSで50倍希釈したストレプトアビジン−APCにアイソタイプコントロール、蛍光補正用サンプルおよびサンプルをそれぞれ再希釈し、氷中に30分間放置した。氷冷した2%FBS/PBSで洗浄した。1×10細胞あたり5μlの7−AADに希釈し、室温に5分間放置した。2%FBS/PBSもしくはPBSに2×10−5×10/mlになるよう希釈し、細胞分離装置用チューブに移した。
3.ソート(細胞解析および分離)
アイソタイプコントロールおよび蛍光補正用サンプルを用いて、細胞分離装置(セルソーター)の各パラメーターの感度および蛍光補正を行った。サンプルをPCLP1の蛍光強度と細胞の大きさ(FS peak)で展開し、アイソタイプコントロールの蛍光強度に対し、サンプルのPCLP1強陽性、中等度陽性、弱陽性および陰性の領域にそれぞれゲートを設定すると共に、CD34、c−Kitとの組み合わせ染色において各細胞表面抗原との関係を解析およびゲート設定した。ソートした細胞群は50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMを入れたチューブに細胞を分取し、細胞数をヘモサイトメーターにて計測した。
4.分離細胞のin vitro培養
10センチディッシュあるいは6ウェルプレートにOP9間質細胞を約70−90%コンフルエント程度になるまで50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMで培養しておき、これにソートした細胞適当数を、サイトカイン(10μg/ml OSM、1μg/ml bFGF、100μg/ml SCF)入り培地に置換した後にまき込んだ。共培養シャーレはCOインキュベーターで37℃、CO分圧5%の条件下で培養した。まき込み翌日から数週間に渡り、それぞれの分画における血球産生を顕微鏡で観察した。
結果:
1.脾臓における発現パターン解析
脾臓におけるPCLP1の発現は、強度別に強陽性(PCLP1++;約1%)、中等度陽性(PCLP1+;約30%)、弱陽性(PCLP1low;約18%)および陰性(PCLP1−;約51%)の4集団に分けられることが明らかとなった(図7)。このPCLP1の発現パターンは胎生14.5日の胎仔肝におけるPCLP1の発現パターンと類似していた(図6および図7)。一方、CD34陽性かつc−Kit陽性の細胞分画は、約5%程度の明確な集団として検出され、この分画内でのPCLP1の発現は主に陰性であったが、弱陽性ないし陽性領域にもわずかな分布が認められた。
2.脾臓細胞の間質細胞共培養
PCLP1強陽性分画では、培養10日目で胎仔肝のPCLP1強陽性細胞のOP9共培養から生じた内皮細胞様のコロニーと形態的に類似した内皮細胞様のコロニーが多数形成されているのが観察された(図8a,b)。
3.骨髄における発現パターン解析
骨髄におけるPCLP1の発現は、強度別に強陽性(約1%)、中等度陽性(約14%)、弱陽性(約8%)および陰性(約77%)の4集団に分けられることが明らかとなった(図7)。十分に年齢を重ねたマウスにおいては中等度陽性細胞の割合が1%程度に減少するという傾向が見られたが、血球産生能に関しては幼弱なマウスと同様の傾向が観察された。
4.骨髄細胞の間質細胞共培養
PCLP1陽性細胞をOP9間質細胞と共培養すると、培養開始から1週間以内で浮遊性の血球がクラスター状に生じるのが観察され、敷石(Cobble stone)様の細胞も認められた。培養11日目では、浮遊細胞が激しく増殖して雲海状になり、OP9は完全に見えなくなった(図8c)。その後、1ヶ月以上に渡って血球細胞を産生し続けた(図8d)。OP9共培養13日目にOP9共培養によって生じた浮遊細胞を回収し、フローサイトメトリー法による細胞表面抗原の発現解析を行った。その結果、ほぼ100%がCD45を発現しており、また造血幹細胞、および造血前駆細胞表面抗原であるc−Kit、CD31などを高頻度に発現していた(図9)。
5.コロニーアッセイ
PCLP1+細胞を骨髄より分離後、コロニーアッセイに供したところ、それぞれ細胞10000個あたりCFU−G=2.2、CFU−M=75.6、CFU−GM=5.6、CFU−E=33.3、CFU−Mix=1.1およびCFU−C=117.8の活性を持つことが判明した(図10)。PCLP1+細胞をOP9共培養13日目にOP9共培養によって生じた浮遊細胞を回収し、コロニーアッセイを行なったところ、それぞれ細胞10000個あたりCFU−G=1006.7、CFU−M=360.0、CFU−GM=253.3、CFU−E=206.7、CFU−Mix=40.0およびCFU−C=1866.7であった(図10)。
考察:
個体組織においてもPCLP1強陽性細胞が低頻度であるが存在し、OP9共培養によって胎仔肝のPCLP1強陽性細胞から生じるものと形態的に類似した内皮様のコロニーを生じることが示された。また、胎仔肝と共通してPCLP1陽性細胞の血球増殖はPCLP1陰性細胞よりも遅れて活発化した。以上の結果より、胎仔の発生過程において初めて成体型の造血が始まるAGM領域から、肝臓、個体組織と造血の場が移動していく間、それぞれの造血器官に一貫してPCLP1強陽性細胞分画と中等度陽性細胞分画が存在すること、およびその遷移の中で一貫してPCLP1強陽性細胞分画は内皮の前駆細胞を高頻度に含み、中等度陽性細胞は長期間にわたって血球を産生し続ける造血幹細胞様の幼若な細胞を含むことが示された。
またOP9などの間質共培養系を用いることにより、個体組織由来の未成熟前駆細胞は長期間にわたって体外で増殖可能であることが示された。また、CD34陽性かつc−Kit陽性細胞分画は、造血幹細胞、および造血前駆細胞分画をある程度濃縮した分画であると考えられるが、この分画内のPCLP1陽性細胞集団は血球分化段階が異なる亜分画である可能性が高いと考えられた。つまり、造血幹細胞、および造血前駆細胞分画においてもPCLP1を発現している細胞集団がより幼若である可能性があると考えられる。しかしながら、間質細胞共培養後の浮遊細胞のコロニー形成能は、PCLP1陰性分画由来細胞のほうが高い傾向があった。これは、PCLP1陽性分画だけがこの後数週間にわたって血球を生じ続けたことから、この時点のPCLP1陽性分画は、血球分化の分化段階において最も増殖活性の高い時期にまだ達していなかったためであると考えられた。
【実施例3】
ヒト骨髄からのPCLP1陽性細胞の分離および反応性の確認
方法:
1.細胞
ヒト骨髄単核球(BMMC)は、Cambrex社(日本代理店三光純薬)より購入した凍結細胞を用いた。遺伝子導入用のCHO細胞は理化学研究所バイオリソースセンターより購入したものを10%FBS(MBL社)および50μg/mlジェンタマイシン(GIBCO社)入りのF12HAM培地(SIGMA)で継代したものを用いた。
2.遺伝子導入およびヒトPCLP1分子強制発現細胞株の確立
ヒトPCLP1cDNAはヒト胎盤ライブラリーよりクローニングし、全長配列および膜外領域をpcDNA3.1ベクター(Invitrogen社)を用いて動物細胞発現コンストラクトを構築した。コンストラクトの構造を図11に示す。全長PCLP1遺伝子由来の膜発現リコンビナントは、293T、CHO等の細胞表面に発現させ、抗体の反応性の評価に用いることができる。細胞膜外領域PCLP1遺伝子由来の分泌発現リコンビナントは、昆虫細胞もしくは動物細胞の培地中にリコンビナント蛋白質として分泌発現させ、免疫原およびELISAに用いることができる。70%コンフレントになったCHO細胞にそれぞれ6μgのコンストラクトをTransITキット(PanVera社)を用いて遺伝子導入し、700μg/ml G418(GIBCO社)入りの10%FBS−F12HAM培地で培養することによって遺伝子導入された細胞のみを選択し、膜結合型(クローン:12C)および分泌型(クローン:18E)PCLP1分子を安定的に発現する細胞株をそれぞれ得た。
3.分泌型遺伝子組換えPCLP1の精製
分泌型PCLP1発現細胞株18Eを10%FBS−F12HAM培地1Lで一週間培養し、PBSで4℃一晩透析した後に、WGA−Sepharoseカラム(アマシャム社)を用いて精製した。カラムに吸着したリコンビナントPCLP1を200mM Nアセチルグルコサミン入りのPBSで溶出し、溶出画分を再度リン酸緩衝液(ph7.4)で透析し、DEAE−Sepharose(アマシャム社)に吸着させた。カラムに吸着させたリコンビナントを1MNaClの入ったPBSで溶出し、溶出されたフラクションをまとめてリン酸緩衝液(ph7.4)で5倍希釈した後に、ConAセファロース(アマシャム社)に吸着させた。カラムに吸着させたリコンビナントをαジメチルグルコース0〜200mMに濃度勾配を作ったPBSで溶出させ、mycタグ抗体(MBL社)で反応性のある画分を精製品とした(図13)。カラムの平衡化および洗浄にはPBSを用いた。
4.遺伝子導入細胞および精製蛋白質の蛋白質発現の確認
遺伝子導入細胞および精製蛋白質が目的とするPCLP1の遺伝子組換え蛋白質であることは、WesternBlot法によって確認した。10%ポリアクリルアミドゲルでサンプルを電気泳動した後に、ゲルからPVDF膜(ミリポア社)に電気的に蛋白質の転写を行った。転写された膜は5%Skimmilk−PBSで4℃一晩ブロッキングを行った。膜をPBSで洗浄したあと、抗mycタグ抗体(MBL社)を2000倍希釈したもので室温1時間反応させ、PBSで洗浄後に、抗マウスIgG(H+L)ペルオキシダーゼ標識抗体(MBL社)を3000倍希釈したもので室温1時間反応させた。膜をPBSで十分に洗浄し、SuperSignal発色基質(PIERCE社)で発色させ、シグナルをX線フィルム(富士フィルム)に感光させた。
5.モノクローナル抗体作成
Balb/cマウスに予めコンプリートアジュバント(ヤトロン社)100μlを注射しておき、1日後にPBSで懸濁した遺伝子導入細胞を1x10細胞ずつ3日間隔で4回免疫した。最終免疫から2日後にマウスよりリンパ節を摘出し、P3U1ミエローマ細胞株を総リンパ球数に対して3分の1を加えて、ポリエチレングリコール(WAKO社)を用いて細胞融合させた。融合細胞はHAT培地(GIBCO社)で2週間培養することによって融合細胞のみを選択し、得られた融合細胞(ハイブリドーマ)の培養上清を遺伝子導入細胞に対する反応性をフローサイトメトリーで確認し、反応性の強いハイブリドーマを継代した。ハイブリドーマは10%FBS−RPMI培地1Lで培養し、培養上清をPBSで透析した後にProteinAカラム(アマシャム社)に吸着させた。吸着させたモノクローナル抗体は0.17Mglycin−HCl緩衝液(ph4.0)で溶出させ、溶出画分をまとめてPBSに透析した。モノクローナル抗体はフローサイトメトリーでの反応性を確認する目的で、EZ−Linkビオチン化キット(PIERCE社)を用いてビオチン化修飾を一部行った。
6.フローサイトメトリー、セルソーター
フローサイトメトリーおよびセルソーターを行う際に用いたモノクローナル抗体類は、CD45−PE、CD45−FITC、CD117−PE、CD34−PE、IgG2a−FITC、IgG1−FITC、IgG2a−PE、IgG1−PE、ストレプトアビジンFITC等を用いたが、これらは全てImmunotech社の製品を使用した。凍結細胞を37℃で融解させ、10%FBS(MBL社)入りのIMDM培地(SIGMA社)で洗浄したあとに、5%FBS−PBSに懸濁させた。ビオチン標識PCLP1抗体を50μg/ml、PE標識市販抗体を同時に氷中1時間で反応させた。5%FBS−PBSで数回細胞を洗浄させたあと、ストレプトアビジン−FITCを氷中20分間反応させた。細胞を洗浄させたあとに5%FBS−PBSに5x10細胞/mlになるように懸濁して、BeckmannCoulter社EpicsAltraにて解析および細胞分取を行った。
結果:
1.ヒトPCLP1蛋白質強制発現細胞株の確立
CHO細胞に全長および細胞膜外領域PCLP1遺伝子を強制発現させ、それぞれ遺伝子組換え蛋白質を安定的に発現する細胞株を確立した(図12)。全長PCLP1発現細胞株クローン12Cはモノクローナル抗体作製を行う際の免疫原およびフローサイトメトリーにおける反応性の確認に用い、膜外PCLP1を発現する細胞株18Eは細胞培養液からの遺伝子組換え蛋白質の精製に使用した。18E細胞培養液からはWGAおよびConAなどの糖鎖を認識する蛋白質を結合させた担体(Sepharose)を用いることによって、遺伝子組換え蛋白質を濃縮することができることを確認した(図13)。
2.ヒトPCLP1を認識するモノクローナル抗体の作製
遺伝子発現細胞株をマウスに免疫することによって、抗ヒトPCLP1モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(クローン53D11等)を確立した。ハイブリドーマ培養上清より抗ヒトPCLP1モノクローナル抗体を精製し、ビオチン化標識抗体などを作製した。得られた抗体は全長ヒトPCLP1蛋白質を発現する細胞株(12C)に対して反応性を持っていることを確認した(図14)。
3.抗ヒトPCLP1モノクローナル抗体の反応性の確認
作製したモノクローナル抗体は、骨髄に反応性を持っていることを確認した(図15)。ヒト個体の骨髄細胞より細胞分離を行ったところ、本抗体を用いて実際に細胞を分離できることが明らかとなった(図15)。抗ヒトPCLP1抗体で反応した細胞集団はこれまで知られている造血幹細胞集団(CD34陽性細胞)とは一部細胞集団が重なるが、大部分は別集団であることが確認された。
考察:
動物細胞に遺伝子組換え蛋白質を発現させた材料を用いてヒトPCLP1分子を認識するモノクローナル抗体を作製した。ヒト骨髄におけるPCLP1分子発現細胞は1%未満と大変低く、発現細胞の分布は造血幹細胞(CD34)の集団とは殆ど重なっていないことが明らかとなった。これはマウスにおける骨髄での発現様式とも一致する知見である。
【実施例4】
CD34+c−Kit+集団とPCLP1の関係の解析
材料:
C57BL/6マウス
PBS
Collagenase/Dyspase solution(GIBCO BRL)
50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEM(GIBCO BRL)
2%FBF/PBS、OP9 cell line
抗マウスCD16/32モノクローナル抗体(Pharmingen)
ビオチン化抗マウスPCLP1モノクローナル抗体(MBL)
APC標識抗マウスc−Kitモノクローナル抗体(Pharmingen)
FITC標識抗マウスCD34モノクローナル抗体(Pharmingen)
ストレプトアビジン−APC(Molecular Probes)
7−AAD(Pharmingen)
OncostatinM(OSM)、basic fibroblast growth factor(bFGF)
stem cell factor(SCF)
マウス細胞表面抗原に対する各種抗体
MethoCult(Stem cell Technologies)
方法:
1.新生仔骨髄細胞の調整
マウスを氷中に10分間放置して安楽死させ、実体顕微鏡下で大腿骨を摘出した。大腿骨を6−12個体あたり12mlのCollagenase/Dyspase solutionに浸し、ピンセットを用いて砕いた。COインキュベーターにて37℃10分間インキュベートし、骨ごと酵素処理を施した。10mlのガラスピペットで十分にピペッティングして細胞を懸濁した後、フィルトレーションしながら遠心用チューブに移し、等量の50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMを加えて混合し、1200rpmで4℃10分間遠心した。上清を除き、50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMに再懸濁し、ヘモサイトメーターを用いて細胞数を計測した。
2、抗体反応
抗マウスCD16/32モノクローナル抗体を50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMで100倍希釈し、骨髄細胞1×10細胞あたり0.1ml加えて混合し、氷上に15分間放置し、FcR block処理することによって抗体の非特異的な結合を阻止した。4本のチューブにそれぞれおよそ1×10程度の細胞を分注し、それぞれに以下の抗体を加えて混合し、アイソタイプコントロールおよび蛍光補正用サンプルとした。抗体は、いずれも100倍希釈になるよう加えた。
1本目:FITC標識ラットIgG2a、PE標識ラットIgG2aおよびビオチン化ラットIgG2a
2本目:FITC標識抗マウスCD45モノクローナル抗体、PE標識ラットIgG2aおよびビオチン化ラットIgG2a
3本目:FITC標識ラットIgG2a、PE標識抗マウスCD45モノクローナル抗体およびビオチン化ラットIgG2a
4本目:FITC標識抗ラットIgG2a、PE標識ラットIgG2aおよびビオチン化抗マウスCD45モノクローナル抗体
残りの細胞にビオチン化抗マウスPCLP1モノクローナル抗体、APC標識抗マウスc−Kitモノクローナル抗体およびFITC標識抗マウスCD34モノクローナル抗体をそれぞれ100倍希釈になるように加えて混合し、これをサンプルとした。それぞれ氷上に30分間放置し、アイソタイプコントロール、蛍光補正用サンプルおよびサンプルを、それぞれ氷冷した2%FBS/PBSで洗浄した。2%FBS/PBSで50倍希釈したストレプトアビジン−APCにアイソタイプコントロール、蛍光補正用サンプルおよびサンプルをそれぞれ再希釈し、氷中に30分間放置した。氷冷した2%FBS/PBSで洗浄し、1×10細胞あたり5μlの7−AADに希釈し、室温に5分間放置した。2%FBS/PBSもしくはPBSに2×10−5×10/mlになるよう希釈し、細胞分離装置用チューブに移した。
3.ソート
アイソタイプコントロールおよび蛍光補正用サンプルを用いて、細胞分離装置(セルソーター)の各パラメーターの感度および蛍光補正を調整した。アイソタイプコントロールの蛍光強度に対し、サンプルのCD34陽性かつc−Kit陽性の細胞集団にゲートをかけ、このゲート内をさらにPCLP1の発現強度で展開し、CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陽性、およびCD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陰性の二つのソートゲートを設定した。CD34陽性かつc−Kit陽性の細胞分画を100%としたとき、PCLP1陰性亜分画が約58%、PCLP1陽性亜分画が約15%となるようソートゲートを設定した。50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMを入れたチューブに細胞を分取した。分取した細胞を再び解析し、設定したゲートどおりに純度良く分取されているかどうか確認した。細胞の分取後、必要であれば遠心して上清を除き、液量減らした。得られた細胞数をヘモサイトメーターにて計測した。
4.OP9間質細胞との共培養
10センチディッシュあるいは6ウェルプレートにOP9間質細胞を約70−90%コンフルエント程度になるまで50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMで培養しておく。これにソートした細胞を播種する直前に培地をサイトカイン(10μg/ml OSM、1μg/ml bFGF、100μg/ml SCF)入りのものに置換した。ソートによって得られたCD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陽性分画、およびCD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陰性分画を、それぞれ6ウェルプレートの1ウェルあたり3000細胞ずつまき込んだ。COインキュベーターで37℃、CO分圧5%の条件下で培養し、まき込み翌日から数週間に渡ってそれぞれの分画における血球産生を顕微鏡で観察した。
5.OP9共培養によって生じた浮遊細胞の解析
OP9共培養開始から数日後、十分量の浮遊細胞が生じた後OP9の混入に注意しながら浮遊細胞のみを遠心用チューブに回収した。得られた細胞を用いてフローサイトメトリー法による細胞表面抗原の発現解析、およびコロニーアッセイ法による血球増殖活性の測定を行った。
結果:
1.骨髄におけるPCLP1、c−Kit、CD34の発現パターン
骨髄におけるPCLP1の発現は、強度別に強陽性(約1%)、中等度陽性(約14%)、弱陽性(8%)および陰性(約77%)の4集団に分けられることが明らかとなった(図7)。一方、CD34陽性かつc−Kit陽性の既存の造血幹細胞分画は、約6%程度の明確な集団として検出され、この分画内でのPCLP1の発現は主に陰性であったが、弱陽性ないし陽性領域にもわずかな分布が認められた(図16)。この傾向はヒト骨髄でも同様であることが確認された(図15)。
2.OP9間質細胞との共培養結果
OP9共培養後に各分画を位相差顕微鏡で観察すると、培養開始から7日−14日の間はCD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陽性分画ではディッシュの数箇所で血球クラスターが形成され、浮遊性の血球様細胞が増殖するのが観察された程度であったのに対し、CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陰性分画ではOP9間質細胞が見えなくなるほど大量の浮遊性の血球様細胞が生じるのが観察された(図17a、b)。PCLP1陰性分画では産生される血球量があまりに多く、培養液中の細胞数が増えすぎるあまり培養系の生物活性が低下する恐れが生じたため、培養2週目で2度ほど培養上清を交換した。
しかしながら、培養開始から3週目に入るころには、これらふたつの分画の血球増殖活性は逆転し、PCLP1陰性分画は次第に血球を生じなくなったのに対し、PCLP1陽性分画は次第に活発に血球を生じるようになった(図17c、d)。培養15日目で両分画の浮遊細胞を回収したところ、PCLP1陽性分画では、OP9の下にもぐりこんで黒く見えるCobble stone様の細胞数が一見して陰性分画のそれよりも著しく多かった。
3.OP9共培養で生じた浮遊細胞の解析結果
OP9共培養15日目に両分画より浮遊細胞をそれぞれ回収したところ、PCLP1−分画からは十分量の細胞を得ることができなかったため、PCLP1+分画についてのみフローサイトメトリー法による細胞表面抗原の発現解析を行った。その結果、ほぼ100%がCD45を発現しており、また造血幹細胞および造血前駆細胞表面抗原であるCD34、c−Kit、CD31などを高頻度に発現していた(図18)。また、遅れて血球増殖が活発化したPCLP1陽性分画は、その後も数週間にわたって血球増殖活性を維持した。
4.OP9共培養によって生じた浮遊細胞のコロニーアッセイ結果
OP9共培養15日目に両分画より浮遊細胞をそれぞれ回収用し、コロニーアッセイを行った結果、それぞれ細胞10000個あたりPCLP1陽性分画由来浮遊細胞はCFU−C=753.3、PCLP1陰性分画由来浮遊細胞のそれはCFU−C=1583.3であった(図19)。
考察:
OP9共培養系を用いることにより、骨髄細胞も長期間にわたって体外で増殖可能であることが示された。また、CD34陽性かつc−Kit陽性細胞分画は、造血幹細胞および造血前駆細胞分画をある程度濃縮した分画であると考えられるが、この分画の内部をさらにPCLP1の陽陰性で亜分画化すると、それぞれの分画の血球増殖を起こすまでに要する時間が著しく異なることから、これらは血球分化における分化段階が異なる亜分画である可能性が高いと考えられる。
つまり、造血幹細胞および造血前駆細胞分画においてもPCLP1を発現している低頻度の細胞集団がより幼若である可能性がある。しかしながら、同じ培養15日目の浮遊細胞のコロニー形成能は、PCLP1陰性分画由来細胞のほうが2倍以上も高かった。これは、PCLPI陽性分画だけがこの後数週間にわたって血球を生じ続けたことから、この時点のPCLP1陽性分画は、血球分化の分化段階において最も増殖活性の高い時期にまだ達していなかったためであると考えられる。
胎児発生において造血が発生するとされるAGM領域ではCD34陽性細胞の約90%がPCLP1を発現している(WO 01/34797)。今回の結果で更に、造血の場がAGMから胎児肝臓、骨髄へと次第に移り変わることによって、CD34+細胞中のPCLP1+細胞の割合は胎児肝臓で50%程度、骨髄で数%程度と劇的に減少してゆく(図1ならびに図16)。ヒト骨髄における分布もマウスの結果とほぼ一致した(図1ならびに図15)。このことはこれまでに造血幹細胞集団だと考えられていたCD34陽性細胞集団はある程度血球への分化が進んだ血球細胞もしくは血球前駆細胞を含む集団と記述するべきであり、CD34陽性細胞集団の中での真の造血幹細胞と言うべき集団はCD34+PCLP1+であると考えることができる。
本論理を裏付ける実験結果としては、間質細胞との共培養系において造血活性を有するまでの期間が、CD34+c−Kit+PCLP1−では比較的早く血球増殖を始め、増殖を終了するまでの時間も早いのに対して、CD34+c−Kit+PCLP1+の細胞集団は血球増殖を開始するまでの期間が長く、長期間血球を産生し続けるという現象を挙げることができる(図17)。さらに、CD34+c−Kit+PCLP1+画分を間質細胞と共培養することによって得られる血球細胞は、CD34+c−Kit+PCLP1−であることから、今まで幹細胞として議論されてきたCD34+c−Kit+細胞集団そのものを作ることができる幹細胞の本体であることが分かる(図18)。
【実施例5】
マウス個体脾臓を用いた造血前駆細胞および内皮前駆細胞の分離培養方法
材料:
C57BL/6新生仔マウス
PBS
Collagenase/Dyspase solution(GIBCO BRL)
50ug/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEM(GIBCO BRL)
2%FBF/PBS
OP9 cell line
抗マウスCD16/32モノクローナル抗体(Pharmingen)
ビオチン化抗マウスPCLP1モノクローナル抗体(MBL)
APC標識抗マウスc−Kitモノクローナル抗体(Pharmingen)
FITC標識抗マウスCD34モノクローナル抗体(Pharmingen)
ストレプトアビジン−APC(Molecular Probes)
7−AAD(Pharmingen)
OncostatinM(OSM)
basic fibroblast growth factor(bFGF)
stem cell factor(SCF)
マウス細胞表面抗原に対する各種抗体
MethoCult(Stem cell Technologies)
方法:
1.個体脾臓細胞の調整
新生仔マウスを氷中に10分間放置して安楽死させ、実体顕微鏡下で脾臓を摘出した。脾臓を胎仔一腹(6−12胚)あたり12mlのCollagenase/Dyspase solutionに浸し、解剖ハサミを用いて粉砕した。COインキュベーターにて37℃10分間インキュベートし、酵素処理した。
10mlのガラスピペットで十分にピペッティングし、細胞を分散した。細胞を遠心用チューブに移し、等量の50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMを加えて混合し、800rpmで4℃10分間遠心した。上清を除き、50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMに再懸濁し、ヘモサイトメーターを用いて細胞数を計測した。
2.抗体反応
抗マウスCD16/32モノクローナル抗体を50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMで100倍希釈し、脾臓細胞1×10細胞あたり0.1ml加えて混合し、氷上に15分間放置し、FcR block処理することによって抗体の非特異的な結合を阻止した。4本のチューブにそれぞれおよそ1×10程度の細胞を分注し、それぞれのチューブについて以下の抗体を加えて混合し、それぞれアイソタイプコントロールおよび蛍光補正用サンプルとした。なお抗体はいずれも100倍希釈になるように加えた。
1本目:FITC標識ラットIgG2a、PE標識ラットIgG2aおよびビオチン化ラットIgG2a
2本目:FITC標識抗マウスCD45モノクローナル抗体、PE標識ラットIgG2aおよびビオチン化ラットIgG2a
3本目:FITC標識ラットIgG2a、PE標識抗マウスCD45モノクローナル抗体およびビオチン化ラットIgG2a
4本目:FITC標識抗ラットIgG2a、PE標識ラットIgG2aおよびビオチン化抗マウスCD45モノクローナル抗体
残りの細胞にビオチン化抗マウスPCLP1モノクローナル抗体、APC標識抗マウスc−Kitモノクローナル抗体およびFITC標識抗マウスCD34モノクローナル抗体をそれぞれ100倍希釈になるように加えて混合してサンプルとした。抗体添加後の細胞は、それぞれ氷上に30分間放置した。
アイソタイプコントロール、蛍光補正用サンプルおよびサンプルを、それぞれ氷冷した2%FBS/PBSで洗浄した。2%FBS/PBSで50倍希釈したストレプトアビジン−APCにアイソタイプコントロール、蛍光補正用サンプルおよびサンプルをそれぞれ再希釈し、氷中に30分間放置した。氷冷した2%FBS/PBSで洗浄した。1×10細胞あたり5μlの7−AADに希釈し、室温に5分間放置した。2%FBS/PBSもしくはPBSに2×10−5×10/mlになるよう希釈し、細胞分離装置用チューブに移した。
3.ソート(細胞分離)
細胞分離装置を用いて、アイソタイプコントロールおよび蛍光補正用サンプルを用いて各パラメーターの感度および蛍光補正を調整した。アイソタイプコントロールの蛍光強度に対し、サンプルのCD34陽性かつc−Kit陽性の細胞集団にゲートをかけ、このゲート内をさらにPCLP1の発現強度で展開し、次の3つの領域にソートゲートを設定した。
CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陽性
CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1弱陽性、および
CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陰性
CD34陽性かつC−Kit陽性の細胞分画を100%としたとき、PCLP1陽性亜分画が約16%、PCLP1弱陽性亜分画が約13%、およびPCLP1陰性亜分画が約71%となるようソートゲートを設定した。また、サンプルをPCLP1の蛍光強度と細胞の大きさ(FS peak)で展開し、アイソタイプコントロールの蛍光強度に対し、サンプルのPCLP1強陽性、中等度陽性、弱陽性および陰性の領域にもそれぞれゲートを設定した。
10μg/ml OSM、1μg/ml bFGF、100μg/ml SCFを混合した50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMを入れたチューブに細胞を分取した。、分取した細胞を再び解析し、設定したゲートどおりに純度良く分取されているかどうか確認した。得られた細胞数をヘモサイトメーターにて計測した。
4.OP9間質細胞との共培養
10センチディッシュあるいは6ウェルプレートにOP9間質細胞を約70−90%コンフルエント程度になるまで50μg/ml ゲンタマイシン/15%FBS/DMEMで培養した。これにソートした細胞を播種する直前に培地をサイトカイン(10μg/ml OSM、1μg/ml bFGF、100μg/ml SCF)入りのものに置換した。ソートによって得られた以下の細胞をまき込んだ。
CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陽性分画(2600細胞/ウエル)、
CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1弱陽性分画(2600細胞/ウエル)、および
CD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陰性分画(2600細胞/ウエル)
PCLP1強陽性細胞(2000細胞/ウエル)
COインキュベーターで37℃、CO分圧5%の条件下で培養した。まき込み翌日から数週間に渡り、それぞれの分画における血球産生を顕微鏡で観察した。
結果:
1.脾臓におけるPCLP1、c−Kit、CD34の発現パターン
脾臓におけるPCLP1の発現は、強度別には、次の4つの集団に分けられることが明らかとなった。
強陽性(PCLP1++;約1%)、
中等度陽性(PCLP1+;約30%)、
弱陽性(PCLP1low;約18%)および
陰性(PCLP1−;約51%)
このPCLP1の発現パターンは胎生14.5日の胎仔肝におけるPCLP1の発現パターンと類似していた。一方、CD34陽性かつc−Kit陽性の細胞分画は、約5%程度の明確な集団として検出され、この分画内でのPCLP1の発現は主に陰性であったが、弱陽性ないし陽性領域にもわずかな分布が認められた。
2.OP9間質細胞との共培養結果
各分画のOP9共培養を位相差顕微鏡で観察すると、培養開始から2−3週間はCD34陽性かつc−Kit陽性かつPCLP1陰性分画では活発に血球様細胞を生じた。PCLP1弱陽性分画での血球増殖は、強陽性分画に比してやや勢いが弱く、PCLP1陽性分画ではそれよりさらに弱かった(図20c−e)。しかしながら、培養開始から一ヵ月後には、これらの血球増殖活性は逆転し、PCLP陰性分画は次第に血球を生じなくなったのに対し、PCLP1陽性分画は次第に活発に血球を生じるようになった。
一方、PCLP1強陽性分画では、培養10日目で胎仔肝のPCLP1強陽性細胞のOP9共培養から生じた内皮細胞様のコロニーと形態的に類似した内皮細胞様のコロニーが多数形成されているのが観察された(図20a,b)。
考察:
脾臓においてもPCLP1強陽性細胞が低頻度であるが存在し、OP9共培養によって胎仔肝のPCLP1強陽性細胞から生じるものと形態的に類似した内皮様のコロニーを生じることが示された。また、胎仔肝と共通してPCLP1陽性細胞の血球増殖はPCLP1陰性細胞よりも遅れて活発化した。
以上の結果より、胎仔の発生過程において初めて成体型の造血が始まるAGM領域から、肝臓、脾臓と造血の場が移動していく間、それぞれの造血器官に一貫してPCLP1強陽性細胞分画と中等度陽性細胞分画が存在すること、およびその遷移の中で一貫してPCLP1強陽性細胞分画は内皮の前駆細胞を高頻度に含み、中等度陽性細胞は長期間にわたって血球を産生し続ける造血幹細胞様の幼若な細胞を含むことが示された。
【実施例6】
骨髄から血管内皮前駆細胞を回収する方法
材料:
PBS
70%エタノール
50μg/ml ゲンタマイシン/15% FBS/DMEM(GIBCO BRL)
ACKバッファー:以下のStock Bufferを滅菌処理した後、A’:B=9:1で混合し作製した。
Stock buffer A’155mM NHCl,10mM KHCO,1mM EDTA−2Na
Stock buffer B 0.17M Tris−HCl(pH7.65)
5% FBS/PBS
FcR blocker(Pharmingen社)
ビオチン化抗マウスPCLP1モノクローナル抗体(MBL社)
streptoavidin magnet beads(Miltenyi Biotec社)
SCF
bFGF
mOSM
OP9
器具類
解剖台、ハサミ、ピンセット、キムワイプ、ファルコンチューブ、1mlシリンジ(テルモ社)、18 G注射針(テルモ社)、セルストレーナー(ファルコン社)
auto MACS(Miltenyi Biotec社)
COインキュベーター(SANYO社)
方法:
1.骨髄の回収
3ヶ月齢以上のC57BL/6jマウス50匹を麻酔し、頚椎脱臼によって処置した。マウスを仰向けに解剖台にのせ、70%エタノールを充分に噴霧し、足の皮膚にハサミで切り込みを入れ、余分な脂肪と筋肉をハサミで切って除去した。足の付け根をハサミで押さえて脱臼させ、大腿骨を摘出し、キムワイプでよく揉んで余分な肉を除去した。大腿骨の両側をハサミで切り、シリンジに針をつけて培地を適量とった。培地を入れた50mlファルコンチューブの上にピンセットで大腿骨を持ち、針先を骨の中に入れ、ピストンを一気に押し、大腿骨の中の骨髄を出した。
2.サンプル調製
骨髄を回収したチューブを1200rpmで5分遠心して上清を捨て、ACKバッファーを20ml加えてピペッティングを行い、氷上で10分静置した。等量の培地を加えてピペッティングを行った。セルストレーナーをセットした50mlファルコンチューブに移して余分な組織やごみを除去した。1200rpmで5分遠心して上清を捨て、培地を加えてピペッティングを行い、再度1200rpmで5分遠心した。上清を捨て、培地を10.5ml加えて懸濁し、細胞懸濁液を、セルストレーナーを通した。細胞数を計測し、一部を別のチューブに移して保存した。FcRブロッカーを1x10cells/mlに対して10μl加え、氷上で15分反応させた。抗マウスPCLP1抗体を終濃度20μg/mlになるように加えて氷上で30分反応させ、培地を加えて15mlにメスアップ後、1200rpm、5分遠心した。上清を捨て、再度培地を加えて15mlにメスアップ後、1200rpm、5分遠心した後、上清を捨てstreptoavidin−magnet beadsを4beads/cellで加えた。氷上に10分静置した後、培地を加えて1200rpmで5分遠心し、上清を捨て、再度培地を加えて1200rpmで5分遠心した。上清を捨て、PBS +5% FBSに懸濁し、細胞懸濁液をセルストレーナーに通した。
3.AutoMACSによる細胞分離
AutoMACSプログラムのPOSSELD2を選択して細胞を分離し、PCLP1陽性細胞とPCLP1陰性細胞をそれぞれファルコンチューブに回収した。
4.共培養(操作1、2は共培養開始の前日までにおこなった)
OP9細胞を6−well plateに1ウェルあたり1x10cellsずつ播種し、37℃で一晩培養した。培地にサイトカインをそれぞれOSM 10ng/ml、SCF 100ng/ml、bFGF 1ng/mlで添加し、PCLP1陽性、PCLP1陰性、分離前の細胞を1ウェルあたり1x10cellsずつ細胞を播種し、37℃で培養した。
結果:
C57BL/6Jマウス50匹より大腿骨100本を摘出し、骨髄細胞を分離した。得られた骨髄細胞数は、全骨髄細胞1.1x10cellsであった。得られた骨髄よりAutoMACSを用いてPCLP1陽性細胞の分離を行ったところ、PCLP1陽性細胞2.6x10cellsを得ることができた。全骨髄細胞、PCLP1陽性細胞、PCLP1陰性細胞をそれぞれOP9ストローマ細胞との共培養を行ったところ、培養8日目にPCLP1陽性細胞を播種したウェルだけ造血幹細胞が増殖しているcobble−stoneの形成と内皮前駆細胞様コロニーが認められた(図21−2)。他方、全骨髄細胞(図21左)、あるいはPCLP1陰性細胞(図21右)の培養においては、cobble−stoneの形成と内皮前駆細胞様コロニーは生じなかった。
以上のことより、個体骨髄には低頻度であるが内皮前駆細胞が存在し、PCLP1に対するモノクローナル抗体を用いることによって内皮前駆細胞に分化する細胞集団が分離できることが判明した。
産業上の利用の可能性
本発明によって得ることができる造血幹細胞は、様々な血液疾患の治療に有用である。具体的には白血病免疫不全症などをあげることができる。これらの疾患においては、患者に本発明によって得られる造血幹細胞を自家移植又は同種移植することによって、造血系を再構築し、上記疾患の根治的な治療を可能とする。本発明により造血幹細胞をin vitroで増幅し、またその過程において遺伝子導入できる可能性が高いことから、本発明は血液疾患における幹細胞移植及び遺伝子治療に極めて有用な方法を提供する。
一方、本発明によって得ることができる血管内皮前駆細胞は、血管疾患の治療に有用である。具体的には、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞などを挙げることができる。これらの疾患においては、閉塞した動脈に代わって新たな血管を再生し、また、障害を受けた血管内皮細胞を再生することで、十分な血行を再建し、これら疾患を根治できる可能性がある。これまでにも骨髄細胞を用いて、このような試みがなされてきたが、骨髄細胞中には血管内皮前駆細胞は少数しか存在せず、骨、筋肉、脂肪細胞などにも分化しうる細胞を含んでいるため、骨髄細胞を直接的に移植する方法に対する危険性が指摘されてきた。本発明は、血管内皮前駆細胞を単離し、in vitroの培養により増幅することを特徴とするため、血管内皮細胞を選択的に移植することが可能であると考えられる。また本発明における、血管内皮前駆細胞のin vitro養系は、血管新生を抑制することによってガンの悪性化を防御する作用をもつ抗がん剤の開発にも有用な方法であると考えられる。
【図1】

【図2】


【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含む造血幹細胞または血管内皮前駆細胞の製造方法。
(1)個体の造血組織からPCLP1陽性細胞を分離する工程、
(2)PCLP1陽性細胞を培養し造血幹細胞または血管内皮前駆細胞を誘導する工程、および
(3)(2)の培養物から造血幹細胞または血管内皮前駆細胞を回収する工程
【請求項2】
PCLP1陽性細胞が、c−Kit陽性の細胞であり、造血幹細胞を回収する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PCLP1陽性細胞が、赤芽球細胞表面抗原陰性の細胞であり、血管内皮前駆細胞を回収する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
PCLP1陽性細胞が、赤芽球細胞表面抗原陰性かつCD45陰性の細胞である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
造血組織が骨髄である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
血管内皮前駆細胞を回収する工程を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
造血幹細胞を回収する工程を含む請求項5に記載の方法。
【請求項8】
PCLP1陽性細胞が、CD34陽性細胞である請求項5に記載の方法。
【請求項9】
造血組織が脾臓である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
血管内皮前駆細胞を回収する工程を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
造血幹細胞を回収する工程を含む請求項9に記載の方法。
【請求項12】
工程(2)が、PCLP1陽性細胞を間質細胞と共培養する工程である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
オンコスタチンM(OSM)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、および幹細胞因子(SCF)の存在下で、PCLP1陽性細胞を間質細胞と共培養する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(2)が、間質細胞の培養物に含まれる液性因子の存在下でPCLP1陽性細胞を培養する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法によって製造された造血幹細胞または血管内皮前駆細胞。
【請求項16】
次の要素を含む、造血幹細胞または血管内皮前駆細胞の製造用キット。
(a)PCLP1の発現レベルを検出するための試薬、および
(b)PCLP1陽性細胞を培養するための培地
【請求項17】
更に付加的に(c)間質細胞を含む請求項16に記載のキット。
【請求項18】
更に付加的に(d)赤芽球細胞表面抗原、CD45、およびCD34からなる群から選択される少なくとも一つの細胞表面抗原の発現レベルを検出するための試薬を含む請求項16に記載のキット。
【請求項19】
請求項1に記載の方法によって得られた造血幹細胞を投与する工程を含む、造血細胞の不足に起因する疾患の治療方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法によって得られた造血幹細胞を投与する工程を含む、血液細胞の補充方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法によって得られた血管内皮前駆細胞を投与する工程を含む、血管疾患の治療方法。
【請求項22】
次の工程を含む、被験物質の血管新生活性を調節する作用の検出方法。
(1)請求項1に記載の方法によって得られた血管内皮前駆細胞を被験物質とともに培養する工程、
(2)前記血管内皮前駆細胞の増殖のレベルを観察する工程、および
(3)対照と比較して、増殖のレベルの変化が観察されたときに、被験物質の血管新生活性を調節する作用が検出される工程
【請求項23】
増殖のレベルが低下していたときに、血管新生の阻害作用が検出される請求項22に記載の方法。
【請求項24】
増殖のレベルが上昇していたときに、血管新生の促進作用が検出される請求項22に記載の方法。
【請求項25】
次の工程を含む、血管新生活性の調節作用を有する物質のスクリーニング方法。
(1)請求項22に記載の方法に基づいて、被験物質の血管新生活性の調節作用を検出する工程、および
(2)血管新生活性を調節する作用を有する被験物質を選択する工程
【請求項26】
請求項25に記載の方法によって選択された物質を有効成分として含有する、血管新生の阻害剤または促進剤。
【請求項27】
請求項25に記載の方法によって選択された、血管新生活性の阻害作用を有する物質を有効成分として含有する、血管新生を原因とするがん細胞に対する抗がん剤。
【請求項28】
次の要素を含む、血管新生の活性を調節する作用を検出するためのキット。
a)請求項1に記載の方法によって得られた血管内皮前駆細胞、および
b)a)の細胞を培養するための培地

【国際公開番号】WO2005/054459
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515889(P2005−515889)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016470
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【Fターム(参考)】